(CP閲覧注意)未亡人か……

  • 1二次元好きの匿名さん25/09/20(土) 17:58:27

    私がそうなるなんて

  • 2二次元好きの匿名さん25/09/20(土) 18:02:16
  • 3二次元好きの匿名さん25/09/20(土) 18:03:01

    楽しみ!

  • 4二次元好きの匿名さん25/09/20(土) 18:04:05

    イオマグヌッソの一件が終わり、ニャアンはマチュと共に地球へ行くことになった。

    ソドンが地球へ向かう途中、ニャアンはエグザベから一枚のドッグタグを渡された。

    「なんですか、これ」

    「餞別代わり……にもならないか。お守りとして、受け取ってくれないかな」

    「エグザベ少尉のドッグタグですか。いいんですか、私になんかに渡して」

    「まあ、失くしたら報告書は書かないとだけど……それがあれば君もお嬢さんも何かあった時に便宜を図ってもらえるだろうし」

    「……ドッグタグを渡すなんて、まるで彼女みたいじゃないですか」

    「ごめん……今はそれくらいしか僕も持ってないんだよ」

    「……仕方がないので受け取ってあげましょう」

  • 5二次元好きの匿名さん25/09/20(土) 18:06:21



    地球での暮らしを始めたマチュとニャアン。
    ニャアンの首にはあのドッグタグが下げられていた。

    上機嫌に鼻歌を歌いながら家事をするニャアンに合わせて、胸元のドッグタグが揺れる。

  • 6二次元好きの匿名さん25/09/20(土) 18:07:30



    久しぶりにシャリア一向と再会したマチュとニャアン。

    マチュはシャリアとコモリとの会話に盛り上がり、なんとなくニャアンとエグザベはそれを遠巻きに見ていた。

    「何か不自由や、困ったことはない?」

    エグザベからの問いに、ニャアンはしばし考える。

    「困ったこと……になるのでしょうか」

    ニャアンは胸元のドッグタグを弄りながら呟く。

    「高卒認定が取れたので……進学しようと思っているんですけど」

    ずっとシャリアたちの世話になっているわけにはいかない。

    「地球だと、どこの学校も国籍がないと受験資格すらないんです」

    地球の暮らしは好きだが、制度の部分では宇宙難民への扱いは厳しい。

  • 7二次元好きの匿名さん25/09/20(土) 18:09:05

    「それは困ったね……今から君の新しい身分を用意するとなると、僕1人じゃ難しいし時間もかかる……」

    エグザべは暫し考えた後、ハッと何かに気付く。

    「僕の籍に入る?」

    「……え?」

    「いや、深い意味は特になくて……手っ取り早く国籍を手に入れるなら僕のところに入籍しちゃえばいいのかなって」

    エグザベはあっけらかんとした態度で続ける。

    「どうせ僕は一生独り身だろうし、君に良い人ができたら離婚すればいいだけだから……ああ、でも離婚歴ができちゃうのは嫌だよね」

    とんでもないことを言っている自覚があるのかないのか、エグザベの表情は柔らかいのにどこかつかみどころがない雰囲気を纏っている。

    「それ、書類上は夫婦になってしまいますけど……本当に少尉はそれでいいのですか?」

    「それで何か変わるわけじゃないだろうし、僕は困らないよ」

    この人はやはりどこか外れているところがあるのではないか。

    「私も18になったので……可能ですね、それ」

    そう思いながらも、ニャアンはその提案を受け入れてしまった。

    彼と夫婦になること自体は別に嫌ではないし、元々自分はそのようなものにあまり興味がなかったので損のない話だった。
    一緒に暮らすわけでもなく、ただ書類上の関係が変わるだけ。

  • 8二次元好きの匿名さん25/09/20(土) 18:10:17

    “ニャアン・オリベ”

    新しく発行された自分のIDカードを見つめながら、ニャアンはまた胸元のドッグタグを撫でた。

  • 9二次元好きの匿名さん25/09/20(土) 18:11:52



    順風満帆と言える生活だった。
    ニャアンが進学先を探している間にマチュはシュウジと再開し、三人で暮らし始めた。

    三人での暮らしが手狭となってきたころにニャアンの進学が決まり、学校から程近い場所で一人暮らしすることにした。

    「ニャアン、本当に出ていっちゃうの?」

    マチュの寂しそうな声。

    「私は今までマチュと2人でたくさんの時間を過ごせて楽しかったよ。だから今度はシュウちゃんと一緒にいてあげて」

    遅かれ早かれこうなることは予見していた。
    今生の別れというわけでもなく、会いに行こうと思えばいつでも会える。
    私とマチュは友達で、マチュとシュウちゃんはそれ以上の関係。
    そこまで自分は気の利かない人間ではない。

    「たまにはこっちに来てね。私もニャアンの家に遊びに行くから!」

    「うん、部屋が片付いたら連絡する」

    マチュとシュウジに見送られ、ニャアンは引っ越し先に向かった。

  • 10二次元好きの匿名さん25/09/20(土) 18:11:57

    良いね打算で始まり終わる()関係

  • 11二次元好きの匿名さん25/09/20(土) 18:13:31



    「ニャアン・オリベさん、ご入学おめでとうございます」

    ニャアンのIDカードを確認した学校職員が、彼女に学生証を渡す。
    まだそう呼ばれることに慣れていない。
    気恥ずかしさと共にニャアンの学生生活が始まった。

    ニャアンが“ニャアン・オリベ”と呼ばれることに慣れつつあるころ、再びエグザベと会う機会ができた。
    地球に用事があったらしく、その帰りに様子を見に来たそうだ。

  • 12二次元好きの匿名さん25/09/20(土) 18:15:06

    「学校生活はどう?」

    学校のすぐ近くにある喫茶店で、2人はお茶を飲んでいた。

    「おかげさまで……ぼちぼちです」

    「よかった」

    穏やかな表情。

    「この後は……宇宙に戻るんですか」

    時刻は夕刻。

    「明日の昼までは地球で待機だよ」

    「よかったら……私の家に来ますか?」

    「え?」

    エグザベのカップを持つ手が僅かに震え、中に入っている液体が揺れる。

  • 13二次元好きの匿名さん25/09/20(土) 18:16:40

    あのドッグタグってキシリアから貰ったんじゃないのか

  • 14二次元好きの匿名さん25/09/20(土) 18:16:44

    「エグザベ少尉には感謝しているんですよ……あなたがいなかったらそもそも試験すら受けられなかったので」

    ほんのお礼の気持ちなのだ。

    「……私の手料理にはなりますが、夕食をご馳走します」

    書類上とはいえ妻にしてもらった。
    国籍があるという事実の恩恵を自分は受けているわけで、手料理程度でそれに報いるには不十分だとわかりつつも、今自分ができる恩返しはそれくらいだった。

    「……好きな人にしか、手料理は作らないんじゃなかったっけ」

    エグザベは明らかにたじろいでいる。

    「まあ、はい。少尉のこと、感謝してますし……好きか嫌いかで言ったら好きですよ」

    「でも異性を家に上げるのは……」

    「夫婦ですよね、私たち」

    自分で言っておいてニャアンは顔が熱くなるのを感じた。
    エグザベの顔も赤い。

    「ご迷惑じゃなければ……ご馳走になろうかな」

    「……迷惑ではないです」

  • 15二次元好きの匿名さん25/09/20(土) 18:17:53



    「美味しかった。ありがとう」

    誰かの手料理なんて久しぶりに食べたよ、とエグザベは笑顔で言う。

    「お風呂……沸いてますからどうぞ」

    ニャアンは浴室の方向を示す。

    「えっ!? いやいや、悪いよ」

    「こんな時間まで引き留めたのは私ですし……たまにマチュとシュウちゃんが泊まりにくるのでお泊まりセットの用意もありますから」

    ニャアンは収納スペースに詰め込まれた来客用の布団をエグザベに見せた。

    「実は今日泊まる場所を確保できてなかったんだ……正直助かる」

    エグザベは眉を八の字にしながら笑う。

  • 16二次元好きの匿名さん25/09/20(土) 18:19:46



    書類上とはいえ結婚したばかりの若い夫婦が部屋に2人っきりだというのに、彼らの態度はどこかよそよそしく、淡々としたものだった。

    エグザベは来客用の布団に入り、ニャアンに背を向けて眠りについた様子だった。

    ニャアンは自分の寝床でそれを眺めながら、どこか歯がゆい気持ちを感じていた。

    そういうものなのはわかっている。
    彼はどこか外れているが善い人で、自分はその善意に漬け込んでいるだけ。
    国籍目当ての結婚と非難されておかしくないことをやっているのに、当の本人からは何か見返りを求められることもなく、穏やかな生活を享受していることに感謝しなければならない。

    歯痒い気持ちを飲み込み、ニャアンも彼に背を向け、目を閉じた。

  • 17二次元好きの匿名さん25/09/20(土) 18:20:52



    翌朝、ニャアンは2人分の朝食を用意した。
    エグザベは嬉しそうにそれを食べてくれた。

    ニャアンの学校があるから、2人は一緒に家を出た。

    「ニャアン、いってらっしゃい」

    「少尉も……いってらっしゃい」

    優しい笑顔で、手を振ってくれている。

    それがニャアンの見たエグザベの最後の姿だった。

  • 18二次元好きの匿名さん25/09/20(土) 18:21:29

    エグザベくんも見合い話とか弾く理由になるしウィンウィンだね!ウィンウィンかなぁ!?どこかで負けが発生してないかなぁ!?

  • 19二次元好きの匿名さん25/09/20(土) 18:22:42

    スレ主です。
    今日はここまでです。
    0時過ぎたらまた更新するかもしてないです。
    スレ主はスケベが書きたいだけなので曇る展開はなるべくまとめて終わらせるようにします。

  • 20二次元好きの匿名さん25/09/20(土) 18:22:52

    >>13

    ドッグタグに関しては少尉のマークが入ってる以外の情報は何もない

  • 21二次元好きの匿名さん25/09/20(土) 19:41:25

    >>19

    乙です

    楽しみにしてます

  • 22二次元好きの匿名さん25/09/20(土) 22:49:53

    >>20

    >>13


    後強いてゆうなら役割上2つ1組で持ち歩くべきタグが1つしか描写されてないという事くらいかな

  • 23二次元好きの匿名さん25/09/20(土) 22:57:23

    >>20

    あとはニャアンが少尉待遇で元々ニャアンのもの説もあるけど8話でまずニャアンは民間協力者とミゲルに言われている

    ニャアンが着ている軍服は、インナーは襟章がないためおそらく兵卒のもので、胸章もよく見るとエグザベやコモリが付けているものとは下部の突起の形が違う(少尉二人は菱形、ニャアンのものは真っ直ぐ)あたりは指摘されてる

  • 24二次元好きの匿名さん25/09/20(土) 23:06:28

    エンディング設定画でドックタグ少尉マークの面について『※見せないウラ面』と説明書きがある
    これが「エンディング映像では『見せない』」なのか「ニャアンが『見せない』」なのかで無限に妄想出来るんだな

  • 25二次元好きの匿名さん25/09/20(土) 23:22:51

    >>23

    >>民間協力者とミゲルに言われている

    言われてない。ミゲルが言ってるのは「民間からの抜擢」っていうことで、正規の教育を受けて任官したわけじゃないというだけ

    ニャアンのジオン軍での立場は作中の描写だと結局わからないし、8話から10話の間に変わっている可能性だってある


    唯一わかるのは、10話の時点では近衛部隊の一員ということだけ

  • 26二次元好きの匿名さん25/09/20(土) 23:26:24

    スレ主よスレの主旨にあってない書込みは削除していいからな
    このレスも含めて

  • 27二次元好きの匿名さん25/09/20(土) 23:34:48

    地球だと不法移民はマンハンターの標的としてひどい目に合うらしいから
    国籍の有無はマジで死活問題になるんだよね・・・

  • 28二次元好きの匿名さん25/09/20(土) 23:34:51

    ドッグタグに関してはすーぐ学会が始まっちゃうんだよね
    しかも内容は毎度同じ
    解釈次第なんだから、黙ってスレ主の解釈に従っときゃええんやで

  • 29二次元好きの匿名さん25/09/20(土) 23:53:44

    このレスは削除されています

  • 30二次元好きの匿名さん25/09/20(土) 23:57:17

    スレ主です
    仕事してる間になんか色々とごめんなさい

    ちゃんと最初に注意書きしなかった自分の責任です。
    あまりレス削除はしたくないので(自分の基準で削除したら純粋な感想まで消してしまう可能性があって怖い)
    ドッグタグ問題については今後はスルーしてくれると助かります。

    以降気をつけますので、何卒よろしくお願い致します。

  • 31二次元好きの匿名さん25/09/21(日) 00:18:46

    こちらこそ脱線して申し訳ない
    今後とも楽しみにしてます

    ・・・仕事!?お疲れ様です

  • 32二次元好きの匿名さん25/09/21(日) 00:53:44



    ニャアンが“ニャアン・オリベ”と呼ばれることにすっかり慣れ、恥ずかしさを感じなくなったころ。

    朝早くに家の呼び鈴が鳴った。
    誰だろうと扉を開ければ、そこには軍服を着た男が険しい顔をして立っていた。

    男は自分の名前と階級、エグザベと同じ部隊に所属していたことを話す。

    ────嫌な予感がする。

    ニャアンは鳥肌が立つのを感じた。

    戦闘中にエグザベの乗っていた機体が大破した。
    機体は朽ち果て、操縦者であるエグザベを見つけるのは困難だった。
    せめてと思い持ち帰って来られたのは、彼が乗っていた機体の破片だけ。

    白かったそれは赤黒く焦げている。
    手のひらに収まるほど小さく、冷たかった。

    ニャアンは返す言葉も見つからず、軍服の男は敬礼すると去っていった。

  • 33二次元好きの匿名さん25/09/21(日) 00:55:03

    間もなくシャリアからの連絡も来たが、ニャアンはうつろな心持ちでそれを聞いていた。

    『連絡が遅くなり申し訳ございません。近いうちにコモリ少尉とそちらに伺います』

    仮面を被ったように張り詰めたシャリアの表情には、どこか苦悶の色が見て取れた。

    「……必要ありません」

    書類上は自分は彼の家族かもしれないが、書類上だけ。
    夫婦らしいことなど何もなかった。

    『ニャアンさん、エグザベ少尉……大尉の遺族年金の受取人はあなたです』

    「……いりません」

    『受け取ってあげてください』

    自分の家に尋ねてきた軍服の男の言葉を思い出す。

    『エグザベ少尉は最後、あなたに謝罪の言葉を残していきました』

    そんなの本当に夫婦みたいじゃないか。

    通信を終え、ニャアンは先ほど渡された機体の破片を再び手に取った。
    赤黒く焦げた、元は白かったはずの機体の破片。
    ────それはまるで人骨のようにも感じられた。

