- 1二次元好きの匿名さん25/10/05(日) 17:53:41
こちら前スレからの続きです。
すみません、タイトルに2を入れ忘れてたので立て直しました。
続きを最初から投下して行こうと思います
【ss】学P「あなたをトップアイドルにしてみせます」|あにまん掲示板学マス初めて2週間、花海姉妹に脳を焼かれたので初投稿ですにわかですが何卒よろしくお願いいたしますbbs.animanch.com - 2二次元好きの匿名さん25/10/05(日) 17:54:46
H.I.F前日。
事務所のあるこの校舎は明日に向けてちょっとピリピリしてるけど、逆にあたしは気分が最高潮だった。
なんでかって?それはね
「お疲れ様です、佑芽さん」
「お疲れさまです、プロデューサーさん!!」
久しぶりにプロデューサーさんが帰ってきたから!!
スマホにメッセージが来た時は今日も来れないのかなと思ったけど、まさか来るための連絡だったとは!!
最近色々考えててモヤモヤしてたけど、それも今はいったん置いておく。
久しぶりのプロデューサーさんのスーツ姿にちょっとドキドキしてしまう。
今は明日に向けてそんなこと考えたらダメなのかもだけど、ちょっとぐらいいいよね。 - 3二次元好きの匿名さん25/10/05(日) 17:55:55
「ところで佑芽さん、今日のメニューなのですが」
「はい!!今日は何をしましょうか!!」
メッセージでもトレーナーさんからでもないこの感じ。
体の芯からやる気が溢れてくる。
「明日に備えて軽めにしておきましょう、ざっと一回流して今日は終わりです」
「はい!!・・・・って、ええええええ!?」
「どうかしましたか?」
「明日は本番なんですよ!?しかもH.I.Fの!!」
確かにいつも前日のメニューは軽めだったから今日も軽めってことなんだろうけど。
明日はH.I.Fの本番、これまでとステージに立つ人たちのレベルだって全然違うのに!!
「大丈夫ですよ、佑芽さんが今の実力を出せば絶対に」
「で、でも・・・」
「レッスンルームの時間まであまりありません、着替えていきましょう」
そう言われて仕方なく従う。
更衣室で着替えてレッスンルームに向かう。
メニューに少し不安が残るけど、プロデューサーと並んで歩くこの時間はすごく安心する。
あたし、やっぱりプロデューサーさんのことが好きなんだなぁ。
ちょっとだけ歩き方がいつもよりぎこちなくなってしまった。 - 4二次元好きの匿名さん25/10/05(日) 17:56:56
「それでは最初から通してやってみましょうか」
「わかりました」
いつもは鏡に向かって踊るけど、今日はファンを意識するためにプロデューサーの方を見る。
本番は自分がどんな風に見えているかなんて確認できないから。
「一つの夢、叶うまでー」
あれ、なんでだろう。スムーズに曲に入れる。
いつもは入るタイミングとかどう見えてるかを気になって緊張しちゃうのに、今日はそんなこと全くなかった。
ただ一つ考えていたのは、プロデューサーにわたしを見ていてほしいってことだけ。
わたしのことを可愛いって思って欲しい。
わたしに期待していて欲しい。
わたしのことを魅力的だと思って欲しい。 - 5二次元好きの匿名さん25/10/05(日) 17:57:56
いつの間にか曲は終わっていて、気づくとプロデューサーさん以外にそれぞれのレッスンを見てくれていたトレーサーさん達が見に来ていた。
「すごい・・・今までのどのレッスンの時よりも体が動いていた」
「表情もずっと自然で完璧だったわ」
「声も無理なく伸びていて、聞いていてこっちも楽しくなってきました」
色々褒めてくれているが、自分自身にはその自覚が全くない。
わたしはただプロデューサーさんに見て欲しくて。 - 6二次元好きの匿名さん25/10/05(日) 17:59:02
「あ、そっか」
わたしがアイドルになる理由。
お姉ちゃんに勝ちたいのは変わらない。
だけどそれだけじゃない。
「最高のパフォーマンスでしたよ、佑芽さん」
わたしはプロデューサーさんに見ていてほしいんだ。
だからアイドルになりたいんだ。
競技用のスパイクじゃなくて、あの白いブーツがいいんだ。
「ありがとうございます、プロデューサーさん!!」
わたしはお姉ちゃんに勝つためにアイドルになりたいんじゃない。
わたしはアイドルとしてお姉ちゃんに勝ちたいんだ。 - 7二次元好きの匿名さん25/10/05(日) 18:00:09
「それじゃあ明日のスケジュールも確認できましたし、今日は解散しましょうか」
「ええーーーー!!もうですか!?」
「明日のためにゆっくり体を休めてください、いいですね?」
「・・・はーい。だったらプロデューサーさん」
「なんでしょうか?」
「あのですね・・・その・・・」
「?」
「もしわたしが明日優勝できたらなんですけど・・・プロデューサーさんに伝えたいことがあるんです」
「期末試験で赤点を取ったことですか?」
「ええ!?なんでそれ知ってるんですか!?じゃなくてですね!!」 - 8二次元好きの匿名さん25/10/05(日) 18:01:35
「おや、その先を今言ってしまってもいいんですか?」
「はっ!!ダメです!!絶対にダメです!!」
「では明日優勝するために今日ははやく帰って休んでください」
「うぅ・・・わかりました」
「・・・佑芽さん」
「はい?」
「なってくださいね、一番星(プリマステラ)」
「はい、もちろんです!!でもちょっと違いますよ」
「?」
「一緒になりましょうね!!プロデューサーさん!!」
「!!・・・わたしはアイドルではありませんよ」
「もう、そこは気にしなくていいんです!!」 - 9二次元好きの匿名さん25/10/05(日) 18:02:55
パソコンのチャットアプリを開いてメッセージボックスに文字を打ち込む。
そんなに長くない文章だったためにすぐに打ち終わってしまった。
送信ボタンを押す前に、やり残したことはないかを確認する。
来ていたメールは全て対応したし、冷蔵庫の中のものも全て片付けた。
一応スマホを確認すると、病院から何十件もの着信が。
流石にバレたかと思いながらも、どうか最後くらいは目を瞑ってほしい。
一番大切なファイルも棚にしまったし、他にはないよなとぐるっと見渡す。
その時窓の外に見えた桜の木は、あの頃と違い緑の葉をつけていた。
「少しだけ散歩しようか」
そんなに焦ることでもないだろうと、椅子から立って廊下に出た。 - 10二次元好きの匿名さん25/10/05(日) 18:03:58
下校をするアイドル科の生徒達とすれ違いながら、気の向くままに足を運ぶ。
