- 1あのときの325/08/26(火) 10:29:10
- 2あのときの325/08/26(火) 10:30:11
今日は初星学園の卒業式。
時に苦難につまずき、時にそれを乗り越え、人々を魅了し、輝き続ける、
そんなアイドルの雛たちが、新たな旅立ちを迎える日。
アイドルとして羽ばたく者もいるし、新しい道を歩む者もいる。
その道に向かって突き進む彼女らを見送るのが、プロデューサーである俺たちの、最後の仕事だ。
「おっはよー!Pっち!」
大きな声と共に勢いよく扉が開く。
「朝から元気ですね、おはようございます、清夏さん。」
明るく笑う彼女に挨拶を返す。
紫雲清夏、18歳。
初星学園3年にしてこの学園の一番星。
足の怪我というトラウマを乗り越え、今なお人々を魅了し続ける、若きトップアイドル。
俺の最初の担当アイドルだ。
まあいまだに清夏さんしかプロデュースしたことがないが。 - 3あのときの325/08/26(火) 10:31:30
「いよいよあたしも卒業するんだなー。」
見慣れた事務所を眺めながら、清夏さんがつぶやく。
「無事に卒業できそうで何よりです。」
「なっ、Pっち、あたしが卒業できないかもって思ってたの⁉︎」
「まあ、心配してなかったと言えば嘘になりますね。」
「うわ、Pっちひどー。あたしだって卒業できるくらいの頭はありますー!」
「ギリギリまで赤点常習犯だった人が言うセリフとは思えませんね。」
「あーそんなことまで言うんだー、もーいーもんね、Pっちなんてしーらない、べーっだ!」
膨れっ面の彼女と目が合う。
彼女の怒った顔はすぐにまた笑顔に変わる。
「あはは!卒業の日までこんなことしてるのって多分あたしたちだけだよ?」
「でしょうね。俺もまさか本な日までこんなことをすると思いませんでしたよ。」
また2人で笑い合う。でも、こんなふうに過ごせるのも残りわずか。 - 4あのときの325/08/26(火) 10:32:37
「さて、そろそろ卒業式の準備ですね、用意はいいですか?」
「うーん、準備はできてるんだけどねー……。」
「何か問題でも?」
「やっぱこーゆー堅苦しい服好きじゃないんだよね。」
「ああ、確かに清夏さんはフォーマルな衣装よりカジュアルな衣装の方が似合いますもんね。」
「それに、なんかピシッとしてなきゃいけないからいけないから苦手ー。」
「ははは、まあ卒業式なんてこれが最後なんですから我慢してください。」
「はーい……。」
「あ、清夏さん。」
「ん?」
扉に手をかけた彼女を呼び止める。
「卒業式が終わったら一度こっちに戻ってきますか?」
「うーん、うん、いっかい戻ってくる!」
「それに、Pっちとも話し足りないしね〜♪」
「はは、わかりました、それでは卒業式の後で。」
「うん、また後で。」 - 5あのときの325/08/26(火) 10:33:56
厳かな雰囲気の中卒業式が進んでいく。
清夏さんは……
(めちゃくちゃそわそわしてる……)
よほど苦手なのだろう、周りをキョロキョロ見渡したり、居眠りしてる。
いやだめだろう居眠りだけは。
でも、そんな彼女も自分の番になるとしっかり背筋を伸ばして卒業証書を受け取りに行った。
(何だか泣きそうになってきたな……)
目頭を押さえつつ彼女のほうを見ると目があった。
真面目だった顔は途端に笑顔になり、俺に手を振っている。
(大事な式典で何をやっているんだ彼女は)
そう思いつつも、俺もまた、彼女と同じように笑っていた。 - 6あのときの325/08/26(火) 10:35:18
「いやー、疲れたー!」
いつもの服装に身を包んだ清夏さんが息を吐く。
まさか着替えを持ってくるほどとは。
契約終了間際なのにまた1つ新しいことを知れたな。
「お疲れ様です。ずっとそわそわしてましたね。」
「だってじっとしてるとかあたしには無理だもんー。」
俺もその気持ちはよくわかる。
式典というのは堅ければ堅いほどそわそわしてしまうものだ。
「あ、てかPっち泣いてたでしょ?」
ニヤニヤしながら清夏さんに痛いところを突かれる。
「ええ、今までのことが走馬灯のように蘇ってきてしまってつい。」
「俺が清夏さんをプロデュースするのも今日で終わりなんだな、と思うと……。」
「もーPっち!決断揺れるからそれ禁止って言ったでしょ!」
「すいません、でも今日くらい許してくださいよ。」
