【SS】スイート・リアクション

  • 1◆3qRoe1Ijy225/10/01(水) 11:08:24

    昨夜途中でホスト規制入ったので建て直しました。



    それは日曜の昼下がり……と言っても持ち帰った仕事を片付けていたので特に休日らしいことをしていたわけでも無かったのだが、彼女が突然押しかけて来た。
    「やあ。どうしたスティル、何かあったか?」
    「あっ、こんにちはトレーナーさん……その、ええと……」
    なんだか秘密でも打ち明ける風に口元をもごもごさせながら彼女は言う。
    「私に……お菓子作りを教えてほしいんです」

  • 2◆3qRoe1Ijy225/10/01(水) 11:10:33

    「お菓子作り……俺が君に教えられることなんてあるかな?」
    「この前のカップケーキがとても美味しかったので、是非トレーナーさんに作り方を教えていただきたいと思いまして」
    確かにこの前、手作りのカップケーキを作って持って行った事があったが、別に大したものではない。素人がネットのレシピを見ていくつか作っただけで、人に教えられるほどお菓子作りが上手いわけでも趣味なわけでも無いのだが……
    寧ろ、こういう分野は彼女のほうが得意そうに思える。この前も随分と工夫の凝った焼き菓子をこしらえていたし、歴だって彼女のほうがありそうだ。
    「作り方が知りたいんだったら、なんだったらレシピがあるからそれを」
    「い、いえ!直接その……お聞きしたいんです。出来れば手取り足取り……」
    「そ、そうなのか?でも本当に大したものじゃ」
    「ハ、ハロウィン!ハロウィンなので!トレーナーさんのカップケーキ……作ってみたいんです……」
    ハロウィン……考えてみれば肌を掠める外気は涼しげで、秋めいてきていたのだった。もうそんな季節だったか。しかしなんだかやり込められようとしている気もする……
    「その、ダメ……でしょうか。」
    だが、そんな目つきで言われては断るのも忍びない。

  • 3◆3qRoe1Ijy225/10/01(水) 11:12:13

    幸い、前回作った時に余った材料達が残っていたのでそれらを使って作る事にした。
    ⋯⋯と言っても、本当に単純な材料なのだが……まぁいいか。
    「それじゃあ、まずは卵とミルクから入れようか、確かそこの冷蔵庫に余りが⋯⋯」
    「なら、私が取って来ますね、少々お待ちを」
    そう言うと彼女はその小さな足取りでトテトテと歩んでいく。肩を揺らす度に、あの朱茶のベールが木の葉の様に揺れていて、何か小動物でも眺めている様な気分になる。
    「おいくつ御必要でしょうか、トレーナーさん?」
    「ん、ああ。2つも有れば充分だよ。」
    スティルは、言われた通り卵とミルクを抱えて持って来ると静かにそれらを置いた。
    まずは卵から割り溶いて⋯⋯とやり始めようと思ったのだが、やたらとスティルが近い。というよりもうべったりと言う様相だった。
    「ス、スティル。ちょっとこれだとやりにくいというか⋯⋯」
    「いえ。こ、こうして間近で見る事によってより正確に作り方が学べると思うんです。このまま⋯⋯お願いします」

  • 4◆3qRoe1Ijy225/10/01(水) 11:13:30

    「なるほど?じゃあこのまま行くけど⋯⋯」
    スティルの頭がちょうど胸の辺りで蠢いていてダージリンの様な甘く淑やかな香気が漂い、ぴょこぴょこと小刻みに動く耳は首元を稲穂で撫でる様に刺激してくる。
    ⋯⋯やはりやり辛いがとにかく卵を溶きほぐし、牛乳と混ぜていく。
    「そうしたら、ダマにならない様にここにホットケーキミックスを少しずつ入れていく」
    「⋯⋯」スリスリ
    「スティル?大丈夫?」
    「ふぇ、あ、申し訳御座いません!ちょっとあの子が出てしまっていたみたいで⋯⋯」
    「え、大丈夫!?」
    「いえ、もう落ち着いたので⋯⋯このまま続けてください」
    『『言イ訳ニワタシを利用スルノハ辞メテ頂戴。』』
    「う、うるさい⋯⋯!」
    スティルは頬に血を漲らせて何やらもごもごとしている。どうも単にお菓子作りがしたい訳では無いらしい。

  • 5◆3qRoe1Ijy225/10/01(水) 11:15:37

    「さ、トレーナーさん。このまま続けましょう!ホットケーキミックスを入れて⋯⋯」
    「あっ、ちょっと待ってダマにならない様少しずつ⋯⋯」
    静止も虚しく、袋の中のミックスは勢いそのままボールの中に全て吐き出された。辺りに粉が舞い、一帯を白く覆い隠す。それが降り積もって落ち着くと、スティルが目を潤わせて立ちすくんでいた。
    「スティル?」
    「⋯⋯ッ!ごめんなさい⋯⋯私から頼んでおいて、こんな⋯⋯」
    「いや!大丈夫だよ、それより服は汚れてない?タオル使って」
    今にもくしゃっ、と崩れてしまいそうな頬にそっとタオルを当ててやる。
    「問題ないって、よく混ぜてやれば大丈夫さきっと。だから落ち着こう」
    「ありがとう……ございます」

