すみませんここにくれば

  • 1二次元好きの匿名さん25/10/12(日) 21:06:13

    あれはとある夏の夜、レッドウィンターのごく短い雪解け期の事だった。
    私は灯りの落とされた校舎に忍び込んでいた。別に、大それた企み……例えばクーデターを目論んでいたとかではない。単に忘れ物を取りに行っただけだった。

    その日は雲が多く、月明かりの届かない校舎は息苦しさを覚えるほどに暗かった。保安委員の見回りをやり過ごすのに都合が良かったが、変わりに常に何かに見られている様な……そう、恐ろしい不定形の何かが、暗がりにうずくまりこちらの背中をじっと見つめているような気がして、私はずっと落ち着かなかった。

    生き物として根本的な部分に食い込んだ恐怖。「おばけなんかないさ」と歌ってみても振り払えないうすら寒さ。自分の立てる足音に、別の足音が重なったりしていないか耳をそばだてながら、私は教室に向かった。
    それから数分立って、私は教室にたどり着いていた。あれこれ想像して身構えていたのがバカらしくなってくるほど平和な道行だった。拍子抜けして笑っていた気もする。そうして私は自分の席に近寄り、忘れ物……課題のプリントを手に取った。

    その時、水音が聞こえた。

  • 2二次元好きの匿名さん25/10/12(日) 21:07:40

    暗闇で神経が過敏になっていたからこそ聞こえた音。ばちゃん、と何かが水面を叩くような音だ。教室の傍にあるプールが頭に浮かんだ。雪解けの時期……つまりこの時期にしか使われていない設備だ。
    誰かが居るのだろうか?と思った。それと同時にありえないとも思った。夏とはいえ、レッドウィンターの夜だ。泳ぐには寒いだろう。
    だからこそ、興味が湧いてきた。今しがた聞こえたこれが空耳であればそれでよし。そうでなければ……夜の学校に忍び込んでまでプールを使う酔狂な誰かの顔を拝んでやろうと思ったのだ。

    外気は冷たく、微かにぬかるんだ土の匂いがした。雪解けの匂いだ。私は校舎を迂回し、裏手のプールへと向かう。
    プールに近づくにつれ、水面が揺れる音がはっきりとしてくる。やはり、誰かいるのだ。
    私は手摺に手をかけて身を乗り出し、プールを覗き込んだ。

  • 3二次元好きの匿名さん25/10/12(日) 21:08:41

    暗闇の中に、確かに何かが動いている。
    ゆらりと水を掻くたびに波紋が広がり、飛沫が立つのが辛うじて見て取れる。
    だが、違和感があった。その泳ぐ何か……そう、“何か”と称した所以だ。それは確かに人の形をしているように見えた。だがその下──水面の下に、尾びれの様な滑らかにうねる影が見えるような気がするのだ。

    ぞくり、と束の間忘れていた恐ろしさが戻ってきた。すぐにこの場を離れてしまいたい気持ちと、その何かの正体を見届けたい気持ちが同時に沸き立ちせめぎ合い、足が動かないのだ。
    そうして立ちすくんでいる間に、雲の切れ間から月が顔を出した。冷たい光がプールを照らす。

  • 4二次元好きの匿名さん25/10/12(日) 21:09:41

    ──そして私は、人魚を見た。

  • 5二次元好きの匿名さん25/10/12(日) 21:10:57

    太く力強い、三日月型の尾びれ。白く透き通るような肌。彫刻のように整った裸身。濡れて揺らめく長い髪は、まるで夜の波の様。
    息が止まる気がした。それが憚れるほど、目の前の光景が現実離れしていて……そして、美しかったから。
    静寂が支配する夜の校舎の中で、ただ彼女が奏でる水音だけが生きていた。

    ──ぱきり、

    足下で小枝が響いた。
    乾いた音が、やけに大きく響く。その瞬間、人魚の動きが止まった。月の光に濡れた顔が、ゆっくりとこちらを向く。
    目が合った。透き通った緑灰の瞳が、私をまっすぐ見据えている。
    見られた、見られた、見られた!!
    私は踵を返し、そのまま逃げだした。立ち止まってはいけない気がして、心臓が弾けそうになるまで走り続けた。
    以来、私はプールに近寄ったことは無い。

  • 6二次元好きの匿名さん25/10/12(日) 21:12:10

    ……アレは夢だったのだろうか。
    後になって考えれば考えるほど、現実味が薄れていった。
    けれど、どうしても忘れられない。あの冷たく美しい瞳を。

    最近になって――少し妙なことがある。
    我らが工務部の部長が、あの時の人魚にどうしても似ている様な気がするのだ。
    笑ったときの口元。あの時と同じ輝きを湛えた、緑灰の瞳。
    まさか、と思う。
    けれど時々、水の匂いがするのだ。彼女の傍にいると――雪解けの夜の、あのプールの匂いが。

  • 7二次元好きの匿名さん25/10/12(日) 21:15:02

    すみませんここに来れば月1くらいの頻度でイルカの尻尾が生えて一人で泳ぐミノリ概念を提出していいと聞きました

    遅ればせながらアートワークス3を読んでミノリの初期案に一旦”狂い”の時間入ったので書きました。
    だってシロイルカの尾ですよ?シロイルカですよ?特徴的な外観から古くから人魚伝承のモデルになったとされる生き物ですよ?これはもう安守ミノリ=人魚の図式が成立するのは確定だと思うんですが……

  • 8二次元好きの匿名さん25/10/12(日) 21:19:22

    お前が書くんd……もう書いてる……

    たぶんこのミノリは人魚の姿を見られると、いつもの赤い彼女からは考えられないほどしゅんってなってるか、ミステリアスな雰囲気をしてそう

  • 9二次元好きの匿名さん25/10/12(日) 21:23:34

    人魚なら歌も必要だよね……
    ミノリに歌って欲しい、キャラソンほしい

  • 10二次元好きの匿名さん25/10/12(日) 21:26:40

    尻尾が生えてるときは感性がイルカに引っ張られるとか妄想
    普段より人懐っこくなるしよく歌うし泳ぐときは全部脱ぐ

  • 11二次元好きの匿名さん25/10/12(日) 22:57:41

    そういやキヴォトスって魚系の生徒いないな
    同族がいないとなると、あの拡声器にぶら下げてるストラップは数少ないミノリの同種になるわけか…

  • 12二次元好きの匿名さん25/10/13(月) 00:41:57

    何かの拍子にすれ違いざま耳元で「どうか誰にも言わないで欲しい」と、ミノリ自身の主義に反して秘密の共有をお願いされたら、私も狂うかもしれない

  • 13二次元好きの匿名さん25/10/13(月) 01:04:24

    >>12

    日が落ちた後の暗い時間帯に人気の無い水辺歩いてたら後ろから気配がして、ミノリの声で「しーっ…」っやられて振り返ったら誰もいないみたいなオカルトマシマシな感じのも狂うと思う

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