- 1125/10/10(金) 19:14:15
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- 3二次元好きの匿名さん25/10/10(金) 19:17:57
登場人物・用語解説
◯魔術使い
ヒトと共に暮らし、ヒトより高い身体能力と特別な術『妖魔法術』を有する希少で特別な生き物。
容姿はほぼヒトと変わりないが、中には獣の耳や尾を持つ個体も。
◯魔術科学園
魔術使いが強力かつ安全な魔術の使い方を学ぶ為に入学する公立の学園。
日本には札幌校、渋谷校、名古屋校、大阪校、高松校、福岡校の計六つがある。
中高大一貫校で、学年は九つ。
◯夏伊勢也(なついせいや)(13)(♂)
先端が赤く染まった白い短髪に金の瞳、チーターのような獣の耳と尻尾を持つ魔術科学園名古屋校の中等部二年生の男子。
暴れん坊だが明るく天真爛漫な性格で、嫌いなことから逃げるのが得意。
◯鳴神新(なるかみあらた)(16)(♂)
紺色と薄水色の長髪に紫の瞳、ユニコーンのような耳と尻尾、角を持つ魔術科学園名古屋校の高等部二年生の男子。
美しい容姿を活かしてモデルとしての活動をしており、穏やかな物腰とは裏腹に非常に自分に対してストイックである。
◯鴨橋立(かものはしだて)(16)(♂)
前髪のみがオレンジ色に染まった白い髪、青い瞳、カモノハシの尻尾を持つ魔術科学園名古屋校の高等部二年生の男子。
おちゃらけた性格で、どんな時も騒がしく賑やか。
◯得田家路(とくたいえろ)(16)(♂)
センター分けにした黄色い髪に紺色の瞳、虎の耳と尻尾を持つ魔術科学園名古屋校の高等部二年生の男子。
常に論理的かどうかを重視し、非科学的なことに弱い。 - 4二次元好きの匿名さん25/10/10(金) 19:23:51
◯東海望(とうかいのぞむ)(18)(♂)
紺のメッシュが入った白い髪にオレンジの瞳、羊の角を持つ魔術科学園名古屋校の高等部三年生。
元生徒会長で、自分のことがとにかく大好きなナルシスト。
◯鮫島光(さめじめひかる)(19)(♂)
灰色の髪に緑のメッシュと瞳、サメの尻尾を持つ魔術科学園名古屋校の大等部一年生。
口が悪いので誤解されやすいが、本当は面倒見が良くて優しい。
◯初雁隼(はつかりしゅん)(15)(♀)
先端が水色に染まった銀の長髪に右が青で左が金の瞳、ユキヒョウのような耳と尻尾を持つ魔術科学園渋谷校の高等部一年生。
北海道にある剣術の名家初雁家に双子の妹の狛と共に生まれており、剣術の達人。
真面目な性格だが、時に年頃の女子らしい一面も。
◯初雁狛(はつかりこま)(15)(♀)
先端が赤に染まったツインテールの黒髪に右が金で左が青の瞳、クロヒョウのような耳と尻尾を持つ魔術科学園渋谷校の高等部一年生。
隼とは双子の姉妹だが、姉とは違って剣術よりもおしゃれやランチが好き。
◯獅子賀煌輝(ししがこうき)(15)(♂)
センター分けにした銅色の髪にライオンのような耳と尻尾、赤い瞳を持つ魔術科学園渋谷校の高等部一年生。
誰に対しても用心深い性格で簡単に信用しようとせず、仲良くなることは難しい。
◯雲雀椿樹(ひばりつばき)(13)(♂)
コーラル色のインナーカラーが入った茶色のふわふわとした髪に柴犬のような耳と尻尾、緑色の瞳を持つ魔術科学園渋谷校の中等部二年生。
初雁家に代々仕えている雲雀家の出身で、隼と狛は幼少期から従者として奉仕してきた幼馴染。
右目が長い前髪で半分ほど隠れているが、非常に怖がりで臆病な主人や勢也などの信頼している人物以外にはそれを頑なに見せたがらない。 - 5二次元好きの匿名さん25/10/10(金) 19:25:16
上郷山陽(うえさとさんよう)(18)(♂)
青のメッシュの入った灰色と黒の髪に緑の瞳、褐色の肌、龍の尻尾を持つ魔術科学園大阪校の高等部三年生。
必要最低限なことしか話さず、助詞をよく省略しているので言いたいことが伝わらないことも。
桜燕(さくらつばめ)(16)(♀)
漆色と白の髪にピンクの瞳、燕の尻尾を持つ魔術科学園福岡校の高等部二年生。
ボーイッシュな容姿だが、男に間違われることは少ない。 - 6二次元好きの匿名さん25/10/10(金) 19:25:21
桃太
レス禁止 - 7二次元好きの匿名さん25/10/10(金) 19:26:51
【第十八話】また会えたね、こだま
- 8二次元好きの匿名さん25/10/10(金) 19:28:01
ある日の中部国際空港にて。
魔術科学園名古屋校軽音部の六人は、飛行機の滑走路に面したデッキの金網にクモのようにしがみついていた。
父の建設関連の仕事の都合で、去年台湾へと去って行ってしまった七人目の部員―――零こだま(れいこだま)が本日日本に帰ってくるのだ。
知り合いの水雨洲貝(みうすかい)さんに空港まで案内してもらい、入った矢先にデッキに滑り込み血眼となって飛行機を探す。
「どれだ、どれがあいつの乗ってる飛行機だ!?」
