- 1二次元好きの匿名さん25/08/30(土) 00:15:24
「……きろ。起きろって、ほのか。もうすぐ当てられるぞ」
「ふぁ?な、何?」
肩をつつかれる感触に目を開くと、隣によく知った男の子が居た。でも誰だっけ?なぜか思い出せない。
「25番、西仄明(にしほのか)。三段落目から読みなさい」
「はぇ、えっと三段落、三段落……」
「28ページです。時差ボケかな?」
教室中がドッと沸いた。――そうだ、あたしは確か――
連休はあたしの生まれた国へ旅行に行って、昨日帰って来た所で。疲れが抜けきらなくてウトウトしてたんだった。
黒板の上に留めてある、ギラギラした糸で“外国”と刺繍されたペナントがそれを思い出させてくれる。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
昼休みは親戚のお姉ちゃん達にお土産を渡すため、コッソリ集まった。一応お菓子の持ち込みは禁止だもんね。
「甘いものはありがたいなあ〜」
「ちょっとミライ、開けたら匂いでバレちゃうよ?帰るまでガマンしな!」
「わかってます〜、スイミングの前に補給したいの。あとわたしはミクルだってば」
「お姉ちゃん、まだスイミング続いてるんだね。辞めたいって言ってたのに」
「コーチのお兄さんがカッコよくなかったらなかったら辞めてるよ〜、それにスゴく優しいんだ〜」
「なんだい色気づいちゃってさ、恋に恋するお年頃ってヤツかい?」
「アメリちゃん同い年でしょ〜!」
西未来(にしみくる)、西天存(にしあめり)。苗字は一緒だけど家はみんな校区の端に分かれてる。
“またいとこ”って言うらしいけどよくは分からない。ふたつ上でずっと仲良し。
――あの男の子のお土産は別に用意してあるんだけど。その事はなぜだか言い出せなかったの。 - 2二次元好きの匿名さん25/08/30(土) 00:16:31
中学に上がるとお姉ちゃん達との時間はほとんど無くなった。三年生は受験で忙しいし、一緒なのはほんの一年間だったから。
その時間を埋めてくれたのは――
「西さんは高校どこ受けるの?……そっか、俺も頑張らないとな」
「君なら大丈夫だよ。みんなで受かろうねっ!」
「……や、みんなってか、俺……」
「?」
名前、どうして思い出せないんだろう。あれだけ親しかったのに。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
高校はお姉ちゃん達とも別れてしまい、顔を合わせたのはお盆の二回だけだった。
たまにLANEはしてるけども、なんだか別の世界に行っちゃったみたいな感じ。ほんの数年前の事が夢みたいにボンヤリしてる。
「専門学校行くのか……やりたい事ハッキリしてて偉いなあ。俺まだ、ただ大学行って良いのかなって思ってるよ」
「ちゃんと考えてるじゃない、焦ってない人たくさんいるよ?君ならやる事すぐ見つかるって」
「俺の……やりたい事は……」
君の表情から本音を読み取るのは、あたしには少し難しかった。君、君の名前は――
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
調理師学校は大変な事もあったけど、スゴくスゴく楽しかったの。趣味を仕事にするべきじゃないって人もいるけど、あたしはきっと後悔しない。
「君は地元で就職探すの?」
「西さんは都内だよね。……俺も、そうしようと思ってるんだ」
「やっぱり名店が多いもんね。しばらく修業させてもらって、箔を付けて凱旋も良いよね〜」
「いやその……西さん!俺と結婚を前提に付き合って下さい!」
「はいっ?……え?ええ〜っ?」
「このまま西さんと離れたくないんだ!きっと大成して幸せにしてみせる!だから、どうか俺と……」
あたしが口を開いたその時、どおん!と大きな音がして、目の前が真っ暗になった。 - 3二次元好きの匿名さん25/08/30(土) 00:17:06
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- 4◆rRSKfk6hIM25/08/30(土) 00:17:40
――あたしはもう一度目を覚まし、ガバッと飛び起きる。時計は朝の五時半を少し過ぎたあたり。
もう明るいはずの窓の外はバケツをひっくり返したようなどしゃ降りで、
雷が激しく鳴り響いていた。
「夢……」
あたしは夢の中を反芻する。だんだんハッキリと思い出して来た。
あのストーリーはトレセン学園の頃のウマレーター、その試運転で体験した仮想人生が元だ。
そこにヒシアマさん、ミラ子さん、そして――当時のトレーナーさんが混ざって。とっても楽しくて満たされた夢。
もう一度眠れば続きを見られるだろうかと布団を被ってみたけれど、冷たく湿った一人の寝床はあたしを歓迎してはくれなかった。
