- 1◆boSxMoFGQc25/09/18(木) 22:05:12
『10年バズーカ』というモノがある。ある少年漫画に出てくるキャラが所持しており
打たれた人が10年後のその人と5分だけ入れ替わる、なんてとんでもない代物。
そう、空想上のモノだ。この現実には存在しない、はず。
だが近頃学園で起きている現象を耳にするたびに脳裏にこのバズーカの存在がチラつく。
『10年後のトレーナーorウマ娘が突然現れる問題』
いきなり爆発音と白煙に包まれたかと思えばどこか面影を感じるそっくりさんが現れ、5分後にはまた元通りのその人がいる。なんて到底信じられないウワサがここ最近学園には流れている。
白昼夢、と片付けるのも簡単だがそれにしては実際に経験したという声が多すぎる。
もちろん到底信じられることではない。シャカールに話題を振っても『ロジカルじゃねェ』とバッサリ。
まぁ、自分もウワサ話ってそういうものだからなぁと思っていた。
だからこそ、そんなあり得ないことほど実際に経験した時ほど驚いてしまうものなのだ。 - 2◆boSxMoFGQc25/09/18(木) 22:06:13
今日も今日とてシャカールのトレーニング。まずは今日のメニューの確認を、とトレーナー室で共に相談しているときに、『ソレ』は起こった。
「…分かった。なら、きょ──」
部屋に突如響く爆発音。目の前に広がる白煙。
「よーし、時間通りだなァ」
と、そんな中不意に耳に入ったのはどこか聞き覚えがある声。
白く立ち上った煙が消え切り視界が晴れていく。煙の中に見えた人影があらわになる。
そこにはどこかシャカールにそっくりな、けれど確実にさっきまでそこにいたシャカールとは違うウマ娘が立っていた。
想定外の突然の出来事にパニックな脳内でふと思い出したあのウワサ。この状況、間違いなく例の現象なのだろう。とても信じられないが実際に目の前で起こっているのだ。
ということはここにいるのは、
「シャカール…なんだよな?」
処理落ちしかけの脳内からなんとか言葉を絞り出す。
そんな思考停止寸前の自分を鼻で笑うように、
「ハッ、それ以外に誰がいるンだよ」
と、サラッと目の前の彼女は言ってのけた。 - 3◆boSxMoFGQc25/09/18(木) 22:07:13
目の前に立っている10年後のシャカール?の姿はそこまで大きな変化はない。
腰までの黒髪と眼に突き刺さるようなサイケデリックな配色の服、眉上に輝く銀二つ。
けれど10年の年月も経ったせいだろう、身長も伸びたのか今のシャカールと話す時よりも気持ち顔を上げると目が合うくらい。耳のピアスに、左手にもシンプルなデザインの指輪。
…指輪?
よく見ると薬指だ。左手薬指。まさか。
「…シャ、シャカールさん?その、指輪は?」
「アァ?見りゃ分かるだろ。結婚指輪だ。コレつけてる方が色々と楽だからな」
あっけらかんと飛び出す爆弾発言。あのエアシャカールが結婚。
…シャカールがけ、結婚!?
呆然としてしまう自分に懐かしむような視線の10年後シャカール。
「まァ聞きてェことは山ほどあンだろうが、時間は5分しかねェんだぜ。
質問があンなら、1つだけにしてくれ」
そうだった、あまりの情報量でいよいよ考えることをやめそうだったがそんな時間制限もあった。
さて、なにを聞こうか。
というか聞きたいことが多すぎる。未来の自分は?シャカールは?
