- 1◆je8PYTqP5Ydc25/09/03(水) 16:37:16
- 2◆je8PYTqP5Ydc25/09/03(水) 16:40:07
- 3◆je8PYTqP5Ydc25/09/03(水) 16:41:38
【プロローグ】
パンパカパン!
学P「葛城さん、14人もの癖がそれはもう強い彼女の皆さんとカップル成立、おめでとうございます」
学P「陰ながら応援しておりましたが、きっとうまくいくと信じておりました」
リーリヤ「あはは、ありがとうございます。わざわざケーキまで用意してもらって……」
学P「彼女が増えるに呼応して、葛城さんのアイドル力も向上しています」
学P「今の貴女に勝てるアイドルはそう多くないでしょう」
リーリヤ「あまり実感はないですが……」
学P「さて、N.I.Aの次期が近づいてきました」
リーリヤ「あれ?もうすぐ年末ですよね、あれって六月くらいのはずでは……」
学P「何を言っているんですか、今はまだ五月ですよ」
リーリヤ「あれっ」
※サザエさん時空的な何か - 4◆je8PYTqP5Ydc25/09/03(水) 16:43:07
リーリヤ「ともかく……N.I.Aですか」
学P「はい、ご存知かと思いますが、営業やオーディションを経てランキングを上げていくシステムです」
学P「ですが……葛城さんは本意ではない、そうですね?」
リーリヤ「…………」
学P「花海咲季さんとの五番勝負、決着ではなく団結を意識した貴女ですから」
学P「それに、たびたび口にしていたように葛城さんは本当に……アイドルという固定観念を変えようとしている。愛の力で、既存の枠組みを壊そうとしている」
リーリヤ「はい、誰かが泣いて、一人しか笑えない。そんなシステム、私は嫌です」
リーリヤ「傲慢でしょうか?」
学P「いえ、葛城さんらしいと言えます」
リーリヤ「だから私の目標は、一人しか頂点にたてないH.I.Fのシステムを変えたいんです」
私が胸の内で考えていた案を、提示する。
リーリヤ「私たち15人で、ひとつのユニットとして……出場します」 - 5◆je8PYTqP5Ydc25/09/03(水) 16:44:40
学P「基本、H.I.Fの舞台は個人で選出されます」
学P「前例はあっても二人や三人規模の、小規模なものだけです」
わかっている。
人数を増やしてしまえば、年の一番星を決めるという趣旨に反してしまう。
それでも――。
リーリヤ「やる必要があります」
学P「はい、それだけじゃない。まだ厳密に言えば、アイドル科の生徒ではない藤田さんの妹さん……藤田ことはさんも、出場させるつもりですよね」
リーリヤ「当然です。誰か一人でも欠けたら、意味なんてありません」
星南「そうこなくっちゃ」
同調する様に入ってきたのは、星南ちゃんだった。 - 6◆je8PYTqP5Ydc25/09/03(水) 16:45:44
学P「十王さん、人が悪いですね。盗み聞きだなんて」
星南「許してちょうだい。あまりにも格好いいリーリヤの姿をみてほれぼれしていたんだから」
星南「リーリヤ、貴女の覚悟を確かに聞いたわ」
星南「その強い意志を、私もかなえたい」
だから!と星南ちゃんは力強く胸を張る。
星南「お爺様と倉本家には既に話を通しているわ!そして……賛同をいただいているわ!」
学P「おお」リーリヤ「やった!」
星南「だけど、一筋縄ではいかないのも理解してほしいわ」
星南「N.I.AならびにH.I.Fには黒井社長の牛耳る極月学園……引いては961プロが参加している。彼らが簡単にこのある意味革新とも呼べる提案をそう簡単に飲まないわ」
星南「賀陽燐羽の移籍についても、ある意味で向こうからしたら許せない話だからね」
それは、わかってる。