仕方がないので目覚ましを解除し、鬱々とした気分で朝ご飯の支度に取りかかる。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
学園を卒業したあたしは調理師学校に進んだ。卒業後は三年ほど下積みとして働いたあとで自分の店――“小料理屋あけぼの”を持つに至る。
現役時のネームバリューも手伝ってまずまず軌道に乗り、夢を叶えるという点では上々だと思う。
今日は定休日の常として、買い出しの後は料理の研究のため、他店を廻るはずだったのに。
「神様は意地悪だなあ」
ご飯を片付けてノロノロと着替える頃、ようやく雨足が収まって来た。どうやら買い出しだけなら支障は無さそう。
予定していた店は次に送って、たまには“何もない時間”を過ごそうと決めた。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
お米やお酒は店に配達して貰っているので、他の食材を買い集める。その荷物がたまに、あたしの体格でもやや難儀する大きさになっちゃう。
普通の女の人なら同じ段取りでは仕事出来ないと思う一方で、あの頃はトレーナーさんが色々と持っててくれたんだなあと、少しだけブルーになった。
「よいしょ。冷蔵車オッケー、電気ガス水道オッケー、戸締りっ……と」
買ったものをお店に運び入れて最終チェック。まだまだ日は浅いけれど、自分のお店ってとても大切で愛着が湧いてしまうよね。 - 5二次元好きの匿名さん25/08/30(土) 00:18:07
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- 6◆rRSKfk6hIM25/08/30(土) 00:19:07
本当は店も住むところも、トレセン学園の近くにしたいと思ってたのだけど。でもそれはあんまり未練がましくて――いや、人にそう思われたくなくて、少し離れた物件を探した。
だけど結局、空気のキレイな日は学園がわずかに見える、それが決め手で選んだりして。これは誰にも言えなかった。
「さ、どこに行こうかな?」
普段はまず行かないようなオシャレな店が並んだ通りに足を踏み入れる。そして店先を眺めながら散策したのだけれど――
「高っ……!こんなにするんだ?」
お店を始めてから原価率や利ザヤというものを改めて意識した。都会の物価ゆえ仕方ない部分もあるけれど、ちょっと手を出そうとは思えない。
こういう場所で一服するっていう満足感やステータスの価値、ってトコなのかなあ。
あたしのお店のお客さん達も、そういう価値を感じて選んでくれてるんだよね。明日からまた腕によりをかけてお料理しなきゃ。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
昼下がり。もう行きたい場所も尽きてきて、晩ご飯の買い物だけして帰ろうかと思った時。アクセサリーショップのショーウインドーに映った自分の姿が目に留まった。
「やっぱり気になるなあ」
耳飾りが少しくたびれて見える。前から知ってはいたけど、ついに遠目にも判るようになってしまってた。
この機に幾つか新調しようと意を決してショップに入る。
「どれも素敵だけど……コレが無難かな」
今のとよく似た耳飾りに手を伸ばす。と、一瞬遅れた人の手に掴まれる形になった。
「ひゃっ?」
「あ、ごめんなさい!……ボノ?」
「あなた?」 - 7◆rRSKfk6hIM25/08/30(土) 00:20:53
あたしの手を掴んだのは誰あろう、あたしの旦那様。かつては専属トレーナーとして、あたしが思うまま走り尽くすまで支えてくれた、大切な人。
「どうしてここに?帰りは夕方でしょ」
「いや、ボノこそ遠出してるんじゃ……」
二人でしばらく見つめ合って、そのあとお互いに笑っちゃった。それで他のお客さん達の視線を感じたの。
「すいません、これ下さい」
旦那様はさっきの耳飾りを急いで包んでもらって、一緒に店を出た。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「……それで、どうしてこんなに早く戻ってたの。あたしは天気が悪かったから、買い出しだけにしたの」
「やっぱり東京もか。あっちも夜中からひどい大雨でさ、それで切り上げたんだ」
旦那様は、一昨日の始発で岐阜のカサマツに短期出張に行ってた。あのオグリキャップさんの地元のイベントを視察する形で、それは良いのだけどね、あたしは一つだけ不満があったの。
「どうしてあの人と行動する事になっちゃうのかなあ」
そう、姫路トレセンの□□□トレーナー!あたしの旦那様、いや当時はトレーナーさんの頼みを無下に切り捨てた、あの人!あれから和解したんだか何だか、付かず離れず関わりがあるみたい。それが奇妙で不可解。
「ボノの活躍で俺の名も知れていったからね。お互いに手蔓を求めていたし、利害の一致ってヤツ」
