【ss】学P「あなたをトップアイドルにしてみせます」

  • 1二次元好きの匿名さん25/09/28(日) 22:58:31

    学マス初めて2週間、花海姉妹に脳を焼かれたので初投稿です
    にわかですが何卒よろしくお願いいたします

  • 2二次元好きの匿名さん25/09/28(日) 23:00:56

    閉じた瞼の上から突き刺してくる柔らかな日差しと頭の上に落ちる桜の花びらが、今が春であること教えてくれる。
    校門側から講堂へと続く道の途中のベンチ、そこで項垂れるように眠むっていた。
    学生の頃、と言っても今も学生なのだが、試験当日の朝に起きるのを渋っていた時のように重い瞼を持ち上げる。
    そこにはこれからの未来に想いを馳せながら講堂へと向かっていくアイドルの卵たちの姿があった。
    そのほとんどが街中で見かけた異物に向けるかのような視線を送ってくる。
    嫌悪というよりは不思議なものを見つけた時のそれに近いが、それもそうだろう。
    ぼやけたカメラのピントを調整するように目を擦ろうとして、自分がかけていたメガネの存在を思い出した。
    メガネを外し、片手の甲で両目を擦る。
    こんな朝からスーツを着た若い男がベンチで寝ていたのだから仕方がない。
    ただ一人、クリアになった視界の先にいる彼女を除いては。
    活発そうな赤みがかった髪を頭の上で二つに結び、その二つの目に青い炎を宿した彼女は私のことなど気にもかけず一人まっすぐ講堂を目指す。
    その自信に溢れた姿を思わず目で追いかけながらも、自らのやるべき事をなすべくズボンのポケットに入ったスマホを取り出してそちらに目を落とした。
    メモアプリには今日の予定がびっしりと書かれてあったが、大きく太い文字で書かれたタイトルがまずは何をすればいいかを教えてくれる。
    それを見て思わず笑ってしまったが、何回か画面をタップした後、静かに声に出して自らの目標を再確認する。

    「必ず、あなたをトップアイドルにしてみせます」

  • 3二次元好きの匿名さん25/09/28(日) 23:06:25

    「もーーーーーー!!!なんで目覚まし鳴らなかったのーーーー!?」

    今日のために買った真っ白なスニーカーで、私と車以外誰も通っていない道を全速力で走る。
    恨めしくも永遠と続く外壁がこの学園の大きさを表していた。
    歩道に植えられた桜の木も本来であれば今日という日をお祝いしてくれているはずなのに、今の私にはずっと変わらない景色の一部に過ぎなかった。

    「いつもはお姉ちゃんが起こしてくれてたのにーーーーーーー!!」

    後から気づいた事なのだが、一応目覚ましは鳴っていた。
    寮生活になってから最初の登校日、今まではお姉ちゃんに起こしてもらっていが別室になった今ではそういう訳にもいかず、目標の第一歩として自分で時間通りに起きようと初めて目覚まし時計をかけてみた。
    ただ鳴っていた目覚ましを眠りながら止めていたようで、ちょっと強く叩いてしまったのかベルを叩く槌の部分が曲がってひしゃげてしまっていた。
    目が覚めた時には既にお日様は高い位置に来ていて、全然余裕で大寝坊をかましてたことに気づく。
    スタートダッシュに失敗したことにちょっぴり落ち込むが、それと同時にある気持ちも心中にあった。

    「またお姉ちゃんと勝負ができる・・・!!」

    大遅刻をしているにも関わらず、幾度となく沸いてきた高揚感の再燃に思わず口角が上がってしまう。
    しばらくすると右側に大きな門が見えてきた。
    その門の正面に立って見上げると、ローマ字で大きく書かれた「HATSUBOSHI GAKUEN」の文字。
    今度こそ絶対に勝ってみせる。
    自分の目標を再確認するように、グッと拳を握り気合いを入れて門をくぐる。
    そのためにまず私がしなくちゃいないことがある。

    「なんとか間に合えーーーーーーーー!!!!」

    遠くに見える講堂に向かって再び全力で走ることだ。

  • 4二次元好きの匿名さん25/09/28(日) 23:12:19

    「はぁ・・・はぁ・・・」

    体力には自信があったけど、ずっと全力疾走していたせいか流石に少し息が上がる。
    だけど休んでる暇はない、今考えなきゃいけないのは入学式に間に合うこと。
    この講堂であってるはずだけど周りに人のいる気配がない。
    係の人か誰かきっといるだろうと思っていたが予想が外れてしまう。

    『まだ間に合うならどうにかして入らなきゃ』

    周りを見渡すと、私より少し年上っぽいスーツ姿の男性がベンチに座っていた。
    もしかしたらスタッフの人かも!!

    「す、すいませ〜〜〜〜〜んっ!」

    わずかな希望にかけて走ってベンチに向かう。

  • 5二次元好きの匿名さん25/09/28(日) 23:17:35

    「入学式って、もう始まっちゃってますかっ!?」

    私に気づいたその人は、大きな声で突然話しかけられたせいかすごく驚いていた。
    それもそうだろう、本来関係者は今ごろ目の前の講堂にいるはずなのだから。
    それでも私が遅刻したことに気づいたのか、すぐに冷静な声で私に教えてくれた。

    「もう、終わるところだと思いますよ。今から入っていくのは・・・難しいでしょうね」

    『やっちゃったーーーー!!
    入学式に間に合うどころかもう終わっちゃうなんてーーーー!!
    どうやってみんなと合流すればいいのーーーー!!』

    そんな考えが全部口から出ていたのか、男の人から途中でこっそり混ざってはどうかとアドバイスをもらった。

    「それです!ナイスアイデア!!」

    問題が解決して一安心すると、自分がまだ自己紹介していたなかったことに気づく。

  • 6二次元好きの匿名さん25/09/28(日) 23:25:54

    「あっ、申し遅れました。私アイドル科の

    「花海佑芽さん、ですよね」

    予想していなかった言葉に思わずびっくりする。
    その様子を察したのか、その人はスーツの胸ポケットから何かを取り出しながら説明する。

    「今日のためにアイドル科の生徒名簿には一通り目を通しておりまして、私こういうものです」

    ケースから一枚の厚紙を取り出すとそれを両手で私の前に差し出してきた。
    手にしたそれに書かれたプロデューサー科一年の文字が目に入る。
    なるほど、だから私のことを知ってたんだ。

    『そうだ!!だったら』

    「もしよろしければ、あたしをプロデュースしてくれませんか!?」

  • 7二次元好きの匿名さん25/09/28(日) 23:30:37

    唐突なお願いにまたしても目を丸くするプロデューサー科の人。
    私の直感が言っている。
    この人なら私の力になってくれると。
    私の直感はよく当たるんだ。
    それに

    『ここで勢いで押し切らないと、私の実力がバレる・・・』

    何を隠そう試験科目の全てが最下位だった私は、奇跡の補欠合格でここにいる。
    そんな私にプロデューサーがついてくれるためにはもうこれしかない。
    お願い、なんとかなって・・・!!

