崖っぷちギリギリのウマ娘と鬼トレーナー

  • 1二次元好きの匿名さん25/09/20(土) 03:24:39

    とある地方のトレセン学園の片隅。昼間でも日当たりが悪い校舎裏の敷地。
    剥き出しの錆び付いた配管。
    時折思い出したようにチラつく照明、ゴトゴトと低音で鳴き続ける空調。
    そんなプレハブ小屋、もとい古びたトレーナー室で、俺は頭を抱えていた。
    「トレーナーさぁん♡…アタシとぉ、イケないこと…しちゃいませんかぁ♡?」
    耳がくすぐったくなる甘ったるい声。目の前で髪をかきあげ、妖艶な笑みを浮かべているのは、今日から俺の担当となったウマ娘。名前はコバトノヒカリ。
    眠たそうなタレ目。派手な色の長い髪。長い尻尾。特徴的な長い耳をくねらせ、やたらと胸元がはだけた服と、申し訳程度の短すぎるスカートに身を包んでいる。

  • 2二次元好きの匿名さん25/09/20(土) 03:25:40

    彼女、コバトノヒカリはデビューから10戦、一度も掲示板に載ることはなく、着順は全て下から数えた方が早かった。前に所属していたチームからついにクビを宣告され、故郷への強制送還が秒読みだった。
    まさに崖っぷちの「行き場のない子」と言うやつだ。
    見るに見かねた理事長から、そんな彼女を押し付けられたのが俺だった。
    過去に数々の行き場のない未勝利ウマ娘を勝たせてきたが、まだベテランと呼ぶには早い、いわゆる中堅トレーナーだ。
    実績はあった。だが、俺のスパルタ指導は、一部で「地獄の鬼トレーナー」と、かなり悪名を轟かせているためか、自ら希望し門戸を叩く新人は、毎年皆無だった。
    俺からスカウトした場合の返答の結果については、もはや言うまでもないだろう。
    その代わり誰もが担当するのを尻込みする、崖っぷちに片手でぶら下がっている、どうしようもないウマ娘を、理事長から押し付けられるのが常だった。

  • 3二次元好きの匿名さん25/09/20(土) 03:27:12

    「お前なぁ……」
    俺は深いため息をついた。
    「ドアホ!トレーニング中に色仕掛けなんて、言語道断! それにその服!なんだ、その謎のシースルー素材は! レース場だったら審議対象だぞ!」
    「えぇ〜?トレーナーさん、知らないんですかぁ♡?これ、今、流行りの『魅惑のデッドヒート』ってファッションですよぉ? ほらぁ♡、…見てぇ♡、…これぇ……♡」
    コバトが短すぎるスカートの脚を組み替え、さらに胸を張り、胸元を強調する。そのたびに、やたらはだけた、申し訳程度の布面積の服装から、無駄に立派な色々が、こぼれ落ちるんじゃないかとヒヤヒヤする。

  • 4二次元好きの匿名さん25/09/20(土) 03:28:16

    「黙ってろ! そもそもお前、色仕掛けなんてやめたらどうだ? レースで勝てば、もっとモテるし、チヤホヤされるんだぞ?」
    「だってぇ…トレーナーさんは、アタシに興味なさそうだしぃ……」
    コバトが拗ねたように唇を尖らせる。
    「当たり前だ! 俺はトレーナーだぞ! 俺の興味があるのは、お前の脚力と根性と、あとその無駄な演技力だけだ!」

  • 5二次元好きの匿名さん25/09/20(土) 03:30:28

    俺は立ち上がり、勢いよくホワイトボードを指差した。そこには、俺が徹夜で練り上げた地獄のメニューが書かれている。
    「そんなことより、聞け、コバト。今日からお前は、俺が考案した、この『鬼の未勝利脱出プログラム』を完遂する。
    まずは基礎体力トレーニングからだ。スクワット1000回、腹筋1000回、背筋1000回、腕立て1000回! そして、その後はランニング……」
    コバトは目を丸くし、ポカンと口を開けていた。
    「えぇ〜?トレーナーさん、アタシに死 ねって言ってるんですかぁ〜?アタシ、バカだし、落ちこぼれだしぃ、根性なしですよぉ……?」
    「死ぬか勝つか、二つに一つだ! さあ、行くぞ!」
    俺は、泣き言を喚くコバトを、グラウンドへと引きずっていった。
    その日から、俺とコバトの、奇妙な二人三脚が始まったのだった。

