今宵、リーニュ・ドロワットの後で【SS】

  • 1二次元好きの匿名さん22/04/27(水) 21:48:51

    『リーニュ・ドロワット』当日、会場は大いに盛り上がっていた。誰も彼もがダンスを踊り、音楽を響かせ、笑い声を上げていた。
    そんな中、自分はスーツを着て彼女達に飲み物を提供したりダンスに支障がないよう片付けをしたりと裏方の仕事をしていた。どうやら欠員が出てしまったようで臨時スタッフとして白羽の矢が立ったのだ。
    こういう雰囲気は嫌いじゃないからいいけどねと思いながら会場を見渡す。
    どのウマ娘もダンスに熱狂しているようで、あるペアは少しいがみ合いながら、あるペアは朗らかに笑いながら、あるペアは世界レベルの技術を披露しながら、それぞれ思い思いのダンスを踊っている。
    楽しそうだな、とこちらも笑いながら見ていると、不意に後ろから声を掛けられた。

    「はい、ただいま……」

    そう言って振り返ると、そこには担当ウマ娘であるプリンセスが立っていた。彼女は桃色の装飾が少なめなドレスを身に纏い、いつものプリンセスヘアーではなく後ろで束ねて動きやすい、ウマ娘の尻尾のような髪型にしていた。

    「こんばんはですわトレーナーさん!今日は良いダンス日和ですわね!」

    いつもとは違う雰囲気を醸し出す彼女に見惚れてしまい声を出せずにいると、彼女から挨拶をしてくれたのでハッと正気に戻った後こちらも挨拶を返し「とても似合ってるよ」と伝えると「ふふっ、ありがとうございますわ」とニッコリ微笑んでくれた。
    その笑顔にもまた見惚れてしまいそうになりながらも楽しめてる?と聞いてみた。確か一つ下の後輩から『デート』を申し込まれていたはずだが。

    「えぇ、とっても楽しいですわ!やっぱりダンスは身体を動かせて楽しいですわね!ただ……ちょっとはしゃぎすぎちゃいまして、今は休憩中なんです……後輩の子が」

    と言って指を差した先には少し疲れたように椅子に座る後輩ウマ娘の姿が見えたので俺も練習に付き合った時はあんな感じになってたな、と少し前の記憶を呼び起こす。
    プリンセスに幾度となく足を踏まれながらも頑張ってダンスを教え、ほぼ完璧に踊れるようになってからはそれがとても嬉しかったようで何度も何度も踊りに付き合うことになった。

  • 2二次元好きの匿名さん22/04/27(水) 21:49:30

    「それでどうしようかなと思っていたらトレーナーさんを見かけましたのでお話に来たんです!トレーナーさんもスーツがとってもお似合いですわね、まるでプリファイ32話でのダンス回で社交ダンスを完璧に踊った『伝説のトレーナー』さんみたいですわ!」

    と褒められたので満更でもない気持ちになりつつ彼女と少しの間会話をして楽しんでいると、少し調子が良くなったのか後輩の子が起き上がりこちらに来るのが見えたのでどうやらお呼びみたいだよと教えてあげる。

    「まぁ本当ですわ……それではトレーナーさん、また後でお話しましょうね!」

    と元気に駆け出す彼女を見ながらたくさん楽しんでおいでとその背中に語り掛けた後さて仕事仕事と作業に戻る。

    「……今日の終わりに、ここで待っていてくださいませ、トレーナーさん」

    不意に耳元で彼女が囁くので驚いて振り返ると彼女はニコッと笑い後輩の元へと走って行った。

    「今日の終わり……?」

    リー二ュ・ドロワットが終わった後の時間の事だろうか、その時ここで何かあるんだろうか。
    そう考えていると他のウマ娘から声を掛けられたので仕事にしっかり集中しなければと心の中で気合を入れ直し、それでもその事を頭の片隅で思いながら時間が過ぎていくのだった。

  • 3二次元好きの匿名さん22/04/27(水) 21:50:17

    楽しい時間というものはあっという間で、先程までダンスや雑談を行っていた生徒たちは既にここには居ない……今年のリーニュ・ドロワットはここまでだ。
    彼女らが使っていたグラスや食べ物が載っていた皿、地面に落ちたゴミ、テーブルなどを係員総出で片付けていく。祭りの後の片付けというものは、いつも何故だか物悲しく感じてしまう。
    だがそれは、今回のイベントが素晴らしい結果で終わったという事に違いないだろう、その結果に少しでも役立てた事を少し嬉しく思いながらテーブルを持ち上げ端に寄せておく。

    しばらくすると片付けも終わったので係員の人たちが少しずつだがその場から挨拶をして立ち去る。本来なら立ち去らないといけないが、プリンセスとの約束を守らないといけないので他の人と一緒に出るフリをして中に留まった。
    誰も居なくなったダンスフロアはとても静かで、まるでここの場所だけ世界から切り離されたように感じてしまう……暗くさせないために一つだけ点けたライトが少し頼りなく部屋を照らしているのもそれを増長させている気がする。

    そんなことを思っていると、ギィと扉が開く音が聞こえた。きっと彼女が来たのだろう、先程みたいに振り返り待ってたよと声を掛ける……いや、掛けようとした。

    「トレーナーさん、お待たせいたしましたわ」

    そうこちらに言う彼女の姿は先程の可愛らしい桃色のドレス姿とは違い、いつもこちらを笑顔で見つめてくれる特徴的な彼女の瞳と同じ色をしたドレスを着ていた。シンプルなデザインながらも彼女の魅力を引き立たせるには十分で、普段の彼女よりもなんだかとても大人びて見えた。
    髪型もいつものプリンセスヘアーに戻したようで、それが更にいつもの彼女とのギャップを感じさせ、思わずため息を漏らして見惚れてしまう。