星南「だけど、彼らも鬼ではないわ。同じアイドル業界の発展を望む同志――だから、次に提示する条件を満たせば特例も認める、と言ってくれたわ」
リーリヤ「ごくり……」
星南「賀陽燐羽を含め、次のN.I.Aで私たち14人が……全員ランキング上位を総なめすること」
学P「流石にことはさんを含まないのは安心しました。流石にデビューすらしてないので」
全員で、上位。
そうすれば……夢がかなえられる! - 7◆je8PYTqP5Ydc25/09/03(水) 16:50:09
リーリヤが去った後。
燐羽「あら、話は終わったのね」
星南「遅かったわね」
燐羽「入れる空気じゃないから……それで話は?」
学P「済みましたよ。黒井社長が提示した条件も含め、葛城さんに伝えています」
燐羽「そ……本当にやる気なのね」
燐羽「……あの子が諦めるとは思わない」
しかしその燐羽の言い方には、いささかの含みがあった。
星南「……思う所があるようね」
燐羽「十王会長も学Pさんも……本当に懸念していることがないってのなら驚きよ」
その言い方に、二人は重々しく頷く。
燐羽「ずっと目を背けていた。私だけじゃない、美鈴や手毬、それに咲季お姉ちゃん……それだけじゃないわ。彼女を隣で見てきている全員がとっくに気付いている」
星南「ええ、私たちが彼女に甘えすぎたが故に、後回しになっていた問題」
星南「彼女自身が抱える元来の危うさ……」
星南「それと向き合わないと、この夢はかなわないわ」
燐羽「ま、私としては叶わなくても好きっていう気持ちは変わらないケド」
星南「それはみんなもそうよ……だけど、それだと他ならないあの子自身が負い目を感じて生きていくことになる」 - 8◆je8PYTqP5Ydc25/09/03(水) 16:53:57
燐羽「そんなのは、私は許せないわ」
燐羽「リーリヤを、じゃない。抱えているのをわかっていて見てみぬふりする自分を、よ」
星南「だけど今の私たちはまだ、為す術がない……ってのが本音」
燐羽「前年度とはいえ一番星じゃない。何か……ないの?」
星南「私を買い被り過ぎよ……」
本当に無念そうに星南は俯き、そして学Pを見る。
星南「先輩として聞きたいわ。どうすればいいかしら?」
学P「俺個人の意見でしかありませんが……今はまだこちらでできることはありません」
燐羽「意外ね、もう解決策を出してるばかりかと」
学P「これは葛城さんの問題ですから。本人が自覚できなければ何を言っても仕方がありません」
学P「ですが……裏を返せば、その問題さえ乗り越えればこのN.I.Aは問題ないでしょう」
燐羽「あら、随分と大きく出たわね。極月からも精鋭は出てくるわよ?」
学P「それでも、ですよ」
と言って学Pは笑った。 - 9◆je8PYTqP5Ydc25/09/03(水) 17:11:35
【リーリヤのノート】
※無人島イベのあと
学P「お疲れ様です。流石は学園長のお孫さん、やることもまたビッグですね」
リーリヤ「全員怪我無くてよかったですよ、本当に……」
学P「全員をまとめあげるとは流石ですね、アイドル力だけでなくリーダーシップも一流になりましたね。次の生徒会長に立候補して就任してもやっていけそうですね」
リーリヤ「柄じゃないですよ、それに順当に行けば千奈ちゃんか佑芽ちゃんか美鈴ちゃんの誰かですよ」
学P「女性を惹きつける力は凄まじいですからね、気を抜けば俺も危ないくらいです」
リーリヤ「えっ?」
学P「言ってませんでしたか?俺は女性ですよ」 - 10◆je8PYTqP5Ydc25/09/03(水) 17:25:47
※一応無人島イベはあった想定です。ややこしくてすみません。
- 11◆je8PYTqP5Ydc25/09/03(水) 17:54:27
リーリヤ「センパイが男装している方だったなんて……」
リーリヤ「しっかりしすぎていて気付けなかった、ってのは失礼なのかな」
