- 1二次元好きの匿名さん25/08/30(土) 18:22:02
- 2125/08/30(土) 18:23:08
夏の奥付を閉じるように、太陽がビルの隙間を二千ケルビンに照らしていく。
すっかり時短勤務になりつつあるお天道様を少しだけ羨ましく思いながら、俺は昨日と同じ足取りで改札へ向かう。
八月とはいえ夜になると外は肌寒い。つい一ヶ月前に疎ましげにクローゼットの奥に押し込んだジャケットが恋しくなってきてしまうような、そんなセンチメンタルをスマホと一緒にポケットに突っ込み、俺は間も無くやってきたがらんどうの電車に腰掛けて、よれたビジネスバッグを自分の膝に放った。 - 3125/08/30(土) 18:27:27
見知らぬ駅で目が覚めた。いつの間にか眠っていたらしい。
聞いたこともないような名前の終点駅で仕方なしに降りる。無人駅の真ん中に改札がポツンと一基待ちぼうけを食らっていて、なんとなく早足でそれを抜けた。調べると天川へ戻る電車は一時間後らしい。ちょうどいい空き時間だ。資料でもまとめよう。
ふと目についた自動販売機で缶コーヒーを買い、取り出し口に身をしゃがませると、視界の隅に人影が映った。どうやら俺以外にも人がいるらしい。
もしかして俺みたいに寝過ごしてしまったのだろうか、可哀想に。そんな対岸の火事よりも関心の薄い感想を適当に放って、プルタブに指をかけて──その人影が、見覚えのあることに気が付いた。
小さく、胸の奥が震えた。
こんなところで、会うなんて──。 - 4二次元好きの匿名さん25/08/30(土) 18:36:50
なんか…引き込まれる文章だな
- 5125/08/30(土) 18:40:00
ふう、と小さく息を吐いたついでに財布を取り出して、同じ缶コーヒーをもう一本買い、その人陰に近づいていく。
「どうぞ」
「──ん」
少しだけ驚いたように顔をあげたその人は、俺を見ると柔らかく微笑んで缶コーヒーに手を伸ばす。視線でお礼を言って、小気味良い音を立ててプルタブを開けた。
コーヒーを嚥下するたびに小さく動く喉元に、俺の視線が釘付けになるのを感じる。
とくん、とくん。心臓が木琴の音色のように跳ねて、俺は耳が赤くなる音に突き動かされるようにその人の唇を奪った。
俺の衝動的な行動にその人は驚いて声を上げる。俺はそれすらも漏らさないように強く唇を押し当てて、声と唾液を一緒に飲み込んだ。
この人の輪郭も、中身も、全て。ほんの数秒の間でも、俺のものにしてしまいたい。そんな欲望を、流し込むように。 - 6125/08/30(土) 18:44:33
「──ぷはぁ」
繋がれた唇をゆっくりと解く。透明な橋が架かって、つうと切れた。
一瞬強く吹いた風が俺の熱った心を冷ましていき、不意に我に返る。
「すみません、いきなり」
さざなみのように弱い声で俺が謝ると、その人は真っ赤になった顔で叫んだ。
俺が恋に落ちたときの、そのままの表情で──。
「まったくじゃ、さすがのワシも固まってしまったぞ」
終わり。
- 7二次元好きの匿名さん25/08/30(土) 18:47:03
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- 8二次元好きの匿名さん25/08/30(土) 18:47:08
前作あったよな
同じ邦PのSSの - 9二次元好きの匿名さん25/08/30(土) 18:48:09
ちなみに今回の曲のモチーフは?
- 10125/08/30(土) 18:51:15
- 11二次元好きの匿名さん25/08/30(土) 18:52:11
叙述トリックのような名作