【ホラー注意】俺たちはまた、知らない場所に迷い込む②

  • 1スレ主◆jCG/LXEbdA25/10/11(土) 22:01:10

    閑古鳥が微かに鳴いている
    月は雲間から少しだけ姿を見せた

    真夜中の小学校は昼間の喧騒が一切なくて
    シンと静まり返っている

    窓の向こうで何かが通り過ぎた

    ただ、それでも、逃げるつもりはないから

    *作品:ブルーロック
    *登場人物:潔世一、黒名蘭世、士道龍聖、糸師冴

  • 2スレ主◆jCG/LXEbdA25/10/11(土) 22:02:25

    このスレは、ブルーロックの登場人物による探索型戦闘ホラーSSです

    舞台は異界化した“小学校”
    気がついた時には、彼らは学校の目の前に立っていました

    ※プレイヤーの選択(安価)や運命(ダイス)によって、ストーリーの進行・視点・結末が大きく変化します
    ※選択肢次第で“ロスト”“発狂”“絆”に分岐します
    ※精神的苦痛(SAN値)管理あり
    ※肉体的苦痛(怪我値)管理あり
    ※取り返しのつかない選択も……あるかもしれません

    *SAN値:0(発狂)/1~5(精神異常中)/6~10(精神異常小)
    *怪我値:0(ロスト)/5~35(重傷)/40~70(中傷)/75~95(軽傷)

  • 3スレ主◆jCG/LXEbdA25/10/11(土) 22:04:25
  • 4スレ主◆jCG/LXEbdA25/10/11(土) 22:05:49

    ■キャラヘイトを目的とするものではありません
    ■キャラsage、腐発言、アンチコメはお控えください
    ■荒らしはスルーします
    ■基本的にとてもゆっくり進行しますのでご容赦ください
    ■感想、質問、イラスト等頂けるとスレ主が大変喜びます
    ■広域ホスト規制に巻き込まれがちです。保守して頂けると幸いです

  • 5スレ主◆jCG/LXEbdA25/10/11(土) 22:09:04

    【登場人物紹介】

    潔 世一(いさぎ よいち)
    初期SAN値:18→15/初期怪我値:100→95(軽傷)※腕に引っ掻き傷(-5)

    熱意と直感で動くエゴイスト。感情に振り回されがちだが、仲間のことは決して見捨てない。そろそろホラーに慣れてきたと思っていたが、全然そんなことはなかった。少しずつ適応してきたため、よく喋り、時にはツッコむ余裕も見せる。

    「13:00遊園地/廃病院ホラー」クリア経験者。
    「廃病院IF」にも登場。
    精神に“ある記憶”が刻まれている。

    ■固有能力
    【空間の支配者】戦闘時、状況を冷静に見極め、自分と味方全員の回避行動を自動成功に変換する(1回限り)。
    【的確な励まし】中傷時、励ましにより味方の異常状態を無効化する(味方2名まで有効)。

    ■所持アイテム
    《ちぎれたかみ》×3:拙い字で『わすれものしちゃだめ』『かげがくるよ』『わすれものしないと、あんしんできるばしょになる』と書かれている。

  • 6スレ主◆jCG/LXEbdA25/10/11(土) 22:12:37

    黒名 蘭世(くろな らんぜ)
    初期SAN値:15→13/初期怪我値:100→95(軽傷)※頬に切り傷(-5)

    淡々とした口調でも、その言葉には確固たる意思が宿る。死ぬほど怖いけど、全員無事で帰るためになんとか頑張る健気な最年少。探索が順調なので、たまに一人で探索することも増えてきたが、やはり怖いものは怖い。

    ■固有能力
    【ポカリの写真】大好きなポカリの写真を見せることで、自分と味方全員のSAN値をランダムで回復できる(1回限り)。
    【惑星の逆行】“見かけの動き”により敵を混乱させ、攻撃失敗者全員のダイスを振り直すことができる(1回限り)。

    ■所持アイテム
    《しゅわしゅわするらむね》×1:SAN値+1回復

  • 7スレ主◆jCG/LXEbdA25/10/11(土) 22:16:18

    士道 龍聖(しどう りゅうせい)
    初期SAN値:20→17/初期怪我値:100→95(軽傷)※腕の軽い火傷(-5)

    爆発をこよなく愛するロマンチスト。暴走しがちだが、今回はストッパーがいるため集団行動がギリ成立する。怖さより、自分の予想を裏切る“爆発”があるかが重要。イジメに虐待、自殺まで判明したため、少し感情が不安定気味。

    ■固有能力
    【怪我の功名】中傷・重傷時、行動制限等異常状態が付与されない。成功率と引き換えにクリティカル率が大幅に上昇するが、1探索・1戦闘ごとに、怪我値が-5減る(怪我値に応じて常時発動)。
    【悪魔の囁き】戦闘時、挑発により敵の攻撃が全て自分に集中する。よって、味方の回避行動が全て自動成功になる(1回戦闘限り)。

    ■所持アイテム
    《れもんあじのあめだま》×1:SAN値+1回復
    《かわいいばんそうこう》×1:SAN値+1、怪我値+5回復
    《せいけつなほうたい》×1:怪我値+10回復
    《いしょ》×1:誰のものかは不明
    《つめたいたんさんすい》×1:SAN値+2回復

  • 8スレ主◆jCG/LXEbdA25/10/11(土) 22:19:14

    糸師 冴(いとし さえ)
    初期SAN値:24→21/初期怪我値:100→90(軽傷)※頬に裂傷(-10)

    冷静かつ天然、日本の至宝と呼ばれる実力者。いい加減この手のことには慣れてきたため、欠伸をする余裕すら見せる。驚くようなことがあっても微動だにしない。何故顔面ばかり傷がつくのか謎に思っている。

    「13:00遊園地ホラー」「廃病院IF」クリア経験者。
    「廃病院ホラー」にも登場。
    精神に“ある記憶”が刻まれている。

    ■固有能力
    【最適の判断】アイテム使用時、アイテムの効果をランダムで上昇させる(自分と味方全員に1回限り)。
    【冷酷な吹雪】戦闘時、敵の行動を止めることが出来る。その後、敵の攻撃成功率が大幅に減少する(行動停止・成功率減少は2ターンまで有効・1ターンずつ戦闘で分けることも可能)。

    ■所持アイテム
    《かいじゅうのおもちゃ》×1:効果は不明だが困った時に役に立ちそう【召喚アイテム】
    《給食室の鍵》×1:錆びた銀色の鍵

  • 9スレ主◆jCG/LXEbdA25/10/11(土) 22:37:22

    家庭科室を後にした三人は、明かりが灯る廊下を進む。静まり返った空間に、靴底が床を叩く音だけが響いていた。

    つい先程までは真っ暗だった廊下は、家庭科室の灯りに連動するように薄く光を帯びている。壁の影がゆらりと伸び、三人の足元をかすめていく。

    黒名がぽつりと呟いた。

    黒名「……なんで士道は一人で探すって言い出したんだ」

    潔は肩をすくめる。

    潔「一人で集中したかったとか?怖がってる様子もなかったしな」

    冴「アイツに“怖い”なんて感情が存在してると思うか?」

    冴が冷ややかに返す。
    その声には、どこか小さな理解が混じっていた。

    潔が首を傾げる。

    潔「でもさ、冴。何か気づいてた感じだったよな?」

    冴は短く息を吐いた。

    冴「……部屋に何かの気配がした。アイツなりのケジメをつけたいんだろ」

  • 10スレ主◆jCG/LXEbdA25/10/11(土) 22:43:05

    潔の表情が強張る。

    潔「え、一人で戦ってるってことか…?」

    その言葉に黒名が目を見開いた。

    黒名「ヤバい、早く戻らないと!」

    しかし冴がすぐに制するように手を挙げた。

    冴「やめとけ。アイツは一人でやると言ったんだ、死ぬならそれまでだ」

    潔「でも───」

    潔が反論しかける。
    その時、冴の瞳が鋭く光った。

    冴「それに、ああ言うやつはどうせ死なねぇだろ」

    沈黙が落ち、潔と黒名が顔を見合わせる。

  • 11スレ主◆jCG/LXEbdA25/10/11(土) 22:47:34

    次の瞬間、二人の口から小さな笑いが漏れた。

    潔「……確かに、ピンピンしてそう」

    潔が苦笑する。

    黒名「何かあっても楽しんでそうだな」

    黒名も同意するように呟いた。
    冴は鼻で笑い、ジャージの裾を軽く整える。

    冴「つーわけで、俺たちはすべきことを果たすまでだ」

    その声に、潔と黒名が頷く。
    三人の足音が再び重なり、廊下を進んだ。

    少し歩くと、1年1組の教室の隣に古びたプレートのかかった扉が現れる。錆びついた文字には、うっすらと“給食室”と刻まれていた。

    潔はサッカーバッグから、士道に手渡された銀色の鍵を取り出す。

    冴が壁にもたれて腕を組む。
    黒名は周囲を警戒しながら息を潜めた。

    潔が錆びた鍵を差し込み、ゆっくりと回すと、ギギ……と低い音が鳴る。静寂の中で、錠が外れる感触が伝わった。

    潔「開いた……」

    潔の呟きと同時に、給食室の扉がゆっくりと音を立てて開いていった。

  • 12スレ主◆jCG/LXEbdA25/10/11(土) 23:09:59

    扉を開けた先に待っていたのは、強烈な異臭だった。まるで空気そのものが腐っているかのような鼻を刺す酸味。一歩足を踏み入れただけで、喉の奥が焼けるように痛む。

    給食室───子どもたちの昼を支えていた場所が、今は腐敗と蛆虫の巣になっていた。

    床には茶色く濁った液体がところどころに溜まっている。そこへ蛍光灯の残り火のような光が反射して、ぬめりを帯びた鈍い輝きを放った。流しには、皿と鍋が山のように積み上がり、間から白いウジ虫が這い出している。

    潔「酷い匂いだな……」

    息を止めるように言う。
    それでも、肺の奥まで匂いが入り込んでくる。

    黒名「臭い、臭い……」

    黒名は袖で鼻を押さえながら、壁際に退いた。
    その足元では、何か小さなものがグチャリと潰れていた。腐った豆や魚の切れ端か、それとも別の何かか。

    冴「化け物より虫がヤバそうだな」

    冷静に言い捨てる冴の声。
    その背後を黒光りする虫が音もなく這い上がっていく。

    給食トラックから食材を受け取っていたであろう搬入口の扉は、半開きのまま風に軋む。床に転がったキャベツの外葉が、干からびて紙のようにひらりとめくれた。

    冴「とりあえず、それぞれ何かありそうな場所に散れ。悪魔くんはいつ戻ってくるか分からねえ、あてにするな」

    潔「匂いで集中出来なそうだな………」

    黒名「鼻つまんでさっさと終わらせる」

    そのやり取りを背に、冴はゆっくりと室内を見回した。

  • 13スレ主◆jCG/LXEbdA25/10/11(土) 23:34:30

    照明の代わりに窓から射す外光が、灰色の湯気のような腐臭を浮かび上がらせる。給食室にはまだ何かが残っている。


    ───「生きている」ような気配が。


    一つ目は、流しの下の収納棚。油と血の混ざったような黒い水が溜まり、そこから異様に甘い腐臭が漂っている。古びた布巾が何枚も詰め込まれ、その隙間に何か白く硬いものが見える。骨のようにも陶器の破片のようにも見える。


    二つ目は、奥の冷蔵庫。扉のパッキンが膨張し、内部から“何か”が圧迫しているのか、わずかに開いている。隙間から漏れる冷気は無い。代わりに黒い液体が垂れて床を伝い、静かに流れていた。中にはまだ“誰かが詰めた”給食用の食材が残っているかもしれない。


    三つ目は、食材搬入口のコンテナ置き場。金属製のトレーが無造作に積まれ、その間に封を切られていない牛乳パックが散乱している。一部の箱は外側から爪でひっかいたような跡があり、内部から膨張して破れかけている。風に混じって、ぬるいミルクの匂いと生き物の腐臭が溶け合う。


    冴は小さく舌打ちした。


    冴「……長居はしたくねえな」



    【探索ポイント:給食室】


    ① 収納棚

    ② 冷蔵庫

    ③ コンテナ置き場


    >>14

    ※探索箇所・キャラを全員分選んでください

    ※士道は家庭科室にいるため選択できません

    ※アイテム等を使用する場合、どのキャラに使用するか教えてください

  • 14二次元好きの匿名さん25/10/12(日) 00:08:41

    ① 冴
    ② 潔
    ③ 黒名

    スレ立てありがとうございます!続きも楽しみ!

  • 15二次元好きの匿名さん25/10/12(日) 08:45:14

    たておつです

  • 16スレ主◆jCG/LXEbdA25/10/12(日) 09:19:08

    >>14

    こちらこそ安価へのご回答ありがとうございました!続きも引き続きのんびり更新してまいります!


    >>15

    ありがとうございます!また見に来てくれて嬉しいです!

  • 17スレ主◆jCG/LXEbdA25/10/12(日) 09:36:51

    【①収納棚:糸師冴】

    冴は顔を顰めながら、流しの下の収納棚へと足を運んだ。鼻先をくすぐる生臭い匂いが、空気を重たくする。

    月明かりが、曇りガラス越しにわずかに差し込み、室内の輪郭をぼんやりと照らしていた。光は弱く、闇は濃い。それでも、冴の目は慣れていた。

    冴「……ひでぇな」

    低く呟きながらしゃがみ込む。

    流し台の下は、うっすらと湿っていた。靴底がヌル、と滑り、嫌な感触が足裏に残る。眉を寄せながら取っ手に手をかけ、ゆっくりと引いた。

    ギギ……と軋む音。途端に、油と鉄の混ざったような匂いが一気に吹き出した。

    冴はわずかに顔を背け、口を押さえる。

    腐敗した匂い───だが、何の腐敗なのかは判断がつかない。食材の腐った匂いにしては甘すぎて、血にしては重たすぎた。

    棚の中には黒ずんだ液体が溜まり、床を伝ってゆっくりと広がっていく。ぽた、ぽた、と雫が落ちる音が部屋に響いた。暗闇の中で、その液体は月光を受けてわずかに光る。まるで、生きているように蠢いて見えた。

    冴「……腐った油、ってとこか」

    声は低く、乾いていた。

    棚の奥を覗き込むと、そこには何枚もの布巾が詰め込まれている。色はもう分からない。黒く染まり、湿り気を帯び、布の形を保っていなかった。

    慎重に手を伸ばし、布の端をつまむ。

    冷たく、ねっとりとしている。ぬるりとした感触が皮膚を這い、指先に残る。

  • 18スレ主◆jCG/LXEbdA25/10/12(日) 09:43:37

    冴「……最悪だな」


    舌打ちして布巾を少しずらすと、その隙間から“何か白いもの”が覗いた。


    それは、月明かりを反射して微かに光っている。形は歪で、先が尖っていた。骨のようにも、陶器の破片のようにも見える。だが、どちらにせよ、ここにあるものではない。


    冴は眉間に皺を寄せたまま、それをじっと見つめる。腐臭がさらに強まり、息を吸うたび喉が焼けるようだった。


    冴「……ま、食器の破片ってことにしとくか」


    ぼそりと呟いて、棚の扉を閉じようとする。だが、その瞬間、布巾の下で───カサリと何かが動いた。


    冴の指が止まる。

    冷たい空気が一気に張り詰める。


    息を殺して、耳を澄ます。


    ………何も聞こえない。だが、確かに動いた。


    冴「……チッ、気のせいか」


    そう吐き捨てながらも、冴は棚から距離を取った。目を離さず、暗闇の奥を睨みつける。その目には、わずかに光が宿っていた。警戒と興味の狭間にある、冷たい光。


    そして、月明かりの欠片が流し台の縁を照らす頃、冴は再び棚の方へ視線を戻した。その奥に、まだ“何か”が潜んでいる気がしてならなかった。


    冴 dice1d100=81 (81)

    ※50以上の場合:探索成功

    ※49以下の場合:SAN値・怪我値減少

    ※ファンブル・クリティカル適用有

  • 19スレ主◆jCG/LXEbdA25/10/12(日) 12:13:32

    【探索成功】

    棚の奥に、わずかな光がきらりと瞬いた。

    目を細め、闇の中へと手を伸ばす。

    ぬるりとした液体をかき分けるたび、指先が冷たく沈む。その感触の中に、金属の固い抵抗を感じた。

    冴「……あった」

    低く呟き、慎重に掴み取る。

    月明かりの筋が流し台の縁に差し込み、手元を照らした。

    そこにあったのは、黒く濡れた小さな鍵だった。形は普通の鍵と変わらないが、表面を覆うのは油と血の混ざったような汚れ。

    鼻を近づけるまでもなく、異臭がした。金属の冷たさと、焦げたような臭いが混ざっている。

    冴「……クソ、汚ねぇな」

    顔をしかめて掌を払うが、汚れはこびりついて離れない。指先を拭おうとした布巾も、同じく湿って黒ずんでいた。

    冴「どっちも大差ねえか」

    皮肉を吐きながら、鍵の側面を月光にかざす。そこには薄く、掠れた文字が刻まれていた。

  • 20スレ主◆jCG/LXEbdA25/10/12(日) 12:14:36

    ───“校長室”。

    目を細め、短く息を吐いた。

    冴「なるほどな。次の行き先ってわけか」

    油まみれの金属を見つめたまま、唇の端をわずかに上げる。この異様な場所にも、まだ“順路”があるらしい。

    ポケットに鍵を滑り込ませると、ぬめる感触が布地を汚すのが分かる。それでも気にしない。

    冴「これで次の場所に行ける」

    そう言いながら、立ち上がった。

    流しの底でまだ何かが滴っていたが、もう興味はなかった。靴底を返し、濡れた床を踏みしめる音が静寂を割る。

    廊下から漏れる光が見えた。
    冴はそこに向かって歩く。

    腐臭のこもった空気を背に、わずかに息を吐いた。

    月明かりが消え、闇が戻る頃には───冴の姿も、給食室の奥から消えていた。

    【《校長室の鍵》×1:黒ずんだ汚れがこびり付いている】

  • 21スレ主◆jCG/LXEbdA25/10/12(日) 20:42:50

    【②冷蔵庫:潔世一】

    冴が収納棚へ向かったのを確認して、潔も歩を進めた。

    鼻をつく異臭の中を、慎重に一歩ずつ。靴の底が床の水気を吸い、ぺたりと湿った音を立てた。

    潔「気をつけろよ、黒名」

    黒名「……ああ、分かってる」

    短い返事に、潔は小さく頷いた。

    視線の先には、給食室の奥───半開きになった冷蔵庫がぽつんと佇んでいる。

    潔「何か役に立つものが入ってるといいけど……」

    呟きながら近付くと、周囲の空気がひどく重く感じた。

    電気の通っていない冷蔵庫から、冷気は一切流れ出てこない。代わりに隙間から黒い液体がじわりと溢れ、床を伝って広がっていた。

    潔はその液体を避けるようにして、冷蔵庫の正面に立つ。

    パッキンの部分が膨れ上がっていて、内部で何かが詰まっているようだ。

    潔「……何だよ、これ」

    唇が強ばる。

    臭いは油が焦げたようでもあり、何か腐ったようでもあった。視線を下げれば、黒い液体の中に小さな泡がぷつりと浮かんで弾けた。まるで呼吸するように。

  • 22スレ主◆jCG/LXEbdA25/10/12(日) 20:44:23

    潔は息を止め、耳を澄ませた。部屋の奥で、わずかな音がした気がした。


    潔「……気のせいか?」


    呟いて、顔を上げる。


    冷蔵庫の扉は、わずかに歪んで揺れていた。中に空気が溜まっているのか、それとも。


    潔は喉を鳴らし、そっと指先をパッキンの隙間に差し込む。ぬめりが絡みつく感触に、思わず手を引っ込めた。


    潔「……っ、冷たくもないのに、なんだこれ……」


    月明かりが天井の隙間から差し込み、冷蔵庫の表面をかすかに照らした。反射する黒い液体が、不気味な光を返す。


    潔は深呼吸し、もう一度手を伸ばした。


    潔「開けるしか、ないよな……」


    そう呟いて、指をかける。


    その瞬間、中からかすかな音がした。


    “コトン”


    ───何かが、動いた。


    潔 dice1d100=87 (87)

