- 1二次元好きの匿名さん25/08/23(土) 00:49:56
- 2◆rRSKfk6hIM25/08/23(土) 00:51:02
遡ること数分前。高等部の廊下に、遠目にも明らかな珍客が姿を現した。
中等部のヒシアケボノが何かを探しているかの様な仕草でこちらに歩いて来るのを認め、マンハッタンカフェとジャングルポケットは声をかける。
「誰かをお探しですか?」
「あ、マンハッタン……カフェさん。こちらの理科準備室に行きたいんです。でも、部屋が見つからなくて」
「あそこは“旧”理科準備室なので……看板は外してあります。……こちらへどうぞ」
「あ、ありがとうございます」
「お前、何の用なんだ?あんなトコ、ふだんはカフェとタキオンしか居ねーぞ」
「あたしのトレーナーさんが、そのアグネスタキオンさんに頼んでいた事があるらしいんです。
さっきトレーナー室に居なかったから……そっちかなって」
カフェとポッケが視線を合わせた。
(……ヤバくね?)
(…………)
誰からともなく、全員が早足になって旧理科準備室に向かう。 - 3◆rRSKfk6hIM25/08/23(土) 00:52:03
「タキオンさん……来てますか?」
「おや、お揃いで。お構いも出来ないがそこらに掛けてくれたまえ」
「元々私が借りた部屋です……っ?何をしているんです、タキオンさん!」
部屋の中に居るのはタキオン一人では無かった。リクライニングチェアに深く体を沈めているのは正にヒシアケボノのトレーナー。
そして彼の頭にはヘッドホンとVRゴーグル、両腕には怪しげな電極パッドが複数。トレーナーは体を震わせながらうわ言のようにヒシアケボノの名を呟いている。
「トレーナ……さん、っ?」
「おいコラ!……あっ」
ポッケが何かを言いかけたその瞬間ヒシアケボノが駆け寄り、トレーナーに装着された機器を引き剥がす。
「うぁ……?ヒシアケボノ?」
「トレーナーさん大丈夫?何を見せられてたの?」
「あっちょっと、君は見ちゃ……」
VRゴーグルを覗いたヒシアケボノをサイケデリックな色彩が襲う。時に激しく時に緩やかにうねり、規則性を読ませない明滅を繰り返す様子はトリックアートの如し。
「んっ……?あぁ……!」
「でぇい!」
ポッケが膝をついたヒシアケボノからVRゴーグルを払うように取り上げ、ケーブルも引き抜いてしまう。
トレーナーがチェアからゆっくりと立ち上がり、ヒシアケボノに近寄る。
「……、どうしてここに……?」
「トレーナーさん、あたし……あたし……」 - 4◆rRSKfk6hIM25/08/23(土) 00:53:08
分かった分かった、説明するよ。
彼――アケボノ君のトレーナーから依頼されたのさ。『担当の料理が美味し過ぎて食べ過ぎるから満腹感を得やすいものが欲しい』、と。
そしてこれは偶然なんだが、ミラクル君――ミラ子と呼ばれている方だね、彼女のトレーナーからも『ミラ子がプールを嫌がってるから沢山泳いでも少しに感じるものが欲しい』と依頼されてね。
つまり此方は小を大に、彼方は大を小に感じたい、と。正反対の内容なのさ、実に面白いじゃないか。
そして作ったんだよ。望んだ効果の得られる催眠装置を―― - 5◆rRSKfk6hIM25/08/23(土) 00:54:23
「それをこの男に使いやがったのか!変なクスリ飲ませるとか!脳に電極刺したり!それでおかしくなってんだろ!」
「怖っ。怖いですね……ポッケさん」
「そんな訳ないだろう?私を何だと思っているんだい。これは視覚・聴覚・ツボへの電気刺激、三種の刺激から深層意識にアプローチする……
名付けて!“認識☆改変☆超電磁パルスマシーン”さ!」
「もう名前が怖いんだよ!」
「つまり……こうですか。認識改変のプログラムを取り違えた結果、ヒシアケボノさんの大きな体が小さく見えている……と」
「理解が早くて助かるよカフェ〜」
「ソレって……戻るのか……?」
