オリキャラ同士をAIで戦わせるスレ 第九幕

  • 11◆ZEeB1LlpgE25/10/14(火) 21:36:30

    安価で出たオリキャラたちが戦っている様子をAIが短編小説化してそれを楽しむスレです。

    不定期進行な上AI生成の都合上納得のいかない結果になることもあります。

    下にあるまとめは歴代試合や設定に生かせそうな世界観などいろいろ載ってますのでぜひ活用してください


    まとめ↓

    オリキャラAIバトルスレ・アカシックレコード | WriteningオリキャラAIバトルスレのページやリンクをギュギュっと一つにまとめたページです。 このページの編集コードは「aiai」です。 新しいページやスレが作られた時は追加していっていただけると助かります キャ…writening.net

    ※版権キャラはそのままでは出さないでください

    ※閲覧注意が必要になるキャラは禁止です

    ※相手が能動的に突ける弱点を必ずつけてください。

    ※AIの生成によるインフレは仕方ないですがそうでない限り勝てないほど強くするのはやめてください。

    ※スレ内で死んだキャラはifルート以外では復活しません。命には非常にシビアです。

    ※ここに出たキャラクターは基本スレ内でのみフリー素材です。要望があるなら必ず設定と一緒に記載してください。

    ※コテハンを本スレでつけていいのはスレ主のみです。

  • 2二次元好きの匿名さん25/10/14(火) 21:39:23

    建て乙です

  • 31◆ZEeB1LlpgE25/10/14(火) 21:40:42

    保守お願いします

    対戦表
    ノリン・ルーフvsムテキ・スギル
    山崎 戟vs凶刃
    一ノ積 第一vsビスケット・ラ・ヴァレー
    輿湖 白愛vs早々 囃
    先刻承知vsワンズワンワン

  • 4二次元好きの匿名さん25/10/14(火) 21:42:12

    対戦表だ!

  • 5二次元好きの匿名さん25/10/14(火) 21:43:01

    保守

  • 6二次元好きの匿名さん25/10/14(火) 21:43:17

    6 

  • 7二次元好きの匿名さん25/10/14(火) 21:43:30

    7 

  • 8二次元好きの匿名さん25/10/14(火) 21:43:42

    8 

  • 9二次元好きの匿名さん25/10/14(火) 21:43:56

    9 

  • 10二次元好きの匿名さん25/10/14(火) 21:44:06

    10 

  • 11二次元好きの匿名さん25/10/14(火) 21:48:07

    立て乙です!試合楽しみー

  • 12二次元好きの匿名さん25/10/14(火) 21:51:56

    たておつです!

  • 13二次元好きの匿名さん25/10/15(水) 01:56:33

    このレスは削除されています

  • 14二次元好きの匿名さん25/10/15(水) 06:53:22

    楽しみ!

  • 15二次元好きの匿名さん25/10/15(水) 12:04:47

    今回はどんな対戦が見られるかな

  • 16二次元好きの匿名さん25/10/15(水) 18:48:28

    ほす

  • 17二次元好きの匿名さん25/10/15(水) 23:07:59

    保守

  • 18二次元好きの匿名さん25/10/16(木) 06:28:51

    このレスは削除されています

  • 19二次元好きの匿名さん25/10/16(木) 12:19:38

    ほしゅ

  • 201◆ZEeB1LlpgE25/10/16(木) 20:02:22

    題名『恥と誇りの防衛戦線』

  • 211◆ZEeB1LlpgE25/10/16(木) 20:03:29

    夕陽が傾きかけた廃れた演習場。
    その中央に、二人の影が立っていた。

    片方は制服の裾を少し汚しながら、欠伸をかみ殺すように立っている少女。
    その指には、緻密な魔法刻印が施された銀の指輪。

    ノリン・ルーフ。
    ルーフ家の天才召喚師にして、“魔術理論を寝ながら理解した女”の異名を持つ少女だ。

    対するは、スーツ姿の男。だがスーツのボタンは二つ外れ、靴の片方は泥まみれ。
    額には妙な自信の汗。
    彼の名は──ムテキ・スギル。

     