今日、卒業の日。
俺と清夏さんは、それぞれ別の道を歩み始める。
清夏さんは大手プロに所属、大スターの道へと進む。
一方、俺は初星学園のプロデューサーを続ける道に進んだ。
だから、俺と清夏さんの契約も今日でおしまいだ。 - 7あのときの325/08/26(火) 10:36:57
「やっぱりあたしはPっちがプロデューサーのままがよかったなー。」
寂しそうな笑顔で清夏さんが呟く。
「仕方ありません。俺はそのプロに就職してるわけでもないですし、何よりまだ卒業してませんから。」
苦笑しながらそう言うと、彼女は俯き、途端に大粒の涙を流し始めた。
「えっ、ちょっ、清夏さん⁉︎」
「ゔー、ごめーん、Pっち、あたしやっぱり寂しいー!」
ボロボロとこぼす雫は止まらない。
まったく、清夏さんはずるい人だ。
「今日だけですからね。」
「え?何が……って!ふぇ⁉︎ぴ、Pっち何やってんの⁉︎」 - 8あのときの325/08/26(火) 10:38:13
俺は彼女を思いっきり抱きしめた。
「プロデューサーとしては強制契約解除案件ですし、男としては通報案件ですから最初で最後です。」
「俺は、清夏さんのプロデューサーになれて本当に幸せでした。」
「この3年間は、俺の人生の中で一番大切な3年間です。」
「俺の担当アイドルになっていただき、本当にありがとうございました。」
抱きしめながらそう続けると、彼女も堰が切れたように、
「うー!Pっちずるいー!あたしだってPっちがプロデューサーで本当に良かった!」
「Pっちじゃなかったらあたしは絶対アイドルを続けてなかった!」
「本当に、ありがとう、Pっち。」 - 9あのときの325/08/26(火) 10:39:35
「落ち着きましたか?」
「うん、あ、ありがと。」
「まあ今生の別れってわけでもないですし、またいつでも会えますよ。」
「うん。」
「寂しかったり、辛かったりしたらいつでも来てください。」
「うん。」
「俺を含め初星学園は、いつだって、アイドルの味方ですから。」
「うん、ありがと。」
「さて、そろそろ時間じゃないですか?」
「うん?あっ!ほんとだ!もう行かなくちゃ!」
バタバタと慌てて準備をしている清夏さん。
それが何だか、ここから巣立っていく雛鳥のように見えて。 - 10あのときの325/08/26(火) 10:41:01
「清夏さん。」
「どしたの、Pっち。」
「今まで俺と過ごした時間は、楽しかったですか?」
「…うん、すごく楽しかったよ。あたしの、かけがえのない思い出。」
「それなら、良かったです。」
「あっ、そろそろ時間だから行ってくるね、Pっち!そこであたしのこと、ちゃ~んと見ててね!」
「ええ、いつまでも見てますよ。…今までもこれからも、ずっとこの場所で。」
「いってらっしゃい、清夏。」
「……!うん!行ってきます!P……──さん!」
今日、初星学園卒業の日。
世を風靡するアイドルがまた1人、大空へと羽ばたいた。 - 11あのときの325/08/26(火) 10:42:53
翌日。
「はあ、あんなにいい別れ方をしたというのに。」
「なんで俺たちは次の日に再会してるんですか?」
「ご、ごめーんPっち、忘れ物しちゃって……。」
「まあ、清夏さんらしいと言えば、らしいですね。」
「おかえりなさい、清夏さん。」 - 12あのときの325/08/26(火) 10:44:25
以上になります
【閲覧注意】SSの結末だけを考えた|あにまん掲示板「清夏さん」「どしたの、Pっち」「今まで俺と過ごした時間は、楽しかったですか?」「…うん、すごく楽しかったよ。あたしの、かけがえのない思い出」「それなら、良かったです」「あっ、そろそろ時間だから行って…bbs.animanch.comこちらの3です
拙い文章ですが、楽しんでいただけたら幸いです
- 13二次元好きの匿名さん25/08/26(火) 12:23:36
あぁ〜。Pっちの卒業後に再びアイドルとプロデューサーの関係に戻って欲しいんじゃあ〜
- 14二次元好きの匿名さん25/08/26(火) 12:43:29
このあと卒業したPっちと再契約もいいし、Pっちが新しく育てた担当にトップアイドルとして立ちはだかるのもありだな
- 15あのときの325/08/26(火) 12:57:44
結構いろんな展開が作れそうなんですよね