あたしの一番星

  • 1二次元好きの匿名さん25/09/05(金) 23:16:42

    藤田ことねは夜道を駆けていた。

    時刻なんてもうわからない。ただただ逃げるしかなかった。

    そう――あたしは追われている。

    誰に?なんで?そんなことすらわからないまま。

  • 2二次元好きの匿名さん25/09/05(金) 23:19:52

    ――30分前――

    咲季「そろそろ8時だし、わたしは寝るわ」

    ことね「そっかー。おやすみ、咲季」

    咲季「ことねも早く寝なさいよ。体調崩したらRe;IRISがやばくなるでしょ?」

    ことね「ちゃーんと分かってるって」

    ことね「あたしももう寝よっかな」

    歯を磨こうとした瞬間、歯磨き粉が切れてるのに気づいた。

    ことね「あれ?もうなかったんだ」

    まだ遅い時間でもないし、コンビニまでなら平気だろう。

    歯磨き粉を買って帰る――そのはずだった。

    帰路につき、寮に向かって歩き出した途端――

    辺りは急に闇に包まれた。

    満月は雲に隠れ、街灯は不気味に明滅を繰り返す。

    そして、前方に「それ」は立っていた。

    さっきまで人影なんてなかったはずなのに。

  • 3二次元好きの匿名さん25/09/05(金) 23:22:23

    人……? 違う。

    四肢はあるのに、全身は鈍い灰色で、顔には目も口も何もない。

    頭部らしき部分からは、角が突き出ていた。

    ことね「ひっ……!」

    思わずビニール袋を落として後ずさる。

    化物は顔をこちらに向け、しばらくあたしを値踏みするように“見た”あと――

    走り出してきた。

  • 4二次元好きの匿名さん25/09/05(金) 23:23:32

    そして、今に至る。

    都会の夜、まだ遅くもないのに

    響くのはあたしと化物の足音だけ。

    ことね「な、なにこれ……っ!」

    もう10分近く走っている。肺が焼けるみたいに苦しい。

    アイドルになるためトレーニングをしてきたのに、

    恐怖のせいか全然役に立たない。

    それに……おかしい。

    知り尽くした道なのに、寮に帰れない。

    人の気配もない。

    延々と同じ道をぐるぐる回ってるみたいだ。

  • 5二次元好きの匿名さん25/09/05(金) 23:24:44

    走るスピードは落ちているはずなのに、距離は縮まらない。

    まるで化物が狩りを楽しんでいるみたいに

    ことね「だっ、誰かぁ――!」

    助けを求める声は闇に吸い込まれていく。

    もう何回目だろう

    やがて、丁字路にぶち当たった。

    左右に分かれた道を直感で左へ進む。

    けれど、そこは行き止まりだった。

  • 6二次元好きの匿名さん25/09/05(金) 23:25:46

    絶望と疲労で腰を落とす。

    ことね「はぁっ、はぁっ……っ」

    視界が歪む。息が乱れて抑えられない

    ふと上を見上げると、雲が切れて月光が差し込んだ。

    その光に照らされ、追跡者の正体がはっきりと浮かび上がる。

    全身が黒光りするゴムのような質感。歪んだ角が二本。

    やっぱり――人間なんかじゃない

    どうして、こんな目に

    あたしはただ、アイドルに憧れただけなのに

  • 7二次元好きの匿名さん25/09/05(金) 23:30:17

    化物がゆっくりと近づく

    もう動けないあたしは声を振り絞った。

    ことね「誰か――っ!誰かぁぁっ!」


    ???「呼んだかしら」

    凛とした、上品で力強い声が闇を裂いた。

    ことね「えっ……!?」

    反応が、あった……?

    ???「奇遇ね、ことね」

    月光を背に、背の高い少女が現れる。

    金色の髪が光を弾いて輝いた。

    ???「固有魔法――《小さな野望》」

    少女がそう唱えると少女の右手に剣が急に現れる。

    化物「■■■……!?」

    化物は驚いたように、この世のものとは思えない奇声をあげた。

    次の瞬間、少女の剣が化物の体を一閃し、化物は塵となって霧散した。

  • 8二次元好きの匿名さん25/09/05(金) 23:31:18

    ことね「じゅ、十王……会長……?」

    訳が分からないまま、あたしは声をかける。

    少女は振り返り、堂々と名乗った。

    星南「私が初星学園生徒会長、十王星南よ」

    星南「――そして、魔法少女なの」

    月光を浴びたその姿は、ただただ美しくて

    目を離すことなんて、できなかった。

  • 9二次元好きの匿名さん25/09/05(金) 23:52:52

    こんなにかっこいい会長は久しぶりに見た

  • 10二次元好きの匿名さん25/09/06(土) 00:04:01

    ごめん、バケモノが会長というオチだと思った

  • 11二次元好きの匿名さん25/09/06(土) 00:10:02

    バケモノも会長じゃないか...?

  • 12二次元好きの匿名さん25/09/06(土) 09:36:26

    ほしゅ

  • 13二次元好きの匿名さん25/09/06(土) 10:03:53

    星南「さあ、上がって頂戴」

    ことね「お、お邪魔します……」

    あれから会長は、あたしが落ち着くまで側にいてくれて。

    その後SPらしき人が車で迎えに来て、なぜか一緒に会長の家へ。

    星南「紅茶をいれてくるわ」

    ことね「……」

    星南「~~~♪」

    会長が鼻歌まじりに紅茶を準備している

    ことね「あの、会長……?」

    星南「私のことは星南と呼んで頂戴、ことね」

    ことね「……星南会長」

    星南「星・南」

    ことね「…………星南先輩」

    星南「まあ、いいでしょう」

  • 14二次元好きの匿名さん25/09/06(土) 10:05:02

    ことね「それで、あの化物って何だったんですか?」

    ことね「星南先輩が倒したら、辺りは元通りになったし……」

    星南「ことね。これから話すことは本当のことよ」

    カップを差し出しながら、会長は静かに言った。

    星南「この世界にはね、魔物と呼ばれる存在がいるの」

    星南「普通の人には見えないし、襲われても災害として認識されるわ」

    星南「そして、その魔物を倒すのが魔法少女」

    ことね「……見ちゃったから信じないわけにもいかないけど」

    現実味がなくて、頭が追いつかない。

    ことね「星南先輩は、どうして魔法少女になったんですか?」

    星南「きっかけなどないわ。私は物心ついた頃にはもう魔法少女だったもの」

  • 15二次元好きの匿名さん25/09/06(土) 10:08:39

    ことね「えぇーーッ!?」

    星南「この世界にはね、時々“魔力”を持つ人間が生まれるの」

    星南「ほとんどは気づかないし、魔法も使えない」

    星南「私はその中でも魔法少女パワー10,000を持つ魔法少女よ」

    ことね「……いま、なんて?」

    星南「『魔法少女パワー』よ。そう、これはねーー」

    星南「魔力保有量、魔力効率、魔法適正……魔法少女に必要な3つの要素。」

    星南「私が視ているそれらを総合的に評価した指標が魔法少女パワーよ」

    星南「私には人の魔法少女パワーが視えるの」

    ことね「……星南先輩ってやっぱりすごいんですね…」

    星南「?何を言ってるの、ことね?」

    星南「あなたは魔法少女パワー100,000以上の逸材よ!」

    ことね「はぁぁあああああ!?」

  • 16二次元好きの匿名さん25/09/06(土) 19:20:50

    ほしゅ

  • 1725/09/06(土) 19:46:45

    初めまして、スレ主です。
    SSを書くのはこれが初めてなので、キャラの口調にズレがあったり、上手く話が作れないかもしれませんが
    温かく見守ってくれると嬉しいです。
    定期的に更新して、最後まで書くつもりです。
    とりあえず今日はもう一回更新します

  • 18二次元好きの匿名さん25/09/06(土) 23:58:06

    ことね「いやいや、待ってください。あたしこれまで魔法なんて使えたことないんですけど」

    星南「あなたには確かに強大な魔力量がある。それは間違いないわ」

    星南「いま使えないのは、ただ眠っているだけ」

    星南「いえ……さっき私が魔法を使ったことで、ことねも目覚めたかもしれない」

    ことね「魔法ってそんな伝染して目覚めるもんなの?」

    わけが分からないけど……え、もしかして、あたし魔法使えるの?