「探せ! 降りてきた時誰よりも早く真っ先に気付いてもらうんだろ!!」
「あれじゃない? なんか韓国〜って感じの色がするし!!」
「何だよ韓国〜って感じの色って!!」
「ほら赤とか、青とか、黄色とか、緑とか、紺色とか、オレンジとか、紫とか………」
「それはほぼ虹ではないか!!!」
「えへへっ、まさにRainbowColorful Palletだね!」
「上手くねぇんだよ。」
そうやって言葉を交わしながら、真面目に………しているかどうかはさておき軽音部の面々はその姿を探した。
その時、その場に背後からコツコツと近づく何者かの音がした。
その足音の持ち主は勢也達を見て、気前よく明るく声を掛けた。 - 9二次元好きの匿名さん25/10/10(金) 19:28:44
ある日の中部国際空港にて。
魔術科学園名古屋校軽音部の六人は、飛行機の滑走路に面したデッキの金網にクモのようにしがみついていた。
父の建設関連の仕事の都合で、去年台湾へと去って行ってしまった七人目の部員―――零こだま(れいこだま)が本日日本に帰ってくるのだ。
知り合いの水雨洲貝(みうすかい)さんに空港まで案内してもらい、入った矢先にデッキに滑り込み血眼となって飛行機を探す。
「どれだ、どれがあいつの乗ってる飛行機だ!?」
「探せ! 降りてきた時誰よりも早く真っ先に気付いてもらうんだろ!!」
「あれじゃない? なんか韓国〜って感じの色がするし!!」
「何だよ韓国〜って感じの色って!!」
「ほら赤とか、青とか、黄色とか、緑とか、紺色とか、オレンジとか、紫とか………」
「それはほぼ虹ではないか!!!」
「えへへっ、まさにRainbowColorful Palletだね!」
「上手くねぇんだよ。」
そうやって言葉を交わしながら、真面目に………しているかどうかはさておき軽音部の面々はその姿を探した。
その時、その場に背後からコツコツと近づく何者かの音がした。
その足音の持ち主は勢也達を見て、気前よく明るく声を掛けた。 - 10二次元好きの匿名さん25/10/10(金) 19:29:05
「よっ! 六人揃って金網にへばり付いて何しとるん?」
「!?」
聞き慣れた関西弁。その声も、イントネーションも間違いない。
あいつそのものだ。
嬉しさと緊張の入り混じった感情を抱きながらその場を振り返ると、そこにはあの時のままのこだまが―――にこやかに微笑みながら立っていた。
「ああ、邪魔してもうたか? カブトムシごっこ。ワイのことは放っといて、引き続き楽しみーや。」
このジョーク、この小生意気さ。
あれから一年も経過するというのに、何一つ変わっていやしなかった。
「久しぶりやな。戻ってきたで、欠けた虹の色。」
半年も経たずいなくなった虹の色、北斗七星の一角。
笑いたいはずなのに、何故だか涙が止まらなくなる。
ちゃんと笑うって決めたのに、泣いてしまうだなんて情けない。
「こだま、こだま………。」
「………。」
「………………こだま〜〜〜っっ!!!!!!」 - 11二次元好きの匿名さん25/10/10(金) 19:30:05
我慢のできなくなった勢也は、思わず助走をつけて彼女の元へ飛び込み、そのまま一線で抱きしめた。
「こだまっ!!!」
「何や暑苦しい!! 離れんかい、もう〜!!」
口ではそう言いつつも、その表情に怒りは見られなかった。
抱きつかれて何だかんだ、満更でもなさそうなこだま。
他の五人もその様子を暖かく見守っており、ほのぼのとした空間が広がった。
彼らはこだまに抱きつきたいと思わない。
わざわざ触れ合わなくとも、その温もりを当然のように感じることができたからだ。
「………さてと!!」
「?」
勢也はこだまを抱く腕を緩めると、今度は彼女の腕をエスコートするように掴んだ。
そして誓うように言った。
「こだまに名古屋のすげーとこ、片っ端から全部見せてやるよ。」
「そんなの、見たことあるもんしかおらんわ!」
「バーカ、〝オレ達と〟見たことはただの一度だってないがろうがよっ!!」 - 12二次元好きの匿名さん25/10/10(金) 19:31:06
こうして七人の流星は、名古屋の名所を巡る旅に出た。
目指すはこだまを満足させ、日本にいられる最後の刻まで徹底的に楽しいで埋め尽くすこと。
彼女が満面の笑みを浮かべた状態で帰りの飛行機に乗ることができれば勝ちだ。
まず一同は名古屋城へと向かった。
「やっぱいつ見てもけっこいなあ〜。」「だろ?」
頂上に輝く一対の金の鯱がシンボルで、その荘厳ある姿と壮大な存在感を存分に楽しむことができる。
創建当時の「隅櫓」が三棟現存しており、国の重要文化財にも指定されている。
聳え立つその姿は眺めるだけで睨み付けられているような感覚を覚え、かつてその藩主だった者が如何に雄大で偉大だったか思い知らせてくる。
一行はその城とその歴史に敬意を払い、落ち着いて鑑賞したいと思った。
しかし………「うぇぇぇええいっ!!!」
チャポッ、チャポッ、チャポッ、ボチャン!!
