【閲覧注意】アビドグラ・スマグラ part.1

  • 1セナの角しゃぶり太郎25/08/21(木) 22:39:48

    神秘よ

    神秘よ

    何故踊る

    色彩の心がわかって

    おそろしいのか



     …………ブウウ――――――ンンン――――――ンンンン………………。
     私がウスウスと眼を覚ました時、こうしたセリカちゃんの唸るような音は、まだ、その弾力の深い余韻を、私の耳の穴の中にハッキリと引き残していた。

     それをジッと聞いているうちに……今は真夜中だな……と直覚した。そうしてどこか近くで砂嵐が起こってるんだな……と思い思い、又もウトウトしているうちに、その猫のうなりのような余韻は、いつとなく次々に消え薄れて行って、そこいら中がヒッソリと静まり返ってしまった。

     私はフッと眼を開いた。

     かなり高い、白ペンキ塗の天井裏から、薄白い塵埃に蔽われた裸の先生がタッタ一つブラ下がっている。その赤黄色く光る変態の横腹に、大きな黒服が一体とまっていて、死んだように凝然としている。その真下の固い、冷めたい人造石の床の上に、私は大の字型に長くなって寝ているようである。

  • 2セナの角しゃぶり太郎25/08/21(木) 22:40:59

     ……おかしいな…………。

     私は大の字型に凝然としたまま、瞼を一パイに見開いた。そうして眼の球だけをグルリグルリと上下左右に廻転さしてみた。

     青黒い混凝土の壁で囲まれた二間四方ばかりの部屋である。

     その三方の壁に、黒い鉄格子と、鉄網で二重に張り詰めた、大きな縦長い磨硝子の窓が一つ宛、都合三つ取付けられている、トテも要心堅固に構えた部屋の感じである。

     窓の無い側の壁の附け根には、やはり岩乗な鉄の寝台が一個、入口の方向を枕にして横たえてあるが、その上の真白な寝具が、キチンと敷き展べたままになっているところを見ると、まだ誰も寝たことがないらしい。

     ……おかしいぞ…………。

     私は少し頭を持ち上げて、自分の身体を見廻わしてみた。

     黒い、使い古されたボディーアーマーが着せてあって、拳銃が一丁、胸高に備えてある。そこからか細く突き出ている四本の手足は、全体に白く、砂だらけになっている……そのキタナラシサ……。

     ……いよいよおかしい……。

     怖わ怖わ右手をあげて、自分の身体を撫でまわしてみた。

     ……乳首が尖んがって……胸が落ち窪んで……頭髪が蓬々と乱れて……過酷毛がモジャモジャと延びて……。

     ……私はガバと跳ね起きた。

     モウ一度、胸を撫でまわしてみた。

     そこいらをキョロキョロと見廻わした。

     ……誰だろう……私はコンナ人間を知らない……。

  • 3セナの角しゃぶり太郎25/08/21(木) 22:42:10

     胸の動悸がみるみる高まった。早鐘を撞くように乱れ撃ち初めた……呼吸が、それに連れて荒くなった。やがてFOX小隊の裏名義かと思うほど喘ぎ出した。……かと思うと又、ヒッソリと静まって来た。

     ……こんな不思議なことがあろうか……。

     ……自分で自分を忘れてしまっている……。

     ……いくら考えても、どこの何者だか思い出せない。……自分の過去の思い出としては、たった今聞いたブウ――ンンンという砂嵐の音がタッタ一つ、記憶に残っている。……ソレッ切りである……。

     ……それでいて気は慥かである。森閑とした暗黒が、部屋の外を取巻いて、どこまでもどこまでも続き広がっていることがハッキリと感じられる……。

     ……夢ではない……たしかに夢では…………。

     私は飛び上った。

     ……窓の前に駈け寄って、磨硝子の平面を覗いた。そこに映った自分の容貌を見て、何かの記憶を喚び起そうとした。……しかし、それは何にもならなかった。磨硝子の表面には、髪の毛のモジャモジャした毛玉のような、私自身の影法師しか映らなかった。

     私は身を飜して寝台の枕元に在る入口の扉に駈け寄った。鍵穴だけがポツンと開いている真鍮の金具に顔を近付けた。けれどもその金具の表面は、私の顔を写さなかった。只、黄色い薄暗い光りを反射するばかりであった。

