（SS注意）ぬいぐるみ

[1 二次元好きの匿名さん 25/08/29(金) 02:25:45]

「本当に、出来てる……！」

　昼下がりのトレーナー室。
　俺はデスクの上で開けたダンボール箱の中身を見て、驚愕と感動の声を漏らしてしまう。
　逸る気持ちを押さえながらも、ゆっくりと丁寧に、箱から“それ”を取り出した。
　ゆるキャラのように可愛らしくデフォルメされたウマ娘のぬいぐるみ。
　栗毛のセミロング、ひまわりのように明るい瞳、赤いリボンに右耳を通したキャスケット。
　それはまさしく────担当ウマ娘のマチカネタンホイザを模したぬいぐるみであった。

「ついに、こういうのを作ってもらえるところまで来たんだな」

　ウマ娘のグッズにおいて、ぬいぐるみは定番アイテムに一つではある。
　ただし、それを作ってもらえるウマ娘は全体のほんの一握り。
　タンホイザはその一握りにまで上り詰めることが出来た、これはその証左と言っても良かった。

「……うん、特徴をしっかりと捉えていて、とても良い出来だ」

　今、俺の手元にあるのはサンプル品。
　タンホイザの勝負服姿を再現したものであり、全体的なクオリティは素人目で見てもなかなか。
　朗らかだけとちょっと気の抜けた笑顔が彼女らしくて、思わず笑みを浮かべてしまうほどだった。

「鯛焼きを半分こにしてからここまで、長かったような短かったような」

　これまでの日々を思い出して、何だか感慨深い気持ちになってしまう。
　出会ったばかりの頃は『普通』のウマ娘だと思ったタンホイザも、今や現役トップクラスの一人。
　そんな彼女の担当になれたことは、とても誇らしいことだった。
　……まあ、それはさておき。

[2 二次元好きの匿名さん 25/08/29(金) 02:26:49]

「…………しかしコレ、本当にもちもちしてる」

　もちもちと少し揉むようにしながら、そんな感想を呟く。
　ぬいぐるみはいわゆるＢＩＧサイズで、人の頭くらいの大きさがある一品。
　今までの人生でぬいぐるみとはあまり縁がなかったが、なるほど、これは人気なのも頷ける。
　そういえば、ゲーセンでタンホイザに大きいクモのぬいぐるみを取ってあげた時も────。

『もちふわな抱き心地ですな～♪　へへ、トレーナー、ありがとうございますっ！』

　と、お礼を言いながら、幸せそうな表情でぬいぐるみをぎゅっと抱き締めていた。
　その光景を思い出していると、ふとした疑問が浮かび上がってくる。
　……こういうサイズのぬいぐるみって、そんなに抱き心地が良いのだろうか？

「……」

　一度湧いて来た好奇心は、なかなかに収まってくれなかった。
　ぬいぐるみ自体はタンホイザ本人への分も合わせて二つあるから、これは俺が持ってても良い。
　つまりは、言い方はアレだが、自由に扱っても良いということであった。
　誰もいるはずもないのにキョロキョロと周囲を確認してから────俺は、ぬいぐるみを抱きしめてみる。

「おお……これは、なかなか……」

　身体が沈み込むようなもっちりとした柔らかさ、それでいてふわふわとした感触。
　まさしく彼女の言う通りの、もちもちでふわふわな抱き心地であった。
　なるほど、これはぬいぐるみに夢中になる人がいるのもわかる気がする。

[7 二次元好きの匿名さん 25/08/29(金) 02:27:52]

「ふわあ」

　自然に、欠伸が出てしまうほどに。
　……仕事はとりあえず、一段落ついている。
　今日はトレーニングもお休みで、この後も特に予定はなかった。
　昨日は少しばかり寝るのが遅かったので、少し仮眠を取った方が良いかもしれない。
　そんな風に自分へと言い聞かせながら、俺はいそいそとソファーへと向かう。
　ここのソファーは広げることで、簡易ベッドにもなる一品なのだ。
　俺はそれに横たわって、ぬいぐるみを抱きしめながらゆっくりと目を閉じるのであった。

[13 二次元好きの匿名さん 25/08/29(金) 02:29:17]

　────意識がふわりと微かに浮かび上がって、微睡みへと揺れていく。

　曖昧な心地の中、まだ起き上がる気分にはなれない。
　そして俺は、思い出したように再びぬいぐるみをぎゅっと抱きしめる。
　全身を包むような柔らかな感触、手のひらに広がるさらさらとした毛並み。
　湯たんぽのような温もりと、ほんのりと鼻腔をくすぐる甘い香りが、睡魔を呼び寄せて行く。
　このまま二度目も悪くはないかも、そんなことを思いながらぬいぐるみを撫でて────。
　
「ひあ……っ」

