こんな朝からスミカフトラ星人の【SS】

  • 1二次元好きの匿名さん25/09/21(日) 05:03:19

    ものと思われる落とし物が交番に届いていたので代読します

  • 2二次元好きの匿名さん25/09/21(日) 05:04:46

    「……あれ?」

     あたしが最初に異変に気づいたのは、今週末に控えたPっちとのデートに着ていく服を吟味していた時。お気に入りの細身のパンツがなんだかキツく感じて、素っ頓狂な声を出した。
     澄み渡った空色に、ちょっと白を足したような爽やかなスキニーデニム。キッチンで今日もクッキングに勤しんでいる親友を彷彿とさせる、あたしの好きな色。

    「おっかしいなー、洗濯のしすぎで縮んじゃったとか?いやいや、最後にこれ穿いたの一ヶ月くらい前だよね」

     鏡に映る怪訝そうな顔と向き合ってみる。当然だけど、特に何も起こらない。待てども待てどもウエストがしっかり収まることはなく……

    「ふぬぬぬぬ……よっし!」

     最後は力技で無理やりボタンを留めた。どうにか全身コーデは組めたけど、お風呂上がりだというのに余計な汗をかいてしまっている。
     今あたしが着ているのはチューブトップ。汗ばんで露出している背中に毛先がひっついて、ちょっと気分が落ち込んだ。ミスったな〜……。

    「清夏ちゃーん! クッキー焼けたから、一緒に食べよう!」
    「はいはーい! 今行くねー!」

     あたしが悩ましそうに眉間に皺を寄せていると、予定調和のように吉報が飛び込んできた。即座に応答すると、今度は口角が上がってくる。今日はクッキーだって! リーリヤのお菓子、あまりにも美味しくて毎日いくらでも食べられちゃうんだよね〜。
     デートに着ていく服にクッキーを溢してはいけないので、さっさともとのパジャマに着替え……あれ?全然脱げないんですけど!?いそげぇ〜〜〜!!

  • 3二次元好きの匿名さん25/09/21(日) 05:05:56

     そうしてささっと……いやゴメン、そこそこ時間をかけてパジャマに着替えてそのままリビングに出ると、リーリヤがお椀いっぱいのクッキーを抱えて待っていた。

    「ごめーん、リーリヤお待たせ! ズボンが全然脱げなくて……」
    「全然、待ってないよ。それより、ズボンが脱げないって何かあったの?」
    「うーん、なんかズボンが縮んじゃったっぽいんだよねー。うまく入んないし、脱ぐのも大変だし、なんかショック」
    「そうなんだ……。じゃあさ、今度また一緒にお洋服見に行こうよ! 清夏ちゃんは可愛いから何でも似合うし!」

     そうやって慰めてくれるリーリヤだって、あたしの語彙力じゃ言い表せないくらい可愛い。あたしがこうして独り占めできてるのが奇跡だと思えちゃうくらい。

    「ん〜、めちゃウマ!」
    「良かったあ。こっちにチョコ味もあるから、いっぱい食べてね!」
    「モチロンだよ! あたしちょー幸せ〜!」

     この日のクッキーはあたし好みの甘いテイストで、気がついたらお椀が空になっていた。そのままベッドに飛び込んで、満足げに瞳を閉じる。
     お風呂もスキンケアももうバッチリだもん、このまま寝ちゃっても、いいよね。

    「ふう〜! とっくにご飯は済んでるのに、スルスル入っちゃった。やっぱリーリヤのお菓子サイコ〜……ふわあ……」

     あのとき軋んだウエストに気づかないフリをして、あたしは上機嫌で眠りについ──

    「いや待った!? クッキー食べたなら歯磨かないとダメっしょ!」

     訂正、飛び起きた。

  • 4二次元好きの匿名さん25/09/21(日) 05:07:08

    「ふぁ……いっかいねようとしてたから、さふあにえむい……」

     洗面台の前に立ったあたしの目蓋は、完全に入眠体制のまま。視界の隅でトロンと垂れている睫毛とは対照的に、歯ブラシは忙しなく動き続けている。いや、動かしているのはあたしなんだけどさ。
     んー、やっぱりリップがないと盛れてない気がする。夜中に急に大声を出したらダメだよってリーリヤにも窘められちゃったし……もっとシャキッとしないとね。