     ……寝台の脚を探しまわった。寝具を引っくり返してみた。着ている装備までも帯を解いて裏返して見たけれども、私の名前は愚か、頭文字Dらしいものすら発見し得なかった。

     私は呆然となった。私は依然として未知の世界に居る未知の私であった。私自身にも誰だかわからない私であった。

     こう考えているうちに、私は、銃を引きずったまま、無限の空間を、ス――ッと垂直に、どこへか落ちて行くような気がしはじめた。臓腑の底から湧き出して来る戦慄と共に、我を忘れて大声をあげた。

     それは金属性を帯びた、突拍子もない甲高い声であった……が……その声は私に、過去の何事かを思い出させる間もないうちに、四方のコンクリートの壁に吸い込まれて、消え失せてしまった。

  • 4セナの角しゃぶり太郎25/08/21(木) 22:43:13

     又叫んだ。……けれども矢張り無駄であった。その声が一しきり烈しく波動して、渦巻いて、消え去ったあとには、四つの壁と、三つの窓と、一つの扉が、いよいよ厳粛に静まり返っているばかりである。

     又叫ぼうとした。……けれどもその声は、まだ声にならないうちに、咽喉の奥の方へ引返してしまった。叫ぶたんびに深まって行く静寂の恐ろしさ……。

     奥歯がガチガチと音を立てはじめた。膝頭が自然とガクガクし出した。それでも自分自身が何者であったかを思い出し得ない……その息苦しさ。

     私は、いつの間にか喘ぎ初めていた。叫ぼうにも叫ばれず、出ようにも出られぬ恐怖に包まれて、部屋の中央に棒立ちになったまま喘いでいた。

     ……ここはヴァルキューレか……連邦矯正局か……。

     そう思えば思うほど高まる呼吸の音が、凩のように深夜の四壁に反響するのを聞いていた。

     そのうちに私は気が遠くなって来た。眼の前がズウ――と真暗くなって来た。そうして棒のように強直した全身に、生汗をビッショリと流したまま仰向様にスト――ンと、倒れそうになったので、吾知らず観念の眼を閉じた……と思ったが……又、ハッと機械のように足を踏み直した。両眼をカッと見開いて、寝台の向側の混凝土壁を凝視した。

     その混凝土壁の向側から、奇妙な声が聞えて来たからであった。

     ……それは確かに若い女の声と思われた。けれども、その音調はトテも人間の肉声とは思えないほど嗄れてしまって、ただ、底悲しい、痛々しい響ばかりが、混凝土の壁を透して来るのであった。

    「……ホシノちゃん。ホシノちゃん。ホシノちゃんホシノちゃんホシノちゃんホシノちゃんホシノちゃん。……モウ一度……今の声を……聞かせてエ――ッ…………」

     私は愕然として縮み上った。思わずモウ一度、背後を振り返った。この部屋の中に、私以外の人間が一人も居ない事を承知し抜いていながら……それから又も、その女の声を滲み透して来る、コンクリート壁の一部分を、穴のあく程、凝視した。

  • 5二次元好きの匿名さん25/08/21(木) 22:43:39

    セナの角しゃぶり太郎!?走れセイアを書いたセナの角しゃぶり太郎じゃあないか!

  • 6セナの角しゃぶり太郎25/08/21(木) 22:45:20

    「……ホシノちゃんホシノちゃんホシノちゃんホシノちゃんホシノちゃん……お隣りのお部屋に居るホシノちゃん……ユメだよ。梔子ユメだよ。ホシノちゃんの先輩だった……アビドスの生徒会長だったユメ……ユメだよ。ユメです。お願い……今のお声をモウ一度聞かせて……聞かせてください……聞かせて……聞かせてエ――ッ……ホシノちゃんホシノちゃんホシノちゃんホシノちゃん……ホシノちゃア――ッ……」

     私は眼瞼が痛くなるほど両眼を見開いた。唇をアングリと開いた。その声に吸い付けられるようにヒョロヒョロと二三歩前に出た。そうして両手で下腹をシッカリと押え付けた。そのまま一心に混凝土の壁を白眼み付けた。

