- 1二次元好きの匿名さん25/08/21(木) 23:00:23
やあ諸君、今日も今日とてウマ娘の持つ可能性の追求に余念がないアグネスタキオンだ。
近頃随分と暑い日が続いているが、トレセン学園においても日々トレーニング中の生徒達へ注意喚起が行われている。ウマ娘達は暑い寒いに関わらずターフを駆け砂を蹴る訳だが、多少人間より能力があるからと言って熱中症にならない訳じゃない。
先日も一人学園のターフで倒れた子が居たが、その時は偶々その子の走りを観察していたデジタル君が即座に駆けつけ保健室に搬送したので事なきを得た。
私もデジタル君に呼ばれてすぐ保健室に行ったが、Yesウマ娘ちゃんNoタッチを信条とするデジタル君があれ程強く生徒に説教をするのは初めて見たよ。様々な子を間近で見てきたデジタル君のことだから、怪我や体調不良については思う所もあるのだろう。
その後は効率的な身体の冷やし方やスポーツドリンクのレシピとか色々と渡していたようだ。自作だというスポーツドリンクの配合については、今度私も教えて貰うとしよう。
さて、暑い時期のトレーニングと言えば何を置いても夏合宿だ。
実力あるウマ娘達は、この夏合宿で一皮どころか二皮三皮剥けると言っても過言ではない。特に、クラシック戦線で最も輝ける舞台……即ち皐月賞・桜花賞からダービー・オークスを戦い抜いた娘達の成長曲線には目を見張るものがある。夏の陽射しを浴び身体を鍛え脚を鍛える姿を日本刀に例えた評論家も居たが、強ち過褒でもないと私は思う。
無論、それらのレースに出走できなかったウマ娘達がそうでないかと問われれば当然否だ。それまで舞台の影どころか観客席から見ているだけだったウマ娘達は、その胸の奥に焼け付くような激情を抱いて只管に夢を追い、輝ける舞台に立つ者達を追う。
そして、全身を覆っていた硬い殻を自らの力で破り、三つ目の冠をその手に掴む……これが夢物語でないのは態々言うまでもあるまい。
走らずにはいられない本能、そして頂点への渇望。
数字や理屈だけでは説明できないそれらは、夏合宿と言う環境の中で花開き、ターフという舞台で昇華する。果てしてその時、ウマ娘達の中で何が起きているのか? そして夏合宿と才能開花の関連性は如何にして結びついているのか。
それらを解き明かした時、私達ウマ娘にとって更なる飛躍の扉が開くに違いない。いやはや、合宿所に向かうのが今から楽しみで仕方がないよ! - 2二次元好きの匿名さん25/08/21(木) 23:01:37
さて、ここまで夏合宿の、主にトレーニングとウマ娘の成長についてアレコレ語ってきたが、それだけが夏合宿の醍醐味ではない。
合宿所のすぐそばには広い砂浜があり、トレーニングに限らず海水浴場としても素晴らしい場所だ。さりげなく海の家もあるので、休養日にはかき氷や焼きそばを求めて大勢のウマ娘が集まってくる。アイネス君の作る焼きそばも絶品だが、ゴールドシップ君の作る羅刹焼きそばMk-Ⅱ(ブラジリアンカスタム)の癖になる味の秘密を今年デジタル君は解き明かす事が出来るのか、これも密かに期待している。
更にもう一つ目玉として挙げるならば夏祭りだろう。合宿所から歩いて行ける距離にそれなりに大きい境内を持つ神社があり、丁度合宿期間中に夏祭りが開催されている。
毎年祭りの日程と夏合宿の日程がリンクしている辺り、トレセン学園としても楽しい思い出を作って欲しいという意図があるのだろう。折角の夏祭りという事で、浴衣を纏って境内を歩く子も多い。
こうした夏ならではのイベントもしっかり楽しめるよう設計されている辺りにも、夏合宿で飛躍する秘密があるのかもしれないね。
