[ウマ娘]ある記者の話[SS]

  • 1122/04/22(金) 02:02:50

    俺は小さい頃から、トレーナーになりたかった。
    母がウマ娘だったとか、初恋の子がウマ娘だったとか、足の速かった自分がウマ娘には歯が立たなくて悔しかったとか、そんなありふれた動機。
    自分がウマ娘でないことを憎みもしたし、思春期まではウマ耳と尻尾がいつか生えてきてくれて唯一の男のウマ娘誕生!何てことを期待していた。結局、自分には声変わりが来て固そうな身体に変わって……そんな奇跡はなかったけれど。
    トレーナーになるなら中央のトレーナーだろ、それ以外は雑魚だ!なんてトレーナー志望の友人達とゲラゲラ笑った高校時代も最早懐かしい。
    大学に入って思い知った。自分よりウマ娘のことに詳しくて、身体について教養があって、コネがあって、そして単純に賢しい奴らがたくさんいること。…中央トレーナーという壁を。

    結局どこまでも中途半端だった俺は3回中央のトレーナー試験を落ちて諦め、記者になった。
    通常のトレーナーの資格は取れていたけれど惨めなプライドだけが俺をそちらに進むことを阻んだ。

  • 2122/04/22(金) 02:04:14

    記者になって5年。トゥウィンクルシリーズをメインで追いかける記者になれてから2年。
    やっぱりウマ娘は好きでレースも好きな俺にとってこの職は素晴らしいものだった。最前線で追っかけて注目される子を取材し、ある時は自分の勘が囁いたあまり目立たない子を上司を説得して注目する。その子が台風の目になってくれた時なんかは天にも昇る気持ちだった。
    そう。この記者という仕事は俺の天職だったのだ。そうに違いない。……そうに決まっている。

    そんな楽しい日々を過ごしていたある日のことだった。URAから重大発表があるという知らせが入ったのだ。てんやわんやの職場を尻目に自分の心は落ち着いていた。正直ウマ娘が好きなだけでそれを運営する組織にはあまり興味がなかった。無論、トゥウィンクルシリーズ追う記者としては無関心ではいられないし、ふざけた方針や行動をするなら全力で報道する心づもりではあったが。

  • 3122/04/22(金) 02:05:00

    会場でカメラを構えて待つ。先輩や同業他社は浮き足だって今か今かと待ち望んでいる。……自分は…果たしてここに相応しい人物なんだろうか。そんな考えがよぎった時会見が始まった。前に出てきたのはトレセン学園の理事長。指導者としても非常に優れており理事長としてもその腕を存分に奮っている。常に帽子を被っていることと、かつて活躍したあるウマ娘に容姿が似ているということから正体はウマ娘なのではないかとまことしやかに囁かれているが……実際のところ確定といって差し支えないだろう。

    しかし理事長が出てくるということはトレセン学園に大きく関わることなのか。そう記者たちがどよめいていると理事長が口を開いた。
    『理事長を娘に受け継ぎます』
    娘?理事長の娘といえばまだ幼子であったのではないか。会場が動揺で埋め尽くされると同時に大声がこだまする。
    「静粛!」

  • 4122/04/22(金) 02:05:40

    一斉に記者が舞台端を見ると一人の少女が扇子を持って佇んでいた。
    その時、視界が開けたような気がした。自分を閉じ込めていた岩がゴロリと動いて、救いの手をさしのべられたかのような。
    次代の理事長はあどけない顔立ちとは裏腹に勇ましく、美しい少女だった。

    もうそこから先は夢中だった。何もかんがえず話を聞いて、吸い込み、自分の体を作るようにメモを取った。

    気づけば記者会見が終わり記者達はゾロゾロと帰っていく。帰り支度をしている先輩にカメラの後片付けを押し付ける。ここを逃してはならない。舞台上をかけ登り関係者以外立入禁止の看板を無視して控え室前にいる少女に話しかける。

    「あ、秋川やよい新理事長!」
    少女はぎょっとこちらを向いた。
    そして俺は一世一代の告白をした。
    「俺の、担当ウマ娘になってください!」

  • 5122/04/22(金) 02:06:28

    「振られました。」
    「お前ってロリコンだったんだな。……いや、ペドフィリア?とか、アリスコンプレックス?だったか?」
    会社の机で突っ伏す俺に先輩が容赦のない言葉のナイフを突き立てる。
    「そもそもお前中央の資格持ってないだろ。トレーナーになりたいのはわかるが、俺たちには俺たちにしかできないことがあるよ。」
    先輩はモジャモジャの髭を撫でながらくるりと向き直り今日の記者会見の記事を作り始めた。

    「拒否!君の担当ウマ娘にはならない!」

    はっきりとそう言われた。言われたけれど、見つけた気がした。俺が目指す場所、目標を。

    突然上から本が振ってくる。
    「やるよ。俺が見てきた中央トレーナーの8割がこれを使って勉強してた。」
    先輩はこちらを向かずに話しかけてくれた。
    「がんばれよ。まあ、まずは反省文だがな。向こうの厚意で大事にされなかったんだ。きっちり書けよ。」

    「……はい。がんばります。ありがとうございます。」
    中央の資格を取る。取ってもう一度彼女に言いにいくんだ。俺の担当ウマ娘になってください、と。

  • 6122/04/22(金) 02:06:51

    終わり

  • 7二次元好きの匿名さん22/04/22(金) 02:19:34

    いい…

  • 8二次元好きの匿名さん22/04/22(金) 02:27:52

    子供理事長を世間は受け入れたんだろうか

  • 9二次元好きの匿名さん22/04/22(金) 02:35:26

    夢を追いかけられるようになったのは良かったけど立入禁止のところに突っ込むか普通
    いや普通じゃなかったんだろうけどさ

  • 10二次元好きの匿名さん22/04/22(金) 02:48:16

    先輩めっちゃいい人だな

  • 11二次元好きの匿名さん22/04/22(金) 03:18:49

    地方トレーナー目指していれば

  • 12二次元好きの匿名さん22/04/22(金) 08:57:22

    実際理事長は走んないのかな

  • 13二次元好きの匿名さん22/04/22(金) 12:27:17

    理事長の…理事長の過去が知りてえよ~
    頼むよ友人サポカ出してどういう敬意で理事長になったのか教えてくれよー

  • 14二次元好きの匿名さん22/04/23(土) 00:08:21

    この記者くんがトレーナーになって理事長から「あの時の!」ってなってお目付けされると思うとすごいいいね

  • 15二次元好きの匿名さん22/04/23(土) 02:37:23

    このレスは削除されています

  • 16122/04/23(土) 06:59:01

    感想ありがたい……
    アプリ中ではきっと見れないけれど理事長のトゥウィンクルシリーズで走るときの話とか見たいね
    年代が逆行しそうなのが問題だけど

  • 17二次元好きの匿名さん22/04/23(土) 18:16:06

    >>16

    またなんか書いてくれ、めっちゃ良かった過去作品としてこのスレを新スレで紹介とかして欲しい

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