- 1二次元好きの匿名さん22/04/27(水) 03:55:55
「スカイ、お誕生日おめでとう!」
「いえーい!ありがとうございまーす☆」
トレーナー室にやってきたスカイを迎え入れる。今日、4月26日は彼女の誕生日。とっても特別な日に祝福を。
「さて、本日はJKセイちゃん初めてのお誕生日でございます。大人なトレーナーさんにつきましては、それに相応しい物をご用意されていると存じておりますが……」
「ご期待に添えるかは分かりませんが、プレゼントはご用意しております」
「さすがトレーナーさん、好感度アップでございます」
「その好感度、結構上がった気がするんだけど、今どのくらい?」
「ヒ・ミ・ツ☆」
スカイと出会ってかれこれ4年目、中等部だった彼女は高等部になった。相変わらずちょっと小柄だけど、しっかり成長した彼女の姿は……何というか、感慨深いものがある。あのおじいさんも大喜びだろう。
「プレゼントはまあ、練習後に渡すよ。しっかり頑張ってくれよ〜?」
「なるほど、頑張れば頑張るほど良いものが貰えるんですね?ものすごく張り切って取り組みますね〜?」
「……了解!」
「無理なら無理って言いなよ、にゃはは〜」
……ちょっとだけ素直になった彼女に、敵わなくなってきているかもしれない。 - 2二次元好きの匿名さん22/04/27(水) 03:57:09
「ふいー、今日も頑張ったねー」
「お疲れ様。はい、タオルとドリンク」
「これがプレゼント?」
「まさか!」
すっかり夕暮れ。ただ、日の落ちが遅くなってきたか。他愛もない会話をしながら、練習を終えていく。
「それじゃあ、着替えたらトレーナー室で」
「はいはーい」
「あ、入る前にはノックをしてくれよ」
「……期待してますね?」
一旦別れ、トレーナー室へ戻り、彼女を祝う準備を始める。
そこまで大掛かりなことは出来ないけど、少しは凝ったことをやりたいものだ。
大急ぎで飾り付け、机の配置を変えて、小物もこれでいいかな?あとこれは、直前まで冷蔵庫に入れておいて……でも刺すだけ刺しとこう……。
よし、今出来ることはできた。彼女が来るのをじっと待ち──静かな部屋に、ノックの音が鳴り響いた。
「入っていいですかー?」
冷蔵庫から机の上へ移動させる。ライターで火を灯し、部屋の電気を消して、準備万端。
「はい、どうぞ」
いつもよりゆっくりと、扉が開かれた。 - 3二次元好きの匿名さん22/04/27(水) 04:02:44
「いえーい!サプラーイズ!」
「おおー、テンション高めですねトレーナーさん!クラッカーまで鳴らしちゃって。そして、そこに佇むそのシルエットは……!」
「勿論、用意してきたよ」
スッキリ片付けられた暗い部屋の中、ポツンと置かれた机の上。2本並んだ数字のロウソクは優しい光を放ち、小さなケーキを照らし出している。そう、バースデーケーキ。誕生日といえばコレだろう。
「さっそくですが1曲歌わせていただきます。手拍子と共にご清聴ください」
「はーい♪」
「ハッピバースデートゥーユー──」
一緒に手拍子をして、それに合わせてバースデーソングを歌う。スカイの顔に浮かぶ、とってもキュートな満面の笑みを見て、心が満たされていく。
やっぱり笑顔が似合うなあ。やって良かった。
「──ハッピバースデー、ディア、セイウンスカイ〜。ハッピバースデートゥーユー!おめでとう!」
「えへへ……ありがとう、トレーナーさん♪」
「どういたしまして」
歌い終わった。となると、やることは決まって1つだけ。
「さあさあ本日の主役様、どうぞロウソクをお消しになって下さいな」
「どうもどうも、それでは吹かせていただきます……ふーっ!」
「ナイス火消し!いい勢いだったよ。まだまだ子供だな?」
「あっ!ひどい!好感度0からやり直し!」
「はいはい、プレゼントどうぞ?」
「仕方ない、今のは無かったことにしてあげましょう」
「調子がいいなあ。まあ、そのルアーで釣りを楽しんでくれ」
「ありがと、トレーナーさん。今度釣りに行っちゃう?」
「どうも?暇なときに行こうな」
いい吹きっぷりに和みながら、電気をつけ、プレゼントを手渡した。プレゼントは、彼女が欲しいと言っていたルアー。直接『今欲しいものは?』と聞いたから、誕生日プレゼントの話だって感づいていただろう。変なもの渡したくないし、これでいい。 - 4二次元好きの匿名さん22/04/27(水) 04:08:10
「ふふふ、それじゃあこのケーキちゃんをいただいちゃいましょうかねえ」
「どうぞ召し上がれ。ちなみにキャロットケーキだよ」
「ほうほう?いいセンスですな〜。では、いただきまーす♪」
フォークで切り分け、口に運んでいく。味の方は如何だろうか。
「どう?美味しい?」
「……うーん、砂糖と塩を間違えてますね、これ」
「えっ、嘘!?」
そんなはずはない──とは、言い切れない。けれども味見もしっかりして、問題なかったはずだ。どうして、砂糖と塩が違うだなんてスカイは──
「冗談ですよ、とっても美味しいケーキですね」
「あ、なんだ……」
冗談か……まったく、どうしてそんなタチの悪い冗談を──
