🎲【閲覧注意】学P「初星バトルロワイアル……?」2

  • 1◆YYjiOMVygQ25/09/08(月) 22:33:59
  • 2◆YYjiOMVygQ25/09/08(月) 22:34:59

    私の願いは、叶わないことばかりだ。

    いつか焦がれ、向かい始めたあの空も、一度追い越してしまえば失っていくばかり。憧れも競争も、失望へと染まっていく。見上げる限りに広がっていた空は、突き抜けて見下ろした瞬間、ちっぽけだったのだと気付いた。

    とうに太陽は沈んだ。煌めけどなお、返す光もありはしない。陽光を無くした鈍色の空は――いつか憧れたアイドルの道は、どうしようもなくくすんで見えた。

    燐羽「……私も随分腑抜けたものね。」

    みんなで歌いたいと思ったクラスの合唱コンクールでは、ある女の子が、私の隣で歌うのは嫌だと泣きながら訴えた。どうやら私には、"実力"だとか"才能"だとか呼ばれるものがあるらしい。

    燐羽「私は元々一人だった。長い間、忘れていたわ。」

    初星学園中等部。アイドルを志す者たちにとって、私の持つそれは喉から手が出るほど欲しかったものらしい。
    羨望にも嫉妬にも晒され続け、そんな疲れるものから距離を置いているだけで、簡単に"一匹狼"は出来上がった。
    歌うだけで他人様を傷付けるらしい私にとっては、与えられるべくして与えられた末路だ。

    燐羽「そう思わない? 一番星さん。」

    そして――ステージから見渡す先に、"彼女"はいた。
    その手に金属製のメイスを携えて、客席から堂々と歩み寄る。

  • 3◆YYjiOMVygQ25/09/08(月) 22:36:28

    星南「どうかしら。私の知るステージ上のあなたは、ユニット活動をしている姿ばかりだもの。」

    燐羽「あら、光栄ね。一番星に認知されていたなんて。」

    星南「美鈴を生徒会に勧誘する時に、SyngUp!の映像は一通り目を通したわ。噂に違わぬ危なっかしいユニットだったけれど……。」

    星南「中でもひと際、異彩を放つアイドルがいた。」

    燐羽「手毬のことでしょう? 随分と目立っていたもの。」

    星南「言ってなかったかしら。私の目は、アイドルの能力を見抜く。」

    星南「才を隠すなら歌の中、といったところかしら。月村手毬の圧倒的な歌唱力の中ではその才能を疎まれることもないまま、あなたは中等部ナンバーワンユニットになれた。随分といい隠れ蓑を見つけたものね。」

    しばしの静寂を、吹き荒れた一陣の風が撫でた。
    言葉尻から醸し出る悪意は、幾度となく味わってきたものだ。
    特に、初星学園を裏切った上で再び交換留学などという制度で戻ってきたのだ。
    白草四音でなくとも、どっちつかずの蝙蝠女への愚痴のひとつも零れよう。

  • 4二次元好きの匿名さん25/09/08(月) 22:37:34

    待ってた

  • 5◆YYjiOMVygQ25/09/08(月) 22:37:45

    燐羽「…………それで、用事はそれでおしまい?」

    星南「本題はここからよ。アイドル活動から離れ、実力を落とした今のあなたでも、その潜在能力は底が知れない。」

    星南「かつての一番星、賀陽継をも凌駕するその才能――」

    燐羽「……。」

    星南「だからこそ、言わせてもらうわ。」

    星南「今日は一番星、十王星南をもってしても……私が、挑戦者なのだと。」

    それは宣戦布告であった。
    鈍器を手に、よもやアイドル勝負を始める気でもあるまい。

    そこに動揺が生まれたのは確かだ。初星学園生への慈愛に満ちたあの十王星南が、このようなプログラムに"乗って"いるのか、と。
    だが、その動揺も瞬く間に一笑に付した。
    初星学園の一番星がどのような人物であったとしても、もはや今さらどうでもいい。

    けれど――命を狙われている現状は、到底看過できるものではない。
    これはアイドルとか才能とか、そんな一切合切を抜きにした生存本能の話だ。

    燐羽「へえ……あなたがそうくるのなら、喜んで正当防衛とさせてもらうわ。」

    支給された刀を鞘から抜く。
    抜き身になった刃を以て対峙してみれば、その場に生じる緊張感。
    先に一歩を踏み出したのは星南の側。
    土を踏みしめる鈍い靴音だけが、このステージにおける開戦の合図となった。

  • 6◆YYjiOMVygQ25/09/08(月) 22:39:46

    燐羽(っ……! 速……)

    迫り来る攻撃は想像以上の速度だ。

    平均身長を大きく上回る恵まれた体格。一番星の称号を与えられるに相応しい圧倒的なダンス力を可能とするだけのその筋肉量。まともなレッスンから離れて長い私の身体能力で、受け切れるだろうか。

    大振りの一撃を前に回避は困難。なればこそ刀を横に構え、その一撃を受け止める。
    火花が飛び、削り取られた金属粉が風に舞った。

    燐羽「……チッ。」

    痺れる腕と刃こぼれした刀から伝わってくる。
    何度もこの押収を繰り返していては、刀が折れるのが先だ。

    星南「まだまだっ!」

    そこに優位を見出した星南は攻めの姿勢を止めない。
    すでにアイドルとして"完成"しているその身体能力から振るうメイスの殴打は、武器の重量など感じさせないほどの速度を見せていた。

  • 7◆YYjiOMVygQ25/09/08(月) 22:43:17

    燐羽(だけど、甘い。)
     
    力で押し勝てると確信した星南が取った方針は、精度を二の次にした、乱雑な攻撃の連打。
    されど縦横無尽に振るわれるその切っ先の、ひとつひとつが致命傷になり得る理不尽。
    まるで流星が辺り一面に降り注いでいるかのごとき光景。

    燐羽「――見つけた。」

    されど、流星が描くのは流線型のみ。
    そこに最初から活路は開かれている。

    星南「なっ……!」

    燐羽が取った一手は"突き"であった。
    直線的に振るわれた刀は振り回されるメイスの隙間を縫って星南の心臓に真っ直ぐ向かっていく。

    確かに肉を削ぐ感覚が腕を伝うも、メイスを振り回す際に逸れた身体の軸により、心臓から僅かに逸れ、致命傷には至らない。捨て身の突撃に対し、メイスは燐羽の脇腹に確かに命中する。

    両者の身体に耐え難い痛みが走る。アイドル活動と――否、これまでの人生と無縁だった痛み。
    次に反射的に取る行動が逃避であるのも止むを得まい。

    互いに大きくバックステップを行い、両者の間には再び、充分な距離が生じた。

  • 8◆YYjiOMVygQ25/09/08(月) 22:44:57

    星南「今のは危なかったわね。もう少し踏み込んでいたら、死んでいた。」

    燐羽「自分の数値を過信しすぎなのよ。井の中の一番星?」

    再び武器を構えて見据え合う両者。

    燐羽(まだ戦意があるのね。)
     
    死を直感させるだけの痛みを与えても、星南は引く様子がない。
    "死にたくない"という至極真っ当な動機で殺し合いに乗っているのならば、その痛みこそ最も忌避して然るべきもののはず。
    星南の戦う理由は、もっと別のところにあるのか。

    燐羽(……よしましょう、こんなこと考えても、ノイズになるだけ。)

    刺突による強襲は、敵が乱雑に攻撃を仕掛けてきたが故に成功したものに過ぎない。
    警戒され、一撃の重みに"集中"を乗せられては通じないだろう。

    だからといって、防御によるメイスへの対応も難しい。
    刀の耐久力が持たないという話以前に、先の刺突を決めた代償に、左脇を大きく損傷した。
    片腕で防御するには、相手の攻撃は重すぎる。

  • 9◆YYjiOMVygQ25/09/08(月) 22:50:02

    燐羽(だったら方針はシンプル。敵よりも速く、首を落とす。)

    星南「……へえ。」

    刀を鞘に納めた。
    持ち上げ、振り下ろす――相手を斬るために本来必要なふたつの動作を、ひとつに纏める最速の構え――居合い。

    星南がいかに腕力と体格に任せた速度の攻撃を行おうとも、メイスという重量物を扱う以上、速さには利がある。
    防具の無い箇所にたたき込めば、お互いにお互いが一撃必殺。
    遠隔武器も関与しないこの戦いに、両者の射程にも大差はない。
    ならば、速さだけが要である。

    交錯するその一瞬、射程に入る瞬間を狙いすまし―― 

  • 10◆YYjiOMVygQ25/09/08(月) 22:51:27

    燐羽「っ!?」

    ――集中を深める燐羽の眼前には、荒い軌道を描いて飛来するメイスがあった。

    燐羽「しまっ――」

    反射的に抜刀。
    敵を叩き切るための構えは、飛来物への対処に使われた。

    質量の塊とぶつかりあった刀はぽきりと音を立てて折れ、大地に転がる。
    そして叩き落されたメイスの向こう、走り寄る星南の姿が映った。
    手にしていた武器は投擲済み。
    支給袋から新たな武器を取り出すほどの時間は与えていない。
    そんな星南が攻撃に用いたものは――己の脚であった。