    「えっと……あなたが今日の、対戦相手さん?」

    ノリンが片手をひらひら振りながら問いかける。

    「うむ。ムテキ・スギルだ。お嬢ちゃん、今日は運が悪かったな。俺は戦えば戦うほど“無敵”になる。」

    男は胸を張る。
    どこか誇らしげに、そして少し恥ずかしげに。

    ノリンは首を傾げた。

    「無敵って……それ、能力の話?」

    「そうだ。俺の能力──無敵の人(パーソナル・オープン)。説明しよう!」

  • 221◆ZEeB1LlpgE25/10/16(木) 20:05:13

    スギルは突然、マイクもないのに演説のように声を張った。
    ノリンは「わぁ……ノリが強い人だ」と呟く。

     

    「俺は! 自分の個人情報を開示すればするほど強くなるッ!!」

    「……へぇ」

    「今、名前を言った時点で少し強くなったッ!」

    「ふむ……なるほど」

    「続けるぞッ! 俺の身長は──178センチッ!」

    バチッ、と彼の足元から青白い光が走る。
    わずかに筋肉が引き締まり、オーラの圧が上がった。

    ノリンは目を瞬かせる。

    「……あ、本当に強くなってる」

    「そうだッ! 体重は69キロ! 高校時代、剣道部だったッ! 大会で一回戦負けしたけど努力はしてたッ!」

    次々と自己情報をぶちまけながら、スギルの体に光が走る。
    筋肉は硬質化し、瞳は鋭さを増していく。
    だがノリンの目はどこか冷めていた。

  • 231◆ZEeB1LlpgE25/10/16(木) 20:06:11

    「……すごいですね、えっと、自己開示型……?」

    「そうだ! まだまだいくぞ!」

    スギルは拳を構え、真っ直ぐノリンを指差す。

    「俺の血液型はB! 好きな食べ物はカツ丼! 嫌いな食べ物はナス! 元カノは3人ッ!!!」

    ノリン:「………………」

    「…………あ、はい。」

    周囲に衝撃波が走る。砂埃が舞い、地面が裂ける。
    スギルの身体は目に見えて強化されていた。

     

    「これでまだ4割の開示だッ!」

    ノリンは半目で見つめたまま、軽く肩をすくめる。

    「ふーん。じゃあ、ちょっと試してみますね」

    彼女は指輪に触れ、小さく詠唱を始めた。
    「――来い、“いま必要な子”。」

    空気が歪む。魔法陣が足元に展開する。
    その中心から、小型の火トカゲのような従魔がひょこっと顔を出した。

  • 241◆ZEeB1LlpgE25/10/16(木) 20:06:44

    「え……小さい……?」

    スギルが思わず言う。

    ノリンはのんびり笑う。

    「だって、まだ“試し”ですもん。これくらいでいいですよ」

    火トカゲがノリンの合図で小さく火球を吐いた。
    スギルはそれを避けようとしたが、彼女はあえて小声で呟く。

    「目標:彼のベルト」

    ポン、と音を立てて火球が弾け、スギルのベルトが黒焦げに。

    ズルリ、とスーツのズボンが腰から落ちた。

    「うおおお!?!?!?」

    彼の顔が真っ赤に染まる。

    ノリン:「あ、ごめんなさい。狙いがずれちゃって」

    「……な、なんてことを! だがッ、これも好機ッ!」

    スギルは拳を握る。
    まさかのタイミングで再び叫ぶ。

    「俺の……下着の色はグレーだッ!!!」

  • 251◆ZEeB1LlpgE25/10/16(木) 20:07:24

    瞬間、彼の全身が青白く輝いた。
    魔力の波動が数倍に跳ね上がる。

    「ちょ、ちょっと!? 開示の内容、そんなのまでいいんですか!?」

    「いいんだッ! 恥ずかしければ恥ずかしいほど強くなるッ!!」

    スギルの声が雷鳴のように響いた。
    地面が割れ、オーラが天を突く。

    ノリンは呆れたように口を尖らせる。

    「……変態の域に入りましたね」

    「違うッ! 無敵の人だッ!!!」

     

