(SS・閲覧注意)スティルインラブが帰って来た

  • 1二次元好きの匿名さん25/08/30(土) 13:19:10

    ※ 独自解釈マシマシなお話なので閲覧注意

    本文は2レス目から投下します

  • 2二次元好きの匿名さん25/08/30(土) 13:20:15

     スティルインラブが帰って来た。

     長らく行方知らずだったトリプルティアラウマ娘の帰還。
     それまで彼女に対して忘れていたかのように静かだった世間やメディアは、大きく湧いた。
     勿論、生徒など学園関係者の間でも彼女の話題で持ち切りである。
     一トレーナーである僕にとっても朗報のはずなのに、どうしても、心は晴れない。

    「……先輩は、まだかかるのかな」

     たくさんのウマ娘がトレーニングに励んでいるグラウンドをぼんやりと眺めながら、ぽそりと呟く。
     スティルインラブのトレーナーは、僕が色々と相談に乗ってもらったり、色々とお世話になっている先輩。
     初めての担当だというのに史上二人目のトリプルティアラという偉業を成し遂げた、とても尊敬している人だ。

     今、彼の姿はトレセン学園にない。

     以前から体調を崩していて、入退院を繰り返していた時期はあった。
     ただ、半年ほど前から急に容体が上向いて、数カ月前に退院祝いしたところである。
     そしてスティルインラブが戻って来たのと入れ替わるように、再び入院してしまったのだ。
     ……お見舞いに行きたいところなのだが、入院先がわからない。
     先輩の友人や同僚を尋ねてみても、まるで彼を忘れてしまったかのように知らないと話すだけ。
     こうなれば、確実に知っている人に聞いてみるしか────。

    「あっ」

     そう思った矢先、当の本人の姿を見つけた。
     栗毛のふんわりとした長い髪、輝くような真紅の瞳、特徴的な白いヴェール。
     先輩の担当ウマ娘である、スティルインラブその人だった。
     走り終えたばかりの彼女は水分補給をしながら、タブレット端末を眺めている。
     正直、彼女自身とはあまり面識がないのだが、この機会を逃すわけにはいかなかった。

  • 3二次元好きの匿名さん25/08/30(土) 13:21:24

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  • 4二次元好きの匿名さん25/08/30(土) 13:21:28

    「スティルインラブ、ちょっといいかな」

     僕が近づいて声をかけると、スティルインラブはぴくりと耳を反応させる。
     そして、不思議そうな表情でこちらをじっと見つめてから、柔らかな微笑みを浮かべた。

    「あなたは……ああ、トレーナーさんのご後輩の方、ですよね」
    「えっ、知ってるの?」
    「はい、存じておりますよ……担当さんの当たりは、少し和らぎましたか?」
    「…………先輩め、そんなことまで話しちゃうのか」

     気恥ずかしい気持ち半分、くすぐったい気持ち半分。
     僕は苦笑いを浮かべながら、ふと、あることに気づいた。
     スティルインラブは今、トレーナー不在の状態でトレーニングを続けている。
     当然、先輩から何らかの指示や計画は出ているだろうが、細かい調整は難しいはず。
     彼女自身だって、先輩の不在には胸を痛めているに違いない。
     自分のことよりも、まずは、彼女のことだな。
     心の中で自身を恥じながら、僕は問いかける。

    「トレーニングは大丈夫? 先輩には到底かなわないけど、少しくらいなら見れるよ」
    「お心遣いありがとうございます……でも、トレーナーさんからはしっかりと計画を頂いてますので」

     そう言いながら、スティルインラブは僕に向けてタブレットを手渡す。
     画面に表示されているのは、一週間の細やかなトレーニングプラン。
     バランスを重視した王道的な計画の中へ、状況や状態に合わせた小さな修正を入れる。
     
     まさしく先輩が作った計画だと感じた────気持ち悪いくらいに。

     隣に先輩が居て、その場で調整をしたのではないかと思ってしまうほど。
     脳の底にこびりついたような奇妙な違和感を払拭したくて、俺は粗探しでもするように目を皿にする。
     そして、ようやく見つけた点を、声の震えを押さえながら彼女へと指摘した。