「元々そんなに長い効果のあるものじゃないんだ。彼の催眠は途中で終わり、アケボノ君に至っては映像を少し見ただけだからねぇ。じきに切れる」
ここまでタキオンの説明を黙って聞いていた二人がようやく口を開いた。
「そっか。本当に縮んだかと思った」
「いや本当に……そうとしか見えないんだけどな。ちょっといい?」
トレーナーがヒシアケボノの両脇に手を差し込んだ。
「や、くすぐった……っ」
「あ、ゴメンね。う〜ん、やっぱり持ち上がらないか。こんなに小さくて可愛らしいのに……あっ」
「やだ……もう」
赤面して俯く二人。
「ま、そういう訳だから心配は要らないよ。ところで君の本来の目的なんだが……」
「いや、今はいいよ」 - 6◆rRSKfk6hIM25/08/23(土) 00:55:25
二人は催眠の効果が切れるまでの間、ひとまず部屋に籠もる事にした。トレーナー室へ歩く道すがら、二人を格別の目で見る者は誰も居ない。
「やっぱり、あたし達だけなんだ」
「うん……他の人は何も変わってない」
並んで歩くと異様さを実感せざるを得ない。トレーナーは“小さなヒシアケボノを見上げ”、ヒシアケボノは“小さくなった身で見下ろし”ている。
乗り物酔いに似た感覚を覚え、二人は視線を前に戻した。
「すぐ終わっちゃうの、なんだか惜しい気もするね。トレーナーさん、小さいあたしを可愛い、って言ってくれたし……
アレ、ときどき使わせてもらえないかな?」
ヒシアケボノが一瞬だけ目を遣って悪戯っぽく笑う。
「確かに珍しい体験だったけど、別に惜しくはないかな」
「なんで?」
「君はいつも……いつでも今が一番可愛い、と思う。だから余計な変化は要らないんだ。ただ、君が望むなら……」
きゅっ、と温かいものが手に触れ、そこで言葉が止まった。
「ちゃんこ、張り切っちゃおっかな」
「お手柔らかに……」
お互いを見たら酔ってしまうと都合のよい言い訳を得た二人は、前を見たまま少しだけ踏み込んだ。
そして最早何も話さずとも――いつまでもトレーナー室に着かないで欲しいと、同じ想いが体温と共に伝わり合っていた。 - 7◆rRSKfk6hIM25/08/23(土) 00:56:30
おまけ
「さて……今日はもう一組の方は来ないだろうかねぇ」
噂をすれば何とやら、廊下から“もう一組”の言い争いが届いて来た。
『ほらミラ子!あんたのプールが楽になるためのモンなんだから!』
『結局は同じ距離を泳ぐんじゃないですか!鬼!悪魔!専属トレーナー!』
『そこに並べるなっての!』
タキオンは黙って機器の再セッティングにかかる。
「プールってそんな嫌なモンか?」
「好き嫌いで考えた事は……ありませんね。ソレ自体より、前後が面倒だとは思いますが……」 - 8◆rRSKfk6hIM25/08/23(土) 00:57:32
終了 「小さくなる」事への想像力の限界を感じました……ちびウマみたいな姿に自由になれたら素敵ですよね……
- 9二次元好きの匿名さん25/08/23(土) 01:04:17
いいなあ
ポンコツなところはあれどボノトレもボノの心に響くことパッとできちゃうタイプだからサラッと言いそう - 10二次元好きの匿名さん25/08/23(土) 01:21:45
見下ろされて優しく守られる感覚をボノちゃんが、見下ろしながら庇護する感覚をトレーナーさんが知ったら…非常に危険では…?
こんなん絶対ずぶずぶハマるの予想出来るし…二人でいる時もボノちゃんが屈み気味になったり、視線の高さがあべこべになるようなシチュエーションが増えるんだろな…すき… - 11◆rRSKfk6hIM25/08/23(土) 06:53:38
- 12◆rRSKfk6hIM25/08/23(土) 07:31:14
- 13二次元好きの匿名さん25/08/23(土) 14:56:45
このあと、ウマレーターのゲームで自分のアバターをちっちゃい子にするボノ概念もいいと思います