    ノリンは軽くため息をつき、指輪を撫でた。

    「じゃあ……もうちょっと本気、出します」

    空間が震える。
    廃墟の地面が割れ、そこから巨大な黒い影がゆっくりと現れた。
    三つ首の獣。翼を持ち、炎と氷を吐く。

    神話級従魔──“双極のケルベロス”。

  • 261◆ZEeB1LlpgE25/10/16(木) 20:07:49

    「わあ……久しぶりに出たなぁ。ちゃんと挨拶してね」

    彼女が声をかけると、ケルベロスの三つの頭が同時に低く唸った。

    スギルの喉がごくりと鳴る。
    だが、彼は引かない。

    「はっ……いいぞ……そう来なくちゃッ!
     よし、じゃあ……いくぞ……最終開示だ……!」

    彼は震える手で拳を胸に当てる。
    空気が張り詰め、魔力の波が唸りを上げる。

    ノリンは少し目を細めた。

    「……本当にやる気だ」

    スギルは深呼吸をし、叫んだ。

    「俺の……マイナンバーは──ッ!!!」

     

    その瞬間、天が裂けた。
    彼の体は真っ白な光に包まれ、魔力値は跳ね上がる。
    理論上、今のスギルに並ぶ人間は存在しない。
    文字通り、“無敵”となった。

    だが──

  • 271◆ZEeB1LlpgE25/10/16(木) 20:08:48

    ノリンは肩をすくめ、眠たそうに笑った。

    「……ふふ。じゃあ、勝負の前に一つだけ言わせてください」

    「なんだッ!?」

    「私……番号とか、あんまり興味ないんですよね」

    「……え?」

    「さっきからあなたの開示、全部無意識にスルーしてました」

    「…………」

    「…………え?」

     

    沈黙。

    スギルの無敵の光が、ゆっくりと、しゅうううう……と音を立てて消えていく。

    「………………あの、聞いてなかったんですか?」

    「うーん、なんか……自己紹介みたいな感じだなって思って……。ぼーっとしてました」

    「俺の……! 無敵が……! ただの恥さらしに……!!!」

    ケルベロスが三つ首で同時に「ワンッ!」と吠えた。
    ノリンは肩をすくめ、微笑む。

  • 281◆ZEeB1LlpgE25/10/16(木) 20:09:26

    「はい。じゃあ……診察の時間、ですよ?」

     

    彼女の召喚魔法が再び輝く。
    スギルの悲鳴とともに、演習場は爆炎に包まれた。

    ──戦闘、開始。

  • 291◆ZEeB1LlpgE25/10/16(木) 20:42:47

    爆煙が晴れる。
    焼け焦げた演習場の中央で、土煙を上げて立つ影。

    ノリン・ルーフは左手を軽く払って煙を払うと、ケルベロスの背に腰掛けながら足をぶらぶらと揺らしていた。

    「……うーん、やりすぎちゃったかな。これじゃ帰りの魔力が足りないかも」

    少女の声は穏やかで、まるで日常会話。
    その視線の先、瓦礫の影がゆっくりと立ち上がる。

     

    「…………俺を……無視したな」

    低く、かすれた声。
    ムテキ・スギルだ。
    彼のスーツは焦げ、腕には火傷の跡。
    しかしその目だけが異様に澄んでいた。

    「……そりゃ、そうですよ。聞いてませんもん」

    ノリンは欠伸を噛み殺すように笑う。
    ケルベロスが再び唸ると、空気がびり、と揺れた。

    だが、スギルの口元にも笑みが浮かんだ。

     

    「……なるほどな」

  • 301◆ZEeB1LlpgE25/10/16(木) 20:44:33

    「え?」

    「つまり、俺の“声”じゃなくても──“無敵”は開示できるってことだ」

    ノリンが瞬きをした。

    「……え、ちょっと、それズルくないですか?」

    スギルは静かに右手をポケットに突っ込むと、黒焦げの中から一枚の写真を取り出した。

    「俺の……高校時代の学生証だ」

    そこには、冴えない笑顔の青年の姿。
    氏名、生年月日、住所、血液型──すべてがはっきりと印字されている。

    スギルが写真を握りしめた瞬間、青い炎が彼の周囲に走った。

     

