弱さとは罪なのだろう

  • 1二次元好きの匿名さん25/10/12(日) 21:17:42

    私と同時にデビューし、クラシック三冠を全て支配したあの先輩は、そのあと脚のダメージがあまりに大きすぎて無期限休養…実質的な引退を余儀なくされた

    ──問題はそこからだった
    先輩がいなくなったあとの私たちは、なんというかまぁ目立たない戦績だった。
    G2などを取ることは出来ても、時が経つにつれ、後の世代のウマ娘たちに先にG1を取られるようになっていた。
    G3やG2が取れるだけでもかなりの超上澄み、それらが十分に栄光足り得るものだってのも分かっている…そこまでに振り落とされてきたウマ娘の数を考えれば光栄極まりないだろう。
    だが貪欲な向上心が最高峰の栄光はG1以外にあり得ないのだと叫ぶ、あの場所で勝ちたいのだと本能が声を荒げる。

    ……いつからだろうか
    そんな私たちが、私たちの世代が後の世代に負け始めて、「弱い」と言われるようになったのは、いつからだったろうか。
    その弱さが飛び火して、三冠ウマ娘である先輩ですら「周りが弱かっただけ」と言われるようになったのは、必然なんだろうか。


    そんなわけがないだろうが!!
    あの人の走りは凄かった、届きたかった、あれだけ勝たせろと手を伸ばしても、悔しいけどあの場で誰もあの人には勝てなかった!!
    じゃあなんなんだ!あの人の三冠を貶めるようなことになってるのは何が悪いんだ!?

    ──私の、弱さか!?
    先輩の強さはもう確かめられないから、それなのに私が不甲斐ないから、私を基準にして皆は話す!"あの子も今なら善戦ウマ娘だろう"って、見えもしない未来を勝手に語る!!

    ……二度と言わせるか。
    見ていろよ、順風満帆の新芽だろうが舐め腐った目で見てくる奴ら全員蹴散らしてやる
    これからは、私の存在証明のために走る……!!

    みたいなね?

  • 2二次元好きの匿名さん25/10/12(日) 21:19:44

    続けろ
    お前が始めた物語だろ
    早く続きを書く作業に戻るんだ

  • 3二次元好きの匿名さん25/10/12(日) 21:20:47

    明確なチームっていう枠組みが目立たない分、「チームプレイ故のアオハル」の文脈が世代にかかってくるのめちゃくちゃ分かるしあちーよ

  • 4二次元好きの匿名さん25/10/12(日) 21:33:34

    表立って活躍してた子たち全員見事に大器晩成の世代だったりすると逆襲感あって良いわね

  • 5二次元好きの匿名さん25/10/12(日) 22:01:22

    ──そう怒り猛るのは簡単だけれども。
    『実力』という現実は戦績となって私の前に立ちはだかる。
    今の私は複数の担当を持つ…いわゆるチームのウマ娘だ。今のトレーナーさんに不満はないが、私に対する専門性というか、付きっきりではない以上どうあがいても私の身体に所々弱点という穴が空くリスクはある、私だけを見てくれる人が欲しい。
    そんな理屈はどうでも良い、むしろ私にはギラギラとした覚悟が足りない。
    周りの子は良い子たちだ、不満なんてないし、仲が悪いこともない。
    だから、だからこそ。
    後戻りできなくなるぐらいが、ちょうど良いのかもしれない

    ──お世話になりました
    ああ、これからも活躍を祈ってるよ──

    トレーナーさんと契約を解消した。
    もう戻れないし、私だけが強くなってどうするという感じかもしれないが、私の世代は周りからすれば誰も強くないんだから、まずは私から強くなるしかない。
    少なくとも、「こんな強い私があの人には打ち破られた、この世代と競いあった」という構図は出来上がる。不当な評価は消し去れるはずだ。
    ……とはいっても私も既にシニア期に入り始めた頃だ。私が仮に早枯れのウマ娘だったとしたら………時間は少ないな。
    先の見えない状況になった今、不安を感じているのかもしれない。
    だからあてもなく、今までやってたような走り込みをしている。
    ……先輩のイメージでもしてみようか。
    こう、力強く地面を掴んで、風を効率よく切るためにブレない姿勢で、全力で芝を蹴り飛ばしてとにかく前に走って──!!!
    「勿体ないな」

  • 6二次元好きの匿名さん25/10/12(日) 22:03:26

    路線が路線なので言及されてないけど

    >私の世代は周りからすれば誰も強くない

    この前提があるため何気にティアラや短マもパッとしてないのがおつらい

  • 7二次元好きの匿名さん25/10/12(日) 22:18:23

    ……は?
    急に予期しない声が横からかかる。
    入ろうとした気合もそんなんでは抜けるというものだ。
    「……何ですか?」
    「いやぁ、しなやかな脚の利点を全て捨てたような走り方しだしたからさ」
    はあ?よくもまぁ私のことを知ったような風で言ってくれる。これでも2年の積み重ねだ、先輩の模倣をしたとこで私らしさがない事ぐらい分かる。
    だけど。
    「たった今ので、分かるんですね」
    「それなりに何年かトレーナーやってるからね、まぁ…G1とか夢のまた夢だけど」
    「奇遇ですね、私もですよ」
    はは、なんだこの会話。
    落ちこぼれ同士の傷の舐め合いでも洒落こむか?
    もう良いんだよそういうのは、次は勝とうね、私だって負けないよ、あの子にだって──そういってズルズルとした結果が今の私だろうが。
    「……もう良いですか?走ってくるので」
    「待って」
    なに?なんなの?なんですか?
    まさかトレーナー契約とか言わないだろうね?
    「契約しないか」
    「嫌です」
    「どうして?もしかしてもう誰か居たりするの?」
    「いませんが」
    何が癪に触ったかって。
    「G1とか夢のまた夢だけど、なんて抜かす人をトレーナーにする程、私は終わっちゃいません」
    「形だけのトレーナーでも良い」
    ……は?
    「走る時の名義代わりでも何でも良い。ただ俺は、今自分の目の前で一瞬でも自分の脚の利点を潰すような走り方をしたウマ娘を無視しておける程、トレーナーとして終わっちゃいない」

  • 8二次元好きの匿名さん25/10/12(日) 22:21:29

    ……変な人。
    夢も志も枯れましたみたいな顔しておいて、トレーナーとしての心だけは消えちゃいませんってか。
    ……私も今となっちゃ、力も速さもない、心だけのウマ娘だろうけど。
    「……1つだけ良いですか」
    「なんだい?」
    「トレーナーとして私を抱えるなら、私以外を一切見ないで。私だけのトレーナーとして、私を絶対に鍛え上げて」
    「分かった」
    即答かよコイツ。落ちこぼれ同士だもんな、お互い後もなく専属という手を打ったわけになるのね。
    そしてその手が、少しでも全てを貫く一手になれる可能性があるというのなら、やってみても良いか。
    「……日陰者同士、上手くやりましょう」
    「……そうだな!」
    「そこは表舞台に立たせて見せるとか言うところでしょうが」
    「そ、そうか……」
    あー………判断ミスってないよね、私。