自分たちの歩む道はこれからどんな風になっていくのか。 - 4◆boSxMoFGQc25/09/18(木) 22:08:14
…うん、しばらく考えたけれどさっぱりまとまらない。だから最初に思いついたことを聞くことにした。
今、彼女と共に走り続けるトレーナーとしてこれだけは聞いておきたい。
「なあ、シャカール」
「…ンだよ」
「シャカールは今、幸せ?」
彼女と目と目が合う。今も未来も変わらない琥珀色の瞳。
広がる少しの沈黙の後で、
「さあなァ。未来の感情なんて不特定なモン当てにするくだらねェ質問なんか答えるかよ。
気になるなら10年後にもう一度聞きに来い」
そう言って、彼女は笑った。
そんなくだらない問いへの答えだと言わんばかりの、笑顔で。 - 5◆boSxMoFGQc25/09/18(木) 22:09:15
「さて、そろそろ5分だな」
「えっ早…」
壁にかかる時計に目をやりながら10年後シャカールが言う。
短い時間だったはずなのに怒涛の展開になんだかドッと疲れた気がする。
「…随分と疲れてそうな所悪ィが、たぶんこっからが本番だぜ」
と、なにやら不穏なことを言い始める彼女。
えっなにそれこわい。
「間違いなく、お前はこれから戻ってくるオレに手を焼く。見たことねェ程オレは荒れる。
突然あンな経験したンだからそりゃそうなるわな。けど元を正せばお前のせいだから謝ったりはしねェ」
「今の俺からすれば言い訳をするンなら、自分の感情に折り合いがついてねェんだ。だから悪ィが根気よく付き合ってくれ。それじゃ──」
『──10年後な』
そんな言葉が聞こえたのと同時に爆発音とまた広がる白煙。 - 6◆boSxMoFGQc25/09/18(木) 22:10:17
一週間後。あれから今のシャカールとは会えていない。
あの日、現在に戻ってきたシャカールは聞いたことのない奇声と共にトレーナー室を抜け出した。あまりの速さに驚きすら追いつかず。
少しして、トークアプリに一通のメッセージ。
『近寄ンな。しばらくはコレだけでしか話さねェ』
なるほど今回の荒れ具合は、確かに今までで類を見ないものになりそう。
だけども不思議といつかの絶望感は感じない。何しろこちらにはこれからも君と共に走る理由が出来たのだ。
そして、いつかの君にもう一度聞いてやるんだ。
『君は今、幸せですか』って。 - 7◆boSxMoFGQc25/09/18(木) 22:11:17
- 8二次元好きの匿名さん25/09/18(木) 22:23:01
未来のシャカールが見せた不安と頼もしさに、主人公の決意が揺らぎながらも強くなる過程が胸に響きました。普段は笑って済ませるような言葉が、場面によって重みを持つ描写が良かったです
- 9二次元好きの匿名さん25/09/18(木) 22:35:59
シャカールが10年後の世界で見たものにトレーナーが思い当たる時は来るのでしょうか
『──10年後な』
少なくとも付き合いはあるんですよね…… - 10二次元好きの匿名さん25/09/18(木) 22:37:36
『幸せ?』って問いかけがシンプルなのに深い。ラストの余韻が良き
- 11二次元好きの匿名さん25/09/18(木) 22:43:37
シャカールがシャカールである理由が全て詰まってた。口が悪くてぶっきらぼう、でもどこか優しくて強い――そんな彼女の芯が5分の会話だけで伝わるのが上手いですね
- 12二次元好きの匿名さん25/09/18(木) 23:10:07
とても良いものを読ませていただきました。
10年後のシャカールがそう言えるってことは、いくらか「感情」とかそういうものと折り合いがつくようになったのかな? - 13だそく25/09/19(金) 07:37:58
「おっ、いつものシャカールだ。
今日が『あの日』だったなんてよく覚えてたね」
「忘れられるかバァカ。あんなセクハラ寝ぼけてかましやがって。あン時のオレがどンだけ驚いたと思ってやがる」
「その説は大変申し訳ございませんでした…!」
「謝罪なんていらねェよ流れるような土下座かまして。いいからベッドに戻ってこい」
「しかし、よくあンなクセェ台詞真面目に言えるもンだな。思わず笑いそうになったわ」
…ンで、戻ってきたオレに何か聞くことがあンじゃねェか?」
「はいはい丁寧な前フリありがとう。
…ねぇ、シャカール」
「ン」
──君は今、幸せ? - 14二次元好きの匿名さん25/09/19(金) 17:17:17
とても良かった
ありがとう - 15二次元好きの匿名さん25/09/19(金) 19:44:20
どうか10年と言わず100年先も共に歩んでほしい
最高でした - 16二次元好きの匿名さん25/09/19(金) 20:21:55
未来のシャーたんが今の自分を誰よりも客観的してるのがすっごく解釈一致で、純真な気持ちでクリティカルな質問してくるシャカトレもまたズルいなって思った!
多分こんな二人だから10年後があるんだろうな、うん - 17二次元好きの匿名さん25/09/20(土) 06:12:48
家族というものにマイナスイメージが強かったシャカールだからこそこういう未来を選んでることか余計に良いんだよな