[SS]紅月夜

  • 1◆VoM7GxtDLk25/09/08(月) 00:54:32

    ・トレ♀スティル
    ・ED後。シナリオネタバレを含みます。
    ・解釈違いなどありましたら申し訳ありません

  • 2◆VoM7GxtDLk25/09/08(月) 00:55:37

    色々とあって学園に戻ってきたスティルと私。
    迷惑をかけた皆に挨拶をしなきゃな、と思っていた私たちを出迎えたのは、想像をはるかに超える大歓迎だった。
    同期や先輩、後輩の皆にトレーナー室まで突撃されては泣かれ、ついには学園のほぼ皆を巻き込んだ大パーティーにまでなって。そうしてそれが一段落した私たちの前にあったのは。
    「感激ッ!君たちが戻ってくること、私は信じていたぞっ!!」
    「しかしっ!滞納ッ!君には離れていた間の仕事が残っている!」
    「お戻りになってすぐにこういう事を言うのは申し訳ないのですが、それでも書類はかなり溜まっています……今のトレーナーさんは休職扱いですので、ゆっくりと休んでから片付けていってください…。」

    ……スティルを探していた間の、溜まりに溜まった仕事であった。
    そんなこんなで私は今、トレーナー室を埋め尽くさんばかりの書類の山とほぼ一日中格闘している。
    この時ばかりは、ジャパンカップ前の寝なくても全く疲れない体が羨ましいなんて、ちょっとばかり不謹慎なことを考えながら。

  • 3◆VoM7GxtDLk25/09/08(月) 00:56:38

    夜21時、夜も更けてきた頃。やってもやっても終わらない書類に流石に疲れを感じる中、ふと部屋に違和感を感じた。こういう時は、大抵彼女がいる。
    「…スティル?」
    「!…はい、ここにおります。貴方は、こんな時でもちゃんと私を見つけて下さるのですね…。」
    「言ったでしょう、君を見つけるのは得意だからって。」
    「…っ!」スティルの小さな耳がぴこぴこ動いて、全力で喜びを表現しているようだ。それに少し、溜まった疲れが取れる。

    「そ、その、眠気をとるのに良い、浅煎りのコーヒーを用意しております。トレーナーさんもお疲れのようですし、もうひと頑張りする前にご一緒に、いかがでしょうか…?」
    「いいの?…じゃあありがたく、頂こうかな。」「はいっ!少々お待ちください…!」

    「どうぞトレーナーさん。お召し上がりください。」
    スティルが淹れてくれたコーヒーを飲むのも久しぶりだ。ずずっと一口、さわやかな味が広がる。一口だけで、溜まった疲れも取れるようだ。
    「うん、おいしいよ。いつもありがとうね、スティル…!」
    「ええ、喜んで頂けて嬉しいです…!」ちょっと不安そうにこちらをのぞき込んでいたスティルも、安心したようだった。

  • 4◆VoM7GxtDLk25/09/08(月) 00:57:38

    「それはそうと、もう消灯時間でしょ?いつもみたいに送ってあげるから。」
    「…いえ、大丈夫です。外泊許可は取っております。」
    「その……頑張る貴方のお傍に居たくて…。」「それに、私も宿題が溜まっておりまして。一緒にそれをやりたいのです。」
    聞けばスティルも私と同じようだった。影が薄いことを自覚していた彼女は、ネオユニヴァース、アドマイヤグルーヴといった仲の良かった子に挨拶をすれば十分だと思っていたらしい。が、待っていたのはクラス皆での大パーティーだったという。
    「影が薄いのも、悪くないのかもしれません…」とは彼女の談だった。そしてその後は私と同じように居なかった間の宿題を片付けているらしい。

    「でも、私は夜通しで作業していると思うよ?私は大丈夫だけど、スティルは…」
    「いいんです、貴方と一緒にやりたいのです…!!」「どうか……」
    彼女と向き合ってきた身として、こうなった彼女は絶対に意志を変えないと分かっている。
    「はぁ…分かった。でも、貴方の身体が最優先だからね。」「私が、貴方が無理していると思ったらすぐ休んでもらうから。」
    「…!!」今度は耳に加えて尻尾も大暴れしている。それを見ているだけで癒される。
    「一緒に、片付けよっか。」「はいっ!」

  • 5◆VoM7GxtDLk25/09/08(月) 00:58:38

    そうして二人で、溜まった仕事や宿題を片付ける。巡回の警備員さんには伝えてあるので、今夜は驚かれることはない。
    日付が変わったことにすら気付かず、私たちは無心になって仕事をしていった。

    そんな中、ふいに電気が消えた。
    「…あれ?」「…あら?」声が重なる。
    「停電、でしょうか…?」「そうみたいだね…うーん、仕方ないけど今日はここまでにしよっかな…。」「ですね、いくら夜目が効くとはいえ、これでは…。」
    作業途中のノートパソコンを保存して、画面を閉じる。すると、トレーナー室は真っ赤に染まった。

    「…えっ!?」そういえば、今日は満月の日。もう大丈夫だと思っていたが、まだ紅からの影響が残っているのだろうか。
    いけない、これではまたスティルを悲しませてしま……「トレーナーさん、あれは…?」
    その言葉に顔を上げると、不安そうなスティル。「スティル?どうしたの…?」「後ろです、トレーナーさん。月が…」
    そうして振り返ると、窓の外に真っ赤に染まった満月が見えた。まるで、あの時のような。