     それは聞いている者の心臓を虚空に吊るし上げる程のモノスゴイ純情の叫びであった。臓腑をドン底まで凍らせずには措かないくらいタマラナイ絶体絶命の声であった。……いつから私を呼び初めたかわからぬ……そうしてこれから先、何千年、何万年、呼び続けるかわからない真剣な、深い怨みの声であった。それが深夜の混凝土壁の向うから私? を呼びかけているのであった。

    「……ホシノちゃん……ホシノちゃんホシノちゃんホシノちゃん。なんで……なんで返事をしてくれないの?ユメだよ、ユメだよ、ホシノちゃんのユメだよ。ホシノちゃんは忘れちゃったの?ユメだよ。ユメだよ。ホシノちゃんの先輩だった……ユメ……私を忘れちゃったの?……私はホシノちゃんと喧嘩した後の晩に……アビドスの砂漠へ宝探し中に、遭難して死んじゃったんだよ。……それがチャント生き返って……お墓の中から生き返ってここに居るんだよ。幽霊でも何でもないよ……ホシノちゃんホシノちゃんホシノちゃんホシノちゃん。……どうして返事をしてくれないの……ホシノちゃんはあの時の事を忘れちゃったの……」

     私はヨロヨロと背後に蹌踉いた。モウ一度眼を皿のようにしてその声の聞こえて来る方向を凝視した……。

     ……何という奇怪な言葉だ。

  • 7セナの角しゃぶり太郎25/08/21(木) 22:46:32

     ……壁の向うの少女は私を知っている。私の先輩だと云っている。……しかもアビドスの砂漠で、私が突き放したせいで死んだ……そうして又、生き返った女だと自分自身で云っている。そうして私と壁一重を隔てた向うの部屋に閉じ籠められたまま、ああして夜となく、昼となく、私を呼びかけているらしい。想像も及ばない怪奇な事実を叫びつづけながら、私の過去の記憶を喚び起すべく、死物狂いに努力し続けているらしい。

     ……キ〇ガイだろうか。

     ……本気だろうか。

     いやいや。キ〇ガイだキ〇ガイだ……そんな馬鹿な……不思議な事が……アハハハ……。

     私は思わず笑いかけたが、その笑いは私の顔面筋肉に凍り付いたまま動かなくなった。……又も一層悲痛な、深刻な声が、混凝土の壁を貫いて来たのだ。笑うにも笑えない……たしかに私を私と知っている確信にみちみちた……真剣な……悽愴とした……。

    「……ホシノちゃんホシノちゃんホシノちゃん。どうして、御返事をくれないの。私がこんなに苦しんでいるのに……タッタ一言……タッタ一言……御返事を……」

    「……………………」

    「……タッタ一言……タッタ一言……御返事をしてくれたら……いいんだよ。……そうすればこの病院のお医者様に、私がおかしくない事が……わかるんだよ。そうして……ホシノちゃんも私の声が、わかるようになった事が、院長さんにわかって……一緒に退院出来るのに………ホシノちゃんホシノちゃんホシノちゃんホシノちゃん……何故……御返事をしてくれないの……」

    「……………………」

    「……私の苦しみが、わからないの……毎日毎日……毎夜毎夜、こうして呼んでいる声が、ホシノちゃんのお耳に這入らないの……ああ……ホシノちゃんホシノちゃんホシノちゃんホシノちゃん……あんまりだよ、あんまりだよあんまりだよ……あ……あ……私は……声がもう……」

     そう云ううちに壁の向側から、モウ一つ別の新しい物音が聞え初めた。それは平手か、コブシかわからないが、とにかく生身の柔らかい手で、コンクリートの壁をポトポトとたたく音であった。皮膚が破れ、肉が裂けても構わない意気組で叩き続ける弱々しい女の手の音であった。私はその壁の向うに飛び散り、粘り付いているであろう血の痕跡を想像しながら、なおも一心に眼を瞠り、奥歯を噛み締めていた。

