リトルココン「きなこ棒を買いに来たんだけど」【SS】

  • 1二次元好きの匿名さん21/09/19(日) 22:40:31

    「……全然見つからない」
    私はスーパーの棚の前で立ち尽くしていた。
    目的のものが見当たらない棚は普段よりも大きく感じる。
    「そもそもきなこ棒ってこんな種類あるもんなの……?そのくせ探してるパッケージのは見つかんないし……」
    ついつい愚痴がこぼれてしまう。
    「あの」
    後ろから声をかけられた。
    振り向くと私よりかなり年上に見えるウマ娘が立っていた。
    「もしかしてこれを探してたの?」
    差し出されたのはいつもトレーナーから渡されているきなこ棒だった。
    驚いて目を見開く。
    「はい、確かにこれですけど……」
    「よかった、なんでかこの商品だけ別の棚にあるんだよねここのスーパー」
    彼女がにこりと微笑む。
    きなこ棒を受け取り、ぺこりと頭を下げる。
    「あなたもきなこ棒好きなの?」
    「そう、ですね。トレーナーから勧められて食べてるうちに……」
    「私もそうなの!おいしいよね!」
    人懐っこそうな笑みを浮かべる。
    そのまま別れようと彼女が踵を返す。
    片足をかばうように歩く彼女がどうしても気になってしまう。
    「あの、荷物くらいなら持ちますよ」
    「別に大丈夫よ、そんなに多くないし」
    「きなこ棒を見つけてくれましたし、そのお礼ということで」
    彼女の買い物かごに手を差し伸べると、彼女は肩をすくめて手渡してくれた。
    そのあと食料品をいくつか買って店を出た。
    会計の時に私の分のきなこ棒まで支払おうとしたときはさすがに固辞しようとした。
    「荷物を持ってくれたお礼よ、受け取ってちょうだい。支払いも一度で済むし」
    そう言われて押し切られてしまった。
    すぐそこのアパートに住んでいるらしく、そのまま荷物を持ってついていった。

  • 2二次元好きの匿名さん21/09/19(日) 22:40:51

    小さなアパートが見えてきた。
    それと同時に見覚えのある後ろ姿も目に入った。
    私が声をかけるより先に横を歩いていた彼女の口から信じられない言葉が漏れる。
    「……理子、さん?」
    彼女の声が届いたのかトレーナーが振り向く。
    彼女が走り出す。
    しかし、不自由な脚は段差に引っ掛かって彼女は地面に倒れ伏した。
    慌てて駆け寄ろうとすると、前方で誰かが倒れる音がした。
    トレーナーもまた地面に倒れていた。
    しかも倒れ方からして受け身も取れていないようだ。
    それでも彼女もトレーナーも這いずりながら距離を縮めていく。
    そして彼女たちの手が触れ合う。
    彼女が上体を起こし、トレーナーを抱き起こす。
    二人は抱き合ったままひたすらに泣いていた。
    「ごめんなさい……っ!わ、わたし、ずっと怖くて……あなたに会わせる顔がなかったの……!」
    「わたしだって……!ずっと理子さんに会いたかった……!」
    私は、なにを見ているんだろう。
    大恩あるトレーナーが昔の教え子と感動の再会をした。
    それなのに。
    どうして私は臓腑をねじ切られたような痛みを感じているの?
    「あの……二人とも、とりあえず部屋に入りませんか?」
    ぐちゃぐちゃの私の中身から出る言葉は自分でも驚くほど冷静だった。
    二人を彼女の部屋に連れて行き、明日の午前中の練習は各自でやっておくことを伝えた。
    トレーナーと彼女の反応も、どうやって学園まで戻ってきたのかもよく覚えていない。

  • 3二次元好きの匿名さん21/09/19(日) 22:41:07

    気が付いたら私はグラウンドにぽつんと立っていた。
    走れ。
    自分の身体が壊れるまで走ってしまえ。
    重く濁ったなにかが私の中から語り掛けてくる。
    脚に力が入り、体が勝手に駆け出そうとしている。
    「ココン!」
    グラウンドに響く声が私を制止する。
    振り返るとグラッセが褐色の肌にうっすら汗をかきながら駆け寄ってきていた。
    「どうしたの、こんな時間にグラウンドにいるなんて」
    「……別に、なんでもない」
    「なんでもないような顔には見えないよ。とりあえず座ろう」
    グラウンドに置かれたベンチに二人で腰を下ろす。
    しばらく沈黙の時間が流れる。
    耐えきれずに私のほうから口を開く。
    「……なんでなにも言わないの」
    「話してどうにかなることならココンから話すかなって」
    なにも言い返せず、また口を閉ざしてしまう。
    ぎゅっとスカートのすそを握りしめる。
    グラッセがため息をつく。
    次の瞬間、抱きしめられた。
    抵抗しようにもグラッセは相変わらずの怪力で。
    なによりグラッセの体温にどうしようもなく安心してしまった。
    「正直、他人の気持ちを推し量るなんてのは苦手なんだけどさ」
    私を抱きしめる腕に力が入る。
    「ココンの悲しみを受け止めるくらいはできるよ」
    胸が詰まる。
    涙も嗚咽もこらえられなかった。
    私の泣き声ごとグラッセが力強く抱きしめる。
    誰もいないグラウンドで夕陽だけが私たちを見つめていた。

  • 4二次元好きの匿名さん21/09/19(日) 22:42:02

    ここの流行りから思いっきり外れてる気がしますけど、書きたくなっちゃったから仕方ないね!
    お目汚し失礼しました

  • 5二次元好きの匿名さん21/09/19(日) 22:43:14

    すごく…良かったです…

  • 6二次元好きの匿名さん21/09/19(日) 22:44:29

    良いssだった

  • 7二次元好きの匿名さん21/09/19(日) 22:50:37

    良いね……

  • 8二次元好きの匿名さん21/09/19(日) 23:16:20

    ありがとう…ありがとう…

  • 9二次元好きの匿名さん21/09/19(日) 23:23:43

    すばらしい、悲しい

  • 10二次元好きの匿名さん21/09/19(日) 23:24:02

    いい…

  • 11二次元好きの匿名さん21/09/19(日) 23:25:28

    最高かよ

  • 12二次元好きの匿名さん21/09/19(日) 23:25:30

    すごくいい……

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