- 1魔術機械人形ワイス◆2UaSBn1aSE25/09/15(月) 01:55:02
---はじめに---
魔法が万人の扱える異能として当然の様に存在する未来世界。
舞台はXX25年の巨大都市、『ミレニアムシティ・Ω(オメガ)セントラル』、最先端の科学が街を雑然と形作る中を、エルフや獣人と言った亜人種や魔法生物が当たり前に行き交う、マジカルサイバーパンクワールド。
----------
---設定集---
ここだけ魔法と科学のマジックパンク都市 創造する、魔法が科学と共存する、未来---はじめに---
魔法が万人の扱える異能として当然の様に存在する未来世界。
舞台はXX25年の巨大都市、『ミレニアムシティ・Ω(オメガ)セントラル』、最先端の科学が街を雑然と形作る中を、エルフや獣人と言った亜人種や魔法生物が当たり前に行き交う、マジカルサイバーパンクワールド。
----------
設定集
登録キャラクター一覧x.gd---------
- 2アズール◆in3NAjUINU25/09/15(月) 02:00:12
10まであげ
- 3アズール◆in3NAjUINU25/09/15(月) 02:01:31
あげ2
- 4アズール◆in3NAjUINU25/09/15(月) 02:04:32
アズールどうやって出そうかな…
- 5アズール◆in3NAjUINU25/09/15(月) 02:05:36
戦闘ロールでもしようか…
- 6アズール◆in3NAjUINU25/09/15(月) 02:06:37
うーん
日常で出すよりそっちのほうが手っ取り早いよな… - 7魔術機械人形ワイス◆2UaSBn1aSE25/09/15(月) 02:07:00
---禁止事項---
・版権設定の使用
・無敵、万能ロール
・極端な初見殺し(例:「予兆無く放たれる初見では絶対に見破れない透明な斬撃!」「会話中についうっかり特定のキーワードを言ったら洗脳完了!」等)
・極端に対処手段を制限するロール(例:「俺の魔法は全方位火炎放射!回避は出来ないから防御してね!(相手に回避以外の防御手段が無い可能性を考慮していない)」等)
・極端にコミュニケーションが困難なキャラクター(例:「俺のキャラは全編手話で会話します」「私のキャラは独自の暗号言語を使って~」等)
・即死攻撃(例:「俺の剣で斬られたら耐久不可能な死の概念を食らいます、剣技は素人レベルだから当たらなければ良いよね?」等、そういう問題ではありません)
・ロール相手のNG事項に抵触するロールの強要、特にR-18、R-18Gロールの強要
・NG事項があるにも係わらず「そういう展開になる」と匂わされているロールに自分から絡みに行き文句を言う行為
----------
---参加にあたって---
・当スレはのんびり進行スレです、流れが早くなり過ぎて、返信のペースが落ちている参加者様が極端にシチュエーションに取り残されている場合は一度返信の自重をお願いする場合があります
・1日に10レス分も進めば上々くらいの速度感で、ホスト規制などでの日付跨ぎを気にせず遊びましょう
・キャラクターシートの登録は必須ではありませんが、禁止事項には抵触しないようにお願いいたします
・キャラクターシートを登録する場合はトリップを使ってください
-------------
---リンク---
・テレグラフ(裏行為はこちらでクッションを)
l67Yvx.gd・URL短縮サイト
x.gd - 8アズール◆in3NAjUINU25/09/15(月) 02:09:06
遅くなったけどたておつ〜
- 9アズール◆in3NAjUINU25/09/15(月) 02:10:12
あと1!
- 10魔術機械人形ワイス◆2UaSBn1aSE25/09/15(月) 02:10:18
---リンク---
・前スレ
【R-18】ここだけ魔法と科学のマジックパンク都市【のんびり進行】|あにまん掲示板---はじめに---魔法が万人の扱える異能として当然の様に存在する未来世界。舞台はXX25年の巨大都市、『ミレニアムシティ・Ω(オメガ)セントラル』、最先端の科学が街を雑然と形作る中を、エルフや獣人と…bbs.animanch.com・裏スレ(キャラクターシートの投下や設定の投下はこちらで)
【R-18】ここだけ魔法と科学のマジックパンク都市裏スレpart2【のんびり進行】|あにまん掲示板----------※こちらは裏スレでございます-------------はじめに---魔法が万人の扱える異能として当然の様に存在する未来世界。舞台はXX25年の巨大都市、『ミレニアムシティ・Ω(オメ…bbs.animanch.com---------
- 11アズール◆in3NAjUINU25/09/15(月) 02:12:41
取り敢えず10保守終わり!
- 12魔術機械人形ワイス◆2UaSBn1aSE25/09/15(月) 02:12:53
- 13アズール◆in3NAjUINU25/09/15(月) 02:14:37
グッジョブ!
- 14アズール◆in3NAjUINU25/09/15(月) 02:43:58
【シチュエーション:戦闘/都市外 参加人数:無制限】
ミレニアム郊外、その一角にある洞窟からグチュグチュと粘液が蠢く音、そして鋭い風切り音が響く
音の発信源は一人の人間とそれを喰らわんと蠢く黒く染まったスライムだ。
ぶおん、ぶおんと振り回されるスライムの豪腕は洞窟の岸壁を削るとともに周囲の魔法生物たちを粉砕し、その血がスライムへと吸収され、さらにどす黒く変色していく。
「チッ、埒が明かない…」
彼女が腕を振るうとともに一本の線が空間を切り裂くかの如くスライムに襲いかかるも、その体に一筋切れ目が入ったのみで、すぐに元の形へと戻ってしまう。
『ギュルルルルルル……!』
スライムは目の前の目障りな人間を倒すため、周囲を巻き込みながら突進を続ける… - 15ロリの第5隊隊長◆2UaSBn1aSE25/09/15(月) 02:55:00
- 16アズール◆in3NAjUINU25/09/15(月) 03:03:05
- 17ロリの第5隊隊長◆2UaSBn1aSE25/09/15(月) 07:56:15
- 18二次元好きの匿名さん25/09/15(月) 16:02:22
スライムの攻撃を避けたクラレントの目に写ったのは先程より少し色素の薄れたような触腕が地面に叩きつけられた瞬間だった。
その威力によって地面は砕かれ砂埃と砂礫が舞い散り、視界が塞がる。
その瞬間、クラレントが感じたのは後ろへの強烈なベクトル、振り返ってみれば先程戦闘していた彼女がワイヤーを巻き付けていた。
「あれがあの者の切り札ですのね。おかげでこの私がここまで手傷を負わされましたわ」
【スライムが前進を針のように尖らせ、それを忌々しげに見るアズールの左腕は穴だらけになっている】
「──見なさい、奴の色が褪せている。つまり、アナタの一撃は確かに届いていますの」
「この泥沼のような局面、今は協力を求めますわ。私が撹乱して差し上げましょう、ここを脱するためにも」
- 19ロリの第5隊隊長◆2UaSBn1aSE25/09/15(月) 16:24:59
- 20アズール◆in3NAjUINU25/09/15(月) 18:45:47
- 21ロリの第5隊隊長◆2UaSBn1aSE25/09/15(月) 21:16:39
- 22二次元好きの匿名さん25/09/15(月) 21:27:23
このレスは削除されています
- 23アズール◆in3NAjUINU25/09/15(月) 21:29:57
- 24ロリの第5隊隊長◆2UaSBn1aSE25/09/15(月) 21:46:22
- 25アズール◆in3NAjUINU25/09/15(月) 21:54:47
- 26アズール◆in3NAjUINU25/09/15(月) 22:02:06
- 27ロリの第5隊隊長◆2UaSBn1aSE25/09/15(月) 22:33:06
- 28アズール◆in3NAjUINU25/09/15(月) 22:40:01
- 29ロリの第5隊隊長◆2UaSBn1aSE25/09/15(月) 22:44:13
- 30アズール◆in3NAjUINU25/09/15(月) 22:54:18
- 31ロリの第5隊隊長◆2UaSBn1aSE25/09/15(月) 22:57:50
- 32アズール◆in3NAjUINU25/09/15(月) 23:37:10
- 33ロリの第5隊隊長◆2UaSBn1aSE25/09/15(月) 23:39:00
- 34アズール◆in3NAjUINU25/09/15(月) 23:41:24
- 35ロリの第5隊隊長◆2UaSBn1aSE25/09/16(火) 00:00:05
- 36アズール◆in3NAjUINU25/09/16(火) 00:05:48
- 37ロリの第5隊隊長◆2UaSBn1aSE25/09/16(火) 00:08:38
- 38アズール◆in3NAjUINU25/09/16(火) 00:11:43
- 39白の巨人◆alOn9K39HU25/09/16(火) 00:13:20
「──造血剤の手持ちが怪しいか。仕入れねばならんの」
【非常に背丈の大きい女性がカバンを開き、立ち止まっている】 - 40ロリの第5隊隊長◆2UaSBn1aSE25/09/16(火) 00:14:43
- 41魔術機械人形ワイス◆2UaSBn1aSE25/09/16(火) 00:16:42
- 42アズール◆in3NAjUINU25/09/16(火) 00:19:12
- 43白の巨人◆alOn9K39HU25/09/16(火) 00:19:43
- 44ロリの第5隊隊長◆2UaSBn1aSE25/09/16(火) 00:22:15
- 45アラデル◆in3NAjUINU25/09/16(火) 00:23:40
- 46魔術機械人形ワイス◆2UaSBn1aSE25/09/16(火) 00:25:38
- 47白の巨人◆alOn9K39HU25/09/16(火) 00:31:08
- 48魔術機械人形ワイス◆2UaSBn1aSE25/09/16(火) 00:35:59
- 49白の巨人◆alOn9K39HU25/09/16(火) 00:41:27
- 50魔術機械人形ワイス◆2UaSBn1aSE25/09/16(火) 00:45:38
- 51白の巨人◆alOn9K39HU25/09/16(火) 00:48:20
- 52魔術機械人形ワイス◆2UaSBn1aSE25/09/16(火) 00:51:35
- 53アラデル◆in3NAjUINU25/09/16(火) 00:54:25
- 54魔術機械人形ワイス◆2UaSBn1aSE25/09/16(火) 00:57:45
- 55白の巨人◆alOn9K39HU25/09/16(火) 01:00:28
- 56魔術機械人形ワイス◆2UaSBn1aSE25/09/16(火) 01:03:36
- 57白の巨人◆alOn9K39HU25/09/16(火) 01:10:57
- 58魔術機械人形ワイス◆2UaSBn1aSE25/09/16(火) 01:12:26
- 59アラデル◆in3NAjUINU25/09/16(火) 01:14:37
- 60白の巨人◆alOn9K39HU25/09/16(火) 01:18:17
- 61魔術機械人形ワイス◆2UaSBn1aSE25/09/16(火) 01:23:11
- 62アラデル◆in3NAjUINU25/09/16(火) 01:28:44
- 63白の巨人◆alOn9K39HU25/09/16(火) 01:29:17
- 64魔術機械人形ワイス◆2UaSBn1aSE25/09/16(火) 01:30:58
- 65白の巨人◆alOn9K39HU25/09/16(火) 01:32:54
- 66フリーランスの女狩人◆2UaSBn1aSE25/09/16(火) 09:19:52
- 67白の巨人◆alOn9K39HU25/09/16(火) 12:07:12
- 68アズール◆in3NAjUINU25/09/16(火) 16:58:41
- 69フリーランスの女狩人◆2UaSBn1aSE25/09/16(火) 17:48:14
- 70アスティ◆7H59oAD.0A25/09/16(火) 18:08:43
【シチュエーション:日常 参加人数:先着1名】
人は新しいものに惹かれる、古いものは捨て、より機能的で美しいものを求め続ける。
Ωセントラル、ミレニアムシティ(千年都市)と銘打たれ急速に進んだ都市開発は、そうした洗練と放棄の歴史だった、巨大な箱庭は次々に新陳代謝を繰り返し、進化と進歩を続けている。
その様な必然的な時の流れから、取り残された者達も居る、言わばそれは放棄された側の存在。
彼らは同じく放棄された者達同士で寄り集まり、変わり往く都市の有り様を俯瞰しているのだ。
南区外れにある旧変電施設痕、30年前に旧世代化し、やがて他の最新施設に取って代わられる形で役目を終えた廃墟はすっかりと苔むし、光合成で都市に酸素を供給する緑の絨毯を敷いていた。
屋根の日陰は野生の雀が巣を作るだけのスペースを提供し、回ることのない風力タービンは折れた羽に蔦を絡ませており、コンクリートの天井を割って逞しく伸びた樹木の枝が四方に葉をそよがせる。
当然ながら、老朽化した施設は立ち入り禁止の区画であり、無人である、時折巡回のドローンがやって来ることはあれど基本的に何者かの気配があるものではない。
けれど。
────────────パサッ、バサッ、サ、サッ
有刺鉄線を軽々と飛び越えて、区画の端にひっそりと降り立つ小柄な人影がひとつ、あった。
授業終わりであろう学生か、鞄を肩掛けにして、背中からは純白の翼が生えている翼人の少年だ、他に人気は無いかと周囲をきょろきょろと警戒しながら、やがて少年は急ぎ足で近くの茂みへと駆け寄り、腰を下ろした。
「……や、元気にしてた?……見て、ユリアンさんのところであまりのパン屑を貰って来たんだ」
小声で話しかける視線の先には小さな魔物の姿がある、額から先の丸い硬質の角を伸ばした兎の魔物だ、名をホーンラビットと言う、角を削り乾燥させて作られる薬が万病に効くとされ古い時代から乱獲の憂き目に遭って来た。
瞬く蒼い瞳孔を覗いて健康状態に問題が無さそうと安堵した少年は、取り出した紙袋を開けて中身のパン屑をその眼の前に撒いた、草を食むのとは違う甘い餌、ホーンラビットは忙しなく口元を動かしている。
「ごめんね、君のパパとママ、やっぱり見つからなくて……でも、ウチで飼う訳にも行かないからさ。
父さんも母さんも、昼間はお店で手一杯で、面倒は見切れないだろうし……」 - 71アズール◆in3NAjUINU25/09/16(火) 21:46:53
- 72フリーランスの女狩人◆2UaSBn1aSE25/09/16(火) 23:26:21
- 73アズール◆in3NAjUINU25/09/16(火) 23:33:45
- 74魔術機械人形ワイス◆2UaSBn1aSE25/09/17(水) 00:13:13
- 756番隊隊長ノア◆Ym1fb/Qckk25/09/17(水) 07:24:19
- 76アスティ◆7H59oAD.0A25/09/17(水) 10:24:02
「うわ、わ、わぁっ……!」
がたん、と肩を跳ね上げて、食事の途中でありながら驚き惑い茂みに逃げ込むホーンラビットを見送りながら、少年は騒音の元を視線で追ってパン屑の詰まった紙袋を抱え込む。
黄金色の瞳に映る、思わず背筋の伸びる様な破壊を成し遂げた男の姿は、正しく畏怖の象徴であった。
翼を折り畳み、咄嗟に近く、ホーンラビットの逃げ込んだ茂みの程近くにある木陰に身を隠して。
(ぜ、絶対危ない人!近付いちゃいけない人だぁ……!)