    ちょっとワクワクしてる自分がいるんだけど。

    ことね「星南先輩、あたしってどんな魔法が使えるんですか?」

    星南「そうね。魔法について説明するわ」

    星南「魔法には二種類ある。固有魔法と普通の魔法」

    星南「固有魔法はその人にしか使えない特別な力。その人の生き方を反映する、と言われている」

    星南「例えば私の場合はこれ。固有魔法《小さな野望》」

    唱えた瞬間、星南先輩の右手に剣が現れた。

    ことね「わっ、出た!」

  • 19二次元好きの匿名さん25/09/07(日) 00:06:45

    星南「《小さな野望》は魔法剣を生成する魔法。この剣で魔物を斬れば消滅し、私の身体能力も上がる」

    ことね「あたしを襲ったやつも、それで倒したんですか」

    星南「えぇ」

    星南「もう一つは“普通の魔法”。火・水・風・土など。適性と鍛錬があれば誰でも使えるわ」

    ことね「星南先輩でもあたしの固有魔法?は分からないんですか」

    星南「そうね。分からないわ。――ことね、今ここで試してみない?」

    ことね「えぇぇ!? ここ星南先輩の家ですよ。燃えたりしたらどうするんですか」

    星南「ことねになら別に構わないわ。それに両親は今日、外出してるし」

    ことね「いやいや、あたしが気にするって言ってるんですよ」

    星南「じゃあ庭ですればいいわ」

    ことね「……ん?今、何か物音しませんでした?」

    星南「私は感じなかったけれど?」

    ことね「……気のせいか」

    誰もいないはずの庭の方から、誰かの視線を感じた気がした。

    けれど振り返っても、そこには夜の静けさしかなかった。

  • 20二次元好きの匿名さん25/09/07(日) 00:10:13

    ――十王家、庭にて――

    ことね「えいっ!なんか出ろ!」

    静寂にあたしの声が響く。

    ことね「……」

    星南「……」

    何度やっても、何も起きない。

    ことね「……出ないですね」

    星南「……そうね」

    ことね「これじゃただの痛いやつじゃないですか!」

    星南「おかしいわね。私が魔法を使えば、ことねの潜在能力も開花するはずなのに」

    ことね「それ前例あるんですか?」

    星南「ないわ」

    ことね「ないんですか! じゃあ何で確信してたんですかぁ!」

    星南「でも、あなたが魔法に適正があることは間違いないわ」

    ことね「……なんかすっごい疲れました」

  • 21二次元好きの匿名さん25/09/07(日) 00:16:32

    ――十王家にて――

    ことね「そういえば、あたしが魔物に狙われた理由って何なんですか?」

    星南「基本的に魔物は無差別に人を襲う。けど、今回は違う」

    ことね「……あたしの魔力が関係してるんですか?」

    星南「そう。魔物は魔法少女から魔力を奪って力に変えることができる。あなたのように桁外れの魔力を持つ人間は、格好の獲物になる」

    ことね「……面倒くさい体質だなあ」

    魔力量が多いっていっても結局魔法なんて使えなかったし

    ただ魔物に狙われやすいだけじゃん

    星南「……もう一つ、おかしな点がある」

    星南「魔物には知性がある。だから普通なら、強い魔法少女が守っている地区には滅多に現れない」

    星南「私が最後に魔物と戦ったのは半年前。それでも今夜現れた

    星南「――つまり、私の力すら恐れぬほどの“何か”が裏で動いているのかもしれない」

  • 22二次元好きの匿名さん25/09/07(日) 00:23:56

    ことね「……“何か”って、どんなやつなんですか」

    星南「最悪の場合――“ハツミ”よ」

    ことね「“ハツミ”?」

    星南「最強の魔物に名付けられた通称。これまで“ハツミ”と遭遇して生き延びた魔法少女はいない」

    星南「目撃された瞬間、生還は不可能とされている。“初見で死ぬ”――だから“ハツミ”」

    ことね「……やめてくださいよ、そんな怖い名前。聞いただけで心臓バクバクしてきたんですけど……」

    星南「十王家の総力を挙げても姿を掴めなかった。それほどの存在」

    ことね「そんなのが、あたしに近づいてるってことですか」

    星南「可能性の話よ。ただ、今夜の件で確率は上がった」

    星南「だから、お願いがあるの」

    ことね「……なんですか」

    星南「ことね、しばらく私と一緒にいてちょうだい。私が守るわ」

  • 23二次元好きの匿名さん25/09/07(日) 00:32:25

    ことね「守ってもらえるのはありがたいんですけど……」

    星南「もちろん登下校も学校でも、風呂も寝るときも一緒よ」

    ことね「いやいや! 一緒のライン超えてますよ!」

    星南「私は本気よ。――あなたを守るためなら、常識なんてどうでもいい」

    ことね「本気なのが問題なんですよぉ……」

    星南「学校にいる間なら私の目が届くから守り切れる。」

    星南「でも、それ以上は妥協できない」

    星南「だから当面、登下校は一緒。寝泊まりも私の家で」

    ことね「いやいやいや、やっぱ無理ですって!」

    星南「ことね、私のどこがだめなの」

    ことね「何もかもだめですよ!」

    ことね「……そういえば一つ聞いていいですか」

    星南「えぇ。何かしら」

    ことね「今日助けてくれた時、“奇遇ね、ことね”って言いましたよね」

  • 24二次元好きの匿名さん25/09/07(日) 00:44:40

    星南「言ったわ」

    ことね「本当に奇遇だったんですか?」

    星南「……魔物とあなたの魔力反応が近かったから駆けつけただけよ」

    ことね「やっぱ奇遇じゃないじゃん!」

    ――十王家・寝室にて――

    話合った結果、今日だけ十王家で泊まることになった。

    さすが金持ち、来客用の部屋まで用意されてる。

    ふかふかのベッドに寝転びながら、そんなことを考える。

    けど……なんか落ち着かない。

    今日は訳わかんないことばっかりで、頭も身体も疲れた。

    ……何か忘れてる気がするけど、まあいいか。

    そう思いながら、あたしは眠りについた。

    ――でも、最後にほんの少しだけ考えた。

    星南先輩がいなかったら、私は今ここにいないんだよな……

  • 25二次元好きの匿名さん25/09/07(日) 03:58:37

    はつみ敵扱いで草
    一応奇遇ねがギャグとして消化されてるけど会長ちょっと怪しく見える…黒幕っぽい

  • 26二次元好きの匿名さん25/09/07(日) 10:39:32

    ブーッ! ブーッ!

    枕元でスマホが震えてる。……眠い

    でも眠るわけにはいかないよな

    ことね「知らない天井だ……」

    あ、そうだ。昨日は星南先輩の家に泊まったんだ

    スマホを見ると画面には「咲季」の名前

    ことね「お~咲季~!どうしたの~?」

    咲季「無事なのね!やっと繋がった……ほんとよかった!」

    咲季「わたしもPもすっごく心配していたのよ!」

    咲季「それで、今どこにいるの?」

    ことね「星南先輩の家だけど」

    咲季「星南先輩って……十王星南会長!? なんでそんなとこに!?」

    ことね「なんでって、そりゃ……」

    やば、なんて説明したら――

    ことね「あぁぁぁぁぁぁーーー!」

  • 27二次元好きの匿名さん25/09/07(日) 10:45:27

    昨日連絡するの……完っ全に忘れてた~~!

    咲季「ちょっ、いきなり叫ばないでよ!心臓止まるかと思ったじゃない!」

    ことね「ごめん!ちょっと後で説明するから!」ピッ

    咲季「あっ……!ちょっと待ちなさいよことね~~~!」

    慌てて通話を切ってスマホを確認した

    朝の4時すぎから咲季とPから着信がびっしり

    時刻は6:03か。学校には間に合うけど……

    いや、それより説明を考えないと

    ことね「どうしよ……何て言ったらいいんだろ」

    星南「ことね、どうかしたの?」

    ことね「昨日の晩、連絡入れるの忘れてたんですよ……」

    ことね「魔物とか魔法とか言ったっても、信じてもらえだろうし」

    ことね「そもそも他の人に話していいんですか?」

  • 28二次元好きの匿名さん25/09/07(日) 10:52:37

    このレスは削除されています

  • 29二次元好きの匿名さん25/09/07(日) 10:55:13

    ※ちょっとミスったので削除しました

    星南「……しない方がいいわね。じゃあこうしましょう」

    星南「昨日の晩、ことねは道端で倒れてた。それを私が介抱した――そういうことに」

    ことね「それ言ったら、めっっちゃ心配されるじゃないですか!」

    星南「だったら……私とことねは実は愛し合っていて――」

    ことね「いやいや、話になりませんよ!」

    ことね「……もう最初の案でいいです。連絡してきます」

    ――結局、こう送った。

    「昨晩、夜道を歩いている途中で少し体調を崩して、
    星南先輩に助けてもらいました。
    今はもう大丈夫で、学校に行きます。
    ご心配おかけしました。」

    ホントは体調崩したなんて嘘なんだけど

    プロデューサーに……嘘、ついちゃった

  • 30二次元好きの匿名さん25/09/07(日) 11:01:40

    ピコン、とスマホに通知。

    咲季「ほんとに心配したんだから!どうしてすぐ連絡してくれなかったの!」

    咲季「無事でよかったけど今日は絶対に学校行かないで、安静にしなさい!」

    学P「藤田さん。無事と聞いて本当に安心しました」

    学P「体調管理もアイドル活動の一部です」

    学P「今日は学校には行かずに、しっかり休んでください」

    ことね「……あぁ、やっぱそうなるよね」

    ことね「休むつもりなんてなかったのに……うぅ」

    でも、魔法少女とか魔物の話なんてできるわけないし

    はぁ……どうしたらいいんだろ

  • 31二次元好きの匿名さん25/09/07(日) 11:14:45

    ――寮の玄関前にて――

    今日一日は寮で休むことになって、

    寮までは星南先輩がずっと一緒についてきた

    星南「ことねにこれを渡しておくわ」

    ことね「なんですか?……ブザー?」

    小さな装置を手渡される

    星南「それを私だと思って、肌身離さず持ってなさい」

    ことね「ちょ、なんですかその言い方……ほんとに気持ち悪いですよ!」

    星南「それは魔力を込めたブザーよ。」

    星南「魔物に襲われたら強く握りなさい。すぐに私が駆けつけるわ」

    ことね「だったら最初っからそう言ってくださいよ……」

    星南先輩は、それ以上何も言わず寮の門を後にした

    さすがに中まではついて来なかったので、少しホッとする

    でも、ここまで本気で心配してくれるのって――少し嬉しいかも

    渡されたブザーを見つめていると、張り詰めていた緊張が少し和らいだ

  • 32二次元好きの匿名さん25/09/07(日) 11:22:05

    結局その日は、魔物は一度も現れなかった

    一日中寮にこもって過ごし、もう寝る時間になっていた

    ベッドに寝転ぶと、ふと考えてしまう

    昨日のこと……もしかして全部夢だったんじゃ……?

    スマホを開けば、咲季やPからの心配メッセージが並んでいる

    でも魔物や魔法については、証拠は何一つ残っていない

    けれど、胸の奥にまだ残っているあの恐怖は、

    夢なんかで済ませられるものじゃなかった

    ことね「……いや、あれは夢じゃない」

    思い出しただけで背筋がぞくりとした

    布団に潜っても、不安は体の奥で燻り続けていた

  • 33二次元好きの匿名さん25/09/07(日) 16:14:32

    ――次の日――

    咲季「おはよう、ことね」

    ことね「おはよう、咲季」

    咲季「もう大丈夫なの?」

    ことね「も~バッチリだよ~。ことねちゃん、完っ全復活です」

    ほんとは体調なんて崩してないし、ただ――命を狙われてる緊張感で、心が休まらないだけ

    咲季「少し疲れてるみたいに見えるけど……無理しないでよ。」

    ことね「大丈夫だって~」

    咲季「……まあ、いいわ。朝のランニング始めるわよ」

    ――走ってしばらくして

    星南「奇遇ね、ことね」

    ことね「……おはようございます、星南先輩」

    咲季「おはようございます、十王会長」

    星南「おはよう、咲季、ことね」

    この人が奇遇って言うとき、本当に奇遇だったことあるのかな……

  • 34二次元好きの匿名さん25/09/07(日) 16:18:06

    というか、なんでランニングにまで来るんですか。ブザーあるのに……

    そんな意味をこめて星南先輩に目配せする

    返ってきたのは「そんな目をしないで」とでも言うような視線

    あんまり日常にまで入り込まないでくださいよ……

    と目線で星南先輩に釘をさす

    咲季「十王会長、この前はことねを助けてくれてありがとうございます」

    星南「感謝されるほどではないわ。ことねを守るのは当然のことだから」

    咲季「……ことねを、守る?」

    星南「ええ」

    咲季「……」

    結局、星南先輩は最後まで横で同じペースで走っていた

    あたしには結構きついのに……星南先輩は余裕そうだった

  • 35二次元好きの匿名さん25/09/07(日) 16:19:13

    ――1年1組、昼休みにてーー

    咲季「ことね、十王会長と何があったの?」

    ことね「星南先輩とはほんとに何もないってば~」

    咲季「それよ。前は“会長”って呼んでたのに」

    しまった、自然に“先輩”呼びになってた……

    ことね「……気分?の問題かな」

    咲季「ふーん。でもなんか、あんた変わった気がする」

    ことね「えっ、そう?」

    咲季「……無理してない? ことね」

    ことね「……大丈夫だって」

    咲季「ならいいけど。無理はしないでね」

    その時、1組の教室の中に誰かが入ってきた。

  • 36二次元好きの匿名さん25/09/07(日) 16:20:15

    あれは……元SyngUp!の美鈴ちゃん?

    1組に何しに来たんだろう?

    美鈴(……まりちゃんは………………いませんか)

    彼女は教室をきょろきょろと見回していた

    目の下に隈があるように見えたけど……気のせいかな

    結局、美鈴ちゃんは誰とも言葉を交わさず、すぐに出ていった

  • 37二次元好きの匿名さん25/09/07(日) 20:09:30

    手毬いないなと思ったらもしかして…

  • 38二次元好きの匿名さん25/09/07(日) 22:39:49

    Where is temari...

  • 39二次元好きの匿名さん25/09/07(日) 23:20:21

    ――午後の授業中――

    昼ごはんのあとというのもあって、眠気に負けそうになっていた

    窓の外を何気なく見た瞬間――黒い影が空に浮かんでいた

    ことね「っ……!」

    思わず立ち上がる

    慌ててブザーを握るが、音は鳴らない

    え、これ壊れてる!?