    ※50以上の場合:探索成功

    ※49以下の場合:SAN値・怪我値減少

    ※ファンブル・クリティカル適用有

  • 23スレ主◆jCG/LXEbdA25/10/12(日) 21:13:13

    【探索成功:ハズレ】

    扉をゆっくりと開けると、中から腐った果物がごろりと転がり落ちてきた。

    潔「……うわっ!」

    反射的に身を引く。
    床に落ちた果物は形を保てないほどに崩れ、どろりとした汁をじわりと滲ませていく。

    息を止め、鼻を覆った。酸味と腐敗が混ざった臭いが喉の奥を焼く。それでも、ゆっくりと冷蔵庫の中を覗き込んだ。

    中には、黒ずんだトレーや、溶けかけたゼリーのようなものが散乱している。先ほど聞こえた“コトン”という音は、扉を動かした衝撃で中の瓶か何かが倒れたのだと気づく。

    潔「……そういうことか」

    胸の奥の緊張をひとつ抜き、棚の隅やトレーの下を丁寧に確かめた。
    しかし、どこを探しても手掛かりになりそうなものは見当たらない。果物の皮も干からびた野菜の切れ端も、みなただのゴミでしかなかった。

    潔「……ここはハズレだな」

    独りごちて、冷蔵庫の扉をゆっくり閉める。金属音が、湿った室内にかすかに響いた。

    暗闇の中、小さく肩をすくめる。

    潔「変なものが出てこなくて良かった……」

    ぽつりと呟き、手を払って歩き出す。
    背後では、閉めた冷蔵庫の扉がわずかに軋みを上げて静まり返った。

    潔は振り返らずに、光の漏れる給食室の入口へと向かって行った。

  • 24スレ主◆jCG/LXEbdA25/10/12(日) 21:52:32

    【③コンテナ置き場:黒名蘭世】

    冴が収納棚の方でしゃがみこむ音を聞いて、黒名は小さく息を呑んだ。

    潔と目が合う。
    ほんの一瞬だけ頷き合うと、窓際へと歩き出した。

    黒名「……行くぞ」

    自分に言い聞かせるように呟く。

    足音をなるべく殺して、食材搬入口へ向かう。それでも金属音が小さく響いた。

    光の届かないコンテナ置き場には、乱雑に積まれたトレーと倒れた牛乳パック。封が切られていないはずなのに、何かが滲み出して床を濡らしている。

    黒名「……腐ってる……のか?」

    声に出すと、少しだけ落ち着く気がした。
    けれど次の瞬間、鼻を刺す匂いがそれを打ち消す。ぬるいミルクの甘臭さと生き物が腐ったような匂い。

    喉の奥がざらつき、思わず顔をしかめた。

    コンテナの表面には、何かがひっかいた跡がある。その細くて深い跡は、人間の爪の大きさじゃないことが分かる。

    黒名「……やめろ、考えるな……」

    自分に言い聞かせて、一歩踏み出す。

  • 25スレ主◆jCG/LXEbdA25/10/12(日) 21:53:35

    足元で、何かが“ぐちゅ”と潰れた。反射的に後ずさる。足裏にまとわりつく感触が気持ち悪い。


    下を見ると───破れた牛乳パックの中身が流れ出して、床一面に白と黒が混ざっていた。


    黒名「うわ……最悪、最悪……」


    声が震えているのが自分でも分かる。

    けれど、逃げるわけにはいかない。


    潔が冷蔵庫を調べてる間、自分も何か見つけなければ。そう言い聞かせながら、コンテナの影へと身をかがめた。


    どこかに、まだ使えるものがある。

    そう信じながら。


    黒名(………頼む、必要なものだけ出てきてくれ)


    震える手を握りしめ、静かに次の箱の前に立った。


    黒名 dice1d100=99 (99)

    ※50以上の場合:探索成功

    ※49以下の場合:SAN値・怪我値減少

    ※ファンブル・クリティカル適用有

  • 26二次元好きの匿名さん25/10/12(日) 22:30:42

    黒名クリティカルだ!みんな探索成功してよかった!

  • 27スレ主◆jCG/LXEbdA25/10/12(日) 22:45:21

    >>26

    これで無事に1階西側はコンプリートになります!出目が高すぎてびっくりしてますがこのまま順調に行くことを願います……

  • 28スレ主◆jCG/LXEbdA25/10/12(日) 22:46:40

    【探索成功:クリティカル報酬付き】

    コンテナの中をのぞき込んだ瞬間、黒名の目に何かが反射した。
    その小さな光は月の明かりを受けて、金属がかすかに光っている。

    黒名「……なんだ?」

    恐る恐る手を伸ばす。指先に固い感触が触れる。

    引き寄せると───少しだけ汚れた缶のスープだった。
    パッケージにはかすれた文字で“コーンスープ”と書かれている。指でなぞると、わずかに温もりが伝わってきた。

    黒名「……あったかい……?」

    この部屋の温度じゃ普通はありえない。まるで誰かが“さっきまで”ここにいたみたいだ。

    缶の裏側には幼い字で書かれた落書きのような文字。《ぼくの》───そう、掠れて読める。

    黒名「……この学校の子供の物か」

    小さく呟いた。
    言葉にした途端、胸の奥がじんと熱くなる。

    誰かがこのスープを必要としていたのかもしれない。今も、この建物のどこかで。

    黒名「……悪い、借りるぞ」

    サッカーバッグの中に、丁寧にしまい込む。金属音がかすかに響いた。

    【《あたたかいこーんすーぷ》×1:学校の生徒のものと思われる】

  • 29スレ主◆jCG/LXEbdA25/10/12(日) 22:48:46

    その時───何かがコンテナの影で光を反射した。

    黒名「……ん?」

    しゃがみ込み、白と黒の液体を避けながら手を伸ばす。
    触れたのは小さなガラス瓶だった。中には白く濁った液体が入っている。ラベルには手書きの文字。《ぴりぴりするきずぐすり》と拙い字で書かれている。

    黒名「……よく効くってことなのか、単純に痛いだけなのか……微妙だな」

    思わず小さく笑った。
    恐怖の中でも少しだけ息が抜けるような瞬間。瓶を軽く振ると、とろりとした液体がゆっくりと揺れた。

    黒名「……まあ、使えるかもしれないし」

    それもサッカーバッグに入れる。立ち上がると部屋の空気がほんの少しだけ冷たく感じた。

    黒名「……戻るか」

    背後を一度だけ振り返る。
    散乱したトレー、床を這う牛乳、ひっかき傷。何も変わっていないのに、もうここにはいたくなかった。

    コンテナ置き場を後にして、黒名は静かに扉を閉めた。

    すでに入口の前で待っていた潔と冴の姿を見つけ、ほっと息を吐く。

    黒名「悪かった、ちょっと時間がかかった」

    そう言いながら、黒名は手に残る温もりを確かめるように指を握った。

    【《ぴりぴりするきずぐすり》×1:怪我値+10回復】

  • 30二次元好きの匿名さん25/10/13(月) 03:00:24

    最後まで目が離せない

  • 31二次元好きの匿名さん25/10/13(月) 12:33:19

    保守

  • 32スレ主◆jCG/LXEbdA25/10/13(月) 18:54:16

    >>30

    どんなENDを迎えるかドキドキですね…!


    >>31

    保守ありがとうございます!用事があって更新できなかったのでとっても助かりました!

  • 33スレ主◆jCG/LXEbdA25/10/13(月) 21:14:09

    潔「お疲れ黒名、今回も無事で良かった」

    黒名の声を聞き、顔を上げた潔がその姿を見てほっと息を零す。

    黒名は少し息を整え、ゆっくりと頷く。

    黒名「……お疲れ、そっちはどうだ?」

    潔は小さく肩をすくめ、少し湿った床を見下ろす。

    潔「俺のところはハズレ。冷蔵庫の中には腐った食べ物しか入ってなかった」

    潔の言葉を聞いて、冴はポケットから鍵を取り出し、手のひらで確認する。

    冴「俺のところは鍵があった。次の場所で役立つはずだ」

    鍵は黒く濡れて小さく、表面には油と血の混ざったような汚れがこびりついていたが、形自体は普通の鍵と変わらない。

    潔「次は校長室か……、何か出てこないといいけど」

    潔は少し緊張した顔で笑った。

    黒名「順調でなによりだ」

    黒名も微かに笑みを浮かる。

    まだ探索の余韻が残る空気の中、腐臭と湿気に包まれた給食室で三人の影が長く伸びていた。

  • 34スレ主◆jCG/LXEbdA25/10/13(月) 21:25:37

    潔「黒名のほうは何かあったか?」

    黒名は少し肩をすくめ、サッカーバッグから何かを取り出す。

    黒名「ああ。こっちは色々見つけたぞ」

    手にしたのは少し汚れた缶入りのスープと、小さな白い液体の入った瓶だった。

    冴がその缶を覗き込み、眉をひそめる。

    冴「……“ぼくの”か。またどっかに忘れ物したガキがいるんだろ」

    少し呆れたような、でもどこか悲しげな表情だった。

    潔は缶を手に取り、指先で軽く触れる。

    潔「この気温で温かさを保ってるなんて、ちょっと怖いな……」

    その声には、ほんのわずかな不安と緊張が混ざる。

    黒名は小瓶を傾けて中身を確かめる。

    黒名「この傷薬、吉か凶か分からない。痛いだけか、それとも治るのか……」

    その目は真剣で、わずかに警戒を滲ませている。

    冴は軽く肩をすくめ、ほんの少しだけ笑う。

    冴「地雷感が凄いが、まあ無駄にはならねえだろ。二つともお前が持っとけ、いずれ役に立つはずだ」

  • 35スレ主◆jCG/LXEbdA25/10/13(月) 21:35:17

    黒名は頷き、缶と小瓶をサッカーバッグにしまう。

    黒名「分かった、大切に持っておく」

    その表情には、少し誇らしげな安堵も混ざっていた。

    湿った給食室の空気が、少しだけ和らいだ気がする。遠くの廊下から微かに風が流れ込み、缶と瓶の重さを手に感じながら黒名は前を向く。

    冴は軽く息を吐き、次に進むために気持ちを整える。
    潔も周囲を見渡し、部屋の中に危険がないか確かめていた。

    冴「よし、これで準備は整ったな」

    給食室の薄暗い光の中で、三人は次の行動に向けて静かに足を踏み出す準備をしていた。

    ───その時、給食室の扉が大きな音を立てて開く。

    士道「わりぃ、遅くなった───……いや、この部屋臭えな!なんだこの匂い!!」

    鼻を押さえながら、家庭科室から戻ってきた士道が顔をしかめる。

    冴が肩をすくめ、すました顔で言葉をぶつける。

    冴「なんだ、生きてたのか」

    士道「うわ、冴ちゃん酷いな!めちゃくちゃピンピンしてるっつーの!」

    大げさに胸を張る士道。その明るさが、重たい空気を一瞬だけ和らげた。

  • 36スレ主◆jCG/LXEbdA25/10/13(月) 22:00:50

    士道「んで、必要そうなものはちゃんと回収してきたわ」

    そう言ってポケットから取り出したのは、しわくちゃになった紙の束。涙で文字が滲んでいる。

    潔が覗き込み、表情を曇らせた。

    潔「……それ、遺書か?」

    士道「そ、次は自殺だと。やってらんねえよな」

    声のトーンが一気に落ち、冗談めいた雰囲気が静まる。

    黒名は紙の端に触れ、無意識に息を飲む。

    インクが涙で流れた跡。びっしりと並んだ“ごめんなさい”の文字列に背筋が冷える。

    黒名「……イジメ、か。たぶん1年1組の女の子のことだな」

    潔が眉を寄せ、静かに言葉を紡ぐ。

    潔「この先生は……守ろうと頑張ったんだな」

    冴は短く鼻で笑い、唇を歪めた。

    冴「で、守れなくて自殺したと。クソみてえな学校だな」

    沈黙。誰もが言葉を失う。
    給食室の時計の針は止まったまま、音を立てない。

  • 37スレ主◆jCG/LXEbdA25/10/13(月) 22:02:38

    士道は小さく息を吐き、紙をたたむ。

    士道「まあ、過去には戻れねえから仕方ないけどな」

    無理やり軽く言い放ちながら、もう一つサッカーバッグから何かを取り出した。

    士道「あと炭酸水。なんか冷えてる。原理は謎な」

    半透明のペットボトルの中で、細かい泡が静かに立ち上っていた。
    潔が興味深そうにそれを見つめる。

    潔「いいな、炭酸水。頭の中がスッキリしそうだ」

    その時、給食室の蛍光灯がチカチカと点き───やがて、ふっと灯る。一瞬で部屋全体が照らされ、四人の顔に影ができた。

    士道が驚いたように笑う。

    士道「なんだ、コンプリートしたのかよ。俺がいなくても完璧じゃん」

    黒名が冷静に言い返す。

    黒名「逆だ。士道がいない分、取りこぼしがないように集中してたんだ」

    士道「へえ、いいこと言うじゃん。気に入ったぜチビスケ!」

    士道が黒名の頭に手を伸ばし、ぐりぐりと撫で回す。

    黒名「おい、やめろっ……!三つ編みの編み目が解ける!」

    抵抗する黒名。潔が思わず吹き出した。

  • 38スレ主◆jCG/LXEbdA25/10/13(月) 22:53:58

    士道「ははっ、やっぱこうでなくちゃな!」

    いつもの調子で笑うその声に、場の空気が明るくなった。

    黒名は軽く溜息をつき、冴が鍵を持ち直す。
    潔が前を向き、扉の向こうを見た。

    潔「……それじゃあ、行こう。ここで立ち止まっても仕方ない」

    士道「おう、行くか」

    四人は給食室の扉を押し開け、廊下へと足を踏み出した。

    明かりの灯る廊下に出ると、冴が三人に声をかけた。

    冴「まずは1階の西側、確認完了だな」

    潔が肩を回しながら軽く伸びをする。

    潔「ふう、思ったより疲れたな……」

    黒名はサッカーバッグを抱え直し、少し考え込む。

    黒名「まだ探し物はあるんだよな……。でもこの先どうなるか分からないし、無理はできない」

    冴は手を腰に当て、顔を見渡す。

    冴「東側に行く前に、必要があれば何か食ったり飲んだりしとけ。体調管理は大事だ」

  • 39スレ主◆jCG/LXEbdA25/10/13(月) 22:55:36

    士道は小さなペットボトルを取り出して、軽く振りながら考える。


    士道「炭酸水……飲むかどうか迷うな。疲れを取るにはいいけど、温存しておいた方がいい気もするしな」


    黒名もサッカーバッグの中に入っているラムネを手に取り、握りながら迷う。


    黒名「甘いもの……軽くエネルギーになるけど、後で必要になるかもしれないし、今使うべきか悩む」


    潔が少しだけ笑い、手を頭にやる。


    潔「悩むのも分かるけど、あんまり考えすぎても仕方ない。感覚で行くしかないよ」


    冴は腕組みをしたまま、廊下の先を見据える。


    冴「各自、準備できたらすぐ出発するぞ」


    四人はそれぞれ手に入れたアイテムを見つめながら、短い時間で使用すべきかを迷う。


    静かな廊下には、先の探索の緊張と軽い疲労が漂っていた。


    潔 dice1d2=1 (1)

    黒名 dice1d2=1 (1)

    士道 dice1d2=2 (2)

    冴 dice1d2=1 (1)

    ①アイテムを使用する ②アイテムを使用しない

  • 40二次元好きの匿名さん25/10/14(火) 08:31:34

    保守

  • 41スレ主◆jCG/LXEbdA25/10/14(火) 08:43:21

    >>40

    保守ありがとうございます!全然規制が解除されなくて焦ってました…

  • 42スレ主◆jCG/LXEbdA25/10/14(火) 08:44:21

    士道「んー……俺はいいか、別に疲れてねえしな」

    士道が肩を回しながら言う。声にはいつもの軽さがあり、声色も安定していた。

    サッカーバッグを開き、中から何かを取り出す。掌にあるのは、花柄の小さな絆創膏だった。

    士道「ほら冴ちゃん、顔。また血出てんぞ」

    冴「………女児用だろ、それ」

    冴は眉をひそめながらも、渋々受け取る。絆創膏はほんのりと光を帯び、淡く優しい色をしていた。

    士道「文句言うなって。効けばいいんだよ、効けば」

    士道が笑いながら言うと、冴は無言のまま頬の裂傷にそれを貼りつけた。

    光がふっと強くなり、暖かさが肌に染み込む。血が止まり、痛みがすっと引いていく。

    冴「………ま、ないよりはマシだな」

    そう呟いた瞬間、絆創膏は淡い光の粒になって空中に溶け、消えていった。頬にはまだ傷跡が残っているが、痛みはほとんどない。

    【糸師冴:SAN値21→22(+1)/怪我値90→95(軽傷 ※頬の切り傷)】

    黒名「……よし、今使おう。何かあってからじゃ遅いからな」

    黒名が静かに言い、ポケットから淡い水色の包みを取り出す。

    中には、小さな青い粒のラムネがひとつ。包みを開けると、かすかに甘い香りが漂った。

  • 43スレ主◆jCG/LXEbdA25/10/14(火) 09:47:50

    それを口に放り込むと、さっと広がる優しい甘さに、緊張で張り詰めた心が少しほどける。

    黒名「……よし、少し元気が出た気がする」

    【黒名蘭世:SAN値13→14(+1)】

    その様子を見ていた潔が、ふと思い出したように口を開いた。

    潔「……廃病院の看護師休憩室で見つけたこれ、使っておくか」

    潔はサッカーバッグから小さな小瓶を取り出す。

    手作りのような歪な形。一瞬ためらったが、潔はそれを一気に飲み干した。喉を通る瞬間、微かな苦みと薬草のような香り。

    次の瞬間、頭が冴え渡るような感覚に包まれる。

    潔「……よし、いける」

    【潔世一:SAN値15→18(+3)】

    冴は全員を見渡し、短く頷いた。

    冴「全員準備が整ったな。なら行くぞ」

    四人はそれぞれの荷物を背負い直し、濃い闇が奥へと伸びる東側通路へと足を踏み入れた。足音だけが、静まり返った廊下に響く。

    空気が一段と冷たくなり、光の届かない先で何かが息を潜めている気配がした。

  • 44スレ主◆jCG/LXEbdA25/10/14(火) 12:00:31

    先程まで存在していた東側通路を隔てる壁は、いつの間にかなくなっていた。まるで初めからそこには何もなかったかのように、跡形もない。

    潔「……さっきの壁、なんだったんだろうな」

    潔が呟く。声は低く、わずかに震えていた。

    冴「この校舎の思い通りに進まなきゃ駄目ってことだろ」

    冴が淡々と返す。その顔に迷いはないが、目の奥には微かに警戒の色が宿っている。

    東側の廊下は、西側の明るさとは対照的に、ほとんどが闇に沈んでいた。照らす光といえば、背後の給食室から漏れる灯りと、下駄箱付近の蛍光灯だけ。そこから先は闇に飲み込まれており、奥の様子はまるで見えない。

    踏み出した足音が、ひとつ、またひとつと響く。木の床はところどころが腐っており、湿った空気が肌にまとわりついた。

    左手の壁際に、古びた公衆電話が一台。受話器は埃を被り、金属部分は鈍くくすんでいる。
    その横の花瓶には、色を失った花が差し込まれていた。乾ききった茎が、風もないのにかすかに揺れている。

    右側には、黒塗りのプレートで示された「校長室」と、もうひとつの部屋。突き当たりには荷物置き場らしき扉が見え、左には職員用玄関へと続く通路。

    士道「次は校長室だな。ボスステージ感すげえけど」

    士道がわざと明るく言い、サッカーバッグのストラップを握り直す。

    冴「……言い方やめろ。縁起でもねぇ」

    冴が呟いた、その時だった。

    ───プルルルルルルルルル……

    静まり返った廊下に、不意に甲高いベルの音が鳴り響いた。音の出所は、壁際の公衆電話。受話器が震えもしていないのに、機械的なベルだけが響き渡っている。

  • 45スレ主◆jCG/LXEbdA25/10/14(火) 12:03:13

    黒名「……っ、な、なんだ今の……」


    黒名の声が掠れる。無意識に一歩後ずさった。


    潔「出ちゃまずいだろ……」


    潔が低く言う。手のひらには冷たい汗が滲んでいた。


    冴「無視しろ。罠かもしれねぇ」


    冴の声も、ほんの少しだけ硬い。


    だが、電話は止まらなかった。むしろベルの間隔は次第に短く、焦るように鳴り続ける。


    そして、突然音が止んだ。


    張り詰めた空気の中で、誰もが呼吸を忘れたその瞬間、カチャ………と受話器が外れるような音。


    全員の視線が一斉に電話へ向く。


    受話器は動いていない。

    けれど───そこから、誰かの“声”が漏れ出していた。


    潔 dice1d100=94 (94)

    黒名 dice1d100=81 (81)

    士道 dice1d100=80 (80)

    冴 dice1d100=17 (17)

    ※53以上の場合:影響なし

    ※52以下の場合:SAN値減少

    ※東側通路進行中、難易度が僅かに上昇

  • 46二次元好きの匿名さん25/10/14(火) 12:38:08

    冴お花の絆創膏シュールでわろた

  • 47スレ主◆jCG/LXEbdA25/10/14(火) 16:35:50

    >>46

    きっと似合うはずです…!たぶん!恐らく!

