すみません、ここに来れば

  • 1二次元好きの匿名さん25/08/30(土) 20:54:48

    ハロウィンの夜、街中にごった返す仮装したカップルに紛れてイチャイチャするスティルインラブと異形トレーナー♀のお話が聞けると聞いたのですが…

  • 2二次元好きの匿名さん25/08/30(土) 20:55:55

    あら、貴方の愛は貴方の手によってしか、描かれることはなくてよ?

  • 3二次元好きの匿名さん25/08/30(土) 21:17:24

    描いて♡あと異形のレベルも教えて♡

  • 4二次元好きの匿名さん25/08/30(土) 21:32:44

    絵はそんな書けないし文も下手っぴだから少しづつ書いていきます…

  • 5125/08/30(土) 21:35:06

    「痛っ……!」
    今日は口内に感じる鋭い痛みで目が覚めた。
    寝ぼけ眼で手を当てた頬は、どこかしこさえた感覚があった。どうやら、生えてしまった牙が内頬を突き刺していたらしい。
    「また、人間離れしてきてる…」
    もう、普通の人間の顔ではない。鏡を見つめたその瞬間、目に映る自分の姿に気づく。
    異形とも言うべき変化が、少しずつ、しかし確実に進行していた。

    スティルインラブを担当し続けるうちに、心と体がどんどん変わっていった。最初は気のせいだと思っていた。だが、目が赤く光り、歯が伸び、内から湧き上がる力が自分を侵食していく。
    それでも、トレーナーとしての使命感に引き寄せられるように、変化を受け入れていった。
    「私は、もう戻れないの?」
    その思いが胸を締め付ける。
    鏡の中の自分を見つめる目が、次第に深い闇を孕んでいった。

    夜明け前の寮は、まだ眠りの気配を纏っていた。
    廊下の奥で、コツ、コツと規則正しい足音が近づいてくる。
    「トレーナーさん、起きてますか?」
    扉越しに響く柔らかな声に、胸が締めつけられる。スティルインラブだ。今日も練習に誘いに来てくれたのだろう。
    口内を切り裂いた牙の痛みはまだ引かず、胸の奥からは、異様な鼓動が響き続けている。
    「……行かなきゃ」
    かすれた声が漏れる。
    本当は、この姿をスティルインラブに見せるわけにはいかなかった。だが、あの真っ直ぐな瞳を思うと、断ることもできなかった。

    意を決して扉を開くと、スティルインラブがぱっと笑顔を見せる。
    「おはようございます、トレーナーさん…具合はどうですか?」
    その笑顔に胸が痛む。
    日差しが苦手な私の為に態々夜明けから迎えに来てくれている。そんな優しい彼女の為に、ここまで来た。
    だが――その代償として、もう人間ではなくなりつつある。
    「……うん、行こう」
    私は無理に笑みを作り、スティルインラブの隣に並んだ。
    けれど街頭が作り出した影は、すでに人の形を逸脱し始めていた。

  • 6125/08/30(土) 21:48:42

    まだ朝霧の残る走路に、スティルインラブの軽やかな足音が響いていた。
    規則正しいリズムで刻まれるその音は、静かな空気を切り裂き、白い吐息とともに遠くへ消えていく。
    私は走路脇に立ってその姿を見守っていた。
    赤みを帯びた瞳が霧の中でかすかに光を放っている。
    もはや人の形を逸脱し始めた自分の姿を、誰にも隠そうともしなくなっていた。

    「……」

    黙って見つめる視線に気づいたのだろう。
    スティルは一度ペースを落とし、こちらに笑みを向けた。
    「トレーナーさん、無理はしないでくださいね?貴女が倒れてしまうと、私…どうにかなってしまいそうです…」

    その声は、まるで全てを理解しているようにやさしかった。
    私は胸が締めつけられるのを感じながらも、かすかに笑みを返す。

    「……大丈夫。私は見てるから。思いきり走って」

    そう言う声は、もう自分のものとは思えなかった。
    低く濁り、どこか人ならざる響きを帯びている。
    だがスティルは、その変化を恐れる素振りもなく、再び走り出した。

    朝日に照らされた横顔は真っ直ぐで、痛いほど眩しい。
    その姿を目にするたび、胸の奥で軋む骨の音を必死に押し殺す。

    ――気づいている。
    彼女はすでに、私が人ならざるものへ近づくのを気づいている。
    それでも、受け止めようとしてくれている。
    私は霧の中で静かに立ち尽くし、ただひたすらスティルの走りを見守り続けた。

  • 7125/08/30(土) 21:54:12

    霧が晴れ、朝日が射し込む走路に、スティルインラブの足音が止まった。
    最後の直線を駆け抜けた彼女は、大きく息を吐き、額の汗を拭う。
    「……ふぅ」
    そのまま走路脇に立つトレーナーのもとへ歩み寄る。
    赤く濁った瞳、口内に忍ばせた牙。
    彼女はとうに気づいていた。気づきながら、ただ見守るその姿が痛々しくてならなかった。

    「トレーナーさん」
    呼びかけに、私はわずかに視線を逸らした。
    いつもなら練習の出来を褒めるはずのその口が、ためらいに震えている。
    スティルインラブは一歩、踏み出した。
    その距離は、決して選手と指導者のものではなかった。

    「……私は、怖くありません」

    トレーナーの赤い目を真正面から見つめる。
    「変わっていくトレーナーさんも、異形になってしまっても……私は隣にいてほしいんです」

    その言葉に、胸の奥で何かが軋んだ。
    牙の疼きも、骨を締め上げる痛みも、その瞬間だけは霞んでいく。
    「スティル……」
    掠れた声が漏れる。
    彼女の笑顔は、眩しすぎて直視できなかった。
    それでも、伸ばされたその手を拒むことはできなかった。

    霧の残る朝の空気の中、異形と少女の影が重なって揺れていた。

  • 8125/08/30(土) 21:59:50

    午前の授業が始まると、スティルインラブは教室へ向かっていった。
    その背中を見送り、私は静かな廊下を抜けてトレーナー室へ戻る。

    ドアを閉めると、世界は急に静まり返った。
    机の上に広げられたカレンダーとスケジュール表。そこには、次のレースに向けた予定がびっしりと書き込まれている。

    「……まだ足りない」

    赤い瞳で書類を睨みつける。
    練習メニュー、調整のタイミング、対戦相手の分析。どれも不足なく揃っているはずなのに、心の奥でざわめく声が囁いていた。

    ――もっと与えろ。
    ――彼女を勝たせろ。
    ――お前が形を失ってでも。

    頭を押さえる。骨が軋む音が耳の奥で反響する。
    机に映った影は、もう人の形をしてはいなかった。

    「……っ、私はまだ……トレーナーだ」

    自分に言い聞かせるように、震える手で新しいプランを書き込む。
    その文字は乱れ、赤黒い染みのようにノートを汚していった。

    それでも――私はペンを止めない。
    スティルインラブの未来を描くことだけが、自分を人間でいさせてくれる最後の拠り所だった。

  • 9125/08/30(土) 22:05:35

    昼の鐘が鳴ると、校舎全体がざわつき始めた。
    私は空腹を感じていなかったが、足は自然とカフェテリアへ向かっていた。
    ……食べなくてもいい。けれど、あの子の隣にはいたかった。

    扉を開けると、熱気とざわめきに包まれる。
    トレーを手にした生徒たちが楽しげに談笑し、スプーンやフォークの音が響き合っていた。
    そんな中、赤い視界の隅に、すぐ見つけてしまう。

    スティルインラブ。
    友人たちに笑顔を向けながらも、時折、こちらを探すように視線を漂わせていた。
    ……気づかれている。きっと、私が彼女を探していることも。