    ダダダッと廊下を駆ける音がする

    星南「ことね!」

    星南「顔色が悪そうね!保健室に連れて行くわ」

    そう言いって、星南先輩はあたしの腕をつかむ

    ことね「ちょ、ちょっとぉ~!?」

    咲季「えっ!? ちょ、どういうことなの!?」

    返事もできないまま、教室から引きずり出された

  • 40二次元好きの匿名さん25/09/07(日) 23:21:31

    ――屋上――

    一昨日と同じ黒い魔物が空に浮かんでいる

    ことね「いました!」

    星南「……やはり来たわね」

    すぐに剣を呼び出そうとする星南先輩に、慌てて声をかけた。

    ことね「ちょ、ちょっと!これ他の人からは見えてないんですか!?」

    星南「大丈夫。もう結界を張ったわ」

    ことね「結界……?」

    星南「魔物は普通、結界を張って襲う。他人の目を避けるために」

    星南「一昨日、魔物に襲われたとき道に迷わなかった?あれが結界よ」

    ことね「あー、あのときの」

    星南「でも今回は結界がない。つまり、相手は誘ってきている」

  • 41二次元好きの匿名さん25/09/07(日) 23:22:53

    星南「固有魔法――《小さな野望》」

    右手に剣を呼び出し、跳躍して一閃

    魔物は声もなく、塵となって消えた

    ことね「……え、もう終わり?」

    星南「まだよ。これは囮。本命が来るはず」

    辺りを警戒しながら沈黙が落ちる

    ……1分、2分。けれど何も起きない

    ことね「……星南先輩?」

    星南「……おかしいわ。魔力反応も完全に消えている」

    ことね「……星南先輩ってゲームとかで深読みしすぎて負けるタイプじゃないですか?」

    星南「なっ……!そ、そんなこと……あるわね」

    ことね「……ふふっ」

    不安はまだ消えないけど、隣に星南先輩がいるだけで少しだけ笑えた

  • 42二次元好きの匿名さん25/09/07(日) 23:24:13

    あれから、ほんとのことは話さずになんとかして咲季に説明した

    でも、あんなので誤魔化しきれてる気がしない……

    咲季の目はぜんぜん納得してなかったし

    ――放課後――

    帰り道を星南先輩と並んで歩く

    ことね「……いつまでこんなの続くんですか」

    星南「ことねを狙う魔物がいる限り、続くわ」

    ことね「そんな答え聞きたくなかったぁ……」

    ため息をつくと、街のざわめきがやけに遠く感じる

    昨日まではただの通学路だった道が、もう安心できる場所じゃなくなっている

  • 43二次元好きの匿名さん25/09/07(日) 23:26:13

    ことね「……結局、屋上の魔物もあっさり倒せちゃいましたね」

    星南「まだ油断できないわ。まだ本命はきていない」

    ことね「はいはい……」

    そんな気の抜けた返事をしたとき――

    路地の影がぐにゃりと揺れ、またあの魔物が現れた

    ことね「あ、またこいつ……」

    見覚えがあるせいか、足はすくまなかった

    星南「《小さな野望》」

    一瞬で魔物は斬り裂かれる

    影は塵となって消えた

    星南先輩がいれば大丈夫……そんな気がした

  • 44二次元好きの匿名さん25/09/07(日) 23:27:50

    ――安心した、その矢先だった

    ことね「……ん?」

    胸の奥をざわつかせる、説明できない違和感

    星南「ことね、どうかしたの?」

    ことね「い、いえ……なんか今、学校の方から――」

    言葉が途切れた

    全身を圧し潰すような衝撃と悪寒が襲う

    地震でも爆発でもない――もっと根源的な、世界そのものが軋む感覚。

    空気が震え、地面が唸り、心臓が握りつぶされそうになる。

    視界がぐにゃりと歪み、爆風に呑まれて粉々にされたような錯覚

    ???「――固有魔法《■■■■■》」

    次に瞬きをしたとき

    ――――世界の時間が停止していた

  • 45二次元好きの匿名さん25/09/07(日) 23:30:49

    星南「……これは……!? ことね、無事?」

    ことね「は、はい……でも、なんか体が少し重いです」

    星南「……やっぱり。申し訳ないわ、ことね。私の方は――ちょっとじゃ済まなそう」

    ことね「ど、どういうことですか?」

    星南「かなり動きづらい……まるで鎖で縛られているみたいに感じるわ」

    ことね「えっ……」

    あの星南先輩が、余裕のない顔をしている

    無敵に思えた人が動揺している――それだけで、胸がざわついた

    周囲を見渡すと、歩いていた人も、自転車も、走っていた車さえも――

    すべてが、時間を奪われ止まっていた

    ことね「……時間が、止まってる……?」

    星南「……そうね。おそらく、この状況で動けるのは魔法に抵抗できる力を持つ者だけ」

    星南「――固有魔法、《小さな野望》」

    右手に剣を呼び出す星南先輩ーーその瞳に再び闘志が宿る

    星南「……これで、多少は動きやすくなったわね」

  • 46二次元好きの匿名さん25/09/07(日) 23:37:21

    星南「……魔力反応は、初星学園の屋上からね」

    ことね「屋上……!? なんでそんなところに……」

    星南「急ぐわよ。ことね、絶対に離れないで」

    ことね「は、はいっ!」

    凍りついた世界を駆け抜け、校舎の階段を上がる

    音のない静寂は重すぎて、靴音だけがやけに大きく響いた

    屋上のドアの前で、思わず息を呑む。伸ばした手が震える

    開けては――この先に踏み込めば、何か大切なものが壊れてしまう

    そんな根拠のない予感を感じ、背筋が冷たくなる

    ことね「……っ」

    そのとき、星南先輩の手が私の手の上に重なった

    星南「大丈夫。私が守ってみせる」

    カチリ、と音を立ててドアノブが回される

    冷たい風が吹き込み、あたしの目に飛び込んできたのは――

    見覚えのある生徒だった。それは――
    《第1章完》

  • 47二次元好きの匿名さん25/09/07(日) 23:38:57

    ことね「美鈴……ちゃん……?」

    屋上の空気が淀んでいる。風の流れすら重く、皮膚にまとわりつく

    その中心に立つ美鈴は、相変わらず柔らかく微笑んでいた

    ことね「……まさか、美鈴ちゃんが……世界の時間を止めたの?」

    美鈴「ええ。正確には“止めた”のではなく――“のんびり”にしたのです」

    星南「気をつけて。美鈴はあなたを狙ってる」

    美鈴「……まりちゃん…月村手毬を知っていますか?」

    ことね「つきむら……てまり? ……ごめん、知らないんですけど」

  • 48二次元好きの匿名さん25/09/07(日) 23:44:48

    ま、まりちゃん!?

  • 4925/09/07(日) 23:44:54

    スレ主です。
    書き始めてみたら思った以上に分量が増えてしまい、
    全体は4部構成になりそうです。
    すでに20レスほどのストックがあり、結末までの展開も決まっているので、完結させられる見込みです。
    拙い部分もあるかと思いますが、
    最後までお付き合いいただけると嬉しいです。

  • 50二次元好きの匿名さん25/09/08(月) 00:56:47

    感想とかは書いていっていいのかな

    よくよく考えると美鈴見た時のことねの反応が「元SyngUpの美鈴ちゃん」って他人事っぽい感じなのが伏線だったのか
    初星コミュ時空なら「湯たんぽ取りに行った時の感じ悪いルームメイト」って認識だろうに

  • 5125/09/08(月) 07:35:07

    感想は自由に書いていただいて大丈夫です。
    コメントをいただけると、とても嬉しいです。

  • 52二次元好きの匿名さん25/09/08(月) 15:09:41

    美鈴「……わかっていたのに……こうして聞くと胸にきますね」

    声色は穏やか。けれど瞳の奥が揺れていた

    ふと視線を落とした美鈴の指先は、白くなるほど強く握り込まれている

    それでも微笑みを崩さない姿は、痛々しかった

    美鈴「Re;IRISは咲季さんと、あなた、そして……まりちゃんのユニットなのに」

    ことね「なにそれ……」

    胸の奥がざわつく。息が詰まるような違和感

    ことね「Re;IRISは、あたしと咲季、二人のユニットです」

    ことね「知らない名前を勝手に混ぜないで!」

    その瞬間、美鈴の笑みが凍りついた

    美鈴「……許しませんよ。藤田ことね」

  • 53二次元好きの匿名さん25/09/08(月) 15:11:03

    黒い触手が、美鈴の背後から噴き出す

    触手は所々白い光を帯び、屋上を埋め尽くす勢いで蠢いた

    星南「ことねに指一本でも触れたら――容赦しないわ、美鈴!」

    剣を振り抜き、触手をまとめて切り裂く

    断面は白い光を散らし、触手は霧のように消えた

    けれど、美鈴の背後からは次々と新しい触手が生まれていた

    美鈴「……さすが会長。けれど、これはどうですか」

    美鈴「《カゼハツヨク》」

    刃のような風が幾筋も走り、屋上を切り裂いた

    星南は剣を突き立てる

    屋上の床が震え、厚い岩壁が瞬時に立ち上がった

    風刃が叩きつけられ、石片が飛び散った

    ことね「ひっ……!」

    壁は削られ続けるが、星南は一歩も退かない

    星南「……それで終わり?」

  • 54二次元好きの匿名さん25/09/08(月) 15:14:46

    美鈴「《アメハハゲシク》」

    そう唱えると雨雲が出現する

    黒雲から無数の水弾が降り注ぐ

    それは雨ではなく、鋭利な弾丸だった

    壁を貫き、瓦礫を穿つ音が響く

    星南は剣を振り抜く

    その軌跡に呼応して烈風が巻き起こり、水弾をまとめて吹き飛ばした

    美鈴の指先がわずかに震える

  • 55二次元好きの匿名さん25/09/08(月) 15:16:07

    美鈴「《ツキノカメ》」

    屋上全体が重く沈む。空気が水に変わったみたいに、

    じわりと動きが鈍くなる

    ことね「……っ、……体が重い……」

    胸を締めつけられるような圧迫感を感じる

    星南「……これが」

    冷ややかに分析する声が響く

    黄金の残光を纏った剣が閃き、迫る触手を切り裂いた

    だが霧散したそばから、また別の触手が這い出してくる

    美鈴「……まだ、そんなに動けるのですか……?」

    星南「私を甘く見ないことね」

  • 56二次元好きの匿名さん25/09/08(月) 15:18:48

    ことね「……星南先輩が押してる……!」

    美鈴の肩がわずかに震える

    追い詰められているのは明らかに美鈴の方だった

    触手は途切れることなく生まれているのに、それすら斬り伏せられていた

    勝てる――そう思った瞬間

    轟音

    雷鳴が屋上を揺さぶり、視界が白一色に塗りつぶされる

    ことね「――っ!」

    髪が逆立ち、全身の産毛が静電気に刺される

    白光の奔流の中心に、少女の影が浮かび上がる

  • 57二次元好きの匿名さん25/09/08(月) 15:23:19

    >>2

    ここの時点で咲季としか会話してないのはそうゆう…

  • 58二次元好きの匿名さん25/09/08(月) 15:35:55

    でもこれ……美鈴も魔法少女側?じゃないのか…固有って魔物側も持つ?

    何らかの原因で世界から手毬が消えた…というか存在そのものが記憶からも抹消されてるっぽいし…
    元Syngup!ってのが二人組?って認識されてるのか或いは

  • 59二次元好きの匿名さん25/09/08(月) 20:43:18

    保守

  • 6025/09/08(月) 23:12:48

    美鈴の触手って何?―「ツキノカメ」のライブ演出で使われる小道具です。
    天井から垂れ下がっている小道具が触手っぽく見える……よね?
    そう見えたので、触手も操ることにしました

  • 61二次元好きの匿名さん25/09/08(月) 23:14:42

    燐羽「……まったく。世話が焼けるわね」

    低く吐き捨てる声

    雷鳴の余韻が残り、屋上の空気が焼け付いていた

    星南「……賀陽燐羽」

    美鈴「りんちゃん……来てくれましたか」

    返事をせず、燐羽は地面を蹴った

    稲妻が迸り、気づけば星南の背後に迫っていた

    剣と雷が激突する

    火花が散り、金属の焦げた匂いが鼻を刺す

  • 62二次元好きの匿名さん25/09/08(月) 23:16:45

    燐羽の突進は止まらない

    雷を纏った拳が容赦なく叩き込まれ、剣と何度も激突する

    そのたびに衝撃波が走り、屋上の床が割れていく

    そこへ美鈴の触手が襲いかかる

    左右から、背後から、逃げ場を塞ぐように伸びる

    星南「くっ……!」

    剣閃が走り、触手を切り払う

    だが次の瞬間、燐羽の雷撃が正面から突き刺さる

    ことね「――っ、星南先輩!」

    かろうじて防いでいる

    でも……押されてる

    あの星南先輩が、無敵に思える背中が、揺れていた

  • 63二次元好きの匿名さん25/09/08(月) 23:20:34

    美鈴の触手が大きくうねり、星南を遠ざけるように叩きつける

    剣で受け止めたものの、その隙に燐羽の雷撃が直撃する

    星南「ぐっ……!」

    星南先輩の身体が弾かれ、床を削って膝をつくのが見えた

    ことね「星南先輩が……押されてる……」

    胸が痛む。無敵だと思っていた背中が、今は揺れている

    美鈴「まあ……やはり会長ひとりでは荷が重いようですね」

    黒い触手が揺らめき、ゆっくりと向きを変える

    狙いは――あたし。

    ことね「――えっ」

    足がすくみ、喉が詰まる

    迫る気配に、息が止まりそうだった

  • 64二次元好きの匿名さん25/09/08(月) 23:23:00

    ことね「ちょ、ちょっと待って……!」

    声は出たのに、足は震えて動かない

    星南先輩がやられそうなのに、あたしは……何もできない

    ずっと憧れてきた背中に、何ひとつ返せない

    胸が締め付けられる

    美鈴の瞳が真っ直ぐにあたしを射抜く

    そこにためらいは一切ない

    冷酷なまでの意思が伝わってくる

    美鈴「藤田ことね。あなたの魔力を――もらいます」

    触手が一斉に迫る――逃げ場はない

    肺が潰れるような圧迫感に、涙がにじんだ

  • 65二次元好きの匿名さん25/09/08(月) 23:26:30

    ことね「……嫌だ」

    心の奥底から、声が漏れる

    星南先輩が必死に戦っているのに、あたしは立ち尽くしているだけ

    足手まといのままなんて、絶対に嫌だ

    胸の奥が灼けるように熱を帯びる

    視界が揺らぎ、白い光がにじむ

    ことね「もし……本当に……あたしに力が眠ってるなら――」

    震える声で、それでも叫んだ

    ことね「お願い……出てきて、あたしの力!」

    その瞬間、体の奥で何かが弾ける

    まばゆい光が溢れ、夕闇を押しのけ白昼のように屋上を照らした

    ――藤田ことねは、魔法少女に成った

  • 66二次元好きの匿名さん25/09/09(火) 01:22:18

    これは長くなりそうだ

  • 67二次元好きの匿名さん25/09/09(火) 03:56:48

    ヒール履いて肉弾戦してるのもキツそうだぜ会長…!

