- 1ぬし25/10/09(木) 16:51:04
- 2ぬし25/10/09(木) 16:52:20
【これまでのあらすじ】
絶海に囲まれた八つの島、ラウト地方。
元ロケット団のルッコラは相棒のニドラン♀と漂着した一つ目の島、ヴォルケ島で逆進化について研究するオトナシ博士とその娘ラフランに出会う。
光石の病という奇病にかかったルッコラは治癒を目指して博士親子とともに巡礼の旅に出ることに。
無事に二つ目の島、フェーゴ島にたどり着き巡礼を終えた今、ルッコラは会って間もない島民の少女ユッカと結婚させられようとしていた。 - 3ぬし25/10/09(木) 16:53:18
《登場人物紹介》
〈オトナシ研究所〉
・ルッコラ
主人公。元ロケット団員だったがなんやかんやでラウト地方に流れ着いた。一見クールだが本性は臆病で小物な残念イケメン。
「こうなっては 仕方ない さあ やってやれ ニドラン……あれ? ニドラン どこ行った!?」
・ラフラン
ルッコラの旅の同行者。いまいち頼りない男性陣を支えるしっかり者。
「ようこそ オトナシ研究所へ! ……とは言っても お父さん 消極的だから いつまで経っても 『仮設』のままなんですけどね」
・オトナシ博士
オトナシ研究所の所長でラフランの父親。逆進化学の研究をしている。死ぬほど気が弱い。
「アッスイマセン…余所者でスイマセン…」
〈ヴォルケ島〉
・アイビ
ヴォルケ島の若き島長。なんでか知らんが主人公に一目惚れしたらしきヤンデレ。
「…やっぱりあなたは違う…」
- 4ぬし25/10/09(木) 16:53:30
〈フェーゴ島〉
・バン
フェーゴ島の島長。喋り方がとても分かりにくい。
「島とは竈であり、竈とはすなわち人ならん」「誰も…裡に炎を閉じ込めて居るがゆえ」
・ユッカ
バンの養女にして次期島長。ほんのり因習村の香りがする元気いっぱいお転婆娘。
「……あんた さては よそからのシカクだな!?あたしが 叩きのめして サンカクにしてやる!!」
〈クラウン団〉
・エッダ
クラウン団の団長にして自称・ラウト王国の王。王様らしく態度はでかい。
「余はエッダ=フォスタ・レ・サンダ・ラウト・ミストルティン!偉大なるラウト王国の王である!!」
・レオノチス&ルナ
群体マニアのレオノチスと悪戯好きなルナのコンビ。敵がいたら囲んで殴る。
「?数なんて多い方がいいでしょ?」
「ね、キミ、ビックリした?ビックリした?怖いでしょ、怖いでしょ!」
- 5ぬし25/10/09(木) 17:21:02
「之より、試練突破者ルッコラならびに次期島長ユッカの婚礼を執り行う」
「………………はぁ???」
晴天の霹靂というにも程があるぞ。
なんじゃそりゃ、という顔でルッコラがぽかんと口を開けたまま固まる。
「はっ?婚礼?え?俺と?ユッカの?…えっ???」
ルッコラの頭上を埋め尽くす「?」マーク。いきなり今日出会ったばかりの幼い娘と結婚しろと言われたのだからさもありなん。一方でもう一人の当事者であるはずのユッカは平気な顔で「どうしたルッコラ、体調悪いのか?」なんて小首をかしげて聞いてくる。
「いや…逆になんでユッカはそんな何でもないみたいな顔してるんだよ!?バンさんの話聞いた?今日出会ったばっかの知らん男とお前を結婚させようとしてるんだぞあのオッサン!?」
身振り手振りを交えて必死に説明するルッコラ。ところがユッカは彼の焦りようにいまいちピンと来ていないというか、そもそも何が問題なのかもわかっていない様子だ。
「え?知ってるけど…あんたは外の人間なんだからこれがフツーだろ?」
「これ俺がおかしいの???」 - 6二次元好きの匿名さん25/10/09(木) 17:30:49
たておつ
うーん認知の歪み - 7ぬし25/10/09(木) 18:16:07
「突然のことで驚かせてしまいましたね」
いまだ困惑が隠せないルッコラに、バンの側に控えていた島民が代表して話しかける。
「ですが、これも島のしきたりですから。どうぞお受けください」
「しきたりって…この婚礼とやらが?」
「ええ」
頷く島民。ますます訳がわからない。何がどうしたら島に来た異邦人を無理やり婿入りさせるなんて慣習ができるんだ?目を白黒させることしかできないルッコラだが、それでもなんとかずっと気がかりだったことをバンに問いただす。
「ていうか!さっきから気になってたんだが、島長の印章は!?巡礼が終わって祝宴も終わって、これで印章使って病を治せるんじゃなかったのか!?」