    「トレーナーさん!」

    小さく手を振って、駆け寄ってくる。
    心臓が軋むように鳴り、牙が頬をかすめる痛みを思い出す。
    それでも私は微笑んで席に着いた。

    「ご飯、ちゃんと食べないとだめですよ」
    「……食欲はないの。でも、一緒にいる時間は欲しい」

    気づけば本音が漏れていた。
    彼女は驚いたように目を丸くしたあと、少し照れたように笑った。

    「じゃあ、私がたくさん食べますねりそのぶん元気、わけてあげますから」

    そう言って彼女が頬張る姿を見ていると、不思議と胸の痛みが和らいでいく。
    ――私はもう人間じゃなくなりつつある。
    それでも、彼女の隣にいられる限り、まだ“トレーナー”でいられる気がした。

  • 10125/08/30(土) 22:12:18

    スティルインラブは、目の前のスイーツを嬉しそうに頬張っている。
    小さな口でフォークを運ぶたびに、楽しそうな笑い声がこぼれる。
    その無邪気な姿に、胸がぎゅっと締めつけられる。

    ――もし、私が……あの力に支配されてしまったら。
    ――もし、制御できなくなったら。

    考えるだけで、背筋がぞくりと冷たくなる。
    この牙も、この異形の体も、すべては私の内側から芽生えたもの。
    抑えきれなくなれば、スティルインラブにさえ牙を向けてしまうかもしれない。

    ……大丈夫、絶対に守らなきゃ

    口には出さず、心の中で何度も唱える。
    スティルの頬の紅、笑い声、仕草のひとつひとつを、傷つけるわけにはいかない。
    けれど、恐怖と執着が入り混じったこの感覚は、理性だけでは抑えられない。
    私はただ、彼女の動きを目で追いながら、手のひらを握りしめた。

    ――どんなに変わっても、暴走しても、
    ――この手で、絶対に傷つけたりしない。

    カフェテリアの喧騒の中、赤い瞳だけが静かに燃えていた。

  • 11125/08/30(土) 22:23:28

    (あれ、これハロウィンまで行けるか?)

  • 12二次元好きの匿名さん25/08/30(土) 22:50:10

    (できればお願いしたいです)

  • 13125/08/30(土) 23:48:38

    午後の陽射しがトレーナー室の窓から差し込む
    私は資料とモニターに向かい、北九州記念に向けたプランを再確認していた
    当初は予定になかったが、何か、何かを変えられるような気がした

    ――チガウ――

    「今回はいつもと何もかも違う短い距離の中、最後の直線での仕掛け方をどうするかが鍵になる…」

    去年のエリザベス女王杯、今年の金鯱賞、そして宝塚記念、トリプルティアラウマ娘と言うには精細を欠いた走りだった…
    スティルの"内なる紅"も最近見かけていない
    そんな状況を変えられるかもしれない…

    ――チガウ――

    声は冷静に出ているつもりでも、胸の奥で微かに震えが残る
    異形化の影は消えない
    牙や爪の疼き、骨の軋みが、緊張のたびに意識の端を掠める
    それでも、目の前のスティルのために、私は計算を重ね、戦略を練るしかなかった

  • 14125/08/30(土) 23:50:49

    違う!何がスティルの為だ!
    『私が走れば、貴女に悦んで頂ける』
    そんな彼女を利用した自己満足ではないか!

    スティルインラブは資料の上に前のめりになり、真剣な瞳で私を見つめている。
    その視線は、ただの選手のそれではない。私の変化も、異形化も、すべて知った上で信頼してくれているように思えた…

    そんな少女の心も喰らおうとする怪物め!身だけではなく心まで堕ちたか!

    「……今回は序盤で無理せず中盤に余力を残す作戦にしよう」

    私は指を滑らせ、グラフとメモを指し示す。
    「最後の直線での加速に備えて、風向きや馬場状態も細かくチェックしておく…」

    スティルはうなずき、メモを取りながら静かに言った
    「分かりました。トレーナーさんのプランなら、私も全力で走れます」

    その言葉に、胸の奥で痛みが走る。
    ――どんなに変わっても、彼女のために――

    訂正しろ!自分の為!嘘つき!人の皮を被った化け物!死んでしまえ!彼女はお前の玩具じゃない!彼女を傷つけるな!

    私は握りしめた手を机の下で静かに震わせながら、北九州記念に向けたプランを練り続けた
    手から血が滲む、机の下に血が滴る、赤い人間の血…

  • 15125/08/31(日) 00:41:58

    「勝ったのはクルーズインザサン!1分44秒1のレコードで見事勝ち切りました!2着にメイクンアべニュー!3着は…」

    「クルーズインザサン、あの子、去年阪神大賞典も勝ってたよな!長距離と短距離を制すなんて、すげぇな!」
    「いやー、2着の子惜しかったけど、小倉レース場だったらいいレースできそうだなぁ」
    スティルは観客の話題にすらならなかった

    スタンドの歓声が遠くで響く中、スティルインラブはゆっくりと控え室に戻ってきた
    「……っ」
    胸がぎゅっと締めつけられ、手のひらの感覚が微かに痺れる
    異形の体が、悔しさと痛みをさらに鋭く感じさせる
    それでも、私は顔を上げ、スティルに歩み寄った
    スティルは肩を落とし、目を伏せている
    息は荒く、汗で濡れた髪が頬に貼りついていた
    この姿を見て、胸の奥に不意に熱いものがこみ上げる

    「スティル……」
    声をかけると、彼女は小さく顔を上げた
    「……ごめんなさい、トレーナーさん。私、期待に応えられなくて……」
    思わず両手で彼女の肩に触れる
    冷たくなった手のひらから、わずかな温もりが伝わる
    「謝ることなんてない。勝ち負けだけが全てじゃない。今日、君は全力で走ったんだ」
    スティルの瞳が赤く光り、微かに潤むのがわかる
    「……でも、負けたのは……悔しいです」
    私は軽く抱き寄せ、耳元で静かに囁いた
    「悔しいのは当然だよ。でも、だからこそ次がある。君の努力は、無駄じゃない。私はずっと、君の隣で支えるから」
    小さな肩がわずかに震える
    その体温を感じながら、異形の自分が抱える恐怖も、少しだけ和らぐ気がした
    ――どんなに変わっても、私は彼女を守りたい

    カフェテリアで見た笑顔も、練習で見せた真剣な顔も、すべて胸に刻みつけながら、私はそっとスティルを慰め続けた

  • 16二次元好きの匿名さん25/08/31(日) 07:11:18

    夜のトレーナー室。
    静まり返った空気の中で、私は背中を丸めて机に突っ伏していた。
    腰のあたりから、ずっと鈍い違和感が広がっている。

    「……っ、あぁ……」

    次の瞬間、皮膚を突き破るような鋭い痛みが走り、背筋が跳ね上がった。
    恐る恐る振り返ると――そこには、黒く細長い“尻尾”が生えていた。
    先端は鋭い三角形の刃のように尖り、まるで悪魔のそれだった。
    「うそ……こんな……」
    尻尾は意志を持つかのように揺れ、机の脚に巻きつく。
    私は慌てて振りほどこうとするが、力加減も掴めない。
    これでは、もう人間とは言えない。

    ――この姿を、スティルに見せられるはずがない。

    ドアの外から、かすかな足音が聞こえた。
    「……トレーナーさん?」
    スティルインラブの声。
    咄嗟に椅子の背で尻尾を隠す。だが、勝手に動こうとする影は抑えられない。
    「入っていいですか?」
    「だ、だめっ……!」
    必死に声を張った。だが、震えは隠しきれなかった。
    しんと静まり返った廊下の向こう、彼女はきっと気づいている。
    私が何を隠そうとしているのかも。

    ――どうして、止められないんだろう。
    ――このままでは、きっと彼女を……。

    腰に揺れる尻尾の重みとともに、私は深い絶望に沈んでいった。

  • 17二次元好きの匿名さん25/08/31(日) 07:16:54

    ノックの音が響く。
    「……入ってはだめ!」
    声を振り絞ったが、震えは隠せなかった。

    短い沈黙のあと、ドアノブが静かに回る。
    「トレーナーさん……もう隠さないでください」
    軋む音とともに扉が開かれ、スティルインラブの姿が現れる。
    その視線は、真っ直ぐに私へ向けられていた。
    「……っ」
    必死に腰を椅子の背で覆おうとした。だが無駄だった。
    黒い尻尾は意思を持つかのように動き、机の脚を巻き、床を叩いていた。
    まるで私の弱さを暴くように。