  • 68二次元好きの匿名さん25/09/09(火) 08:04:00

    ほしゅ

  • 69二次元好きの匿名さん25/09/09(火) 12:48:03

    ほしゅ

  • 70二次元好きの匿名さん25/09/09(火) 13:39:02

    屋上全体が黄金の輝きに包まれる

    ことね「……っ……なに、これ……!」

    全身が灼けるように熱い

    でも、痛みはない

    眠っていた何かが強引に解き放たれていく感覚

    手のひらから火花が散り、髪の先まで光を帯びていく

    美鈴「まさか……これは……!」

    触手が揺らぎ、彼女の瞳に動揺が走る

  • 71二次元好きの匿名さん25/09/09(火) 13:40:16

    ことね「これが……あたしの……」

    胸の奥から溢れる光は止まらない

    肺は熱いのに、呼吸は軽い

    速まる鼓動に反して、心は澄み切っていた

    ことね「……負けない……!」

    声に宿るのは恐怖ではなく、決意

    震えはもう、ない

    敵を退けたい想いが全身を突き動かす

    光の奔流は迫る触手を弾き飛ばし、衝撃波が屋上を駆け抜けた

  • 72二次元好きの匿名さん25/09/09(火) 13:44:41

    燐羽「チッ……」

    雷鳴が走る

    稲光が視界を裂き、あたしを目掛けて一直線に迫ってくる

    ことね「――っ!」

    雷撃が直撃し、全身が痺れて息が詰まる

    ――けれど倒れなかった

    燐羽「なっ……」

    星南「相手は私よ、燐羽!」

    剣が閃き、雷を切り裂く

    火花が散り、燐羽はことねから引き離された

  • 73二次元好きの匿名さん25/09/09(火) 13:48:05

    燐羽と星南は剣と拳を何度も交え、閃光と衝撃音が飛び交う

    美鈴「……藤田ことね」

    すぐ後ろから、黒い触手の気配が迫る

    考えるより先に、体が動いていた

    足音がコンクリートを打ち、リズムを刻む

    舞うように身をひねり、迫る触手を蹴り飛ばす

    ステージの上で踊るように、体は軽やかに動いていた

    体は軽く、光が全身を支えてくれている

    恐怖は、もう微塵もなかった

  • 74二次元好きの匿名さん25/09/09(火) 14:03:27

    触手が四方から襲いかかる

    軽やかにかわし、リズムを刻むように蹴りで弾き返す

    美鈴の瞳に焦りが走る

    美鈴「どうして……あなたなんかが……!」

    ことね「……あたしは、“なんか”じゃない!」

    強く踏み込み、光をまとった蹴りが触手をまとめて砕く

    音のない世界に、あたしのビートが響く

    体は軽く、踏み込むたびに光が舞い散る

    まるでステージに立っているときみたいに――

    ……でも、歓声はない

    耳に届くのは、火花と雷光が爆ぜる轟きだけ

    その激しさに、思わず視線が逸れる

    視界の端では、星南先輩が燐羽の猛撃に押されていた

    その背中が、一瞬だけ揺ぐ

    星南「くっ……!」

  • 75二次元好きの匿名さん25/09/09(火) 14:07:09

    ことね「星南先輩!」

    胸の奥からあふれる光が、自然と腕を伝って流れ出す

    ことね「この力――受け取ってください!」

    黄金の奔流が星南を包み込む

    剣が白い輝きを帯び、空気が震える

    星南「……っ!」

    張り詰めていた表情がふっとほどけ、満面の笑顔に変わる

    星南「ことねの力――それがあれば、私は無敵よ!!」

    その声は高らかに、夕空へ響き渡った

    白光が雷を断ち切り、燐羽を吹き飛ばす

  • 76二次元好きの匿名さん25/09/09(火) 14:16:05

    美鈴「りんちゃん……!」

    美鈴の視線が逸れた。

    ことね「――よそ見はダメ!」

    踏み込んだ蹴りが美鈴を直撃する

    足に確かな手応えが残り、美鈴は息を呑んで短く呻いた

    瓦礫が飛び散り、残響だけが耳に残る

    やがてそれも消え、屋上には重い静寂が落ちた

    美鈴と燐羽は膝をつき、荒い息を吐いていた

    あたしはその光景を見つめ、思わず大きく息を吐いた

    星南先輩が剣先をわずかに下げ、こちらを振り返る

    その瞳に宿った安堵が、胸にじんわり広がっていった

  • 77二次元好きの匿名さん25/09/09(火) 14:17:18

    星南「観念しなさい。美鈴、燐羽」

    息を整えながら、剣を構える

    美鈴は荒く肩を上下させ、苦笑を浮かべた

    美鈴「……ええ。わたしたちの負けですね」

    燐羽「ハァ………。そうね」

    美鈴はわずかに視線を落とし、声を潜めた

    美鈴「会長、ひとつ……聞いてもいいですか?」

    星南「何かしら」

    美鈴「SyngUp!――その本当の姿を、ご存じですか?」

  • 78二次元好きの匿名さん25/09/09(火) 14:44:47

    星南「……中学三年まで活動していた、あなたと燐羽のユニットでしょう?」

    美鈴「違います」

    美鈴「わたしと燐羽……そして、月村手毬。三人で作ったユニットが、SyngUp!なんです」

    美鈴は深く息を吐き、言葉を続けた

    美鈴「やはり……條澤さんの言ったとおりでした」

    美鈴「わたしたちは、この世界の住人じゃない。だって……」

    一瞬、言葉が詰まる。視線を落とし、絞り出すように続ける

    美鈴「まりちゃんがいないなんて……そんなの間違っている」

    美鈴「全てお話しします。――わたしがなぜ、こんなことをしたのか」

    一拍おいて、瞳を上げる

    美鈴「そして……月村手毬について」

    屋上に冷たい風が吹き抜ける

    美鈴は一度大きく息を吸い、そして語り始めた

    あの日。わたしたち三人は――最期の夜を迎えたのです。
    《第2章 完》

  • 79二次元好きの匿名さん25/09/09(火) 17:11:55

    ネタスレかと思ったらどんどん不穏になってくるな

  • 80二次元好きの匿名さん25/09/09(火) 21:25:27

    ほs

  • 81二次元好きの匿名さん25/09/10(水) 00:23:03

    ほしゅ

  • 82二次元好きの匿名さん25/09/10(水) 00:56:49

    ピッ

    手毬「……美鈴、魔力反応に気づいてる?」

    声が一瞬、雑音にかき消されて途切れた

    美鈴「はい……感じます」

    手毬「今日の担当は私。でも――」

    わざと淡々と告げる声の奥に、震えが滲んでいた

    手毬「美鈴……一緒に来てくれる?」

    美鈴「もちろん。……りんちゃんも呼びましょうか?」

    手毬「……うん。お願い」

    こうして、わたしたちは久しぶりに三人で集まったのです

  • 83二次元好きの匿名さん25/09/10(水) 00:59:54

    手毬「来てくれて……ありがとう、美鈴、燐羽」

    その声は硬さを残していた

    けれど、耳に届いた響きはほんの少しだけ優しかった

    美鈴「わたしはまりちゃんが呼んでくれたら、いつでも駆けつけますよ」

    燐羽「まあ、今日の相手はあなた一人じゃ荷が重そうだし」

    手毬「頼りにしてる。これなら……負ける気がしない」

    三人とも異常な魔力反応に気づいていた

    それでも――

    どんな敵でも三人なら負けない。……そう信じていたのです

  • 84二次元好きの匿名さん25/09/10(水) 01:01:20

    瓦礫の向こうで、影が蠢く

    星型の顔

    その輪郭は親しみやすいマスコットみたいなのに

    赤く濁った瞳と歪んだ口元が全てを裏切っていた

    顔の側面からは、異様に長い“手”が直接伸び出し、瓦礫を掴み潰していく

    愛嬌の残骸と災厄そのものが同居する怪物だった

    手毬「これは……」

    燐羽「……信じられない……」

    美鈴「……あれが、会長の言っていた“ハツミ”……なのでしょうか」

    三人の誰にも確証はなかった

    けれど、あまりに圧倒的な存在感に、そう思わずにはいられなかった

  • 85二次元好きの匿名さん25/09/10(水) 01:02:42

    ――――――
    ――――――――――――
    ―――――――――――――――――――――――――――――
    ―――――――――――――――――――――――――――――
    ―――――――――――――――――――――――――――――