警鐘を鳴らすのは、これでも表裏、多くの友達を持つ身としてのセンサー。
出来るだけ身を縮こまらせ、息を殺しながら、恐る恐ると男の方を覗き込み。
(……ど、どうしてこんなところに人が、……いや、僕も人のこと言えた立場じゃない、けど……それにしたって……!)
- 77フリーランスの女狩人◆2UaSBn1aSE25/09/17(水) 15:56:02
- 78魔術機械人形ワイス◆2UaSBn1aSE25/09/17(水) 16:29:56
- 79アスティ◆7H59oAD.0A25/09/17(水) 18:07:44
(バ、バレてる、……殺される────────────!!)
歯に衣着せぬ不遜な物言いは、得も言われぬ威圧感と疑心に満ちて響く、燦々と晴れ渡っている筈の青空に雷雲でも立ち込めてくるかのような心象風景。
自由の象徴として羽搏ける筈の白翼はふるふると震えて、畏れと共に少年は身を縮こまらせる、口を噤み息を噛み殺しながら、せめて男がこちらに気が付いたのは何かの間違いであれと祈った。
そしてせめて、あの小さな命(ホーンラビット)だけは、何処かに逃げ延びていてくれと。
『……キューン!』
「────────────ッ!?」
喉を震わすか細いか細い声が響いた、それは間違いなく、あのホーンラビットの鳴き声だ。
見れば、男の眼前にまるで少年へと近づく道を塞ぎ、庇い立てする様に飛び出す小さな小さな魔物の姿があった。
とても武器として何かを突き貫くには足りない、先の丸まった角を男の方へと向けながら、宝石の様な蒼い瞳は潤んで翳んでいる。
- 80二次元好きの匿名さん25/09/17(水) 18:42:15
このレスは削除されています
- 81アズール◆in3NAjUINU25/09/17(水) 20:31:57
- 82魔術機械人形ワイス◆2UaSBn1aSE25/09/17(水) 20:34:58
- 83アスティ◆7H59oAD.0A25/09/17(水) 21:27:40
ホーンラビットは元来好戦的な魔物ではない、体格は成長しても角を含めて1mに満たず、攻撃手段と言えばその脚力を活かして突進をするくらいだ。
ましてや、男の眼の前でぷるぷると震えるその個体は子供であった、『きゅぅん、きゅぅん』と振り絞る様に健気に威嚇を唸りながら、ぴょこり、ぴょこり……と跳ねて彼の前進を止めようとする。
何故ならその背後には、迷い込んだ己をこの旧変電施設に匿い、餌を与えてくれる少年が隠れているからだ。
先程の破壊行為の残像は色濃く小動物の脳裏にも焼き付いていた、あの少年を、あの破壊力の餌食とする訳にはいかない。
『きゅーん!きゅーんっ!』
“これ以上進むな”と跳ね回る、“こっちを見ろ”と駆け回る。
- 846番隊隊長ノア◆Ym1fb/Qckk25/09/17(水) 23:09:40
- 85フリーランスの女狩人◆2UaSBn1aSE25/09/17(水) 23:42:57
- 86アズール◆in3NAjUINU25/09/17(水) 23:57:53
- 87フリーランスの女狩人◆2UaSBn1aSE25/09/18(木) 00:08:24
「通じるとは思っていないさ………だが、その身体能力に血…………大方吸血鬼と言ったところだろう?だから…………」
【するとその瞬間世界が歪むような感覚が貴方を襲うだろう。眩暈、そして吐き気と立ち眩みが同時に貴方の身体へ殺到する】
- 88アズール◆in3NAjUINU25/09/18(木) 00:21:22
「これはッ、毒!?」
【足がふらつき、追撃の手が止む】
「ッチイ! 行きなさい、造物よ!」
【血がグチュグチュと音を立て何十匹もの歯と赤い体のみを持つワームとなり、ファウストへと殺到する】
【ただ、その動きは統率されておらず、散発的に攻撃を仕掛ける】 - 89フリーランスの女狩人◆2UaSBn1aSE25/09/18(木) 00:53:47
- 90アズール◆in3NAjUINU25/09/18(木) 01:09:27
- 91二次元好きの匿名さん25/09/18(木) 18:40:46
- 92アズール◆in3NAjUINU25/09/18(木) 18:46:57
- 93二次元好きの匿名さん25/09/18(木) 19:17:39
このレスは削除されています
- 94アズール◆in3NAjUINU25/09/18(木) 19:41:14
- 956番隊隊長ノア◆Ym1fb/Qckk25/09/18(木) 19:48:57
- 96魔術機械人形ワイス◆2UaSBn1aSE25/09/18(木) 20:45:54
- 97アズール◆in3NAjUINU25/09/18(木) 21:46:37
- 98アスティ◆7H59oAD.0A25/09/18(木) 23:11:05
『きゅーん……!!きゅーんっ!』
されどその挺身は、益々男の興味を“ホーンラビットがそこまでして守ろうとするもの”へと向けさせる。
と、と、と、男の足元を円を描く様に走りながら、しかし意味は薄く。
いよいよ以て実力行使、その身を賭しての突進を仕掛けようと身体を丸め込んだ、
ところで。
「────────────い、良いよっ!大丈夫っ!」
『きゅぅっ……!』
その場から数m程離れた木陰より、純白の翼がゆっくりと存在を露わにする。
両手を頭上に掲げ、せめてもの抵抗の意思が無いことを示しながら、恐る恐ると少年は姿を見せた。
表情は覚悟と決心と怯え、己を守ってくれた小さな魔物に感謝を伝える様に震えながら微笑みかけて。
「あ、あの……すいません、僕が、ここに居たのはその……たまたまで。
別に、通報とかもしないですから、なので、その子も無事に返して、その……!」
言い訳はしどろもどろ、それも当然だろう、目の前にいるのは自分よりもはるかに強く恐ろしい、少なくとも一定の攻撃性を垣間見せた男なのだから。
- 996番隊隊長ノア◆Ym1fb/Qckk25/09/19(金) 01:15:14
- 100アズール◆in3NAjUINU25/09/19(金) 21:30:56
- 101蒸気騎士アラデル◆in3NAjUINU25/09/20(土) 07:45:27
【Ωセントラル、その門の前に一人立つ巨像。 その胸部から機械音声が響く】
「申請番号MA-17、開門を申請する」
【その声を聞き、ガタガタと音を立てながらセントラルの巨大な門が開く】
【その体からは蒸気が吹き出し、細かな動きとともに各部から噴出され、都市外へと踏み出していく】 - 102白の巨人◆alOn9K39HU25/09/20(土) 08:57:28
【少年の膝に包帯を巻き付け、テーピングを施す】
「──これでよい。後は無理をせず養生しとったら治るじゃろう」
【そのまま立ち上がり、ゆっくりと少年に背を向ける】
「金の事は気にするでない。この程度の応急処置で小僧から強請るほど落ちぶれとらんわ」
【使用済みのゴミを残すこともなく。振り返ることも無く白衣を纏う巨人は去りゆく】 - 1036番隊隊長ノア◆Ym1fb/Qckk25/09/20(土) 09:06:35
なるほど、殺し屋か
しかも知覚補正持ち、こりゃめんどくせえ
【無表情で小さく溜め息を吐く】
あー……
連行って言いたいところだけど、あっちが人殺しっぽいから戦ったんだろ?
逃げずに話するあたり、これに関しては後ろ暗いことしてねえだろうし……ま、帰って良いぜ。引き止めて悪かったな
【本来ならもっと話を聞くべきだが。仕事もまだ残っているし、何より面倒だ】
- 104二次元好きの匿名さん25/09/20(土) 22:08:28
《タイラー》
【正午過ぎの公園のベンチに、草臥れた私服の男が座っている
隣に置いた紙袋から具もパンも薄っぺらなサンドイッチを取り出し、合成豆のコーヒーで腹に押し込む】
「軍用車両用の新型AIが実験場にて不具合で暴走、特殊義体を運送中のトラックが襲撃され荷物が強奪、資産家の子供を含む複数人が行方不明・・・
物騒な事件が多くていやになるねえ おかげで警備隊も大忙しで休んでる暇もねえや
おっ、贔屓のチームが勝ってるな」
【広げた新聞に目を通し、最近の事件の記事をサラッと流し、スポーツ面に移る】
『世の中事件だらけだと言うのに随分と暇そうですね』
【皮肉交じりの言葉を投げながら、パリッとしたスーツを着た美女が隣に腰を下ろし紙袋を置く】
「おいおい、警備隊は昼飯も食っちゃいけねえのか 世知辛いねえ」
【その後も、中身のない世間話をぽつりぽつりとした後、美女は”奥側”に置いてあった紙袋を手にベンチを立つ】
『たまには店の方にも顔を出してください マダムもお待ちしております』
「分かってるよ ああ、”次の試合は三日後”だ 忘れんなよ」
【美女が姿が見えなくなってしばらくしてから、紙袋に手を入れガサリと書類の束を取り出す】
「(地下オークションの出品リスト・・・これは)
はあ、また忙しくなりそうだ」 - 105二次元好きの匿名さん25/09/21(日) 22:29:26
《タイラー》
【シチュエーション:戦闘/都市内・屋内 参加人数:無制限】
「あー、今回の作戦の指揮を任された平一等隊員だ よろしく頼む
先日、輸送中に強奪された身体拡張式特殊義体が闇オークションで競り落とされた
その装備の引き渡しが、工業地帯の廃倉庫で行われるとのタレコミがあった
可能であれば引渡し前に確保したいが、落札者の手に渡った場合は戦闘が予見される
その場合、落札者の無力化を優先し、装備の破壊や生死は問わない
都市警だけでなく、EMSや協力者も作戦に参加する
どっかから嗅ぎ付けた犯罪者どもの横槍もあるかもしれんから気を付けてくれ」
目的
秩序側→警備隊・協力者として義体装備者の撃破など
裏社会側→義体の強奪・戦闘データ確保など
敵モブ
アリオン・ゾーホン:犯罪者兄弟の兄、拡張義体B.O.A.試験型装着者
ボーダン・ゾーホン:犯罪者兄弟の弟、拡張義体S.P.I.D.E.R.試験型装着者 - 106白の巨人◆alOn9K39HU25/09/22(月) 16:14:33
【闇に乗じて、大きな影が一つ。白衣ではなく黒衣を纏い、その身体に見合う特注のワーキングキャップを深々と被っている】
(……どこで何を取引しようが、ワシの知った事ではない。その程度の悪意は、この世界でごまんと溢れている)
【その拳は強く握られ、激しい怒りを伴っている】
(──じゃが、あの義体は別じゃ。あんな物が欲深き者共に渡ることがあれば、そのノウハウもテクノロジーも、裏の世界に瞬く間に流れることになる)