    「……!」

    ニャアンは隠すように手近なハンカチでそれを包み込み、キャビネットの奥深くにしまい込んだ。

  • 34二次元好きの匿名さん25/09/21(日) 00:58:56

    そのまま布団に潜り込み、身体を丸めた。
    とても寒くて、震えが止まらなかった。

    なぜ自分の心がこんなに乱されているのだろう、ただ自分は自分のために彼の善意を利用していただけなのに。

    思い出されるのは最後の会った時の彼の笑顔。
    いってらっしゃいと言われて、自分も同じ言葉を返した。
    あの時『またね』と言えばよかった。

    それよりももっと前、彼が自分の部屋にいた時にもっといっぱいお話しをすればよかった。
    夫婦らしいことをあなたとならしてもいいからと、同じ寝床で眠りたかった。
    彼の体温や、肌の感触を知りたかった。

    ニャアン・オリベになれた時、本当は飛び上がるほど嬉しかった。
    ドッグタグをあなたの代わりに撫でて、これから先少しずつでも本当の夫婦になれるのではないかという期待すら抱いていた。

    ソドンでドッグタグを受け取った時、私は彼の優しさに心が溶けていく感覚を覚えた。

    本当はずっと前から、彼を意識していたのかもしれない。

    押し寄せる後悔。
    焼けつくような涙が頬をつたう感覚で、自分が泣いていることに気付いた。

    これから先も自分は“ニャアン・オリベ”として生きねばならない。

  • 35二次元好きの匿名さん25/09/21(日) 01:00:26



    いつの間にか作られていた口座には“エグザベ・オリベ大尉”の遺族年金が振り込まれている。
    ニャアンはそれに関心を持つことがなく、通帳をキャビネットの奥にしまい込んで放置した。

    「やっぱり三人で暮らそうよ。そのほうが絶対楽しいよ」

    マチュが前よりも頻繁にニャアンの家を訪ねるようになった。

    「マチュ、気を遣わなくていいよ。私は何もないから」

    「そんなのウソだよ……」

    マチュがニャアンを抱きしめる。

    「本当に、大丈夫。そもそも少尉とはそういう関係じゃないって、マチュも知ってるでしょ」

    “そういう関係じゃなかった”
    全てがその言葉に集約される。

    「マチュだって資格の勉強、忙しいんでしょ? 私のことはいいから……」

    自分は彼のことで泣いたり悲しんだりする権利はないのだ。

  • 36二次元好きの匿名さん25/09/21(日) 01:04:52



    命は簡単になくなってしまう。
    故郷を追われてから、それを何度もこの目で見てきたはずだ。

    目的を知らなかったとはいえイオマグヌッソを起動させたとき、自分はどれほどの命を奪ったか。
    その命の嘆苦を、大量のそれを、ニャアンは直接浴び、全て自分の中に受け入れたはずだ。

    そんな大量殺人を行った自分が、自分に親切にしてくれた男性が1人亡くなったことを悲しむ権利があるだろうか。

    彼の友人をファンネルで焼いてしまった時、彼から自分を責める言葉や態度が出ることはなく、それどころか悲しむそぶりすら見せなかった。
    悲しむそぶりを見せなかったのは、自分がそれを見てもいい関係性でなかったのもあるだろう。
    だがそれでも、彼は優しかったのだと思う。

    ニャアンはつとめて平常を装い、生活を続けた。
    それは一種の現実逃避であり、彼女はエグザベ・オリベの死から目を背けることで自分を保とうとした。

    自分が奪った大量の命たちの残滓。
    懺悔の念が自分の心臓を握り潰そうとしていると錯覚する。

    ────もし因果応報があるのなら、彼を殺したのは私ではないか。

    なぜ神は彼を殺し、悪魔と呼ばれた自分を生かしたのか。

    一度その考えに至った時、ニャアンは胃の中のものを全て吐き出して、衝動的に窓から飛び降りそうになっていた。
    それ以来彼女は考えることをやめた。

  • 37二次元好きの匿名さん25/09/21(日) 01:07:23



    この生が自分に課された罰ならば、背負い続けなければならない。
    朝に目を覚ましてから夜に眠りにつくまで、その夢の中でも彼女の中にはエグザベの存在があった。

    削れていくような1年間。
    時間の流れが自分から彼の記憶を霞のように消し、彼に抱いていた感情も色褪せてなくなると思っていた。
    だがいつもふと何かの拍子に彼を思い出し、その度に深い後悔が彼女を襲った。

    常に寂寥感に苛まれ、生きているというよりは惰性で死んでないようにも思える生活だった。

    料理をしても、趣味の編み物をしても、学校で勉強をしていても、形ばかりで心が伴っていなかった。

    そんな折、シャリアから突然の連絡が届いた。
    彼の言葉に、ニャアンは止まっていた時間が動き出すのを感じた。

    エグザベ・オリベが生きている。

  • 38二次元好きの匿名さん25/09/21(日) 01:08:40

    スレ主です。
    今日はここまでです。
    今晩(?)か夕方かそこら辺にまた続き投下します。

  • 39二次元好きの匿名さん25/09/21(日) 08:09:52

    楽しみにしてます

  • 40二次元好きの匿名さん25/09/21(日) 11:59:02

    フフフ・・・楽しみ!

  • 41二次元好きの匿名さん25/09/21(日) 16:42:52



    「えっと……はじめ、まして?」

    ベッドの上で、エグザベは困り果てた顔でニャアンを見上げている。

    シャリアからの報せを受けてすぐ、ニャアンはシャトルに乗りサイド3のジオン軍基地内の医療施設に向かった。

    機体が大破後、宇宙空間を彷徨っていた彼は地球連邦のMSに救助され捕虜となり、捕虜交換の取引によってやっと生存がわかったらしい。

    パイロットスーツのおかげで酸素欠乏症の兆候はないが、機体が破壊された時の強い衝撃と外傷の影響で記憶障害が生じていると聞かされていた。

  • 42二次元好きの匿名さん25/09/21(日) 16:44:25

    覚悟はしていたが、それでも再会の喜びはみるみるもどかしさに塗り替えられていく。
    まるで他人のような彼に、いや実際彼にとって自分は他人なのだが、今置かれている状況にニャアンは視界がぐらつくのを感じた。

    そうだ、ちゃんと名乗らなければ。

    「ニャアン、オリベです……」

    その名前を聞いたエグザベはぽかんとした表情を浮かべている。

    ニャアンは衣服のボタンを二つほど外し、ドッグタグを首元から引き抜いて彼に見せた。

    本来ならIDカードを見せたほうが良いのだろう。
    だがこちらの方がきっと彼には馴染み深いと思った。
    彼はニャアンの首にかかったものと、自分に首に下げられているものを見比べると、再びニャアンを見上げた。

    「君は僕の家族……ってこと?」

    「……妻です」

    書類上は。

  • 43二次元好きの匿名さん25/09/21(日) 16:46:07

    「……自分のことが書かれてる書類は見てたけど、本当に奥さん、いたんだね。何も覚えてなくて申し訳ない」

    気まずそうに答えるエグザベ。
    本当に何も覚えていない様子だった。

    「君のことを教えてもらってもいい?」

    エグザベからの問い。
    ニャアンは自分は彼と同じ天涯孤独の身で、家族はあなた1人、今は地球で学生をやっているとだけ答えた。

    なぜ結婚に至ったか、どうやって出会ったのか、どんな関係だったか、こちらから話さないほうがいいと思った。

    「君、まだ10代……!? もしかして僕って、危ない人だった……?」

    「危なっかしい人ではありましたね」

    国籍がないと進学できないと聞くと、じゃあ僕の籍に入りなよと言い出すような。

    「何も思い出せそうにない……」

  • 44二次元好きの匿名さん25/09/21(日) 16:47:27

    狼狽する様子のエグザベを見ていると、ニャアンはいてもたってもいられず、思わず彼を抱きしめた。

    「生きていてくれてよかった」

    正直な気持ちを伝えた。

    「ずっとあなたに会いたかった」

    もう後悔はしたくなかった。

    「あなたの妻になっても……問題ないですか?」

    ニャアンからの問い。

    「それは……僕は何も困らないし……むしろ嬉しいよ」

    歯切れの悪い返事。

    「じゃあ、ニャアンさん……僕で良ければよろしくお願いします」

    でも彼らしい言い方だった。

  • 45二次元好きの匿名さん25/09/21(日) 16:48:50

    「呼び捨てでいいですよ、あなたはそうしていました」

    彼を彼たらしめるものはなんだろう。

    旧世紀の哲学者は『人の同一性は記憶によって保たれる』と言った。
    もしある王子の意識と記憶が靴屋の身体に宿ったなら、それは“靴屋”ではなく“王子”である。

    記憶と人格は深く結び付く。
    生まれてから今日までの経験────記憶の蓄積でその人が形作られると言っても過言ではない。

    それでは人格とは何か。
    それは蓄積された記憶、発露される感情、そして自ら考えて決定できる意思ではないか。

    今、彼は記憶という自らを形作るものの土台を失っているだけ。
    間違いなく、彼は私のよく知る“エグザベ・オリベ”なのだ。
    ならば私は彼の知る“ニャアン”として振る舞うべきでないか。

    その一方で、この人の妻────“ニャアン・オリベ”として振る舞いたいという衝動に襲われる。
    記憶がない人にそれをするのは、嘘をついて騙しているようなもの。
    そんなことをしてはいけない。
    ニャアンは倒錯した想いを胸の奥にしまい込んだ。

  • 46二次元好きの匿名さん25/09/21(日) 16:50:54



    「また明日も、来ます」

    ニャアンは静かに病室のドアを閉める。
    今夜は基地内にある家族用の宿舎に泊まるらしい。

    1人になった病室でエグザベは考える。
    自分の中に1年間の記憶と、ジオン軍に保護されてから知らされた自分自身の情報、自分の妻だと言う女────ニャアンから聞いた言葉を思い出し、整理した。

    目が覚めた時、地球連邦の兵士は自分のことを“エグザベ・オリベ少尉”と呼んだ。
    彼はそれが自分の名前であると気付かなかった。
    連邦兵士がその名前を知ったのは、首にかけられているドッグタグにそう書かれていたから。

    よく考えると、自分がどこの誰で、なぜここにいて、地球連邦の兵士から取り調べを受けているのかわからなかった。

  • 47二次元好きの匿名さん25/09/21(日) 16:52:57

    最初は疑われもしたが、パイロットスーツのみで宇宙空間を彷徨っていたのだから、酸素欠乏症にでもかかったのではないかと簡単な検査を受けた。

    その結果、彼は海馬と扁桃体に異常をきたしていることがわかった。
    海馬は特に体験の記憶に関与し、扁桃体は感情と結びついた記憶を強く刻み込む場所。
    幸いなことにそれ以外の記憶を司る場所に異常はなく、知能や知識に異常は見られず、エグザベは至って普通に日常動作を行い、何かを考えたり覚えることに苦労する様子はなかった。

    記憶がないものの捕虜収容所では少尉としての相応の扱いを受け、個室という名の独房が割り与えられた。

    自分と同じく捕虜になった者たちのまとめ役になり、彼らの秩序の維持やメンタルケア、生活環境改善のために連邦軍人との交渉も行なった。
    捕虜たちが本国の家族や友人知人に送るための手紙の管理すら彼の仕事だった。

    何が何だかわからないが、自分はジオン軍の少尉らしい。
    ならばその責務を果たさねばならない。
    それだけで彼は自らのタスクを淡々とこなし続けた。

    捕虜仲間から手紙を預けられる度、自分にもこのような手紙を送る相手がいるのだろうかと考えた。
    もしいるとしたら、とても申し訳がなかった。

    捕虜交換の取引で母国だというジオン公国に戻った時、自分の上司だという男────シャリア・ブル中佐から「よく帰ってきてくれました」と言われた。

    エグザベと対面したシャリアの声は落ち着いていたが、瞳の奥には抑え切れぬ熱が宿っているように見えた。
    歓喜と困惑と、言葉にできない複雑な思いが絡み合い、彼の表情はかすかに揺れていた。

    エグザベはその表情の意味を理解することができず、ご迷惑をおかけしました、と返した。

  • 48二次元好きの匿名さん25/09/21(日) 16:55:10

    病院で精密検査を受け、自分自身のことがまとめられた書類を受け取った。

    名前、年齢、所属、来歴……
    数年前に撮られたであろう自分の写真も添付されていた。
    それら全てがまるで何かの作品の登場人物の設定資料を読まされているようで、現実味がなかった。

    配偶者の欄にはやはり知らない名前が書かれていて、そこで初めて自分が既婚者と知った。

    名前の持ち主────ニャアン・オリベと対面した時、一瞬だけ胸が跳ねるのを感じた。

    凛とした雰囲気の、伏し目がちでどこか憂いを帯びた綺麗な人だった。
    年齢も自分より年下に見える。

    本当にこんな人が自分の妻なのか、疑いすら覚えた。

    抱きしめられ、生きていてくれてよかった、ずっとあなたに会いたかったと言われた。

    ずっとあてのない航海をしている気分だった。
    自分にも帰る場所があったのだと、初めて安堵した。

    『あなたの妻になっても……問題ないですか?』

    なぜそんなことを聞くのだろう。
    自分はこの人と夫婦のはずで、確認の必要なんてないはずなのに。

    早く彼女に会いたい。
    会って、自分のことだけでなく、彼女のことをもっと知りたかった。

  • 49二次元好きの匿名さん25/09/21(日) 16:56:24

    スレ主です。
    今日はここまでです。
    続きはいけそうなら0時過ぎくらいにでも……
    (保守ありがとうございます)

  • 50二次元好きの匿名さん25/09/21(日) 17:09:36

    切ない・・・

  • 51二次元好きの匿名さん25/09/21(日) 17:16:54

    記憶喪失の人間ってすごく無防備だから仲を深めるのは独特の罪悪感があっていいね・・・

  • 52二次元好きの匿名さん25/09/21(日) 18:30:21

    エグザベ少尉が記憶なくてもやるべき仕事をこなしてたのめちゃくちゃエグザベ少尉という感じがする
    そのうち面倒見てた兵卒の人たちからお礼の手紙とかもらうのかな

  • 53二次元好きの匿名さん25/09/21(日) 20:50:21

    本編ザベは自分の出自と重なるところがあるニャアンに対して仲間意識や妹として見てたろうけど、記憶喪失ザベにとってのニャアンは何も分からない中で唯一の寄る辺ともなる存在な訳で……

    要するに本編におけるジオンなんだよな、この状況におけるニャアン。大丈夫?感情が相当重いことにならない?