特に何かを考えていたわけでもないのに、自然とこの足は講堂近くのベンチに向かっていた。
しかし最初は焦ったよなー、どうやってスカウトしようか考えてた時にまさかあっちから来るなんて。
こう何回も繰り返すと動揺することなんないだろうと思ってたのに、まさか初っ端から裏切られるとは。
しかもあの時でまかせで生徒名簿を見てって言ったけど、後々確認したら佑芽さんいなかったんだよなぁ。
まあ佑芽さんがどうこうと言うよりも、咲季さんにバレるんじゃないかとヒヤヒヤしたな。
そんなことを考えながらベンチに座ると、あの頃と違って日差しが痛いくらいに肌に突き刺さる。
こんな気持ちで迎えた夏が今まであっただろうかと思い返すも、流石の暑さに耐えられずすぐにベンチを立った。 - 11二次元好きの匿名さん25/10/05(日) 18:05:17
散歩を終えて事務所のある校舎に戻ってくる。
最初に佑芽さんと合流した時のことを思い出しながら教室に向かう。
2階に上がって長い廊下を進んだ先にある突き当たり。
最初に間違えてつい癖で左に曲がったことを覚えている。
左に曲がって三番目の教室、今もそこには咲季さんの事務所があるのだが、そこにいるプロデューサーはわたしではない。
反対側の三番目の教室、そこが今のわたしの事務所だ。
事務所のドアを開け、部屋の中を見渡す。
最初に咲季さんがきた時にはびっくりした。
来ること自体は予想していた。
昔、生徒会長が佑芽さんのプロデュースをすると知った咲季さんが生徒会室に殴り込みに行ったことがあった。
あの時は肝を冷やしたが、遅かれ早かれ来るだろうとは思っていたが、まさか初日からとは。
念の為に突貫で作った資料が役に立った。 - 12二次元好きの匿名さん25/10/05(日) 18:06:31
そしてそれから・・・それから・・・。
思い出すのは佑芽さんとの記憶、彼女と共に過ごした記憶がそこにこびりついていた。
後悔、とは少し違う寂寥感が心中に顔を覗かせる。
もうちょっと違う方法もあるんじゃないかと思ったが、中途半端な決断の行く末を思い出す。
自らの不甲斐なさで、アイドルとして一人の少女を殺した過去。
それだけは絶対にダメだ。
決意を固めデスクにあるパソコンに向き直る。
チャットアプリのメッセージボックスの文字を確認して「送信」と書かれたボタンにカーソルを合わせる。
やり残したことはないかと再度確認する。
一つ見つけてしまったが、今はもうどうしようもない。
あの姉妹ならなんとかするだろうと、これまでで一番の信頼を託してわたしはボタンをクリックした。
直後世界が反転して意識が飛んだ。
最後に後悔が一つだけ。
「佑芽さんの勝つところが見たかったなぁ」 - 13二次元好きの匿名さん25/10/05(日) 18:07:53
ピロン
軽快な電子音と共に携帯の画面が点灯する。
誰からだろうと見てみると、なんとプロデューサーさんから。
急いで確認すると、メッセージが一つだけ。
『佑芽さんはどんなアイドルになりたいですか?』
いきなりの質問に今までだったらすぐには答えられなかっただろう。
だけど今はすぐに答えられる。
私が最高のアイドルだと思うお姉ちゃん、そんな最高の存在にアイドルとして私は勝ちたい。
だから私はこう返信した。
『お姉ちゃんを超えるアイドルになりたいです!!』 - 14二次元好きの匿名さん25/10/05(日) 18:09:02
自信満々に返信を返す。
すぐに既読がつかなったが、お姉ちゃんの既読が早すぎるだけだよなと気にしないことにした。
だからプロデューサーさん、あたしを見ていてください。
アイドルとしても花海佑芽としても、あたしがあなたの一番になって見せます!!
そのためには明日のH.I.Fで優勝するんだ。
そして伝えるんだ、あたしのこの気持ちを。 - 15二次元好きの匿名さん25/10/05(日) 18:10:18
午前7時、目覚ましの音で目覚めたあたしは一度大きく伸びをすると充電していたスマホを見る。
今日はどうかなーと思って一応確認してみるけど、いつもと変わらない。
プロデューサーさんから今日のスケジュールが一件送られてきているだけで、他には家族のグループに両親からのメッセージとそれに対してのお姉ちゃんの返信が4時半ごろに送られていた。
「今日ぐらいは見にきてくれたっていいのに」
H.I.F当日、緊張するのかなと思ってたけど案外普通。
多分本番が近づくたびに緊張するんだろうけど、その時はその時だよね。
リハーサルの時間を確認して、あたしは準備を始めた。 - 16二次元好きの匿名さん25/10/05(日) 18:11:41
事務所のある校舎、階段を上がって2階の廊下の突き当たり、そこから右に曲がって4番目の教室に向かう。
途中一つだけ空き教室があるんだけど、一応誰かが使ってるみたいで鍵は開いていない。
お隣さんのこと、一回も見たことないんだよなーと思いながら教室に入る。
「おはようございます!!って手鞠ちゃん早いね!!」
「朝からうるさいよ、佑芽」
そう言いながらイヤホンを付け直す手鞠ちゃん。
今日は手鞠ちゃんもH.I.Fに出るから早いんだろうな。
あたしたちには同じプロデューサーがついてる。
だけど会ったことがあるのは一回だけで、忙しい人みたいでいっつもどこかに出張に行ってる。
今日ぐらいステージを見にきて欲しかったけど、いつも通りスケジュールと一言「頑張ってください」とだけ送られてくる。
正直最初はどうなんだろうかと思ったけど、補欠合格の私に選択肢はなかった。
それでも今こうやって大きなステージに立てるようになっているんだから、文句は言えないよね。
「よし、それじゃあ今日は一緒に頑張ろうね!!手鞠ちゃん!!」
「佑芽うるさいよ、あと優勝するのは私だから」 - 17二次元好きの匿名さん25/10/05(日) 18:12:45
「それでは音出しますんで、確認お願いしまーす」
リハーサルが始まり、会場の雰囲気も段々と張り詰めてくる。
あたしはこの空気が少しずつ冷えていくような感覚が、逆に火照った自分の体の輪郭が際立っていくようで嫌いじゃない。
だけどなんでだろう、今日はいつもみたいにワクワクしてこない。
お姉ちゃんと同じ舞台で戦えるはずなのに、ちっとも上がらない。
おかしいなと思いながらも自分の番になり、ステージに向かった。
「それでは音出しまーす」
音響さんの掛け声と共に曲がかかる。
イヤモニから流れてくる音と、会場に響く音楽のズレはなくバッチリだった。
いつもはここでマイクの調子を確認するのと一緒に、お客さんがいる姿を想像して歌うんだけど今日はいまいち考えがまとまらない。
いつもどこに目線を送ってたっけ?