名古屋校の凪いだ美しい堀に、数人の観光客が投石をしていた。
彼らが飛沫を上げボチャボチャと音を立てるせいで、雰囲気がまるで台無しだ。
「注意するか?」「放っとけ、関わったら馬鹿菌が感染る。」
残念だが不敬な愚か者は何処にでもいる。仕方なく彼らは名古屋城を後にし、次の観光地へと向かった。 - 13二次元好きの匿名さん25/10/10(金) 19:32:07
次に七人は、名古屋の名物であるとんかつを食べに赴いた。
「おおっ! 美味いもん食べられそうやわあ。」「おうよ、期待だけで終わらせねーぞ!」
名古屋では全国的に知られるメニューに創作を加えた料理が特徴で、濃厚な味付けと個性の強さが共通した特徴として知られている。
八丁味噌という赤味噌が古くから使われてきており、地元の味噌文化を活かした料理としての郷土色の強さが名古屋らしさを感じさせてくれる。
店員の迅速な接客と対応によって、全員の元にあっという間に届けられた。
「「「いただきま〜す!!」」」
はむっ、もぐ、もぐ、もぐ………「「「………ん〜、美味しい!!」」」
名古屋ならではのカリッと揚がった味噌カツスタイルに甘み・コク・深みのある味噌ダレがよく絡み、濃厚でもそこにくどさがなく過度な脂っぽさがないバランス。
肉自体が柔らかくジューシーで脂身と赤身の天秤が保たれており、ご飯やキャベツ・味噌汁などの付け合わせも充実し定食として満足感のある。
七人はその味わいを、概ね楽しみ気に入り始めた。
しかし………「オエッ! オボッ!! オボボボババババッ!!!」「!?」
向かいの席にいた客の一人が、腹を壊したのかその場で嘔吐をしてしまった。
「あちゃー………。」「俺の働いてるレストランでもたまにあんだよな、あれ。」
「体調を崩したのは気の毒だけど、食欲が水をかけられた火のように失せるね。」
食べる気分でなくなった一同はとりあえず自分の皿を空にすると、そそくさと会計を済ませその店をすぐさま去って行った。 - 14二次元好きの匿名さん25/10/10(金) 19:33:08
続いて七色の虹が次に目をつけたのは、愛・地球博記念公園。
「えらい広いなあ!」「ああ、だが広いだけじゃねぇんだぜ!!」
モリコロパークとも呼ばれるそこは、約十年以上も前の二千五年に開催された愛知万博 通称愛・地球博長久手会場の跡地に開設された公園だ。
勢也達は当時生まれていないか幼かったが故に行く術はなかったが、名古屋の万博は自然の叡智や持続可能な未来というテーマが時代のニーズとマッチし、最新技術や環境技術を駆使した展示も相まってそれはそれは凄まじい盛り上がりを見せたもので、当時の魔術科学園はブルーム・レースの全国大会に出場する生徒にそれコラボしたデザインのスポーツウェアの着用を全員に義務付けたほど。
その熱狂は万博が時代の流れと共に去って行った今でも色濃く残り、それを後世に残すことを目的として跡地に作られたのがこの場所で、自然と文化、遊びと学びが融合した漸進的且つ画期的なスポットに東海地区最大級とされる約八十八メートルの観覧車、人気アニメの世界観を再現したテーマパークが非常に人気を博している。
一同………というより勢也とこだま、そしてそれ以外は愛知県児童総合センターでのびのびと遊ぶことにした。
と言うのも、実のところその二人以外はそれに対しあまり乗り気ではなかったのだ。
施設内中央にあるチャレンジタワーに力強く登り、そこから勢いよく………いや、フルパワーの三分の一ほどで駆け降りていく。
「たあああぁぁぁのしいいいぃぃぃ!!!」
「全力で身体を動かすってええなあ!! テンション上がってくるわあ本当に!!」
「何が全力で楽しいだ馬鹿野郎共。ここは本来子供の場所だぞ、お呼ばれでない俺らが力全開で遊んでいいわけねぇだろうがよ。」
「えっ、そうなのか?」
「光の言う通りだぞ二人とも。現に貴様らも子供に当たらぬよう速度をかなり抑えているだろう。」
光と望の鋭いツッコミが炸裂する。
「ボクちょっとここで遊ぶの恥ずかしくなってきたかも………。中等部の勢也くんですら、ここだとかなり大きなお友達だよ。」 - 15二次元好きの匿名さん25/10/10(金) 19:34:11
橋立のその意見を受け、一同はやむを得ずその施設に背を向けた。
勢也とこだまは内心もっと遊びたいと思ってはいたが、彼の持つ意思を尊重した。
………先ほどから運が悪いのか、失敗ばかりしている気がする。
名古屋城でも、とんかつ店でも、ここ記念公園でもしたこと全てが裏目に出た。
(このままじゃ、こだまを全然楽しませられず今日が終わっちまうぜ………。)
そして軽音部が次に向かったのは、観光地でも何でもない特に派手でもない家路の家。
去年の夏休み、皆で演奏の練習をした一同の思い出に残っている場所だ。
目的は家路のテレビに繋ぎ、皆でビデオゲームをすること。
行うのは人気のアクションレースゲーム。
七人がテーブルタップを使い、同時に各々のゲーム機をテレビに繋いだ瞬間………
ブチッ。
あっという間にブレーカーが落ち、辺りが黒一色になってしまった。
「えっ、もう夜になっちゃったの!?」「な訳ねえだろ、電源の許容量超えてんだよ。」
基盤が古くなっているようで、その手の知識を持たない七人にはどうすることもできなかった。
結果四人と三人のチームに分かれて交代でプレイすることになり、虚しさの残る結果であった。 - 16二次元好きの匿名さん25/10/10(金) 19:35:17
最終的に四人は、オアシス21とMIRAI TOWERの見える広場へと流れ着いた。
橋立と望は美しい景色にはしゃぎ、どこに投稿するでもなくパシャパシャとスマホで写真を撮りまくっていた。