  • 9二次元好きの匿名さん25/10/12(日) 22:26:06

    >心だけのウマ娘

    それでもオカルトパワーがある世界なため割と真面目にこれが一番欲しい元手なの困る困らない

  • 10二次元好きの匿名さん25/10/12(日) 22:58:20

    「……なんか、最近アレだけど、大丈夫そう?」
    「アレって何」
    「いやだって、チーム抜けたとおもったら急にまたトレーナー契約したり、レースもちょっとの間出ないって……なんだか人が変わっちゃったみたいだよ」
    「良い子ぶってただけ、私はちゃんと私だよ」
    正直に言って、大分周囲に対してそっけなくなったような気はしている。周囲に好き放題言われて、それで今の私が出来て。色んな我慢が爆発したみたいなところがある。
    ……さっさとトレーニングに行こう。
    これ以上周りに不和を漂わせるわけにもいかない。

    「そこはこうで…」
    知ってる。
    「スタミナは最大限に温存しておいて、最後の坂を越えるためだけに……」
    それも知ってる。何ならレースの基本だろそこ。
    はぁーっ……これじゃ何にも変わってないじゃん。
    早く、早く次のレースで証明しなきゃなのに。
    「……走ってきます」
    「あっ、ちょっと!」
    再放送じみた退屈になる話よりは身体に応えさせた方がよっぽど良い。

    「はぁ…はぁっ……」
    「……やっぱり、勿体ない」
    「え……?」
    「君の走りはもう少し柔らかくて良い」
    ……さっきと目の色が違う。さてはやっとスイッチ入ったな?遅いよ全くもう。
    「濡れた芝や坂の勾配に負けないためにパワーを頼ることは当然の話だ、これは切り捨てて良いものじゃない」
    「だけど君のバネは、そんじょそこらのウマ娘とは違う、それが何を意味するか分かるか?」
    「……余計な力は抜けと」
    「結局はそう。君の意識するところはとにかく地面と触れている時間を極力減らす所からだな」
    ……何。ちょっと…トレーナーらしいじゃん?
    「君は…走るな、跳ねろ。」

  • 11二次元好きの匿名さん25/10/12(日) 23:02:40

    縮地こそが彼女の極意か

  • 12二次元好きの匿名さん25/10/12(日) 23:15:24

    「そろそろ大阪杯だね」
    「ねー!高松宮記念といい春のG1が来たって感じ!ねー誰が勝てると思うー?」
    「え?そりゃああの子でしょ、あの逃げは強いって」
    ──そういう会話に、私たちの名は出てこない。
    期待なんかもうされる立場にない。
    先輩が消えたあの時から、私たちは主役不在とされたのだから。
    ……だからこそ。私は勝ちに行かないといけない。
    もう、視線を向けられすらしないのは懲り懲りだ。



    「見送る!!?」
    「今の君が出ても無謀だ」
    「無謀!!?」
    そもそも勝負にすらならないってこと!!?
    「走り方を変えようとしてるばかりの付け焼き刃で何とかなるほどG1は甘くない。伊達に落ちこぼれやってないから分かる」
    「そんなことは分かってる!でも挑まないと1%の勝利すら捨てることに」
    「1%もないんだよ。残念だけど」
    ……ば、バカにして……!!
    そんなに私が情けないか!そんなに私たちに華がないか!!そんなにっ……!!!
    「……ごめん。トレーナーはサポートをする仕事だ。そして君に勝利を重ねさせるのが俺の役割。やるなら手当たり次第にぶつかるんじゃなく君が最大限のスペックを発揮できる瞬間にぶつけたい」
    …顔に出てたかな。納得させるための理由をこうもぶつけられては、冷静になるしかない。
    だけどやっぱり悔しいよ
    もう諦められたくないよ

    ──勝ちたい

  • 13二次元好きの匿名さん25/10/12(日) 23:18:50

    一回休みます

    >>2の言うように続きをアドリブで書いてる状態だから時間食っちゃうわね……

  • 14二次元好きの匿名さん25/10/12(日) 23:36:34

    >>13

    書き始めたならそれで十分偉い

  • 15二次元好きの匿名さん25/10/13(月) 00:49:17

    何かこの子荒んでて心配……

  • 16二次元好きの匿名さん25/10/13(月) 00:57:06

    >>13

    創作出来る人間に最大級の敬意を払いつついくらでも待ちますとも

  • 17二次元好きの匿名さん25/10/13(月) 01:23:27

    >>15

    少なからず挑むものってのは荒れるものだぞ、それを昇華しそれでもと前を向き血を吐いてでも進むのが挑戦者なんだ

  • 18二次元好きの匿名さん25/10/13(月) 07:22:59

    「はぁっ…はぁっ…っ!タイムは!!」
    「縮んでるね」
    「よし!!」
    トレーナーの指導に付き合ってみると、意外にも結果は残せる。
    前任の人が悪かったと言うつもりはないが、私には合ってなかったんだろう。指導の質自体は悪くないからそれなり程度の結果で留まることが出来た。
    そこから進んでいるのなら多少はこのトレーナーを信用する気も起きるというものだ。
    「片足で交互にジャンプするイメージだ!地面を嫌え!君の脚なら出来る!!」
    君なら出来る、か。
    良いね、私専属のトレーナー、私のトレーナーらしいじゃん?
    たとえそれがおだてているだけだとしても、長らく聞かなかった期待のセリフだ。
    ──応えたくなるのも道理じゃないか


    「宝塚記念?」
    「ああ、そこを勝利に見据える」
    「天皇賞(春)じゃダメなの?」
    「……ダメだ。君の脚の柔らかさだとレース後どうなってるか分からない」
    私のような落ち目のウマ娘を選ぶ変な人でも、意外と堅実に考えるのだから面白い。
    「それに……宝塚記念でよく分からんウマ娘が勝つ。大波乱を起こしてやるのも面白いとは思わないか?」
    「……良いね、それ」
    そうだ、私は周りに強さを知らしめるために今ここにいる。
    強豪揃うあのレースのハードルは高いだろうけど、勝てればそれはもうとても大きい。
    誰が真に強者だったのか、思い知らせてやる。

  • 19二次元好きの匿名さん25/10/13(月) 07:52:34

    クレセントナイト
    いかにも陰のウマ娘という感じの名前だ。
    表舞台は太陽が祝福されるものだ。だれからも脚光を浴びて、喜ばれて、とにかく明るい。
    そういう華のあるウマ娘を皆は喜ぶ。


