オリss書いてく10

  • 1二次元好きの匿名さん25/09/17(水) 18:30:19

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    オリss書いてく|あにまん掲示板【第一話】緊張! はじめてのデート大作戦bbs.animanch.com
  • 2125/09/17(水) 18:33:07

    登場人物・用語解説
    ◯魔術使い
    ヒトと共に暮らし、ヒトより高い身体能力と特別な術『妖魔法術』を有する希少で特別な生き物。
    容姿はほぼヒトと変わりないが、中には獣の耳や尾を持つ個体も。

    ◯魔術科学園
    魔術使いが強力かつ安全な魔術の使い方を学ぶ為に入学する公立の学園。
    日本には札幌校、渋谷校、名古屋校、大阪校、高松校、福岡校の計六つがある。
    中高大一貫校で、学年は九つ。

    ◯夏伊勢也(なついせいや)(13)(♂)
    先端が赤く染まった白い短髪に金の瞳、チーターのような獣の耳と尻尾を持つ魔術科学園名古屋校の中等部二年生の男子。
    暴れん坊だが明るく天真爛漫な性格で、嫌いなことから逃げるのが得意。

    ◯鳴神新(なるかみあらた)(16)(♂)
    紺色と薄水色の長髪に紫の瞳、ユニコーンのような耳と尻尾、角を持つ魔術科学園名古屋校の高等部二年生の男子。
    美しい容姿を活かしてモデルとしての活動をしており、穏やかな物腰とは裏腹に非常に自分に対してストイックである。

    ◯鴨橋立(かものはしだて)(16)(♂)
    前髪のみがオレンジ色に染まった白い髪、青い瞳、カモノハシの尻尾を持つ魔術科学園名古屋校の高等部二年生の男子。
    おちゃらけた性格で、どんな時も騒がしく賑やか。

    ◯得田家路(とくたいえろ)(16)(♂)
    センター分けにした黄色い髪に紺色の瞳、虎の耳と尻尾を持つ魔術科学園名古屋校の高等部二年生の男子。
    常に論理的かどうかを重視し、非科学的なことに弱い。

  • 3125/09/17(水) 18:34:17

    ◯東海望(とうかいのぞむ)(18)(♂)
    紺のメッシュが入った白い髪にオレンジの瞳、羊の角を持つ魔術科学園名古屋校の高等部三年生。
    元生徒会長で、自分のことがとにかく大好きなナルシスト。

    ◯鮫島光(さめじめひかる)(19)(♂)
    灰色の髪に緑のメッシュと瞳、サメの尻尾を持つ魔術科学園名古屋校の大等部一年生。
    口が悪いので誤解されやすいが、本当は面倒見が良くて優しい。

    ◯初雁隼(はつかりしゅん)(15)(♀)
    先端が水色に染まった銀の長髪に右が青で左が金の瞳、ユキヒョウのような耳と尻尾を持つ魔術科学園渋谷校の高等部一年生。
    北海道にある剣術の名家初雁家に双子の妹の狛と共に生まれており、剣術の達人。
    真面目な性格だが、時に年頃の女子らしい一面も。

    ◯初雁狛(はつかりこま)(15)(♀)
    先端が赤に染まったツインテールの黒髪に右が金で左が青の瞳、クロヒョウのような耳と尻尾を持つ魔術科学園渋谷校の高等部一年生。
    隼とは双子の姉妹だが、姉とは違って剣術よりもおしゃれやランチが好き。

    ◯獅子賀煌輝(ししがこうき)(15)(♂)
    センター分けにした銅色の髪にライオンのような耳と尻尾、赤い瞳を持つ魔術科学園渋谷校の高等部一年生。
    誰に対しても用心深い性格で簡単に信用しようとせず、仲良くなることは難しい。

    ◯雲雀椿樹(ひばりつばき)(13)(♂)
    コーラル色のインナーカラーが入った茶色のふわふわとした髪に柴犬のような耳と尻尾、緑色の瞳を持つ魔術科学園渋谷校の中等部二年生。
    初雁家に代々仕えている雲雀家の出身で、隼と狛は幼少期から従者として奉仕してきた幼馴染。
    右目が長い前髪で半分ほど隠れているが、非常に怖がりで臆病な主人や勢也などの信頼している人物以外にはそれを頑なに見せたがらない。

  • 4125/09/17(水) 18:35:25

    上郷山陽(うえさとさんよう)(18)(♂)
    青のメッシュの入った灰色と黒の髪に緑の瞳、褐色の肌、龍の尻尾を持つ魔術科学園大阪校の高等部三年生。
    必要最低限なことしか話さず、助詞をよく省略しているので言いたいことが伝わらないことも。

    桜燕(さくらつばめ)(16)(♀)
    漆色と白の髪にピンクの瞳、燕の尻尾を持つ魔術科学園福岡校の高等部二年生。
    ボーイッシュな容姿だが、男に間違われることは少ない。

  • 5125/09/17(水) 18:36:32

    【第15話(第1シーズン最終話)】行くぜ!真夏の海水浴と最高のサンシャイン

  • 6125/09/17(水) 18:37:39

    「………Feは鉄。Cuは銅。Znは亜鉛で、Agは銀。ご覧になりましたか隼お嬢様!! 僕はとうとう化学元素記号表の空欄を何も見ずに埋めることができました!!」

    「凄いわ、よく頑張ったね。偉いね。」

    ある晩の魔術科学園渋谷校の寮室にて、高等部一年生の初雁隼が従者にして中等部二年生の後輩である雲雀椿樹の勉強の面倒を見てやっていた。

    椿樹は隼に二十個の元素記号を何も見ずに書くと宣言し、それを見事に実践してみせたのだ。

    隼が撫でようと腕を伸ばす前に、椿樹は自らの額を撫でて下さいと言わんばかりに差し出す。

    柴犬のような耳をご丁寧にも垂らし、頭を撫でやすいようにしている。

    「はいはい。」

    少し困惑しながらも、微笑みながら隼はその額を優しく撫でた。

    それが相当に嬉しかったのか、椿樹は尻尾を風を起こさん勢いで左右に振りまくった。

    (可愛い………。)

    「じゃあ、今日の勉強はこれでおしまいね。もうベッドに入って眠りなさい。」

    「ええっ、僕はゲームがしたいです。これを全て頭に入れるまでずっと自粛していたのですから。」

    「気持ちは分かるけど、寝る前にゲーム機やスマホなどの画面を見ることは睡眠の質を低めるのよ。我慢して寝なさい、ゲームはまた明日。」

    「そんなあ………はあ、分かりました。それが命令であるのなら、潔く従います。」

    不服そうな態度を残しながらもベッドに向かう椿樹に、隼はおやすみなさい、と声を掛け寮室を去っていった。

  • 7125/09/17(水) 18:38:49

    隼が自身の寮室へと向かい廊下を歩いている途中、見回りを終えた担任の教師と偶然にも遭遇した。

    「よお、隼じゃあないか。」

    「わっっ! ………あら失礼、こんばんは先生。」

    見慣れた教師といえど、いきなり背後から話しかけてくるものだから驚かされる。

    そんな隼の様子を気ともせず、教師は彼女の左肩を掴みグイグイとナンパ師のように身を寄せる。

    その軽薄な態度が隼は気に入らなかったが、それを伝えることはできなかった。

    彼が雑談をしたがったので、隼は先ほどの椿樹のことを話した。

    「………ほほう、椿樹は成績は良いとは言えないが勤勉に取り組んでいるようだな。」

    「ええ。勉強自体はそこまで好きではないようなのですが、私に褒められることがモチベーションになるのでしょうか。」

    「きっとそうだぞ隼。ところでだが………もう夏だな。既に海開きが行われているところもあるらしいぜ。」

    「急に話題が変わるんですね。………はっ!」

    呆れたようにそう言った時、隼はあることを思い出した。

    「そうだ。〝あの約束〟、そろそろ果たしてやってもいいんじゃないか?」

    「ええ、当然忘れてなどいません。そうね、あの子にああ言ったものね………。」

    勉強を頑張ることを条件に、夏になったら海に連れて行くーーー今年の五月辺りに、椿樹とそう約束したのだ。

  • 8125/09/17(水) 18:40:21

    その約束をしたきっかけは忘れもしない、約二ヶ月ほど前の渋谷校の中間試験の日であった。

    期末試験を終えた椿樹がご褒美と称し、普段家事を代行していることへの対価を兼ねてゲームソフトをねだってきて、高いから難しいと優しく伝えれば良かったところを私は冷たく言い放った。