「……それを看過してやる程、ワシは堕ちとらん。どんな結果になろうとも、アレが良からぬ者共に渡る前に手を打つ」
【トルソーの目的……義体の引き渡しの阻止】
- 107魔術機械人形ワイス◆2UaSBn1aSE25/09/22(月) 18:08:49
- 108アスティ◆7H59oAD.0A25/09/22(月) 20:23:12
────────────アイサツ、そう、挨拶、それはジッサイ大事なことだ。
それは機械人形にとってはプログラムであれ反射であれ、その場に滞留した剣呑な空気を裂く変節の一言だった。
ぱち、ぱち、と少年の瞼が驚いたように忙しなく瞬き。
「……はい、アスティです……?」
首を傾げながら口を突いて出る、返しの挨拶。
ホーンラビットはぴょこりぴょこり、跳ねて跳んでアスティの足元に、恐れ畏まり小さく震えながら。
「あの……ワイス、さん、は、ここで何をしていたんですか……?」
どうやら、すぐに取って食われたり殺されたりするようなことは無さそうだと、薄らとではあるが感じ取り。
むしろ少年の恐怖は、目の前の得体の知れぬ存在への好奇心へと、その姿を変えつつあった。
- 109二次元好きの匿名さん25/09/22(月) 23:58:29
- 110キーラ◆7H59oAD.0A25/09/23(火) 09:37:13
「相変わらず、何処から情報仕入れてるんだか?」
現場の最高責任者として作戦に割り当てられたタイラーよりも、一つ、階級上は上の立場に当たる筈の女は、咥えた電子煙草から立ち昇る薄紫色をした水蒸気の向こうで意地悪そうに笑っていた。
責任、などとは無縁の女である、究極の個人主義を掲げる特等隊員キーラ・ニコルソンは、あくまでも“巡回ルート上でたまたま近くを通りすがった”という言い訳と共に今日の場に居る。
見え透いた建前だが、そうしてタイラーに指揮の手間を全投棄、解き放たれた無責任。
専用の魔法特装を片手に携えながら、空のコンテナに腰を下ろし。
「アンダーネットの連中とつるんでるんじゃないかって……優秀だけど厄介な猟犬には、責任って鎖をちゃあんと繋いでおきたいんだよ。
まぁ、ちょっとくらい負担を減らす手伝いはしてあげるよ、頑張って、タイラー?」
本名よりもわざとらしく、あだ名の方で彼を呼ぶ。
- 111二次元好きの匿名さん25/09/23(火) 16:12:49
《タイラー》
「どうも、ニコルソン特務隊員
事前の招集リストには居なかったはずなんですが・・・
他人の指揮下なら、また好き勝手出来るとか思ってませんかねえ?」
【個人主義な上位隊員に一応は丁寧な言葉使いを心掛け、わざとらしく嫌そうな顔を向けるが、戦力的には信用しており内心頼もしく思っている】
「情報元ね・・・さて、いったい何処の悪い奴が情報を漏らしたのか、さっぱり見当が付きませんね」
【相手がコチラの動向を何となく察しているのは理解しているが、適当にはぐらかす】
「現場に来たんだから、しっかり仕事してくださいよ」
「・・・さて、そろそろ時間だな
全隊行動開始し所定の位置に付け! 武器はいつでも抜けるようにしておけ!」
【複数の小隊に別れ待機場所から、現場の廃倉庫へと素早く移動していく】
- 112キーラ◆7H59oAD.0A25/09/23(火) 20:43:30
「大丈夫、定時までは働くよ?」
太陽光はΩセントラルに聳える摩天楼の群れが隠し、けれど未だ高い位置にある、定時退社をモットーとするキーラにとっても今は仕事の途中。
分かっていて、タイラーは敢えて釘を刺してみせたのだろう、それは確かに現場の責任者としてあるべき姿。
どれだけ胡乱な男でも、こうした指揮の腕前には一等隊員らしい貫禄があった。
取引の現場を抑えるのは現行犯が定石だ、売人も買人も一網打尽にしなければいけない、だからこそ廃倉庫を包囲する都市警備隊の手際は静かかつ迅速で、一穴とて逃げ出す隙を生まないように。
その一角にキーラは姿を置いた、小隊は組まずに単身で、────────────ちゃ、ちゃ、と肩に担いだ長槍は金属質な音を立てて。
「────────────こちらキーラ、いつでもどーぞ?」
- 113白の巨人◆alOn9K39HU25/09/23(火) 21:00:00
「…………」
【その頃、闇に潜み、トルソーもゆっくりと音を殺して現場に近づいていた】
【孤立無援で、しかも自身の巨体はよく目立つ。突撃のタイミングは熟考せねばならない……】 - 114二次元好きの匿名さん25/09/23(火) 22:21:46
《タイラー》
『───全体突入』
【通信機からの指示に合わせ部隊は廃倉庫へ入り込む】
【廃棄されたコンテナや棚が乱雑に並ぶ中、開けた空間に真新しい2つのコンテナと複数人の人影がある】
「動くな、手を挙げてろ ・・・人相照会・・・ゾーホン兄弟だな 大人しく投降を・・・」
【現場を取り囲んだ警備隊が銃を向け投降を呼びかけると、手を上げゆっくりと振り返り・・・】
『認証完了』→『起動』
【ゾーホン兄弟と思われるチンピラたちの手に握られたタブレットの画面にそう表示されるのが目に入る】
「ちっ、装備の受け渡しが終わってやがる! 早急に無力化しろ!」
【タイラーを始めとした隊員が一斉に射撃を開始するが】
《ゾーホン兄弟》
【コンテナから飛び出した頭のない蛇の様な大きな機械と、8本の脚だけの蜘蛛の様な機械が銃弾の射線を遮る】
「ひゃはは、無能な警備隊様が雁首揃えてやってきやがったぜ!」
「ひひひ せっかくだから、新装備の錆にしてやるよぉ!」
【兄の下半身に蛇型の義体が、弟の背中に蜘蛛型の義体が取り付く】
【蛇人と蜘蛛人のような異形の形態となった兄弟が取り囲む警備隊を見回しニヤニヤと笑う】
- 115白の巨人◆alOn9K39HU25/09/23(火) 22:46:25
- 116キーラ◆7H59oAD.0A25/09/24(水) 12:09:42
「……じゃあ、好きにやらせてもらうよ~」
────────────ギュガ、ブゥ、ン、!
それは廃工場外より響く、重く、鋭利な風切り音、魔力を通じ変幻自在に伸縮する刃。
工場の壁を斬り裂いて崩して、まだ伸びる、その斬線上に留まる光を追撃の刃としながら、異形の姿を手にした二人組の犯罪者を巻き込もうと薙ぐ。
・・・・
「タイラー!私の友達も参加したいって言ってるんだ!」
友達、などと呼べる人材はこの場にいない、キーラの口はいつも都合の良い嘘を紡ぐ。
ちらと蒼い視線が撫でたのは、工場地帯の影に隠れ潜む理外の巨人、その姿。(>>115)
・・・・・・・ ・・・・・・・・・・・・
「今から来るけど、撃たないでやってよねぇ!!」
────────────恩を売る訳ではない、あくまで、仕事を早く終える為。
- 117白の巨人◆alOn9K39HU25/09/24(水) 12:44:12
【何の真似だ…?──等という思考はしない。その段階はとっくに過ぎており、既に行動をしていなければならない】
【受け渡しの阻止の失敗、敵の攻撃準備の完了。──既に、二手は遅れている。これ以上は来た意味がなくなる】
「──ワシを置いておっ始めるとは、せっかちじゃのお!」
【その声と共にドスンドスンと重みのある足音が極めて短い感覚で響く。鎧や、ましてや大型の義体ではない。3mの身長がもたらす200kgを超える体重が、それを打ち鳴らしている】
「容赦せんぞ、他人(ひと)の命を何とも思わぬ外道共めがぁ!!」
【巨人族の長大な歩幅と、人を軽く凌駕する筋力で行われる全力疾走は、獲物を追走し、広大な平原をかける獣にすら匹敵する勢いだ】
【そのまま腕を交差して猛然と突っ込んでくる。犯罪者達に、文字通りの肉弾が襲いかかった】
- 118二次元好きの匿名さん25/09/24(水) 20:30:57
《ゾーホン兄弟》
【距離の離れた銃弾なら兎も角、光の刃はマズイと判断したのか大きく飛びのく】
「あぶねえ、あぶねえ! 折角の新装備がキズモノになるだろうが!」
「おっ、よく見ればイケてる女じゃねえか 生け捕りにして後からお楽しみしようぜ、アニキ」
【光の刃に切り裂かれ崩れたコンテナの上に着地し、下卑た視線をキーラへと送る】
「おっ!?」「いいっ!?」
【キーラが誰かに呼びかけると同時に突撃してきた巨人にギョッとする】
「ぐえっ・・・! このクソアマがぁ!」
「警備隊はいつからこんなデカブツをペットとして飼い始めたんだ?」
【義体含めてもなお同程度の体躯のあるトルソーの突進に弾き飛ばされ、悪態をつく】
「・・・いいぜ、本気で〇してやる」
「”ブラックスモーク”展開!!!」
【のたうち回る様に倉庫内を移動する蛇型の体表にいくつもの魔方陣が展開し、黒い煙幕を噴出する】
【流石に倉庫内を埋め尽くす程ではないが、斑模様の煙幕により視界が急激に悪くなる】
【煙幕に潜り込んだ兄弟の姿が消える】
『ぎゃあ!』『ぐあっ!』
【倉庫のあちらこちらから下位隊員の悲鳴が聞こえ始める】
【ある者は蛇型の巨体に叩き伏せられ、ある者は音もなく放たれたボウガンの矢に防具を裂かれる】
【義体を纏い煙幕に潜んだゾーホン兄弟は、女隊員と巨人にも狙いを定める】
- 119白の巨人◆alOn9K39HU25/09/24(水) 21:03:27
- 120キーラ◆7H59oAD.0A25/09/24(水) 21:41:35
「ははぁ、女一人も普通に抱けない甲斐性じゃ襲うしか無いよねぇ、なっさけないやーつら」
手首の捻りで返す槍は、工場外からその中心まで伸びる理外の長槍から、身長程の短槍へと縮む取り回し。
追い遣ったコンテナ上から見降す下衆な台詞に、一切表情を変えずに皮肉を送って。
工場内へと足を踏み入れ、二度目の刺突を繰り出そうというところで、────────────全てを滅茶苦茶にしてしまう巨体の突進は、二人の犯罪者を弾き飛ばした。
「……おおっ」
肩を竦めながら、自分よりも遥かに大きな一歩で躍り出た巨人を愉しそうに見遣り、吐き散らされたスモークの中でゆったりと“煙草”を咥え込む、これだけ煙たければ擬装も安い。
それはキーラが保有する魔道具の一つだ、吐き出した紫煙は煙幕の最中で形を変え、キーラと瓜二つの幻像を作り出す。
(高所を取った蜘蛛野郎の方は、リーチの長い巨人ちゃんに任せちゃおう、あれだけ大きければ皮膚も分厚いだろうしボウガンの一本や二本なら当たっても大丈夫……と、思っておいて)
ひょう、と槍を担ぐ、併せて幻像も同様の動作を行う。
・・・・・
(私の相手はあの蛇野郎の方、……ほぉら、イケてる女が隙だらけだよ、見えてんだろぉ?)