    ダンスパフォーマンスを実現するために日々走り込みやレッスンで鍛えられたその脚は、金属によるコーティングなどなくとも、立派に凶器として成立する。
    腹を蹴られ、悶絶するまでの痛みとともに、燐羽は背中から倒れ込んだ。

    燐羽(……ここまで、かしら。)

    1対1での戦いでそれだけの隙を晒すことが、いかなる結果に繋がるか。
    その先は、語るまでもあるまい。

    内臓を蹴られ、霞む意識の中――自身の死を確信しながら、私は走馬灯をみた。

  • 11◆YYjiOMVygQ25/09/08(月) 22:57:12



    ――私の願いは、叶わないことばかりだ。

    あの日焦がれた太陽はどこにもありはしない。
    "実力"やら"才能"やらで周りの人を傷つけながら、くすんだ空で独り歌う私の、何がアイドルと呼べるのだろう。
    そんな心地でいたから、だろうか。

    『最後まで生き残った者……優勝者には、ひとつだけどんな願いでも可能な範囲で叶えてやろう。』

    あの言葉にも、心は震えなかった。
    どうせ叶うことなんてないと、諦めてすらいた。

    星南に負けた理由も、それがすべてなのだろう。
    私には、このプログラムを"勝ちたい"と思えるだけの理由が特に無いのだ。
    勝って掴みたい願いなんて、何もない。

    だけど、駆け巡る記憶は――たとえば、私のファンたちを佑芽に託すことができた、N.I.Aの一幕だった。
    アイドルを引退するにあたり気がかりだった、ファンのみんなの行き先にひとつの着地点を与えることができた。
    願いは叶わない、なんてずっと燻っていたけれど、そんな鬱屈を壊してくれる者はいるのだと――少し、ほんの少しだけ、思えたのだ。

  • 12◆YYjiOMVygQ25/09/08(月) 22:58:36

    燐羽(――なんて。今さら思い出しても、手遅れでしょうに。)

    燐羽(死ぬのね、私。)

    燐羽(きっとみんな、せいせいするんじゃないかしら。私、周りを傷つけてばかりだったものね。)

    燐羽(でもきっと、あいつらは――)

    走馬灯の果て、浮かんできた二つの憎たらしい顔があった。

    秦谷美鈴と、月村手毬。
    腐れ縁とばかりに、突き放しても離し切れない目障りな奴ら。

    燐羽(私が死んだら、アイツらはどんな顔をするのかしら。)

  • 13◆YYjiOMVygQ25/09/08(月) 23:01:12

    想像に容易いわね。
    きっと美鈴は、勝手にいなくなった私に、怒るんでしょ。
    極月に行ってから、ゆっくり話をする機会もなかったもの。

    そして手毬は――泣くのでしょうね。
    それで私が生き返るわけでもないのに。
    人目も憚らず、子供みたいに――


    ああ、本当に、今さらだ。
    すべてが終わるその時になって、ようやく――


    ――死ぬわけにはいかない理由が、生まれてしまった。


  • 14◆YYjiOMVygQ25/09/08(月) 23:03:28

    星南「……なっ!?」

    それは、死刑執行の瞬間だった。
    背中から倒れ、悶絶のあまりに失神すらした燐羽は、まさにまな板の上の鯉も同然だったはずだ。

    瞬時に落ちているメイスを拾い、振り上げているその時だった。
    折れた刀の破片を直に鷲掴みし、それを星南へと突き出した。

    折れた刃とメイスがぶつかり合う。
    武器としての質も相性も、比べるまでもないだろう。

    かつて刀だったものは砕け散り、それを粉砕しながらメイスは燐羽へと到達した。
    されど、燐羽の最後に見せた意地を示すかの如く――メイスの中央からぴしりと、線状の亀裂が横一文字に走った。

    砕けたメイスの一撃を顔面に受け、今度こそ大地に完全に倒れ伏していく。

    星南「……驚いた。」

    星南「最後の瞬間、まるで火が灯ったかのように、あなたのアイドルパワーが上昇したわ。」

  • 15◆YYjiOMVygQ25/09/08(月) 23:06:17

    星南「もしあの"熱意"を最初からあなたが出していたなら――殺し合いの行方はきっと違ったでしょうね。」

    消えゆく意識の中で、星南の言葉を聞いた。
    それは、命を奪う執行者にしてはとても弱弱しく、そして儚く。

    星南「……でもあなたからその熱を奪ったのは、きっと――」

    星南「――ごめんなさい。」

    星南「あなたに……初星学園の皆に、言いたかった。」

    ああ、本当に。
    私の願いはいつも、叶わないことばかりだ。

    星南「私を……一番星を目指しなさい、と。」

    星南「あなたたちの夢は、ここにある、と……。」
     
    夢も希望も、全てが潰えようとしているこの瞬間――
    私が最も欲しかった言葉を。
    この世界への希望となり得るひと言を。
    手も届かないほどの、遥か遠くにチラつかせるのだから。

    【賀陽燐羽 死亡】
    【残り 14人】

  • 16◆YYjiOMVygQ25/09/08(月) 23:13:50

    【15:07 野外ステージ】
    ※ステージ上に剣と折れた刀が落ちている。
     
    【十王星南】
    状態:胸元に裂傷
    持ち物:金属バット、メイス(亀裂アリ)、盾
    行動方針:???

  • 17二次元好きの匿名さん25/09/09(火) 00:02:01

    燐羽😭😭😭

  • 18二次元好きの匿名さん25/09/09(火) 07:27:08

    保守

  • 19二次元好きの匿名さん25/09/09(火) 08:13:16

    壱の型で決めることはできなかったか……

  • 20◆YYjiOMVygQ25/09/09(火) 15:27:27

    保守
    次はことね千奈美鈴の予定です。

  • 21二次元好きの匿名さん25/09/09(火) 21:10:18

    星南が好戦的だったの、わりと意外。

  • 22◆YYjiOMVygQ25/09/09(火) 22:48:24

    ほしゅ

  • 23二次元好きの匿名さん25/09/10(水) 06:15:22

    保守

  • 24二次元好きの匿名さん25/09/10(水) 12:43:15

    このメンバーだと美鈴が容赦なくヤってきそうで怖いな…

  • 25二次元好きの匿名さん25/09/10(水) 21:10:34

    保守

  • 26二次元好きの匿名さん25/09/11(木) 00:25:09

    早いけど翌朝失敗しそうなので保守

  • 27二次元好きの匿名さん25/09/11(木) 07:42:20

    保守

  • 28二次元好きの匿名さん25/09/11(木) 17:32:59

    ほい保守

  • 29◆YYjiOMVygQ25/09/11(木) 20:58:20

    保守
    予定が終わってホスト規制かかってなかったら今日投稿します。

  • 30◆YYjiOMVygQ25/09/11(木) 23:39:13

    子どもの頃、メイドに聞いたことがある。
    どうしてわたくしには、たくさんのボディーガードがついているのか。

    わたくし以外の子どもだって、怪我をしたら痛いのは一緒なのに、わたくしだけが守られている。
    その理由が、気になったのだ。

    メイドは言った。
    お金を持っている家の子どもは狙われやすいのです、と。

    そんな話を、ふと、思い出した。

  • 31◆YYjiOMVygQ25/09/11(木) 23:44:52



    初星学園高等部アイドル科、1年2組。
    少女たちは、まるで午後のひと時を優雅に堪能しているかのように、ティーカップにルイボスティーを注ぐ。

    その会の構成員それぞれの所作は、お淑やかで、上品と称されるに相応しい。
    床に僅かに積もった埃は、掃除当番が明日もその教室を変わらず使えるのだと無根拠に信じていたであろうことが伺える。
    だが、そんな不名誉な汚れすらも、その優雅な空間では百合の花に幻視することだろう。
    庭園の一部を切り取ったようなその二人だけの空間で、倉本千奈と秦谷美鈴は向かい合わせに座っていた。

    千奈「どうぞ。わたくしの荷物の中にあったルイボスティーですわ。」

    美鈴「まあ。いいのですか。」

    千奈「ええ。……どうぞお召し上がりになってくださいませ。」

    美鈴「……では、遠慮なく。」
     
    いただいたお茶を、啜る音を立てることなく口に運ぶ。
    ルイボスティーの効能だろうか、逸る気持ちが次第にすうと消えていくのが分かる。

  • 32◆YYjiOMVygQ25/09/11(木) 23:52:22

    美鈴「わたしは、このプログラムで優勝します。」

    まるで昨日の晩ご飯を告げるかのように淡々と、美鈴は宣言した。
    それを受けた千奈も、分かっていると言わんばかりに、小さく吐息を零す。

    千奈「まあ、正直なんですのね。」

    美鈴「そちらこそ、意外とあっさりした反応でしたね。」

    千奈「そうかもしれませんわ。」

    千奈「でもわたくしでは、秦谷さんが何をしようとしていても、止めることはできませんもの。」

    美鈴「ええ。倉本さんには負けないでしょうね。」

    千奈「もちろんですわ。でも、それだけじゃありませんのよ。」

    美鈴「……?」

  • 33◆YYjiOMVygQ25/09/12(金) 07:56:07

    保守

  • 34◆YYjiOMVygQ25/09/12(金) 13:54:18

    保守

  • 35二次元好きの匿名さん25/09/12(金) 19:35:03

    木製バットじゃ金属バットには勝てんか.....

