- 1二次元好きの匿名さん21/09/20(月) 14:02:22
どうしうようもないほどの弱虫をマスクに隠しているアタシには野望がある。
世界最強のウマ娘になるという壮大な野望だ。
そしてこの日行われるレース「ジャパンカップ」でその野望へと向かって空高く飛び立つと、
デビュー時にはすでに決めていた。
観客席を見渡すと人が溢れんばかりに居た。 当然だ。 ここには指折りの実力者達が揃っているのだから!
だからこそコンドルが飛びだつその瞬間をこの場のすべてに見せつける。 そう決めているのだ。
初めの頃のような背伸びではなく、着実に掴み取るために基礎からトレーナーさんが鍛え上げてくれたのだから
もはや憂うことなど何一つない。 自身の一番強い競バをすればいいだけ
――― 一つ心残りがあるとすれば… いや、目の前のことに集中しよう。 それを考えるのは親友に対して失礼だ
毎日王冠でスズカ先輩を前にして折れかけたアタシの翼をもう一度拡げる覚悟を与えてくれた"親友"
彼女に対して同情などいらないことはアタシ自身がよく知っていた。
気合を入れるために少し小走りでゲートでゲートに向かう。
良き友人であり、同期であり、そしてライバルであるスペちゃんが見えた
普段はおっとりとして可愛らしいが、彼女の才能と努力は名前通りスペシャルなものだ。
一度爆発したらもはや止まることを知らない圧倒的な末脚。
彼女は6月、この場所この距離でそれを見せつけた。 おそらくこのレースで一番油断ならない相手あろう
だが怖気づくことはもうしない。
このマスクは偽りではなく列記とした自分の一部だと示してくれた二人のためにも。
どうやらリングに役者が全員揃ったようだ。 試合開始のゴングであるゲート開放音が鳴り響いた - 2二次元好きの匿名さん21/09/20(月) 14:03:15
アタシはすぐさま前へでてそのままコーナーへ入り大方のポジションが決まった。
内側3番手だ。 そしてすぐ横には誰も居ないためとても動きやすい。
すぐ後ろには女帝エアグルーヴ先輩とスペちゃんが居た。
まだ本格的なプレッシャーは放っていないがそれでも圧がある。
前の方では五バ身ほど逃げているようだが焦ってはいけない。 このペースのまま堂々とこの位置を維持する。
全ては最後の真っ向勝負のために、自分自身が一番強いファイトスタイルを一番良い形でぶつけるためにだ。
そして大きな変化もなくそのまま最終コーナーへと侵入した - 3二次元好きの匿名さん21/09/20(月) 14:04:32
前ではバテてしまったのか少しペースが落ちているのが見えた。後ろでは動きがあるが、まだ仕掛けてはこない
おそらく前を見て本格的な勝負のために脚をまだ貯めることにしたのだろう。
だがアタシはここで加速を始めた。 外側を塞がれて出れなければ最終ラウンド前に場外負けになってしまうのもあるが
一番強い競バスタイルを行うのであればここのタイミングが一番良いと思ったからだ。
そして最終直線に立った。 少し早い加速をしたアタシは少しだけ集団から飛び出た形となり、
真っ先に先頭へと飛びついた。 - 4二次元好きの匿名さん21/09/20(月) 14:04:52
よほどバテていたのだろう。前にいた娘は意外にもすぐノックアウトすることができたが、正念場はここからだ。
内側にはエアグルーヴ先輩が、そして後ろからはスペちゃんが来ていた。
―――ここからがエルの本当の勝負デース!
心のなかでそう叫ぶと更に加速をかけた。ほぼ真横に居たエアグルーヴ先輩を突き放す。
後ろでは少しリズムの崩れた足音が聞こえた。 多分スペちゃんが何らかの要因で若干よれたのだろう。
だがしかしまだゴールは先だ。 多少よれたところでめげる彼女ではない。 プロレスでも追い込まれた選手が
怒涛の猛反撃を見せそのまま勝ちをもぎ取るなんてことは日常茶飯事だ。
余力を持たせたままの判定勝ちなんてものを狙える相手ではない。 全身全霊をつぎ込みそのまま引き離していく
100m…80…60…ゴールへと近づいていくに連れ足音が離れていくのがわかったが、油断せず最後まで全力を出す。
ペースが上がっていく足音が聞こえたが、そのままゴール板をアタシは駆け抜けた。堂々たるピンフォールだ
少し右手でガッツポーズをした後、私は左手を大きくあげそのまま凱旋をしてみせた。 - 5二次元好きの匿名さん21/09/20(月) 14:05:25
やったなエル!おまえは世界最強のウマ娘だ!」
トレーナーさんの元へ向かった時手を組んだ勢いで背中をパンパン叩かれた
「ケッ!?トレーナーさん!まだ気が早いデース!」
「ガハハ!そうだったな!だが間違いなくお前は天高く飛び上がっていたぞ!誰よりも高くな!」
「ブ…ブエノ」
気恥ずかしくなって少し目線をそらすとカメラがあった。
恥ずかしさに取り乱しかけたが堂々たる立ち振舞いに戻す。
そしてカメラに向けて人差し指を立てた手を突き出す。
これは世界に対する宣戦布告でもあり、同時にまだ飛べないでいたもう一羽の鳥。
この場に居ない親友に対するメッセージでもあった。 - 6二次元好きの匿名さん21/09/20(月) 14:06:29
―――グラス。しばらくお別れデース。エルは世界にしばらく飛び立ちマス。
エルはグラスが誰よりも鋭く、そして熱いハートを持っていると知ってマス。
自分で立ち上がることの大切さを教えてくれてありがとう。 だからエルもグラスが強く羽ばたくと信じてマス。
そしてエルが最強のウマ娘として世界から帰ってきた時、もう一度レースしましょう。
最高の同期…そして最高のライバル達とともに最高の試合を!
不敵な笑みを浮かべ振り返った後、堂々たる勝者としてライブ会場へと脚をすすめた。
後に世界を唸らせ"怪鳥"と呼ばれるエルコンドルパサーの一幕である