  • 48スレ主◆jCG/LXEbdA25/10/14(火) 16:36:56

    【糸師冴:SAN値22→21(-1)】

    受話器から聞こえてくるのは、断末魔に近い子供の声だった。

    ───あつい、あついよ………
    ───いたい、いたい、やだ……いやだ……

    金属のように割れた声が廊下中に響き渡る。まるでスピーカー越しではなく、すぐ耳元で叫ばれているかのようだった。

    潔が顔を顰め、唇を噛み締める。

    潔「……なんでだよ、誰に……何されたんだよ」

    声を荒げるでもなく、押し殺すような声だった。

    黒名は思わず耳を塞いだ。

    黒名「やめろ、聞きたくない……聞きたくない……!」

    震える手の隙間から、それでも声は侵入してくる。

    士道は眉間に皺を寄せ、ため息を吐く。

    士道「……はぁ、もう確定だな。この学校マジで呪われてんだろ」

    その声には呆れが混ざり、怒りをごまかすように吐き出された。

    冴は、その場で立ち尽くしていた。
    耳鳴りのように、頭の奥で子供の悲鳴がこだまする。

  • 49スレ主◆jCG/LXEbdA25/10/14(火) 16:38:09

    ───いたいよ、たすけて

    その一言が、耳の奥で別の声に変わる。
    “兄ちゃん”と呼んだ、あの時の声。

    冴「……っ」

    視界が歪む。
    息が詰まり、胸の奥がずきりと痛んだ。

    現実のはずなのに、記憶の断片が脳裏を焼く。
    手が勝手に震えた。

    ───ガチャン。

    突如、電話が切れる音がして、世界から音が消えた。校舎の闇が音を吸い込んで、静寂だけが残る。

    誰も動かない。
    吐息ひとつすら、重たく響く。

    冴は俯いたまま、しばらく動けなかった。
    やがて顔を上げ、いつもの調子を無理やり取り戻すように口を開く。

    冴「……行くぞ」

    その声には、まだ震えが残っていた。
    鍵を取り出し、冷たい金属の感触を確かめるように握りしめる。

    カチリ、と鍵が錠前に差し込まれる音。
    誰も言葉を発しないまま、冴は校長室の扉をゆっくりと開いた。

  • 50スレ主◆jCG/LXEbdA25/10/14(火) 17:35:27

    校長室は、異様に静かだった。

    扉を開けた瞬間、四人の足が止まる。
    給食室に漂っていた腐臭も、家庭科室で感じた焦げた匂いも、ここには何もなかった。

    ただ、空気が止まっている。
    息を吸っても、何の匂いもしない。

    一つ目は、中央には校長が座っていたであろう革張りの椅子。その前には、艶を失った木製のデスク。

    二つ目は、壁際には来客用のテーブル。くたびれたソファーが二つ並んでいる。

    三つ目は、奥の壁にいくつも掛けられた古びた額縁。歴代の校長たちの写真。モノクロの顔が薄暗い室内でぼんやりと浮かんでいる。どれも似たような笑みを浮かべていて、不自然に整っていた。

    潔「……何も、ないな」

    潔が呟く。
    その声さえ、床と壁に吸い込まれていくようだった。

    誰も返事をしない。

    まだ、あの電話の声が耳の奥に残っている。
    叫び声が、幻聴のように微かに蘇る。

    少ししてから黒名は小さく息を吐き、部屋の隅々へ視線を走らせる。

    黒名「静かすぎる……逆に危ない」

    その表情には、わずかな怯えと慎重さが混ざっていた。

  • 51スレ主◆jCG/LXEbdA25/10/14(火) 17:36:45

    士道は軽く肩をすくめ、場の空気を軽くしようとするように笑った。


    士道「なんだ、ここなら楽勝じゃん。椅子の裏とか覗けば終わりだろ」


    言葉とは裏腹に、その笑みはどこかぎこちなかった。


    全員がまだ足を踏み出せずにいた。

    まるで、この部屋にもその“子供”が潜んでいるような気がしてならない。


    ───冴は無言で立ち尽くしていた。


    何も言わず、ただ壁に並ぶ写真をじっと見ている。

    その視線の奥は遠く、僅かに焦点が合っていなかった。


    冴「……どこを調べるか、決めよう」


    低く、掠れた冴の声が落ちる。

    その声を合図に、四人はわずかに体を動かし始めた。


    【探索ポイント:校長室】

    ① 校長用の机と椅子

    ② 来客用の机と椅子

    ③ 歴代の校長の額縁


    >>52

    ※探索箇所・キャラを全員分選んでください

    ※一箇所のみ二人で探索可能です

    ※二人の探索の場合、成功率が上昇します

    ※アイテム等を使用する場合、どのキャラに使用するか教えてください

  • 52二次元好きの匿名さん25/10/14(火) 21:42:24

    ①潔
    ②黒名
    ③士道、冴

  • 53二次元好きの匿名さん25/10/15(水) 01:01:07

    忘れ物しませんように!

  • 54スレ主◆jCG/LXEbdA25/10/15(水) 07:28:58

    >>52

    アイテム等使用なしにて承知しました!


    >>53

    再探索のリスクがあるので順調に進んで欲しいところですね!

  • 55スレ主◆jCG/LXEbdA25/10/15(水) 09:48:19

    【①校長用の机と椅子:潔世一】

    潔は、校長室の奥へと歩みを進めた。
    足音が床板に鈍く響く。

    視線の先には、革張りの椅子が静かに佇んでいる。
    長年誰も座っていないはずなのに、背もたれの形はまだ“人の重み”を記憶しているようだった。

    潔「……座ったまま、消えたみたいだ」

    小さく呟き、椅子の背後を覗き込む。
    ほこりが薄く積もっているだけで、特に気になるものはない。

    机は意外と大きかった。
    艶を失った天板には長年の使用でできた擦り傷が無数に走っている。けれど、妙に“最近動かされたような”跡がひとつあった。

    潔は眉を寄せ、指で軽くなぞる。
    細かな埃が指にまとわりつき、感触が生々しい。

    潔「……誰かが、ここにいたのか?」

    声に出すと、部屋の空気が少しだけ重くなった気がした。

    椅子の下に目を向ける。
    何もない───そう思った瞬間、視界の端で何かが光った。わずかに、金属が照り返したようなきらめき。

    潔は息を飲む。
    手を伸ばすか、一瞬迷う。

  • 56スレ主◆jCG/LXEbdA25/10/15(水) 09:49:28

    潔「……落ち着け。焦るな」


    自分に言い聞かせるように呟き、もう一度椅子の下を覗き込む。


    月明かりが差し込んで、埃がふわりと舞った。

    指先が冷たい空気をかすめる。


    ───どこか、触れてはいけない気がした。


    立ち上がり、視線を天板の上へ移す。

    そこには小さな日付印と、乾いたインク壺。誰かがこの机で何かを書き残そうとした形跡がある。


    潔「……この部屋、やっぱり他と違うな」


    誰に言うでもなく呟く。

    静寂が返事をするように、壁時計が一度だけ“コトリ”と鳴った。


    心臓が一拍、強く脈打つ。

    その音が部屋の中に響いたような錯覚。


    思わず息を止めた。


    わずかに汗ばむ指先。

    そして潔は、机の引き出しへと手をかける──


    潔 dice1d100=17 (17)

    ※53以上の場合:探索成功

    ※52以下の場合:SAN値・怪我値減少

    ※ファンブル・クリティカル適用有

  • 57二次元好きの匿名さん25/10/15(水) 16:49:51

    スレ主のストーリー引き込まれるわ

  • 58スレ主◆jCG/LXEbdA25/10/15(水) 18:17:26

    >>57

    嬉しいです!ありがとうございます!キャラの個性や動かし方はまだまだ勉強中ですのでもっと頑張ります!


    ※最近ホスト規制が酷く、特に出先の時は更新できないことが多いので温かく見守って頂けると嬉しいです……

  • 59スレ主◆jCG/LXEbdA25/10/15(水) 18:18:31

    【探索失敗】
    【SAN値:18→17(-1)/怪我値95→90(-5)】

    引き出しの取っ手に指をかけた瞬間、心臓が小さく跳ねた。
    深呼吸をして、ゆっくりと引き出しを引く。

    ───その中は、真っ暗だった。

    単に光が届かない暗さではない。覗き込んでも奥行きが分からず、視界が吸い込まれていくような闇。

    まるで、空間そのものが“ここに存在していない”かのようだった。

    潔「……なんだ、これ」

    呟く声が、思っていたよりも震えていた。

    顔を近づけた瞬間、ぞくりと背筋を冷たいものが這い上がった。

    引き出しの中は、確かに空気が動いている。
    息をしているみたいに、かすかに。

    喉を鳴らし、指先をわずかに伸ばす。

    潔「……手を入れたら、引き摺り込まれるかもしれない」

    心の奥から警鐘が鳴った。
    それでも視線が離せない。

  • 60スレ主◆jCG/LXEbdA25/10/15(水) 18:28:31

    次の瞬間───闇の中から、手が伸びてきた。
    黒く、影のような手。

    それが潔の右腕を掴む。

    潔「───!!」

    反射的に机へと腕を叩きつけた。

    鈍い音が響き、椅子が横倒しになる。掴んでいた“それ”は霧のように崩れ、空気の中へ消えていった。

    呼吸が乱れる。
    痛みが遅れて襲ってくる。

    引っ掻き傷の上に、さらに赤黒い内出血が滲んでいく。

    腕を押さえながら、深く息を吐いた。

    潔「……今はもう一回、探す気にはなれないな」

    その声は誰に向けたものでもなく、自分の決意を確認するような静かな響きだった。

    壁に背を預ける。
    視線の先で、開いたままの引き出しがゆっくりと揺れていた。

    まるで、今も中から何かが覗いているかのように。

    ───潔は目を逸らした。

    闇を、見ないように。

  • 61スレ主◆jCG/LXEbdA25/10/15(水) 19:42:57

    【②来客用の机と椅子:黒名蘭世】

    壁に掛けられた歴代校長の写真たちが、薄暗がりの中でこちらを見下ろしていた。

    黒名は無意識に視線を逸らす。
    その眼差しが、まるで“まだここにいる”とでも言いたげで。

    靴音を立てないように歩き出す。

    向かう先は、部屋の左手にある来客用のスペース。長方形のテーブルと、くたびれて革が剥がれたソファーが二つ。

    時間の止まった空気がそこに沈殿していた。

    黒名「……静かだな」

    声に出すと、言葉は空気に溶けていく。

    テーブルの上には何も置かれていない。だが、革張りのソファーには、わずかに“凹み”が残っている。
    誰かが、ついさっきまで座っていたような。

    しゃがみ込み、指でその凹みの縁をなぞった。

    冷たい。
    だけど、体温のようなものがうっすらと感じられた。

    黒名(……気のせいか?)

    思わず首を傾げる。

  • 62スレ主◆jCG/LXEbdA25/10/15(水) 19:43:59

    壁の時計は止まったまま。

    窓は固く閉ざされ、外の風も届かない。


    それでも、髪がわずかに揺れた気がした。


    静かに息を吸い、周囲に視線を走らせる。


    ソファーの裏、座面の隙間───慎重に手を伸ばして探っていく。


    古いホコリが舞い上がり、わずかな光を反射する。

    その一瞬、視界の端で何かが動いたような気がした。


    顔を上げ、鋭い目を廊下の方へ向けた。


    ………誰もいない。


    喉の奥がきゅっと鳴る。


    黒名「……気のせい、だよな」


    無理に口に出した言葉は、あまりにも軽く響いた。


    そして再び、テーブルの下へと手を伸ばす。


    黒名 dice1d100=74 (74)

    ※53以上の場合:探索成功

    ※52以下の場合:SAN値・怪我値減少

    ※ファンブル・クリティカル適用有

  • 63スレ主◆jCG/LXEbdA25/10/15(水) 20:07:12

    【探索成功:ハズレ】

    ───伸ばした手は空を切った。

    掴んだのは、乾いたホコリだけ。指先にまとわりついた灰色の粒が、微かな光を受けて宙に舞う。

    息を止めていたことに気づき、黒名はゆっくりと息を吐いた。

    テーブルの下にも、ソファーの裏にも、座面の隙間にも何もない。あるのは、湿り気を帯びた沈黙と、時間を置き忘れたような空気だけだった。

    黒名「……なんだ、空振りか」

    膝をついたまま肩をすくめる。
    重く沈んでいた胸の奥が、少しだけ軽くなる。

    ───あの電話の声。
    あれが受話器を通してこの部屋から聞こえたのかと疑っていた自分に、ようやく現実が追いつく。

    黒名「………男の子は、ここにはいない」

    呟く声は、自分を落ち着かせるためのものだった。

    立ち上がって埃を払い、もう一度部屋をぐるりと見渡す。

    曇った窓ガラス。
    光を吸い込む壁紙。

    写真の校長たちの視線が、今は少し遠くに感じられる。

  • 64スレ主◆jCG/LXEbdA25/10/15(水) 20:08:46

    黒名(……冴たちも何か見つけてる頃か)

    安堵が、ほんの少しだけ心に広がった。

    その瞬間だった。

    ───バンッ!!

    重いものを叩きつけたような音が、部屋の奥から響いた。

    息が詰まる。
    音の方向に顔を向ける。

    校長の机の方だ。

    黒名「………潔!?」

    声が反響して、校長室の壁に跳ね返る。
    もう一度、今度ははっきりと叫ぶ。

    黒名「潔!大丈夫か!!」

    立ち上がると同時に、黒名は駆け出していた。

    埃が舞い上がる。
    足音が重なる。

    張りつめた沈黙を、声だけが切り裂いていく。

  • 65スレ主◆jCG/LXEbdA25/10/15(水) 20:22:05

    【③ 歴代の校長の額縁:士道龍聖&糸師冴】

    壁に掛けられた額縁を、二人は並んで眺めていた。

    歴代校長たちの白黒写真が、黄ばんだ壁紙の上で整然と並んでいる。どの顔も穏やかな笑みを浮かべていて───けれど、それが余計に不気味だった。

    士道「……なあ、冴ちゃん。元気ねえじゃん」

    士道の声は低く、少しだけ柔らかい。軽口のようでいて、気遣いが滲んでいた。

    冴は額縁から目を離さず、小さく息を吐く。

    冴「……気のせいだ」

    声は平坦だったが、どこか掠れている。

    士道「電話の声、まだ耳に残ってんだろ」

    士道が続ける。
    冴は一瞬だけ眉を動かし、目を細めた。

    冴「……あれは、ただの幻聴だ」

    そう言いながらも、自分で納得できていないのが分かる。額縁のガラスに映る自分の顔が、少し歪んで見えた。

    古い木枠に収まるガラスが小さく軋んだ。まるで、誰かが内側から叩いているように。

    士道が背伸びをして、軽く額縁の下を指で叩いた。

    士道「写真にしては……妙に新しいな、これ」

  • 66スレ主◆jCG/LXEbdA25/10/15(水) 20:24:01

    冴「校長、何人目までいる?」


    冴が視線で追う。


    士道「十枚……いや、十一枚目まであるな。最後のやつだけ日付がないけど」


    冴「日付がない?」


    冴が少し身を乗り出した。


    写真の中、最後の一枚───男の顔はぼやけ、輪郭が曖昧だった。見ているのに、焦点が合わない。見つめれば見つめるほど、そこに“別の何かがいる”としか思えなくなる。


    士道が腕を組んだまま、ゆっくりと首を傾けた。


    士道「……んー、写真のはずなんだけどな。視線が動いた気がする」


    冴「……くだらない冗談言ってる場合じゃねえぞ」


    冴が低く遮る。

    その声には、かすかな震えが混じっていた。


    しばらく、二人は無言で立ち尽くした。廊下からの冷気が、足元を撫でて通り過ぎる。


    額縁の中の笑顔が、どこかさっきよりも柔らかく見えた。───まるで、来訪者を歓迎しているかのように。


    士道 dice1d100=60 (60)

    冴 dice1d100=94 (94)

    ※合計値85以上の場合:探索成功

    ※合計値84以下の場合:SAN値・怪我値減少

    ※ファンブル・クリティカル適用有

  • 67スレ主◆jCG/LXEbdA25/10/15(水) 20:48:35

    【探索成功】

    写真を眺めたまま、しばらく時間が過ぎた。埃の匂いと、古い木のきしむ音だけが空気を満たしている。
    士道が無意識に腕を組み、冴がぼんやりと額縁の縁を指でなぞる。

    その時、視界の隅で何かが“コトリ”と落ちた。
    二人の動きが止まる。冴がゆっくりと顔を向け、士道も視線を追った。

    床の上、くすんだカーペットの上に小さな影。
    士道がため息を一つつき、腰をかがめる。

    士道「…………マジかよ」

    その声はいつもより少し低かった。

    手のひらに転がっていたのは───二つの眼球。わずかに濁り、だがまだ“生きているように”潤んでいた。

    冴が一歩近づく。

    冴「それ、写真の───」

    士道「いや、違えな」

    士道が小さく首を振る。

    写真の中の校長たちは相変わらず笑っている。最後の十一枚目───日付のない男の写真も、相変わらず焦点が合わないままだ。

    冴が視線を落とし、唇を噛む。

    冴「……だったら、誰の目だ」

  • 68スレ主◆jCG/LXEbdA25/10/15(水) 20:50:01

    士道「知らね、けどいつかは見つかんだろ」

    士道は苦笑のように息を漏らし、手の中の眼球をじっと見た。

    透明な瞳の奥に、微かに光が瞬いた気がした。それは、感情を持つように悲しげで。
    反射的に、ポケットへと滑り込ませた。

    冴が目を細め、まだ写真の列を見つめていた。

    冴「……ここの校長、全員まともじゃなかったんだろうな」

    士道「まともなやつがこんな学校回せるかよ」

    士道が肩を竦める。

    短い沈黙が続く。耳鳴りのような静けさの中、何かが息をしている。

    その瞬間、校長机の方から“ドンッ”と大きな音が響いた。黒名の叫び声が重なる。

    士道が顔を上げる。

    士道「おー、やってんね」

    冴も反射的に動く。
    額縁の列を背に、二人は同時に歩き出した。

    背後の写真たちは、変わらず笑っていた。ただその笑みが、どこかほんの少しだけ深くなっているように見えた。

    【《かなしそうなめだま》×1:誰のものかは不明だが今後役に立つ】

  • 69スレ主◆jCG/LXEbdA25/10/15(水) 21:02:07

    校長の机の前で壁にもたれかかる潔のもとに、三人が集まってきた。足音が近づくたびに、部屋の空気が少しだけ動く。

    照明の届かない隅では、まだ闇がじっと息を潜めているようだった。

    黒名「さっき大きな音がしたけど、大丈夫か?」

    黒名が眉を寄せて覗き込む。

    潔は右腕を軽く上げて、苦笑いを浮かべた。

    潔「うん、大丈夫。ちょっとだけ腕が痛いけど」

    袖をまくると、引っ掻き傷の上に紫色の内出血が広がっていた。

    冴が一瞬目を細める。

    冴「触らないほうがいい、炎症を起こしてる。……その状況なら、そっちはハズレってことか?」

    冴の問いに、潔は小さく首を振った。

    潔「いや、多分この引き出しの中に何かがあるはずなんだ」

    机の引き出しを指差す。

    潔「ただ───中は真っ暗だった。光が届かないっていうか………吸い込まれる感じがした」

    息をついて、少しだけ目を伏せる。

    潔「もし腕を伸ばしてたら、俺はここにはいなかったと思う。……悪いけど、忘れ物は回収できなかった」

  • 70スレ主◆jCG/LXEbdA25/10/15(水) 22:32:48

    部屋の静寂が戻る。
    潔の言葉は淡々としていたが、その声には微かな震えがあった。

    黒名が短く息を呑みかけ、何か言いかけて黙る。

    代わりに士道が肩をすくめて笑った。

    士道「まあしゃーねえな。死んだら元も子もねえし」

    冴「……そういう問題でもないけどな」

    冴が小さく呟く。

    それでも、士道の軽口に少しだけ場が緩む。

    潔「……ありがとな」

    短く返して、潔は壁に背を預けたまま深く息を吐いた。

    その間も、机の引き出しは静かに閉じられたまま、何も言わずに闇を抱えていた。

    潔「そう言えば、みんなの探索はどうだった?」

    潔が静かに問いかける。

    黒名は息を吐いて、肩を落とした。

    黒名「こっちはハズレだ。隅々まで見たけど、埃しかなかった」

  • 71二次元好きの匿名さん25/10/16(木) 02:12:59

    こういう場面に士道みたいな人が1人いてくれると安心だな

  • 72二次元好きの匿名さん25/10/16(木) 02:31:31

    見つかった目玉誰のだろうね?
    かなり重要そうだからこれだけでも見つかってよかったかも

  • 73二次元好きの匿名さん25/10/16(木) 02:40:20

    士道が有能で強い

  • 74スレ主◆jCG/LXEbdA25/10/16(木) 08:22:37

    >>71

    感受性豊かなのでフォローにも回れる貴重な人材ですよね!