    「はい終わりー。なんかちょっとだけ眠気吹き飛んじゃったから、ちゃんと寝るぞ……って、あれは」

     目蓋を半分ほど開いたら足元に見えた、体重計。アイドルの体型維持には欠かせない、あたしたちにとってのエッセンシャルワーカー。……そういえば最近乗ってなかったっけ。夏休み明けの健康診断の値に何も問題がなかったから、それ以降気にしてなかったなあ。
     いい機会だし、測ってみちゃお。別に変なことはしてないし、そんな短期間で変わるわけ……

  • 5二次元好きの匿名さん25/09/21(日) 05:08:19

    ピッ "58.1"


    「……え?」


    "58.1"


     摩訶不思議な数値が、非常に遅い周期で点滅している。


    "58.1"


     何度見ても、それは変わらない。


    "58.1"


     それを現実のものと認識する頃には。

    「うわああああああああぁぁぁぁぁぁ!!!??」

     眠気なんて────完全に吹き飛んでしまっていた。

  • 6二次元好きの匿名さん25/09/21(日) 05:09:44

    あの後リーリヤにこっ酷く叱られ、翌日。

    「うぇ……冷たいぃ……」

     昨日と同じ洗面台の前に立ち、不機嫌そうに垂れた目蓋に冷水を浴びせる。その気怠げな目つきは未だに残る眠気のせいか、あるいは増えてしまった体重への不満か。
     てか、なんか浮腫んでない? 心なしか、頬が少しぷにぷにしている気がする。気がするだけかなあ、ぷにぷにはちなっちの専売特許のはずなんだけど。リーリヤには虫が出たことに驚いて大声が出ちゃったって誤魔化しちゃったし……。

    「なんか、この状態でPっちに会いたくないなあ」

     一度体重が増えたのだと認識してしまうと、これまで気にならなかったことが急に意識され始める。昨日、一昨日、もっと前。増え続けていた自重と体積に一切気づくことなく、涼しい顔して毎日Pっちにちょっかいかけていたと思うと……。

    「うぅ〜……サイアクなんですけどぉ……!」

     穴があったら入りたい。顔から火が出そう。冷汗三斗。この世にある恥ずかしいという意味を持つ言葉は、全て今この瞬間のあたしのためにあると言っても過言ではないんじゃないか、と錯覚してしまいそう。
     も、もしPっちに太ったとか思われてたらどうしよう……! あたし、もうPっちの目見て話せる気がしない。Pっちに、みんなに、体重増えてるのバレてない、かな……。

    「清夏ちゃーん! そろそろ出ないと間に合わないよー!」

     あたしが鏡の前でずっとウジウジしているのを待ちかねたのか、リーリヤが玄関口であたしを呼んでいる。いや、優しいあの子のことだから本当にただ忠告してくれているだけなんだろうけど……あたしのオトメゴコロはどうしても周囲に悟られたくないと言って聞かない。

    「えっマジ……うわやっば! もうこんな時間だったの!?」

     端に置いていた腕時計を確認すると、本当に遅刻ギリギリの時間。

    「ごめーんリーリヤ! あたしまだメイク完璧じゃないから、先行っててー!」
    「え、ええ!? そしたら清夏ちゃんが遅刻しちゃうよー!」
    「あたしは大丈夫だからー!」

     でも、今日はいつもよりシェーディング濃くしたい……かも。

  • 7二次元好きの匿名さん25/09/21(日) 05:12:02

    「はあ……はあ……ギリッ、セーフ……!」
    「おはよー清夏。どしたの、いつにも増してギリギリじゃね?」
    「お、おはようことねっち……ちょっと、ね」
    「まあ詮索はしないけどさ、少し前に着いてたリーリヤちゃんも平然としてるし、早く息整えときなよー。今日は長距離走るんだし」
    「げっ、そうだった……サンキューことねっち」

