- 1リモンチェッロ◆jBToGexAu222/04/21(木) 15:37:22本スレここだけダンジョンがある世界の掲示板 第1371層|あにまん掲示板https://bbs.animanch.com/board/553074/前スレhttps://bbs.animanch.com/board/543738/脳内設定スレhttps://bbs.ani…bbs.animanch.com
このスレは「ここだけダンジョンがある世界の掲示板」の番外編みたいなものです。
イベントとは名ばかりのSS投稿スレ。
感想・合いの手などはご自由に書き込んで下さい。
あらすじ
いろいろあって上級冒険者になるための飛び級試験を受けることになったリモンチェッロ
試練として出された依頼はひとつ、場所もわからぬ秘境の海『大海の大渦』にて『海底郷の追憶』というアイテムを手にすること
長い旅路を越えようやく『大海の大渦』まで辿り着いたリモンチェッロは、果たして無事上級冒険者になれるのか?
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- 2リモンチェッロ22/04/21(木) 15:39:24
【某所 あるいは海の果て】
リモンチェッロは青の箱舟に姿を変えた影魚の上で、眼下に広がる大渦を見下ろしていた
「……随分と時間がかかったけどようやくついたね、ここが、『大海の大渦』……」
箱舟の上で白斧を手に立つ彼は、その秀麗な顔を苦々し気に歪めてつぶやく
「……思っていたより大きいな、それに凄まじい」
その視界には、巨大な都市ほどに大きい渦が荒れ狂う様が写されていた
「これを見てしまうと、場所探しに海図とにらめっこしたことなんて前哨戦未満の前準備に過ぎないってわからせられるなぁ」
それに、この大渦すら本番には程遠いのだということも
セリフの続きは口に出さずに胸に収め、リモンチェッロは努めて明るい調子で自身の使い魔たちの方へと向き直った
「さて、二人とも、これからどうする?今ならまだ帰られるよ、飛び級試験がどんなものかはまだわからないけどきっと難しいものになるだろう
二人が嫌なら辞めてしまっても構わないけど?」
それは、確かに自身の使い魔たちへの気遣いの言葉だった
けれど同時に、いまだ決まり切らない自身の覚悟への最後の確認だった、だから───
「けっと!」「きゅおん」
直後返された二人分の肯定に、リモンチェッロは困ったような満足したような微笑で頷く
「……うん、二人ならきっとそういうと思っていたよ、ありがとうね、ケーちゃんもフィレナさんも
オレもようやく覚悟を決められたよ」
「けー、けっと!」「くるるる、きゅう」
自身の言葉に思い思いの反応を返す二人に心中で深く感謝しつつ、リモンチェッロは再度大渦に目を向ける
そのまま全身に魔力を巡らせ水の鎧を展開し、青の箱舟を解いて───
「それじゃあ、行こうか」
大渦に向かって、超速で落下していった - 3リモンチェッロ22/04/21(木) 15:40:11
【海底遺跡】
びたんっ!
無事に大渦を突破したリモンチェッロはその勢いのままに石畳の上にたたきつけられた
「ぅおっと、と
よし、成功だ、防御を固めて水流操作で渦を和らげたあとジェットで突っ切っただけだけど意外といけるものだね、まあこの程度越えられないと困ると言ってしまえばそれまでだけど
……にしてもすごいな、これ、まるで観光地だ」
ぱんぱんと服についた土埃を払い、疲労回復用のポーションを手に立ち上がると、リモンチェッロは周囲に広がる景色に思わず感嘆の声をこぼす
───大渦の下には、絢爛と輝く美しい大理石の街並みがどこまでも広がっていた
「海底遺跡なんていうからどんなものかと構えてみれば、ずいぶんと整備が行き届いているね、どこにも生体反応なんてないのにまるで人が住んでるみたいだ
……ちょっと思ってたより綺麗すぎるな、みんなに見せたいしスクロールショットで写真撮っとこう」
街並みの美しさに感動したリモンチェッロは先ほどまでの緊張感が嘘のようにくるくるとあたりを動き回りスクロールで街並みを収め始める
まるで遊びにきた子供のようにはしゃぎまわる相棒の姿に影魚は声もなくあきれ返り、鎧に転じた自身の体の内側をさらに変化させてリモンチェッロの体を摘まみ上げた
「いった、いたた、ごめんってケーちゃん、まじめにやるよ」
親友に叱られたことで大人しくスクロールを懐にしまい、リモンチェッロは改めて表情を引き締める
「……で、本陣はあそこ、と」
そのまま真剣な面持ちで街の中央部に目を向けると、誰ともなしに小さくつぶやいた
そこには、周囲の静謐が嘘のような濃密な魔力と極大の生の気配が立ち込めていた
「……行くか」
痛いほどの静謐が耳を刺す中、リモンチェッロは黙々と街の中央部へと向かっていく
魔力の温存もかねてそれなりの時間をかけて歩いて向かうと、そこには目が眩むほどに壮麗な白亜の大神殿が佇んでいた
リモンチェッロは暫しの間神殿の威容を目に焼き付けたあと、無言のまま神殿の内部へと入り込んでいく
カツンカツンと自身が大理石の床を蹴る音が響く中、歩を進めるたびに圧を増す気配に我知らず身を固めながら神殿の最奥に足を踏み入れると──── - 4リモンチェッロ22/04/21(木) 15:41:08
≪───来たか、異邦のモノよ≫
遠く、最奥の台座の上、そこに、一体の翼持つ鯨が鎮座していた
(アレが白翼鯨カイシェール……!)