    「音じゃなく、記録を見せることで開示……?!」

    ノリンが目を見開く。

    スギルは歯を食いしばりながら笑った。

    「俺の“無敵の人”は、あくまで“情報開示”だ……誰かに伝えさえすればいい。
     見せても、書いても、喋っても……それは『開示』になるッ!!」

    轟、と風が吹き荒れる。
    スギルの体が再び光を放つ。

  • 311◆ZEeB1LlpgE25/10/16(木) 20:46:03

    筋肉が膨張し、焦げた肌を覆うように銀色の膜が展開された。

    「“スーツのサイズはM”!!!」

    バンッ!と叫ぶたびに、筋肉が一段階強化される。
    ケルベロスが思わず怯んだ。

    「“住んでるアパートはボロい木造2階建てッ!!!”」

    「“家賃は月4万ッッ!!!”」

    バリィィィン!!!

    空気が割れるような音。
    光が爆ぜ、スギルの身体が白金の鎧のように輝いた。

    ノリンは目を細めた。

    「……本当に、強くなってる」

    彼女の声には、わずかに感嘆が混じっていた。

     

    「だが……」

    スギルの足元が砕ける。
    次の瞬間、彼の姿が掻き消えた。

    ノリンの視界から完全に消える。

  • 321◆ZEeB1LlpgE25/10/16(木) 20:48:53

    ──否、速すぎて目で追えない。

    風圧だけが彼女の頬を切り裂いた。

    「……っ!? ケルベロス!」

    三つ首の従魔が反応するより早く、スギルの拳がその頭の一つを叩き潰す。

    轟音。
    炎の獣が悲鳴を上げる。

    ノリンは魔法陣を再展開するが、その詠唱が終わる前にスギルの声が真横から響いた。

    「“中学のとき、好きだった子の名前は──ミナミ・アオイだッ!!!”」

    衝撃波。
    彼の拳がノリンの防御結界を粉砕する。

    ノリンが後方に吹き飛ばされる。
    背中を地面に打ちつけ、息を詰まらせる。

     

    「はぁ……はぁ……ど、どうして……そこまで……?」

    「俺は、恥を恐れねぇ。
     社会的に死んでも、戦場で生き残るためなら、全部さらけ出すッ!!」

    スギルの体から、真紅のオーラが立ち上る。
    それは恥と誇りと狂気が混ざり合った“覚悟”の炎だった。

  • 331◆ZEeB1LlpgE25/10/16(木) 20:50:41

    「……ねぇ」

    ノリンが立ち上がる。
    頬を汚し、服を焦がしながらも、静かに笑った。

    「あなた、変態だけど……すごく素敵な人ですね」

    スギルは一瞬、動きを止めた。

    「…………は?」

    「恥を力に変えるなんて、普通の人にはできません。
     ……でも、それ、ちょっとだけ、羨ましいです」

    ノリンは指輪を掲げた。

    魔法陣が花開く。

    「だから、次はボクも“本気”でいきます」

    ──地響き。

    空が裂ける。
    彼女の背後から、白と黒の双頭竜が姿を現した。
    先ほどのケルベロスとは比べ物にならない。

    神話級を超える、世界級従魔。

    「おいおい……なんだよ、これ」

  • 341◆ZEeB1LlpgE25/10/16(木) 20:50:55

    「《ルシフェリオン=ヴァル・ドラグーン》。
     この子が出るのは……わたしが“本当に興味を持った時”だけです」

    ノリンの瞳が淡く光る。
    その表情には、眠たげな微笑の奥に燃える闘志が宿っていた。

     

    「スギルさん。
     あなたの“無敵”、どこまで通じるか──試してみたいんです」

    スギルは口元に笑みを浮かべる。
    拳を握り、地を蹴る。

    「上等だッ!
     俺はもう、プライバシーも羞恥も全部捨てた!!
     残ってるのは──“本物の無敵”だけだッ!!」

     