    「はい、もとよりそのつもりです」

    「そうですよね・・・って、ええーーーー!?私、補欠合格ですよ!?」

  • 8二次元好きの匿名さん25/09/28(日) 23:38:43

    あ、まずい。
    予想外すぎて思わず言っちゃった。

    「もちろん把握しています」

    じゃあなんでと聞こうとしたところでお姉ちゃんの言葉を思い出した。
    あれは確か入寮前日のこと・・・。
    ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
    『いい佑芽、あなたはとっても可愛い私の自慢の妹よ』
    『東京にはあなたの可愛さに狂わされた変な人間がきっとたくさんいるわ』
    『だからお姉ちゃんのいないところでホイホイ勝手に知らない人についていっちゃダメよ、いいわね?』
    ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
    ということは・・・

    「もしかして私の体目当てなんですか!?」

    またも頭の中の言葉が思わず口に出てしまった。

    「はい、その通りです」

    「すごい正直ですね!?」

  • 9二次元好きの匿名さん25/09/28(日) 23:48:04

    「詳細については後ほど話しますが、とにかく最初からあなたをスカウトしようと思っていたのは事実です」

    そう言いながらスマホを取り出しメモアプリを見せてくる推定不審者さん。
    そこには今日の予定であろうものがびっしり書かれてあったが、一番上にデカデカと大きな文字で

    「9時頃 花海佑芽さんをスカウト」

    と書いてあった。

    「ホントだ・・・もう多分11時ぐらいですけど」

    「まさか新入生が遅刻してくるなんて思いませんでしたから」

    「そ、それは目覚ましがならなくて

    「勝ちたいんですよね、花海咲季さんに」

    花海咲季、その言葉に遅刻の言い訳が喉の奥に詰まる。
    この人、本当に私をスカウトしに来たんだ。

  • 10二次元好きの匿名さん25/09/28(日) 23:52:54

    「・・・はい、私はそのためにここに来ました」

    やっぱり私の直感は正しかった。
    この人なら、私をお姉ちゃんに勝たせてくれる。

    「改めて、お願いします」

    深々と頭を下げる。
    勝てるんだったらどんなレッスンだって頑張れる、どんなことだってやれる。

    「私を、お姉ちゃんに勝てるアイドルにしてください」

    頭を上げてプロデューサーさんの目を見る。
    メガネのレンズに反射した私の顔がこれまで自分でも見たことないくらい真剣な表情をしていた。

    「分かりました、ではまず」

    プロデューサーさんからの最初の指示、どんなことだってやり遂げてみせる!!

    「あちらから新入生の方々が出てきているのでそれに合流して来てください」

    プロデューサーさんが指す方を見ると、入学式を終えたであろう新入生たちでできた人ごみがあった。

    「あ゛ーーーーー!!」

    そうだった、スカウトされてすっかり忘れてたけど入学式の真っ最中だった!!

  • 11二次元好きの匿名さん25/09/28(日) 23:59:04

    「今日はホームルームだけかと思いますので、終わりましたら先ほどお渡しした名刺の番号に電話をください」

    「分かりました!!それでは行ってきます!!」

    みんなに合流するべく私は走り出した。

    「っと、その前に」

    振り返ってもう一度プロデューサーさんを見る

    「これからよろしくお願いします!!プロデューサーさん!!」

  • 12二次元好きの匿名さん25/09/29(月) 00:02:26

    「えーーっと・・・ここであってるよね・・・?」

    「お待たせしました、花海さん。迷いませんでしたか?」

    「はい!!すっごく迷いました!!」

    無事(?)にみんなと合流できた私は、ホームルームを終えて指示された通りにプロデューサーに電話をかけた。
    指定した校舎の玄関に来てほしいとのことだったので、意気揚々と向かったものの見事迷子に。
    学内地図は渡された記憶はあるけど、おそらく机の奥で他のプリントと一緒にプレスされている。
    頭を抱えていると上級生が声をかけてくれた。
    どうやら3年生らしく、可愛いらしい雰囲気とは違い王子様のような口調で私を道案内してくれた。
    さすがアイドル科、クセの強い人もいるんだ。
    道中色々な話をしてくれて、格闘技の話が時々出て来るのはよく分からなかったけどかっこいい人だなーと思った。

  • 13二次元好きの匿名さん25/09/29(月) 00:07:40

    「プロデューサーさんもちょっと遅かったですね」

    「すみません、色々とありまして」

    少し疲れたような表情をしたプロデューサーさんに促され校舎に入る。
    きっと迷ったんだろうな。

    「そういえばちゃんとクラスの方とは合流できましたか?」

    「もちろん、バッチリ合流できました!!しかも、もう友達もできましたよ!!」

    そう言いながら私はチャットアプリの友達欄を見せる。

    「篠澤さんと倉本さんですね」

    「知ってるんですか!?」

    「はい、新入生のことは一通り調べましたので」

    「へー、プロデューサーさんってすごいんですね!!」

  • 14二次元好きの匿名さん25/09/29(月) 00:12:51

    今日の出来事を話しながら廊下を歩く。
    千奈ちゃんがお嬢様だったこととか、広ちゃんがとっても頭が良くて話がよく分からなかったこととか。
    タイムマシーンが物理だったか数学だったかで作れるだのなんだの。
    多分ド◯えもんの話をしてたんだと思う。

    「そしたら広ちゃんが『ふっ、ままならない、ね』って」

    その言葉の意味もよく分からなかったけど。
    我ながら完璧なモノマネを披露したところで廊下の突き当たりに差し掛かる。
    プロデューサーがそのまま左に曲ったから後を追って私も左に曲がった。
    はずだったけど、すぐにプロデューサーが立ち止まった。

  • 15二次元好きの匿名さん25/09/29(月) 00:17:17

    「どうしたんですか?」

    「・・・すみません、間違えました」

    そう言ってきりかえすとすぐに反対側に進み始めた。
    こんなにしっかりしてそうな人なのに。
    意外とこういうおっちょこちょいな所もあるんだ。

    「はっ、そうか!!プロデューサーさん!!」

    「どうしたんですか?」

    「・・・ままならない、ね」

    「おそらくその使い方は間違っていますよ」

  • 16二次元好きの匿名さん25/09/29(月) 00:20:03

    「どうぞ、入ってください」

    スライド式の扉を開けたプロデューサーさんに言われて、到着した教室に入る。
    そこには既にプロデューサーさんの私物であろうものやホワイトボード、壁にはいくつか貼り紙もされていた。

    「プロデューサーさん、ここは?」

    「プロデューサー科の生徒には一人に一部屋ずつ、校内に空き教室が割り振られるんです」

    奥のデスクに仕舞われた椅子をひいて、その背もたれにスーツのジャケットをかける。
    シャツの袖をまくり、ネクタイを少し緩めながらプロデューサーさんは私に言った。

    「言うなればここは私たちの『事務所』」

    事務所ってなんだろ?
    そんなことを考えていると、表情に出ていたのか私のために分かりやすく噛み砕いた説明をしてくれた。

  • 17二次元好きの匿名さん25/09/29(月) 00:22:27

    「すなわち、花海佑芽が花海咲季に勝つための本拠地です」

    机の上にはブックスタンドが置かれており、そこには既に分厚いファイルがいくつか並んでいた。

    『もとよりそのつもりです』
    『もちろん把握しています』

    改めて思う。
    プロデューサーさん、本気で私をスカウトしに来てくれてたんだ。
    再び熱いものが胸のうちから込み上げてくる。
    お姉ちゃんに勝つ。
    今まで夢物語だった願いが少しだけ現実味を帯びてきた気がした。

  • 18二次元好きの匿名さん25/09/29(月) 00:23:38

    「差し当たってまず、花海さんの現状を把握したいのですが」

    「ややこしいので私のことは『佑芽』って呼んじゃって大丈夫です!!」

    これから一緒にお姉ちゃんを倒すんだもん、まずは信頼関係からだよね!!

    「分かりました。では佑芽さん、まずはあなたの今の実力を見たいのですがーー

    「待ちなさい!!」

    プロデューサーさんの言葉を遮りながら、先ほど入ってきた教室の扉が勢いよく開く。

    「お姉ちゃん!?」

    「ふっふっふ・・・そう、佑芽のお姉ちゃんにして学園一の美少女にして学年主席、未来のトップアイドル、花海咲季とは私のことよ!!」

    腰に手を当てながら胸を張るお姉ちゃん。
    やっぱりお姉ちゃんはいつ見ても可愛いなぁ。
    そういえば今日はまだお姉ちゃん成分摂取できてない・・・って、そうじゃなくてなんでお姉ちゃんがここに!?