  • 86二次元好きの匿名さん25/09/10(水) 01:09:15

    現実は残酷だった

    瓦礫に叩きつけられ、息がまともに吸えない

    胸が焼けつくように痛み、全身が鉛のように重い

    隣にいるはずの二人の姿も、血と土の匂いに霞んでいく

    もう誰もまともに立ってはいられなかった

    それでも、手毬は唇を噛み、震える膝で立ち上がった

    今にも崩れ落ちそうなのに――その背筋だけは真っ直ぐだった

    美鈴「……まりちゃん、もう……」

    燐羽「こんなときにまで……無理をして……」

    助からないことなんて、わかっているのに――声にならない嗚咽が漏れそうになる

    それでも、どうか――休んで

    手毬は崩れ落ちそうな身体を支え、掠れた声で言った

    手毬「私は止まる気なんてない。……二人がいるなら、なおさら」

    瀕死の体で立つのが奇跡なのに――その言葉は不思議と力を帯びていた

    夜空には雲ひとつなく、満月だけが残酷なまでに美しく輝いていた

  • 87二次元好きの匿名さん25/09/10(水) 01:14:36

    美鈴「……まりちゃん……」

    燐羽「ほんと……最期まで……強情なんだから」

    手毬はかすかに笑った。涙に滲む笑顔なのに、瞳は揺らがない

    手毬「私は……ずっと言葉足らずで、大事なものを失くしてばかりだった」

    手毬「でも……これだけは」

    血に濡れた指を高く掲げ、前を見据える

    手毬「未来は……必ず照らしてみせる――《Luna say maybe》」

    ゆっくりと振り返り、朦朧とした視線を二人へ向ける

    それでも、その瞳は美鈴と燐羽を真っ直ぐに映していた

    手毬「あのね――――」

    その先の言葉は紡がれる前に

    光が爆ぜ、世界が塗り替わっていく

  • 8825/09/10(水) 01:15:54

    すいません。次の更新は少し遅くなりそうです

  • 89二次元好きの匿名さん25/09/10(水) 08:20:10

    ほしゅ

  • 90二次元好きの匿名さん25/09/10(水) 17:02:10

    ほしゅ

  • 91二次元好きの匿名さん25/09/11(木) 00:32:30

    保守

  • 92二次元好きの匿名さん25/09/11(木) 07:56:35

    気づいたら、自分の部屋にいた

    傷ひとつない身体を見下ろして――夢だったのかと思った。……でも違う

    スマホにも、学園の記録にも、世界のどこにも、月村手毬の名前はなかった

    咲季さんや藤田さんに聞いてみたい――でも、口にするのが怖かった

    「知らない」と返されたら、その瞬間すべてが崩れてしまう気がして

    まりちゃんは、Re;IRISでの活動が本当に楽しそうだった

    その輝きを、なかったことになんてしたくない

    頭では、消えてしまったと分かっているのに――心が勝手に抗ってしまう

    気づけば、何度も一組に足を運んでいた

    ……教室をのぞけば、そこにまりちゃんが座っている気がして

  • 93二次元好きの匿名さん25/09/11(木) 08:05:24

    あるとき、思い切って條澤さんにすべてを打ち明けた

    もしかしたら、彼女にならどうにかできるんじゃないか――そんな淡い期待もあって

    條澤さんはわたしの突拍子もない話を真剣に耳を傾けてくれた

    何度もやり取りを重ねるうちに、少しずつ核心へと近づいていった

    そして――一昨日の放課後、ついに彼女は口を開いた

    広「……美鈴と燐羽は、きっと“別の世界”から来たんだと思う」

    広「美鈴の《ツキノカメ》……強化できれば、時間を戻せるかもしれない」

    広「ただ、戻す先に手毬が存在する保証はない。この世界では最初から、手毬はいなかった」

    広「それに、時間を遡れば遡るほど必要な魔力は増える」

    広「ほんの数分ならともかく……一か月も前に戻るなんて、正直、成功するとは思えない」

    広「……それでも美鈴は挑戦するの?」

  • 94二次元好きの匿名さん25/09/11(木) 08:07:05

    視線を落とすと、あの夜のまりちゃんの姿が脳裏に浮かんだ

    最後に見た微笑み。途切れたままの言葉

    あの続きを、どうしても聞きたかった

    美鈴「どんなに可能性が低くても、わたしはあきらめません」

    美鈴「わたしの命は、まりちゃんの命なんです」

    そのとき、條澤さんがふっと笑った

    柔らかい目で、わたしを見つめながら

    広「そういうと思った。私は美鈴の、そういうところが……好き」

  • 95二次元好きの匿名さん25/09/11(木) 08:10:34

    わたしは動いた

    時間を戻すには膨大な魔力がいる。しかも遡るほど要求は大きい

    あの満月の夜からすでに一か月近く経っていて、もう猶予はなかった

    最も魔力を持つ会長を狙おうと決めた

    本当なら協力を仰ぐのが正しいと分かっていた

    けれど――その“不在”で、まりちゃんを喪った

    会長が悪くないと分かっても、どうしても恨まずにはいられなかった

    だから、頼ることはできなかった

    奪うしかない――最低限の魔力を

    それで《ツキノカメ》を強化できるはずだと信じていた

    そうして、その日の放課後――わたしは会長の後をつけた

  • 96二次元好きの匿名さん25/09/11(木) 08:17:06

    わたしは会長と藤田さんが庭に出る直前の会話を、陰から聞いていた

    ――「あなたは魔法少女パワー100,000以上の逸材よ」

    耳を疑った

    そんなはずはない

    わたしの世界では、藤田さんに魔力なんて、かけらもなかったのに

    けれど気になって魔力を探ると、抑え込まれていた反応をはっきり感じ取った

    ……会長。藤田さんの魔力を、あなたは隠していたんですね

    危険から遠ざけるために、誰にも気づかせないように

    けれど――この力なら、《ツキノカメ》を強化して時間遡行に踏み込める

    だから決めた。標的を会長から藤田さんへと切り替えた

    迷っている時間はもうなかった

  • 97二次元好きの匿名さん25/09/11(木) 08:22:07

    けれど次の瞬間――

    「……今、何か物音しませんでした?」

    その一言に、全身が凍りついた

    まだ準備は整っていない。ここで気づかれるわけにはいかない

    胸の奥で必死に言い聞かせながら、気配を殺してその場を離れた

    そして――その夜から、学校の屋上で《ツキノカメ》の準備を始めた

    一睡もせず、食も忘れ、ただひたすらに

  • 98二次元好きの匿名さん25/09/11(木) 08:26:24

    美鈴「……わたしのいた世界では、会長が天川地区を離れるとき、わたしたちSyngUp!の三人が代わりに守っていました」

    美鈴「あの日は会長が不在で。だから、まりちゃんとりんちゃんと、三人で担当したんです」

    その声は淡々としていたが、瞳の奥には消えない痛みが宿っていた

    燐羽「……代理、ね。結局、私たちじゃ……守りきれなかった」

    美鈴「……」

    燐羽は唇を噛み、視線を逸らす

    美鈴「八つ当たりだと分かっているんです。でも……あのとき会長がいてくれたら、まりちゃんは――」

    言葉が途切れる。肩が小さく揺れたが、必死に呼吸を整えて続ける

    美鈴「……本当は分かっています。会長がいたところで、“ハツミ”には敵わなかった。結局、誰かが犠牲になるしかなかった」

    美鈴「それでも……その“不在”を赦せなかった。……だから、会長には頼れませんでした」

  • 99二次元好きの匿名さん25/09/11(木) 17:29:30

    保守

  • 100二次元好きの匿名さん25/09/12(金) 01:42:57

    保守

  • 101二次元好きの匿名さん25/09/12(金) 01:42:57

    保守

  • 102二次元好きの匿名さん25/09/12(金) 10:26:54

    ほしゅ

  • 103二次元好きの匿名さん25/09/12(金) 19:19:02

    保守

  • 104二次元好きの匿名さん25/09/12(金) 23:32:58

    保守

  • 105二次元好きの匿名さん25/09/13(土) 00:10:10

    美鈴「……まりちゃんを救うために――わたしは、あなたの魔力を狙いました」

    美鈴「それが……わたしがしてしまったことです。言い訳をするつもりはありません」

    伏せられた視線は揺れ、指先は小刻みに震えていた

    無理に笑おうとしたのか、引きつった顔が痛々しい

    美鈴「……でも、何もせずに、まりちゃんを忘れて生きていくなんて、できなかったんです」

    美鈴「藤田さんにとって月村手毬は“いなかった”人」

    美鈴「でも、わたしにとっては違う。一緒に歌って、一緒に笑い合って――確かにそこにいたんです」

    押し殺していた想いが堰を切ったように溢れ出す

    涙で声が震えても、それでも止まらなかった

    燐羽「……美鈴」

  • 106二次元好きの匿名さん25/09/13(土) 00:15:24

    重たい沈黙が屋上を覆う

    美鈴は深く息を吸い、堪えていたものを吐き出すように頭を下げた

    美鈴「だから……お願いです」

    視線を落としたまま、頬を伝う涙が石畳に落ち、かすかな音を立てた

    美鈴「……罰なら、後で全部受けます」

    美鈴「今だけは――わたしに、手を貸してくれませんか」

    涙を見せても、言葉の芯は揺らがない。その必死さが胸を揺さぶった

    唇を噛みしめる。手毬の記憶は、自分にはない。

    それでも――

    ことね「……美鈴ちゃんの気持ちは、十分に伝わったよ」

    ことね「だったら――あたしも協力する。ね、星南先輩」

  • 107二次元好きの匿名さん25/09/13(土) 00:28:33

    あたしの言葉に、星南先輩はすぐには答えなかった

    答えを探しているように見えて、胸が少しざわつく

    やがて、静かに息を吐き、頷いた

    星南「……私も協力するわ」

    星南「美鈴の世界では、私はその場にいなかった」

    星南「でも今はここにいる。だから――今度は一緒に戦う」

    星南「初星学園の生徒は必ず守ってみせる」

    その声は揺るぎなくて、あたしの胸まで温かく満たしていくようだった

    燐羽「……ほんと、あなたたちって物好きね」

    吐き捨てるように言ったが、その奥に安堵の響きが混じっていた

    その安堵がほどけた瞬間、燐羽の声が堰を切ったように本音を零した

  • 108二次元好きの匿名さん25/09/13(土) 00:33:07

    棘をまとった声が、少しだけ弱くなって聞こえる

    燐羽「……本当は、美鈴が全部背負おうとするの、ずっと見てられなかった」

    燐羽「手毬がいなくなって、私も胸が押し潰されそうだった」

    燐羽「それなのに、美鈴は全部を抱え込もうとして――」

    言葉を切り、拳を握りしめる。その震えがはっきりと見えた

    燐羽「……怖かった。美鈴まで壊れるんじゃないかって」

    燐羽「これ以上、大切な仲間を失うなんて……私には耐えられないから」

    最後の言葉は掠れて、囁きのように消えた

  • 109二次元好きの匿名さん25/09/13(土) 00:36:52

    美鈴「……りんちゃん」

    涙をにじませながら、小さな笑みを浮かべた

    美鈴「今まで、たくさん迷惑をかけてしまいましたね」

    燐羽「……今更じゃない? SyngUp!時代に、私がどれだけ苦労したと思ってるの」

    美鈴「……そうですね。りんちゃんが心配してくれたから、わたしはここまで来られたんです」

    美鈴「本当にありがとうございます、りんちゃん」

    燐羽「……どういたしまして」

    二人のやり取りを見ているだけで、胸がじんと温かくなる

    そこにあるのは、長い時間を共にしたからこそ生まれた強い絆だった

  • 110二次元好きの匿名さん25/09/13(土) 00:49:28

    けれど、その安らぎは長くは続かなかった

    屋上へと続く鉄の階段から、ゆっくりとした足音が響いてくる

    ――トン、トン、と夕暮れの静けさを破る規則的な音

    思わず扉に視線を向ける

    星南先輩が剣を握り直す気配が伝わり、胸の鼓動がいやに速くなる

    やがて、ドアノブがゆっくりと回る

    軋む音とともに、重たい扉が開いていった――

  • 111二次元好きの匿名さん25/09/13(土) 00:51:32

    扉の隙間から、夕焼けの光が差し込む

    逆光の中に人影が現れ、一瞬、屋上の空気が再び張りつめた

    その影から、落ち着いた声が響く

    広「美鈴」

    次の瞬間、あたしの胸を締め付けていた緊張がふっとほどけた

    星南先輩も剣をわずかに下ろし、場の空気が和らいでいく

    美鈴「……條澤さん?」

    美鈴の声が震える。驚きと安堵が入り混じっていた

    美鈴「どうして動けるのですか……まさか、あなたも」

    広は静かに頷いた

    広「そう、私も……魔法少女になった、よ」

    広「魔法について調べているうちに……できちゃった」

    言葉は軽いのに、その声音の奥には揺るぎない決意が混じっていた

    広「そんなことより……手毬を救えるかもしれない」

  • 112二次元好きの匿名さん25/09/13(土) 08:20:38

    ほしゅ