    だからこそ

    私のようなウマ娘が勝てばどうなるのか教えて欲しいものだ
    月が時に太陽を消してしまう時、数年に一回の現象だからと皆は騒ぎ出す。
    私は三日月だから新月のように太陽は隠しきれないだろうが、それでも……


    「おはよう」
    「おはよう。…ちゃんと寝てる?」
    「健康を損なわない程度には」
    最近はギリギリまで走って、起きる時もさっさと走りに行っている。
    要するにさっきのセリフは客観的に見れば大嘘も良いところだろう。
    だけど、こうやって大人しく潜伏してる間、もう私のことは完全に忘れられているのかもしれないと思うと背筋が凍る。
    何せ期待という文字は私と疎遠だ。知らないうちにウマ娘が引退していて"ああそんな子もいたな"なんて思われて、思い返されることもなくそれで終了なんてこともある。G1ウマ娘ですらだ。
    「あんまり無茶はしないようにね、俺たちのG1がかかってるんだから」
    ……ああ、でも
    この人からは期待されているか。
    ………良くないな…良くない、勝つ前から笑うな。
    期待に応える悦びを知るのは、まだ先の話なんだから。妄想で満ち足りちゃたまらない。
    きっと周りの人間は驚きの表情をするだろうが、この人は多分笑ってくれる。
    …だーかーら!
    幸せな妄想には早いって!

  • 20二次元好きの匿名さん25/10/13(月) 09:58:05

    絆されるの早くなぁい?

  • 21二次元好きの匿名さん25/10/13(月) 11:08:19

    マーちゃんが耳を傾けてきそうな話してるな

  • 22二次元好きの匿名さん25/10/13(月) 12:10:48

    なんか砂漠の戦士みたいな勝負服してそうな名前である

  • 23二次元好きの匿名さん25/10/13(月) 17:23:43

    彼女が基準にされてるあたり多分彼女が不動の世代No.2なのだと思うが
    そうなるとこの子とぶつかってはいそうなティアラ出身の同期も気になるな
    最大のライバルなき今その子と消去法的に一応のライバルやってたのかなと思うがこっちはこっちで同時期に弾けてそうな予感

  • 24二次元好きの匿名さん25/10/13(月) 19:06:50

    6月。
    もう調整の段階といったところか。
    最近はトレーナーも私を大分労り続けている。
    脚のマッサージも心なしかいつもより念入りだ。
    「トレーナー…」
    「ん?」
    「もし私が負けたら、あんたは私を諦める?」
    内心、参っていたのかもしれない。
    あれだけクラシックでは盛り上がってたのに、その後の失速具合や失望に揉まれて。
    だからこんな我ながら意味の分からない質問を投げるようになるんだ。
    「さぁね。でも」
    「…でも?」
    「君の持つ力を全部絞りきってから諦める。言っただろう、『勿体ない』って。君にはG1を勝つ力があるはずなんだよ、それをみすみすドブに捨ててたまるか」
    「は、はは」
    なんだそれ。今の今までG1取れてない私を宝石の原石みたいに言って。ほんと、どこまで本気なんだか。
    ……嬉しいのかな。
    自分でもよく分かってないや、とうに自信とかなくなってたし。ああダメだ、油断するとすぐほわほわする。

    君にはG1を勝つ力があるはずなんだよ──
    何度でも繰り返し聞きたい言葉だ。
    こんなに期待されたの、いつぶりだったかな……。

  • 25二次元好きの匿名さん25/10/13(月) 19:16:24

    >マッサージ

    何気にスタミナより耐久力を問題にしてるような話が春天を却下した時に出てるのよね

    これまでのパッとしない走りは無意識にリミッターをかけた走りだったのかもしれない

    だとするとトレーナーもそりゃシビアにトレーニング進捗だけでなくレース自体を見極めるよな

  • 26二次元好きの匿名さん25/10/13(月) 19:37:40

    ──ついにやってきた宝塚記念当日。
    調子は……まぁ普通。体調は良好。
    ……勝たなきゃいけないんだ。
    ここさえ乗り切れば、少なくとも私たちの世代が惨めなものだと笑われることは減る。もう下に見られない。
    ──そして、あの先輩も
    「あら、あなた……」
    「……どーも」
    同世代の子だ。
    この子もクラシックからの活躍としては、周囲の基準からすれば微妙になるのだろう、ただ私と違うのは……
    彼女はどんな形、評価であれティアラのG1を取っている。
    私のような善戦ウマ娘とは違う、1度頂点の味を知ったウマ娘だ。

  • 27二次元好きの匿名さん25/10/13(月) 19:39:21

    このレースに出てくるというのなら、確実にライバルになる。ここで貞淑そうな雰囲気を出していても油断は出来ない。
    「ふふ…良い目ね、ではまたあとで」
    「はーい…」
    何が『良い目』だ。達観したような雰囲気を出して。
    ん?あれは去年シニアになったばっかの……。
    「よーし!宝塚記念も勝つ!!」
    「前の大阪杯の借りは返すから。調子に乗らないで」
    ……チッ。
    良くない感情を抱えそうになったところで、トレーナーが顔を出した。
    「クレナ、行けるか?」
    「んー?どう見える?」
    「そういうことが言えるなら、調子は悪くなさそうだな」
    はー、お世辞の一言ぐらい言って欲しいもんなんだけどねぇ。
    まぁ、ネガティブに見えないんならそれで良い。
    気持ちで負けるような生半可な覚悟じゃない、私はここでナンバーワンになる。先輩の存在を汚されないように。皆を下に見られないように。
    必ず。
    「……行ってきます」
    「ああ。後悔の無い良いレースにしてこい」
    「……」

    『良いレース』ね……
    それ以上を望んで良いんだよトレーナー。
    このレースで私が勝つって、そういう勝手な期待を私に乗せたら良いんだよ。
    そんなワガママで暗い感情が滲みながら、ターフへと向かうのだった。

  • 28二次元好きの匿名さん25/10/14(火) 00:05:55

    ──ゲートインの時点で気付くことがある。

    ……この子たち、私に取られるかもなんて思ってないな?
    警戒すらされてないのか。
    ああそうかい、舐めてるんだね……?
    それなら好都合。このまま警戒心0で走ってくれれば良い。


    …。

    ……。

    ………………。


    ──フッ!!!

    出遅れなし!完璧に先行としての位置を取った!
    あとは周りを警戒しつつ、逃げてるアイツを捕える準備をしよう。

    ………ふふ

    明らかにスピードを乗せるのが辛くない、走り続けることが気楽に感じる。
    走りやすいじゃないのトレーナー。
    跳べって言ったあんたの教え、確かに私の力になってる!
    このまま譲らない!お先に失礼させてもらう!!