    スティルの目が、その尻尾を捉える。
    驚きに瞳が揺れたが、恐怖の色はなかった。
    「……やっぱり」
    彼女は小さく呟き、そっと歩み寄ってくる。
    「いやっ……見るな……!」
    声が震えた。
    この姿を見られるのが、何よりも恐ろしかった。
    “人間”をやめてしまった自分を、彼女に知られることが。

    だがスティルは首を振り、迷いなく言った。
    「トレーナーさんがどんな姿になっても……私は隣にいます」
    その言葉に胸が軋む。
    尻尾が勝手に床を叩き、感情を露わにする。
    私の身体はもう制御できない。それでも――。
    「スティル……」
    ただその名前を呼ぶことしかできなかった。
    彼女の視線は、異形を拒絶せず、ただ受け止めていた。

  • 18二次元好きの匿名さん25/08/31(日) 07:32:10

    私は震えるトレーナーさんを抱きしめた。
    尻尾が暴れる彼女の体は、悲しいほどに弱々しい。
    「……大丈夫です。私はここにいます」
    そう言ったとき、彼女は掠れる声で呟いた。
    「……私にはもう、スティルしかいない」

    その言葉が胸に突き刺さる。

    (……そんなこと言わせちゃいけない。
    私は彼女に頼られる存在でありたいけど、それは追い詰めることじゃない。
    “私しかいない”なんて、彼女を縛ってしまう言葉……。
    私は支えたいだけなのに――)

    (ふふ……いいじゃない。
    “私しかいない”――その響きは甘美だわ。
    もう他の誰にも目を向けさせない。
    彼女は私だけを見ていればいい。
    壊れたっていい……だって、それなら完全に私のものになるんだから)

    胸の奥で二つの声がぶつかり合う。
    必死に彼女を支えようとする私と、仄暗い喜びを覚える私。

    「……トレーナーさん……」

    抱きしめる腕に力を込めながら、私は自分の中のもう一人から目を逸らした。
    怖かった。
    けれど同時に――その声に抗いきれない甘さもあった。

  • 19二次元好きの匿名さん25/08/31(日) 07:52:23

    校門へ向かう道。
    背筋を伸ばして歩くスティルの隣で、私は必死に違和感を誤魔化していた。
    腰のあたりから覗く、黒い尾――。
    上着を腰に巻きつけ、鞄を不自然に抱えて歩けば、なんとか見えはしない……はず。
    ……お願いだから、動かないで
    心の中で祈っても、尾は気まぐれに小さく揺れた。
    そのたびに、周囲の目が突き刺さる気がして、呼吸が浅くなる。

    「……トレーナーさん、大丈夫ですか?」
    隣を歩くスティルが、静かに問いかけてきた。
    彼女の声には心配が滲んでいた。
    「平気。……なんとかなる」
    そう答える自分の声は、震えを隠せていなかった。

    (……どうして、こんな姿になってまで彼女と並んで歩こうとしてるんだろう)
    ふと、そう自嘲しかけたとき――隣のスティルが、ほんのわずかに私の腕へと触れてきた。
    それは慰めか、それとも“離さない”という意思表示か。
    スティルは小さく笑った。
    その笑みは無理に取り繕ったものではなく、私を安心させようとする優しさだった。
    けれど、同時に――“あなたがどう変わっても受け入れる”という決意を含んでいたのかもしれない。

  • 20125/08/31(日) 13:46:16

    保守

  • 21二次元好きの匿名さん25/08/31(日) 13:55:32

    >>13

    エリ女から負け続きってことは育成とは別のルートに入ってるな

  • 22二次元好きの匿名さん25/08/31(日) 20:16:19

    だいぶ変化が進んできてる?

  • 23125/09/01(月) 00:46:40

    しごおわ…続き書きますね

    スティルが授業を受けている間、私は静まり返った図書室に足を踏み入れる。扉を開けると、冷たい空気が肌にまとわりついた。
    スティルが教室で授業を受けているこの時間、私はここで“答え”を探さなければならない。

    (……悪魔、吸血鬼、堕ちた人間……。
    笑い話で済むならどれほど良かったか)

    分厚い図鑑、民俗学の書物、オカルト系の資料本。
    手当たり次第に引き出して机へ積み上げ、震える指でページをめくる。
    「……尖った牙、赤い瞳、夜になると疼く本能……」
    文字を追うごとに、背筋が凍る。
    そこに書かれているのは異形の存在の特徴――だが、今の私の症状と奇妙なほど重なっていた。

    “悪魔は尻尾や翼を持ち、人を惑わし依存させる”
    “吸血鬼は赤い瞳を持ち、血を糧にする”

    ページの活字が、まるで私を嘲笑うように目の前で踊って見える。
    息が乱れ、思わず本を閉じかけたそのとき――。

    (……もし私が本当にこれに近づいているのなら。
    スティルを、傷つけてしまうのでは……?)

    胸の奥に浮かんだ考えを必死で振り払う。
    だが、消えない。むしろ濃くなる。
    資料を閉じるたびに、あの“黒い尾”が衣服の下で蠢く感覚が戻ってくる。
    「……まだ、私は……人間だ」
    呟いた声は、図書室の静寂に吸い込まれていった。
    けれどその確信は、心の奥底ではとっくに崩れかけている。

  • 24125/09/01(月) 00:52:31

    どれだけの時間が経ったのか、わからなかった。
    本を開いたまま机に突っ伏していた私は、まどろみの底で尻尾が重たく垂れる感覚を抱きしめていた。
    夢か現かも曖昧なまま、何かが机の上で「とん」と小さく跳ねる音がして――。
    「なにやってんの、こんなとこで」
    子どものような、けれど鋭さを含んだ声に目を覚ます。
    瞬きを繰り返すと、目の前には腕を組んで私を覗き込むスイープトウショウがいた。

    「ス、スイープ……?貴女こそ授業は……」
    「抜けてきたのよ。あんな退屈な授業、天才魔法少女スイーピー様には必要ないの」
    彼女はふふんと鼻を鳴らし、私の前に積まれた本の山をちらりと見やった。

    “悪魔学”“吸血鬼伝承”“異形の民俗誌”――。
    露骨すぎるタイトルの羅列に、私は息を詰める。
    スイープは机に手をつき、私の顔にぐっと身を寄せた。
    「……ふーん。アンタがこんなの調べてるなんてね」
    小さな声に、からかい半分の響きはあった。
    けれどその奥には――ほんのわずかな、本気の好奇心と警戒が混じっていた。

    「な、なんでもない……ちょっと、資料探しをしてただけよ」
    「ふーん?」

    スイープはじっと私を見つめる。
    その紫の瞳が、どこか見透かすように揺れていた。
    (……気づかれた? いや、まさか……)

    腰の奥でうごめく尻尾を必死に抑え込みながら、私は笑顔を作った。
    だがスイープは、くすりと笑って言った。
    「……あんまり無理しないほうがいいわよ。隠すのって、きっと疲れるでしょ?」

    その一言に、心臓が跳ねた。

  • 25125/09/01(月) 00:59:51

    スイープは机に頬杖をついたまま、私の反応を楽しむように目を細めていた。
    その小悪魔めいた表情に、背筋が冷える。
    けれど次に出てきた言葉は、意外にも柔らかかった。
    「……でも、いいわ。アタシは優しいから、今のところは黙っててあげる」

    「……え?」
    拍子抜けするほどあっさりした口調に、私は思わず声を漏らした。

    「だって、あんた……すごーく必死そうなんだもん。
    何を隠してるのかは知らないけど、バレたくないなら無理に聞き出すのもつまんないし」

    そう言ってスイープは肩をすくめる。
    彼女なりの理屈――気まぐれに見えて、その裏に確かな思いやりが潜んでいるのを、私は感じてしまった。
    「……ありがとう、スイープ」
    絞り出すように告げると、彼女は一瞬だけ視線を逸らし、机の上の本をトントンと指で叩いた。