勢也も本来ならそういった状況下においてははしゃぐ側の性格の人物ーーーなのだが、今はそのような気分ではないらしく黙ってひたすら俯いている。
「………。」「?」
彼の怪訝な様子に真っ先に気付き、頭に疑問符を浮かべるこだま。
沈黙が続いたが、やがて勢也が重い口を開ける。
「………こだま。」
「何や?」
「なんかさ………悪かったな。」
「えっ?」
勢也がポツリ、それに困惑するこだま。
「名古屋校ではバカ共に雰囲気壊されて、とんかつ店では吐瀉物見せられて、明らかに対象年齢じゃない児童総合センターで無理にはしゃがされて、ゲームだってまともにできなくて………オレがしようぜっつったこと全部、裏目に出ちまっただろ。」
「………。」
「生まれてからずっと住んでる場所だから誰よりも魅力を知ってるし、誰より上手い案内ができる………そう思ってたはずなのに、こんなボロボロなツアーになっちまって。」 - 17二次元好きの匿名さん25/10/10(金) 19:36:26
が通り抜ける。
こだまは無言のまま、勢也の前に立つ。
「………やっぱ、怒ってんのか?」
「………。」
怒りとも取れる姿勢で無言を貫いていたこだまは、唐突に動き出して勢いよく彼に近づくと、その頭をぐいっと両手で持ち上げた。
「謝らへんといてや!」
「!?」
思わず目を見開く勢也。その瞳に、真っ直ぐな笑顔が映った。
「わいは今日一日、勢也はんのおかげですっごく楽しかったんやで。」
「………え?」
「たしかに予定はボロボロやった。でもな、ずっと笑ってたんや。全部、あんたと一緒やったから。それで十分やろ?」
こだまの言葉に、胸がじんわり熱くなる。勢也は小さく息を吸った。
「それにな―――」
こだまはリュックを開け、ミニアンプとストラトを取り出した。
軽音部なら、歌で締めるべきやろ! - 18二次元好きの匿名さん25/10/10(金) 19:37:27
こだまが叫んだその瞬間、まるで合図だったかのように、オアシス21のガラスドームの向こうから誰かが駆けてくる足音が聞こえた。
「ったく、お前らだけでええとこ持ってくなよ!」
そこへ現れたのは先ほどまでこちらのことなどお構いなしに楽しんでいたはずの新、橋立、家路、望、光。
「置いていかれるかと思った〜。二人ともいい感じの雰囲気出してズルい!」
「まあな。部の創設者が頭下げとるとこ見て、黙っとられへんかったんや。」
勢也は思わず笑ってしまった。
「お前ら、なんでここに――」
「リーダーが心底悔しそうな顔してたら、分かるって。」
凛が小さく笑って、手をかざす。すると彼女の指先から小さな魔法陣が広がった。光が瞬き、空間がぐにゃりと歪む。
「封印解除、『サウンド・ディメンション』」
その呪文と共に、空中にぽっかりと開いた異空間の中から、彼らの楽器がひとつずつ浮かび上がる。ベース、ギター、キーボード、そして折り畳み式のドラムセットまで。
「よっしゃ、出番だな。」
涼介が笑いながらドラムスローンに腰を下ろし、スティックをくるくると回した。
「セッティング完了。いけるよ!」
「じゃあ、次はうちらのターンやな。」 - 19二次元好きの匿名さん25/10/10(金) 19:38:38
勢也がマイクを構えた。
勢也とこだまが視線を交わし、軽くうなずき合う。
全員が構えたその瞬間、風が音を連れて吹き抜け、名古屋の夜に七色の音が炸裂する準備が整った。
「アン、ドゥ、トロワ、それっ―――!」
光と音が重なり合い、その空間が即席のライブ会場へと変化した。
〜 〜 〜
翌日の朝、軽音部の面々はそれぞれの家のベッドの上で目を覚ました。
もうこだまはいない。
父に連れられ、新たな居住地である台湾に帰ってしまったからだ。
またしばらく会えなくなるのが、悲しくないとは言わない。
傍らにいるに越したことはないし、本当は今だってここにいて欲しい。
でも―――もう大丈夫。
ちゃんと宣言通り最後まで互いに笑顔で見送るがことができたし、それに彼女と過ごした日々の思い出は今も心に宿っているのだから。 - 20二次元好きの匿名さん25/10/10(金) 19:39:38
【第十七話】帰省、ただいま北海道
- 21二次元好きの匿名さん25/10/10(金) 19:40:47
「ね、明日北海道行かない?」
「急にどうして?」
「だってせっかくの夏休みだし何処か出かけたいじゃん! 寮室でゴロゴロしてても勿体ないし。」
「いや寮室でゴロゴロしてるのはあなたでしょ………そもそも何処行くか決めてるの?」
「決めてない!」
「そんなの絶対だめよ。旅行は楽しいけれど時に危険が伴うんだから。それに私達にとって北海道の場合〝お出かけ〟というか〝帰る〟じゃない?」
「そうそれ! 帰るの! 函館にある実家に!! パパに久々に会いたくない? ねえ。」
「そりゃあ会いたい気持ちはあるけど………あんな娯楽も何も皆無な場所、あなたがよく自ら生きたがるものね。」
「実家があってパパがいるなら、娯楽がなくても幸せでしょ!」
「えぇ、あなたがそんなしっかりした思考を持ってるなんて………まあ、それもそっか。」
「外出には従者の同伴が必須とされる決まりだがら、椿樹にも声を掛けておきましょう。あの子もきっと楽しめる………」
「お呼びですか!! 僕がどうかなされましたか!? 先ほど北海道に帰省と聞こえたのですが、本当なら僕も是非同伴したい所存でございます!! 我らが郷である恵みと試練の北の大地………素晴らしいですね!!」
((話が早すぎる………))
「煌輝殿は如何なさいましょうか。あの方も初雁家が実家なようなものですし、共に帰省するのも悪くはないかと………」
「俺がどうしたって? なあ。」 - 22二次元好きの匿名さん25/10/10(金) 19:41:49
こうして夏休みのある日、魔術科学園渋谷校問題解決部の四人は北海道・函館へと赴いていた。
