- 1◆ybFK9setao21/09/19(日) 18:18:23
土曜朝のトレーナー室、ナリタブライアンがそのドアを開けるとそこには誰もいなかった。
本来ならばブライアンが来るよりも早くトレーナーが到着しており、軽い朝のミーティングを行うはずだったのだが、今は誰も居ない。
ブライアンは少々眉をゆがませ、スマホを取り出した。
そこには一件の通知が届いていた。
「わるいねつでた ごめ ん」
血の気が引いた気がした。
ブライアンはすぐさまにトレーナー室を出て歩き出した。
行き先は職員室、駿川たずなさんの机。
「あら、ブライアンさん…どうしました?」
書類仕事をこなしていたたずなさんがブライアンの姿を見て声をかける。
「ああ…私のトレーナーが」
と言うと、スマホの画面を見せる。先ほどのメッセージが映し出されている。
「あら、大変!といってもどうしましょう…外出許可を出してもよいのかしら…」
たずなさんが少し迷うと、ブライアンはすぐさま、
「頼む」と頭を下げた。
そうこうしているうちに秋川理事長が現れた。話を聞くと理事長は
「許可!本来はよろしくないが、緊急事態として認めよう!」と言ってくれた。
ブライアンは秋川理事長に感謝を述べると、また歩き出した。次の行き先は、姉貴の練習場所。 - 2◆ybFK9setao21/09/19(日) 18:22:27
目覚めは最悪だった。酷く頭が重く、起き上がることもできない。
これはやってしまったと思いつつ額に手を当てれば、かなり熱っぽいことが分かった。
手元にスマホがあったのが幸いだったので、まずブライアンへと連絡をする…しかし、電話もできそうにない。
そう思い、最低限の文言だけを送信した。送信したと同時に、また気力が尽きて動けなくなった。
久しぶりの高熱だった。最近夜遅くまで起き続け、朝は早く起きるなど不安定な生活を続けていたのが祟ったのだろう、見事なまでに動けない。
栄養は取らねばとは思いつつも、普段は数秒でたどり着く冷蔵庫までの道がまるでターフのようにも思える気だるさだ。
どうにもならないと思い、とりあえず目を閉じた。
ああ、今日は最悪の日だ。そういえばちょっと前にフクトレとフクキタルが占いがどうのこうの言ってたような気がするな…
最悪の後に最高が来るとか言っていたが、最悪の時点で死にかねない気分だ。
まだ意識が朦朧としている中、隣に誰か来たような気がする。
ああ、父さんか母さんかな…いや二人とも地元でのんびり暮らしてるはずだ。
じゃあ兄さんか…いや兄さんも地元だった…
ああ、じゃあ天使か何かが来たんだろうなと思った。よく見ると大変美人さんな気がしてきた。
その天使の声は、だいぶブライアンに似ていた。
「おい、来たぞ…大丈夫か?」
ああ、天使はブライアンだった。 - 3二次元好きの匿名さん21/09/19(日) 18:22:56
ナリブ看病ですか…
健康に良いですね - 4◆ybFK9setao21/09/19(日) 18:23:21
「だいぶ酷い状態だな…私は天使などではない」
そう言うブライアンはトレーナーの額に手を当てる。もう片方の手は自らの額に当て、感覚で温度差を計っている。
柔らかい手だ。
「相当高いようだな…すまん、部屋を漁らせてもらう」
と言うと、部屋の中を探し始める。少しすると、風邪薬とタオル、そして水とゼリー飲料を持ってきてくれた。
「少し起き上がれるか?…ああ、それくらいで大丈夫だ」
ブライアンは少し起き上がった上半身を支え、その間にトレーナーはゼリー飲料を気合で飲み、風邪薬を口の中に押し込んだ。
飲み終わる前に、ブライアンは支えた上半身の下に掛け布団を折りたたんで滑り込ませ、多少傾きをつけた状態で寝られるようにした。
手際がいいな、と思っていると手元に何か手帳のようなものが見える。
後で聞こうと思い、気力がまた尽きたので意識が途切れた。
意識が途切れる直前、だいぶ心配そうな顔を見たような気がする。
風邪さえ引かなければなあ、と沈む意識の中で思いまどろみに落ちていく。 - 5◆ybFK9setao21/09/19(日) 18:25:45
とりあえず最低限の栄養補給と風邪薬を飲ませることはできた。
一息つく。そして姉貴特製の看病手帳を開く。