  • 6二次元好きの匿名さん25/09/20(土) 03:32:46

    「鬼トレーナーさぁん、アタシ、…もうダメぇ……」
    コバトがゼェゼェと息をはきながら、芝生に仰向けに倒れ込み、涙目で訴える。
    「何言ってるんだ! まだ腕立て伏せが551回とランニングが残っているぞ! 立て!」
    「もう無理ぃ! …今ここでアタシを抱きしめてくれないならぁ、もぉ走れませぇん…♡」
    「お前、実は余裕あるな?俺が抱きしめる前に、お前が抱えている未勝利の壁を壊せ!」
    コバトが突然、仰向けのままトレセンジャージを脱ぎ捨て、謎の露出度の高い水着姿になって、甘ったるい声で言う。
    「鬼トレーナーさん、アタシの汗ぇ、拭いてくださぁい……♡」
    「うるさい! プール練もないのに、何で下に水着なんか着てきてるんだ!ちゃんと練習に合った服と、ジャージを着て、ちゃんとトレーニングの続きをしろ!」
    俺はコバトの奇行に、慣れっこになっていた。最初は怒鳴っていた。が、最近では、もはや無表情でツッコミを入れることが日課になっていた。周囲のウマ娘やトレーナーたちは、皆一様にドン引きして、白い目で遠巻きに俺たちを見ていた。

  • 7二次元好きの匿名さん25/09/20(土) 03:34:35

    トレーニングは地獄だった。トレーニングは朝早くから始まり、前半は鬼の基礎トレと坂路でのインターバル走、後半はトラックでのランニングをメインに、長所を伸ばすための効率的な、多種多様な練習メニュー。
    コバトは毎度毎度、飽きもせずに「鬼トレーナーさん、ア、アタシ、…これから…そのぉ……は、外せない予定が…♡」と途中で逃げようとしたり、「今日の鬼トレーニングは、もうやめにしてぇ♡、これからアタシとデート行きましょうよぉ♡」と誘惑したりと、ここのトレセン食堂のショボい日替わり定食顔負けのレパートリーで、あの手この手でサボろうとしてくる。

  • 8二次元好きの匿名さん25/09/20(土) 03:36:41

    しかし、俺は一切動じない。ただし、その厳しさの裏には、細心の注意を払っていた。
    コバトが基礎トレで、おかしな身体の動きを見せたり、ランニングのフォームが少しでも足を引きずっていたり、歩き方に違和感があったりした瞬間、俺はすぐにトレーニングを中断させた。
    「コバト、今日の練習はやめだ。歩き方がおかしい。すぐトレーナー室に戻るぞ」
    「えぇ〜?トレーナーさん、今、始めたばかりだしぃ、こんなの全然大したことないですよぉ? アタシ、そこまでヘタレじゃないですってぇ……」
    「言い訳するな。ウマ娘の怪我は、ちょっとした違和感から始まる。俺の見る目に狂いはない。無理をしてレースに出られなくなったら、それこそ意味がないだろう」
    コバトは口を尖らせながらも、素直に従った。
    俺は練習後、1日も欠かす事なく、彼女の脚に丹念にクールダウンとマッサージをした。
    それと同時に、ほんの些細な怪我も見逃さないよう、念入りに骨や筋肉の異常が無いか、長時間かけて脚の先までチェックした。その行為は、コバトが仕掛けてくる色仕掛けに対する、俺なりの無言の抵抗だったのかもしれない。

  • 9二次元好きの匿名さん25/09/20(土) 03:38:23

    そんなある日、トレーニングが終わり、ボロトレーナー室に戻ると、コバトが手作りのクッキーを差し出してきた。
    「鬼トレーナーさん、これぇ……よかったら、食べてくださぁい♡」
    恐る恐る一口食べると、驚くほど美味しかった。
    「お前、こんなこともできるのか……」
    「えへへ。これでもぉ、お菓子作りは得意なんですぅ。鬼トレーナーさんの好きな、甘くないやつにしましたぁ♡」
    その日の夜、俺はトレーナー室に遅くまで一人残り、壊れかけの照明の下で、明日からのトレーニングメニューを組みながら、コバトがくれたクッキーを全て平らげた。不思議と身体に染み渡るように温かかった。