確か観客席のこのあたり・・・なんだろう、いつもあったはずのものがない感触。
いつもあそこから誰か見てくれてたような・・・。
そんなことを考えてるうちにリハが終わった。
まあ本番になれば大丈夫か!! - 18二次元好きの匿名さん25/10/05(日) 18:14:16
そうして始まった本番。
客席にはたくさんの生徒たちと関係者の人たち。
その全員がステージに向かって大きな声援を送っていた。
衣装に着替えて自分の番を控室で待つ。
既に自分の番が終わった手鞠ちゃんはタオルで汗を拭きながら、モニターに映る他の出演者のステージを見ていた。
衣装に着替えれば気持ちが切り替わるかと思ったけどやっぱりダメ。
その時あたしはようやく気づいた。
今日のあたしは昨日までとどこか違う。 - 19二次元好きの匿名さん25/10/05(日) 18:15:24
何が違うのか全くわからないまま自分の番が近づいてくる。
緊張とは違う、今まで感じたことのない恐怖が胸いっぱいに広がる。
「花海さん準備お願いします」
「は、はい!!」
控室のドアが開き、スタッフの人が私を呼ぶ。
いつもはこんなにびっくりすることないのに、今日は余裕がないのか変な声が出てしまった。
いつもと違う様子に、モニターを見ていた手鞠ちゃんも思わずこっちを見た。
「だ、大丈夫!!ちょっと緊張してるだけだから!!よし、やるぞーー!!」
そう言って椅子から立って前に進もうとする。
あれ、足ってどっちから出してたっけ? - 20二次元好きの匿名さん25/10/05(日) 18:16:36
「暗転してから10秒後に出演者のコール、それが終わって30秒後に曲かかりますから」
「わ、わかりました」
ステージ横で前の人のパフォーマンスが終わるのを待つ。
曲も終盤、いよいよ次があたしの番だ。
お姉ちゃんとの真剣勝負、もう手の届くところまで来てるんだ。
なのに、それなのに。
歌い出しってどうだっけ、振り付けの最初は右足だっけ、観客席のどこを見ればいいんだっけ。
思考がぐちゃぐちゃになって何をすればいいかわからない。
そのうち呼吸の仕方も忘れてしまうんじゃないかと思った。 - 21二次元好きの匿名さん25/10/05(日) 18:17:40
浅くなる呼吸を落ち着けようとするたびに、それを邪魔するみたいに大きな恐怖が胸を圧迫する。
前のステージが終わったのか、暗転した照明があたしにさらに追い討ちをかける。
あたしの番だ、行かなきゃ。
なのに進もうとしたこの足は、震えるだけで一歩も前に進まない。
『出演者コールでまーす』
インカムから音響スタッフさんののびた声が聞こえる。
それと同時に会場内に響く私の名前。
観客席からは私を待つ声援が鳴り止まない。 - 22二次元好きの匿名さん25/10/05(日) 18:18:51
出なきゃ、早く行かなきゃ!!
それでも全く私の足はいうことを聞かなかった。
『30秒後、曲いきまーす』
インカムから響くカウントダウン。
私を照らすために動く照明。
ファンのみんなの声援。
その全てが今は私の敵だった。
そっか、お姉ちゃんはいつもこの中を戦ってたんだ。
頭の中に思い浮かぶのは、常に先頭を走り続けるお姉ちゃんの姿。
誰も前にいない、そんな自分しか信じられないところで戦ってたんだ。 - 23二次元好きの匿名さん25/10/05(日) 18:19:57
あぁ、私はお姉ちゃんに勝てないんだ
頭の中が嫌にスッキリする。
今までのノイズがなくなって、違う思考が頭を埋め尽くした。
ずっと背中を見ていればいい
ずっと憧れるだけでいい
ずっと、ずっと、ずっと、ずっと - 24二次元好きの匿名さん25/10/05(日) 18:21:14
『20』
また頑張ったって言ってくれるかな
『19』
またご飯作ってくれるかな
『18』
またマッサージしてくれるかな
『17』
また勉強教えてくれるかな
『16』
また勝負してくれるかな
『15』
また頭を撫でてくr
「大きく息を吸ってください」 - 25二次元好きの匿名さん25/10/05(日) 18:22:22
突然イヤモニから聞こえた声、それはさっきまでのスタッフさんとは違う声だった。
「え、え?」
「しっかり深く吸ってください」
何が何だかわからないまま、言われた通りに息を吸う。
するとなぜか分からないけど、さっきまでとは違い頭がただクリアになっていく。
「そしたら大きく吐いてください」
大きく息を吐いた。
そしたらさっきまで胸の中にあった色々なものが一緒にどこかに行ってしまった。
だけどなんなんだろう、この声。
もしかして緊張しすぎて聞こえちゃいけないものが聞こえてるのでは!? - 26二次元好きの匿名さん25/10/05(日) 18:23:28
「佑芽さん」
「は、はい!!」
謎の声に突然名前を呼ばれてびっくりしてしまう。
だけどどうしてかな、すっごく安心する声だ。
その声は最後にあたしに一つだけ聞いてきた。
「どんなアイドルになりたいですか?」
考えたこともない質問。
今までお姉ちゃんに勝つことしか考えてこなかったから。
それなのに私の口からは自然と答えが出ていた
「お姉ちゃんを超えるアイドルになりたい」
その答えを最後にイヤモニに一瞬ノイズが走ったかと思えば、再びスタッフさんのカウントダウンが聞こえる。 - 27二次元好きの匿名さん25/10/05(日) 18:25:37
『4』
さっきまでの緊張が嘘みたいに、今は心が軽い。
『3』
早くあのステージに立ちたい。
『2』
さあ今日はどんなふうに歌おうか。
『1』
そうだ、あの人のために歌おう。
聞いたこともない声のはずなのに、あたしの頭には誰かの姿がぼんやりと浮かんでいた。
曲の開始とともにあたしはステージに飛び出した。 - 28二次元好きの匿名さん25/10/05(日) 18:27:44
とりあえずここまで投げときます。
残りは今日中にできると嬉しいな・・・ - 29二次元好きの匿名さん25/10/05(日) 18:30:14
今見たらスレタイ事故ってますね・・・