　小さな悲鳴が、鼓膜を揺らした。
　一瞬にして意識が覚醒へと導かれて、血の気が一気に引いていく。
　夢であってくれと思いながら、恐る恐る、俺は自身の腕の中へと視線を向けた。

「あっ……でへへ、起こしちゃいましたね？」

　そこには、頬を染めたタンホイザが悪戯のバレた子どものような笑みを浮かべていた。
　頭の中が真っ白になる。
　確かに俺は、ぬいぐるみを抱きしめて仮眠を取っていたはず。
　そもそも、仮眠を取る前には彼女本人はこの部屋にはいなかったのだから。
　一人で困惑していると、タンホイザは何かを察したように困ったような顔になった。

「たまたま来てみたら、トレーナーがすやや～んと気持ち良さそーに眠っておりまして」
「あ、ああ」
「それを見てたら私も目がとろろ～んとして来ちゃいまして……もう、誘惑するのはダメですぞー？」
「……えっと？」
「くふふ、でも私も心地良かったので、許してあげます」

　タンホイザはにっこりと口元を緩めて、目尻を下げた。
　とりあえず、俺が何かやらかしてしまった、というわけではなさそうだ……いやまあ、今の状況そのものがやらかしではあるのだけれども。

[18 二次元好きの匿名さん 25/08/29(金) 02:30:53]

「とりあえず離すね、変なことしちゃってごめん」
「あっ………………それは、良かったのに」

　俺がタンホイザから手を離すと、彼女は寂しげな顔でぽそりと何かを呟いた。
　どうしてそんな表情をするのかはわからないけれど、ほっと一息。
　目も覚めたし、もう起きないと。
　そう思ったのだが、その動きはぎゅっと服を掴むタンホイザの手によって、阻止されてしまう。

「せっかくだから、もうちょっとだけ、の～んびりしませんか？」

　じっと見つめて来る、鮮やかな黄色い瞳。
　小さな唇から紡がれるささやかな願いに対して、俺は断る術がなかった。

「じゃあ、もうちょっとだけ」
「…………やったー」

　タンホイザは耳と尻尾をぴょこぴょこと動かしながら、顔を綻ばせる。
　そして少しだけ身体を寄せて来ながら、思い出したかのように話を進め始めた。

「そういえばぬいぐるみ見ましたよ～！　へへ、自分のぬいぐるみって何か不思議な気分ですね～」
「まあ、作られた本人からすれば、そうなのかな」
「もう嬉しいやら恥ずかしいやら～」
「そっか、俺はすごい嬉しかったよ、君のぬいぐるみが出来て」
「……そう、みたいですね」

　突然、タンホイザは少しだけ不満そうに頬を膨らませる。何かまずいことを言ったかなと思いつつも、ふと、とある疑問が浮かんできた。
　俺が抱き締めていたぬいぐるみ、何処に行ったんだろう。
　少しばかり周囲に視線を向けてみると、それはあっさりと見つかった。
　ぬいぐるみはうつ伏せの状態で置かれていた────床に。
　……寝惚けて落としたのかな、後で拾っておこう。

[23 二次元好きの匿名さん 25/08/29(金) 02:32:04]

「…………私のぬいぐるみ、そんな嬉しかったですか？」

　ふと、タンホイザは小さな声で問いかけて来た。
　少しだけ拗ねたような表情に疑問を抱きながらも、俺は素直に彼女の質問へ答える。

「もちろん、君がそれだけのウマ娘になった、ってことだからね」
「……えっ」
「君の頑張りが実を結んで、そしてそれが世間に認められた証なんだから、嬉しいに決まってるさ」
「…………それは、私の頑張り、だけじゃないんですよ？」

　タンホイザは、眉を微かに吊り上げながら俺に視線を向ける。
　それは、初めて見るかもしれない、彼女の怒りの顔。
　元来の愛嬌のため怖さは全くないけれど、物珍しい表情に俺は言葉を詰まらせてしまう。

「トレーナーが、私のためにいっぱい頑張ってくれたから、ぬいぐるみを作ってもらえたんです」
「……それは」
「あなたが居てくれたからこそ、今のマチカネタンホイザがいるんです」
「……ッ」
「だから……私一人で頑張ったなんて、寂しいこと言わないでください」
「……」
「自分も頑張ったんだぞーって、むむんっと、胸を張ってください」

　タンホイザの怒りの表情は、いつの間にか、悲し気な表情へと変わっていた。
　ああ、俺はなんて顔を、彼女にさせているのだろうか。
　自分の至らなさを改めて思い知りながら────俺は、笑みを浮かべた。