  • 54二次元好きの匿名さん25/09/21(日) 22:08:29

    唯一の拠り所かこのニャアン

  • 55二次元好きの匿名さん25/09/21(日) 22:48:15


    翌日もニャアンは病室に訪れた。
    片手には大きく膨らんだ買い物袋が握られている。

    「どれがいいですか」

    中身は色々な種類のフルーツゼリーだった。

    「ありがとう……じゃあ、これを貰おうかな」

    エグザベはオレンジゼリーを選ぶ。

    「好きなんですか……オレンジ」

    ニャアンからの問い。

    「なんとなく選んだだけだよ、君の知ってる僕は何が好きだったの」

    「……わかりません、あなたの好きな物」

    ニャアンの表情は暗い。
    その表情には後悔が混じっているように見えて、それ以上は追求できなかった。
    なんとなく、彼女は自分に隠し事をしていると察した。
    彼女が言いたくない“エグザベ・オリベ”に関する事柄があるのだろうか。

    「話せる限りでいいから……君のことを教えてほしい。君の知る僕のことも」

    「あなたのことは、その資料の方がよく知っているはずです」

    ニャアンはサイドボードに置かれた彼に関する書類に視線をやる。

  • 56二次元好きの匿名さん25/09/21(日) 22:50:09

    「優しくて……親切な人でした。私にも……」

    消え入りそうな声。

    「あなたの善意で私は救われました」

    それ以上は話さない。

    「救われたから、結婚を?」

    エグザベの問いにニャアンは首を横に振った。

    「救われたけれど……そんな大層な理由じゃなかった」

    ニャアンはどこか息苦しそうに、服の胸元を乱暴に引っ張った。
    ドックタグを取り出して、左手で握りしめる。

    「私はすごく悪い人間ですよ、きっと今のあなたが想像する以上に」

    ニャアンは立ち上がり、そっと自身の右手をエグザベの頭に上に乗せる。
    左手はドッグタグを握りしめたままだった。

  • 57二次元好きの匿名さん25/09/21(日) 22:51:23

    「過去を強制してはいけないと、あなたの主治医の先生から言われました……それに私の主観で話すあなたのことは、必ずしも正しいとは限りません」

    記憶はしばしば歪められる。
    記憶は常にその日生きるために最適な形に変えられ、取捨選択される。
    トラウマは危険を避けるための警報で、辛い出来事が記憶に強く刻まれるのは生き続けようとするための防衛機能だ。

    では逆に幸せな記憶はどうだろうか。

    「本当はここにいる資格がないんです、私には」

    エグザベの頭から手を離す。

    「あなたは悪魔の生贄になったんです」

  • 58二次元好きの匿名さん25/09/21(日) 22:53:02

    ニャアンの故郷の古い伝承で、人の頭には聖霊が宿っているというものがあった。
    その精霊は強いショックや恐怖を受けると離れていってしまい、その人は不幸になってしまうらしい。

    他者の頭に不用意に触れるのは精霊の怒りを買う行為だった。
    もちろん彼女はそんな言い伝えを信じたことはなかった。

    だが確かめたかった。
    今、彼の頭に精霊は宿っているだろうか。
    いるのならば、ここにいる悪魔に報いてみろと。

    エグザベはその行為の意味がわからなかった。

    「頭を撫でられるの、なんだか照れ臭いな」

    そんな呑気な勘違いを言って。

    「僕は君が悪い人間にも、悪魔にも見えないよ」

    まっすぐな瞳。
    夜明けを告げる朝日のように輝いている。

    「僕は伝聞ではなくて、今、目の前にいる君を信じたい」

    眩しすぎる光に、目を背けたくなる。
    あなたはどこまでも“エグザベ・オリベ”だ。

  • 59二次元好きの匿名さん25/09/21(日) 22:55:34



    エグザベの退院が許可されるとすぐに、直属の上司であるシャリア・ブルとの面談が行われた。
    小さな会議室のような場所で、2人は向かい合って座っている。

    「こちらを」

    シャリアは一通の封筒を彼の前に差し出す。

    「軍事機密が記されておりますので取り扱いにはどうかご注意を」

    「軍事機密……?」

    エグザベはA4サイズほどの封筒を手に取る。

    「客観的な事実のみが記された、あなたの記録です」

    シャリアの目はまっすぐとエグザベを捉えている。

    「それに目を通せばあなたの疑問は全て解決するでしょう……ですがそれは修理であり、あなたにとって最適な治療ではないでしょう」

    シャリアの瞳に“自分”が映っている。
    エグザベはそれを他人のように見つめていた。

    「あなたは間違いなくエグザベ・オリベです」

    シャリアは口角を上げる。

    「……あなたは自分を信じればいい。その封筒を開く瞬間は、あなた自身が見極めてください」

  • 60二次元好きの匿名さん25/09/21(日) 22:58:56



    退院したエグザベは病気療養の名目でニャアンと共に地球で過ごすことになった。
    軍から彼の住む場所を割り当てられていたが、ニャアンはまずは自宅に彼を招くことにした。

    「お邪魔します……」

    エグザベは緊張した面持ちでニャアンの部屋に足を踏み入れる。
    一人暮らしの女性の部屋。
    やや手狭だが整頓されていて不自由はなさそうだった。

    「ニャアンは、いつからここで生活を?」

    「進学先が決まって、すぐ……18の時に引っ越してきたので、そろそろ一年でしょうか」

    「え……? 確か君と僕が結婚したのって、一年前だよね?」

    「はい、あなたと結婚してすぐにここで一人暮らしを始めました」

    エグザベの表情にやや疑問の色が浮かぶ。

  • 61二次元好きの匿名さん25/09/21(日) 23:00:35

    「私とあなたが一緒に住んだことはありませんし、その予定もありませんでした」

    ニャアンは淡々と語る。

    「この家も、あなたが来るのはこれで2回目です。一緒に夜を過ごしたのも、その1回目だけです」

    「失礼かもしれないけど、僕たちは仮面夫婦だった……?」

    「それにすら満たない関係でしたよ、そもそも顔を合わせる機会だって少なかったので」

    ニャアンは夕食の準備を始める。

    「何か手伝うことは……?」

    「何も、座って待っててください」

    ニャアンは座卓の前に置かれたオレンジ色のクッションを指差す。
    エグザベは黙ってそれに腰掛け、手持ち無沙汰にニャアンの後ろ姿を見つめた。

  • 62二次元好きの匿名さん25/09/21(日) 23:02:11

    間もなく食事の準備ができて、座卓の上に2人分の食事を並べる。

    「じゃあ、食べましょう」

    この料理を振る舞うのは2回目だ。
    エグザベはお礼を言うとそれを口に運んだ。

    「すごく美味しい! これならお店開けるよ」

    屈託のない笑顔。

    「前にも同じことを言われました」

    つられてニャアンの表情も綻ぶ。
    その表情を見ていると、エグザベは自身の中で張り詰めていたものが解けるのを感じた。

  • 63二次元好きの匿名さん25/09/21(日) 23:04:01



    「ベッド……一つしかないので添い寝でいいですか」

    嘘をついた。
    来客用の布団が入ったケースを隠しながら、ニャアンは彼に問う。

    「申し訳ないよ、僕は別に床でも構わないよ」

    「……夫婦なのに?」

    そう言うと彼は困ったような表情をして頭を抱える。

    「嫌ですか?」

    「嫌ではないけど……僕にとっては初めての体験だから」

    ニャアンもそれは初めての経験だが、言わなかった。

  • 64二次元好きの匿名さん25/09/21(日) 23:05:33

    記憶を失った人間には、まずは安心感を与える必要があるらしい。
    正しい私と彼の関係を再現するならば、来客用の布団を敷いてそこに彼を寝かせるべきだが、きっとこのほうが安心できる。

    決して自分がこうしたかったからではない。

    「おやすみなさい」

    「おやすみ……」

    ニャアンの言葉に、エグザベが応じる。

    一つのベッドに身を寄せつつも、背中合わせで眠った。
    互いの顔を見ることはできなかった。

  • 65二次元好きの匿名さん25/09/21(日) 23:06:49

    スレ主です。
    今日はここまで。
    おそらく明日の夜ごろまた投下します。

  • 66二次元好きの匿名さん25/09/22(月) 04:33:58

    早めに見つかってよかったね。記憶喪失の間に新妻できちゃう作品のトラウマがあってドキドキした

  • 67二次元好きの匿名さん25/09/22(月) 08:33:11

    夜が待ち遠しい
    ……そういう意味じゃないよ?

  • 68二次元好きの匿名さん25/09/22(月) 15:07:30

    この二人はどんなシチュでも距離を詰めるか詰めないかのジリジリ感が似合うな

  • 69二次元好きの匿名さん25/09/22(月) 18:06:17



    前に一緒に夜を過ごした時も、こんな風に一つのベッドで身を寄せ合って眠っていたのだろうか。

    エグザベは自分という人物がまったく掴めずにいた。

    ジオンで最初に渡された自分に関する情報すら、にわかには信じがたかった。
    ルウム難民だが、どういう経路なのかそこからフラナガンスクールを首席で卒業、ジオン軍の少尉となって兵士たちをまとめる立場となる。
    仕えていたキシリア・ザビの事故死及び率いていた部隊の壊滅後はシャリア・ブル中佐の元でアルテイシア公女護衛の尖兵となっていた。
    あまりにも数奇な人生だ。
    よく潰れずにやって来れたなと、他人事のように考えてしまう。

    シャリアから渡された封筒の方はまだ確認できていない。
    今知らされている情報だけで許容量超過を起こしている。
    もしこれ以上の劇薬が投入されたら訳がわからなくなっておかしくなるかもしれなかった。

  • 70二次元好きの匿名さん25/09/22(月) 18:08:08

    何よりも頭を抱えているのが書類外の情報────まだ10代で学生の女の子と結婚しているということ。

    彼女も天涯孤独で難民だったと聞いたとき、何か事情があってやむを得ずに籍だけ入れていた可能性を考えた。
    しかし彼女の自分に対する態度はそのようなものには見えなかった。

    触れ合っている背中のあたたかさを逃したくなくて、それをずっと感じていたくて、考えることをやめて眠りにつくことにした。

  • 71二次元好きの匿名さん25/09/22(月) 18:09:41



    翌朝、ニャアンは隣で眠るエグザベを起こさないようにゆっくりと起き上がった。
    こっそり寝顔を確認すると、とても穏やかな顔で眠っている。

    ニャアンは安堵のため息を吐き、身支度を整えて朝食の用意をする。
    学校には事情を話して休学にしてもらっている。
    死んだと思っていた夫が生きていたので、しばらく療養に付き合いたいなど、自分でも稀有な話だと思う。

    調理の音でエグザベが目を覚ましたのか、衣擦れの音が聞こえた。

    「おはようございます。朝食、そろそろできますよ」

    「おはよう……ありがとう……」

    エグザベが寝ぼけ眼で、少し寝癖のついた頭で、ゆっくりと起き上がる。

  • 72二次元好きの匿名さん25/09/22(月) 18:11:13

    「ニャアンは料理が上手なんだね」

    座卓の上の朝食を見ながらエグザベは呟く。

    「故郷の料理しか作れませんよ。餃子を包んだりするのはすごく苦手ですし……」

    いただきますと言って、食事を食べ始める。
    この料理も前回と同じメニューだった。

    彼は同じようにそれを食べて、同じ感想を口にした。

    まるであの日の再現映像を見せられているようで、彼に記憶がないなんて嘘ではないかと錯覚させられた。

    「……これも前にここに来た時と同じ食事ですが、何か思い当たることはありましたか」

    エグザベは一瞬食事の手を止めた後、申し訳なさそうに首を横に振った。

    「まあ、そんなものですよね。この場所やその料理に何か特別な思い出があるわけでもありませんし」

  • 73二次元好きの匿名さん25/09/22(月) 18:12:42



    食事を終えた2人は、クッションの上に座り込んでぼんやりとしていた。

    ニャアンは今日の予定を考えていた。

    せっかくだしそこらを散歩でもするか、それとも家で何か映画でも観ているか、他に何かすることはあるだろうか。

    「少尉は……自分自身のことで何か覚えていることはありますか」

    彼に趣味の一つでもあればそれを試したかった。

    「……何も。習慣や技能とか、知識も問題なくて、何か覚えたり作業したりするのも苦労しなかったのに、自分自身のことだけごっそり抜けちゃってるから、なんだか不思議な感覚だよ」

    「収容所では……どんな生活をしていましたか」

    おずおずとニャアンが切り出す。

    「普通の生活だったよ」

    穏やかな声音だったが、余情を纏っていた。

    「……辛いことがあったの?」

    その“普通”が何か、知りたかった。

    「僕は運が良かったから」

    そこで会話は打ち切られた。
    宇宙環境での捕虜の扱いは、条約に則った扱いでも過酷なものであったのだろう。

  • 74二次元好きの匿名さん25/09/22(月) 18:15:17

    「ニャアン、君は普段何をしてるの?」

    空気を変えるためなのか、質問を返される。

    「学校がない日は家事をやって、それが終わったらマチュ……友達と遊んだり、猫に会いに行ったり、手持ち無沙汰になると編み物をしてますかね……」

    「猫が好きなの?」

    「好きです。近所にすごく人懐っこい猫がいるんです……夕方になると家から逃げ出してお外を散歩してるので、後で会いに行きましょうか」

    「へえ、楽しみだな」

    彼の次の興味は戸棚の上に向けられた。

    「あそこの編み物道具……君のだよね。何を作っているの?」

    エグザベが指を刺したのは作りかけの編み物と毛糸、編み針の入った籠だった。
    オレンジ色の毛糸が丁寧に編み込まれている。

    「特に何も考えてません。何かに集中してると落ち着くので」

    ニャアンは作りかけの編み物を手に取り、慣れた手つきで編み始めた。

    「器用なんだね」

    「一回覚えてしまえば簡単ですよ。試してみます?」

    「いいの?」

  • 75二次元好きの匿名さん25/09/22(月) 18:17:24

    ニャアンは予備の編み針を用意し、いくつかの色の毛糸を見せた。

    「何色がいいですか」

    「え? うーん……これにしようかな」

    エグザベは戸惑いながらレモンイエローの毛糸を選ぶ。

    ニャアンは編み針を手に取ると、手糸を指にかけて彼の前でゆっくりと編んでみせた。

    「これの繰り返しです」

    エグザベはニャアンから編み針を受け取り同じ動作を真似しようとしたが、うまくはいかなかった。
    ニャアンはエグザベのぎこちない指先に、そっと手を添えて誘導する。

    身体を寄せ合い、微かに石鹸の香りがした。

    彼女の細くてしなやかな指がエグザベの持つ編み針を支え、彼の手に何度も触れる。
    ニャアンの指先はわずかに冷たく、だが触れ合っているうちに少しずつ温かみを帯びていくのを感じた。

    どんどん編み込まれていく毛糸と反比例するように、エグザベは自身の心が彼女にゆっくりと解かれるのを感じた。

  • 76二次元好きの匿名さん25/09/22(月) 18:19:43

    編み針同士がわずかに接触する音と、毛糸が擦れるやわらかな音だけが、静かな部屋に響く。

    エグザベがようやくニャアンの補助なしでも編み物ができるようになり、会話する余裕も出てきた。

    「……僕の人間関係って、すごく限られているんだよね」

    自分の家族親類はもちろん、今まで関わってきた人間の大半が既にこの世にいない。
    記憶を失う前の自分のことをよく知っているのは直属の上司であるシャリア・ブルと同僚のコモリ、そしてニャアンくらいだった。
    記憶がなくたってそれが極端だとわかる。