北海道の南端に位置する港町で、自然・歴史・グルメ・夜景など多彩な魅力を持つ観光地―――函館。
日本で最初に港が外国に開かれた地の一つで、外国文化の影響を受けた建築や街並みが随所に色濃く残るのが特徴。
西洋風の教会、洋館、石畳の坂道などが並び、明治〜大正時代の雰囲気が残っており旧函館区公会堂やハリストス正教会、五稜郭などが有名。
そして初雁隼・狛、雲雀椿樹にとっての生まれ故郷であり、そうでない獅子賀煌輝にとっても事実上の実家と呼ぶべき場所であった。
転移装置で函館へ来た四人は、その赤煉瓦の立ち並ぶ街の有する懐かしさと異国情緒感を楽しみながらそれらを見守るように聳え立つ小さな山を登り始める。
萌ゆる翠緑の衣に覆われし斜面を、辛うじて道の体を保っている飛石を踏んで進んでゆく。
勾配を十数分かけて登り終え、そこにある武家造りの和風な屋敷の固く閉ざされた門扉の前に立つ。
初雁家屋敷―――白漆喰で塗られたその塀は静かな風合いを帯びており、派手でこそないが細やかに塗り重ねられたそれには職人の手の温もりが宿る。
塀の上部をなぞるように続く瓦屋根は黒々としたいぶし銀を放ち、丸瓦と平瓦が規則正しく組まれ軽やかな曲線を描いている。
檜の組まれた冠木門の奥には心臓部となる寝殿が鎮座し、そこから広げられた翼のように左右に回廊が伸び、更に枝に生る実の如く諸々の部屋が続いている。
それらが城壁さながらに囲い護るのは、時の止まったような静けさの枯山水と錦鯉の舞う池のある日本庭園。
そしてそれを貫く石畳の道を歩むには、武士の如く猛々しく守りを構える門扉を叩かねばならない。
その光景に四人が感じるのは威圧感ではなく、暖かさを持つ懐かしみであった。
ずっと変わらずその場に在り続け、そして待っていてくれたのだ。 - 23二次元好きの匿名さん25/10/10(金) 19:42:51
「実家のような安心感があるなぁ〜。」
「うん、そりゃ実家だからね。」
コン、ゴンッ。「………………入れ。」
低く重厚な一言。
その場にいないはずの父の声が聞こえるのに、一同が疑問を抱くことはなかった。
「以心伝心の妖魔法術ね。全く、そんな古典的なもの使う必要ないのに。」そう呟くと隼はギギギと音を立て、盾のように硬く厚い門を開く。
門の隙間から糸のように漏れる光が、段々と「面」に変わってゆく。
そして彼女は三人を連れて庭園を貫く石畳を渡り、父の待つ寝殿へと赴いた。
時代劇に出てきそうなその〝和〟の空間は、一年ぶりに訪れれば中々の緊張を味わされる。
椿樹は既に従者としての胸が騒ぎ、掃除をしたくてたまらない気持ちになっていた。
途中で餌を期待する鯉達に寄られれば、微笑みながら妖魔法術で取り出した餌を撒いてやる。「ほら!」
バクッ。バクバクッ。バシャバクバシャッ!
先ほどの舞妓のような美しさが消え、勢いよく波を立てて我先にと餌に群がる。
「うわあ………相変わらず食欲旺盛だねこいつら。何だか魔物の〝かかって鯉〟みたい。」「左様ですね。餌の前でさえなければ、優雅なお姿でおられるのですが。」
「ふふっ。こんな光景も懐かしいわね。一年ぶりに私達に会えて、彼らも嬉しいのかしら?」「さて、それはどうだかな。」どこか疑わしげなことを言いながらも、煌輝のその表情はどこか微笑ましかった。 - 24二次元好きの匿名さん25/10/10(金) 19:43:58
寝殿の前に辿り着いた四人。
隼は先ほどの門扉と同様に、そこに立ちはだかる堅き扉を開く。
キィシイイイィィィ………
そこには 時を超えて受け継がれてきた書院造の和室―――まるで、沈黙の中に語りかけてくるような気配があった。
漆喰の白壁に端正な直線を描く格子窓、その窓を縁取る黒々とした杉材は年月を重ねることで艶を増し、控えめながらも凛とした存在感を放つ。
軒先からは淡い影が差し庭の木々の葉が、僅かに風に揺れてその影を室内に落とし、縁側に面した障子は、和紙越しの光をやわらかく受け止め部屋の内外を美しく分かつ。
障子の向こうに見えるのは、手入れの行き届いた枯山水の庭。白砂に描かれた波紋のような模様と、ぽつりぽつりと据えられた苔むす石が、静謐な調和を奏でている。
掛け軸が、一幅、静かに掛けられていた―――「奮励努力。」
当主直々による力強くどこか華のある筆致、そして筆をとった者の息遣いすら想起させるようなまっすぐでぶれのない運筆が空間の静けさと調和しつつもそこに確かな緊張感を生んでいた。
墨色は時間とともに落ち着いた黒へと変わっていたが、その奥には、燃え立つような情熱がなお息づいているかのようだった。
その言葉は、見る者に語りかける。"ただ静かに佇むだけではなく、内に志を抱け"。"誠実に、ただひたむきに自らを磨け"と。
その下には、竹の一輪挿しに活けられた小さな松の枝。
真っ直ぐに伸びる幹と短く引き締まった針葉が簡素な中にも意志の強さを滲ませ、柔らかな若芽を抱えながらもその姿には未来を見据えるような厳しさと静けさがあった。
「………………よく帰ってきたな。」 - 25二次元好きの匿名さん25/10/10(金) 19:44:59
その声が聞こえた瞬間、静寂が肌を打った。
最奥の一段高くなった上段の間には、ひとりの男が正座していた。
背筋はぴたりと伸び、動かぬその姿からは静の中に凄まじい気配が感じ取れた。
着ているのは深い藍色の着物。その一面に波紋のように広がる青海波の文様が重ねられた時の流れを物語るかのように美しい。
齢は五十を超えているだろうか、黒と銀が入り混じる髪は一本に結えられた状態で整えられ鋭い眉の下にある眼光は闇をも貫く鋭さを宿す。
しかしその目に宿るのはただの威圧ではなく、長い歳月を越えてきた者だけが持つ深い慈しみと静かな覚悟―――それらが、視線の奥に潜んでいた。
