オリss書いてく5

  • 1125/08/24(日) 11:13:31
  • 2125/08/24(日) 11:14:31

    登場人物・用語解説
    ◯魔術使い
    ヒトと共に暮らし、ヒトより高い身体能力と特別な術『妖魔法術』を有する希少で特別な生き物。
    容姿はほぼヒトと変わりないが、中には獣の耳や尾を持つ個体も。

    ◯魔術科学園
    魔術使いが強力かつ安全な魔術の使い方を学ぶ為に入学する公立の学園。
    日本には札幌校、渋谷校、名古屋校、大阪校、高松校、福岡校の計六つがある。
    中高大一貫校で、学年は九つ。

    ◯夏伊勢也(なついせいや)
    先端が赤く染まった白い短髪に金の瞳、チーターのような獣の耳と尻尾を持つ魔術科学園名古屋校の中等部二年生の男子。
    暴れん坊だが明るく天真爛漫な性格で、嫌いなことから逃げるのが得意。

    ◯鳴神新(なるかみあらた)
    紺色と薄水色の長髪に紫の瞳、ユニコーンのような耳と尻尾、角を持つ魔術科学園名古屋校の高等部二年生の男子。
    美しい容姿を活かしてモデルとしての活動をしており、穏やかな物腰とは裏腹に非常に自分に対してストイックである。

    ◯鴨橋立(かものはしだて)
    前髪のみがオレンジ色に染まった白い髪、青い瞳、カモノハシの尻尾を持つ魔術科学園名古屋校の高等部二年生の男子。
    おちゃらけた性格で、どんな時も騒がしく賑やか。

    ◯得田家路(とくたいえろ)
    センター分けにした黄色い髪に紺色の瞳、虎の耳と尻尾を持つ魔術科学園名古屋校の高等部二年生の男子。
    常に論理的かどうかを重視し、非科学的なことに弱い。

  • 3125/08/24(日) 11:15:34

    ◯東海望(とうかいのぞむ)
    紺のメッシュが入った白い髪にオレンジの瞳、羊の角を持つ魔術科学園名古屋校の高等部三年生の男子。
    元生徒会長で、自分のことがとにかく大好きなナルシスト。

    ◯鮫島光(さめじめひかる)
    灰色の髪に緑のメッシュと瞳、サメの尻尾を持つ魔術科学園名古屋校の大等部一年生の男子。
    口が悪いので誤解されやすいが、本当は面倒見が良くて優しい。

    ◯初雁隼(はつかりしゅん)
    先端が水色に染まった銀の長髪に右が青で左が金の瞳、ユキヒョウのような耳と尻尾を持つ魔術科学園渋谷校の高等部一年生の女子。
    北海道にある剣術の名家初雁家に双子の妹の狛と共に生まれており、剣術の達人。
    真面目な性格だが、時に年頃の女子らしい一面も。

    ◯初雁狛(はつかりこま)
    先端が赤に染まったツインテールの黒髪に右が金で左が青の瞳、クロヒョウのような耳と尻尾を持つ魔術科学園渋谷校の高等部一年生の女子。
    隼とは双子の姉妹だが、姉とは違って剣術よりもおしゃれやランチが好き。

    ◯獅子賀煌輝(ししがこうき)
    センター分けにした銅色の髪にライオンのような耳と尻尾、赤い瞳を持つ魔術科学園渋谷校の高等部一年生の男子。
    誰に対しても用心深い性格で簡単に信用しようとせず、仲良くなることは難しい。

    ◯雲雀椿樹(ひばりつばき)
    コーラル色のインナーカラーが入った茶色のふわふわとした髪に柴犬のような耳と尻尾、緑色の瞳を持つ魔術科学園渋谷校の中等部二年生の男子。
    初雁家に代々仕えている雲雀家の出身で、隼と狛は幼少期から従者として奉仕してきた幼馴染。
    右目が長い前髪で半分ほど隠れているが、非常に怖がりで臆病な主人や勢也などの信頼している人物以外にはそれを頑なに見せたがらない。