    「試験勉強を頑張るのは自分の将来や成績、進路の為なの。だから当たり前でしょ、ご褒美なんて求めないで。」

    まだ十三歳の、中学二年生の椿樹が自分の将来や成績、進路についてイメージしづらいのは容易に想像できたはずなのに………自身が真面目すぎるが故に、その考えに至ることができなかった。

    そして代替案として出した海に連れて行って欲しいというお願いも、私の水着目当てだと決めつけてつっけんどんに拒否し傷つけてしまった。

    最終的に椿樹が土砂降りの中学園を飛び出していくのを止められず、ようやく捜しに行く気になって外で椿樹を見つけた時彼は二人組の大柄な男に捕まっていた。

    椿樹を連れ去ろうとする男二人組を何とか倒すことに成功するも、あの子の身体は既に冷え切った上にお腹を空かせて飢えており、自慢の尻尾の毛並みもボサボサに乱れていた。

    「いかのおすしを知らないのか」とあの時はあの子を叱ったし、彼もわがままを言って迷惑をかけてごめんなさいと謝ってはくれたが………分かっている、本当に反省しなくてはならないのは私の方だ。

    椿樹が家事をしてくれるのを当たり前のように思い感謝を怠り、たかがゲームソフト代を惜しんだが為に財産で取り戻せない彼の存在を永久に失いかけ、海に行きたいという彼の要望を自分の水着目当てと決めつけて拒否した。

    後に双子の妹の狛に聞かされ気付かされたのだが、彼は去年は諸事情で、一昨年はこの学園に入学する為の受験で忙しく海に行く暇がなかったのだ。

    故に海を恋しく思っており、海水浴に連れて行って欲しいと強く懇願したのであった。

    その時はご褒美と今回の件の埋め合わせ、そして日頃の感謝の気持ちを込めてデートをしたいという椿樹のお願いを叶えてやり、とりあえず解決には至ったのだが………まだあの時彼とした「勉強を頑張るのを条件に、夏になったら海に連れて行く」という約束を叶えてあげられていない。

    椿樹が勉学に励んでいるのに、こちらがその約束を無碍にすれば示しがつかないというものだし、何より相手に無礼というものだ。

  • 9125/09/17(水) 18:41:27

    翌日隼は椿樹に会い、このことを伝えたのであった。

    「椿樹!」

    「はい! 何の御用でしょうか隼お嬢様。」

    「今週末、海に行くわよ!!」

    ええっ!! 左様ですか!?

    唐突にして直球なる発表は、椿樹を大いに驚かせた。

    「あら、あなたが行きたがったんじゃないの? 海。」

    「それはそうですが………あの約束覚えていらしたのですか?」

    「当然でしょ。カレンダーにも記しておいたし。私が人とした約束を反故すると思う?」

    「するはずがありませんね。失礼致しました。」

    こうして三日後の日曜日、初雁姉妹と椿樹、煌輝は「問題解決部の合宿」という体で海へ赴くことが決まった。

    友達を連れてくることを許可された椿樹は、まず名古屋校にいる勢也に声を掛けた。

    それを聞いた勢也は面白そうだと思い、軽音部の面々を誘って同行することにした。

    更にそれを聞いた軽音部員の一人、望は大阪校にいる親友の山陽を共に来ないかと誘った。

    そして山陽は福岡校にいる仲良しの後輩、燕にこのことを話した。

  • 10125/09/17(水) 18:42:29

    こうして四校にも渡る、誘いの連鎖が繰り広げられ続けた結果………。

    「椿輝、お友達を連れてきて良いとは言ったけど………。」

    「はい。」

    「………流石にこんなに来るなんて思わなかったわ!!」

    椿樹の後ろには、十人もの魔術科学園生がズラリズラリと並んでいた。

    彼が直接誘った者も、そうでない者も揃っている。

    「誘ってくれてサンキュー、だぜ! もう待てねー、早く海水浴びてーっ!!」

    「ほほう、これほどまでに楽しそうな催しがあるとは。何故もっと早く言わなかった?」

    「まさか渋谷校から福岡校のボクの元まで噂が届くだなんてね、思わなかったよ。」

    計十二人も生徒が並ぶと、流石に圧巻の一言だ。

    どれも連れて行ってもらう気満々で、流石に追い返すことなどできない。

    「ちょっと! 私達も忘れないでくださる?」

    「海ってサイコー!! マジでチョベリグ!!」

    「!?!?」

    そう言いながら隼の背後から、更に謎の生徒が現れた。

  • 11125/09/17(水) 18:43:30

    渋谷校の高等部三年生である須琶美宇子(すはびうこ)と、中等部二年生の紗吹伊瑠実(さふいるみ)だ。

    「やっほー!! ウチらも同行っていいカンジ?」

    「椿樹に誘ってもらったのよ。同じ中等部二年生のよしみでね。」

    失礼だけど、どなたかしら?

    隼がそう尋ねようとした時、椿樹が入瑠実の元へと駆け寄った。

    「入瑠実殿!!」

    「椿樹!? 彼女と仲良しなの?」

    遡ること数日前。

    休み時間になる度に高等部一年生の教室に隼らに会いに行っていた椿樹に、隼がこう言ったのであった。

    『私達に会うのもいいけど、同級生とももっと仲良くしないとだめよ。』

    それを命令と解釈した椿樹は同級生の誰かと仲良くしようとしたのだが、過去に悪事を働いたことのある彼と親友になりたい者はいなかった。

    そしてある日の美術の授業にて、ペアになって互いの似顔絵を描くことになった時。

    「悪いことした奴と組みたくねー。」

    「可哀想だけど………また意地悪されたら嫌だしなあ。」

    椿樹のペアに誰もなりたがらず、次々と組んでいく周りに置いていかれ孤独を感じていた彼の元に一人の女子生徒が現れた。

  • 12125/09/17(水) 18:44:39

    「あなた、私と組みなさい。この『一流』たる私にペアを誘われたのを、永遠に光栄に思うことね。」

    それが入瑠実であった。

    あの時独りぼっちであった僕に、唯一手を差し伸べてくれたのだ。

    何より嬉しかったのは、彼女が椿樹を哀れんだから誘ったわけではなかったこと。

    入瑠実は椿樹そのものを見て相棒に選んでくれたし、その証拠に容姿も褒めてくれた。

    『前髪は上げなくてもよくってよ。その隙間から光を灯す蓬のような翠眼………木漏れ日のようで美しいもの。』

    『その髪色、〝アリ〟ね。茶色いところがシンプルながら王道を往くチョコレートなら、コーラル色のところはそこに鮮やかな華を添えるルビーチョコレートのようで。』

    『尻尾をこちらに向けてくれる? その手入れの行き届いた美しい毛並みが気になって。残念ながら似顔絵故に画には映してあげられないけど、個人的にとても気になるもの。』

    『低い身長と中性的な顔立ちがコンプレックス? その低すぎる審美眼、自分以外に向けてないでしょうね。貴方の美が最も宿っているのは他の何でもなくそこでしょうに。』

    (身長は必ずしも美を決めるものではない………その言葉は、僕を救ってくれたな。)

    しっかり者で確固たる自分の芯を持っており、時には厳しく誤りを正してくれる情に溢れる存在であった。

    『勘違いならさないでね、私は貴方が過去にしたことを許しているわけじゃないわ。ただ昔の貴方と、今の貴方の区別をちゃんとつけられるだけ。今の貴方は気弱だけど優しくて、思いやりがあって、女性への礼儀もなっていて………』

    『………だから、その。これからもしまたこうしてペアを組む授業があったら、私を呼ぶことね。いいわね? 隼先輩には至らないかとだけど、私も貴方の主人………ないし、お友達になってあげるから。』

    『はい!!!』

    それが、二人の友情の始まりであった。

  • 13125/09/17(水) 18:47:05

    そういうことがあったから、彼女は椿樹が勢也以外で呼んだ唯一の同級生なのであった。

    「そういうことがあったのね………椿樹に渋谷校内の同級生の友達ができてよかったわ。伊瑠実ちゃん、椿樹と仲良くしてくれてありがとう。」

    「どういたしまして隼先輩。彼の遊び相手はお任せくださいですわ!」

    「ならここで帰りなさいとは言えないわね………他の九人も。本来ここまで大勢で行く予定ではなかったのだけれど。」

    「ま、いんじゃね? とりあえずウチは全員で行きたい。だって大勢の方が賑やかで楽しいじゃん。」

    そうね、みんなで行きましょうか。

    隼は狛の言葉に説得させられ、納得し皆で赴くと決めた。

    こうして本来行く予定であった問題解決部の四人と噂を聞きつけた八人、椿樹の唯一の学園内の親友である伊瑠実、そして泳ぎを教えられるからと勝手についてきた謎の先輩媄宇子の計十四人は海へと行けることになった。