こんなんじゃ商品にならないよ - 30二次元好きの匿名さん25/10/05(日) 20:39:15
歩道脇に植えられた満開の桜の木が、本来であれば新入生たちの門出を祝っているはずなのだが、生憎この道には私以外の誰一人としていない。
ただ歩行者がいないだけならいいのだが、恐ろしいことに車の一台も走っておらずただ私に綺麗に咲いた姿を披露しているだけだった。
「てか、リスポーン位置が変わっただけじゃねえか」
新品の黒いスーツに新品の黒い革靴、バッチリと決まった髪型で私は学園前の歩道を歩いていた。 - 31二次元好きの匿名さん25/10/05(日) 20:40:20
目覚めた時にはプロデューサー科の寮の前。
なんでここにいるのか分からず部屋に戻ろうとするも自動ドアが反応しない。
いつもはいるはずの管理人もなぜか今日は姿が見えず、仕方がないのでこうして学園まで歩いているのだ。
永遠と続く学園の塀がその大きさを表していた。
しばらくすると学園の門が見えてきた。
「HATSUBOSHI GAKUEN」と書かれた校門に少しだけ安堵すると、特に用事があるわけでもないがそのまま敷地に入る。
警備員のおっちゃんたちも休憩中なのか、校門前に姿はなかった。 - 32二次元好きの匿名さん25/10/05(日) 20:41:21
そのまま春の陽気にうつらうつらとしながら歩いていると大きな講堂が見えてきた。
この学園は校門から大きな通りを歩いていくと自然とここに着くようになっている。
ついさっきも見た場所なのに、季節も相まってか謎のノスタルジーを感じる。
ちょっと休むかと思いあのベンチに向かおうとすると、何やらそのベンチの前に誰かが立っているのが見えた。
まさか人がいるとは思わず少しだけびっくりするも、逆に誰がいるんだと好奇心が出てきて目を凝らして見てみた。
「あれは・・・咲季さん・・・?」
ピンクのブレザーに活発そうな赤みがかった髪に、その目に青い炎を宿す自信に満ちた女の子がそこには立っていた。 - 33二次元好きの匿名さん25/10/05(日) 20:42:49
なぜ咲季さんが?
・・・さては佑芽さんを一人にしたことを怒りにきたのか?
化けて出るとは言うけど、それまだ生きてる人間がこっち側にやることじゃないだろ。
彼女の妹に関する執念の恐ろしさに感服する。
ここまできたらもう何を言われようが逆に清々しい気分になるだろう。
そう思いながら軽い足取りで彼女の元に向かう。
最初になんて言われるだろうか。
「この大バカ!」とかか?
いやそれはまだぬるいな。
「よくも佑芽を一人にしたわねーー!!」とかだろうな。
少しづつ距離が縮まり、あと30mぐらいになった頃だろうか。
こちらに気づいた咲季さんが振り向く。
その最初の一言は私の予想を裏切った。 - 34二次元好きの匿名さん25/10/05(日) 20:44:43
「プロデューサーーー!!」
満面の笑みを浮かべた彼女が叫んだ。
首から下げた、銀の花のネックレスを揺らしながら。
「・・・・・咲季・・・・さん・・・?」
頭が真っ白になる。
足の動かし方さえ忘れてしまうほどに。
「あ・・・あぁ・・・」
それでも一度止まった足は、考えるよりも先に動き始めた。
最初はゆっくりとしか動かせなかったけれど、思考が追いついて行くたびにその一歩の間隔が短くなっていく。
最後は革靴であることも忘れて、彼女の元に全速力で走っていた。 - 35二次元好きの匿名さん25/10/05(日) 20:46:42
「咲季さんっ!!」
彼女との距離がゼロになった瞬間、私は彼女を抱きしめた。
小さくも自信に満ち溢れた彼女の体温が、確かに私の腕の中にあった。
「咲季さん・・・咲季さんっ、咲季さん!!」
「ちょっと、あんまり強くしたら苦しいわよ」
そう言いながらも、彼女は私の背中に手を回して優しく撫でてくれた。
その温かさについに涙が溢れてしまう。
「咲季さん・・!!」
「ええ、あなたがプロデュースした未来のトップアイドル、花海咲季はここにいるわよ」 - 36二次元好きの匿名さん25/10/05(日) 20:47:57
そう言って背中に回した腕に少し力を入れて私を抱き返してきた。
今にも掠れそうな声で必死に言葉を紡ぐ。
「すみません・・・トップアイドルにできなくて」
「なんであなたが謝るのよ、私の実力不足よ」
「すみません・・・勝たせてあげられなくて」
「それも私の責任、あなたのせいじゃないわ」
「すみません・・・一緒にいることができなくて」
「それは・・・私が謝ることよ。こっちこそごめんなさい」
「咲季さんは何も悪くないです!!全部・・・全部俺が!!」
そう言った瞬間、なぜか思いっきりお腹を殴られた。
綺麗に鳩尾に入ったせいで、思わずその場にうずくまる。 - 37二次元好きの匿名さん25/10/05(日) 20:48:58
「さっきから聞いてれば自分が自分がって・・・」
うずくまる私の胸ぐらを掴んだ彼女は私に顔を無理やりあげさせた。
そしてその蒼く燃える瞳で私のことを見て言い切った。
「ふっざけんじゃないわよ!!何様のつもりよ!!それじゃあまるであなたが私をプロデュースしてあげてたみたいじゃない!!」
息を荒げながら叫ぶ咲季さん。
そのまま息を吸うのも忘れて捲し立ててくる。 - 38二次元好きの匿名さん25/10/05(日) 20:50:28
「私とあなたはアイドルとプロデューサーよ!!嬉しかったことも、楽しかったことも、悲しかったことも、苦しかったことも、思い出も全部、一緒に分かち合ってきた!!どんな時も一緒に歩いてきた!!なのに!!・・・なのに責任だけ全部あんたが背負うなんて・・・。そんなこと言わないでよ・・・。責任だって・・・私も一緒に、背負わせて・・・」
彼女の目から大粒の涙が私の頬に落ちてくる。
「私を・・・あなたの担当アイドル・・・花海咲季でいさせてよ・・・」
胸ぐらを掴んでいた小さな手から次第に力が抜けていく。 - 39二次元好きの匿名さん25/10/05(日) 20:51:35
いつからだろうか、彼女のことを守るべき存在としか見られなくなったのは。
いつからだろうか、彼女と対等に話せなくなったのは。