  • 4125/08/24(日) 11:16:35

    上郷山陽(うえさとさんよう)
    青のメッシュの入った灰色と黒の髪に緑の瞳、褐色の肌、龍の尻尾を持つ魔術科学園大阪校の高等部三年生の男子。
    必要最低限なことしか話さず、助詞をよく省略しているので言いたいことが伝わらないことも。

    桜燕(さくらつばめ)
    漆色と白の髪にピンクの瞳、燕の尻尾を持つ魔術科学園福岡校の高等部二年生の女子。
    ボーイッシュな容姿だが、男に間違われることは少ない。

  • 5125/08/24(日) 11:18:12

    【第七話】窃盗!ぬすっとギツネをつかまえろ

  • 6125/08/24(日) 11:43:12

    「はぁ〜、暇。」

    魔術科学園渋谷校の、ある日の放課後。

    先日非公式の部活「問題解決部」の活動を本格的に始動し、担任の教師に古いキャンピングカーを部室として貸し与えられた隼であったが、現在非常に暇を持て余していた。

    何せ依頼人が全く来ず、とにかく仕事がなさすぎるのだ。

    この部活は学園の生徒の抱える問題や悩みを解決する為のものであり、その仕事量は悩める子羊がどれだけ現れるかに依存する。

    この部活動が暇ということは学園が平和ということであり、それはそれでめでたいことではあるのだが………あまりにも仕事がなさすぎると、部活動として張り合いがない。

    「暇すぎ………。」

    「ねえ隼、さっきからそれ五回は聞いたよ。」

    「だって実際に暇なんですもの………早く誰か依頼人が来ないかしら。いや、これを言うのは誰かの不幸を願っているようで良くないけど………。」

    「まあね〜。本来は仕事が無い方がいい部活だからねウチら〜。」

    そう言うのは、部員にして隼の双子の妹・狛。

    隼を宥めつつ当人も、非常に暇を持て余していた。

    「やはり非公式なのがいけないのでしょうか。」

    「部室がこんな怪しげなキャンピングカーでは、近寄りたがる者もいないだろう。」

    部員の椿樹と煌輝が推測できる仕事のない原因を次々と口にしていた、その時。

  • 7二次元好きの匿名さん25/08/24(日) 11:47:14

    桃太

  • 8二次元好きの匿名さん25/08/24(日) 11:49:18

    飽きないねえ桃太

  • 9二次元好きの匿名さん25/08/24(日) 11:52:22

    これで5スレ目、7話目か
    根気だけは無駄にあるんだな桃太

  • 10二次元好きの匿名さん25/08/24(日) 11:56:11

    誰も読んでないし期待してないからはよくたばれ桃太

  • 11二次元好きの匿名さん25/08/24(日) 12:05:41

    はつかり?

  • 12二次元好きの匿名さん25/08/24(日) 12:08:13

    はやぶさ?