  • 19二次元好きの匿名さん25/09/29(月) 00:25:00

    「どうかしましたか、咲季さん」

    「あら、いつ私が名前で呼ぶことをあなたに許可したかしら?」

    「つい先ほど佑芽さんから苗字だと紛らわしいとのご指摘を頂いたので」

    「佑芽のことも既に名前呼び!!・・・まあ、それもそうね。いいわ、今回は特別に許してあげる」

    先ほどまでとは打って変わって好戦的なお姉ちゃん。
    腕を組みながら眉間に皺を寄せている。
    なんでそんなにプロデューサーさんのことを目の敵にしてるんだろ・・・。

    「ありがとうございます。それで、どうしてここに?」

    「そうだよお姉ちゃん!!どうしてここに・・・というか、どうしてここが分かったの!?」

    「あら、そんなの簡単よ」

    そいう言いながらまた腰に手を当てたお姉ちゃんは自慢げに語り始めた。

  • 20二次元好きの匿名さん25/09/29(月) 00:26:55

    「佑芽から連絡をもらってすぐに職員室に聞きに行ったわ!学年主席って便利よね〜、先生方も快く教えてくれたわ!」

    「さすがお姉ちゃん!!『がくねんしゅせき』ってすごいんだね!!」

    「そうでしょ!だって私はあなたのお姉ちゃんなんだもの!!」

    「それで、私の質問にも答えてもらえますか?」

    痺れを切らしたのか、プロデューサーさんの表情が少し険しい。
    あれ?なんだかちょっと空気が重いような。

    「そうだったわね、単刀直入に言うわ」

    今までにないくらい真剣な表情でお姉ちゃんはプロデューサーに向き直った。

  • 21二次元好きの匿名さん25/09/29(月) 00:28:39

    「あなた、本当に『佑芽のプロデュースだけ』が目的なのかしら?」

    「・・・それはどういう意味でしょうか?」

    お姉ちゃんの質問に部屋の緊張感が一気に高まる。
    今まで一緒にいてこんなに怖いお姉ちゃんは見たことがない。

    「普通に考えたらおかしいと思わない?」

    お姉ちゃんの一言一言に思わず息を飲む。

    「だって・・・」

  • 22二次元好きの匿名さん25/09/29(月) 00:30:23

    「だって補欠合格なのよ!?普通は学年主席のこの私を最初にスカウトするべきでしょ!?」

    「・・・は?」

    プロデューサーさんの気の抜けた声、初めて聞いた。

    「確かに佑芽は最高に可愛い私の妹よ!!どこに出しても恥ずかしくない・・・はさすがにちょっと嘘だけど、この学園でも私の次に可愛い美少女よ!!」

    「えへへ〜//そんなに褒めなくても〜・・・ってあれ?」

    「数字だけ見れば入学成績はボロボロ、お世辞にも歌もダンスも今はまだ全然上手くないわ。そんなところも私にとっては妹の可愛い一部なんだけど」

    なんだか可愛がられてる風ですごいボロカスに言われてない?

  • 23二次元好きの匿名さん25/09/29(月) 00:31:31

    「プロデューサーとして見た時にとてもスカウトしたいアイドルとは言えないわ。強いていうなら私よりちょっとだけ身長とおっぱいが大きいぐらいよ」

    「いきなり何言ってるのお姉ちゃん!?しかもこの差をちょっとっていうのは無理があるよ!!」

    「はい、存じております」

    「プロデューサーさんまで!?」

    「リサーチがすごいとは聞いていたけど、まさかそんなことまで・・・!!やっぱりあなた、佑芽の体が目的なんじゃないでしょうね!?」

    「はい、そうですが」

    「やっぱりそうだったんですか!?」

    さっと自分の胸を腕で隠しながらプロデューサーさんを見る。
    やっぱり怪しい人なの!?

  • 24二次元好きの匿名さん25/09/29(月) 00:32:43

    「つまり咲季さん、あなたは私が佑芽さんのプロデューサーに相応しくない。そう言いたいんですね?」

    「あら、意外と話がわかるじゃない。そうよ、私には今のあなたに佑芽のプロデューサーがとても務まるとは思えないわ」

    「なるほど、分かりました。それでは佑芽さん」

    「は、はい!!」

    え、なんでここで私!?
    やっぱり契約はなしとか言われちゃうのかな!?

  • 25二次元好きの匿名さん25/09/29(月) 00:34:20

    「先ほどのお話しの続きをします。少し内容が前後しますがお気になさらず」

    「は、はい・・・?」

    「ちょっと!!私を無視する気!?」

    「いえ、是非咲季さんも聞いてください。それでもし、私のことを佑芽さんをプロデュースするに足る人間だと思ったらその際は、いいですね?」

    「・・・へぇ、面白いじゃない。いいわ、その代わり私が納得しなかったら佑芽のことは諦めなさい」

    「それはもちろん」

    「ちょっとプロデューサーさん!?」

    「大丈夫です佑芽さん、あなたのプロデューサーを信じてください」

    どこか自信のある、というよりは慣れたことをこなすだけ、そんな表情をしていた。
    今まで何回もしていたことを練習通りに再現するような。

  • 26二次元好きの匿名さん25/09/29(月) 00:35:36

    「それじゃあ早速聞かせてもらうわよ、どうやってあなたが佑芽をプロデュースするのか」

    お姉ちゃんもさっきまでとは違い、慢心しているわけでも不安そうにしているわけでもなかった。
    ただ淡々とプロデューサーの話を聞こうとしている、そんな目をしていた。
    ・・・って、これ私のプロデュースの話だよね?

    「本当は先に佑芽さんの現在の実力を実際に見てからお話ししようと思っていたのですが」

    そう言いながらパソコンのウィンドウを私たちに見せてくれるプロデューサーさん。
    そこにはこれからのスケジュールと各イベントに対する目標、そしてそれを達成するためのレッスン内容が細かく記載されていた。
    それを見せながら私の特性や資質、それにあったレッスン内容の説明を細かくしてくれた。

  • 27二次元好きの匿名さん25/09/29(月) 00:37:07

    「すごい・・・これ全部、私のために作ってくれたんですか!?」

    「はい、佑芽さんをスカウトするために調査した内容から大まかに作りました。本当はご両親との面談が終わってから最終調整したものをお見せしたかったのですが、仕方ありません」

    「会う約束できたんですか!?」

    「ホームページから面談予約をしたら一番早い日程で組んでいただきました。明日、早速行ってくる予定です」

    二人ともずっと忙しいはずなのに・・・。
    いや、そんなことよりこの人はどれだけ私のことを考えて。
    本当に、お姉ちゃんに勝てるかもしれない。
    気持ちの昂りが抑えられず、これを見ているはずのお姉ちゃんの方を見る。
    さすがにここまでのものを見たら納得してくれるはず!!

  • 28二次元好きの匿名さん25/09/29(月) 00:38:11

    「何よ、これ・・・」

    ウィンドウから目を離し、私の方を見てくるお姉ちゃん。
    その顔は喜んでも怒ってもなくて、ただ困惑の表情を浮かべていた。

    「どうしたの?」

    「・・・なんでもないわ。・・・佑芽のプロデューサー」

    お姉ちゃんがもう一度パソコンを睨みつけるように見る。
    もしかして読めない字でもあるのかな?ちょっと珍しい。

    「なんでしょうか?」

    「・・・いいわ、今日のところは認めてあげる」

    「ありがとうございます、咲季さん」

    お姉ちゃんがプロデューサーさんの目を見ながら少し不機嫌そうに言葉を投げる。

  • 29二次元好きの匿名さん25/09/29(月) 00:39:11

    「・・・ということは!!」

    「ええ、しょうがないからしばらくは佑芽のことをプロデュースさせてあげるわ」

    「やったーーーーーー!!」

    嬉しさのあまりお姉ちゃんに抱きつく。
    勢い余ってお姉ちゃんが床に倒れてしまったけど、それより今はいっぱいぎゅーーーってしていたい。

    「ちょっ、佑芽、少し、くる、し、い」

    でもなんでプロデューサーさんをあんな不機嫌そうに見てたんだろ。
    認めてくれたってことは、プロデューサーさんの実力が問題ないって判断したはずなのに。

  • 30二次元好きの匿名さん25/09/29(月) 00:40:40

    「お姉ちゃん、なんでプロデューサーさんを見てる時ちょっと不機嫌そうだったの?」

    「はぁ・・・はぁ・・・なんでって、あなた」

    何かを言おうとしてまたも口ごもるお姉ちゃん。
    さっきからどうしたんだろ?