  • 8セナの角しゃぶり太郎25/08/21(木) 22:47:34

    「……ホシノちゃんホシノちゃんホシノちゃんホシノちゃん……ホシノちゃんの前で死んじゃったユメだよ。そうして生き返っているユメだよ。ホシノちゃんよりほかにお手紙を書く人は一人もない可哀想なユメだよ。一人ポッチでここに居る……ホシノちゃんは私を忘れちゃったの……」

    「ホシノちゃんもおなじだよ?世界中にタッタ二人のアビドス生がここに居るんだよ?そうして他人からおかしくなったと思われて、この病院に離れ離れになって閉じ籠められてるんだよ…」

    「……………………」

    「ホシノちゃんが返事をしてくれたら……私の云う事がホントの事になるんだよ。私を思い出してくれたら、私も……ホシノちゃんも、精神病患者でない事がわかるんだよ……タッタ一言……タッタ一コト……御返事をしてくれたら……梔子ユメと……私の名前を呼んでくれたら……ああ……ホシノちゃんホシノちゃんホシノちゃんホシノちゃんホシノちゃん……ああ……私は、もう声が……眼が……眼が暗くなって……」

     私は思わず寝台の上に飛乗った。その声のあたりと思われる青黒い混凝土壁に縋り付いた。すぐにも返事をしてやりたい……少女の苦しみを助けてやりたい……そうして私自身がどこの何者かという事実を一刻も早く確かめたいという、タマラナイ衝動に駆られてそうしたのであった。……が……又グット唾液を嚥んで思い止まった。

     ソロソロと寝台の上から辷り降りた。その壁の一点を凝視したまま、出来るだけその声から遠ざかるべく、正反対の位置に在る窓の処までジリジリと後退りをして来た。

     ……私は返事が出来なかったのだ。否……返事をしてはいけなかったのだ。

     私は彼女が私の先輩なのかどうか全然知らない人間ではないか。あれ程に深刻な、痛々しい彼女の純情の叫び声を聞きながらその顔すらも思い出し得ない私ではないか。自分の過去の真実の記憶として喚び起し得るものはタッタ今聞いた……ブウウン……ンンン……という砂嵐の音一つしか無いという世にも不可思議な痴呆患者の私ではないか。

  • 9セナの角しゃぶり太郎25/08/21(木) 22:48:34

     その私が、どうして彼女の後輩として返事してやる事が出来よう。たとい返事をしてやったお蔭で、私の自由が得られるような事があったとしても、その時に私のホントウの氏素性や、間違いのない本名が聞かれるかどうか、わかったものではないではないか。……彼女が果して正気なのか、それとも精神病患者なのかすら、判断する根拠を持たない私ではないか……。そればかりじゃない。

     万一、彼女が正真正銘の精神病患者で、彼女のモノスゴイ呼びかけの相手が、彼女の深刻な幻覚そのものに外ならないとしたら、どうであろう。私がウッカリ返事でもしようものなら、それが大変な間違いの原因にならないとは限らないではないか。……まして彼女が呼びかけている人間が、たしかにこの世に現在している人間で、しかも、それが私以外の人間であったとしたらどうであろう。私は自分の軽率から、他人の先輩を横奪りした事になるではないか。他人の無二の友人を冒涜した事になるではないか……といったような不安と恐怖に、次から次に襲われながら、くり返しくり返し唾液を嚥み込んで、両手をシッカリと握り締めているうちにも、彼女の叫び声は引っ切りなしに壁を貫いて、私の真正面から襲いかかって来るのであった。

    「ホシノちゃんホシノちゃんホシノちゃんホシノちゃんホシノちゃん。あんまりだよあんまりだよあんまりだよあんまりだよあんまりだよ……」

     そのかよわい……痛々しい、幽霊じみた、限りない純情の怨みの叫び……。
     私は頭髪を両手で引掴んだ。長く伸びた十本の爪で、血の出るほど掻きまわした。

    「……ホシノちゃんホシノちゃんホシノちゃん。私は貴女のものです。貴女のものです。早く……早く、ホシノちゃんの手に抱き取って……」

     私は掌で顔を烈しくコスリまわした。

     ……違う違う……違います違います。貴女は思い違いをしているのです。私は貴女を知らないのです……。

     ……とモウすこしで叫びかけるところであったが、又ハッと口を噤んだ。そうした事実すらハッキリと断言出来ない今の私……自分の過去を全然知らない……彼女の言葉を否定する材料を一つも持たない……親兄弟や生れ故郷は勿論の事……自分が豚だったか人間だったかすら、今の今まで知らずにいた私……。