「…祝言が纏まらば、すぐにでも」
バンが短く答えた。ユッカはそれを聞くと無邪気な声でルッコラに言う。
「だってさルッコラ!あんたも病で時間がないんだろ?印章もらうためにさっさと祝言済ましちゃおう!」
さっさと済ましていいもんじゃないだろ、とルッコラは大声で突っ込みそうになるがすんでのところで飲み込む。どうせ言ったってこの娘には分かりやしないだろう。
そんな彼の気持ちを知ってか知らずか、島民がおごそかに口を開いた。
「呪われていない外の血は非常に有り難いものです。どうかその高貴さをいたずらに散らすことなく、永遠にこの地で。フェーゴ島の娘と縁を結び、清らかな血の恵みをお授けくださいませ」
島民の言葉はどこか儀礼めいていて、言っていることの半分はよくわからなかった。だが漠然と、自分の理解を超えたおぞましい何かが彼らの中でうごめいていることだけが感じられた。
「フェーゴ島一同、巡礼者様を心より歓迎いたします。さあ、その娘の手を取り、婚姻の誓いを」 - 8ぬし25/10/09(木) 18:17:03
だんだん因習村テイストが強くなる
ルッコラの返答>>13まで安価どうぞ
- 9二次元好きの匿名さん25/10/09(木) 18:25:20
断る
俺は結婚なんて望んじゃいないし、七つの巡礼が残ってる
そもそもオトナシ博士とラフランはどこへ行った - 10二次元好きの匿名さん25/10/09(木) 18:26:56
流石に逃げ出すには多勢に無勢すぎる
ここは一度受け入れて、ついでに探りつつ夜逃げするしか…… - 11二次元好きの匿名さん25/10/09(木) 18:55:30
そりゃ断る
ラフランちゃんとオトナシ博士にも何かしたんじゃないだろうなって詰め寄る - 12二次元好きの匿名さん25/10/09(木) 18:56:49
婚姻すんだら印章くれるらしいし…ここはずる賢くとりあえず受け入れる
それはそれとしてオトナシ博士達はどこいった? - 13二次元好きの匿名さん25/10/09(木) 19:18:09
- 14ぬし25/10/09(木) 19:22:44
- 15二次元好きの匿名さん25/10/09(木) 19:33:36
流石は夜逃げ経験者、判断が早い
- 16二次元好きの匿名さん25/10/09(木) 19:41:13
- 17二次元好きの匿名さん25/10/09(木) 19:44:01
あっちが勝手に押しつけてきただけだろーが!!
- 18二次元好きの匿名さん25/10/09(木) 20:14:55
- 19二次元好きの匿名さん25/10/09(木) 21:11:55
今更だけどスレ絵自作か
めっちゃ可愛い…ユッカのロコンかな? - 20二次元好きの匿名さん25/10/09(木) 21:22:02
どういう基準でスレ画に選んでるんだろうな
- 21ぬし25/10/09(木) 21:32:09
正直、気乗りはしない。
だがこれを断って婚姻を拒んだところで、その後自分の病やその他もろもろがどうにかなる未来が見えない。
「(…ま、ここは適当に受け入れたフリしとくのが得策だよな)」
他に方法がない、というのもあるが。まずは病を治すのが先決だ。形だけ結婚して印章を授かってしまえばこちらのもの。あとはさっさと夜逃げでも何でもすればいい。悲しいかな、その手の処世術には慣れている。
なんてユッカに若干失礼(?)なことを考えつつ、ルッコラはようやくまとめた考えをオブラートに包んで口から吐き出した。
「…わかったよ。誓いの言葉は?」
「巡礼者様のお好きなように」
相変わらずなにも分かっていないような顔をしているユッカの手を取る。見れば、その小さい手にきれいな爪紅が塗られていた。やんちゃなユッカが自分でやったはずもない、丁寧に整えられた子供らしくない艶やかな赤に何とも言いがたい生理的嫌悪を感じる。
「じゃあ適当に。…ええとなんだ?病めるときも健やかなるときも……なんだっけ、続きは忘れたけど、とりあえず」
そこで一旦言葉を切って、ルッコラがしらじらしく言う。
「ユッカと婚姻を結ぶことを誓います」
「おう!これからよろしくな!」
真っ白い無垢の角隠しの下で、ユッカが歯を見せてにかりと笑った。 - 22二次元好きの匿名さん25/10/09(木) 21:38:20
手持ちも増えて今度は美人な嫁まで手に入れるなんて…なんて幸運…
- 23二次元好きの匿名さん25/10/09(木) 21:40:09
