- 1二次元好きの匿名さん22/04/23(土) 23:34:48
- 2二次元好きの匿名さん22/04/23(土) 23:36:09
- 3二次元好きの匿名さん22/04/23(土) 23:39:43
- 4二次元好きの匿名さん22/04/23(土) 23:42:39
わかりにくいと思うから例として出すと、穂刈の宇宙人と会った話が実は近界民だったみたいな話
倒置法になったのは英語圏の言語をインストールした近界民だったから、とか - 5二次元好きの匿名さん22/04/23(土) 23:43:06
悍ましいなそれ
- 6二次元好きの匿名さん22/04/23(土) 23:49:06
ボーダーの記憶封印措置はトリオンに干渉する技術なんだけど、悪用すれば存在しない記憶を植え付けることが出来る
あれだけ人が攫われて居るのにこれといって大きな反ボーダーの団体がないのは、根付さんが有能なだけじゃなくて、実は… - 7二次元好きの匿名さん22/04/23(土) 23:50:55
記憶を消しても消しても戻ってくるペンチメガネ?
- 8二次元好きの匿名さん22/04/23(土) 23:52:45
道端で急に「ぼんち揚食う?」って声かけてくる男の都市伝説
- 9二次元好きの匿名さん22/04/23(土) 23:52:52
迅さんがメガネ君に親しげなのは何回目かの邂逅だったから?
- 10二次元好きの匿名さん22/04/23(土) 23:54:10
- 11二次元好きの匿名さん22/04/23(土) 23:58:09
妖精さんかな?
- 12二次元好きの匿名さん22/04/24(日) 00:15:30
三門市内バスの怪談
その日俺は墓参りから帰る途中だった。
四年前の侵攻で何となく人気のない道になってしまった通りを15分程通らないといけなくて、街灯もちらほらとしかついていない気味の悪い道だが、先祖の墓の場所を変えるわけにもいかないので仕方ない。
バスには先客で子供が1人乗っていた。
子供は小学生くらいで、奥の席の窓際にぽつんと座って外を見ていた。
この辺りにはそれこそ墓しかないのに子供が一人で何を?と不思議に思ったが、自分や、自分の周りにも家族を亡くした人達は大勢いたので、そんな事もあるかと思ってそのまま運転席に近いところに腰掛けた。
バスが10分程走った時、街にサイレンが鳴った。
近界民だ。
俺は慌てて辺りを見回した。弟を近界民に殺されてからあの黒い穴を見るたびに憎しみと恐怖が湧き上がってくる。
弟はまだ小学生だった、そう、このバスに乗ったあの子供くらいの…
そう思ってバスの後部座席を振り返った。
「え?」
子供がいない。
「あれ?嘘だろ?運転手さん!」
「どうしたんです?大丈夫ですよ、ここはボーダー本部が近いから…近界民は現れやすいけどみんなボーダーがどうにかしてくれます」
バスの運転手は慣れているらしく呑気だがそれどころではない。
「子供が居なくなりました!さっき乗ってた小さい子が!まさか近界民に…」
「え?」
運転手は怪訝そうに言った。
「子供なんて乗せてませんよ」 - 13二次元好きの匿名さん22/04/24(日) 00:18:00
- 14二次元好きの匿名さん22/04/24(日) 00:21:15
- 15二次元好きの匿名さん22/04/24(日) 00:36:10
即興になるけど思いついたら書いてゆくので良かったら見てくれ
あとこういうの嫌いじゃない人良かったら書き込んで欲しい - 16二次元好きの匿名さん22/04/24(日) 01:13:19
おとうさん
左目の包帯を撫でながら摩子は遺影を見つめている。
医者が言うにはこの潰れた左目が光を宿す事はもう無いそうだ。でも命が助かってよかった。助かって良かった、摩子だけでも。父の言葉を摩子は受け入れることが出来なかった。
光を失ったからではない。別の命と引きかえに生き残ってしまったからだ。
母は泣いていた。亡くなったのは母の父であり、摩子の祖父だった。祖父は摩子を助けて死んだ。
祖父は楽しい人だった。陽気な黒い目をくるくるさせて面白おかしく物語を話してくれる。摩子は子供の頃から怖い話や不思議な話が好きで、それを摩子に話して聞かせるのはいつも祖父だった。妖怪の話、幽霊の話、SFの話、それらを全部摩子は祖父から聞いた。
両親はあまり良い顔をしなかったが、仕事で家に居ない両親の代わりに摩子と遊んでくれる祖父と内緒話をのように話す怪談は摩子にとっては読み聞かせの昔話の絵本と同じだった。
ある時摩子は聞いた。
「おじいちゃんは幽霊を見たことないんだよね?見たことないのになんで本当にいるって思うの?」
祖父は少し困って答えた。
「おばあちゃんがそこに居たらいいなって思うからだよ」
祖母は摩子が生まれる前に事故で死んだとあとになって母から聞いた。
数週間経った頃、摩子の包帯をとる時が来た。
眼球は深く傷ついており使い物にならないが、義眼を入れるのは顔の傷が治ってからになると聞いた。
「残った眼球も光は感じるので最初は眩しいかも知れませんが手術までに徐々に慣らしていきましょう」
医者が言って鏡を持ってきたので受け取る。
全然見えないか、もしくは傷で歪んでいるのかと思っていたのに案外普通に見えるんだな、と鏡を覗き込んでハッとした。
医者の焦って騒ぐ声が遠くて聞こえる。
摩子の左目にきれいな眼球が入っている。
黒い目だ。陽気にきらきらした目が。
母が此方を見ている。
摩子の左目を、……祖父の黒い目を。
「おとうさん」 - 17二次元好きの匿名さん22/04/24(日) 01:17:11
- 18二次元好きの匿名さん22/04/24(日) 01:48:44
カゲは何もない場所を眺めることがある
大抵それはチラ見して終わったり、日々の生活の視線の移り変わりに紛れて一瞬で過ぎ去る程度の誰も気づかないものだけど、たまに一点を注視して動かないことがある
けれど、しばらく見続けているだけで特に何が起きるということもなく、時間が経つと見るのをやめてしまうので誰にも問題視されていない
………これはそれよりも稀にある話なのだが、カゲは本当にたまに「そこだけは何があっても見ない」ということがある
日常生活を送っていれば、空間の全体における一部を数秒間見つめる、ということがなくとも一瞬だけでも視界に映ることはあるはずだ
しかしこの時のカゲは、どんなことがあってもその特定の場所を目に入れようとしない
そう、絶対に何があっても、見ようとしない - 19二次元好きの匿名さん22/04/24(日) 02:14:43
存在しない兄
千佳のことを思うと胸が痛む。
千佳はおかしくなってしまった。友人が近界民に攫われて原因は自分だと思い込み自らを責め続けるうちに徐々に。だんだん変な話をするようになった。
最初は遠征艇に乗ると約束をしたという話。
次にレプリカというトリオン兵の話。
その次はA級4位の二宮隊長にまで、鳩原という知らない狙撃手の話。
最後に僕に「雨取麟児」という兄の話をした。
僕はその人を麟児さんと呼び、家庭教師をしてもらっていたという。雨取麟児は僕に近界への密航を告げた後鳩原と共に姿を消したらしい。
それは嘘だ。僕に家庭教師はいなかったし、千佳に麟児なんて名前の兄は居ない。二宮隊はずっとA級にいるし、二宮さんは理性的な怖い人だ。
ありもしない話をして、僕達玉狛第二や二宮隊を遠征に駆り出そうとしている。
「千佳、どうしちゃったんだ?本当におかしい。前はあんなに危ない事を言うやつじゃなかったのに。」
玉狛第二の隊長である迅さんを待ちながら本部の休憩室で空閑に話しかける。
「うーん。このところ負けが込んでいるからなのかな」
「迅さんと空閑のエース2人を前衛に僕のスパイダーと千佳の砲撃でサポートする戦法、悪くないと思うけどな。千佳もちゃんと人を撃てているし」
「さてなあ。おれも最近動きが悪くなってきたし、そろそろ時間切れかも知れない。それを気にしているのかもな」
「空閑のことは残念だけど、最後までランク戦楽しもうって決めたのにな」
「そうだな。おれもみんなと最後まで楽しく遊びたいよ。千佳が元気になればいいな……。でも」
「?どうした?」
「ああ、いや……おれのSEもどんどん弱くなってきたし、確かかどうかはわからないんだが」
空閑は出会った頃より少し影の薄くなったような顔で呟いた。
あの話をする時の千佳の口から黒い靄は出ていないんだよな。 - 20二次元好きの匿名さん22/04/24(日) 02:18:18
見えない何かの感情も刺さっとるんかな
- 21二次元好きの匿名さん22/04/24(日) 02:22:42
なにか見えてる?系だとイコさんが本編でそれそのものなんだけど、ホラー系ということは俺たちが地縛霊⋯⋯ってこと⋯⋯?
- 22二次元好きの匿名さん22/04/24(日) 02:24:05
おかしくなったのはチカじゃなく…
- 23二次元好きの匿名さん22/04/24(日) 02:26:04
その日の私は少しぼやっとしていました、パート帰りでちょっと疲れていたんです。
足元がおぼつかなかったのか、コンビニ前の横断歩道の手前で少しふらついてしまったんです、何につまずいた訳でもないのに。
瞬間、右からふわっと長い腕が伸びてきて「大丈夫か、ふらついていたようだが」。
振り返ると背の高い男子高校生がいました。気配が感じられなかったせいか、少しビックリしてしまい何も返せずにいました…私がぼやっとしていて気づかなかったのかもしれませんが。
「暑くなってきたからな、最近は。オススメするぞ、鶏肉を中心としてたんぱく質を摂ることを。あとはそうだな、適度な筋トレも良いと思う、無理のない程度にだが」
何だか少し変わった喋り方をする子でした、ふらついた私を心配してのアドバイスなのでしょうか。
「あとこの辺では…気をつけるんだ、未確認飛行物体にも。」
「未確認飛行…それって近界の門とはちが…あれ?」
男子高校生はいなくなっていました、いつの間にか音もなく。
未確認飛行物体、つまりUFOを信じるかどうかは近界民からの驚異と隣合わせの三門市民としては些末な事ですのであまり気にしせず日々を過ごしていたのですが、ある日子どもや友人からの指摘で気づいたのです。
「ママ(あなた)、ちょっと喋り方変じゃない?」
……私も同じような喋り方になっていたのです、
いつの間にか…男子高校生のように、あの時の。
少し不思議だなと思った出来事です、特に日常生活には支障はないんですけどね。 - 24二次元好きの匿名さん22/04/24(日) 02:29:51
- 25二次元好きの匿名さん22/04/24(日) 02:33:23
あの人、よくどっか見よるんですよ。
部屋の隅やったり、空の方やったり、いずれにしても共通点は"そこには誰もおらん"ってことでして。
ある日、とうとうその何もおらへん場所に話しかけよったんです。
その人、ボケんの好きやから、またいっつものボケやー思てね、俺、「誰に話しかけてるんですか?」って軽いツッコミとして、聞いたんですよ。
その人、俺には何も答えずにじいっと誰もおらへん方見たまんま、「なんや、お前にも見えへんのか」言うてね。
その会話はそこで終わったし、それから祟りがあったーいう訳でもないんですけど。
四年前にはたくさんの人死にが出た場所でもあるし、なんや不気味でしゃーないんですよね。
あの人には何が見えてはんねやろ⋯⋯。 - 26二次元好きの匿名さん22/04/24(日) 02:51:27
こういう感じの好きだ…読むの楽しみ
- 27二次元好きの匿名さん22/04/24(日) 02:57:53
起きられない
今の作ってくれた朝食の香りで目が覚めた。この日は塩鮭と大根の味噌汁だった。普通盛りでは物足りなかったから今度はご飯を大盛りにしてもらおう。太一が寝ぼけてひっくり返ったような音が隣室から聞こえて、今の叱る声と来馬先輩の心配したような声が聞こえた。オレは着替えて太一の支度を手伝いにいくんだ。今日は体育があると昨日太一が言っていたので体操着を忘れていないか確かめてやらなくてはいけない。そうだ、結局忘れてオレのクラスに借りに来たんだ。別に貸してやったって良いんだけど。頼りにされるのはむず痒いし嬉しい。でも今に見つかって叱られていたから次は叱られないようにしてやらないと。大丈夫だ太一、一度寝たからオレがしっかり覚えていてやるから。来馬先輩はこの日何をしていたんだっけ。いつもみたいに優しい顔でおはようと言って、鈴鳴から大学にいってそこでサイレンが鳴って
「村上はまだ目覚めないのか」
「トリオン反応計測中。ずっと記憶を反芻している」
「来馬•別役•今隊員3名の遺体を見たのか」
「その後気を失ってしまったのでSEが自動的に記憶の定着に入り、本人がそれを拒否しているから目覚めないんだろう」
「一度目を覚まして貰わんと記憶封印措置も出来ん。村上には悪いが、大事な戦力だ。ただでさえ隊員が減ったのにこれ以上眠らせておくわけには…」 - 28二次元好きの匿名さん22/04/24(日) 08:57:41
- 29二次元好きの匿名さん22/04/24(日) 09:14:57
- 30二次元好きの匿名さん22/04/24(日) 10:00:02
ちらほら書き込まれていて嬉しい
- 31二次元好きの匿名さん22/04/24(日) 10:02:00
夜中に書き込み途中でうっかり操作で消えたのでスレが落ちてなければ後でまた書く
- 32二次元好きの匿名さん22/04/24(日) 10:20:18
【防衛任務終了後】
自分が殺した者たちへの呵責は感じないのか、だと?