  • 113二次元好きの匿名さん25/09/13(土) 17:00:09

    保守

  • 114二次元好きの匿名さん25/09/13(土) 19:12:47

    手毬とユニットを組んだ面子が集う激アツ展開

  • 115二次元好きの匿名さん25/09/13(土) 22:39:02

    広が一歩前に進み、美鈴を見据えるのが、あたしにも分かった

    その視線の鋭さに、思わず息を呑む

    広「美鈴の《ツキノカメ》に、ことねの魔力を重ねれば……時間を巻き戻せる」

    広「でも――どれほど戻しても、手毬を救うことはできない」

    広「この世界には、最初から手毬は存在していなかったから」

    その言葉を聞いた瞬間、美鈴の瞳が揺れた

    広は言葉を止めずに続けた

    広「わたしの固有魔法――《光景》。これは現実を望んだ“光景”に、ほんの少しだけ近づける魔法」

    広「《ツキノカメ》で時間を巻き戻し、さらに《光景》で手毬がいる世界に近づける」

    広「そうすれば……手毬を救えるかもしれない」

    ――救えるかもしれない

    その一言に、美鈴の瞳が必死に縋りつこうとしているのが伝わってきた

  • 116二次元好きの匿名さん25/09/13(土) 22:40:02

    広の声が途切れ、屋上を冷たい風が抜けた

    広「ただし――本当に手毬のいる世界に辿り着けるかは分からない」

    広「全く違う場所に行ってしまうかもしれない。……それでもやるの?」

    美鈴は迷わず答えた

    美鈴「……わたしはやります。まりちゃんを救える可能性があるなら、迷う理由なんてありません」

    星南「たとえ別の世界の出来事でも――会長として、魔法少女として、今度こそ手毬を救ってみせる」

    燐羽「……私も行く。大切な仲間を、手毬を、取り戻すために」

    ことね「……あたしも一緒に行く。手毬を救うために」

    気づけば、声が自然に口をついていた。迷いはなかった

    広「……ありがとう。じゃあ、この作戦で進めよう」

    全員がうなずき、重い沈黙の中に決意の気配だけが漂っていた

  • 117二次元好きの匿名さん25/09/13(土) 22:41:18

    美鈴が小さく呟いた

    美鈴「……わたしのいた世界では、藤田さんは魔力を持っていなかったのに」

    美鈴「この世界では、膨大な魔力を持っている」

    美鈴「だから……藤田さんこそが、まりちゃんが託した存在なのかもしれません」

    その言葉に胸が強く揺れた

    でも、ここで否定しなきゃいけない――あたしは自然と前に出ていた

    ことね「違うよ、美鈴ちゃん」

    ことね「手毬が託したのは、あたしたち全員」

    ことね「誰一人欠けても、ここには来られなかった。だから――全員で手毬を助けに行こう」

    気づけば、手が前に伸びていた

    指先は小さく震えていたけれど、不思議と声は揺れなかった

    その真っすぐさが、あたし自身を支えているように思えた

    美鈴は泣き笑いのような顔で、力強く頷いた

  • 118二次元好きの匿名さん25/09/13(土) 22:44:17

    ことね「そういえば星南先輩、一つ聞いてもいいですか?」

    星南「何かしら?」

    ことね「美鈴ちゃんのいた世界では、星南先輩がいないときSyngUp!が代わりに戦ってたんですよね」

    ことね「じゃあ、この世界では……誰が代わりなんですか?」

    星南の瞳が一瞬だけ揺れ、夕陽を映して伏せられた

    星南「……私の知る限り、最も強い“魔術師”が担当している」

    ことね「魔術師……? 男の人なんですか?」

    普段なら真っすぐ返してくれるはずの視線が、なぜか逸れた

    その仕草に胸が小さくひっかかる

    星南「……そうよ」

    彼女は短く息を吐き、携帯を握りしめる

    星南「彼は遠征中だった。けれど、ことねが一昨日狙われたときに、裏に“ハツミ”がいる可能性を考えて呼んでおいた」

    星南「あと三分ほどでここに着くわ」

    その断定に、あたしはほんの少しだけ肩の力が抜けた

    けれど同時に、先輩が視線を逸らした理由が分からず、不安が胸に残った

  • 119二次元好きの匿名さん25/09/13(土) 22:45:43

    ふと隣を見ると、美鈴と燐羽の顔色が青ざめていた

    頬から血の気が引き、今にも崩れ落ちそうなほど硬直している

    美鈴「……会長、今なんて……」

    燐羽「……ハツミですって……?」

    短い沈黙が流れ、息を呑む音だけが響く

    次の刹那、二人は同時に視線を上げ――屋上の向こう、同じ一点を鋭く見据えた

    二人の表情を見るだけで、背筋に冷たい刃が撫でたような感覚が走った

  • 120二次元好きの匿名さん25/09/13(土) 22:47:57

    次の瞬間、屋上そのものが軋んだように揺れる

    肺を締めつける圧が一斉に襲い、呼吸が浅く乱れる

    耳の奥を削るような軋みが響き、視界が歪んでいく

    膝が勝手に震え、地面に縫いつけられたように動けない

    美鈴「……あの夜、まりちゃんを奪った気配……!」

    燐羽「……っ、確実に来てる……! この感覚、他にありえない!」

    二人の声は震えていたけれど、否定する余地はなかった

    遠くで轟音が響き、それがじわじわと近づいてくる

    校舎の窓ガラスが次々に砕け、鋭い風が吹き込む

    視界の端に、空間そのものを歪ませるような禍々しい影がちらつく

    ハツミ――最強の魔物が、確かに迫っていた

  • 121二次元好きの匿名さん25/09/13(土) 22:49:41

    圧が迫り、誰もが押し潰されそうになる中で、星南先輩は携帯を取り出す

    指先は迷いなく動き、すぐに番号を押す

    星南「……こちら十王。今すぐ魔力反応のある方向へ向かって。ハツミの足止めを頼むわ」

    短い返答があり、彼女は静かに頷いた

    星南「魔術師を向かわせた。でも……正直、時間は稼げないかもしれない」

    その声音には冷静さと、わずかな焦りが混じっていた

    広「――時間がない。すぐに始めるよ」

  • 122二次元好きの匿名さん25/09/13(土) 22:58:41

    全員の手が重なり、ひとつの意志となる

    広「望んだ光景を掴む。必ず辿り着く」

    美鈴「今度こそ……まりちゃんを救う。絶対に失わせない」

    燐羽「もう二度と仲間を奪わせない。何があっても」

    星南「会長として、魔法少女として――今度こそ手毬を救う」

    交わした言葉は熱を帯び、ひとつの願いへと形を変えていった

    あたしも震える指を重ね、喉の奥から声を絞り出した

    ことね「――手毬を取り戻す。絶対に、全員で!」

    重なった手から、虹色の光が溢れ出した

    風が逆巻き、空がひび割れるように揺らぎ始める

    足元の大地が消え、視界が白に飲まれていく

    頭の中で警鐘のように響き、意識が引き裂かれる

    それでも――あたしたちは全員で同じ願いを抱いた

    ――手毬のいる未来を掴むために、過去へ

    轟音と共に、時間遡行が始まった
    《3章 完》

  • 123二次元好きの匿名さん25/09/14(日) 01:51:09

    単騎でハツミの足止めを任される魔術師さんお労しい……

  • 124二次元好きの匿名さん25/09/14(日) 07:42:43

    ほしゅ

  • 125二次元好きの匿名さん25/09/14(日) 15:12:10

    保守

  • 126二次元好きの匿名さん25/09/14(日) 23:18:17

    視界は白に溶け、境界がすべて消えていた

    地に立っているのか、空に浮かんでいるのかも分からない

    ただ淡い光の中を、五人でゆるやかに漂っていた

    風のようなものが頬を撫でていくのに、空気の感触はなく、呼吸も曖昧だった

    時間の流れも遠く、早いのか遅いのか判別できない

    数秒にも、数時間にも感じられる静かな瞬間が続く

    言葉は交わさないのに、仲間たちの気配だけはそばにあった

    ぼんやりとした白に包まれながら、意識はゆらゆらと揺れ続けていた

  • 127二次元好きの匿名さん25/09/14(日) 23:19:21

    白い光に包まれ、時間の感覚も遠くなる

    漂うだけの静けさに、胸の奥のざらつきがかえって浮かび上がってきた

    気づけば、前から抱えていた疑問が形を持ちはじめていた

    迷いながらも、声は自然に漏れていた

    ことね「……星南先輩。“奇遇ね、ことね”って、これまで何度か言ってましたよね」

    ことね「……あれって、本当に偶然だったんですか?」

    真っ白な空間に、自分の声だけがやけに大きく響いた

    星南先輩はわずかに目を瞬かせ、驚いたように息を呑む

    わずかな沈黙のあと、低い声が返ってきた

    星南「……いえ、偶然じゃないわ」

  • 128二次元好きの匿名さん25/09/14(日) 23:27:05

    星南「ことねが初星学園高等部に入学してきたとき、すぐに気づいたの。――その胸の奥がざわつくほどの魔力に」

    星南「このままじゃ、魔物に狙われるんじゃないかって……ずっと怖かった」

    星南「だから偶然を装って、何度も声をかけたの。あなたが無事かどうか、確かめずにはいられなかったから」

    その声は淡々としているのに、抑えきれない熱を帯びていた

    あの時の何気ない言葉が全部偶然じゃなかった

    ――そう知った瞬間、胸が大きく揺さぶられる

    ことね「……星南先輩は、ずっと……あたしを見ててくれたんですね」

    言った途端、胸の奥に温かさが広がった

    孤独じゃなかったという安心と、守られてばかりだった切なさが一緒に込み上げる

    ことね「……本当に、ありがとうございます」

    涙がにじむ視界の中、星南先輩はわずかに微笑んで答えた

    星南「当然よ。私が守ると決めたんだから」

  • 129二次元好きの匿名さん25/09/14(日) 23:29:02

    光の渦が収まり、漂っていた身体に重みが戻りはじめる

    美鈴「條澤さん、時間遡行の行き先って、どこになるのでしょうか?」

    広「はっきりとは分からない。ただ……手毬が生きていた時間に飛ぶはず」

    燐羽「……状況までは選べないのね」

    広「戻った先ではそのうち必ずハツミが現れる。油断はできない」

    ことね「……手毬を救うために。遡行が終わったらすぐにでも、戦えるように備えないと」

    星南「ええ。今度こそ、手毬もこの町も守りきるために」

    光に包まれながら交わした言葉は、誓いのように胸に刻まれていく

    やがて白い渦の奥に、夜の景色がにじむように浮かび始めた

  • 130二次元好きの匿名さん25/09/14(日) 23:30:16

    光の渦が弾け、視界が暗い夜に切り替わる

    足元には土の感触、冷たい夜気が肺を突き刺した

    見上げれば、雲ひとつない空に満月が冴え冴えと輝いている

    その光を見た瞬間、全員が一斉に息を呑んだ

    美鈴「……この月……あの夜と同じ」

    燐羽「……わたしたちが斃れた、あの夜だ」

    胸がざわつき、心臓が早鐘のように打ち鳴らされる

    ことね「……急がないと。手毬が……まだ間に合うかもしれない」

    声が震えているのに、足は自然と前へ動き出していた

    過去を変えるために来たはずなのに、胸を冷たい手で掴まれるようだった

    それでも立ち止まることなく――あたしたちは夜の奥へ駆け出した

  • 131二次元好きの匿名さん25/09/14(日) 23:32:12

    胸の奥で鼓動がうるさいほど鳴っていた

    全員が一斉に駆け出す

    土を蹴る音、荒い息づかい、重なり合う足音

    月明かりの差す広場の中央に、ひとり倒れている影があった

    乱れた髪、血に濡れた服。かすかに上下する肩

    その姿は、今にも壊れてしまいそうに儚かった

    影を認めた瞬間、美鈴の顔色が変わる

    美鈴「まりちゃん!」

    鋭い叫びに、胸が強く揺さぶられる

    助けに来たのに――もし、もう手遅れだったら

    不安が喉を塞ぎ、息が苦しくなる

    美鈴は蒼白な顔で駆け寄り、震える声を絞り出した

    美鈴「お願い……生きてて……!」

    その声が夜に溶ける

    希望と恐怖がごちゃ混ぜになって、胸の奥が焼けるように熱くなった

  • 132二次元好きの匿名さん25/09/14(日) 23:36:10

    張り詰めた空気の中、條澤さんが前へ踏み出す

    広「……私がやる!」

    声は震えていた。けれど、その瞳を見た瞬間、言葉以上の強さが伝わってきた

    広「《光景》」

    眩い光が溢れ、手毬の身体を包み込む

    裂けていた服の隙間から覗く傷口が、淡い輝きに照らされて少しずつ塞がっていく

    血のにじみが止まり、肩の上下も次第に落ち着いていった

    広「私が手毬を助ける。だから、みんなは――ハツミを!」

    その言葉に胸が熱くなる

    條澤さんだって怖いはずなのに、逃げずに前を向いている

    なら、あたしも――恐れてばかりはいられない

    美鈴「……分かりました。お願いします、條澤さん」

    顔を見合わせると、誰も迷っていなかった

    あたしたちは荒れ狂う魔力の気配に向かって、一斉に駆け出した

  • 13325/09/14(日) 23:38:39

    ここから先の展開を調整中です。明日中には完結させれそうです

  • 134二次元好きの匿名さん25/09/15(月) 00:34:19

    >>133

    続き楽しみに待ってます!