  • 13二次元好きの匿名さん25/08/24(日) 12:19:09

    放置枯死

  • 14二次元好きの匿名さん25/08/24(日) 17:48:53

    チリンチリン、と金属のような可愛らしい音がその場に響いた。

    キャンピングカーのドア横に設置されたベルが、何者かによって押されたのだ。

    依頼者だ。

    「!!!!」

    皆が一斉に仕事モードに入る。

    居眠りをしようとしていた狛も、すっかり眠気が吹き飛んだ。

    「僕が行きます!!!」

    椿樹が真っ先に立ち上がり、ドアの外で待つ何者かの元へと駆けつけた。

    まだ本当に依頼人とは限らない。

    いたずらで押した誰かかもしれないし、何かが不意にぶつかって鳴った音かもしれない。

    だけどそれが本当に依頼者であったら、悩みを抱えた誰かであったら………そのベルの音を聞き逃せば、困っている人を見捨てることになってしまう。

    ガチャリと音を立てて勢いよく扉を開き、お決まりの台詞を口にする。

    「お待たせいたしました。問題解決部部員・雲雀椿樹と申します。本日はどのようなご用件でございましょうか?」

    ドアの外で待っていた少年は椿樹にとっては初対面であったが、他の三人には馴染みがあった。

    その切り揃えられた黒髪に斜めに入った紫のメッシュ、葡萄のような紺色の瞳は紛れもなく彼らの同級生の佐合井梓のものであった。

  • 15二次元好きの匿名さん25/08/24(日) 18:21:00

    「失礼しマス。」

    「あら、いらっしゃい。………って、梓?」

    機械的なぎこちない話し方は相変わらずだ。

    大親友というほどではないが、何度か教室で話したことのある相手が目の前に立っている。

    親しい同級生が来たことで隼は少し安堵していたが、どうやら相手も同じ気持ちであったようだ。

    「まさか初めての依頼者があなただとはね。」

    「ボクも部長があなたで安心しまシタ。怖い人ならどうしようと思っておりましたノデ。」

    梓と面識のない椿樹に隼が軽く紹介をすると、四人は彼を優しく迎え、キャンピングカーの中へと入れた。

    煌輝が梓を車内の席に座らせ、何があったのかを狛が訪ねる。

    「それで、梓はウチらに何の用?」

    「実ハ………。」

    山梨県にある実家が経営しているぶどうの果樹園が、魔物ぬすっとフォックスによって最近荒らされていること。

    被害は段々と増加しており、このままぶどうを奪われ続けては果樹園の存続に関わること。

    果樹園は先祖の代から守り抜いてきた大切なもので、何としても未来に繋げたいと思っていること。

    梓はその全てを、事細かに隼達に話した。

  • 16二次元好きの匿名さん25/08/24(日) 18:48:24

    「それは可哀想に………。」

    「ああ。その魔物をどうにか懲らしめたいものだ。」

    「先祖代々続けてきたものを絶やしたくない気持ち、僕にはとても分かります。」

    その場にいる全員が、梓の話に理解を示した。

    彼らは問題解決部としての使命感以上に、梓の果樹園を守ってやりたいという各々の使命感に燃えていた。

    「その魔物、私達が絶対に許さないわ。必ずあなたの果樹園を守ってみせる。」

    「ありがとうございマス。皆さんにそう言って頂けて、非常に心強いデス。」

    隼は梓の手を握り、必ず依頼を達成すると誓った。

    翌日。

    問題解決部の四人が梓に連れられて彼の実家を訪れると、そこに例の果樹園があった。

    「ここが? 酷い有り様ね。」

    ぶどうは全く実っておらず、何も干されていないベランダのようにスカスカ。

    紫と緑に彩られた、鮮やかなトンネルのようになっているはずが視界はほぼほぼ茶色一色。

    地面には食い荒らされたぶどうの、もはや売り物にならない残骸が散乱している。

    隼の言う通り、その果樹園は荒れ果てて見るに堪えない状態であった。

  • 17二次元好きの匿名さん25/08/24(日) 19:11:57

    「そうだろ? 奴らは旬の時期になる度にやってくるんだ。」

    唐突に背後から声がした。

    振り返るとそこには、梓よりも少し背の高い藤色と白の髪を持つ男が立っていた。

    彼の兄ーーー佐合井甲府だ。

    妖魔法術を使って身体の顔の一部分をディスプレイのように光らせ、そこに「💢」マークを表示することで怒りを静かに表現している。