  • 10二次元好きの匿名さん25/09/20(土) 03:40:32

    次の日からは、トレーニングの合間に、コバトが自作の弁当を差し出してきた。中身は俺の好みを研究した、栄養バランスの取れたヘルシーなものだった。
    「トレーナーさん、最近疲れてるでしょお? それに、もう若くないのに、毎日そんな食事じゃあ、アタシが栄養補給してあげないとぉ、倒れちゃいますよぉ?」
    「ドアホ!確かに見た目は老けた中年かもしれんが、俺はまだ20代だぞ!そんなに歳じゃない!!………だが気遣いには感謝する………ありがとう…」
    「えへへ。よかったらぁ、アタシ、鬼トレーナーさんのお嫁さんになってぇ、お家で毎日ご飯作ってあげよっかぁ?♡」
    「ドアホ!!そんな冗談は、G1にでも勝ってみせてから言え!!そんなことより、トレーニング再開だ!!」
    鬼トレーニングから逃げるための、コバトの色仕掛けは変わらないが、その裏に隠された彼女の優しさが、少しずつ俺の心を溶かしていった。

  • 11二次元好きの匿名さん25/09/20(土) 03:41:46

    トレーニングの成果は、徐々に現れ始めた。コバトのタイムは目に見えて向上し、走りのフォームにも無駄がなくなってきた。
    トレーニング中の、毎度の色仕掛けも、泣き言も相変わらずだ。だが結局、担当になったあの日から、トレーニングに来なかったり、練習の途中で本当に逃げ出したことは、一度もなかった。
    それ以上に、トレーニング中の些細な場面から、コバトの中に「勝ちたい」という気持ちが芽生えてきているのが分かった。
    ……そして、ついに迎えた未勝利戦当日。
    「トレーナーさぁん!見ててくださいねぇ! アタシ、絶対に勝ちますからぁ!」
    ゲートが開くと、コバトは一気に飛び出した。

  • 12二次元好きの匿名さん25/09/20(土) 03:43:55

    「行け! コバト! お前は走れる! お前は強くなった! その脚で、未勝利の壁をぶっ壊せ!」
    俺はレース場のスタンドで、コバトの走りを食い入るように見ていた。
    ……最終コーナーを回ったところで、コバトは群衆の中から先頭に躍り出た。コバトの派手な色の長髪が目立つようにたなびく。観客から歓声があがった。
    しかし、後方から一人の、別の派手な髪色のウマ娘が猛追してくる。一際、歓声が大きくなる。
    ……そして、そのままコバトは、そいつの猛追に付いて行くことができず、あっさりと抜かされていった…。
    俺は思わず、自分自身で驚く程の大きな声で、コバトに届くように叫んでいた。
    「コバト! 粘れ! ここで踏ん張れ!今のお前ならやれる!自分を信じろ!!」
    最後の直線、コバトは苦しさに顔を歪め、歯を食いしばりながらも、鬼トレーニングで鍛えられた驚異的なスタミナと、持ち前の根性を発揮し、さらにスピードを上げた。
    そして大歓声。
    ゴール板を一人の派手な髪色のウマ娘が、トップで駆け抜けた。

    それは、コバトだった。
    2着とはギリギリのハナ差。
    まさに、死力を尽くした『デッドヒート』だった。

  • 13二次元好きの匿名さん25/09/20(土) 03:45:57

    ……レース後、掲示板と俺の顔を、何度も交互に見ながら、コバトは荒い息と嗚咽と共に、俺に駆け寄ってきた。
    「トレーナーさぁん!ゆ、夢じゃないよね?…アタシ、ホントに勝ちましたぁ……はじめて…!はじめて勝てましたぁ…!」
    コバトの目からは、今まで見たこともないキラキラとした光が、いくつもこぼれ落ちて、止まることがなかった。

  • 14二次元好きの匿名さん25/09/20(土) 03:47:10

    「ああ、夢じゃない。これで未勝利脱出だ。おめでとう。よくやった…コバト。お前は本当に……」
    その言葉を遮るように、コバトが涙を流しながら俺に抱きついた。
    「トレーナーさぁん!約束、覚えてますよねぇ?」
    「や、約束?」
    「アタシが勝ったらぁ、アタシを抱きしめてくれるって……♡」
    「そんな約束、してないぞ!」
    俺は慌ててコバトから離れようとしたが、彼女は長い耳をくねらせ、眼に涙を溜めたまま笑顔で俺を覗き込み、離さない。

  • 15二次元好きの匿名さん25/09/20(土) 03:48:21

    「えぇ〜、じゃあ♡、初勝利したアタシがぁ♡、鬼トレーナーさんに『魅惑のデッドヒート』を仕掛けたらぁ…、どぉしますかぁ?♡」
    俺は頭を抱え、再び深いため息をついた。
    未勝利を脱出しても、俺の苦難は、まだ始まったばかりのようだった。だが、不思議と、以前のような嫌な感じはしなかった。
    このウマ娘と俺の『デッドヒート』は、もしかすると、これからなのかもしれない…

    END?