    「でもね、覚えといてよ。
    魔女様は全部見抜いちゃうんだから。……あんたがどこまでいっても、ね」
    そう呟く声はからかうようでいて、不思議と温かかった。
    私は胸の奥に重く溜まっていた緊張を、ほんの少しだけ下ろすことができた。

    スイープは立ち上がり、ひらひらと手を振る。
    「じゃ、そろそろ戻るわ。見つかったら怒られるし」
    小さな足音が遠ざかり、再び図書室に静寂が戻る。
    私は積み上げられた本の山を見つめながら、思わず深く息を吐いた。
    (……助けられたのかもしれない。子供みたいなあの子に)

    けれど同時に、心のどこかで囁く声があった。
    ――彼女は本当にただ黙っていてくれるのか?
    それとも、ただ“面白くなる瞬間”を待っているだけなのか。

  • 26125/09/01(月) 01:12:56

    午後のカフェテリア。
    昼食の混雑も過ぎ、まばらな人影の中に、一人のウマ娘が入ってきた。
    ――スティルインラブ。
    普段から控えめで、人の輪に溶け込むようにして存在を消してしまう彼女に、気づく者はほとんどいなかった。

    彼女は小さく首を巡らせながら、誰かを探しているようだった。
    視線は真っ直ぐで、それが「トレーナー」であることを察するのは容易い。

    「誰か探してるの?スティル」

    そんな彼女の足が、不意に止まった。
    窓際の席に腰掛けて、ストローをくわえている小柄な姿――スイープトウショウ。
    目が合った瞬間、スイープの方が先に笑みを浮かべた。
    まさか自分が気づかれると思っていなかったのだろう。
    彼女の影の薄さを知る者にとっては、スイープがその存在を真っ先に拾い上げたこと自体、意外に映った。
    「……私は、トレーナーさんを探してて……」
    小さな声でそう答えるスティル。
    その様子は、まるで場違いな場所に迷い込んだ子供のようだった。
    スイープは肘を机につき、にやりと口元を歪める。
    「ふぅん。へぇ……そうなんだ」

    何気ないやり取りのはずなのに、二人の間には妙な空気が流れた。
    カフェテリアに居合わせた数人の生徒は、その場面を目にしながらも、声をかけることはできなかった。
    ――偶然が作った静かな交錯。

    スティルは再び視線を巡らせ、すぐに小さく頭を下げて通り過ぎていった。
    スイープはその背中を目で追いながら、楽しげに笑っていた。

    「アンタのトレーナー、何やら企んでそうね」

  • 27125/09/01(月) 08:44:34

    一瞬、スティルの心臓が跳ねる。
    ――まさか、本当に気づかれてしまったのでは。
    喉が乾き、声が出ない。
    けれど、スイープは楽しげに肩をすくめる。
    「図書室で見ちゃったんだよねぇ。怪物だの吸血鬼だの……なんか不気味な本を熱心に読んでたわよ。すごい真剣な顔でさ」

    スティルの胸が固く縮む。
    けれどその次の言葉が、すべてを軽々と覆い隠した。

    「ま、どうせハロウィンの仮装のためでしょ。 アンタのトレーナー、凝り性っぽいし。どんな格好になるか今から楽しみだわ」

    軽い声色、笑うスイープ。
    その無邪気な声に、スティルは小さく息を吐いた。
    まるで何でもないことのように放たれた言葉に、スティルは一瞬息を呑んだ。
    「……仮装……」と小さく反芻する。

    ――気づかれてはいなかった。
    胸を撫で下ろすような安堵が広がる。
    そして、ほんの一瞬、別の想像が心をよぎった。
    (もし本当に仮装のためなら……トレーナーさんと、ハロウィンデートとか……お菓子を一緒に食べたり……)
    甘い予感に、頬が熱くなる。けれどすぐにその想像を振り払い、首を振った。
    (だめ、不謹慎よ……こんな時に……)

    それでも胸の奥に灯った小さな明かりは消えず、足取りはほんのわずか軽くなっていた。

  • 28125/09/01(月) 17:43:16

    保守

  • 29125/09/02(火) 00:03:21

    保守

  • 30125/09/02(火) 04:24:00

    済まない、しばらく保守で続けます

  • 31二次元好きの匿名さん25/09/02(火) 10:01:16

    待ってます

  • 32二次元好きの匿名さん25/09/02(火) 13:24:24

    ジムの空気は、金属と汗の匂いに満ちていた。
    スティルがランニングマシンで淡々とペースを刻む横で、私は重量プレートを抱え込んでいた。

    両腕に四枚、さらに片手にダンベルを二つ。
    鉄と鉄がぶつかり合う音が響くのに、不思議なほど軽い。
    まるで中身を空にした空洞の器具を運んでいるみたいだった。

    「……! トレーナーさん、それ……重いですよね? 私、手伝います」
    走りを止めたスティルが、驚いたように声をかけてきた。

    私は慌てて笑って首を振る。
    「大丈夫、大丈夫。ほら、見ての通り――意外と力はあるんだから」

    スティルの視線が、一瞬だけ私の腕に注がれる。
    そこに浮かぶ筋肉の張りは、以前よりも僅かに硬く、確かに力を蓄えているように見えた。

    彼女は小さく唇を噛み、それ以上は何も言わなかった。
    私も、それ以上の説明は避けた。
    ――けれど内心では、わかっている。
    この力は訓練の成果なんかじゃない。
    確実に“変わり始めた自分”の証だということを。

  • 33二次元好きの匿名さん25/09/02(火) 19:12:58

    ランニングマシンの数字が刻むリズムに合わせて、スティルの耳が小さく揺れる。
    目線は正面を向いたまま――けれど、意識は少し違う場所にあった。

    「ま、どうせハロウィンの仮装のためでしょ。 アンタのトレーナー、凝り性っぽいし。どんな格好になるか今から楽しみだわ」

    笑いながらそう言ったスイープの顔が、頭にちらつく。
    本当の理由はきっと違う。けれど、その勘違いを聞いた瞬間、胸の奥で何かが弾けるように温かくなった。

    (……もし、本当にそうだったら。私……トレーナーさんと……)

    想像してしまう。
    街の飾り付けを眺めながら歩く自分とトレーナー。
    屋台のスイーツを分け合って食べる自分。
    ほんの少し勇気を出して「一緒に行きませんか」と言う自分。

    胸が高鳴り、頬がほんのり熱を帯びる。
    だが同時に、冷たい感覚も押し寄せる。

    (だめ……不謹慎だよ。トレーナーさんは……きっと苦しんでるのに)

    隣では、プレートを軽々と運ぶトレーナーが笑顔を浮かべている。
    その背に宿る異変を、スティルは知っている。
    だからこそ、軽々しい言葉はかけられなかった。

    「……っ」
    思わず小さく息を吐き、顔を伏せる。
    ランニングマシンの速度を少しだけ上げ、誤魔化すように足を前へ運んだ。

    (……でも、もし……もしトレーナーさんが笑ってくれるなら……)
    その願いは、心の奥底でまだ消えずに、淡い灯のように揺れていた。

  • 34125/09/03(水) 00:00:27

    保守

  • 35125/09/03(水) 04:30:12

    保守

  • 36二次元好きの匿名さん25/09/03(水) 08:30:13

    お互い思いやりあって言えなくなってるのが切ない

  • 37二次元好きの匿名さん25/09/03(水) 15:25:16

    ジムの空気はいつも通りに賑やかなはずなのに、今日はやけに静かに感じられた。
    スティルはランニングマシンの上で一定のリズムを刻んでいる――はずなのに、その足取りに迷いがあるのがわかる。
    タイムも伸びない。ここ最近、成績も冴えないままだ。
    (……どうも、上の空だな)
    彼女の視線がちらちらとこちらをかすめては、すぐに逸れる。
    私の身体を心配してくれているのだろう。
    けれど、その優しさが彼女自身の集中を奪っているように思えてならなかった。
    本来なら叱咤して集中を促すべきなのかもしれない。
    でも、それでは逆効果だと直感していた。
    (少し、空気を変えないと……このままじゃ沈む一方だ)