    彼らが学園内に設置された転移装置の前で待っていると、問題解決部の顧問にして引率係である高等部一年生の担任がやってきた。

    「おや、これは中々に壮大じゃあねえか。」

    「あら先生、お待ちしておりました。」

    「俺は問題解決部の四人だけ連れて行くつもりで来たんだが………」

    「だめ? 融通利かせてよせんせー。」

    「………ま、これはこれで面白いからよし!」

    顧問は八人を連れて行くことを快く許可してくれた。

  • 14125/09/17(水) 18:50:00

    彼らは転移装置に触れ、海を強く思い浮かべた。

    ほどなくして十四人が、郊外の伊豆にある海水浴場へと着いた。

    その全員の視界に映ったのは、それはそれは雄大な光景であった。

    澄んだ青空。

    漣の音。

    カモメの鳴き声。

    はしゃぐ人々の声。

    そして………

    「ゴミ多っ!!!!!!!!!!!!!!」

    金のように美しいはずの砂浜には、誰かが食べ散らかしたポテトチップスの袋や飲みっぱなしの空き缶、ビン、ビニール袋。

    それらがばら撒かれたかのように浜に、海に散乱し景観を非常に乱している。

    「はっはっ。これは流石にちょっと………酷いなあ。」

    「私達で掃除できるかしら?」

    「えー、オレ早く海入りてーっスよ。」「僕もです。」

    「こんな汚ったねぇ海で楽しめんのかよお前ら。」

  • 15125/09/17(水) 18:51:12

    「「それは………難しいかも。」」

    「上手くできるかは分かんないけどさ………やってみようよ!!!」

    「そうだね。モデルの仕事柄汚いところにはあまり長いしたくないし。」

    「賛成。俺達所有義務美化此の場所。」

    「これを見過ごしておくだなんて、絶対に一流のすることじゃないもの!」

    「そうしたい気持ちは山々であるが………吾輩らにできるだろうか?」

    論理的に申し上げれば、私達だけでは難しいーーー家路と望はそう疑問を残したが、十五人による大掃除が決まった。

    広大な砂浜を約七分割し、それぞれに二〜三人を設置する。

    ゴミを拾い、同じ種類ごとに集め、設置されたゴミ捨て場に捨てに行く。

    紙、金属、プラスチック。

    きちんとリサイクルできるように、しっかり分別して捨てる。

    大量のゴミを両腕で抱え、懸命にゴミ捨て場と砂浜を往復する。

    それでゴミが零れ落ちてしまうなら、落ちているポリ袋を運搬に使用する。

    プラ系のゴミしか入れなければ、袋ごと捨ててしまえるのだ。

    それでも一部の潔癖症は、ゴミを触らざるを得ない状況に戦慄したり文句を言っていた。

  • 16125/09/17(水) 18:52:14

    「汚ったね〜!! んなことしなきゃなんないのマジイミフなんだけど最悪。」

    「不潔、即ち不快! 不愉快! 尻尾は汚れていないでしょうか。雑菌はどのくらいいますか? 不安で不安でたまりません!!」

    「わがまま言わないの! ………と言いたいところだけど、こればっかりは同意ね。ゴミを触れば触るほど、一流の美から遠ざかっていく気がしてならないわ。はぁ。」

    「ゴミを触り。心に障り。はぁ………モデルとして幼少期から美しいものに囲まれて生きてきた弊害か………。」

    真面目にゴミを集めてこそいるものの、その口から漏れるのは不満ばかり。

    (私も我慢しているのだが………。)

    (全く、あの子達ったら美しさにばかりこだわっちゃって。)

    それは皆の我慢の限界を、耐えられる許容量をいとも簡単に突き破ってしまった。

    最初に堪忍袋の緒が切れた光が、ゴミ拾いを放棄して声を荒げる。

    「………ぁぁぁぁああああもうっ!!! 潔癖症組がうるっせえな!!! 俺達が文句言ってねぇからって、何の不満もなくやってると思ってんのかよ!!!」

    「鎮静、鎮静! 先輩所有義務深呼吸!!」

    「してられっがよ!!! こっちが汚さや臭いに耐えて真面目に頑張ってる側で、好き放題文句ばっか言いやがっでよぉ!!!」

    やめだやめ!!! と光は拾っていたゴミを投げ捨て、その場を立ち去ろうとしてしまった。

    皆が一斉に、文句を言っていた四人を見る。

    「は? ウチらのせいって言いたいわけ? どう見ても光先輩が勝手にモチベ失ったんでしょーが。」

  • 17二次元好きの匿名さん25/09/17(水) 19:23:56

    スレ主…

  • 18125/09/17(水) 19:32:47

    「誰のせいと言い合っていても仕方ない。五人もやる気を失った以上、ここは真剣に解決策を考えるしかない。」

    煌輝のその一言で、十人はゴミ拾いをしながら思考を巡らせ始めた。

    手を使わずにゴミを拾い、ゴミ捨て場へと運ぶ方法を。
                  ・・
    「私の風の妖魔法術では、ゴミだけを浮かせることはできないわ。砂も拾ってしまうもの。」

    「論理的に申し上げれば、私の雷で妖魔法術でゴミを焦がし黒炭に変えることはできる。しかし、それだと地面も焦がしてしまうな………。」

    「ボクの光や山陽の闇の妖魔法術は、そもそも物体に干渉はできないんだよね………。」

    「椿樹を殴って言うことを聞かせればいい。両手や尻尾が汚れることに、文句を言う度に殴って黙らせる。」

    「物騒千万。発想恐怖。」

    皆が頭を回転させている中、橋立だけは様子が違った。

    「おおおりゃおりゃおりゃおりゃぁぁぁあああ!!!!!!」

    砂浜をものすごい勢いで掘り進め、溝を作っている。

    流石高い身体能力を持つ魔術使いというべきか、その溝は道路の排水溝ほどの深さがある。

    手で掘るのが非効率だと判断したのか、やがて地面につけた頭をドリルのように扱い泳ぐように掘り進め始めた。

    「橋立先輩。遊んでいる場合じゃないだろう。」

    「全くだ! 我々が全脳細胞を総動員させて真剣に考えているというのに………」

  • 19125/09/17(水) 19:34:34

    「待て。俺推測、彼現在所有妙案一つ。」

    他の皆が橋立を批判する中、山陽だけは彼を冷静な目で見ていた。

    やがて砂浜を掘り進め終えた橋立が戻り、勢也にあることを頼んだ。

    「勢也くん、この溝を君の水の妖魔法術で濡らしてくれる?」

    「マジすか? まあ、あんたの頼みなら聞くけどよぉ………」

    疑問を抱きながらも勢也が溝の上に小さな雨雲を作り、雨を降らせて湿らせる。

    ジャワアアアァァァァァ!!!

    「こうか? これで合ってんだよな?」

    「そうそうこれこれ!!どうもありがとう!!」

    「じゃあ新くん! この溝を凍らせて、お願い!!」

    「いいけど………どうして?」

    新が先ほどの勢也と同様に疑惑を持ちながらも、氷の妖魔法術を使い溝に冷気を吹きかける。

    「冷たいから、みんなは下がってて。」

    キラン、カキン、カキャン。

    新が妖魔法術を使うと、その溝はみるみる凍って固まっていった。

  • 20125/09/17(水) 19:35:57

    他の皆も頭にハテナマークを浮かべながら、その様子をじっと眺めていた。

    彼の作りたかったものは、程なくして完成を遂げた。

    「ようし、できた!!!」

    できたった、何がですか?