    そういう確信の中、私は走り続けていた。

  • 29二次元好きの匿名さん25/10/14(火) 00:10:07

    ──私が期待外れの世代とされるウマ娘でなければ、上手く行ったのだろうが。
    (どうしてスパートかける私の後ろから迫ってくるんだよ……!!)
    先行策、かなりの好位置に着けていた。
    そのアドバンテージがありながら私は後続を突き放せない。それどころか追い抜かれそうになっているのだ。
    「ぐっ……!」
    苦しい。息が荒くなる。
    焦りからか呼吸が乱れて酸素が脳に入って来ない。思考がまとまらない。もういい、こうなったらただの根性勝負だ!
    もっとスピードを……!!
    もっと速度を乗せないと、スピードを乗せて前に出ないと……!!
    出そうとしてる!!出してる!!!

  • 30二次元好きの匿名さん25/10/14(火) 00:11:07

    「くっ、そが……!!」

    脚が痛い
    喉も痛い
    肺だって苦しい

    これだけやって夢の一つ感じられないっていうのは、あまりにも酷じゃないか?
    なぁクレセントナイト

    これだけ"しか"、差し出せないからなのか?

    「…うぉらぁぁぁぁぁぁ!!!!」
    今は後の事なんてどうでも良い!!
    脚が軋む?折れてなきゃ走れる!!
    頼むから勝って見せろ私!!

  • 31二次元好きの匿名さん25/10/14(火) 00:26:10

    「入る」のか!?
    このタイプの想いが作り出す固有や領域は見てみたい

  • 32二次元好きの匿名さん25/10/14(火) 00:57:16

    『逃げきってゴールイン!勝ったのは○○!!』


    私は……

    「トレーナー……。トレーナー……」
    「分かってる。今回は惜しい勝負だったから……」
    「違う!違う違う違う!!トレーナーは私の何を見てたの!!このザマだよ!!」

    5着。
    2位ならまだ勝てたかもって思えた!
    5着だって「よくやってる」って言ってもらえることもある。
    けれども。
    先頭争いにすら入り込めないというのは、なかなかにキツい。
    キツいのは精神だけじゃなくて、肉体もだ。
    もう疲れきってしまった。

    悲鳴を今も上げている脚も
    先輩への想いも
    世代への想いも
    未だに痛む呼吸も
    周りを黙らせたい想いも
    私自身の想いも
    今はもう全て霞んでいくようだ

    ……疲れた。
    つかれた。
    「……クレナ?おいクレナ!どうした!おい!?」

  • 33二次元好きの匿名さん25/10/14(火) 07:35:36

    キツくなって跳びを維持できてなかったかな?

  • 34二次元好きの匿名さん25/10/14(火) 07:46:19

    体が言うことを聞かないってこう言うことなんだろうな
    現実的には順当でもお話的な意味では完全なる予想外の5着が実にそう言うものを感じさせてくる
    それはそれとしてトレーナーも気休めで惜しいと言ってるわけでもなさそうで何が見えてるのか気になるな

  • 35二次元好きの匿名さん25/10/14(火) 09:38:20

    ──。
    「ここ……は…?」
    「……医務室だ」
    「あ、ああ……。なるほど……倒れたんだ……」
    「……悪い。無理に気付けなかった俺の責任だ」
    「良いよ……トレーナーのせいじゃない。私が無理してたんだから」
    「でも──」
    「私が勝てると思ってそれで負けた。それだけなんだよ」
    トレーナーさんは悪くない。悪いのは私の能力不足だ。
    私とトレーナーさんの努力は間違いなく実っていた。
    だがそれでも他に並べなかったんだ。
    ……でも、まだ終わってない。
    あの最後の方で感じたよく分からない感覚。
    自分の命を一瞬で燃やしたような感覚。
    真ん丸な命が、端っこから欠けていくイメージが頭を過る。 
    何かをぶち破りそうに感じた、あれがきっかけに見えた。
    ……まぁ、考えても仕方ないか、ああいうのは大体ノリだ。
    そうやって、今の私には何かを考える気力は無かった。

  • 36二次元好きの匿名さん25/10/14(火) 09:44:31

    ──夏合宿
    「平和だね……」
    夏合宿に入って最初の頃は、休養を設けて貰っていた。
    どうもあのレースでダメージを受けた分自身のケアの時間に使って欲しいと。
    そんな時間はないと思うのだけど、まぁ限界を超えようとしてしくじった奴へのペナルティのようなものと思うしかないか。
    やることがない。しかしクラスメイトとかも大分今は絡まなくなってしまった。
    となれば……

    「何で呼び出したかと思えばこういう……」
    「誰かさんが休養を指示したから暇なものでしてねぇ?ま、食べ歩きぐらい付き合いなよ」
    「む…そう言われると弱いな…」
    そう言って束の間の休息を楽しもうとしたのは良いのだが……
    「ふわふわかき氷売り切れ!?ウソでしょ!?夏の風物詩が売り切れってそんなことある!!?」
    「ウマ娘の合宿が近くにある店だぞ」
    「いやまぁ理屈は分かるけどさぁ!!」
    何も上手く行かないな私!せめて日常ぐらいは思うように事が進んで欲しいのだけれど!?
    「また来年来れば良い」
    「……来年?」
    「ああ、今度は、祝勝の為にな」
    来年。
    来年か。
    「……ふふっ、来年も普通に走ってるとかシニアの三年目じゃん、もうレース界のおばちゃんだよ」
    「良いじゃないか。歳を取っても強いなんて漫画みたいだ」
    「ああー!大体カッコ良い奴!!」
    「そういう"生き残り"になってやろう、クレナ」
    ……そう、そうか。
    あんたは、来年でも通用するって、そういう期待をしてくれるんだ、諦めてくれないんだ。
    嬉しいね。嬉しい。
    そんなに期待されちゃ、貴方にも応えたくなっちゃうよ
    やだなぁ私、先輩に世代に今度はトレーナーの為にかぁ。まるでみんなのウマ娘って感じじゃん……