そうだな……エリン家に拾われ兵役を始めたすぐの頃はたとえ敵兵を攻撃しなくとも戦場に出て戦っただけで眠れない夜も多く存在した。オレが手にかけた者たちの聞こえるはずのない恨みが聞こえることも少なくなかった。
しかし今のオレはエリン家に絶対の忠誠を誓う身だ。どれだけ人を殺そうとも、どれだけ屍を踏みしめようとも、主のためならば必ず任務を遂行する。今はもう、そのような声すら聞こえない。………ただ………もしかしたら、オレはお前たちと戦うのなら、多少は良心の呵責を覚えるのかもしれないな。それは認めよう。
………なんだ、そこでじっと恨みがましく聞いていたのか。この三門市に侵攻したオレのことがそんなに許せないか。玉狛に参入している事実に微塵も納得できないのか?今にもオレのことを殺しそうな顔だ。
ひとつ言っておくが、オレは主のためならば、主に恥じないためならばどんなことも厭わない。だから、この選択も間違っていないとオレは信じる。お前が入り込む余地はない。第一次大規模侵攻とやらで手酷い目に遭ったのだろうが、それらはオレには関係ない。
だから去れ。そんな目で見ても、オレはお前に何をくれてやる気もないし何をしてやる気もない。そして何を奪わせる気もない。 - 33二次元好きの匿名さん22/04/24(日) 11:40:31
本当は毎回激うまチャーハンを作れるんだけど2割の方を食べさせることによって堤さんに起こる良い事悪い事の調整をして死亡フラグを折っている加古さん
だんだん堤さんが加古さんの2割チャーハンに慣れてきて加古チャーをご褒美と捉える様になり調整が上手くいかなくなり… - 34二次元好きの匿名さん22/04/24(日) 12:51:59
ブチ(1/2)
侵攻後に街ごと放棄された生家に帰る為ボーダーに手続きに行った。窓口の隊員はまだ若いのに人間の出来た青年で、ではぼくが随行しますから都合の良い日をおっしゃってくださいとにこやかに対応してくれた。
今回の帰宅の目的は置いてきた荷物の回収だ。
長かった仮設住宅暮らしからこの春漸く解放され新居に移る。三門からは少し離れたところに土地を買い新築を建てた。三門は思い出の多い街だ。良い思い出も悪い思い出も、持って行けるものは持ってゆきたい。
子供の頃犬を飼っていた。
いつも散歩に使っていた馴染みの道は壊れて穴だらけになったまま放置されていたので遠回りしてゆく。車はボーダーから借りた軽トラだ。荷物を運ぶなら、と用意してくれたがこの支部には運転できる正隊員がいないとの事で自分で運転している。
大半が車の免許もないような、子供と呼べる年齢の隊員達に守ってもらい自分達は生きているのだ。三門は歪んでいる。
生家は外壁があちこち壊れて、庭には雑草が生えてはいたがまだ建っていた。
あの日、自分はまだぎりぎり学生で人生最後の長い休みを謳歌していた。両親の出かけた家で1人惰眠を貪っていたところ、ふと、ブチの声が聞こえた気がして目を覚ました。
ブチは自分が拾ってきた野良犬で、自分が子供の時からすでに老犬だったのであの日より何年も前に死んでしまっていたのだが、そのブチの声が聞こえたのだ。胸騒ぎがして両親に電話をしたが繋がらない。そうこうしているうちに、空に穴が開いて、近界民の侵攻があった。
自分はかろうじて避難することが出来た。
「ああ、あったあった」探していたアルバムを見つけて開く。「あ、犬ですね」ボーダー隊員が気づいて声をかけてきた。埃を被ってはいるがブチと共に撮ってもらった写真だ。「お前も連れて行ってやらないとな」 - 35二次元好きの匿名さん22/04/24(日) 12:52:35
ブチ(2/2)
荷物をあらかた積み終え、帰る途中の車内でなぜかすぐ近くから犬の声がしたような気がした。まるであの日みたいに。青年は気づいていないようだ。「ねえ、きみ、今……」話しかけようとした直後、サイレンが鳴った。
「近いですね」それまで線の細いおとなしい印象だった青年が瞬時に兵隊の顔になる。
「このルートですと支部までの帰り道は安全ですのでこのまま行ってください。ぼくは直接現場に向かいます。最後までご一緒出来ずすみません」「あ、いえ!どうも世話になってしまって…」ボーダーが人手不足なことは広報で知っているので大人しく見送った。
三門のサイレンともこれでお別れなので感慨深くもある。既に新居に移っている両親に土産話として持ち帰るくらいしか出来ないが。
あの日両親は地下に居て、俺からの電話に気付いたが電波が悪いからと通話のために外に出て、そこで辛うじて生き埋めを免れた。
ブチは自分達をとても好きで、いつもついて歩いてくれていた。優しい犬だったのだ。あの日も助けてくれたのだと思っている。墓は生家の庭にある。ずっと参っていなかった。
犬といえば先程の隊員が去り際に奇妙な事を言っていたような。
「助手席があきますのでわんちゃんは荷台よりこっちに乗せてあげてください。では」
- 36二次元好きの匿名さん22/04/24(日) 14:38:29
玉狛支部の幽霊(1/2)
幽霊ィ!?やめてよね!こわいじゃない!こなみ先輩がげえっとでも言いそうな顔で叫んだ。川の上って集まるらしいですよ。とりまる先輩が横から口を出す。くだらん、幽霊なんて居ない。何かを見間違えたんじゃないか。レイジさんが続ける。遊真も元々幽霊を信じている訳ではないのだが流石に認めないわけにはいかない。昨晩見てしまったのだ、いつもの様に長い夜を過ごす為玉狛支部内を散策中、半透明の人間を。
幽霊は成人男性で随分と背が高いようだったが(とりまる先輩くらいあった)痩せているので大きいというより細長いといった印象を受ける。学者や教師のようなアカデミックな雰囲気で、支部の書類を整頓したり本を読んだりトリガーを興味深げに眺めたりして、ときおりにこにこ楽しそうに笑っているようだ。
幽霊というのはこの世に恨みや未練を残して死んだ人間の魂ではなかっただろうか、この幽霊からは全くそのようなイメージは湧かない。
幽霊は朝までそうして過ごした後、何故かオサムの部屋の前まで行き、ドアをすうっと通って消えた。
「なんともないか?オサム」
「えっ?大丈夫だけど……?」
「そうか、なら良いか」
「な、何がだ?」 - 37二次元好きの匿名さん22/04/24(日) 14:39:46
玉狛支部の幽霊(2/2)
その日の夜もまた彼は居た。遊真は例によって暇だったので、幽霊をしげしげと観察して過ごしていた。
「ふむ。死んだ人間は足が無いと聞いたがどうやら間違いだったようですな」
幽霊?は全身透けて居るものの、伸びた長い足の先まできちんと見えていて遊真は思わず口に出してしまった。すると目の前の幽霊が今気付いたというような顔でこちらを見た。
「こんばんは」
気づかれたなら仕方がないと、遊真は挨拶をした。
『こんばんは』
音は音として聞こえなかったが口の動きから彼が挨拶を返したことがわかった。なんと会話まで出来るとは。ますます平和的な幽霊のようだ。幽霊は不思議そうな顔でパクパクと口を動かした。『君は誰だ?』と言われたような気がしたので、遊真は名乗ることにした。
「空閑遊真ですよろしく」
『空閑?』
それまでゆったりとした雰囲気だった幽霊は名前を聞いた途端急に距離を詰めてきた。足音がしない人間の接近は気味が悪く、流石の遊真も少し身を引いたが、幽霊は構わず遊真の顔を覗き込む。玉狛支部の壁が透けて見える顔を間近で見て、遊真がある違和感に気づいたところだった。
「遊真、どうした?こんなところで電気もつけないで」パチンと部屋の明かりがついて、林藤支部長が顔を出した。
幽霊は気付けば姿を消してしまっていた。
「支部長、昔この支部の隊員で、亡くなった人の中にこんな人はいなかったか?背が高くて、黒髪で前髪分けてて人懐っこい感じに笑う…頭が良さそうな大人の男の人」次の日の朝、遊真は林藤支部長に尋ねた。
「なんでそんな事を聞くんだ?いや、……死んだ奴の中にそんな感じのは居ないな」
「ふむ?なら、おれの勘違いみたいだ。ぶしつけな事を聞いて申し訳ない」
「いえいえ」
丁寧に謝罪されてお辞儀までされては林藤としても流す他ない。
空閑の名前に反応していた様子から、遊真は幽霊が父の知り合いなのでは無いかと考えた。幽霊に感じた違和感、あの顔をどこかで見たと思ったのだ。支部のメンバーだったのなら支部を散策中に何かで見かけたのかも知れないと。だが、林藤支部長に心当たりがないのであれば違ったようだ。
遊真が出て行った部屋で1人林藤は呟いた。
「生きてるけどもう居ない人になら心当たりがあるけどなあ」
- 38二次元好きの匿名さん22/04/24(日) 14:54:06
解説が欲しい…
- 39二次元好きの匿名さん22/04/24(日) 15:00:25
- 40二次元好きの匿名さん22/04/24(日) 15:06:55
- 41二次元好きの匿名さん22/04/24(日) 15:15:17
- 42二次元好きの匿名さん22/04/24(日) 17:51:21
このレスは削除されています
- 43二次元好きの匿名さん22/04/24(日) 17:57:04
県外の大学を出て教職を取った僕は、実家のある三門に戻って先生としての第一歩を踏み出すことになった。
少し変わったこの街の学校には、どのクラスにもだいたい何人かボーダー隊員が在籍している。僕が受け持つクラスも例外ではなかったが、皆特に見た目にも態度にも変わった所は見られないし問題を起こすわけでもない、隊員でない同級生と何ら変わりない普通の生徒たちだ。
ある日の終業後、下駄箱付近で受け持ちクラスの隊員の男子生徒に突然話しかけられた。
「先生寝不足なの?」
「…え?そう見えるか。」
確かに環境が変わったばかりで最近眠りが浅く、肩もこっているような気が
「あと肩の辺?何か変な音聞こえるし」
「!…そうか?」
「……心臓すごいバクバクいってるみたいだけど大丈夫?」
……僕は思い出していた、数年前の大規模侵攻で失った当時の彼女のこと、その悲しみから逃げるように県外へ進学したこと、三門に戻ってからもまだ墓参りにすら行けていないこと……
僕の心臓は生徒にも聞こえるほど早鐘を打っているのか、どれだけ動揺しているんだ。生徒にこれ以上心配させるのはマズイと思って半ば無理やり話を切り上げた。
「そうか?何ともないぞ、でも心配してくれてありがとう」
「……別に心配してるわけじゃ、」
そう言って彼は少し長い髪を耳にかけながら靴を履き替え帰って行った。
次の休日には彼女の墓参りに行こう。決して君を忘れていたわけじゃない、逃げていたわけじゃないと。君と、君を失った事実を受け止めきれなかった当時の僕にさよならをするために。 - 44二次元好きの匿名さん22/04/24(日) 20:23:22
保守
- 45二次元好きの匿名さん22/04/24(日) 20:31:16
トリオンに人間の記憶が定着するのは研究機関においてはよく知られた話だが、敵国から奪還した宿主の死んだトリオンキューブを親元に返す時、その定着した記憶をたよりにする事は一般にあまり知られてはいない。記憶を暴き見る時、一緒に見えてしまうからだ。その者の断末魔の叫びまでもが。
- 46二次元好きの匿名さん22/04/24(日) 22:22:44
空閑「かげうら先輩が一番嫌いな感情って何?」
村上「やっぱり恨みか。それとも嫉妬か?」
影浦「アァ?そんなこと聞いてどーすんだ」
空閑「きょーみあるだけ」
影浦「……教えてやるよ。まだ小学生のガキのとき、親に連れられてどっかの田舎に行ったときだ」
村上「田舎?」
影浦「親戚の俺を見る目がウザくて、てきとーに抜け出してな。裏にあった山の方に一人で行った。そしたらよ、見つけちまったんだ」
空閑「見つけた……何を?」
影浦「井戸だ」
村上「井戸?田舎なら別に不思議でもなくないか」
影浦「……俺も最初はそう思った。でも、かなりのあいだ使われた痕跡はねーし、なにより蓋がしてあった。開けられないように釘まで打ってやがった。そして何より――」
影浦「井戸を見た瞬間、赤くなるまで熱した鋼鉄の棒を体にぶっ刺されるような感覚に襲われた」
影浦「気持ちわりーってレベルじゃねえ。激痛とも違う。でも、中からえぐられるクソみたいな感覚が肌から離れねえ」
影浦「その場で吐きかけたのをこらえて、すぐに逃げ出したが……家に帰るまで違和感が続いてクソうぜえし最悪だったぜ」
村上「そ、そうか……そんなことがあったんだな」
空閑「かげうら先輩、めずらしく嘘ついたね」
村上「えっ?」
影浦「嘘は言ってねえぞ、チビ」
空閑「うん、だから分かった。見たんでしょ、井戸の中。井戸を見てすぐに逃げ出したなら、蓋に釘がしてあったなんて分かんないだろうし」
村上「おい、カゲ」
影浦「――忘れろ」
空閑・村上「……!?
影浦「いいか、今聞いたこと全部だ。アレはトリガーでどーこーできるもんじゃねえ。関わらねえことが、一番、マシだ」
空閑・村上「……了解」 - 47二次元好きの匿名さん22/04/24(日) 23:51:53
- 48二次元好きの匿名さん22/04/25(月) 00:05:52
- 49二次元好きの匿名さん22/04/25(月) 00:25:03
- 50二次元好きの匿名さん22/04/25(月) 00:55:22
- 51二次元好きの匿名さん22/04/25(月) 01:13:04
事実:犬の幽霊が生家の庭の墓からついてきた
主人公視点:犬の思い出を持ち帰ってきた
隊員(来馬)視点:主人公が写真を見つけた時点で犬の姿が見えているし、この犬が実在していると思っている
また主人公の「連れ帰ってやらなきゃな」の台詞が犬に掛かると思っているので、主人公が犬を連れ帰っている=犬が荷台に乗ってる=軽トラの荷台から犬の声がするのは当たり前=気にしてない=主人公からすると隊員には声が聞こえてないように見える
オチはその実在してると思ってる犬を荷台に乗せておくと犬にとって危ないので、自分が降りる事で空く助手席に乗せてあげて下さいねって言ってる
これで伝わるでしょうか
描写不足で申し訳ないです
読んでくれてありがとうございます
- 52二次元好きの匿名さん22/04/25(月) 02:29:22
- 53二次元好きの匿名さん22/04/25(月) 04:14:41
隊員の体調を気にすんのも隊長の役目のひとつ、ってもんだろ?まぁバカやんのは良いんだよ、防衛任務に穴開けなきゃな。だけど二度目になるとさすがに釘刺しといた方がいいかと思ってよ。
「わちゃわちゃやんのはいーけどお前、ちゃんと任務とランク戦の予定わかってんだろーな?」
「わかってますよ、心配かけてすんません。それに意外といけるんですよ、加古ちゃんの炒飯。どうです?今度は諏訪さんも」
「死にそうなツラで帰って来るお前の顔見て誰が食いたいって思うんだよ…」
生来のギャンブラーだぜこいつは…そんくらいに思ってた。
本部の食堂で遅めの昼飯を食ってる時だった。
「あ、諏訪さん。お久しぶりっす」
「おー。つーか珍しいな本部にいるの」
「実力派エリートは引っ張りだこなもんで」
ぼんち揚をぼりぼりと食べながら俺の皿を見て迅が言う。
「炒飯好きなんすか?」
「今日は何となく炒飯の気分だったっつーか…そういやこないだ堤がよぉ」
俺は先日の加古の炒飯事件をかいつまんで話した。
「…まだ未確定な部分も多いし断定できない状態だけど…やっぱ諏訪さんには知っといてほしいから言っときますね」
個人戦の約束があるんでと去って行った迅の背中を見ながら溜息をつく。
迅の予知で堤が死ぬ未来を加古の創作炒飯によって回避しているという一見馬鹿げているとも思える情報、そして堤は最近何故か「ハズレ」を嬉々として食べたがるらしいこと。予知以外の時に「ハズレ」を食べると安全だったはずの未来が変わる可能性があるため、迅が警告しない限りは創作炒飯を堤には食べさせないこと。何故「ハズレ」を食べたがるのか分からないのでトリオン器官に何らかの問題があるかもしれないこと、それを今雷蔵たちエンジニアが調べてくれていること。
「…ハァ…事実は小説より奇なりって言うけどよぉ…」
まだ半分残っている皿に視線を戻しながらついつい独り言が口をついて出た。
「面白い小説見つけたんすか?」
「ぅお?!居たのか」
「独り言がでかいですよ諏訪さん。それより諏訪さんも炒飯好きなんじゃないですか。加古ちゃんにお願いして作ってもらいましょうよ、クセになるうまさなんですよ」
いつもより饒舌に、心なしかうっすらと開眼しながらそう言う堤を見て、俺はスマホで雷蔵の番号を呼び出した。
(>>33さんのネタをお借りしましたが、うまくまとめられませんでした…)
- 54二次元好きの匿名さん22/04/25(月) 06:44:24
保守
- 55二次元好きの匿名さん22/04/25(月) 14:52:52
保守
- 56二次元好きの匿名さん22/04/25(月) 19:59:33
「…どうもありがとうございました。では何かありましたらこちらにご連絡を」
「こちらこそよろしくお願いします。…あれ、電話番号はないんです?」
こちらが渡した名刺の小さな文字を見ながら、新たなスポンサーとなりそうなこの会社の担当者は言った。
設立当時にはあったのだが、ボーダーには直通の電話番号がない。正確には公表されていない。
市民からのお問い合わせ(という名のクレームもあるが)などはウェブサイトのフォームで一括管理しているため、現在パンフレットやポスターに記載されている電話番号は隊員募集専用のものである。これは外部の業者に委託されており、「近界からの音声通話を通してのスパイ活動や攻撃を未然に防ぐため」とされている。
人間と近界民のトリオン反応が識別できるシステムは確立しているため前述の理由は表向きの方便なのだが。
大規模侵攻後しばらく経って組織運営も落ち着いてきた頃、不明瞭な声の電話や無言電話が続いた時期があった。嫌がらせやいたずらの類いかと思っていたのだが、どうやら違ったらしい。ある日電話に応対したオペレーターが涙ながらに「繰り返し在籍隊員の名前を呼びながら『あの子に代わって』『あの子に会いたい』って…どちらさまでしょうかと聞き直したんです、それが…」
電話口で繰り返し呼ばれていたという在籍隊員の親族の名だった。その親族は、大規模侵攻で亡くなったと当の隊員から聞いていた。
それから似たような事例が続き、対応していたオペレーター達が不気味がって業務に支障をきたす程になったので、ボーダー直通の電話は2年ほど前に廃止されたのだった。
「私の携帯電話の番号、裏面のウェブサイトのアドレスの下にありますんで、御用の際はこちらに」
携帯電話だけだと外務・営業担当としては煩わしいだろうって?いやいや、組織が把握できていない繋がりもこの端末ひとつに収められていると思えば便利なものでしょう…? - 57二次元好きの匿名さん22/04/25(月) 21:21:12
このスレ好き
みんな文章が上手いしほんのり怖かったり不気味だったりで良い - 58二次元好きの匿名さん22/04/25(月) 22:46:37