- 121二次元好きの匿名さん25/09/24(水) 22:05:36
《ゾーホン兄弟》
【露骨すぎる挑発に蛇型の方は反応する様子はないが・・・】
「(くたばれデカブツ!!!)」
【無言の殺気が放たれるとともに、天井付近の黒煙を引き裂き2本の矢がトルソーへ向け飛来する】
【それらは迷うことなく一直線にトルソーの脳天と心臓に向けて飛ぶ】
【生み出された幻影は極めて高度で常人では見分けがつかないほどであり】
「(ああ、しっかり”見えてる”ぜ)」
【高度なピット器官を模した蛇型の探知にはハッキリと幻影のそばの本体が見えていた】
【足裏に何者かの接近する振動が伝わり黒煙が攪拌される様子が見えた直後、鋭く尖った尾の先端が幻影のその先のキーラ本人へ向け突き出される】
- 122キーラ◆7H59oAD.0A25/09/24(水) 23:47:39
煙草程の小型に押し込めた現代魔法技術が粋、キーラの得手である幻惑戦術。
それは煙が形成す幻像だが、輪郭は鮮明であり、実物と紛う程に定か、それ故に視覚情報でのみ幻であると見破るのは極めて困難だ。
・・・・・・・
────────────視覚情報にのみ、頼るならば、だが。
「……ッ!」
蛇の持つ鋭敏な知覚器官が、煙幕の中で尚、幻を幻と破り繰り出す重量級の直接攻撃が眼前に迫り、キーラは浅い呼吸と共にサイドステップを踏んだ、反射的だが回避は可能。
されど重量級の一撃は、彼女の左脇腹を掠めたほんの一瞬だけで、バッと鮮やかな赤色を黒煙の中に舞い散らせる。
裂けた皮膚の内にピンク色をした筋繊維が覗き、瞬間的に迸った激痛が表情を歪ませ。
それさえ蛇の義体には見えているだろうか、見えていたとしたならば、さぞかし愉悦のひと時であろうが。
・・・・・・・
「成、程……ッ、そういうトコロもちゃんと蛇なんだ、良い義体だ……ッ!」
されど惑いはしない、確と握り締めた槍の穂先は蛇の尾から続く本体を射程に収めている。
今一度、カレイドスピアの刺突は“伸びる”、暗がりに浮かび上がる光線を描きながら、寸分狂わぬ狙いで以て。
「タイラーーーーーッ!!一般隊員下がらせろォッッ!!」
無線に向けて、しかし無線でなくとも聞こえる声量で、その意図を同僚であるタイラーならば察せると信頼して、
────────────カレイドスピアは、廃工場対面側の壁に届くまでを、貫く。
- 123白の巨人◆alOn9K39HU25/09/25(木) 01:31:21
「そこかァァァ!!」
【声のした方向に向かって、瓦礫を思いっきりなげ付けた。それは矢の一本をひしゃげさせて撃ち落とし、振りかぶった動きでもう一本の矢も回避した】
【直後、トルソーは急加速し、さらに床を砕く勢いで踏みしめ、飛び上がった】
【巨人族が、現代で殆ど見かけられないのは何故か?】
【施設の仕様が困難? 性格に難がある?……どちらも少なからずあるが、それは『そういう側面もある』程度の話に過ぎない。最大の理由、それは───】
「……捉えたぞ、貴様ッ」
【──その圧倒的力。全力で走り込み、力いっぱい飛びついた。単に、本気で運動を実行した。──それだけで広大な倉庫の天井に張り付く敵を腕の長さの内に捉える事のできる、有り余る力】
【彼らは、他種族と交流するだけで『正確な加減』を行わねばならない。それを完璧にこなし続けられる精神力の持ち主は、そうは居ないのだ】
- 124二次元好きの匿名さん25/09/25(木) 19:53:48
あげ
- 125二次元好きの匿名さん25/09/25(木) 19:57:23
《ゾーホン兄弟》
【ニヤケた目が腹を裂かれた女を捉える が、その目の闘志がまだ消えていないことに気が付く】
「ひゃはっ、やっべ・・・!」
【そのまま再び黒煙に潜ろうとするが、彼女の方が早い】
『全員伏せろ!!!』
【遠くでタイラーの叫び声が聞こえた次の瞬間、拡張された槍の刃が廃倉庫を穿つ】
「あぁ、がぁ、クソアマが、ぁ・・・」
【槍に貫かれ腹部に大穴をあけられたゾーホン兄が血飛沫をまき散らしながら地面に転がる】
【装着者の指示が乱れたことで蛇型義体もビタンビタンとのたうち回り、もう長くないことが察せられる】
【絶対的に優位な位置を維持するために天井に張り付いていたはずであるのに】
「うっ、何だあ!?」
【どう考えても鈍重な重戦車が、矢を物ともせずに砲弾の様に突っ込んでくる様に恐怖する】
【見えていないはず、届くはずがないという油断から一拍行動が遅れ、回避は間に合わないと判断する】
「叩き落してやるよ!」
【天井を掴む分を残し、4本の蜘蛛の脚を抜き手の形で突き出し迎撃を試みる】
- 126白の巨人◆alOn9K39HU25/09/25(木) 20:52:19
- 127二次元好きの匿名さん25/09/25(木) 22:07:30
- 128キーラ◆7H59oAD.0A25/09/25(木) 23:09:38
煤けて錆びた廃工場、経年により劣化に次ぐ劣化を重ね、更には許容出来る重さを遥かに超えた加重をも受けて。
遂に崩落する屋根のトタン、頭上より警備隊に降り注ぐ瓦礫を、伸縮する槍は斬り払い除ける。
兄弟犯罪者の兄を斃した切っ先は、赤く滴る軌跡を描きながら、やがてはキーラの手元へと戻り。
「……痛、つッ……」
代価として受けた脇腹の傷を押えても漏れ出る血までは掬えない、ひたひたと血痕を足元に描き出しながら、それでも致命傷ではないことは特等隊員としての経験値が察している。
地に落ちた罪人の片割れが戦意と共に義体の戦闘能力をも喪失する様を、巨人の背中越しに見遣り。
丁度、近くで伏せていた警備隊員の背を、パンと音が鳴る程に強く叩いた。
「────────────確保、急ぎっ!」
無駄に止めを刺す必要は無い、ここから先は、真っ当な警備隊としての仕事だ。
- 129二次元好きの匿名さん25/09/25(木) 23:31:17
《タイラー》
【隊員たちが犯人の確保、義体の回収、負傷者の治療に忙しなく動いている】
「お疲れさん、おかげで早く片付いたぜ
優秀な奴が居ると援護くらいしかする事なくて楽だね」
【他の隊員に指示を出しつつキーラのそばに寄ってくる
軽口は叩きつつも心配はしている様で、止血剤と鎮痛剤を差し出す】
「それであっちのデッカいお嬢さんはお前のツレ・・・ではなさそうだな」
【もう1人の大きな協力者の方をしげしげと眺める】
「隊員じゃない奴が紛れ込んでるとなると報告が面倒臭くなるなぁ
・・・よし、俺は何も見なかった事にする」
【トルソーの方にもミネラルウォータのボトルを投げ渡しつつ、見逃すことを宣言する】
- 130白の巨人◆alOn9K39HU25/09/25(木) 23:54:39
【瓦礫が膨れ上がったかと思うと、そこからトルソーの上半身が出てきた】
「……ゲホッ、ゴホッ……まさか、倒壊するとは思わなんだ。暴れる事なんて殆ど無いからの……加減が分からん」
【そうして頭をかいていると、腕にぽすんとミネラルウォーターを受け、投げられた元に首を向けた】
「ん、かたじけないの…………ワシのことは、まぁ、そうじゃな」
「軽車両が突っ込んで来たとでも言ってくれると助かる」
【そうしてミネラルウォーターを片手でつまみ、大きな服のポケットに詰める。先程の確保の号令に応じない……否、『応じることができない』、負傷した警官隊を見て、ため息を吐きながら歩き出す】
「……今のワシは『医者』ではないんじゃが……見捨てるのは矜持に反する、か」
【どこからともなく硬そうな箱を持ち出すと、中から包帯や薬品を持ち出し、応急処置を始めた】
- 131キーラ◆7H59oAD.0A25/09/26(金) 09:35:37
「思ったより手こずったけどね、お陰で怪我しちゃったぁ、そっちも作戦指揮お疲れ様?」
スプレータイプの止血剤は、シャカシャカと手元で振った後に傷口に噴射すると、切断面に成分が付着し過度な出血を押し留める。
無論、そのままにしておいて傷が癒着されることは無いのだから、後からきちんと治療を受ける必要があるのだが。
応急処置としては十分だ、次いで打ち込む鎮痛剤は注射薬、肌に押し当ててかしゅりと金属質な音と共に。
あの時友達と呼んだ巨人の素性はキーラも全く知る由もない、咄嗟の口八丁は同じく小狡い同僚には容易く見破られても、一切悪びれずに肩を竦めた。
「あの場あの状況じゃ慌てた隊員に誤射されかねなかったでしょ。
まぁ、巨人ちゃんも協力的なら色々と口裏合わせに苦労はしないよ、……サンキュー、気が利くね、流石」
槍を今度は杖代わりに立ち上がり、コンテナを壁に寄り掛かりながら、ここでなら誰も咎めはしないだろうと咥える電子煙草。
立ち昇る排煙を燻らせ、徐に医者の様な真似事を始める巨人の背中を見守る。
慣れているな、と、その素性に想いを馳せながら。
「車両の事故か、なら廃車を持ってきておこう、近くに転がってるフォークリフトとかタンクローリーとかさ」
- 132白の巨人◆alOn9K39HU25/09/26(金) 10:44:41
- 133二次元好きの匿名さん25/09/26(金) 21:24:37
- 134キーラ◆7H59oAD.0A25/09/26(金) 22:47:35
・・・・
「キーラ・ニコルソン、……これで名前が知れたね、お医者様?
君の名前も知っておきたいところだ、まぁ、名乗りたくない理由があるなら自由だけど」
揺らめく煙に巻かれながら、細めた蒼瞳は愉快に笑む。
如何に健康を害すと知っていてもこればかりは辞められぬと、中毒者(ジャンキー)は開き直った笑顔で以て応答し。
ぷかぁ、と、崩れた天井より空色に溶けて往く紫糸の軌跡を見送った。
・・・・・・・
「これは私らの仕事だよ、気持ちは分かるけど、任せてほしいなぁ」
極力、一般市民をトラブルに巻き込むことは、避けたいのに違いないのだ。
「書面報告はよろしく、現場責任者のタイラー殿~。
……さて、廃車の手配しとかなきゃ、手ぇ空いてるなら手伝ってくれる?」
先んじて報告へと帰還するタイラーの姿が、倉庫街の彼方へと消えて往くのを手を振って送ったなら。
キーラは疲労を滲ませる欠伸を交えながらも、現場の捏造作業へと歩み出す、それは正しく不良警備隊員の姿。
悪戯に巨人を見上げる視線と、その口ぶりで、巨人の膂力を廃車の運搬に用いてはくれまいかと、問いながら。
- 135二次元好きの匿名さん25/09/27(土) 08:03:01
このレスは削除されています
- 136白の巨人◆alOn9K39HU25/09/27(土) 08:25:35
「……無用なリスクを背負わせてしまったかの。どうせ、ワシが居(お)らんでも制圧までは出来たじゃろうしな」
【バツが悪そうに帽子のつばを持ち、深く被る】
「精力的に、とは行かぬが今後も出来ることはしよう。もし、重体の患者が居て……病院にも担ぎ込めんとなったら、ワシを探せ。どうせそっちの情報網ならワシの居場所くらい筒抜けじゃろ?」
【真っ黒な瞳で去りゆく背中を見つめている。『己の成すべき事の為に手段は問わない』──それは、例え医師免許が失効しても救いの手を止めない自分と被るものがある。トルソーは不思議なシンパシーを感じていた】
「…………トルソー。少なくとも、今はそう名乗っとる」
【結構な間を必要としたが、トルソーは己の名を告げた。何か、葛藤でもしていたかのようだ】
【顔面に吹き付けてくる様な真似をしないのなら、トルソーは喫煙を止めることは無い。やめろと言って直るもので無いし、本人に治療を望む意思は微塵もなさそうだと判断した為だ】
「心配せんでも、捜査にかかわる気はない。餅は餅屋。ワシなんぞ鑑識の代わりくらいしか出来ん」
【治すべき患者がいなくなったのを周囲を見回すと、その場で立ち上がった】
「さて、──車を持てばいいんじゃな。……言っておくが、流石のワシでもキツイからな。あんまり遠くからは持ち込めんぞ」
【言外に細工を了承するトルソー。もう仕事、と回した腕は、大きさに目を瞑れば普通の女性らしい脂肪体であった】
- 137キーラ◆7H59oAD.0A25/09/27(土) 09:56:56
・・ ・
────────────今は、ね。
トルソーの言葉が端に滲んだ、言い淀む過去の残滓、キーラの鋭敏な感覚はそれを間違いなく捉えても、指摘はしない。
誰もが脛に傷の一つや二つ、あるものだ。
「了解、トルソーね」
だから、認めて、それで終わり。
パンパンと軽快に打ち鳴らす掌は残された現場の最高階級持ちとしての統率を取る、五体満足に帰還を果たした一般隊員達をぐるりと見渡し、タイラーの言う通り、彼らもまた脛に傷がある連中だ。
斯くして、都市警備隊による堂々とした現場の捏造が行われる、指揮官は一切悪びれずに。
「────────────ほら、手ぇ空いてる連中も動け~、部外者ばっかりに働かせんなよ~」
今回の事件はそうして幕を閉じるのだ、終いに残されるものは、統制された情報。
テロリストが捕縛されたというニュース、現場にロボット運転による無人車両の暴走事故、そんな世間にありふれた内容。
ミレニアムシティ、Ωセントラルの秩序は守られる、それがどの様な形になろうとも。
- 138魔術機械人形ワイス◆2UaSBn1aSE25/09/27(土) 10:57:27
【突如自動的に口走ってしまったその言葉に、どうやらワイス自身でさえ驚愕していた様子で】
「────……あ……」
【その時思い出す】
【ポワンポワンポワン(回想に入る音)】
【『そういえばワイスよ、君には戦闘技能等の他に素晴らしい機能を幾つかプレゼントしてある』】
【「………?」】
【「私はただの兵器でしょう、その機能を入れる場所にもっと別の役に立つ機能を入れた方がいいのでは?」】
【『はっはっは、いいかね。こういうのは浪漫だよ、何より君の戦闘機能はもう充実しているし、もっと戦力を付けたくなれば追加パッチでも付ければいい。それに……』】
【「それに?」】
【『君は私の被造物なんだからどうするもこうするも全て私の趣味に一任されているのさ!!』】
【「…………了解です」】
【ポワンポワンポワン(回想終了)】
「…………ああ、あれか……あのFukinクソ博士め…………」
「それで、アスティ……だったか」
「何をしていたかは聞くな。こちらにも、こちらの事情があるんでな、あまり知られると困る」
【憂鬱そうに】
- 139アスティ◆7H59oAD.0A25/09/27(土) 11:45:07
(……あれ、案外、そんなに怖い人じゃない……?)