  • 37二次元好きの匿名さん25/10/14(火) 09:46:51

    限界を超えるヒントは見えたがノリで流したそれがオカルトある世界では大真面目に考える価値あるからチクショウ!
    それにしてもいいな″生き残り″って

  • 38二次元好きの匿名さん25/10/14(火) 10:14:13

    「うおおお……!!」
    「自覚は無かったかもしれないが最後の直線では限界も良いところだった!そこで踏ん張ろうとした君の根性を使って砂浜に脚を鍛えてもらうぞ!」
    トレーナーが言うには、最後の方は軽さを感じるあの走り方が維持できなくなっていたそうだ。
    根性だけで走って理屈も理論もかなぐり捨てて走ればそうもなるかという感じだが、脚のダメージを見るにそもそも私にはあの距離が現状長かった可能性もあるらしい。
    難儀な身体だ。油断すればドスドスした走りに戻るし、そもそも私にレースを連闘なんて夢のまた夢なレベルの耐久性しかないのだからそりゃあ勝つためのレースも絞りたくなる。
    だから私は全体的に身体を作っていかなくてはならない。
    そして──
    「息を切らした状態からスパートをかけてみたい??」
    「うん、あの時何かを感じた気がしたんだよ、それが何かは分からないけど、確かに不思議な変化を感じた」
    「……それは」
    「分かってる。今の私には危険だってのは分かる。」
    「……」
    「でも……私は何かがあるんじゃないかって。それを確めたい」
    「んー……ん゛~……分かっ、た。それもトレーニング項目に入れておく」
    「えっ本当に!?」
    「ただし、それもきちんと保険はかけておいてから、まずは基礎的な体力作りをしっかりやりきった上でだ」
    「え?早速じゃなくて?」
    「当たり前だ、砂浜ダッシュやらタイヤ引きやらそれ以外にもやらせることはまだたくさんある。」
    「……はぁ」
    「何溜め息吐いてるんだ?やるべきことを増やすのは簡単だがな。そうそう簡単に成果は出ないぞ」
    「……まあね、そりゃ分かってますけども」
    「君の脚の柔らかさは武器になり得るだろう。だが逆に言えばそれ以上の武器は何を持っているか分からない。……少なくとも俺は見つけられていない」
    「…………」
    「だけど見つかるかもしれない。他ならぬ君がきっかけを見出だそうとしてるんだ、信じる理由にはなるさ」

  • 39二次元好きの匿名さん25/10/14(火) 10:31:15

    『真ん丸な命が欠けていくイメージ』
    あれが勝つための切り札になる。
    根拠もなく私はそんな気がしていた。
    きっとあれは、自分にしか持ちえないイメージだろうから。

    8月、後半。
    「はぁっ…はぁ……っ!」
    ダメだ。
    アレには届かない、あのイメージがちらつきすらしない。
    「クレナ、一回休憩だ。こっちは君を尊重するつもりだけど無理は看過できないからな」
    「うん、分かってる」
    きっかけが足りない。
    あの時私はどうなっていた?
    「……とにかく前のウマ娘に、届きたかった」

    私という月で、その道を覆ってやりたかった

    栄光という太陽を、私だけのものにしてやりたかった

    ……つまり。
    私は奪ってやりたいという何かがないと、ああはなれないのだろうか。
    「はぁ……」
    我ながら本当に正統派ではない性格で困る。
    そういうのは普通、競い合いたいとか、あの子に勝ちたい!とか、キラキラしたものから発展して欲しいものだろう。

  • 40二次元好きの匿名さん25/10/14(火) 10:37:20

    勝ちたいものが個人ではなくもっと広範なものであったがゆえか
    何かは突っ込んで言えないが聖戦と縁がある三日月にかけていると言う点ではこれもまた尊い願いではある

  • 41二次元好きの匿名さん25/10/14(火) 17:00:15

    「多分、相手がいないとダメなんだと思う」
    「相手か…要するに模擬レースじゃないとダメなんだな?」
    「そういうことでしたら私がお相手しますよ」
    「あんた…」
    この前の宝塚記念で会った同期でティアラの子。
    そして…あの時私の一つ前に居た子。
    「まぁ確かにあんたなら申し分無いけども、良いの~?相手に塩を贈ることになるけど」
    「まぁ言うわね。ですが……こちらとしても全力で走れる相手は少ないのよ。お互いにウィンウィンになるなら私も構わないわ」
    「良い性格してるなぁ」
    「どうも」
    ティアラとか似合わないってコイツ。

    「はい、じゃあ準備はいいね?よーい…スタート!!」
    あの子が先頭を取る形となった。
    それに追随するのは当然だが、やはり相手が相手なのだろうか。
    「ちっ……!」
    くそ……!あんなこと言ってきたぐらいだし流石に強いな……!
    ここまで必死になって追い抜こうとするも中々抜けない、むしろ少しづつ離されていってしまう。
    また、あんな風に……!!

    ──いいなぁ
    あんな走り出来るんだもんなぁ
    影の薄い世代同士でも、G1ウマ娘ってやっぱり違うんだもん、そりゃオーラとかが違うよね
    やっぱ頂点の味知ってる子って輝いてるもん
    「……ぁ」
    良いなぁ、その光羨ましいな、眩しいな……

  • 42二次元好きの匿名さん25/10/14(火) 17:02:40

    ──ねぇ、その光、私にくれないかな?


    「…あはっ」

    そうか。あの時の気持ちは嫉妬と、勝利への渇望。
    月は恒星じゃない。自分では輝けない。
    ただ、太陽の力を利用して夜の中の主役となる。
    お前らは太陽だ、私の輝きのための道具になってれば良い、でしゃばればその光を遮る。
    イメージが変わった。真ん丸な命は自分の物じゃない。月ではなかった、太陽だ。
    私が日蝕のように覆い被さり、しかし環すらも作らず、不完全な形で身勝手に食い荒らす。
    お前たちの輝きは三日月の形にする。
    あのイメージは、私にとっての…

    ──捕食だ

  • 43二次元好きの匿名さん25/10/14(火) 17:40:45

    なるほどクロウ・クルワッハ

  • 44二次元好きの匿名さん25/10/14(火) 18:18:03

    うわぁ!?
    急にダークな覚醒するな!

  • 45二次元好きの匿名さん25/10/14(火) 19:05:18

    「日食」に至る伏線はあったね

  • 46二次元好きの匿名さん25/10/14(火) 19:57:31

    「会長……」
    「ああ、領域に入ったな。だが…少々危ういな」
    「ええ。あれは…歪です。『負担が大きい』で済むような物には見えません」
    「同意見だ。あの子が上手くアレを躾られれば良いが……」


    「クレナ!!」
    明らかに自らの理性や制限を振り切ったパワーの使い方だ!
    あんなの教えていない!というか、彼女の気になる武器ってアレかよ!滅茶苦茶じゃないか!!
    ああっ畜生ッ!走り方は崩れていないのが腹立たしい!!
    確かに普段からそれだけストライド伸ばして大きく跳んで走れるなら苦労しないな!だが今までそれが出来なかったのは身体がそれをする許可を出してない、いや出せないからだ!!そんなんであんなの……!!
    「ゴール…イン……!」
    「あは…ッ!」
    「この子…なんて走り方するのよ……!!?」
    ……クレナは勝った、確かに勝ったよ。
    だけどコレを新しい力としてキャッキャ出来る程、トレーナーとして狂っちゃいない。
    「あははっ……見たぁ?トレーナー」
    「クレナ……」 
    「皆私を見てる、ようやく皆私を見るようになったんだよ、これなら…!!」
    「ダメだ…それはダメなんだよ……」
    「でも…勝てた……!!」
    くそっ……!!
    何の憂いもない笑顔を見せられると普通なら本当に嬉しくなるはずなのに……!!
    「っ…こんなことしてる場合じゃない、取り敢えず脚の確認だ!!」
    「えっ……!?」
    「ほら靴脱いで横になれ!」
    「う、うん……」
    クレナの脚を確かめてみる。幸い大きな問題は無いものの……これは……
    「すぐアイシングだ、これ以上君の脚を無理させられるか」
    「……うん」