霊感のある佐鳥くん その1
白鳥「佐鳥って霊見えるってマジ?」
似鳥「オレそれ知ってる!」
佐鳥「ちょっ!それどこ情報!?確かに見えるけどさ~」
白鳥「この間とっきーから聞いた」
似鳥「昔から時々誰もいないところに向かって話しかけてたもんな」
白鳥「三門市って近界民の襲撃とかあったし見えたら大変じゃね?」
佐鳥「あー、オレの霊感?ってちょっと特殊なんだよね」
似鳥「いや霊感がそもそも特殊だろ」
白鳥「どういう意味で特殊なんだよ?」
佐鳥「生前に付き合いがあった人だけ見えんの。ついでに付き合いの長さで見える度合いが変わる」
白鳥「なんじゃそりゃ?」
佐鳥「物心つく前に死んじゃったじいちゃんはぼんやりとしか見えないけど、小1の時に死んじゃったばあちゃんは割と見える、って感じ」
似鳥「また妙な能力持ってんな」
白鳥「ってことは保育園時代から付き合いのあるオレが死んだ場合、かなりはっきり見えるわけか」
佐鳥「縁起でもないこと言うんじゃ無いの」
白鳥「思えば長い付き合いだな」
似鳥「何するにも3人一緒だったもんな」
佐鳥「三門西小の三鳥か」
白鳥「賢い似鳥!カッコいい白鳥!おもしろい佐鳥!」
似鳥「懐かしすぎるしアホすぎる」
佐鳥「ちょっと!佐鳥を落ちに使わないで!」
白鳥「なーにがカッコいい白鳥だよ。とりまるにコールド負けだっつーの」
似鳥「あっちは鳥じゃねぇよ!?」
佐鳥「あれに勝とうとか思うだけ無駄だよ。嵐山さんよりモテるんだから」 - 59二次元好きの匿名さん22/04/25(月) 22:47:26
霊感のある佐鳥くん その2
白鳥「でもあの時は佐鳥がボーダー隊員になるなんて思いもしなかったな」
似鳥「ましてや広報部隊の一員だもんな」
白鳥「やっぱりあれか?近界民の襲撃で似鳥が死んだことが関係してんのか?」
似鳥「・・・」
白鳥「あれはお前の責任じゃねぇし、お前が抱え込むことでもねぇぞ」
佐鳥「・・・わかってるよ。でもオレみたいな気持ちになる人を少しでも減らせればと思ったし、そうでなくてもボーダーに入ってたと思うよ」
白鳥「まぁ自分で決めたんなら構わんさ。しかし付き合いの長さで見え具合が変わるってなると、オレが死んだら声くらい聞こえるようになるんじゃねぇか?」
佐鳥「三門市にいる間は佐鳥がツインスナイプでお守りするんで余計な心配」
白鳥「そうか、よろしく頼むぜヒーロー。おっと、今日バイトあるしそろそろ行くわ」
佐鳥「オッケー!また明日!」
白鳥「・・・なぁ佐鳥、お前もしかしてアイツのこと見えて・・・」
佐鳥「うん?何か言った?」
白鳥「・・・何でもねぇわ。じゃーな」
似鳥「別に言っても良かったんじゃないか?オレのこと見えてるし声も聞こえるって」
佐鳥「言ったら言ったで会話できないのももどかしいでしょ」
似鳥「それもそうか」
時枝「(あれ?賢ってばまた誰もいないところに向かって話ししてるな。まぁ楽しそうだし良いか)」
- 60二次元好きの匿名さん22/04/25(月) 22:50:08
- 61二次元好きの匿名さん22/04/26(火) 00:08:59
SSがこんだけ集まるスレも珍しい
ぜひ完走していただきたい
保守頑張るわ - 62二次元好きの匿名さん22/04/26(火) 00:22:40
夜一気読みしたらちょっと怖くなってきた
おもしろかった - 63二次元好きの匿名さん22/04/26(火) 03:01:09
高校から本部に向かう途中の警戒区域内で一匹の猫と出会った。少しやせている白と茶色のまだら模様で、半壊した黄色い屋根の家の影からじっとこちらを見つめていた。
最初は小型のトリオン兵かと警戒したけれど、どうやら警戒されているのはこちらの方で、よくよく見れば普通の野良猫のようだった。
いつも家の中をじっと見つめていたその猫は、最初こそこちらに気づくたびに警戒していたみたいだったけれど、幾度か見かけるたびに撫でさせてくれる程度には慣れてくれた。スマートフォンの電源を切ってびっくりさせないように、お伺いをたてるようにそうっと。慣れてくれたことが嬉しくて、オフの日にも会いに行くようになった。
しばらくしてあの黄色い屋根の家の近くに門が開き、半壊だったその家があった場所はあっという間にトリオン兵の攻撃によって更地になってしまった。それっきり、あの猫にも会えなくなってしまった。
もしかしてあの子の飼い主さん、あの家に住んでたんかなぁ。それか飼い主さんとずっとあそこにおったんかなぁ、おれには見えへんかったけど。何もしてやれんかったけど、無事に過ごしてるとええなぁ。
無性に実家の猫に会いたくなって、母に写真の催促と、ついでにもうすぐ閉鎖環境試験が続くからしばらく連絡が取れなくなるというメッセージを送った。
「シュールな絵やなぁ」しばらくして母から送られてきた実家の猫はスマートフォンの画面いっぱいに写っており、ピントは奥にいる父の後頭部に合っている。 - 64二次元好きの匿名さん22/04/26(火) 04:39:41
- 65二次元好きの匿名さん22/04/26(火) 04:58:36
これだけは言えない
あの時、遊真くんがいなくて、本当によかった。いたら余計な心配を……ちがう、私がウソついたことがバレてしまうからだ。
以前話した時にも、きっとバレていたんだろう。でも遊真くんは優しいから、私のことを信じてくれたんだと思いたい。
私はそんな、遊真くんにも、修くんにも、他のみんなにも信じてもらえるような人間では無いのに。
ごめんなさい、琹さん、レイジさん。私はあの時、ウソをつきました。私が人を撃てないことを話した時、ウソをつきました。
どうしても言えない、言いたくないことがあったのです。
青葉ちゃんのことです。青葉ちゃんは、近界民に攫われただろうと、わたしは言いました。でも違うんです。ほんとうは、ちがいました。
あの日、わたしは青葉ちゃんと、いっしょに帰ってました。でも、そのときは、探検しようって言って、ひとけのない道を選びました。それがいけなかったのです。
気づいたら、うしろにその人たちはいて、わたしたちはいっしょうけんめい走りましたが、にげられなくて、そして、あおばちゃんが「にげて!!」ってさけんでたちどまって、わたしはにげられました。けど。
それからでした。青葉ちゃんが近界民に攫われた話が広まったこと、わたしが近界民に攫われそうになったことを、みんなが信じ始めたのは。
でもみんながわたしの話を信じるにつれ、わたしは誰も信じられなくなりました。だってあの人たちには都合が良かったのでしょう、わたしの話は。近界民のせいにすれば良いだけですから。
そんな人たちが噂を広めて、今もわたしの近くにいるとしたら……わたしは誰とも関わらず、逃げることしかできませんでした。
今でも青葉ちゃんは見つかっていません。
でも、青葉ちゃん、あおばちゃんは、いまでもいってます。わたしの、わたしのみみに。
「にげて!」じゃありません、そのあとの。
ごめんなさい。 - 66二次元好きの匿名さん22/04/26(火) 09:13:22
- 67二次元好きの匿名さん22/04/26(火) 09:32:55
そうですそうです。千佳がそれを間近で体験してトラウマになってしまったというイメージで書きました。
序盤の様子を見る限り治安が悪いエリアもありそうなので、こういう犯罪の温床になってもおかしくないかなと。
- 68二次元好きの匿名さん22/04/26(火) 09:44:55
- 69二次元好きの匿名さん22/04/26(火) 09:53:14
- 70二次元好きの匿名さん22/04/26(火) 12:13:55
三門市立第一高校の銀杏(1/2)
俺がいる高校には七不思議というものがあるが、近界民と呼ばれる化け物による侵攻以来、少し内容が変わったらしい。そもそも七不思議なんてものは時代によって少しずつ変化していくものだと思うが、あの大災害は七不思議を大なり小なり一気に変えてしまうのに十分なパワーがあったようだ。
その一つが「校庭の隅にある銀杏の木の側には幽霊がいる」というものだ。
侵攻以前はその幽霊の正体はいじめで自殺した生徒だとか、病気で入院したまま亡くなってしまい一度も学校に通えなかった生徒だとか色々と囁かれていたのだが、侵攻後はあの化け物に襲われてしまった生徒だという説が最も信憑性を持つようになった。あの侵攻を経験した三門市民にとっては自殺や病気よりも、ギョロリとした目玉がついた化け物に襲われたという方がよっぽど身近で想像しやすい恐怖なのだろう。
俺もあの時のことを思い出すと今でも体が震え、心臓の辺りが軋むように痛むから気持ちはわかる。あれから四年以上が経っているのに、俺はまだあの日を忘れることが出来ないでいる。 - 71二次元好きの匿名さん22/04/26(火) 12:18:06
三門市立第一高校の銀杏(2/2)
「今日寒いね~」
「秋ってよりも冬よね、もう」
その銀杏の木から少し離れたところで学校指定のジャージを着た女子が二人、くっついて立っている。黒髪を特徴的な髪型にした女子と片目を隠した女子。今日は一段と冷え込んでいるらしく、どの生徒も似たり寄ったりな様子だ。
片目を隠した女子がふと、銀杏の木の方を向いた。その視線を追って黒髪の女子も同じ方向を見る。
「ねえ、七不思議って知ってる?」
片目を隠した女子がにやっと笑いながら黒髪の女子に語りかける。黒髪の女子は七不思議について聞いたことがなかったようで首を傾げている。
「七不思議? あるの?」
「あるある。その一つがこの銀杏の木に関するものなんだけどね、この木のところに昔この学校の生徒だった男子の幽霊がいるんだって。枝葉で日陰が出来るとはいえそれだけでは説明がつかないほど、木の周囲の気温が低いとか……」
片目を隠した女子は声を少し低くして語ったが、黒髪の女子は怖がる様子など欠片も見せずに「そんなに寒いなら今じゃなくて夏に知りたかったなぁ」などと受け流している。
まさか七不思議を冷房機器代わりにするつもりなのかとちょっと呆れながら、俺は彼女らの話に耳を傾けた。
「それにしてもそういうの好きだよね~、また作戦室でホラー映画みて東さん怖がらせたんでしょ?」
「なんで知ってんの」
「うちの狙撃手たちから聞いた」
「狙撃手情報網か……」
作戦室や狙撃手という単語から、彼女たちはボーダー隊員というものなのだと少し遅れて察した。この学校はボーダー提携校らしいが俺はボーダーとは縁遠いためすぐに気がつくことが出来なかった。
彼女たちはきゃいきゃいと可愛らしく話しながら、体育教師から集合がかかったため移動していった。俺はその後ろ姿を見送る。黄色い銀杏の葉が舞って彼女たちを一瞬視界から隠した。
ボーダー隊員ということは彼女たちも戦っているのだろう。華奢な彼女たちがどのように戦っているのかは知らないが、きっと何かで貢献しているのだ。
彼女たちを羨ましく思う。俺はスタートラインにも立てなかった。
あの白い化け物に対抗する力を持った人たち。この三門を救い、守り続けている人たち。
あの日、対抗する力もなく、救われもしなかった俺は、今日も銀杏の木の側に立っている。
俺以外の人も、みんな。 - 72二次元好きの匿名さん22/04/26(火) 12:47:44
めちゃくちゃに良…!モブ視点だからこその最後で嗚呼…、って感嘆の声が漏れたわ。そしてこのスレに相応しくあったかもしれない怪談なのに、どことなく寂しいの方が強くなるな。淡々とした語り口だから余計に寂しさを含んだほんのりとした羨望が見えて凄い好きだ。
- 73二次元好きの匿名さん22/04/26(火) 12:53:03
- 74二次元好きの匿名さん22/04/26(火) 13:31:15
大型連休明けに職場に行くと隣のデスクが空席だった。
「○○はどうした?」
他の同僚にたずねると「長めに帰省したいらしくて有休とってる」と返ってきた、羨ましいことだ。
「あいつの地元ってどこだっけ?」
「…三門市だよ、あの」
「あーそうだったな」
異次元からの侵略者の脅威にさらされている町は自分にとってニュースの中の出来事である。だから彼がそこの出身であることもすっかり忘れていた。
「…どうした」
しかし同僚は「三門」という言葉を口にしてから妙に落ち着かない様子で眼鏡の奥で瞬きを繰り返している。
「いや、実はさ…俺、誘われたんだよ。あいつの帰省についてこないかって」
「はあ?何で?」
「いや…わからん。あいつが言うには俺は大人なのにオリオン?が多いみたいだから?三門で活躍できるかもって」
「オリオン…?星座?」
「さあ…?でももちろん断ったんだよ、怖いじゃん、なんだよ三門で活躍って…あそこ軍事施設あるんだぜ」
一瞬人体実験にかけられる同僚の姿を想像して自分も背筋が寒くなった。
「まあ断って正解だろうな、人の帰省についていっちゃいけないことは『ミッドサマー』で学んだからな」
「なにそれ?」
おすすめのホラー映画である『ミッドサマー』について語ったら同僚はますます嫌な顔をした。
三門市出身の彼はそれから2日後にいつも通りに出勤してきたし、帰省についてこいと言った件については2度と蒸し返すことはなかったらしい。 - 75二次元好きの匿名さん22/04/26(火) 14:29:12
- 76二次元好きの匿名さん22/04/26(火) 16:49:27
- 77二次元好きの匿名さん22/04/26(火) 16:54:51
- 78二次元好きの匿名さん22/04/26(火) 18:31:01
弓手町駅の怪談
近界民警戒区域に近いからという理由で廃駅となって久しい弓手町駅だが、深夜、駅のホームである条件を満たすと、途切れた線路の向こうから電車の車両が現れる。電車はゆっくりとホームに入ってきて、車両には人影が大勢乗っている。その者たちの顔をよく見ると皆大規模侵攻で亡くなった人達だということだ。
四年半前の侵攻で死んだ家族や友人や恋人に逢いたいと願う者は大勢いて定期的にこの手の怪談は流行るのだが、この条件というのが問題だ。
自らの心臓を抉って捧げないといけない。
時折、弓手町のホームで遺体が見つかる。遺体は皆一様に胸を抉られ死んでおり、ボーダーはこれを近界民の仕業と断定し調査しているが、何故かこの事件発生予測時刻に駅付近でゲートが開いた形跡は見つかっていない。
死んだ者達は皆、大規模侵攻で近しい者を失っているそうだ。遺族が誰一人居ないので、真偽の程は確かめようがない。 - 79二次元好きの匿名さん22/04/26(火) 18:37:14
オリオン座ペテルギウスがワートリ世界ではアフトクラトルと呼ばれてるかもしれん
- 80二次元好きの匿名さん22/04/26(火) 21:34:25
このレスは削除されています
- 81二次元好きの匿名さん22/04/26(火) 21:36:33
・夏休みの思い出(1/2)
この公園ができるずっと前、ここにはナントカ機関っていうすごいでっかい建物があったらしい。ばぁちゃんの話でしか知らないからくわしいことはわかんないんだけど。
入口から右手にちょっと行ったとこに木陰になっているとこがあって、そこにあるベンチにおじいさんがひとりで座ってた。アスレチックで遊ぶ子どもたちをながめてたみたいだった。
ぼくがじっと見ているのに気がついたのか、おじいさんと目があった。
「こんにちは」
なんとなく見ていたことが気まずくて思わず話しかけてしまった。
「こんにちは」
ちょっとびっくりしたみたいだけど、すごくやさしい声で、おじいさんがあいさつを返してくれた。おこられなくてちょっとホッとした。
「…暑いだろう?ここにお座り」
おでこから汗をだらだらたらしているぼくを見て、おじいさんは自分の左側のあいているスペースに目くばせした。知らない人についてっちゃダメだって言う母ちゃんの顔がうかんだけど、このおじいさんは大丈夫だと、なんでかわかんないけど思った。
「ありがとう」
木陰はたしかにひんやり涼しくて、でも目に汗が入りそうだったから、腕をあげてTシャツの袖のとこでぬぐった。
「おじいさん汗かいてないけど暑くないの?大丈夫?」
「……暑いな、でも大丈夫だよ」
「おじいさん何歳なの?」
「91…92だったかな。もうこの歳になるとあやふやだなぁ」
「何してるの?あっこで遊んでる子の家族?」
「いいや。ただ…この場所が好きでこうして座っているだけだよ」
「へえ。ここって昔でっかい建物があったんでしょ。おじいさんは何があったか知ってる?」
すごくやさしい声と顔で話してくれるから、ぼくはついつい色んなことを聞いてしまった。ちょっと失礼な言い方をしたかもしれない、おじいさんは少しの間だまってしまった。
「……そうだなぁ、歳をとって忘れっぽくなったからなぁ。ここに何があったか…もう忘れてしまったよ。答えられなくてごめんね」
「そっか」 - 82二次元好きの匿名さん22/04/26(火) 21:38:24
・夏休みの思い出(2/2)
それからもおじいさんと色んなことを話した。毎年夏休みにばぁちゃん家のあるこの街に来ていることとか、お墓参りをしたあと集まったイトコたちと遊んだり、こっちのお祭りに連れてってもらったりすることとか。でも今年は、イトコはみんな中学校にあがって部活が忙しくて来られないから、いつもとちがってちょっと寂しいなって思ってることとか。ぼくも来年は中学校にあがるからバスケ部に入ろうかなと思っていることを話したら、おじいさんも若いころは後輩とバスケしたり同級生とサッカーしたり「サワヤカスポーツマン」ってやつだった、ってことを、目もとをしわしわにしながら話してくれた。
「みんな、とってもいいやつばかりだったよ」
おじいさんがなつかしそうに、でもちょっと寂しそうにそう言ったとき夕方5時のチャイムが公園にひびいて、母ちゃんに5時までには帰ってきなさいよって言われてたことを思い出したぼくは、あわててベンチから立ちあがった。
「やべ、帰んなきゃ。いっぱい話できて楽しかった!ありがと、またね!」
「……気をつけてお帰り」
ふりかえってバイバイの手をあげたけど、おじいさんはいつのまにかいなくなってた。
それがぼくの小学校最後の夏休みの思い出。 - 83二次元好きの匿名さん22/04/26(火) 22:51:49
ザキさん享年が⋯⋯!
- 84二次元好きの匿名さん22/04/26(火) 22:58:06
- 85二次元好きの匿名さん22/04/26(火) 23:13:05
じいちゃんにな、こっち来る前に言われてん。
「変なもん見えてるやろ」って。
でも、別に変なもん見えたことないから「そんなん見えたことないで、怖いこと言わんといてや」って答えてん。
じいちゃん変な顔してなあ。
「はじめっから見えてるもん、変やと思えんよなあ」言うて俺の頭撫でてくれてん。
久々に撫でられたわ。じいちゃん、昔もっと分厚い指してたのに細なってもて、ちょっと寂しかったなあ。
で、「人が亡くなってはるとこ行ったら引っ張られてまうからな、気ぃつけや」って言われてん。わざわざ人が死んでるなんて嫌なこと言うと思わん?
