【SS】真っ赤だ……

  • 1二次元好きの匿名さん25/09/30(火) 22:22:33

    目の前に広がる料理に抱いた最初の感想はそれだった。
    ああ、頼むスティル…見守っていてくれ……
    そして絶対に許さんぞ…後輩……



    「んあ?味覚は熱狂身体もホット…トレーナー対抗早食いダービー?」
    何か明らかにロクなものではないイベントのチラシを見せられた。ファン感謝祭のイベントの内の一つだそうだ。
    「はい!せっかくのファン感謝祭!それに新人なんで!出れるものは出ようかと!」
    「まぁ理屈は分かるけど、これまたトンチキな……」
    この学園は急にアクセルを踏む節があるし、それについていくトレーナーたちもそういう所がある。この後輩も若干その空気にあてられているのだろう。 
    「まぁ…頑張りなよ」
    本人にやる気があるならそれで良いか。
    そんな感じの認識で、その時は特に深く考えていなかったのだった。

  • 2二次元好きの匿名さん25/09/30(火) 22:23:44

    「は?食あたり??」
    ファン感謝祭前日。突然の後輩からの連絡。
    どうやら、優勝の前祝いで外食したら運悪くあたったらしい。
    ああ哀れなり後輩。行動力だけはあるものだから…。
    「…で、先輩に代役、お願いしたくて……」
    「は?」
    「せっかくのイベントに穴開けるのも申し訳なくて……お願いします……たづなさんも「そういう形なら受理できますよ」って………」
    「は??は???」
    飛び火、というよりもはや火球がこっちにストレートで飛んでくるレベルの事故だろう。
    しかもたづなさんに話通すとか何してくれてるの?理事長ならまだ周りの誰かがストップかけてくれる可能性あったよ?たづなさんはもう無理だよ??
    「……ぐ………分かったよ、やれば良いんだよな!!?」
    「ありがとうございます……」
    もうこうなっては断るわけにはいかない。
    というか最早逃れられない。
    腹をくくるしかない、という奴だろう…。
    「ちなみに勝ったら遊園地のペアチケットらしいですよ」
    「それを早く言え!!!」

  • 3二次元好きの匿名さん25/09/30(火) 22:24:45

    そして、運命の日──
    「わあ」
    ほぼ放心に近い感情だろう。
    すごい人がいる。なんかもうすごく人がいる。
    記者会見とかいうレベルじゃない。有名人が来日した時のアレレベルだろう。何でだよ何で好き好んでトレーナーたちの早食いを見に来るんだ、人が多すぎるだろう明らかに。
    「トレーナーさん…緊張されてますか?」
    「あはは…まぁ多少はね……」
    ……まぁこんな状況の中だが、大きな救いとしてはスティルという心の安寧がそばに居てくれることだろうか。
    あとペアチケットという物欲の執念が感覚を麻痺させてくれている。
    「スティル、不安だろうけど手出ししちゃダメだからね」
    「は、はい。あまり無理はなさらないようにお願いしますね……?」
    テーブルを前にして座る。
    そしてそろそろ運ばれてる来る料理たちを目にした瞬間

    「あっか」

    そう声が漏れた。
    真っ赤だ……目の前に広がる料理に抱いた最初の感想はそれだった。
    もはや赤というより深紅。何を入れたらそうなるのか分からない。本来紅になるはずがない物まで紅いのだが?嘘だろう?優勝景品があるだけマシとはいえマジで何してくれてるの後輩。
    ああ、頼むスティル…どうか俺が無様を晒さないように見守っていてくれ……
    そして誰かを呪えるなら即座に後輩を呪う。
    手に持った食器が小刻みに震えているような気がするが、気のせいだと思いたい。震えるな俺の手。俺だって泣きたい。

  • 4二次元好きの匿名さん25/09/30(火) 22:25:57

    「ト、トレーナーさんなら出来るはずです……!頑張ってください、他のお方をも惚れ惚れさせる程の勇姿を是非…!まぁ、既に恋人という席には私が座っていますが……!」
    スティル?多分これで惚れる人は居ないと思うよ?ちょっとハイになってないかな?
    ………だけど。
    「ありがとうスティル。」
    その励ましが恐怖の震えを和らげる。
    さっさと終わらせる。これがどれだけ死を彷彿させる困難な戦いなのか分かっている。
    スティルにここで情けない姿を見せれば男としての矜持は終わりだ、だから……
    「スティル…俺がこれらを食べきった暁には……田舎に帰って、結婚しないか」
    「え?は、はい……!私、嬉しい、嬉しいです……!たとえコレによって貴方が向こう側に行ってしまっても、私はすぐ追いかけますから……!私の指輪のサイズ、8号ですからね……!」
    何かとてつもなく縁起でもないことを言われた気がするが、さっさと腹を括る。
    何かもうさっきからお互い正気ではない気がするんだ、この場を早く終わらせて平穏に戻りたい。
    「ふー……よし、行こ」

  • 5二次元好きの匿名さん25/09/30(火) 22:27:17

    死亡フラグじゃねーか!