  • 36◆YYjiOMVygQ25/09/12(金) 22:57:07

    hosyu

  • 37二次元好きの匿名さん25/09/13(土) 06:13:14

    保守

  • 38◆YYjiOMVygQ25/09/13(土) 15:00:24

    保守

  • 39◆YYjiOMVygQ25/09/13(土) 20:55:42

    千奈「わたくし、思うのです。このプログラムに初星学園が選ばれたのは、きっとわたくしが原因なのでしょうと。」

    わたくしが動かしているお金はとても多いと聞きます。
    たとえばわたくしが開催するライブには、倉本グループの重鎮たちがこぞって参加してくださいますわ。
    その集まりひとつが無くなるだけで、その金銭的な影響は億単位に登るのでしょう。

    それに、わたくしに"何か"があった時にお父様やお爺様に及ぼす精神面での影響。何より、わたくしの命が脅かされつつあるこの状態でおふたりが出せる"金額"。

    『――お金を持っている家の子どもは、狙われやすいのです。』

    あの時の言葉が、実感を伴って襲ってきている。
    友達がこぞってこのプログラムに巻き込まれているのも、その大本を辿れば――

    千奈「だから……止められませんわ。」

  • 40◆YYjiOMVygQ25/09/13(土) 21:10:14

    しんと静まった空気は、実際よりもずっと遅く時間が流れているように思えました。

    そんな静寂を破ったのは、歌うように滑らかな秦谷さんのお声でした。

    けれど、その言の葉の中身は、歌よりもずっと、冷たい意味を孕んでいて。


    美鈴「では……ここでお命を頂戴しても構わないということですか。」


    秦谷さんが支給袋から取り出したのは、金属バット。

    それを目にした瞬間は、呼吸がひゅっと跳ねるような心地でしたわ。


    千奈「え、ええ……。そういう、ことに、なります、わね。」


    震える声で、申し上げました。

    強がりだと、きっとバレていることでしょう。


    わたくし、決めていますの。

    大きな壁が立ち塞がって、怖くなったとき――大言壮語を、いたしましょうと。

    口に出してしまえば、どれだけ怖くても、後戻りはできませんもの。


    アイドルに二言は、ないのですから。


    dice1d2=2 (2)

    1.こ、ここを通りたければわたくしを殺してからにしてくださいませ!

    2.やっぱり無理ですわぁ~~~!

  • 41◆YYjiOMVygQ25/09/13(土) 22:50:11

    千奈「やっぱり無理ですわぁ~~~!」

    美鈴「っ!?」

    千奈「本当に……わたくしのせいでこのような事態になっているのなら、言ってはならないことですけれど!」

    千奈「でも……そんな恐ろしいこと……」

    千奈「――秦谷さんにやらせるわけにはいきませんもの!」

    美鈴「え……?」

  • 42二次元好きの匿名さん25/09/14(日) 01:32:04

    日曜の朝は失敗しやすいから保守

  • 43二次元好きの匿名さん25/09/14(日) 09:42:32

    保守

  • 44◆YYjiOMVygQ25/09/14(日) 16:59:45

    きょとんとした顔で、秦谷さんはわたくしを見ていました。
    いつも冷静な秦谷さんにしては珍しく、困惑を隠しきれていない声色で。

    美鈴「恐ろしいことというのは……」

    美鈴「倉本さんが"死ぬ"ことではなく、わたしが他のアイドルを"殺す"こと、なのですか。」

    千奈「も、もちろんどちらもですけども!」

    美鈴「ですが……先に発したのは、わたしのことなのですね……。」

    秦谷さんは僅かに逡巡したような表情を見せたが、すぐに我に返ったように首を横に振り、そして向き直った。

  • 45◆YYjiOMVygQ25/09/14(日) 17:17:31

    美鈴「倉本さん、わたし、思うんです。」

    美鈴「このプログラム、優勝を狙うにしても他の参加者を積極的に殺し回る必要はないと。」

    千奈「そ、そうなのですか?」

    美鈴「確かに他の参加者を襲撃すれば、支給アイテムを奪えるかもしれません。」

    美鈴「手数が増えれば、有利に立ち回れる局面もあるでしょう。」

    美鈴「ですが……極論、素手であっても首を絞めれば人は死にます。」

    千奈「ひっ……。」

    美鈴「結局のところ必要なのは、致命傷を先に与えられる機会です。アイテムなど、その一要素でしかありません。逆に、消耗してしまい不利にはたらくこともあるでしょう。」

    美鈴「だから、焦る必要なんてありません。わたしが最後に立っていれば、それでいいのですから。」

    そう言うと、秦谷さんはルイボスティーを静かに飲み干してしまいました。
    そして慎ましげな所作で立ち上がると、支給袋から金属バットを取り出し、構えて――

    美鈴「……なんて、そんなことを思っていました。」

    ――わたくしへと、その先を向けたのです。

  • 46◆YYjiOMVygQ25/09/14(日) 17:40:56



    それは初めて倉本さんと出会った時からずっと、感じていたことでした。
    育ちの良さの垣間見える高貴な所作と反して、倉本さんは、他人の心の隙間に入り込むのがとても巧い人だ、と。

    突き放せども切り離せない。
    内側から、かき混ぜられているみたいに。

    相手の心をひしりと掴んで離さないそれに、あえて名称をつけるのなら――"好印象"。
    そこにいるだけで、あらゆる悪意が薄まって、消えていく。

    きっとこのプログラムでも、彼女の求心力は如何なく発揮されるのでしょう。
    事実、わたしにも迷いが生まれました。

    本当は戦いたくないのに、権力によって強制された戦いを止めて、団結して結束力を固め――ボイコットという希望へとみんなを導く。
    言うなれば、リーダーの資質。

  • 47二次元好きの匿名さん25/09/14(日) 17:45:00

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  • 48◆YYjiOMVygQ25/09/14(日) 17:56:29

    彼女を放っておくと、ボイコットを名目に集まる複数人のグループが形成されかねません。
    そうなれば、優勝を狙うのも難しくなるでしょう。

    千奈「秦谷……さん?」

    美鈴「これは、優先順位の問題です。」

    失いたくないものは、たくさんある。
    もしうまくいくのなら、みんなでボイコットするという手に縋ることだって、頭の中を何度も過ぎっている。

    だけど、そんな不確定な手段に、わたしの――そしてまりちゃんの命は、賭けられない。
    そんなリスクを負うくらいなら――

    美鈴「失いたくないものをただひとつ守るための、苦渋の決断なんです。」

    かつてのユニットの仲間であるりんちゃんも、高等部で新しくできた友達である篠澤さん、花海さん――そして倉本さん。
    その全員を切り捨てる羽目になったとて――修羅の道を歩くしか、ないのだから。

  • 49二次元好きの匿名さん25/09/14(日) 18:07:10

    もう続きを見たくないのに気になって見てしまう…

  • 50二次元好きの匿名さん25/09/14(日) 18:10:19

    修羅の道ルート行ってるキャラ、『羅生門』みたいな、「悪いことやった奴には悪いことしても良い」みたいな因果応報理論でぶっ◯されるんだろうなぁ、良い。

  • 51二次元好きの匿名さん25/09/14(日) 18:17:39

    美鈴覚悟がガン決まりやね

  • 52◆YYjiOMVygQ25/09/14(日) 23:11:32

    美鈴「だから、構えてください、倉本さん。」

    倉本さんが武器を取り出すまで待ったのは、わたしなりの敬意でしょうか。
    それとも、丸腰の相手を攻撃することへの躊躇かもしれません。
    何にせよ、合理性のない行いなのは確かです。

    目を逸らした瞬間殴りかかると思っているのか、倉本さんはこちらの出方を伺いながらおそるおそる袋へと手を伸ばし――中から木製のバットを取り出した。

    千奈「は、秦谷さん。こんなことは……ひゃっ!?」

    材質の異なる二本のバットが鈍い音を奏でる。

    火事場の馬鹿力というものでしょうか。
    頭蓋を狙っても、ぎりぎりで割って入ったバットが大きくその勢いを殺してしまうようです。
    ですが――その数が二度、三度と指折られていけば、材質と使用者の力量の差は歴然。