ついにその姿をとらえたことでリモンチェッロが表情を引き締めると、カイシェールは再度口を開く
≪では、問おう……
貴公は挑戦者か、それともただの迷い子か?もしも挑戦者だというならば……≫
鯨は悠然と佇み、リモンチェッロに問いを投げかける
その声はすさまじいまでの圧を孕み、彼がただあるだけで世界に影響を与えるような絶対者だと示しているかのようだった
「……はい、オレは挑戦者です、この先の遺跡に用があってきました
……質問を返すようで恐縮ですが、貴方がかの『白翼鯨 カイシェール』殿で宜しいでしょうか」
≪如何にも……此の名はカイシェール……この地を守護し、驕慢なる挑戦者へと試練を下すモノ≫
≪ああ……しかし挑戦者か……久しいなァ実に久しい
前に訪れたのは、はていつだったろか≫
くつくつと楽し気に笑うカイシェールを前に、リモンチェッロは知らず身を引き締めた
≪して、挑戦者よ……ひとつ問おう≫
≪其の方は、なぜに此に挑む?貴公にとって此度の挑戦とは……勝利とは、なんだ≫
カイシェールは先ほどまでの楽し気な雰囲気を一変させ、眼前の挑戦者へと問いかける
あるいはここから既に試練は始まっているのだと、つまらぬ返答ならばその時点で挑戦者の資格など持ちえないのだと言わんばかりに - 5リモンチェッロ22/04/21(木) 15:41:32
リモンチェッロは神殿に木霊する白鯨の声にやや気圧されていることを自覚し、それでも退くわけにはいかないと総身に力を込めた
「オレが……オレが!勝利に求めることは、自分に誇れるような『答え』を知ること
そして貴方に挑むのは、今より遠く、さらなる高みを目指すためだ!」
まるで歌劇の英雄のように高らかに返答を歌い上げるリモンチェッロに、場は静寂に包まれる
カイシェールは眼科で自身を睨む挑戦者の鬨声を舌で転がすように黙り込み、そして───
「あ、あn《く……くく、っふはははっははは!》
直後、神殿の中を爆ぜるような哄笑が埋め尽くした
《はは、そうか答えか、そうか高みか!