    「きっと、大事な佑芽さんを私に取られて嫉妬しているんですよ」

    「はぁ!?そんなわけないでしょ!!誰があなたに嫉妬なんてするのよ!!」

    「お姉ちゃん嫉妬してたの!?もう、だったら早く言ってくれればよかったのに!!」

    大丈夫だよお姉ちゃん、私はお姉ちゃんのこと大大大好きだから!!
    そう言いながらまたお姉ちゃんをぎゅうっと抱きしめる。

  • 31二次元好きの匿名さん25/09/29(月) 00:41:57

    「分かりますよ咲季さん、失恋とはとても辛いものですよね」

    「誰も、聞いてないわ、よ・・・佑芽、そろそろ、離れま、しょうか・・・」

    背中をタップされて我に帰る。
    そうだった、嬉しくて忘れてたけどずっとお姉ちゃんを床に倒したままだった。

    先に起きてお姉ちゃんを引き上げる。
    ありがとうと言いながらスカートの皺を直すお姉ちゃん。
    少しだけ乱れた髪を手櫛で直し終えると私の顔をじっと見てきた。

    「もしも何か変なことをされたら私に言いなさい、すぐにお姉ちゃんが助けてあげるから」

    「もう、心配性だな〜。でも、ありがとう」

  • 32二次元好きの匿名さん25/09/29(月) 00:43:51

    お礼を言うとお姉ちゃんの表情がいつも通りの柔らかい笑顔に戻った。
    よかった、いつものお姉ちゃんだ。
    暖かい手で優しく頭を撫でられた後、お姉ちゃんは教室を後にした。
    やっぱり私のお姉ちゃんはとっても優しくて頼りになる自慢のお姉ちゃんだ。
    でも、憧れてるだけじゃダメだ。
    私はこれからここでお姉ちゃんに勝てるようになるんだ。
    いつまでも背中を追いかけるだけの鈍臭い妹じゃない。
    グッと拳を握って心の中でそう固く決意した。

  • 33二次元好きの匿名さん25/09/29(月) 00:45:53

    跳ね上がった心拍数を誤魔化すように廊下を歩くスピードが自然と早くなる。
    最初の角を曲がってしばらくして、何かから解放されたようにようやくその足を緩めた。

    『大丈夫よね?考えてたこと、佑芽にバレてなかったわよね?』

    一度立ち止まって大きく深呼吸して、気持ちの整理をする。
    最初佑芽から連絡がきた時にはびっくりした。
    まさかあの子にもうプロデューサーがつくなんて。
    焦る気持ちが全くなかったかと言われれば嘘になるが、それよりも妹を守らなきゃと言う気持ちの方が強かった。
    先生に聞いて教室に向かうと、そこには若いスーツにメガネをかけた長身の男がいた。
    あらかた、何も考えずに可愛い妹の魅力に狂わされただけのただの愚か者だろう、そんなふうに思っていた。
    少し突っついてやれば本性を出してすぐに尻尾巻いて逃げるだろうとも。
    パソコンに映された『あれ』を見るまでは。

  • 34二次元好きの匿名さん25/09/29(月) 00:47:00

    「何よ、これ・・・」

    緻密に練られたスケジュールに、佑芽に合わせて設定された無理のない各イベントにおけるゴール。
    そして何より「私に勝つ」と言う佑芽の目標についてもしっかりと考えられていて、それを叶えようとしているのが伝わってくる。
    本来であれば喜ぶべきことだ、私の大事な妹にこんなにすごいプロデューサーがつくのなら。
    だけど違う、あのプロデューサーは佑芽の目標について真剣なだけじゃない。
    と言うよりむしろ

    『私に勝つこと以外、考えられていない・・・?』

  • 35二次元好きの匿名さん25/09/29(月) 00:48:27

    レッスン内容、中間、期末試験の目標順位、そしてH.I.Fでの目標ステータス。
    その全てが私の成長曲線を加味して設定されていた。
    パッと見は私と私のプロデューサー以外は誰も気づかないだろう。
    それぐらい自然に、けれども確実に佑芽のプロデューサーはあのスケジュールに私の成長のことも正確に組み込んでいた。
    あり得ない、こんなこと普通の人間にできるわけがない。
    途端にあの男が得体の知れない何かに思えてきた。
    助けなきゃ、そう思って佑芽の方を見る。
    そしたらあの子、すっごくキラキラした目で私のことを見てくるのよ。
    あんな目されたら言えるわけないじゃない。
    もう一度パソコンに目を向ける。
    何度見返しても書いてあること自体には何も問題はない。
    だったらあの子のプロデューサーになることに反対なんてできるわけもない。

    『・・・いいわ、今日のところは認めてあげる』

  • 36二次元好きの匿名さん25/09/29(月) 00:49:45

    あの時の私にはそう言う他なかった。
    だけどもし何かあれば、何に変えても佑芽のことを守る覚悟も決めた。
    同時に何度も感じたことのある、胸が押しつぶされそうな焦燥感が私を襲った。
    このままいけば、私は確実にこの子に負けると。

    「・・・佑芽、私は絶対にあなたにだけは負けないわ」

    それだけが唯一、あの子のために今の私ができることだから。
    世界一のお姉ちゃんであり続けることが。

  • 37二次元好きの匿名さん25/09/29(月) 00:50:53

    「よいしょっと、とりあえずこれで全部ですかね」

    「ありがとうございます、有村さん。おかげでなんとか今日中に運び終えることができました」

    「いえいえ、これぐらいのこと。先生方にはいつも授業でお世話になってますから」

    空き教室の隅に積まれた段ボールを見ながら捲っていたシャツの袖を下ろし、脱いでいた制服のジャケットに腕を通す。
    一律同じ大きさであるのを見ると中身は全て同じものなのだろう。

    「ちなみにこの中身はなんなのか聞いても?」

    「生徒名簿ですよ。とは言っても一般校のものとはちょっと違いますけどね」

  • 38二次元好きの匿名さん25/09/29(月) 00:52:06

    先生はそう言いながら山の一角の適当な段ボールを開け始めた。

    「勝手に開けてしまって大丈夫なんですか?」

    「いいんですよ、どうせ数日後には私の手からプロデューサー科の人たちに渡すものなので」

    先生が二冊ほど取り出したそれは、名簿というにはあまりにも丁寧に製本された冊子だった。

    「名簿と言うよりはカタログみたいですね」

    「言い得て妙ですね、アイドル科の生徒名簿を見るのは初めてですか?」

    「存在は知っていたんですけど、実物を見るのは初めてで」

    「無理もないですよ、基本的には年度が始まる前に教職員とプロデューサー科の生徒に配布されるものなので」

  • 39二次元好きの匿名さん25/09/29(月) 00:53:19

    話しながらペラペラとページを捲ってみる。
    そこにはアイドル科の生徒達の写真と簡単なプロフィールが記載されていた。

    「でもただの生徒名簿をこんなに華美にする必要あるんですか?」

    「本来はプロデューサー科の生徒がスカウトする際の情報集めに使ったりするものなので、ここまでする必要はないんですけど」

    確かにそれだけのためならばここまでデザインに凝る必要もないし、そもそもこんなに大量に用意する意味もない。

    「と言うことは、他にも何か用途があるんですね」

    「そうですね、有村さんは確か業界歴自体は長いんでしたよね?」

    「はい、子供の時は劇団に所属していたので」

    「でしたらなんとなくこれの使い道が見えてきませんか?」

    「・・・なるほど、色々な企業への営業用ということでしょうか」

  • 40二次元好きの匿名さん25/09/29(月) 00:54:39

    「そうです、初星学園は様々な提携企業やお得意様がいます。そこに挨拶も兼ねて毎年この生徒名簿をプロデューサー科に配布する前に配っているんです、企業には面子というものがありますから。これをもらえることがある種のステータスにもなっているんですよ」

    卒業生達の成果の賜物だと先生は付け加える。
    なるほど、この装飾については得心がいった。
    しかしここで新たな疑問が。

    「でしたら入学式が行われた今日に、この量のダンボールが届いたのでは遅いのではないですか?」

    「それが今年は少し特殊でして・・・」

    そう言いながら今度は名簿の新入生達のページを開く。

  • 41二次元好きの匿名さん25/09/29(月) 00:55:54

    「初星学園はアイドル業界において大きなネームバリューを持つ、いわゆるアイドル名門校です。そのため倍率も毎年高く、合格すればほぼ間違いなく全員が入学します。ですが稀にご家庭の事情などで入学を辞退する人がいてですね」