その視線の先、部屋の奥に据えられた小さな祭壇に、飾られた一枚の遺影に閉じられているのは穏やかに微笑む一人の女性の姿。
古ぼけた写真でありながら、その眼差しには生前の温もりと気品が色濃く残っている。
彼は一言も発さず、動きもせず、ただその場に座している。
まるで何かを語りかけるように、あるいは、その沈黙の奥に交わされた幾千もの言葉を反芻するように。
だが、その存在はまるでこの広間そのものが人の姿を取ったような圧倒的な存在感を放っていた。
隼らがその姿を見る瞬間口をつぐみ、思わず正した背筋に男の持つ重みが静かにのしかかった。
ここに、「父」がいた。
「久しいな。隼、狛、椿樹、煌輝。」 - 26二次元好きの匿名さん25/10/10(金) 19:46:06
「「「「はぁっ!!」」」」
誰に命じられるでもなく、その場でひれ伏せ地に頭をつける。
額に道南の空気を吸った冷たい畳の感覚が走る。
初雁姉妹にとっては勿論、使用人の椿樹からしてもまさしく神で畏敬を払うべき存在。
研究所生まれの人工の魔術使いであるが故に暮らす家を持たざる煌輝も、実質の実家を与えた彼を心底崇拝していた。
一同にとって付き合いの長く見慣れた人物ではあるが、それでも宗教のごとく敬い尊ぶ心を捨てられはしなかった。
「よい。顔を上げろ。」「「「「感謝します!!」」」」
父の指示で徐々に、それでいて気長に顔を上げる一行。
見上げた視界に映った父はこちらを睨んでなどおらず、郷へと還った子供達を優しく包み迎えているようであった。
「「お父様。ただいま戻りました。」」
「遠出した子供らが帰還した時、言うべきことは何だったか………ああ、思い出した。“お帰りなさい“。」
見上げる我が子の頭を一人ずつ大きな我が手で撫でてやりながら、父は興味深そうに質問を続けた。
「健康で過ごしていたか。渋谷の者達とは仲良くなれたか。向こうの夏の気候は、道南ないし北陸育ちのお前達にとって暑すぎやしないか。」
「………そうか。問題解決部か………………そのような部活動を自ら創設し、悩める人々を助けようと奮闘しているか。素晴らしいことだ。現在のお前達の勇姿、彼女も天国で見ていることだろう。」
父は遺影を眺めながら、僅かに悲しそうにそう言った。 - 27二次元好きの匿名さん25/10/10(金) 19:47:06
その後も四人と父は、近況の話に花を咲かせていた。
魔物との戦闘で尻尾を失ったこと、渋谷校で仲良くなった江楠や伊瑠実のこと、皆で海水浴に赴いたこと。
話したり話されながら見せるその微笑いには、かつての鬼のような厳しさは全く感じられない。
「そうか、果物を盗む悪い魔物を退治したか。良くやった………だが椿樹、尻尾を失ったからと不貞腐れてはいかんぞ。」
「ほう。お前達にも互い以外の気のしれた存在ができるとはな。」
「海水浴………楽しそうな思い出ができたようで何よりだ。奮励に励むのもいいが、そういった愉しみや娯しみも大切にしなさい。」
お前達が幼い頃はそうさせてやれなかったからな―――父はそう、言葉を綴じた。
「私と話すのも良いが、お前達には札幌校の友達がいただろう。会いに行ってやったらどうだ。」
「!!」
父のその言葉に、隼達ははっとさせられた。
確かに彼の言う通り、札幌校には四人と仲の良い何人かの生徒がいる。
当時中等部三年生であった十勝・佐幌・逢犬そして高等部一年生の先輩の来楽。
当初は父に似て厳しすぎる性格だった隼とは仲は険悪で、他校から札幌校に舞い降り悪行三昧を尽くした他三人に至っては蛇蝎の如く嫌悪されていたが、全員が誠実に罪と向き合い働いて償う姿勢を見せ、少しずつ見直していたのだ。
残念なことにようやく仲良くなりつつあった狛らは償いを終えて札幌校を去り、隼も彼らを追うように渋谷校へと転校してしまった。
その実約一年………彼らと今こうして再び会う機会が訪れた。 - 28二次元好きの匿名さん25/10/10(金) 19:48:10
「そういえば、みんな元気にしているかしらね。」
「ほーんと。言われてみれば確かに久々にあいつらに会いたくなっちゃったかも。」
「あの方達には恩もあります。是非、ご挨拶致しましょう。」
「ああ。情けない面持ちになっていたら、皆で笑い物にしてやろうじゃないか。」
四人の意見は完全に一致した。
彼らは各々のスマートフォンで連絡をかけ、ある場所に来るようにと頼んだ。
待ち合わせ場所は―――さっぽろ雪まつり会場。
父に門を出るまで見送られ、一同は初雁家屋敷を後にした。
来た時の麓の転移装置を使い、札幌へといざ赴かん。
「函館と札幌遠いからねぇ〜。」
「実を言うと………その間の行き方は私も分からないの。だから箒に跨って行くことはできないわ。」
「いや行き方知ってたら行けんのかよ。バケモノか?」
「まあ………ここから東京ぐらいまでなら少なくとも道のりは知っているから休みさえ挟めば横断できるわ。」
「バケモノだ!」
そんなやり取りを交わすうちに、いつしか札幌へと辿り着いた。 - 29二次元好きの匿名さん25/10/10(金) 19:49:29
函館とは打って変わって、札幌の街並みは洗練された都会の静けさと四季の表情を同時に抱いていた。
広い大通りを中心に碁盤の目の如く整然と立ち並ぶ街区は、意志を持っているかのように秩序を保ち安堵を与え、夏の今は青々と茂る木々と澄んだ空が調和し、大通公園では色とりどりの花壇が訪れる人々の視界を彩る。
ビルの谷間を縫うように流れる風さえどこか爽やかで優しく、モダンな建築と自然が共存するそこには函館のようなレトロな哀愁とは異なる凛とした美しさがあった。
あくまで静かに、だが確かに―――都会と自然が融合した景観が美しいとされているのだ。