    それはそうと篠澤警察だ!(豹変)

  • 135二次元好きの匿名さん25/09/15(月) 09:43:07

    保守

  • 136二次元好きの匿名さん25/09/15(月) 09:44:59

    このレスは削除されています

  • 137二次元好きの匿名さん25/09/15(月) 16:03:02

    保守

  • 13825/09/15(月) 18:55:17

    すいません、これまでずっと條澤になってましたね。気を付けます

  • 139二次元好きの匿名さん25/09/15(月) 18:56:43

    瓦礫を押し分け、巨影が夜に姿を現した

    星型の顔、濁った赤い瞳、頭から伸びる二本の異様に長い手

    七メートルを超える巨体は、ただ立っているだけで息が詰まるほどの威圧を放っていた

    胸が軋み、足がすくみそうになる――それでも、逃げない

    星南「《小さな野望》」

    黄金の光を纏う剣が現れ、夜空を裂く一閃が放たれた

    その斬撃は確かに巨体を押し返し、胸に希望が灯る

    けれど次の瞬間、二本の手が音を裂いて振り抜かれ、光ごと叩き落とされた

    轟音と共に広場が揺れ、大地に深い亀裂が走る

    爆風に煽られ、星南先輩がわずかによろめき、肩口に血が滲んだ

    それでも一歩も退かず、剣を構え続ける

    その背中は揺るがなかったが――斬撃は、巨影にかすり傷すら与えていなかった

  • 140二次元好きの匿名さん25/09/15(月) 18:59:00

    美鈴「《ツキノカメ》」

    空気が軋み、世界全体が鈍重になる

    動きの遅れた手へ、美鈴が畳みかける

    美鈴「《カゼハツヨク》」

    触手と風刃の嵐が奔流のように広がり、巨体を切り刻もうとした

    赤い瞳が揺れた――効いてる……そう思った、その瞬間

    二本の手が横薙ぎに振るわれ、すべてをまとめて弾き飛ばした

    衝撃が美鈴を飲み込み、瓦礫へと叩きつける

    巻き込まれたあたしの肺も焼けるように痛み、呼吸が荒くなる

    美鈴「っぐ……まだ……!」

    血を吐きながらも立ち上がり、赤い瞳を睨み返す美鈴

    その姿に胸が締め付けられる――怪物には傷一つついていなかった

  • 141二次元好きの匿名さん25/09/15(月) 19:01:17

    燐羽「はあああっ!」

    稲妻を纏った拳が巨体を撃ち抜く

    轟音と閃光に胸が震えた――これなら……!

    赤い瞳がぎらりと光る

    大きく開かれた口から、灼熱の炎が吐き出された

    燐羽「くっ……!」

    雷で必死に受け止めるが、爆風に呑まれ、全身を焼かれながら瓦礫に叩きつけられる。

    立ち上がる腕は痺れ、震えていた

    それでも一歩踏み出す姿に、心が揺れる

    次の瞬間、手が振り下ろされる

    燐羽「――っ!」

    大地を割る衝撃と共に、燐羽の身体が沈み込んだ

  • 142二次元好きの匿名さん25/09/15(月) 19:06:23

    燐羽の叫びが耳を打ち、美鈴の足が止まった

    美鈴「りんちゃん……!」

    その瞬間、背後から影が覆いかぶさる

    ことね「美鈴ちゃん――」

    声より早く、二本の手が弾丸のように迫る

    鈍い衝撃音と共に、美鈴の身体が宙を舞い、瓦礫へ叩きつけられる

    咳き込みながらも、血に濡れた唇が震えた

    美鈴「……まだ……まりちゃんを……」

    地を這い、必死に前へ進もうとする姿に、胸が裂けそうになる

    けれど腕は震え、もう力は残っていなかった

    それでも最後に振り絞るように声が響く

    美鈴「絶対に……」

    その声は夜にかき消され、身体は崩れ落ちた

    意識はまだあるのに、力はもう残っていない様子だった

    震える吐息が漏れるたびに、胸が締め付けられた

  • 143二次元好きの匿名さん25/09/15(月) 19:09:26

    負けイベ枠みたいな扱いされてるはつみちゃん

  • 144二次元好きの匿名さん25/09/15(月) 19:09:46

    星南「ことね……動ける?」

    ことね「……動けます!」

    震える足に力を込め、声を張り上げる

    二人で並び立ち、夜を裂くように走り込む

    黄金の斬撃が放たれ、その隙を縫ってあたしの蹴りが閃光となる

    交差する光が巨影を穿った――そう信じた、その瞬間

    赤い瞳がぎらりと光る

    刹那が永遠みたいに長く伸び、息が詰まる

    肌を焼く光線、振り下ろされる二本の手

    斬撃も蹴りも、すべて呑み込まれる

    鼓膜を裂く轟音、胸を焼く衝撃

    ことね「……どうして届かないの……!」

    爆発的な衝撃波が広場を覆い、あたしたちはまとめて吹き飛ばされた

  • 145二次元好きの匿名さん25/09/15(月) 19:12:58

    気づけば、何もできていないのに――もう全員が地に伏していた

    美鈴は血に濡れた腕で必死に地を支え、震える指先で顔を上げる

    美鈴「……また……届かないなんて……」

    夜に溶けて消えそうな声が、胸を引き裂いた

    その横で、燐羽が瓦礫に背を預け、必死に手を掲げる

    一瞬だけ稲妻が散り、すぐに霧のように消えた

    燐羽「……せっかく戻ってきたのに……こんなところで……」

    噛みしめた唇から血が滲み、その悔しさが痛いほど伝わってくる

    ――あたしも同じだ

    胸は焼けつき、呼吸は喉を裂くみたいに荒い

    指一本すら動かせず、声も掠れて出ない

    それでも巨影から目を逸らすことだけはできなかった

    「……また、同じ結末……?」

    その言葉が胸に沈んだ瞬間

    体の奥から血の気が引き、氷に閉ざされたみたいに冷たくなった

  • 146二次元好きの匿名さん25/09/15(月) 19:14:51

    掠れる声が耳に届いた

    視線を向けると、星南先輩が剣を杖にして立とうとしていた

    血に濡れたその背は、揺れて、今にも折れそうだった

    星南「……守ると誓ったのに……この程度しか……」

    弱々しい言葉と共に、剣先が震え、ついに膝が崩れる

    剣は地面に落ち、星南先輩の身体もそのまま傾いだ

    胸が締めつけられる

    誰より強く、揺るがなかったはずの人が――もう立てない

    その現実が、希望を根こそぎ奪っていく

    満月は無情に照りつけ、逃げ場のない絶望を白々と照らしていた

    手毬を救うために戻ったはずの夜は再び、塗りつぶされようとしていた

    視界が滲み、音も光も遠のいていく

    あたしの意識も、暗闇に沈んで――――

  • 147二次元好きの匿名さん25/09/15(月) 19:17:43

    ――あたしが初めて好きになったアイドルは、十王星南ちゃんです

    幼い頃、テレビで歌って踊る姿を見た瞬間、心臓をつかまれたみたいに息ができなくなった

    自分より二つ年上の小さな女の子なのに、ステージの上では世界で一番大きく見えた

    あの声はまっすぐで、笑顔は眩しくて、ただ見ているだけで胸が熱くなった

    その一挙手一投足から目を離せなくて、毎週の放送をかじりつくように見た

    終われば録画を巻き戻し、眠い目をこすりながら何度でも繰り返した

    気づけば、星南ちゃんは「憧れ」なんて言葉では足りない――夢を追いかける理由そのものになっていた

    番組が終わってからも、星南ちゃんを追いかける日々は続いた

    ライブ映像も雑誌の切り抜きも、机に並べては眺めていた

    その笑顔を見るたび、胸の奥に灯がともる気がした

    学校でうまくいかない日も、その姿を思い出せば立ち直れた

    迷ったときには進む道を示してくれる光になった

    ――星南ちゃんは、あたしの一番星だった

    どんな暗闇にいても、その光がある限り進めると信じられた

    このことはまだ、星南先輩本人には言ってあげませんけどね

  • 148二次元好きの匿名さん25/09/15(月) 19:20:53

    意識が戻ると、冷たい土の上に倒れていた

    胸は焼けつくように痛み、脚はもう動かない

    顔を上げれば、血に濡れた星南先輩が横たわっていた

    あの背中は、ずっと憧れてきたのに、今は届かないほど遠い

    巨体は星南先輩にゆっくりと迫り、二本の手が振り上げられる

    このままでは、その光ごと押し潰されてしまう

    魔法少女になったはずなのに、あたしは……

    夢中で追いかけてきた光が、目の前で消えてしまう――そう思った瞬間、胸が裂けた

    声を出そうとしても喉は焼けるように痛み、視界は涙で揺らいだ

  • 149二次元好きの匿名さん25/09/15(月) 19:22:37

    ことね「そんなの……絶対に嫌だ!」

    震える声でも、心だけは折れなかった

    どんなことがあっても、あたしの一番星は――絶対に陰らせない

    今度はあたしが守る

    ことね「固有魔法――《世界一可愛いあたし》」

    その瞬間、全身が光に包まれた

    胸の鼓動が爆発するように響き、血の一滴まで熱く燃え上がる

    ことね「よそ見はダメ……!」

    振り下ろされようとしていた巨手が軌道を逸らし、強引にあたしの方へ引き寄せられる

    赤い瞳が一斉にこちらを縫いつけた

    ことね「――あたしを見ろ!」

    その瞬間、あたしのすべてが光となって、ハツミを釘付けにした

  • 150二次元好きの匿名さん25/09/15(月) 20:04:00

    ここで未判明だったことねの固有魔法が来るのか

  • 151二次元好きの匿名さん25/09/15(月) 22:58:32

    光に包まれたあたしの一歩が、大地を震わせる

    靴が地を叩くたびに、色鮮やかな粒が宙に散った

    赤、青、黄色――夜空に弾けた光の粒は、次々と形を変えていく

    丸い輪郭に旗や棒が伸び、五線譜に並ぶ音符そのものとなって広場を照らした

    ことね「目を逸らすなんて、許さない!」

    叫んだ瞬間、赤い瞳がぎろりと揺れ、巨体の二本の手が迷いなく迫る

    薙ぎ払う一撃を舞うようにかわし、回転しながら蹴りを叩き込む

    弾けた音符が閃光となり、手を弾き返した

    轟音が夜を震わせ、巨体がわずかによろめく

    ――初めて、ハツミが押し返された

  • 152二次元好きの匿名さん25/09/15(月) 23:03:27

    次の一歩、次の一拍

    音符が矢のように飛び、巨体の胸を撃ち抜く

    硬質な衝撃音が夜に響き、赤い瞳がぎらりと揺れる

    腕を振り抜くと、五線譜のような光が宙を走り、音符の連撃が雨のように降り注ぐ

    閃光が爆ぜるたびに巨体が揺らぎ、確かに追い詰めている実感が胸を焦がした

    星形の口が開き、灼ける光線が放たれる

    咄嗟にステップを踏み、旋回してかわす

    軌跡に連なった音符が盾となり、光を逸らした。

    爆風が夜を薙ぎ、砂塵が広場を覆う

    その中を突き破り、全力の蹴りを叩き込む

    轟く衝撃が巨体をのけぞらせ、夜空に響き渡った

    赤い瞳が怒りに燃え、二本の手が宙を裂く

    無数の星形の斬撃が、雨のように降り注いできた――

  • 153二次元好きの匿名さん25/09/15(月) 23:09:14

    降り注ぐ斬撃を必死に舞って受け流す

    跳ね、回り、踊るたびに音符が弾け、夜が火花で染まる

    刃がかすめ、頬に熱い線が走る。それでも怯まない

    閃撃の隙を突き、音符をまとった蹴りを叩き込む

    轟音と共に巨体がのけぞり、赤い瞳がぐらりと揺れた

    二本の手が制御を失ったように宙を切り裂く

    ――追い詰めた。胸の奥で鼓動が爆発し、全身に最後の力を込める

    ことね「これで――!」

    踏み込もうとした瞬間、視界が白く弾け、脚が沈んだ

    鉛のように重く、もう前へは出ない

    膝が崩れ、地に手をつく。荒い呼吸が喉を焼いた

    視界の向こうで、巨体は揺れている

    勝利は目の前にあるのに――その一歩だけが届かない

    ことね「……お願い……動いてよ……!」

    声だけが、夜に掠れて消えた

  • 154二次元好きの匿名さん25/09/15(月) 23:10:46

    ――ごめんなさい。私はことねのことを、本当はずっと前から知っていたの

    あれは私がまだ中学二年の頃

    通学路の向こうに、小さな少女が立っていた

    まだ幼いはずなのに、胸を圧するほどの魔力を放っていた

    その瞬間、脳裏に浮かんだのは最悪の光景

    ――魔物に殺される未来

    想像しただけで、胃が裏返るような吐き気が込み上げた

    「そんな未来、絶対に許さない」

    私は強く誓った。あの子の未来を、必ず守ると

    その決意に呼応するように、胸の奥で力が弾けた

    《小さな野望》

    一人の少女を守りたい――その想いが形になった力だった

    一人の少女の未来を望むなんて、ほんのささやかな願いでしょう?