    「……スティル」
    呼びかけると、彼女は小さく肩を揺らして振り返る。
    その瞳の奥には、不安が色濃く残っていた。

    「次の休みに、少し出かけない? 練習じゃなくて、気分転換に。美味しいものでも食べに行こう」
    一瞬の沈黙。
    スティルは少し驚いたように目を見開いたが、すぐに表情を整え、小さく頷いた。

    「……はい。考えてみます」

    その返事を聞いて、私は胸の奥の重さがわずかに軽くなるのを感じた。
    今は、それで十分だった。

  • 38二次元好きの匿名さん25/09/03(水) 19:03:27

    上向いてくれるといいが

  • 39125/09/04(木) 01:18:14

    保守

  • 40二次元好きの匿名さん25/09/04(木) 08:36:25

    続き期待

  • 41125/09/04(木) 09:44:25

    夜、トレーナー寮の自室。
    スマホを片手に検索画面を眺めながら、候補を探していた。
    「カフェ……は定番すぎるし。映画館は人混みが苦手そうだし……」
    文字を追いながら、少し眉を寄せる。
    赤く染まった視界に、赤文字の広告やハイライト表示は滲んで見づらい。
    この異変にももう慣れつつあったが、やはり赤が絡む場面では不便を感じざるを得なかった。

    (……なんだか、赤シートを思い出すな)

    受験勉強に追われていたあの頃の記憶が、不意に浮かぶ。
    机にかじりつき、赤シートを片手にひたすら暗記と問題集を繰り返す毎日。
    友達と遊ぶことも、恋人と過ごすこともなく――いや、そもそも恋人ができるような余裕すらなかった。
    (あの頃はただ必死で……正直、苦しかったな)
    けれど、そんな孤独な日々を越えて掴んだのが「トレーナー」という道だった。
    そして、その道の先に――スティルがいた。

    (……やっぱり、出会えたのは奇跡だな)
    青春らしい時間を犠牲にしてきた過去すら、スティルと出会えた事実によって救われている。
    彼女と過ごす日々があるからこそ、今の自分は報われているのだと、心から思えた。

    「……Still…in…Love」
    無意識に、その名を口にしていた。
    恋人なんて出来たことはなかった。
    けれど――彼女を大事に思い続けられるなら、それで十分だと今は思える。
    寧ろ、この想いこそが恋、愛なのかもしれない。
    特別な言葉や関係でなくても、この気持ちは偽りじゃない。

  • 42二次元好きの匿名さん25/09/04(木) 09:45:57

    このレスは削除されています

  • 43125/09/04(木) 09:48:27

    ふっと息を吐き、スマホをテーブルに置く。
    気分を変えようとテレビをつけると、画面にカボチャを模したケーキやパフェが映し出された。

    『――今年のハロウィンに行きたい、人気スイーツ店ランキング!』

    明るい音楽と楽しげな映像。
    赤色のデコレーションは視界に霞んで見えづらいが、それでも街の賑わいと甘やかな空気は伝わってきた。

    「ああ……もうそんな季節なのか」

    ぽつりと呟く。
    気づけば、いつの間にかハロウィンがすぐそこまで来ていた。
    部屋にこもって練習プランやスケジュールばかり考えていたせいで、季節の移ろいをすっかり置き去りにしていたのだと今さら思い知る。

    スマホを手に取り、「ハロウィン スイーツ店」と検索を打ち込みながら、胸の奥がほんのり温かくなるのを感じた。

    (……もしスティルと一緒に行けたなら、きっと最高の思い出になる)

    赤に滲む視界の不便さよりも、その想像の方がずっと鮮やかだった。

  • 44二次元好きの匿名さん25/09/04(木) 19:22:46

    実質視力がほぼないんだろうと考えるとつらい
    その分聴覚や嗅覚が研ぎ澄まされていそうだが

  • 45125/09/04(木) 21:00:45

    スマホを赤フィルター付けてみたら赤、ピンク、オレンジが見づらい…
    ゴドー検事もこんな感じだったんかな…

  • 46125/09/05(金) 04:53:19

    保守

  • 47二次元好きの匿名さん25/09/05(金) 09:52:57

    健気だ…

  • 48125/09/05(金) 18:13:22

    保守

  • 49二次元好きの匿名さん25/09/05(金) 18:14:10

    保守

  • 50二次元好きの匿名さん25/09/05(金) 19:15:24

    ハロウィンが楽しみになってくるぜ…

  • 51125/09/05(金) 23:43:50

    翌日。
    校舎の裏手に広がるトラックでは、朝の光を浴びながらスティルがアップを始めていた。
    肩を小さく回し、控えめに身体をほぐしている姿は、いつも通りながらもどこか張りつめて見える。
    「おはよう、スティル」
    「……おはようございます、トレーナーさん」
    短いやり取りを交わし、私はストップウォッチとメニュー表を手に立ち位置を取った。
    けれど、心のどこかでは別のことを繰り返し考えてしまっていた。
    (……いつ誘えばいいだろうか)
    練習の合間にさりげなく?
    それとも、クールダウンの時に自然に切り出す?
    頭の中で何度もシミュレーションするものの、どの言葉も不格好に思えて喉の奥でつかえてしまう。

    スティルがスタート地点に立ち、走り出す。
    トラックを蹴る軽やかな足音と、一定のリズムで響く呼吸。
    その姿を見つめながら、私は視界の赤みに滲むストップウォッチをじっと凝視した。
    数字は見えづらくとも、彼女のペースや息遣いで十分に伝わってくる。

    (――彼女の気持ちが少し軽くなった瞬間が、誘うチャンスだ)
    そう思うと、自然と肩の力が抜けていった。
    練習に集中するスティルの姿を見ているだけで、自分の存在に意味があると感じられる。

    「……よし、今日はここまでにしよう」
    「はい……!」
    スティルは額の汗を手の甲で拭い、私の方を振り返った。
    その頬にはうっすらと笑みが浮かんでいる。
    胸の奥に溜めていた言葉が、また熱を持って浮かび上がってくる。

    ――今なら言える。
    喉まで出かかった声を一度飲み込み、私は呼吸を整えた。
    そして、彼女の瞳を真っ直ぐに見つめながら、口を開こうとした。

  • 52二次元好きの匿名さん25/09/06(土) 05:18:45

    胸の奥に溜めていた言葉が、また熱を持って浮かび上がってくる。
    ――今なら言える。

    喉まで出かかった声を一度飲み込み、私はスティルに視線を向けた。
    足元に汗を拭くタオルを置き、軽く息を整えている彼女を見つめる。

    「スティル……ハロウィンの日、よかったら一緒に街のスイーツ巡り、してみない?」

    一瞬、彼女の目が大きく開かれる。
    赤に滲む視界越しでも、その驚きと喜びははっきり伝わってくる。
    そして、控えめながらも柔らかな笑みが返ってきた。

    「……はい、トレーナーさん」

    胸がじんわりと温かくなる。
    赤く滲む視界の不便さも、緊張でこわばった喉の奥も、すべてが軽くなったようだった。

    「じゃあ、ハロウィンまでに、色々と計画しておこうね」

    私はスマホを手に取り、行きたいお店やスイーツの情報を思い浮かべながら、スティルと並んでトラックを後にした。
    秋の柔らかな光に包まれ、胸の中には小さな期待と、ほんのりした幸福感が広がっていった。

  • 53二次元好きの匿名さん25/09/06(土) 09:42:42

    この頃のトレーナー、視力の影響で生傷が絶えなそう
    せめてハロウィンくらいは楽しんでくれ…!

  • 54125/09/06(土) 19:05:34

    保守

  • 55二次元好きの匿名さん25/09/07(日) 03:47:56

    保守その2

  • 56125/09/07(日) 04:16:35

    スティルが授業に向かったあと、静まり返ったトレーナー室に一人残る。
    デスクの上には、次週の練習メニューを記したタブレットと資料。
    けれど、視線はそこに定まらず、つい別のことを考えてしまっていた。

    (……スイーツ巡り、って言ったけど……どこがいいかな)

    頬杖をつきながら、スマホを手に取って検索画面を開く。
    「ハロウィン スイーツ 東京」と打ち込むと、賑やかな装飾に彩られたケーキやパフェの写真がずらりと並んだ。
    画面の赤やオレンジの色合いは滲んで見えづらいけれど、それでも華やかさは十分に伝わってくる。

    (こういうの、スティル喜んでくれるかな……?)