    隼のその問いに橋立は、言葉でなく目配せで返した。

    そして語らず代わりに実演し、何ができたのかを皆に説明する。

    「勢也くん、もう一回水の妖魔法術を使ってくれる?」

    「おうよ。」

    勢也が妖魔法術で再び出した水は、小さな小さな川となって溝に沿って進んでいった。

    「そうかなるほど!! ………で、こっからどうなんだ?」

    「なるほどと言っておいて分かってないのか。」

    「オレは大体分かるぜ! 橋立が何するつもりなのかな!! つまり………」

    「この水の流れにゴミを乗せ、ゴミ捨て場まで流すというわけだな。」

    勢也より発案者の橋立より早く、煌輝が完璧に答えを言ってしまった。

    「そ、そう。その通り。今煌輝くんが言ったことが大正解。要するに水のダクトってわけ。」

  • 21125/09/17(水) 21:49:33

    「ダクトは管だろうが。これはベルトコンベアーだ。」

    光がそう訂正するが、用途としてはそこまで間違ってはいない。

    しかし問題は砂浜が斜面になっていて、ゴミ捨て場はその上にあることだ。

    普通に流せばゴミがゴミ捨て場に入るどころか、逆に海に流されてしまう。

    何とかしてやりたいところだが、まだ中等部二年生の勢也の力のみではこれに抗える水流は出せない。

    特に空き缶などの金属系のゴミは、集まると紙やプラスチックの比ではない重さとなりダムのように水流をせき止める。

    「これは由々しき事態だな。」

    「いい線行った気がするんだけどね。」

    そこへ何をしているのか興味を持ったのか、椿樹と伊瑠実が戻ってきた。

    「おや、楽しく水遊びをなさっているのですか?」

    「ふん! 人にはああ言うのに、自分達もそうやって遊んでいるじゃないの!!」

    「遊んでいるんじゃないわ。このゴミを浮かべながら砂浜の斜面を遡る水流を作りたいの。」

    そう話しているうちに、狛と新も続いて戻ってくる。

    「よっ! 順調?」

    「先ほどはわがままを言ってすまなかったね。………って、それは何だい?」

  • 22125/09/17(水) 21:53:11

    隼は戻ってきた四人に、現在抱えている問題について話した。

    事情を全て聞いた狛は他の三人が考え始める中、さすがは天才肌というべきか早速一つの案を思い挙げた。

    「勢也、椿樹、伊瑠実ちゃんが力を合わせて水流作るんじゃダメなの?」

    「それだ!!!!!!」

    一同が手を叩き、感嘆の声を上げた。

    確かに妖魔法術は複数の使い手が力を合わせることで、より強力なものを発生させられる。

    火なら獄炎、風なら台風、雷なら万雷。

    水と風を組み合わせればウォータースパウトが生まれ、雷と風を掛け合わせればそれは嵐にだってなり得る。

    一人より二人が、二人より三人が手を組めば災害級の技だって不可能にはならないのだ。

    唯一問題があるとすれば、それは勢也、椿樹、伊瑠実の全員がまだ中等部であること。

    学びの浅く経験のない彼らが、果たして成功させられるかどうか………。

    「僕達に可能でしょうか。水の妖魔法術の使い手である僕とこちらの御二方は、失礼ながらまだ正確なそれの習得に至っていないのですが。」

    「そうね。〝一流の水流〟を見せてあげられる保証は残念だけどないわ。」

    「まだ完璧じゃないから………いつまでそうやって逃げる気だ? 不完全燃焼を覚悟で突き進まねばならぬこと、生きていれば何度だってある。」

    「そうだぜ。それにお前らはさっき散々駄々捏ねて迷惑かけたんだ。そんぐらいしてもらわなきゃ筋が通らねえだろ。」

  • 23125/09/17(水) 21:57:42

    「んー、それもそっか。」

    「分かりました。ベストを尽くします。」

    望と光に背中をグイっと押されたことで、勢也らはとうとうその気になった。

    そして溝の前に立つと皆に離れるように言い、水の妖魔法術の呪文を唱えた。

    「「「水流の妖魔法術、威力I!!!」」」

    彼らの呪文に呼応し、溝の中に大きな手のような波が立った。

    それは重い缶のゴミをがっしりと掴み、勢いよく力強く押し上げる。

    「!!」

    「進んでる進んでる!! ゴミが砂浜の斜面を登ってるよ!!」

    「勢也くん椿樹くん伊瑠実ちゃん、バッチグー!!」

    ゴミの大群はグングンと、砂浜の斜面を登っていった。

    さながら意思を持っているかのように。

    まるで己の行くべき場所を自覚し、そこに自ら向かっているかのように。

    その様はその場にいる全員を感心させるには充分すぎるほどであった。

    しかし………「あれ、スピードダウンしてない?」

  • 24125/09/17(水) 21:59:32

    やはりというべきか、残念というべきか。

    中等部の妖魔法術の力では三人分であっても足りず、どうしても止まりそうになってしまう。

    「なら、こうすればいいのよ!!!」

    「!!??」

    進行を失いかけたゴミを見かね、自身の風の妖魔法術でそっと後押しする隼。

    「隼お嬢様!?」

    「後輩が頑張っているんだもの!! 私だって、ここでやらなきゃ示しがつかない!!」

    「なら俺も力貸してやらぁ!!!」

    隼と加勢した光の起こす風により、止まりかけていたゴミはジェット船のようにこうそくですすみだした。

    最終的に全てのゴミは、とうとうゴミ捨て場の元へと辿り着いた。
    〜 〜 〜
    一方で新は怪しげな魔物がいるのに気付き、その場をそっと離れていた。

    人間の小僧のような姿をした魔物が、食べ終わったポテトチップスの袋をポイと捨てている。

    「ゴーミゴーミポーイポーイ、ゴーミポーイポーイ♪」

    どうやらこの魔物が、砂浜をゴミだらけにした犯人らしい。

    近くにいる人をポイ捨てをしたい気持ちにさせ、自身もポイ捨てをするのが大好きな迷惑極まりない魔物ーーーゴミポイポイの介だ。

  • 25二次元好きの匿名さん25/09/17(水) 22:00:10

    クソssであにまん圧迫すんじゃねぇよ

  • 26125/09/17(水) 22:00:40

    「ゴミポーイポーイ♪ たっのしーな♪ ゴミポーイポーイ♪」

    「ちょっとそこの君………?」

    明らかに怒りの漏れている優しい口調で声を掛けながら、ゴミポイポイの介の頭を鷲掴みにする新。

    「な、何だよオマエ。急に何すんだよ、離せよな!!」

    「ポイ捨てが楽しい? うんうん、すっごく分かるよ。僕もポイ捨てが大好きさ。ゴミが手元を離れていく感覚が堪らないよね、こんなふうに………ねっ!!!」

    「うわっ!?」

    そう言うと新はゴミポイポイの介を持った腕をぶん回し、そのまま海に放り投げて「ポイ捨て」してしまった。

    「うわーーーっ!!!」

    ドボンッ。

    「美しい景観というのはね、そこを管理する人々の努力と訪れる人々の思いやりの上に成り立っているんだ。君みたいに自分勝手に振る舞う子はお呼びじゃないんだよ? ゴミが散乱した街は見た目が悪くなり、不愉快な気持ちにさせる。それに捨てられたゴミは景観を損ねるだけでなく、悪臭や害虫の発生源にもなり得るんだ。それから君は公共の場にポイ捨てされたゴミを誰が片付けるのか知っているかい? 地域自治体の人々さ。だけど彼らだってお金を貰って生活している。ポイ捨てされたごみを片付けるための清掃費用は、地域の税金で賄われることになるんだ。税金は叶うならば使わない方がいいものだし、それが〝ゴミ〟達の為に使われてしまうのは勿体無いよね。だからポイ捨ては法律で禁止されているし、違反すると廃棄物処理法によって五年以下の懲役、または一千万円以下の罰金罰則が科せられるんだ。分かったら君もポイ捨てをやめて………はあ、もう聞こえないか。」
    〜 〜 〜
    砂浜が綺麗になったことで、十五人は管理人や他の客から感謝された。