各地にこういう女が居ると何かと便利って言うしまぁ好都合か(カス)
- 24二次元好きの匿名さん25/10/09(木) 21:53:35
まだ恋愛的に何も攻めれてないアイビさんがすでに周回遅れになっちまった
- 25二次元好きの匿名さん25/10/09(木) 21:59:44
ま、まあ権利のために結婚して即離婚したジャンプ主人公もいるから…
- 26ぬし25/10/09(木) 22:12:22
「…では、必要な儀礼は済みし故。印章の儀を」
ぱちんと扇を鳴らしてバンが言うなり、大きな波が引いていくように十数人ほど残っていた島民たちがはけていく。残るはルッコラにユッカとバン、それと二、三人いる付き人らしき島民だけだ。先程までみんなルッコラの一挙手一投足を食い入るように見つめていた姿が嘘のようである。
「ルッコラ殿、手を」
バンが突然ルッコラに呼びかける。ルッコラは当惑しながら「えっあっはい」とユッカの手を握っていた両手を離しバンに差し出す。「…出すは片手で構わぬ」とやや呆れたようにバンが言い、ユッカにからかわれながらルッコラは慌てて片手を下げた。バンはそれを見てひとつ頷き帯にかけられた印籠に手をやる。
取り出されたのは手のひらにすっぽり収まるくらいの、古くて小さい金属板だった。その表面には…炎を象っているのだろうか?特徴的な紋様が彫られ、ひんやりとしているのに焼けた鉄のような不思議な質感を覚えた。
バンが差し出されたルッコラの手首を捕まえる。
「いささか焼けつくぞ、堪えよ」
そう言われてルッコラが身構えるのと同時にバンが金属板を彼の手の甲に押し当てた。
「……っ!?」
一瞬、手の甲が燃えてしまったのかと錯覚した。感じる焼けつくような熱と、それが広がっていく感覚。肌を焼かれる痛みだけがいっさい感じられないのが不気味だった。
手の甲から熱が伝わっていく。腕を伝って肩へ、胸へ、心臓の奥深くまで届いたら、今度は血流に乗って全身の隅々まで。じゅう、と何かの焼ける感覚がして、背中と腹に感じていた鱗のごわつく感触が一瞬にして消えた。
「…終われり」
気付いた時にはもう押し付けられた印章は手を離れていた。
代わりにうっすらと、炎に似た紋様だけが手の甲にぽつりと残されていた。 - 27二次元好きの匿名さん25/10/09(木) 22:25:45
なんか入れられてない?
- 28ぬし25/10/09(木) 23:05:38
「病の快癒おめでとうございます」
儀式の余韻に浸る間もなく、島民の上機嫌な声がルッコラの意識を現実に引き戻す。
「これでルッコラ様も立派な島の一員ですね。まことにめでたい限りです」
いや、儀式を済ませたら即帰る予定なんですが…とはさすがに言えないので、ルッコラは曖昧に笑ってお茶を濁す。満足げににこにこ笑む島民。間に立っているバンの表情は、相変わらず覆面に隠されていて分からないが。
「ではお屋敷に帰りましょう。ご安心を、ルッコラ様の部屋はすでに空けてございます」
「あたしがお布団敷いといたんだぞ!」
ユッカが自慢げな顔でルッコラの袖を引く。ルッコラはあれよあれよと引きずられながらふと振り返り、そういえば、とあることを思い出した。
「バンさん、連れは結局どこ行ったんすか?こんな夜遅くになっても来ないなんてさすがに心配なんですけど…」
バンは答えなかった。
「…バンさん?」
不安げに揺れる声で、ルッコラが再度問う。もしかしたら聞こえていなかっただけかもしれないという一縷の希望を込めて。
十数秒の時間を置いて、やっとバンが答えた。
「…案ずることは無し。其方の連れたる助手の少女も、海の香する博士も、傷ひとつ無く留め得れば」
「…何を言ってるんですか?」
ルッコラの問いにバンは答えなかった。ただ小さく掠れた声で、ひそやかに言った。
「…其方さえこの島に結びおけば、かの二人も共に留まらん…同じ籠の中とはいえ、無理に安住を強いるよりは、自ら望んでさする方が…」
彼の放った言葉の意味を噛み砕いている間に島民はさあさあとルッコラの背中を押してくる。
「屋敷にお戻りなさいませ。今宵は雨が降るようですから、お身体を冷やされる前に」
「ちょっ待っ、俺まだ船に荷物とか取りに行かなきゃいけないからさ、いったん港に戻らせて…」
「まあまあそうおっしゃらずに」
ユッカが袖を引っ張るのに合わせて島民たちが揃って退路を塞いでくる。その有無を言わさない彼らの圧に、ルッコラの背にぞわりと寒気が走る。
自分はもしかして、とんでもない選択をしてしまったんじゃないか?