     これでも脚に自信はある方だ。Pっちとのトレーニングでトラウマを完全に克服してからは、全力疾走も厭わない。咲季っちお墨付きの健脚ぶりを存分に発揮して、高らかなチャイムを聞きながら教室に滑り込んだ。
     今が夏じゃなくてよかった。もしもあの高温多湿の中を全力で駆け抜けていたなら、今ごろ顔面はドロドロだったね。それでも全力疾走に耐えるのは難しいし、K◯SEのキープミストには感謝しかない。

    「てか清夏、メイク変えた? なんか前よりスタイリッシュになってる気がするんだけど」
    「マ? ことねっち、気づいちゃう? 分かってんじゃ〜ん、大正解!」

     メイクだって、人並み以上にできる方だという自負はある。いつもより顔痩せを意識して、色ではなく陰影に焦点を当てた細やかなタッチが功を奏したみたい。現に、ことねっちの目は誤魔化せている。これならPっちにもバレずに済むのでは……!
     勝算は大いにある。……いや、そんな甘い考えではいけない、負けるわけにはいかない。あたしの体重が増えたことは、やはり誰にも知られてはいけない。
     Pっちがトーヘンボクなのはあたしが一番よく知っている、あの人のことだから『清夏さん、太りましたね?』とか直球で言ってくるに違いない!
     ……授業中、こっそり小顔マッサージでもしてようかな。

    「むむむ……」
    「……清夏、どしたん? 急に唇尖らせて」
    「あ、えっと〜、それは〜、秘密でお願いします……」

  • 8二次元好きの匿名さん25/09/21(日) 05:14:08

    「よーし、今日のレッスンはここまで! 各自水分補給をしたら解散だ、よく復習しておくように!」
    「ありがとうございました!」

     時は流れて放課後。
     いつものようにダンスレッスンをこなす。ダンスレッスンに対していつものように……なんて、言えるようになれて本当に良かったと自分でも思う。やっぱり、踊るのは楽しいな。

    「紫雲! お前は少し残れ、話がある」
    「うえぇっ!?」

     右脚の余韻を噛み締めていたら、ダンストレーナーにお呼び出しを食らった。なんで?
     ダンストレーナー、いつも目つきが鋭くて、あたしたちのことをよく見てくれてるのは流石なんだけど……今はちょっとその目線が怖い。そんな考えを看破するかのような物々しい雰囲気を纏いながら、トレーナーは口を開いた。

    「さて……紫雲。お前、この頃自分で何か動きが悪いとか、身体が重いとか、そういった感覚はないか?」
    「……あ、えっと……」

     マズい、この流れは。……見破られている?
     いや、正直自分でもこの辺りはあまり感知できていない。以前、筋肉量の左右差で重心の偏りが生まれていると指摘されたことも分からなかったし。

    「すみません、よくわかんない、です……」
    「ふむ、自分では気づかない範囲ではある、か。プロデューサー、お前はどう思う?」
    「そうですね……」
    「うひゃああ!? ぴ、Pっち、いつの間にいたの!?」
    「たった今からですよ。ダンスレッスンが終わる時間に合わせて来てほしいと、トレーナーから伝えられていたので」

     ま、待って! それはダメだって!
     確かにその、ダンスの無意識のあれそれは分かんないけど、今すぐPっちに見せられる顔してないって今は!