    >>72

    そうですね、いずれ重要になってくるのでここで入手できたのは大きいです!


    >>73

    凛と組ませたら事故ってた気がするのでこのメンバーで良かったです……

  • 75スレ主◆jCG/LXEbdA25/10/16(木) 09:24:30

    士道「何もない方がいいだろ」

    士道が不敵に笑い、ポケットの中をまさぐる。

    士道「こっちはこれだぜ?」

    掌の上で、二つの目玉が転がった。
    粘度の残る白が、月光を反射して淡く光る。

    潔「うわっ!…………え、目玉?」

    潔が一歩後ずさる。

    黒名「目………、それが首だったら俺、気絶してた……」

    黒名が小さく身をすくめる。

    士道は肩をすくめ、冴に視線を投げた。

    士道「誰のものかはしらねえ。けどどうせ後から使うことになるだろ?」

    冴「……ああ、そうだな」

    冴の声は低く、静かだった。

    士道は目玉を再びポケットにしまい直すと、唇の端を吊り上げた。

    士道「んじゃ、戦闘準備と行こうかね」

  • 76スレ主◆jCG/LXEbdA25/10/16(木) 09:26:52

    その言葉に、黒名がわずかに顔をしかめる。

    黒名「狭いからやりづらいな……」

    潔は深く息を吐いた。

    潔「巻き込んで申し訳ないけど、一緒に戦ってくれ」

    冴が冷たく笑う。

    冴「次はねえからな」

    それだけで、十分だった。
    四人の間に迷いはなかった。

    この校舎で“忘れ物”をすれば何が起きるのか───もう全員が理解していた。

    潔「……くるぞ」

    潔の声と同時に、校長机の引き出しがガタリと音を立てた。

  • 77スレ主◆jCG/LXEbdA25/10/16(木) 09:27:53

    次の瞬間、内部から黒いもやが吹き上がる。それは渦を巻きながら形を取り、人のようで人ではない影へと変わっていく。


    長く伸びた腕、のたうつ輪郭、天井に届くほどの背丈。人型のまま、異様な存在が校長室の中央に立ちはだかった。


    黒名が息を呑む。


    潔は前に出て、唇を引き結んだ。


    冴が冷静に位置を見定め、士道が軽く首を回す。


    士道「さあ、合法で殴る蹴るし放題だ。ストレス発散しようぜ!!」


    士道が笑う。

    その声が合図となるように、四人は同時に構えた。


    校長室の空気が一変する。


    闇がざわめき、四つの影とひとつの影が静かに対峙した。


    【影】2回攻撃成功で撃破

    潔 dice1d100=48 (48)

    黒名 dice1d100=76 (76)

    士道 dice1d100=51 (51)

    冴 dice1d100=75 (75)

    ※25以上の場合:攻撃成功

    ※24以下の場合:SAN値・怪我値減少

    ※ファンブル・クリティカル適用有

  • 78スレ主◆jCG/LXEbdA25/10/16(木) 12:06:58

    【撃破成功】

    最初に黒名が動いた。

    机と椅子の間を、風を裂くような速さで駆け抜ける。狭い校長室の中、障害物を縫うように身を滑らせ、黒い影の足元へと飛び込んだ。

    黒名「───はッ!」

    渾身の回し蹴りが影の脇腹を捉える。黒いもやが波打ち、壁際に叩きつけられるように揺らめいた。

    次の瞬間、冴が踏み出した。

    椅子の背を足場にし、さらに机の上へと跳び上がる。視界が一瞬、天井近くまで舞い上がる。そこから迷いのない軌道で、真下の影にかかとを叩き込んだ。

    鈍い衝撃音が響く。

    影は悲鳴も上げず、波紋のように広がって、霧散していった。

    静寂の中に残るのは荒い息と、埃の匂いだけ。

    士道が肩を回しながら、ふっと笑った。

    士道「安定の雑魚だな」

    潔は、残ったもやの中を見つめていた。

    潔「……でも、前回より何かが変わったような気がする」

  • 79スレ主◆jCG/LXEbdA25/10/16(木) 12:12:06

    黒名が息を整えながら頷く。

    黒名「確かに……重かった。動きは鈍いのに圧があった」

    冴「フン、どうでもいい。倒せたならそれで充分だ」

    冴が髪を整えながら淡々と答えた。

    影が完全に消えた床に、何かがポトリと落ちた。

    全員がその方向を見る。
    淡い色の塊が、木の床の上で小さく転がって止まる。

    潔「……なんだ?」

    潔が眉をひそめる。

    黒名がそっと近づき、拾い上げた。
    手のひらの上にあったのは───カラフルな練り消しだった。

    青、ピンク、黄緑。
    指先で押すと、ぷにぷにと柔らかい。

    黒名「なんか……小学生の時に流行った気がする……」

    黒名が眉を顰めて呟く。

    【《からふるなねりけし》×1:SAN値+1回復、いい匂いがする】

  • 80スレ主◆jCG/LXEbdA25/10/16(木) 12:14:48

    士道が覗き込み、鼻で笑う。

    士道「まさか、影のドロップアイテムが練り消しかよ」

    冴は腕を組んで首を傾げた。

    冴「……なんの役に立つんだ、それ」

    潔は笑いながらも、どこか引っかかっている様子で言う。

    潔「まあ、何かに使えるって。どうせこの世界の物は全部意味があるんだから」

    冴が溜息をつき、士道が「そういうことにしとくか!」と軽く笑う。

    黒名は練り消しをポケットにしまい、ドアの方を振り返った。

    黒名「……行くぞ。ここには長居したくない」

    潔「同感だな」

    潔が頷き、扉のノブを回す。

    ギィ、と軋む音を立てて、校長室の扉が開いた。外の廊下には西側から薄明かりが差し込み、遠くで風が鳴る。

    四人は短く息を整え、それぞれの顔を見合わせる。

    誰も口にはしなかったが───
    あの影が残した記憶が、まだ脳裏に残っていた。

    そのまま四人は、静かに廊下へと歩き出した。

  • 81スレ主◆jCG/LXEbdA25/10/16(木) 15:46:04

    足音だけが廊下に響く。

    壁の蛍光灯は壊れたまま。
    西側の窓から流れ込む淡い月明かりが、床の埃を銀色に光らせていた。

    公衆電話の前を通ると、受話器がゆらりと揺れた気がして、潔が反射的に視線を向ける。

    子供の声は、もう聞こえない。
    ただ、受話器の奥で“チリ……チリ……”とノイズのような音がした。

    一瞬だけ足を止めた潔に、冴が言葉を投げる。

    冴「立ち止まるな。聞こえる声は“残響”だ」

    潔「……残響、ね」

    潔が息を吐き、また歩き出す。

    やがて、廊下の左手が少しだけ広く開けた。

    階段下の中途半端な空間、そこが教材置き場だった。

    棚の並ぶ狭いスペースで、壊れたノートやチョーク、黄ばんだ紙束が積まれている。

  • 82スレ主◆jCG/LXEbdA25/10/16(木) 16:11:28

    そのすぐ隣には職員玄関。
    曇ったガラス扉があり、向こう側には外の闇がぼんやりと広がっていた。夜気が差し込むはずなのに、空気は淀んでいる。

    黒名が小さく呟く。

    黒名「……あそこ、外だよな」

    士道がノブに手をかけ、押したり引いたりしてみる。だが、扉はびくともしない。

    士道「鍵、かかってねぇのにな」

    士道が眉をひそめる。

    冴「この校舎の外には、まだ出さないつもりなんだろ」

    冴が低く言う。

    潔が視線を教材置き場へ移す。

    潔「……こっちを調べるしかないな。何か“置き忘れた”ものがあるかもしれない」

    黒名が頷き、埃を払って棚の前にしゃがむ。

    黒名「うわ、埃が………」

    士道「高校の時の部室よりはマシだろ?」

    士道の軽口に、わずかに空気が緩んだ。

  • 83スレ主◆jCG/LXEbdA25/10/16(木) 16:12:38

    冴は壁際に立ったまま、全体を一瞥する。


    冴「───順番通りに確認するぞ。油断するな、こういう場所は“動く”」


    潔が短く頷くと、指先で区画を指し示す。


    一つ目は、教材棚の奥。

    崩れかけたプリントの山と木箱がある。


    二つ目は、床下収納のような板の継ぎ目。

    わずかに隙間があり、そこから風が零れている。


    三つ目は、職員玄関の曇りガラス。

    向こう側で何かが揺れた気がした。


    黒名「……どこに行けばいいんだ」


    黒名の声に、冴と士道が互いに視線を交わす。

    小さな息が、狭い空間に白く混じった。


    【探索ポイント:教材置き場と職員玄関】

    ① 教材棚の奥

    ② 板の継ぎ目

    ③ 職員玄関


    >>84

    ※探索箇所・キャラを全員分選んでください

    ※一箇所のみ二人で探索可能です

    ※二人の探索の場合、成功率が上昇します

    ※アイテム等を使用する場合、どのキャラに使用するか教えてください

  • 84二次元好きの匿名さん25/10/17(金) 00:10:36

    ①冴
    ②潔
    ③黒名、士道

  • 85スレ主◆jCG/LXEbdA25/10/17(金) 07:21:06

    >>84

    アイテム使用なしにて承知しました!

  • 86スレ主◆jCG/LXEbdA25/10/17(金) 09:18:38

    【①教材棚の奥:糸師冴】

    冴は無言のまま、階段下の狭いスペースへと足を進めた。

    他の三人が少し距離を取って見守る中、その靴が床の埃を押し分ける。古びた木の香りと、紙が湿気を吸ったような酸っぱい匂いが鼻をつく。

    教材棚の表面は、灰色の粉で覆われていた。
    触れれば指先が黒く汚れる。

    それを気にも留めず、一番上の棚から順に手を動かしていく。破れたノート、角が折れた教科書、そして表紙に「算数」「理科」「道徳」と書かれた古い冊子。

    冴「……五十年前か」

    小さく呟いて、ページをめくる。
    中には児童の落書きが残っていた。

    “○○先生だいすき”
    “はやくかえりたい”

    ───“ぜったいころされる”

    最後の一文を見て、冴の手が止まった。

    ページを閉じ、呼吸を整える。

    冴「……子供の筆跡だ」

  • 87スレ主◆jCG/LXEbdA25/10/17(金) 09:19:46

    心の奥で何かが引っかかった。
    電話で聞いた声が、再び脳裏をかすめる。

    冴(……また、重なる)

    頭の奥に響いた“いたい”“あつい”という声を振り払い、さらに奥へと進んだ。

    教材棚の裏側には、崩れかけたプリントの山があった。角が湿って波打ち、数枚は床に崩れ落ちている。

    しゃがみ込み、紙束の隙間を指でめくった。

    黒いカビが広がり、文字の判別は難しい。だが、一枚だけ妙に新しい紙が混ざっていた。

    そこには“提出者:いとし○○”という記名欄があった。一部がインクの滲みで読めない。

    一瞬、呼吸を止める。

    冴「……俺の名前?」

    眉がわずかに動く。
    紙を持ち上げる手が、少しだけ震えた。

  • 88スレ主◆jCG/LXEbdA25/10/17(金) 09:20:47

    潔「冴、そっちどうだ?」


    遠くから潔の声がする。

    冴は短く答えた。


    冴「……まだだ。もう少し奥を見てから」


    プリントの奥に、木箱がひとつあった。角が欠け、金属の取っ手は錆びついている。大人の膝ほどの高さで、埃を被りながらも形はしっかりしていた。


    腰をかがめて表面を手で払った。


    冴「……鍵穴、か」


    小さな穴が、中央にぽつりと口を開けている。

    鍵は見当たらない。


    持ち上げようとしたが、意外と重く、底で何かが中を転がった。


    冴は一度息を整え、耳を澄ませた。

    箱の中から───何かが、小さく「トン」と音を立てた気がした。


    冴「……中に、何かいるのか?」


    呟いた声は、空気に吸い込まれていった。


    冴 dice1d100=36 (36)

    ※53以上の場合:探索成功

    ※52以下の場合:SAN値・怪我値減少

    ※ファンブル・クリティカル適用有

  • 89スレ主◆jCG/LXEbdA25/10/17(金) 11:48:15

    【探索失敗】
    【SAN値21→20(-1)/怪我値95→90(-5)】

    木箱の取っ手に手をかけ、ゆっくりと引く。
    ………びくともしない。

    何度か角度を変えて力を込めるが、蓋は固く閉ざされたままだ。錆びついた金属の軋む音が、静まり返った廊下にかすかに響く。

    冴「……開けるなってことか」

    低く呟き、眉をひそめる。

    取っ手の隙間に指を滑り込ませようとするが、木のささくれが皮膚を刺し、わずかに血が滲んだ。

    冴「チッ………」

    小さく舌打ちして手を引く。
    力任せに壊そうかとも考えたが、校舎のどこかに何かが潜んでいるかもしれない。無闇に音を立てるのは愚策だ。

    箱から離れ、散乱したプリントの山へと目を戻す。床に散らばった紙を一枚、また一枚と拾い上げる。

    ───“いとし○○”

    紙を光にかざすように見つめる。インクがかすれて読めなかった箇所が、じわじわと黒く浮かび上がっていく。

    いとし“りん”───

    冴「違う」

    思わず声に出た。

  • 90スレ主◆jCG/LXEbdA25/10/17(金) 11:49:31

    頭を振り、手にした紙を握りしめる。

    だが、握り潰そうとした瞬間───紙の端が手を裂いた。

    冴「っ……」

    鋭い痛みが手のひらに走る。

    見ると、赤い筋が走っていた。紙の切り口にしては深い。血が滲み、ぽたりと床に落ちる。

    息を整え、唇を引き結ぶ。

    冴「…………らしくもねえ」

    紙を静かに床に置き、立ち上がる。

    背後の木箱を一瞥する。そこにまだ何かがある気配が、背中越しに残っている。

    それでも冴は引き返した。

    階段下の影が、まるで生き物のように形を変えながら足元を追いかけてくるような錯覚。
    手のひらを押さえながらその暗がりから一歩、外へ出た。

    埃っぽい空気の中で、息を吐く。
    手のひらがひりひりと痛む。

    冴「……ここは、またあとだ」

    そう呟いて、階段下の奥を一度だけ振り返った。

  • 91スレ主◆jCG/LXEbdA25/10/17(金) 18:15:27

    【②板の継ぎ目:潔世一】

    潔は冴が暗闇に消えた少し後、階段下の奥へと足を踏み入れた。

    湿り気を帯びた空気が、肌にまとわりつく。足元には散乱したプリントと埃、そしてわずかに浮いた床板。光の差さないその隙間から、冷たい風が頬を撫でた。

    潔「……風、だよな。地下でもあるのか?」

    呟きながらしゃがみこむ。

    指先で床の継ぎ目をなぞると、木目の奥から微かなざらつきが伝わる。

    叩くと、鈍い音。
    もう一度、別の場所を。

    こん、こん。………からん。

    ひとつだけ、響きが違った。

    潔「ここか」

    声に出した瞬間、風がわずかに強く吹いた。
    まるで返事のように。

    眉をひそめ、指の腹で隙間を押し広げようとする。だが板は固く、動かない。何かを押し留めるように、そこに“力”が働いている。

    潔「……開く気がしないな」

    額に汗が滲む。隙間の中に黒い影が見えた気がして、思わず手を引っ込める。

  • 92スレ主◆jCG/LXEbdA25/10/17(金) 22:36:21

    背後の空気が、ゆらりと揺れた。


    さっき冴が立っていたあたり───紙の切れるような音がまだ耳の奥で残響している。


    喉の奥で唾を飲み込み、もう一度床を叩いた。すると今度は、低い響きとともに、床の下から“何か”が答えるように軋んだ。


    潔「……気のせいだよな?」


    独り言のように呟きながらも、目は継ぎ目から離せない。木の隙間から流れ込む風が、急に生ぬるくなった。その風が腕の内出血をなぞるように触れて、鈍い痛みを残す。


    潔「……やめとくか」


    短く息を吐いて立ち上がる。


    だが、足元で小さく“こつん”と音がした。まるで床下から誰かが同じように叩き返したような───そんな音。


    数秒その場に立ち尽くし、やがて小さく笑って肩をすくめた。


    再び床を見下ろす。

    風は止まっていた。


    その静けさの中、まるで誰かが下から覗いているような気配だけがまだ継ぎ目の奥に残っていた。


    潔 dice1d100=47 (47)

    ※53以上の場合:探索成功

    ※52以下の場合:SAN値・怪我値減少

    ※ファンブル・クリティカル適用有

  • 93二次元好きの匿名さん25/10/18(土) 02:34:33

    ドキドキする

  • 94二次元好きの匿名さん25/10/18(土) 04:11:29

    何かありそう(居そう?)だったけど失敗しちゃったね…どうなるかな

  • 95二次元好きの匿名さん25/10/18(土) 11:24:53

    プリントの名前凛ちゃんなの糸師に何かあるのかな

  • 96二次元好きの匿名さん25/10/18(土) 16:58:01

    >>95

    そこ気になるね

  • 97スレ主◆jCG/LXEbdA25/10/18(土) 21:30:18

    すみません!本日バタバタしておりまして更新再開が明日になります!引き続き色々考えて進めていきますのでよろしくお願いします…!

  • 98二次元好きの匿名さん25/10/19(日) 01:52:29

    >>97

    お忙しい中お疲れ様です!

    楽しみにしながらのんびりお待ちしてます~

  • 99二次元好きの匿名さん25/10/19(日) 10:05:58

    保守
    スレ主の無理のないペースで更新してくれたら嬉しい

  • 100二次元好きの匿名さん25/10/19(日) 16:26:09

    無理はしないでね
    いつまでも待ってるから〜

  • 101スレ主◆jCG/LXEbdA25/10/19(日) 20:53:01

    >>93

    失敗続きでちょっと不安になりますよね…


    >>94

    前回に続いて取りこぼしが発生したのでどうなることやら…


    >>95

    >>96

    探索終了後に何かが起こるかもしれません…!


    >>98

    お待ち下さりありがとうございます!とても嬉しいです…!


    >>99

    ありがとうございます!更新できるタイミングで更新続けていきますね…!


    >>100

    ありがとうございます…!お待たせしてしまいましたが、ぼちぼち更新開始します!



    家庭の事情で更新止まってました…のんびり更新始めますのでお時間ある際にまた見に来て頂けると嬉しいです…!