    軽く横凪ぎに打ち払えば、倉本さんの持つバットはからんと音を立てて転がっていきました。
    そうなれば、あとは袋のネズミ同然。

  • 53二次元好きの匿名さん25/09/14(日) 23:12:45

    まりちゃん、千奈に手をかけたことに気づいたらそれこそ激怒では済まなさそうな。

  • 54◆YYjiOMVygQ25/09/14(日) 23:14:25

    千奈「あっあああ……!」

    美鈴「おしまい、ですね。」

    唯一の命綱を失った倉本さんの顔が絶望に歪む。
    それを振り払うように、また一歩、一歩と近づいていく。

    千奈「や、やめてくださいませ……。」

    懇願する声も、怯えきった顔も。
    一瞬の後に訪れるであろう殴打の感触も、返り血の温度も。
    どれもこれも、受け入れがたいものばかりだ。

    せめて視界に入れないよう、目を閉じて――最後とすべく、金属バットを振り上げた。

    その瞬間わたしは、予期せぬ衝撃を背中から受け、膝をつく羽目になった。

  • 55◆YYjiOMVygQ25/09/15(月) 03:31:47





    ――あたしたちは、星南会長の"カンフル剤"だった。


     
    これはN.I.Aが始まる少し前の話。
    あたしと麻央先輩は、生徒会室に呼び出されることとなった。

    P『有村麻央さん、藤田ことねさん。あなたたちをプロデュースさせてください。』

    星南先輩のプロデューサーがあたしをスカウト?
    最初は信じていいものか、疑問だった。
    星南先輩自体を怖がっていた時期だったし、あたし自身、そんな大物に見初められるような実績もなかった。

    だけど、その理由は間もなく明らかになった。
    星南先輩のぶつかっている壁であり、悩み――成長限界を迎えた話を、星南先輩から直接、聞いたのだ。
    賛否両論の話題となっていた星南先輩の方針転換も、Vocal、Dance、Visual――アイドルに必要な3要素以外の魅力を育むためのプロデュースの一環だったのだと聞かせてくれた。
    それでもなお、星南先輩のアイドルとしてぶつかった壁は破れていないようだ。

    それ以上は何も聞かされなかった。
    だけど、あたしは何となく、わかる。

    方針転換が星南先輩のプロデュースの一環だったように――あたしと麻央先輩のプロデュースを開始したことも、星南先輩のプロデュースプランのひとつなのだと。

  • 56◆YYjiOMVygQ25/09/15(月) 03:43:02

    あたしは、プロデューサーがついたことで成功したのだと思う。
    アルバイトを減らして、早く眠れる日が増えて、身体が軽くなった。
    そしたらレッスンで褒められることも増えて、少しずつ……自分のことも、好きになれている気がする。
    調子がよくなったのは実績にも結び付いて、N.I.Aでもなかなかの成績を収めることができた。

    でも、きっとプロデューサーにとっては、プロデュースは"失敗"なのだろう。
    星南先輩の悩みは――壁は、まだ打ち破れていない。
    迎えた成長限界は克服に至ることなく、星南先輩の直下の課題として残り続けている。

    あたしの成功はあくまで星南先輩のプロデュースの副産物でしかない。
    ただの"ついで"で救われただけである身分を自覚した時には、涙が溢れて止まらなかった。
    あたしを救ってくれた、あたしの初恋の人は――あたしのことを一番には視ていないんだ。

  • 57◆YYjiOMVygQ25/09/15(月) 03:50:41

    ことね(だから――なんだ。)

    それでも。

    学園の制度をフル活用して、家の借金がかなり減った。
    最低なサプライズで、お父さんとも再会できた。
    アイドルとして……ようやく家族に、胸を張れた。

    プロデューサーが手を広げた"ついで"が、今のあたしを救ってくれている。
    それだけで、お釣りがくるほど、幸せだ。

    だから、この胸のもやもやは、奥に仕舞っておこう。

  • 58◆YYjiOMVygQ25/09/15(月) 04:04:07

    そうして吹っ切れた頭で組み立てた思考はとてもクリアで、やることはすぐに決まった。

    こんなプログラムには乗らない。
    クラスメイトの友達に、麻央先輩と星南先輩。
    何なら敵である極月のヤツらとも協力して、みんなで元の日常に帰る。
    そんなの非現実的だって思うあたしもいるけど、何とかなるって……いや、何とかしてやるぞって思ってるあたしもいる。

    自分の机に座って、そう誓ったその時、隣のクラスから悲鳴が聞こえた。
    それは、千奈ちゃんの声だった、と思う。あまり喋ったことがないから、わからないけど、たぶんそうだ。

    ことね(仲いいってワケでもないし、わざわざ危険冒して助ける義理もないよなぁ。)

    と、真っ先に浮かんだのは損得勘定じみた思考だ。
    悲鳴が聞こえたということは、そこにプログラムに乗った人間がいるということであり、そこに駆け付けるということは自分の身を危険に晒すことに他ならない。

    ことね(でも、プロデューサーにも、あたしを救う義理なんてなかったはずなんだ。)

    あの日差し伸べられた"ついで"の救いの手のように、あたしだって――
    気が付くとあたしは駆け出していた。

  • 59◆YYjiOMVygQ25/09/15(月) 04:17:56



    千奈「ふっ……藤田、さん?」

    美鈴「……邪魔が入りましたね。」

    ことね「うっわ、美鈴ちゃんかぁ……。相手したくねぇ~~~。」

    千奈ちゃんを襲っていた襲撃者に背中から体当たりをかまし、間一髪で助けることはできた……が、素早く受け身をとって起き上がった美鈴ちゃんの矛先は、どうやらあたしに向いたみたいだ。

    ことね「うっし……気張れ、あたし。」

    視線の先には、腰が抜けて立ち上がることすらもままならないであろう千奈ちゃんの姿。
    瞬間的に助けることができたとはいえ、まだ助け出したわけではない。

    すでに賽は投げられた。
    ここからは、一瞬の油断が死に直結する戦場だ。

  • 60◆YYjiOMVygQ25/09/15(月) 04:23:35

    【15:21 アイドル科教室 1年2組】
    ※千奈に支給されたバット(木製)が床に落ちています。
     
    【藤田ことね】
    状態:無傷
    持ち物:ヌンチャク、ブーメラン、メット
    行動方針:プログラムをボイコットする。目先の目標は、美鈴を倒し千奈を助ける。

    【倉本千奈】
    状態:腕の痺れ
    持ち物:傷薬
    行動方針:争ってほしくない。死にたくもない。

    【秦谷美鈴】
    状態:ほぼ無傷
    持ち物:金属バット、メット、メット
    行動方針:プログラムに優勝し、手毬と共に帰る。

  • 61◆YYjiOMVygQ25/09/15(月) 04:24:45

    次回は莉波の予定です。

    次々回に咲季・広・四音を書けば全員一周目が完了します。

  • 62二次元好きの匿名さん25/09/15(月) 12:11:27

    保守

  • 63二次元好きの匿名さん25/09/15(月) 19:40:35

    ほしゅほしゅ

  • 64二次元好きの匿名さん25/09/15(月) 19:47:30

    このレスは削除されています

  • 65二次元好きの匿名さん25/09/15(月) 22:55:26

    ほしゅほしゅ

  • 66二次元好きの匿名さん25/09/15(月) 22:57:55

    燐羽ぁ……が死んだ時点で、もうハッピーエンドはないんだよね……

  • 67二次元好きの匿名さん25/09/16(火) 06:52:30

    保守

  • 68◆YYjiOMVygQ25/09/16(火) 13:27:35

    保守

  • 69◆YYjiOMVygQ25/09/16(火) 22:57:49

    保守
    せっかくなので莉波STEP3を見てから書きます

  • 70二次元好きの匿名さん25/09/17(水) 07:02:43

    保守

  • 71二次元好きの匿名さん25/09/17(水) 12:11:48

    どの世界でもことねが美鈴から敵意を向けられるのは避けられないのか……

  • 72二次元好きの匿名さん25/09/17(水) 19:47:38

    >>54にハートが集まっているの、千奈虐の需要が伺える

  • 73二次元好きの匿名さん25/09/17(水) 22:46:35

    ステップ3なんて見たら退場させられなくなってしまわない?