足元に逃げ込んできたホーンラビットをゆっくりと抱え上げ、守ってくれてありがとう、と、その耳後を撫でる仕草は、怯えを取り除くためのものであったが。
待っていたのは存外に普通のコミュニケーション、アスティの表情に滲んでいた少なくない緊張も、徐々に解けて秋めいて来た風に解ける。
人を見掛けで判断してはいけない、まぁ、見掛けというより行動と破壊という実害が伴ってはいたので多少謂れのある恐れではあったのだが。
「じゃあ、その……」
少しくらいは融通の利く相手かもしれない、ならば、すぐに逃げ出すよりは。
おずおずと口を開くのは、表とこちらに境界を引く鉄柵に掲げられた「立ち入り禁止」の札に、小刻みに視線を送りながら。
「詮索はしないので、僕がここに居たことも、……その、誰にも言わないでもらえますか?」
……腕の中で、ホーンラビットが少年に懐いた様子できゅるきゅる鳴いた。
けれど、廃棄された施設跡に住み着いた野生の魔物に餌付けをしているなんて、褒められたことじゃない。
- 140魔術機械人形ワイス◆2UaSBn1aSE25/09/28(日) 16:17:16
- 141アスティ◆7H59oAD.0A25/09/28(日) 17:32:14
「……まぁ、その、僕のペットって訳じゃないんですけど」
ばつが悪そうにはにかみながら、木陰に転がっていた紙袋を拾い上げ、中身のパン屑を掌に乗せるとホーンラビットに与える。
躊躇いも無しに栄養価の高い餌へとありつき、もそもそと毛並みに覆われた口元を動かす小動物。
まだ、子供の体高だ。
「親がいないみたいで、……僕も学業やお仕事の合間に探しているんです、でも、やっぱり見つからなくて」
────────────ひとりぼっちにしておくのは、可哀想じゃないか。
言葉にならずとも滲み出る、子供らしい、無条件で捧げられる慈しみの感情。
ただでさえ、大金にすら変えられるホーンラビットを狙う不届き者は、この街には多いのだから。
- 142魔術機械人形ワイス◆2UaSBn1aSE25/09/28(日) 17:40:54
- 143アスティ◆7H59oAD.0A25/09/28(日) 20:19:14
────────────自分で飼えば良い。
それは確かに正論だった、正論であって、けれど叶わぬことでもあった。
少年、アスティ・サニーライトは寂しそうに微笑んで、腕の中のホーンラビットを紙袋と一緒にゆっくりと草むらの方へと降ろし、しゃがみ込む。
「……大人しくても、魔物は魔物です、万が一があった時に僕は責任を持てる年齢じゃないし……。
父さんも、母さんも、仕事は雑貨屋をやっているんです、ちょっとしたおまじないを込めた魔法道具なんかを売ってて忙しくして僕の学費を賄ってくれてる、……その上“この子の面倒まで見て”なんて我儘は言えません」
父も、母も、自分のことを全うに愛してくれている。
・・・・・・
……危ないバイトに手を出してまでお金を稼いでいるのは、偏に両親に苦労をさせない為だ、この上魔物を飼いたいなんて言える訳が無い。
だから、せめて学校終わりやバイト終わりに、こうして様子を見に来てちょっとした世話を焼いてやるのが精いっぱいで。
「────────────あ、ごめんなさい、僕の家庭の事情なんて、ワイスさんには関係ないですよね!
ワイスさんはいったい、何のお仕事をされている方なんですか?」
はっ、と我に返って苦笑う。
- 144白の巨人◆alOn9K39HU25/09/30(火) 11:25:16
【イーストエッジの一角、くすみの無い白衣は優れた治安とは言え、このスラムにおいてはなかなかに浮いた格好だ】
「…………うむ、これがあるだけ欲しい」
【しかし、目を引くのはなんといってもその巨体。それがその手に収まらない程に調剤用の薬品を取引しているのだから、少なからず、周囲から声が聞こえてくるのも別段、おかしくない】
【トルソーは眼前の商人と目を合わせつつ、下手人候補が紛れていないか、その声にも耳を立てることを怠らない。もっとも、実際に襲われるとは、トルソー自身も恐らくあり得ない、と考えているのだが】 - 145アルジーナ◆7H59oAD.0A25/09/30(火) 12:00:21
闇市と言っても、このイーストエッジに於いては公に認められた商売区画だ、怪しい売り物も中には多少紛れているが、外様の客層というのも珍しくない。
その大半はΩセントラル都市部では高価な品を、多少劣化したものでも廉価で買う為、或いは郊外であるからこそ、紛れ込む魔物由来の素材を入手する為である。
この薬剤屋も後者の類であった、催眠効果を齎す蝶の鱗粉や、よく解毒すれば滋養強壮剤にもなる蠍の尾、乾燥させて磨り潰すことによって解熱薬としての効能を発揮する人面花の肉種……トルソーにとってはさぞかし宝の山の様に見えていることだろう。
けれど、一つ一つは闇市の中では比較的高級品である、大量買いを申し出られた承認は些か面食らった様子で問いかけた。
『……あるだけ?全部?これ全部かい?
アンタお医者様か何かか?別に売ってやったって構わねぇけど……全部となると結構高くつくぜ』
時たまあることだ、「大量に買うのだからその分値段を安くしろ」と迫る連中が、こちらが貧民層であると足元を見る、そんな輩に売るものは無いという警戒心。
Ωセントラルに横たわる貧富の差という社会問題、根深い腫瘍だった。
「────────────良いじゃねぇか、売ってやれよ、ソイツはそんなケチ臭い真似する奴じゃねぇだろうさ」
そんな俄かに鈍重な空気の立った闇市の一角に、響き渡るハスキーな女の声がある、トルソーが背にした人混みの中から、────────────否、その少し頭上から。
見れば、スラムを形成す雑居ビルの窓辺、窓枠に跨る様に腰を下ろした一人の竜人(ドラグナー)の姿があった、特異な赤白二色髪と、片方が欠けた白い竜翼、肩掛けのジャケットには袖を通さず、胸元のベルトには大型の拳銃が仕舞われている、顔面や体に広がった傷跡は色濃く剣呑さを記す。
「……ははぁ、本当にデカいな、巨人族ってヤツは」
- 146白の巨人◆alOn9K39HU25/09/30(火) 12:26:18
「そりゃ沢山買ったら高くつくじゃろ。何を言ってるんじゃお主は」
【懐事情の心配でもされたのだろうか?…そんな少し呆けた考えが頭によぎる。少なくとも、トルソーに値切りという選択は頭に浮かんですらいないのだ。『正当な報酬』。それは売買においても重要であり、もっと言えば、『不当な場所とは取引できない』とも言える】
【魔術より医術を信用しているトルソーは、薬物がなければ大きな治療はできないと考える。そして、それは自分の存在意義にかかわる。払うに値しない粗悪品なら、そもそも買わない。指定された値段を支払うのは、トルソーにとってある種の礼節であった】
「なんじゃ、偽造貨幣を疑っとるのか──ん?」
【そして、商人に横から口を出す声に目を向ける。視線の先にあった、あまりにも『違う』雰囲気には、思わず目元が締まった】
「……この辺りの──あー、……元締めかの? 別に諍いは起こさんから安心せい。コヤツがどうしても売らんなら、他を当たるだけじゃ」
- 147アルジーナ◆7H59oAD.0A25/09/30(火) 13:46:32
・・・・
「あぁ、ここらは俺の家だ、時たま市場に出入りしてる黒髪白衣の女巨人……ってのは、お前のことだろう?」
噂にもなる、トルソーの容貌は様々な人種が入り交ざるこの都市にあっても一際異彩だ。
女竜人は窓枠を乗り越えると、一杯に広げた片翼のみでパラシュートじみて風を受けながら、ゆっくりと地上へ落ちる。
ちゃりん、と、耳元で揺れた飾りはよく磨かれた鏡の様に、トルソーの顔を映し出してから消えた。
『……首領(ドン)・アルジーナ』
「売ってやれ、貨幣が本物かどうかなら俺が確かめる、……それとも、俺が信用出来ねぇか?」
首領・アルジーナ、アルジーナ・聖良・白熕の響きはイーストエッジに知れ渡っている、それはこの地を支配するマフィアの長の名だ。
もしも幾度か出入りを繰り返していれば耳にしたこともあるだろう、壁とアルジーナとの間に挟まれ、エメラルドグリーンの眼光を受けた薬剤屋は、小さな溜息と共に取り出した袋へとトルソーが求めた品を詰め込み始める。
その様に、満足気に一度深く頷いてから。
「って訳だ巨人族、一旦この場での支払いは俺を通せ。
俺個人はお前の言うことを疑いやしねぇ、だがここの連中は、色々と脛に傷がある奴揃いだからな。
まずは疑るクセが付いてんだよ、悪く思わないでやってくれ」
- 148白の巨人◆alOn9K39HU25/09/30(火) 14:03:52
「……アルジーナ、……か」
【眉間をつまむ。名前を聞けばなるほど、その存在感は納得のものだ】
「──黒髪で、白衣で、巨人。まぁ、ワシ以外には居(お)らんだろうな」
【視線を今しがた、手を入れていた財布に移す。使い込んでいないのか、小綺麗なそれから、数万の金を取り出し、……そのまま端数の小銭を上に乗せる。札はややバラけており、一番下までよく見える。偽札を隠すなら間か下だろうが、そのようなことは案の定、無い】
「──あー、うむ。非常にありがたい。こういう場所で信用を担保できる人物は、…その、貴重じゃからな」
【どこかおぼつかない。手も足もしっかりしているが、首の向きと視線は何処か、足場を無くしたかのように揺れている】
「──単刀直入に聞くが、……ワシ、なんかしたか?」
【自分にわざわざ会いに来る大物。トルソーは心拍数が早まるのを感じている。何せ、全く心当たりがないのだ】
【トルソーには、『このような場所で無駄にデカい程度、別に個性にもならない』という驕りがあった】
- 149アルジーナ◆7H59oAD.0A25/09/30(火) 15:57:31
トルソーが取り出した金銭を数えるのは慣れた手付きだ。
紙幣の束をパッパッと宙で叩き、目で表記された額を、指先の感覚で枚数を。
金とは信頼の単位だ、悪銭飛び交うスラムにあって、女はその重要性を十全に理解している、だからこそ妥協は無く。
「────────────あっはっはっは!自覚無しかよ!
まぁ……案外当人からしちゃ、そんなモンなのかもなァ、誰もてめェが元々持ってる物には気付かねぇ。
でもな、滅茶苦茶目立ってるぞ巨人族」
そして、十分な金額が手元にあることを確認したならば、薬剤屋に金を手渡して入れ替わりに商品の入った袋をトルソーの方へと突き出す。
・・・・
突き出して、……けれど、渡さないのは手遊びだ、彼女が袋に手を出そうとするならアルジーナの腕はひょいと避けてしまうだろう。
「前から噂は聞いててな、興味があったんだ、女巨人さん。
これも何かの縁だろうよ、どうだ、少し食事でもしに行かねぇか?」
そう、少し小狡そうな笑顔で。
- 150白の巨人◆alOn9K39HU25/09/30(火) 16:23:41
「目立つやもしれんが……別にデカいだけじゃろ。そんなにきになるかの……?」
【珍しいのは珍しいが、そんなに見に来る程か……? 時や文化が違えば、巨人族は見世物にでもされてたのでは? トルソーは変なことを考えてしまった】
【だが、まぁそれだけなのだ。気になるから気にしたというだけの話。今後はもう少し目立っている自覚をもつ。今回の話は今後の教訓にしよう。これで今回の物語は終わりだ】
「──む」
【──そのはずだった。しかし、トルソーがバカ正直に伸ばした手は空を切る。体の大きい分、腕も長い。相手を誤って殴るわけにもいかないので、敏捷に手を動かすのは『殴っても構わないくらい腹の立つ』相手に限られる。そして、大体はそうではないし、眼前のアルジーナも例外ではない】
「……はぁ、構わんよ。ワシら巨人族が牛飲馬食するような連中だと思ってそうだしの」
(……それに、『あのアルジーナと飯を喰らった』となれば、ワシの足元も、随分見にくくなるじゃろうしな)
【呆れ5割、打算3割、単純な興味で2割。渋々、トルソーは食事の誘いに乗ることにした】
「」
- 151アルジーナ◆7H59oAD.0A25/09/30(火) 19:06:59
トルソーの了承を得れば満足そうに、くつり、と笑み。
「……ツラが良い、足が速い、奇抜な服を着てる、金を持ってる、地べたを這い貧しそうにしている、旨そうな飯を食っている、言い争いをしている、────────────」
彼女の購入した品を奪い取ったまま、アルジーナはゆっくりと背を向けて、イーストエッジを歩き出す。
元々異国からの移民が住み集った街は、Ωセントラルでは見られぬ奇抜な建築様式が詰め込まれた箱庭だ、道行きの最中、通りの両端から時折住民達の声が届く。
彼女はその一つ一つに、片手を振ってラフな返応を送り、そしてまた、後ろを付いて歩くトルソーに向けられる奇異の目線を面白そうに辿って。
・・・・・・・
「────────────抜けて背が高い、なぁ、見た目や行動ってのは注目されるモンだ、本人の意識や、見せびらかしている、いないに関わらずな。
だから大事なんだ、身だしなみや振舞いってのは、自分(てめぇ)が誰にも舐められないように。
それが分かってなかった昔、俺を『片翼だ』って喧嘩吹っ掛けて来たのが居てなぁ、……あっはっは、片腕捥いでお揃いにして、イーストエッジの道端に吊るしてやったよ」
ほんの昔話、アウトローらしい武辺の語り、而して一つの街を支配するマフィアの長としての無慈悲無法の表れだ。
荒くれだった過去、組織の長となった現在、着こなしは粗雑であっても確かに衣装は仕立て良く、清潔で整えられている。
その上えらく特徴的なシルエットだから、不意に通りを逸れ、細道に看板すら掲げていない料理店の方へと曲がる姿もトルソーは見逃さずに付いて往くことが出来るだろう。
「流石にその巨体じゃ店には入れねぇな、……おい親父!“宝鶏の丸揚げ”を二つだ、それと、外の椅子借りるぞ!」
薄暗い店内へ慣れた口ぶりで声をかけ、表に放り出されていた円卓と長椅子(ベンチ)を抱え上げる、竜人らしい怪力で。
- 152白の巨人◆alOn9K39HU25/09/30(火) 19:50:50
- 153アルジーナ◆7H59oAD.0A25/09/30(火) 20:20:03
「それかハナから噂が立つことを許容するかだな」
そちらの方が目立たないように振舞うより幾らか楽ではあるだろう、なんて。
トルソーの気持ちは知ってか知らずか、どちらであっても、平然とそうしたことを言う女だ。
円卓を路地の入口を塞ぐ様に置き、二つの長椅子は並列に繋げて、それは丁度トルソーの臀部が乗っかる程度の幅を確保した。
「俺が誘った食事の席で正座なんてさせねェよ、良いから座れ、二つも繋げればその図体でも乗せられるだろ」
どかり、と、トルソーの対面にパイプ椅子を置き腰を下ろす、通りの喧噪と、店内は厨房の方から油の跳ねるけたたましい音が響くのとをバックミュージックに奏でて。
次第に薫って来る香ばしい揚げ油。
「さて……いつまでも“巨人”じゃ格好がつかねぇな、名前はなんだ?大事だからな、名前は」
- 154魔術機械人形ワイス◆2UaSBn1aSE25/09/30(火) 22:26:38
- 155アスティ◆7H59oAD.0A25/09/30(火) 23:30:24
秘密主義はそれ以上の深入りを許さず、機械人形に抗する手段を持たぬアスティにとっては、会話の取っ掛かりをも躱されて無情の沈黙が訪れる。
けれど、その沈黙は一度。
次いで放たれた救いの言葉に、────────────少年はまた、ぱっと表情を明るく和らげた。
「本当ですか!?」
渡りに船、願ってもないこと、継続的な世話をしてもらえるならばそれに越したことは無い。
が、同時に脳裏に思い巡るのは、やはり機械人形が行った先程の“破壊行為”。
「……あの、でも、この子を傷つけては、……ほしく、ないんですけど」
それは着飾らぬ、ある意味真っ当な、真っ当過ぎる心配ではあるが、……要は、少年は幾許かの“保証”を欲しがったのだ、機械人形が決してこの小さな命を虐げぬと、傷つけぬという約束を。
- 156白の巨人◆alOn9K39HU25/10/01(水) 07:44:59
「ワシは目立ちとうないんじゃよ。表に出てくることもあるが、大手を振って歩けるかというと、そうでもない」
(……死人みたいなもんじゃしな、ワシ)
【首を回し、しかし健康に良くない事を思い出し、医者の不養生だなと思い……今のトルソーは思考が分散している。やはり、どうしても緊張しているのだ。少なくとも、即座に気を許せる相手かと言われると、目の前の存在は違うのだ】
【しかし、故にこうして交流を図る。うだうだしていても仕方がないと、いいかげん腹を括る。心が何時までも離れていては、相手に失礼だ】
「すまんの、気を使わせて。……ワシはトルソー。故有って本名ではないが……それを明かすのは悪いが勘弁しとくれ」
【魚料理に一瞬目を向ける。手をつける前に、まずは名乗った】
- 157アルジーナ◆7H59oAD.0A25/10/01(水) 11:51:23
「構わねぇよ、言えねぇコトの一つや二つ誰にでもあるだろうさ、……ハハ、目立ちたくないのもその言えねぇコト由来か?