  • 47二次元好きの匿名さん25/10/14(火) 19:58:59

    「とりあえず今日はもう終了。ゆっくり休んで」
    「……はい」
    「かき氷、買ってきてやるから」
    ……さて……俺も俺でやることが多い。
    ……彼女にああいう力が眠っているのであれば、それは必ず自分の物として使えなくてはならない。
    彼女が勝つためにも……勝つためにも、か。
    だが、どう考えても危険すぎる。現状のあれは諸刃の剣どころじゃない。
    俺に出来るのか?あんなものを飼い慣らして彼女に自由自在に扱わせるなんて……
    いや……やるんだ。やるしかない。
    それで勝てませんでしたなんて…彼女が満足出来るわけがない。
    あの子は常に、暖かい感情に飢えているのだから…。


    「……ふふっ」
    夜風に当たりながら思案する。
    ようやくだ、掴めた。
    ようやく勝てるビジョンが見える、模擬レースとはいえあの子を覆い陰らせることも出来た。
    ああ、良い夜だ。
    こんな真っ暗な空の中で、月だけは星々よりも大きく光る。少しはアレのようになれただろうか。
    ……明日も頑張ろう。いやまぁ、頑張らせて貰えるか分からないけど。
    多分怒られるなぁ~、明日も多分脚以外で多分体力使うだろうし、早く寝よう……。
    そう思い宿舎に戻ろうと踵を返し、最後に見納めのように振り返って空を見ると……

    ──少し欠けた、下弦の月が照っていた。

  • 48二次元好きの匿名さん25/10/14(火) 20:01:49

    不可能を可能にしなければG1トレーナーにはなれぬ
    厳しい世界よ

  • 49二次元好きの匿名さん25/10/14(火) 20:21:34

    やめろ、なんかスティルインラブしそうだからやめろ

  • 50二次元好きの匿名さん25/10/14(火) 20:23:50

    なんの因果かスティルも捕食者なのよね
    それでいて推定血塗れの三日月が絶大な意志の力でとスティルの吸血鬼めいた紅が本能の力で反対なのがなんだか面白い

  • 51二次元好きの匿名さん25/10/14(火) 20:54:50

    下弦の月

    し、新月に近付いてってる……

  • 52二次元好きの匿名さん25/10/14(火) 21:48:32

    「クレナ」
    「あっハイ」
    「昨日のアレだが」
    「アハハ……ハイ……」
    「まず初めに言っておくが、君のあの才能に否定はしない……君だって、君の目的や気持ちから、あれに魅力を感じてしまっているのも事実だろう」
    「ええ勿論」
    「……危険過ぎる。あれは勝つための切り札以前の問題だ」
    「それは……そうだよね」
    「だけど、あれが切り札として使えるなら頂点を獲れることになるのは確実だ。……だから俺は、それを君の中に定着させることに協力する」
    「……良いの?」
    想像とは違った結論。
    正直自分でもOKサインが出るとは思ってなかった。トレーナーだって私がああなることを恐れているのは分かったし。
    「ああ。だけどこれだけは自覚しておいてくれ」
    私の脚は元よりそこまで頑丈じゃないこと。
    しかしその代わりに軽やかな走りが出来ること。
    あの力はそこにパワーを無理やり追加していて、その負担は脚に凄まじい勢いで振りかかるということ。
    そんな無理をして持久力をすり減らすのだから、長距離は絶対に走らない、消耗が想像以上のものだった場合マイルレースも視野に入るということ。
    色々注意すべきことを羅列された。
    ……これは思ったより厄介だなぁ、アレ。
    でもああやって走ってるうちは、疲労など感じない。
    むしろあの領域に入ってるうちは、前にいる子達が追いつかれまいとするのが、獲物が逃げてるみたいで物凄く楽しくなってくる。

    ──何を楽しんでるんだ、私は?
    レースに勝つのが目的じゃん、いじめたいわけじゃないでしょ。
    ああ嫌だ、本当に嫌だ。表舞台に出たいと思っている奴の思考じゃないよこんなの。

    でも……先輩。
    私勝てそうだよ、G1。
    ようやく皆が、世代が、舐められなくなるかもなんだ。やってみるしかないよね。
    …しっかし、先輩、今何してるんだろうな……

  • 53二次元好きの匿名さん25/10/14(火) 22:01:40

    それを「挑戦の高揚」ではなく「いじめている」と捉えるのか
    なんというかクソ真面目だなこの子
    「他世代や世間という敵を打倒して世代の価値を示す大義のために走っているのだから、その戦いを楽しいと思ってはいけない」
    みたいな思考が働いてそう

  • 54二次元好きの匿名さん25/10/14(火) 23:34:13

    「弱さこそが罪なのだよ!」

  • 55二次元好きの匿名さん25/10/15(水) 02:02:57

    9月に入り、合宿も終わった今。
    ここからはひたすらに身体を鍛えて鍛えて鍛えて、あの例の力に耐えられるようにしていくところという感じだ。
    筋肉を増やして、増やして、骨も強くして。
    飯も食った。栄養のあるものを、素早く良く効くものを。
    ああ、牛乳とはかくも素晴らしきものなのか。
    ありがとう牛乳、カルシウムに感謝。
    タンパク質も最高。やっぱ肉だねぇ。
    「クレセントナイトさん」
    「あ、同期でティアラの子」
    指定されたメニューをかっ込んでる私の前に、同期でティアラの子が現れる。
    「あのね、いい加減名前覚えなさいよ、あと言い方が何か嫌!オークスの子にしてせめて!」
    「はいはい、ルミナスロマンスさん」
    「分かってるんじゃないの!!」
    「まあね。で?ルミスちゃんはどったの?最近一人ぼっちな私に構ってくれるわけ?」
    「っ……まぁ良いわ。ええ、あの力について少し」
    「……正直私もよく分かってないけどね、それ」
    「あ、あなた自分でも理解してない力を勘か何かで使っていたの!!?」
    「あの時は初めてだったからなぁ」
    初めて相手を捕らえられる明確なイメージが沸いた瞬間。
    アレがその時だ。
    「あんな背筋が凍るようなのは久しぶりよ……あなたの言う他世代の子に、狙われてるって圧を感じさせられた時以来かしらね」
    ほう、それは良い。
    落ち目、谷間の世代とされてる私たちが、この子からすれば少なくとも私はそいつらに並ぶレベルになった訳だ。
    恐らくだが、私たちの世代は私以外誰もあの力を知らない、あったらもうちょい後世代の子に抗えるはずだろうし。
    もしかしたら、先輩だけは持ってたかもしれないが……。