まあ、しゃーない。じーちゃんは俺のこと心配なんやろ。そのあと、何はなくとも刀振っときや言われたし。
でもなあ、俺、ホンマになんも見えてへんねんで?たまに変な視線、感じるだけやねん。
ボーダーって監視カメラめっちゃ置いてはるんやろか。 - 86二次元好きの匿名さん22/04/26(火) 23:52:27
忘れてしまったのは年のせいなのかそれとも……
- 87二次元好きの匿名さん22/04/27(水) 06:07:11
保守
- 88二次元好きの匿名さん22/04/27(水) 15:40:37
保守
- 89二次元好きの匿名さん22/04/27(水) 20:28:06
俺を待つ家(1/2)
三門市に帰ってくるのは四年ぶりだった。きっと次に来るのにもまた数年の月日が空くのだろう。故郷であるこの街が嫌いなわけではない。それでも足が遠のいてしまうのはあの悲劇を否応なしに思い出してしまう瞬間があるからだ。
あの悲劇の日、当時高校三年生だった俺は本屋で参考書を見繕っていた。両親と妹は家にいて、きっといつも通りにくつろいでいたのだと思う。そうしてあの化け物が現れて、そのまま。
一人だけ助かった俺は被害の無かった地区にある母方の伯母夫婦の家で高校卒業までお世話になり、大学進学を機に県外に出た。今回は無事に大学も卒業できたこと、就職も決まったことを改めて報告しに来たのだ。二人とも喜んでくれて、卒業と就職祝いにとちょっと高い肉を食わせてくれた。
そうして数日を過ごして、見送りはいらないからと俺は一人で駅までの道を歩く。こうして歩いているとただの平和な住宅街だが、時折響くサイレンの音が異質だ。ここにずっと住んでいれば慣れるのだろうが、俺は比較的早くにこの地から離れたため違和感の方が強い。
そういえばあの頃はまだボーダーも今ほど信用されていなかった。通りかかった店先に貼られたボーダーのポスターを見ながらぼんやりと懐古に浸る。
警戒区域に入るには、つまり俺が元々住んでいた家に行くにはボーダー隊員同伴でなければいけないらしい。俺はあれ以来一度もあの家に戻っていないから具体的な手続きまでは知らないが、それを調べて手続きをしてまで警戒区域に入ろうと思ったことはなかった。どうせ荷物は壊れたり汚れたりして使えなくなってしまっているだろうからと着の身着のまま引き取られたことを思い出す。あの頃は色々と混乱していて、惨劇の色が濃く残る場所に近付こうなんてとても思えなかった。
ああ、でも、一度くらいは戻っても良かったかもしれない。
ふとそんな考えが頭に浮かんだ。どうせ家は壊れてしまっているけど、家族が死んでしまった場所だけど、一度くらいは。
そう思うとどうしてだか居ても立っても居られなくなってしまって、駅へと進んでいたはずの足を警戒区域の方へと向けてしまっていた。
新幹線の時間が、でもまだ時間に余裕はあるし、なんだったら一本遅らせても問題ないし。今はそんなことよりも、早く。
「かえらなきゃ」
ぽつりと呟く。
家に帰らなければ。俺を待っているから。 - 90二次元好きの匿名さん22/04/27(水) 20:29:21
俺を待つ家(2/2)
気がつけば俺は走り出していた。運動なんて久しくしていないのに奇妙なほど体は軽かった。疑問に思ったが、そのおかげで早く家に帰ることが出来るのだから悪いことではないだろう。ほら、もう警戒区域が見えてきた。あの境界線を越えて、五分も走れば家に着く。
有刺鉄線は邪魔だったが乗り越えられない高さではない。立ち入り禁止の看板もあったが気にはならなかった。だって家に帰るだけなのに禁止される方がおかしい。
帰らなきゃ。もう一度心の中で呟く。
家に帰ろう。俺を待っているから。
誰が?
はっと、夢から覚めるような心地だった。急ブレーキをかけるみたいに足を止める。実家はもうすぐそこに迫っていたが、それ以上足を進める気にはなれなかった。さっきまでは感じていなかった疲労を一気に知覚する。息切れして揺れる視界で目指していた場所を見る。
そこにあるのは、かつては家だったのだろうと辛うじてわかるだけの瓦礫の山だった。見覚えのある色の外壁が少しだけ形を残している。どうしてあんなにも必死になってここを目指していたのか、俺にはもうわからなかった。
俺は急いで警戒区域から出た。幸いなことに誰からも声をかけられることはなかったが生きた心地がしなかった。
呼ばれたのだ、となんとなく思った。俺は何かに呼ばれて、引き寄せられた。では何に?
あそこに俺の両親と妹は埋まっていない。あの侵攻の後、彼らの骸は小さな箱に入れられて俺のもとに届けられたし、先祖代々の墓にきちんと納めた。あそこにあるのは壊れた空っぽの家だけだ。
空っぽの家で何かが俺を待っている。あるいは、もしかすると家自体が、なのかもしれない。そう思うと不思議なほどしっくりきて腑に落ちてしまった。
あの日、俺はいつも通りに「いってきます」と言って家を出た。
「行って来ます」と。
きっとあの家は俺を待っているのだ。俺が本屋に行って、帰って来るのを。迎え入れる人もとっくにいないのに、今でもずっと。 - 91二次元好きの匿名さん22/04/27(水) 22:15:31
黒電話みたいな音が教室で鳴った。教授は呆れたように「こら、マナーモードにしておけ」と言って犯人探しはしないつもりなのに、犯人は馬鹿正直に「ゴメンなさい」と返事をした。
チャイムがなった途端、その男は教室を飛び出して電話をかけた。折り返しの電話だろうか。
「あ。俺、俺。いや詐欺やなくて⋯⋯そんくらい分かってや。カワイイ子供の声忘れたん?」
関西のイントネーションだ。大阪出身だっただろうか。ボーダーの有名人達と仲がいいから、彼もボーダーの人だということだけは知っていた。
一言二言話したあとに、突然男はありがとう、と言葉にした。
「うん、誕生日。祝日やから昼にかけてくれたんやろ?今日、珍しく講義があってな。学校でいっぱい祝ってもらってん」
穏やかで嬉しそうな声を聞くのは初めてだった。横を通りながら盗み見ると声に反して鉄面皮といった印象だ。友人に囲まれている時も、笑顔を見せることはほとんど無かった。
「えーと、何回目やったかな」
19歳。いや、誕生日なのだから20歳か。酒の飲める年。おめでとう。心の中で祝ってみる。知らない人に祝われても彼は喜ばないだろうけど。
「そう、顔と名前出て5、6回目?初登場が確か⋯⋯2016年やっけ?でもその前にも、俺の名前出てたやん?ほら、迅が⋯⋯2013⋯⋯4?それやったら8回目?はあ、算数苦手や」
思わず足が止まった。振り返って男を見る。
「ちょっと遅かったけど、まあ、誕生日も名前も付けてもらってラッキーやったな。かっこいい技も貰ったし」
男の声を聞きながら、そういえば、自分の誕生日はいつだっただろうと考えを巡らせた。いや、誕生日どころか、名前⋯⋯顔は?慌てて走り出す。すぐ近くにトイレがあった。そこに鏡はあるだろう。
「まあ、当日はまだやし、祝日の講義も原作には無いんやけどな」
あれ、今日は何日だったっけ? - 92二次元好きの匿名さん22/04/27(水) 22:16:14
「心霊写真撮りに行こ!」
いくらヒマだからって何言ってんだコイツと思ったが、黙っていると「行こ!」の追撃が来るだけだ。コイツは昔からそういう奴だ。
「そもそも狙って撮りに行くようなもんじゃないだろ。ってか、バズりたいなら合成すりゃいいじゃん」
「んーバズ目的じゃないって言ったら嘘になるけどさー、写真そのものの出来がどーこーってよりあの噂の場所でマジなヤツが撮れたって事実が重要なワケ!」
「撮れる前提かよ。いやだからマジで撮れたとして、どうやって合成じゃないって証明するんだよ。どうせ嘘乙~合成乙~って言われるに決まってるだろが」
「信じてくれる人だけ信じてくれる方がさらにホンモノっぽさ出るくない?」
「はぁ」
よくわからんこだわりだと思ったが、聞けばその噂の場所というのは警戒区域に入るか入らないかのギリギリの場所で、しかも深夜2時から2時半の間という決まった時間帯に「写る」らしい。なるほどあの異界からの侵攻で死んでしまった人の霊が丑三つ時にあらわれる、そういう筋書きにしたいタチの悪い噂が一人歩きしているんだろうなと予想した。
「…まあヒマだし付き合ってやるわ、お前ほっといたら一人でも行きそうだし」
「いやん、心配してくれてんの?さっすが幼なじみ」
「うっせえキモい言い方すんな」
そんなやりとりを経て俺たち2人は今、警戒区域に近いコンビニで買ったからあげを取り合いながら、件の「写る」というスポットに向かっている。
────
[2名確認しました]
『周囲を確認後、問題なければ捕獲に移れ』
[了解]
こうして噂にするだけで行動を誘導できるとは。場所と時間に加えて人数も指定した内容にしておけば、もっと効率的に捕獲できたかもしれない。いや、あまりに大人数が一度に消えるのは不自然か、さじ加減が重要だな。玄界の者たちが言うところのユウレイという概念はよく理解できないが、好奇心を刺激する材料であることは間違いなさそうだ。 - 93二次元好きの匿名さん22/04/28(木) 06:47:35
安定してSSが増えててすごい
- 94二次元好きの匿名さん22/04/28(木) 10:33:59
こういう幽霊に見せかけた人為的な怪談は好きです。描写されてないだけでボーダーの手の届がない範囲ではありそう。
- 95二次元好きの匿名さん22/04/28(木) 18:25:27
メタネタというテーマをイコさんで、イコさんの誕生日にやるのは上手いw
- 96二次元好きの匿名さん22/04/28(木) 22:09:37
保守
- 97二次元好きの匿名さん22/04/29(金) 02:36:06
このレスは削除されています
- 98二次元好きの匿名さん22/04/29(金) 02:41:34
基本研修を終え晴れて本部付きの新任中央オペレーターとしてやってきた子には、実地での基本的な仕事と機器操作以外にも教えておかなければならないことがある。
「端的に言うとね、現場映像のモニターに映っちゃうことがあるのよ」
新任の子は困惑の表情だ。
私も最初は困惑した。
ある夜の防衛任務中のことだったんだけどね。巡回経路を全担当部隊に送った後、ふと現場映像のモニターを見たら明らかに隊員じゃない、白っぽい人影が映ってたの。慌てて周辺を解析したんだけど何も出ないし暗視モードに切り替えても何も映らない…人型近界民かと思ったけどトリオン反応も検出されない、ならステルス機能を持った新手の敵かも…あらゆる可能性を考えて隊員に警戒するよう伝えて、あらゆる現場周辺のデータをしらみ潰しに解析したんだけど、結局何も出なかったのよ。
混乱させて申し訳ないって謝る私に、何事もなく無事だったから良かったじゃないかって言ってくれた隊員の笑顔には心底ほっとしたわ。でもやっぱり気になって…シフト時間ギリギリまでログを見直そうかと思って。
「お疲れー。もしかして見ちゃった?」
って、交代前の先輩が声をかけてくれたの。
「先に言っとけば良かったね、ごめんね。たまにあるんだよねぇ映っちゃうこと。だからあんまりミスしちゃった~って自分を責めないでいいと思うよ」
あまりにも普通のことのように言うから困惑しちゃって。
「生体反応もトリオン反応もないから“そういうの”に対応する技術は今んとこないって、エンジニア側でどうにかするってことも難しいみたい。だからまあ、場数踏んで慣れるしかないんだけどねぇ。今まであった同じような目撃時のデータ全部つっこんで解析させてて、これとこれとこれチェックして問題なければ“そういうの”だと思ってほっといても大丈夫だよっていうのは出来てるから、後で情報送っとくね」
─というわけだから、もし“そういうの”を見ちゃったらこのプログラム走らせて。問題なければ置いておいて隊員のバックアップに注力して大丈夫だから。
新任の子はまだ少し戸惑っていたけれど、すぐに「了解しました」ときりりとした表情で言いデスクに向かった。
今日も現場の隊員たちの安全を祈りながら、この地に悔いを残して去れないでいる人たちの鎮魂を祈りながら、オペレーターたちの防衛任務は続く。 - 99二次元好きの匿名さん22/04/29(金) 11:41:51
保守
- 100二次元好きの匿名さん22/04/29(金) 21:51:59
みんな文章上手くて凄い
- 101二次元好きの匿名さん22/04/30(土) 00:57:05
更新楽しみにしてる
クオリティ高い - 102二次元好きの匿名さん22/04/30(土) 02:27:55
俺みたいになりたい、か
そう言ってくれるのは嬉しいが、お前にはお前の個性があるだろう?
それを大事にしてほしい
俺だって何でもできるわけでもないしな
年齢の割に出来すぎている?
あー...実はな、本当の年はもっと上なんだ
いやいや、馬鹿にしてるわけじゃないぞ
5年くらい前だったかな
突然黒服の集団に拉致されてな
何でもその組織のボスが若返りのための装置を手に入れたとかで、俺は人体実験用のサンプルの1人だったんだ
よくわからんまま10年くらい若返らされて放り出されたよ
流石にあの時は参ったな
途方にくれる俺を助けてくれたのが唐沢さんだった
家族や職場への対応、身分証の用意、大学への編入手続き、諸々全部やってくれたよ
「うちの組織がご迷惑をお掛けしたお詫びです」って言ってたっけ
まぁそんなわけで、実は10年くらい余計に生きてるんだよ
なに?いくらなんでも信じられないって?
ははは、それで良い
俺の言うことが何でも正しいなんて思うなよ
自分の頭で判断することが大事なんだ
ほら、今日はもう帰りな
ああどうも、唐沢さん
えっ?あの話を言い触らされたら困る?
大丈夫でしょう
あんな荒唐無稽な話、信じるやつがいるとは思えません
それとも言い触らされると困ることでもあるんですか?
そう言えば正隊員には実年齢にそぐわないやつらが結構いますね
もしかして... - 103二次元好きの匿名さん22/04/30(土) 09:03:44
繁華街近くの公園に何かがいる──
噂が出始めた頃は曖昧で大雑把な話だったが、その内容は日が経つごとにどんどんと具体的なものになっていった。
子どもの霊が出る。夜に出現するというのはこの手の話のお約束だが、その子どもの霊はぼうっと立っているわけではなく動き回るらしい。「公園の近くで動き回ってるってことは、その公園でよく遊んでた子の霊じゃない?」「繁華街も近いから、もしかしたらあのあたりで人知れず誘拐されてそのまま殺されちゃった子の霊とかかもよ」「あぁ、今でも助けを求めてる的な?」
人から人へと伝聞しているうちに変化したり盛られたりするのもまた、この手の話のお約束だ。
しかし聞き逃せない言葉もあった。
「誘拐」。近界民が捕獲と称しているそれは過去にも度々行われ、隊員の中には親族があちらに連れて行かれてしまった者もいる。もしもその霊と噂されるものの正体が近界民だったら─偵察のために動いているのか、あるいはこちらが関知しないところですでに誘拐が行われているのか─そのうち「子どもの他にも人影が見えた」などと言う者も現れ始めたため、危機感を持ったボーダーは本格的に調査を開始した。
「で、上がってきた調査書がこれなんだが」
「どれどれ…」
「オイ俺にも見せろ」
「で、これが目撃日時と、その時の防衛任務のシフトなわけだが」
「…きっちり俺らがシフト外のときにだけ目撃されているのか」
「どうりでお目にかかれないわけだぜ」
「…なぁ、この『大学筋を抜けた繁華街』『公園と郵便局の間の路地』って……」
「……『動き回る子ども』『他にも2~3人の人影』オイこれってまさか」
「『子どもの霊はポストに向かって何かしているようだった』って…」
「「風間じゃねーか!!!!」」
調査書に目を通した途端に事態を察知したレイジはすでに本部に連絡をし、詫びを入れたのだと言う。
「お前らも謝りに行っておけよ、特に風間」
「…………お前らが止めないのが悪い」
「はぁ?!いい歳こいて人のせいにしてんじゃねぇよ!」
「そもそも飲ませたお前が悪い」
「ざっけんなテメェ!」
「えーこれ俺も悪いの?」
『失礼しま~す、先にお飲み物おうかがいしま~す』
「「「「ウーロン茶4つで」」」」 - 104二次元好きの匿名さん22/04/30(土) 10:48:24
こわ
- 105二次元好きの匿名さん22/04/30(土) 10:54:12
ボーダー本部廊下を歩いていて、何となく肩が重いなと思っていた。最近研究のほうも忙しくて休みが取れなかったし、そのせいかと思っていたんだ。
ただ、たまたま来ていたらしい来馬にあった時に、ああ、疲れじゃなかったんだなってわかったんだよ。
なんでかって?お前達も”そういう状態”になった時に来馬に合えばわかるさ。
肩を叩かれて体が軽くなった後に、「大変でしたね」って言われるからな。 - 106二次元好きの匿名さん22/04/30(土) 12:04:23
- 107二次元好きの匿名さん22/04/30(土) 21:08:44
保守
- 108二次元好きの匿名さん22/05/01(日) 08:16:02
SS系って書くのに時間食うから落ちやすいけどこのスレは残ってほしい
- 109二次元好きの匿名さん22/05/01(日) 10:51:25
ワートリでゴーストバスター系考えた事めっちゃあるけど、大抵東さんと太刀川と来馬先輩が結界、物理、浄化の3強になる。
- 110二次元好きの匿名さん22/05/01(日) 11:04:14
分かるわ…
あと個人的に憑かれ易い枠に諏訪さんが居そう
なんか面倒見が良くて情があつい人ってそういうのに好かれそう
あと二宮が霊感0でめちゃくちゃ背負っててもケロッとしてそう(来馬の横にいると楽だなーくらいには思ってるけど全く気づかない)来馬先輩がちょいちょい浄化してる
- 111二次元好きの匿名さん22/05/01(日) 11:08:30
この話もっと聞きたいけど保守の範囲越えそうだしSSスレ消費するの忍びないから他に霊感スレ建てても良いかな?