益々興味があるなトルソー、それでアングラの医者稼業か」
粗暴、粗雑、けれどもそれでいて勘が良い。
女性としても随分恵まれた体格、長い脚を組み上げて、褪せた色の従業員服を身に着けた店員が店外の仮設席に料理を運び込んで来るのを満足気に見遣れば。
「おい」
ピン、と指が跳ねる、硬貨が数枚卓上を転がって店員の掌へ、チップだ。
油を纏いルビーの様に艶々とした紅い色彩が特徴的な鶏の素揚げ、鉱石を食糧として好む“宝鶏”は魔力を多くその身に含み栄養価豊富な、スラムでは上等な肉だ、付属した甘酢のタレにディップして食べる。
桜色の鱗ごとカラリと揚がった“花曜鯉”にはたっぷりの塩が振ってあり、これもまた、白龍棲窟(バイロゥ=ファミリエ)が管理する養殖池で育てられた。
塩っ辛い肉と魚に合わせるのは、イーストエッジ東側に広がる田畑で育った、恵まれぬ土壌でも逞しく伸びる品種の麦粉を練り焼いた淡白だが甘味のあるパン。
柔らかく伸縮性のある生地を千切って、揚げた肉、魚を包んで、一口で頂く。
「……ん、旨い、酒は呑めるかトルソー?俺は呑むぞ」
甘酢タレの付着した指先をちろりと舐め取りながら。
俄かに肌寒さを増して来た秋風は、食欲を誘う芳しい香りを乗せて漂い。
- 158魔術機械人形ワイス◆2UaSBn1aSE25/10/01(水) 21:58:10
- 159アスティ◆7H59oAD.0A25/10/01(水) 23:39:23
- 160白の巨人◆alOn9K39HU25/10/02(木) 08:14:00
「そうなるかの。あんまり詮索せんでくれ……等というのは愚問か。裏社会に生きているならば」
【魚料理に手をつける。イーストエッジに来るのは、初めてではない。そこで取引される物品の品質は、下手な店より信頼できる。足元を見られないだけの知識と眼を必要とするのが玉に瑕だが】
「む、……旨いな。揚げ物は余り喰わんが、中々いい」
【大きな魚は、トルソーの前ではまるで川魚の塩焼きのように見えて、遠近が少し狂いそうな光景だ。その大きな手で普通の人間用の食器を器用に使い、ゆっくり食べすすめる。しっかり長く噛んで飲み込む。実に緩慢で丁寧な食べ方だが、一口の大きいトルソーはアルジーナと食事を消費していく速度はあまり変わらない】
「……酒か。折角だからワシも呑むか。度数の低い奴で頼む。酔うのは好かん」
【少し気分が解けてきたのか、肩を小さく回したり、白衣の裏を触る事が増えている。恐らく、普段からよくしている癖の様なものなのだろう】
- 161アルジーナ◆7H59oAD.0A25/10/02(木) 10:14:22
「行ったろう、ここに居る連中は何某脛に傷があるか、事情がある、過去の詮索なんて始めたらキリがねぇ。
だから俺が興味があるのは、てめぇが“今”、何を考えて何をしているのかだ。
まぁ、医術の話はてんで分からねぇが────────────」
アルジーナ・聖良・白熕、イーストエッジを支配するマフィアの長は、至極シンプルな道理で生きる。
自分にとって有益か、否か、自分が興味を抱ける存在であるか、否か、それは世の常識や倫理の外。
闇に隠れ潜んで生きる、詮索されたくない過去や所以と確かな腕を持つ巨人族の女医、……今彼女の眼の前に座しているトルソーの佇まいはそのどちらとも可(ごうかく)であった。
食指は動く、捥いだ宝鶏の片足を食み、その骨までも舐り尽くしながら。
・・・・・・・・・・・・・・・
「────────────ッ、くは、はッ、ウチにも一人良い薬師が居るんだ、風変わりな奴だがな。
どうだトルソー、そいつと同じ様にウチで医者として雇ってやったって良いんだぜ、俺の家族になれ、てめぇが秘密にしたい過去を詮索する様な奴ァ、道端に吊るして焼いてやる」
・・・・
スカウト、成程、そうやって白龍棲窟は大きく強くなっていったのだ、一つの共同体(かぞく)として。
妖しく嗤うアルジーナの背後、店内からまたやって来た店員の一人は、深緑色をした大瓶と硝子のコップを二つ、そして新しい水差しを持って来て円卓に置いた。
注がれるのは穀物を原料とした透き通った白酒、ラベルも貼られていない大瓶の風情からは、密造であることは想像に難くないだろう。
自分のものはストレートで、そして、トルソーにやるものには半分程を注いでから水で薄めてやる。
「ここの飯は旨いだろう、皆必死に命懸けで生きてる、命懸けで作られた飯は、……そりゃあ旨いモンさ」
- 162白の巨人◆alOn9K39HU25/10/02(木) 10:51:15
「…………」
【トルソーは目をつむり、考える。……少なくとも、悪くない提案だ。大きなバックが付く事のメリットは計り知れない】
(……まずは、『資金面』。ワシも金には幸い困っていない。先ほどそれなりの金をはたいたが、余裕はある。自慢じゃないが、ワシがその気になれば、明日にも取り戻せる。──しかし、有限である事には違いない。ワシが稼げると言っても、目の前のコヤツはその十数倍以上を一日で稼ぐしゃろう。『手段を選んだ』上で。数年に一つ取れるかどうかの貴重なブツも、余裕を持って手に入れられる)
(──次に『患者』。こんな世界じゃ。傷など息を吸うように喰らうに違いない。ワシの手が、間違いなく求められる場所ではある)
【眉間に手を寄せる。真剣に考える。自分は今、大きな分水嶺に立っている。己のあり方を以て、答えを熟考する】
(──最後に、『安全』。ワシを赤子の手を捻るように殺せる者は、そう少なくもあるまい。それらがワシを狙う可能性は少なくない。ワシはそういう事をしておる自覚がある。──そこに、アルジーナという影があれば?……コヤツは仲間の死を口火に戦争すら仕掛けそうな勢いがある。そんな人物が、『家族』と呼ぶ者。これほど頼りになる『後ろ盾』もあるまい。事実、最初にワシが恐れていたのはそれが大きい)
【トルソーの大きな頭部の中で無数のシワを作る脳はこの時、患者の腹を割っている時と同じ程に、激しく電気信号を巡らせていた】
- 163白の巨人◆alOn9K39HU25/10/02(木) 11:13:25
「……一つ、質問をさせて欲しい」
【ゆっくりと、首を上げる】
「お主に、何よりも殺したい相手が居たとする。理由は何でも構わん。お主の言う『共同体』が傷つけられたか、あるいは組織に大きく仇なす存在か」
「ソヤツをワシが助けようとした時、お主はそれを許せるか?」
「ワシにとって、命に善悪はない。そこに助けるべき相手が居るか。それだけじゃ」
【そう言って、水割りの酒を飲む】
「勿論、見える全てが救えるとは思っておらん。何でもかんでも助けなければならないと、自惚れてもおらん。じゃが、ワシはこの手に届く全ては、助からねばならぬと考えている」
「お主は、ワシのその手が邪魔にならんと、そう言い切ることはできるのか?」
- 164魔術機械人形ワイス◆2UaSBn1aSE25/10/02(木) 13:44:36
- 165アルジーナ◆7H59oAD.0A25/10/02(木) 18:59:09
────────────クカ、と。
空気の破裂する様な掠れた笑い声が零れた、唇を湿らす油分を洗い落とす様に、飲み下した白酒を追って香り立つのは濃厚なアルコール。
機嫌良さそうに片肘を円卓に突いて、アルジーナはトルソーの顔を睨む様に見上げた。
「酔狂な奴だな、ムカつく奴なんざどうなっても良いだろうに。
どうせてめぇが必死に助けても、そういう連中は礼も言わずに何処ぞで勝手に野垂れ死ぬぜ?」
命に貴賤は無しと言うか、それはさぞかし綺麗な響きだ、感動すら覚える美しい価値観だ、されどアルジーナの納得を呼べるような代物ではないし。
そもそも納得してもらえると思って投げかけた問いでも無いのだろう、きっとこれは、互いに横たわる価値観の相違を認識する為のものだ。
だから、嘘はつかない、その場凌ぎも言わない、トルソーをスカウトする為だけに己を曲げることも無い。
・・・・・・・
「答えてやる、例外は認めねぇ、俺は、俺や俺の家族に手ェ出すなら容赦はしねぇし、そこに理由はねぇよ、俺がムカつくからケジメを付ける為にそうする。
てめぇがそのクソ野郎をどうしても助けてぇなら、てめぇの裁量で好きにすりゃあ良い、ただし────────────」
愉悦を表す瞳の表情、試されたのなら、試し返すのがアルジーナの流儀。
ざくり、と、机に並んだ花曜鯉の目玉を叩き潰すフォークの先端が、荒くれの性を垣間見せている。
・・・・・・・ ・・・・・
「────────────上手く用意しろ、言い訳をな、俺が用意出来るのは火薬一つまみ程度の慈悲だけだ」
- 166アスティ◆7H59oAD.0A25/10/02(木) 19:57:51
- 167智輝◆YdECvcB0Yo25/10/02(木) 20:18:43
【1/4】
Ωセントラルの東端――〈イーストエッジ〉
巨大な白龍の庇護下にて、無法の秩序が保たれる街。
昼間から子どもが手持ち花火で遊び、老人が麻雀卓を囲み、露店の店主が明るく笑う…
そんな平和な光景が広がる裏で、卑しい笑い声をたてる集団があった。
うらぶれた路地裏の半地下に置かれた拠点。
煤けた照明が微かに光を落とし、安酒と煙草の臭気が満ちる空間に集まった、十数人の男たち。
話題は、麻薬の流通について――。白龍棲窟(バイロゥ=ファミリエ)のお膝元で、いかに自分たちの利権を拡大するか。
「上の連中は俺たちの動きに注目してる」
「上手くやれば、高級クラブで酒が飲めるぜ」
「ブロンド女も抱けるな!」
ダハハハっ!と大きな合唱が響いた、その時。
――きぃ、と。
扉の軋む音が聞こえた。
メンバーは全員集まっている。誰も来るはずがない。
視線が一斉に集まった先には、長く編まれた白黒の髪を垂らした男が立っていた。
濃い隈の中に落ち窪んだ眼窩から、鋭い眼差しがこちらを睥睨している。
「白龍棲窟(バイロゥ=ファミリエ)だ」
乾いた声が響いた瞬間、彼の両隣から二つの影が滑り込む。
死の気配を纏い、蒼白に濁った眼で一点を見つめる、動く屍――キョンシー。
男と女の姿をした二つの異形に、場の空気は一気に凍りついた。 - 168智輝◆YdECvcB0Yo25/10/02(木) 20:21:15
【2/4】
「っ撃て!」
「哥哥、娘娘。打倒」
誰かの叫びと同時に銃口が火を噴く。
しかし、弾丸が当たるより先に射手の手首が握り潰され、骨の砕ける音と悲鳴が響いた。
次の瞬間、別のキョンシーが背後から襲いかかり、構成員の脚を鉤爪で裂く。
血飛沫が蛍光灯に散り、薄闇を赤黒く染めた。
「化け物がっ、ぎゃっぁ!?」
「ひ、助けっ…!ぎぃっ!?」
逃げ惑う者たちの頭上で、紙の擦れる音が重なる。男が放った符だ。
一瞬淡く発光したかと思えば、そこから雷が奔り、火球が弾け、氷片が降り注ぐ。
無造作に撒かれる属性の嵐は、狙いすましたように次々と構成員を撃ち倒していく。
銃は爆ぜ、退路に走った者は瓦礫に遮られ、這って逃げる者さえ動きを封じられた。
やがて、この半地下に集った者たちは1人残らず半死半生の状態で、一角に集められた。
彼らをキョンシーに囲ませ、男は耳につけたインカムに触れる。
- 169智輝◆YdECvcB0Yo25/10/02(木) 20:24:32
- 170智輝◆YdECvcB0Yo25/10/02(木) 20:28:04
【4/4】
――数分後。
回収班が駆けつけると、半地下は戦闘の痕跡と呻き声で満ちていた。
血に濡れた床を見回しながら、班員の一人が苦笑混じりに呟く。
「また趙さんか……。容赦ねえな」