いつからだろうか、彼女を誰にも負けない自慢のアイドルだと思えなくなったのは。
私は本当に大馬鹿者だ。
「咲季さんを守る」、そう思ってやってきたことはそのまま全て彼女にとっての逃れられない重圧になっていた。
この小さな体で背負うにはあまりにも大きすぎる重圧に。
私は思った。
彼女と腹を割って話がしたいと。 - 40二次元好きの匿名さん25/10/05(日) 20:52:36
「・・・なんで一人でいなくなっちゃったんですか・・・」
彼女の小さな体を強く抱きしめる。
それに応えるかのように、彼女も優しく私を抱きしめてくれた。
「ごめんなさい、あなたの前からいなくなって・・・」
それから私たちは二人で泣き続けた。
今まで背負ってきたもの全てを流し切るかのように。 - 41二次元好きの匿名さん25/10/05(日) 23:55:04
「あれなんだったんだうなー」
H.I.Fが終わったその日の夜、表彰式も終わって荷物を置くために事務所に戻る途中。
あの時聞こえた謎の声のことをあたしはずっと考えていた。
結果は2位。
あたしの中では今までにないくらい最高のパフォーマンスができたと思っている。
実際に控室に戻った時に、いつもは全然褒めてくれない手鞠ちゃんから
「まあいつもよりマシだったと思う」
と初めて褒めてもらったし。
それなのに、そんなあたしの上を行く人がいた。
「ぐぬぬぬぬ・・・やっぱり悔しいいいいいい!!!!」 - 42二次元好きの匿名さん25/10/05(日) 23:56:18
今年のプリマステラに輝いたのはあたしのお姉ちゃんだった。
今までのお姉ちゃんのステージもすごかったけど、今日のお姉ちゃんはその比じゃない程見事なステージを披露した。
他を寄せ付けない圧倒的なパフォーマンス。
それはテレビで見るようなトップアイドル達のそれと見紛うほどに。
それでもあたしだってこの短期間でここまできたんだ!!
絶対に来年こそはお姉ちゃんに勝ってやる!!
「よし、そうと決まれば早速プロデューサーさんに報告を・・・ってあれ?」
スマホを取り出すべくスカートのポケットの中を探る。
いつも入れている右ポケットになかったから、左ポケットも探してみる。
しかしどこにも見当たらない。
「あれ!?確かにポケットに入れたと思ったのに!?」 - 43二次元好きの匿名さん25/10/05(日) 23:57:52
そう言いながら服についているあらゆるポケットを探すも全くない。
焦ったあたしは、いつも使っているスクールバッグをひっくり返して探した。
するとスマホはすぐに見つかった。
スクールバッグのサイドポケット、そんなところに入れるなんてどこのどいつだ!!と思ってみるもそんなのあたししかいない。
ひとまずこれで一安心だ。
ひっくり返した鞄の中身を戻すべく、地面に並べたものを一つずつ鞄に詰めていく。
「・・・なんだろうこれ?」
こんなもの入れたかなと思いつつ、その長方形に小さく切り分けられた厚紙を拾う。
何も書かれていないようで、おそらくこちらは裏面なのだろう。
これが何かを確認するために裏返して表を見てみた。 - 44二次元好きの匿名さん25/10/05(日) 23:59:18
「初星学園 プロデューサー科 一年 ◯◯」
あれ、なんでだろう。
自然と涙が頬を伝う。
あたし、どうして。
「こんなに大事なことを忘れてたんだろう」 - 45二次元好きの匿名さん25/10/06(月) 00:00:28
いつもリハーサルで私のことを見てくれてた人も。
本番前に勇気をくれた人も。
今日イヤモニから聞こえたあの声も。
全部、全部。
「私のプロデューサーさんだ」
急いでスマホのチャットアプリを開く。
千奈ちゃんや広ちゃん、お姉ちゃんからも連絡が来ていたけど今はそれをみている場合じゃない。
目当ての人を探すけど、なぜかどこにも見当たらない。
昨日返信したはずだからいないはずなんて絶対にないのに。
あたしはカバンを置いて走り出した。
「どこにいるの!?プロデューサーさん!!」
周りの目など気にせず、あたしは走り回った。 - 46二次元好きの匿名さん25/10/06(月) 00:01:28
いろんなところを走り回った。
職員室、生徒会室、プロデューサー科の寮。
全部回って、全部聞いた。
プロデューサーさんがどこにいるのか。
そしたらみんなこう答えた。
そんな人は在籍していないと。
ふと昨日のあの人の言葉を思い出す。
『なってくださいね、一番星(プリマステラ)』 - 47二次元好きの匿名さん25/10/06(月) 00:02:37
ステージもこなして学園を走り回って。
流石のあたしでももう疲れきってしまった。
それでもいつもだったらこんなに疲れることもなかっただろう。
だけど今はそれ以上に、次第にすり減っていく希望のせいか体力以上に精神が消耗していた。
残る場所はここのみ。
事務所のある校舎の2階、長い廊下の突き当たりを右に曲がって三番目の教室。
ここが私たちの本当の事務所だ。
でもどうしようか、ここは空き教室の扱いになっていて鍵がかかっていたはず。
教室の前まで来て、試しにドアを引いてみる。
ガンっという音と共に、かかった鍵が行手を阻む。
心が折れそうになった。
ここがダメなら、もうあてなんてどこにもない。
最後に負け惜しみをするかのように、いつもあたしが鍵を入れていた制服の右ポケットに手を入れる。
あるはずなんてない、さっきスマホを探した時に何も入っていなかったのだから。 - 48二次元好きの匿名さん25/10/06(月) 00:04:16
チャリっという音と一緒に、指先に金属の感触があった。
信じられない、でももしかしたら。
恐る恐る指先でそれを掴んで外に出す。
それはこの校舎で使われている鍵と非常に似ていた。
少しだけ見えた希望。
でもどうしよう、これが鍵穴に入らなかったら。
震える指でもった鍵を穴に差し込む。
金属が若干擦れる音がした後、それは根元まで刺さった。
ゆっくりと右に回転させると、カチャンという音が静かな廊下に響きわたる。
全身の毛が逆立つのを感じる。