    「ハイ。彼らは最もぶどうの美味しい時期を本能的に察知しているようデ、そろそろ採ろうと思っていたところを持って行かれてしまうのデス。」

    「魔物も決して愚かではない、ということか。」

    煌輝がそう呟いた、その時。

    バサッ、と何かが切られる音がした。

    「!?」

    音のした方を向けば、数体のぬすっとフォックスが奥の方にまだ残って実っているぶどうを盗ろうと群がっている。

    一方が刃物で複数のぶどうをまとめて切って落とすと、下で待機していたもう一方がすかさず風呂敷を広げて回収し、袋を背負って去っていく。

    手慣れているのか手際がよく、六人が走って去っても追いつくことはできなかった。

    「噂をすれば影が差す、ということか。」

    「チッ。昨日追い払ったのに………。」

  • 18二次元好きの匿名さん25/08/24(日) 19:30:31

    「体色は黄色で、顔の下半分からお腹、尻にかけてと尻尾の先端は白。二足歩行で服を着ているが、服や背負っている風呂敷、ポーチの色は様々跳躍が高く、逃げ足も速いので要注意………と。」

    その日の晩、隼は学園の寮室に帰っても尚果樹園を守る方法を考えていた。

    敵であるぬすっとフォックスの特徴をノートに記し、習性と気質から弱点を推測する。

    目の前に実っていたぶどうを一つも守れなかったことが、たまらなく悔しくて仕方ないのだ。

    脚の速さが自慢であったはずの自分が、唐突の出来事に呆気に取られて何も役に立てなかった。

    それは傍らにいる狛も、全く同じ気持ちであった。

    「ぬすっとフォックス、かなりの強敵だよね。匂いによる撃退方法もぶどうにまで影響するから使いづらいし、音も騒音被害になりかねないから使えないみたい。」

    「ええ。電気柵を設けることもできるけど、それだと通行人が誤って触ってしまって危険だもの。」

    「最近はライバル種族のカットキャットにもぶとうを盗まれてるらしい。それそのものも厄介だし、対抗しようとぬすっとフォックスが余計にぶどうを奪おうとするとか。」

    「………それよ!!!」

    狛との会話中に隼は、唐突に立ち上がって声を上げた。

    どうやら狛の言葉を聞いて、何かを思いついたらしい。

    その瞳には光が宿っており、先ほどとは打って変わって興奮しているように見えた。

    「どうしたの、隼?」

    「狛ありがとう、おかげで思いついたわ。カットキャットを利用すればいいのよ!!」

  • 19二次元好きの匿名さん25/08/24(日) 20:15:18

    また翌日。

    再び問題解決部の部員達と共に佐合井家を訪れた隼は、甲府にとあるお願いをした。

    「甲府先輩。妖魔法術でぶどうの甘い香りを出して、ぬすっとフォックスとカットキャットを寄せ付けてくれませんか?」

    「それはできるが………そんなことしたら、追い払いたいはずの魔物を逆に集めちまうだろ。」

    「それが狙いなんですよ。お願いします、私の計画の為なんです!!」

    決して乗り気ではないものの、隼に強くお願いされ甲府はしぶしぶ言われた通りにすることにした。

    物陰から見ていた部員達は、隼の目的が全く分からないようだ。

    「隼お嬢様は何をなさるおつもりでしょうか?」

    「きっと彼女なりの考えがありマス。ボク達は静かに見守っていましょう。」

    甲府が妖魔法術を込めると、辺りにぶどうの甘酸っぱく爽やかな心地よい匂いが立ち込めた。

    実物は今は少なけれど、実物が満開に実っているのと同じぐらいの香りがする。

    それが当然嗅ぎ逃されるわけはなく、ぬすっとフォックスの群れが盗人だけに「ぬすっ」と垣根から現れた。

    それに負けまいと言わんばかりに、耳が長く尖ったネコ獣人の種族………カットキャットの群れも出現した。

    両者は真っ先にぶどうに飛び掛かったが、その際に互いの存在に気付き、じっと互いを睨み威嚇する。

    その空間にはバチバチとした貼り詰めた空気が漂った。

  • 20二次元好きの匿名さん25/08/24(日) 20:53:38

    やがてぬすっとフォックスの群れのボスであろう最も大きなキツネが、カットキャットの群れに向かって刃物を構えながら飛び掛かった。

    「カキャーーーッ!!!」

    部下のキツネ達がそれに続いて襲撃すると、カットキャットも迎撃の姿勢へと入った。

    シャーーーッ!!!