  • 6◆3qRoe1Ijy225/10/01(水) 11:16:56

    ひとまずスティルを落ち着かせてから、しっかりと生地を混ぜ合わせてやる。これでダマを作っては本当に彼女が泣いてしまいそうなので念入りにしてやったら意外とどうにかなった、森〇の企業努力の賜物だろうか?
    「ほら、滑らかになった。大丈夫でしょ?」
    「本当ですね、良かった……」
    「あと、別に理由なんてなくてもくっつきたかったら……くっついていいんだよ?いつでも」
    「え」
    「……バレていました?」
    「うん、大分」
    「は、はしたない……」
    ぷしゅぅと萎む様に彼女は顔を抱えて縮こまってしまった。やっぱり小動物だ。

  • 7◆3qRoe1Ijy225/10/01(水) 11:17:58

    型に生地を流し込み、トッピングをぱらぱらと乗せてやる。スティルはどうも吹っ切れてしまったようで、いかなる時もひしとくっついてくる。恐らく今までは抑えていた方らしく、軛を逃れたとなってはそれはもう存分に自分の身体を味わっているという様だった。
    「ス、スティル。今からオーブンに入れるから……ちょっと離れていて」
    「“いつでも”くっついていいとおっしゃったのは、トレーナーさんですよ?」ぎゅぅ
    それを言われると痛い。どうしたものか、いつもより随分積極的だったもので少したじろいでしまう。“紅”でない彼女も、案外こんな側面を持っていたのだな。貞淑を保とうとする普段の彼女が、自分の前では見せるこんな姿……なんだか美しくもある。
    「ト、トレーナーさん。そこまで恍惚と見つめられると少し恥ずかしいです……」
    ハッ、と気づくと彼女が目をそらしながら恥ずかし気に拳を口元に当てて頬を紅らめていた。
    「分かりました、離れます……」
    負けを認めて引き下がる、といった様子で彼女は身体を離した。ようやく焼き上げられそうだ。

  • 8◆3qRoe1Ijy225/10/01(水) 11:19:11

    オーブンで焼きあがるのを待つ間に、スティルから色々と話を聞いた。どうやら最近、「スティルインラブとトレーナーが公衆の面前でイチャついている」とかいう噂が流れているらしい。
    ……まあ根も葉もあるので仕方が無い。今もこうしてくっついているわけだし。しかしどうやら気にしていたようだ。まあこの学園ではしれっと教え子と恋愛関係になるトレーナーは少なくないが、それでも社会規範的に褒められたものでは決して無いし、なによりトレーナーである自分に不名誉な噂が立つのをスティルが気にしてしまったらしい。
    「それで、何か理由があれば合法的にトレーナーさんといられるのではないかと思ってつい……申し訳ありません」
    「フフフ、合法的にか。気にしてくれてありがとうな。でも俺は平気だから、君が気にしないなら……全く今まで通りでいいんだよ。」
    「本当ですか?」
    「今日みたいにくっつかれると、流石にまずいかもしれないけど」
    苦笑いしながらそう言うと、彼女はまた恥ずかしそうにして手のひらを擦り合わせた。
    「あ、あれは今まで我慢していた分……なので」

  • 9◆3qRoe1Ijy225/10/01(水) 11:20:16

    話していたら、部屋中に焼き菓子特有の暖かな甘い匂いが立ち込めてきた。
    「そろそろ焼き上がりかな。様子を見に行かない?」
    「それでしたら、一緒にコーヒーも淹れませんか?甘い焼き菓子に合う豆を持ってきたので」
    それはいいねとお互い浮き足立ち、香りに誘われるようにまたキッチンに向かう。
    「トレーナーさん、さっきは今まで通りでいいっておっしゃってくださいましたけど……出来ればまた一緒にお菓子、作って頂けませんか?とても楽しかったので……」
    「ああ、勿論いいよ。と言っても、今度は俺が教わる方になりそうだが。」
    和やかな笑いが広がる。焼き上がりを知らせるオーブンの音色が、彼女の甘く艶やかな表情を彩っていた。

    おしまい

  • 10◆3qRoe1Ijy225/10/01(水) 11:24:18
  • 11二次元好きの匿名さん25/10/01(水) 20:21:48

    「スティルインラブとトレーナーが公衆の面前でイチャついている」
    これは割といつものことでは…

  • 12二次元好きの匿名さん25/10/01(水) 21:08:54

    >>11

    何か

    問題でも?

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