なるほど挑戦者らしい、先を目指すモノらしい答えだ、此はその返答を好ましく思うぞ挑戦者よ》
「!じゃあオレは貴方に挑戦してもよろしいのですか!?」
《そう急くな挑戦者よ
いい、いい、此は其の方の挑戦を受け入れよう》 - 6リモンチェッロ◆jBToGexAu222/04/21(木) 15:42:42
カイシェールの返答に喜色を浮かべ詰め寄るリモンチェッロに白翼は鷹揚に頷き、再度口を開く
《しかし、挑戦者を受けるというならば場を整えねばならんなあ
このまま始めるというのは少々無粋にすぎる》
老鯨は、暫し悩むような素振りを見せたあと、おもむろに自身の両翼を伸ばす
《何年かぶりの挑戦者だ、宴は華やかでなければな
来たれ我が僕、開けかの門よ》
カイシェールが翼を広げ笑うと、突如として地面が揺れ始め、神殿がその姿を薄れさせていく
「えっ、えっわっなに?」
強く揺れる地面に驚き困惑するリモンチェッロを尻目に白翼の老鯨は笑みを深め───
《さあ挑戦者よ、此の歓待、ゆるりと楽しまれるといい……》
直後、カイシェールの直下から無数の水魔が溢れ出した - 7リモンチェッロ◆jBToGexAu222/04/21(木) 15:43:35
【海底遺跡 試練】
「ハァ……ハァ……ハァ……ッハハ、まるでゾンビの群れだな!」
カイシェールが試練の開幕を告げてから数分後、リモンチェッロは自身に全力の身体強化を施し市街地を疾走していた
「ハァ……まさかあんなにいきなり始まるなんて!まだ準備は整ってないし、とりあえず安全なところを探さないと!」
その後ろには、先程カイシェールの召喚した無数の水魔たちが亡者のように追いすがる
(試練についてはある程度覚悟していたとはいえとっさのことでついろくな考えも無く駆け出してしまった……まずったなーここカイシェールが居る神殿からもうすでに大分遠いぞ、この量を相手に距離摘めるのはかなり骨が折れるだろうなぁ)
自らを襲う津波のように蠢く水魔たちを遮蔽物の多い家屋や路地で遮りつつリモンチェッロは思考を整理していく
(いつもだったら神殿までジェットで一気に行くか、そうでなくてもケーちゃん津波で押しきるんだけど今回はそれが難しいからなぁ)
真っ直ぐに突っ切ろうとした家屋の窓から雪崩れ込む水魔を白斧で薙ぎ、再度窓を突き破って路地へと転がり込み体勢を立て直してまた走り出す
(白翼の水の系譜への支配能力、面食いさんはある程度って言ってたけどこれ絶対そんなもんじゃないでしょ!)
支配能力、事前に知らされた情報の中にあったカイシェールが持つ技能のひとつ
リモンチェッロは今、それによってかつて無い危機を向かえていた - 8リモンチェッロ◆jBToGexAu222/04/21(木) 15:44:45
(支配能力が想定よりも強すぎる!ケーちゃんとフィレナさんをつれてかれ無いように使い魔契約を強めるのに魔力の八割を割かないと行けないからいつもみたいに派手に動けない
それにケーちゃんの分裂は使うとき存在が揺らぐからそこを起点に支配が侵食しかねないし、多少ならともかくいつもみたいに物量で押し返すってのは無理だねこれ)
支配能力によって使い魔たちが寝返るということはさすがに阻止したものの、その代償はあまりにも大きい
もともとリモンチェッロは自身の豊富な魔力量と魔力を溜め込む影魚の合わせ技でエネルギー量にモノを言わせるような戦闘スタイルだったが、今回は使い魔契約の維持のために使用可能な魔力の大半を割かなければならなくなっている
影魚の魔力リソースが奪われるということはないものの、人間には一度に使える最大魔力量というものがある
例えて言うならば、どれだけ大きなタンクでも蛇口が小さければ相応の水しか出せないようなもの
現在のリモンチェッロは魔力の八割を封じられているような状態であり、いつものような魔力放出によるジェットや極大の威力を秘めた魔力砲はほとんど使え無くなっている
さらに影魚の存在を固定するために普段の十八番である物量での圧殺も使えなくなっており、リモンチェッロ本来の強みはほとんど封じられていると言えるだろう
(奈落の記憶は落ちるだけだから速度も微調整もあんまりできないし、困ったなージェットの機動が封じられると私こんなに遅くなるんだ
運良く敵は空を飛んだり魔法を打ったりはしないみたいだけど、それもいつまでの話か)
リモンチェッロが追い詰められたことで露呈した地力の無さを嘆く間に、いつしか水魔たちは彼を袋小路まで追い詰めていた - 9リモンチェッロ◆jBToGexAu222/04/21(木) 15:45:41