  • 56二次元好きの匿名さん25/10/15(水) 08:24:34

    「ま、下手したら私いつか消えると思うけど」
    「……あなたそれ、自分がその力を振り回したら……って意味?」
    「……さぁ?どうだろうね」
    実際、いつ怪我して表舞台から消えてもおかしくない力ではある。勝手にリミッター外して限界以上の力引きずり出して、そんな状態なのに本人はアホみたいに楽しそうにウマ娘追いかけ始める。
    どうみても健全じゃないでしょ、コレ。
    そりゃトレーナーも渋るわ。
    「……そう。まぁ良いわ。あなたのその力はきっと、私やその他の子相手には十分すぎるくらい脅威だと思う。……だからこそ」
    「ん?」
    「良い勝負をしたいのよ私は。変な自滅だけは止めてちょうだい」
    「……お優しいことで」
    「あなたとて勝ちたいのならその力を磨き上げなさい。……でも、その前に脚を壊さない程度に。じゃないと私の勝利に価値がないのよ」
    「……ふーん」
    なんというか、王道?っていうのかな。
    あぁ、ライバルってこういうのだよねって感じ。
    ライバルかな?後世代の子負かさなきゃいけないって点においては共犯者?まぁ良いや。
    良くできた子って感じがするよこの子、真っ当に勝ち取ったんだなって。
    「何よ」
    「いやぁ?強者の風格というかさ。良いね、G1ウマ娘さんは。私が勝ったら悔しくなってくれる?」
    「言ってなさい。本番では勝たせて貰うわ」
    そう言って彼女は立ち去ろうとしたのだが、立ち止まって振り向く。
    「……秋の天皇賞、そこで待ってるから、あと」

    ──後の子たちに気を付けておきなさい

  • 57二次元好きの匿名さん25/10/15(水) 10:49:16

    クレナ後ろ!

  • 58二次元好きの匿名さん25/10/15(水) 18:23:58

    こっわ…

  • 59二次元好きの匿名さん25/10/15(水) 22:48:32

    あの子の忠告の意味がよく分かっていない。
    何か気付いたのならはっきり言って欲しいものだ。
    後ろの世代の子たちに気を付けるたって、そもそもずっと警戒してきた相手だってのに。
    私たちの世代でない誰かを大きく映し出すURAのCMを睨み付けながら、結論の出ない思考をするのであった。


    毎日王冠、そこに私は出走する。
    というのも秋の天皇賞に出るのなら前哨戦で勝っておきたいからだ。優先出走権があれば安心なのには違いないし。
    後は、あの例の力の試運転だ。
    マイル戦なら全体的に体力を消耗する時間は減るだろうという事で許可も得ている。
    何にせよ、ここで勝つ。
    そして……天皇賞でも。

    ──その時が来たのなら、全部私が食らってやる

  • 60二次元好きの匿名さん25/10/15(水) 22:54:33

    『さあ各ウマ娘、ゲートイン完了しました』
    さぁ、行くぞ。


    ……おかしい。
    おかしいというか、何か私の中で違和感というか。
    今回は逃げるウマ娘がいない。
    しかも先行の作戦を取っている子達の中で私が先頭。
    だけどこれをおかしいというには、起こる時には起こる現象というか……。
    まぁ今は良い。この感じだと上手くペースを握らないと、好き放題されるなこれは。

    「会長、どう思いますか」
    「彼女はどうやらあの領域に壊されないように身体を鍛えて来たようだ、その努力はきっと叶うさ」

    「だが……」

    『コーナー曲がって最後の直線!各ウマ娘、ラストスパートをかけていきます!いち早くゴールに駆け抜けるのは誰だ!!』
    くっそ、結局煽られて走った上に先頭のままか!
    まぁ良い!このまま全力で突き抜けてやる!!
    私に……

    勝たせろっ!!
    このままゴールまで走らせてよ……!!

    「……今度は足りない」
    「足りない、とは?」
    「エアグルーヴ、君にも分かるだろう。あの子の覇気が前より弱く見えるのを」
    「ええ、ぞっとするような気配すら今は感じません」
    「あの子の領域は生易しいものではない。歪なアレがクレセントナイトの正解だ。だから本領を発揮するには、条件が足りない」

  • 61二次元好きの匿名さん25/10/15(水) 23:56:15

    ──は?
    なんであの状況から普通にかわされてる?
    だって私は、今あの力を、感覚を使って……!!
    くそっ!一着になりたいのに!ならせろよ!!
    G2も勝てないで、私は……!!!


    2着。
    あー…くそ……
    そろそろ、勝たせてくれても良いでしょ……。
    「あー、やっぱダメかぁ、毎回惜しいんだけどなぁ」
    「まぁやっぱり後の世代強いからねぇ、でも夢は見れたレースだよね」
    聞こえてくる声に唇を噛むことしか出来ない。
    だって、何も言い返せない。
    『夢は見れた』か。
    そうだよね、夢物語で終わってるんだよね、今の私。
    「クレナ!!」
    「あ…トレーナー……」
    「君は、十分頑張った」
    「……私にそういう慰めは要らないってのは一番分かってるでしょ、トレーナー」
    「……すまん。だが、君には今までの積み重ねがある。きっと出られる」
    「当たり前」
    私は諦めてないから。絶対天皇賞に行くから。
    「ああ。だから次の目標は、そこだ。それまでは暫くの休みを挟んで……そうだな」
    「また、あの力と向き合う」
    「そうだ」
    「うん、分かってる」

    次は、必ず。

  • 62二次元好きの匿名さん25/10/16(木) 00:46:38

    このレスは削除されています

  • 63二次元好きの匿名さん25/10/16(木) 00:49:40

    優先出走2着以内だったようなと思ったけど見直したらそりゃ地方勢だった
    それはそれとして今回以外ではクラシックG1開始前や世代戦の2着が貯金になってるんだろうなという感じがある

  • 64二次元好きの匿名さん25/10/16(木) 07:12:12

    あの感覚にはならなかった。
    そしてルミスの「後ろの子に気を付けろ」……。
    逃げ不在……。私が先頭……。

    私は、一番になるのが早すぎるとダメなの?
    というより……

    「トレーナー!!」
    「えっ何!!?」
    「前に誰かいなかったり一位になるのが早かったりするとダメな子っていると思う!!?」
    我ながら勢いで変なことを聞いてるなと思ったが他に説明のしようが
    「え、うん。」
    「は?」
    即答かよ。
    「全然いるぞ、どうしてもそういう場面で気が抜けちゃう子って。差しとか追込のウマ娘なんかに多いんだよ、あんまり早く抜いちゃうと集中力とかが欠ける子。まぁそうなる状況はウマ娘によって様々だったりするんだけど」
    そうか、私はあの時、集中出来ていなかったのか。
    というよりあまり心に滾りを感じなかった。今思えば目の前の奴を打ち負かしたいという渇望のような何かが薄かった。
    「トレーナー…私がそうだとしたら、どうする?」
    「そりゃ君の走りやすいようにするしかないだろう、そして君が今のままじゃダメって言うのなら」