鍵を抜いてドアを横に動かすと、ガラガラという音と共にドアが開いた。 - 49二次元好きの匿名さん25/10/06(月) 00:05:23
ゆっくりと一歩足を踏み入れる。
空き教室と言っていたのに、そこには埃一つ落ちておらず、まるで昨日まで誰かが使っていたような気配があった。
「ここが・・・あたしたちの事務所だ・・・」
ホワイトボードに、壁に貼ってあるいくつかの貼り紙。
奥のデスクの上には何も立てられていないブックスタンドが置いてあった。
プロデューサーさんは確かにここにいた。
でもそれは私の記憶の中だけで、今はどこにいるのかもわからない。
デスクにしまってあった椅子を引いて深く腰をかける。
何度もここに来ているはずなのに、そこから見える景色は初めてだった。
「プロデューサーさん・・・」 - 50二次元好きの匿名さん25/10/06(月) 00:06:24
机に顔を伏せ、記憶の中の日々を思い出す。
初めてレッスンをした日のこと。
初めてステージ衣装を着た日のこと。
そのどれもがあったはずのことなのに、ここにはその記憶がないことになっていた。
本当は夢だったのかな。
もしかしたらあの名刺だって昔の誰かのものが入り込んでただけかもしれない。
そう思ってしまった方が楽なのかな。
顔を伏せたまま壁に沿って置いてあるラックの方を横目で見る。
するとそこには、あたしの見たことのないファイルが置いてあった。 - 51二次元好きの匿名さん25/10/06(月) 00:07:31
「あんなもの、あったっけ?」
重い体を動かしてラックの中にあったファイルを取り出す。
暗くてよく見えなかったけど、電気をつけるのももう面倒くさくなってしまっていた。
窓から差し込む月明かりのが照らす床の上に、取り出した3つのファイルを広げる。
お姉ちゃんが見たらはしたないって怒るかもだけど、今はそんなことも気にすることもできずにあたしも床に直接座った。
それぞれ赤、青、黄色に分かれていてかなりの厚さをしていた。
なんだろうと思って赤色のファイルの適当なページを開いてみた。
「花海佑芽 2年時理想カリキュラム ボーカル」
そう銘打って書かれたページには私が二年生になった時に必要になるであろうレッスンが週単位で細かく記載されていた。
その後には予想能力値に、その時におすすめな外のお仕事の参考までも書かれていて、まるでこれ自体があたしのプロデューサーであるかのようだった。 - 52二次元好きの匿名さん25/10/06(月) 00:08:32
まさかと思って青のファイルを頭から開く。
そこには「花海佑芽 1年秋期時理想カリキュラム ダンス」と書かれていて、以降はボーカルのものと同じ感じだった。
その後開いた黄色のファイルもビジュアルレッスンについてのことが私の卒業まで事細かくびっしりと書かれていた。
全てのページを見終わった後、黄色のファイルの最後のページにハガキサイズの小さな紙が挟まれていた。
そこには一言こう書かれていた。
「佑芽さんは私の自慢のアイドルです」 - 53二次元好きの匿名さん25/10/06(月) 00:09:45
声にならない泣き声が教室に響いた。
「プロデューサーさんっ・・・プロデューサーさん・・・!!」
持っていたファイルを強く抱きしめる。
間違いなく、あたしのプロデューサーさんはここにいる。
「プロデューサーさん!!」
一緒にお仕事を頑張ったあの日も。
「プロデューサーさん!!」
テストで赤点を取ってここで勉強した日も。
「プロデューサーさん!!」
初めてオーディションの合格通知をもらった日も。
全部間違いなくここにある。
ずっと高鳴っている左胸をギュッとおさえる。
そしてこの気持ちも全部、間違いなく私の中にある。
「あたし・・・プロデューサーさんのことが・・・大好きです」 - 54二次元好きの匿名さん25/10/06(月) 00:11:01
あれからどれくらい泣き続けただろう。
二人とももうとっくに涙も枯れてしまい、今は横にあるベンチに座って話していた。
「そうでしょ〜♡なんて言ったって佑芽は私の最高に可愛い妹なんだから!!」
「でも咲季さん、佑芽さんにこんな特技があるのは知ってましたか?」
「はぁ!?佑芽のことでこの私が知らないことなんてあるわけないでしょ!!」
「それはどうですかねー?なんて言ったって私は佑芽さんのプロデューサーでもありましたから!!」 - 55二次元好きの匿名さん25/10/06(月) 00:12:06
話と言っても、今の私と咲季さんが話すことなんて一つに決まっている。
それぞれの自慢の妹で自慢のアイドルである佑芽さんのことだ。
昔は咲季さんの話していたことが随分大袈裟なように感じていたけど、今聞くとその通りだと思ってしまう。
どうやら姉バカな咲季さんに似て、私も相当なプロデューサーバカになったらしい。
本当に昔に戻ったみたいでとても楽しい、できればこの時間が終わってほしくない。
そう思っていた矢先、何やら講堂の方から大きな声が聞こえてきた。 - 56二次元好きの匿名さん25/10/06(月) 00:13:13
「さーーーき!!さーーーき!!」
屋根も開いていないはずなのに、まるでアンコールのような声が聞こえてくる。
しかもそれはどうやら私の隣にいる咲季さんを呼んでいるようだった。
「咲季さん、これは?」
「・・・もう、そんな時間なのね」
講堂の方を見ながら呟く彼女の背中は、なんだか少し寂しそうだった。
「わたし、そろそろ行かなきゃいけないわ」
「行くって・・・どこへ?」
「あら、決まってるじゃない」
ベンチから立ち上がった咲季さんはそのまま講堂の方へ向かっていく。
その途中で振り返ったかと思うと、腰に手を当てて胸を張って私に言った。
「ファンの声援に応えないアイドルが、一体どこにいるのよ?」 - 57二次元好きの匿名さん25/10/06(月) 00:14:15
挑戦的な笑みを私に向けてくる彼女。
私は察してしまった、このままだと彼女ともう会えなくなることを。
「ちょっと、待ってください!!だったら・・・だったら私も行きます!!私はあなたのプロデューサーですから!!」