    二人の力が、激突する。

    暴風が渦巻き、天地が唸る。
    理性と狂気、羞恥と才能。
    二つの極端が交わる時、世界は静寂に包まれた。

  • 351◆ZEeB1LlpgE25/10/16(木) 20:56:45

    空が裂けた。
    地平線を覆うような轟音とともに、ノリン・ルーフの背後から現れたのは、天と地を貫くほどの巨影。

    黒と白、二つの首を持つ双頭竜──
    《ルシフェリオン=ヴァル・ドラグーン》。

    その片目は天界を映し、もう片方は冥府の闇を湛えていた。
    空気が振動し、建物のガラスが一斉に割れる。

     

    「これが、あなたの“気分次第”ってやつか……」

    スギルが呆れたように笑う。
    全身から噴き出す赤と銀のオーラが、なおも揺らぎながら燃え上がっていた。

    「ええ。……ちょっとだけ、あなたに興味が湧いちゃったので」

    ノリンは涼しげな笑みを浮かべる。
    両手の指輪が淡く光を放ち、従魔と完全に同調する。

    「さぁ、“無敵の人”──
     あなたの羞恥と覚悟、どこまで見せてくれますか?」

     

    「上等だ……!」

    スギルは息を吸い込み、拳を握りしめた。
    もはやためらいなどない。

  • 361◆ZEeB1LlpgE25/10/16(木) 20:57:16

    恥も、恐怖も、社会的地位も、この瞬間にすべて燃やし尽くす。

    「“年収は! 248万円だあああああああ!!!”」

    空が震える。
    炎が荒れ狂う。

    「“貯金は4万2千円!! 最近は冷凍チャーハンで生きてるッ!!!”」

    叫ぶたびに、スギルの身体が眩く輝く。
    彼の中に流れる“情報”が、現実を侵食していく。

    ノリンが小さく息を呑んだ。

    「まるで……羞恥そのものが、エネルギー化してる……」

    スギルは吠える。

    「“去年のクリスマスは一人でコンビニケーキだったァッ!!!”」

    爆発的な光が彼を包む。
    それはもはや笑いすら許さない、神々しさを帯びた“恥の昇華”。

    彼は真紅の鎧を身に纏い、胸には光の紋章が刻まれた。
    《無敵解放形態(オープン・パーソナリティ)》

    「これが……“俺”だッ!!!」

  • 371◆ZEeB1LlpgE25/10/16(木) 20:57:40

    ノリンの唇が震える。
    笑いかけながらも、どこか本気の戦慄を覚えていた。

    「……あなた、本当に……バカみたいに、かっこいいです」

    「当然だ。羞恥と誇りは、同じところから生まれるんだぜ」

    スギルは拳を握り、竜の咆哮に向かって飛び込む。

     

    衝突。

    炎と竜鱗がぶつかり合い、天地が砕ける。
    スギルの拳が竜の鱗を貫く。
    同時に、竜の尾が彼を吹き飛ばす。

    肉が裂け、血が飛ぶ。
    だが彼は笑っていた。

    「“好きなタイプは面倒見が良くてちょっと怖い女の人だァァ!!!”」

    「っ……!」

    ノリンの胸が、どきりと跳ねた。

    まさか、この状況で、そんなことを叫ばれるとは思わなかった。

    「あなた……もしかして、ボクのこと……?」

  • 381◆ZEeB1LlpgE25/10/16(木) 20:58:02

    「知らねぇッ! けど今、心臓がそう言ってるッ!!!」

    拳が再び炸裂する。
    竜の片目が砕けた。

     

    「《光翼照応(セラフ・リンク)》!」

    ノリンが詠唱する。
    ルシフェリオンの翼が開き、無数の光の槍が空を覆う。

    「これで終わりです、“無敵の人”!」

    「上等だァァァ!!!」

     

    光が降り注ぐ。
    竜の咆哮、爆風、熱線。
    その中でスギルは立ち続けた。

    全身が焼け、皮膚が裂けても、彼は笑っていた。

    「“本名は──杉浦 茂(すぎうら・しげる)だッ!!!”」

    一瞬、空間が凍りついた。
    名前が開示された瞬間、彼の存在情報が世界に“完全登録”されたのだ。

    世界の理が、彼を“無敵”として認識する。

  • 391◆ZEeB1LlpgE25/10/16(木) 20:58:32

    「《無敵完遂(パーフェクト・ディスクロージャー)》──!!!」

    閃光。

    竜の光槍が全て、彼の拳で打ち砕かれた。
    拳が竜の喉を貫き、頭を砕く。

    ルシフェリオンが断末魔のような咆哮を上げ、霧散していく。

     