    「それで、どうなんだ?プロデューサー」
    「Pっち、タンマ! ちょっとタンマ! あたし何か気づいたか、も……」

  • 9二次元好きの匿名さん25/09/21(日) 05:15:08

    「──やはり体重が少なからず増加しているのでしょう。微妙な差ではありますが、動きが以前よりも鈍い」
    「……ふむ、同意見だな。本人が気づかない範囲でだが、四肢の付け根から動きの発生にかけて機動力が落ちている」

     ──あ、終わったわ、これ。

  • 10二次元好きの匿名さん25/09/21(日) 05:16:45

    「……とまあ大体こんなところだ」
    「申し訳ありませんトレーナー、しかし食事管理やカロリー計算は間違っていないのに、一体なぜ……」

     その後のトレーナーとPっちの会話なんて、全然耳に入ってこなかった。茫然自失とはこのことを指すのだろう、右から左に言葉が抜けていく。サイアク、マジで恥ずかしいんですけどぉ……! 恥ずかしい以外の言葉が出てこない!今すぐここから逃げ出したい!

    「……あ、あの、2人はいつから、気づいて……?」

    「初めに異変を感じたのは大体10日ほど前だな。その頃から脚ではなく、別の何かを庇うように動きが鈍くなっていた。その点、レッスン中の動きをビデオで参照しつつプロデューサーに話を通したんだ」
    「一時的なものであれば良かったのですが、むしろ日に日に顕著になっていったとトレーナーから相談がありまして、一度ここではっきりしておきたかったんです。清夏さん…………太りましたね?」

     うわああああああ!!!!!
     も、もうダメ、あたし死ぬ……。生きていけない……。
     流石にそこまでは言わないけど、俯いた顔を上げられない。助けてリーリヤぁ……。

    「紫雲、何かしらの要因で自己管理ができないのは決して恥ずかしいことではないぞ?お前にはプロデューサーがついてるんだ、何でも相談していけ」
    「清夏さん、起きてしまったことは仕方がありません。もう一度食事と運動量を見直してみましょう。俺がついていながら、すみませんでした」

  • 11二次元好きの匿名さん25/09/21(日) 05:18:59

    「ふぇ……あ、あうぅ……!」

     ようやく顔を上げた先に見えたのは、こちらを慈しむように見ているトレーナーと、やけに申し訳なさそうに眉尻を下げたPっち。体重が増えてパフォーマンス力の下がったあたしを素直に気遣おうとしてくれている、慎ましい瞳だった。
     もはや、"体重が増えたことを恥じる"という行為自体が恥ずかしくなってくる。2人の優しさで勘違いしちゃいそう。申し訳なさと恥ずかしさの堂々巡り。
     あたしの身体は、今どれだけ熱を帯びているのだろうか。

    「〜〜〜〜〜〜っ! わ、わかった! わかったから! 太ったとか何度も言わないでぇ!!」

     こっちの思いなんて露知らず。今は2人の顔なんてまともに見られなくて。
     生まれたての子鹿のように震えながら回れ右。そのままギュッと目を閉じながら、両手で顔を覆ってしゃがみ込む。昔、バレエの発表会で振り付けを間違えた時よりも、ずっとずっと、胸の内側が疼いている。

    「こちらから伝えたかったことは以上だ。プロデューサー、後は頼んだぞ。紫雲も、しっかりやれよ」
    「ありがとうございました、トレーナー。……清夏さん、ここでずっとしゃがみ込んでいるのもあれですから、一度事務室に行きましょう」

     う、うっさい!誰のせいであたしが今ここまで……!
     と言いたいところだけど、太っちゃったのはどう考えてもアイドルとしてのあたしの落ち度なので、その反論は的外れ。

    「ぴゃい……」

     これまでの人生でもトップクラスに情けない、消え入るような声。
     子犬のように甲高く裏返ってしまったのも、きっとPっちにはお見通しなんだろう。立ち上がっても両手は顔にぴっちりと張り付いて、離れようとはしなかった。

  • 12二次元好きの匿名さん25/09/21(日) 05:20:43

    「……清夏さん」
    「…………」
    「清夏さん、そろそろ話を進めたいんですが」
    「ぅ、うるさい、Pっち! もうちょっと黙ってて!」

     きっと今のあたしの顔は、熟したイチゴのように真っ赤。
     ソファにうつ伏せになって、イマドキ幼稚園児でもやらないくらい大袈裟に脚をバタつかせる。Pっちはオトメゴコロが本当に分かっていない。