「ホントに自分で作ったんですね、このケーキ。パッと見で確信できなかったから、揺さぶっちゃった」
「……そういうことかあ、ビックリした……」
心臓に悪いから勘弁してくれ。騙そうとして、見破られた訳だけれども。
そう、このケーキはお店で買ったものではなく、手作りのケーキ。意外とセンスがあったみたいで、見た目だけはそこそこ上手く取り繕えるレベルになれた。
しかし、どうしてスカイは手作りケーキであると確信に近いものを持っていたのだろう。
「……ケーキ作りの練習をしてるって知ってた?」
「うん、私の耳に入ってくる情報は色々あるってこと。他のトレーナーさんたちに話してたんでしょ?そこからあれよあれよ、と」 - 5二次元好きの匿名さん22/04/27(水) 04:11:27
「ああ……」
しくじった。相談がてら話をした訳だが、そこから出回ってしまったか……まあサプライズ用とは言わなかったし……トホホ……。
「それにしても、どうしてわざわざ練習したんです?いや嬉しいんだけど、結構大変だったでしょ?」
「それに関しては、まあ……ヒミツってことで……」
「トレーナーさんらしくないですね、ヒミツだなんて。人の誕生日を祝うために頑張った理由を話せないって、どうなんですかー?」
「……去年クリスマスが理由、というかきっかけだよ」
有馬記念の前に、スカイがサプライズを用意してくれたあのクリスマス。スカイの誕生日を祝う、そう考えたときに、あの日のことが頭をよぎった。
「あんな風にサプライズしてみたり、ちょっと手作りのものを用意してみたいなって思ってさ。それだけだよ」
「……トレーナーさんも子供っぽいとこありますねえ」
「まあまあ、スカイのいい笑顔が見れたしね」
「どうも?見たくなったら、また作ってくださいね」
そう言ってケーキを頬張るスカイ。あっという間に食べ尽くしてしまった。小ささもあるけれど、ちゃんと美味しいものが作れただろう。
……少し気恥ずかしいけど、良かった。 - 6二次元好きの匿名さん22/04/27(水) 04:15:44
「ごちそうさまでした。いやー良い一日ですなあ。年中誕生日だったらいいのに」
「1ヶ月後にはおばちゃんだな。そんなことより、今日はこれでもう終わりだから。早めに終わった分、家族の人とお話してきて」
「……気を遣ってくれるのは嬉しいんだけど、一言余計じゃないですか〜?」
「今度は、ケーキに免じてもらって」
「ダメです。はい、目をつぶって?」
大人しく目を閉じる。……俺もだいぶ失言が増えてきた気がする。スカイの扱いに慣れてきた、と言うのは勿論だが。最近、彼女に気を許してしまうことが多くなったかもしれない。信頼は大切だが、超えてはいけない部分もある。……彼女に釣られてはいけない。素直になってくれるのは嬉しいが、戒めないとな──
「ばーん!」
「うわっ!?」
──突然、炸裂音が鳴り響いた。
「あははっ、ビックリした〜?」
「ビックリした……」
クラッカー、どうやらそれを鳴らしたようだ。俺が用意したクラッカーの余り物はカバンの中にある。それを取り出したとは思えないし──スカイが、自分で用意したものだ。
「今日のメインイベントはまだ終わってないと思うんですよ。と言うわけで──ハッピーバースデー、トレーナーさん☆」
「──忘れてた。ありがとう、スカイ」
「自分の誕生日を忘れるトレーナーさんはおじさんですね〜?」
「ははは……」
年を取ると、自分の誕生日がどうでも良くなるとか、何だとか。本当かもしれない。まだ30にもなってないんだがなあ……。
「残念ながらサプライズはこのぐらいだけど、プレゼントは机の上にありますから。それじゃ、また明日〜」
「また明日も頼むぞ〜」
「は〜い。釣りの約束も、お願いしますね〜」
そう言って、彼女はやけにそそくさと寮へと帰っていった。 - 7二次元好きの匿名さん22/04/27(水) 04:17:05
机の上には、スカイが置いていった封筒があった。とても気になるが、先ずは片付けをしよう。
飾り付けたものを外し、机や椅子を元の場所へ。
掃除は一度始めると、案外熱が入るもので、元通りどころかキレイになった。
一段落ついたところで、スカイからのプレゼントを思い出した。
横型の封筒を開くと、中には1枚の手紙──ではなく、チケットのような紙が入っていた。
【☆セイちゃんが1日だけ素直になる券☆】
……何だこれ。注意書きも書いてある。
【※好感度80以上の人のみ使用可能です】
『その好感度、結構上がった気がするんだけど、今どのくらい?』
『ヒ・ミ・ツ☆』
……上限はいくつだろうか。
裏面にも書かれているとこがあった。
【これからもよろしくお願いします】
……どうしよう。
彼女に釣られてはいけない。そう戒めたばかりなんだが。
──ちょっとどころじゃなく、敵わなくなってきている。 - 8二次元好きの匿名さん22/04/27(水) 04:19:34
- 9二次元好きの匿名さん22/04/27(水) 04:51:27
ビビった……怪文とか言うからどっかでとんだホラーと化すのかと