- 1二次元好きの匿名さん21/09/19(日) 22:35:48
フォォーン。
成田空港。
流れてくる人の数の多さに目眩がしてくる。
白い色、黒い色、様々な色の混じった
一種の多国籍空間。
その中の青いベンチに腰かける二人がいる。
力強い眼差しを浮かべた青年と
栗色の髪をしたウマ娘の少女のコンビ。
いや、コンビという言い方は正確では無い。
少女の潤んだ目がそれを否定している。
二人は深い仲なのだろう。
否定のしようが無い程に。
違うところがあるとするならば
二人は今別れの間際だという事だろう。
「…そろそろですね。」
ウマ娘の少女、グラスワンダーは
絞りだす様に切り出した。
綺麗な青い瞳が揺れている。
「…あぁ……練習、頑張れよ…」
「…トレーナーさんも…
錦を飾って下さい、ね?」
いつもしている筈の会話がぎこちない。
明確なまでの別離という事実が
二人を包み込んで放さなかった。 - 2二次元好きの匿名さん21/09/19(日) 22:36:16
○○航空J.F.K.行きUMA910便を
ご利用のお客様にご案内致します。
ただいまより搭乗を開始します。
アナウンスが明朗な声と共に
別れをせがんでくる。
これ以上ここにいる事は出来ないようだった。
「…それじゃ、そろそろ行くよ?グラス。」
「…少し待って下さい。」
「…何かな?」
「…………」
チュッ
不意の接吻。
愛情と、それ以上の独占欲の二つが
入り交じったている。
耳を、元気を無くした双葉のように
伏せ、グラスは冗談ぽく頬笑んだ。
「…浮気したら許しませんからね?」
「…すると思うなら
ここで針千本飲もうか?」
「……フフ…せいぜい楽しんで下さいね。」
「出来れば君の案内でアメリカを見たかったけどなぁ…」
「仕方ないですよ。
私はこちらでレースに取り組まなければ
なりませんので。」
「…じゃあ、そろそろ。」
「…武運を祈ってます。トレーナーさん。」
「じゃあな。」 - 3二次元好きの匿名さん21/09/19(日) 22:38:23
まもなく○○航空J.F.K.行きUMA910便
離陸致します。
「…行ってしまうのですね。」
ポツリ、と呟いた。
呟きが雨の一滴となって、今までの思い出
をつらつらと浮かべる。
「もう少し一緒に居たかった、ですかね…」
通路を通って、お土産売り場を抜けて
先程まで二人で歩いた道を一人で歩く。
『…泣いたりなんかしません。
あの人が帰った時に私が泣いていては
あの人が悲しんでしまうから。』
既に来ていたトレセン行きのバスに乗り
トレーナーを思い出しながら
学園までの道中、か細いその身をバスに委ねる。 - 4二次元好きの匿名さん21/09/19(日) 22:38:35
バス停が近づき、寮が見えてくると
思い出も最初の出会いの頃にシフトした。
あそこから、二人は始まったのだろう。
「トレーナー、さ、ん……」
グラスは走り出した。
なるべく顔を上げずに。
泣き腫らした表情を見せないために。
美浦寮に入り、階段を上がって
部屋に入ってベッドにしがみつく。
「やっぱり、寂しいです…!
貴方がいないと、私…!」
洗いたての白い枕が濡れていく。
「ただいまデース!!」
不意に高い声が部屋に響く。
怪鳥エルコンドルパサーだ。
「どうしたンデスカ?グラース!」
「トレーナーさんが…アメリカに行って
しまいました……!」
「………グラス…」 - 5二次元好きの匿名さん21/09/19(日) 22:39:32
「トレーナーサン一週間で帰ってきますよ?
ただの研修なので…」
「…それでも!やはり寂しいものは寂しいです…!」
『……グラスのトレーナーサン
大変そうデスね…』
グラスワンダー、実は寂しん坊概念 - 6二次元好きの匿名さん21/09/19(日) 22:41:36
可愛い
- 7二次元好きの匿名さん21/09/19(日) 22:43:41
ごめん、すごくよかったんだけど
最後まで読んでまず「一週間かよ!」ってツッコんでしまったわ - 8二次元好きの匿名さん21/09/19(日) 22:44:11
1週間でよくここまでしっとりした雰囲気出せるな
- 9二次元好きの匿名さん21/09/19(日) 22:46:07
自前で独占力持ってる奴は違うなぁ…
- 10二次元好きの匿名さん21/09/19(日) 22:46:33
明確な別離ではあるがいつまでとは行ってないもんな……
- 11二次元好きの匿名さん21/09/19(日) 22:48:06
飛行機事故に遭ってトレーナーが還らぬ人となる展開だと思ってたのに不意打ちを食らってヤバい
ちょっと腹切って来る