    静寂。

    焦げた地面の上、スギルは膝をつく。
    ノリンがゆっくりと歩み寄る。

    「……勝負あり、ですね」

    スギルは、息を荒げながら笑った。

    「……ああ。俺の……全てを……見せちまった……」

    「ふふ、恥ずかしくないんですか?」

    「今さら、恥なんて言葉……どっかに吹っ飛んださ」

     

    ノリンは彼の隣に座り、空を見上げた。
    夕陽が沈みかけ、戦場を赤く染めている。

  • 401◆ZEeB1LlpgE25/10/16(木) 20:58:53

    「……スギルさん」

    「ん?」

    「ボク、あなたのこと……ちょっと気に入りました」

    「……俺、まだ貯金4万2千円しかないぞ」

    「ふふ、それくらいがちょうどいいです」

     

    二人の笑い声が、焦げた風の中に溶けていった。

     

    ──こうして、世界で最も恥知らずで、最も真っ直ぐな“無敵の人”は、
    一人の天才召喚師の心を、静かに“召喚”してしまったのであった。

  • 411◆ZEeB1LlpgE25/10/16(木) 21:02:11

    以上

  • 42二次元好きの匿名さん25/10/16(木) 21:09:07

    いい感じの〆のラストと途中のハチャメチャ具合の温度差で笑う
    空が震えて炎が荒れてたの絶対世界そのものが笑ってたからでしょ

  • 43二次元好きの匿名さん25/10/16(木) 21:12:15

    >>「“去年のクリスマスは一人でコンビニケーキだったァッ!!!”」

    の勢いが好きすぎる、そこから

    >>──こうして、世界で最も恥知らずで、最も真っ直ぐな“無敵の人”は、

    一人の天才召喚師の心を、静かに“召喚”してしまったのであった。

    に繋がるのも好き

  • 44二次元好きの匿名さん25/10/17(金) 01:49:48

    保守

  • 45二次元好きの匿名さん25/10/17(金) 07:24:53

    保守

  • 46二次元好きの匿名さん25/10/17(金) 16:41:28

    いいね

  • 47二次元好きの匿名さん25/10/17(金) 22:38:20

    保守してしんぜよう

  • 48二次元好きの匿名さん25/10/18(土) 03:08:26

    保守

  • 49二次元好きの匿名さん25/10/18(土) 10:40:00

    今日はあるかな?

  • 50二次元好きの匿名さん25/10/18(土) 17:17:45

    保守すルと申します

  • 511◆ZEeB1LlpgE25/10/18(土) 21:52:51

    題名『斬鉄の極域』

  • 521◆ZEeB1LlpgE25/10/18(土) 21:53:59

    ゼブラ渓谷――
    その一帯は地図からも信仰からも外され、古からの怪異と伝承のみが残る忘れられた領域である。

    黄昏が岩壁を赤く染めるその谷に、一人の老人がいた。
    腰に大小二本の打刀。背筋は無駄がなく、枯木のようでありながら、一切の隙を感じさせない立ち姿。

    山崎――山崎 戟。齢八十四にして未だ現役の剣客である。

    彼の前に、巨躯の獣が咆哮を轟かせる。
    神代に近しい肉体構造を持つとされる怪物――八咫狼。
    ただの霊獣ではない。皮膚は鋼より硬く、牙は霊力を喰らう。