何故私がウマ娘の本分かつ私の研究対象である走りではなく、夏合宿の遊び方面に話題を切り替えたのかって? 素晴らしい、実に良い質問だ。
正直な所、概ね察しはついている気もするのだが、まあ敢えてそこは言わずにちょっと後ろを見てみようじゃないか。 - 3二次元好きの匿名さん25/08/21(木) 23:03:31
「ポッケちゃん、こんなのはどうかな? フリルも付いてて可愛いと思わない?」
「おぉ、よく似合ってるじゃん。それ、勝負服の色だろ? ダンツらしくて良いと思うぜ」
「えへへ……偶然見つけて、思わず手が伸びちゃった。サイズとか心配だったけど、丁度いいのがあって良かった」
「だな。まあ、それは良いとして、あまり勢いよく試着室開けんなよ? 誰が見てるか分かんねぇだろ」
「大丈夫だよ、隣にタキオンちゃんとカフェちゃんもいるし」
「……そういうんじゃなくてさ。ダンツの水着姿は……その、あんま俺以外の奴に見せたくねぇって言うか……」
「え、あっ……うん……」
「あっ、いや今の無し無し! 海行く話してんのに水着じゃなきゃしょうがねぇよな!」
「えっと……じゃあ、今度。二人で居る時に……ポッケちゃんにだけ見せてあげるね、水着のわたし。それで、良い?」
「あ、お……おぉ……サンキュ……」
「うん……あっ、き、そ、そろそろ着替えるね!」
「あ、あぁ! だな!」
ハイハイ、毎度お馴染みだね。ご馳走様。
本来であれば今頃私は冷房の効いた研究室で有力なウマ娘達の夏合宿前最後のトレーニングデータを解析しているハズだった。
とは言え、予定は未定、思い通りにいかないのが世の常だ。
『よータキオン! 今暇だろ? 合宿の水着買いに行こうぜ!』
『お祭りの浴衣も見に行かない? その後ポッケちゃんが見つけた美味しいパフェの喫茶店に行くんだけど、一緒にどうかな?』
と、こうして元気にやってきた二人にカフェが乗っかったので、その流れで私も連れ出されるに至るという訳だ。
最初は、私も自前で水着と浴衣は所持しているし、この暑い中歩き回るのも気が進まないので断ろうと思ったのだが、そうは問屋が卸さなかった。
『……いいんですか。私の水着姿を、誰より早く見る機会をフイにしても……』
そう言ってどこか艶やかに笑みを浮かべるカフェを前にしては、私もすぐに返す言葉がない。全く、惚れた弱みというのは末恐ろしいものだよ。
そういう訳で、今日私は珍しく街に繰り出しデパートにやって来ている。まずは休養日に着る新しい水着を見繕い、その後夏祭りで着る浴衣を見たらポッケ君推薦の夏限定パフェが頂けるパーラーでティータイムをして帰る算段だ。 - 4二次元好きの匿名さん25/08/21(木) 23:05:10
「ダンツー? 着替え終わったか?」
「うん、終わったよー」
「んじゃそろそろ水着買って……っておま!?」
「えへへ、サプライズ! ちょっと派手だったかな?」
「ったく、驚かすなよな……それも悪くないぜ、つか、すげー良い」
「へっ?」
「……思わずドキッとしちまった。もし、二人だけで海に行くなら、俺はダンツにそれを着て来て欲しい。そんくらい、今のダンツが好きだ」
「あ、あぅ……」
薄々感じてはいたが、この二人、一度恋人同士の会話を始めると概ね周囲が見えなくなる傾向にあるようだ。
クラスメイトの手前教室では努めて親友同士の会話をこなしていたし、私の研究室でイチャイチャしている時は居ても私とカフェくらいなので(私達がどう思うかは別として)特に気に留めていないのだろうと思っていた。