リーリヤ「ともかく……ノートが間に合ってよかった」
リーリヤ「少し体調が悪いな……休もう」
---
ことね「えっ、リーリヤちゃんが風邪!?」
清夏「うん、今日は一日ねむっておくってさ」
ことね「確実に無人島騒動が尾を引いてるよなぁ……」
星南「そう言われると返す言葉がないわ……」
ことね「別に責めてるつもりはないですよ。あたしたちも楽しんでたし……」
咲季「なら徹夜でもしてたってこと?」
清夏「最近何かしてるのか、徹夜してたんだよね」
その言葉に、皆は黙り込んでしまう。
リーリヤが徹夜することはたまにあった。勿論完全休養日前に限定しているが。
理由はだいたいがアニメの一気見か、ゲームの徹夜。
清夏「だけどそのどっちでもなかったんだよね、なんか勉強してるみたいな……」
ことね「試験前でもないのに」
燐羽「いや学生が勉強するのは普通だからね?」
清夏・ことね「…………」 - 12◆je8PYTqP5Ydc25/09/03(水) 18:11:27
その後。
燐羽「ちょっと、お邪魔するわよ」
リーリヤ「燐羽ちゃん。風邪がうつっちゃうよ」
燐羽「いいわよ。他の子と違って私はアイドルじゃないし」
リーリヤ「燐羽ちゃんもアイドル……こほっ」
燐羽「人のことを心配している余裕なんてないじゃない、おばか。何か食べてるの?」
リーリヤ「ううん」
燐羽「……はぁ、おかゆくらいなら作るから待ってなさい。まったく、不調になると手毬よりも手のかかる子なんだから」
十分くらいすると、暖かいお茶とおかゆを持ってきてくれた。とってもおいしい……。
燐羽「あんた、何をたくらんでるの?」
リーリヤ「え?」
ひととおり食べ終わり、休んでいると燐羽ちゃんがそう言いだした。
燐羽「試験前でもないし、徹夜するほど成績悪い訳じゃないでしょ。それに、学Pとコソコソ何を考えているのかしら」
リーリヤ「そ、それはないしょかなって……」
燐羽「だめ」
燐羽ちゃんがそう言いながら、体を近づけてくる。
燐羽「言わないとキスするわよ」
リーリヤ「風邪が……」
燐羽「そ、もらうつもり。嫌なら言いなさい」
…………。
燐羽「はぁ!?」 - 13◆je8PYTqP5Ydc25/09/03(水) 18:44:03
燐羽「今の……聞き間違い?」
リーリヤ「違うよ」
燐羽「正気なの……?みんなのオリジナル楽曲を作ってたって……」
リーリヤ「作詞だけだよ。EDMとかも覚えないとね」
燐羽「いやそうじゃなくて……」
あのノートには、皆が歌うに相応しい曲の歌詞とタイトルが遺されていた。
それをセンパイに託していたのだ。
燐羽「えっ、私のも……?」
リーリヤ「当然だよ。全員分、きちんと完成させるんだ……N.I.Aまでに」
燐羽「それで身体壊しちゃ世話ないじゃない……」
燐羽「あんた、このままじゃH.I.Fまでに体を壊すわよ……?」
リーリヤ「そうならないようにしないとね」
しかし、燐羽ちゃんの不安はまだ晴れていないようだった。 - 14◆je8PYTqP5Ydc25/09/03(水) 19:20:24
【side清夏】
※視点がここから変わっていきます。
リーリヤが寝込んで数日後、突然リーリヤがセンパイと慕う学Pさんからお届け物が届いた。
皆もそうだったらしく、それを開くと殴り書きではあるけれど『Tame-Lie-One-Step』と油性ペンで書かれたCDが入っていた。
持っていたPCでそれを再生すると……驚いた。
まったく知らないデモ音源だった。
清夏「まさか……」
リーリヤが少し前から徹夜していた理由が、なんとなくわかった気がした。
あまりよくないのはわかっているけど、リーリヤの机の棚を開くと、そこには何十枚にも上る歌詞の原案が蓄積されていた。
流石にあたしでもわかる。
みんなの分も作っている!