    ニャアンの表情が曇る。

    「少尉は……自分のことを知りたいですか」

    「それは、もちろん」

    ニャアンは編み物をする手を止める。

    「私はあなたに事実の一部を共有できます」

    シャリアからは軍の機密に関わること以外ならば何を話してもいいと言われていた。

    エグザベも手を止める。

    シャリアから渡された封筒を思い出す。
    客観的な事実のみが記された、自身の記録。
    ニャアンの言う“事実”はそれに含まれているだろうか。

  • 77二次元好きの匿名さん25/09/22(月) 18:20:53

    2人は向き合った。

    「その事実によって、あなたは私を信用できなくなるかもしれません」

    エグザベは黙って頷いた。
    もし同じ事実であれば、封筒の中身を確認するよりも彼女本人から聞きたかった。

    ニャアンの手元はわずかに震えている。

    一瞬の間。

    「私はあなたの友人を殺しました」

  • 78二次元好きの匿名さん25/09/22(月) 18:23:05

    躊躇いがちな、か細い声でそれを言った後、堰を切ったように語り出した。

    「同期のためにケーキを焼いてくれるような、あなたの優しい友人を私は殺しました。骨の欠片だって残りませんでした」

    その声は苦悶に満ちていた。

    「あなたは友の仇を妻にしてしまいました……おかしいと思いませんか?」

    ニャアンの目はエグザベを見ているようで、どこか遠くを見ているようだった。

    「スクール時代の同期は全員亡くなっているのは知っていたけど……死因や経緯までは書かれていなかった。何か事情があるのは察していたが……」

    喋りながら、エグザベは思考を整理する。

    「私が怖いですか?」

    「……その“事実”は、君の主観が混じっていないと言える?」

    エグザベはニャアンと目を合わせて会話がしたかった。
    強引とはわかっていたが、彼女に近付き、両肩を掴んで無理やり目線を合わせようとした。

    「……」

    ニャアンは影を帯びた表情になり俯いてしまい、自分に触れているエグザベの手を見つめている。

  • 79二次元好きの匿名さん25/09/22(月) 18:26:29

    「主観が混じってしまった話は信用ができない。それに……僕はそう簡単に自分の判断を変えないよ」

    この人はどうしてこんなに────。
    ニャアンは目の前の男に恐怖すら覚えた。

    復讐されてもおかしくないことをした。
    あなたの友人を殺したと告白する人間が目の前にいるのに、なぜ彼はこんなに冷静なのだろう。
    記憶がないから……いや、彼はずっとこうだった。

    「……辛いことを聞かせてしまいましたね」

    ニャアンは俯いていた顔を上げる。
    悲しそうな表情だった。

    暫し2人は見つめ合った。
    ニャアンの目を見ていると、エグザベはどんどん吸い込まれるような感覚がした。

    彼女のことをもっと知りたかった。

    ニャアンはエグザベの気持ちを知ってか知らずか、ゆっくりと目を閉じた。
    口はかたく結ばれ、その状態で彼を待った。

  • 80二次元好きの匿名さん25/09/22(月) 18:27:51

    一瞬の逡巡の後、エグザベは『そういうこと』なのかと理解すると、恐る恐る彼女の頬に手を添えて、口付けを交わした。
    触れるか触れないかの、一瞬のキスだった。

    「……君と僕は、こういうことをしていたの?」

    「どう思いましたか?」

    「わからない……」

    「義務でこういうことをするのは、苦痛ではありませんか?」

    「苦痛ではないけど……どんどん君のことまでわからなくなる」

    その言葉を聞くと、ニャアンは彼の胸に手を当てる。
    エグザベの胸の奥から激しい鼓動を感じる。

    エグザベはそれを隠すように再び彼女と距離を取り、置きっぱなしになっていたレモンイエローの編み物を拾う。
    不揃いな編み目の、不恰好なものだった。

    一方のニャアンは編んでいたものを膝の上に置いたままで、しかし意識がそれに向けられることはなく、わずかに唇を噛み締めていた。
    初めてのキスだったのに頭は冴え渡って、あまりにも平坦だった。
    そこにはなんの感動も喜びもなく、ただ虚しさだけが残っている。
    騙すような形で、義務感からそれをやらせても嬉しくないと知った。

  • 81二次元好きの匿名さん25/09/22(月) 18:29:16

    スレ主です。
    一旦ここまで。
    0時過ぎごろにいけそうなら続き投下します。
    保守に感謝。

  • 82二次元好きの匿名さん25/09/22(月) 18:55:05

    しっとり切ないね・・・

  • 83二次元好きの匿名さん25/09/22(月) 23:54:28

    ミゲル関連はニャアンの口から言おうとすると絶対正確には伝えられないよな

  • 84二次元好きの匿名さん25/09/23(火) 00:12:44



    夕方になり、2人は家の近くを散歩した。

    「……あの子です」

    ニャアンが示す先にはオレンジがかった茶色い毛並みの子猫がいた。
    子猫はニャアンに気付くと甘えた声を出しながら擦り寄った。

    「本当に人懐っこい子だね」

    子猫はみぃみぃと鳴きながら無防備にニャアンにお腹を晒し、彼女に身体中を撫でられるのが気持ち良くて仕方がない様子だった。

    「この時間は家の人が家事で誰も構ってくれないから、外に出て誰かが来るのを待っているんです」

    「すごく寂しがりやさんで……一度捕まったらなかなか帰してくれないんです」

    穏やかな声音。

  • 85二次元好きの匿名さん25/09/23(火) 00:14:55

    ニャアンがしゃがみ込んで子猫と戯れている姿に、一瞬だけエグザベの脳裏に似たような光景がフラッシュバックした。

    ほんの一瞬だけ流れ込んだ映像は、パイロットスーツ姿でしゃがみ込んで、ちょうど今のように小さなものと戯れている、痩身な少女の後ろ姿だった。

    痩身な少女はニャアンと同じ綺麗な長い髪をしていた。

    「(ニャアンなのか……? でもなぜパイロットスーツを……?)」

    彼女がパイロットだったという情報が聞かされていない。
    何かの記憶違いか、それとも記憶の少女は別人なのか。まだ判断するには材料が足りなかった。

  • 86二次元好きの匿名さん25/09/23(火) 00:17:02



    結局軍の用意した住居に行くタイミングを逃してしまい、その日の夜もエグザベはニャアンの家で過ごすことになった。
    家事をするニャアンを手伝おうとして邪魔と言われてしまい、また所在なさげに座って彼女の背中を見つめていた。

    夕食を終え、寝支度を整え、再び同じベッドに横たわる。
    昨日と違って、2人は背中合わせにはならずにぼんやりと天井を見つめている。

    「確かめたいことがあるんだけど、少しいいかな?」

    「なんです────」

    ニャアンが言い切る前に、エグザベは彼女を抱きしめて口付けを交わした。
    夕刻のものとは違う、力強いものだった。

    「────っ!」

  • 87二次元好きの匿名さん25/09/23(火) 00:19:57

    「……やっぱりわからないな」

    エグザベはニャアンを解放すると、片手で顔を抑えて考え込んだ様子になる。
    彼にとってはただの確認の作業だったのだろうか。
    暗くて表情を窺い知ることはできなかった。

    ニャアンは呆然とした様子で自分の唇に触れた。
    みるみる顔が熱くなる。

    「えぇっ……!?」

    情けない声を上ながらニャアンは半身を起こし、壁際に寄ってエグザベから距離を取った。

    キスしたって何もわかるはずがない。
    私と彼をこんなことをしたことがないのだから。
    きっとさっきの行為で、彼は私とどんな関係だったのか勘違いしてしまったのだろう。

    ニャアンは予想外の出来事への驚きと、押し寄せる背徳感に身を震わせた。

  • 88二次元好きの匿名さん25/09/23(火) 00:21:23

    「ご、ごめん……無神経な行動だったよね」

    ニャアンの震えを恐怖だと思ったのか、エグザベも起き上がり彼女から距離を取った。

    「やっぱり床で寝るよ」

    「そういうのじゃないです。本当に、驚いただけです……突然のことで」

    ニャアンは深呼吸をすると、再びベッドに横たわり、空いているスペースをぽんぽんと叩いて彼を招いた。

    エグザベは躊躇いがちにそこに横たわり、合わせる顔がないと言わんばかりにニャアンに背を向ける。

  • 89二次元好きの匿名さん25/09/23(火) 00:22:45

    ニャアンはその背中にそっと寄り添う。
    エグザベは身体を硬直させ、自身の呼吸が浅くなっているのを感じた。

    「もっと夫婦らしいこと、したいですか?」

    ニャアンがエグザベに囁く。

    「……できないよ、あんなに怖がられた後じゃ」

    「驚いただけです。ちゃんと事前にわかっていれば大丈夫です」

    「本当?」

    ニャアンはエグザベの手を絡め取る。
    長くてしなやかな指で、彼の手を優しく撫でる。

    「……気持ちは嬉しいよ」

    エグザベは絡め取られていた手を動かし、逆にニャアンの手を握りしめた。
    その手に唇を落とすと、すぐに解放した。

    「おやすみ」

    エグザベはそう言うと、それ以上は何も喋らず、身動きも取らなくなった。

    「……」

    ニャアンは後ろ暗い、鋭く胸を抉るような罪悪感に耐えきれず、エグザベから離れ、自分も彼に背を向けて眠りについた。

  • 90二次元好きの匿名さん25/09/23(火) 00:26:26



    その晩、エグザベは夢を見た。

    目の前には自分と同じ軍服を着た青年が3人。
    うち2人はケーキを持っていた。
    自分もそれを持っていて、美味しいと言いながら頬張った。

    1人だけケーキを持たずに、コーヒーの入ったカップを持った青年はその様子を見て笑っている。

    彼は言った。
    『お祝いの機会があったら、またケーキを焼くよ』

    だが次の瞬間には自分と彼以外の2人の青年が地面に倒れ伏していた。
    ケーキに混ぜ込まれていた果実が、なぜか腐った肉塊に見えた。
    さっきまであんなに美味しそうだったケーキが不気味なものに感じ、皿を落としてしまいそうになる。

  • 91二次元好きの匿名さん25/09/23(火) 00:28:01

    ケーキを作ってくれたであろう男の持っていたコーヒーカップは、いつの間にか銃に変わっていた。
    銃口を向けられて身構えた。
    だがいつの間にか自分の持っていたケーキも銃に変わっていた。

    応戦しようとしたが、彼が銃口を向けているのは自分ではないことに気付いた。

    銃口を向けられているのは自分の背後────。
    その人物は自分のよく知る少女だった。

    ニャアン?

    黄色い閃光が走り、そこで夢は終わった。

  • 92二次元好きの匿名さん25/09/23(火) 00:29:24



    目を覚ましたらエグザベは、自分の手のひらを見つめる。

    あの日自分は、彼に引き金を引けなかった。
    だから彼女が彼を殺すしかなかったのではないか。

    隣で眠るニャアンがわずかに身じろいだ。

    「はやい……ですね」

    眠気混じりの声。

    「教えてくれ、ニャアン」

    そんなことはお構いなしにエグザベは問う。

  • 93二次元好きの匿名さん25/09/23(火) 00:31:00

    「君は僕に友殺しをさせなかった?」

    「……違います」

    ニャアンの声は至って冷静だった。

    「私は無我夢中で、そんなことを考える余裕なんてなかった」

    「彼は……僕が止めなければいけなかった」

    ひどい頭痛がして、エグザベは額を抑えた。
    エグザベの異変を察知したニャアンは跳ね起きて、すぐに彼を抱きしめた。

    「辛い記憶を思い出したんですね」

    「いいや、幸せな記憶でもあった……きっと」

    エグザベはうずくまり、ニャアンと抱き合った。

    「私は今、あなたの弱みに漬け込んでいます」

    ニャアンは優しく彼の背中をさする。

  • 94二次元好きの匿名さん25/09/23(火) 00:33:20

    「でも君がいなかったら、僕は一歩も進めなかった。それは今も……」

    朧げな記憶を手繰り寄せる。

    「そうですね、物語を動かすのはいつだって道化の仕事です」

    悪い人間、悪魔、その次は道化か。
    なぜこの子は自分をそんなにも卑下するのだろうか。

    昨晩のように、エグザベはニャアンとキスをした。

    そうしたかったから。
    彼女とこうしても何もわかることはない。
    だが安心は得られる。
    自分と彼女はこうして繋がっていて、それだけが揺らぐ自分の存在を踏みとどまらせてくれている。

    もうあてのない航海はしたくなかった。
    彼女は自分の錨だった。

    ニャアンは抵抗することなく、目を閉じてそれを受け入れる。

    自分の腕の中にいる少女はどう見たって普通の女の子で、エグザベは彼女の言葉も自分の見た夢も信じたくなかった。

    再び2人はベッドに横たわり、しばらく互いに身を寄せたまま時間が過ぎるのを待った。

  • 95二次元好きの匿名さん25/09/23(火) 00:34:21

    スレ主です。
    今日はここまで。
    続きはまた夕方あたりにでも……
    やっとスケベの光が見えてきて安心しています。

  • 96二次元好きの匿名さん25/09/23(火) 00:36:59

    >>95

    乙です

    ストーリーとコメントの温度差がひどくて草

    続き楽しみにしてます

  • 97二次元好きの匿名さん25/09/23(火) 01:46:00

    自分からグイグイ来るかつ解釈違いにならないエグザベくん
    このスレの設定ぐらいやらないと味わえないシチュエーションで非常にいい
    夫婦ならお嫁さん相手には夫の義務を果たすのが道理だからな・・・!

  • 98二次元好きの匿名さん25/09/23(火) 03:44:09

    この流れでスケベが目的ってマジ?

  • 99二次元好きの匿名さん25/09/23(火) 11:24:06

    ここのスレ主の欲望に忠実なところ好き

  • 100二次元好きの匿名さん25/09/23(火) 18:22:44



    正午過ぎ、2人は近所の浜辺を散歩した。
    どちらからともなく手を繋いで、だがどこか距離感があって、まるで付き合いたての恋人同士のようだった。

    海風は肌寒く、ニャアンのエグザベの手を握る力は強い。

    「二つ目の事実をお話ししましょう」

    さざなみの音が静かな海岸をより物寂しくした。

    「私はあなたが忠誠を誓っていたキシリア・ザビを撃った」

    軍事機密だったが、もはやシャリアの言葉はニャアンの意識の外に追いやられていた。

    「キシリア様はあなたにとって、私にとっても敬愛する人でした。私はあの人を……母や姉のように慕っていました……ですが、それでも私は彼女を撃った」

    ニャアンは自分で自分を責めるように話し続ける。

  • 101二次元好きの匿名さん25/09/23(火) 18:23:48

    「咄嗟の判断? いいえ、私の引き金はとても軽いだけ」

    強い風。
    ニャアンの髪が舞い、その表情を隠してしまう。

    「私は時と場合によっては、どんなに敬愛する大切な人でも撃てるような人間です」

    風が止む。
    髪から垣間見える表情は悲痛に満ちていたが、不思議なことに後悔はない様子だった。

    「……君はその時、そうしなければならなかったのだと、僕は予想する」

    エグザベは至って冷静に答える。
    昨日聞かされた話より、まだ飲み込めた。

  • 102二次元好きの匿名さん25/09/23(火) 18:25:29

    「主観で話すことは、正しいとは限らない……君が言った言葉だよ」

    繋いだ手を強く握る。

    「僕は何も覚えていないよ。だから君は君にとって都合の良い情報だけを僕に植え付けることだってできる」

    「それをしないのは……君が言うほど君は悪い人間ではないからだと思う」

    「その考えこそが、あなたにとって都合の良いものではないのですか」

    突き放すような言葉を言いながらも、ニャアンは繋いだ手を離そうとしない。

    「双方の事情と、できる限り第三者の証言を聞かないと、信頼性は担保されないから」

    「キシリア様を降霊させろとでも?」

    「いいかもね、それ」

    「バカなこと言わないで」

    ニャアンは子供のような話し方をして、咎めるような目でエグザベを見た。

  • 103二次元好きの匿名さん25/09/23(火) 18:27:22

    スレ主です
    これから仕事に戻るので続きは0時過ぎに…

  • 104二次元好きの匿名さん25/09/23(火) 20:29:30

    ここから…スケベ……に……?