「まあ、この状況で嘆いていても始まらない
このまま行ってもジリ貧だし、とりあえず正面突破と行こう」
そのまま走り抜けて壁際まで突き進むと一転、リモンチェッロは水魔達へと向き直り両手に構えた白斧でまるごと薙ぎ払った
水魔達が切り伏せられ周囲に隙間が空いた中で出来る範囲での魔力放出と奈落の記憶でもって手近な建築物の屋根の上まで飛び上がる
「よしっ、とこのまま水魔が来れない屋根の上から神殿まで戻ってまたカイシェールに挑みなお……し、っ!?」
大理石の屋上で一息つこうとしたリモンチェッロは、自身に向かい飛来するナニカの気配を察しその場から勢い良く飛び退く
「っ、ああ?今のは……っなるほど」
これまで、リモンチェッロはカイシェールについて自前の戦闘能力を持たぬ魔物だと考えていた
あくまで水の系譜に対する支配能力と眷属の水魔達が戦う、非戦闘型のまものであると
何を勘違いしていたのだろう、誰もが口を揃えて凄まじいという飛び級試験がそんな簡単で在るわけ無かったのに
「……水の魔物だもんね、そりゃあこれくらい出来るか……!」
眼前の民家の屋上に穿たれたような穴がある
リモンチェッロの“眼”は、それが先程、高空から発射された水の槍が撃ち抜いたものだと視抜いていた - 10リモンチェッロ22/04/21(木) 15:46:45
【海底遺跡 試練】
水の弾丸がリモンチェッロをかすめてから数時間
「ハア……ハア……ゼヒュッ、ガぁ」
あれから水の攻撃はひたすらに苛烈さを増していき、今ではまるで雨のように間断なく降り注ぐ
ときおりフィールドを一閃するかのように放たれる横薙ぎの水刃は建築物を切り裂いてリモンチェッロの行動を大きく制限する
水魔たちは最初にいた地を這う種類のものに加え、空を泳ぐものや高い身体能力を持つもの、簡単な魔法を使うものなどその種類を増していき、もはや蟲毒のごときありさまだ
支配の力は今も強くリモンチェッロに枷を課している
「ヒュウ……フウ……ぐあ」
……しかし、リモンチェッロたちを真に追い詰めているのはそれらではない
(ああ、やっぱり見られてる!)
全身に刻まれた生傷が気を削ぎ、疲労でもつれそうになる足を気合で動かしながらリモンチェッロはぐるぐると思考を回す
今、リモンチェッロをもっとも追い詰めているもの、それは、カイシェールの最後の異能『第三の目』である - 11リモンチェッロ22/04/21(木) 15:47:11
カイシェールの『第三の目』、それがいったいどのような力なのか、それにはまずカイシェールがどういった存在なのかから説明すべきだろう
かつて、カイシェールはただ強いということ以外はなにも特筆すべき点のない極普通の魔物であった
しかし、過去、海底遺跡が遺跡でなかったころに当時の王により調伏され、都市の守護獣として民にあがめられるうちにその身は神獣にも伍するほどの恪を得て───
いつしか、彼は新たなる異能──権能を手にしていた
それこそが『第三の目』である
その能力の詳細はいたって、簡潔。海底遺跡と大渦の付近のことであればなんであろうと把握できる、以上だ。しかし、その精度は権能の名にたがわぬ高さを誇る。
彼の眼は知覚範囲内で起こったことであれば空気の流れから空間の揺らぎ、魔力の流れまですべて知ることができるのだ。さすがに他者の心のうちや体内魔力などは近くできないが、それでも理外の恐ろしさを持つことは変わらない
そして、現在。カイシェールはその目による神域の知覚力は、こと試練の場においては挑戦者を確実に追い詰める最大の武器として機能する
今回の試練の場においてもその力はいかんなく発揮され、リモンチェッロの行動のすべてを観測し確実に敗北に追いやるがごとく彼を追い詰めていった - 12リモンチェッロ22/04/21(木) 15:48:10
(しかし、似てるな)
カイシェールの能力について考察する傍ら、リモンチェッロはあることに気付く
(水魔による数の暴力、支配能力での魂への干渉、変幻自在な水、高威力の砲撃、極めつけに広範囲特殊知覚か)
カイシェールの能力にはある特徴がある、それは───
(これ全部、私の得意分野だな……!)
どれも、リモンチェッロが普段得意としている能力だということだ
(けど、ただ同系統の能力ってわけじゃないなこれ)
振り向きざまに自信の背後に迫る翼の水魔を斧でたたき切りながらリモンチェッロは思考を巡らす
(水魔の強さも水の威力と自由度も知覚力も、全部私の今の全力以上、完全に上位互換だ
それに、あの支配能力!ただでさえ地力が劣るっていうのにあれのせいで全然全力が出せない!)