    カキン、キャキン、カキン!!!

    鳴き声と金属のぶつかる音が、周囲に一斉にこだまする。

    もはやどちらもぶどうなど全く視界になく、互いを殲滅させることしか考えられていないようだ。

    中には戦いに怖気付いて、ひっそりとその場から逃げ出そうとする一部の個体もいた。

    「狛、椿樹! 捕まえて!!」

    「了解!!」

    しかしそういった個体は、狛と椿樹にあっけなく捕まってしまうのであった。

    そうしているうちに夕方になり、両勢力の勢いは静まり返った。

    どの個体も武器を置いてぐったりと地面に倒れており、戦意は全く見られない。

    こうなった原因に難しいことは何もない、単にどちらも疲れ切ってしまったのだ。

    「ぬすっとフォックスとカットキャットを戦わせ、両方の体力を同時に最大限に削る」………隼の作戦は、見事に成功したのであった。

  • 21二次元好きの匿名さん25/08/24(日) 21:21:19

    『俺の指示に従え、梓。』

    『了解しまシタ、煌輝さん。』

    『『『喚きやがれ。』』』/『『『標的を探知しまシタ、直ちに排除を開始しマス。』』』

    煌輝と梓による合わせ技で、雷と光の入り混じった強烈な技が炸裂。

    倒れていたぬすっとフォックスやカットキャットの群れに、見事に直撃した。

    「アキャッ!?」

    それらは一瞬悲鳴を上げたが、すぐに再び大人しくなった。

    疲れが引いて再び戦える状態になることがないよう、念の為に気絶させておいたのだ。

    二人と隼、甲府は気絶した魔物達の元に駆けつけ、背負っている風呂敷を開く。

    幸いにもそこにはまだ結構な数の、手をつけられていないぶどうが残っていた。

    「!!」

    先ほどの光の入り混じった攻撃で魔物の毛並みや尻尾、衣服は焦げているもののぶどうには一切の傷はない。 

    盗まれたものの全てが戻ってきたわけではないが、失われた収入はいくらか取り戻せそうだ。

    四人が歓喜していると、逃げた魔物を追いに行っていた狛と椿樹が戻ってきた。

    椿樹の方は、身体のある部分を失ってしまったようであったが………。

  • 22二次元好きの匿名さん25/08/24(日) 21:42:30

    「あら、二人ともおかえりなさい。………って椿樹!? 一体どうしたの!?」

    椿樹の姿を見た途端、隼の歓喜の声は驚愕の声へと変わった。

    彼の象徴にして自慢の種たる柴犬のような尻尾が………完全になくなってしまっているのだ。

    どうやら抵抗する魔物に制服の背後をバッサリと切られてしまったようで、履いているズボンどころか下着まで裂けて尻の割れ目が見えてしまっている。

    「少し………お尻が寂しいことになってしまいましたね。」

    そう言いながらも椿樹は、あまりの恥ずかしさに尻を両手で隠す。

    「だめ。恥ずかしいのは分かるけど、笑い事じゃないからちゃんと見せて。」

    隼は椿樹の尻を覆う手を容赦なく剥がし、彼の尻尾を失った寂しげな尻を見つめた。

    「怪我はしていないようね、良かった。この制服のズボンの裂け目は………とりあえず、ガムテープで塞げるかしら。」

    「うぅ、恥ずかしいですよぉ………尻尾のない姿を皆様に見られてしまうだなんて………。」

    「えぇ、そこ!? お尻の割れ目が丸出しな方がよっぽど恥ずかしいんじゃないの!?」

    そう言いつつも隼は、椿樹がどれだけ自分の尻尾を大切にしているかを知っていた。

    煌輝も梓も甲府も、尻尾を失った椿樹のことを可哀想に思った。

    魔物を懲らしめられたと歓声を浴びようとした狛も、流石に空気を読んだようだ。