ベンチから立ち上がり彼女に叫んだ。
彼女はちょっとだけ嬉しそうに笑った後、真剣な顔で私に言った。
「ダメよ、まだあなたにはやらなきゃいけないことがあるでしょ」
「やらなきゃいけないことって・・・あなたのプロデュース以外に何を」
「さっき自分で言ってたじゃない、私は佑芽さんのプロデューサーでもあるって」 - 58二次元好きの匿名さん25/10/06(月) 00:15:16
言葉に詰まってしまう。
確かにそうだ、でも私が今ここにいるのは。
「でも私が戻ればあの世界の咲季さんもいずれはきっと!!」
「あなたが信じてくれたアイドル、花海咲季は妹に敏腕プロデューサーがついた程度で負けるアイドルなの?」
そう言ってまた挑戦的な笑顔を浮かべる彼女。
その瞳は絶対の自信で溢れていた。
「・・・はぁ。ホント、咲季さんには敵いませんね」
「当たり前じゃない、だって私はトップアイドルの花海咲季なんだから!!」 - 59二次元好きの匿名さん25/10/06(月) 00:16:20
その彼女の言葉に呼応するかのようにアンコールの声がより一層大きくなる。
「・・・それじゃあプロデューサー、行ってくるわね」
「・・・はい。行ってらっしゃい、咲季さん」
奥歯をグッと噛み締めて、さっきだし切ったはずの涙を堪える。
アイドルがステージに立つ前に泣くようなプロデューサーがどこにいる。
「佑芽のこと、よろしく頼むわね」
「はい、任せてください」
その言葉にフっと優しい笑みを浮かべて、彼女は講堂に進み始めた。
最後まで見届けようとそのまま彼女を見ていると、何かあったのか途中で足を止めて最後に私に振り返ってこう叫んだ。 - 60二次元好きの匿名さん25/10/06(月) 00:17:29
「プロデューサーーーーー!!」
「もし生まれ変わって、その時また私をプロデュースしてくれたその時は!!」
「全力でわたしを育てなさい!」
瞬間強い横殴りの風が大きく吹いて、宙に舞った桜の花びらが彼女を包む。
思わず目を閉じそうになった時、最後に見えた彼女の表情。
それはかつてわたしに見せてくれた、子供っぽい無邪気な笑顔だった。
風が止んでゆっくりと目を開く。
そこには咲季さんの姿はなく、先程まで聞こえていたアンコールの声もすっかり聞こえなくなってしまった。
最後に聞いた彼女の言葉、その言葉にわたしは涙を堪えて応えた。
「はい、今度こそ必ず、あなたをトップアイドルにしてみせます」 - 61二次元好きの匿名さん25/10/06(月) 00:18:33
あれからどれくらい泣き続けただろうか。
月明かりの照らすこの部屋で、もう既に涙も枯れ果ててしまった。
だけどいつまでもこのまま泣いてるわけにもいかない。
制服の袖で目元を拭いて、床から立ち上がる。
これからはこれを見て、お姉ちゃんを超えるトップアイドルにならなきゃいけないんだから。
「だから見ていてくださいね、プロデューサーさん」
瞬間、部屋の電気がついた。
一体何が起きたのかさっぱり分からない。
ファイルを抱きしめたまま動揺していると、後ろから声をかけられた。
「こんな暗いところにいると目を悪くしますよ、佑芽さん」
何度も聞いたこの声。
聞き間違えるはずもない、あたしの大好きなこの声は。
「プロデューサー・・・さん?」
「はい、あなたのプロデューサーです」 - 62二次元好きの匿名さん25/10/06(月) 00:19:40
スーツ姿にメガネをかけた長身の男性。
間違いなくあたしのプロデューサーさんがそこに立っていた。
「なんと言いますか、死に損なったと言いますか説明が難しいのですが」
「ーー」
あたしは無言で抱きついた。
今まで抱えていた不安や色々な感情が一気に爆発して、逆に何も言えなくなってしまった。
そのままプロデューサーさんの胸に顔を埋める。
抱きしめる力も自然と強くなった。
もうこのままどこにもいかないように。
それをわかってくれたのか、プロデューサーさんもわたしの背中にそっと腕を回してくる。
このままギュッと抱きしめられたい。
そう思った時。 - 63二次元好きの匿名さん25/10/06(月) 00:21:02
「プロデューサーとアイドルが人前でそのような行為をすることは、あまり褒められたものではありませんよ」
廊下から別の人の声が聞こえる。
これは多分亜沙里先生の声だ。
「いや、違うんです先生!!これには少し事情がありまして」
「プロデューサーがアイドルと人前で抱き合っていい事情があるなら是非とも聞きたいですね」
こうやって問い詰められるプロデューサーさんはなんだか新鮮だ。
今まであたしを困らせた分の仕返しをしたくなって抱きしめる力を少し強くする。
「ちょっと佑芽さん、先生の前で誤解を招くようなことをするのは!!」
「はぁ・・・H.I.Fもあって気分が高揚するのはわかりますが、くれぐれも間違いのないように気をつけてくださいね。今日は見逃してあげますから」
誤解されたままのプロデューサーさんも、最後は観念したのか分かりましたと力のない返事をした。
「それじゃあ気をつけて帰ってくださいね。あ、それと。2位も十分誇っていいと結果だと思いますよ、よく頑張りましたね花海さん、プロデューサーくん」 - 64二次元好きの匿名さん25/10/06(月) 00:22:17
「あの・・・そろそろ大丈夫でしょうか?」
あのまま抱きつくこと数十分。
プロデューサーさんが困っていたので、正直まだまだ足りないけどしょうがないからそろそろ許してあげましょう。
「もう・・・本当にどこ行ってたんですか?」
「そのですね・・・なかなか説明が難しいと言いますかできないと言いますか・・・」
「・・・はぁ。いいですよ、今ここにプロデューサーさんがいるので許します」
「そうしていただけると助かります」
そういうとプロデューサーさんはあたしを椅子に座るように促した。
自分でも気づいていなかったけど、想像以上にあたしは疲れていたようだった。
それを見抜いてなのか椅子を引いて座らせてくれてた。