  • 74二次元好きの匿名さん25/09/18(木) 06:07:22

    保守

  • 75二次元好きの匿名さん25/09/18(木) 12:14:50

    ほしゅー

  • 76二次元好きの匿名さん25/09/18(木) 20:19:03

    最後の生き残りが手毬と美鈴になった時、美鈴どうするんだろな。

  • 77◆YYjiOMVygQ25/09/18(木) 22:40:01

    莉波STEP3、スゴクヨカッタ
    STEP3のネタバレは無しで書きます

  • 78二次元好きの匿名さん25/09/19(金) 06:27:03

    もちろん莉波も気になるけど、咲季・広・四音の三名が予想つかな過ぎる

  • 79◆YYjiOMVygQ25/09/19(金) 13:22:20

    Pのいない莉波が成果を出せたキッカケ

    dice1d3=3 (3)

    1.真央+学P

    2.生徒会

    3.リーリヤ+清夏

  • 80◆YYjiOMVygQ25/09/19(金) 20:16:00

    誰もいないビジュアルレッスン室は、心を落ち着けるのに最適だった。
    取り乱したとしても、逆に"いい子"を貫けたとしても、それを見届ける人はいない。
    感情をぶつける相手がいないため過剰に気持ちが昂ることはなかったし、少なからず生じた緊張を隠すために無理に取り繕う必要もなかった。

    莉波「どうして、こんなことになっちゃったんだろう……。」

    それだけ恵まれた環境を与えられた上で、莉波は何も決められていなかった。
    プログラムに乗る決意が下せないばかりか、反抗するだけの決心もつかない。
    周囲に人がいない環境が、時間制限のない”保留"を許していた。

    死にたくないのは当然だ。
    しかしそのために奪うのは、可愛い後輩たちに、学友たちの命。
    ライバル校である極月学園の人たちだって、多少の確執はあれど殺したいなんて微塵も思わない。

  • 81◆YYjiOMVygQ25/09/19(金) 20:27:01

    莉波(アイドルは競争だって、前からずっと知ってた。だけど……。)

    ふと、ビジュアルレッスン用の鏡から目を逸らすように、二階から見下ろす形で窓の外を見やれば、校庭の様子が見渡せた。
    外には誰もおらず、閑散としている。
    なんとも、不思議な感覚だ。休み時間にはお喋りの声が、授業中には歌声が聴こえてくるのが初星学園の日常風景である。
    普段の喧騒と現状の静寂が織りなした不和は不安となって、心の奥底に溜まっていく。

    莉波「――いっそ、ここから飛び降りたら……。」

    なんて侵入思考が浮かんでは、数秒前の自分を振りほどくようにぶんぶんと頭を横に振った。

    莉波「……今、すごく恐ろしいことを。」

    常々思っていることだ。
    アイドルとして勝利する時、その結果として他の子を蹴落とすことを、いつも躊躇する。

    夢のためには避けて通れない道だと分かっていながらも――"自分なんかのために"って気持ちが、拭えない。
    利他的とか献身的とか言えば聞こえはいいが、アイドルとして上を目指すには致命的な欠点。

  • 82二次元好きの匿名さん25/09/19(金) 23:45:10

    保守

  • 83二次元好きの匿名さん25/09/20(土) 08:14:32

    保守

  • 84二次元好きの匿名さん25/09/20(土) 11:58:18

    ほしゅー組

  • 85◆YYjiOMVygQ25/09/20(土) 15:03:41

    莉波「……でも、じゃあどうするの?」

    他の人を積極的に殺す側に回るのも、他の人に譲って自分の命を諦めるのも、どちらも違うのだろう。
    間違いだけで構成された選択肢のどちらを選べばいいか。
    そんなの、簡単には"正解"を選べない。

    莉波「……正解、かぁ。」

  • 86二次元好きの匿名さん25/09/20(土) 15:15:46

    このレスは削除されています

  • 87◆YYjiOMVygQ25/09/20(土) 15:18:10




    Love☆しすたぁずを抜けて、妹キャラという属性を――"正解"を失って、アイドルという夢の道の果てしなさを前に独り立ち尽くすことしかできなかった。
    間もなく開始するN.I.Aの参加登録だけはしてみたけれど、ソロアイドルになってからは方向性も定まっていない。
    ネクストアイドルどころか、夢の終わりの崖っぷちに立っているというのに、一方で親友の真央は最近、プロデューサーが付いたらしい。
    一人だけ取り残されているような、そんな感覚。
    果たして自分のパフォーマンスは、本当にファンの人たちを喜ばせられているのだろうか。
    そう思ったとき――

    莉波『アイドル、やめようかな。』

    葉先から雨の雫が滴り落ちるかのように、ふと零れ落ちた言葉。それは、すぐに拾い上げては何事も無かったかのように元の日常へと帰っていくはずの、些細な綻びでしかないはずだった。

    ――その言葉を代わりに受け取る者が、いなければ。

    リーリヤ『莉波センパイ……?』

    清夏『アイドル、やめちゃうんですか?』

  • 88◆YYjiOMVygQ25/09/20(土) 15:21:26

    アイドルが周りに夢を与える仕事なら、後輩にこんな負担を与えてしまった私は、アイドルの先輩として失格なのだろう。
    せめて、自分が与えた傷に対して真摯に――正直に、全てを話そう。
    それが、舞台を降りたアイドルにできるせめてもの罪滅ぼしだった。

    莉波『……そういうわけで、目指すアイドル像っていうのかな。正解が、分からなくなっちゃって。』

    莉波『もちろん、唯一の正解なんてないって分かっているんだけど、だからこそなおさら……って言うのかな。』

    清夏『うーん、聞いてて思ったんですけど……莉波先輩が迷ってるの、目指すアイドル像っていうより……演じる人物像、って感じですよね。』

    莉波『え? ……確かに、そう言い換えられるの、かな。』

    だとしたら、それは演劇をやっていた麻央の領分だ。
    同じようにアイドルとしてのキャラ付けに悩んでいた麻央が、プロデューサーに目をかけられ、自分よりも早くに脱却しようとしているのも納得というもの。

  • 89◆YYjiOMVygQ25/09/20(土) 15:32:53

    清夏『演じるのって、確かに大事っていうか……武器だと思うんですけど……えっと、なんて言えばいいんですかね。』

    何となく、清夏はアイドルとして、演じることへの一家言を持っているように感じた。
    そんな彼女が口ごもっているのは、リーリヤが傍にいるから、だろうか。

    リーリヤ『わたし、無理に演じようとしなくても……そのままの莉波センパイが、素敵だと思います。』

    リーリヤが発したのは、意外な言葉だった。

    清夏『そうそう! 気持ちが乗らないとか、ほんとは自分のことだけで精一杯、とか……あくまでそうするしかできない時に仕方なく演じるのであって……。』

    清夏『無理に演じなくても、莉波先輩はいつも優しくて、ファンのみんなのことをいちばんに考えてて……。』

    清夏『たぶんそういうの、ファンのみんなにも伝わってると思うので!』

    その言葉は、私がひとつの壁を越える助けになってくれた。
    それからN.I.Aまでに何とかひとつの形――正解に縛られない、素の自分で挑むアイドル活動の在り方を仕上げることができた。
    優勝はできなかったけれど、ランキング上位までは昇り詰めることができた。

  • 90◆YYjiOMVygQ25/09/20(土) 15:40:00




    莉波「そうだったね……正解なんて、ないんだ。」

    大事なのは、私がどうあるべきかじゃなくて、どうしたいか。

    だが、正解であることを放棄した選択には、責任が付きまとう。
    等身大の自分で挑むアイドル活動に、属性という鎧はない。
    賞賛も批判も、受け付けるのは自分自身だ。

    莉波「だからこそ……簡単には決めたくない。」

    幸い、それを急かす人は周りにいない。
    殺してでも生き残るのか、死んでも矜持を貫くか――

    莉波「もう少しだけ、考えよう。なりたい、自分を。」

  • 91◆YYjiOMVygQ25/09/20(土) 15:41:59

    【15:43 特別教育棟】

    【姫崎莉波】
    状態:健康
    持ち物:メイス、防刃チョッキ、拡声器
    行動方針:どうしたいのかをもう少しだけ考える

  • 92◆YYjiOMVygQ25/09/20(土) 15:45:27

    次回、咲季広四音です。

    描写内で語る場所がなかった余談ですが、リー清が屋上に来ていたのは、N.I.Aが始まるにあたり、四音に悪質な噂を流され始めたため教室の居心地が悪かったからです。

  • 93二次元好きの匿名さん25/09/20(土) 22:55:54

    保守

  • 94二次元好きの匿名さん25/09/21(日) 07:18:03

    リー清の言葉に助けられた莉波、ここで清夏に会ったらと思うと‥‥

  • 95二次元好きの匿名さん25/09/21(日) 10:50:28

    保守

  • 96二次元好きの匿名さん25/09/21(日) 16:16:27

    hosyu

  • 97◆YYjiOMVygQ25/09/21(日) 23:04:00

    保守

  • 98◆YYjiOMVygQ25/09/21(日) 23:28:46

    プロデューサー科教室――見覚えのない教室だった。
    『篠澤広をプロデュースしよう』なんて物好きは、終ぞ現れなかったからだ。
    プロデューサー科とは未だ関わりがなく、その教室棟の内部構造など知らない。

    人が潜み得る場所を知らなければ、不意打ちを受けるリスクとなる。
    逆に不意打ちを狙おうとでもしないのなら長居すべきではない場所だ。

    そしてその理屈は――"彼女"にとっても同じはず。
    だというのに学年主席にして新入生代表の肩書きに惹かれたプロデューサー科の人々の勧誘を断り続けていると話題の少女、花海咲季はある教室の一室に佇んでいた。