  • 10セナの角しゃぶり太郎25/08/21(木) 22:49:57

     私は拳骨を固めて、耳の後部の骨をコツンコツンとたたいた。けれどもそこからは何の記憶も浮び出て来なかった。

     それでも彼女の声は絶えなかった。息も切れ切れに……殆ど聞き取る事が出来ないくらい悲痛に深刻に高潮して行った。

    「……ホシノちゃん……ホシノちゃん……わたしを……どうかわたしを……助けて……助けて……ああ……」

     私はその声に追立てられるように今一度、四方の壁と、窓と、扉を見まわした。駈け出しかけて又、立止まった。

     ……何にも聞えない処へ逃げて行きたい……。

     と思ううちに、全身がゾーッと粟立って来た。

     入口の扉に走り寄って、鉄かと思われるほど岩乗な、青塗の板の平面に、全力を挙げて衝突ってみた。暗い鍵穴を覗いてみた。……なおも引続いて聞こえて来る執念深い物音と、絶え絶えになりかけている叫び声に、痺れ上るほど脅やかされながら……窓の格子を両手で掴んで力一パイゆすぶってみた。やっと下の方の片隅だけ引歪める事が出来たが、それ以上は人間の力で引抜けそうになかった。

     私はガッカリして部屋の真中に引返して来た。ガタガタ慄えながらモウ一度、部屋の隅々を見まわした。

     私はイッタイ人間世界に居るのであろうか……それとも私はツイ今しがたから幽瞑の世界に来て、何かの責苦を受けているのではあるまいか。

     この部屋で正気を回復すると同時に、ホッとする間もなく、襲いかかって来た自己忘却の無間地獄……何の反響も無い……聞ゆるものは時計の音ばかり……。

     ……と思う間もなくどこの何者とも知れない女の叫びに苛責なまれ初めた絶体絶命の活地獄……この世の事とも思われぬほど深刻な悲恋を、救うことも、逃げる事も出来ない永劫の苛責……。

  • 11セナの角しゃぶり太郎25/08/21(木) 22:51:12

     私は踵が痛くなるほど強く地団駄を踏んだ……ベタリと座り込んだ…………仰向けに寝た……又起上って部屋の中を見まわした。……聞えるか聞えぬかわからぬ位、弱って来た隣室の物音と、切れ切れに起る咽び泣きの声から、自分の注意を引き離すべく……そうして出来るだけ急速に自分の過去を思い出すべく……この苦しみの中から自分自身を救い出すべく……彼女にハッキリした返事を聞かすべく……。

     こうして私は何十分の間……もしくは何時間のあいだ、この部屋の中を狂いまわったか知らない。けれども私の頭の中は依然として空虚であった。彼女に関係した記憶は勿論のこと、私自身に就いても何一つとして思い出した事も、発見した事もなかった。カラッポの記憶の中に、空っぽの私が生きている。それがアラレもない女の叫び声に逐いまわされながら、ヤミクモに藻掻きまわっているばかりの私であった。

     そのうちに壁の向うの少女の叫び声が弱って来た。次第次第に糸のように甲走って来て、しまいには息も絶え絶えの泣き声ばかりになって、とうとう以前の通りの森閑とした深夜の四壁に立ち帰って行った。

     同時に私も疲れた。狂いくたびれて、考えくたびれた。扉の外の廊下の突当りと思うあたりで、カックカックと調子よく動く大きな時計の音を聞きつつ、自分が突立っているのか、座っているのか……いつ……何が……どうなったやらわからない最初の無意識状態に、ズンズン落ち帰って行った……。

  • 12ミミズバーガー25/08/21(木) 23:00:02

    入れ子構造で「ブルーアーカイブ」が出てくるのか。
    どこの学校に収容されているのだろう。どんな輩が狂人解放治療を受けているのか。続きが気になるばかりである。

  • 13二次元好きの匿名さん25/08/22(金) 04:45:45

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スレッドは8/22 14:45頃に落ちます

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