- 112二次元好きの匿名さん22/05/01(日) 11:16:28
お願いします
- 113二次元好きの匿名さん22/05/01(日) 11:31:38ワートリキャラの霊感を考えるスレ|あにまん掲示板このスレはhttps://bbs.animanch.com/board/561476/の話題から派生したスレですワートリキャラで霊感ありそうor無さそうなのは誰か憑かれ易そうなのは誰かどういうタイプの…bbs.animanch.com
建てました
キャラの霊感の話については↑でお願いします
引き継ぎSSは此方にお願いします。
(できれば保守も)
- 114二次元好きの匿名さん22/05/01(日) 17:35:14
隊のコンセプトの都合上、夜の任務が多い。
三門市を横切る黒々とした川面が、少し高いところに上がればすぐに見えた。
今あるコンクリートの堤防ができる前は、川の氾濫で多くの死者が出ることもあったという。
初夏の夜。帰還の時間になったので、本部に戻る途中、ポチャン、と水が跳ねる音がした。
どこからかな、と足を止めると、応えるように、ポチャン。
あまりのタイミングの良さに驚いていると、またポチャン。
「すいません、隊室の蛇口閉め切ってませんでした!」
と、三上先輩の焦った声が聞こえる。なんだ水の閉め忘れか。
結局、先輩が栓をひねってからは音は聞こえなくなった。
次の朝、飛び込みで三人が死んだことを、ニュースで知った。 - 115二次元好きの匿名さん22/05/01(日) 17:39:13
- 116二次元好きの匿名さん22/05/01(日) 17:53:06
菊地原と、その聴覚共有を支援してるみかみかだけが怪異に気付いてるってパターンはよくありそうだ
- 117二次元好きの匿名さん22/05/01(日) 18:23:45
隊のみんなに勧められて、送った短編が地方新聞主催の賞をとった。
夏の蒸し暑さがピークだった夜、夏休みで家にいるのが窮屈だったウチは、こっそり抜け出した先で真っ赤な花畑を見つけた。そこはもう使われなくなったトンネルの先にあって、地元の街を一望できる。
そこで鈴をぶら下げた狐が踊っていた。真っ赤な花畑をレッドカーペットのように使って。
ウチはこっそりそれを見続ける。
そんなお話だった。
「さすがマリオちゃんやな!」「マリオやるやん」「マリオ先輩さすがっす!」っと隊のみんなが喜んでくれる。
「選評のコメントも絶賛やなあ。妙に生々しい文章で引き込まれるようだった、やって。せやのになんか浮かん顔してるやん」
みんなが首をかしがる中、正直に告白した。
「あれ、小説やなくて日記やねん」
もちろん、そんな場所など地図には存在しない。 - 118二次元好きの匿名さん22/05/01(日) 22:01:14
『では、3-Cは『お化け屋敷』で決定しましたー!』
文化祭実行委員の声とクラスメイトたちの拍手が響く。
「準備大変そうだな」
「お化け役をやりたいぞ、オレは」
「デカいお化けは迫力ありそうやしええんちゃう?ところで、カゲのサイドエフェクトて霊的なもんからの感情も受信したりすんの?」
「なんだよいきなり…」
役割分担を決めるためにザワザワとしはじめた教室で、水上がそんなことを言い出した。
「興味あるぞ、オレも」
「オレも気になるな」
「鋼までかよ…そもそも霊って感情あんのかどうかわかんねぇし、俺見えねぇから。受信してたとしても飛んできた方向に居る人間からのもんだと思ってきたし知らねー」
「ほーん、でもまぁ見えたら見えたで難儀そうやもんなぁ」
「つーか鋼はどうなんだよ、俺のとは種類が違うけどサイドエフェクト持ってる身としては」
「うーん、オレも特にないな。見えないし感じたこともないから、こういうのが霊だって理解しないと『学習』するのは無理だしな」
「あまり関係ないみたいだな、サイドエフェクトと霊感は」
「もし関係あったら、カゲもそやけど迅さんや菊地原くんエライことになってたやろなぁ」
「…想像するだけで吐くわ」
「聞いてくれないのか、オレには」
「え、ポカリ霊感あんの?」
「ないぞ、霊感は」
「ないんかい」
「UFOには会ったことがあるぞ、霊には会ったことはないが」
「またそのネタかよ!お前お化け役じゃなくて宇宙人役やれよもう」
「宇宙人の出るお化け屋敷か、新しいな」
サイドエフェクトと霊感は関係あるかもしれないし、ないのかもしれない。普通の人間が宇宙人と会ったことがあるかもしれないし、ないのかもしれないのと同じように。 - 119二次元好きの匿名さん22/05/02(月) 06:09:32
オチで曇らせる怪談は好きだなぁ、明るくてお笑い担当気味な生駒隊だからこそギャップがあるのも良い。
- 120二次元好きの匿名さん22/05/02(月) 12:32:02
トリガー(1/2)
子どものころ偶然ドラマで見て、かっこいいなって憧れた。軽妙洒脱なアウトローに見えるけど、依頼は断れない情の深い私立探偵。
今のオレは全然軽妙洒脱じゃないし情も深くない、依頼が断れない私立探偵ってとこだけはドラマの男と一緒だけど。でもそれは収入的な理由で断れないってだけで、2日後にガスが止まりそうな状況で依頼を選り好みしている場合じゃない、しがない三門の何でも屋なのだ。
アポの時間に間に合うよう急いで荒れ放題の事務所を片づけ終わったところで、ドアのノック音がした。
「11時にお約束の方ですね、ハジメマシ…」
コーヒー用の湯を沸かしながら営業スマイルで振り向くと、いかにもカタギじゃない風貌の強面な男が立っていた。電話では探し物だと聞いていたから迷い犬や迷い猫の探索かと思っていたが、これは…マズイやつかもしれない。
「トリガー、って実物見たことあるか」
「いや、ないっすね」
どこから入手したのか知らないが、男はトリガーを写したものだという画像と設計図のようなものをスマートフォンで見せながら、こいつをどうにか手に入れたいのだと言った。
「…報酬はそっちの言い値で払うからよ」
ボーダーの隊員が戦うために必要なものらしいということくらいしか知らなかったが、男が言うには「国が動かせるようになる」ほどの機密のシロモノらしい。本当にそんな価値があるのかどうかも怪しいし画像に写っているのが本当にそのトリガーってやつなのかも定かじゃないが、この手の奴らが欲しがりそうな謳い文句だなと思った。 - 121二次元好きの匿名さん22/05/02(月) 12:33:43
トリガー(2/2)
だが報酬どうこうよりも、機密に触れたことで最悪自分がお縄に、というリスクはあまりにデカすぎて気が乗らない。そもそもオレはボーダーに知人は居ないから協力者を探す所から始めなきゃなんないし、もっとシンプルに言えばこういう危ない雰囲気の奴らが相手の言い値を払ってでも欲しがるなんてロクなもんじゃない、と経験上知っているからなるべく関わりたくないのだ。しかも組織の機密に触れた者は記憶を消されるとかいう恐ろしい噂もあるし。こういう案件は触れないに限る、オレは自分を犠牲にできるほどのヒーロー気質じゃないしあのドラマの探偵みたいな情の深さもない。
ガスが止まる覚悟を決めて、この依頼は断ることにした。
「すんません…ウチじゃちょっと、ゴキタイニソエカネマス…」
「…そうか、わかった」
いくらでも払うって言ってんだから云々の脅し文句が来る…そう身構えていたが、意外にも男はあっさりと帰って行った。
とりあえず事務所じゅうをひっくり返したら何とかガス代は工面できそうだったので、昼飯の調達がてらに支払いに行くかと上着を羽織ったところでノック音がした。今日はもうアポはないはずだし飛び入りの依頼か、と思いながらドアを開けるとボーダーのネクタイをした二人組が立っていて、
自分のイビキとよだれで目が覚めた。時計を見て慌てて飛び起きる。
アポの時間に間に合うよう、急いで荒れ放題の事務所を片づける。11時の約束だったはずだが、依頼人は現れない。電話では探し物だと聞いていたから迷い犬や迷い猫の探索かと思っていたが、これは…きっとウチにくる前に見つかったんだな。
コーヒーでも飲むかと湯を沸かそうとしたがガスが止まっていた。支払い期限まではあと2日あったはずなんだが……記憶違いか?……何でオレは上着を着たまま寝てたんだ? - 122二次元好きの匿名さん22/05/02(月) 13:20:30
面白かった!
- 123二次元好きの匿名さん22/05/02(月) 20:25:48
最近、なぜか猫がカーテン裏や座卓に突っ込むことが多くなった。
チカ子に会いに玉狛支部へ行ったとき、そのことを話すと、
「こいつにはへんなものがみえてる。それからおまえらをまもろうとしてるみたい」
と、語るのはいっつもカピバラと一緒のお子ちゃま。
『へんなもの』とやらは、どうやら10センチ程度の大きさらしい。
「なら、チカ子たちも守ってやってくれよ」
と、猫の頭を撫でてやると、おもむろに台所に姿を消して。
「うお、なんだ、いたっ!?」
頼りない悲鳴。
どうやら『へんなもの』はメガネ先輩の足元にいたらしい。 - 124二次元好きの匿名さん22/05/03(火) 05:05:36
- 125二次元好きの匿名さん22/05/03(火) 12:41:46
へんなものってなんだろうな、守ろうとするあたり「すねこすり」みたいな生やさしい妖怪とかでは無さそうだ…
- 126二次元好きの匿名さん22/05/03(火) 18:06:27
- 127二次元好きの匿名さん22/05/03(火) 21:34:57
華さんは感情を表面には出さないけど、視線の先に誰がいるかはよく知ってる。それはお前が華さんをよく見てるからだと言われたら否定できないのが悲しいとこだけど。
今も雄太を探しに来た個人ランク戦のブース前で、生駒さんと立ち話してる彼に視線を向けてるのがわかる。ボーダーの顔で、強くて、優しくて、かっこいい先輩だもんな。
「麓郎くん、わたしの顔に何かついてる?」
「あ、いや、何でもない」
何か言いたげに目をそらしたけど、もしかして麓郎くんにもあの「何か」が見えてるのだろうか。
我ながらミーハーだと思いつつ、つい目で追っていた。追っているうち彼の背後に「何か」がぼんやり見え始めた。視力の問題か眼鏡の不調かと思ったけど、換装している時に彼を見ても「何か」は見えた。非科学的なことは信じる方じゃないけど、あの「何か」は彼を守ってくれている存在なのかもしれない、とも思う。もしそうなら必要以上に怖がることはないのかもしれない。わたしが喪った家族を想って怖がらないのと同じように。
「イコさん!ちょうどいいところに!」
「ん?どないしてんコアラ」
生駒さんが小荒井に呼ばれてブースに入って行った。あっという間にB級に昇格したこの新入隊員との手合わせだろう。
「お疲れさまです」
「充もお疲れ。個人ランク戦の説明も終わったし、今日の入隊説明は終了かな」
こちらのブースをのぞきに来た嵐山さんはいつもと変わらない様子だけれど。
日に日に、増えている。
メディアに出る機会が多いのは隊の皆も同じだが、一番目立つ隊長だからだろうか。自分も助けてほしかったと言わんばかりの悔しそうな人々の面影が肩から背中にかけて、日に日に増えている。それとなく聞いても不調はないと。でも心配だ。見えるだけで放っておいていいものなのか悪いものなのか判断できない、何もできない自分はその言葉を信じるしかないのがとても歯がゆい。
充に心配されてしまった。表情に疲れが出てたのかもしれない。換装を解いて鏡を見るとひどい顔色で、これじゃ当分生身で人前には出られないなと思う。綾辻や木虎にクマを隠す化粧品でも教えてもらおうか。それだとなぜ必要なのか聞かれてしまうだろうな。うまく嘘をつく自信がないからやめておこう。
とにかく今は早く寝て疲れをとることに専念しよう。一緒に戦ってくれる隊員のために、守るべき家族や明日の三門市の平穏のために。 - 128二次元好きの匿名さん22/05/04(水) 02:19:46
悪霊か守護霊かはぼかしつつも三者三様の視点から描かれた状況描写が見事でした。華さんが憧れ以上に霊的な視点から嵐山を観ているというのは新鮮で面白かったです。たしかなまんぞく。
- 129二次元好きの匿名さん22/05/04(水) 13:40:30
播州皿屋敷ってあるじゃん?あれ?番町皿屋敷だったっけ。あの、いちま~いにま~いさんま~い……って数えてって最後に一枚足りな~い!ってやつ。アレに似たような話聞いたんだけどさー。
『ひとり、ふたり、さんにん……みんな、いない』って声が聞こえる廃墟があるんだって!『足りな~い』じゃなくて『いない』ってとこが皿屋敷の話とは違うんだけどな、まあ話の雰囲気は似てんじゃん?
でさー、そこ行ったヤツ何人かに話聞いたわけよ。そしたら口を揃えて『12人』のカウント後に『みんないない』って聞こえたって言うんだわ。違う日に行ってんのに同じの聞こえるってマジヤベえやつじゃん!って思ってたんだけどさー、『聞こえた』じゃなくて『見た』ってヤツはみんな違うこと言うんだよな。「子どもだった」とか「髪の長い女が見えた」とか「メガネの男だろ」とか、挙げ句の果てにゃ「幽霊のわりにイケメンだった」とかさー、何だよソレ。ほかにも色々あるけどまあ見事にバラバラなわけ。
だからさー、今度俺たちも行って誰が言ってたことが正しいか確かめてみねえ?肝試しってやつよ。こっから近いしさー今度の連休にでも行ってみようぜ!どーせヒマしてんだろ?あの、川の中に建ってる謎の廃墟あんじゃん。そーそー、スッゲー昔になんかの基地だか何だかがあったらしいってトコ。あっこの屋上にさ、出るらしいよ - 130二次元好きの匿名さん22/05/04(水) 22:59:16
- 131二次元好きの匿名さん22/05/05(木) 04:39:02
千佳じゃないかなぁ、自身の存在感を希薄にするサイドエフェクト持ってるし。
ゆりさんとクローニンを加えた13人の玉狛支部が自分以外全滅しちゃってるから、廃墟となったそこで自分以外の12人を数えてると解釈したわ。
それか自分と雷神丸を含めて12人で全滅してるとか。
- 132二次元好きの匿名さん22/05/05(木) 11:52:29
「こどもだった」が千佳でも遊真でも陽太郎でも辛いパターン…
- 133二次元好きの匿名さん22/05/05(木) 17:07:09
- 134二次元好きの匿名さん22/05/05(木) 17:11:16
読者の視線を感じてるんだろう コマの向こうから見てる俺たちを
- 135二次元好きの匿名さん22/05/06(金) 00:10:50
荒船隊の隊室によく分からないオブジェが置いてあるの知ってるか?
いや、設置されてたというか、荒船隊のオペレーターの人が作ったらしい。作品名は……なんだったか。
ともかく、それが突然動き出すとか増えるとかって噂があってな。
いつかの真夜中、それを確認しに行った奴がいたんだよ。そうしたら、マジで動いてる!ってんで大騒ぎになったんだけど、実際はトレーニングしてた穂刈だったんだと。
はっはっは、怖い話かと思ったか?残念だったな!
ちょうど夜のシフトが荒船隊で、ちょっとトレーニングしてから行くつもりだったんだと。ほかの隊員は先に行ってたし、オペレーターの人はベッドのとこにいたらしいぜ。
え?なんで真夜中にそいつが荒船隊の隊室に入れたか?
そう言えばそうだな。ていうか、そいつって誰なんだ?いや、俺も噂で知っただけだから、誰なのかは知らないんだよ。 - 136二次元好きの匿名さん22/05/06(金) 05:52:18
- 137二次元好きの匿名さん22/05/06(金) 08:54:42
売れ筋は鉢植えと観葉植物、お盆とお彼岸には仏花もよく出る。常連は年配の女性が多いけれど、庭いじりが好きなのだという男性も来るし、昨日は関西弁の女の子が来た。色んな人が色んな人のために、あるいは自分のために花を買っていく。花が好きでこの仕事を始めたけれど、花を買っていく人たちのことも大好きなのだ。
今日は花束の予約が入っているから忘れないうちに、とお客さん希望のガーベラとバラ、それからかすみ草を見繕う。
「華やかね」
「いらっしゃいませ。受験の合格お祝いみたいで」
「もうそんな季節なのね」
リボンの色合いを考えあぐねていると常連のご婦人がお店をのぞいていた。
「あらガーベラ。私いちばん好きなのよ」
「私も好きです。華やかで可愛らしさもありますよね」
「…そういえば、不思議な話なんだけどね」
不織布を切っていく私の手もとを見つめながら、ご婦人は話しはじめた。
「年に一度ね、うちの前にガーベラが一輪だけ置かれていくの。最初は落とし物なのか、猫がどこかから持って来ちゃったのかと思ったわ。でもね」
少しだけ、声のトーンが落ちる。
「去年気づいたのよ。置かれていく日はね、あの侵攻があった日なの」
それを聞いて、あるお客さんを思い出した。「これ、ひとつ」そう言って数年前から年に一度だけ、白いガーベラを一輪買っていく男の人。きっと大切な人への贈り物なんだろう。年に一度しか来ないけれど彼もまた立派な常連さんだ、そんなふうに思っていた。
「あの侵攻で夫を亡くしたものだからもしかして…とか考えちゃって。いやぁね、もう戻って来ないってわかってるのにね」
あの男の人のことを話そうか迷っているうちに、ご婦人は続ける。
「あの人サプライズが大好きだったから、ついついそう思っちゃうのかしらね」
今日はこれとこれにするわ。白とピンクのガーベラを買って、ご婦人は帰って行った。
「すみません。花束を予約していた…」
「王子様ですね、ご用意できてますよ」
花束を抱えて嬉しそうに去っていく男の子たちを見送りながら、新しい季節というのは変わらず巡り、またやってくるものなのだなと思う。
花に囲まれていると季節の変化を感じる瞬間は多いけれど、私にはもう一つそれを意識させられることが増えた。毎年第一次侵攻のあった日に、白いガーベラを一輪だけ買って行く男の人。早いものであの日からもうすぐ5年が経とうとしている。 - 138二次元好きの匿名さん22/05/06(金) 18:49:04
保守
- 139二次元好きの匿名さん22/05/07(土) 00:33:44
そこにネコはいない
学校からボーダー本部までの道中たまたま隠岐と会い、どうせ行き先は一緒だからと並んで歩く。ここにマリオと海も加わることもあるが今日はいない。二人でだらだらと駄弁りながら歩みを進めていると、隠岐が突然嬉しそうに顔を輝かせた。
「あっネコや~」
スキップでもするように軽やかな足取りで道を逸れて走っていく。こうやって猫を見つけては構いに行く隠岐を最初は置いて行こうとしたのだが、「ちょお、水上先輩、置いてくなんて酷いやないですかぁ」とぐずられてからは急いでない限り待ってやることにしている。我ながら優しい先輩だと思う。足を止め、細い道の奥に入っていく隠岐の背中を見る。
なんやちょっと薄暗くて奥の方が見えにくいなと思っていると、隠岐はぴたりと動きを止めて「あら」と声をあげた。そうしてそのまま猫を撫でるためにしゃがむこともなく、くるりと踵を返して戻ってきた。
「ネコやなかった……」
「アホやん」
「だってそう見えたんですよ~」
どうやらゴミかなにかと間違えたらしい。抜けてるやつだ。しょんぼりと眉を下げる隠岐の背中を叩いて「ほなさっさと行くで」と先を促す。
最後になんとなく、もう一度ちらりとその細道の方に視線をやる。薄暗いそこにはゴミ一つなく、隠岐が猫と間違えたと思われるものが何なのか俺にはわからなかった。 - 140二次元好きの匿名さん22/05/07(土) 11:30:12
隠岐は案外霊感が強いのかな、気のいいお兄さんだから引き寄せやすいのかも?