後悔するのも束の間。ルッコラはフェーゴ島の島長の屋敷に引き摺り込まれていった。 - 29二次元好きの匿名さん25/10/09(木) 23:08:12
やばいって
助けて!ヤンデレアイえもーん! - 30ぬし25/10/09(木) 23:28:29
ーー
中身をくり抜かれたカメックスの甲が宴席の真ん中にどかりと鎮座している。中身は客人ひとりひとりに配られた羹(スープ)の皿の中にあった。
外のものは有難いから、呪われていないから、その御身を取り込むことで自身も炎病から逃れようと。そんな忌々しい慣習が今よりなお色濃く残っていた時代。
ちらりと男は隣の婦人の方を見た。
彼女はフェーゴ島ではないどこか、異国にみられる意匠のほつれたドレスを纏っていた。左手の薬指に見える指輪。不自然に膨らんだ腹。それに取ってつけたような花嫁衣装が上着だけ掛けられているのに、酷いアンバランスさを感じた。
おえ、と婦人がえずく。
その吐き気は悪阻だけのせいではあるまいと、他人事のような同情心が湧いた。
彼女の椀を下げてくれと側仕えに頼んだ。待ちかねたように伸ばされた手がさっと彼女の椀を奪った。あまりに可哀想だったので、自分の椀も下げてもらった。
どうすればいいのか分からないまま婦人の背をさすり続けた。彼女はずっと嗚咽していた。それでも婦人が落ち着くまで、せめて隣に居てやった方がよかろうと思った。
下げられた二人分の羹を台所番たちが奪い合って食っているのが視界の端にちらりと移って、扇を広げて自分たちの視界を塞いだ。
彼女から燃え移った気持ち悪さがたえず腹の底で煙を吐いていた。
ーー - 31ぬし25/10/09(木) 23:29:23
- 32二次元好きの匿名さん25/10/09(木) 23:31:21
神の祠のもう少し奥
- 33二次元好きの匿名さん25/10/09(木) 23:52:25
屋敷の地下
- 34二次元好きの匿名さん25/10/10(金) 05:58:30
神の祠
- 35二次元好きの匿名さん25/10/10(金) 06:00:29
集落にある祠の奥
- 36二次元好きの匿名さん25/10/10(金) 06:10:29
神の祠の奥
- 37二次元好きの匿名さん25/10/10(金) 06:28:26
- 38ぬし25/10/10(金) 08:47:49
- 39ぬし25/10/10(金) 17:13:14
「どうやって抜け出したもんかなぁ」
巡礼路の奥の奥、洞穴の檻の手前にて手足を檻にくくりつけられたラフランが虚空を見上げながら呟く。
物資の補充と観光のためルッコラと別れ、町へ買い出しに行ったはいいが。まさかこんな風にとっ捕まってしまうとは。このラウト地方で完全に安全な島なんてないと分かっていたのに、油断しすぎたと重い息を吐く。
「リリーラ、なんとかできない?」
檻からとうてい手の届かない距離に置かれた、自分たちのモンスターボールを見やってラフランが呼びかける。相棒のリリーラが入ったボールが呼びかけに答えてかたかた揺れるが、ボールは縄できつく縛られていて開きそうもなかった。「だめそうかぁ」と落胆するラフラン。まあこの程度で解ける拘束なんてあの連中がするとも思えないけれど。
「…うう…はっ!?」
「あ、お父さん起きた?」
「ラフラン!?こ、ここは一体どこなのですか!?あれ、と、というかなぜワタクシたちは手足を縛られて…!?」
そこで先ほどまで気を失っていたオトナシがようやく目を覚ました。捕まったときにだいぶ強めに頭を殴られていたから大丈夫かと心配していたが、どうやら命に別状はなさそうだ。
「私たち島の人たちに監禁されてるんだよ、お父さん」
「かかかか監禁!?ドウシテ!?」
「知らないけどそうとしか言いようがないでしょこの状況は。どうする?ここだいぶ山奥みたいだから助けが来るかも怪しいし、ほらあそこ。モンスターボールも没収されちゃったみたいだし」
オトナシが起きたことに相棒のウオノラゴンが気付いたのか、縄で縛られたダイブボールがガタガタと物音を放つ。中で暴れているようだが、残念ながらボールの蓋は厳重に閉じられていて開きそうにない。