    依頼は何とか解決できたものの、円満解決のハッピーエンドとはいかない一日であった………。

  • 23二次元好きの匿名さん25/08/25(月) 03:42:06

    【第八話】落胆!大切なものを失った日

  • 24二次元好きの匿名さん25/08/25(月) 04:04:10

    ある日の魔術科学園名古屋校・中等部二年生の教室にて。

    「そして聖徳太子は蘇我馬子と政治を進めたわけだが………んん?」

    ガラガラガラ………。

    「ボサァ〜。」

    午前の歴史の授業中に、唐突に魔物がが出現した。

    「ボッサボーサ!!」

    「わ、何だっ!?」

    丸っこく棘の生えた緑色の身体に冠のような赤い花、髭を生やした顔を持つサボテンのような魔物ーーーボサボサボテンだ。

    人の髪の毛や動物の毛並みをボサボサにする力を持つ魔物で、自分の能力を行使して他者にいやがらせをすることに快楽を見出している。

    今日はこの名古屋校を標的にし、学園中の生徒と教員をボサボサにしてやろうと企んでいたのだ。

    魔物が現れたことで、クラスは一斉にゾンビ映画の民衆のようにパニックになった。

    まずボサボサボテンはクラスにいる、長く美しい髪を持つ女子生徒に標準を定めた。

    そして浴びた者の髪の毛や毛並みをボサボサにする、ボサボサビームを放とうとしたその時。

    「………んなことさせっかよ!!!」

    正義感の強い男子生徒夏伊勢也が、ボサボサボテンの前へと飛び出した。

  • 25二次元好きの匿名さん25/08/25(月) 04:12:26

    「ボサァーー!!」

    「下がってろ!!」

    「!!」

    ボサボサビームが女子生徒に当たる直前。

    そこに既の所で勢也が滑り込み、代わりにボサボサビームを浴びた。

    ボサボサビームは緑色の光となって勢也の身体に纏わりつくと、数秒ほどで消えていった。

    幸いにも浴びたところで痛みや熱さを感じることはなく、身体に別状はないように見られた。

    ………ただ一点を除いては。

    「助けてくれてありがとう、勢也くん。でも、その、後ろ………」

    「何だ!?」

    助けた女子生徒に振り返るように言われ、嫌な予感を察知しながらも勢也は恐る恐る自分の尻の方を見た。

    そこにあったのは………。

    「オ、オオオ、オレの尻尾がぁーーー!!!」

    ………ボサボサビームを浴びたことで毛並みが乱れて台無しになってしまった、勢也の自慢のチーターのような美しい尻尾であった。

  • 26二次元好きの匿名さん25/08/25(月) 11:53:34

    やがて程なくしてボサボサボテンは教員と上級生によって捕獲され、学園の外に追い出された。

    それに伴って授業が再開されるも、一人だけどうしてもその気になれない者がいた。

    「夏伊くん。もうボサボサボテンはいなくなったんだから、そろそろ席に着いてくれる?」

    「嫌っす。」

    その者とは、勢也だ。

    尻尾の毛並みを乱されてからというもの、ずっとロッカーに寄りかかって不機嫌そうにそっぽを向いている。

    あほだが素直な彼にしては、珍しい教師への反抗。

    自慢の尻尾の毛並みを失ったことで不貞腐れてしまい、何に対しても億劫になったのだ。

    既に教科書も鞄にしまっており、断固授業を聞く気がない。

    「夏伊くん、さっきのあなたは確かに格好良かったわ。自慢の尻尾を台無しにされてショックなのも分かる。だけどそれと授業を受けたくないことは何の関係もないじゃない。」

    「だから嫌だってさっきから言ってんでしょ。こんなみっともねぇ姿で人前でいられるもんですか。オレはもうこの教室を出ていきますよ、授業続けるんなら勝手にして下さい。」