    「いやあ坊やたち、どうもありがとう。」

    「最近ゴミが増え続けて困っていたの。おかげで助かったわ。」

    お礼をしてあげると言われたが、彼らは皆早く着替えて海に入りたい気持ちであった。

  • 27125/09/17(水) 22:02:26

    気持ちだけ受け取ってあげます、と返して皆を振り切り各々の更衣室へ駆け込む。

    全員が着替え終わるのには、約五分ほどかかった。

    やがて全員が着替えを終えて、海岸の前に集合した。

    水着姿の十四人が揃うと、それは中々に壮観で合った。

    椿樹と新は珍しくポニーテール姿で、普段は長く垂れる前髪を上げ両眼をはっきりと見せている。

    その光景が物珍しく見えたのか、狛と伊瑠実、媄宇子、燕はパシャパシャと写真を撮りまくる。

    「うぅ、恥ずかしいですよ………。」

    「こらこら、そんなに人を無闇矢鱈に撮るものじゃないよ。マナーがなってない。」

    「まあ照れんなって! それにしても、みんな意外とお洒落なの着てきたじゃん。椿樹の迷彩柄海パンは予想外だったけど意外と似合ってる。ただ一人残念なのがいるなぁ〜。」

    「えっ、誰?」

    「アンタだよ隼!!! 何で友達と海水浴行くってコンセプトでセレクトがよりにもよってそれなの?!?」

    狛の言う通り、それなりに着こなしとセンスを活かして水着を選んだ隼以外。

    しかし隼はと言うと………何を思ったのかスクール水着を此処に持ってきてしまったのだ。

  • 28125/09/17(水) 22:03:51

    口にしないだけで、他の十三人のうち椿樹を除き狛の言葉に内心激しく同意していた。

    「敢えて海水浴場にスクール水着で来ることで笑いを振り撒く精神、素晴らし………」

    「アンタは黙ってて!!! 話がややこしくなる!!!」

    強引に擁護をした椿樹を、主人を甘やかすなと黙らせる狛。

    「いや、今回はあくまで椿樹の付き添いだし。そんなに着飾る必要はないかなって。」

    「あるに決まってんでしょ!!! 恥ずかしいったらありゃしないんたけどスク水のヤツが側にいると!!! アンタは別に恥ずかしくないかもだけどウチらが恥ずかしいんだよ!!! そんなにスク水好き!?! 今度からあだ名『透水(すくみず)さん』にしてやろうか!?! しかも何その無駄に達筆な『初雁隼』の字!?! 水泳の授業ん度に思ってたけどさあ!!!」

    「椿樹は字が汚いから、こうすれば同じ初雁でもすぐ分かるかなって。」

    「さり気なくディスられたんだが!?!? しかもウチのスク水との差別化なら『隼』の一文字で十分でしょうに………もういいや、海行こ!!!」

    翻弄してくる相手のマイペースさにとうとう観念させられたのか、狛は気にするのをやめて皆と共に海水浴場へと向かった。

    ゴミのなくなった海水浴場は、それはそれは快適なものであった。

    砂金のように輝く美しい砂浜に、海面は磨かれた硝子のような透明感を持つ。

    空は海水を鏡で写したかのように清々しい青一色で、その潔さはさながら絹の如し。

    さらさらとした砂が足裏をくすぐやら、寄せては返す海水の波が足と無邪気に戯れる。

    こっちにおいで、一緒に遊ぼう。

  • 29125/09/17(水) 22:05:50

    海がまるで自分達に、そう語りかけているようであった。

    その声に応えるかのように、真っ先に海岸へと来たのは椿樹。

    最も海に行きたがった、誰よりも海への渇望を持つ彼だ。

    しかし中々着水しようとせず、海をつま先でちょちょいとつついている。

    チャプ、チャプ、チャプ………

    「………!!」

    うっかり足をずぶりと入れ、冷凍庫のような冷たさに驚き慄く椿樹。

    「何ビックリした? 海初めて? 涼む為に来る場所なんだから、そりゃ冷たいに決まってるでしょ〜。」

    「それは全くもって仰る通りなのですが、その………底が見えにくいのが不気味でして。カニを踏んだり、タコに脚を絡まれたりしそつで怖いのです。」

    「分析妖魔法術、発動。………半径三キロ以内、タコ未確認。」

    「そりゃんなとこにタコいるわけねーだろ。椿樹の怖がりは相変わらずだな。」

    「全くその通りだ。吾輩らは貴様の為に付き添いで来てやったようなもの、肝心の貴様が弱気でどうする。」

    勝手について来ておいて何が付き添いで来てやっただというツッコミはさておき、椿樹は兄貴分達に揶揄われてきまりの悪い気持ちになった。

    しかし彼らの言う通り、自分のお願いで連れて来て貰ったのに海を怖がってしまうのはおかしい。

    何とか震える一歩を踏み出して、海へと足首を海水に漬けた、その瞬間ーーー

  • 30125/09/17(水) 22:07:49

    「ぅぅぅうううええええええいいい!!!」

    ザッパーン!!

    向こうから橋立がもの凄い勢いで助走をつけて飛び込み、辺り一面に雨を降らす壁のような飛沫を上げた。

    「ひひゃあっ!?」

    氷の如く冷たい塩水が、椿樹に頭から降り注いだ。

    「あっははー!! 今の反応面白かった!!」

    「おい橋立。他の客もいるんだぞ。」

    「そうよ! いきなり濡らされたらびっくりしちゃうんだからっ!」

    咄嗟に光と媄宇子が咎める。

    実際椿樹はただ俯き、黙ってひたすら俯いている。

    前髪を確かに上げているのに、表情が全く見えそうにない。

    彼の耳や尻尾は水を吸い、重たそうにだらんと垂れる。

    (怒ってる………?)

    「あ、あのごめんね!! 今の、わざとやったわけじゃな、いやわざとだけど!! ただのいたずらだから!! さ!! ね!?」

    「橋立殿………。」

  • 31125/09/17(水) 22:08:59

    低いトーンが響く。

    椿樹は唐突に顔を上げると、橋立に向かってこう言った。

    「橋立殿………今の、今の最高です!!! もう一度して頂けますか!?!? 滝のように降り掛かった冷水、気持ちよかった!!!」

    「!?!?」

    彼は怒るどころか逆に、非常にご満悦な様子であった。

    全身に水が降り掛かったことで、吹っ切れて水への恐怖を克服できたのだ。

    「ひんやりしていて気持ち良いです。ほら、皆様も如何ですか!?!」

    「嘘だろ、この流れで怒ってないパターンがあるかよ………。」

    「そっか、それは良かった!!! じゃあ………もっとやってあげるね!!!」

    感謝された橋立は気分が良くなり、妖魔法術で大量の水鉄砲を呼び寄せた。

    ドサッ。ドサドサッ。

    「わっ!? なんでそんな水鉄砲持ってんだよお前。」

    「出し物は道具があってこそだからね〜。十五人分あるよ。」

    動揺している光と煌輝を、早速拾った水鉄砲でまとめて狙い撃ちにする橋立。

    「スキあり〜!!」

  • 32125/09/17(水) 22:10:53

    「おいズリぃだろ!! 不意打ちしやがっててめぇ!!」

    「まあいいんじゃない? お返しならこれからこの銃で、存分にしてあげるから………ねっ!!!」

    十五人が水鉄砲を持ち、楽しい銃撃戦が始まった。
    〜 〜 〜
    『はぁ〜、不満だなぁ〜。』

    「? 椿樹、今何か言った?」

    楽しく水鉄砲で戯れている最中。

    伊瑠実の耳に、唐突に何かのぼやきのような声が聞こえた。

    真っ先に近くにいた椿樹を疑うも、どうやら彼は発していないらしい。

    今この瞬間を誰よりも楽しんでいる椿樹は不満から最も程遠いのだから、当然のことだと言うべきか。

    しかし伊瑠実のそれは本人にとってとても気のせいとは思えず、尚更に彼女の懐疑を深めた。

    「椿樹! 私に水を当てられる?」

    「隼お嬢様に!? 畏れ多くてできかねます!!」

    「じゃあ、これが『私を本気で狙いなさい』という命令だったらどうかしら?」

    「できます!!」

    椿樹は伊瑠実の言葉を気にもせず、隼と水で戯れ始めた。

  • 33125/09/17(水) 22:12:11

    そうだ、この場に不満を抱いている者など一人もいないのだ。

    だからそんな声が聞こえてくるわけーーー「あーあ、不満だなぁ〜。」

    えっ?

    「不満だなぁ〜。日差しが眩しすぎて、不満だなぁ〜。」

    「不満だなぁ〜。はしゃぐ子供がうるさすぎて、不満だなぁ〜。」

    「不満だなぁ〜。人が多すぎて落ち着かなくて、不満だなぁ〜。」

    「「「あ〜あ、不満だなぁ〜。」」」

    また出た、この聞いているだけで滅入らせてくる出所の分からぬ不満の声。

    ねぇ、今のお聞きなさったかしら?

    伊瑠実は他の十四人に、大慌てで確認を取る。

    聞こえたぞ。

    うん、聞こえたよ。

    僕も聞きました。

    「良かった、私だけの幻聴じゃないのね………。」

    少し安堵している伊瑠実の元に、新と山陽が駆け寄ってきた。

  • 34125/09/17(水) 22:14:37

    「速報! 速報!」

    「大変だ!! この海水浴場にいる殆どの人が、不平不満ばかり言うようになった!!」

    何ですって?