    自然と口元が緩む。
    彼女がフォークを小さく口に運ぶ姿を想像するだけで、胸のあたりがくすぐったくなった。

    「Still…in…Love」

    小さく呟き、自分で言った言葉に思わず苦笑いする。
    これまで受験勉強ばかりで、友達と遊んだり、恋人とデートしたりなんて経験は一度もなかった。
    けれど――スティルと過ごすこの時間があれば、それでいい。
    彼女と一緒に笑い合えたなら、それだけで十分だった。

    (……やっぱり、スイーツ巡りだけじゃなくて……どこか夜の街のライトアップも見たいな)

    どんどん想像は膨らんでいく。
    気がつけばタブレットの画面は暗転し、仕事の資料はそのまま放置されたまま。
    今の私の頭の中は、すっかりスティルとのハロウィンデートでいっぱいになっていた。

  • 57二次元好きの匿名さん25/09/07(日) 10:22:25

    もう頭の中がスティルでいっぱいになってる

  • 58二次元好きの匿名さん25/09/07(日) 13:41:31

    愛してるねえ〜!

  • 59125/09/07(日) 19:45:17

    トレーナー室。
    スティルが授業を受けている間、私はひとりスマホの画面をスクロールしていた。
    『ハロウィン カップル 仮装』
    検索欄に打ち込んだ文字を見て、自分で少し苦笑いする。
    だけど次々と出てくる写真の数々に、気持ちはすぐに引き込まれてしまった。

    (魔女……赤ずきん……吸血鬼……あ、これなんか似合いそう)
    画面の中のモデルとスティルの姿を重ねてみる。
    ふわふわのドレスやクラシカルなメイド服、小悪魔風のコスチューム。
    想像するだけで頬が緩み、思わずニヤけてしまった。

    (スティルがこんなの着てくれたら……絶対、誰よりも可愛いのに)
    心の中で断言して、胸がくすぐったくなる。
    けれど次の瞬間、ふと我に返って自分に突っ込みを入れた。

    「…スティルと私じゃ、まるで『美女と野獣』だな…」
    呟いて、自嘲気味に笑う。
    私は獣の側。
    スティルみたいな可愛らしい子と並んだら、どう見ても釣り合わない。

    ――でも。
    画面に映るカップルコーデを眺めながら、ほんの少しだけ意地を張るように思った。
    「……私だって、それなりにイケてると思うんだけどな」
    鏡を見れば赤に滲んだ瞳、腕のようにに操られるようになった尻尾、歯ブラシをすぐダメにする牙を持つ姿が映る。
    確かに人並みの「普通」からは遠ざかってしまったけれど……それでも。
    内心、わずかなナルシズムを抱きながらも、その気持ちはすぐ虚しさへと沈んでいく我ながら面倒くさい女である。

    静まり返ったトレーナー室に、ため息だけが落ちた。
    机の上の資料は手つかずのまま。
    赤く染まる視界の中で、私はただスティルの笑顔を想像し続けていた。

  • 60二次元好きの匿名さん25/09/08(月) 02:43:12

    魔の姿になりながらも美しさは損なってなかったらいいなと思った

  • 61二次元好きの匿名さん25/09/08(月) 09:55:34

    だいぶ進行しちゃってるなぁ

  • 62125/09/08(月) 15:21:17

    保守

  • 63二次元好きの匿名さん25/09/09(火) 00:10:34

    保守

  • 64二次元好きの匿名さん25/09/09(火) 09:12:38

    この先が気になります

  • 65125/09/09(火) 09:47:59

    ちょっと待って…イベストの育成ミッションあと4回終わらせてきます…

  • 66125/09/09(火) 12:43:21

    ――と、その時。
    廊下から軽い足音が近づいてくる。
    反射的にスマホを伏せ、姿勢を正した。
    「……やば」
    心臓が跳ねる。
    画面にはまだ、妄想のタネの数々が並んでいたはずだ。私は慌てて机に戻り、スマホを伏せた。

    カチャリ、とドアノブが回り、扉が開く。
    スティルがそっと顔を覗かせた。
    「……トレーナーさん」
    その控えめな声に、私は息を呑む。
    バレてはいない……はず。
    けれど胸の高鳴りは収まらず、赤く滲む視界の奥で、私は努めて平静を装いながら彼女を迎えた。
    「おかえり、スティル。授業、どうだった?」

    スティルは控えめに微笑み、報告するように言葉を重ねる。
    その落ち着いた声音には、彼女の学力の高さと真面目さが自然ににじみ出ていた。

    「ところで……先ほどから、何かを調べておられたようにお見受けしましたが」
    問いかけは穏やかで、詮索するというよりは心配しているようにも聞こえる。
    私は咄嗟にスマホを伏せ、口ごもりながら答えた。

    「えっと……たいしたことじゃないの。ただ、少し調べ物をしていただけよ」
    スティルはそれ以上深く追及することなく、丁寧に首を傾げた。
    そして静かに一礼すると、柔らかな声で言葉を結ぶ。

    「承知いたしました。……また、差し支えなければお話しくださいませ。トレーナーさんのお考えを伺えるのは、わたくしにとっても学びとなりますので」
    彼女の笑顔を見て、胸の奥のざわめきが少し和らぐ。
    その真っ直ぐで控えめな優しさに、私は安堵と同時に、胸の奥で小さな罪悪感を覚えてしまうのだった。
    机の下に伏せたスマホが、まだほんのり熱を帯びているような気がした。

  • 67二次元好きの匿名さん25/09/09(火) 20:57:15

    言い出せないか…

  • 68二次元好きの匿名さん25/09/10(水) 00:41:59

    保守

  • 69二次元好きの匿名さん25/09/10(水) 09:23:06

    割と感づいてるんじゃないか

  • 70二次元好きの匿名さん25/09/10(水) 10:14:23

    スマホの画面には、さっきまで検索していた「ハロウィン衣装」の画像がずらりと並んでいた。
    うさ耳、魔女、ドレス……どれもスティルに似合いそうで、思わず口元が緩んでいたが――
    やわらかな布地のきちんと整った襟元、落ち着いたスカートの揺れ。
    コスプレ姿を思い浮かべてにやけていたけれど、やはり今この瞬間の彼女、学生としての制服姿も格別に愛らしい。

    「……トレーナーさん」
    控えめに声をかけられ、私は思考を引き戻される。
    「このあと……ご一緒に、カフェテリアへ行きませんか?」
    小さな勇気を振り絞るような眼差しに、胸の奥がじんわりと温かくなる。
    「もちろん。スティルとなら喜んで」
    そう答えると、彼女はほっとしたように微笑んだ。

    私は席を立ち、扉へ向かう前に自らの腰へと目を落とす。明らかに人とかけ離れた尻尾を、いつものように腰へ巻きつける。
    さらにシャツを腰巻きにして、その動きを覆い隠した。

    「それじゃあ、行こうか」
    「はい」

    二人並んで扉を開ける。
    午後の光が差し込む廊下へ歩み出すと、なんでもない学園の日常が、少しだけ特別な時間に思えた。

  • 71二次元好きの匿名さん25/09/10(水) 10:29:49

    昼時の喧騒を過ぎても、まだあちこちでグラスや食器の音が響き合っている。
    その中心にいるのは、昨日最終回を迎えた青春ドラマ『LOVEダッチ』の話題で盛り上がる生徒たちだった。あちこちのテーブルから、興奮を隠せない声が上がる。

    「やばくない!? あの尻尾ハグ!」
    「分かる分かる、普通のハグとかキスより、ずっとドキドキしたよね!」
    「尻尾を絡め合うなんて……あれはもう、特別な相手にしかできないでしょ!」