「そうだったな、俺が頑張って君を育てて、君が頑張って俺の期待に応えてくれた、その結果なんだ」
「…………えへへ、はい、トレーナーが育ててくれた、私ですよ」

　そしてようやく、タンホイザは微笑みを取り戻してくれた。

[27 二次元好きの匿名さん 25/08/29(金) 02:33:09]

「……そういえばトレーナー、少し寒くないですか？」

　しばらくまったりと過ごしていた後、タンホイザは急にそんなことを聞いて来た。
　別に寒くはないのだが、聞いてくるということは彼女が寒いのだろうか。

「寒いなら、ブランケットでも持って来ようか？」
「私はほわわ～んって感じで大丈夫なんですけど、トレーナーが寒いかなって」
「いや別に」
「……寒い、ですよね？」

　その言葉から、妙な圧を感じる。。
　決して寒いわけではないのだけれど、気が付いたらこくりと頷いてしまっていた。
　すると、タンホイザは満足そうに頷く。

「ふっふっふ～、そんな時のために秘密兵器を用意してあるんですよね～♪」
「……そっ、そうなんだ」
「……ちらちらり」
「…………それじゃあ、その秘密兵器を試してもらおうかな」
「うひひ、それじゃごろろーんっと仰向けになってくだされ～？」

　楽しげな表情のタンホイザから言われるままに、俺は仰向けになって天井を見つめる。
　その、瞬間だった。

[34 二次元好きの匿名さん 25/08/29(金) 02:34:13]

「ホイっと」
「な……！？」

　タンホイザは────上から覆いかぶさって来た。
　身体が密着するように重なって、むっちりとした太腿が俺の両脚を挟み込む。
　ふんわりとした膨らみ、生々しい体温、乱れた息遣い、熱のこもった吐息。
　全てが一気に押し寄せて来て、心臓が一気に流れを早めて行く。

「タッ、タンホイザ、これは……！？」
「ふふっ……トレーナーに育ててもらったのは、走りだけじゃないんですよ？」

　眼前にあるタンホイザの顔は、妖艶な微笑みを浮かべていた。
　
「トレーニングと食事管理のおかげで、身体の色んなところが成長しちゃって」

　胸とかお尻とかも。
　冗談めかしたように付け足しながら、タンホイザは身体をすりすりとすり寄せて来た。
　胸元に押し付けられる双丘、ぶんぶんと揺れる尻尾の奥にあるハリのある山脈。
　肌の感覚も、目から見える情報も、彼女の言葉が事実であると否応無しにわからせてくる。
　やがて、タンホイザは唇をそっと俺の耳元へと寄せて、歌うように囁いた。

「あなたのおかげで────こんなに大きくなりマチタン♪」

[41 二次元好きの匿名さん 25/08/29(金) 02:35:30]

お　わ　り
ライブのアレは良かったですね

[65 二次元好きの匿名さん 25/08/29(金) 02:45:20]

まああのマチタンを聞いたら一筆書きたるなる気持ちはわかるよね

[67 二次元好きの匿名さん 25/08/29(金) 02:49:28]

この時期にマチタンのSSだから身構えてたら本当に来た！
思い付いたらそういうことやるよねおマチさんは
そして管理お疲れ様です

[94 二次元好きの匿名さん 25/08/29(金) 03:10:40]

よかった

[101 二次元好きの匿名さん 25/08/29(金) 03:12:29]

まけないで

[102 二次元好きの匿名さん 25/08/29(金) 03:12:38]

もう少し

[103 二次元好きの匿名さん 25/08/29(金) 03:12:50]

さいごまで

[104 二次元好きの匿名さん 25/08/29(金) 03:13:02]

はしりぬけて

[105 二次元好きの匿名さん 25/08/29(金) 03:13:17]

どんなに

[106 二次元好きの匿名さん 25/08/29(金) 03:13:28]

はなれてても

[107 二次元好きの匿名さん 25/08/29(金) 03:13:51]

こころは

[108 二次元好きの匿名さん 25/08/29(金) 03:14:04]

そばにいるわ

[109 二次元好きの匿名さん 25/08/29(金) 03:14:19]

かんじてね

[110 二次元好きの匿名さん 25/08/29(金) 03:14:30]

みつめるひとみ

[197 二次元好きの匿名さん 25/08/29(金) 03:39:51]

ss読ませて頂いた、ちょっと小悪魔チックなマチタンが素晴らしかった。

[199 二次元好きの匿名さん 25/08/29(金) 03:40:08]

スレ主ありがとう♦️

君のSS…120点♥

[200 二次元好きの匿名さん 25/08/29(金) 03:40:19]

>>65

>>67

感想ありがとうございます

マチタンいいよね……

>>197