  • 105二次元好きの匿名さん25/09/23(火) 20:53:30

    仲を深めてからの方が盛り上がるから・・・

  • 106二次元好きの匿名さん25/09/23(火) 21:07:51



    ずっと世話になっているわけにはいかない。
    今夜こそは軍の用意した住居に向かおうと思ったが、ニャアンと離れる気になれなかった。
    自分は寂しいのだろうか、それとも彼女と一緒にいたいだけなのか。

    ニャアンの自宅で2人は映画を観ていた。

    旧世紀の映画だった。

    あまり暗い話は観たくないからと、配信サイトの上位にあったコミカルな絵柄のアニメーション映画を選んだのだが、想像していたよりも考えさせられるストーリーだった。

    それは一機の量産型のロボットがある人間の男の記憶を植え付けられ、自分がその男になったと思い込み、その男の家族と暮らすというものだった。
    ロボットの父親はだんだんと家族に受け入れられるが、本物の父親────記憶の複製元である人間の男が現れたことで自分の居るべき場所と存在理由を見失ってしまう。

    ロボットの父親は最後、自らの記憶の複製元である男に全ての想いをに託し、機能停止という擬似的な死を受け入れる。

    ロボットの父親は最後まで自分が人間の男で、本当の父親だと信じていた。

    「……思っていたより悲しい話でしたね」

    ニャアンはいたたまれないといった表情だった。

  • 107二次元好きの匿名さん25/09/23(火) 21:09:02

    「まさか子供向けの映画でスワンプマンを思い出すと思わなかった」

    スワンプマン──── 経験や過去を持たずに偶然生まれた「自分の完全なコピー」は本当に自分なのかと問う思考実験。
    演技でもないが、今の自分に繋がる部分があると思った。

    「僕もこの映画のロボットみたいに、自分のことをエグザベ・オリベと思い込んでいる別の存在だったらどうしよう」

    純粋な疑問と、彼なりにニャアンを笑わせるための冗談のつもりだった。

    「そんなこと言わないで」

    彼女はそれを冗談とは受け取らず、真剣な表情で答える。

  • 108二次元好きの匿名さん25/09/23(火) 21:11:09

    「ご、ごめん……」

    「そもそもあなたはちゃんとした人間じゃないですか。ご飯を食べるし、眠るし、温かい」

    「もしあなたが自分のことをエグザベ・オリベと思い込まされている存在で、本物のエグザベ・オリベがいたとしたら……」

    ニャアンがエグザベの肩に寄りかかる。

    「2人とも平等に扱う……といったところでしょうか」

    冗談なのか本気で言っているのかわからなかった。

    「浮気にならない……それ」

    「選ぶの、苦手なんです。私の前に出て来る選択肢はどれも意地悪なものばかりで」

    エグザベは昼間の会話を思い出す。

    『それでも私は彼女を撃った』
    『咄嗟の判断? いいえ、私の引き金はとても軽いだけ』
    『私は時と場合によっては、どんなに敬愛する大切な人でも撃てるような人間です』

    彼女の悲痛に満ちた表情を思い出すと、それ以上何かを言う気にはなれなかった。

  • 109二次元好きの匿名さん25/09/23(火) 21:14:48

    「3人で暮らすしかないのか……」

    エグザベは納得したのかしてないのか、やや不服そうに言った。

    「唯一無二でありたいんですか?」

    「別に僕がもう1人いるのは構わないけど……流石に奥さんは自分だけの存在であってほしいかな」

    「……それは一般論として? それともあなたの個人的な感情?」

    ニャアンは感情を隠したような面持ちでエグザベの顔を覗き込む。

    「ニャアン、君は僕のことをどう思っているの?」

    直球の質問にニャアンはたじろぎ、顔を真っ赤にし、すぐにエグザベから離れてクッションに自分の顔を押し付けて表情を隠してしまった。

    「変なこと、聞かないで……」

    「こればっかりはちゃんと聞いておかないと……正直に言うと、君の接し方に困っているんだ」

    6歳下の、まだ10代の学生の妻。
    一緒に暮らしたことも、これから暮らす予定もなく、ほとんど会うこともなかった人。
    自分のことを想ってくれているかのような振る舞いをしてくれるが、その一方で自分がいかに悪い人間で、悪魔だの道化だの自称して過去の悪事を話し、まるで『逃げるなら今のうちですよ』と言わんばかりに壁を作る。

  • 110二次元好きの匿名さん25/09/23(火) 21:17:38

    「あなたは優しくて親切な人で……私はそれに甘えてた……」

    観念したのか、ぽつりぽつりとニャアンが語り出す。

    「結婚をしたのは……私に国籍がなかったから……だからあなたの善意に甘えた」

    クッションに顔を埋めたままで、どんな顔でそれを言っているかはわからなかった。

    「でも私は、あなたと夫婦になれたことが本当はすごく嬉しかった……」

    だんだん彼女の声に涙が混じる。

    「ちゃんとした、夫婦になりたかった……あなたから……求めてほしかった」

    『あなたから相応の見返りを求めてほしかった』と言おうとしていた。
    嗚咽混じりの声をクッションに押し付けて誤魔化していたせいで喋りづらいのか、どんどんニャアンは言葉足らずになる。

    「でもあなたは……私に背を向けて……」

    『でもあなたは私に背を向けて別の布団で先に眠ってしまった』
    ニャアンはあの時、相応の見返りを差し出す覚悟はすでにできていた。
    でもそのようなことは一切なかった。

  • 111二次元好きの匿名さん25/09/23(火) 21:20:26

    「ごめん……辛いことを思い出させた」

    エグザベはニャアンを抱きしめた。
    かつて彼女がしてくれたように、頭を撫でてやる。

    ニャアンはクッションから手を離し、エグザベに縋り付いた。

    「三つ目の事実……お伝えします」

    ニャアンは震えながら、それでも話すことをやめなかった。

    ちゃんと事実を言わなければ、記憶のない彼に対してフェアじゃないと思った。

    「私は、たくさんの人の命を、奪った……」

    「たくさん、1000人? いや、それよりもっとずっと……民間人だって……」

    「もう言わなくていい」

    ニャアンを抱きしめる力が強まる。

    「こんな、化け物が……妻で……ごめんなさい……」

    嗚咽はだんだん過呼吸のようになる。

    「君は化け物じゃない」

    こんなに弱々しくて、ずっと何かに怯えている少女を放っておけるだろうか。

  • 112二次元好きの匿名さん25/09/23(火) 21:29:41

    彼女の語る事実は全て彼女にとって不利益な内容でしかなく、それを語る姿は自傷行為のように見えた。

    こんな不器用な生き方しかできない少女を、自分は守りたかったのかもしれない。
    捨て猫を拾って連れ帰る程度のものだったのか、自分の人生を捧げてもいいと思っての行動だったかはわからない。
    それでも守りたいという気持ちだけは本当のはずだった。

    また何かを言い出しそうなニャアンの口を、エグザベはキスで無理矢理塞いだ。
    ニャアンの身体がびくついた。

    ペニーを賭けたなら、ポンドまで。
    いやこの状況なら毒をくらわば皿までという表現のほうが正しいか。

    エグザベはニャアンのことを全て知り、そして信じ切りたかった。
    それは自分が最初に決めたことには筋を通したいという気持ちと、聞いただけの言葉より直接見て、触れているもののほうが真実に近いと思ったからだ。

    長いキスをした。
    互いを確かめ合うようなキス。

    最初は硬直していたニャアンも、だんだんと身体の力が抜け、それに必死で応じるようになった。

    その様子がいじらしく、しばらくそれを続けた。
    甘い吐息を分け合いながら、互いの奥深くを求めた。

  • 113二次元好きの匿名さん25/09/23(火) 21:32:16

    解放されると、ニャアンは真っ赤な顔で肩を大きく上下させ、瞳には先ほどのものと違う涙が浮かんでいた。

    「ちゃんとした夫婦になりたかった、あなたから求めてほしかったっていうのは……今も同じ気持ち?」

    彼女の本心を聞けた。
    これでやっと行動を起こすことができる。

    ニャアンは彼からの問いに身体を縮こませながらもこくこくと小さく頷く。

    「初めて君を見た時の僕の気持ち、わかる?」

    「……?」

    「すごく綺麗な人だったから、胸が高鳴った」

    「本当にこの人が僕の奥さんなのかって、疑ってすらいた」

    「本当によかった」

    君が僕とちゃんとした夫婦になりたかったと言ってくれて。

    エグザベがニャアンの髪を撫でる。
    よく手入れされた艶やかな髪は手触りも良く、触れている指先を喜ばせた。

    その髪にキスをした。

    「今から君を求めてもいい?」

  • 114二次元好きの匿名さん25/09/23(火) 21:33:21

    一旦ここまで
    いけそうなら0時過ぎにまた投下します

    この後は……
    フフフ……!ロボトーチャンに感謝!

  • 115二次元好きの匿名さん25/09/23(火) 21:37:53

    やったー!遂にスケベだー!

  • 116二次元好きの匿名さん25/09/23(火) 21:49:28

    わあいスケベだー!(記憶喪失中の相手といい仲になるニャアン出汁美味しい背徳感の味)

  • 117二次元好きの匿名さん25/09/23(火) 21:52:21

    ロボとーちゃん観てる···

  • 118二次元好きの匿名さん25/09/24(水) 00:26:39



    ベッドの上で、2人は再びキスをする。
    なまめかしい湿声が部屋に響く。

    覆い被さられた状態のニャアンは、エグザベを離すまいと両腕を首に回し、両脚も彼の身体に絡めた。

    身を寄せ合い、これから始まるであろう出来事に互いの心臓が脈打っているのを感じる。

    あぁ、ダメだこんなの。
    記憶がない人とこんなこと、騙しているようなものじゃないか。
    ニャアンのわずかに残った良心が揺さぶりかける。

    身を捩って半ば無理矢理キスを中断させる。

    「エグザベ、少尉……私、まだあなたに……んっ!」

    言わなければいけないことがある。
    その言葉はキスの再開によっていとも容易く遮られた。

  • 119二次元好きの匿名さん25/09/24(水) 00:27:39

    難民仲間、後輩、妹のような存在、庇護対象……そういったものが取っ払われた彼はこんなにも強引な男だったのか。

    そういえばマチュが軍警から隠れるためにロッカーに連れ込まれたとか言っていたな。

    私にだけ紳士ぶって、こちらが本当の彼なのだろうか。
    だとしたら、それを知られてうれしい。

    ────もうどうなってもいいや。

    ニャアンは全てを彼に委ねることにした。

    エグザベは着ていたシャツを脱ぎ、畳む手間を惜しんで床に投げ置いた。

    研ぎ澄まされたような無駄のない体つき
    見た目よりもずっと力強い、男性の身体だった。

    「自分で脱げる?」

    エグザベはニャアンの服に触れる。

    「脱げます、自分で……」

    ボタンを外そうとしたが、手が震えてもたついてしまう。

  • 120二次元好きの匿名さん25/09/24(水) 00:30:51

    彼は焦ったそうな様子で、しかし急かそうとはせずにニャアンの手の上に自分の手を重ねる。

    「……もしかして、怖い?」

    「ち、ちがう……はずかしいだけ……っ」

    震える手をエグザベに優しく握られる。
    そのまま退かされて、彼の手がニャアンの服のボタンを一つ一つ丁寧に外していった。

    「あ……」

    ニャアンの上躯があらわになる。
    下着も外されそうになり、急いでニャアンは身体を縮こませて防御体制になってしまう。

    見ないでほしかった。

    ニャアンは自分の身体があまり好きではなかった。
    女性らしさとは程遠い身体。
    膨らみに乏しく、なのに身長だけは高くて、まるでかかしみたいだった。

    「綺麗だよ」

    エグザベはニャアンの腹部に触れる。
    ニャアンの身体がぴくりと反応する。

    エグザベの目には、彼女の身体は少なくともかかしには見えなかった。
    人形のように細く可憐で、でもしなやかで、流れるような造形美を感じさせられた。
    引き締まった腹部は彼女の細いウエストを強調しつつも生彩を与えている。

  • 121二次元好きの匿名さん25/09/24(水) 00:33:30

    ニャアンはゆっくりと身体の力を抜き、エグザベにされるがまま、下着を外される。

    月の弧を思わせるささやかな膨らみ。
    淡い色の、花の蕾のような頂。

    それがたまらなくかわいくて、思わずエグザベは笑みをこぼした。

    その笑みをからかいだと勘違いしたニャアンは、目に涙を溜め、歯を噛み締めて震えた。

    「違うんだ。ごめん」

    エグザベは急いで釈明する。

    「かわいかったから……愛おしくて」

    そっと彼女の暴かれた部分に触れる。

    「あっ……」

    脂肪の少なさが、かえって鋭敏な感触を与えるのだろうか。
    ニャアンは触れられただけで身体をたじろがせ、羞恥に満ちた表情を隠すように枕に顔を埋めた。

    手のひらにすっぽりと収まってしまう小さな膨らみ。
    少し刺激するだけで甘い声を上げるが、彼女はそれが恥ずかしいのか必死で我慢しようとしている。

    淡い色の頂が、熱情に駆られて今は赤らんでいる。

    果実みたいだな。

    優しく唇で挟んだり、口に含んで軽く舌で転がすだけでニャアンは身体を反らして陶酔した声を上げた。

  • 122二次元好きの匿名さん25/09/24(水) 00:37:09

    ニャアンはすでに、はあはあと息を上げながら肩と胸を激しく上下させている状態で、この後に耐えられるのか気がかりだった。

    それでもやめる気にはなれず、彼女のショーツの下に手を伸ばした。

    「────っ!」

    ニャアンはエグザベにしがみつく形になった。

    彼女のその部分は濡れそぼって、まるで彼を待っているかのようだった。

    「やだ……」

    恥ずかしさからの言葉だった。

    「何が嫌なの?」

    濡れたその場所をなぞるように弄ぶと、堪えきれないのかひときわ大きな甘い声を上げ、身体を震わせた。

    全てがかわいくて、エグザベは攻める手を止められなかった。

    彼女の中に、ゆっくりと指を入れる。
    締め付けられるように狭い。

    「────っひ!」

    今までとは違う、怯え混じりの声。
    ニャアンが身をすくませて、身体をこわばらせた。
    ガクガクと腰を痙攣させ、両手はベッドシーツを固く握りしめている。