  • 16二次元好きの匿名さん25/09/20(土) 07:22:14

    これは絆されそうですね

  • 17二次元好きの匿名さん25/09/20(土) 07:30:24

    良いものを読むと続きが欲しくなる
    「夢じゃないよね」って口調が崩れるとことかだーいすき!

  • 18二次元好きの匿名さん25/09/20(土) 10:41:10

    最後まで読んでいただきありがとうございました!


    >>16

    果たして、ここからトレーナーは絆されてしまうのか…?しないのか…?


    >>17

    ありがとうございます!

    近いうちにウマ娘側目線のSSも公開予定です!

    小ネタに気づいていただけて嬉しいです!



    実はウマ娘の名前に関しても小ネタを1つ仕込んでます。

    ある地域にお住まいの方は、もしかして気が付きやすいかもしれません…。

  • 19二次元好きの匿名さん25/09/20(土) 15:59:17

    乙です
    王道には王道の良さがあるよね

  • 20二次元好きの匿名さん25/09/20(土) 16:02:21

    >>16

    中央のウマ娘なら絆されてしまうかもしれませんね

  • 21二次元好きの匿名さん25/09/20(土) 19:47:51

    >>18

    マジかもっとあるのか

    嬉しい…めちゃ嬉しい

    >>4の最後の行の「無駄な演技力」をトレーナーがどこまで見抜いてたかによって私性合度変わってくる

  • 22二次元好きの匿名さん25/09/20(土) 20:10:15

    理事長は実績あるトレのトレーナー室を修理してやってくれ

  • 23二次元好きの匿名さん25/09/21(日) 00:04:12

    >>19

    王道良いですよね…持論ですが王道は白米です


    >>20

    絆されるのは中央だけの専売特許じゃないかもしれませんよ?はてさてどうなるのでしょう…


    >>21

    ありがとうございます!そう言っていただけるとすごくすごいモチベにつながります!

    「無駄な演技力」

    そうです。この言葉もちゃんと意味があります。これも持論ですがSSの一文字一文字を大事にしてこそ面白い作品が生まれると思っています。


    >>22

    残念ながら潤沢な資金がある中央と違って、地方はカツカツなのです…

    みんな限られた設備や経費でがんばってます!

  • 24二次元好きの匿名さん25/09/21(日) 05:44:36

    トレーナーさんとの出会いは、最悪だった。
    というか、アタシの人生が、もう最悪のどん底だった。
    デビューから10連敗。一度も勝てないアタシのことを、みんなは「落ちこぼれ」「未勝利の子」って、影でコソコソ笑ってた。元いたチームからもクビを宣告されて、実家に帰されるのも時間の問題。そんな時、理事長さんに呼び出されて、この場所に来た。

  • 25二次元好きの匿名さん25/09/21(日) 05:45:56

    校舎裏の、ボロボロのプレハブ小屋。中に入ると無愛想で、なんか怖そうな人が立っていた。
    「……今日から俺が、お前のトレーナーだ。知っての通り一部では『地獄の鬼トレーナー』とか呼ばれてる…。よろしく、コバトノヒカリ」
    ああ、もうダメだ、って思った。
    せっかく、トレーナーさんが替わったのに、これじゃあ、またすぐに担当をクビにされるのがオチだ。

  • 26二次元好きの匿名さん25/09/21(日) 05:47:16

    だから、アタシはいつものアレを試した。落ちこぼれのアタシが唯一、得意なこと。
    ちょっとだけ可愛い声を出して、セクシーなポーズをとってみる。
    「トレーナーさぁん♡…アタシとぉ、イケないこと…しちゃいませんかぁ♡?」
    今まで、アタシに色仕掛けをされて、慌てない男のヒトはいなかった。男のヒトはみんな、すぐにアタシの色気にデレデレになって、甘やかしてくれた。