    言われて伊瑠実が気づいても、時すでに遅し。

    既にその海水浴場の大半は、不満という液体が溢れんばかりに入った水槽と化していた。

    砂が熱い。不満不満。

    日差しが強い。不満不満。

    貝を踏んだ。不満不満。

    それは同年代の中では比較的我慢強い方の伊瑠実と家路すら、思わず苛立たせるには充分だった。

    「ちょっと、みんな黙りなさいよ!」

    「論理的に申し上げれば、この海水浴場に不満のある者は今すぐ帰るべきだ。ここはこの場所を楽しみたい者の為の場所だからな!」

    落ち着けという制止の声も、全く耳に入れる気配はない。

    その時、少し離れた場所にいた勢也が唐突に大きな声で叫んだ。

    「おーい!! 変な魔物捕まえたぞ!!」

  • 35125/09/17(水) 22:20:00

    勢也が掴んで持ち上げているのは、毒々しい派手な色をした八つ橋のように薄く平たいマンタのような生き物。

    新はその魔物に覚えがあったようで、その名を驚いた様子で呟く。

    「フマンタ………!!」

    「フマンタ?」

    「何だそいつ。この事件と関係あんのか? なあ。」

    口々に寄せられる疑問の声に、新は極力冷静に答える。

    「フマンタ。近くにいる人と不満ばかり言わせてしまうマンタの魔物だ。自身も不平不満ばかり言ってる。」

    「不満だなぁ〜。ここにいると、皆に踏まれそうで不満だなぁ〜。」

    「………ほらね。」

    フマンタは、いつぞやの魔物めんど草のように元気のなさそうな顔をしていた。

    不満を聞くことは少なからず元気を削がれる行為であり、それを常に自分自身にしているのだからそれもまあ妥当というものだろう。

    そんなフマンタの態度を許容せず、怒りで詰め寄る者がいた。

    「ねえ、ちょっとそこのあなた。」

    「ひえっ!?」

    初雁隼だ。

  • 36125/09/17(水) 22:22:21

    不正行為や道理の通らないことを激しく嫌っており、最近は厳しさも軟化したとはいえあまりにも目に余る行為をする者には鋭く冷たい目線を浴びせる。

    「フマンタ。あなたはここにいると人に踏まれそうになるから嫌だと言うけど、なら他の場所に行けばいいじゃないの。そもそもマンタなんだからひらりと躱して無傷にできるのではなくて? いい? 世の中に不満があるなら自分を変えなさい。それが嫌なら耳と目を閉じ、口をつぐんで孤独に暮らすのよ。あなたが不平不満を抱くのは勝手だけど、それを口にされることで気分が暗くなる人が少なからずいる。現に私もそう。せっかく椿樹と楽しく遊んでいたのに、あなたがここにいるお客に不満ばかり言わせるせいで雰囲気がぶち壊しになった。それは立派な迷惑行為で、加害行為だよね。それとも魔物の世界の学園は、人に嫌な思いをさせてはいけませんとは教えていないのかしら? とんだ欠陥教育じゃないの。つまるところ私が言いたいのは………」

    「ひぇ〜ぇっ!? もう懲り懲りだよぉ〜!!」

    隼の説教を三分の一程度ほど聞いた後、フマンタは何処かへと去って行った。

    先ほどの海岸に並ぶテトラポットのような動じなさは何処に無くしたのかと思うほどだ。

    (いやこれ本来は三倍の分量あるのかよ………。)

    (長文早口説教は何気に本日でもう二度目だな。)

    (せめてスク水姿でさえなけりゃもっと響いたんだけどなぁ………。)