H.I.Fをみんなで参戦するために、N.I.Aで頑張ろうとしているのは知ってたけれど……これじゃあ体壊れちゃうじゃん! - 15ハッシュ25/09/03(水) 19:30:27
陰ながら応援してます!
- 16◆je8PYTqP5Ydc25/09/03(水) 19:32:32
清夏「リーリヤ!」
今日は完全休養日のはずだ。
だけど、なんでリーリヤは自主レッスンしてるの……?
リーリヤ「清夏ちゃん、音源届いたかな?」
清夏「聞いたよっ、聞いた。驚いた、だけど今はそうじゃなくって……」
清夏「病み上がりなんだよ!?」
リーリヤ「え、えへへ。ごめんね、でもあとちょっとだけ……」
清夏「だめだから!休まないと佑芽っち呼んで縛るよ!」
リーリヤ「え、ええ!?」
気持ちはわからないでもない。
数日間だけでも、休んでいると自分が置いて行かれるような気がするのは、痛いほどわかる。
……どうすればリーリヤを、止められるかな。
あたしだけじゃだめだ。 - 17◆je8PYTqP5Ydc25/09/03(水) 19:33:42
- 18◆je8PYTqP5Ydc25/09/03(水) 19:39:54
【sideことね】
ことは「お姉~!たいへんたいへん!」
ことね「どうしたどうした」
ことね「てか走るな~?」
家がぼろいんだから走るなっての。
ことはが何か急いでいるようだけど、何があったんだ?
ことは「リーリヤちゃんからプレゼント!」
ことね「うぇっ!?早く言えよ~!」
ことは「お姉が走るなって言ったやん」
受け取った封筒に入っていたのは、CDだった。ことはのとは違うCDっぽい。
そこに書かれた文字は……『世界一可愛い私』……?
とりあえず、聞いてみることにした。
ことね「!」ことは「!」
ことは「これって……あたしの」
ことは「これって……うちの……」
ことね・ことは「持ち曲!?」
姉妹揃ってどんちゃん騒ぎしてしまった。チビたちに訝しまれたけど今はそれどころじゃない。
ことは「いやでも、なんかおかしいって!」
ことね「どういうコト?」 - 19◆je8PYTqP5Ydc25/09/03(水) 19:46:57
ことは「これって……N.I.Aに向けての曲だよね、きっと」
ことね「あっ」
ことは「そうだとしてもみんなのを作るのはおかしいけど……うちのを作る必要はなくない?」
ことは「そもそもまだ候補生だし……」
……きっと、仲間外れにしたくないからだ。
それはすぐにでもわかるケド……。
ことは「す、すごい曲だよ……作詞はリーリヤちゃんだって……」
ことはとチビたちは騒ぎに騒いでいる。
いや勿論、あたしも嬉しい。
なんだよ、この曲……あたしのこと好きすぎじゃん!!!!!
だけど、少しして冷静になる。
無人島とか、それ以外にもいろいろ多忙だったのに、これを作ってたの?