- 141二次元好きの匿名さん22/05/07(土) 12:01:40
思い出の曲、とか目に焼きついてる景色、とか、人の記憶と五感が結びついているという話はよく聞くけど私の場合それは「におい」だ。大好きだった姉さんが大好きだったソースの香ばしいにおい。あれから馴染みのお好み焼き屋は移転して思い出のにおいからは遠ざかっていたけど、梅見屋橋に引っ越した私はそのお店とあっさり再会したのだった。
荷解きを終えて薬局にゴミ袋だの洗剤だのを買いに出た帰り道、懐かしいにおいとのれんを見つけて思わず立ち止まってしまった。移転先ってこの辺だったのか。引っ越し作業に追われてお昼を食べ逃していた私のお腹は、ソースのにおいに反応して情けない音を響かせてしまった。
「いらっしゃいませ」
入口の観葉植物の水やりのためか、如雨露を持った店主の奥様が出てきた。薬局の袋を下げた姿では何となく店に入るのが躊躇われたけど、食欲と、何より思い出のにおいには逆らえない。
「あの、テイクアウトってできますか?」
「えぇできますよ!中どうぞ」
結局席に案内され、水とおしぼりまで出していただいてしまった。
「何しましょ」
「豚そば焼き、ってまだやってますか」
「あら東三門の時にも来てくれてたの!ありますよ、豚そば焼き」
モダン焼きに豚玉1枚をさらに重ねたボリュームメニュー。姉とふたりで半分ずつ、いつも食べていた懐かしい一品だ。
「姉とよく食べてたんです」
「…あら嬉しい。少々お待ちくださいね」
なぜか2つずつ持ってきた水とおしぼりを1つずつ下げながら、奥様は厨房へ入って行った。
店内は移転前とは結構変わってたけど、お客さんの雰囲気や鉄板からたちのぼるソースの香ばしいにおいはあの頃と変わらない。街も人も変わっていくのは必然だけど、変わらざるを得なかったこの地では変わらないものが一等大切なもののように思う。なんて言ったらいつまで昔を引きずってんのって姉さんに怒られそうだけど。
「お待たせしました。あ、今日は5月7日で粉もんの日だからね、全メニュー2割引き。ラッキーねお姉さん」
「ありがとうございます」
会計を終えて家に帰りほかほかの袋を開けると、割り箸がふたつ入っていた。姉さんの話をしたから私とふたりで食べると思って入れてくれたのかな。もう姉さんはいないし一人で一度には食べきれないから、明日の朝も豚そば焼きだ。思い出のにおいとともにスタートした新生活は、とても良い滑り出しのように思えた。 - 142二次元好きの匿名さん22/05/07(土) 23:21:56
メモリーズ(1/2)
あたしにはパパがいない。
って言っても物心ついたときにはもう家の中はママとあたしだけだったから、パパがどんな人か知らない。ママも何も言わないし、あたしも特に知りたいとか思ったことないから、今までパパという存在に憧れたことも恨みを持ったこともなかった。
国語の先生の声はやわらかくて心地いい。教室に染み渡るような「少年の日の思い出」を聴きながら、ついついぼーっと違うことを考えてしまう。
最近、同じ人が夢に出てくる。男の人、っていうか知らないオジサン。最初に夢に出てきたときはぼんやりと立ってるだけで、誰だアレって感じだった。けど、あたしの名前を呼んで手を振ってきたり、一緒にご飯食べたり(これは2回見た。1回目はさばの塩焼きで2回目はファミレスみたいなとこでハンバーグ食べてた)、散歩したり(この時のあたしはなぜかちっちゃかった)、そうやってちょいちょい夢の中に現れるから、なんかの暗示なのかなーとか思った。やけにリアルだし。それともなんかの呪い?だったらどうしよう…気にするから余計に夢に出てくるのかもしんないから一旦忘れよう。いや忘れようと思ってる時点で意識してるからダメだこれ。夢占いが好きな友達に聞いてみよっかな、とかぐるぐる考えてたらチャイムが鳴って、いつの間にか授業は終わっていた。 - 143二次元好きの匿名さん22/05/07(土) 23:22:49
メモリーズ(2/2)
中学校から帰ってテレビをつけると、ニュースでボーダーの会見をやっていた。なんか遠い土地のことだしあんまピンとこないなぁなんて思いながらぼーっと画面を見てたら、広報官みたいな人と記者がやりあってる中で、画面の奥に見覚えのある顔を見つけてびっくりした。
「…湯水のように湧いて出るとでも思っとるのか?! 少しは考えて…」
夢に出てくるオジサンだ。夢よりちょっとずんぐりしてる気もするけど、タヌキみたいなあの顔の感じはあのオジサンだ。アップになったのはその一瞬だけだったから、名前とか役職とか何かわかるようなものが映ってないか探したけど見つかんなくて、そのうち画面の中では同い年かちょい上くらいのメガネの男の子がばしゃばしゃフラッシュを浴びていて、そのせいかどうかわかんないけど頭がどんどん痛くなってきて、そのときちょうど帰ってきたママにねえあたしこの後ろに映ってるタヌキみたいなオジサン知ってるって言ったらママがビックリした顔しててそれで──
「意識は回復したようです。記憶についてですが、今のところ問題ないようです」
「問題ない?」
「…問題ないというのは、その…『父親のことはきちんと忘れている』という状態であるということです」
「…わかった。幼年期に処置した記憶の封印が経年によって緩みが出たのか、思春期という年代と関連するのか原因も調査してくれ」
「了解しました」
あまりにも淡々と話すものだから、もしかして室長自身も娘さんの記憶を封印しているのかと勘違いしそうになる。公私きっちりわけて考えられる仕事人間。……でももし勘違いじゃなかったら?記憶の封印は自身の意思で?それとも自身の預り知らぬところで?そもそも何で俺は室長と娘さんのことを知ったんだっけ?この仕事をしていると、時々自分の記憶すら疑ってしまう。本当の自分は今ここにいる自分なのか?明日の俺はちゃんと今日の俺のことを覚えているか?何だか今夜は眠れそうにない。 - 144二次元好きの匿名さん22/05/08(日) 09:52:15
悲しかったけど実際ありそうなのが切ないな
- 145二次元好きの匿名さん22/05/08(日) 20:09:36
ほしゅ
- 146二次元好きの匿名さん22/05/09(月) 02:17:09
- 147二次元好きの匿名さん22/05/09(月) 13:04:53
あれは誰
「なあ外岡~聞いてくれよ~!」
「ん? どうしたの」
「おれさっき南側の連絡通路使って本部に来たんだけどさ、そこ通ってる時に向かい側から人が歩いてきたんだよ。普通に歩いててさ、別に何にも変なところとかなくて、おれ通りすぎる時にお疲れ様です~っつって挨拶してさ。その人もおーお疲れーって普通に返してくれて」
「ふむ、それで?」
「そんで、こないだその人にメシ奢ってもらったっけって思い出して、こないだはごちそうさまでしたって言ったんだよ。また今度一緒にメシ行きましょうね~、そうだなまた今度なーなんて話してさ、普通にその場で別れてそのまま歩いてたんだけど、途中であれっ? って思ったんだ」
「何かおかしいことでもあった?」
「おれ、最近誰にもメシ奢ってもらった記憶ないんだよ」
「……ん? え、どういうこと」
「だからさ、誰にも奢ってもらってないはずなのに、その人に奢ってもらったって何故か思い込んでたんだ。そんでもう一回よく考えてみたんだけど、そもそもあの人って誰なんだ? おれは誰と話してたんだ? って気がついて……そんなに時間たってないはずなのにもうその人の顔も声も思い出せないんだよ……男か女かもわかんない……」
「え、なに、怖い話?」
「怖い話! 一人で抱えてるの嫌だったから外岡も巻き込んでやろうと思って!」
「おいこら」
「んじゃおれ行くわ! またなー」
「ん、またなー。……まったくしょうがないやつだなぁあいつ」
「トノ。そろそろ訓練の時間だから一緒に行かない?」
「お、古寺。うん行こうか」
「そういえばさっき誰と話してたの? 見ない顔だったけど、支部の人とか?」
「ああ、あいつは……あれ?」
「トノ?」
「あいつって、誰なんだっけ?」 - 148二次元好きの匿名さん22/05/09(月) 14:49:17
- 149二次元好きの匿名さん22/05/09(月) 21:04:23
- 150二次元好きの匿名さん22/05/10(火) 03:52:05
- 151二次元好きの匿名さん22/05/10(火) 06:48:09
安定供給有難い…
- 152二次元好きの匿名さん22/05/10(火) 16:27:45
- 153二次元好きの匿名さん22/05/10(火) 21:14:28
誰もいない静かな川沿いの夜道をバイクで走るのは気持ちいい、はずなんだけど、デザートのアイスを食べながら聞いたヒカリちゃんの話を思い出しちゃって、ちょっと怖くなってきた。ユズルが先に帰っちゃったあと、遊真くんに今日バイクで来てるから玉狛まで送るよ、って話をしてたんだっけ。
「バイクっていえばさー怖い話あるじゃんか」
「何~ヒカリちゃん、怪談?」
「聞いたことねーか?けっこーなスピードでバイク走らせてんのに、なんか変な感じがして横を見たらおばーさんがダッシュで追いかけてきてるってやつ」
「えっ何それ知らない、ゾエさん怖い」
「ターボババアってやつか」
カゲの言ったターボババアになんかちょっと笑っちゃったけど、こういう話は興味ないというか今までほとんど触れてこなかったから、結構有名な話みたいでちょっと驚き。
「それは本当に人なのか?動物と見間違えたとかじゃなく?」
「あーこういう話はな、わりと昔から全国各地にあんのよ。怪談っつーか、都市伝説ってやつじゃねーの」
「すばやいおばあさんが全国に…?」
戸惑う遊真くんにトーマくんが説明してあげたり、「素早いのか…勝負してみたいな」とか言い出しちゃった鋼くんに「何の勝負だよ」って向かいのテーブルの荒船くんがツッコミ入れたり、「俺も取りたいな、バイクの免許」って穂刈くんが言い出してからはどこの教習所がいいとかあのバイクが欲しいとかそういう話題に変わっていったけど、夜道でバイクを追いかけて来るおばあさんっていうのは初耳の自分にとってはなかなかのインパクトだった。
そんなことを思い出しながら走ってたから遊真くんを降ろしたあとは一人でドキドキだったけど、結局おばあさんどころか猫ちゃん一匹にすら遭わないまま家についてほっとした。ちょうどそのとき帰ってきた弟が「うわ、どしたのそれ」って言うまでは。バイクの後ろ側には、たくさんの手形がべったりついてた。
「うわあ!何これ!…遊真くんを降ろしたときはこんなのなかったのに」
「どこ通って帰ってきたの?」
「玉狛から川沿いを通って…」
「…あそこの川、4年前の侵攻があった時になりふり構わず逃げて溺れた人たちの霊が出るって有名じゃん…」
…怖い話や都市伝説は信じちゃい過ぎるのはダメだけど、何も知らないよりはある程度知ってたほうがいいのかも。 - 154二次元好きの匿名さん22/05/11(水) 00:57:12
- 155二次元好きの匿名さん22/05/11(水) 08:08:54
保守
- 156二次元好きの匿名さん22/05/11(水) 17:54:32
一日十五分
ドライブが好きだ。目的地を決めて行くのも良いが、気分の赴くまま自由に愛車を走らせるのも良い。今日の気分は後者だった。
一限の講義が終わった後、午後からの防衛任務までの時間潰しがてら愛車に乗り込んだ。しばらく街中を走って喧騒を楽しんだり良さそうな雰囲気の喫茶店を見つけて今度隊の皆で来ようと思ったりしているうちに、空腹を覚える時間になった。そろそろ本部に向かって食堂で昼食にしようと決める。
何も考えずに走ったため現在地は見覚えのない場所で、本部までの道が曖昧だ。カーナビでルート検索をすると幸いなことにそう遠くなく、二十五分程度で目的地に到着するらしい。
ナビに従って走って、十分ほど経っただろうか。ふと、何かがおかしいと違和感を抱いた。その違和感の正体を探ろうとしてすぐに気がつく。
太陽の位置がおかしいのだ。
今はまだ昼の十二時を少し過ぎたくらいの時間のはずだ。時計を見てもそれは間違いない。それなのに太陽は今にも西に沈みそうな位置にあり、空も深い赤になっている。いったいいつの間にと驚きつつ、ナビの指示で右折した。そういえばさっきから誰ともすれ違わない。前も後ろも走っているのはこの愛車一台だけで、歩道にも周囲の家屋にも人影が見えない。静まり返った街で聞こえてくるのはエンジンと風の音、そしてナビの音声だけだ。
近界民の新手のトリガーによる攻撃だろうかとも思ったがボーダーからの連絡はない。不思議に思いつつ車を走らせ続けていると太陽はみるみるうちに地平線に沈み、赤い空は暗くなり、星空に変わる。早送りをしているように星が動き、光の軌跡を残していく。こんな不思議な光景を見ながらのドライブは初めてで、少し気分が高揚した。
そうして星空はだんだんと明るく白くなる。日の出を見ながら左折するとボーダー本部が見えた。そろそろ目的地に着きそうだ。
ついに太陽は高く昇り、この不思議な現象が起きる前とほぼ同じ位置にまで戻る。約十五分間の出来事だった。
それと同時に目的地に到着し、ナビが終了した。ボーダーの関係者専用の駐車場に車を停めて下りると空は青く、その色はしばらく眺めていても変わりそうになかった。
「加古さん、なんだか機嫌が良いですね」
「そう? ドライブしてきたからそのせいかしら」
「楽しかったですか?」
「ええ、とっても。良いドライブだったわ」 - 157二次元好きの匿名さん22/05/11(水) 21:59:38
みんなすごいな…
自分はこんなに上手く書けないわ - 158二次元好きの匿名さん22/05/12(木) 00:24:05
- 159二次元好きの匿名さん22/05/12(木) 03:10:38
- 160二次元好きの匿名さん22/05/12(木) 03:16:51
- 161二次元好きの匿名さん22/05/12(木) 13:23:17
文章上手人(うまんちゅ)がいっぱいいて良いスレ
楽しい - 162二次元好きの匿名さん22/05/12(木) 18:49:55
この街では 1/2
得てして、転校生というのは注目されやすいものだ
ましてや「あの」三門市からの転校生となればなおさらであり、案の定初日から怒涛の質問ラッシュを浴びることとなった
"嵐山さんに会ったことあるの?"
"近界民ってどんな感じ?"
"スゲー侵攻あったみたいだけど大丈夫なのか?"
実際のところ、嵐山隊はテレビでしか見たこと無いし、近界民は噂でしか知らない
大規模な侵攻時にはそもそも三門にいなかったため答えようが無いのだが、そこは嘘にならない程度に相手の望む返答をした
空気を読むのはそこそこ得意なのだ
そのおかげか、はたまた珍しい名字のためか、幸いにも何人か友人もできた
勉強は苦手だが体を動かすことは好きだったので部活に入った
彼女がいないことを除けば、まぁ悪くない学生生活だろう
夏休み最終日、友人の誘いで祭りに行った
着替えに時間がかかりちょっと遅れてしまったが、皆から一言ずつつっこまれただけで終わった
日頃の行いってやつは大切だ
専ら自炊派のおれは、屋台はパスして型抜きやヨーヨー釣りを楽しんだ(本能的に苦手なので金魚掬いはやらなかったが)
一通り楽しんだ後に周りを見渡すと、目立たない位置に射的の屋台を見つけた
いい時間だし最後にあれをやっていこう
金を払って銃とコルク弾を受け取る
弾は5発だ
1発、2発と射っていくが中々真っ直ぐ飛ばない
5発目でようやく中ったものの、景品は倒れるどころか微動だにしなかった
銃を返すときに屋台のオヤジが"ニイチャン、綺麗な構えだったぜ"と褒めてくれたが、そんなことより景品くれよって感じだ
まぁなんだかんだ楽しかったし良いか - 163二次元好きの匿名さん22/05/12(木) 18:50:39
この街では 2/2
帰りは方向が同じ友人とダラダラ駄弁りながら帰った
"今日は楽しかったな!また明日から学校かぁ..."
憂鬱そうな友人に、睡眠が記憶の整理や定着に役立つことを教えてやり、今日は早く眠ることを勧めた
"そうなのか?お前そんなことよく知ってんな"
昔誰かに教えてもらったんだが、はて誰だったっけか?
別れ際、友人は集合した時と同じ台詞を口にした
"しかしお前、いつもかぶってるとは言え浴衣に帽子は流石にどうかと思うぜ"
誰に迷惑かけてるわけでもないし別に問題ないだろう
"まあお前が良いなら良いけどさ"
"じゃあまた明日な、別役"
珍しいせいか、周りのやつらは皆おれを名字で呼ぶ
この街では誰もおれを太一と呼ばない - 164二次元好きの匿名さん22/05/12(木) 18:55:16
- 165二次元好きの匿名さん22/05/12(木) 20:54:54
- 166二次元好きの匿名さん22/05/12(木) 23:04:32
このレスは削除されています
- 167二次元好きの匿名さん22/05/12(木) 23:05:58
ファン「あいつが除隊されるなら記憶処理されるよな」
→よっしゃ、書き下ろしたろ!!