    彼女の叱責の力は凄まじい。

    圧倒的な文量によるその暴力に敵うのは、新の説教ぐらいなものだ。

    氷の妖魔法術は、周囲を凍えさせてしまう危険を孕む。

    雷の妖魔法術を使えば、周りを感電させるリスクがある。

    炎の妖魔法術に関しては、それ自体が火災という魔物の発生源になりかねない。

    しかし説教という攻撃は特定の対象のみを、ただひたすらにピンポイントで刺し続けることができるのだ。

  • 37125/09/17(水) 22:23:27

    どんな妖魔法術よりも安全で、お手軽で、使用するハードルとリスクが低い。

    だからこそ隼と新は説教という方法を愛用し、魔物を撃退するのだ。

    説教に素直に耳を傾けてくれるような聞き分けのいい魔物ばかりなら良いが………。

    フマンタがいなくなり海水浴場に活気と賑わいが戻ると、十四人は再びしばらく水遊びに興じていたが時計の両針が頂点を指していることに気付いた。

    「どうする? 水鉄砲で遊ぶのもそろそろ飽きてきたけど………。」

    「そろそろメシ食いたくね? もうお昼時だしさあ。」

    「お昼かあ。そこの売店で焼きそばパンが売られてるみたいだけど、普通に買って食べてもつまらなくない?」

    弟子の燕のその言葉に、橋立はそうこなくちゃと言わんばかりにニヤリとした。

    「ボクが去年軽音部のみんなと海へ遊びに来た時は、ビーチバレーで負けたチームが勝ったチームにハンバーガーを奢ったんだよね。」

    「んー、それってつまり………この十四人でビーチバレーがしたい、ってことですよね?」

    何だかんだ勝負事には燃える者達の集まりだ。

    その言葉を聞いて全員が、燃えたぎる血潮を巡らせる。

    「賛成。俺所望、挑戦其の勝負。」

    「ほほう、吾輩に挑戦状を叩きつける気か。」

  • 38125/09/17(水) 22:25:27

    「よろしくてよ。懸けるものがあると、何だか燃えてくるじゃない。」

    「カレーを巡ったバトル? それってすごく、バッチグー!!」

    こうしてカレーを奢られる権利を巡り、十四人の戦いが始まった。

    勢也、家路、望、隼、椿樹、燕、伊瑠実のAチーム。

    対するBチームには新、橋立、光、狛、煌輝、山陽、媄宇子が属する。

    チーム分けが決まるのは、皆の予想以上に早かった。

    後者は高等部以上の経験豊かな年長者が多く籍を置くが、前者にはテクニカル重視の優れた身体能力の持ち主が多い。

    年齢や性別による不平等さが、極力少なくなるよう考慮されているのだ。

    それぞれの顔触れを見ただけでは、何人たりとも勝敗を予想するのは難しいことだろう。

    両チームは砂浜に立てられたネットを挟み対峙する。

    「スク水ウーマンがリーダーじゃなあ〜、そっちの勝利は厳しいんじゃない?」

    「ほほう? 経験頼りの拙作揃いのチームに属しておいてそれを言うか。」

    互いを元気よく煽り合う両者。

    心の器を満たすやる気の水は、充分すぎるほど充分と言ったところか。

    十四人のの構えが揃い、顧問の合図でいざ尋常に勝負が始まる。

  • 39125/09/17(水) 22:29:11

    「試合開始!!」

    「はあああっ!!」

    真っ先に先陣を切るのは、隼による弾丸の如く豪速球。

    「!?」

    それは空気を刃物のように切り裂きながら、相手のコートへと神速で墜落する。

    「させるかっ!!」

    それに最も早く反応を見せたのは光。

    つま先に風の力を込め、ボールをバネのように弾き返す。

    「あの尋常でない反応速度………流石は最年長ね。」

    跳ね飛ばされたボールは勢いよく弧を描き、椿樹の腹へと直撃した。

    「うっ!!」

    軽いボールとはいえど、この速度で直撃したら驚いてしまうもの。

    彼はボールを跳ね返そうとはしたものの、間に合わずよろけてその場で尻もちをついてしまった。

    ボールがコートに落ちる音。

  • 40125/09/17(水) 22:31:23

    「悪ィな、ボールが腹パンしちまってよ。言っとくが足は使ってねーぞ、足に込めた風で跳ね返しただけだ。」

    その後伊瑠実の起点によって一度点を入れられたAチームだが、残念なことに経験の差には敵わず山陽にボールごと撃ち落とされてしまった。

    最終的に勝ったのは、Bチームだ。

    「やったあああ!!!」

    「そんなあ………。」

    歓喜の声を上げる橋立らに対し、勢也達はがっくりと膝を落とす。

    「勝てなかったのはあなた達のせいじゃないのよ。」

    耳や尻尾をだらんと垂らして落胆する勢也と椿樹を、隼はお姉さんのように慰めて元気が出るよう励ましてあげた。

    「さて、約束は約束だからな。私達に焼きそばパンを奢ってもらおうか。」

    「あの、そちらの光殿の攻撃で傷付いたのでその損害賠償としてカレーを奢る約束は無かったことに………」

    「あんなので損害賠償請求すんな。どんだけ身体脆いんだよお前、砂でできてんのか。」

    「まあまあ。中等部の三人は免除してあげようよ。まだ義務教育も終えてないような歳下に奢られたものを美味しく食べられるほど、僕達もプライドを捨てていないだろう?」

    「同意。俺禁ず光先輩生き恥晒し。」

    「チッ、分かったよ俺だって端ないことはしたがねえ。中等部どもは特別に奢らなくて良いぞ。」

    「マジすかサンキュー!! やったー!!」

  • 41125/09/17(水) 22:33:57

    というわけで奢るのは既に高等部に達している家路、望、隼、燕の四人のみということになった。

    「「寛大なる対応に感謝します、光先輩♡」」

    「わ分がったからベタベタくっつくんじゃねえ!! ほらさっさと行くぞ!!」

    十四人はビーチバレーのコートを後にし、カレーを売っている売店の元へと向かった。

    望だけは勝敗に納得がいかず、ずっとぶつぶつと文句を言っている。

    「何故中等部というわけで奢りが免除されるのだ!! 不公平だ!!」

    「おい、往生際が悪いのが約一名いるぞ。」

    「はぁ………望。去年のあの時同じ状況で負けた時もそうだったけど、君は潔さというものをいい加減学んだ方がいいと僕は思うよ。」

    「吾輩はたった三年前までは中等部だったんだぞ!! だから実質中学生だ!! 何なら今だけ中学一年生になってやる!! なあ勢也〝先輩〟?」

    (違和感を感じてェところだが………普段から先輩らしい威厳やカッコ良さが皆無すぎてなんか自然に受け入れられちまう!!!)

    「ああそうかよ、じゃあやっぱ中等部にも奢らせてやる。勢也達には悪いが、そっちがその気ならこっちにも考えがあるからな。」

    「なら小学生になってやろう!! 小学生にすら奢らせる気なら………吾輩は赤ちゃんにだってなろうぞ!!」

    「お前、幼児退行癖所有?」

    そんな会話をしているうちに、売店は段々と近づいていった。

    看板には湯気の立った、雲のような純の白米と野菜を鮮やかに並べられたルーが地球儀の青と緑のように入り乱れている。
    「おおっ!!」

  • 42125/09/17(水) 22:35:17

    既に数人は感激し、食欲を掻き立てられているようだ。

    真っ先に隼がカウンターのおばさんに声を掛け、食券を購入する。

    「すみません、カレーの食券を十四枚頂けますか?」

    カウンターのおばさんはその枚数に最初こそ驚いたが、すぐに微笑んでカレーを用意した。

    食券代も決して安くはなかったものの、裕福な生まれの隼と望がいたことですぐに支払われた。

    人数分のカレーが机に揃うまで、そう長い時間は要さなかった。

    その実物は看板に掲示してあった写真よりもずっと、ずっと色鮮やかで華があるように見えた。

    深く暗い色をしたルーの上に、煮込まれたにんじん、ピーマン、とうもろこし、カボチャと様々な野菜が並べられ虹のように輝いている。

    「いただきまーす!!!」

    手を合わせて皆でそう言うと、一斉にカレーを頬張り始める。

    パクッ。モグ、モグ、モグ………

    「………うんめえ!!」

    「美味しいです!! 特にこの柔らかいルーとピリッとした福神漬けのメリハリが効いていて………」

    「やっぱ人のお金で食べる飯って美味いよねー。」

    「望先輩のように意地汚いこと言うな。」

  • 43二次元好きの匿名さん25/09/17(水) 22:38:36

    コテ外しに使わせてもらうわ サンキュー
    お礼に荒らし報告しといたから 

  • 44125/09/17(水) 22:51:28

    「誰が意地汚いだと!? 煌輝と言ったかこのライオン小僧!! 決闘だ!!」

    「望、お前所有義務鎮静。現在食事中。」

    そんな会話をしているうちに、いつしか皆カレーを食べ終わってしまっていた。

    カレーを食べ終わった後、一同は三つのグループに分かれてそれぞれの場所で仲間と遊んでいた。

    椿樹は伊瑠実と媄宇子に、泳ぎを教えてもらっている。

    「私達に教わる前に、まず自分のやり方で自由に泳いでみて。」

    「はい。僕はこうやって腰をかがめて頭のみを水面に出し、両手で水を掻き、ばた足で水を蹴って前に進みます。」

    「それ………犬かきじゃないの!! そんなことだろうとは思ったけど!!」

    一方で隼、狛、燕、新は貝殻を集めて楽しんでいる。

    「見て! おっきな巻貝見つけた。」

    「ちょっとそれ貸して! 吹いたらラッパとして使えるのかな………」

    「やめなさいやめなさい!! 中にどんな虫がいるのか分からないんだから!!」

    残りの七人の男子は、集まって砂の城の建設に興じ小学生のように盛り上がっていた。

    「砂城を作るキットを持ってきたよ。これででっかいの作ろう!!」

    「感謝。俺推測、其れ至便且つ実用的。」

  • 45125/09/17(水) 22:53:11

    「ほう、気が利くな! これで何人たりとも侵入を許さぬ完全なる城塞が完成する!!」

    「道具を使うからには、ここにいる奴らで一番たり得るサイズを目指すぞ。」

    「「「「「「「おう!!!」」」」」」」
    〜 〜 〜
    皆が三グループに別れて遊び始めて、約数十分が経過した。

    ジャバジャバジャバ………

    「上出来!! 遊泳区域のロープにタッチできたわね!!」

    「誇りなさい、椿樹!! あなたは自分自身の力だけでここまで泳ぎ切ったのよ!!」

    「………!! ありがとうございます!!」

    ザクッ、ザクッ、ザクッ。

    「あっ、この巻き貝チョココロネみたいで可愛い〜。」

    「それ生きてるよ。」

    「それマ? ………っっっっっっぎゃぁぁぁぁぁぁあああああああ!!!」

    ザザザッ、ザザザッ、ザザザッ、カポッ。

    「うーん、まあこんなもんかな〜。」

    「随分高くなったな。他のどいつが作ってる城より高ェぞ。」

  • 46125/09/17(水) 22:55:26

    「吾輩らが誇りと丹精を込めて建設した城だ。故にノゾム城と名付けることにしよう。」

    「利己的な判断、其れ故却下。」

    十四人と数百人の客が海を満喫していた………その時。

    ブォン、ブォン、ブォン!!!

    『警告、警告。沖の方にサメの姿が確認されました。ご来場の皆様は、係員の指示に従って速やかに避難くださいませ。警告、警告………』

    古びたスピーカーによる気味の悪い警報音と、抑揚のない機械のような淡々とした放送がその場に響いた。

    「は? 人が貝集め楽しんでる時に邪魔すんなよつまんね。」

    「待ってこれ、何!? 地震速報に似ていて怖いんだけど!! ねぇちょっとこれ止めてよ!!」

    「落ち着いて隼。冷静さの喪失が命取りになる………待てよ、そういえば椿樹達ってまだ海から戻ってきてないよね?」
    〜 〜 〜
    その椿樹達はというと泳ぎの練習の為に、遊泳区域のロープが張られたギリギリの場所まで来てしまっていた。