最近の体の不調も含め……何か肝心なことを見逃している気がしてならなかった。 - 20◆je8PYTqP5Ydc25/09/03(水) 20:46:22
【side 咲季】
咲季「何よこれ!?」
佑芽「すごーーい!」
突然配達された『Fighting My Way』と『The The Rolling Riceball』と記されたCDだった。
すぐにそれがデモ音源であることはわかったわ。
一度聞けば、それを誰が作ったかということも……。
こんなわかりやすい愛、リーリヤ以外にありえない。
私と佑芽、どっちにも優劣をつけることなく共に最高を発揮できるようにつくられたこの曲……嬉しくないわけがない。
次のN.I.Aではこの曲を引っ提げて、頂点を一緒に目指す。
佑芽「お姉ちゃん……?」
咲季「ねぇ、佑芽」
咲季「最近のリーリヤを見て、貴女はどう思う?」
悔しいけれど、リーリヤと愛を育んでいる時間は佑芽の方が長い。
なんなら私が一番の新参者だ。
だけど、この、私でもわかる違和感は……きっと佑芽だって。
佑芽「いつだってリーリヤちゃんは明るいよ」
佑芽「だけど……なんでだろう」
佑芽「たまにとっても、疲れているような、しんどそうな顔を見せるんだ」 - 21◆je8PYTqP5Ydc25/09/03(水) 20:56:08
咲季「やっぱりそうなのね……」
咲季「リーリヤを止めないと、取り返しのつかないことになるわ」
佑芽「で、でも!」
佑芽が、私の言葉を遮ってきた。
佑芽「リーリヤちゃんは、どうしたいのか……」
佑芽「それを考えるとね、止めていいのかなって、とも思うんだ」
佑芽「あたし達ができることって、止めるしかないのかなって……」
咲季「佑芽……だけど、倒れたら夢だって……」
はっきり言うと、会話は平行線になってしまった。
わかっているわよ、無理に止めることが最適解じゃないってことも……。
だけど、わからないわ。
このままじゃ、リーリヤは壊れちゃうんだもの……。 - 22◆je8PYTqP5Ydc25/09/03(水) 21:01:21
【広視点】
広(これは……)
『光景』と記されたCD。そして、隣には……『Wonder Scale』と記されたCDに喜ぶ千奈の姿。
ほぼ同時刻に、他の皆の下にも届いていることがわかる。
間違いなく、リーリヤの贈り物。
とっても……嬉しい。私が私らしく歌える、これ以上の曲はない。
千奈「篠澤さん、どうかされましたか?」
広「ううん、少し……」
広「いいや、なんでもない」
千奈「?」
千奈「そういえば……」
と、千奈が何かを閃く。
千奈「リーリヤさんの曲は、なんなのでしょうか」
広「…………」
思い浮かばなかった。
この様子から、きっと他の皆の曲もリーリヤが作ったっぽい。
それと同時期に、自分のにも着手していた?
……そう信じたいけど、少し、情報が足りない。
千奈「……何か、ありましたの?」
広「あった……というか、これから……起きるかもしれない」 - 23◆je8PYTqP5Ydc25/09/03(水) 21:11:10
広「千奈は、さ」
広「もしも仮に……リーリヤが無理をしているのをみたら、どうする?」
千奈「そ、そんなのだめですわ!絶対に止めます!」
広「うん、私も同じ」
だけど、現段階で他の皆が一致した考えでないことは予測できる。
現に、私もまだ考えがまとまっていない。
二律背反の、究極の選択だとも思う。
それこそ人数にものを言わせればリーリヤを無理やりにでも休ませることはできる。
だけど、それはリーリヤの望むところではない。
このままだと間違いなくリーリヤは自壊する。それは絶対に嫌だ。
だけど強引に引き留めて、そのときに負った心の傷は?
どっちが上か下か……なんて言えない。
ままならない、ね。今まで以上にずっと、ずっと。 - 24◆je8PYTqP5Ydc25/09/03(水) 21:41:07
【手毬視点】
手毬「リーリヤ……」
届いたCDには、『Luna Say Maybe』と書かれていた。
美鈴にも同じようだ。
美鈴「…………」
手毬「美鈴、起きてよ」
美鈴「……起きていますよ」
燐羽「あら、二人ももう届いていたのね」
部屋に入ってきた燐羽も、その手にCDがあった。
燐羽「危惧していたことがおとずれてしまった」
手毬「……うん」
美鈴「…………」
私は立ち上がる。見てみぬふりなんて……。
燐羽「私も行くわ」
手毬「ありがとう!」
だけど、美鈴が立ちはだかってきた。
美鈴「…………」
手毬「美鈴、ふざけてる時間はないんだけど」
美鈴「ふざけていません」 - 25◆je8PYTqP5Ydc25/09/03(水) 21:48:00
美鈴「その行為は、リーリヤさんのためにならない」
美鈴「そう言っているんです」
燐羽「わからなくはないけど……」
手毬「燐羽!?」
何を言っているの?