    「清夏さん。何度も言いますが、清夏さんに確認された軽度の体重増加は俺にも大きな責任があります。ストレスに由来するものか、計算の手違いか、俺なんかには分からない」

     違うの、Pっち。

    「あるいは清夏さん自身も感知していないものなのかもしれない。ですから、考えましょう。俺はあなたの力になりたい」

     Pっちはどこまでも、アイドルとしてのあたしを見ている。コンディションを崩したアイドルを慮り、プロデューサーとして適切な処置を取ろうと、やや困った顔をしながら屈んであたしを覗き込もうとする。
     ……違うんだって、Pっち。
     
    「Pっちは、さ。……その、ちょっと体重増えちゃったあたしのこと。……どう、思って……るの?」

     もしょもしょした声で尋ねる。顔を埋めたクッションに音が遮られて。ただでさえ途切れ途切れの言葉なのに、尚更辿々しい。

    「どう……ですか。──アイドルの自己管理としてはあまり褒められたものではないかもしれません」

     やっぱり。
     胸のあたりがちくんとした。

     Pっちはあたしのことが嫌いとか、失望したとか、そんなことは言ってない。何も隠さないって確かに決めた。
     ……けど、それでも知られたくないことはあって。好きな人に少しでも良いあたしを見てほしいって思うのは、女の子の恥ずかしいところを知られたくないって思うのは、自然なこと……だよね。

  • 13二次元好きの匿名さん25/09/21(日) 05:22:38

    「……ですが、紫雲清夏の魅力はその程度で損なわれるものではありません。俺が見つけ出した原石に、そのようなことはあり得ない」

     でもPっちは、そんなあたしを受け入れてくれている。 
     カクシタイワタシも、Pっちになら、ちょっとはバレてもいいかもって、思わせてくる。……罪な人。
     ──ちょっと勇気出して、踏み出してみるよ。

    「──えと、その、Pっち。太っちゃったあたしのことも……可愛い、って……思う?」

     両手にクッションを抱えながら起き上がって、Pっちに向き直る。まだPっちの目を直接見て話せるほど、身体の熱は冷めやらぬまま。
     そのまま目線を泳がせていると、おもむろに小さく息を吸い込む音が聞こえて、

    「……当たり前じゃないですか、わざわざ答えるまでもない。誰が何と言おうと清夏さんは可愛い、俺が保証しますよ」

     ──顔の下半分は隠したままで、よく手入れされているであろう革靴に目線を落としながら、クッションを一層強く抱きしめた。
     Pっちが今どんな顔をしているのかは分からない、けど。ちょっと呆れたような、それでいて心が安らぐような、暖かく寄り添ってくれる声。ズルいよ、Pっち。

    「そ……そう、なんだ……! えへへ……」

  • 14二次元好きの匿名さん25/09/21(日) 05:24:17

    「ただし、ベストコンディションだと言い難いのは事実ですね。俺が見落としていた失態もありますが、今一度生活を見直す必要はあります」
    「んぇっ」

     なんて浮かれていたら、一気に羽を捥がれた。
     ……むう、思い返してみたらなんなのこの人!? 全然デリカシーとか感じないんですけど! 女の子に対してもっとこう……あるでしょ!
     この人といると、あたしが恥ずかしがってたのがホントにバカみたいに思えてきた。ちょっとくらい仕返ししてやるんだから。

    「……Pっち、ちょっとこっち来て」
    「はあ」
    「で、しゃがんで。もうちょっと」
    「……? これで合ってますか」
    「てやっ」
     
     ……つんつんつん。

    「あの、清夏さん。つんつんしないでください」
    「……ヤダ」

     いたずらっ子のように、目を見てくすっと笑う。
     今はまだ、このくらいで済ませてあげる。

  • 15二次元好きの匿名さん25/09/21(日) 05:26:01

    「あの、清夏さん……満足しましたか?」
    「んー、まだ。オトメの純情を弄んだ罪は重いぞー?」
    「お、俺はそんなつもりでは……」
    「はい黙るー、もう一分追加ね。つんつーん」