斧の斬撃でこと切れた水魔には一瞥もくれずまた走り出しながら内心で絶叫するリモンチェッロは、そのまま魔力砲でもってそこら中に転がる瓦礫を群がる水魔ごと吹き飛ばした
リモンチェッロが考えるに、おそらくこの試験の本質とはその≪自身の上位互換的相手に≫≪得意分野を制限された状態で≫≪いかにして突破するか≫にあるのだろ
これまで切り抜けた大渦探しも絶海の突破も、カイシェールという壁の前ではできて当然の大前提に過ぎない - 13二次元好きの匿名さん22/04/21(木) 15:48:15
建て乙
リモンチェッロさんの戦闘方法あんまり知らなかったここで見られるの楽しみ - 14リモンチェッロ22/04/21(木) 15:48:31
しかし……
(普段よりもはるかに弱い状態で、自分の上位互換相手にどう戦えばいいんだ……!)
そんな難題、いったいどう乗り越えればいいのだろう - 15リモンチェッロ22/04/21(木) 15:49:04
冷たい諦観と絶望が心に染み入る中、それでもリモンチェッロは駆ける、駆ける、駆ける
あるいはそれは、自分なんかを信じて背を押してくれた誰かのためで
あるいはそれは、いつでも大切な誰かに誇れる自分でありたいという自らに根差す矜持のためだった
けれど、気持ちで現実は変わらない
「っ!しまっ……!」
もはや、リモンチェッロの疲労は頂点へと達していた
背後に無数の水魔がなだれ込む中、いつもならなんともないような瓦礫に足を取られ、そのまま勢いよく破壊された石畳の上に転がり込む
「……っあ!う、早く、立たないと……!」
絡まる足に気を取られ必死に立ち上がろうとするも疲労で体はろくに動かずじたばたと死にかけの虫のように地べたを這いずるリモンチェッロを
水魔の津波が、一瞬で覆いつくした - 16リモンチェッロ22/04/21(木) 15:49:26
【海底遺跡 神殿】
≪……む、挑戦者の姿が消えたな≫
カイシェールは、自身の“目”でリモンチェッロの姿がとらえられなくなったことに気づき首をかしげる
≪死んだのだろうか……それにしては反応がおかしい、死したなら此の目で魂の消滅が見えんのは道理に合わんし、何よりも死体がない、それにあの揺らぎ≫
老鯨は自身の知識の中で先ほどの不可解を探り───
≪もしや、逃げたか≫
一つの答えにたどり着いた
≪なるほど、なるほど、それならあの揺らぎにも説明がつくなァ≫
楽し気のような、退屈なような声でカイシェールは歌うような独り言を続ける
≪以前見た空間転移とは少しばかり質が異なっていたが、まあ人の世は忙しないもの、此が知らぬだけであろう≫
≪しかし、残念なことだ、あの挑戦者には期待していたのだがなァ、ああ、実に残念だ≫
まったく残念そうに聞こえない調子でカイシェールは含み笑いをこぼす
すぎたことはしょうがないとリモンチェッロのことを忘れ去り、さて試練の結界をほどかねばと姿勢を崩した瞬間────── - 17リモンチェッロ22/04/21(木) 15:49:44
カイシェールの真上に、満身創痍のリモンチェッロが現れ
「……カスッムリトぉアルマぁ―――!!」
その背に、一本の短刀を突き立てた - 18リモンチェッロ22/04/21(木) 15:50:09
時は遡り、リモンチェッロが水魔に飲まれる少し前、リモンチェッロは必死に打開策を見つけようと思考を回していた
- 19リモンチェッロ22/04/21(木) 15:51:07
(考えろ、考えろ、考えろ!どれだけ強力な能力でも必ず穴はあるはずだ)
(現状一番問題なのは『第三の目』による広域知覚、これのせいでこっちの攻撃も逃走経路も全部見透かされてしまう)
(これを突破するには何をすればいい、何をすればあの目から逃れられる?)