  • 6二次元好きの匿名さん25/09/30(火) 22:27:42

    「コ゜ッ」
    今1口食べた横のトレーナーがぶっ倒れなかったか??
    「トレーナーさん、こんなの…もはや食事ではないのでは……?」
    …いや、気にするな!
    今の自分に必要なのはスティルの目の前でやりとげる矜持、スティルの愛に応える決意、そして痛みを忘れる覚悟……いただきます!!
    「グフッ……!!?」
    なんだ?蹴られたのか?今頭か首を蹴られなかったか?
    「トレーナーさん!?今たった1口で身体がフラつきましたが…!!?や、やっぱり心配です!無事には見えません…!!」
    大丈、夫。今の、一撃の衝撃が、大分…効いた、だけだ。慣れれば、問題な、い。
    …この瞬間だけで全身から汗が噴き出ているが、この手を止めるのは一番ナシだ。
    そう、これは早食いなのである。いちいち止まってられっ!なっ!!い゛っ!!!!
    とは言うものの口に入れる度に瞬間ウマ娘の回し蹴りを首か頭に食らったような感覚が走る。
    食事の暴力によって思考のぼける頭がどうにか突破出来ないか脳内を検索するが当然見つかるわけもない。
    つまり、"俺はこうして食べている間確実に勝利へと向かっている"という淡い希望と気合と根性だけが物を言う。
    そこに思考などというものはない。
    ああ、これが終わったら、スティルの作ったお菓子を真っ先に食べたいな……。

  • 7二次元好きの匿名さん25/09/30(火) 22:29:28

    そんなことを真っ白な思考の景色の中で考えていると、紅一点が映る。スティルか…?また俺たち花畑送りにされたのか、困ったなぁあの場所割と遠いのに「トレーナーさん!お気を確かに!今度は花畑では済みません…!戻って……!!」
    ────はっ!!?!?
    今何分経ってる!?
    危なかった、今頭からこれからの事が全部真っ白になって消え失せていた。
    とりあえず、今の状況を……!
    「…あれ……?」
    気付けば自分のテーブルには深紅のデス料理は消えており、目の前にあと1口といった感じの……真っ赤なおにぎりがあった。
    「トレーナーさん…もう終わりにしましょう…私たちの勝ちですから……」
    その手に持ってる真っ赤なスープは後追い用じゃないだろうなと思いつつも、トドメを刺す気持ちで頬張る。俺以外のトレーナーは机に突っ伏しているか地面に倒れているし、俺自身も最早回し蹴りされる味覚すらない。
    終わった、これで。
    やりきったんだ。

    ホント───

    おにぎりにラー油とのりたま感覚で鷹の爪詰め込みまくった奴許さないからな────

  • 8二次元好きの匿名さん25/09/30(火) 22:31:36

    「トレーナーさんは無茶をし過ぎです…!心配したんですからね!!」
    「あはは、ごめん。もう二度と出ないよ。うん、二度と」
    完食したその後、無事に優勝した景品としてペアチケットを貰い、今日こうして遊びに来ている。
    「トレーナーさんだけが苦しんでいて、私は嫌でした。せめてその痛みを分けあえたら良かったのに」
    「まぁルールを侵すわけにはいかないさ。ごめんねスティル」
    スティルには悪いことをしたと思う。愛してるとまで言ったその相手が拷問の如き行いに突っ込んでいったのだから、心中穏やかではなかっただろう。
    何はともあれ、こうしてスティルと二人の時間を過ごせているのならそれに越したことはない。我ながら半強制とはいえとんでもない事に巻き込まれたものだ。
    「それで……トレーナーさん……」
    「ん?」
    「田舎に帰って結婚する約束…いつにしましょう?」
    …………。