「ああウオノラゴン、そこにいたのですね…じゃない!あわわわわどうしましょう、これ絶対なんかろくでもない事件に巻き込まれてますよね!?だだ大丈夫ですかラフランあの連中に何かされてたりしませんか!?」
「落ち着いてよ、私は大丈夫だって…今のところは」
なんとか拘束を解こうと手足をばたつかせるオトナシをラフランがやや自信なさげに宥める。
そのときだった。
「…待ってください。この物音は?」 - 40二次元好きの匿名さん25/10/10(金) 17:30:55
物理でモンスターボールを封じちゃうタイプだ
- 41ぬし25/10/10(金) 18:35:55
それは暗闇の底にずっと横たわっていた。
違う。
『それ』自体が暗闇そのものだった。
「……ひ…っ!?」
檻の中から聞こえる音に気付いてしまったラフランが声にならない悲鳴を上げる。
それは何十もの視線でラフランたちを見下ろしていた。嘲笑いながら。憐れみながら。怒りながら。慈しみながら。燃えかすの灰と骨でできた外套を被った闇が、がりがりと壁を引っ掻いている。音のない怨嗟の声を上げて。
ラフランは咄嗟に息を止めた。否、息をすることさえままならなかった。いま空気を吸い込んだら、『それ』の黒い灰までもが肺腑に入り込んでしまいそうだったから。
「…ぁ…あ…」
呆然と見つめ返すことしかできなかった。
それはずっとラフランたちを恨めしそうに睨んでいた。何度も何度も灰にまみれた腕を伸ばして、彼らを中に引き摺り込もうと、檻を壊して腕を掴もうとしてくる。
幸か不幸か、ついぞ『それ』が檻を破ることはなかった。
それはしばらく檻の外のラフランたちをじっとりと見つめては格子を引っ掻いていたが、この狂ったように貼られたお札のせいか、どうやらそれは檻を越えて外へ出ることはできないようだった。それは諦め悪くまた何度か格子を引っ掻いたあと、また元の暗闇へとゆっくり戻っていく。 - 42ぬし25/10/10(金) 18:53:07
「…な…なんなのあれ…!?あれは人間…には見えないし…ポケモン?でもあんなのどこの図鑑にも…」
『それ』が去ってやっとまともに話せるようになったラフランが抑えがちに呟く。彼女の足が本能的にこの場から離れようと地面を掻くが、硬く結ばれた縄はほどけそうにない。半ば恐慌状態のラフランに対してオトナシは『それ』の去った空間を見つめながら何事かぶつぶつ呟いていた。
「灰、というより砂状粒子の集合体…多量の人骨らしき骨片、この島に生息しない鋼翼類の風切羽に電鼠目の頭骨…新種と呼ぶには既知の構成要素が多すぎる…あれが進化可能性の多重表出?いや、それにしては…」
…と、彼はそこで正気に戻ったようだ。ぶるりと大きく首を振り、オトナシは思考を中断する。
「…こんなこと考えてる場合じゃありません!ここに留まるのは危険です、早く脱出する方策を考えなくては。はぐれたルッコラ君のことも気がかりですし」
オトナシは隣でまだ震えているラフランになるだけ穏やかな声で語りかける。
「…ラフラン。ラフラン、大丈夫ですか。落ち着いて、ゆっくり息をしてください」
「……う、ん…」
ラフランの呼吸が少しずつ元のペースに戻っていく。オトナシはそれを確認するとひと息ついて、檻の中の化け物を起こさないように注意しながら周囲をきょろきょろ見回し始めた。
「使えそうな道具は…ない。縄も簡単にはほどけなさそうですね。格子の方を外そうとしてもあれの封印が解けてしまってはたまりません。となると…」
オトナシは不自由な体勢のままラフランの方に首を伸ばして、ぐいと頭を彼女の手元にやる。
「あ、口だけならラフランの手の縄に届きそうですね。ラフラン、ワタクシがあなたの手の縄を噛み切るので我々の縄を解いてもらえませんか?」
「…お父さん、緊張が限界超えると一周回って冷静になるとこあるよね」 - 43二次元好きの匿名さん25/10/10(金) 19:55:42
何…?ミミッキュ…?