    「ええ、そっちこそどうぞ勝手になさって?」

    勢也の我儘で身勝手な振る舞いには、普段は優しい担任の教師も堪えるものがあったようだ。

    とうとう勢也は教師から、教室を出ていくように指示れてしまった。

  • 27二次元好きの匿名さん25/08/25(月) 21:52:41

    それからというもの勢也は、ずっと校庭にある体育倉庫に匿っていた。

    二時間目、三時間目、四時間目の授業をパス。

    学食の時間になると、積み重ねられたマットに座って持ってきた弁当を独りで食べる。

    誰かが探しに来ればすぐさま、跳び箱に隠れていないフリ。

    それでも隠せないのであれば、断固動かない姿勢で諦めさせる。

    五時間目、六時間目も無断で休み、大好きなはずの軽音部すら………彼を体育倉庫から出すには至らなかった。

    長い間掃除されていない体育倉庫に籠っていたものだから、その全身は段々と埃と粉にまみれ、籠る前よりもずっと汚くみっともない姿となってしまった。

    尻尾がボサボサになろうとも我慢して皆と共に授業を受けていたら、きっとこんなことにはならなかっただろう。

  • 28二次元好きの匿名さん25/08/25(月) 22:04:12

    一方で軽音部の活動拠点たる第二音楽室では、連絡も寄越さず部活に来ない勢也を皆が心配していた。

    いつも通り演奏の練習をしつつも、部員達の頭の片隅には勢也がいる。

    「アイツのサボり癖なんざ今に始まったことじゃねえだろ。この前も中間試験で疲れたっつって、深っすっぽかしてただろうが。」

    「そう思って放置している間に、本当に彼の身に何かが起きたらどうするつもりか? 吾輩なら到底耐えられない。」

    「いや、んな状況俺だってあって欲しくないに決まってんだろ。大体てめぇはアイツを疑わなさすぎなんだよ………」

    はいはいそこまで、と新が手を叩きながら言い、口論になりかけた光と望を宥める。

    「とは言え二人の言う通り、勢也が心配なのは事実。ここは渋谷校にいる頼りになる後輩………あの子を頼るとしよう。」

  • 29二次元好きの匿名さん25/08/26(火) 07:48:24

    相変わらずくだらないssを書いてやがる
    久しぶりだなァ桃太

  • 30二次元好きの匿名さん25/08/26(火) 08:46:09

    「………え、勢也がそんなことに!?」

    「ああ。先ほど体育倉庫にいるのは見つけたけど、頑なにそこから動こうとしない。尻尾がボサボサのみっともない姿は見せられないだとか言い出して、一時間目の授業を中退してからずっとそこにいるようなんだ。」