    しかし、老人は動じない。

    ――ヒュウ、と地を渡る風。
    次の瞬間、狼の頭が音もなく崩れ落ちた。

    斬った。
    誰にも見えぬ速さで――音すら立てずに。

    老人は刀を納める。残心はない。ただ、当たり前のように終わらせただけ。

    「……まだ鈍っとる」

    低い呟きが空気に溶けた。

    山崎戟は左目に白濁した痕を宿している。かつて神代の生物と渡り合い、その代償として視界を失った。今では輪郭すら曖昧にしか掴めぬ。だが、それでも彼の剣は衰えない。

  • 531◆ZEeB1LlpgE25/10/18(土) 21:54:46

    いや――

    衰えるどころか、その感覚はより研ぎ澄まされていた。

    足裏で風を聴き、気配で殺意の形を読む。
    己の技、**《空斬流》**を極めるために。

    「先代の剣神――あの御仁の境地、まだ霞すら掴めんか……」

    青年の頃、見た一閃があった。
    形に残らず、ただ圧倒的で、魂を焼くような剣筋だった。

    それを追うために、山崎戟はこの国を捨て、名も捨て、ただ斬りだけを生きてきた。

    そのとき――

    ――風が変わった。

    谷を渡る風が、一瞬、息を止めたのだ。
    世界の空気が張りつめた。獣の唸りではない。戦場のそれだ。

    山崎は静かに刀へ手を添える。

    誰かが来る。
    いや、「何か」が来る。

    岩壁の上、朽木のように立つ人影があった。
    ボロボロのコート。無造作に巻かれた包帯。長身の男。

    しかし――気配が異様だった。

  • 541◆ZEeB1LlpgE25/10/18(土) 21:55:29

    殺意の匂いもしない。闘気も感じない。それでも、ただ立っているだけで剣客の神経を逆立てる。

    「……用心棒か、はたまた人斬りか」

    老剣士が問うても、男は何も言わなかった。

    ただ、腰の得物を静かに抜いた。
    それは刀ではない。ただの鉄片だ。
    折れた鉄柱のような、刃とは呼べぬただの鉄塊。

    だが――その構えは隙がない。

    「人か?」

    沈黙。

    「……いや、斬りを生きる何か、か」

    男はただ、一言だけ呟いた。

    「――強いか」

    谷に、乾いた風が吹いた。

    戦いが始まる。

  • 551◆ZEeB1LlpgE25/10/18(土) 21:56:33

    二人の間に漂う空気は、静かにして鋭い。
    殺意も怒気もない。ただ「斬り合い」そのものがそこに在った。

    山崎 戟は、相手を見据える代わりに、風の流れを読む。
    視界に頼れぬ代わりに、己の全神経を皮膚に集中させる。

    一方、包帯の男――凶刃は、一切の構えを持たなかった。
    ただ無造作に鉄塊を右手に提げ、前へ出る。

    間合いは十歩。

    斬り合いの常識としてはまだ遠い。
    だが――同時に、それは即死圏でもある。

    男が一歩、踏み込んだ。

    その瞬間、

    風が弾けた。

    山崎は即座に退かず、一歩だけ前に出た──
    間合いを潰すように。攻撃を見据えるように。

    そして静かに剣を抜いた。

    ――スッ。

    抜刀音は限りなく小さく、それは音というより空気の裂け目だった。

    《空斬流・無斬》

  • 561◆ZEeB1LlpgE25/10/18(土) 21:56:54

    刃は見えない。軌跡も殺気もない。
    振ったと悟られるより前に届く斬撃。

    だが、凶刃は――

    鐺ッッ!

    鉄塊を、寸分違わずその軌道の前に滑らせた。

    山崎の眉が、僅かに揺れる。

    見えぬはずの一撃を、見切った。

    ――ただの感覚ではない。

    間違いなく“理解”していた。
    それは才能や反射ではたどり着けぬ域。

    (……専心、か)

    わずかな手応えから山崎は察する。
    この男は“見抜く”類の剣を持つ。

    凶刃は淡々と呟く。

    「攻の専心、一度目」

    それは宣言ではない。確認だ。
    これで――男は一手、山崎の攻撃情報を得た。

  • 571◆ZEeB1LlpgE25/10/18(土) 21:58:26

    続く二撃目が来ることを、凶刃は知っている。
    来なければ、この間合いで逆に斬られる。

    山崎は即座に二撃目を紡いだ。

    《飛斬》

    見えぬ剣閃が距離を無視して襲いかかる――!

    が、

    ギィンッ!!