    「その、変ではないでしょうか?キングさんにお願いして見繕っていただいたんですが……」
    「あ、あぁうん、似合ってる……ううん、本当にとても似合ってるよ、プリンセス」

    何とか言葉を紡ぐことが出来たが、ありきたりな単語しか出てこない。本当はもっと褒めてあげたいのに彼女を見ていると心臓が早鐘のように鳴り、言葉が詰まってしまう、それくらい彼女の魅力にノックアウトされていた。

  • 4二次元好きの匿名さん22/04/27(水) 21:50:40

    「ありがとうございますわ、トレーナーさんが褒めてくれるだなんて、お化粧直しした甲斐がありましたわね」

    そう言って笑顔を向けてくれる彼女を見てようやく少しだけ落ち着くことが出来た。その間に彼女がつかつかとこちらに歩みを進めて近付き、少しだけ距離を開けて立ち止まった。

    「お片付けお疲れ様です……約束通り待っていてくださって、とても嬉しいです」
    「君との約束だもの、守るに決まっているだろ?」
    「ふふっ、そう言っていただけると助かりますわ」

    花のような笑みを浮かべる彼女につられてこちらも笑顔になっていると、彼女が本題を切り出す。

    「トレーナーさん、今日はリーニュ・ドロワットですわよね……新年度を祝って皆さんが楽しくダンスを踊るイベント、とっても素敵ですわ」
    「そうだね、今日はみんな笑顔で楽しんでくれて嬉しかったよ、プリンセスも楽しかったかい?」
    「えぇ、もちろんですわ!後輩の子や他の人たちともたくさん踊ってたくさんはしゃいで、とっても素晴らしい一日でした!」

    それなら頑張って手伝った甲斐があったよと心の中で嬉しく思っていると、彼女が続けて話し始める。

    「でもトレーナーさん、私思いますの……こんなに素敵なダンスイベントでしたのに、まだ肝心な人と踊っていない……って」
    「……肝心な人って?」

    そう聞き返す。既に誰の事なのか見当はついていたが、それでも彼女の口から聞いてみたかった。

    「もちろん……私の王子様、トレーナーさんの事ですわよ?」

    キラキラとした瞳をこちらを見つめてくる。その吸い込まれそうな綺麗な瞳に見つめられるとドキドキがまた強くなっていくのを感じる、今日は一日中彼女に魅了されっぱなしだ。

  • 5二次元好きの匿名さん22/04/27(水) 21:51:04

    「だっておかしいですわよね?姫と王子様が揃っているのに踊らないだなんて、ダンスイベントに失礼だと思いますわ!だからトレーナーさんと踊ろうと思っていたんですが、先程は忙しそうだったので……」
    「なるほどね、だからここで待っていてくれって言ったんだ」
    「えへへぇ、そういう事ですわ」

    ニコニコと笑う彼女だったが、次の瞬間には少し大人びた笑顔をこちらに向けてくれる。
    そのまま二度三度深呼吸をして、少し緊張しながら、でも明るい声でこう言った。

    「ですからトレーナーさん……どうか私の“デート”になってくださいませんか?」
    「……!」

    少し前までトレセン内で良く耳にした台詞、まさかそれを自分が言われるだなんて思いもしていなかった。
    彼女を見ると頬を染めながらこちらに熱い視線を向けてくれている。トレーナーさんならこの手を取ってくれるだろう、と自信に満ちた表情を浮かべて。


    ──もちろん、断る理由なんてどこにも存在しない。

  • 6二次元好きの匿名さん22/04/27(水) 21:51:31

    「喜んで、プリンセス」

    目の前で跪いて優しく手を重ねると、彼女は目を細めて喜んでくれていた。

    「ありがとうございますトレーナーさん……とってもとってもとーっても!嬉しいですわ!」

    そう言って手をぎゅっとしてくれるので、こちらも更にしっかりと握り返す。そのまま踊りやすいように照明の真下へ手を引いて誘導した。

    「ダンスは?」
    「もちろん、練習したやつですわよ」
    「曲は?」
    「無くても問題ありませんわ……それに、静かに踊るというのもとっても素敵だと思いますから!」
    「それもそうだね……よし、それじゃあ踊ろうか、プリンセス」
    「えぇ、エスコートはよろしくお願いいたしますわね、トレーナーさんっ♪」



    ──既に誰もいない、静寂に包まれたダンスフロアで。

    二人だけの『リーニュ・ドロワット』は、もう少しだけ続く。

  • 722/04/27(水) 21:58:02

    前々からリーニュ・ドロワットで書こうと思っていたんですが中々書けずにいました。
    今回新イベントが始めると言うことだったので頑張って書き終えました。
    プリンセスと王子様が二人でダンスを踊るのが見たいですよね。

  • 8二次元好きの匿名さん22/04/27(水) 22:03:34

    素晴らしい作品をありがとう

  • 9二次元好きの匿名さん22/04/27(水) 22:06:52

    良き…

  • 1022/04/27(水) 22:13:46
  • 11二次元好きの匿名さん22/04/27(水) 22:17:00

    おお…実に美しい…しゅき…

  • 12二次元好きの匿名さん22/04/27(水) 22:32:02

    あっ君かぁ!!

    ……君かぁ!!!(歓喜

  • 13二次元好きの匿名さん22/04/27(水) 22:49:40

    王子様とプリンセスはいいね…たくさん二人で踊ってほしい

  • 14二次元好きの匿名さん22/04/28(木) 08:03:06

    あら^~

  • 15二次元好きの匿名さん22/04/28(木) 13:01:44

    『いつもありがとう』…………
    それしか言う言葉が見つからな……語彙が足りない……

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