    「大人になるまで出来ないよ?」
    「でしょうね。ではトレーナーさんのお宅に常におります、家事全般の覚えはありますのでご安心を」
    「トレセンの人に怒られるって!」
    「私たち2人であの花畑に失踪したことだってあったのに今更何を言うんですか!」
    「アレを当然みたいな顔してたら駄目なんだよ!?」
    「……では指輪を。指輪ぐらいは見繕ってください。」
    「それぐらいだったら大丈夫かな…」
    「約束ですよ?貴方が私に指輪を渡すその時になったら、改めて将来の誓いを…お願いしますね」
    「…ああ、勿論」
    この世の地獄じみたイベントだったが、結果的には思い出に残る1ページになれたから良しとするべきだろう。
    本当に無事に終われて良かった。本当に。
    「それで、その。後輩さんの方はどうなりましたか…?」
    「え、あぁ」

    「己の無謀さを思い知って貰うためにスティルの持ってた後追いスープを"味わって"もらってるよ」
    「……まぁ」

    Fin.

  • 9二次元好きの匿名さん25/09/30(火) 22:32:59

    終わりです
    シナリオ後にスティトレとスティルが割とアホやってるのが見たかったんです!
    そうしたらめちゃくちゃ長くなっちゃった!!

  • 10二次元好きの匿名さん25/09/30(火) 22:33:00


    あのスープ結局後追いなんかい、Sだなスティル

  • 11二次元好きの匿名さん25/09/30(火) 22:48:43

    トレーナーがぶっ倒れた時用に自決のスープ用意するの相変わらずですねこの2人は……

  • 12二次元好きの匿名さん25/09/30(火) 22:50:49

    >>10

    ゴメン後追いの意味履き違えてた

    激辛おにぎりを食い終わった後に笑顔で激辛スープを差し出すスティルを想像してしまってたわ

  • 13二次元好きの匿名さん25/09/30(火) 22:54:51

    絵面がトンチキなのにさらっと激重感情見せてくるじゃん
    指輪を作るのは確定したし後はその時を待つだけだな、そのまま幸せになれ

    後輩君は了承なしに先輩を地獄へ放り込んだぶん苦しんでもろて…

  • 14二次元好きの匿名さん25/09/30(火) 22:59:49

    何気に本編後+花畑から帰還してるのかスティル&スティルトレ

  • 15二次元好きの匿名さん25/09/30(火) 23:17:46

    >>13

    なんならスープだけで済ませてる分大分温情ある

  • 16二次元好きの匿名さん25/09/30(火) 23:24:46

    “花畑送り“って14送りみたいな言い方しやがるw

  • 17二次元好きの匿名さん25/09/30(火) 23:40:31

    >>15

    確かに温情なのかもしれないけど、やっぱり「後追い」できるほどの地獄を食わせてるのだとしたら「人の形を失っている」かもしれない()

  • 18二次元好きの匿名さん25/10/01(水) 00:05:04

    これスティルが厨房の人に「仮にあの人が倒れた時後を追うためのスープを下さい」って伝えてたら笑うよね

  • 19二次元好きの匿名さん25/10/01(水) 06:43:38

    おいたわしや後輩…

    いやお労しくないな、反省しろ

  • 20二次元好きの匿名さん25/10/01(水) 09:51:03

    本編の2人をハチャウマのテンションにぶちこんだようなノリ、嫌いじゃないわ!

  • 21二次元好きの匿名さん25/10/01(水) 18:12:18

    >>14

    ギャグ時空に入ってる間は無敵だからな

  • 22二次元好きの匿名さん25/10/01(水) 18:44:17

    吹き飛んでしまったトレーナーに身を預けながら火よりも紅い毒杯を呷るスティルはそれはそれでお耽美で絵になるから嫌だ
    作劇しろオペラオー

  • 23二次元好きの匿名さん25/10/01(水) 19:14:49

    トレスティとても良かった
    トレーナー達がぶっ倒れる姿を見るためだけにたくさんの人が集まるのか…

  • 24二次元好きの匿名さん25/10/01(水) 20:28:20

    もしかして作者さんはスティルがパッド入れてたせいで大騒ぎになっちゃう話書いた人かな?

     

    >>22

    スティルの勝負服姿ってお姫様っぽくもあるし(個人の印象)、物語性がすごくすごいことになりそうだよね

  • 25二次元好きの匿名さん25/10/01(水) 21:38:35

    >>24

    残念ながらあのSSの方ではないですね

    ……が、大分影響を受けているとは思います

    台詞が妙に小気味良いんですよね!あのSS

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