  • 155二次元好きの匿名さん25/09/15(月) 23:13:43

    ある日、十王家に一人の男が訪ねてきた

    落ち着いた声と厳しい眼差しを持つ人物だった

    ???「……私には、自身に不思議な力があると気づきました。そして、あなたからもそれを感じる」

    私は彼に魔法や魔物について知る限りを話した

    すると彼は、ためらいもなく言った

    ???「娘から強い魔力を感じる。このままだといずれ必ず、魔物に狙われてしまう」

    ???「娘だけじゃない。同じように狙われる者がいる。それを知って私は――何もせずにはいられない」

    ???「私はこの身を投げ出してでも、魔物を一匹残らず滅ぼす」

    使命感に突き動かされたその声音に、私は思わず息を呑む

    星南「……正気なの? ご家族は、どうするつもりなの」

    ???「私は家を離れる。ずっと会えないのなら……いっそ会わない方がいい」

    星南「そんなわけないでしょ!」

    思わず声を荒げた。けれど彼の瞳に迷いはなかった

  • 156二次元好きの匿名さん25/09/15(月) 23:15:55

    結局、彼を説得することはできなかった

    それで彼と私で、魔物を対処する体制が築かれることになった

    最後に、彼は静かに告げた

    ???「私がいないときには娘を――ことねを頼む」

    その声には、揺るぎない覚悟があった

    けれど、私にとってそれは新しい決意じゃなかった

    ――私はもう、とっくにことねを守ると誓っていたのだから

    星南「……分かったわ。ことねは私が必ず守ってみせる」

    彼の言葉が、私の誓いをさらに強く、重くする

    それは託されたから生まれたものじゃない

    私が自ら望み、そして重ねて背負った約束だった

  • 157二次元好きの匿名さん25/09/15(月) 23:22:04

    血の匂いにむせながら、意識が浮かび上がる

    視界の先で、ことねが地に伏していた

    あの子の一撃は確かに怪物を追い詰めたのに――まだ倒しきれていない

    誓ったのに、守れない

    胸の奥が焼けつき、悔しさに喉が詰まる

    それでも、剣はまだ手の中にある。
    この身がどうなろうと構わない

    最後に届く一撃があるのなら――それでいい。

    血で滑る柄を握り直し、折れそうな脚に力を込める

    立て――倒れるのは、その先でいい

    星南「……ことね。あなたの未来は、私が――必ず守る」

    それは決意ではなく、最後の誓いだった

    渾身の一歩を踏み込み、私は怪物へと突撃した

  • 158二次元好きの匿名さん25/09/15(月) 23:25:55

    霞む視界の中で、その背中を見た

    血に染まり、傷だらけの身体で――それでも前に進む星南先輩

    何度倒れても、その背中は立ち上がり、前を指し示してきた

    ――あたしの一番星だ

    迷うたびに導いてくれた光。その光は今も命を賭けて輝いている

    胸の奥が爆ぜ、声が迸った

    ことね「《世界一可愛いあたし》」

    その響きに応じて、赤い瞳が一斉にこちらを縫いつける

    目線は逸らさせない。絶対に

    視線を奪ったその瞬間、星南先輩の剣が振り抜かれた

    黄金の軌跡が夜を裂き、刃はハツミの巨体を切り裂いた

  • 159二次元好きの匿名さん25/09/15(月) 23:32:52

    轟音が夜を裂き、怪物の咆哮が掻き消える

    巨体に亀裂が走り、砕け散った光の粒子が夜に溶けていく

    世界を覆っていた圧倒的な威圧感が、一気に消え去った

    冷たい夜気の中、胸の鼓動だけがやけに鮮明に響いている

    震える手で地を押し、ようやく顔を上げた

    視界に映るのは――血に濡れながらも、まだ息をしている仲間たち

    星南先輩、美鈴ちゃん、燐羽ちゃん……篠澤さんに抱えられた手毬

    ことね「……よかった……」

    声にならない吐息が漏れ、胸を締めつけていたものがふっと解けていった

  • 160二次元好きの匿名さん25/09/15(月) 23:38:41

    広は膝をつき、深く息を吐いた

    広「《光景》」

    淡い光が仲間たちを包み、傷口を塞ぐように広がっていく

    ことね「……みんな……手毬は?」

    声を振り絞ると、広が小さく頷いた

    広「大丈夫……ちゃんと生きてる。まだ意識は戻らないけど」

    その言葉に胸が熱くなる

    美鈴「まりちゃん……よかった……」

    美鈴は疲れ切った顔のまま、涙を零す

    燐羽も壁に背を預け、かすかに笑った

    痛みに軋む身体を無理やり起こし、あたしは震える息で笑みをこぼした

    ことね「……勝ったんだ、あたしたち……」

    広はふっと目を細め、静かに息を吐いた

    広「……魔力を使いすぎた……ままならない、ね」

    そう言うと、その場にゆっくりと崩れ落ちた

  • 161二次元好きの匿名さん25/09/15(月) 23:41:44

    倒れ伏したまま、広は唇にかすかな笑みを浮かべた

    広「……転換点、だね」

    ことね「転換点……?」

    問い返すと、広は薄く目を開いた

    広「《ツキノカメ》と《光景》……二つの魔法が、ほどけ始めている」

    広「でも……大丈夫。ちゃんと……手毬は救えてる、よ」

    その言葉と同時に、足元から淡い光が滲み出した

    大地は静かに揺らぎ、街並みが水面のように波打っていく

    空の月がにじみ、白い光が膨らんで視界を包んだ

    色も輪郭も柔らかく溶け合い、現実は夢の膜のようにほどけていく

    仲間たちの姿も光に溶け込み、やがてすべてが境を失った

    ――世界が、静かに書き換わっていく

  • 162二次元好きの匿名さん25/09/15(月) 23:43:54

    気づけば、あたしは机に突っ伏していた

    窓の外には昼下がりの青空、教室には休み時間らしいざわめきが広がっている

    黒板には見慣れた数式。まるで何事もなかったかのような光景だった

    もう、この世界に魔法の気配は微塵もない

    あの時の光も、力も――跡形もなく消えていた

    けれど、胸の奥には確かな記憶が残っている

    みんなで戦って、傷だらけになって、それでもハツミを倒した

    それは夢なんかじゃない。血の熱さも、涙の重さも、全部刻まれている

  • 163二次元好きの匿名さん25/09/15(月) 23:46:59

    顔を上げると、前の席の手毬がこちらを見てにやりと笑った

    手毬「授業中に寝るとか、アイドルとしての自覚足りないんじゃないの?」

    ことね「……夢を見てた。みんなで手毬を助ける夢」

    手毬「……気持ち悪いよ。ことねってばそんなに私のこと好きなの?」

    ことね「まあ……大事な仲間だからね」

    手毬は目を丸くしたあと、照れくさそうに言った。
    手毬「……まあ、ことねと一緒でよかったって……ちょっとは思ってる」

    隣の席でノートを閉じていた咲季が、不思議そうにこちらを見ていた

    何気ない仕草なのに、胸が熱くなって、気づけば言葉が漏れていた

    ことね「……いつもありがとね、咲季」

    咲季「え? もう、ことねったら急にどうしたの」

    驚きながらも、頬を赤らめて小さく笑った

    その笑みを見た瞬間――確かに日常がここに戻ってきたのだと胸に染みた

  • 164二次元好きの匿名さん25/09/15(月) 23:54:15

    1組の扉が勢いよく開く

    教室中の視線が一斉に集まる中、美鈴が顔を真っ赤にして駆け込んでくる

    美鈴「……まりちゃん!」

    そのまま手毬に抱きついた

    手毬「ちょ、ちょっと美鈴!? どうしたの!」

    美鈴は何も答えない

    ただ必死に腕に力を込め、頬を伝う涙が制服に落ちていく

    手毬「……もう、仕方ないな」

    そう言って、美鈴の頭をなでる

    それでも美鈴は抱きついたまま、指先さえ緩めようとしない

    手毬「……助けて。美鈴が離してくれない」

    困惑を隠せない手毬と、離れることを拒む美鈴

    その光景に、教室の空気は静かに色を変え、誰もが見守っていた

  • 165二次元好きの匿名さん25/09/16(火) 00:03:58

    教室のざわめく中、廊下からもう一人が姿を現す

    燐羽「手毬……私、アイドルに戻る」

    一瞬、空気が止まった

    手毬は目を大きく見開き、椅子をきしませて思わず立ち上がる

    手毬「……ほんとに? 私、燐羽がやめるなんて、ずっとやめないでほしいって……!」

    声が震え、最後はかすれて消えた

    美鈴は涙の跡を残したまま、かすかに笑った

    美鈴「ようやく、私たちの太陽が帰ってきましたね」

    燐羽はその言葉に小さく頷き、真っ直ぐに告げる

    燐羽「手毬、美鈴――ステージでは絶対に負けないから」

    その瞳には迷いのない光が宿っていた

    手毬はしばらく息を呑んだまま燐羽を見つめ、やがて弾けるように笑った

    手毬「……望むところだよ!」

    その瞬間、教室の空気が震えるように熱を帯びていった

    その光景を見つめながら、胸の奥が熱くなる――新しい未来が始まっていた

  • 166二次元好きの匿名さん25/09/16(火) 00:07:45

    放課後、普段ならそのまま寮に戻るはずだった

    けれど、母から「今日は家に帰ってきて」とだけ書かれた短いメッセージが届いていた

    理由は書かれていなかったが、不思議と逆らう気にはなれなかった

    玄関を開けると、懐かしい影が立っていた

    ことね「……お父さん?」

    疲れた顔なのに、柔らかい笑みを浮かべていた。
    ことね父「……おかえり、ことね」

    その声を聞いた瞬間、胸の奥がほどけた

    張り詰めていた糸が切れ、堪えていた涙が溢れ出す

    ことね「……っ、お父さん……!」

    その場に膝をつき、泣き崩れる

    しゃくり上げながら、ずっと心に抱えていた問いが口をついた

    ことね「……ほんと……ずっと、どこに行ってたんですか……」

    父はただ静かに膝を折り、あたしを抱きしめた

    父の背中に抱きついたまま、声にならない嗚咽があふれた

    どれだけ言葉を探しても、胸に溜めこんでいたものは涙にしかならなかった

  • 167二次元好きの匿名さん25/09/16(火) 00:15:13

    父の温もりに包まれた夜が過ぎ――

    気づけば、放課後の廊下に佇んでいた

    窓から射し込む光に、舞う埃がきらめく

    胸によみがえるのは、あの世界で過ごした日々

    魔物に襲われ、星南先輩に助けられた夜

    時間が止まり、美鈴ちゃんや燐羽ちゃんと戦ったこと

    手毬を救うために過去へ遡り、ハツミに挑んだ戦い

    ――振り返れば、あまりに鮮烈な日々だった

    けれど――あたしにとっての一番星は、ずっと……

    背後から、優しい声がふっと届いた

    「奇遇ね、ことね」

    《完》

  • 16825/09/16(火) 00:21:22

    これにて完結となります。
    ここまで読んでくださった方、保守してくださった方、本当にありがとうございました。
    期待にかなうことができたかは分かりませんが、非日常コメディ風シリアス魔法少女バトルという、
    自分の中で書きたかったものは最後まで形にできたと思っています。
    手毬と星南のNIA編に脳を焼かれた せなこと推しなので、こんな作品になりました。
    アイドルを敵にはできないので、代わりにはつみちゃんに犠牲になってもらいました。
    美鈴の過去回想中、極限状態にすることで手毬を完全なクールキャラとして描けたのも個人的に嬉しいポイントです。
    極限状態なら手毬はクールキャラだというのが私の解釈です。
    最終的に全部晴らすなら、途中ではどれだけ曇らせてもいいと思って書きましたが、
    ちょっと曇らせる描写を長く書きすぎたのは反省してます。
    改めて、ここまで読んでくださったすべての方に感謝します。ありがとうございました。

  • 169二次元好きの匿名さん25/09/16(火) 06:39:11

    めっちゃ面白かったです。終盤熱すぎました。今書いているものに色々参考にします

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