    耳に飛び込んでくる単語に、私は一瞬、手元のカップを持つ手を止めた。まるで視聴者全員が同じシーンに心を奪われたかのように、「尻尾ハグ」という言葉が飛び交っていた。
    「尻尾ハグ」。
    それはハグやキス以上に特別で、互いの心を絡める行為だと、暗に語られていた。
    ――互いの尻尾を絡め合う、あのシーン。
    単なる親愛じゃない。誰もが知っている特別な行為。
    意識するなと言われても、無理な話だ。

  • 72二次元好きの匿名さん25/09/10(水) 10:35:18

    「……っ」
    私は思わず顔が熱くなるのを感じ、咄嗟に視線を逸らした。

    向かいに座るスティルも同じ会話を耳にしたのだろう。
    制服の袖口をきゅっと握りしめ、俯いた横顔が赤く染まっていくのがわかった。
    ……そして、彼女の背後で揺れる尻尾が、はっきりと感情を物語るように小さく震えていた。
    普段は控えめで目立たない彼女が、こんなふうに感情を露わにしているのを見るのは珍しい。

    自分の方に意識を向ければ、状況は大差ない。
    尻尾がうずき、シャツを巻き直すようにして押さえ込む。

    ……けれど、裾がわずかに揺れているのを、自分でもはっきりと感じる。
    抑え込んでいるつもりでも、完全には誤魔化せていない。

    (……バレてないといいけど)

    腰元に巻いたシャツの奥でわずかに揺れる感触が、自分の胸の高鳴りを否応なく伝えてきた。

    周囲の賑やかな声が、かえって遠ざかっていくように感じた。
    気になっているのは『LOVEダッチ』でもなければ、尻尾ハグという言葉でもない。
    ――ただ、赤くなったスティルの顔と、揺れる尻尾のことばかりだった。

  • 73二次元好きの匿名さん25/09/10(水) 10:42:31

    賑やかなカフェテリアの喧騒の中、私たち二人だけが別の世界に閉じ込められているようで――
    思わず心臓の音が、耳に届くほど大きく響いていた。

    カフェテリアのざわめきの中、スティルと向かい合って座る。
    誰もが「尻尾ハグ」の話題で盛り上がる声が耳に届くが、二人の視線は自然と互いを探してしまう。

    スティルの頬は淡く赤く染まり、時折落ち着かない様子で手元のカップに触れる。

    ――心の中で、スティルも同じことを考えているに違いない。
    しかし二人とも口に出さず、ただお互いの存在を意識しているだけだ。

    タダでさえ普段の食事が喉を通らない私にとって、今はなおさらだ。
    視線を交わすたびに、ほんの少し胸がざわつき、箸を持つ手が止まる。
    スティルも同じように、食べ物より目の前の私を気にしているのが手に取るように分かる。

    その微妙な期待と、言葉に出せない想いのせいで、二人の食事はなかなか進まなかった。
    カフェテリアの騒がしさとは裏腹に、私たちだけが静かに、しかし確かに互いを意識している時間。
    それだけで、いつもの昼食が不思議な特別なものに感じられた。

    「ト、トレーナーさん……」
    小さく呼ばれ、顔を上げる。
    スティルの頬はまだ赤い。
    けれど、まっすぐにこちらを見ている瞳には、恥じらいと同時に、ほんの少しの期待が混じっていた。

  • 74二次元好きの匿名さん25/09/10(水) 17:48:14

    そうか、今なら尻尾ハグも可能なんだな

  • 75125/09/11(木) 02:00:04

    カフェテリアに漂う「尻尾ハグ」という言葉が、頭の中でこだまする。
    正直、スティルと……してみたい。
    けれどそれは未成年の教え子に対してあまりにも踏み込みすぎた行為だと理性が叫ぶ。

    (いやいや……ダメよ。相手は未成年の学生。私は大人で、しかも担当トレーナー。そんなことしたら……もしかして、いや間違いなく問題になる。下手をすれば犯罪……)

    自分でも少々大袈裟だと思う。
    けれど想像すればするほど冷や汗が滲み、尻尾をいっそう強く腰に巻き付けた。
    スティルの純粋な瞳を前にすると、余計に自分の考えが浅ましく思えてくる。
    空気が熱を帯びすぎる前に、何か話題を逸らさなくちゃ――。

    「……あ、そういや」
    わざとらしく声を張り、手にしていたフォークを置いた。
    「この三日間、三回連続で同じメニュー頼んじゃったんだよね。サンドイッチ……“三度一致”だけに」

    言いながら、自分でも頭を抱えたくなるほど寒いと思った。
    場を逸らすためとはいえ、ダジャレなんて……。

    けれど。

    「……ふふっ」
    目の前で、スティルが小さく笑った。
    頬を赤らめながらも、肩を震わせて笑っている。
    その純真な反応に、思わずこちらも苦笑いを返す。

    「いや、そんな笑うとこじゃないでしょ……」
    「でも……ふふ…トレーナーさんも、そんな冗談を…ふふふっ」

    胸の奥の熱はすっと落ち着いて、かわりに安堵の温もりが広がっていく。
    下らないダジャレ一つで、こんなふうに笑ってくれる彼女に救われているのだと――改めて思わされた。

  • 76二次元好きの匿名さん25/09/11(木) 09:40:45

    こういう時こそ笑顔だよな

  • 77二次元好きの匿名さん25/09/11(木) 09:41:10

    保守

  • 78二次元好きの匿名さん25/09/11(木) 18:58:37

    保守
    (続きマダー?)

  • 79125/09/11(木) 20:41:34

    午後のトラックは、柔らかい日差しの下に広がっていた。
    エリザベス女王杯に向け、スティルは黙々と周回を重ねている。
    その背中を見つめながら、私は一度アドマイヤグルーヴに併走を頼んだときのやり取りを思い出していた。

    「アルヴ、スティルと一緒に走ってくれないかしら」
    そう切り出した私に、彼女は一瞬だけ目を細めた。

    そして――

    「なれ合いなんて必要ありません」
    「周囲の評価なんて雑音です。私は、私の走りを極めるだけ」

    きっぱりとそう告げた彼女は、最後に言葉を重ねた。

    「……ハロウィンで浮かれている貴女達には負けません」

    挑発めいた一言に、私は返す言葉を失った。
    彼女の眼差しは真剣そのもので、そこに一片の迷いもなかったからだ。

    結局、スティルはひとりで走ることになった。
    けれどその姿は、決して孤独に押し潰されてはいない。
    むしろ、グルーヴの言葉を跳ね返すように、ひたむきに脚を運んでいる。

    トラックに響く足音は、真っ直ぐで、迷いがなかった。
    私はストップウォッチを握りしめながら、ただその背中を見守り続けた。

  • 80125/09/12(金) 00:35:29

    保守

  • 81125/09/12(金) 09:28:58

    ちょっと今日は仕事が忙しくなりそうなんで遅くなります

  • 82二次元好きの匿名さん25/09/12(金) 09:33:44

    保守保守

  • 83二次元好きの匿名さん25/09/12(金) 18:33:31

    >>81

    お疲れ様です

  • 84125/09/12(金) 21:48:19

    保守ありです

    「……ハロウィンで浮かれている貴女達には負けません」

    アルヴの言葉が、耳の奥で何度も反響する。
    確かに、その通りだ。
    最近の私は、スティルと過ごす時間のひとつひとつに心を奪われていた。
    仮装だの、デートだの……浮ついていたと言われても、否定はできない。

    教え子とトレーナー。
    その線引きを忘れてはいけない。
    恋人のように寄り添ってはいけない。
    アルヴの言葉は、そのことを痛烈に思い出させてくれた。

    ……でも、それでも。

    スティルと過ごす時間は、彼女の未来を削ぐものではない。
    むしろ彼女の力を育むものだ。
    互いに支え合うからこそ、強くなれる。

    そして――アルヴだって、本当は。
    孤独のままでは、きっと辿り着けないはずだ。
    誰かに支えられた瞬間が、必ず彼女にもあるはずだ。
    アルヴにだってそのことを知ってほしい。