    「それが今年だったと」

    「はい、ですので毎年形だけとっている補欠合格者が繰り上がりで合格。それが分かったのがつい1週間前のことで緊急対応で仕上げてなんとか今日届いた、というわけです」

    ページをペラペラ捲りながら誰かを探す先生。
    おそらくその補欠合格者がちゃんと載っているのか気になったのだろう。

    『そうか、だから莉波がここ1週間ほど忙しそうにしていたのか』

    色々なことが線で結びついていく。

  • 42二次元好きの匿名さん25/09/29(月) 00:57:49

    「ということは、今年の生徒名簿はまだ誰も持っていないんですか?」

    「いえ、挨拶周りは最悪明日からでも間に合いますが、プロデューサー科の生徒たちはこれがないと仕事、もとい活動ができませんからね。校正前のものは既にデータで配布済みです」

    先生のページを捲る手が止まる。
    ちゃんといますね、と独り言が漏れていた。
    おそらく補欠合格者のページにたどり着いたのだろう、ボクの考えは合っていたみたいだ。
    正解のご褒美と言ってはなんだが、莉波を忙殺した犯人の正体が少しだけ気になった。
    ちょっと不躾かとは思いつつ、そこはどうか目を瞑ってほしい。
    先生の開いていたページをチラッと見る。
    そこには活発そうな見知った顔があった。
    そうか、あの子が。
    だとするともう一つ新たな疑問が生まれる。
    プロデューサーは生徒名簿をスカウトの参考にすると言っていた。
    だとすると、あの子はどうして事務所のある棟に?

  • 43二次元好きの匿名さん25/09/29(月) 01:00:06

    とりあえずまとまった部分は投下できました。
    残っていれば以降書いた分を都度ポツポツ投下していければと

  • 44二次元好きの匿名さん25/09/29(月) 01:15:52

    でも正直花海咲季のすごいところって主人公補正と努力で奇跡を起こすことだから割と原作と変わらない可能性あるな

  • 45二次元好きの匿名さん25/09/29(月) 09:41:57

    保守

  • 46二次元好きの匿名さん25/09/29(月) 10:07:41

    保守ありがとうございます
    今日の夜には続きがあげられればと

  • 47二次元好きの匿名さん25/09/29(月) 19:56:25

    残ってて良かったです
    ちょくちょく続き書いて行きます

  • 48二次元好きの匿名さん25/09/29(月) 21:56:51

    「佑芽さん、調子はどうですか?」

    「はい!!なんだかメラメラ燃えています!!」

    ステージ前の控え室。
    そこには私とプロデューサーさんの二人しかいなかった。

    「中間試験で初めてのステージ、厳しい戦いになると思います」

    「もちろん、今の私じゃボロボロに負けるかもしれません。でもそれは挑戦しない理由にななりません!!」

    「気持ちは大丈夫そうですね、ちゃんと作戦は覚えてますか?」

    「はい!!『体力で相手をすり潰す』ですよね!!」

  • 49二次元好きの匿名さん25/09/29(月) 21:58:20

    「ダンスレッスンのみ、ですか?」

    「はい。既に入ってもらっていますが、これから中間試験までの数週間、佑芽さんには最後の追い込み以外はダンスレッスンのみをしてもらいます」

    レッスン終わりのミーティングでプロデューサーさんから言われた計画。
    最初にスケジュールを見た時からわかっていたことではあったけど、本当にダンスしかしないとは。

    「でもプロデューサーさん、本当にダンスだけで大丈夫なんですか?」

    疑っているわけではない、だけど私の頭の中にはここ数日で構築された「アイドル」という存在が頭から離れない。
    初めて見たお姉ちゃんのレッスン姿。
    歌って踊って他を魅了する立ち振る舞い、その全てがこれがアイドルなんだと私の中に鮮烈に叩き込んできた。
    その姿を考えると、ダンスレッスンだけではなんだか足りないような気がしている。

  • 50二次元好きの匿名さん25/09/29(月) 21:59:28

    「もちろん、最終的には全てをこなせるようなトップアイドルを目指してもらいます。」

    そう言いながらある資料を私にくれた。
    そこには六角形のグラフに私のステータスが記入されていた。

    「って、ほとんど全部最低じゃないですか!!」

    「前回見せてもらった今の実力をもとに私の方でグラフ化してみました。率直に言ってヤバいです」

    「ヤバイんですか!?」

    「ですが一つだけ、身体能力においては合格者の誰よりも佑芽さんはずば抜けていた」

    そう言ってもう一つの資料を渡してくる。
    これは・・・入学試験の成績?

    「歌やダンス、面接などのある程度テクニカルな部分が試される項目においては軒並み最下位、正確に言えば補欠合格なので評価の範囲内にも入っていません」

    「ですがその他の、基礎体力を測る項目においては誰よりも、咲季さんよりも上の成績でした」

    お姉ちゃんよりも上、その言葉に少しだけ心臓が跳ねた。

  • 51二次元好きの匿名さん25/09/29(月) 22:00:47

    「最初から全てうまくやろうと思っても大概の人はできません。できるとすれば、それは咲季さんのような天才です。佑芽さんはそうではありません」

    まだお姉ちゃんには勝てない、そんなのいつものことだ。

    「だからこそまずは一つずつ、確実に勝てるものを増やしていきます。そこで佑芽さんの身体能力に直結するダンスをまず伸ばしていきます」

    「佑芽さん、甲子園は見たことありますか?」

    「実家でお父さんがよく見ていたのを一緒に見てました!!」

    「甲子園は全国の高校球児の頂点を決める大会です。ですがそのほとんどはプロになれるほどの実力を持っていません」

    「それでもその姿に多くの人たちは魅了され、毎年大きな注目が集まる一大イベントになっています。プロ野球の方が実力もエンタメとしても上なのに、なぜだか分かりますか?」

    「うーーん・・・頑張っている姿に感動するからですか?」

    「そうです、人というのは実力や結果以上に、その直向きな姿に魅力されるんです」

    「そこに至るまでの努力、それまで費やしてきた時間、その全てが一度しかないその一試合の中に詰まっているからこそ、多くの人は感動するんです」

  • 52二次元好きの匿名さん25/09/29(月) 22:02:00

    言っていることは分かる。
    だけどその言葉の真意がいまいち分からない。
    必死に考えて難しい顔をしているとプロデューサーさんがフォローしてくれた。

    「今はわからなくても構いません、ただ自分がアイドルとしてステージで見せたいものは何か。それだけは考えておいてください」

    ということで、と仕切り直すとプロデューサーさんがホワイトボードをひっくり返す。
    そこにはデカデカと大きな文字が書かれていた。

    「まずはみなさんに佑芽さんがどんなアイドルかを知ってもらいます。そのために恵まれた身体能力と有り余る体力を駆使して、注目を一気に集めます」

    「最初の中間試験ではまだ体のできてない生徒がほとんどです。そこでステージの後半、全員がばててきたところでダンスの出力を維持できればかなり注目されるでしょう」

    「なるほど!!それがこのかなり物騒な名前の作戦なんですね!!」

  • 53二次元好きの匿名さん25/09/29(月) 22:03:55

    ステージから降りる。

    正直頭が真っ白でいつ始まっていつ終わったのか理解ができていない。

    それでも私の横を他の子達が通っていくのを見ると、試験が終わったんだと実感する。

    そうだった、そもそもこれは試験だったんだ。

    だったら控室に戻ってプロデューサーさんに結果を聞かなきゃ。

    ふわふわした足取りで廊下を歩く。

    なんでだろう、まだ結果も聞いてないのにすごく気分がいい。

    今までに感じたことのない感情に、自然と歩幅が大きくなった。

  • 54二次元好きの匿名さん25/09/29(月) 22:06:28

    とりあえず一つ目のゴールは達成した。
    その安心感に思いっきり椅子の背もたれに体を預けた。
    佑芽さんとのミーティングを終えて一人教室で大きく息を吐いた。
    結果は一位、不可能ではないと思っていたがまさか本当に一位を取るとは思わなかった。
    それは佑芽さんも同じだったのか、今までにない喜びようだった。
    それでも咲季さんに報告しないところを見ると、まだ勝ったとは思えないんだろう。
    首尾はいたって順調、というよりは予想を遥かに超えてきていて正直恐怖すら覚えている。