    広がその扉を開くと、咲季は興味なさげに視線をやる。
    つかつかと歩み寄る広に一瞬、怪訝そうな顔をするも、間もなくしてその重い口を開いた。

  • 99◆YYjiOMVygQ25/09/21(日) 23:31:35

    広がその扉を開くと、咲季は興味なさげに視線をやる。
    つかつかと歩み寄る広に一瞬、怪訝そうな顔をするも、間もなくしてその重い口を開いた。

    咲季「……佑芽のお友達ね。殺し合いに来たの?」

    冗談交じりには聞こえない、低いトーン。何者をも寄せ付けないような棘を纏った言葉は、外敵から身を守るイバラのように、咲季への道を閉ざしているようだ。
    咲季との関わりが少ない広にとって、咲季の様子は普段のアイドル活動と――そして何より佑芽が普段語る自慢のお姉ちゃんの人柄と、大きく乖離していた。思わぬ言葉の圧につい気圧されそうになる。

    ぐっとこぶしを握り込んで、張り付けたニヒルな笑みと共に返す。

    広「ううん。咲季とお話をしにきた。」

    咲季「……別に、話すことなんかないわ。」

    広「わたしには聞きたいことがある。」

    広「わたしの――この気持ちについて。」

  • 100二次元好きの匿名さん25/09/22(月) 07:41:41

    ほしゅ

  • 101二次元好きの匿名さん25/09/22(月) 15:41:15

    保守

  • 102二次元好きの匿名さん25/09/22(月) 21:00:20

    保守

  • 103◆YYjiOMVygQ25/09/22(月) 23:19:05




    わたしは、N.I.Aに出場できなかった。
    それができるだけの成果を挙げられていないからだ。

    出場者全員のN.I.Aでの成果を見届け、そのパフォーマンスを目に焼き付けた。
    座学を免除してもらって時間があるのに、レッスンをこなす体力がないわたしに佑芽が提案してくれた"イメージトレーニング"のためだ。

    そして、わたしはその研究ノートをつけている。
    アイドルを"趣味"として楽しんでいるわたしには、みんなのような熱意が足りない。
    だからせめてみんながどんな想いでステージに立っているのか理解するため、聞き込みをしながらその人の周囲の事情も軽くまとめてみた。

  • 104◆YYjiOMVygQ25/09/22(月) 23:23:52

    【花海咲季】ランキング圏外

    アイドルとしての成果 dice1d100=22 (22)

    本人は大舞台で花海佑芽と対決することを望んでいたようだが、そのような調整ができるプロデューサーがいないため、一次オーディション「MusicOrder」にて花海佑芽とぶつかることとなり、同オーディションにて敗退。敗因は「実力差」。花海佑芽の圧倒的な数値により敗北した。

    なお、その後のオーディションはすべて棄権している。

  • 105◆YYjiOMVygQ25/09/22(月) 23:30:28

    【月村手毬】ランキング3位

    アイドルとしての成果 dice1d100=91 (91)

    プロデューサーのいない彼女はファン投票数が影響するイベントでは不利だと思われていたが、SNSの炎上をキッカケに話題を呼んだ上でパフォーマンスの上振れを引き続け、アンチを一気に反転ファンへと引きずり込んだ。

    その勢いのまま一次オーディション「ハーモニーTonight」にて秦谷美鈴とぶつかり、勝利。

    しかしその勢いは最後までは続かず、「FINALE」では3位という結果に。敗因は「息切れで歌のペースに乱れが出たこと」のようだ。

  • 106◆YYjiOMVygQ25/09/22(月) 23:40:24

    【藤田ことね】ランキング5位

    アイドルとしての成果 dice1d100=83 (83)

    プロデューサーと十王星南が協力して、家庭の借金問題や、行方知れずだった父親を観客席に呼び出すサプライズなど、様々な画策を行ったらしい。

    そうして精神を絶好調に整えた上でFINALEに出場するも、敗退。

    敗因は「心身ともに絶好調でなかったこと」。

    N.I.Aの始まる少し前までアルバイトを続けていた疲れが抜けきっていなかった。

    プロデューサーが付くのがあと一か月早ければ、身体も絶好調に仕上げられていたことだろう。

  • 107二次元好きの匿名さん25/09/23(火) 02:28:41

    保守

  • 108◆YYjiOMVygQ25/09/23(火) 09:09:28

    保守

  • 109二次元好きの匿名さん25/09/23(火) 13:40:29

    しゅ

  • 110二次元好きの匿名さん25/09/23(火) 20:53:18

    ほしゅ

  • 111二次元好きの匿名さん25/09/23(火) 22:40:52

    このレスは削除されています

  • 112◆YYjiOMVygQ25/09/23(火) 22:42:41

    【有村麻央】ランキング8位

    アイドルとしての成果 dice1d100=77 (77)

    プロデューサーが付いた時から、アイドルとしての方向性を大きく変えた。

    十王星南や藤田ことねと同じ、"可愛い"を前面に出した方向性で、当初は反発的だったが、結果的にはそれが功を奏し、大躍進。二次オーディション「PopFair」にて、唐突に"かっこいい"を前面に出したパフォーマンスを繰り出し、姫崎莉波に勝利。「FINALE」に進出するも、そこで敗退。

    敗因は「姫崎莉波」。切り札であった従来通りのパフォーマンスを唐突に繰り出す戦術を、FINALEを待たずして切る羽目になったため。

  • 113◆YYjiOMVygQ25/09/23(火) 22:48:55

    【葛城リーリヤ】ランキング圏外

    アイドルとしての成果 dice1d100=4 (4)

    N.I.A未出場。

    紫雲清夏に嫌がらせをしていた白草四音を意識したハードレッスンの末、両手の怪我に至ったのが原因のようだ。

  • 114◆YYjiOMVygQ25/09/23(火) 22:57:58

    【倉本千奈】ランキング23位

    アイドルとしての成果 dice1d100=57 (57)

    今日も千奈がかわいい。

    テレビタレントの千奈ちゃんとして様々な番組に出演した結果、お茶の間からのファンが増え、N.I.Aに有利に働いた。

    「QUARTET」で藍井撫子を破るも、二次オーディション「Galaxyミュージック」で紫雲清夏に敗北。敗因は純粋な「実力」だろう。

  • 115◆YYjiOMVygQ25/09/23(火) 23:32:24

    【紫雲清夏】ランキング11位

    アイドルとしての成果 dice1d100=73 (73)

    授業を真面目に受けるようになってからは、本来の実力を十全に発揮し、圧倒的なダンス力でライバルたちを薙ぎ倒していった

    二次オーディション「Galaxyミュージック」で倉本千奈を打倒するも、「IDLE Bigup!」にて白草四音に敗退。敗因は「第三者によって流布された悪質な噂」と推測される。次第にパフォーマンスの衰えが目に見え始めていた。

  • 116◆YYjiOMVygQ25/09/23(火) 23:36:06

    【篠澤広】ランキング圏外

    アイドルとしての成果 dice1d100=8 (8)

    わたし。

    N.I.Aには出られなかった。

    ままならない。

  • 117◆YYjiOMVygQ25/09/24(水) 08:08:10

    ほしゅ

  • 118二次元好きの匿名さん25/09/24(水) 14:43:12

    しゆ

  • 119二次元好きの匿名さん25/09/24(水) 19:16:02

    しゅしゅしゅ

  • 120◆YYjiOMVygQ25/09/24(水) 20:05:45

    【姫崎莉波】ランキング12位

    アイドルとしての成果 dice1d100=71 (71)

    紫雲清夏と葛城リーリヤの協力もあって、理想の人格を演じるのをやめて自然体で挑むようになってからは順調にファンを増やしていった。

    二次オーディション「PopFair」にて有村麻央に敗北。

    敗因は「戦略の差」。"自然体"の弱点であるバリエーションの少なさが、有村麻央の戦略に埋もれてしまった。

  • 121◆YYjiOMVygQ25/09/24(水) 20:11:18

    【花海佑芽】ランキング2位

    アイドルとしての成果 dice1d100=96 (96)

    一次オーディション「MusicOrder」で花海咲季を打倒してからは急速に勢いを伸ばす。賀陽燐羽を撃破。

    彼女のファンを受け継ぎ、順調にファンを増やしながら「FINALE」に出場。

    優勝候補筆頭であったが、白草四音に敗退した。

    敗因は、「本番中にマイクを落としてしまったこと」と言われているが、パフォーマンス開始時から、どこか調子が悪そうにも見えた。

  • 122◆YYjiOMVygQ25/09/24(水) 21:03:29

    【秦谷美鈴】ランキング圏外

    アイドルとしての成果 dice1d100=23 (23)

    一次オーディション「ハーモニーTonight」にて月村手毬とぶつかり、敗退。

    敗因は「のんびり」。相手の力量を見誤っていたようだ。

    月村手毬に敗北すると少しだけ驚いた表情を見せた後、彼女に何かを耳打ちした。

    その後は特にオーディションに出ることなく、ひっそりとN.I.Aの舞台から姿を消した。

  • 123◆YYjiOMVygQ25/09/24(水) 21:09:57

    【十王星南】ランキング圏外

    アイドルとしての成果 dice1d100=13 (13)