- 44二次元好きの匿名さん25/10/10(金) 21:06:34
砂状粒子の集合体で人骨…?電気鼠…?正体が何かわからねぇ…
- 45ぬし25/10/10(金) 22:25:37
ところは変わって島長の屋敷にて。
ユッカに連れられて割り当てられた自分の部屋(かなり広い)に足を踏み入れてから小一時間。登った月が沈み始める夜更け頃であるがルッコラはまだ眠れずにいた。
「やばいやばいどうすんだこれ、光石の病を治したはいいけど屋敷に連れ込まれちまったし船を動かせる博士たちは見つからないし、どうやって島から出りゃいいんだ…」
「ん〜ルッコラうるさい、ねむれないだろ〜」
「ごめんねぇ!」
布団の上でひとり頭を抱えるルッコラがヤケクソ気味にユッカに謝る。なんだってこの少女はこんなにも呑気なのだろう。きょう島に来たばっかりのルッコラに訳もわからず嫁がされて。今だって、仮にも夫婦?になったとはいえよく知らない成人男性と同じ部屋、一緒の布団で寝かされて。というかなんで無駄にだだっ広いのに布団が一枚しかないんだこの部屋。
「多分わざとなんだろうけど…相手の年齢一ケタ台だぞ、思惑がグロ過ぎんだろ…」
「なにがだ?」
「いやいい。ユッカは知らなくていい」
軽い頭痛を覚え、ルッコラは手で額を押さえながら首を横に振る。とうてい十にも満たない少女に聞かせられる話ではないだろう。夜遅いんだから良い子はもう寝てなさいとユッカの腹に布団をかけ直し寝かしつけようとするルッコラだが、彼女が目を閉じたのを見て再び考え込み始めようとした矢先、ユッカの口からはっきりと言葉が発せられる。
「ルッコラはあたしとケッコンするのいやか?」
一瞬、ルッコラが言葉に詰まる。なんと答えればよいのか、いきなり核心に近いところを突かれて戸惑いが先に来てしまう。
「嫌っていうかそれ以前に…あり得ないだろ色々と、初対面だし年齢差たぶん10は超えてるぞ?普通に犯罪だが?」
「だめなのか?外のひとでも?」
「ああ、駄目…だと思う」
「ふーん」
ユッカはやはりいまいちピンと来ていない様子だ。生まれた時からフェーゴ島で過ごしていると一般常識が抜けてしまうのだろうか。
「じゃああんたがさっきから悩んでるのってさ、そのせい?あんた的にあたしとケッコンがダメだから?」
「…いや、それもあるけど…」 - 46二次元好きの匿名さん25/10/10(金) 22:28:42
犯罪者が倫理を語っている
- 47ぬし25/10/10(金) 22:49:02
「ユッカんとこの家のやつら、ていうかこの島の人間ってさ…多分、俺がユッカの旦那になってこの島にずっと住むのを望んでるんだろ?」
そう言われるとユッカはきょとんと首を傾げながら返す。
「望んでるっていうか、それがアタリマエだろ?ルッコラはもう島の人間なんだし」
「そうそれ!そういうとこ!いや俺はさ、ずっとフェーゴ島に留まってるつもりは無いんだよ。用事が済んだら博士たちと元の島に帰る予定だったの」
ユッカはしばらく寝ぼけ眼でルッコラの話を咀嚼している様子だったが、何度か目を擦って「ふむふむ」と頷くと、ドヤ顔で思いついた推理を披露する。
「なんとなーくわかったぞ!つまりあんたはこの島にずっと居なきゃいけないのがイヤなんだな!」
「まあそんなとこだ」とルッコラが肯定。ユッカがしたり顔でにんまりと笑む。「で、今はあたしとのカンケーがあるから島を出れなくて、ルッコラはそれで困ってるんだよな」とユッカ。思いのほか理解力の高い彼女に驚きつつ相槌を打つルッコラだが、本当に驚かされるのは次の発言だ。
「じゃ、やめよう!ケッコンするの!」
…えっ、いいの?