     Pっちがあまりにもトーヘンボクなもので、なんかどうでもよくなってきてしまった。いや、どうでもよくはないんだけど、その、この人相手に悩んでたのが凄い些細なことだったっていうか。 
     あたしが不貞腐れた顔をすると、やはりと言うべきかPっちは不思議そうにこっちを見る。もっと女の子の気持ちも勉強した方がいいよ、Pっち。

    「失礼します。……清夏ちゃんと、プロデューサーさん? 何してるの?」
    「あれっリーリヤ!? いつの間にいたの?」
    「えっと、今来たところだけど……、お邪魔だった、かな。その……」
    「待って待って! いいよいいよ、入って!」

     なんてPっちに夢中になっていて、入ってきたリーリヤに気づくのが遅れてしまった。なるべく平静を装いながらリーリヤを招き入れると、Pっちはほっと小さく一息吐いた。こらそこ、安心してるんじゃないよ。

    「葛城さん、その手に抱えているものは?」
    「あ、これはマシュマロです! 寮の共用部のキッチンのお砂糖が新しくなったので、早速使ってみたくて作っちゃいました」
    「マジ!? めっちゃ美味しそうなんだけど!」

     あたしが喜んでいる傍らで、Pっちは目をぱちくりさせている。なんか今日のPっち、表情豊かだね。なんて思っていたら、唐突に爆弾が落とされた。

  • 16二次元好きの匿名さん25/09/21(日) 05:27:39

    「なるほど、これだったか……。葛城さん……申し訳ないのですが、暫く清夏さんにはお菓子を与えないでくれませんか」
    「……え、ええっ!? なんで、ですか……?」
    「Pっち!? どうしたの急に!? リーリヤのお菓子だよ、変なものは入ってないって!」

    「清夏さんの日々の献立やお出かけで食べたスイーツのカロリーは計算していましたが、灯台下暗しだ。日常的に摂取できるカロリー源がこんなところにあったとは!」
    「あの……プロデューサーさん?」
    「清夏さん、葛城さんのお菓子は日頃どれだけ食べていましたか?」
    「え? えっと、ほぼ、毎日……?」
    「清夏さん、お菓子禁止です」
    「んなっ……!」

     リーリヤのお菓子が食べられなくなっちゃうってこと!? そんなあ……。あ、ほら、リーリヤがしょんぼりしちゃってるって! Pっち、リーリヤにそんな顔させちゃダメだって!

    「そ、そんな、わたしのせいで清夏ちゃんに迷惑をかけてたなんて……ごめんなさい、清夏ちゃん……」
    「あー違う違う! あたしが何も気にせずバクバク食べすぎてたせいだから気にしないで! ほらPっちも、リーリヤ悲しませないの!」
    「す、すみません葛城さん。しかしなるべく頻度を落としてもらえると……」

    「じゃあさ、このマシュマロは3人で食べようよ、ねっ? Pっちも巻き添え〜」
    「……今日だけは、了解しました。しかしお菓子の食べ過ぎで5キロも増えたとなると……」
    「5キロも増えてないんだけど!?」
    「えっと……じゃあ、いただきます! プロデューサーさんと……清夏ちゃんも、どうぞ!」

     綯い交ぜの感情は、マシュマロに吸い込まれたかのように霧散する。この日食べたマシュマロは、なんだかいつもより甘ったるい気がした。

  • 17二次元好きの匿名さん25/09/21(日) 05:29:39

    「……ちなみにリーリヤは、その……体重、増えてないの? あたしと一緒に毎日お菓子たくさん食べてるけど」
    「確かに……失礼にあたるかもしれませんが、これだけのお菓子と材料をもってしても太らないのはむしろ特異的だ」
    「うーんとね……体重は特に変わってないよ?」
    「「えっ」」
    「え?」

  • 18二次元好きの匿名さん25/09/21(日) 05:30:58

    「ふー、美味しかった〜!」
    「じゃあ清夏ちゃん。その……暫くお菓子はお預け、だね」
    「ちぇ〜、こんなに美味しいのに……」
      
     リーリヤは申し訳なさそうに、控えめにはにかんだ。あたしとPっちは満足気に笑っているけど、Pっちは目が笑っていない。あたし、そんなにマズいことしたかな……?