    ──作戦変更と行こう

  • 65二次元好きの匿名さん25/10/16(木) 07:54:15

    先行適性無かったかー

  • 66二次元好きの匿名さん25/10/16(木) 17:22:37

    差しと追い込みどっちになるかな

  • 67二次元好きの匿名さん25/10/16(木) 18:58:40

    私は脚が頑丈じゃない。
    だから勝てるレースを選んできてるし、走り方も一気に脚に負担がかかるわけでなく、レース運びで有利に立ちすっと抜け出して勝ちたい先行のスタイルを取っていた。
    それが差しに、後ろからのレースとなると。
    ……ただでさえ繊細な私の脚は、きっと耐えられるかどうかの瀬戸際のギリギリになる。
    「トレーナー」
    「ん?」
    「夏合宿、あんたの買ってきたあのガリガリのかき氷で私が満足出来ると思う?」
    「……いや、しないだろうな君の事だし」
    「ふわふわのやつ来年行こうって行ったのは誰だっけ」
    「俺です……」
    「じゃあ、責任もって私を鍛えて、私を壊れないようにして。私を……来年も走れるように」
    「…当たり前だろう、君がやりたいと言ううちはどこまでも付き合う」
    「どんな無茶言っても契約、切らないでよ?」
    「君から言って来るならともかくそんなことは俺から言わない」
    「ふふ……なら良いや。私、この脚ブッ壊すつもりで走るから……どうか本当に壊さないように守ってね」
    「ああ。任せろ」
    ……良かった。あんたがそう言ってくれて。
    じゃあこれからも期待しててよ?私のトレーナー。
    あんたが居なかったら私はもう既に表舞台からきっと消えてたんだから。
    あんたが私を拾ったんだから、しっかり責任取ってよね。
    でもそんな私みたいな奴に付き合ってくれるんだ、私もその分精一杯返してあげるからさ。
    だからどうか。
    最後まで一緒にいて、私を諦めないでよね………

  • 68二次元好きの匿名さん25/10/16(木) 19:43:07

    ~⏰~
    しかし、まぁ。
    ルミスの『後の子に気を付けなさい』って……
    「前しか見てないせいで周りに対して注意散漫だからあまり下手に前に出てると後から差されるぞってとこまで言え!!分かるかぁっ!!」
    「でも掴めたんでしょ?」
    「負けてからじゃダメだろ!!?」
    「そこまで塩を送るような性格じゃないわよ……で」
    「んぅ?」
    「あなた…変な腹の括り方してないわよね」
    ……前のクソほど分かりにくいアドバイスの時といい、勘だけは妙に良いのよね、この子。
    「……そう。私は死ぬつもりで走る」
    「比喩じゃないわねそれ」
    「でも良いんだ、どれだけ壊れそうになっても私はい……」
    「ウマ娘の故障を甘く見ないで!!あなたの先輩だってクラシック三冠を取ったその後に……!!!」
    「それぐらいの気持ちと行動じゃないと私は勝てないって話なんだよ、ルミス」
    例え薄氷のようなごく小さい差で勝敗が分かれているだけなのだとしても、私はその勝負において結局負け続けている。あの力で走っているレースの数こそ少ないものの、勝った試しがない。
    結局私は、勝ててない。
    ならもうそういう覚悟で行くしかないんだよね。
    自分の競争生命を捧げる、そういう覚悟を。
    「やめてよ、天皇賞で転倒事故なんて」
    「あくまで気持ちの問題だから!私の脚が持ってくれれば万々歳だって」
    ……天皇賞まで時間もあまりない。
    私に出来ることは限られてるだろうから、少しでも身体を丈夫にして、あの力を使う時脚の負担を減らす為に練習するのみ。
    「……絶対、勝つから」
    「良いわよ別に、その意気込みで。あなたに勝たせるつもりはないから」
    ……やっぱティアラとか似合わないってコイツ。

  • 69二次元好きの匿名さん25/10/16(木) 19:55:15

    命を賭けるクレナの引き合いに出るあたり、先輩もただの怪我ではないな?
    まさか休止宣言後自らってことはないだろうが……

  • 70二次元好きの匿名さん25/10/17(金) 00:09:29

    ティアラに合わないと突っ込んでるクレナに女子校に過度の幻想がある男子っぽさを感じる
    (たぶん)右耳飾りだし仕方ないね

  • 71二次元好きの匿名さん25/10/17(金) 01:00:32

    エクリプス関係かなと思ったが違いそう

  • 72二次元好きの匿名さん25/10/17(金) 01:54:46

    このレスは削除されています

  • 73二次元好きの匿名さん25/10/17(金) 01:55:47

    色々三日月(ひいては月)や日蝕にかかってそうなんだよな
    エクリプスのように走りクロウ・クルワッハのように喰らう
    中東もドバイか何かで回収されそうな気がする

    あとは瞼のように見えることか
    たぶん新月が終わりではなくむしろそこからが本番と見た

  • 74二次元好きの匿名さん25/10/17(金) 09:06:51

    私は無事に天皇賞の出走リストに名を連ねていた。
    つまり出走することが確定した。
    ここからはひたすら練習だ。
    そして……脚の調子を整えること。
    私が走れるように、あの力を使えるように。
    ストレッチと、念入りな筋肉の確認。
    「……いけそう?」
    「マッサージも続けてるし筋肉は大分労ってる方だが、やっぱり差しとなるともう少し剛性というか、衝撃を受け止めるための筋肉が欲しくなるな……強くてしなやかな走りはクレナの特権だからもう少し時間をかけてトレーニングすれば自然にそうなるとは思う」
    「今は、差しは不安?」
    「……正直に言うと、はい大丈夫ですとは言いたくない」
    まぁ、そうなるよね。
    トレーナーという職の人間相手に大分酷なことをやらせていると我ながら思う。担当のウマ娘を安心して送り出せないのだから。
    でも……それでもここまで一緒に来てくれた人が目の前に居るわけなんだけど。
    ……あぁもう、やだやだ。
    こんなんで浮かれてどうすんだ。
    私は勝ちたいんでしょうが。
    「そう……でも、今の私にはそれが必要だから。お願い」
    「ああ。分かってる。俺が出来る限りのことをさせてもらうさ。君の勝利のために」
    「……本当にありがとね」

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