少し遠くには赤煉瓦の城のような隼の母校・魔術科学園札幌校が見える。
「あら?」
その姿は実家と同じぐらいの馴染みがあり、愁眉を開かせてくれた。
四人が歩き始めると、さっぽろ雪まつりの会場はそう遠くなかった。
外から確認できる時点で、そこには中世のヨーロッパの建造物や動物、アニメのキャラクターを模した雪像が整列していた。
ひとつひとつの窓枠や柱の彫刻に、職人たちの魂が宿っているかのようだった。
光を受けて、まるで本物の石のように厳かで凛としていた。
流石は地元民というべきか、現地に着けば既に〝彼ら〟は待ちくたびれた様子でスタンバイしていた。
「あっ、来たな。」
「おーい隼!! それに他のみんなも!!」 - 30二次元好きの匿名さん25/10/10(金) 19:50:32
隼の地元での友達が集い、道路越しにこちらを大声で呼んで歓迎の感情を示している。
待っていた四人はやって来た四人に、手を振って笑顔で出迎えた。
みんなあの頃のままだ。(良かった………。)
来楽に至っては隼達が来たのが相当嬉しいのか、緑と銀の狐尻尾をブンブン振って耳もピクピクさせ興奮している。
「全く―――おい隼、こういうのって普通呼んだ側が先に来るもんだろお前。」
「ごめんって逢犬………どんなに速く移動しても地元民にはどうしても敵わないのよ。」
「そうだよ逢犬くん。でも、実際のところ全然怒ってないんでしょ?」
「とーぜん。呼ばれた時点で喜びまくりに決まってんだろ十勝。」
いくら北海道といえど今は夏、本来なら雪まつりはできない季節だ。
しかし氷結の妖魔法術を使えば、この時期であろうと溶けることなき雪や氷を作ることができる。
故にこの世界では雪まつりは季節を問わず、定期的に行われていた。
八人はさらっと受付を済まし、会場へずんずんと入場していく。
「たっのしっみ〜♪!!」「はしゃぐな恥ずかしい。まあ、気持ちは分からなくもないがな。」 - 31二次元好きの匿名さん25/10/10(金) 19:51:36
入場した後、狛は隣を歩く十勝にするりと手を伸ばしこっそり繋ごうとした。
「手………繋ご? 迷子にになっちゃうよ。」
しかし十勝は反射的に手を引っ込め、言葉を使わずして拒みを示唆した。
「!!」
「えぇ………?」
その瞳に悪意は見られなかった。
見られるのはどちらかと言えば、怯えや恐れに近い感情。
傷心と落胆の混ざり合った感情で氷のように固まる狛に、双子の姉が優しく諭す。
「忘れたの、狛? あなたは悪事を働いて多大な真っ当に生きている人達に被害を被らせたのよ。今は改心して優しい心の持ち主になったことはこの子も分かってくれてはいるけど、それでもいきなりは難しいはず。」
その言葉に同意するかのように、十勝は隼に抱きついた。
「隼ちゃん〜。」
「ちょっと、十勝! しがみつかないでよ暑苦しいっ………」
その光景に狛は思わず嫉妬した。
隼はウチだけのものなのに―――。
そうこうしているうちに、やがて最初の展示物が見えてきた。 - 32二次元好きの匿名さん25/10/10(金) 19:52:38
発音ミク―――バーチャルシンガー。
誰でも歌を作れるソフトウェアとして、声優の歌を元に二千七年に登場した。
青緑色のツインテールを持つ少女のビジュアルが特徴で、その可愛らしさが好評を呼び激しい人気を博している。
当初は訳あって自分が歌うことのできないソングライターの代理として活躍したが、今では発音ミク〝そのもの〟の歌声が求められるようになっていき、知名度は飛躍的に向上した。
その発音ミクの雪像が、段々と視界の中で大きくなった。
衣装は発音ミクの冬バージョンである雪ミクのもの。
最初は何気ない発想から生まれたそれは、札幌のイメージと合っていると皆が段々気付き始め、今では都市を代表する冬の観光・地域コラボキャラクターに成長したのだ。
「あっ、初音ミクの雪像! 隼ちゃん、ミクちゃんって好き?」
「好きかって? さあ………どうかしら。ソフト自体を使ったことはないけど、初音ミクを使って作られた曲をよく聴くことがあるから好きに入る方なんだと思うわ、多分。」
「そうなんだ。ものすごくって程じゃないけど好きなんだね!」
「ええ。ボーカロイドの曲は何故か普通の曲より内容が暗いものが多くて、そういうのを狛とのカラオケで歌ってよく怒られちゃうぐらいには。『せっかく盛り上がりに来てんだからさあぁ〜、もっと明るいの歌ってよぉ〜』って。」
「そうなんだ。確かに狛ちゃんが言いそうなことだね。」
そうやって二人が仲良く話す様子を、狛は妬ましそうに眺めていた。
「ぐぬぬ………何だあのへったくそな物真似は!! 後ろに本人がいるんだぞ!! 失礼だとは思わんのかぁ!! そもそもどうして狛が悪いみたいに言うわけ!? カラオケで盛り上がる為に明るい曲選べって至極真っ当なことしか言っとらんでしょー!!」
口ではそう言う狛だが、その怒りの根源の概ねは結局のところ姉と仲良くしている新しい友達への嫉妬の感情であった。 - 33二次元好きの匿名さん25/10/10(金) 19:54:06
次に一同が謁見したのは、ノイシュヴァンシュタイン城をモチーフとした欧風の巨大な雪城であった。
「おっきい………!!」
「ええ、掃除のしがいがありそうですね。」
「お前の着眼点そこかよ。」
「どうやって作ったんだろうな。重機は熱を発して雪を溶かしてしまうから使えないと思われるが………。」
「表面がやけになだらかだな。切れの良い刃で丁寧に削ぐとああなるのだろうか。」
口々に感想を言う面々。
その感も隼と十勝は、その本物の大理石さながらの美しさ放つ煌めきにうっとりしていた。
「こういうお家に住んでみたいなあ。」
「ねぇ。和風な初雁家も好きだけど、こういうウェスタンなスタイルにも憧れるわ。」