燐羽「ちゃんと最後まで聞きなさい。たしかに……ある程度は彼女のやりたいようにさせてあげたい」
燐羽「だけど、もう……その範疇は超えているわよ。現に体を壊した」
燐羽「流行りの風邪ばかりと思っていたけど……」
手毬「間違いなく、この曲作りが原因だよ」
手毬「私たちはリーリヤに無理を強いていた、止めさせないと……」
美鈴「無理に止められた側の気持ちは……二人が一番わかっているはずです」
もちろん、無理はしてほしくない、という前置きを告げた上で美鈴はつづける。
美鈴「慎重にいかないと……いけない気がします」
なんでこんな時に限って……とも思う。
だけど、燐羽と私が離れていく過去を経たからこそかもしれないけど、このままじゃリーリヤは……。
どうすればいいの……? - 26◆je8PYTqP5Ydc25/09/03(水) 22:52:02
【side:莉波】
大変な騒ぎになっているのは、生徒会室でも同じだった。
麻央「ボクにも……莉波にも届いていたんだね」
莉波「うん……」
星南「リーリヤが何かをしていることは聞いていたけど、まさか私や燕も含めた全員の楽曲を作っていたなんて」
星南「ふふ、この私にもよ?」
星南「だけど、喜んでいる場合じゃないわね」
燕「…………」
リーリヤちゃんからの曲は、本当に私という遅咲きもいいところだったアイドルを、理解してくれている。
だけど、皆素直に喜べていないみたい。
燕「嬉しい、この私にも曲を作ってくれたのは……だが、最近のリーリヤの姿をみているのでな」
わかっている。今のリーリヤちゃんは今にも壊れそうで……見ていられなかった。
麻央「でも、どうすればいいんだい? ボクたちにできることは……」
燕「何を腑抜けたことを言っている?」
燕「今すぐ休ませるぞ、これ以上……見てられん」
麻央「それは……」
星南「待ちなさい、私はそれには反対よ」
燕「なんだと?」
今迄にないくらい、生徒会室に緊張が走っている。
どちらの言い分もわかるから、余計に……。 - 27◆je8PYTqP5Ydc25/09/03(水) 22:58:24
星南「これに関しては事前に学Pさんと協議していたわ。あの人は……」
燕「なんと答えたんだ!」
星南「リーリヤ自身の問題よ。私たちが止めても、あの子のためにならない。自分で気づかないと……」
燕「悠長なことを言っている場合か?現に……」
麻央「……ボクも燕に賛成だ。誰しも、悩みはある。ボクだって……ここにいる皆もそうだろう?」
麻央「事実、リーリヤは今最大級の壁に行きあたっている。今まで何度も助けられたボクたちが……何もしないなんて、そういうわけには」
駄目、これ以上は喧嘩になっちゃうよ。
だけど、どうしてかな……言葉が出ないよ。
昔、このメンバーで喧嘩したこともあった。でも、今回は共通の大好きな人の為に、皆が考えている。
燕「そもそも厄介な条件を課されたからでは……」
星南「黒井社長を言いくるめるにはそれしか……」
麻央「でもあの子が背負うことは……」
止めないと……せっかく、みんなで前に進めたのに、これじゃあ……。
麻央「……莉波」
莉波「!」 - 28◆je8PYTqP5Ydc25/09/03(水) 23:01:18
麻央「ボクたちは……また間違えるところだった」
麻央「……人として失格だよ、莉波が泣いているのに気にせずに、口論だなんて」
莉波「あれっ、私……なんで……」
私、泣いてたの?