「あなたにあんな事しといて、利用しようなんて厚かましいよ」
「……大人になると、“ただの友達”なんて中々作れないんだよ。それくらいが普通さ」
「だいぶ後で知ったんだけど。あなたが悪いんじゃなくて、自分がナンパ失敗した八つ当たりだったそうじゃない?」
「そう言わないでよ、□□□さんもアレで良いところだってあるんだ。今日だって打ち上げがてら観光の予定だったんだけど、『電車が動くうちに奥さんの所に戻ってあげて下さい』って送り出してくれたし」
「仕事の話が終わったらあなたに用はないって事かしら?」
「そんな事はないっ……と思う……」
「□□□さん一人の方が楽しめるかもね。確かカサマツの近くに……」
「コラコラ、やめないか」 - 8◆rRSKfk6hIM25/08/30(土) 00:21:56
「ま、あの人の事はもういいの。あの店にいたのはなんで?」
「思いがけず早く帰って来れたから、何しようかなって思って。そう言えばボノの耳飾りが古くなってたな……と。
それで何かの記念日にでも渡したいと思ったんだよ。ま、もうバレちゃったけど」
なんてこと。離れていても通じ合ってるって、こんなにも心があったかくなって、じんわりと幸せを感じられる。
――でもそれだけじゃ、一人になった時間は埋まりきらない。だから隣を歩く旦那様の腕にギュッと抱きついた。
「ボノ、人が見てるよ?」
「いいじゃない、丸二日以上会えなかったんだもん。たっぷり埋め合わせしてもらうよ。
まず晩のお買い物、帰ったらい〜っぱい仲良ししてちょうだいね。それからちゃんこで補給タイム挟んで、また仲良し。あとは……
お風呂……かな?」
「おいおい、そんなにかい」
「……もしかして“発散”しちゃった?」
あたしがジトッと睨みつけると真っ赤になって首を振る。もう何年も一緒なのに、こういう所はいつまでも可愛らしいんだから。
「……俺だって、ボノがいなくて寂しかったんだからな。こっちも、埋め合わせして、もらうから」
赤い顔で呟いたあなたにつられ、あたしの顔も赤くなっていくのがよくわかる。腕を組んだのは失敗だったかな?きっとものスゴく目立っちゃってるよね。
そう思ってそっと腕を緩めると、今度はあなたがギュッと力を込めて来た。
「あなた……?」
「ボノ。……愛してる」
「……あたしもっ♡」
いつまでも初心なのはあたしもお揃いみたい。
――あなたと一緒で嬉しい。
――あなたとお似合いで幸せ。
そんな今を噛みしめながら、一歩また一歩と、二人の家路を進むのでした。 - 9◆rRSKfk6hIM25/08/30(土) 00:23:22
終了 ボーノは良い子ですよね…… いっぱいいっぱい幸せになって欲しいですよね……
- 10二次元好きの匿名さん25/08/30(土) 00:27:13
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- 11二次元好きの匿名さん25/08/30(土) 00:28:01
ボノちゃんの一途さと旦那様の不器用さがすごく可愛かったです!夢の中の淡い記憶も効いていて、最後の夫婦のやり取りがめちゃくちゃ甘くてニヤニヤしました。
- 12二次元好きの匿名さん25/08/30(土) 00:28:35
過去から現在へと繋がる流れがとても自然で、夢と現実の対比が心に沁みました。最後に二人が再会し、互いの気持ちを改めて確かめ合う場面は温かくて幸せな余韻が残ります。
- 13二次元好きの匿名さん25/08/30(土) 01:27:41
感想ありがとうございます!
お互いがいない事が考えられない、そんなラブラブな二人を楽しんで頂けて良かったです。出会う前は出会ってなかったのにね、当たり前体操
前スレ
【SS】唯一の女神|あにまん掲示板「どう言う事ですか先生……三年間保たない、って言うのは!」 トレーナーの怒気を含む声が診察室に静かに響く。「どうもこうも今言った通りですよ、この子の膝や腰は自分の体重とパワーに耐えきれない。 他の子達…bbs.animanch.com - 14◆rRSKfk6hIM25/08/30(土) 07:45:00
元スレ
ヒシアケボノの創作が少なすぎるから|あにまん掲示板ヒシアケボノでウケそうな概念をいろいろ挙げるスレ泡立てる時に尻尾がクルクル回るクセを動画にしたら万バズするボーノその動画をもとにオリジナルダンス動画を作られるbbs.animanch.com落ちてしまいましたがここに最後まで貼りたかったです
実は以前からボーノSSを書きたかったのですが……良い子すぎてお労しすぎて手を付けづらかったのです
キッカケを下さり感謝いたします
- 15二次元好きの匿名さん25/08/30(土) 17:39:01
どうしても引退後のほうが長いですからね
現役期間が学生なウマ娘は尚更