  • 102スレ主◆jCG/LXEbdA25/10/19(日) 21:34:06

    【探索失敗】
    【SAN値17→16(-1)/怪我値90→85(軽傷)】

    継ぎ目の奥から“カリ……カリ……”と微かな音がした。まるで爪で木をひっかくような乾いた音。

    息を呑み、しゃがみこんで耳を澄ます。
    何かが這っている。音は明らかに、板の向こう側から聞こえていた。

    潔「………動いてる」

    低く呟きながら身構える。膝を少し曲げ、いつでも蹴りを放てるように重心を落とす。

    冴の様子を一瞬だけ視界の端で確認して、すぐに目を戻した。

    “カリ、カリカリ……”

    音が近づく。

    今度は板の裏から押し返すような衝撃。
    ドン、と鈍い音。

    その瞬間───乾いた破裂音とともに、床が裂けた。

    反射で跳び退く。
    しかし、逃げ切る前に冷たい何かが足首を掴んだ。

    潔「ッ───!」

    見下ろすと、そこにあったのは小さな手。火傷の跡でただれ、爪が半ば剥がれかけている。
    その指先が足に食い込み、鈍い痛みが走る。

  • 103スレ主◆jCG/LXEbdA25/10/19(日) 22:04:06

    潔「離せ!!!」

    だが、その叫び声よりも早く───
    床下の闇から次々に手が伸びた。

    一本、二本、三本。
    どれも細く、子供のもののように見える。

    焦げた皮膚の隙間から赤黒い液が垂れ落ちた。

    体を捻って引き剥がそうとする。

    だが、手は離れない。
    むしろその力は増していく。

    足首から脛、膝へと、ずるりと滑るように這い上がる感触。

    潔「っぐ……!」

    痛みと恐怖に息が乱れる。
    視界の端で、冴がこちらに振り向いたのが見えた。

  • 104スレ主◆jCG/LXEbdA25/10/19(日) 22:07:30

    声を出そうとした瞬間。
    床が大きく軋み───

    “ずるっ”

    潔の身体が引き摺り込まれた。

    腕を伸ばしても、空を掴むだけ。
    冷たい木の縁が手のひらから遠ざかり、耳の奥で子供の声が囁く。

    にげないで───

    暗闇がすべてを呑み込む。
    その声が、何度も何度も響いた。

    にげないで、にげないで、にげないで───

    そして、音が消える。

    埃だけが舞い上がる中、そこには開いたままの床板と沈黙だけが残っていた。

    【潔世一:一時離脱】
    ※強制イベント確定
    ※黒名・士道の探索に影響有
    ※“かいじゅうのおもちゃ”強制使用確定

  • 105二次元好きの匿名さん25/10/20(月) 00:07:55

    ひきずりこまれた!
    強制イベント危なそうだけど無事でありますように!

  • 106スレ主◆jCG/LXEbdA25/10/20(月) 07:33:04

    >>105

    探索が進むごとに嫌な怖さが増すように頑張ってます…!無事乗り越えて次に進んで欲しいですね……

  • 107スレ主◆jCG/LXEbdA25/10/20(月) 11:35:40

    【③職員玄関:黒名蘭世&士道龍聖】

    二人の背が暗闇に飲まれたのを確認してから、黒名と士道はゆっくりと職員玄関の方へ歩き出した。

    西側廊下に灯っていた光が遠ざかるにつれて、足元の影が長く伸びていく。空気が淀み、湿った埃の匂いが鼻を刺した。

    黒名「……ここ、他より空気が悪いな」

    黒名が小さく呟く。息を吸うたび、胸の奥にぬるい膜が張りつくような感覚。

    士道「ま、玄関なんてこんなもんだろ」

    士道は気にした様子もなく歩を進め、曇りガラスの扉の前に立った。

    そこには、外の景色など一切見えない。曇りガラスの向こうは真っ黒で、まるで誰かが内側から塗りつぶしたかのように夜と闇の境界すら曖昧になっていた。

    黒名「………外なのか?」

    黒名の声にはわずかな震えが混じる。

    扉の隙間から吹き込む風は、妙に生温い。まるで人の吐息のようで、それが肌を撫でるたび、ぞわりと鳥肌が立った。

    士道「うわ、気持ち悪いな」

    士道が眉をしかめながらも、手のひらで取っ手を握る。

  • 108スレ主◆jCG/LXEbdA25/10/20(月) 11:45:31

    キィ……と金属が軋む音。
    錆びついてはいるが、鍵はかかっていない。

    黒名「やっぱり開かない」

    黒名が思い出したように呟く。
    さっき、士道が試していた時もそうだった。

    鍵はかかっていないのに、扉はびくともしなかった。

    士道「……まあ、もう一回やってみるか」

    士道が力を込める。
    だが扉はまるで壁の一部になったように動かない。

    押しても、引いても、音すら立たない。

    黒名は曇りガラスに顔を近づけた。
    息が白く曇り、外の闇が揺れる。

    ───いや、揺れたのは闇じゃない。
    向こう側で“何か”がほんのわずかに蠢いた。

    黒名「……今、動いたよな?」

    黒名が低く問う。

  • 109スレ主◆jCG/LXEbdA25/10/20(月) 11:46:54

    士道は肩をすくめる。


    士道「風だろ。……多分な」


    けれど、風の音はしなかった。

    静寂の中で、二人の心臓の鼓動だけが響く。


    黒名「……この先、やっぱり外じゃない気がする」


    黒名が呟いた時、再び隙間風が吹いた。

    それはまるで誰かが内側から息を吹きかけてきたように、湿った吐息のような熱を帯びていた。


    士道は取っ手に手をかけたまま、静かに息を吐く。


    士道「とりあえずさ、壊したら分かんじゃね?」


    そう言って体重をかける。

    ───それでも扉はびくともしなかった。


    黒名 dice1d100=39 (39)

    士道 dice1d100=28 (28)

    ※合計値85以上の場合:探索成功

    ※合計値84以下の場合:SAN値・怪我値減少

    ※成功失敗問わず特殊イベント発生

    ※ファンブル・クリティカル適用有

  • 110二次元好きの匿名さん25/10/20(月) 16:55:21

    緊張する……!

  • 111スレ主◆jCG/LXEbdA25/10/20(月) 20:52:52

    >>110

    書いてる私も無事脱出できるのか緊張してます…

  • 112スレ主◆jCG/LXEbdA25/10/20(月) 21:01:26

    【探索失敗:ハズレ】
    【黒名蘭世:SAN値14→13(-1)/怪我値95→90(軽傷)】
    【士道龍聖:SAN値17→16(-1)/怪我値95→90(軽傷)】

    士道「全然開かねえな、この扉」

    士道が短く息を吐く。
    取っ手を握った手を離し、靴のつま先を軽く鳴らす。

    黒名「おい、まさか───」

    黒名が止めるより早く、ドンッ、と乾いた音が廊下に響いた。

    士道の蹴りが、古びた扉に直撃する。
    鈍い衝撃音のあと、曇りガラスがわずかに震え、錆びた蝶番が悲鳴を上げた。

    士道「なんだよ、開くじゃねえか!」

    士道が得意げに笑う。
    だがその声が途切れるより早く、ガタン、と音を立てて扉がひとりでに開いた。

    曇りガラスの向こうには底なしの闇。
    街の灯りも、空の色も、なにもない。

  • 113スレ主◆jCG/LXEbdA25/10/20(月) 21:14:58

    黒名が眉をひそめ呟く。

    黒名「……何も見えないな」

    士道は首を傾げたまま、一歩、暗闇の方へ身を乗り出した。

    その瞬間───
    背中を、ドンッと押された。

    二人の身体が前のめりに傾く。
    思わず取っ手を掴もうとした指先は空を切った。

    黒名「…………え?」

    黒名が反射的に振り向いた。

    そこに立っていたのは冴。
    ………いや、冴“のようなもの”だった。

    闇に溶けた輪郭、歪んだ目。
    口だけが笑っていた。

    士道「あー……なるほど」

    士道が諦めたように呟く。

    士道「俺たちは一旦退場ってわけか」

    次の瞬間、二人の足元がずるりと崩れる。
    地面が抜けたわけでもないのに、身体が闇に吸い込まれていく。

  • 114スレ主◆jCG/LXEbdA25/10/20(月) 21:24:34

    黒名が手を伸ばす。
    だが掴めるものは何もない。

    闇の中から、無数の腕が這い出してきた。青白く、爪だけが異様に長い。それらが士道の頭を、腕を、足を掴む。

    士道「……チッ、うぜえな」

    もがくが、掴まれた腕はびくともしない。

    黒名の方にも腕が伸びる。
    爪が肌を裂き、血のぬるりとした感触が指先を伝う。

    士道「はあ。………どうせ落ちんなら丁寧にもてなせよ」

    士道が吐き捨てるように笑った。

    その言葉が闇に呑まれたと同時に、二人の身体は完全に消えた。
    残ったのは、開け放たれた扉。

    闇がゆらりと揺れたかと思うと───

    バタン。

    職員玄関の扉がひとりでに閉じた。

    【黒名蘭世&士道龍聖:一時離脱】

  • 115スレ主◆jCG/LXEbdA25/10/20(月) 21:46:50

    冴は階段下の入口に立っていた。
    わずかに差し込む非常灯の光が、足元に細い影を落としている。

    息を潜めて耳を澄ます。
    遠くで、風が建物の隙間を通り抜ける音。

    けれど───足音はない。

    冴「……遅いな」

    その呟きは、自分の声とは思えないほど低かった。

    待つことに理由がない気がしてくる。
    それでももう一度だけと息を整え、階段下の暗がりに足を踏み入れた。

    空気が変わる。
    ぬめるように湿り気を帯びた風が頬を撫でる。埃と古紙の匂い、遠くで水滴が落ちるような音。

    冴「潔?………悪魔くん?」

    呼びかけても返事はない。
    声が壁に吸い込まれ、闇に溶ける。

    床の軋みを確かめながら、一歩、また一歩と奥へ進む。
    足音だけが響く。

    確かに、さっきは聞こえた。
    足音も、声も、物音も。

    だが今は静まり返っている。

  • 116スレ主◆jCG/LXEbdA25/10/20(月) 22:34:00

    息を吐くたび、自分の鼓動だけがやけに大きく感じられた。まるで最初から、自分しかいなかったように。

    冴は立ち止まり、暗闇の奥を睨むように見つめた。
    ───その時だった。

    『……にいちゃ』

    背後から、懐かしい声がした。
    反射的に振り返る。

    そこに立っていたのは、幼い頃の弟───凛。

    あの頃と同じ笑い方、同じ声。
    胸の奥で、何かがきしむ。

    だが、その姿はすぐに崩れ始めた。

    輪郭が揺れ、肌が溶けるように歪み、凛の顔と自分の顔が重なっていく。

    『なんで俺のこと置いていったの?』
    『俺にお前は必要ない』
    『俺のこと嫌いになったの?』
    『消えろ』
    『なんで?』『なんで?』『なんで?』

    交互に響く二つの声。
    凛の声と、自分の声。

    どちらが責めていてどちらが責められているのか、もう分からない。

  • 117二次元好きの匿名さん25/10/21(火) 04:32:00

    苦しいよ…

  • 118スレ主◆jCG/LXEbdA25/10/21(火) 08:26:25

    >>117

    ナイトスノウで脳を焼かれた結果切ない感じになりました、早く原作では仲直りしてほしいです

  • 119スレ主◆jCG/LXEbdA25/10/21(火) 11:57:29

    【《かいじゅうのおもちゃ》×1:発動】

    頭の奥が痛い。脳を直接握られているような鈍痛。
    世界がぐにゃりと歪み、床が波打つ。

    心臓の鼓動がうるさい。
    息をしているのかも分からない。

    それでも、冴は奥歯を噛み締めた。

    冴「………クソッタレが」

    吐き捨てるように言葉が零れる。
    喉が焼けるほどの痛みを伴って。

    ───二度と取り返せない言葉が今、闇の中で形を持って迫ってくる。

    過去の幻影が冴の身体に触れようとした、その瞬間。

    ───バチンッ!

    鋭い音を立てて、何かが弾けた。
    閃光が一瞬、闇を切り裂く。

    歪んだ影が後ずさり、腕に伸ばしていた手は焦がすように弾かれた。

  • 120スレ主◆jCG/LXEbdA25/10/21(火) 16:43:26

    「だめだよ、兄ちゃんに触っちゃ」

    静かな声がした。
    その声は懐かしいのにどこか現実的で、確かに“今”を生きている響きだった。

    サッカーバッグが小さく揺れ、そこから飛び出してきたのは───もうひとりの凛。

    光の粒をまとい幼い頃のままの姿で、それでも歪みも影も一切なく、まっすぐに兄を見上げていた。

    冴「………凛?」

    思わず名を呼ぶ。
    声が震えた。

    “歪んだ”凛が作り物の悪夢なら、この“凛”は確かに本物の記憶が形を取ったようだった。

    「ほら、一緒に戦おう?兄ちゃんは世界一強いんでしょ?」

    無邪気に笑う。
    その笑顔には、何の影もない。

    恐竜の玩具をぎゅっと片手に抱え、もう片方の手を差し出してくる。

  • 121スレ主◆jCG/LXEbdA25/10/21(火) 21:17:40

    冴は一瞬、動けなかった。

    心臓が痛む。


    後悔と、安堵と、赦しと───全部がごちゃまぜになって喉の奥につかえる。


    冴「……過去になんか、興味ねえと思ってたんだけどな」


    ゆっくりとその手を握り返す。

    小さな手のひらのぬくもりが、確かに現実のものとして伝わってきた。


    そして、冴は真っ直ぐに前を見据えた。

    そこに立つのは、歪んだ“過去”と、今の自分を試す“影”。


    冴「行くぞ、凛」


    返る笑顔は太陽みたいにまぶしくて。


    ───二人の影が、同時に前へと踏み出した。


    冴 dice1d100=64 (64)

    幼少期凛 dice1d100=8 (8)

    過去の亡霊 dice1d100=68 (68)

    ※冴・凛の合計値が敵を上回れば撃破成功

    ※冴・凛の合計値が敵を下回れば戦闘続行(冴のSAN値減少)

    ※クリティカル・ファンブル適用有

  • 122スレ主◆jCG/LXEbdA25/10/21(火) 21:32:52

    【撃破成功】

    幻影の足音が、ぬるりとした湿気の中に響く。黒く揺らめく腕が伸びた瞬間───凛がそれを跳ねるようにかわした。

    「兄ちゃん、右!」

    声と同時に、冴は身を低くして影の懐に潜り込む。幻影の顔が二つに割れ、それぞれが異なる声で囁く。

    『俺は世界一にはなれない』
    『俺のこと嫌いになったの?』

    冴の拳が止まりかける。
    だが、凛が笑って振り返る。

    「兄ちゃんは俺のこと、嫌いになんかなってないよ」

    その声が、幻影のざらついた輪郭を少しずつ崩していく。闇がざわめく。幻影が怒りを孕んだ動きで、凛の方へ手を伸ばす。

    冴「───行かせるかよ」

    冴が一気に踏み込んだ。

    足元の埃が舞う。軸足をしならせ、回し蹴りが二つの顔を正確に捕らえる。

    冴「………サヨナラだ」

    鈍い音とともに、影が砕けた。形を失った亡霊は、煙のように散り、跡形もなく消える。

    ただ、静寂だけが残る。

  • 123スレ主◆jCG/LXEbdA25/10/21(火) 21:34:04

    その中で───ぱん、と乾いた音。
    凛が小さく手を叩いていた。

    「やったね!」

    笑顔は、ずっとあの日のまま。冴の方を見上げて、どこまでもまっすぐな声で言う。

    「兄ちゃん。いつでも、そばにいるよ」

    ふわりと風が吹く。
    その身体が光にほどけていく。

    眩しさに思わず目を細めたときには、もう凛の姿はなかった。

    ポトン───

    足元に、怪獣の玩具が転がっていた。

    冴はしゃがみ込み、それを拾い上げる。
    手のひらの中に残る温もりが、やけに重く感じた。

    無言のまま、サッカーバッグを開けて、玩具をそっと戻す。

    冴「……ああ、知ってるよ」

    誰にともなく呟く。
    ふう、と長く息を吐いた。

    肩から力が抜け、視線がぼんやりと暗がりに沈む。
    そして、少しだけ笑う。

  • 124スレ主◆jCG/LXEbdA25/10/21(火) 21:56:58

    冴「……まったく、世話が焼ける弟だ」

    静かな空間に、一人分の足音が響いた。

    湿った空気の中、暗がりの奥に伸びた先。
    三人がいた場所には、もう誰の姿もなかった。

    冴「……ったく、どこ行ってんだ」

    その声は思いのほか小さく、返事を求めるよりも、自分を落ち着かせるための呟きだった。

    公衆電話の前まで戻ると、蛍光灯の残光が薄く射し込み、床の上で何かが光った。

    そこに置かれていたのは、銀色の鍵と破れた体操着。どちらも“誰かがそっと置いていった”ような気配をまとっている。

    周囲を見回し、無人の廊下の空気を確かめる。
    誰もいない。それでも見られているような感覚が背筋を撫でていった。

    冴「……保健室、か」

    鍵を拾い上げて手のひらの中で転がす。
    そこには、微かに温もりが残っていた。

    ポケットにしまい、もう片方の手で破れた体操着を持ち上げる。

    古い布地は少し湿っていて、焦げたような匂いがした。それでもきっと、誰かが必要としているような気がして、小さく息を吐く。

    冴「忘れ物ってことか」

    体操着をサッカーバッグにしまい、壁にもたれかかってしゃがみ込んだ。

  • 125スレ主◆jCG/LXEbdA25/10/21(火) 22:38:56

    廊下の突き当たり───職員休憩室の方から、かすかな物音がした。
    誰かが何かを動かしているような曖昧な気配。

    だが冴は立ち上がらなかった。
    ただ目を細めて、暗闇の向こうを見つめる。

    冴「……まあ、あとはアイツらに任せる」

    そう呟き、背を壁につけたままゆっくりと目を閉じる。

    しばらくして、階段下にわずかな明かりが戻るのが見えた。
    それを確認すると、冴の唇がかすかに笑みの形を描いた。

    【《保健室の鍵》×1:銀色の鍵】
    【《やぶれたたいそうぎ》×1:焦げ跡が残る体操着。どこかで役に立ちそう】

  • 126二次元好きの匿名さん25/10/21(火) 22:39:56

    撃破できて良かったー!
    一人で保健室行くの怖いけどかいじゅうのおもちゃの凛ちゃんついてるならなんとかなるかな

  • 127二次元好きの匿名さん25/10/22(水) 03:58:11

    職員休憩室に離脱組の誰かいるのかな

  • 128スレ主◆jCG/LXEbdA25/10/22(水) 08:06:19

    >>126

    かいじゅうのおもちゃの恩恵と冴の頑張りがあればきっとなんとかなります!


    >>127

    後からのお楽しみです…!