(もしもの時に私の霊視を封じるための魔眼殺しならあるけど、きっとそれじゃ届かない、あれの本質は目にはない)
リモンチェッロの持つ巫女としての経験と霊視越しの直感は、カイシェールの目が魔物の異能でなく神の権能に近いものだと気づいていた
同時に、権能とはその存在に根差すものであり市販の魔眼殺しでは封じることなどできないことも
(……けど、権能なら必ず適用できる範囲があるはずだ、高位の神格ならいざ知らず、カイシェールの位はおそらく神獣、なら人間でも付け入るスキはきっとある)
(奴の神としての力はおそらくこの街の守護者としての性質に根差すモノ、ならきっとみられるのはこの街の内部まで、広くて大渦!)
(精度に関してはたぶん人の心や外に出してない魔力の流れまではみえてないな、こちらの行動への対処は全部見えるようになってからだし、試練の前の問答から考えるにこれも間違いない) - 20リモンチェッロ22/04/21(木) 15:51:38
(けれど、それを知ったところでどうしろっていうんだ……!まさか街の外から攻撃が当たる訳でもないだろ、う……に……?)
(まて、街の外……?よくよく考えれば、カイシェールにとっての街はどこまでだ?
彼は……別位相を見ることはできるのか?)
脳裏にあるアイデアが浮かぶことで、リモンチェッロは一瞬その足を止めかける
(……失敗した場合の危険が大きすぎる、けど、試してみる価値はある!)
思いついた策とは、自身を別位相に飛ばしカイシェールへと接近し不意打ちをするというひどく拙いもの
別位相の転移は負担も準備にかかる時間もかかりすぎる、成功したとしてもこれが最後のチャンスになるだろう
それでもほかに手はない、だから、リモンチェッロは賭けにでることにした - 21リモンチェッロ22/04/21(木) 15:51:54
水魔たちから逃げる中でリモンチェッロは懐の術式符をセットする、励起した魔力回路を限界まで回し自身の防御を限界まで固め、少しでも後の負担を減らすために瓦礫を踏みしめ神殿へと駆け抜ける
ドクドクと響く心臓の音が耳障りで、けれどそんなものには気も向けずただ前へ前へと進んでいく
これ以上進めば水の砲弾に撃ち抜かれるだろう地点の寸前まですすみ、わざと危機を演出しながら転がり込むと予想通りになだれ込む水魔に内心でわずかな苦笑が漏れる
しかしそれも一瞬のこと、リモンチェッロは倒れこんだ姿勢のままに自信のチャンネルを異界へと合わせていく - 22リモンチェッロ22/04/21(木) 15:52:33
───其は、はるかソラの彼方より遠き場所、我がたなごころより近き場所
詠唱を紡ぐリモンチェッロを水魔が踏み砕き、あばらは折れ肺が潰れかける
だからなんだ
───あらずしてあり、あるならばあらぬたそがれのクニ
眼球の裏の毛細血管がはじけ飛び、視界が赤く紅く染まっていく
それがどうした
───幽谷の霧に覆われて、御主の霊よいづくにかあらん
四肢の感覚が薄れていき、天から撃ち込まれる水の槍に胴が抉られる
そんなこと、いまは全く関係ない!