    "ネクストアイドル"ではないため、未出場。

    プロデューサーが付いてなお成長限界の壁は未だ越えられておらず、彼女の有する"一番星"の称号は、学園で一番以上の意味を持たない。

  • 124◆YYjiOMVygQ25/09/24(水) 21:13:21

    【賀陽燐羽】ランキング17位

    アイドルとしての成果 dice1d100=68 (68)

    元々初星学園の生徒だったが、極月学園に編入。

    「初星潰し」の異名と共に多くのアイドルを打ち破っていく中、「SingleCut」にて花海佑芽と激突。

    優勝候補同士の接戦を制したのは佑芽だった。

    高次元な戦いであったため、敗因分析は難しい。

    だが主観で所見を述べるなら、パフォーマンスの最中、賀陽燐羽はこれまでのどのオーディションよりも楽しそうだった。

  • 125◆YYjiOMVygQ25/09/24(水) 21:17:53

    【藍井撫子】ランキング38位

    アイドルとしての成果 dice1d100=38 (38)

    莫大な資金力で悪だくみをしながらのし上がっていったが、「QUARTET」で倉本千奈に敗れる。

    敗因は、「相手が悪かった」のひと言に尽きる。あーめん。

  • 126◆YYjiOMVygQ25/09/24(水) 21:28:05

    【白草四音】ランキング1位

    アイドルとしての成果 dice1d100=97 (97) 

    「FINALE」で花海佑芽をはじめとする9人のアイドルを打ち破り優勝。

    藍井撫子とつるんでいたことから見ても、番外戦術を用いていた可能性が高い。

    紫雲清夏の悪質な噂を流した第三者の正体だと考えられる。

    他にどのような工作を行っていたかは不明。

  • 127◆YYjiOMVygQ25/09/24(水) 22:54:56



    ままならないことは"楽しい"。
    "趣味"の原動力としては何よりありきたりで、ありふれている感情だ。
    改めて掘り下げる必要なんてない。

    だから――実力が足りず、N.I.Aに出場できなかったのは"楽しい"ことであって、アイドルとして大成できていない現状は、喜ぶべきものだ。

    広「同じところからアイドルを目指し始めたみんなが、ステージの上で輝いていた。千奈も……佑芽も。」

    咲季「……。」

    広「実力も情熱も足りないわたしがそこに一緒にいけないのはとうぜんのこと。」

    広「それに何より、友達がアイドルとして成長しているのは、うれしい。」

    広「だけど……それだけじゃないことに気付いた。」

  • 128二次元好きの匿名さん25/09/25(木) 01:31:26

    保守

  • 129二次元好きの匿名さん25/09/25(木) 07:54:52

    早め保守

  • 130二次元好きの匿名さん25/09/25(木) 16:49:34

    ほっほっほ

  • 131◆YYjiOMVygQ25/09/25(木) 20:26:09

    ひどく、冷たい感覚がする。
    その先の熱を思い描いてしまった頭が、今いる場所の冷たさを伝えてくる。

    わたしだけを置いて進んでいく時間に、"止まって"と希うように。
    少しだけ早足になった友達に、"待ってよ"って手を引くように。
    なおも身体機能に沿った刻みしか知らない心臓の拍動に、抗うように。

    ただひたすらに胸を急くこの気持ちを、表す言葉があるのなら――

    広「――"悔しい"。」

    広「わたしもN.I.Aに出たかった。出られるだけの実力を身に付けていたかった。」

    広「愛すべきままならなさが、今はとても、もどかしい。」

  • 132◆YYjiOMVygQ25/09/25(木) 20:33:16

    これまで見たことのない"熱意"を込めて吠える広を前に、咲季は少しだけ驚いたような顔を見せるも、その視線は間もなく地へと落ちていく。
    漫ろであった右手は、身の震えを外側から抑え込むようにぎゅっと左腕を支えた。

    咲季「……篠澤広。あなたは、すごいやつよ。わたしがどう足掻いても勝てないところがふたつもあるわ。」

    咲季「ひとつは勉強と……もうひとつは、その心意気。」

    咲季「わたしは……そうはなれなかった。ままならないことから逃げたの。」

    咲季「わたしのことも、見ていたなら改めて言う必要はないでしょ? 佑芽に負けて、立ち上がるためにいちばん大事な部分がぽっきりと折れた。」

    咲季「こうなればもう、一生、元には戻らないわ。」

    "一生"という、時の流れの最上級も、数秒後には命が掻き消えかねないこの場においては異なる意味を持つ。
    そのニュアンスに気付かない広ではない。

  • 133◆YYjiOMVygQ25/09/25(木) 20:53:45

    広「咲季は、死ぬ気?」

    咲季「……そうなるでしょうね。」

    咲季「別に、自分から命を断とうとしているわけじゃないわよ。でも、誰かを……妹を殺してまで生き残ろうとはしていないだけ。だったら遅かれ早かれ、同じでしょ?」

    咲季「強いて言うなら、花海咲季はとっくに死んでいるの。人生で絶対に負けちゃいけなかった勝負に負けた、あの瞬間にね。」

    咲季「そういうわけだから、わたしに着いてきても生き残れないわよ。」

    虚ろな目でそう返す咲季からは、かつての自信家の一面は見えなかった。
    "敗北"という二文字の咲季にとっての重みなんて、それが日常茶飯事となった広に理解できようはずもない。
    アイドル活動に情熱も、夢も宿っていなかった広に、人生を賭けた一世一代の戦いなど無縁の領域。

    否、だからこそ――手を伸ばす価値があるのだ。

    広「待って。」

    広「まだ、わたしの聞きたいことを言っていない。」

  • 134◆YYjiOMVygQ25/09/25(木) 21:04:47

    咲季「そういえば……聞きたいことがある、だったわね。何?」

    広「――悔しくはないの?」

    咲季「なっ……!」

    飛び出た言葉は、あまりに簡潔で。
    それでいてまるで敗者を煽るような物言いだったため、思わず語気が強くなる。

    広「佑芽に負けて、自分よりもずっと上のステージに立たれて。」

    広「わたしと同じ気持ちに、咲季はなっていない?」

    咲季「なっていないわ。」

    咲季「簡単な算数の問題よ。わたしより速いやつがわたしを追い越した。となればあとは差が広がっていくだけ。追いかける気力もないわ。」

  • 135◆YYjiOMVygQ25/09/25(木) 21:10:33

    広「……そう。」

    どこか気落ちしたように肩を落とす広。
    これ以上は暖簾に腕押しと判断したのだろうか、諦めたように背を向け、歩き出す。

    最後にもう一度振り返って、こう言った。

    広「わたしは、佑芽や他のみんなを誘って、この殺し合いを誰も死なずに終える方法をかんがえる。」

    広「もし、一緒に走る気持ちになったなら……協力してほしい。」

    広「待ってる、ね。」

    その時、きらり、と。
    広の背後に煌めく一筋の光を見た。

  • 136◆YYjiOMVygQ25/09/25(木) 21:19:50

    広の意識が弾ける。
    突然、反射神経では回避できない速度で突進してきた咲季。
    そんな彼女に押し出されるままに、尻餅をついた。
    その際の痛みよりも、突然押し倒されたことにより高鳴った心臓の鼓動が、胸痛として全身に危険信号を張り巡らせる。

    広「いたた……咲季?」

    そうして痛む身体に鞭打ってようやく露わになってきた視界の、その先――満たすは、赤。
    それは、ペンライトカラーにもなっている咲季の衣装の色だ。
    眼前いっぱいに咲季のアイドル衣装が見えるくらいに、密着していた。
    そんな衣装から溶け出すように、エメラルドグリーンを基調とした広自身の服にも、赤が広がっていく。

    ――花海咲季の横腹には、一本の矢が突き刺さっていた。

    広「えっ……?」

  • 137二次元好きの匿名さん25/09/25(木) 21:21:59

    矢ということは…!

  • 138◆YYjiOMVygQ25/09/25(木) 23:53:55

    【15:30 プロデューサー科教室】
    【花海咲季】
    状態:横腹に矢
    持ち物:刀、ヌンチャク、厳選初星チャイ
    行動方針:???

    【篠澤広】
    状態:無傷
    持ち物:拳銃(装弾数17)、メット、初星ブーストエナジー
    行動方針:プログラムを誰も死なずに乗り越えるため、仲間を集める。

    【白草四音】
    状態:無傷
    持ち物:弓矢(矢の本数9)、メット、フレッシュビネガー
    行動方針:???