    「では清夏さん。今週末のお出かけについてですが、カフェは封印です」
    「だよねえ……、あたしのスイーツがぁ……」
    「当然です、葛城さんにも協力してもらいつつ食事に制限をかけなくてはいけないので」

    「代わりといってはなんですが、2人でカラオケにでも行きませんか。食事以外にも、色々と楽しみようはありますから」
    「ホントに!? あたしちょうど極光覚えたから歌ってみたかったんだ、行こ行こ!」
    「…………ふふっ」
    「ちょっとリーリヤ、何笑ってるの!?」
    「ううん、なんでもない」

     リーリヤ、お菓子を食べた時よりも楽しそうな顔してる。も、もとを辿ればリーリヤにだって責任はある、かもしれないのに……。
     でも、さっきまで恥ずかしがってたのがホント嘘みたい。恥ずかしかったのは嘘じゃないけど!Pっちといると、そんなのも気にならなくなってきちゃう。


    (やっぱり好き、だなあ……なんてね。 )


     音を出さない独り言は、ゆっくりとクッションに溶けていった。

  • 19二次元好きの匿名さん25/09/21(日) 05:32:16

    おしまい

    スミカフトラ星人は星に帰ったそうです

  • 20二次元好きの匿名さん25/09/21(日) 08:25:41

    何やってるんですか
    直ちに呼び戻してくださいよ

  • 21二次元好きの匿名さん25/09/21(日) 08:53:59

    >>19

    何をしている!捕えろ!

  • 22二次元好きの匿名さん25/09/21(日) 08:55:29

    やはりリーリヤは妖精だった

  • 23二次元好きの匿名さん25/09/21(日) 10:22:29

    清夏の宇宙人気は凄い

  • 24二次元好きの匿名さん25/09/21(日) 11:39:10

    5kgも増えてないから余裕だな

  • 25二次元好きの匿名さん25/09/21(日) 11:54:45

    クモラ星人かと思ってたのに....騙されたぁぁぁ
    むかつくので大量のお菓子送っときますね

  • 26二次元好きの匿名さん25/09/21(日) 11:58:48

    ぷにぷにになった可愛さと、それに悩む曇らせを同時に摂取できるから太らせはお得なのでは?
    お前もスミカフトラ星人にならないか?

  • 27二次元好きの匿名さん25/09/21(日) 13:06:36

    こんなのこっちが謝礼金払うべきものだろ

  • 28二次元好きの匿名さん25/09/21(日) 14:36:34

    スミカクモラ星人です
    戦争ヲタ開始します

  • 29二次元好きの匿名さん25/09/21(日) 16:17:15

    しゅみたんにお菓子を投与して清夏ちゃんが世界に増えた…とか言い出すタイプのリーリヤじゃなかった

  • 30二次元好きの匿名さん25/09/21(日) 17:55:17

    サタケ星人をリーリヤに憑依させないと

  • 31二次元好きの匿名さん25/09/21(日) 18:21:38

    この話の裏で清夏より体重が増えたチワワが居そう

  • 32二次元好きの匿名さん25/09/22(月) 00:18:45

    >>30

    それセンパイが太るヤツ!

  • 33二次元好きの匿名さん25/09/22(月) 00:37:59

    >>31

    咲季辺りにキレられてそう

  • 34二次元好きの匿名さん25/09/22(月) 01:56:53

    これ実はリーリヤの正体がスミカフトラ星人だろ

オススメ

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