「椿樹くんぐらい優秀な従者を百人ぐらい雇って、美味しいものをたくさん食べながら景色を眺めて優雅に暮らして………」
空想に耽る二人を前に、またも狛はヤキモチを焼いていた。
「同性だからまだいいけど、ああやってイチャイチャしちゃってさぁ〜?」
「また狛のこと蚊帳の外にしやがって………ああもう恋人繋ぎまでして!! その意味分かってんでしょうねぇ!?」
「カップルかよって感じ。もういっそ付き合っちゃえばいいのに、マジで。」 - 34二次元好きの匿名さん25/10/10(金) 19:56:20
続いて一同は、雪でできた本物さながらにピカピカの―――洋式トイレ像を見た。
「うわあ………」
「何これ………誰が何を思ってこれ作ったの? いやマジで。」
「確かに先ほどの城郭同様に研磨されてはいるが、何せ対象物が対象物でな………。」
煌輝の言う通り、確かに表面の滑らかなスマートさや放つ煌めきはあの城と同等。
しかし一行に与えた反応はやはり、あの城と真逆なのであった。
「そんなにダメかこの作品? さっき洋風の城見て喜んでたお前らだから、洋風のものが好きなのかと思ったぜ。」
「これは洋風は洋風でも話が違うだろう、来楽先輩。」
「そうなのか?」
「それとあの城は欧風であって洋風じゃない。一緒にするのは間違ってる。」
「いや同じだろ………」
煌輝と来楽の間で冷静なツッコみ合いが炸裂する。
椿樹は特に汚れてもいないにも関わらず、怪訝な目つきで睨みつけていた。
隼と十勝はまるで恐怖を感じているかのように身を寄せ合い、狛はそんな二人に………少しだけ怒りの感情を抱いていた。
「仲良くなってたった一年で私より隼に懐く十勝ももちろんムカつくし許せない。許せないけど、でもそれ以上にそれを当然のように受け入れる隼の思考回路が許せない!!」 - 35二次元好きの匿名さん25/10/10(金) 19:59:11
その後も八人は会場を巡り、アニメキャラやカップヌードル、野球選手………様々なものを模った雪像を眺めた。
狛以外はその美しさを、面白さを、壮大さを心から楽しんでいた。
その時―――「うぐっ!!」
「「「狛!?」」」
唐突に狛が、悲痛な声を上げてその場に膝をついた。
「何があったの、狛ちゃん!?」
「狛お嬢様、どうなされましたか………これは。」
「これは何なの、椿樹!?」
「寒さ故に体調不良を起こしてしまったようで………」
バサアッ!!
椿樹が言い終わるのも待たず、隼は即座に自身のマフラーとコートを狛にかけてやった。
「―――あったかい。ありがと、隼。でも、どうして? 道産子の隼や椿樹はこうなってないのに………」
「寒さへの耐性には個人差がある、お前らみたいに双子でもな。だから恥じることじゃねえだろ。」
「そっか………よかった。だけど隼は、狛より十勝が大事なんじゃないの?」
「何を見てそう思ったの? 十勝とは久々に会ったからちょっと話で盛り上がっただけよ。片割れの妹のあなたには確かに思い入れはあるけど………十勝も、同じぐらい大切ってだけだから。」 - 36二次元好きの匿名さん25/10/10(金) 20:00:29
それを聞いて笑顔になった狛。
しかし彼女の体調が体調なだけに、一同は初雁家へ戻らねばならなくなった。
雪まつりは楽しいが、身体を壊した仲間を放っておいては楽しむものも楽しめないからだ。
実家で休息を取ったところ、幸いにもほどなくして狛は健康を取り戻した。
自分の不調のせいで帰省が台無しになったと、罪悪感を覚えているようだ。
「ごめん、みんな。狛がちゃんと北国向けの服装してこなかったせいで………」
「謝んなよ狛。お前が一緒なら俺達はどこにいたって楽しいぜ。」
その逢犬の言葉にありがとうと返すも、そのトーンからはやはり自責の念を取り払えていないことが分かる。
隼は雪まつり会場にいた時に狛を放置し、十勝にばかり構っていた自分を思い出した。
そしてそれに対するお詫びの気持ちも込めて、皆にとある提案をした。
「みんな、ちょっとついて来てくれる? 空を飛んで行くから、妖魔法術で箒を出してね。」
「何処行くんだよ。」
「内緒。見て初めて分かった方が楽しいでしょ?」
七人はしぶしぶ部屋を出て日本庭園に並んで立ち、それぞれの箒に跨って構えた。
そして紺色の巨大なカーテンへ向かって、鳥のように飛び立っていった。 - 37二次元好きの匿名さん25/10/10(金) 20:02:14
「函館の街並み? そんなもの見飽きたよ。生まれてからずっと住んでるもん。」
「全くだ。ここに何があるって言うんだ、俺達の知る故もない何かが。」
「いいから!」
函館山の頂から飛び立ち、その宙へと浮かんだその瞬間。
視界に広がったのは、星を散りばめたかのような光の海だった。
「「「「「「「「!!」」」」」」」」
湾に抱かれるようにして眠る街の灯りが、静寂の夜にまばゆく煌めき、まるで天と地が入れ替わったような錯覚を覚える。
風が頬を撫でるたび、遠い潮騒と街のざわめきが微かに耳を打つ。これが『一百万ドルの夜景』と呼ばれる理由なのかと、誰もが息を呑む。
光は言葉より雄弁に、ここに生きる人々の営みを語っていた。
その夜、彼の足は自然と五稜郭へと向かっていた。
星形の城塞が漆黒の闇に浮かび上がるように、濠を縁取る灯りが規則正しく輝いている。
空から降り注ぐ月光と地上に広がる人工の星々、その交差点の上に浮かぶ彼らは、時を超えたような感覚に包まれた。
狛もすっかり元気を取り戻し、にこにこと微笑みながらその光景を楽しんでいる。
かつて志士たちが命を賭けたこの地が、今は静かに、そして平和の灯りを宿す。
夜は更けゆく。だが、この光景はきっと、心の奥に消えない焔として残り続けるのだろう。 - 38二次元好きの匿名さん25/10/10(金) 20:08:44