思わずそう溢してしまいそうになった自分は悪くないと切実に主張したい。
「…えーと…そんなあっさり決めちゃっていいのか?その、もっと段階というか…」
「いんじゃない?だってあんたケッコンのせいで困ってるんだろ」
「そうだけども…」
離縁をユッカの一存で決められることなのか、他の島民がそれを許すのか、とごちゃついた考えが頭をよぎるが、ルッコラはいったん考えないことにした。
「じゃあ俺とユッカはこれで離婚ってことか」
「リコンてなんだ?キュウコンの進化前か?」
「順序的には離婚より求婚の方が先じゃね?」
「…うんん?」
「いや、今のは俺が悪かった。とにかく夫婦が結婚をやめるのを世間じゃ離婚っていうんだよ」
「わかったリコンね!あんたとあたしは今日でリコンだ!」
婚姻成立から一日足らずで離婚が決まった。展開が早い。 - 48二次元好きの匿名さん25/10/10(金) 22:51:07
これでバツイチやね
- 49二次元好きの匿名さん25/10/11(土) 00:36:08
- 50二次元好きの匿名さん25/10/11(土) 06:56:39
これであとは二人を探し出して島から逃げればいいか…?
ほんとにそんなうまくいくか? - 51ぬし25/10/11(土) 08:32:12
「そいじゃルッコラ、元気でなー」
外側から掛けられていた鍵を外し、あっさりルッコラを屋敷の外へ見送ろうとするユッカに彼がふと思い出したように話しかける。
「…あ、そういやユッカ。ちょっと聞きたいんだが」
「なんだ?」
「どっかでオトナシ博士とラフランを見かけてないか?探してるんだけど見つからなくて。夜の間、どっかうろついてたりしてなかったか?」
大して期待もせずに投げかけた質問であるが、この娘、「ああ、あいつらな!」と手のひらを打つととんでもない爆弾を投げ返してきた。
「バンが捕まえたって言ってたぞ!いつもの巡礼道の祠のとこに繋いであるって」
「ちょっと待て」 - 52ぬし25/10/11(土) 08:32:41
思わず話を止めたルッコラに「あんたの言いたいことはわかってるぞ」と言うユッカ。本当にわかってるのか?
「ルッコラはあいつらと一緒に帰らないとだもんな。なんとかしてカイコンしてもらわなきゃ」
「お、おう…カイコンって『解放』のこと言ってるのか?」
「そうそれ!」
ちゃんと言いたいことを分かってくれてはいたらしい。あんまり状況がよくなった気はしないがひとまず胸を撫で下ろしてユッカに尋ねる。
「もしかして、ユッカにも何か考えがあったりするのか?俺たちで博士たちを助け出せる方法だったりとか」
「うん!」
ユッカが元気よく答える。
「あいつらを捕まえたのはバンなんだぞ?だったら簡単だ!バンに頼んで、捕まえるのやめてもらお!」 - 53ぬし25/10/11(土) 08:33:28
ここから自由行動です
ルッコラの行動>>58まで安価どうぞ
- 54二次元好きの匿名さん25/10/11(土) 08:43:17
目を盗んで解放するにはあまりに力不足すぎる
バンさんと真っ向からやり合って勝てるはずもない
多分ユッカの対応で忙しいだろうバンが居ないうちに、見張りの人間にダイレクトアタックして無理やり通るか…… - 55二次元好きの匿名さん25/10/11(土) 09:47:21
祠に向かう
- 56二次元好きの匿名さん25/10/11(土) 09:53:54
例のメラルバを探す
拉致して上手いこと誘導してウルガモスに暴れてもらってその隙に博士達を逃そう - 57二次元好きの匿名さん25/10/11(土) 10:21:35
ウルガモスに暴れてもらおう
あわよくばメラルバ持ち帰って - 58二次元好きの匿名さん25/10/11(土) 10:30:26
- 59ぬし25/10/11(土) 10:41:56
- 60二次元好きの匿名さん25/10/11(土) 10:43:41
外的要因ないととてもじゃないけどバンさんと戦えんし…なんやあの厨パァ!
- 61二次元好きの匿名さん25/10/11(土) 10:54:35
言うほど誘導できるか?