  • 123二次元好きの匿名さん25/09/24(水) 00:43:20

    「……ごめん、痛かった?」

    ニャアンは自身の不安と緊張を悟らせまいと、取り繕ったような声で言った。

    「やさしくして……」

    エグザベは同意の言葉の代わりに彼女とキスを交わした。

    こんな狭い場所に、男性のものを受け入れられる余裕があると思えない。
    ただでさえ細い身体をしているのだから、きっとひどい負担になってしまう。

    ゆっくりと、なるべく優しくその場所をほぐした。

    指を動かすたびに、ニャアンから悲痛な声が漏れ出す。
    それは純粋な痛みだけではなく、恐怖や不安によるものなのだろうか。
    安心をさせようと、エグザベは彼女を抱きしめてキスをした。

    「今日はやめておこうか」

    これ以上彼女の苦しむ姿は見たくなかった。

    「……だめ」

    意外な返答だった。

    「ここまで、やったのなら、ちゃんと……さいごまで夫としての義務を、して」

    「ここから先は止められなくなるけど、本当にいいの?」

  • 124二次元好きの匿名さん25/09/24(水) 00:45:57

    ニャアンは小さく頷く。

    「いっぱいキスして、つよくだきしめて」

    蜜を含んだような声。
    言われた通りにする。

    キスをしながら再び彼女の奥に触れると、先ほどより緊張がほぐれているのを感じた。

    「ん……あっ……」

    零れ出る声はとろけるように甘くなり、機が熟したことを悟る。
    再び彼女を強く抱きしめて、彼のものが彼女の中に入る。

    「〜〜〜〜〜っ!」

    声にならない声。
    ポロポロと涙を流している。

    あつくて、息苦しさを感じるほどせまい。

    「痛い?」

    ニャアンは黙って首を横に振った。
    それが嘘なのはエグザベでもわかった。

    「もっと、あなたがほしい」

    懇願するような目。
    そんなことを言われたら我慢できるはずがない。

  • 125二次元好きの匿名さん25/09/24(水) 00:47:18

    彼女を苦しめたくない、傷つけたくないという気持ちと、この身体を余すところなく感じたい相反する気持ちで、おかしくなりそうだった。

    いや、実際にはとっくにおかしくなっているのかもしれない。
    エグザベは本来彼に備わっていた強硬な性質────強い理性と『ニャアンは自分にとって庇護すべき対象』という線引きで抑えていたものが剥き出しになり、今はただ貪欲に、牙を剥いた狼のように、目の前にいる自分の“妻”を抱き潰している。

    ニャアンは苦悶の声か恍惚に震える声か、どちらとも取れる声で鳴いている。

    もう我慢できなかった。

    エグザベは彼の奔流をニャアンの最深部に解き放つ。
    熱い液体が彼女の聖域に満たされ、2人は果てた。

  • 126二次元好きの匿名さん25/09/24(水) 00:52:33

    「……えっち」
    吐息混じりの声でニャアンが呟く。
    弁解の言葉が見つからず、エグザベは黙って彼女を抱きしめた。

    「あんまり優しくできなくてごめん」

    「……その話はあした」

    疲れてしまったのだろう、ニャアンは目を瞑ってしまう。

    「あしたは、食材の買い出し……」

    眠気混じりの声で、脈絡のないことを言う。

    「なにか食べたい料理……おしえて」

    きっと彼女は、目を覚ましたらこの会話を忘れているだろう。
    そう思いながらも、エグザベは何か食べたいものがないか考えた。

    「あっ」

    彼の中に一つの料理の名前が浮かぶ。

    「ニャアンのカオマンガイ、食べさせてくれよ」

    子供のような言い方だった。

    ニャアンからの返事はない。
    本当に眠ってしまったようだった。
    エグザベも疲労に襲われ、ニャアンに寄り添い眠りについた。

  • 127二次元好きの匿名さん25/09/24(水) 00:53:57

    スレ主です。
    続きはまた夕方くらいに投下したいです。

    エグニャックスに栄光あれ!!!!!!!!!

  • 128二次元好きの匿名さん25/09/24(水) 04:23:31

    「「「栄光あれー!!!!」」」(唱和)

  • 129二次元好きの匿名さん25/09/24(水) 08:02:29

    朝起きた時の反応がワクワク…

  • 130二次元好きの匿名さん25/09/24(水) 17:05:33

    >>119

    > 難民仲間、後輩、妹のような存在、庇護対象……そういったものが取っ払われた彼はこんなにも強引な男だったのか


    ここが本当に我々の見たいもの過ぎる。そのためには記憶ごと飛ばさないといけないレベルなのか……

  • 131二次元好きの匿名さん25/09/24(水) 17:18:37

    切なくて甘くてどえちだ…♡

  • 132二次元好きの匿名さん25/09/24(水) 19:14:40



    早朝、ニャアンは下腹部と腰の痛みで目を覚ました。
    不思議とそれ自体を不快に思うことはなかったが、それよりも心配な事があった。

    ニャアンは恐る恐る毛布の下、ベッドシーツを確認する。

    「(やっぱり血がついちゃってる……)」

    あんなに痛かった、今も痛む。
    血くらい出ていてもおかしくない。

    「(サニタリー用の洗剤で落ちるかな……)」

    ごそごそと動くニャアンに反応したのか、エグザベも眠りから覚める。

    「どうかしたの?」

    エグザベは幼子が縋り付くようにニャアンに抱きつく。

    「別になんでも……」

  • 133二次元好きの匿名さん25/09/24(水) 19:16:59

    衣服を着ることも忘れて眠りに落ちた。
    互いの熱がそのまま伝わる。

    「昨日は本当にすまなかった……」

    「今後は気をつけてください」

    ニャアンはエグザベのほっぺを軽くつねる。
    エグザべは困ったような照れ笑いを浮かべた。

    「ベッドシーツ、洗いたいのでエグザベ少尉は先にシャワー浴びてきてください」

    「それなら僕がやるから、ニャアンが先にシャワー浴びなよ」

    血のついたベッドシーツを見られたくなかった。
    騙すような形で行為に及んでしまったのだ。
    記憶がなく他の拠り所がないような人間と一線を超えるなど、何かしらの制裁を受けても然るべきだろう。
    ならせめて彼に負い目のようなものは感じさせたくなかった。

    エグザベが半身を起こす。

    「ベッドシーツ、汚しちゃってごめん」

    毛布の下を確認して、硬直する。

  • 134二次元好きの匿名さん25/09/24(水) 19:18:55

    「本当にすまない! 怪我は痛む?」

    何を勘違いしているのか、エグザベは慌てふためいた様子になる。

    「そういうものなので大丈夫です」

    この血を見せたくないというニャアンの気遣いは徒労に終わった。

    「そういうものって……君はどうしてそんなに冷静なんだ」

    「……ノンデリ」

    ピンときていない様子のエグザベにため息を吐くと、ニャアンは毛布で上半身を隠しながら起き上がる。

    「じゃあこの血は少尉が洗っておいてください。脱衣所にサニタリー用の洗剤があるのでそれを使って」

  • 135二次元好きの匿名さん25/09/24(水) 19:20:29

    「あぁ、わかった」

    「浴室に行くので目を閉じててください」

    「今更そんなの……いや、ごめん」

    エグザベが目を瞑ったのを確認するとニャアンはベッドから這い出て、浴室に入った。

    歩くと腰に響く。
    今日は食材の買い出しに行く予定だが、それまでに良くなっているだろうか。

    「(食材の買い出し……)」

    ふとニャアンは昨晩のことを思い出す。
    疲れ果てて眠りに落ちる寸前、エグザベに食べたいものがないか聞いた気がする。

    「(カオマンガイって言ってた……?)」

    気のせいか、まだ自分は寝ぼけているのか、はたまた偶然か。
    ニャアンはシャワーを浴びながら、ぼんやりと考える。

    浴室の外────脱衣所では水道の流れる音が聞こえる。

  • 136二次元好きの匿名さん25/09/24(水) 19:21:36



    脱衣所に備え付けられた洗面台の水道で、衣服を着たエグザベはベッドシーツの血の汚れをこすり落としながら考える。

    そういえば昨晩、ニャアンが何かを言いかけていた気がする。
    その後の自分の行動を思い出し、エグザベは申し訳なさと転げ回るような恥ずかしさに堪える。

    そういうもの、と先ほど彼女は言っていた。
    やはりこの血は……

    血の汚れが落ちると、洗濯機の中にそれを放り込む。
    ニャアンが浴室から上がったら洗濯機を回していいか聞こう。

    「……」

    浴室からシャワーの音が聞こえる。
    すりガラス越しにニャアンの影が見える。

    「……?」

    エグザベはふと自分の中の違和感に気づく。

  • 137二次元好きの匿名さん25/09/24(水) 19:23:03

    直感のまま、彼は脱衣所を出て彼女の部屋のクローゼットを開く。

    勝手に家探しをするのは失礼なこととわかっている。
    だがすぐにでも確かめたかった。

    収納スペースの扉を開ける。
    そこの最下段。
    来客用の寝具が詰められたケースが目立たぬ場所に置かれている。

    自分はこれを彼女に見せられたことがある。

    『こんな時間まで引き留めたのは私ですし……たまにマチュとシュウちゃんが泊まりにくるのでお泊まりセットの用意もありますから』

    約1年前の記憶。

    「やっぱり、嘘をついたな。ニャアン……!」

  • 138二次元好きの匿名さん25/09/24(水) 19:25:10



    「申し開きもございません」

    エグザベに向かい合う形で座るニャアン。
    申し開きもないと言いながらむしろ開き直っているようにも見えた。

    洗濯機の稼働音が聞こえる。
    エグザベはまだ乾いていない髪をタオルで拭きながら、気まずそうな様子で言葉を探している。

    「どんな罰も甘んじて受け入れます」

    ニャアンはわずかに眉を下げた表情で、所在なさげに自分の髪に触れる。

    「そういう問題じゃなくて……」

    僕はなんてことを君にしてしまったんだ。
    そして君はなぜそれを受け入れているんだ。

    いやそもそも君の昨日の言葉は……

    思い出せば出すほどエグザベの顔は赤くなる。
    ニャアンも恥ずかしくなってしまったのか、その場に身を縮こませる。

    「ちゃんと責任取ってくださいね……」

    「それはもちろん……いや僕たちもう結婚してるのか……」

  • 139二次元好きの匿名さん25/09/24(水) 19:26:38

    「今日の食材の買い出し、エグザベ少尉が荷物を全部持ってください」

    「それは別にいつでもやるけど……」

    「鶏肉、いっぱい買うから。あとお米もそろそろなくなりそう」

    ニャアンは照れた様子でエグザベに問いかける。

    「そんなにカオマンガイが食べたかったんですか……?」

    「……正直、楽しみ」

    エグザベはニャアンを抱きしめる。

    「自分のことを大切にしてくれ……」

    「少尉以外とはしませんよ、あんなこと」

    ニャアンは自身の頭をエグザベの胸に擦り付ける。

    「それで、何か罰は? 私は記憶喪失の人間の寂しさに漬け込んで悪いことをしたんですから、それ相応の覚悟はできてますよ」

    ニャアンの声はどこか嬉しそうだった。

    「うーん……じゃあ記憶も戻ったし基地に戻るよ」

    「え?」

  • 140二次元好きの匿名さん25/09/24(水) 19:28:03

    ニャアンは唖然とした顔でエグザベを見上げる。
    記憶が戻った以上軍に報告へ行かねばならぬのは事実。
    だがここまで絶望した顔を見せられるとそれが揺らいでしまうのも事実。

    「そういえば中佐から渡された封筒の中身、まだ確認してないな」

    あえてニャアンから意識を逸らすように、エグザベは手荷物の中に入れっぱなしになっていたシャリアからの封筒を取り出し、開封する。
    そこに入っていたのはたった一枚の紙切れだった。

    シャリアの文字で『記憶が戻ってよかったです。マチュさん経由でエグザベくんの状態は確認してるので、そのうち迎えにいきます』と書かれているだけ。

    エグザベは黙ってその紙切れを封筒の中に戻した。

  • 141二次元好きの匿名さん25/09/24(水) 19:30:21

    「少尉……本当に行っちゃうの……?」

    後ろで不安げな、今にも泣き出しそうなニャアンの声がする。

    中佐もニャアンも、僕のことを信頼しすぎではないだろうか。

    エグザベは振り返ると、ニャアンの両脇を掴み、その場に押し倒した。

    「!?」

    ニャアンは目を白黒させ、顔を赤くした。
    エグザベはそんな彼女に手を伸ばし────くすぐった。

    「えっ、ちょっと!? やめっ、んにゃっ!」

    ニャアンが近所の子猫を撫で回していたときのように、お腹を重点的に撫で、くすぐる。
    ニャアンは手足をばたつかせ、暴れる子猫のような声を上げながら必死に抵抗している。
    しばらくそうしてから、エグザベはくすぐる手を止めてニャアンに覆い被さる形で抱きしめた。

    「君じゃなかったら、トラウマになってたよ」

    「ひゃい……」

    もみくちゃにされて脱力したニャアンは、気の抜けた声で返事する。
    エグザベはその返事を聞くと、彼女の隣に横たわる。

    ぼんやりと天井を見上げて、ここ数日のことを思い返す。

  • 142二次元好きの匿名さん25/09/24(水) 19:31:31

    「ニャアン、君は自分のことを悪魔だの道化だの化け物だのずっと卑下してたけど、君は間違いなく人間だよ」

    「……」

    ニャアンからの返事はない。

    「旧世紀に……アドルフ・アイヒマンという男がいたんだ」

    「?」

    「ヒトラーの下で働いていた人だよ」

    その名前ならばニャアンも知っていた。

    「彼は命令に従ってたくさんの命を死に追いやった。そして戦争が終わったら他国に逃げた。名前も変えて別人として生活し始めたんだ……家族と一緒にね」

    なぜ彼はそんな男の話を自分にするのだろう。

    「結局、彼は正体がバレて捕まってしまった……なぜ、彼がアイヒマンだと確信されたと思う?」

    「……振る舞いでボロが出た?」

  • 143二次元好きの匿名さん25/09/24(水) 19:32:55

    「そんな感じ。自分の……アドルフ・アイヒマンの結婚記念日に、妻に花束を買っていたんだ」

    エグザベが茶化すように笑うが、すぐに彼の表情は真面目なものになる。

    「彼はたくさんの人間を死へと導いたけど、それは命令されていたからだった。だから彼は大量虐殺者であると同時に、妻を愛するどこにでもいる普通の人間だった」

    エグザベはニャアンの手を握る。

    「つまり……人間は特別な悪意や狂気がなくても、運や環境次第で誰でも大罪を犯せると歴史が証言しているんだ」

    「君が料理や編み物が上手で猫が好きな普通の女の子であることと、過去に悪魔と呼ばれるような出来事を引き起こしてしまったことは同居する」

    「でも大前提として、君は何も知らなかった。しかもまだ子供で……そんな君に大量殺戮の責任が発生するわけがない」

    「いや、元を辿れば君をジオンに引き入れたのは僕で……君が罪に問われるのなら僕だって裁かれて然るべきだ」

    エグザベのニャアンも手を握る力は強い。
    痛みすら感じるほどだったが、ニャアンはその痛みに拠り所を感じていた。

    「ニャアン……君が自分の罪に向き合う姿はとても痛ましくて、苦しそうだ」

    「僕は共犯者だ、だから僕にもそれを分けてくれ」

  • 144二次元好きの匿名さん25/09/24(水) 19:34:09

    「君の笑った顔や穏やかな顔が好きだ。でもだからって、悲しそうな顔や苦しそうな顔からは目を背けたくはない……一番近くでそれを見ていたい」

    烏滸がましいとわかっていても、エグザベはそう言わずにはいられなかった。

    「健やかなる時も、病める時も一緒にいてくれるということですか」

    「この命ある限り」

    「じゃあ、長生きしてください」

    ニャアンは起き上がり、エグザベに唇を落とした。

    「誓いのキスです。約束しましたからね」

    ニャアンが微笑む。
    つられてエグザベも笑った。

  • 145二次元好きの匿名さん25/09/24(水) 19:35:27

    スレ主です。
    一旦物語は一区切りです(良いネタあったら続き書きます)

    実は記憶喪失ザベくんの正体は地球連邦の作ったエグザベくんクローンで実年齢が1歳だけど無理矢理肉体年齢を20代前半くらいにされていろんな強化も受けてるから長生きできない設定でやろうとしたけどかわいそうなのは抜けないのでやめました。
    ハッピーエンド前提じゃないと曇らせ展開はスケベにできません。

    でもおいたわしいやつが好きなので需要あるならニャアンが見た悪夢前提で書きたいです。
    むしろここからが未亡人としては本領発揮です。

    フフフ……鬱ックス!