こうなる訳ね、なるほど。庇いきれなかったか、庇ってくれる人が既にいないか。他の人のSSでもそうだったけど、家族みたいな雰囲気が特に強い隊だと誰かを喪った際のダメージがエグい。
- 168二次元好きの匿名さん22/05/13(金) 07:52:54
保守
- 169二次元好きの匿名さん22/05/13(金) 10:14:55
怖い話というか不思議な話だった。原因がサッパリ分からないけど。
- 170二次元好きの匿名さん22/05/13(金) 21:36:00
三門に住む子ども達はかくれんぼをしない。近界民にさらわれる、そういう認識が広まってからは親が言い聞かせるまでもなく、一人で誰もいない場所に隠れるという行為が危険だと感じた子ども達は誰も自ら「かくれんぼしよう」とは言わなくなった。
「でもアレより前はフツーにしてたじゃん?かくれんぼとか、かくれ鬼とか」
昼休みの教室で弁当を食べながら米屋が懐かしいことを言う。確かにあの第一次大規模侵攻の前、小学生だった頃は何も気にせず遊んでいたように思う。放課後も休日も、公園や空き地で。
「あー、なんか変なこと思い出したわ」
小3の、もみじが散ってたから秋の終わりか冬の初め頃で、放課後に同級生と遊んだ後の帰り道だった。通り道の小さい公園の近くで「かくれんぼしよう」と女の子から声をかけられた。自分より年下みたいだったし見ない顔だったから転校生かなと思ったが、「いずみくん、かくれんぼしよう」と名前を呼ばれたので向こうは自分を知って声をかけてきたようだった。
「で?結局かくれんぼしたの?」
「いや、晩飯エビフライだったから早く帰りたくて断った」
「何だよそれ~そっから初恋の思い出話になるのかと思うじゃん?」
「それこそ何でだよ、いまだにアレ誰だったのかわかんないし。なんでおれの名前知ってたのか謎だし」
小3にもなると女の子、しかも年下の子と遊ぶことはほとんどなく、同級生の男連中とばかり遊んでいたから本当に記憶にないのだ。ただ、あの時、晴れていたのに急に周りが暗くなっていったことだけは覚えている。
「…まさかとは思うけど」
「…おれもまさかとは思うけど、今思えばあの子近界民だったのかも」
「あ、そっち?幽霊じゃね?って言おうと思ってたわ、名前取られて神隠し、みたいな。まあお前トリオン多いし、マジで近界民に狙われてたのかもな」
「どっちにしてもあんまいい思い出じゃねーな」
もしあの時あの子に応えていたらどうなっていたんだろうと思うとちょっと寒気がしたけれど、今はもう知るよしもない。晴れていた外が急に暗くなってきて、傘持ってないのに天気が崩れるのは面倒だなと思っていたらチチチチ…と緊急招集の音が鳴った。 - 171二次元好きの匿名さん22/05/14(土) 11:21:22
みんな文才あってすごい……
- 172二次元好きの匿名さん22/05/14(土) 11:30:42
「おれ、むかし来馬先輩のお父さんに会った事あるかもしれないっす!」
鈴鳴支部で今の作ってくれた夕食を食べた後、食後に出された良い香りのお茶を飲みながら太一が唐突に言った。
このお茶は来馬先輩のお父上の知人から頂いたもので、見るからに上等そうな箱に入れられたナントカという希少なブランド物は、お父上に世話になったというその知人の方が毎年好意で送ってくれるそうだ。
その話を聞いた今が、「来馬先輩のおうちはお父さまも人格者なのね。親子揃って人に好かれるわ」と言い、オレがそれに内心深く頷いていると、来馬先輩は今の直球な褒め言葉に少し照れたようにしながら「人格者なんてことはないけどよく似てるとは言われるよ、顔がね」と付け足した。
そこで話は冒頭の太一の台詞に戻る。
太一は「今思い出したんすけど!」と興奮したように続けた。
✳︎
オレが本当に小さい時の話なんですけど、その日大きな失敗をしてしまって。一緒に遊んでいた友達を怒らせて、先に帰られちゃって公園で一人で置いてきぼりになったことがあるんです。夕方で、どんどん暗くなってきて怖いし、何より友達にもう嫌われてしまったと思ったら悲しくて。誰も居なくなった公園で泣いてたら、いつの間にか隣に若い男の人が立っていたんです。
歩いてくる姿にも足音にも全然気づかなくて。まるで近界民のゲートから出てきたみたいに唐突でびっくりしちゃいましたよ。まあ気づかないくらい大泣きしてたんすけど。
「どうしたの?なんで泣いてるの?」
その人は優しく聞いてくれました。
おれは自分がいつも余計なことして失敗ばかりする事、友達を怒らせてしまってもう嫌われてしまったかも知れない事、こんな自分が嫌いなことを話しました。
その人は隣にしゃがんで辛抱強く話を聞いてくれて、喋り終えたおれが落ち着いたタイミングでこう言いました。
「太一はその友達に喜んでほしかったんだね。」
おれ的には大失敗で、友達にとっても災難で、もうどうしたって取り繕えないような事なのに、その人はおれを責めないで気持ちを汲んでくれたんす。
「いつか太一のその気持ちが沢山の人を助けることになるよ。ぼくが断言する。だから、どうかその気持ちをなくさないでほしいな。」
たいへんな事を言われたような気がして思わず顔を上げて見たその人の顔、今の来馬先輩にそっくりだったんす。 - 173二次元好きの匿名さん22/05/14(土) 11:31:29
︎
「その人と一緒に友達に会いに行きました。必死に謝ったら許してくれて、こっちも置いていってごめんねって…。その後家まで送ってくれたんですが、お礼言いたかったのにその人いつの間にか消えててたんすよ!友達も親もそんな人見てないって言うし、今の今までこの話忘れてて!顔も忘れてたし名前も知らなかったんすけど……ねえコレ絶対来馬先輩のお父さんでしょ!?」
太一がはしゃいでいる。
たしかにそんな出来た人はそうそう居ないだろうという思いはあるが…。
「太一が子供の頃ってせいぜい10年前よね?今の来馬先輩くらいの人だとすると来馬先輩のお父さまにしてはちょっと若過ぎるんじゃないかしら?」
今の言うこともわかる。
当の来馬先輩は、…気のせいかも知れないがすこしびっくりしたような顔をしているような。
「うーん、ぼくの父ではないかなあ」
「ええ〜じゃあそっくりさんですかね?」
そういえばなんであの人おれの名前知ってたんだろ?案外知り合いだったのかもしれないわよ。太一と今が話すのを来馬先輩は少し困ったように笑いながら見守っている。
「その人が誰であれ、言ってることは合っていたな」
皆の反応が微妙なので不服そうな太一を見てオレが場を取りなすと、来馬先輩はにっこり笑って言った。
「うん。太一は三門に来て街のみんなを助けてくれてるし、いつもぼくの力になってくれるしね。太一と会えてよかったなあ」
これを聞いたオレ達はみんな笑顔になった。このひとはいつもこうだ。ここに居て良いのだと迷わず伝えてくれる。そういえば初めて会った時もそうだったような。
『やあ、やっと会えたね!ようこそ三門へ。君をずっと待ってたよ!』
地元から逃げるように三門に来た自分を快く受け入れてくれた先輩には感謝しかない。あの頃自分の性質に振り回されて全ての人間関係に嫌気が差していたオレがボーダーを選ぶことになった理由はもう思い出せないけど、きっと優しい神様の思し召しだったに違いない。
さあそろそろ解散しましょう。明日も学校があるんだから。今がまるで母親のような号令をかけて、皆でリビングを片付ける。太一が張り切って茶器の乗ったトレーを運ぼうとするのを今と2人でさりげなく止めてようとしていたオレは、背後で来馬先輩がポツリと落とした呟きに気づかなかった。
「おかしいなあ。やっぱり太一だけ思い出してしまうんだね」
- 174二次元好きの匿名さん22/05/14(土) 11:32:08
︎
【数日後•ボーダー本部某所】
ああやっと終わった。毎度記憶封印措置は気が滅入るよ。どうしてこんな事が許されているのかね。
あの子だけ特別多いですね。今年になって2度目ですよ、思い出すの。
〔過去からのスカウト組〕の中でか?そうだな。他の被験者も皆スカウト担当に懐く傾向はあるが、そもそも鈴鳴は特別忠誠心が高いよな。スカウト時の体験がそれだけ強烈だったということだろう。中でも別役君が思い出し易いのは本人の特性だろうね、カンが鋭いんだ。
大丈夫かなあ、あの子ボーダー辞める時の封印措置施行リストに名前がありますよね?こんなに頻繁に思い出しているようじゃ危なくて辞めさせられませんよ。
その点については大丈夫さ。本人からやめることはない。帰属意識が強く何があっても裏切らない兵士を集める、そういうミッションで選ばれた生え抜きだよ。普通ならボーダーなんて所属しようとも思わないような子供がうちに来てくれるようにわざわざ過去に干渉して小細工をするんだよ。素質がある子を集める為にね。
素質ですか?
そう、素直で忠誠心がつよい「居場所のない子」だね。
へえ…エグいですね。そんな事出来るなら4年半前の侵攻を止めて欲しいよ。
この技術が産まれるのが〔侵攻のあった世界軸〕からだから、無理なんだってよ。さあ雑談は終わりだ。午後からは民間の患者の定期検診だよ。
定期検診って名前の封印措置重ねがけですよね?あーあ、悪の組織に所属した覚えは無いんだけどなあ。
- 175二次元好きの匿名さん22/05/14(土) 14:15:31
- 176二次元好きの匿名さん22/05/14(土) 22:17:37
念願の刑事部に配属になってすぐの頃だった。好きだったドラマの主人公のマネをして緑色で丈の長いモッズコートを買って浮かれていたのも束の間、未決の捜索願が少しずつ増えていった。行方不明者の家族が皆失踪届ではなく捜索願を出し、なおかつ一般家出人ではなく特異行方不明者と判断される…家出や駆け落ちではないと判断される事例が続いていた。ほどなく異界からの侵攻が起こり、ボーダーという防衛機関が現れたことで俺達の捜査はほとんど意味を成さなかったのだと知った。それでも泣きながら捜査続行を訴える行方不明者の家族たちに、俺は何も言えなかった。あんなに頑張って勉強してやっと配属になった刑事部を、いや警察を、相棒だった先輩の引き留めを振り切って俺は辞めてしまった。
今でもあの頃の罪悪感が拭えないからか、夜道で一人歩きしている人を見かけると怪しまれるだろうなと思いつつも声をかけてしまう。
「こんな時間に一人で大丈夫ですか?」
やはり不審者と思われるのか、ほとんどは無視されてしまうか、たまにぎょっとした顔でそそくさと逃げるように走って行ってしまうかだ。ごく稀に、声をかけたが誰も居なかった、ということもあった。疲れていて見間違えたのか、勘違いだったのか。この世のものじゃないものが見えてしまったのかもしれない。もしそうだったとしても怖いという感情はあまりない。それよりもあの頃のことを思い出して、助けてあげられなくて申し訳ない、と心の中で宥免と成仏を願ってしまうのだ。
「こんな時間に一人で大丈夫ですか?」
不審者情報として受理していたが、調べていくうちに心霊現象だという噂が耳に入った。それを聞いた時、救えなかった人々とその家族を気に病んだまま刑事を辞め、程なくして死んでしまった後輩だと直感で思った。辞める直前まで時間外に行方不明者の再捜査をこっそりとしていたあいつに、バレてんだよ無理すんなとは言ったが諦めろとは言えなかった。自死なのか事故なのか、わからないままだった。
夜中に一人歩きしていると声をかけてくる男。複数の目撃情報に共通する、緑色で丈の長いモッズコート。
刑事部に配属されてすぐの頃、ドラマの主人公のマネして買ったんですと言っていたあの笑顔を救えなかったやるせなさを、それでも踏ん張ってこの街で刑事を続けていく覚悟で包んで飲み下す。あいつはこの街で刑事をやっていくには優しすぎたのかもしれない。 - 177二次元好きの匿名さん22/05/15(日) 01:12:45
河童1/2
三雲「・・・河童、ですか?」
烏丸「そうだ、河童だ」
玉狛支部の近くで河童が目撃された、という話を聞いたのは、夕食でカレーを食べている時だった。
空閑「ふむ?かっぱとは?」
三雲「河童っていうのは、いわゆるUMAの一種だ」
空閑「・・・?おれの一種?」
三雲「空閑のことじゃなくて未確認動物、つまり実在が確認されていない動物のことだ」
烏丸「なんでもたまに緑色の格好をしたヒト型の生物が目撃されるそうだ」
三雲「近界民でしょうか?」
空閑「少なくとも、おれが渡り歩いてきた国の中には緑色のヤツなんていなかったぞ」
小南「どーせ緑の服着た人を見間違えた、とかそんなとこでしょ?」
烏丸「小南先輩、一昨日支部の近くで換装しました?」
小南「してないわよ!なんであたしが河童に見間違えられなきゃいけないのよ!」
烏丸「身近で緑の服を着てるのが小南先輩くらいしか思い付かなかったもんで」
小南「もういいわよ!今日はもう帰るから後片付けやっといてよね!」
大声を出しているものの、小南先輩の声は少し震えていた
烏丸「帰り道で尻子玉抜かれないように気を付けてくださいね」
小南「・・・っ!レイジさんに送ってもらうわ!」
三雲「あっ、レイジさん今日は諏訪さんたちと飲み会みたいです」
小南「じゃ、じゃあボス!」
空閑「ボスなら朝から出てったきりでまだ戻ってきてないな」
小南「帰ってくるまで待つわよ!」
烏丸「おい修、あそこの窓に人影が見えないか?」
小南「ヒッ!?」
三雲「(あれは小南先輩の姿が窓に反射してるだけでは?)」
恐る恐る振り返った小南先輩だが、当然そこには自分の姿しか写っていなかった
小南「ちょっと!あんたまた騙したわね!」
三雲「ちょっ・・・、ぼく何も言ってないじゃないですか・・・」 - 178二次元好きの匿名さん22/05/15(日) 01:13:20
河童2/2
林藤「なんだなんだ?賑やかだな」
烏丸「お帰りなさい」
空閑「む?その格好は・・・」
林藤「ああ、これか?フィッシングジャケットってやつだ」
空閑「緑色ですな」
林藤「いい色合いだろ」
烏丸「そういえば最近川で釣りしてましたね」
林藤「今回は東と一緒だったし、多少は練習しとかないとな」
小南「やっぱり見間違えじゃない!」
林藤「何の話?」
三雲「気にしないでください」
その後、小南先輩を送るために車の準備をしに行く支部長が思い出したように「ボヤとか無かった?」と聞いてきた
三雲「いいえ、特に何もありませんでしたけど?」
林藤「ならいいんだが、最近雨も降ってないのにそこの窓の外が湿ってたから少し気になってな」
そう言いながら、さっき小南先輩の影が写っていた窓を指差した - 179二次元好きの匿名さん22/05/15(日) 10:59:58
河童は本当にいたんだ!!