───遠く降り注ぐ星影よ、我をかの地に導き給え
死にかけの体を事前に飲んだ継続回復ポーションと魂魄結合術式により無理やり永らえさせて、リモンチェッロは世界の壁さえ超越る詩を唄う
寸前、少年を覆う水の鎧がその強度を増し
───『霊法 遊離遍在』≪あるけーえんでこめのん≫
そして、少年は賭けに勝った - 23リモンチェッロ22/04/21(木) 15:53:02
【海底遺跡 神殿】
「……っぐ、ぅ」
全身を犯す激痛にうめき声を漏らしながら、リモンチェッロは魂を失い地に落ち行くカイシェールを睨む
戦いはまだ終わっていない、これでは足りない
魂の剥離は強力な業だが、その効果は相手によって大きく変動する、カイシェールほどの強者であればその意識は奪えたとしてもせいぜい数舜、ゆえに今のうちに片を付けねばすべては失敗に終わるだろう
加えて……カイシェールの意識が失われたことで水魔たちは動きを止め、天からの死の雨は止み、支配はその力を失った
この絶好の好機、生かさずしてなんとする
「ぐぅ、……あぁ!」
リモンチェッロは自身の体に鞭を打ち、戻った魔力容量のすべてを手に持つ白斧へと注ぎ込む
「ああ、ああああああ!」
そのまま斧を大上段に構え、眼前の老鯨へと向かっていき───
「おおちいろおおおおおおおお!!!」
───全霊の斬撃は、見事鯨の首を裁ち落とした
───ぱきっ
カイシェールの首が落とされた瞬間、あたりにガラスが割れるような音が響いたかと思うと、海底遺跡を白い極光が埋め尽くした - 24リモンチェッロ22/04/21(木) 15:53:48
《美事だ挑戦者よ、よくぞ此の試練を超えて見せた》
気が付くと、リモンチェッロは先ほどの傷がなかったように消え失せた状態で神殿の床に座り込んでいた
「え?っは、えっなに、闘技場?」
《いやはや、あの状況から超えてくるとはヒトの可能性というのは変わらず凄まじいものよ
素晴らしい、素晴らしいな挑戦者よ》
混乱するリモンチェッロを無視してカイシェールは楽し気に語り掛ける
その低く美しい声に気を落ち着かせたリモンチェッロはまだ多少の困惑を残しながら口を開く
「え、と……てことは、自分は試練を突破した、ということでよろしいのでしょうか?」
《うむ、アレを乗り越えたのであればそういうことでよかろう》
……
…………
「……!っやったーーーー!」
カイシェールの言葉に腕を振り上げ喜び叫ぶリモンチェッロを鯨は満足げに見つめる - 25リモンチェッロ22/04/21(木) 15:54:11
《……して、なにが望みだ挑戦者よ、此に挑んだのだ、何か望みがあったのだろう?》
「……あっ!え、えとオレは貴方にここにあるっていう『海底郷の追憶』っていうのをもらいに来たんですが、大丈夫でしょうか」
《ああ、あれか……うむ、よかろう、そこの奥の間にいくといい、たしかそこにあったはずだ
「いいんですか?!ありがとうございます!」
全身に喜色をうかべ礼儀も忘れて奥の間に走り去ろうとしたリモンチェッロをカイシェールは呼び止める
《ああまて挑戦者よ、奥の間に行く間その斧の娘はここに置いていけ
「……えっ……?」
カイシェールの言葉にピタリと足を止めたリモンチェッロは、警戒するように白斧を抱き留め、カイシェールを睨みつける
「……フィレナさんに何をするつもりですか?」
《何もせんさ、少し話したいことがあるだけよ
警戒の姿勢をくずさぬままカイシェールを見るリモンチェッロだが、霊視により相手に害意を感じないことに気づき、しばしの逡巡ののち白斧を床においた
「……ごめんねフィレナさん、すぐ戻るから」
申し訳なさそうに奥の間へと向かっていくリモンチェッロをしり目に、カイシェールは白斧───フィレナに語り掛ける - 26リモンチェッロ22/04/21(木) 15:55:28
《同胞の娘よ……其の方、ヒトに仕えることが不満か……?
『きゅお、くるるるる!』
カイシェールの言葉に一瞬あっけにとられたフィレナは、しかし次の瞬間火が付いたように当然だと叫ぶ
《ははは、生きのいいことよ、だがその感覚には此も覚えがある
わかるぞ、陸のものに仕えねばならんのは屈辱であろう
フィレナの答えが想定通りのものだったために笑いをこぼしながら、またもカイシェールは口を開く
《しかし、なにも不満しかないというわけでもあるまい?あの人の子が姿を消す寸前、水の壁の強度が増したのは其の方の意思であろう?