    グラウンドに響くスティルの足音を見つめながら、私は改めてそう思った。

    「私たちは、ひとりでは強くなれない」
    胸の奥でそう呟いた。

  • 85125/09/13(土) 07:04:41

    保守

  • 86二次元好きの匿名さん25/09/13(土) 16:13:30

    そういえばちょうどエリ女の直前時期がハロウィンなんだった

  • 87125/09/14(日) 00:21:17

    保守

  • 88125/09/14(日) 07:49:53

    保守

  • 89二次元好きの匿名さん25/09/14(日) 15:14:12

    支援

  • 90125/09/14(日) 17:51:20

    ちょっ、ちょっとネタ切れ気味…ちょっと待っててください

  • 91125/09/14(日) 22:13:02

    視線の先では、スティルが真剣な眼差しでトラックを駆けていた。
    汗を飛ばし、息を刻み、ただひたむきに。
    彼女の足音は軽やかで、しかし一本一本のストライドには、確かに積み重ねてきた努力の重みが宿っている。

    (……そうだ。スティルとなら、必ず戦える)

    けれど、視線の奥に浮かぶもうひとつの影がある。
    アドマイヤグルーヴ。
    昨年のエリザベス女王杯を制したウマ娘。
    そして今年、連覇を狙う強者。

    孤高を貫き、誰の支えも必要としないと信じて疑わない彼女。
    その強さは本物だ。

    昨年の女王を超えるには、並の覚悟では足りない。
    けれど、スティルには私がいる。
    彼女を支える手を惜しまない私が、確かにいる。

    赤に滲む視界の向こうで、スティルのシルエットが一層鮮やかに映る。
    ――勝てる。そう信じる心が、胸の奥で熱を帯びていた。

  • 92125/09/15(月) 05:31:29

    保守

  • 93二次元好きの匿名さん25/09/15(月) 09:21:32

    レース結果は史実通りっぽいのね

  • 94125/09/15(月) 16:19:59

    保守

  • 95二次元好きの匿名さん25/09/15(月) 23:31:40

    次のエリ女で勝って好転するんだろうか

  • 96二次元好きの匿名さん25/09/16(火) 09:00:00

    支援

  • 97125/09/16(火) 09:39:16

    「……さ、堅い話はここまでにして」
    わざと声を明るくして、私はスティルの緊張を和らげるように微笑んだ。
    「せっかくだし、ハロウィンの話をしましょう」

    「……ハロウィン……ですか?」
    スティルは目を瞬かせ、ほんのりと頬を染める。

    「そう。今週末の日曜、約束したでしょ? 練習のことばかり考えてたら、せっかくの季節行事を逃しちゃうから」
    私は肩をすくめ、少し冗談めかして言った。まあ、私もつい最近までハロウィンの事は忘れていたが。

    心臓が跳ねるのを誤魔化すように、私は咳払いをひとつ。
    「ええ、一緒に。待ち合わせ場所は……そうね、ハロンタワー前でどうかしら」

    「はい……それで、お願いします」
    スティルの声はかすれていたが、その瞳は真剣で。

    「どこに行こうかは、当日のお楽しみにしておきましょう。ね?」
    そう言って軽く笑うと、スティルも小さく頷いて微笑んだ。

    張り詰めていた空気が、ほんの少しだけ柔らかくなる。
    練習の疲れが和らぐように、胸の奥まで温かさが広がっていった。

  • 98二次元好きの匿名さん25/09/16(火) 09:49:38

    このレスは削除されています

  • 99125/09/16(火) 15:36:41

    2回送らさってた…

  • 100二次元好きの匿名さん25/09/16(火) 23:44:41

    やっぱりハロンタワー近辺に仮装勢が集まるのかな

  • 101二次元好きの匿名さん25/09/17(水) 08:52:13

    せめて気持ちぐらいは明るくしないとな

  • 102二次元好きの匿名さん25/09/17(水) 17:11:58

    ちょいと保守

  • 103125/09/17(水) 21:43:20

    トレーナー寮の浴室。
    湯船に浸かり、身体の芯まで温まる。
    ゆっくりと目を閉じ、静かな水音に耳を澄ますと、心の奥で熱がじわじわと広がった。

    ――スティル。
    彼女の笑顔、レース中の真剣な眼差し、小動物のようにお菓子を頬張る仕草……頭の中に浮かぶ一つ一つが愛おしすぎて、どうにも落ち着かない。

    気づけば尻尾はうねり、背中の翼が小さくパタパタとはためいていた。
    胸の鼓動に釣られるようなその動きは、自分でも制御がきかない。

    「……だめ、こんなの……」

    どうにか抑えようと、私は思わず自分の腕に噛みついた。
    牙が腕に食い込み、じりと痛みが走り、全身が痙攣するように震える。
    尻尾はピンと伸びきり、背中の翼は今にも千切れそうなほど張りつめていた。
    思わず湯船の縁に手をつき、息を整える。

    ――もし私が古典アニメのドジな猫だったら、今頃湯船から飛び上がって天井を突き破っていただろう。
    そんな滑稽な想像が頭をかすめ、思わず苦笑してしまう。

    熱が落ち着くまで、私は湯の中でじっと静まったまま、ただ心の中でスティルを思い続けた。

  • 104125/09/18(木) 00:08:34

    入浴を終え、身体を拭きながら着替えに取りかかる。
    しかしシャツを手に取った瞬間、背中の翼が小さくも不規則に動き、袖を通すスペースを妨げていることに気づく。

    「……あ、うっ……」

    思わず肩をすくめ、翼でシャツに穴を開けるようにして無理やり着込む。
    少し乱暴な方法だが、それしか手がない。
    袖口から漏れるわずかな冷気に、尻尾もピンと緊張して反応している。

    着替えを終えた後、ベッドに倒れ込む前に少し時間を潰すことにした。
    手元のスマホで番組表を確認し、テレビをつける。
    画面は明るいバラエティ番組だが、赤く染まった視界のせいで色彩がぼやけ、細かい文字や映像のディテールはほとんど見えない。

    「やっぱり、これじゃ見づらいな……」

    ため息をつきつつ、赤い光を補正できる視覚補助具がないか考える。スティルの友人に相談できる伝手はないか、思い巡らせる。
    「そういえば、あの娘がいたな…」
    手元のリモコンやスマホを弄りながら、ただ画面をぼんやり眺める。
    「恥を忍んで…聞いてみるか…」

    そしてようやくベッドに倒れ込み、身体の疲れと温かさに身を委ねる。
    最近は異形化の影響で不眠気味だったが、今夜は睡眠導入剤の作用もあり、意識はぼんやりとしていた。
    瞼が重くなり、微睡む感覚がゆっくりと広がる。

    しかし夢の世界に落ちる直前、ふと背中に違和感が走る。
    「……私に……翼なんて、生えていたっけ……?」

    思わず全身に冷や汗が滲み、心臓が早鐘のように打つ。
    瞼は重いはずなのに、意識だけがぱっちりと冴えてしまう。
    睡眠導入剤でぼんやりとした頭の中に、リアルな感覚として翼の存在が残り、微睡みと覚醒の境で、私はしばらくじっと身を固くしていた。

  • 105二次元好きの匿名さん25/09/18(木) 08:36:43

    また一歩、人の形を失ってしまったか…

  • 106二次元好きの匿名さん25/09/18(木) 17:41:50

    あまりに自然すぎて不審にすら思わなかったか

  • 107二次元好きの匿名さん25/09/19(金) 03:21:12

    そろそろ肌の色まで変わってきてそう

  • 108125/09/19(金) 10:45:12

    保守

  • 109二次元好きの匿名さん25/09/19(金) 10:45:16

    見えてない部分まで変化していってそう

  • 110二次元好きの匿名さん25/09/19(金) 19:32:02

    支援

  • 111二次元好きの匿名さん25/09/20(土) 01:07:51

    保守

  • 112二次元好きの匿名さん25/09/20(土) 09:42:16

    捕手

  • 113125/09/20(土) 10:47:38

    保守

  • 114二次元好きの匿名さん25/09/20(土) 20:21:02

    Ho

  • 115125/09/20(土) 20:47:21

    今ちょっと仕事が過渡期なので水曜まで小出しになります…

オススメ

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