  • 5二次元好きの匿名さん25/08/30(土) 13:22:24

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  • 6二次元好きの匿名さん25/08/30(土) 13:22:28

    「えっと、そうだ、プールトレーニングも取り入れた方が良いんじゃないかな」
    「最初はその予定だったのですが、明日からプールは緊急の工事に入ってしまうとのことだったので」
    「あ、そうだ、そういえばそうだった────」

     いや待て。
     それは確か、つい数時間前に出たばかりの情報だったはず。
     僕だって、まだ自分の担当のトレーニング計画を変更し切れていない状態だ。
     にも関わらず、彼女一人で、ここまで綺麗に修正が出来るものなのだろうか。

    「────ドうか、さレましタか?」
    「……ッ!?」

     刹那、背筋が凍り付いた。顔を上げれば、じいっとこちらを見つめる、真っ赤な双眸。
     心臓がぎゅっと固まり、呼吸が出来なくなって、全身に寒気が走り、血は沸騰しそうなほどに熱い。
     紅の瞳に魅入られたかのように、僕はスティルインラブから目を離せなくなり────。

    「あの、どうかされましたか?」
    「……あ…………いや、何でもない……うん、大丈夫……何でもないよ」

     再び声をかけられて、ハッと我に返る。
     身体からはじっとりとした汗が噴き出ていて、シャツが肌にべったりと貼り付いていた。
     乱れた呼吸を整えながら、俺はスティルインラブへとタブレットを返却する。

    「……心配は、いらないみたいだね」
    「ええ、いつもお傍に、居てくれていますから」

     誰のことを言っているのかはわからないが、スティルインラブは幸せそうな笑顔を浮かべていた。
     どうやら大きなお世話だったようだ、僕は時間を取ってしまったことを謝罪して、彼女から離れる。
     トレーナー室へと戻っていく最中、ふとした疑問が浮かび上がった。
     僕は何故、彼女に声をかけたのだろうか。

  • 7二次元好きの匿名さん25/08/30(土) 13:23:47

     ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇

  • 8二次元好きの匿名さん25/08/30(土) 13:24:28

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  • 9二次元好きの匿名さん25/08/30(土) 13:24:51

     スティルインラブが帰って来た。

     彼女ほどのウマ娘が学園に帰還したことは、私としても喜ばしいこと。
     しかし、この学園の生徒会長シンボリルドルフとして、問い質さなかればいけないことがあった。

    「それで……何か云いたいことでもあるのかしら、ルドルフ」

     生徒会室、今のここには私と彼女の二人しかいない。
     流れるような青鹿毛の髪、右目の下の特徴的な泣きボクロ、身に纏うは魔性の気。
     メジロラモーヌは、いつもの妖艶な表情を浮かべながら、悠然と目の前に立っていた。

    「急に呼び出してしまって済まないね、少し、君に聞きたいことがあって」
    「……あら、そう」

     至極退屈そうに、ラモーヌはそう答えた。
     恐らくは、私の聞きたいことなど、とうに察しているいるのだろう。
     でなければ、生徒会室への呼び出しに、あの彼女が素直に応じるはずがない。
     ならば、早く話を進めて行くことにしよう。

    「────スティルインラブの担当トレーナーについてだが」
    「……」

     ラモーヌは一瞬だけ耳を反応させるが、何一つとして表情を変えない。
     ただ無言のまま、目でどうぞと、話の続きを促すだけ。

  • 10二次元好きの匿名さん25/08/30(土) 13:25:34

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  • 11二次元好きの匿名さん25/08/30(土) 13:26:01

    「────スティルインラブの担当トレーナーについてだが」
    「……」

     ラモーヌは一瞬だけ耳を反応させるが、何一つとして表情を変えない。
     ただ無言のまま、目でどうぞと、話の続きを促すだけ。
     
    「……彼は、帰って来た彼女と入れ替わるように、今は再び入院している」
    「そう、で?」
    「以前とは別の病院でね、何度か私やたづなさんも足を運んでいるのだが、面会謝絶で追い返されてしまう」
    「へえ」
    「ただ奇妙なことに……彼と水魚之交だったはずのスティルインラブが、そこに来た様子がない」
    「……」
    「ところで、この病院は────メジロ家と、遠い縁のある病院だそうなんだ」
    「……あら」
    「単刀直入に聞こう、ラモーヌ、彼について君は何か知っているんじゃないのか?」
    「…………ふふ」