    かなり遠くまで来てしまっているが、不気味な警報は聞こえたようだ。

    「何でしょうか、あの警報音!! 向こうにはヨットに見えない黒い三角の影が浮かんでいるのですが………」

    「分からないけど、ここにいては危険そうね!! すぐに砂浜に上がるわよ!!」

    「ええ!! 僕なら先ほど教わった水泳法を使い、大急ぎで岸に戻れます!!」

    「それじゃあ遅すぎる!! 両手で私と媄宇子先輩の背中をそれぞれ掴んで!! 早く!!」

  • 47125/09/17(水) 22:56:52

    「どうして? ………は、はい!!!」

    椿樹が言われた通りに二人の背中をしっかりと掴む。

    両者は水の妖魔法術を使い、スクリューを起こしフルノッチで隼達のいる海岸を目指した。

    椿樹達が岸へと着くと、既に砂の城を作っていた望らもそこに集まっていた。

    「どうもありがとうございます。僕という重りがありながら、あそこまで速く泳げたのですね。」

    「魔人の身体能力と妖魔法術を駆使すればあんなものお安い御用よ。だけど問題はまだ解決していないわ………サメが確実にいる。」

    伊瑠実の言う通り、彼女の指す海の向こうには明らかにヨットではない三角の黒い影が海面を縫うように進んでいる。

    確認できるその大きさからして、結構こちらに近づいているようだ。

    幸いにも既に海面に浮かぶ人々の姿は見えず、全員が避難を終えたようで悲鳴を上げながら逃げるように走っている。

    『キャーッ!! サメだーっ!!』

    『出たぞ………サメが出たぞ!! 出たんだ!!』

    その足音だけでもはや小太鼓ほどの音となっており、どれだけパニックになっているのかが窺える。

    監視台に座っていた監視員も、隼らに声を掛け避難を促す。

    「君達も警告が聞こえただろう!? こんなところにいちゃダメだ、早く逃げなさい!!」

    逃げる………たしかにその選択肢を取れば、自分達はきっと助かるはずだ。

  • 48125/09/17(水) 22:58:38

    「どうして? ………は、はい!!!」

    椿樹が言われた通りに二人の背中をしっかりと掴む。

    両者は水の妖魔法術を使い、スクリューを起こしフルノッチで隼達のいる海岸を目指した。

    椿樹達が岸へと着くと、既に砂の城を作っていた望らもそこに集まっていた。

    「どうもありがとうございます。僕という重りがありながら、あそこまで速く泳げたのですね。」

    「魔人の身体能力と妖魔法術を駆使すればあんなものお安い御用よ。だけど問題はまだ解決していないわ………サメが確実にいる。」

    伊瑠実の言う通り、彼女の指す海の向こうには明らかにヨットではない三角の黒い影が海面を縫うように進んでいる。

    確認できるその大きさからして、結構こちらに近づいているようだ。

    幸いにも既に海面に浮かぶ人々の姿は見えず、全員が避難を終えたようで悲鳴を上げながら逃げるように走っている。

    『キャーッ!! サメだーっ!!』

    『出たぞ………サメが出たぞ!! 出たんだ!!』

    その足音だけでもはや小太鼓ほどの音となっており、どれだけパニックになっているのかが窺える。

    監視台に座っていた監視員も、隼らに声を掛け避難を促す。

    「君達も警告が聞こえただろう!? こんなところにいちゃダメだ、早く逃げなさい!!」

    逃げる………たしかにその選択肢を取れば、自分達はきっと助かるはずだ。

  • 49125/09/17(水) 23:00:22

    しかしあのサメがこの場に居着いてしまったら?

    そのせいで海水浴ができなくなり、この場所が潰れたら?

    そう考えた十四人の、答えは完全に一致していた。

    「いいえ、逃げません。私達はヒトより強く生まれた魔術使いです。必ずあのサメと戦い、そして退けます。」

    おいおい、正気か? やめておいた方がいいぞ。

    そう返そうとしかけた監視員は、十四人の眼差しをじっと見つめた。

    決して身の程知らずではない。

    覚悟の据わった、強者の宿す瞳。

    ただの戯け者には、決して見せることのできない表情だ。

    それを見るだけで不思議と監視員は、彼らを信じて良いような気がしてきた。

    「分かった………行ってきなさい。そして勝つんだ。」

    その言葉を受けた一行は、逃げる者達とすれ違いながら再び海岸へと向かって行った。
    〜 〜 〜
    海岸に並んで立った十四人は暴れ回るサメと対峙し、それを退ける方法を模索した。

    「あれはただのサメでなく、魔物の一種『ジャーク』だ。だから論理的に申し上げれば、私や狛の電気の魔法で奴を追い払うことはできる。だがこの方法だと、つい先ほどまで泳いでいて今も濡れている椿樹達を同時に感電させてしまう。煌耀はどうだ、何か考えがあるか?」

  • 50125/09/17(水) 23:02:08

    「俺の矢の精度では、あれほど動き回る相手は射抜くことができない。あの手の敵には近接戦の方が有利だが、そもそも接近が危険極まりないし、サメ故におそらく肌は全身が刃物のように鋭く素手で触れば怪我を免れない。光先輩、同じサメの魚人なんだからあんたが何とかすればいいだろう。」

    「無茶言ってんじゃねーよ。俺の一族の先祖は確かにアイツみたいに純粋なサメだったが、進化を経てこのヒトに近い姿になるにつれて知能と対話能力の代償に戦闘力をかなり失ったんだからマジモンのサメとタイイチとか流石に無理に決まってんだろ。隼と新が説教で追い払えよ。」

    「あれが私の説教を理解する知能も理性も持ち合わせているとは到底思えないんだけど。と言うかこれってもはや話し合いじゃなく、ただの責任の押し付け合いじゃないの? あなた達少しは真面目に考えてよね、私に頼り切りにするんじゃなくて。いつも私が最適解を出してあげると思ったら大間違い………」

    隼の怒りがヒートアップし、喧嘩に発展しかけたところを椿樹が慌てて引き留めた。

    「もうやめにしましょう、皆様。誰かのせいになさりたいなら、どうぞ僕のせいになさって下さい。僕が海に行きたいなどと言ったから、こんなことに………」

    「ちょっと椿樹、あなたのせいじゃないでしょ。何でも自分が罪を被ればいいと考えるのはおよし。」

    「確かにそうかもしれませんね。しかし、ここは僕一人に責任を取らせて下さい。一つ考えがあるのですが………」

    彼の〝考え〟とやらに、他の十三人は耳を傾けた。
    〜 〜 〜
    まず椿樹と伊瑠実が前に立ち、同時に妖魔法術の詠唱をする。

    「ゴミ拾いをした時と同じです!! 力を合わせた水流が斜面を遡ってゴミを押し上げられるなら、きっとサメだって………!!」

    『伊瑠実殿、力を貸して頂けますか?』

    『よろしくてよ、椿樹。』

    『『水流の妖魔法術・威力IV!! 〝深山の渓流〟!!』』

  • 51125/09/17(水) 23:04:11

    『客人をもてなすと致しましょう!!』

    『おーっほっほっ!! 深海に沈みなさい。』

    ザッパーン!! バシャーン!!

    二人の妖魔法術が掛け合わされて生まれた水流は、山の中の渓流のように激しくサメへと突進する。

    その勢いは暴れザメを赤子のようにひっくり返すほどであり、敵に動揺を与えて隙を生み出すことに成功した。

    続いて望と媄宇子が、同じように妖魔法術を組み合わせる。

    『媄宇子!! 吾輩の手を取ってくれないか?』

    『うっふーん!! もちろんいいわよ、望くん!!』

    『獄炎の妖魔法術・威力V!! 〝閻魔の吐息〟!!/水流の妖魔法術・威力V!! 〝水平飛瀑〟!!』

    『愚か者の末路だ!!』

    『波に乗って、踊るのよ!!』

    二人の妖魔法術は組み合わさって水蒸気と化し、サメの元へ届きダメージを与えた。

    そのあまりの熱さに耐えきれなくなったサメはしばらく苦しみもがき、己の身体を冷まそうとした。

    そして懲らしめられたのか、どこかへと泳ぎ去っていってしまった。

  • 52125/09/17(水) 23:21:01

    サメを追い払った時、時間帯は既に夕暮れに近づいていた。

    サメがいなくなり戻った客も、今やまばらになってしまった。

    「それで、これからどうするんだい?」

    「えっ………と。」

    尋ねられた隼は、椿樹の方へと目を向ける。

    元々は椿樹の為のお出かけだから、彼の意思を尊重することにしたようだ。

    肝心の椿樹の方はというと………一日中海で楽しく過ごし、もうすっかり満足できたようだ。

    ゴミのことやサメの出現など確かにトラブルもあったが、海水浴が相当に楽しかったのかにこにこと満面の笑みを浮かべる。

    「今日は楽しめました。ですが今一番楽しみなことは………この泥と砂で汚れた尻尾を、早く綺麗に洗うことです。」

    他の十三人も同じ気持ちだったようで、異論はただの一つもなかった。

    「確かにそうだね。僕もモデルとしてこれ以上の日焼けは避けたい。日焼け止めの効能にも限界があるし。」

    「アタシも泳ぎすぎて、もうクッタクタ〜。」

    「左様ですか。ですが皆様が一緒にいたおかげで楽しめたのです。連れてきてくれた隼お嬢様、そして一緒に来てくれた皆様。本当にありがとうございます。」

    「どういたしまして、私も存外楽しめたわ。久々に柄にもなくはしゃいでしまった………そうだ、最後にみんなで写真でも撮らない?」

    最後に海を背景に撮った集合写真に、しれっとゴミポイポイの介とフマンタが映り込んでいたのはまた別の話………。

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