- 62二次元好きの匿名さん25/10/11(土) 18:41:40
バンの手持ち
・コータス
・ソウブレイズ
・キュウコン
今のルッコラだけじゃ勝てないからな… - 63二次元好きの匿名さん25/10/12(日) 01:13:18
保守
- 64二次元好きの匿名さん25/10/12(日) 09:03:38
保守
- 65ぬし25/10/12(日) 11:49:25
「えっ…それ大丈夫なのか?」
ルッコラが少し怪訝そうに聞き返す。
「バンさんって一応この島の長で、一番えらい奴なんだろ?そんな簡単に…」
「だいじょーぶだって。バンは何だかんだあたしに甘いから、きっと聞いてくれるよ!」
「ほんとかな…」
少々心配ではあるが、まあ仲間の解放を手伝ってくれるのはありがたいか。
「バンはこの時間いっつも祠のとこで『カミサマ』のお世話してるぞ!話しに行ってくる!」
「なら俺もついて行くよ。どのみち博士たちがいる場所と同じ方向だ」
ふたりは息を殺して部屋から抜け出し、夜の巡礼道へとひっそり歩いて行く。 - 66ぬし25/10/12(日) 12:30:35
「(とはいえ本当にバンさんがユッカの話を聞いてくれるものかね…)」
巡礼道のふもとを登りながらルッコラがひとり考え込む。ユッカはああ言っていたが、部外者のルッコラから見てフェーゴ島の「外の人間を取り込む」ことにかける執着は異常だ。ましてその島長のバンが、娘の頼みだからといって外の人間であるオトナシやラフランをそう簡単に解放してくれるものだろうか。
仮に説得が通じなかったとして、ユッカとバンが話している隙にこっそり彼らの拘束を解ければよいが、それにバンが気付かないとも他の島民が邪魔しないとも限らない。もしそうなってしまったときに切り抜けるだけの実力もルッコラは持ち合わせていない。
「(せめて何かあいつらの注意を引けるような目くらましでもあればいいんだがな)」
その手の道具は前職で多く扱ってきたが、あいにく今は持ってきていない。こんな事ならちゃんと島に来る前に準備しておくんだったと後悔しつつ先へ踏み出しかけたそのとき。
ふと、ルッコラの足が見えない何かに引っ張られるように森の方を向いた。 - 67ぬし25/10/12(日) 12:30:56
「…え、なんで?」
虚空に向けてルッコラが呟いた。まるで自分で自分の考えたことに疑念を持っているようだった。
「どうしたんだルッコラ?」
「ああ、いや。今日見つけたメラルバを探しに行くんだ。連れて行って、もし交渉がダメそうだったらあいつの親をけしかけて、その隙に博士たちを助けに行こうって」
ルッコラの口が勝手に動いた。なぜかユッカは反論するようなそぶりを見せなかった。そのまま彼は暗い森の中へ、見えない糸に引っ張られるように歩く。
いや、何を考えてるんだ、俺は?
彼が心の中で呟く。
あのメラルバの巣がどこにあるかも分からないのに、というかあのメラルバを見つけたとてそこで親のウルガモスに襲われないとも限らないし、そもそもメラルバでウルガモスを釣って都合良く島民たちだけを襲わせることなど現実的に可能なのか?危険なだけでまったく当てにならない策ではないか。
不安が胸にぐるぐる渦巻きつつ、なぜか迷いのない足取りでルッコラは森を進んでいくが。
「いるんだ…」
メラルバの巣はあっさり見つかった。都合よく親のウルガモスは留守、昼に出会った色違いのメラルバと兄弟であろう一回り大きな個体は巣の中で仲良く眠りこけている。
ルッコラはそのうち一番弱そうな個体の胴を掴んで掬い上げた。少し揺れたが、仔メラルバが起きる様子はない。
「捕まえられるんだ…」 - 68二次元好きの匿名さん25/10/12(日) 12:43:01
誰の意思なのぉ…こわいよぉ…
- 69二次元好きの匿名さん25/10/12(日) 12:47:18
そりゃあもう高次元の意志ですよ
- 70二次元好きの匿名さん25/10/12(日) 15:59:55
ここ一番のホラーでは…?
- 71二次元好きの匿名さん25/10/12(日) 22:41:47
怖過ぎる
- 72二次元好きの匿名さん25/10/13(月) 06:08:53
保守
明らかに第三者の意思が介在してて怖い