     問いかけた瞬間、ラモーヌの口元が少しだけ愉しげに歪んだ。
     そして無言のまま右手を唇の前へと持って行き、ピンと、人差し指を立てる。

    「病院の患者について、私が何か話せると思って?」
    「……ああ、そうだな」

     それは、あまりにもわかりきった、当然の解答。
     患者について、縁があるとは部外者に情報を漏らすなど、医療従事者として言語道断。
     ラモーヌとてそれを理解しているから、仮にわかっていたとしても、何も言うはずがない。
     しかし、彼女のその態度は『何か』があることを雄弁と物語っていた。
     私は大きくため息をついてから、睨むように彼女を見つめる。

  • 12二次元好きの匿名さん25/08/30(土) 13:26:34

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  • 13二次元好きの匿名さん25/08/30(土) 13:27:10

    「……こんなこと、長く続けられるはずがないぞ」
    「良くってよ、あの子もあの人も、永遠なんて望んでいないもの」
    「…………私が望んでいるのは全てのウマ娘の幸せだ、破滅に向かう彼女達を、決して看過は出来ない」
    「なら、なおの事、黙ってなさい────」

     ────あの二人は燃え尽きるほどに愛し合って、とても幸せなのだから。

     ラモーヌは凄まじい圧とともに、静かに、それでいて強く言い切った。
     そこにあるのは、見届けるという一種の覚悟。
     私ですら、言葉を詰まらせてしまうほどだった。
     けれど、こちらも退くわけにはいかない。
     彼女との関係が破綻してしまうのも覚悟しながら、絞り出すように言葉を紡いだ。

    「あれは愛ではないよ、ラモーヌ」
    「……ねえ、ルドルフ」
    「……なんだい?」
    「小さな頃、アルダンが初めて、家族にシチューを作った時のことだけれど」
    「…………は?」

     突然、話題が切り替わって、思わず間の抜けた声を出してしまう。
     ぽかんとしている私を尻目に、ラモーヌは何の気にした様子もなく話を続けた。

    「少し焦げててて、野菜は大きく切り過ぎて火が通りきっていない、水が多すぎて味も薄い」
    「……何の話をしているんだ?」
    「でも、家族はみんな幸せそうにそれを食べていた……この料理を、貴方は愛と呼ぶのかしら?」
    「…………愛がこもった料理、ではあると思うよ」
    「そう……じゃあ、そのシチューをひたすらに、煮詰めて、焦がして、焼き尽くして」

  • 14二次元好きの匿名さん25/08/30(土) 13:28:17

     脳裏で、想像してしまう。
     くつくつと煮込まれる、鍋一杯のシチュー。
     仮に、ずっと煮込み続けていれば、水分は徐々に失われて、最終的には────。

    「鍋の底にこびりついた炭の塊、貴方はこれを、愛と呼ぶのかしら?」

     そこには、味も栄養も残っていないだろう。
     一度に口に入れれば、ただただ相手を傷つけて、蝕み続けるだけの存在。
     気持ちが込められていたとしても、私はそれを、愛のこもった料理だと言えるだろうか。

    「私の“愛”とはまるで違うけれど、それもまた、愛と呼びたい……それだけの話よ」

     それだけ言い残すと、ラモーヌは踵を返して生徒会室から立ち去ってしまう。
     その背中に、私は何の声もかけることが出来なかった。

  • 15二次元好きの匿名さん25/08/30(土) 13:29:23

     ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇

  • 16二次元好きの匿名さん25/08/30(土) 13:30:10

    このレスは削除されています

  • 17二次元好きの匿名さん25/08/30(土) 13:30:30

     スティルインラブが、帰って来た。

     けれど“それ”は────私の知る、スティルさんではなかった。
     生活態度は穏やかで、トレーニングにも真面目に打ち込み、それでいて走りは苛烈。
     でも、違った。
     それは彼女の皮を被った、まるでツギハギの“ナニカ”でしかなかった。
     何より、あれだけ想い合っていた彼が隣にいないのに、あんなにも満ち足りた表情をしているのだから。