  • 129スレ主◆jCG/LXEbdA25/10/22(水) 10:45:15

    ―――ドンッ、と鈍い音がして、埃がふわりと舞い上がる。

    潔「いって……てて……」

    尻もちをついたまま、潔は腰を押さえて呻いた。床は硬く、木のきしむ感触が尻にまで伝わってくる。

    しばらくぼんやりしてから、ようやく顔を上げる。

    そこは―――見覚えのある部屋だった。

    革張りの椅子。艶を失った木の机。壁に掛けられた、歴代の校長の笑顔。

    潔「……校長室……?え、なんで?」

    落ちたのは確か、あの床下の穴のはずだ。

    落ちる感覚はあった。
    それなのに、また“ここ”にいる。

    潔「1階から落ちたのに、また1階って……どういうことだよ……」

    ぼやきながら立ち上がり、尻を軽く払いながら周囲を見回す。静まり返った空間には仲間たちの声はどこにもない。士道も、黒名も、冴も。

    潔「…………冴?」

    呼びかけても、返事はない。音すら返ってこない。まるでこの部屋だけが時間から切り離されたみたいに。

    胸の奥がざらつくような不安を押し殺して、校長室の扉に手をかけた。

  • 130スレ主◆jCG/LXEbdA25/10/22(水) 11:45:21

    ガチャ……
    鍵はかかっていないのに、扉はびくともしない。

    潔「……はは、マジかよ」

    苦笑が漏れる。
    閉じ込められた、というより“出してもらえない”。誰かがそう言っているように思えた。

    潔「……忘れ物を探せってことか」

    自分に言い聞かせるように呟くと、視線を校長机へと向けた。あの闇の奥に、まだ何かがあるのかもしれない。
    息を吸い込み、一歩机の方へと歩き出した。

    その時―――壁に掛けられた写真がかすかに揺れた。

    潔「………?」

    風も、ないのに。

  • 131スレ主◆jCG/LXEbdA25/10/22(水) 11:49:43

    潔が首を傾げた瞬間。

    ―――ガタッ
    ―――ガタガタガタガタッ

    一枚、また一枚と、壁の写真が震えだす。金具が軋み、ガラスがカタカタと鳴る。校長たちの笑顔が微かに歪んで見えた。

    潔「おい、やめろよ……」

    呟いても、誰も答えない。

    そして―――………ガシャッ

    一枚の写真が床に落ちた。額縁が割れ、ガラス片が床に散らばる。それは十一人目の校長、日付のない写真。
    破片の隙間から、黒い“何か”が滲み出してくる。

    ずるり―――音を立てて、それは這い出した。床の上に、液体のように形を変えながら、人の形をとり始める。
    顔は真っ黒に塗り潰されていた。だが、塗り潰されたその中で、確かに“表情”が動いている。

    泣くように歪み、
    笑うように裂け、
    怒るように震える。

  • 132スレ主◆jCG/LXEbdA25/10/22(水) 11:59:50

    潔「……なんだよ、これ……」


    潔は、じり、と後ずさる。

    だが背中はすぐに壁に当たった。


    逃げ場はない。

    仲間もいない。


    それでも――――――。


    潔「……クソッ、来るなら来いよ!」


    震える拳を、無理やり握りしめた。

    喉の奥から上がる恐怖を押し殺し、視線を黒い顔の“それ”に向ける。


    光のない瞳と、潔の目がぶつかった瞬間。

    ―――空気が、凍りついた。


    潔 dice1d100=58 (58)

    校長 dice1d100=71 (71)

    ※敵を上回れば撃破成功

    ※敵を下回れば戦闘続行(SAN値減少)

    ※クリティカル・ファンブル適用有

  • 133スレ主◆jCG/LXEbdA25/10/22(水) 14:28:55

    【戦闘続行:SAN値16→15(-1)】

    潔は息を整え、床に足を滑らせた。
    膝を沈め、瞬間―――蹴り上げる。

    風を裂く音と共に、渾身の蹴りが校長の胴を捉えた。

    ―――はずだった。

    潔「………ッ!?」

    だが、手応えがない。
    足は“それ”の身体をすり抜けた。

    冷たい感触が脛の奥まで染み込んでくる。

    次の瞬間、脳裏に誰かの記憶が流れ込んだ。

    泣き叫ぶ声。
    机を叩く音。
    生徒の名を呼ぶ声。
    絶望に満ちた、何百もの顔。

    潔「やめろ……!」

    頭を振る。

    視界が揺れる。
    冷たい汗が背中を伝う。
    まるで自分の身体が、他人の苦しみで満たされていくようだった。

  • 134スレ主◆jCG/LXEbdA25/10/22(水) 14:29:58

    ―――“それ”が動く。

    黒い腕が溶けるように床を這い、潔の足首を狙う。


    反射で跳ね退く。


    バックステップ。

    距離を取りながら、息を吐く。


    潔「……なるほど、物理は聞かないってことか」


    再び構え直す。

    暗闇に沈むその影を、真っ直ぐに睨みつけた。

    心臓の鼓動がやけにうるさい。


    それは恐怖と闘志がせめぎ合う音だった。


    潔 dice1d100=48 (48)

    校長 dice1d100=61 (61)

    ※敵を上回れば撃破成功

    ※敵を下回れば戦闘続行(SAN値減少)

    ※クリティカル・ファンブル適用有

  • 135スレ主◆jCG/LXEbdA25/10/22(水) 16:55:37

    【SAN値15→14(-1)】

    物理攻撃が効かないなら―――
    俺は、何をすればいい?

    潔は歯を食いしばった。
    拳を握る手が震えているのは恐怖か、それとも苛立ちか。

    目の前の“それ”は、ただ揺らいでいる。輪郭を保てず、溶けて、また固まり、まるで感情そのものが形になったようだった。

    潔「クソ……意味わかんねぇ……!」

    再び腕が伸びる。
    身をひねってかわす。

    風を切る音が耳を掠め、背後の壁が黒く焦げた。

    (考えろ……どんなルールでも勝ち筋はある……!)

    頭を回す。
    蹴りも、拳も、通じない。

    なら―――何に反応してる?

  • 136スレ主◆jCG/LXEbdA25/10/22(水) 16:57:43

    目だけが異様に動く。

    こちらの動きを、感情を追っている。


    “怒り”に反応した時、黒い靄が膨らんだ。

    “恐れ”を見せた瞬間、それが笑った。


    (……感情か?負の感情に呼応してる?)


    息を吐く。

    胸の奥の熱を無理やり押さえつけるように。


    潔「落ち着け……俺まで呑まれたら終わりだ」


    そう呟いた瞬間、黒い影が低く唸った。

    まるで“理解された”ことに怒りを滲ませるように。


    潔は、後退しながら思考を止めない。


    倒すんじゃない。

    ―――こいつを“解く”んだ。


    潔 dice1d100=45 (45)

    校長 dice1d100=36 (36)

    ※敵を上回れば撃破成功

    ※敵を下回れば固有能力強制発動により撃破成功

    ※クリティカル・ファンブル適用有

  • 137二次元好きの匿名さん25/10/23(木) 00:34:17

    成功おめ!
    ちょうど思考のパズルのピースはまったっぽいタイミングで成功するの潔らしくてアツいね!

  • 138二次元好きの匿名さん25/10/23(木) 10:03:14

    おめでとう

  • 139二次元好きの匿名さん25/10/23(木) 16:45:17

    なかなかにアツい展開だ
    ラストまで見届けたい

  • 140スレ主◆jCG/LXEbdA25/10/23(木) 22:44:53

    仕事の都合で明日の夜まで更新できなそうです……すみません。保守ありがとうございます!

  • 141二次元好きの匿名さん25/10/24(金) 05:29:36

    了解です
    保守して待ってるから無理はしないようにね〜

  • 142二次元好きの匿名さん25/10/24(金) 11:20:59

    いつもお仕事お疲れ様です!
    のんびりお待ちしてるので無理しないでくださいね!

  • 143二次元好きの匿名さん25/10/24(金) 16:52:00

    スレ主も自分のペースで大丈夫だよ

  • 144スレ主◆jCG/LXEbdA25/10/24(金) 21:41:45

    >>137

    一発成功ではなく試行錯誤しながら成功に辿り着くのがらしくていいですよね!ダイスはちゃんと分かってるみたいです


    >>138

    ありがとうございます!


    >>139

    のんびり進行ですがラストまでもちろん書き切ります!


    >>141

    保守ありがとうございます!そう言って頂けると嬉しいです…!


    >>142

    ありがとうございます!仕事落ち着けばいいんですが中々………


    >>143

    ありがとうございます!更新できるタイミングで続けていきます!

  • 145スレ主◆jCG/LXEbdA25/10/24(金) 21:49:14

    【撃破成功】

    その時、潔はふと立ち止まった。
    汗が頬を伝い、呼吸は荒い。だが視線の奥にはもう、恐れはなかった。

    潔「俺はこの状況で楽しむことも、笑うこともできない」

    静かに言葉を紡ぐ。
    黒く滲んだ校長の影が奇妙にうねりながら揺れている。

    潔「だけど、この学校から脱出する覚悟はある」

    一歩、また一歩と前に進む。

    潔「この学校を………救う覚悟もある」

    足音が響くたび影がざわめいた。拒絶するように、哀しむように。
    それでも潔は止まらなかった。

    潔「……俺は、負けない」

    そう告げると、そっと手を伸ばした。
    震える手が闇を掴む。触れた瞬間―――冷たい感触と共に光が弾けた。

    黒い靄がゆっくりと剥がれ落ちていく。
    泣いて、怒って、笑って―――あらゆる感情が一度に零れ出すようだった。その中心にただ一人、男の姿が現れる。

    『…………すまなかった』

    顔のないその表情で深く頭を下げた。その動作には確かに“人間”の重みがあった。

  • 146スレ主◆jCG/LXEbdA25/10/24(金) 22:06:25

    潔は黙って見つめる。
    何も言わない。ただその“終わり”を見届ける。

    光が静かに散り、黒い影は消えた。校長室に残るのはゆっくりと落ちる一枚の写真だけ。
    それが床に触れた瞬間、空気が穏やかになった。まるでこの場所だけ夜が明けたように。

    息を吐き、拳をゆるめる。

    潔「………ありがとう」

    小さく呟いた声は、もう誰にも届かない。

    ―――そうして潔は校長の机へと歩み寄る。
    手を伸ばし、引き出しの取っ手に指をかけた。

    ギィ……とわずかな音を立てて開く。
    そこに広がっていたのは黒い闇ではなく、ごく普通の木の内側。“現実”の手触りだった。

    中には古びた封筒と、しわくちゃになった湿布がひとつ。手紙を取り上げ、そっと封を切る。

    『この学校は呪われている』
    『墓地の上に建てたという話は、噂ではなかったのか』
    『毎年沢山の生徒が、沢山の教員が命を落としていく』
    『………誰か、この学校を救ってくれ』

  • 147スレ主◆jCG/LXEbdA25/10/24(金) 22:08:06

    震えた文字が、紙面のあちこちで滲んでいた。書いた者の恐怖と後悔が指先から伝わってくるようだった。

    潔「……あの人も巻き込まれた側なのか」

    そう呟くと、丁寧に手紙を折りたたみサッカーバッグへとしまった。
    その隣にくたびれた湿布もそっと入れる。今はただの道具でも、きっとどこかで役に立つ。

    その時、部屋の空気が揺らめいた。
    消えていた蛍光灯が、チカッと光を放つ。校長室全体に、柔らかな明かりが戻っていた。

    その光を一瞥し、静かに微笑む。

    潔「……行くか。まだ、終わってない」

    扉へと歩み寄り、手をかける。
    ギィ、と古びた蝶番が鳴る音。ゆっくりと押し開けると、廊下の向こうには再び闇が待っていた。

    一歩、また一歩。
    姿はその闇の中に溶けていく。

    閉まりかけた扉の隙間から、最後に光が漏れた。それはまるで、校長室そのものが潔の背中を見送っているようだった。

    【《校長の手紙》×1:校長が残した手紙。来訪者へ学校の救済は託された】
    【《くたびれたしっぷ》×1:怪我値+5回復】

  • 148スレ主◆jCG/LXEbdA25/10/24(金) 22:31:04

    ―――真っ暗な部屋で、黒名と士道は目を覚ました。

    最初に感じたのは、重たい空気と喉に絡みつくような生臭さだった。
    視界は完全な闇。どれほど目を凝らしても自分の手のひらすら見えない。

    黒名「…………士道?いるのか?」

    黒名が低く声を出す。
    返ってきたのは近くでも遠くでもない、曖昧な距離感の声。

    士道「おー、全然見えねえけど一応いるぜ。つーかどこだここ?」

    二人は立ち上がり、壁を探すように手を伸ばす。しかし指先が触れるのは湿った空気と、時折感じるぬるりとした何か。

    黒名が眉をひそめた。

    黒名「……壁じゃないな、これ」

    士道「おいおい、余計なこと言うなって」

    士道が鼻をつまむ。

    暗闇の中、声だけが確かな存在を示していた。息をするたびに、空気の中に鉄のような味が混じっているのがわかる。
    時間の感覚が薄れていく。どれくらい気を失っていたのかも分からない。

    黒名「部屋なのか……それとも……」

    黒名が言葉を選ぶように呟く。

  • 149スレ主◆jCG/LXEbdA25/10/24(金) 22:43:14

    士道「ま、どっちでもいいさ。とりあえずいつも通り忘れ物見つけりゃ出れんだろ」


    士道の軽口が、この異様な空間に微かな現実味を与えた。


    黒名「……お前、こういう時は頼もしいな」


    士道「だろ?まあ、怖がったって仕方ねえし」


    その時、士道の足が何かを踏んだ。

    コトン、と小さな音が闇に吸い込まれる。


    二人は顔を見合わせようとしたが、互いの姿は影すらない。ただ声と呼吸だけが闇の中で繋がっていた。


    黒名「右か左か、どっちに行く?」


    士道「どっちでも同じだろ。進む方に道ができる、ってな」


    士道が笑い、黒名もわずかに息を吐く。

    それだけを合図に、二人はゆっくりと歩き始めた。


    足元の感触がいつの間にか固い床から柔らかいものへと変わっていく。冷たい何かが靴底にまとわりついて離れない。


    視えない恐怖よりも、立ち止まることの方が怖かった。だから声を頼りに、確かな出口のない闇の中を進み続ける。


    黒名 dice1d100=34 (34)

    士道 dice1d100=95 (95)

    ※53以上の場合:アイテム入手

    ※52以下の場合:収穫なし

    ※ファンブル・クリティカル適用有

  • 150二次元好きの匿名さん25/10/24(金) 22:57:55

    士道の安定感というか安心感というか 本当にこういうときに頼りになる男だよ

  • 151二次元好きの匿名さん25/10/25(土) 03:04:38

    士道いい男だ

  • 152二次元好きの匿名さん25/10/25(土) 12:00:13

    士道頼りになるしかっこいい
    いてくれて本当によかったよ

  • 153二次元好きの匿名さん25/10/25(土) 17:01:27

    ありがとう士道

  • 154スレ主◆jCG/LXEbdA25/10/25(土) 21:04:42

    >>150

    暴走悪魔の一面もありながらこういう時はとっても頼りになるの最高の男ですよね!


    >>151

    SS書く中でどんどん好感度が上がってます!


    >>152

    本SSに呼んで良かったです!


    >>153

    ここでしっかり成功してくれるのは本当に流石ですよね!

  • 155スレ主◆jCG/LXEbdA25/10/25(土) 21:12:48

    【士道龍聖:アイテム入手】

    黒名「……俺たち、どれくらい歩いた?」

    黒名の声がぬるい闇の中でぼそりと響いた。
    どこまで進んでも、壁にぶつかるわけでも段差に足を取られるわけでもない。ただ足音だけが延々と続いている。

    士道「さあな。五分か、それとも一時間か。ま、どっちでも一緒だろ」

    士道の軽口もどこか乾いていた。
    空気が重く、音が吸い込まれていく。

    黒名は立ち止まって深呼吸をする。その息すら白くもならず、何の気配も残さず消えた。

    黒名「……ここ、出口あるのか?」

    士道「どうだろうな。まあ最悪、冴ちゃん達が助けに来てくれるって!」

    楽観的な士道の言葉に、黒名は小さく笑った。見えないのに、その顔が浮かぶようで。

    黒名「……そうだな。きっと何とかしてくれそうだ」

    二人は再び歩き出した。足元の感触は相変わらず曖昧で、時折地面が液体のように沈む気がする。
    その度に黒名は息を呑み、士道は「おっと」と軽く受け流す。

    黒名「これ、夢じゃないよな?」

    士道「夢ならもっとマシなもん出てくるだろ。焼肉とかユッケとかさ」

    士道の声が笑い混じりに響く。

  • 156スレ主◆jCG/LXEbdA25/10/25(土) 21:25:09

    ―――その時。

    士道「ん?」

    手探りで歩いていた士道の指先に、何か柔らかいものが触れた。まるでマシュマロか、古い消しゴムのような弾力。
    手を握ると、“かさり”と小さな音がした。

    士道はにやりと笑う。

    士道「よく分かんねえけどラッキー。こういう時に拾うもんはだいたい使えんだよな」

    そう言って、士道はそれをポケットに突っ込んだ。

    まだ闇は続く。
    出口の気配も、天井の高さすらも分からない。

    それでも二人は声を交わしながら進む。歩く音が確かに自分の存在を示している限り、この闇の中でも前へ進める気がした。

    ―――ふと、どこかで微かに風が動いた。

    闇の奥に、出口の気配が確かにあった。
    二人はかすかに感じた風の動きを頼りに歩みを進めた。湿った空気が肌を撫で、どこかへ導くように流れている。重たい足音がぬかるむような地面に沈みながら、確かな方向を示していた。

    士道「…………こっちか?」

    士道がぼそりと呟く。
    闇の奥に、何かがいる。そう錯覚するほどの圧が進むほどに強くなる。

  • 157スレ主◆jCG/LXEbdA25/10/25(土) 21:26:58

    指先が、何かに触れた。
    木ではない。金属でもない。ぬるりと湿った感触。

    士道「なんだこれ、壁?」

    士道が眉をひそめ、もう一度押す。まるで生き物の皮膚のような柔らかさが返ってきた。

    士道「扉じゃ、ねえよな……?」

    黒名が一歩遅れて追いつく。
    暗闇の中、士道の背に触れた瞬間ようやく互いの存在を実感した。

    黒名「やっと見つけた……」

    黒名の安堵混じりの声。

    その“壁”を押すと、ゆっくりと動いた。ぎしぎしと音を立て、奥の世界が割れていくように。光が滲み出し、視界が開けていく。

    士道「……出られたか?」

    士道が目を細める。

  • 158スレ主◆jCG/LXEbdA25/10/25(土) 21:28:37

    そこは、見覚えのある廊下だった。

    長く、薄暗い廊下。遠くから漏れる蛍光灯の光が、まるで帰還を祝うように揺らめいている。


    黒名「ここ、さっきまでいた一階か?」


    黒名が呟く。


    士道「だな……。どういう仕組みなんだかマジで分かんねえ」


    士道が肩をすくめる。


    二人は慎重に一歩を踏み出す。

    その足音が廊下に響く。


    ―――生ぬるい風が、背中を撫でた。


    まるで“まだ、何かが後ろにいる”と告げるように。


    黒名 dice1d100=95 (95)

    士道 dice1d100=1 (1)

    ※合計値85以上の場合:振り向かない

    ※合計値84以下の場合:振り向く(SAN値減少/異常状態付与)

    ※ファンブル・クリティカル適用有

  • 159二次元好きの匿名さん25/10/25(土) 22:02:08

    ダイスの目ピーキーすぎて草

  • 160スレ主◆jCG/LXEbdA25/10/25(土) 22:07:52

    >>159

    絶対に振り向きたくない黒名と絶対に振り向きたい士道の戦いですね……

  • 161スレ主◆jCG/LXEbdA25/10/25(土) 22:08:55

    【士道龍聖:ファンブル(ダイス値1)】
    【次回戦闘時:強制不参加(戦闘終了後、通常通り行動可能)】

    二人は顔を見合せ、ほんの一瞬だけ互いの存在を確かめるように頷いた。そして振り向かずに歩き出す。
    廊下の空気は重く、奥へ進むたびに湿り気が増していく。靴底がきしむ音が、やけに遠くまで響いた。

    黒名「……行くか」

    士道「おう」

    ただ前だけを見て、足を止めない。背後から漂う生温い風が、まるで“戻れ”と囁くように頬を撫でる。
    だが黒名も士道もその声に耳を貸すことはなかった。

    廊下を真っ直ぐ進み、公衆電話付近で立ち止まる。

    かつて生徒たちが並んで使っていたであろう電話は、先程声を発した後、ノイズを響かせるだけ。
    蛍光灯の点滅が、緑がかった光を不規則に投げかける。

    士道「……ふぅ」

    士道が長く息を吐く。

    士道「意味わかんねえのが一番困るわ」

    黒名「結局あそこ、何だったんだ?」

    黒名も腕を組んだまま、視線を床へ落とす。

  • 162スレ主◆jCG/LXEbdA25/10/25(土) 22:10:26

    その時だった。

    ―――“グチャァ”

    生々しい音が、廊下全体を揺らした。まるで肉の塊を握り潰したような、湿った音。二人は反射的に身構える。

    振り返りたい衝動が、喉元までこみ上げる。だが黒名はぐっと奥歯を噛み締め、士道の肩を掴んだ。

    黒名「見るな。……何があっても、見るな」

    士道も頷く。拳を握りしめ、ただ前を見た。

    廊下がかすかに震えている。天井の埃がぱらぱらと落ち、薄暗い中に舞う。士道が横目で壁を見やると、そこには“職員休憩室”の札が掛かっていた。

    だが―――扉は、コンクリートで塗り固められていた。まるで、何かを封じ込めるように。

    黒名「………まあ、出れたしいいだろ」

    黒名が乾いた声で言う。

    士道「そうだな」

    士道も応じた。

    二人はその場に腰を下ろし、しばし無言で呼吸を整える。どこかで水が滴る音がする。それが時折、誰かの足音にも聞こえた。

    だが、もう気にしない。
    この学校では“不可解”こそが日常なのだから。

    二人は背を壁に預け、ほんの束の間―――暗闇の中で確かな“生”を確かめるように、目を閉じた。

  • 163スレ主◆jCG/LXEbdA25/10/25(土) 22:35:34

    冴は薄暗い廊下で目を開く。

    重く湿った空気が肺の奥に絡みつくように入り込み、鼻の奥に埃の匂いが残った。冷えきった床が背中にまとわりつき、いつの間にか眠っていたらしいことに気づく。

    耳を澄ますと、建物全体が静まり返っているはずなのに、奥の方からわずかな物音がする。金属が擦れるような、低い軋み。職員休憩室の方向だ。

    体を起こし、背中にこびりついた埃を軽く払った。
    その瞬間、校長室の方からも小さな音が響く。しかし、いくら待てどどちらの扉も開くことはなかった。

    冴「………」

    目を細め、しばらくその音を聞いていた。

    それが本当に“中にいる誰か”なのか、あるいは風か何かのせいなのか判断がつかない。一向に動きのない廊下に、息だけがこもる。
    やがて、小さくため息をついた。

    冴「………チッ、全然出てこねえな」

    ぼやきながら、ゆっくりと壁に手をつき立ち上がる。
    足音を抑えて歩き出すと、靴底が床の埃をわずかに鳴らした。西側の光が後ろに遠ざかり、闇が濃くなる。

    校長室の扉を横目に見ながら通り過ぎ、冴は“保健室“と擦り切れた金属プレートの前で立ち止まる。
    かすれた文字を指でなぞり、サッカーバッグから一本の銀色の鍵を取り出した。

    鍵穴に差し込み、ゆっくりと回す。内部の機構が重たく動く音。

    冴「………」

    扉がきしみながらわずかに開くと、湿った空気が頬を撫でた。

  • 164二次元好きの匿名さん25/10/26(日) 02:16:10

    またも続きが気になる…!