  • 146二次元好きの匿名さん25/09/24(水) 19:47:08

    わーい鬱ックス!鬱ックス大好き!

  • 147二次元好きの匿名さん25/09/24(水) 20:15:31

    おいたわしいやつ・・・記憶喪失中に夫婦として夜を過ごした後、
    エグザベくんが急に記憶を取り戻すと同時に記憶喪失中の思い出だけ忘れちゃってニャアンがショボ…となったり
    断片的にニャアンとの行為が夢に出てきちゃってニャアンと距離取るエグザベくんとかニャア虐展開妄想してたわ

    本編はラブラブハッピーエンドで安心しました
    やることやる前にできるだけ自分のこと説明してたのも良かったです
    心を近づけてからの方がスケベもよりマーベラスですからね・・・!

  • 148二次元好きの匿名さん25/09/24(水) 20:18:23

    >>145

    本体ザベくんも生還してほんとに三人でセ …暮らすやつじゃないですかやだー

  • 149二次元好きの匿名さん25/09/24(水) 20:28:08

    悪夢前提なら大量に増えすぎたエグザベくんがニャアンをみんなでもみくちゃに・・・

  • 150二次元好きの匿名さん25/09/24(水) 20:51:16

    >>145

    そんな需要しかないif展開を…

  • 151二次元好きの匿名さん25/09/25(木) 00:16:38

    心臓をバクバクさせながら飛び起きたら隣にエグザベくん(ノーマル)がいるんですね
    悪い夢バッチコイですわ

  • 152二次元好きの匿名さん25/09/25(木) 01:03:02

    ◯ifルート(クローンザベくん編)

    「自己紹介をお願いします」

    ジオン軍の尋問室。
    シャリア・ブルは目の前の青年を見下ろす。

    両腕を拘束された青年はシャリアがよく知る人物と同じ顔をしていた。

    「地球連邦ティターンズの突撃部隊所属、階級は少尉、エグザベ・オリベです」

    よく知る顔だが、その表情は硬く、声も無機質だった。
    着ているのはティターンズの制服。

    “エグザベ・オリベ”と名乗る青年の言葉は全て真実で、彼の心の中に偽りもない。
    シャリアにはそれがわかる。

    一年前に亡くなったと思われていたエグザベ・オリベが地球連邦の兵士として生きている。

    その情報を掴んだシャリアはすぐに彼を連れ戻そうと動いた。

    シャリアはエグザベ・オリベという人間をよく知っていた。
    どうすれば彼に捕縛する隙ができるか考えた。

    シャリアの予想通り、戦闘中にエグザベは連邦軍所属の少女兵のMSを庇う動きを見せた。
    それが彼の弱点になった。

  • 153二次元好きの匿名さん25/09/25(木) 01:04:22

    「あなたが命懸けで守った少女兵は現在こちらで保護しています。おそらく連邦にいたころよりも好待遇を受けていることでしょう」

    シャリアの目的はエグザベの捕縛であり、最初から少女兵の乗るMSを撃墜する気などなかった。

    「あなたとあの少女兵の関係をお伺いしても?」

    「……」

    エグザベ・オリベは答えない。
    しかしシャリアには言葉での返事はいらなかった。

    「妹のような存在ですか……その子も戦争孤児で、あなたにとっては守る対象だった、と」

    エグザベはハッとした顔でシャリアを見上げる。
    シャリアの読心能力に気付いた様子だった。

    「エグザベ・オリベさん……あなたは戦争孤児で……早くに軍に入り、戦闘中の外傷で記憶喪失になった。研究所で治療を受けながら連邦軍の士官として職務を全うしていた……」

    シャリアはエグザベに詰め寄る。

    「地球連邦での1年間のあなたの戦績は素晴らしいものでした。年齢にそぐわぬ冷静さ、どんな状況でも精神状態が乱れることはなく、次々とジオン軍のMSを撃墜し、強化手術の影響で精神崩壊寸前の年若い兵士たちの良き“お兄ちゃん”となった。連邦の投資は大当たりだったというわけです」

    事実、心を読まれて自身の身の上を暴かれているというのに、エグザベは驚く様子は見せてもそこに恐怖や不安の類はなかった。

    「まず、あなたは地球連邦の軍人でありません。そのような記憶を植え付けられただけです」

  • 154二次元好きの匿名さん25/09/25(木) 01:06:08

    シャリアはエグザベの前に複数枚の書類を置く。
    シャリアが集めうる限りの彼の関する過去の情報と記録だった。

    「あなたは宇宙コロニー出身で……ルウム難民でした。そこからフラナガンスクールを首席で卒業、ジオン軍の少尉となりました。仕えていたキシリア・ザビの事故死及び率いていた部隊の壊滅後は私の下でアルテイシア公女護衛の職務に就いていました」

    エグザベは拘束された不自由な手で目の前の書類を確認する。
    数年前の自分の写真。
    ジオン軍の制服を着用し、敬礼している。
    合成写真の類ではないことは一目見れば明らかだった。
    書類はスクールでの記録に始まり、サイド6での逮捕歴、ジオン軍での活動実績などの公的な物も含まれていた。

    同じ軍服を着た、写真の中の自分と年齢の近い青年3人と共にいる写真が目に留まり、エグザベはシャリアに質問する。

    「彼らと会うことはできますか?」

    「全員亡くなっております」

    エグザベは些か腑に落ちない様子だった。

    「あと……こちらもご覧ください」

    シャリアは書類の中から役所から発行された書類を手に取りエグザベに見せた。

    「結婚証明書です。あなた既婚者ですよ」

    「えぇ……?」

    目の前の書類を見て、ついにエグザベは困惑の声を漏らした。

    「これからあなたには精密検査を受けてもらいますが……検査が終わる頃にはあなたの配偶者がこちらにいらしているでしょう」

  • 155二次元好きの匿名さん25/09/25(木) 01:07:37



    医療施設らしき場所で検査を終えたエグザベは検査着のまま外部施錠式の部屋に通され、そこで待機するように言われる。
    ベッドと小さなサイドボードしかなく、窓のない殺風景な部屋。
    天井の片隅には監視カメラが設置されている。
    エグザベはベッドに腰を下ろし、暫し自分のことや今の状況を考えた。

    自分はここ1年より前の記憶がない。
    わかっているのは戦争孤児でずっと連邦軍人だったということ。

    だがシャリア・ブルと名乗る男が述べるところによれば、自分────エグザベ・オリベは元は宇宙難民から這い上がったジオンの士官で、1年前の戦闘中に搭乗していた機体が大破して死亡扱いになっていたということだった。
    天涯孤独の身で、近しい人物はほとんど亡くなっている。
    ジオン軍人のエグザベ・オリベをよく知る人物は上官であるシャリア・ブルと配偶者の女性1人のみ。

    「(信じられるわけがない……)」

  • 156二次元好きの匿名さん25/09/25(木) 01:09:13

    暫くしてドアロックが外れる音がした。
    ドアの方を見ると、ジオン軍人に案内され、背が高く長い髪をした細身の女性が不安げな様子で部屋に足を踏み入れる。

    ジオン軍人は女性が部屋に入ったのを確認すると、自分は中には入らずに扉を施錠してしまった。

    部屋には女性とエグザベの2人っきり。
    女性は身を縮こませながら蚊の鳴くような声を発する。

    「ニャアン・オリベです」

    「君が僕の配偶者……?」

    訝しむようにエグザベはニャアンと名乗る女性に問いかける。
    ずっと俯いていた女性がゆっくりと顔を上げる。

    綺麗な人だった。
    だが顔立ちにはまだ幼さが残っている。
    その振る舞いも相まって、彼女がまだあどけない少女だとわかった。

    この子が本当に自分の妻なのか、もしかして騙されているのではないかという疑念が生まれる。

  • 157二次元好きの匿名さん25/09/25(木) 01:10:51

    少女はゆっくりとエグザベに近付くと衣服のボタンを二つほど外し、首にかけていたものを引き抜いて彼に見せた。

    それは一枚のドッグタグだった。

    ほのかに漂う石鹸やシャンプーの混じった女性らしい香りと、わずかに露出した胸元に一瞬注意を奪われそうになったが、すぐに彼女の胸元のドッグタグに触れて確認した。

    裏面にはジオンの少尉を示すマーク。
    表面には小さな文字でエグザベ・オリベの名が刻み込まれている。
    新しさを失っているそれは、彼女の体温が移ってほのかにあたたかかった。

    「……これだけだと、まだ信じることはできない。君が僕の妻だと証明できるものは他にない?」

    ニャアンはその言葉を聞くと再び俯き、暫し考えた後にそっとエグザベに手を伸ばして彼を抱きしめた。

    「何もないです……ごめんなさい」

    震えた声。
    エグザベはニャアンの胸の中で、彼女の心臓の鼓動を聞きながら思った。

    もしこれが全て自分を騙すための演技ならば、彼女はとんでもない役者だ。
    だがこうされていると不思議と心が落ち着く。

  • 158二次元好きの匿名さん25/09/25(木) 01:12:16

    冷静に考えると、ジオン軍の判断は正気とは思えない。
    非武装の民間人と思われる少女を、休戦中とはいえ敵軍の人間と内側から扉の開けられない部屋で2人きりにするなど。
    監視カメラがあるとはいえ、自分が彼女を人質にして脱出を企てる可能性に気付かないはずがない。

    だが彼がそのような行動を取ることはなく、エグザベは抱きしめられたまま、身動きを取らずにその温もりを享受してしまった。

    「あなたが生きててくれてた……それだけで嬉しいです」

    優しい声。

    「明日も会いに来ていいですか」

    もし自分が連邦軍人だと思い込まされているジオン軍人で、本当に彼女と夫婦だったら、どんなに幸福か。
    だがまだ確信がなかった。

    承諾の言葉も拒絶の言葉も出てこない。
    ただ彼女の胸に凭れて、まるでそこが心の拠り所であるかのように、そのまま目を瞑り、暫しそのまま時間が過ぎるのを待った。

  • 159二次元好きの匿名さん25/09/25(木) 01:18:10

    スレ主です。
    今日はここまで。
    おつらい展開が来るだろうけどニャアンがサイド3行きのシャトルかエグザベくんが宇宙空間漂ってる間に見ている夢なので大丈夫…!

    仕事終わりの安心感で職場の床で寝落ちしてたら身体がなんかバキバキになっていたので次の投下は0時過ぎくらいで……オナシャス

  • 160二次元好きの匿名さん25/09/25(木) 10:56:28

    保湿

  • 161二次元好きの匿名さん25/09/25(木) 10:58:54

    >>159

    おぉ…スレ主お疲れ様ですお大事に…

  • 162二次元好きの匿名さん25/09/25(木) 11:00:12

    鬱ックス!鬱ックス!
    いつもありがとうックス

  • 163二次元好きの匿名さん25/09/25(木) 18:09:19

    お仕事大変だ···
    休める時を何とか見つけてもろて

  • 164二次元好きの匿名さん25/09/25(木) 20:00:17

    “エグザベ・オリベ”の検査結果の『所見あり』という文言にシャリアは眉を顰めた。

    ジオンに亡命してきた元地球連邦所属の技術士官がエグザベ・オリベの精密検査にも参加したのだが、彼のテロメア────染色体検査の結果を見て難儀を示した。
    上記に加えて彼の肉体にはテロメラーゼが活性化するように肉体を強化している痕跡があることが指摘された。 
    テロメアは生き物の寿命に深く関わる。
    そしてテロメラーゼはテロメアに作用して寿命を延ばす効果がある。

    一年戦争時から地球連邦は優秀な兵士の大量育成と安定供給を求めていた。
    それは当初、子供たちを戦争に送りたくないという人道的な考えからのものだった。
    だがだんだんとそれは本来の目的から外れていった。

    ニュータイプ研究所及びアナハイム・エレクトロニクスとの連携により優秀な兵士の“生産技術”は確立されつつあるという話がまことしやかに囁かれている。
    それは主に強化手術のことを指していた。

    だが連邦内で密命を受けた技術チームによって、強化手術と同時進行する形で優秀な兵士の体細胞クローンの生産が試みられているという話がごく一部で噂となっていたらしい。

    優秀な兵士の体細胞クローンを加速発育技術によって無理矢理成人年齢にまで成長させ、強化手術でオリジナルとなった兵士の習慣と知識、そして技術をインプットさせる。
    仕上げに連邦にとって都合の良い記憶を植え付け、育成過程なしで“優秀な兵士”が完成する。

    他の検査結果から総合して、元地球連邦の技術士官の見解は『彼はエグザベ・オリベの体細胞クローンの可能性がある』ということだった。

    もし今回捕縛したエグザベ・オリベが地球連邦の生み出した“優秀な兵士”だとしたら。

    「(もしそうなら彼をどう扱うべきか、そしてオリジナルのエグザベ少尉は……?)」

    たとえその可能性が低くても、0ではないなら確かめなければならない。
    シャリアは新たな一手を打つ決断をし、立ち上がった。

  • 165二次元好きの匿名さん25/09/25(木) 20:03:20



    「食べ物の差し入れはダメなので……本を持ってきました」

    宣言通り翌日もエグザベの元を訪れたニャアン。
    彼女の手には数冊の本が抱えられている。

    「ずっとこんなところにいたら退屈だと思って……一冊でも興味のある本があれがいいけど……」

    エグザベはニャアンに差し出された本のタイトルを見る。
    『銀河鉄道の夜』、『アルジャーノンに花束を』、『夏への扉』、『グリーン・マイル』、『武器よさらば』……