  • 27二次元好きの匿名さん25/09/21(日) 05:48:48

    でも、トレーナーさんは違った。
    「ドアホ!トレーニング中に色仕掛けなんて、言語道断!」
    アタシはびっくりして、ポカンとしてしまった。
    でも、その顔は、アタシのことがどうでもいいから怒っているんじゃなくて、アタシが本当の自分じゃない演技をしているって、心底呆れて怒っているような、そんな顔だった。
    そんな顔、今まで誰にもされたことがなかったから、ちょっとだけ悔しくなった。
    だから、アタシは決めた。
    この人の前でだけは、意地でも、いつものアタシを続けてみよう。
    もしかしたら、この人はアタシを、ちゃんと見てくれる人かもしれない。

  • 28二次元好きの匿名さん25/09/21(日) 05:51:32

    トレーニングは、本当に地獄だった。
    できるわけない。スクワット1000回、腹筋1000回、背筋1000回、腕立て1000回……。
    なんなの?◯ンパン◯ンの、◯イタマなの?
    いつものアタシを続けるって決意したけど、こんなの無理だよ。できないよ。
    アタシはすぐ楽したくなる自分が、嫌になるくらい弱かった。
    アタシは泣き言を言って、ずる休みしようと、今日も得意だった色仕掛けをしてしまう。
    「鬼トレーナーさぁん、アタシ、…もうダメぇ……」
    でも、トレーナーさんはアタシの言葉に、全然動じない。
    むしろ、アタシがズルしようとするたびに、アタシの気持ちを、本当のアタシを全部見抜いて、いつもアタシに正面から向き合ってくれた。
    「お前、実は余裕あるな?俺が抱きしめる前に、お前が抱えている未勝利の壁を壊せ!」
    他の人は、アタシのワガママに呆れて、すぐに離れていったのに。
    でも、このトレーナーさんは違った。
    アタシがどんなにサボろうとしても、どんなにズルしようとしても、絶対にアタシから目を離さなかった。

  • 29二次元好きの匿名さん25/09/21(日) 05:53:24

    ある日のこと。
    アタシはいつものように、トレーニングの途中で、疲れてフラフラになってしまった。
    「コバト、今日の練習はやめだ。フォームがおかしい。すぐトレーナー室に戻るぞ」
    トレーナーさんは、いつもの厳しい声で、アタシにそう言った。
    アタシは、やった!サボれるかも、と少し嬉しくなった。

  • 30二次元好きの匿名さん25/09/21(日) 05:55:15

    でも、トレーナーさんの顔をよく見ると、いつもの「鬼」の顔じゃなくて、心配そうな顔をしていた。
    ボロボロのトレーナー室に戻ると、トレーナーさんは顔を上げて私を見ることもなく、一言もしゃべることなく、一心不乱にアタシの脚を丹念に丹念にマッサージしてくれた。
    その手は、ゴツゴツしていて…、でも、すごく優しかった。
    怪我がないか、アタシの脚を触りながら、真剣に何度も何度も確認してくれた。
    アタシは、その手に触れられながら、なんだかじんわり胸が温かくなった。
    こんなにも、うれしいものなんだって…。
    この人、アタシの事を、ちゃんと大切に思ってくれている。
    そう思ったら、アタシは、もっとこの人と一緒にいたくなった。
    もっと、この人のことを知りたい、この人のために何かしてあげたい。

  • 31二次元好きの匿名さん25/09/21(日) 05:56:18

    そう思って、頑張ってトレーナーさんの好きそうな、甘くないクッキーを焼いてみた。
    それから、毎日のお弁当も、トレーナーさんが喜んでくれるように、いっぱい練習して工夫してみた。
    トレーナーさんは、照れくさそうにしながらも、ぶっきらぼうに「ありがとう」って言ってくれた。
    その顔は、本当に優しくて、アタシは、この人の笑顔を、もっと見たいって思った。

  • 32二次元好きの匿名さん25/09/21(日) 05:58:57

    そして、運命の未勝利戦の日。
    アタシは、ゲートを出たとき、過去の、どのレースよりずっと速く走れてる自分に驚いた。
    鬼トレーニングで鍛えられた力が、身体の底からグツグツ湧き出てくるみたいだった。
    「行け!コバト!お前は強くなった!その脚で、未勝利の壁をぶっ壊せ!」
    トレーナーさんの声が聞こえた。
    ……正直、あの子の猛追には、絶望した。
    また、ダメなんだ、負けるんだって思った。
    でも、アタシは、苦しかったけど、もっともっと速く走れた。
    だって、トレーナーさんの声が、アタシに勇気をくれたから…。