    「……アルヴさん?」

     私の名前を呼びかけられて、ハッと我に返る。
     気が付けば、完全には真紅の瞳。
     不思議そうな表情を浮かべるスティルさんの姿が、そこにはあった。

    「探しましたよ、今日は併走の約束でしたよね?」
    「ええ、ごめんなさい……それにしても良く、ここにいるのがわかったわね」

     併走前に集中するため、グラウンドから少し離れた、人気の少ない場所で私は佇んでいた。
     少し時間をかけ過ぎてしまったのは失敗だったけど、良く見つけられたものだと思う。
     私の言葉を聞いて、彼女はとても嬉しそうに微笑んだ。

    「ふふ、はい、何となく探し出すのは、得意ですから」

     ────“これ”だ。
     まるで、別の存在が混ざり込んでいるかのような、強烈な違和感。
     それが私に、彼女を全くの別人だと認識させる。
     でも、そんなことは他に誰一人、感じ取ってはいなかった。
     そのことが、何だか奇妙な薄気味悪さを感じさせている。

  • 18二次元好きの匿名さん25/08/30(土) 13:31:47

    「……貴方のトレーナーは、今、どうしてるの?」

     自らの心の内を誤魔化すように、そんな問いかけを向ける。
     スティルさんがいなくなった後、退院した彼に話しかけたのが、彼と会った最後。
     再び入院したということは知っているけれど、それ以降は誰も、彼の話をしようとしない。
     まるで、彼女が居なくなった時から、逆転してしまったように。

    「……はい?」

     スティルさんは、何を聞いているのかと言わんばかりの表情で聞き返した。
     瞬間、沸騰するように、かあっと頭の中に血が昇っていく。
     貴方達は、あれだけ想い合っていたのに。
     彼は、決して、貴方のことを忘れなかったのに。
     それなのに、貴方はそんなあっさりと、彼のことを忘れてしまったというのか。
     私が感情のまま声を上げようとした直前、スティルさんは、何かを察したようにぽんと手を叩いた。

    「ああ、ごめんなさい────見ていればわかるでしょう、と思ってしまって」
    「……はあ?」
    「この通り、元気ですよ」
    「貴方、一体、何を…………?」

     意味がわからない、まるで話が噛み合っている気がしない。
     真意を問い質すべく、私はじっと彼女の瞳を、正面から見つめる。
     真っ赤な瞳は、複雑な光を湛えていた。
     恋する乙女のように輝く、純粋な光。
     獰猛な獣のように荒ぶる、狂気の光。
     そして、それらを見つめて、見守るように揺れる────穏やかな光。

  • 19二次元好きの匿名さん25/08/30(土) 13:33:14

    「……ッ!?」

     私は慌てて、“それ”から目を逸らした。
     やはり、違う。
     彼女は私の良く知るスティルインラブではなかった。
     でも、私が良く知る“二人”の面影が、どうしても離れてくれない。
     
    「…………貴方のトレーナーは、今、何処にいるの?」

     それは、縋るような問いかけだった。
     入院しているのだから、病院という答えが返って来るに決まっている。
     けれど私の予想は違っていて、そしてそれが外れることを、心から祈っていた。
     “それ”はにたりと歪んだ微笑みを浮かべて、優しくお腹をさすりながら、答えを返す。

    「ふふ……ずっとおりますよ? 私のすぐ傍に……」

  • 20二次元好きの匿名さん25/08/30(土) 13:35:11
  • 21二次元好きの匿名さん25/08/30(土) 13:37:29

    「補完」されたか…

  • 22二次元好きの匿名さん25/08/30(土) 13:40:52

    ・・・・・・
    どのような形であれ必ずそばにいるな! ヨシ!

  • 23二次元好きの匿名さん25/08/30(土) 14:08:28
スレッドは8/31 00:08頃に落ちます

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