    「まあ、こればっかりはあっちを信じるしかないよなぁ・・・」

  • 55二次元好きの匿名さん25/09/29(月) 22:07:29

    パソコンを開き、今日のステージを見返す。
    作戦通り、他の生徒が後半でバテ始めた中でも一人動きのキレが維持できていた。
    それでも一緒に試験を受けていた3年生達はどうして離せない、だからこそ今日の目標は3位で試験合格。そこまでやれれば御の字だった。

    「でもそうじゃなかったんだよなぁ・・・」

    ラストスパート、流石に3年生たちも限界が近づいてきていたその時。
    彼女だけは一人、動きのキレが増していた。
    それにキレだけじゃない、今まで失敗していたステップも、挑戦だけして組み込む予定のなかったターンも荒削りではあったがこの土壇場で成功させた。

  • 56二次元好きの匿名さん25/09/29(月) 22:08:48

    そして何より、あの彼女の表情。
    全てが未完成のはずなのに堂々としたその振る舞いに誰もが、私でさえも魅了された。
    映像を見終わり、もう一度天井を見上げながら大きく息を吐く。
    今まで溜め込んでいたものが気の緩みからか、思わず一気に口から漏れた。

    「こんなバケモノだったのかよ、俺たちの相手は」

  • 57二次元好きの匿名さん25/09/29(月) 22:09:48

    とりあえず書いた分は投下しました。
    また明日、残っていれば投下していければと思います。

  • 58二次元好きの匿名さん25/09/30(火) 07:53:29

    今日も夜ぐらいにダラダラと投下していければと

  • 59二次元好きの匿名さん25/09/30(火) 16:52:01

    ほしゅ

  • 60二次元好きの匿名さん25/09/30(火) 21:57:06

    保守ありがとうございます
    絶対に落ちてるだろうなと思っていたので嬉しいです・・・。
    これから書いてぼちぼち投下していきます。
    今日はおそらく文量少なめです

  • 61二次元好きの匿名さん25/09/30(火) 23:44:12

    講堂を真っ赤に埋め尽くすペンライトの光の波。
    その中心を二つに分けるように長く伸びる橋の上を歩き、メインステージに戻る。
    振り返ると同時に私に向けられらた歓声が、真夏の夕立のように絶え間なく降り注ぎ、新たな一番星の誕生を祝福した。
    抑えられぬ興奮と一つの目標を達成した安堵がごちゃ混ぜになった不思議な感覚にしばらくこの身を預ける。
    このままこの波に全てを委ねてしまいたい、そんな時に耳につけたインカムからステージ終了のサインが送られた。
    名残惜しくも一礼をしてステージ横に捌けていく。

  • 62二次元好きの匿名さん25/09/30(火) 23:45:15

    「そうよ、ここで満足するわけにはいかないわ」

    ステージを降り、元いた控室に歩みを進める。
    それでも今は、この気持ちをあなたに伝えたい。
    一番近くで見ていてくれた大切なあなたに。
    控室の前に着き、あなたの待つ部屋の扉を少しだけ緊張しながらゆっくりと開いた。

  • 63二次元好きの匿名さん25/09/30(火) 23:46:50

    「はっ!!・・・夢・・・?」

    暗闇の中で一人、肩で息をしながら周りを見渡す。
    ここは私の部屋で、どうやら寝付きの良い私にしては珍しいことに夢を見ていたらしい。
    頭上に置いた充電中のスマホを見ると、時刻は深夜の3時を回った頃。
    今日は初めての中間試験が終わったこともあり、一日完全オフにする予定だった。
    それなのにいつもより早い時間に起きるなんて。

    「・・・このままじゃすぐにまた寝るのは無理そうね」

    寝巻きに使っているパーカーが汗でぐっしょりと濡れていてた。
    この季節にしてはまだ早すぎると思わなくもない。

  • 64二次元好きの匿名さん25/09/30(火) 23:48:33

    「それもこれも全部、あの夢のせいよ!!」

    誰に怒るわけでもなく、宙に向かって恨み言を吐く。

    たまに夢を見ることがある。
    それがまた嫌なことにほとんどが悪夢で、見るタイミングも決まっている。
    佑芽との勝負に負けそうになった日の夜。
    今まで私は佑芽といろんな競技で競い合ってきた。
    最初は私が圧勝するんだけど、そのうちあの子が追いついてきて、そしていつかは絶対に「その日」が来る。
    その度に私は逃げて、避けて、そして毎回悪夢を見る。
    だけど「その日」が来るまでは、私は佑芽にとって世界で一番のお姉ちゃんでいられる。
    それまでは私はあの子のお姉ちゃんでい続けられる、はずだ。
    なのに、

    「今度はこんなに早いなんて」

  • 65二次元好きの匿名さん25/09/30(火) 23:49:36

    今までのあの子から考えたら異常なスピード。
    結果だけ見れば、今回も私の圧勝だった。
    だけど遠目から見たあの子のダンス、あれは間違いなく。

    「・・・いいえ、まだよ。まだ負けてないわ」

    そう思うと寝てなんかいられない。
    眠気なんてものは最初からなかったが、私を追い詰めてくる焦燥感が嫌でも脚を動かそうとしてくる。

  • 66二次元好きの匿名さん25/09/30(火) 23:51:08

    「それに、あんなもの見た後で寝られるわけなんてないじゃない」

    汗に濡れたパーカーを脱ぎ捨てレッスン着に着替える。
    部屋に置いた小さな冷蔵庫を開いて、中からゼリー飲料を取り出して口に入れた。
    胸の中でつかえていたものと一緒に胃のなかに落とすと、髪をいつもよりも少しだけラフに上でまとめながら寮の玄関に向かう。

    それにしてもなんで
    あそこにあいつがいたのよ

  • 67二次元好きの匿名さん25/10/01(水) 07:44:28

    「映画面白かったね!!」

    「はい、そのせいで先ほどから私、涙が止まりませんわ〜!!」

    中間試験が終わって迎えた土曜日、プロデューサーさんから1日お休みをもらった私は千奈ちゃんと映画を見にきていた。

    『お友達らしいことがしてみたいですわ!!』

    千奈ちゃんの一言で友達らしいことをすると決まった私たちは、とりあえず映画を見に行く事に。
    本当は広ちゃんもいるはずだったけど

  • 68二次元好きの匿名さん25/10/01(水) 07:48:36

    「週末の朝は、充電が間に合わない、ね」

    と言いながら寮の玄関で力尽きた。
    そのまま寮長の麻央先輩におぶられて部屋に戻って行った。

    「広ちゃんも一緒に見たかったなー」

    「そうでわね、こんなに素晴らしいものを篠澤さんは見られないなんて。特にラストは感動必至で・・・私、いまだに涙が・・・」

    「そんなに泣いちゃう!?」

    「だって好きな殿方のためにあんなに頑張ったのに、男性側は全て忘れてしまっているなんて・・・あんまりですわーーー!!」

  • 69二次元好きの匿名さん25/10/01(水) 07:50:04

    内容としては、とある女子高生が未来で悲運な死を遂げる同級生の男の子を助けるっていう少し凝ったラブコメだった。
    最後は命を救って未来を変えた代償に、ヒロインのことだけ忘れてしまうんだけど、ちょっとだけ納得いかない。

    「でも最後だけちょっと納得いかないなー」

    「なんでですの!!とっても感動的ではなかったですか!!」

    「だって好きになった人で、しかも命の恩人のことを忘れちゃうんだよ?」

  • 70二次元好きの匿名さん25/10/01(水) 07:52:29

    「それは未来を変えてしまった代償で、その代償を払ってでも助けたいという健気な気持ちがいいんじゃないすの!!」

    「命も救って、そのまま覚えておけばいいだけじゃん!!」

    「できないから言っているのですわ!!・・・いえ、花海さんならどうにかできてしまいそうなのが恐ろしいですわ・・・」

    妙な納得の仕方をしたせいか、千奈ちゃんの涙はいつの間にか止まっていた。
    でもそうじゃない?
    大切な人のことなんてそうそう忘れるはずないじゃん!!
    私だったら、絶対にお姉ちゃんのことだったら忘れないもんね!!