麻央「これまでの……やり方じゃダメなんだ。誰かが我慢して終わっていたら、リーリヤの夢はかなえられない」
麻央「見ただろう?五番勝負のリーリヤを」
星南「あの子は……みんなで一緒、という可能性を示したわ」
燕「……あれを見ていた私たちが、ここで揉めていて分裂しては、申し訳が立たぬな」
星南「そうよ……だからこそ、話し合う必要がある」
星南「みんなで集まって、みんなでいっぱい考えましょう」
こうして、リーリヤちゃん以外の全員で集まることになった。 - 29◆je8PYTqP5Ydc25/09/03(水) 23:02:46
- 30◆je8PYTqP5Ydc25/09/04(木) 00:34:57
初星学園の会議室。
そこに集まったのは、リーリヤの彼女たち一同だ。
主役たるリーリヤを除き、ここまで揃うこともそうない。全員が深刻な表情と、焦燥を浮かべている。
燐羽「話すことなんてあるかしら、もうやるべきことは決まっているでしょう?」
燕「皆落ち着け。私たちの中でさえ意見が割れているのだ……その状態で突撃したとて、上手くいくまい」
燐羽「お言葉だけど、あの子は今なお無理を続けている、聞いているでしょう?」
燐羽はリーリヤが今も、自主レッスンをしている事実を告げる。
燐羽「まずは止めればいい。そこから考えればいいわ」
星南「……燐羽に同意よ。とりあえず、他の子で同じ考えの子は?」
ゆっくりと、咲季に燕、麻央、手毬、そしてことね姉妹が手を挙げる。
燐羽「他は反対なのかしら?」
広「まだ答えが出ていない。そう簡単に答えの出せる問題ではない」
燐羽「悠長なことね」
咲季「燐羽、落ち着きなさい……ここで喧嘩をしても仕方ないじゃない」
咲季「会長は各個人が暴走しないように、こうして場を設けたのでしょ?」
星南「ええ、そうよ。これは多数決で決まることじゃない。全員が納得する必要が――」
麻央「ボクは燐羽側だからいうけど、納得を待って取り返しのつかない事態になっては意味がないじゃないか」
……と、話はまだまとまる様子はない。 - 31◆je8PYTqP5Ydc25/09/04(木) 00:40:58
莉波「待って……麻央」
ここで、沈黙を保っていた莉波がゆっくりと、緊張しながらも言葉を紡ぎ始める。
莉波「リーリヤちゃんは……誰かを蹴落として、誰かが勝てる……そんな戦いを終わらせたいんだよね?」
星南「……そうね」
N.I.Aは、いわばそのための布石だ。
莉波「その道は遠く難しい、それは私たちもリーリヤちゃんもわかっているよ」
莉波「だけど……少なくとも、私たちの中だけでは喧嘩をしてちゃ、駄目だと思うよ」
莉波「理想論だよ? 理想論だってわかってる……だけど」
手毬「リーリヤはその理想論に真正面から向き合っている」
千奈「それに、夢を現実に叶えるために……ここまで頑張ってくれましたの」
佑芽「そうだよ、みんな、リーリヤちゃんに助けられてきた!」
皆が皆、リーリヤがいなければアイドルとして詰んでいただろう。
だからこそ、ここで揉めていてはいけない。
考えがどうあれ、想いは一つなんだから。 - 32◆je8PYTqP5Ydc25/09/04(木) 00:50:02
莉波「ねぇ、燐羽ちゃん、一旦深呼吸しよ?」
美鈴「そうです。りんちゃんがリーリヤさんと親密になった日、こう言っていました」
美鈴「遅すぎることはない、と」
燐羽「チッ……これじゃあ私が悪者じゃない。まぁ、頭は冷やすわよ」
勘違いしてはいけないのは、皆、同じ想いであるということ。
リーリヤが大好きだからこそ……後悔をしたくない。その一心だ。