  • 33二次元好きの匿名さん25/09/21(日) 06:00:31

    そして、ゴール板を、アタシが一番に駆け抜けた。
    初勝利。
    アタシは、嬉しくて、嬉しくて、…本当に嬉しくて涙が止まらなかった。止められなかった。こんなこと初めてだったよ…。
    トレーナーさんが、アタシを「よくやった」って、褒めてくれた。
    そして、アタシは、ずっとしたかったことを、この人に、思いっきりしてみた。

  • 34二次元好きの匿名さん25/09/21(日) 06:02:29

    トレーナーさんに、思いっきり抱きつくこと。
    「トレーナーさぁん!約束、覚えてますよねぇ?」
    「や、約束?」
    「アタシが勝ったらぁ、アタシを抱きしめてくれるって……♡」
    トレーナーさんは、自分で言ったこと忘れちゃってたみたいで、慌ててアタシから離れようとしたけど、アタシは絶対に離さない。
    だって、アタシは、この人と、もっともーっと一緒にいたいから。
    それに、アタシの『魅惑のデッドヒート』は、これからが本番なんだから。
    未勝利の壁を壊した、このアタシが、次は、この鬼トレーナーさんの、固い心を、溶かしてみせるんだから!

    END…?

  • 35二次元好きの匿名さん25/09/21(日) 10:25:20

    掛かってしまっているかもしれませんね

  • 36二次元好きの匿名さん25/09/21(日) 17:43:33

    地方の子いいね

  • 37二次元好きの匿名さん25/09/21(日) 22:15:49

    >>35

    >>36

    ここまで読んでくださり、ありがとうございました!


    地方の子にも、中央のネームド以外の子にも、ドラマや絆がある、そんな気持ちで書かせていただきました。


    とりあえずお話は一区切りですが、書きたいことが、まだあるので、もしかして、お話は続くかもしれません!


    よろしければ、その時まで!

  • 38二次元好きの匿名さん25/09/22(月) 05:33:28

    お疲れ様!個人的にツボったのでAIだけど支援絵を
    置いておくね!
    AI初心者だから描写と同じにできなかったわ…
    誰かもっと上手い人がいたら新しく別キャラ貼ったり、修正してくれると嬉しいっす!

  • 39二次元好きの匿名さん25/09/22(月) 06:38:12

    gj
    良いお話だった

  • 40二次元好きの匿名さん25/09/22(月) 16:27:46

    地方の子は現役長い子も多いし、じわじわ攻めてったらいつかはね…

  • 41二次元好きの匿名さん25/09/22(月) 22:34:44

    早くタジタジになれ鬼トレーナー

    「嘘偽りない」感情の発露を直視して逃げられなくなれ!!!!

    あと誤字あったので報告させていただきます

    >>34

    END…?←ここ「めっちゃ続く」の間違いかと

    なんというかその、続き読ませてくださぃぃ…めっちゃ好きなんですぅぅ…

  • 42二次元好きの匿名さん25/09/23(火) 04:30:51

    続くのならライバルとか出てきたりするのかな

  • 43二次元好きの匿名さん25/09/23(火) 13:39:08

    >>42

    中央や他の地方から移籍してきた子とかね

  • 44二次元好きの匿名さん25/09/23(火) 17:39:43

    乙です〜
    名前の元ネタ?はわからんけどこれが名作なのはわかる
    良作をありがとうございます

  • 45二次元好きの匿名さん25/09/23(火) 23:33:38

    いつかはお互いマジ惚れになるのかしら

  • 46二次元好きの匿名さん25/09/24(水) 04:14:25

    正しいトレーニングをすれば、ちゃんと伸びる子だったんだね
    怪我をさせないようにしてる描写が良き

  • 47二次元好きの匿名さん25/09/24(水) 09:59:23

    相性自体も良かったのかも

  • 48二次元好きの匿名さん25/09/24(水) 18:49:14

    自分と合う指導者に出会えるかは、スポーツ選手全般にとって大切なことだからね

オススメ

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