……そう、リモンチェッロが位相を超える直前、水の鎧がその強度を増したのはフィレナの意思によるものだった
彼女は今回の試練において、自ら支配になびくような不義理はしないまでも、自主的に力を貸すつもりもまた無かった
まだ王と認め切れていない相手に力を貸す気など湧かなかったし、この試練で自身もリモンチェッロを見極めようと思っていたのもある
……けれど、最後まで抗おうとする主の姿に彼女は
《まあよい、心というのは時が育むものだ、それは忠義も変わらん
───しかし、悔いは残すなよ、ヒトというのは脆く、儚い、それはヒトを捨て不老や不死になったとしても変わり無いがゆえに
それはどういう
カイシェールの言葉の意味をフィレナが問いただそうとした瞬間
「ただいまーフィレナさんだいじょうぶー?!」
「けっとー!」
リモンチェッロと影魚が美しい碧の宝珠を手に奥の間から飛び出してきた - 27リモンチェッロ22/04/21(木) 15:56:29
「きゅう……」
「そうなの?大丈夫?よかったー!アッそれより見てこれ『海底郷の追憶』!キラキラしてるし中に不思議な模様が浮いてるしスッゴクきれいなんだよー術式とかみるに多分記録用の魔道具!」
興奮してフィレナに詰め寄るリモンチェッロはしかし次の瞬間愕然とする
「……!そういえばここ、転移スクロール使えるんだろうか?いやだよオレまたあの長距離旅するの」
頭を抱え真剣に考えこむリモンチェッロに、見かねたカイシェールが声をかける
《ふむ……ここでも転移の類は問題なく使えるが、まあよい、試練を超えた褒美だ、此が其の方らを送って見せよう
「えっ!いいんですか!ありがとうございますカイシェールさ……あっ?!」「けー?」
カイシェールの言葉に喜び飛び上がるリモンチェッロたちを感触のない不思議な水が包み込む
「えっえっえっ?」
いきなりの水に困惑しわちゃわちゃと手足を動かすリモンチェッロにカイシェールは語り掛ける
《では、さらばだ挑戦者よ、其の方らの旅路に幸多からんことを、海の底から祈って居よう
直後リモンチェッロたちの姿が水にまかれ消え失せた - 28リモンチェッロ22/04/21(木) 15:56:53
(さて、此度の挑戦者たちはずいぶんと忙しなかったな)
喧しい来訪者がいなくなったことで神殿は落ち着きを取り戻し、カイシェールは最奥の台座へと戻っていく
(いやはや、いつぶりかの挑戦者で此れもはしゃいでしまったな)
試練を終えて何もかもが元通りとなった水底の街で老鯨は思考に耽る
(しかし……)
脳裏に浮かぶのはかつて共に在った二つの影
(あの挑戦者は……ずいぶんと貴方に似ておりましたな、我が王よ)
今はもういない自らの王と、王とともに散り亡骸のみを残した水魔≪友≫の残影
(ああ、懐かしいなァ、さて、次の来訪者はいつ訪れるのやら)
誰もいない海底遺跡で、誰も居なくなった灰色の街で、カイシェールは次の来訪者を待ち続ける
ずっと、ずっと、あるいは、世界が終わるその日まで
──────終劇 - 29リモンチェッロ◆jBToGexAu222/04/21(木) 15:59:57
(書きっ終わりっましたー!途中書いてたデータ全部消えた時はマジで焦ったけど、これにてリモンチェッロ飛び級編は終わりです!長々と付き合っていただき本当にありがとうございましたー!)
(なにかと拙いところも多いと思いますが、ここまで読んでいただき本当にありがとうございました!) - 30ギルド面食いちゃん◆gDgku.LVZk22/04/21(木) 16:12:41
(お疲れ様でした)
(仮設定との違いを見るのが楽しいです) - 31二次元好きの匿名さん22/04/21(木) 16:14:06
- 32リモンチェッロ◆jBToGexAu222/04/21(木) 16:18:56
- 33迷子スキル◆uubNVhe.1I22/04/21(木) 18:47:12
(読みました!カッコよかったー!絶望的な追いかけっこに全身貪られる絶体絶命の中に見出した希望の糸を手繰り寄せきったリモンチェッロさんのガッツ…すき…!)
(ジャイアントキリングを成し遂げ得る"魂魄の乖離"マジにつよいし、闘技場みたいな感じの試練だったと分かった時は「ええー!?」って本気で驚かされました!お茶目でちょっと雑なカイシェール様…すき…)
(フィレナさんとケーちゃんとリモンチェッロさんの3人が海底神殿のかつての王と神獣のように伝説を紡ぎ、物語られるかもしれない未来を予感させるような余韻…とてもよき…いいものを読ませていただきました…) - 34リモンチェッロ◆jBToGexAu222/04/21(木) 22:18:06
(わーめっちゃ誉められたーうれしーありがとうございました!)(ちなみに裏設定ですが試練終了後の元通りは勝者にしか適応されず敗者はそのまま死ぬというものがあったり……)(闘技場とは似て非なる街の守護者カイシェールにしか出来ない大魔術という設定だったけど本編には出せませんでした……残念……)