本当にこういうところがずるいです。 - 65二次元好きの匿名さん25/10/06(月) 00:23:22
「それで、どうでしたか今日の結果は。満足しましたか?」
「・・・全然満足できるわけないじゃないですか!!!!」
色々ありすぎて忘れていたけど、そうだった。
あたしは今日もお姉ちゃんに負け・・・てはなくて僅差でちょっと下回った。
その結果に満足なんてできるわけもない。
「だったらこれからはもっとレッスンも厳しくいきますよ」
「もちろんです!!ドンドン厳しくしちゃってください!!」 - 66二次元好きの匿名さん25/10/06(月) 00:24:36
今日はお姉ちゃんに勝てなかった。
だけどまた、ここからもう一度頑張りたいと思える。
あたしのプロデューサーさんと一緒に。
だから
「これからもよろしくお願いしますプロデューサーさんっ!」
「もちろんです」
そう言ってわたしの座る椅子の前で中腰になって目線を合わせた。
「あなたをトップアイドルにしてみせます」 - 67二次元好きの匿名さん25/10/06(月) 00:27:04
これにて完走です。
読んでくださった方々もお疲れ様でした。 - 68二次元好きの匿名さん25/10/06(月) 00:39:13
あとがき的なものを残せればと。
今回の趣旨としては「学マスのゲームシステムをプレイヤー目線でストーリーにしたらどうなるか」を実験したものになります。
学マスはもちろん課金要素もあって強いキャラやサポカもありますが、始めた時の素直な感想は「やった分だけ上手くなる」でした。
プロデューサーレベルやアチーブメントの解放、それによるスキルカードの解放でドンドン育てるアイドルが強くなります。
それが面白いことに、他のキャラを育てても担当を育成する時にメリットになることが多くありました。
そこでそれらをなんとか上手いことこねくり回して今回のストーリーをでっち上げました。
同じキャラを育成してメモリー増やすのをループにしてみたり、あとはくそ分かりづらい表現でフォローしたアイドルのメモリーを使う機能とか。
咲季と佑芽を選んだのは、元々咲季の「偽物の天才の最後の悪あがき」というフレーズに落とされゲームを始めたのですが、途中から「これもしかして佑芽を最強にすることが咲季のためになることなんじゃ・・・」とリトバスの恭介みたいな思考になったためです。
他にもこういうの書いて見たいなぁっていうのはいくつかあるので、もっとゲームをプレイしてキャラ造形を深めてから再トライできればと思います・・・。 - 69二次元好きの匿名さん25/10/06(月) 09:50:14
完走おつです!
あからさまな伏線が回収されてニヤニヤしてたら予想外のところから刺されたりして楽しかった、特に冒頭のぼかされてた描写とか…
マジで面白かったし、シナリオ進めきってないときにしか書けないものもあると思うのでこれからもいっぱい書いて(強欲) - 70二次元好きの匿名さん25/10/06(月) 10:09:56
こんなくそ長いものに最後までお付き合いいただきありがとうございます・・・。
伏線については分かりやすいものと後半まで分かりづらいもので分けてはいて
わかりやすいもの→基本的に他キャラで回す、育成でいうサポカの扱い
種類が集まるほど予想がつきやすくなる的な意味合い
本当は全員出したかったんですけど、あまりにも解像度が足りない子もいて流石に失礼かなと
清夏のくだりはサポカでいうSSR扱いなので2回出しました
わかりづらいもの→メインで回す
個人的にこういうの好きだから
みたいな感じです
- 71二次元好きの匿名さん25/10/06(月) 10:28:25
あとこれを見てくださっている方がいればですが、ss読みたいキャラとかいますかね?
誰の育成に力入れようか迷ってるんで、せっかくだったら一緒に解像度も上げられればと
あと初しか育成ストーリーはまだやっていません
初星コミュは頑張って読みます - 72二次元好きの匿名さん25/10/06(月) 16:51:06
このループもの構成ならリー清が見たい!ネタバレになるので理由は言えないけど…
でも一番は主の気に入った子で書いてくれるのを読みたい
始めた経緯を聞くに、手毬、星南、リーリヤあたり好きになるんじゃないかと勝手に思ったのでよかったら育成してみて - 73二次元好きの匿名さん25/10/06(月) 21:07:36
実は何もオーダーなければ次に書こうかと思ってたのがリー清でした・・・。
ただリー清と言うなの清夏の話になりそうな気はしておりますが
まだサポカ以外で清夏を触ったことがないので今から育成してみます
確かに星南は結構好きですね
手鞠とリーリヤはまだ一周しかしてないのでこれから次第かなと
- 74二次元好きの匿名さん25/10/06(月) 23:26:52
- 75二次元好きの匿名さん25/10/06(月) 23:57:49
いえいえ、寧ろこんなわかりづらいものにわざわざ質問していただいてありがたいです・・・。
精神世界的なところで旧咲季に向けてアンコールが送られる箇所があったと思うんですけど
あそこの声援は本当は旧咲季に向けられていたものではなくて、今生きている新咲季に向けられたものです。
H.I.Fに優勝した新咲季へのアンコール時に、主人公Pが育成した旧咲季がメモリーとして新咲季の力になって、新咲季がより強いアイドルに成長できます。
そのおかげで、それまではこれ以上Pがついたままの佑芽がこのままだといつか咲季を超えると判断していた世界が、咲季の方が強いと判断しなおしてPがバグと判断されずに元の世界に戻ることができたという解釈です。
メモリー機能もなんとか落とし込めないかという考えと、この展開を両立させるためにこのようにしています。
正直自分でもかなり苦しいこと言ってるとは思います・・・。
- 76二次元好きの匿名さん25/10/07(火) 09:37:33
それではssをまたどこかのタイミングで書ければと思います。
その時はもし暇でしたら読んでもらえるとありがたいです。
次はあんまり長くないの書きたいな