とりあえず現在できることは冷却シートを貼ること、汗を拭くこと、部屋の空調を整えること。
エアコンの冷風は抑えること、扇風機は風を直接当てないこと。
患者(トレーナー)が寝ている場合はなるべく落ち着いて、静かに行うこと。
(ありがとう姉貴、この手帳があって助かった…)
ブライアンは姉に感謝した。
(それはそれとしてなぜ「ようやく出番が来たな!」と意気揚々と渡したんだ姉貴…)
ブライアンは訝しんだ。
少し前にトレーナーがトレーナー室で熟睡していたこともあり、最近疲労がたまっていたことは解っていた。
海外への連絡のため遅い時間にも連絡を取ったりすることがあると聞いた。
そういった日頃の疲れの蓄積が、今回の風邪を招いてしまったのだろう。
(お前はそうは思わんだろうが、私のせいでもある)
だからこそ、ブライアンはトレーナーの看病に赴くことにした。
いつも助けてもらっている分を返すために。 - 6◆ybFK9setao21/09/19(日) 18:27:48
しばらく時がたち、トレーナーの表情は最初に部屋に入った時よりはマシになっていた。
汗がとめどなくあふれるため、タオルでふき取る。
服の下も、手を突っ込んでタオルでふく。
タオルがある程度汚れたら、キッチンへ向かって水洗いする。
額のシートが剥がれないように汗を拭きとる。
またキッチンへ向かう。
トレーニングとはまた別のきつさ。
それでもトレーナーの助けになるため、ブライアンは黙々とこなしていく。
短針が数回回り、昼過ぎ頃の時間になるとトレーナーがまた目を覚ました。
「すまないブライアン、助けてもらったな…」
そうトレーナーから言われるが、ブライアンは首を振る。
「これくらいはどうともない。まだ熱は下がってないから無理はしないでくれ」
メモを見ながら、ブライアンはトレーナーの看病を続ける。そしてふとこんなことを言った。
「トレーナー…何か食べたいものは…ないか?」
「んーそうだな…雑炊が食べたいな…」
「………わかった、作ってみよう」
そういうと、ブライアンはキッチンへと向かった。 - 7◆ybFK9setao21/09/19(日) 18:30:54
白状すれば、料理はあまりできない。
以前アマさんに手ほどきを受けた時、
「なんでイチゴに一太刀浴びせるような持ち方をしてるんだい!包丁は片手で使うもんだよ!」
と怒られた思い出がよみがえる。我ながら何と戦うつもりだったのか。
最初のころよりはマシになったとはいえ、包丁はあまり使いたくはなかったのでちょうどよかった。
先ほど冷蔵庫を開いたときにご飯が保存されていたのを見つけていたので、これを使う。
スマホでレシピを調べながら、必要な材料をそろえていく。
問題ない、始めるとしよう。
塩の少々とは何なんだと思いつつも、順調に進んでいく。
手帳曰く、人差し指と親指でちょっとつまむくらいらしい。
こんな時にも役に立つ姉貴の手帳。ポイントとして見てほしいところにやたらと目立つ姉貴のデフォルメイラストが目を引く。だれが描いたのだろう。
あと、手帳には作りやすいレシピがたくさん乗っていた。最初からこちらを読んでおけば態々調べずともよかっただろう。
再三姉貴に感謝しつつ、不器用ながらもそれなりの雑炊が出来上がった。
そして気が付いた。
どうやって食べさせるのか。 - 8◆ybFK9setao21/09/19(日) 18:34:21
しばらくするとブライアンが雑炊を持ってきてくれた。
「ああ、ありがとうブライアン…」
そうして手を伸ばして受け取ろうとすると、ハッとした目をしてサッと引っ込められた。
「…………」
「…………」
「………重いから持たせられん」
「…あ、そうね…」
まだ力が入らないことを忘れていた。よっぽど栄養に飢えていたのだろうか。
となるとどうやって食べようかと思っていると、ブライアンがやたらと難しい顔をしている。
しばらくうなって、ようやくこちらに向き直ると…
「…口をあけてくれ」
そう、少しだけ恥ずかし気につぶやいた。しかもまた目が反れてる。
「…ぷふっ」
「わ、笑うな!食べさせてやらんぞ!」
おっと、ブライアンを怒らせてしまってはせっかくの手料理を食べる機会を失ってしまう。
「すまんすまん、お願いするよ」
そう言って、あーんの体制をとった。いや、これは体制というべきなのか?