  • 165スレ主◆jCG/LXEbdA25/10/26(日) 09:14:17

    >>164

    一人探索はどうなるかハラハラしますよね………!どうか無事に終わってほしいです……

  • 166スレ主◆jCG/LXEbdA25/10/26(日) 10:21:51

    保健室の中は静寂に包まれていた。
    照明は落ち、窓際から細い月光が差し込んで床に薄い線を描く。空気は重く、埃の匂いと薬品の残り香が混ざり合って鼻を刺した。
    扉を閉めると、外の物音は完全に遮断される。

    その静寂の中で―――どこからともなく啜り泣きのような声が聞こえた。かすかな嗚咽、息を詰まらせるような湿った音。

    冴は足を止め、眉をひそめた。

    冴「………またか」

    声の主を探すように目を凝らすが、人影はどこにもない。薄闇の中、ただ備品棚のガラス扉が月明かりを反射しているだけだった。

    奥へ進むと、床に散らばる包帯の切れ端や古びた体温計が靴の先に当たる。踏みしめるたびに、わずかに軋む床板の音が響く。
    部屋の中をざっと見渡すと、何かがありそうな場所が三つほど目についた。

    一つ目は、窓際に並ぶ三台のベッド。白いカーテンが掛けられ、風もないのにわずかに揺れている。使われた形跡はなく、だがどこか生温い気配が漂っていた。

    二つ目は、壁際の薬品棚。扉は半分開き、瓶がいくつも倒れたまま転がっている。液体が乾いてできた跡が、床に黒く染みを残していた。

    三つ目は、奥の机とカルテの山。紙が散乱し、ところどころ血のような赤茶けた跡がついている。誰かが慌てて何かを探したようにも見える。

    一度視線を巡らせ、深く息を吐いた。

    冴「……まずはベッドからか」

    ゆっくりと歩み寄り、入口から一番手前のベッドに手を伸ばす。

    カーテンをつまみ、布の冷たさを確かめるように指先で押す。かすかに布が擦れる音がして、空気がわずかに動いた。

    そのまま、一つ目のベッドのカーテンを静かに開けた。

  • 167スレ主◆jCG/LXEbdA25/10/26(日) 11:13:28

    【①三台のベッド】

    ベッドの上には何もなく、ただ乱れたシーツがあった。

    冴は一歩踏み込み、手でその皺をなぞる。
    冷たい、だが湿ってはいない。まるで時間だけが止まったように、空気が動かない。

    冴「……誰かが寝てたのか?」

    ぼそりと呟く声が、やけに大きく響いた。
    返事はもちろんない。

    息を潜めて、ベッドの下を覗き込む。
    埃が薄く積もり、奥まで闇が続いている。手を伸ばせば届きそうだが、触れない。何かに触れてしまいそうな気がした。

    二つ目のベッドへ移る。カーテンが半分閉じたままで、隙間から暗がりが覗く。

    指先で軽く押すと、布の擦れる音が耳に刺さった。
    その音に呼応するように、部屋の奥で微かに何かが動いた気がした。一瞬だけ視線を向けるが、何もいない。
    気のせいか、あるいは―――

    冴「……悪趣味な演出だな」

    そう呟いて、ゆっくりカーテンを開く。
    二つ目のベッドは一つ目よりも整っている。ただ、枕の端に小さな跡が残っていた。手で押したようにも、濡れたものを置いたようにも見える。

    その形を目で追い、指で触れようとして、やめた。

  • 168スレ主◆jCG/LXEbdA25/10/26(日) 11:14:38

    三つ目のベッドへ視線を移す。他の二つよりもわずかにカーテンが膨らんでいる。

    風のせいではない。さっきまでは、こんな形をしていなかった気がする。


    無意識に息を止めた。


    冴「……最後、か」


    声に出した途端、静寂の中に自分の呼吸が戻ってきた。

    ベッドの隅には小さな影が落ちている。


    足を一歩踏み出し、手を伸ばした。カーテンの端をつまみ、ほんの少しだけ動かす。

    布の感触が指先に伝わる。それと同時に、背後の空気がわずかに揺れた。


    何かが、いる。

    そう感じた瞬間、冴の目が鋭く光る。


    冴「………来るならさっさとしろ」


    低く呟き、カーテンを一気に引いた。


    冴 dice1d100=34 (34)

    ※53以上の場合:探索成功

    ※52以下の場合:SAN値・怪我値減少

    ※ファンブル・クリティカル適用有

  • 169スレ主◆jCG/LXEbdA25/10/26(日) 11:36:15

    【かいじゅうのおもちゃ:発動済により特殊効果付与→探索を1度だけ自動成功に変換】

    開けた視界にベッドが映る瞬間、サッカーバッグの中で淡い光が零れた。一瞬、反射かと思ったが違う。光は確かに、意志を持つようにゆらめいている。
    冴は眉をひそめ、バッグの口を開けた。

    中には、いつかの戦いのあとに拾った怪獣の玩具。あの時と同じ、穏やかな光を放っていた。
    静まり返った保健室の中、その輝きだけが心臓の鼓動のように瞬いている。

    冴「………ふっ、案外世話焼きだな」

    苦笑を浮かべ、指先で玩具の頭を軽く撫でた。
    ほんの少しの間、凛の面影が頭をよぎる。いつも自分の背中を追って、転んでも笑って立ち上がるあの小さな影。

    「兄ちゃん、がんばってね」

    声にならない声が、どこか遠くから聞こえた気がした。
    その瞬間、光は静かに収まる。まるで“ここまで”と言うように、ぴたりと動きを止めた。

    深く息を吐いて、ベッドに視線を戻した。シーツの皺の間に、白い紙切れが一枚。先ほどまではなかったはずだ。
    慎重に拾い上げ、折り畳まれたそれを開く。

    『俺は悪くない』
    『勝手に餓死したあのガキが悪いんだ』

    一読して、冴の表情がわずかに歪んだ。
    字は乱れ、ところどころに涙のような染みが滲んでいる。筆圧の強さがそのまま、書き手の追い詰められた精神を物語っていた。

  • 170スレ主◆jCG/LXEbdA25/10/26(日) 18:24:58

    冴「責任転嫁か。……クソみてえな思考回路だな」

    吐き捨てるように言葉を零し、紙を二つ折りにしてポケットへ入れる。
    そこに“感情”を残しておく気はない。ただ、証拠として。あるいは“記憶”として。

    部屋の空気は少しずつ冷たくなっていく。窓の外では風が鳴き、廊下から微かに差し込む蛍光灯がチカチカと瞬く。
    その度に、凛の玩具が小さく反射して光を返す。まるで“次に進もう”と促しているようだった。

    一度だけその光を見つめ、頷いた。

    冴「わかってる。……まだ終わりじゃねぇ」

    足音を立てず、ベッドから離れる。

    部屋の隅――壁際に並ぶ薬品棚へと目を向けた。曇ったガラスの奥に、薬瓶がいくつも並んでいる。どれも埃をかぶり、ラベルはかすれて判別できない。

    冴「……次は、こっちか」

    そう呟き、ゆっくりと棚の取っ手へ手を伸ばした。

    【《教員の手紙》×1:どの教員のものかは不明だが、どこかで役に立つかもしれない】

  • 171スレ主◆jCG/LXEbdA25/10/26(日) 20:44:28

    【② 壁際の薬品棚】

    半分開いた扉が、ぎい……と軋んだ音を立てた。

    金属製の枠はところどころ錆びつき、白いペンキが剥がれかけている。中には大小さまざまな瓶や試験管が詰め込まれ、乱雑に立てかけられていた。

    冴は一歩、静かに足を踏み入れる。

    足元から、ぬるりとした感触。見下ろせば、床にはドス黒いシミが広がっている。月明かりに反射して、まるで液体がまだ“生きている”かのように光った。

    冴「……嫌な音だ」

    踏みしめるたび、鈍く湿った音が耳を刺す。それでも構わず棚に近づき、曇ったガラス戸を引き開けた。

    棚の奥には、掠れたラベルの貼られた瓶がいくつも並んでいる。

    “エタノ……ル”
    “ホルマ……ン”
    “試薬A”

    どれも中途半端に読めるだけで、判別はつかない。

    一本ずつ、慎重に手に取り確かめる。
    振れば液体がゆらりと動く。透明なもの、黄色く濁ったもの、底に沈殿物が溜まったもの。どれも時間の止まったような無機質な存在感を放っていた。

    一つ、瓶の底に小さなひびが入っているのを見つけた。
    指でなぞると、そこから滲み出す液体が肌を冷やす。無臭だが、嫌な感覚が残る。破片を指先で払って、棚の端にそっと戻した。

    冴「全部役に立たなそうだな」

  • 172スレ主◆jCG/LXEbdA25/10/26(日) 21:00:09

    小さく呟きながら、視線を横へずらす。瓶の群れの奥、ひときわ暗い影が動いたように見えた。


    反射的に体を引く。

    しかし、次の瞬間には何もない。影は棚の形に戻っていた。


    息を吐いて、また次の瓶に手を伸ばす。

    だが棚の底からは、いつの間にか黒い液体がじわりと滲み出している。踏みしめるたびにベチャ、と音が鳴り、靴底が吸い付くように沈む。


    慎重に足を引き抜き、再び棚の中段へ視線を移す。

    割れた瓶、乾いた薬包紙、誰かの使いかけの包帯。どれも古く、手を伸ばせば崩れ落ちそうなほど脆い。


    冴「……さて、次は」


    指先が別の瓶の取っ手に触れる。

    その瞬間、背後でカタリ、と何かが音を立てた。


    瞳がわずかに動く。

    暗がりの中、光の届かない奥に何かがある。それを確かめようと、一歩を踏み出す。


    足元で音が鳴った。

    それが液体のせいなのか、それとも別の“何か”なのか、判別がつかない。


    冴は息を整え、手の中の薬瓶を握り直す。


    そして―――静かに視線を持ち上げた。


    冴 dice1d100=7 (7)

    ※53以上の場合:探索成功

    ※52以下の場合:SAN値・怪我値減少

    ※ファンブル・クリティカル適用有

  • 173スレ主◆jCG/LXEbdA25/10/26(日) 21:23:36

    【SAN値20→19(-1)/怪我値90→85(-5)】

    視界に広がるのは、闇。
    何もないように見えた―――ほんの一瞬、そう思った。
    だが、次の瞬間。

    パリンッ!

    乾いた音と共に、薬品棚の奥から何かが弾け飛んだ。反応する暇もなく、それは冴の額を直撃する。

    冴「ッ………!」

    鈍い衝撃。視界が一瞬、白く霞む。
    手の甲で額を押さえると、熱を帯びた痛みだけが残った。血は出ていない。ただ、頭の奥にまで響くような鈍痛が走る。

    割れた瓶の破片が床に散らばっていた。そこから、黒ずんだ液体がじわじわと滲み出していく。
    酸っぱいような、鉄のような、言葉にできない匂い。それが鼻を突き、思わず眉が寄る。

    冴「……チッ、脅しか」

    誰に向けたのでもなく、低く吐き捨てる。

    棚の奥を見つめ直す。そこには、いくつかの瓶が転がっているだけだった。中身は乾ききり、ラベルも掠れて読めない。

    ほんのわずかに、液体が動いたように見えた。それでも冴は、もう確かめようとはしなかった。

    冴「無駄な時間だったな」

    短く言い捨てると、棚から身を離す。
    靴底が床の黒い染みを踏みしめた。

  • 174スレ主◆jCG/LXEbdA25/10/26(日) 21:56:46

    【②壁際の薬品棚:探索失敗(ハズレ)】
    【③奥の机とカルテの山】

    視線の先―――部屋の隅に、カルテの山が見える。散乱して黄ばんだ紙が、埃をかぶりながら積み上がっていた。

    その中に、何かが隠されているかもしれない。そんな淡い期待と、痛む額を抱えながら、冴はゆっくりと歩き出した。

    カルテの山から、一枚ずつ書類を取り出していく。紙は湿気を吸って波打ち、端は茶色く変色していた。
    めくるたびに、指先にざらりとした手触りが残る。

    備品の発注リスト。必要数のマスク、包帯、消毒液―――いずれも記入は中途半端で、途中から文字が乱れている。
    何かを急いで書き残したような筆圧の跡が紙を凹ませていた。

    次の一枚には、生徒の健康管理票。
    記名欄の名前はかすれて読めない。体温、脈拍、体重の欄だけが丁寧に書き込まれている。
    だが、それが次第に「体重減少」「食欲低下」「意識もうろう」と並ぶあたりで、眉がわずかに動く。

    冴「……やっぱり、ろくでもない」

    紙の端を指で弾きながら、小さく呟く。

    続いて出てきたのは、食生活改善の啓発ポスター。
    明るいオレンジ色の背景に、笑顔の子供たち。“バランスの取れたごはんを食べよう!”と楽しげな文字が踊っている。

    だが、よく見れば―――その子供の瞳から赤い液体が流れていた。
    インクのにじみではない。誰かが上から書き足したように。細い線が頬を伝い、口元まで染めている。

    ………笑顔のまま、血を流す子供たち。

  • 175スレ主◆jCG/LXEbdA25/10/26(日) 22:16:42

    冴は一瞬、手を止めた。


    額の痛みがまた鈍く蘇る。無意識にそこへ手をやると、まだ微かに熱を持っていた。


    冴「……気味が悪い演出だな」


    小さく呟き、手を再び動かす。


    血が滲む左手が、書類の白をわずかに汚す。それでも気に留めず、淡々と作業を続けた。


    カルテの山は崩れそうになりながらも、まだ半分以上残っている。次の束を引き抜くたびに、埃がふわりと舞い上がった。

    その匂いが鼻腔をくすぐるたび、額の奥の痛みがじくりと広がる。


    冴「……あと、何枚あるんだ」


    独り言のように吐きながら、もう一枚、また一枚と紙をめくる。

    文字が潰れ、図が歪み、誰かの赤いペンで線が引かれた記録。それらが積み重なって、部屋の空気を重くしていく。


    わずかに息を吐き、視線を次のカルテへ移した。


    紙で切れた指先から血が滴る。

    この学校では時間が進まない。だから当然、切れた指先も手のひらも一向に治らない。


    それでも冴は、手を止めることはなかった。


    冴 dice1d100=23 (23)

    ※53以上の場合:探索成功

    ※52以下の場合:SAN値・怪我値減少

    ※ファンブル・クリティカル適用有

  • 176二次元好きの匿名さん25/10/27(月) 04:01:34

    さらなる緊張が増してきた…!

  • 177スレ主◆jCG/LXEbdA25/10/27(月) 07:20:26

    >>176

    失敗続きなのでこの先どうなるかドキドキですね…!

  • 178スレ主◆jCG/LXEbdA25/10/27(月) 07:48:59

    【探索失敗】
    【SAN値19→18(-1)/怪我値85→80(-5)】
    【⚠怪我値が70へ到達した場合:常時ダイス値に-10が付与されます】

    ―――カルテを捲り続ける手が止まった。ページの端に残る赤茶けた跡が、まるで冴の指を掴んで離さないように見える。

    空気が変わる。静かすぎる部屋の中で、何かが呼吸している気配がする。

    冴「………誰だ」

    かすれた声が湿った空気に溶ける。ゆっくりと顔を上げ、背後へと振り返る。

    その瞬間―――何かがぶつかってきた。

    冴「―――……ッ!?」

    強烈な衝撃。視界が跳ね、身体が宙を舞う。
    書類の束が散らばりカルテが空中に舞う中、身体は勢いのまま入口の扉へ叩きつけられた。

    背中に焼けるような痛みが走り、肺の中の空気が一気に抜ける。

    冴「ぐっ……、っ……!」

    息を吸おうとしても、喉が詰まったように動かない。

    ―――……咳き込みながら、ようやく呼吸を取り戻す。

    床に散らばった紙が足元を覆い、光を反射してちらついた。
    何が起きたのか、視界がまだ定まらない。耳の奥で“キィィン”と甲高い音が鳴り、鼓膜の奥を刺激する。

  • 179スレ主◆jCG/LXEbdA25/10/27(月) 09:15:47

    壁に片手をつき、痛む背中を庇いながら体勢を立て直した。

    冴「………チッ」

    部屋の中には、相変わらずの静寂だけが戻っていた。まるで何も起きなかったかのように。
    だが、冴の身体は確かに痛みを覚えている。筋肉の軋む音が静かな部屋に微かに鳴った。

    冴「……一旦戻るか」

    短く息を吐き、低く呟く。

    扉に手を当てると、金属の冷たさが掌に張り付いた。押し開ける動作一つにも、背中に鈍い痛みが響く。

    それでも構わず、ゆっくりと立ち上がる。

    背筋を伸ばし、もう一度だけ部屋の奥を振り返る。乱れたベッド、倒れた椅子、散らばるカルテ。そこに動くものは何もなかった。

    冴「………何がしたいんだ、お前らは」

    小さく吐き捨てるように言い、ドアノブを強く握る。軋む音を残して、扉が開いた。廊下の空気が流れ込み、わずかに埃が舞う。

    冴はそのまま、痛む身体を引きずるようにして廊下へと出て行く。扉がゆっくりと閉まると同時に、保健室は再び沈黙に包まれた。

    廊下には少しだけ傷が増えた三人が壁にもたれて座っていた。埃を含んだ空気の中、公衆電話の受話器がわずかに揺れている。

    その中心に、冴が歩み寄る。背中を気にする仕草を見せながらも、足取りはいつも通りだった。

    士道「冴ちゃんおかえりー、そっちはどうだった?」

    先に口を開いたのは士道だ。

  • 180スレ主◆jCG/LXEbdA25/10/27(月) 10:12:47

    片膝を立てて笑いながら、冴を見上げる。

    冴「どうもこうもねえよ。……どこほっつき歩いてたんだバカ」

    冴の声はいつもより少し低い。その横顔に疲労と苛立ちが混じっていた。

    士道は両手を上げて肩をすくめる。

    士道「寄り道してたんじゃねえって。俺たち、職員玄関から突き落とされたんだからな!」

    冴「突き落とされた?」

    冴が眉を寄せる。
    黒名が壁に背を預けたまま、淡々と続けた。

    黒名「冴っぽいヤツに背中を押された」

    冴は目を細める。

    冴「……俺っぽいヤツ、か」

    横で潔がうなずく。

    潔「こっちも似たようなもんだった。床下に引き摺り込まれる時、冴と目が合ったのにスルーされた」

    冴「ソイツは俺じゃねえよ」

    冴は即答する。
    その声には迷いがなかった。

  • 181スレ主◆jCG/LXEbdA25/10/27(月) 11:51:51

    冴「俺と凛が混ざったバケモンに遭遇した。多分ソイツの仕業だ」

    士道「でもリンリンってさ」

    士道はそう言いかけ、口元に笑みを浮かべた。

    士道「そもそもバケモンっぽいし、あんま変わんなくね?」

    冴「……あ?」

    冴の声が低く響く。
    士道の肩がピクリと跳ねた。

    潔「お、おい、喧嘩すんなって!」

    潔が慌てて間に割って入る。

    潔「とにかくこうして合流できたんだからいいだろ!?」

    黒名が腕を組んだまま、小さく笑う。

    黒名「まあ、ボロボロだけどな」

    四人の笑いが小さく混ざり合う。

    長い沈黙と恐怖の後に訪れたわずかな安堵。照明の明滅が廊下の影を伸び縮みさせる。
    その光の中で、彼らは一瞬だけ普通の高校生のように見えた。

    公衆電話を囲むように座り込み、埃まみれの床に背を預ける。誰かの笑い声が壁に反響して遠くへ消えた。

  • 182スレ主◆jCG/LXEbdA25/10/27(月) 11:56:03

    潔「―――それでさ、結果報告なんだけど」

    少し落ち着いた空気の中で、潔が口を開いた。
    雑談の笑いがひと段落したのを見計らって、全員の視線が彼に集まる。

    潔は膝に肘を乗せて、少し俯きながら話し始めた。

    潔「教材置き場の床下に引き摺り込まれた後、なんでか俺、校長室にいたんだよ」

    士道「校長室?」

    士道が眉を上げる。

    潔「そう。で、壁に掛けてあった校長の写真が……揺れ始めて。気づいたら、そいつと戦うことになってた」

    黒名が短く息を呑む。

    黒名「写真の校長とか?」

    潔「……ああ。でもな、戦いながら分かったんだ」

    潔の声が静かに落ち着いていく。

    潔「校長が悪いわけじゃない。この学校の全員が―――被害者なんだと思う」

    そう言って、潔はポケットから一枚の古びた手紙を取り出した。紙は黄ばんで折れ跡だらけ、ところどころインクが滲んでいる。
    潔が丁寧に開くと、震えた筆跡で綴られた文字が露わになった。