  • 71二次元好きの匿名さん25/10/01(水) 07:54:09

    「全く・・・花海さんのせいで、感動の涙も引っ込んでしまいましたわ」

    「それじゃあ次はバッティングセンターに行こうよ!!」

    「バッティングセンター!?それは一体なんですの!?」

    既に興味が映画から未知のバッティングセンターに移ったのか、千奈ちゃんの目は映画館に行く前みたいにキラキラしていた。

    「よし!!それじゃあ今日はいっぱい打つぞーーーー!!」

  • 72二次元好きの匿名さん25/10/01(水) 07:55:43

    また残っていれば夜あたりにポツポツ投下できればと

  • 73二次元好きの匿名さん25/10/01(水) 15:17:04

    サスペンスみがあって楽しみ

  • 74二次元好きの匿名さん25/10/01(水) 22:07:52

    まだ残っているとは・・・
    一人でも楽しんでいただけているようで何よりです
    今日はちょっとだけ更新できればと

  • 75二次元好きの匿名さん25/10/02(木) 00:22:38

    寒さで悴む手を擦り、少しだけ感覚の鈍くなった指先でポケットの中の鍵を探す。
    一度取り損ねた後、今度は指の腹までしっかり使って鍵を掴んだ。
    ポケットから手を出すと、また手が凍ってしまいそうで急いで鍵を開ける。
    玄関には小さめのサイズとは反比例して底が厚めの靴が綺麗に並べられていた。
    履いていた革靴を脱ごうと膝を折って少し屈む。
    綺麗に並んだ靴に少しだけ埃が被っていることにその時気づいた。

  • 76二次元好きの匿名さん25/10/02(木) 00:24:12

    その埃が恨めしく手で軽くはらった後、目の前の真っ暗な廊下を進む。
    室内にまで侵入した冷たい空気が、この冬の厳しさを一層感じさせた。
    リビングに繋がるドアを開ける。
    そこだけ時が止まったように冷気が満ちる暗い部屋の中で一人、彼女はローソファーに背を丸めながら体育座りのように座ってテレビを見ていた。

  • 77二次元好きの匿名さん25/10/02(木) 00:25:12

    「風邪ひきますよ」

    そう言いながら自分が先ほどまで着ていたコートを彼女の肩にかけ、机の上に置いてあったエアコンと照明のリモコンを手に取る。
    ピッと言う電子音と共に両方の電源が入る。
    私が来たことに気づいていない訳もないのに、彼女は全く反応しない。
    壁にかけてある時計を見ると時刻はそろそろ日を跨ごうかと言うところ。

  • 78二次元好きの匿名さん25/10/02(木) 00:26:16

    「今日はちゃんと食べましたか?」

    そう言いながらダイニングキッチンにある冷蔵庫を開く。
    そこには二日前に作り置きしていた数日分のおかずがそのままの状態で入っていた。
    よく見るとキッチンには洗い物一つなく、栄養補給目的のパックのゼリー飲料のゴミがいくつかゴミ箱に捨てられているだけだった。

    「ちゃんと固形物も食べないと、顔の筋肉が衰えますよ」

    「・・・ごめんなさい」

  • 79二次元好きの匿名さん25/10/02(木) 00:28:05

    彼女は小さく呟きながら肩にかけられたコートをギュッと掴んだ。
    まるで小さな子供が大人に怒られているかのように。

    「別に謝らなくていいですよ。それよりもうこんな時間です、明日に備えて早く寝ましょう」

    そう彼女に優しく声をかけると、コクっと小さく頷いて肩にかかったコートを掴んだまま寝室に向かった。
    帰る時に必要だったが、それで彼女が安心するならしょうがない。
    申し訳ないが、今日はリビングのソファーを借りてここで寝よう。
    脱いだスーツのジャケットをソファの背もたれにかけ、そのまま腰をかけてついたままのテレビを見てみる。

  • 80二次元好きの匿名さん25/10/02(木) 00:29:17

    『みんなーーーー!!まだまだ声出せるかーーーーーー!?』

    握ったマイクに力を込めながら大勢の観客に向かって叫ぶ一人の女の子。
    場外に設置された大きなステージの周りを囲む柵の中いっぱいに入った観客たちは、ステージに立つ彼女一人に大きな声で答えていた。
    どうやら今年の夏にあった大型野外フェスのライブ映像らしい。
    不甲斐なさからなのか憤りからなのか拳に力が入る。

    なんであそこに立たせてやれなかった

    肌に食い込む爪の痛みも忘れて、掠れた声が喉の奥で消えていった。

  • 81二次元好きの匿名さん25/10/02(木) 08:16:06

    最近何かがおかしい。
    先日行われたH.I.Fに向けた選抜試験。
    その第一選抜の結果、グループトップの成績で合格。
    それも他の参加者たちに圧倒的な差をつけての勝利。
    前回の中間試験からさらにダンスに磨きをかけ、常に高いパフォーマンスを維持できるようになり、プロデューサーさんの言っていた通り、私の身体能力を活かしたダンスは他に真似できない武器になった。
    そして次のステップに進むために、今はビジュアルレッスンについての話をしているんだけど。

  • 82二次元好きの匿名さん25/10/02(木) 08:17:10

    「これでどうだああああああああああ!!!!」

    「全然ダメです、それはウィンクではなくて両目を瞑っただけです」

    プロデューサーからいきなり言われてウィンクをさせられている。
    言われて挑戦してみたけど、これが意外と難しい。

    「くそーーー!!こんな難しいことすぐにはできないですよ!!」

    「咲季さんはこれをパフォーマンス中に自然と入れていますよ」

    そう言いながらノートパソコンをつけて、セレクションの時のお姉ちゃんのライブ映像を再生する。

  • 83二次元好きの匿名さん25/10/02(木) 08:20:16

    キレのあるダンスに遠くまで響く声、そしてターンと同時に流し目からのウィンクを決めて審査員にアピールをしていた。

    「うぐぐぐぐ・・・悔しいいいいい!!」

    「見てもらった通り、ダンスだけで言えば今の佑芽さんは咲季さんと互角に戦えています」

    「しかしアイドルのステージは総合力、ダンスだけでは咲季さんのようなアイドルには勝てません。なのでダンスという軸が固まった今、そのダンスをさらに魅力的に見せるためにビジュアルレッスンに力を入れます」

  • 84二次元好きの匿名さん25/10/02(木) 08:21:37

    「なるほど・・・だからその第一歩として私にウィンクをさせたんですね!?」

    「いえ、それはちょっとした興味本意です」

    なんですかそれは!!
    それじゃあただ私が恥ずかしいだけじゃないですか!!

    「だったらプロデューサーさんもやってみて下さいよ!!私だけ恥ずかしい思いをするなんて不公平です!!」

    どうですかプロデューサーさん!!
    このまま私にだけ恥ずかしい思いはさせませんよ!!