    「奇遇ですね、鳴神先輩。ちょうど私のところの椿樹も似たような状態になっておりまして、先日魔物に尻尾を切られてからずっと寮室を出ようとしないのです。」

    「そうなの?」

    新の電話の相手は、渋谷校の後輩初雁隼だ。

    どうやら向こうでも椿樹が尻尾をなくしたことで自信を喪失しており、寮室から出ようとしようとしないらしい。

    あろうことか信頼して電話をかけた相手まで、似たような問題を抱えていたとは。

    相手も困っていることは容易に推測できるが、自分の問題すら解決できないことにはどうにも手段が出せない。

    新が思い悩んでいた、その時だ。

    「あの方法で上手くいくでしょうか………。」

    「え、今なんて?」

    隼がさりげなく、〝あの方法〟という言葉を口にした。

    どうやらまだ一つだけ、彼女には手段が残っているらしい。

    新はその手段について、隼に詳しく聞いた。

    そしてまず聞いた手段の通りに、勢也と椿樹を渋谷校の隼の寮室へと呼び集めた。

  • 31二次元好きの匿名さん25/08/26(火) 09:16:46

    「唐突な呼び出しでしたが、何の御用でしょうか。」

    「あんたの呼び出しだから応じるけど、オレあんまこの姿で外に出たくねぇんスからね?」

    呼び出された勢也と椿樹は、隼の目の前に座った。

    「分かってるわ、来てくれてどうもありがとう。」

    隼の後ろには、落ち込んだ者を元気付ける力を持つ魔物たちあガールがいる。

    ある隼の同級生の使い魔で、今回の事情を説明したら力を貸す為に来てくれたのだ。

    たちあガールの力を借りた隼の言葉は、きっと勢也と椿樹に届くだろう。

    「………あなた達の気持ちは分かるわ。獣系の魔術使いにとって、尻尾は自らの種族の象徴たる誇らしいもの。失うことがあれば、きっとその傷心は大きいはず。」

    「そうっスよ。こんなみっともねぇ姿じゃ、絶対アンタにも異性として意識してもらえねぇ。」

    「いや、元々あなた達を異性として意識したことはないんだけど………」

    「!!」

    隼の失言で勢也と椿樹は、余計に落ち込んでしまった。

    物陰から見ていた狛と煌輝も、「あのバカ!」と言おうとしてしまう。

    隼自身も言葉を誤ったと後悔したが、すぐに挽回をしてみせた。

    「………でも、大切な友達だと思ってる。」

  • 32二次元好きの匿名さん25/08/26(火) 09:48:45

    「えっ?」

    「だから、あなた達は大切な友達だって言ったの。」

    ーーー大切な友達。

    その言葉を聞いて、勢也と椿樹はいくらか誇りを取り戻した。

    「尻尾のない自分は何もできない無能だと思ったから、体育倉庫や寮室に引きこもっていたんでしょうけど、そんなことは決してない。椿樹はあの時尻尾を失っても懸命に戦って魔物を退治し、お礼に葡萄を貰ったじゃない。勢也も尻尾をボサボサにされても尚、悪い魔物を追い払おうとしたんでしょう? あなた達は尻尾がなくても、かけがえのない価値があるのよ。」

    その言葉を最後まで聞き終わる頃には、勢也も椿樹も再び瞳に光を宿していた。

    隼はこんな二人の頭を、微笑みながら優しく撫でてあげた。

    勢也はそれが嬉しくて尻尾を振った。

    椿樹も尻尾があったら、きっとそうしていたことだろう。

    その時、背後から煌輝が現れた。

    「よお、お前ら。少し恥ずかしいだろうが、尻を俺に見せろ。」

    戸惑いながらも勢也達が言われた通りにすると、煌輝は力を込めながら呪文を唱える。

    すると驚いたことに、勢也の尻尾のほつれや乱れは全て消えて美しく整い、椿樹の制服の尻の部分からはバツ印状に貼られたガムテープを突き破りふさふさとした立派な尻尾が生えた。

    「!!」

    二人は煌輝の妖魔法術で、自慢の美しい尻尾を取り戻したのだ。

  • 33二次元好きの匿名さん25/08/26(火) 10:22:12

    「このお尻の重み………ふわふわとした感触………これです、これこそ僕にあるべき物です!!!」

    「ああ。この毛ヅヤ、規則正しい毛並みの揃い、そしてこの模様………マジパネぇぐらい嬉しい!!! サンキューな煌輝先輩!!!」

    「そ、そうか。それは良かった。」

    勢也と椿樹は久々に戻った相棒を思いきり抱きしめる。

    撫でたり、頬擦りをしたり、はむっと噛んだりしていた。

    「やはり僕達には、尻尾があってこそですね。」

    「だな! ………さてと。」

    そう呟くと勢也は、唐突に立ち上がった。

    「尻尾も取り戻したことだし、お尻がツルツルの可哀想な奴らに自慢しに行くとでもするかな。」

    「ええ。尻尾があることがどんなに素晴らしいか皆様に理解して頂きましょう。」

    「あっ、待ちなさい!」

    椿樹も勢也に続いて立ち、二人で寮室を飛び出して行った。

    つい先ほどまでしおらしかったと言うのに、尻尾を再び得た途端にこれほどまでに自信過剰になるとは。

    たちあガールもこれに関しては一切関与していないようで、予想外の事態に驚いている。

    「狛が思うに、アイツらはあと百回尻尾を失うまで学ばないね。」

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