    『この学校は呪われている。墓地の上に建てたという話は、噂ではなかったのか。毎年、沢山の生徒が、沢山の教員が命を落としていく。―――誰か、この学校を救ってくれ。』

  • 183スレ主◆jCG/LXEbdA25/10/27(月) 14:25:11

    静寂が降りる。

    黒名がゆっくりと呟く。

    黒名「墓地の上……つまり、死者の呪い?」

    士道が鼻で笑いながらも、目を細めた。

    士道「なんか胡散臭えけど、書いた奴は必死だな」

    冴が腕を組み、壁に背を預けながら言う。

    冴「学校を救うったって、何すりゃいいんだよ」

    潔は手紙を畳み、深く息を吐いた。

    潔「多分、この学校に囚われてる人たちを解放すればいい。………そして、“影”を倒す」

    冴が目を細める。

    冴「倒しても倒しても湧いてくるけどな」

    士道「ぶっ潰し続けりゃいいじゃん」

    士道が笑って拳を握る。

    士道「そしたらいつかは終わんだろ!」

    その言葉に、潔は小さく笑った。
    そして、もう一つポケットから取り出す。くしゃくしゃに丸められた湿布だった。

  • 184スレ主◆jCG/LXEbdA25/10/27(月) 15:30:42

    潔「これ、校長室で見つけた。使えるか分からないけど……多分、使える」

    黒名がふっと笑う。

    黒名「練り消しよりマシ、マシ」

    思わず四人の間に小さな笑いが生まれた。

    黒名「―――それじゃあ、次は俺たちの報告」

    黒名が軽く息を整えて口を開くと、士道も隣で足を投げ出したまま頷いた。

    黒名「職員玄関から落ちたあと、俺と士道は真っ暗な場所にいた」

    黒名の声は静かだが、どこか疲れが滲んでいる。

    士道「部屋かも分かんねえ場所だったわ」

    士道が苦笑いを浮かべる。

    士道「上も下も分かんねえ、音も何もない。ただ生臭い匂いだけがしてた」

    黒名は腕を組み、思い返すように続けた。

    黒名「俺たちは声を掛け合いながら、なんとか出口っぽい場所まで辿り着いた」

    士道「んで、手探りで歩いてたら運良く手にハマったのがこれ!」

    士道がドヤ顔で片手を突き出す。
    その手には、小さな饅頭が一つ。少し乾いてはいるが、確かに“食べ物”だ。

  • 185スレ主◆jCG/LXEbdA25/10/27(月) 20:03:40

    【《ちょっとかわいたまんじゅう》×1:SAN値+1/怪我値+5回復】

    士道「どういう仕組みなのか意味わかんねえけど、まあ貰えるもんは貰っとく感じでいいだろ」

    冴「……お前、それ食う気か?」

    冴が眉をひそめる。

    士道「ヤバい時のための非常食!いつまた落ちるか分かんねえし」

    士道はサッカーバッグにしまいながら、肩をすくめた。

    黒名が話を戻すように続ける。

    黒名「それで俺たちは出口っぽい場所からここの廊下に出た。潔と同じで構造は意味不明だ」

    士道が首を傾げながらも笑う。

    士道「閉める前に後ろを見たかったんだけど、多分見たらダメなやつだったから諦めた」

    その言葉に、冴と潔の表情が少しだけ引き締まる。

    士道「俺たち多分、あそっから出てきたんだわ」

    士道が廊下の突き当たり―――“職員休憩室”と書かれた扉を指さした。そこは以前、内部から不気味な音が響いていた場所だ。

    冴が目を細める。

    冴「……コンクリートで塗り固められた場所から出てこれるわけねえだろ」

  • 186スレ主◆jCG/LXEbdA25/10/27(月) 20:21:56

    士道は頭をかきながら、へらりと笑った。

    士道「この学校で常識とか考えちゃダメだろ?」

    その軽口に、黒名も思わず小さく吹き出した。

    薄暗い廊下の空気が、ほんの少しだけ和らぐ。
    だがその奥で、誰にも見えない影がひとつ、静かに動いた気がした。

    冴「……まあいい」

    冴は静かにため息をつく。
    その吐息には、呆れと少しの疲労が混じっていた。

    冴「こっちの結果を報告する」

    静かにそう言って、冴は壁にもたれた姿勢を崩す。

    冴「お前らが全然出てこねえから、先に保健室を見て回ってた」

    冴の言葉に、士道が「サボってたわけじゃねえって!」と口を挟むが、冴は無視して話を続けた。

    冴「中は静かで、時折啜り泣きみてえな声が聞こえてた」

    その表情は淡々としているが、ほんのわずかに眉が寄っている。思い出したくもない音がまだ耳の奥に残っているのだろう。

    冴「それで、ベッドでこれを拾った」

    冴はポケットから一枚の白い紙切れを取り出す。紙は湿って皺だらけで、文字は乱れ、筆圧の強さに紙が少し破れていた。

  • 187スレ主◆jCG/LXEbdA25/10/27(月) 20:31:09

    『俺は悪くない。勝手に餓死したあのガキが悪いんだ』

    冴「どう考えてもコイツが悪いように見えるけどな」

    冴が鼻で笑うように呟くと、潔が眉をひそめた。

    潔「これって……家庭科室にいた子供のことか?」

    黒名が紙を覗き込みながら言う。

    黒名「コイツが見殺しにしたのか……」

    士道が拳を握りしめる。

    士道「学校のせいだとは言っても、……許せねえよな」

    冴は黙ってサッカーバッグを開け、メモを丁寧にしまった。チャックの音が小さく響く。

    冴「そして、薬品棚はハズレ。デコに痣が出来ただけだ」

    士道「また災難だな」

    士道が苦笑いし、黒名が小声で呟いた。

    黒名「……なんか、冴らしいな」

    冴「………机に置かれたカルテは多分、何かが残ってる。途中で突き飛ばされて探索を中断せざるを得なかったがな」

  • 188スレ主◆jCG/LXEbdA25/10/27(月) 21:03:06

    潔の顔色が変わる。

    潔「……ッ、さっき叩き付けられるような音がしたの………あれ、冴だったのか」

    冴は軽く肩をすくめてみせる。

    冴「まあ骨も折れてねえし動ける、問題ない」

    その言葉に、黒名が安堵の息を吐く。

    士道「タフすぎんだろ」

    士道がケラケラと笑った。

    話を終えた冴はゆっくりと壁から離れ、立ち上がる。

    冴「………次に進むか、保健室に戻るかどっちかだな」

    その声に合わせて、三人もそれぞれ腰を上げる。廊下の薄明かりが四人の影を伸ばし、静かな校舎に新たな気配を呼び起こしていた。

    ―――その時、公衆電話の横に置かれた花瓶がカタカタと揺れ始める。

    四人の視線が一斉にそこへ向く。
    水は入っておらず、乾いた茎の先に色を失った花がしなびたように垂れている。

    潔「………地震?」

    潔が小声で呟く。

    だが違った。花が音もなく、砂のように崩れ落ちていく。灰のような花弁が空中を漂い、床に散らばると同時に、そこから“黒いもの”が滲み出した。

  • 189スレ主◆jCG/LXEbdA25/10/27(月) 21:29:25

    ―――ドス黒い影。人の形をしているようで、まるで人ではない。ざらついた輪郭が、廊下の蛍光灯の光を喰いながら膨れ上がる。
    その気配に、空気が一瞬で冷たく張り詰めた。

    士道が肩を回し、口角を上げる。

    士道「よっしゃ、お決まりの戦闘だな!」

    首をゴキっと鳴らす音が廊下に響いた。

    影は天井まで伸び上がり、形を歪めながら揺れている。腕のようなものが何本も伸び、誰かを掴もうとするかのように蠢いた。

    潔が低く声を張る。

    潔「油断するな、きっと前より強くなってる」

    黒名が頷き、手を構える。

    黒名「確実に仕留める」

    二人の足元が滑らかに位置を変え、攻防の距離が詰まっていく。
    冴も少し遅れて、腰を落として構えた。身体をぐーっと伸ばして関節を鳴らすと、わずかに緊張が解ける。

    冴「……さて」

    冴が息を吸い込んだ、その瞬間だった。

    士道「………ッうわ!?なんだよ!!!」

    背後で叫びが上がる。

  • 190二次元好きの匿名さん25/10/28(火) 04:26:50

    スレ主の書く士道すごく好きだ

  • 191スレ主◆jCG/LXEbdA25/10/28(火) 09:22:51

    >>190

    嬉しいです!士道の良さを全て表現するには色々と情報が足りないのですが……これからも彼らしい一面が見せられるように頑張ります!

  • 192スレ主◆jCG/LXEbdA25/10/28(火) 11:34:53

    次の瞬間、士道の身体が後ろへと引き摺られた。


    足跡を残す暇もなく、その姿は保健室の扉の向こうへと吸い込まれていく。勢いよく閉まる音だけが残った。


    冴は一瞥して鼻で笑う。


    冴「ふっ、丁度いい。俺たちは戦闘、悪魔くんは探索。効率のいい動き方だ」


    潔が顔をしかめる。


    潔「本当どうなってんだよこの学校……!」


    黒名が肩をすくめ、だが視線は影から逸らさない。


    黒名「一人いなくてもきっと大丈夫。俺たちは負けない、負けない!」


    三人は呼吸を合わせるように一歩踏み出し、影を睨みつけた。


    空気が震え、床に黒い靄が広がる。


    そして―――

    戦闘が、始まった。


    【影】1回攻撃成功で撃破

    潔 dice1d100=3 (3)

    黒名 dice1d100=31 (31)

    冴 dice1d100=26 (26)

    ※30以上の場合:攻撃成功

    ※29以下の場合:SAN値・怪我値減少

    ※ファンブル・クリティカル適用有

  • 193スレ主◆jCG/LXEbdA25/10/28(火) 13:27:34

    【糸師冴:かいじゅうのおもちゃ発動後による特殊効果付与→攻撃失敗時1度だけSAN値/怪我値減少無効】

    ―――影が、唸る。
    喉の奥を擦り潰すような、獣とも人ともつかぬ声。黒の塊から無数に伸びる腕のようなものが、三人を包み込むように襲いかかってきた。

    黒名「見えるなら、避けられるはず!」

    瞬間、黒名は床を蹴り、前へと転がり込む。影の腕が背後を掠め、壁に叩き付けられて黒い染みを残す。

    冴「………ッ」

    視界が揺れた。先ほど扉に叩き付けられた痛みが、今になって鈍く蘇る。一瞬、足がもつれる。

    その時―――

    “―――えーっと、右!”

    耳元で声がした。
    反射的に右へ身を翻す。

    次の瞬間、さっきまで冴が立っていた床を影の腕が叩き潰した。

    “兄ちゃんうっかりしすぎー!”

    幼い響き。
    怒っているようで、どこか安心する声。

    冴「……次はちゃんとやる」

    呟くと、すぐ近くで“えへへ”と笑う声が返ってきた気がした。

  • 194スレ主◆jCG/LXEbdA25/10/28(火) 16:26:13

    【潔世一:ファンブル(ダイス値3)により、SAN値14→12(-2)/怪我値85→75(-10)】
    ⚠怪我値が70へ到達した場合:常時ダイス値に-10が付与されます
    ⚠SAN値が10へ到達した場合:精神異常及び常時ダイス値に-10が付与されます

    潔「………いや、これ絶対無理だろ!?」

    潔の前には幾十もの腕が広がっていた。
    影は空間を埋め尽くすように動き、逃げ道を完全に塞いでいる。

    潔は舌打ちし、身を捻るようにして飛び退く。
    しかし、一歩遅い。

    潔「いっ………!」

    鋭い痛みが走った。
    肩口と右足が同時に裂け、温かい血が滲み出す。

    呼吸を整えながら、潔は荒い息の合間に苦笑した。

    潔「………あとで湿布使ってみるか」

    血に濡れた手で壁を支え、歯を食いしばって立ち上がる。

    【黒名蘭世:攻撃成功→撃破】

    そのすぐ横を、黒名が一直線に駆け抜けた。
    その瞳には迷いがなく、ただ影の中心を真っ直ぐに捉えている。

  • 195スレ主◆jCG/LXEbdA25/10/28(火) 20:38:01

    黒名「……今回も、お前の負けだ」

    低く、静かな声が廊下に響いた。

    床を蹴る。
    風を裂き、軽やかに宙を舞う。

    黒名の身体が弧を描いた瞬間―――

    黒名「―――はッ!」

    鋭く振り抜いた回し蹴りが、影の頭部と思しき部分を正確に捉えた。

    鈍い衝撃とともに、黒い塊が一瞬だけ歪む。
    次の瞬間、影は霧のように掻き消え、黒い残滓だけを残して空間から消滅した。

    トンッ、と小気味よい音を立てて黒名が着地する。
    無駄な動きひとつもなく、振り向きざまに息を整える。

    黒名「一撃で終わって良かった。……これからまた、アイツは強くなるはずだ」

    その声音には冷静さと、わずかな焦りが混ざっていた。

    潔「俺、今で結構ギリギリなんだけど……」

    肩口を押さえながら、潔が力なく笑う。

    冴「死にたくないなら死ぬ気で戦え」

    淡々とした口調。けれどその言葉に、どこか皮肉めいた優しさが滲んでいた。

  • 196スレ主◆jCG/LXEbdA25/10/28(火) 20:45:14

    潔「結局死ぬ話じゃん……!」

    潔はぺたんと床に座り込み、冴は壁にもたれて静かに息を吐く。

    戦いの余韻がまだ空気に残る中、影が消えたあたりから、ポトンと乾いた音が落ちた。

    潔「………コーラ味のグミ?」

    手を伸ばして拾い上げたのは、小さなパッケージ。どこか懐かしい香りが漂う。

    黒名「なんか、全部ちっちゃいな」

    冴「貰えるだけマシってことなんだろ」

    三人の間にわずかな笑みがこぼれた。

    潔はそのグミをポケットにしまい、ふう……と長く息を吐く。

    潔「それでどうする?保健室まで向かうのか?」

    冴「いい。そのうち出てくんだろ。カルテの山から忘れモン拾えばそれで終わりだ」

    冴の声は淡々としているが、その目はどこか鋭いままだ。

    黒名「なら何かあったらすぐに動けるように、俺たちは準備をしとこう」

    それぞれが立ち上がり、ポケットやサッカーバッグを確認し始める。

    【《ぱちぱちするぐみ》×1:SAN値+2回復】

  • 197スレ主◆jCG/LXEbdA25/10/28(火) 20:55:10

    【潔世一:SAN値12→14(+2)】

    血の跡、割れた床、崩れかけた照明。
    静寂の戻った廊下には、ただ呼吸の音だけが響いた。

    ―――この学校を脱出するには、そして、囚われたものたちを解放するには、まだ道のりは遠い。

    潔「………早速だけど、食べるか」

    ふとそう呟いて、潔はポケットに手を入れた。
    指先が触れたのは、さっき拾った小さなパッケージ。光沢の剥げかけた銀色の包みには、赤い文字で“COLA”と書かれている。

    指で端をつまみ、ビリッと小さな音を立てて開けた。
    ふわりと、懐かしい香りが漂う。駄菓子屋で鼻をくすぐった、あの人工的でそれでも妙に落ち着く匂い。

    ひとつ摘んで、口の中へ放り込む。弾力のあるグミが歯の間で小さく跳ね、コーラの風味が広がった。

    潔「なんか、駄菓子屋行きたくなってきた」

    目を細めながら、どこか遠い日のことを思い出すように呟く。

    黒名「脱出したら外出券使うか」

    冗談めかした言葉に、潔は少しだけ笑った。

    潔「……そうだな」

    口の中で甘さがゆっくりと消えていく。
    冷たい空気の中、どこか胸の奥が温かくなるような気がした。

  • 198スレ主◆jCG/LXEbdA25/10/28(火) 21:18:52

    【潔世一:怪我値75→80(+5)】

    潔「あと……これも使ってみるか」

    そう言って、潔はもう片方のポケットを探った。
    指先に触れたのは、くしゃくしゃに丸まった紙のようなもの。引っ張り出して広げれば、それは湿布―――というより、ただの古びた布切れにしか見えなかった。

    冴「お前ならゴミでもなんとか出来るだろ」

    冗談とも本気ともつかない声に、潔は苦笑を浮かべる。

    潔「信じるものは救われる、だろ?」

    右足を伸ばすと、ズキリと鋭い痛みが走る。教材置き場、そして先程の戦闘で受けた傷がまだ治りきっていない。
    潔は息を整え、湿布をそっと患部に当てた。

    その瞬間――ぴたり、と音がした。まるで生き物が吸いつくように、湿布が肌に密着する。ひやりとした冷気が傷口から広がり、次第に痛みが薄れていくのを感じた。

    潔「……おお、ちょっとマシになった」

    足を軽く動かす。重かった感覚が少しだけ軽くなる。
    裂けていた皮膚は完全に塞がってはいないが、滲んでいた血はもう止まっていた。

    冴「良かったな。これからも積極的にゴミでもなんでも拾っとけ」

    潔は苦笑いを浮かべ、肩のサッカーバッグを持ち直した。

    潔「―――よし、これで次に行ける」

    その声には、疲労と共に小さな決意が混じっていた。

  • 199スレ主◆jCG/LXEbdA25/10/28(火) 21:29:13

    キリがいいところでストップします!残りはおそらく3分の2くらいなのであと2~3パートで完結になろうかと思います
    現在体調崩してるので回復次第③を立てます!よろしくお願いします!遅くとも金曜日には立てられるかと思います!
    それでは次スレでお会いしましょう!本スレもご閲覧ありがとうございました!

    ■探索成功率
    潔:5/9
    黒名:6/9
    士道:6/8
    冴:6/12
    ■戦闘成功率
    潔:4/5
    黒名:4/5
    士道:4/4
    冴:4/5
    ■イベント成功率
    潔:2/3(特殊イベント:1/3)
    黒名:2/3(特殊イベント:2/2)
    士道:1/3(特殊イベント:3/3)
    冴:1/3(特殊イベント:0/1)
    ■クリティカル回数
    黒名:1回(99)
    士道:1回(97)
    冴:1回(100)
    ■ファンブル回数
    潔:1回(3)
    士道:1回(1)
    ※アイテム等使用による成功は除く

  • 200二次元好きの匿名さん25/10/28(火) 23:31:45

    体調お大事に!
    続きも楽しみにしてる

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