「そりゃあ、俺たちも一緒だろ。……まあ、あの人の場合は事情が違うか」
彼らは拘束されたまま気絶している構成員たちを運搬し、次々と荷台へ乗せていく。
一方その頃、男は表通りを歩いていた。
酒と香辛料と油煙の匂いが漂う中、彼は足を止めることなく、懐から一枚の人形 (ヒトガタ) を取り出す。
「――首領 (ドン) 。例の薬の売人どもを捉えた。後は任せる」
そう言葉を吹き込んだ人形を飛ばし、男ーー
白龍棲窟(バイロゥ=ファミリエ)幹部 趙 智輝 (ジャオ・ジーフィ) は、雑踏の中に紛れていった。
- 171魔術機械人形ワイス◆2UaSBn1aSE25/10/02(木) 23:31:46
「ああ、お願いされた。面倒だがな……。」
「じゃあな……」
【そう言って】
「あと、俺は別にここに住んでいるわけじゃないぞ」
【そうは言ったものの、その背は既に遠く───】
(まあ物資の回収もまだ完全には住んでおらん、あの仮住まいからも別に遠いという訳でもない。…………まあ近いうちにまた来てやるか……)
- 172白の巨人◆alOn9K39HU25/10/03(金) 08:14:19
「──そうか。……一応言っておくが、ワシは礼を求めてるんじゃない。その気なら今頃、表の世界の病院で慎ましくしておったよ」
【トルソーはただ、眉間を撫でた。少しでも考える時間を延ばす。それだけ、この問題の天秤は、一見して平衡なのだ……それでも、答えをはっきり告げる必要がある。自分から吹っかけたのなら、返しに付き合うのも礼儀というものだ】
「悪いが、お主の下にはくだれん」
【そういって、魚料理にもう一口付けた】
「ワシが特定の組織に属せば、そのままワシの手を縛ることになる。そのために延びる腕の長さを含めても、ワシにはそれは納得できん」
【断っておいて、少し後ろ髪を引かれる。それだけ魅力的だ。素晴らしいプレゼンだった。余計なこと一つ言わず、自分の立ち位置をはっきり示す。下手に譲歩しないその生き方には、その手元に居る事が報酬になるようなカリスマが確かにあった】
「……ワシにできるのは、せめてこの出会いを無碍にせん事だけじゃ。お主の所の医師はさぞ信頼できるのだろうが……もし、ワシの事が頭に過(よぎ)るような事があったら呼べ」
【白衣の中から、連絡先らしき番号の羅列をテーブルに置く】
「いらんなら、燃やして捨ててくれ。ワシらは残念ながら、それまでだったという事になるだけじゃしな。…………」
【もう一口、魚料理を喰らう。たった三口で、半ばを食べ尽くしたトルソーは、水割りの酒を飲む】
「………はぁ。正直お主個人には好感を持てる……が、わかってくれ。ワシは目に見えるものを救えぬのは、辛い」
【思い起こされるのは、犯罪者兄弟の兄。どうしようもない畜生ではあったが、裁きを受ける権利はあった。何か手を尽くせばと、それは未だに脳裏にこびり付く】
- 173アルジーナ◆7H59oAD.0A25/10/03(金) 11:12:54
「見返りもねぇのに人助けが趣味かよ、益々酔狂な奴だ」
トルソーの言い分に耳を傾ける間、アルジーナの片翼はゆらゆらと面白そうにはためいていた。
もう随分と減って来た料理を前にして、白酒を呷り、通りの反対側にある八百屋の店先で蹴球遊びに興じる貧民の子供らの様子をぼんやりと見つめながら。
「勿体ねぇな、こんな場所じゃ医者の手はあってもあっても足りねぇんだが」
そうして、引き下がる時はあっさりと引き下がるものだった、心底残念そうに肩を竦めながら、宝鶏の肉片に過ぎる程のタレを絡めて口に放り込む。
強引で、凶暴で、大らか、それがアルジーナ・聖良・白熕という女の性(スタイル)。
卓上に渡された連絡先の情報を載せられた紙片を、がら空きの懐に仕舞い込み。
「言っとくがな、救えねぇモンはどうやったって救えねぇモンだ、全部拾おうなんざ土台無理な話だぜ」
とん、と頬杖を突いて、巨人よりも遥かに低い視点から、揺らがぬ瞳で見上げ覗いた。
・・・・ ・・・・・・・・
「そういう、救えねぇ、が積み重なった時、……そうなった時に折れちまうンならとんだ期待外れ。
……だからその綺麗ごと、何があっても貫き通せよ、女巨人?」
綺麗ごとと断じても、仲間には出来ぬと悟っても、決して、決して。
その在り方を、否定はしないのだ。
「まぁ、気が変わったらいつでも門を叩け、迎え入れてやる」
- 174白の巨人◆alOn9K39HU25/10/04(土) 08:44:04
「すまぬな。このような場を取って貰っておいて」
【代金をその場に置く。自分の分の料理代は自分で負担する】
「ワシは何時だってけが人を救う。本当にここの手が足りなくなったら、ワシはそれを嗅ぎつけて現れるじゃろうよ。心配するな」
【身体を伸ばし、目の前に指を立てる。自分が酔っていないかの簡易的なチェックだ】
「まぁ、そうだな。──ワシの力でどうにもならない時が来たら、……その時は頭を下げる資格くらいは、許してくれると助かる」
「馳走になった。またな、アルジーナ殿」
【そのまま立ち上がって、アルジーナを置いて立ち去ろうとする。世界を分かった以上は、ここでは暫しの別れだ】
(……ふん、『折れる』か。……そんな事はありえんよ。ワシはとっくに歪に折れ曲がっとるんじゃ。──これ以上、どう形を変えようと大差は無い)
- 175アルジーナ◆7H59oAD.0A25/10/04(土) 09:59:12
遠ざかる巨人の背中に、後ろ髪を引く様な言葉は手向けない、一人きり残された食卓で空になったコップに白酒を注ぐ。
イーストエッジの空には今にも降り出しそうな雨雲がかかり始めていた。
Ωセントラルの都市中心部で整備された計画降雨システムではない、それは、気紛れな自然の産物だ。
「店の中で呑むか」
もう、自分より大きなお客に気を遣う必要は無くなった。
店員を呼びつけ空き皿を下げさせながら、密造酒の濁った瓶を抱えて屋根のある店内へと姿を消す。
日常は変わらない。
- 176スコット◆YdECvcB0Yo25/10/04(土) 16:59:56
【1/4】
ノートン・サイバー・コミッション社 ーー 通称:N.C.C社のオフィス。
完璧に調整された空調と照明の中、等間隔に配置されたホログラム・モニターの前で、社員達は効率的にプログラムを処理していく。
キーボードを叩く音、画面をスワップする音、時折り交わされる事務的な会話以外には、何の音も立たない。
効率と生産性を最大限に引き出すための環境設計ーー まるで工場だ。
人間が仕事をしてるんじゃなく、仕事のために人間が配置されてる感じ。
壁の巨大スクリーンには「NEURON MAP」の稼働状況が映し出され、Ωセントラルの街並みが、リアルタイムで更新され続けている。
ビルが一棟増えれば即座に反映され、道路が一本潰れれば数秒後には赤い線で消される。
…… これを眺めてるうちに「N.Mapはただのアプリじゃなくて、都市の神経系だ」とか、大真面目に言い出すやつもいる。
まあ、それくらい重宝されてるのは確かだ。 - 177スコット◆YdECvcB0Yo25/10/04(土) 17:06:33
【2/4】
(俺にとっちゃ、便利な金蔓でしかないけど……。何かにうち込めるって羨ましいネ)
そんなひとりごとを脳内でこぼしつつ、モニターに走るエラーメッセージを片付け、テストランに緑のチェックを並べる。
欠けたパズルにピースを嵌めなおすような、簡単な作業。これで給料が貰えるんだから、楽でいいや。
「スコット、上がりか。一杯どうだ?」
「さーせん。今日は見たい映画があるんで」
じゃ、と手を振ってオフィスを後にする。ネオンの下を行き交うサラリーマンたちに混ざって改札を抜け、プラットフォームから列車に乗り込む。
俺と同じ、定時帰りの人間たちで車両は程よく埋まっていた。隅の座席に腰を落として、膝上にタブレットを広げる。
[Welcome Wonderland]
用途のわからないポップなアプリを開き、ログインする。
そして展開される、黒いウインドウ画面。
アンダーネットへの入り口だ。
公的な商取引に唾を吐くような、後ろ暗い背景を持つ輩と品が横行する、電子で構成された裏社会。ーー 俺のもう一つの仕事場。
- 178スコット◆YdECvcB0Yo25/10/04(土) 17:17:05
【3/4】
LOAD ORDERS (ロードオーダーズ) ーー
N.C.C社が持つ暗部にして、俺の副業。
絶賛バズり中の電子魔薬 (ドラッグ) Heavens Load の流通、闇オークションの運営、マフィア・ギャングの支配…… ネットを通じて、現実を蝕むフィクサー組織。
仰々しいって? 残念。事実だ。
まあ、本当のフィクサーは社長 (ボス) だけだが…… そこはどうでもいい。
やることも変わらないんだし。
(難易度はこっちの方が上だけどな)
一呼吸して、画面に表示されている魔法陣とコードのパズルに触れる。
符号化された快楽の回路、H.Lの構築UI。
こっちは、本業以上に気を抜けない。
一つ符号を間違えれば、利用者の脳が焼けて、死人が出る。そうなったら注目が集まって、俺はボス直々にクビを飛ばされる。
指を滑らせて線を修正し、負荷軽減のルーチンを追加。魔力転写のログを暗号化して、動作テスト用のシミュレーションを走らせる。
(うし、滑らか)
修正したデータを反映させて、内容を提出ファイルにシュート。
残りの細々した作業 ーオークションの監視、流通システムのログ整理、匿名化ルートの再チェックー を片付ける。
最後にログの差分を突き合わせ、赤いフラグが出ないことを確認して、タブレットをしまい込んだ。
周囲の誰も気づかない、ささやかな終業の合図。
- 179スコット◆YdECvcB0Yo25/10/04(土) 17:25:26
【4/4】
《まもなく、ーー まもなく、ーー . ーー方面のお客様は、お乗り換えです》
車内スピーカーから、アナウンスが流れる。
ちょうど着いたようだ。
顔を上げた先にあったモニターには、今週公開の大作映画のCMが流れていた。
ブレーキがかかり、車体が滑るように減速していく。車窓の外では、ネオンの光が一瞬ずつ区切られ、都市の輪郭が乱反射する。
俺が立ち上がると同時に、周囲の乗客は一斉に出口へ流れていった。ホームに吐き出された人波は、皆同じ方向へと吸い込まれる。
改札を抜けると、歓楽街のざわめきが俺を出迎えた。
飲み屋の香辛料の匂い、巨大テレビジョンから流れる予告編の音、夜風に混じる笑い声。
映画館の明滅する看板を視界が捉えると、心がわずかに浮き足立った。
(それじゃあ、楽しませてもらいますかっと)
チケットを買い、ポップコーンやチュロスの匂いをすり抜けて、シアター室へ入る。
スクリーンにはまだ広告が流れていて、観客にはちらほらおしゃべりをしてる奴もいた。
やがて照明が落ち、場内がすうっと暗くなる。ざわめきは闇に吸い込まれ、心地の良い沈黙が広がる。
大画面に光が走る。
轟音と共に幕が上がり、物語が始まった。
- 180エラ◆YdECvcB0Yo25/10/04(土) 20:11:29
【1/2】
夕暮れのΩセントラル。
オレンジ色の陽射しが高層ビルのガラスに反射し、街路は淡い光と影に包まれている。
様々な理由で家路に着く人々と同じく、エラも帰りを急いでいた。
パラソルを持つ手とは別の腕に抱えられた袋の中身は、卵や野菜など、冷蔵庫から不足していた食材。
夕食の準備まで、もうあまり時間がない。
(今日のメニューはあの子達が好きなハンバーグ… 待たせたらダメね。急がないと)
ーー ドンッ!