だがどうだろう、こうして公共の場で誰が見ているとも分からないと言っておきながら試着室の前でイチャイチャしているので、どうやら二人の世界に入り込んだら戻ってくるまではお互いしか目に映っていないらしい。当然、すぐ隣でカフェが着替え終わるのを待っている私の事も眼中にあるまい。
店員に何か言われたらどうするのかと思ったしむしろここまで来たら止めて欲しかったのだが、どうやらここの店長と店員はそれぞれポッケ君とダンツ君のファンらしく、推しが揃って自分の店で水着を試着したりプライベートな関係を伺わせるやり取りを繰り広げている姿にご満悦と来ている。少し離れた所からデジタル君よろしく合掌してありがたがっている辺り、彼女らを頼るのは難しいだろう。
こうなっては一刻も早く水着選びが終わるのを待つしかないか、とため息を付いたその時だった。
「……お待たせしました」
真後ろの試着室からカフェの声。正直、二人のイチャイチャを普段より間近で浴び続けていたのでそちらに気を取られないカフェの声がありがたい。
返す言葉にも多少勢いが乗るというものだ。
「やあ、随分時間がかかったね? それじゃあ早速カフェ厳選の水着を拝見しようじゃないか!」
「ええ、では……どうぞ、扉を」 - 5二次元好きの匿名さん25/08/21(木) 23:06:50
流石にカフェはここで水着姿を自ら晒す事には羞恥が勝るらしい。今思えば、私はこの時色んな意味で胸焼けしていたのもあって全力でメンタルを切り替えたかったのだろう。
心の奥底から凄まじい勢いでイタズラ心が湧いて出るのを感じていた。ポッケ君とダンツ君も巻き込んで、盛大にカフェの可愛らしい水着姿を煽って顔を真っ赤にしてやろうじゃないか、とね。
なので、私はほんの少しもカフェを疑うことなく更衣室の扉に手をかけた。だが、その時だ。
「えっ?」
私が開けるまでもなく更衣室の扉が開くと、私は音も無くその中へ引きずり込まれてしまった。突然の事に目を白黒させていると、目の前のカフェがふふ、と微笑んだ。
「……いかがですか?」
そうして改めて瞳に映したカフェの姿は、勝負服を思わせる黒い水着とパレオを身に纏い、麦わら帽子との親和性も相まってトレセン学園の生徒とは到底思えない程の艶ややかな魅力に満ちていた。
思わず言葉を失っていると、カフェは水着姿であることも厭わず私を麦わら帽子の下へ抱き寄せてくる。
「良かったでしょう? 一緒に来て……」
「……ああ、全くだ」
麦わら帽子の影の下で、綺麗な金色の瞳が優しく笑んだ。ポッケ君とダンツ君のアレコレを間近で見てきた事もあって、その奥にある感情の事もよく知っているし、それがカフェに私の顔をくい、と引き寄せさせたのも分かる。
しかしだ。まるで年端もいかない少女のように微笑んだカフェを前にすると、頬が熱を持つ感覚とこみ上げてくる感情が、どうしようもないくらい私が彼女に恋をしているという事を実感させてくれるからまったく敵わない。
麦わら帽子の影から顔を離し、ほんのりと頬を染めて微笑むカフェとしばし見つめ合う。私の唇には、行きしなにカフェが飲んでいたアイスコーヒーの香りがまだ微かに残っていた。 - 6二次元好きの匿名さん25/08/21(木) 23:09:20
*
「あ、タキオンちゃん達来た」
「よお、随分時間かかったな」
一足先に買い物を済ませて待っていた二人が、水着が入ったロゴ入りの袋を持って向かってくる私達に手を振っている。
先に用事を済ませたらフードコートの休憩スペースに来る、という事前の取り決めが功を奏したようだ。店も品揃えも桁違いのデパートでの買い物は、興味本位であちこち足が向いてしまうから困る。
「やあやあ、済まないね。これという一着を絞り込むのに時間が掛かってしまったよ」