  • 139◆YYjiOMVygQ25/09/25(木) 23:56:35

    気づけば文字数がえらいことになっていたので四音と咲季の描写は次回に回すことにしました。


    次はdice1d5=1 (1)

    1 手毬・佑芽・清夏

    2 麻央・リーリヤ

    3 星南・撫子

    4 ことね・千奈・美鈴

    5 咲季・広・四音


    (時系列の都合で莉波は後回しです)

  • 140二次元好きの匿名さん25/09/26(金) 09:11:56

    保守

  • 141◆YYjiOMVygQ25/09/26(金) 19:00:48

    保守

  • 142二次元好きの匿名さん25/09/27(土) 00:48:13

    寝る前ほ

  • 143二次元好きの匿名さん25/09/27(土) 08:47:29

    朝保守

  • 144二次元好きの匿名さん25/09/27(土) 13:41:13

    広はこのプログラム破壊できる切り札感あるから、倒れた瞬間BAD END直行しそうで怖い

  • 145二次元好きの匿名さん25/09/27(土) 20:23:19

    保守

  • 146◆YYjiOMVygQ25/09/27(土) 23:20:45

    保守

  • 147二次元好きの匿名さん25/09/28(日) 05:46:15

    保守

  • 148二次元好きの匿名さん25/09/28(日) 13:13:15

    保守

  • 149二次元好きの匿名さん25/09/28(日) 16:39:48

    このレスは削除されています

  • 150◆YYjiOMVygQ25/09/28(日) 16:41:48

    【バレエ界の神童・紫雲清夏、衝撃の引退 足の怪我による活動休止が原因か】

    20XX年、〇月△日

    10代前半にして「神童」と称され、国内外で注目を集めてきたバレエダンサー、紫雲清夏(しうんすみか)が現役引退を発表した。
    関係者によると、紫雲は●月▲日の公演中に足首を負傷。
    その後もリハビリを続け、半年後の◎月×日に本人のSNSにて完治を報告したが、ブランク期間を鑑みて、競技復帰を断念すると発表した。

    (中略)

    ファンや関係者からは悲しみの声が広がっている。

    (文・編集部)

  • 151◆YYjiOMVygQ25/09/28(日) 16:42:53

    仮にも、高い倍率を潜り抜けてきた者たちが集うアイドル養成校。
    クラスメートや先輩たちの名前を検索すれば、その子の前職についての記事が出てくることなんて珍しくもない。
    たとえば、演劇界に子役として名を轟かせていた麻央っち先輩なんかはその最たる例だ。
    しかし、”彼女たち”に関する記事の数はその比ではなかった。

    結論から言えば、花海姉妹は、この状況下で最も出会いたくない相手であった。

  • 152◆YYjiOMVygQ25/09/28(日) 16:49:56



    アイドルに限らず人に見られる仕事をしているならば、自身の活動とファンの期待は切り離せない。
    ステージ上の自分が必ずしも理想的である必要はないけれど、観客や審査員に理想を見せる必要はある。
    度合いはあれど、誰もがそんな矜持を抱いているはず。

    ――ファンや関係者からは悲しみの声が広がっている。

    だから、その"一文"が怖くないはずもないのだ。
    自分の決断をきっかけに、失意に陥った人がいるということ。
    期待に応えられなかった相手がいるということ。

    佑芽「清夏ちゃん! 一緒にプログラムをボイコットしようよ!」

    だから、思う。
    どうしてこの子たちは、"こう"いられるのだろうと。

  • 153◆YYjiOMVygQ25/09/28(日) 17:04:28

    数々の競技を道場破りのごとく渡っては、ひとつの時代を作り上げ、惜しまれながら引退する。
    寄せられた期待を裏切ることに、恐怖を抱いていないのか。
    まともなフィジカルでないのはもちろんのこと、それができるメンタルの側も常人のそれを逸している。
    その良し悪しは別にして――それだけ、確固たる己を持っているということだ。

    あたしが挑まなければならないのは。
    ――殺さなければならないのは、そんな怪物じみた者たちなのだ。

    手毬「どう……かな。ほら、アイドル同士、わざわざ殺し合うこともないでしょ。」

    清夏「ふぅん、ボイコット、かぁ。悪くないじゃん。」

    現実的な話、この場で配られた鈍器を手にがむしゃらに突撃したとして、花海佑芽と月村手毬に勝てるとは思えない。

    では、尻尾を巻いて逃げるのが正解?

    それも違う。
    二人はグラウンド側から体育館側に向かっている。
    そうなれば、体育館倉庫に隠れているリーリヤが見つかってしまう可能性があった。
    もちろん、二人で一緒にいるところを見るに殺し合いには乗っていない可能性の方が高いのだから、リーリヤと出会っても安全と言えるかもしれないが、リーリヤを外に連れ出されてしまったら不都合だ。
    あたしがやろうとしていることを、リーリヤには知ってほしくない。
    今は体育館倉庫に隠れてもらっているが、鉢合わせになるリスクは避けたかった。

  • 154二次元好きの匿名さん25/09/28(日) 23:12:47

    保守

  • 155◆YYjiOMVygQ25/09/29(月) 07:32:53

    保守

  • 156二次元好きの匿名さん25/09/29(月) 13:55:57

    早め保守

  • 157二次元好きの匿名さん25/09/29(月) 22:01:28

    保守

  • 158◆YYjiOMVygQ25/09/29(月) 23:23:31

    では、花海佑芽という怪物を相手取るにあたって、あたしの武器とはなんだ?

    ……そんなの、決まってる。
    アイドルとして"理想"を演じることに決めたあたしが、佑芽っちよりも勝っている部分。

    清夏「いいね、ぜひとも協力させて!」

    この"嘘"だけは譲らない。
    表面上はボイコットに協力するフリをして仲間を集め――内側から瓦解させる。
    信用を勝ち取ればいくらでもやりようはあるだろう。

    清夏「そういえば二人ともそっちから来たってことは……部室棟とかグラウンドにはもう誰もいない感じ?」

    手毬「そうだね。佑芽と一緒に隅々まで探したけど、誰もいなかった。」

    清夏「そっか。あたしも探したところ、体育館とプールには誰もいなかったよ。」

    体育館のことはもちろん、プールを調べたことも嘘だ。
    リーリヤと話し込んでいたことで時間が経過しており、体育館のみの調査結果を伝えたのでは、空白の時間が長すぎる。

  • 159◆YYjiOMVygQ25/09/29(月) 23:48:11

    佑芽「それじゃあ向かうのは、このまま教室棟の方がいいかな?」

    手毬「うん。異論はないよ。」

    今のところ、疑われている様子はない。
    嘘を重ねるにつれて綻びも生まれやすくなる。

    清夏「でもさ、二人ともちょっと油断しすぎだって。」

    だから、強固にするんだ。

    清夏「私がプログラムに乗ってたりしたら油断したところを背中からブスリ……ってやったらどうすんのさ。」

    本心を冗談交じりの言葉でコーティングして、嘘のめっきが剥がれないように。

    手毬「じょ、冗談でもそんなこと言わないでくれる!?」

    清夏「ごめんごめん。そんな怒んないでって~。」

    嘘を隠すのに、"ギャル"という鎧は、とてもちょうどよかった。
    漏れ出す本心も冗談に隠してしまえるから。
    理想とは程遠い現実からの逃避も、不真面目さの中に溶かしてしまえるから。

  • 160◆YYjiOMVygQ25/09/29(月) 23:50:24

    【15:46 体育館付近】

    【月村手毬】
    状態:無傷
    持ち物:メイス、拡声器、設置型地雷
    行動方針:プログラムのボイコットをする。怖いけれど。

    【紫雲清夏】
    状態:無傷
    持ち物:メイス、バット(木製)、メット
    行動方針:他の参加者を殺し、自分かリーリヤが優勝する。

    【花海佑芽】
    状態:無傷
    持ち物:ブーメラン、盾、初星黒酢
    行動方針:プログラムのボイコットをする。

  • 161◆YYjiOMVygQ25/09/29(月) 23:55:56

    次はdice1d4=1 (1)


    1 麻央・リーリヤ

    2 星南・撫子

    3 ことね・千奈・美鈴

    4 咲季・広・四音


    (時系列の都合で莉波は後回しです)

  • 162二次元好きの匿名さん25/09/30(火) 07:25:02

    保守

  • 163二次元好きの匿名さん25/09/30(火) 14:51:14

    保守

  • 164◆YYjiOMVygQ25/09/30(火) 23:02:54

    保守
    明日から数日旅行に行くので、投下できるかは新幹線内で筆が乗るかによります

  • 165二次元好きの匿名さん25/10/01(水) 07:36:09

    保守

  • 166二次元好きの匿名さん25/10/01(水) 17:25:05

    保守

  • 167二次元好きの匿名さん25/10/01(水) 22:32:47

    保守

  • 168二次元好きの匿名さん25/10/02(木) 07:17:11

    保守

  • 169二次元好きの匿名さん25/10/02(木) 15:18:28

    ほしゅしゅしゅしゅしゅ

  • 170二次元好きの匿名さん25/10/02(木) 19:52:11

    良い旅を保守

  • 171二次元好きの匿名さん25/10/03(金) 00:50:48

    早め保守

  • 172二次元好きの匿名さん25/10/03(金) 08:50:21

    保守

  • 173二次元好きの匿名さん25/10/03(金) 12:36:03

    保守

  • 174二次元好きの匿名さん25/10/03(金) 21:23:19

    保守

  • 175二次元好きの匿名さん25/10/03(金) 23:19:45

    保守

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