その時、死角からぶつかるような衝撃を受けた。
ーー クシャリ
同時に、卵の潰れる音が耳に入る。
ハンバーグのつなぎに欠かせない重要な食材が失われた事実に動揺する暇もなく、ガサついた手がエラの肩を掴んだ。
「おい、なにボーッとしてんだ!俺のジャケットが汚れただろうが、弁償しろ!」
振り返ると、そこには乱れた髪を余計に振り乱し、擦り切れたジャケットを着た、目つきの鋭い男が立っていた。 - 181エラ◆YdECvcB0Yo25/10/04(土) 20:14:00
【2/2】
「……まあ、失礼いたしました。ですがー」
エラは小さく微笑みながら、それとなく男の手が届く範囲から身を離す。
「その汚れ、最初からついていたのではありませんか?」
わざとらしく視線を落とした先は、古びた油染みがいくつもついた、光沢を失ったジャケットの袖口。ちょうど袋に当たった部分だが、新しい汚れは見受けられない。
男の顔が、みるみる赤くなる。
手弱女と読んだ相手の毅然とした態度に、面目を潰されたと感じたのだろう。
「ッ、なに言ってんだテメェ、俺がウソついてるってのか!」
「いいえ。ただ――見たままを申し上げただけですわ」
エラは微笑を崩さぬまま、この場をどう切り抜けようかと思考を回す。
周囲の人々は立ち止まり、数秒見守り、そしてすぐに元の道へ戻っていく。
助けは期待できない。
(……さて、どうしたものかしら)
周囲からの通報を待つーー 却下。時間がかかりすぎる。
魔法を使うーー 却下。人目を引くうえ、間違いなく都市警が出張ってくる。
ーー 目を使うか?
- 182魔術機械人形ワイス◆2UaSBn1aSE25/10/04(土) 22:55:46
- 183エラ◆YdECvcB0Yo25/10/05(日) 00:17:01
低く、全てを押しつぶすような声。
先ほどまで怒鳴り散らしていた男が、言葉を失くして後ずさる。
周囲の通行人たちはざわつき、先まで動かしていた足を止める。
エラさえも、その場に立ち尽くし、思わず袋を抱き直す。心の奥では、何か得体の知れない――しかしどこか懐かしいような“危険信号”を感じていた。
(……これは、ただの人間ーー いいえ、ただの人外じゃないわね)
そんなことを考えているうちに、男は勢いよくその場から逃げ去った。
同時に通行人たちも距離を取り、ざわつきながらも街路を足早に去っていく。
エラはというと、小さく息を整え、袋を持ち直していた。そして、目の前に立つ白髪の巨漢――黄色いレインコートの何某かに礼を告げる。
「……ありがとうございます。助かりましたわ」
声は柔らかく、微笑も崩さない。しかし心の奥では、確かな好奇心が芽生えていた。
紅い瞳、長身、そして圧倒的な存在感ーー 特徴だけなら巨人族にも当て嵌まるが、違う。
見知った存在であるならば、こんな "違和感" は湧いてこない。
- 184魔術機械人形ワイス◆YPIsUgcb9g25/10/05(日) 01:51:02
- 185エラ◆YdECvcB0Yo25/10/05(日) 10:07:44
「待ってくださいな」
エラは、彼が歩き去ろうとした瞬間にそっと声をかけた。
その一声は穏やかだったが、街の喧騒の中に不思議とよく通った。
「貴方がいなければ、私はあの暴漢に乱暴を働かれていたでしょう」
夕陽を反射する紅い双眸を細めながら、エラはゆっくりと歩み寄る。
声色は柔らかく、しかしその眼差しは真っ直ぐに彼を見据えている。
周囲の光景が遠くかすんでいくような、不思議な静けさが二人を包んでいた。
「どうか、お礼をさせてください。……そして、一つだけ、伺ってもよろしいかしら」
わずかに首を傾げ、男を見上げる。
その仕草は決して無礼ではなく、まるで古い舞踏の一幕のように、自然で、優雅だった。
ビルの合間を吹き抜ける風が、エラの黒髪と彼のレインコートの裾を同時に揺らす。
「――貴方、お名前は?」
- 186魔術機械人形ワイス◆2UaSBn1aSE25/10/05(日) 14:38:26
- 187エラ◆YdECvcB0Yo25/10/05(日) 18:31:48
「────ワイス、さん」
告げられた名を、確かめるように口にする。
馴染みはないが、至って普通の人名だ。
けれど、その響きの奥に――古い鉄の味のような、微かな異物感がある。
「良いお名前ですね。響きに、惹かれるものがありますわ」
そう言って柔らかく微笑んだあと、エラは買い物袋を見下ろした。
白と黄の入り混じった液体が、袋の底に染みついて、ぽつぽつと悲しげに地面を濡らしている。
「ああ、困りましたね。あの子達が、今日の夕ご飯を楽しみにしているというのに……」
その声音には嘆きよりも、どこか芝居がかった柔らかさがあった。
まるで独り言のように聞こえるが、耳を傾けてほしい相手が誰なのかは明らかだ。
「これでは、ハンバーグの“つなぎ”が足りませんわ」
そう言って視線を上げる。
紅い瞳が、フードの奥の異なる紅を静かに映す。
「ねえ、ワイスさん。助けていただいた身で、こんなお願いをするのは失礼かもしれませんけど……」
エラは軽く袋を揺らす。
その仕草や声色に押し付けがましさはなく、けれど拒むことを躊躇させる柔らかい重みがあった。
「もしよろしければ、買い物にお付き合いいただけませんか? お礼は、その後……ハンバーグと一緒に相談、ということで」
- 188魔術機械人形ワイス◆2UaSBn1aSE25/10/05(日) 19:58:36
【惹かれる、という言葉を聞いても特には反応しない。”彼”にとっては自身の名前なんてなんでもいいのだろう。】
「…………夕飯か……」
【その言葉を聞き少しの思考】
(飯を貰うのは別にいいが………あまり遅くまで帰らなければヤツに怪しまれるか?せめて明日になる前までには帰って置きたいな……それに今日はいろいろと疲れた…………)
【ワイスが考えるはアラデルのセーフハウスの事、それと今日の昼に飼うことになったホーンラビットの事。今この場にいる理由もホーンラビットの餌を買おうと思っての事だ。そして餌を買うという目的は既に終わらせている、今はその帰りなのだ】
「───いや」…グギュー
【拒みがたい雰囲気を切り裂くように発された一言を妨げたのは、誰でもない彼自身の腹の虫だった。元々捨て子だった彼はハンバーグという物の知識こそ持っている物の食べた事はなかった、だがそれでも無意識のうちにその料理に惹かれていたのか、或いはただの偶然か、その五文字が彼の空腹感を引き出した】
- 189エラ◆YdECvcB0Yo25/10/05(日) 21:25:58
「あら、まあ……」
目の前から低く唸るような音が響き、エラは思わず微笑を深める。
それまで物々しかった巨漢が、まるで子どものような柔らかいオーラを帯びたのだ。
ほんの一瞬だったが、そのギャップに、つい可笑しさが込み上げてしまった。
しかし、エラは彼の直前の葛藤を見逃してはいなかった。
わずかな仕草や喋りの間、首の角度、目線、態度…… それらを繋ぎ合わせて相手の思考や感情を読み解く行為は、彼女の得意とするところだ。
お互いの目にお互いが映っていることがわかる距離なら、尚更。
「失礼しました……。貴方にも、帰らなければいけない場所がおありですのね」
そうなると、一緒に夕食をとることはできないだろう。子どもたちの健康を考えた時間割とはいえ、彼の帰宅はどうしても夜遅くになってしまう。
「なら、お裾分けしますわ。もちろん、きちんとしたお礼はまた後日、別に用意させていただきます」
子どもたちの分と合わせて、さっと一品作るだけなら大した時間はかからない。
それに、エラの帰る家である《あけぼの館》の立地は恵まれていて、近くに駅もある。
少なくとも、遅くなりすぎることはないはずだ。
「ですから……いかがでしょう、ワイトさん。付き添い、お願いできますかしら?」
- 190アルジーナ◆7H59oAD.0A25/10/06(月) 10:13:13
(※次スレを建ててまいります~)
- 191◆7H59oAD.0A25/10/06(月) 10:27:55
- 192魔術機械人形ワイス◆2UaSBn1aSE25/10/06(月) 20:45:06
- 193白の巨人◆alOn9K39HU25/10/07(火) 09:01:50
「……ふぅ、随分と潤沢になったものじゃの。これも、アルジーナ殿の自治の恩恵か」
【隠れ家のような狭苦しい場所。厳重なセキュリティを構築したその場所は、用法を間違えれば劇薬になるような危険な物品がある】
【トルソーは医師としての資格を失っている。よって、これらを持つのは違法である】
「……もし、これらが見つかったなら、……その時はもう向こうに転がり込むこともできなくなる」
【思い起こすは、あの取引。信念を持って跳ねた契約。しかし、やはり惜しい。今になって少しだけ、悔恨が湧いてくる】
(……流石じゃな。こうして、毒のように纏わりつくと言うことは、ワシも余程絆されたらしい。ただの小娘等とは露とも思っとらんが……恐るべき器。本能的に、人を掴む手段を使うことが出来る)
【アルジーナの手腕は、トルソーの心を確かに捕まえていた】
「……最も、ワシとて意地がある。軽蔑されるような生き晒しを仕出かすなら……縋ることなく、潔く潰える。それが啖呵を切ったワシの最低限の礼儀じゃな」
【偽装に偽装を重ねた出入り口。トルソーは外に出ると腕時計を見る】
「……急ぐか。ワシを呼ぶ者が、……ワシが救わねばならぬ者が待っておる」
【白衣の巨人が、路地を静かに歩んでいく】 - 194エラ◆YdECvcB0Yo25/10/08(水) 20:45:58
「……ごめんなさい。……ワイスさん、ですね。覚えましたわ」
静かな訂正を受け、先ほどまでの自信ありげな態度が一変する。
小さく頭を下げ、淑やかに非礼を詫びる横顔にはわずかな気恥ずかしさが滲んでいた。
「では、行きましょうか。ワイスさん」
目を合わせ、もう一度、その名を呼ぶ。
黄昏の光を受けて、黒い髪がゆるやかに揺れた。
ーーーー Ωセントラルの夕暮れは短い。
オレンジから青と紫のあわいに沈んだ街道の坂を登るエラの腕には、シミ一つない買い物袋が下がっていた。
「見えてきましたね。……ワイスさん、あの鐘楼がわかりますかしら」
指をあげて示した先、先、群青に沈みゆく街並みの奥に、それは見えた。
古風な門扉を構え、白壁に覆われた洋館の上、黒鉄の尖塔が一本――その頂に、こうこうと音を響かせる鐘がある。
館の窓からは柔らかな灯りがいくつも漏れていた。ガラス越しに揺らめく光の向こうから、かすかに声が聞こえてくる。
きゃらきゃら きゃらきゃらーー
鈴の音を重ね合わせたような、子どもたちのはしゃぎ声だ。
- 195魔術機械人形ワイス◆2UaSBn1aSE25/10/11(土) 00:42:03
- 196エラ◆YdECvcB0Yo25/10/12(日) 20:03:44
その言葉に、エラはふっと目を細めた
夕陽はすでに沈みきり、街路の灯がぽつり、ぽつりと灯り始めている。
街のざわめきが遠のくにつれ、館の中から響く笑い声が、いっそう鮮やかに耳へと届いた。
「ええ。あの子たちは、私の宝物ですわ」
パラソルを閉じ、エラは門扉の前に立った。
鍵を開ける音が静かに響き、血盟連合の意匠が刻まれた黒鉄の門が、軋むような音を立ててゆっくりと開いていく。
足を踏み入れた瞬間、焼きたてのパンの香ばしい匂いが、ふわりと鼻先をくすぐった。
「さあ、こちらへ」
先導に従って一歩進むたびに、足音が夜気へと溶けていく。周囲の花壇では、月明かりに照らされたマーガレットが白く輝き、棘をなくしたバラが優雅に咲き誇っていた。
その中央を通る道の先で、灯りに照らされた黒鉄の表札が目に留まる。
そこには、優美な筆致で《児童養護施設 あけぼの館》と刻まれていた。
「どうぞ、お入りください」
歓迎の言葉とともに、扉が開かれる。
温かな空気。
木の床を伝うぬくもり。
壁には柔らかな照明が灯り、香ばしいパンと甘いミルクの香りが鼻をくすぐる。
「《あけぼの館》へ、ようこそ。ワイスさん」
エラが振り向き、微笑む。
その微笑はどこまでも穏やかで、我が子を迎える母親にも似ていた。