    「はい、いいですよ」

    「え」

  • 85二次元好きの匿名さん25/10/02(木) 08:22:52

    そう言いながらメガネをしっかり掛け直すと、私に向かって片目でウィンクをするプロデューサーさん。

    「・・・」

    そう、最近何かがおかしい。
    今まではこんなことがあってもプロデューサーさんかっこいい!!ぐらいにしか思わなかったし、それを素直に口に出せていた。
    なのに今は

    『なんで私、こんなにドキドキしてるんだろ・・・』

    思いっきり笑ってやろうと思ったのに、顔が熱くてプロデューサーさんの顔が見れない。
    今までずっと二人でいたこの教室も、最近はなんだかそわそわして落ち着かない。
    私、どうしちゃったんだろ。

  • 86二次元好きの匿名さん25/10/02(木) 08:26:45

    「このように私でもできるのでいつかは佑芽さんにも・・・聞いてますか?」

    「え!?あ、はい!!」

    突然声をかけられて思わず声が裏返ってしまった。

    「ボイスレッスンはまた今度やりますので、今はビジュアルレッスンのことに集中して下さい」

    「はい、わかりました・・・」

    「では具体的なレッスン内容の話に入りますが・・・」

  • 87二次元好きの匿名さん25/10/02(木) 08:28:19

    そこまで口にして、プロデューサーの言葉が詰まる。
    ど忘れしたという訳でもなさそうで、どちらかと言うと次にだす言葉を選んでいるようだった。
    そして一度目を閉じて数秒間の沈黙の後、真剣な表情で私に聞いた。

    「一つ聞かせて下さい。佑芽さん、あなたはーー」

    そこまで言うと、またプロデューサーの言葉が詰まった。
    どうしたんだろう、また何を言おうか考えているんだろうか。
    そう思った次の瞬間。

    バタン

    電池が切れたおもちゃのように、プロデューサーさんはその場で意識を失った。

  • 88二次元好きの匿名さん25/10/02(木) 08:31:51

    また夜まで残っていればぼちぼち投下します

  • 89二次元好きの匿名さん25/10/02(木) 10:06:30

    続きが楽しみ

  • 90二次元好きの匿名さん25/10/02(木) 18:00:26

    スレ主、咲季佑芽の親愛度と初星コミュどこまで読んだかよかったら教えてくれないか

  • 91二次元好きの匿名さん25/10/02(木) 21:10:21

    >>90

    佑芽の親愛度は9まであげています。

    ロジックでA+が難しいです・・・。

    一応咲季は10まであげているのでTrueは見てます

    初星コミュは一章を全部見て、2章にまだ手をつけてないです


    知り合いとかSNSからミーム的なものとかネタバレにならない程度の知識は知ってる感じです

    大出勤させられることねとかブルアカコーナーを教えてくれる咲季とかです

  • 92二次元好きの匿名さん25/10/02(木) 21:11:22

    続きを書いたらポツポツ落とします

  • 93二次元好きの匿名さん25/10/02(木) 23:31:19

    よく晴れた土曜日の朝、と言ってもそろそろお昼も近づいた午前11時。
    やることもなくダラダラ寝ていたけど、それだけだと逆に体が疲れる。
    体を動かすがてら遅めの朝食をと食堂に向かうと、そこには見知った顔が二つあった。

    「ことねっちとリーリヤじゃん、こんなとこで何してんのー?」

    時間帯的に人もまばらな食堂でパソコンを前に椅子を並べて座る二人。
    どっちも真剣にパソコンを見ていて、違うのはことねっちの手に握られたゲームのコントローラー。

  • 94二次元好きの匿名さん25/10/02(木) 23:33:00

    「あ、清香ちゃん。今日はゆっくりするんじゃなかったの?」

    「そのつもりだったけど、寝すぎるとなんか逆にそわそわしちゃって」

    手をわきわき動かしながらちょっとしたオーバーリアクションをとる。
    そんな会話をしてる間も、ことねっちは一心不乱にゲームをプレイしていた。

    「てか、これって何してんの?ずっと同じキャラに話しかけてるけど」

    「あ、これはね」

    リーリヤが私に説明してくれようとしたその時

  • 95二次元好きの匿名さん25/10/02(木) 23:34:20

    「おっしゃあああああ!!43回目の会話で表示が出なくなった!!これも記録記録ぅ!!」

    突如大きな声を出して喜ぶことねっち。
    その様子にあたしだけじゃなくて他の寮生たちも思わず反応する。
    普段はこれだけ注目を集めると恥ずかしそうに赤面するリーリヤが、今回は真逆の反応をしていた。

    「よかったねことねちゃん!!これで19個目の新しいバグだよ!!」

    嬉しそうに横に置いたルーズリーフに記録していくリーリヤ。
    その様子にあたしは一人取り残されたままだった。

  • 96二次元好きの匿名さん25/10/02(木) 23:35:32

    「あ、ごめんね清香ちゃん!!実は今、ことねちゃんのバイトを手伝ってて」

    「バイト?ゲームするのがバイトなん?」

    横のことねっちを見ると、よっしゃやるぞーー!!と言いながらまたコントローラーを持っていた。
    だけど普通に目の前の道を進むのではなく、その脇にいたモブキャラクターにずっと話しかけに行っている。

    「ことねっち、もしかしてバイトのしすぎで頭おかしくなったんじゃ・・・」

  • 97二次元好きの匿名さん25/10/02(木) 23:37:24

    「今やってるのは『デバッグ』って言って、ゲームの不具合を実際にプレイして見つけていく作業なんだよ」

    「へー、そんな仕事があるんだ」

    「今日の9時ぐらいから始めたんだけど、今はこれぐらい見つかってて」

    そう言ってあたしにさっきのルーズリーフを見せてくれるリーリヤ。

    「・・・なんで不具合の内容が全部モブ絡みなん?」

    「ことねちゃんが言うにはバグを見つけるたびに基本給に別途報酬が出るらしくて、『メインのところはどうせ丁寧に作ってるだろうから、こーゆー誰も気にしないところの方が美味いんだよ』って」

    「それであんなよく分かんない動きしてたんだ・・・」

  • 98二次元好きの匿名さん25/10/02(木) 23:39:10

    「今じゃちょっとした不具合は修正パッチをネットで配布できるからあんまりないんだけど、昔のゲームは売り切りのものがほとんどだから意味不明なバグがそのままになって取り返しがつかないんだよね」

    言ってる内容に反して、リーリヤの目がキラキラしている。
    かわいいなぁと思いつつ、話が長くなる前に違う話題をふる。

    「んで、この見つけたバグってこの後こっちで直したりするん?」

    「それは流石に私たちじゃ出来ないから、報告だけして私たちの仕事は終わり」

    「直すのってそんなにむずいの?」

    「うーん、勉強してる人ならできるかもだけど、専門的なことだから素人の私たちじゃ難しいかな・・・。コードの書き換えってそこだけ直せばいいって訳じゃないこともあるから」

    「それじゃもし、いくら直しても直んなかったらお手上げじゃん」

    「その時はよっぽどメインストーリーに関わってない限りはキャラごと消すしかないかも。特にモブキャラはメインを達成するための賑やかしだから」

    せっかく作ったものを消しちゃうなんて、少し勿体無い気もする。

  • 99二次元好きの匿名さん25/10/02(木) 23:43:29

    「だああああ疲れたああああああ!!リーリヤちゃん交代よろぉ・・・」

    「うん、任せて」

    そう言いながらことねっちから受け取ったコントローラーを両手、では持たずに机に置くリーリヤ。

    「左手は添えるだけ・・・」

    そう言って左手を添え、右手の親指と先を合わせた中指をボタンの上に置く。
    何やってるんだろと思った瞬間、リーリヤの指がありえない速さでボタンを連打していた。

  • 100二次元好きの匿名さん25/10/02(木) 23:44:36

    「は!?ちょっ・・・え!?リーリヤちゃんの指どうなってんの!?」

    「やだなことねちゃん、高◯名人さんと比べたらこんなのまだまだだよ」

    涼しい顔でなぜか申し訳なさそうに苦笑いするリーリヤに困惑することねっち。
    そりゃ何も知らずにあれ見せられると若干引くよなーと思いながら、もう一度パソコンに目をやって高速で永遠に話しかけられるモブを見る。
    この人たちは想定通りに動かないと消されちゃうのか。
    なんかかわいそーと思ってもないことを口に出しながらあることに気づく。

  • 101二次元好きの匿名さん25/10/02(木) 23:46:08

    「ね、ことねっち。今やってんのって、その『デバッグ』ってやつなんだよね?」

    「おー清香じゃん、そうだけど。外に出るバイトはプロデューサーにバレやすいからなー」

    「じゃあそれってつまりまだ発売されてないやつなんだよね?」

    ビクッとことねっちの肩が動く。
    横から高速で聞こえてくるカチカチという音だけが響く静寂の後、ことねっちはゆっくりと口を開いた。

    「・・・あの〜清香さんや?その〜・・・美味しいパフェは食べたくないかね?」

    「マジで!?サンキュー、ことねっち!!」

    「やったぁ!!20個目のバグだよことねちゃん!!」

  • 102二次元好きの匿名さん25/10/03(金) 08:29:54

    保守

スレッドは10/3 18:29頃に落ちます

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