「タキオンさんに選ばせると、味気ないものばかりになりますので……」
「あー、なんか分かるな、それ」
「じゃあ、タキオンちゃんの水着はカフェちゃんが選んだの?」
「ああ、やはり服の事はカフェに任せる方が良い。まあ合宿の休養日を楽しみにしていてくれたまえよ」
「何で選んで貰っといて得意気なんだよ」
ポッケ君のツッコミは笑ってスルーしつつ、一先ず何食わぬ顔でカフェと一緒にテーブルに着く。
勘の良い諸君にはお分かりかと思うが、カフェに私の水着を選んで貰った際、先程カフェの水着を見た時と同じ事が起きた。
つまるところ、水着姿の私とカフェが更衣室の中で二人きりだ。そこから先は想像にお任せするが、先程よりカフェは積極的だった、とだけ言っておこう。それを複数回の試着で何度も行うのだから、ポッケ君達と同じかそれ以上に時間がかかるのも郁子なるかなと言った所だろう。少しばかり頭がくらくらするような気がするが、まず館内の冷房云々のせいではあるまい。
とは言え、こういう事を通してポッケ君達の気持ちも少しずつ分かるような気がしてくる。レース以外でこちらに想いを向けられるというのは、やはり悪くないものだね。
さて、そういう訳なので今日はこの辺で暇乞いとさせてくれたまえ。この後も浴衣選びに喫茶店に、帰ったら私はデータ解析と、予定が詰まっているのでね。
まあ、さっきも言ったが予定は未定、思い通りにいかないのが世の常。恐らくは浴衣売り場でも同じような目に合うのだろうし、喫茶店でも何でもない話をしたりパフェをお互いの口へ運び合ったりしている内に、最後の予定は先送りになるだろう。
だが、それが楽しいと思える自分がここにいる事を、今、とても嬉しく思うよ。さあ、合宿前最後の休養日、満喫しに行こうじゃないか。 - 7二次元好きの匿名さん25/08/21(木) 23:10:37
余談だが、そうして宣言通り満喫したは良かったものの、寮に戻ってからの私は随分楽しそうにしていたらしい。
実際浮かれていたのだろう、私はデジタル君に何か楽しいことがあったのかと聞かれ、迂闊にも『ダブルデート』という単語を使ってしまった。その後の事はご想像の通りだ。
そう言う訳で、私のこの日最後の仕事は、今日の思い出を忘れないよう整理することではなく、幸せそうに自爆したデジタル君を介抱する事だった。どっとはらい。 - 8二次元好きの匿名さん25/08/21(木) 23:12:25
以上です、ありがとうございました。
久方ぶりの憂鬱シリーズ、今回で九作目となりました。相変わらず至近距離で甘々なやり取りを喰らいつつ自分達も糖度が増してきたダンポケとタキカフェを摂取できるようこれからも精進したいと思います。
前回の憂鬱はこちら。
アグネスタキオンの憂鬱(アフターバレンタイン編)【タキカフェ+ダンポケ・SS】|あにまん掲示板 やあ諸君、ご機嫌いかがかな? 今日もウマ娘が到達する可能性のその先への探求で大忙しのアグネスタキオンだ。 さて、諸君も知っての通り、もうすぐ長く寒かった冬が終わり、芽吹きの季節がやってくる。それは即…bbs.animanch.com - 9二次元好きの匿名さん25/08/21(木) 23:17:04
またデジタル殿が昇天しておられるぞ!
- 10二次元好きの匿名さん25/08/21(木) 23:19:04
🎀
J( ˘ω˘)し - 11二次元好きの匿名さん25/08/22(金) 00:02:55
久々の甘々ダンポケとタキカフェ助かる
- 12二次元好きの匿名さん25/08/22(金) 06:59:47
冷めたフリしながらカフェと何やかやラブラブなタキオンは見ていて楽しいですこと