- 180二次元好きの匿名さん22/05/15(日) 13:29:37
招待状(1/4)
作戦室にはまだ王子もカシオも羽矢さんもおらず、俺が一番乗りのようだった。今日は次のランク戦のためのミーティングをする予定なので、時間になるまで対戦相手のログでも見ていようか。そう思いながら荷物を机に置くと、スマホが震えて通知を告げた。確認してみると王子からメッセージが来ていた。
アプリを起動して内容を見ると、まず最初にURLが送られてきており、それから間を置かずに「これ見て」と書かれた短いメッセージ。これだけだ。何だろう、と首を傾げる。
「何だこれは?」と訊ねてみるが、王子からの返事は「いいから見て」「きっと気に入る」と具体性に欠ける。詳しい説明もなく行動を強制するというのは王子らしくないと感じたが、よほど内容を知らせないまま俺に見てほしいものなのだろうか。王子がそこまで言うのなら、と俺はとりあえずURLのリンクをタップした。
リンク先には動画が一本あった。動画のサムネイルは知らない風景だ。自然の多い場所のようで草花の緑と空の青以外の色がほとんどない。遠くに小さく人影が見えるが、それが誰かは判然としない。三門市内にこんな場所があっただろうか? 俺も三門の全ての場所を知っているわけではないため断言はできないが、少なくとも俺の行動範囲にはないはずだ。
今はランク戦期間中であり、加えて神田がいる最後のシーズンである今期中に弓場隊を越えようと最近は特に対策を練っている。そんな中、王子にこんな動画を撮る時間があったとは思えない。つまりこれは王子の自作ではなくインターネットのどこかから拾ってきた動画である可能性が高い。
ベタな演出で泣いてしまう俺を王子は面白がっているようで、たまにいわゆる「泣ける動画」を見せてきては俺が涙を流すのを愉快そうに眺めることがあるのだが、今回もそういうことなのだろうか。王子は時おり突拍子もないことをすることもあるし。
まあ王子の意図するところはひとまず置いて、まずは見てみるかと動画を再生した。 - 181二次元好きの匿名さん22/05/15(日) 13:31:01
招待状(2/4)
映像は薄暗い水中から始まった。光がゆらゆらと揺れながら水底を淡く照らしている。くぐもったノイズのような音は水流によるものだろうか。これが川なのか海なのか、魚も植物も不自然なほど見当たらないため判断することができない。魚がいたらきっと光が鱗に反射して綺麗だろうに、と少し残念に思う。
カメラはゆっくり上がっていき、だんだんと明るさが増していく。ざぱ、と水面から出ると草原が広がっていた。サムネイルで見たあの場所だとわかる。ただし、そこにあった人影はまだ見えない。
草原を進んでいくだけの映像がしばらく続く。緑の中にぽつぽつとある色とりどりの花。雲一つない快晴。映るのはたったそれだけの単調なものなのに、見ているうちに何となく郷愁に駆られるような切なさが胸の内に湧いて出てきた。単調ではあるが美しい景色だからだろうか? これがどこの風景かは依然としてわからないが、一度くらい訪れてみるのも良いかもしれない。きっと長閑な美しい写真が撮れるだろう。
そうして何分か同じような景色が映し出された後、画面の奥の方に小さな点のようなものが見えてきた。ゆっくりと近付くにつれてそれが人影であることがわかる。ここがサムネイルの場面か。
人影は動かずにじっと立っている。こちらを向いているようだが、やはりまだ顔ははっきりとしない。速度は一定に、少しずつ近付いていく。体格からして男か、とようやく判別できる。顔はまだわからない。また少し近付いて、ぼんやりとしていた人影がしっかりとした像を結ぼうとする、その時。
「何してるんだい?」
肩を叩かれ、俺は体をびくりと大きく跳ねさせた。咄嗟に振り向くと王子がきょとんとした顔で俺を見下ろしていた。いつの間に来ていたのだろう、気がつかなかった。 - 182二次元好きの匿名さん22/05/15(日) 13:32:07
招待状(3/4)
「王子……驚かさないでくれ」
「別に驚かせようとしたつもりはないけど。ぼくが来たことにも気がつかないで、何にそんなに集中してたのかな?」
「お前がさっき送ってきた動画だよ」
スマホの画面を見せるように軽く掲げながら言うと、王子は怪訝そうに眉をひそめた。
「何のこと?」
「は? 何って、さっき送ってきただろう。ほら、この動画……ん?」
さっきまで美しい風景を映していたはずの画面は暗く沈黙していた。動画の再生が終了してスリープしてしまったのかと思いボタンを押したが、どういうわけかあの動画は表示されない。スマホの履歴から遡れないかと思ったがそれもできない。どこにも見当たらないのだ。
おかしいなと首を捻る俺に、王子は静かに言った。
「ぼくが作戦室に来た時、きみは何も映っていない真っ暗な画面を見つめているようにぼくには見えたよ」
「……それは本当か?」
「嘘なんてついてどうするんだい?」
「それはそうだが、いや、でもおかしいだろう。俺は確かに動画を見ていたし、それはお前から送られてきたものだ」
「ぼくにそんなことをした覚えはないね」
ほら、と王子のスマホを見せられると俺とのトーク画面が表示されていたが、そこにはさっきおくられてきたはずの動画もメッセージもなかった。俺も自分のスマホで確認するが、やはり何も痕跡がなかった。煙のように消えてしまっているのだ。
「どういうことなんだ?」
「うーん……きみの言うことが全て真実なのだとして、現実的なのはスマホが乗っ取られて勝手に操作されたとか、あるいは夢を見ていたとか」
「あれが夢だとは思えないが……」
「じゃあスマホ乗っ取りかな? これだときみが真っ暗な画面を見つめていたことは説明つかないけど、それはぼくの見間違いの可能性もないわけじゃない」
つまり、あの動画とメッセージは何者かの悪戯だったのか。それは妥当な考えだと思ったが、俺はどうにも腑に落ちなかった。それは根拠のないただの勘でしかないため口には出さなかったが、王子は俺が納得していないことに気が付いたようで「もしくは」ともう一つの仮説を話し始めた。
「いわゆるオカルト的なことかもしれないね」 - 183二次元好きの匿名さん22/05/15(日) 13:32:58
招待状(4/4)
「オカルト? 幽霊の仕業だと?」
「そうだね。ほら、幽霊とかそういうものに同情したら憑いてきてしまうとか、聞いたことないかい? きみは感受性が豊かだから、そういうモノが引き寄せられてしまったのかもしれない」
それは突飛ではあるが、先ほどの説よりもしっくり来てしまった。背中を冷たい汗が流れる。
「ところでその動画ってどんなものだったんだい?」
「……綺麗ではあったよ。水中の映像から始まって、草原をゆっくりと移動していた。そのうち遠くの方に人影が見えてくるんだが……」
「うん?」
「顔ははっきりとはわからなかったんだが、その……俺に似ていた、ような気がする」
断言はできない。はっきりと見える前に王子に声をかけられたからだ。
あの動画がオカルト的なものであるとして、そこに俺が写っていたとするならば。それがどういう意味なのかは考えたくないところだ。
「動画の中のもう一人の自分か。最後までその動画を見ていたらどうなっていたんだろう? 動画の中の自分と入れ替わったりするのかな? 面白そうだね」
「面白くない」
「あはは。まあ冗談はともかく、またこういうことがあるかもしれないから気をつけてね。逃げ切ったと安心したところを突く、というのは常套手段だ」
「不安になるようなことを言わないでくれ」
顔を曇らせた俺に向かって、王子は安心させるようににっこりと笑った。
「大丈夫。ぼくはきみの感受性が豊かなところを美徳だと思っているよ」
何が大丈夫なんだ、王子。 - 184二次元好きの匿名さん22/05/15(日) 14:00:51
迅さんの視界
隣の家の奥さんはいつも同じ時間に表を掃いている
玉狛支部に向かう途中のカフェにいつも居る仕事途中のサラリーマンは今日も同じサンドイッチを食べている
玉狛支部は大所帯でいつも誰かしらが暇を潰している
横断歩道の脇の少女はいつもボール遊びをしている
瓦礫の合間を縫って本部に向かう途中いつも同じ気配を感じる(俺が通り抜けた後彼は空を見上げてぼうっとしている)
電柱の影の女性は虚空を見つめている
本部の通信室オペレーターの男性はこちらに気づいている
目の前に立って「知っていたんだろう」と俺を責めている
✳︎
隣の家の奥さんは4年半前に亡くなった
玉狛支部に向かう途中のカフェにいつも居る仕事途中のサラリーマンも同じ日にトリオン兵に店ごと押し潰された
玉狛支部はいつも大所帯、最上さんも含めてね
横断歩道の脇の少女は交通事故で死んだ
瓦礫の合間を縫って本部に向かう途中いつも感じる気配の主は自分が死んだことに気づいている
電柱の影の女性は恐怖と恨みで迷った魂
本部の通信室オペレーターの男性は大規模侵攻のボーダー内死者6名の内の1人
目の前に立って「知っていたんだろう」と俺を責めている
知っていたよ
ごめんね〇〇さん
みんな俺には見えていた
見えていて天秤にかけた、軽い方の命だった - 185二次元好きの匿名さん22/05/15(日) 14:48:54
蔵っちはそういうのに好かれやすそうだし王子は対処できそうなの分かる
- 186二次元好きの匿名さん22/05/15(日) 15:26:50
- 187二次元好きの匿名さん22/05/15(日) 20:16:16
I was so in love with him. 流しっぱなしにしていた映画の中の女がso, にアクセントを置いて哀しげに言った所でパン、と派手な音がした。今夜片づけるつもりでいた書類の山から顔をあげると、映画を見せろとうるさかったエネドラはトリオン切れか飽きて自らスリープしたのか大人しいままだ。
何か落ちたか誰か実験で失敗したか。開発室では茶飯事だが今は夜の0時だ。防衛任務に合わせ数名のエンジニアも夜間シフトで居るのだが、緊急トラブル対処の為の出勤なので夜中に実験する奴はいない。ということは昼シフトの奴が残ってるのか。自分の事は棚に上げ適当な所で切り上げろと言いに行くかと実験ラボの方を向いたタイミングで、後輩が寺島チーフお先ですと会釈をよこしていた。
「あれ、もう誰もいない?」
「ラボは俺が最後っすね」
「さっきパンって音しなかったか?」
「いや?聞いてないっすね」
「そっか、お疲れ」
「お疲れっす。チーフも適当な所で切り上げて無理しないでくださいね」
気のせいだったのか。俺も早く片づけて帰ろうと再び書類に向かった時、
I don't know how I can do without… 映画の女が眉尻を下げ泣き出す場面でまたパン、と鳴った。
先程から大切な人と離れた後悔を嘆く女の台詞の時に鳴っている。同じような境遇だった亡者の思念が、いやもしかしたらトリオンが反応しているのか?何か伝えようとしているのか?非科学的な考えだが、隊員「以外」のトリオンも実験対象のここではあり得ないと言い切れない。トリオン器官から作られる人体由来のエネルギーだ、もしかして持ち主の元を離れても…
「おい、これはつまらん。他のにしろ」
起きていたらしいエネドラは相変わらずの減らず口だが、そういえばこいつのトリガー角は記憶や人格を保存していたという事を思い出した。やはりトリオンは持ち主の元を離れても何らかの形で干渉できるのか?
「…さっき変な音鳴った?」
「…さあ?何寝ぼけてやがる、さっさと変えろ」
まさかこの状態で近界と連絡を取ってるのか…?いや、それはないか?一応玉狛のSE持ちの子に立ち会ってもらって確認するか。レイジ経由でサクッとお願いしたい所だが、鬼怒田さんに小言を言われそうだし正規の手続きをするべきか。また書かなくてはならない書類が増え、俺は真夜中のラボで盛大なため息をついた。 - 188二次元好きの匿名さん22/05/16(月) 08:00:43
保守
- 189二次元好きの匿名さん22/05/16(月) 19:34:25
もうちょっとで完走じゃん すご
- 190二次元好きの匿名さん22/05/16(月) 23:19:43
「おついたちまいり?」
「そう、御朔日参り。毎月1日の朝は神社にお参りしてから出社しているんだ。父の代からの習慣でね」
ナンバー2の子のお客さんが連れてきたご新規さんは結構大きな会社の社長さんだったらしく、ヘルプでついたあたしにとってはすごくラッキーだ。月末の締め日にいいお客さんに当たった。
「知らなかった!それって会社がうまくいきますようにとかお願いするの?」
「うーん、お願いっていうより、どっちかといえば1か月無事に過ごせてありがとう、これからの1か月もよろしくって感じかな」
1か月、無事に。死んじゃったり居なくなっちゃったりした人たちを思い出す。あの頃は1か月で、いや1日で世界が変わっていったから。
「経営者は商売繁盛と生業繁栄を祈る人が多いけど、無病息災とか家内安全をお祈りする人ももちろん多いよ」
あたしもやってみようかな。ムビョーソクサイって居なくなった人が見つかりますように、とかでもいいのかな。
「そうなんだ、勉強になる!さすが社長さんだね」
「ふふ、そんなに褒めなくても。好きなの飲みなよ」
「別にそういうつもりで言ったんじゃないけどなー、でもシャンパン飲みたい!ローランペリエ入れてもいい?」
もう何年になるだろう。あたしはこっちの人が言う「近界」から来た。密航者ってやつだ。こっちでの生活にも慣れたし、お酒の種類もたくさん覚えた。難しいヨジジュクゴとかヒユとかはまだまだ覚えきれないけど。
「なんで微妙に遠慮するの、ロゼならドンペリにしよう」
「やった!嬉し~ありがとう社長!」
紛争で家族や友人、たくさんの大切な人を失った。その中にはこっちに、玄界に逃げた人もいる。あたしの兄もそうだ。色んな繋がりができるって聞いて夜の街で兄を探しながら働いてるけど、いまだにそれらしい情報も見つけられないでいる。ここは争いがないわけじゃないけど、故郷に比べれば段違いで平和な世界だ。だからあたしや兄みたいな密航者が出る。
「かんぱ~い!」
この街はボーダーって組織に守られてて、この社長さんはそこの一番大きいスポンサー、息子さんは隊員なんだって言ってた。何で争いが起きてるのか勉強できないあたしにはサッパリわかんないけど、近界も玄界も戦わないで平和になればいいのに。社長も息子さんもあたしも兄も不意に死なないような世界になれば。バカみたいに高いお酒を飲みながらそんなふうに思った。 - 191二次元好きの匿名さん22/05/17(火) 01:21:34
ボーダーの隊服ってカッコいいよね
実はちょっとコスプレとか興味あって
元々裁縫得意だし?こう見えて?ハハ…
定番の嵐山隊もカッコいいんだけどあたしチビだしさあ、パンツ系似合わなくて
もうちょっと可愛いのが良いなって思ってさ探したの、したらさ
あの川の上に建ってる支部あるでしょ
あそこの隊服ちょっとおしゃれじゃない?
で、へへ、真似して作っちゃった
同じくらいの身長の子いてさ、ちょうど良いなって
太もも丸出しで恥ずかしいけどなかなか良く出来たと思うんだよね
今から撮影いくんだ
そうだよ廃墟を背景にさあ
ガチでしょ、結構こだわっちゃうんだこういうの
ここら辺かな?結構暗いね
警戒区域雰囲気ある〜
こんなポーズどう?いけてる?ハハ
ボーダーの人って傷つくと煙みたいな出るよね?
えっ見たことない?いやほらあたしめっちゃ研究するタイプだから!こう見えて?あれ何なんだろうね?
…!?あっ!サイレン鳴ってる!?
ゲート開いた!?うそ?
近界民出たみたい
やべーガチの撮影会になっちゃった
わっ!すごい何!?細かい光る爆弾みたいなのいっぱい降ってくる!…!?痛ッ
痛い痛い痛い痛いギャアアアアア!ッ痛い!!!やだあ!痛いよ!!
……っあぁ…瓦礫が……降ってくる……
……………
…………………グシャッ - 192二次元好きの匿名さん22/05/17(火) 01:22:06
「出水せんぱい今日派手にやりすぎじゃない?」
「うるせーなテスト明けなんだよちょっと憂さ晴らしさせてくれ」
「いーけど今誰かの隊服見えたぞ、あの辺先に誰か来てたんじゃね?」
「うそまじで?やっちまったか…怖くない人がいいな」
「ベイルアウトしてないし大丈夫大丈夫」
「玉狛っぽい色だったかなぁ」
「おっなら怒られんで済むかな?蓮さーん!あの辺誰がいる?…………蓮さん?」
- 193二次元好きの匿名さん22/05/17(火) 02:04:50
普通校1-Cのこわい話
最近一番怖かったこと何?
人型近界民?わかるわ…
半崎1発で粉々になってたもんなートリオン体なかったらと思うとゾッとする
オレ諏訪さんトリオンキューブにされた時がいちばん怖かった……オレのせいで諏訪さん死んじゃったかと思ってその後黒角と戦った時より怖かったなあ
太一は?え?地震?こないだの?
たしかに大きかったけど意外だな
え?地震自体じゃなくて?
咄嗟に避難しようとして先輩たちの本体が入ったトリガーホルダーを持って外に出て……無くした!?と、トリガーホルダーを!?
無くしましたって言った時の先輩達の青い顔が忘れられない?ト、トリオン体も青くなるんだね…じゃなくて良かったねすぐ見つかって……いやそこは怒ろうよ来馬先輩……村上先輩も……今先輩1人で叱って済む案件じゃ
…太一本当に怖かったんだね……涙目になってそりゃ怖いようん…今度から気をつけような……
佐鳥はさっきから黙ってどうしたの?
最近怖かったことなかった?
え?今?
どういう事?
何でここにいるのって?
みんな死んだはずでしょって……何の話? - 194二次元好きの匿名さん22/05/17(火) 06:55:20
銀魂みたいに出稼ぎでこっち来てる近界民とかいそう
- 195二次元好きの匿名さん22/05/17(火) 12:06:44
- 196二次元好きの匿名さん22/05/17(火) 12:13:06
- 197二次元好きの匿名さん22/05/17(火) 12:14:49
わざわざ返答ありがとうございます!承知しました、お待ちしておりますので無理のない範囲でスレ立てよろしくお願いします。
- 198二次元好きの匿名さん22/05/17(火) 15:22:07
ボスは釣りが好きだけど、全然釣れない。前は釣れないならさっさと引き上げちゃえばいいのに、何が楽しいんだろうと思ってたけど、今は何となく釣れなくても川面を見つめ続けるボスの気持ちがわかる、気がする。
修たちが玉狛に入って来てすぐの頃だったと思う。天気が良いから、と洗濯して外干ししていたシーツを取り込むために上がった支部の屋上から、1階裏の階段に座ってたばこの煙を吹かしながら釣糸をたらしてるボスの頭が見えた。また釣れないのにやってる、と思ってると川のきらきらした穏やかな流れの間に見覚えのある面々が映って見えたからびっくりした。
なつかしい顔ぶれ。かつて一緒に戦って、そして、いなくなっちゃった仲間たち。
怖いというより驚きが先に来て、それから寂しさと悲しさがじんわりこみ上げてくる。
「こなみ先輩?」
「なに、あんた今日こっち居たの」
「お、ふたりで何話してんだー?今日の俺が何匹釣れるかの予想か?」
屋上に上がってきた遊真との話し声が下まで聞こえたのか、ボスが気づいてこちらを見上げてくる。もう川面には何も映っていない。
「違うわよ!どうせ釣れないんだから予想するだけムダでしょ」
「ハハ、手厳しいねえ」
そう言ってたばこの火を消して、もう一度釣糸の先を見つめる。
「…こなみ先輩は、ボスが心配なのか?」
「何言ってんの。心配することなんて何もないでしょ」
「つまんないウソつくね」
「…うるさいわね。シーツ取り込むの、あんたも手伝いなさい」
心配、してるように見えたのかな。心配というか、ちょっと不安になっただけ。ボスにもあれが見えてるのかどうかわかんなかったし、もしかしたら川の中に引っ張られちゃうんじゃないか、って。でも冷静に考えたらあたしや迅やレイジさんたちからボスを取り上げるようなことはしない人たちだから。さっきはちょっと、急だったから動揺しただけ。ばさばさとシーツを抱えながら屋上を後にする。
「ていうか遊真、あんたも見えてたの?」
「何が?」
「…何でもない」
ここが本部だった頃の、今よりにぎやかだった頃の思い出の欠片が所々ににじみ出る瞬間があって、ボスはそういう時に何とは無しに釣糸をたらしているんだろうなと思う。川面を見つめながら釣れない釣りを続けて、確かにここで生きていた仲間たちを思い出して。 - 199二次元好きの匿名さん22/05/17(火) 20:10:07
本当に完走すると思わなかったし最後までSSの投稿途切れなかったのマジですごくない?SS書いてくれた人も保守してくれた人もありがとう
- 200二次元好きの匿名さん22/05/17(火) 22:09:21
このスレに書き込まれた怪談は全部で57編でした。
百物語まであと半分。
スレ主はそっと目の前の蝋燭をを吹き消した。