    「もしかして、全部君の趣味?」

    エグザベからの問いに、ニャアンは気恥ずかしそうに視線を逸らす。

    「いつかちゃんと読みたいと思っていたから……」

  • 166二次元好きの匿名さん25/09/25(木) 20:05:04

    エグザベは猫のイラストが表紙の本を取ると、残りはニャアンに返した。

    「ありがとう。これを読み終えたら他のも貸してほしい」

    その言葉にニャアンの表情が明るくなる。

    実際、何もないこの部屋にずっといるのは退屈だった。
    エグザベは本をサイドボードの上に置くと、ニャアンに向き直った。

    「君のことと、君の知っている僕に関することを教えてほしい」

    ニャアンは軽く目を伏せると、近くにあった椅子に腰掛けてゆっくりと口を開いた。

    「ニャアン・オリベ。そろそろ19歳になります。今は地球で学生をしていて……あなたとは17の時に出会いました」

    若いとは思っていたが、まさか自分より6歳も年下で学生というのは予想外だった。

    「元々私も身寄りのない難民で、サイド6で運び屋をしていました。サイコガンダムの騒動で行き場がなくて街を彷徨っていたところを、作戦行動中のあなたに見つけてもらいました」

    ニャアンは言葉を探している様子だった。

    「あなたはMSのパイロットとしてはもちろん、精神的に強くて……優しくて親切な人でした。私にも……」

    そこまで言うとニャアンは黙ってしまった。

    「なぜそこから君と僕が夫婦になったの?」

    「国籍が欲しかったから……」

    この言葉にエグザベは硬まる。

  • 167二次元好きの匿名さん25/09/25(木) 20:06:22

    「進学がしたかったんです。だけど地球の学校はどこも国籍がないと受験資格すらなかったから……国籍のためにあなたと結婚しました」

    「つまり僕は騙されていた?」

    「いいえ、合意の上でした。そもそも最初にその提案をしたのはあなたです」

    ニャアンの目は暗い。

    「そもそもなぜ君はサイド6から地球に移り住むことになったの?」

    「地球には友達がいるから……進学するまでは一緒に暮らしていました」

    「……愛のない結婚だったというわけか」

    エグザベはため息を吐く。

    「君も天涯孤独で、僕に関することを証明できるものはない……作り話にしたってもっとマシな設定を考えるだろうね」

  • 168二次元好きの匿名さん25/09/25(木) 20:08:07

    「愛がない……ですか」

    エグザベの言葉にニャアンは立ち上がる。

    「愛があれば証明になりますか、あなたがジオン所属のエグザベ・オリベだと」

    「何を……」

    ニャアンは昨日のようにエグザベを抱きしめる。
    彼女の震えがエグザベに伝わる。

    ニャアンはそのまままっしぐらにエグザベと口付けを交わした。

    「!?」

    交通事故のようなキス。
    エグザベの歯がニャアンの唇にぶつかる。

    深く切ってしまったのか、ニャアンの唇から血の滴が落ちる。
    痛むのか、目には涙が浮かんでいる。

    「……ごめん」

    謝ったのはエグザベ。
    仕掛けてきたのはニャアンのはずなのに、自分が傷つけてしまったという事実に彼は反射的にその言葉を発してしまった。

    「愛って、どうやったら証明できるのでしょうね」

    ニャアンがエグザベに背を向ける。

  • 169二次元好きの匿名さん25/09/25(木) 20:09:36

    もしこの人がジオンの用意した役者で、自分を懐柔しようとしているのであれば、あまりにも不器用だ。
    こんな演技のできる人間がいるだろうか。

    彼女に不器用さが、逆に彼の心を揺さぶった。

    ニャアンはそのまま部屋の扉の前に立ち、数回のノックをする。
    今この瞬間も監視カメラが部屋の中を確認しているのか、すぐに扉が開いた。

    部屋を出て行こうとするニャアンの背中に、エグザベは思わず声をかけた。

    「本……返さないといけないから、また来てくれないか」

    その言葉に、ニャアンの身体がわずかに反応を示した。

  • 170二次元好きの匿名さん25/09/25(木) 20:10:44

    スレ主です。
    気を使わせて申し訳ないです。
    続きはまた0時過ぎにいけたら……
    早くスケベの光が見たいです。

  • 171二次元好きの匿名さん25/09/25(木) 20:12:31

    乙です

    夢と分かってなかったらSAN値がみるみる削られそう

  • 172二次元好きの匿名さん25/09/26(金) 03:26:16

    保湿ー

  • 173二次元好きの匿名さん25/09/26(金) 03:56:37



    翌日もニャアンはエグザベの元に訪れた。

    「口、痛そうだね」

    ニャアンの唇には昨日の切り傷が残っている。

    「別に……」

    ニャアンはあまり口を動かさないように答える。
    そのまま眉を顰めて口元を押さえながら椅子に腰掛ける。

    「本、ありがとう」

    エグザベは昨日借りた本をニャアンに渡す。

    「もう読み終えたんですか」

    「他にやることがないからね」

    ニャアンはそれを受け取ると、ぼんやりと表紙に描かれた猫のイラストを見つめる。

  • 174二次元好きの匿名さん25/09/26(金) 03:58:37

    「面白かったですか?」

    「旧世紀の価値観が色濃いけど、面白かったよ」

    月並みな感想。

    「猫はちゃんと登場しますか」

    もしかしてこの子は表紙のイラストだけを見て本を買ったのだろうか。

    「ちゃんと登場するよ」

    「酷い目に遭いませんか」

    「遭ってなかったよ」

    「そうですか。よかった……」

    ニャアンは本を鞄の中にしまう。
    鞄から、ちらりと彼女の携帯電話が見えた。
    猫のデザインの落下防止用のグリップがケースに取り付けられている。

  • 175二次元好きの匿名さん25/09/26(金) 04:00:20

    「猫、好きなの?」

    「……好きです」

    ニャアンは少し照れた様子で顔を伏せる。

    「今は猫を飼えるような生活じゃないけど……時々近所の猫が構ってくれるんです」

    はにかんだ笑顔でニャアンは語る。

    「いつか、保護猫を引き取れるようになりたいです」

    「猫はかわいいからね」

    僕も猫が好きだよと言おうとしたが、そもそも猫と触れ合った記憶がエグザベにはなかった。
    気が付いたら連邦軍人として働いており、彼の唯一ある1年間の記憶は戦っているか、年若い兵士たちの指導係をしているかだった。
    思い出される記憶は基地か研究所かMSの中、それ以外の場所にいた記憶がない。
    冷静に考えると異常ではないか。

    「どうかしましたか」

    ニャアンが何かを察したのか、エグザベの顔を覗き込む。

    「なんでもないよ」

    エグザベの表情は硬い。

  • 176二次元好きの匿名さん25/09/26(金) 04:02:20

    自分のことを“お兄ちゃん”と慕ってくれたあの子たちは無事だろうか。
    あの子たちには身寄りがない。
    だから保護者役が必要だった。

    目の前にいる少女────ニャアンもあの子たちと同年代で、同じように身寄りがない。

    もしかして、自分はこの子をあの子達と同じように守りたかったのだろうか。

    ドアロックが解除される音がする。

    「ニャアン・オリベさん。本日の面会はここまででお願いできますか」

    扉の前にはジオンの軍人が立っている。

    「……?」

    ニャアンは怪訝そうな表情で扉の方を見る。

    面会を切り上げるように催促されるのは初めてだった。
    まだニャアンがここに来てから20分も経っていない。

    「わかりました……」

    ニャアンは大人しくそれに従った。
    ちらりとエグザベの方を振り返ると、片手で小さく手を振った。

    「また」

    まるで小さな子供のような仕草だった。
    エグザベもつられて彼女に手を振ってしまった。

  • 177二次元好きの匿名さん25/09/26(金) 04:04:52

    扉が施錠され、再び部屋に静寂が戻る。
    エグザベはベッドに横たわり、ぼんやりと天井を見上げた。

    ニャアンは明日も来てくれるだろうか。
    貸してくれた本を返さなければよかった。

    決してニャアンに会いたいというわけではない。
    ただ、ここはあまりにも退屈すぎて、彼女の存在が少なからず自分に安らぎをくれた。
    それに1人になると、多くのことを考えすぎてしまう。
    エグザベは目を閉じた。

    次に彼がニャアンと会えたのは1ヶ月後で、その再会は決して喜ばしいものでないことを、その時の彼は予想だにしていなかった。

  • 178二次元好きの匿名さん25/09/26(金) 04:07:56



    約1ヶ月後、エグザベは再びジオン軍の尋問室に通される。

    「死んだんですか……あの子」

    ジオン軍の尋問室。
    エグザベの目の前にはシャリアが立っている。

    「深夜に突然の発作を起こし、治療を尽くしましたが……」

    エグザベの前には治療記録が置かれている。
    地球連邦でエグザベのことを“お兄ちゃん”と慕っていた、ニャアンと同じ年頃の女の子だ。
    年齢よりも幼い振る舞いが多い子だった。
    戦闘が絡まなければエグザベにとっては無邪気で心優しい子だった。
    連邦兵士の“エグザベ・オリベ”がジオンのMSから必死で守ろうとし、捕縛される隙を作らせた少女だ。

    「あの子は……幾度となく強化手術を受けていました。遅かれ早かれこうなっていたでしょう」

    エグザベの声は冷静だった。

    「……自分が所属していた部隊は今どうなっていますか」

    あの子の他にも、エグザベが所属していた部隊には年若い兵士が数多くいた。

    「全滅しました」

    シャリアは抑揚のない声で答える。

    子供たちを導く“お兄ちゃん”であり、エースパイロットを失った部隊の統制は乱れ、意図も容易く彼らは命を散らした。

  • 179二次元好きの匿名さん25/09/26(金) 04:09:13

    「……あなたにお伝えしなければいけないことがあります」

    他に何があるというのだろうか。
    もはやエグザベは連邦に戻る目的すらわからなくなっているというのに。

    「あなたの実年齢は1歳です」

    「……は?」

    シャリアは新たに複数枚の書類を取り出し、エグザベの前に一つ一つ丁寧に並べる。

    『クローン強化人間・現状の分析と報告(U.C.0086)』、『テロメラーゼ活性化手術経過報告集』、『体細胞クローンの加速発育技術と記憶の人工的定着に関する共同研究の進捗』……

    『サンプルNo.15_ 供与体エグザベ・オリベの複製体の安定性』

    「あなたは……連邦によって作られた存在です」

    シャリアは苦々しい表情で呟く。

  • 180二次元好きの匿名さん25/09/26(金) 04:52:00

    「私はあなたをジオン軍人のエグザベ・オリベという前提で今まで接していました」

    「……全て私のミスです。連邦の技術がこの段階に到達していると予想すらしていなかった。あなたを惑わせる発言の数々をお詫び申し上げます」

    シャリアはエグザベが地球連邦に洗脳されていると考えていた。
    だが事実は、目の前にいる“エグザベ・オリベ”は連邦の作ったクローン強化人間で、1年前に生まれてから無理やり肉体年齢を20代前半にまで成長促進され、連邦にとって都合の良い記憶だけを植え付けられた都合の良い“優秀な兵士”だった。

    エグザベは自分の前に置かれている書類を一枚一枚確認している。
    顔からは血の気が引いていた。

    「あなたの今後の人生は私が保証します」

    シャリアは喉の奥から震える声を絞り出す。

  • 181二次元好きの匿名さん25/09/26(金) 04:53:18

    「僕が“エグザベ・オリベ”のクローンだとして、オリジナルは今はどこで何を?」

    まだ書類の内容を全て信じたわけではなかった。

    「地球連邦の捕虜となっていましたが、つい先日こちらに返還され今は入院中です」

    「彼と会うことは可能ですか」

    「はい。彼はあなたの存在を知っており、あなたと同様に面会を希望しています」

    書類に書かれていることが全て事実ならば、自分はとんだ道化だ。
    エグザベの視界が揺れている。
    思考の迷路に迷い込んだ脳裏に、1人の少女の姿が浮かぶ。

    自分を抱きしめて『あなたが生きててくれてた。それだけで嬉しい』と言ってくれた。
    何もない部屋での生活は退屈だろうと本を持ってきて、愛の実在を証明するために下手なキスをして怪我してしまう不器用な子。
    猫が好きで『いつか保護猫を引き取れるようになりたい』とはにかんだ笑顔を見せて。

    自分はその子と一緒にいるだけで確かな安らぎを感じていた。
    自分というものがわからなくて何も信じられなかったが、彼女の存在は真実だと思ってしまっていた。

    自分が偽物で、本物の“エグザベ・オリベ”がいるのならば、彼女にとって自分はもはや顧みられぬ存在ではないだろうか。

  • 182二次元好きの匿名さん25/09/26(金) 04:55:16

    スレ主です。
    保守ありがとうございます。
    おそらく夜ごろに新スレを立てます。
    立てたらこちらで報告します。

    なかなかスケベしてなくてすいません。
    何卒よろしくお願い致します。

  • 183二次元好きの匿名さん25/09/26(金) 11:03:13

    ここから入れるスケベがあるんですか!?

  • 184二次元好きの匿名さん25/09/26(金) 14:56:51

    つ…つら…
    でもこういうのすき…

  • 185二次元好きの匿名さん25/09/26(金) 15:10:18

    これニャアンは来ない間オリジナルザベと会ってたのか
    オリザベとクロザベの邂逅見たいけど怖い

  • 186二次元好きの匿名さん25/09/26(金) 19:43:36

    スレ主です

    保守ありがとうございます


    スケベ書きたいので次スレ立てました

    https://bbs.animanch.com/board/5662120/?res=6


    何卒よろしくお願い致します。

  • 187二次元好きの匿名さん25/09/26(金) 20:14:39

    >>186

    次スレ乙です

    ちょっと最初から読み返してオリザベとの関係を味わいなおしてから次行きます

  • 188二次元好きの匿名さん25/09/26(金) 20:16:04

    夢と分かってるけどめっちゃ怖い・・・

  • 189二次元好きの匿名さん25/09/26(金) 20:29:11

    乙埋め

  • 190二次元好きの匿名さん25/09/26(金) 20:33:03

    文章力ある分マジでビビるんだよな
    胃がキリキリする

  • 191二次元好きの匿名さん25/09/26(金) 21:09:05

    クロザベの短命設定がもう…つら…
    夢…これは夢なんだ…

  • 192二次元好きの匿名さん25/09/26(金) 21:36:01

    ヤバい設定のスケベな夢見た後っていたたまれないよな
    いろんな意味で申し訳なさがある

  • 193二次元好きの匿名さん25/09/26(金) 21:49:18

    おいたわしさ満載のスケベ夢みて飛び起きたら心配そうな顔して自分を見てる相手に心臓止まりそうになるよね
    悪夢で心臓バクバクするし内容は説明できないし思い返すとあああああ!になる

  • 194二次元好きの匿名さん25/09/26(金) 23:33:56

    うめ

  • 195二次元好きの匿名さん25/09/27(土) 00:09:24

    うめます

  • 196二次元好きの匿名さん25/09/27(土) 00:31:51

    うめー!

  • 197二次元好きの匿名さん25/09/27(土) 00:35:00

    うめうめ

  • 198二次元好きの匿名さん25/09/27(土) 00:37:31

    ドスケベ悪夢・・・即ち淫らな夢(原義の方)だな・・・

  • 199二次元好きの匿名さん25/09/27(土) 00:49:19

    うめ

  • 200二次元好きの匿名さん25/09/27(土) 00:50:21

    200ならフフフ…エグニャアックス!

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