ことね「実際問題どうすっかなー……ここにリーリヤちゃんを呼んで、説き伏せても多分納得しないと思う」
ことは「うん……リーリヤちゃんだからじゃなく、誰だってそうだよ」
咲季「無理やり言い聞かせても駄目、強引に休ませるのも駄目……八方塞がりじゃない!」
手毬「……まだ、あるよ。やり方が。いつもリーリヤは私たちの予想しない方向から問題を解決してきた」
美鈴「ええ、私やりんちゃんが再び歩き出せたように」
議論は確かに堂々巡りではあるが、でもわずかに、皆の心が前向きに動き始めた。
燐羽「ずうっと黙っているけど……らしくないじゃない、清夏」
燐羽「認めるのも変な感じだけど、あんたが一番リーリヤと付き合いも長い」
燐羽「何かないの?」
視線が一気に清夏に集中した! - 33◆je8PYTqP5Ydc25/09/04(木) 01:00:23
唯一、沈黙を保っていたのは清夏だった。
だが決して、さぼっていたのではない。清夏は冷静に、全員の言葉に耳を傾けていた。
間違いなく、リーリヤならそうするだろうという確信があったからだ。
清夏「あたしは……うん、答えはまとまった」
その言葉に、全員が息を飲む。
清夏「燐羽っちのいう通り、時間がないのも事実。いつリーリヤが倒れるかもわからない今は」
燐羽「……そうね」
清夏「だけど、星南っち会長の言い分も、わかる。強引に止めても止まる子じゃないよ、リーリヤは」
清夏「自分自身で気付く必要がある」
星南「そうね、私も先輩も同じ見解よ」
清夏「そうだよ、気付く必要がある。言い聞かせるのでもなく、行動で止めるのでもなく……」
咲季「つまりそれって……」
清夏「あたしたちがサポートするしかないんじゃないかな」
場が静寂に包まれる。
清夏「リーリヤは走り続けるよ。最善を、幸福を掴むために」
清夏「だけど、あたしたちはそれを”止める”ことばかり考えている。なんで一緒に走らないんだろう?」
美鈴「…………」
清夏「私たちはリーリヤのおんぶにだっこは嫌だって、個々人でレッスンしてきたじゃん!」
決してリーリヤと差があるワケではない。
皆、一緒のラインに立てているのだ。
清夏「みんなリーリヤが大好きで、その気持ちが一緒なら……きっと支えられるよ」
清夏「支えようよ!あたしたちが支えまくって、もういいよってリーリヤが引いちゃうくらいに!」 - 34◆je8PYTqP5Ydc25/09/04(木) 01:10:19
【リーリヤの旅】
全員「支えるぞ!えいえいおー!!!」
センパイに連れられ、ある会議室の扉の前でそっと聞き耳を立てていた。
学P「さ、みなさんが出てくる前に移動しましょうか。そうですね、誰も来なさそうな俺の教室にしましょう」
リーリヤ「……はい」
何してるんだろうなぁ、私。
学P「ここは誰も見ていません。とびっきり泣いても、責める人はいませんよ」
リーリヤ「泣いてなんて……」
学P「いいんです。泣くことは悪いことではない。むしろ、溜め込む方が問題です」
リーリヤ「っ……」
気付けば私は、声をあげて泣いていた。
皆にあんな辛い思いをさせて、何をしている、自分が嫌になる……。
リーリヤ「……私、自分があまり好きじゃないんです」
リーリヤ「才能なんてないから、ちょっとでも遅れたら皆にもう追いつけないかもって」
リーリヤ「そんなことしないってわかってるのに」
学P「……弱くない人はいません。それがあるから、人は強くなれるんです。とはいえ……すぐには難しいでしょう」
学P「ですから、少しだけ……旅をしましょうか」
リーリヤ「え?」 - 35◆je8PYTqP5Ydc25/09/04(木) 01:12:03