ともかく彼女から食べさせてもらうことになった。 - 9◆ybFK9setao21/09/19(日) 18:36:33
やけどしないように、息を吹きかけ熱をとる。
ある程度熱が抜けたら、歯や唇に直撃させないように匙を動かす。
相手が口を閉じたら、ゆっくりと引き抜く。
姉貴よ、なぜ「あーん」の手解きまで手帳に書いておいたのだ。助かったのだが。
「…どうだ?…美味いか…?」
恐る恐る聞いてみる。一応味見はしたが、私の味覚とトレーナーの味覚が大幅に違う可能性も考慮してちょっと薄味目に作ったが、大丈夫だろうか。
「ああ、美味しい。栄養が行き渡る感じがするな…ありがとうな」
そう微笑んでくれた。無事まともな料理が作れたようだ。
「そうか」
ぶっきらぼうに答えてしまっても、私の耳と尻尾はゆらゆらと揺れてしまう。
喜んでもらえて、嬉しい。
ともかく、姉貴の手帳によって私の看病は成功を収めたといえるだろう。
今度ちょっと良いバナナを贈ろう。 - 10◆ybFK9setao21/09/19(日) 18:38:23
また気が付いた時には夕方になっていた。
食事を終えた後は調子が回復したのか、朝のころよりもずっと良い睡眠に落ちていた。
頭の熱はある程度下がり、多少は動けるようになった。
ふと気付けば、体が少し重い。
見ればブライアンはトレーナーに少しかぶさるような形で寝ていた。
半日ほどしっかり看病していたため、疲れが来て寝てしまったのだろう。
「ありがとう、ブライアン」
そうつぶやき、寝息をたてるブライアンの頭を撫でた。
“シャドーロールの怪物”とまでも呼ばれる荒々しい走りをするブライアンでも、寝ているときは可愛らしいものである。
いや、普段から割と可愛らしいかもしれない。
いや、天使だったかもしれない。
熱のせいでちょっと正常な判断が付きかねている気がする。
ともかく、トレーナーはブライアンによって幸福な時間を過ごすことができたと言える。
(今度フクトレに遊園地のペアチケットでも送ってやろう)
と、思いながらブライアンの頭を撫で続けていた。 - 11二次元好きの匿名さん21/09/19(日) 18:39:28
- 12◆ybFK9setao21/09/19(日) 18:39:33
幼いころの夢を見ている気がする。
そう、これはいつか見た風景。
姉貴がちょっとした風邪にかかった時だった気がする。
その頃の私は風邪が何なのかもわからず、ただただ姉貴にすがって泣いていたような気がする。
「かぜがつづいたら、ねーちゃんはいなくなっちゃうんじゃないのか?」
そんな幼いながらの恐怖心があったのかもしれない。
お袋と協力して看病をして、そして同じように…そう、同じように、姉貴の布団のそばで寝ていた。
そうして、姉貴が私の頭を撫でてくれて…そう…撫でてくれた…
それがとても心地よかった。
今も、そんな気持ちよさに包まれている。
目が覚めると、トレーナーは起きていた。
頭に手の感触があった。
「ああ、起きたかブライアン…おっと、すまない」
そう言って手を引っ込めようとしたので、つい抑えてしまった。
「…ブライアン?」
そのまま手を抑えて言った。 - 13◆ybFK9setao21/09/19(日) 18:40:03
…もう少し、いいか?
…ああ、気が済むまで。
夕日が窓から光をさす。
オレンジ色に包まれた部屋の中で、ただただ私はトレーナーの手の感触を楽しんでいた。
そう、これは熱のせいだ。看病しているうちに、うつってしまったのだ。
そういうことに、しておこう。 - 14◆ybFK9setao21/09/19(日) 18:41:55
終了です。前回より長くなってる…!
前回のSS投げた後からちょっとずつブライアンさんスレが立ってうれしいぞい
【SS】ナリタブライアン「おい、トレーナー…トレーナー?」|あにまん掲示板ナリタブライアンがトレーナー室に入ると、彼女のトレーナーは机の上に突っ伏して寝ていた。「はあ…まったく、いつも口煩く体調管理は厳密にしてくれと言うくせにな…」そうつぶやくと、ブライアンは机の向かい側へ…bbs.animanch.com - 15二次元好きの匿名さん21/09/19(日) 18:44:54
- 16◆ybFK9setao21/09/19(日) 18:49:36風邪ひいた時に看病してくれそうなウマ娘ステークス|あにまん掲示板マックイーンは慌てながらもネットで色々調べてくれた方法を実施してくれそうそのうち看病につかれてトレーナーが寝てる布団にもたれかかって寝てそうbbs.animanch.com
インスパイア元
っていうかナリブマニュアル看病概念を投げたのは私だァ…
- 17二次元好きの匿名さん21/09/19(日) 18:57:26
ええやん…
- 18二次元好きの匿名さん21/09/19(日) 18:58:00
姉貴はこういうことする
- 19二次元好きの匿名さん21/09/19(日) 20:06:38
将来はいい夫婦になりそうだな…
いいものでした、おつです - 20◆ybFK9setao21/09/19(日) 20:49:54
- 21二次元好きの匿名さん21/09/19(日) 20:58:33
ハヤヒデさんは気が利きすぎ
- 22二次元好きの匿名さん21/09/19(日) 21:13:41
このレスは削除されています
- 23二次元好きの匿名さん21/09/20(月) 07:05:20
- 24二次元好きの匿名さん21/09/20(月) 09:07:52
不器用でも一生懸命看護するナリブいいね
- 25二次元好きの匿名さん21/09/20(月) 12:42:17
このレスは削除されています
- 26二次元好きの匿名さん21/09/20(月) 12:44:12
このレスは削除されています
- 27二次元好きの匿名さん21/09/20(月) 23:34:28
- 28二次元好きの匿名さん21/09/20(月) 23:38:31
姉貴・・・準備万端すぎる