  • 6◆VoM7GxtDLk25/09/08(月) 00:59:40

    「……っ!!!!」心臓が大きく跳ねる。あの時と一緒。これではスティルを悲しませるどころか、傷付けてさえしまうかもしれない。
    「スティル…だめ、ここから離れて…!また、私はまた…!!」「……さん…」
    「はやく…っ!!」「トレーナーさんっ!!」
    いつの間にか目の前に立っていたスティルに顔を掴まれる。
    「だめ、スティル、だめ、私また、貴方を傷つけて…」
    「違います、トレーナーさん!これは、あの子じゃありません!!」
    「……っ!」ぺしん。控えめな衝撃が頬に走って、思考が冷静になる。そういえば、あの時と違って変な考えに囚われることがない。なら、これは……

    「あっ……も、申し訳ありませんっ!私……」
    深呼吸をひとつ。「……いいの、私を落ち着かせてくれたんでしょ?ありがとね、スティル。」
    「でも……あの子じゃないとすると、これは…?」
    必死に考えるとひとつ、思い浮かぶことがあった。ネオユニヴァースといつか話した時に聞いた、月が真っ赤に染まる天文イベントのこと。

    「……月食?」
    「……あっ、そういえば昨日、ユニヴァースさんが「明日は”TLE”だよ。1と400がいっしょになる日だね」なんて仰っていたような…。」
    調べてみると、確かに今日は皆既月食の日のようだった。ウマスタにも、ウマッターにもたくさんの投稿がある。
    「良かった…。また、あの時みたいに…。」理解したとはいえ、まだ鼓動は落ち着かない。
    「……あの時はごめんね、スティル。謝っても謝り切れないことだとは思うけれど、それでも…」「そんなっ、それは私の方こそ謝ることで……」「いいの、私が貴方を傷つけちゃったのは…」「私こそ、貴方を…」

    押し問答をしていると、ぱっと灯りがともる。どうやら停電は短時間のものだったようだ。
    「あっ…」なんだか拍子抜けしてしまった。どうやらスティルもそのようで、静寂が流れる。

  • 7◆VoM7GxtDLk25/09/08(月) 01:00:42

    「ねえ、スティル。」「は、はいっ!」
    「ちょっと、お月見でもしてみない?夜だからやめよっかな、って思ってたけど、甘いお菓子もあるから。」
    「お月見、ですか?」「うん、さっきみたいに電気を消してみてさ。」
    「…はいっ!ご一緒、します!甘いお菓子に合うコーヒー、淹れてきますね!」

    スティルがコーヒーを淹れてきて、私は机にしまっていたお菓子を出して。電気を消すと、トレーナー室はさっきのように赤く染まった。
    二人でトレーナー室の中央、月がよく見えるソファーに腰掛ける。

    「普通のお月見とはまた違うけど、これも良いね……」ふとスティルを見ると、食べる手が止まっている。「…スティル?」
    「あっ……いえ、なんだか、夢みたいだな、って…。」
    「ご存じの通り、満月の夜はあの子が出てきてしまっていました。だからこんなお月見なんて、書で憧れても、出来ませんでした…。」
    「真っ赤な満月なんて、貴方と一緒でなければ、見ることは永遠に叶わなかったでしょう。」
    涙声になりながら続けるスティル。
    「だから…今こうやって、貴方のお傍で、紅に染まる月を見れる。私、本当に、ほんとうに、しあわせです……。」

  • 8◆VoM7GxtDLk25/09/08(月) 01:01:48

    返す言葉が見つからずにただ聞いていると、ふいにスティルがこちらを向いた。
    「トレーナーさん…。もう一つ、夢を叶えていただいてもよろしいでしょうか…?」
    「うん、私に出来る事なら。」「ありがとうございます…。」
    「……そ、その。えっと…」「……大丈夫、待つよ。」

    「えっと…その、綺麗な…月ですね…。」「月が……綺麗ですね…っ!」
    紅月の光中でも分かるくらい、真っ赤に染まったスティルの顔。
    「…!」あの時と同じように、でも全く違う理由で、鼓動が早まる。返すべき言葉は、ひとつ。
    「……うん、本当に。このまま時が止まればいいのに、って思うくらい。」
    「っ!!」「…ありがとう、ございます…!」


    それは、いつか彼女が夢見た、穏やかで、幸せな時間。
    真っ赤に染まるトレーナー室のなか、2人だけのお月見は続いていく。
    大丈夫。2人は、ずっと一緒。

  • 9◆VoM7GxtDLk25/09/08(月) 01:04:14

    おしまい
    今日は皆既月食だって聞いて、2人ならどうなるかな〜って衝動的に書き上げました
    それでは自分は皆既月食を見に行ってきます

  • 10二次元好きの匿名さん25/09/08(月) 01:11:55

    タイムリーな良SSでした
    トレスティは無限にイチャイチャさせろ

  • 11二次元好きの匿名さん25/09/08(月) 03:37:42

    良いSSをありがとう
    因みにスティルのシニア期に当たる04年5月5日も皆既月食があって赤い月が見れたらしいよ

  • 12二次元好きの匿名さん25/09/08(月) 10:30:22

    >>11

    金鯱賞と宝塚の間あたりなんですね

  • 13◆VoM7GxtDLk25/09/08(月) 19:02:49

    ご覧いただきありがとうございます

    せっかくなので撮影したスティルと皆既月食を貼っていこうかと思います


    >>11

    >>12

    そんな丁度よいタイミングであったんですね……シナリオにも反映されてたりして

  • 14二次元好きの匿名さん25/09/08(月) 19:04:34

    このレスは削除されています

  • 15◆VoM7GxtDLk25/09/08(月) 19:05:46

    スティルの手のひらに皆既月食を乗せて

  • 16◆VoM7GxtDLk25/09/08(月) 19:06:58

    皆既月食を眺めるスティル

    ありがとうございました!

  • 17二次元好きの匿名さん25/09/09(火) 05:03:59

    >>15

    なんかカレンのカワイイ玉的な奴に見えてしまった

オススメ

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