    また受けられた。

    正確に、予測して。

    「攻の専心、二度目」

    (……やはり、ただの人斬りではない)

    攻撃を当てるほど、この男は最適化していく。
    ならば、専心が完成する前に叩く――それが定石。

    だが山崎はそれをしない。

    「面白い。ならば、お主の最適がどれほどのものか――見せてもらおう」

    山崎の口元に、初めて戦士の笑みが宿った。

  • 581◆ZEeB1LlpgE25/10/18(土) 21:58:36

    凶刃は小さく呟く。

    「久しいな。こういう相手は」

    冷気のような静寂が渓谷を満たす。

    二人は一切の駆け引きを捨てた。

    次は、命の一太刀。

  • 591◆ZEeB1LlpgE25/10/18(土) 21:59:31

    谷に吹く風が止んだ。
    静止したかのように見える世界の中、二人だけが動いた。

    山崎の踏み込みは音を失い、肉体ごと空間に溶ける。

    《空斬流・神速居合》

    通常の居合の概念を超えた斬撃。
    抜刀ではない――ただ「刃がそこに現れる」瞬間移動のような斬り。

    それは確実に急所を穿つ鋭さを持って凶刃の首を狙った――

    キィィイン――!!

    金属同士が噛み合う硬い音。
    凶刃の鉄塊が、山崎の刀身に触れた。

    避けていない。合わせている。

    タイミングは完璧――まるで攻撃を待っていたかのように。

    「……三度目」

    低い声が岩肌に響いた。

    続けざまに山崎は位置をズラし、背後から再び斬撃を放つ。

    《無斬》

    見えない、気配もない、あるのは結果のみ―

  • 601◆ZEeB1LlpgE25/10/18(土) 22:38:43

    しかし、それでさえ鉄塊が受けた。

    「四度目」

    (……完全に合わせてきている)

    凶刃の攻の専心は順調に進行している。
    あと数合で、彼は空斬流の一部を「最適化」してしまう。

    (いや……それでは駄目じゃ)

    空斬流はただの剣術ではない。空間ごと歪めて斬る、理を破る剣。
    その奥義に触れられれば――

    (この男は、再現してしまう)

    《凶刃》――最適化された斬りを、得物を選ばず永久再現。

    山崎は一瞬で理解した。

    (最適化はさせぬ。ここで叩き潰す)

    山崎は低く息を吐いた。

    瞬間――空気の張りが変わる。

    それは凶刃も感じ取っていた。

    「来い。次は――決めに来るな」

  • 611◆ZEeB1LlpgE25/10/18(土) 22:40:04

    山崎の気配が消える。

    凶刃の瞳が闇の奥で光った。

    山崎の足元に淡い波紋が走る。

    それは空間の震え。

    ――奥義。

    《空斬流・空斬》

    剣を振るう動作すら存在しない。
    斬撃ではない――空間そのものが裂ける。

    (これを最適化されれば、終わりだ……)

    凶刃は目の前の老人から、そういう殺意を感じた。

    それは――本気の殺しにきた太刀。

    二人の距離はわずか六歩。

    凶刃は避けない。退かない。

    ――受ける。

    鉄塊を捨て、ただ両腕を前に出した。

  • 621◆ZEeB1LlpgE25/10/18(土) 22:40:21

    「守の専心――開始」

    裂けた空間が、凶刃を飲み込む。

    風が千切れる音。

    岩が割れる音。

    血が舞う。

  • 631◆ZEeB1LlpgE25/10/18(土) 22:41:50

    空間そのものが切断される。
    攻撃ではなく現象。不可避の死。
    斬撃の痕跡すら残らず、ただ「そこにあったものが裂けている」という結果だけが残る。

    山崎戟の奥義――《空斬》。

    その余波は岩肌を滑らかに切り裂き、谷の地形すら刻み変えていく。

    その中心で、凶刃は――立っていた。

    全身から血が流れ落ち、身体は傷にまみれている。
    だが致命傷には至っていない。

    (今のを――凌いだ、だと……?)

    山崎は眉をわずかに動かした。

    凶刃が低くつぶやく。

    「――四度目の防御で核心に触れた。」

    (これは……)

    「守の専心、最適化完了。」

    凶刃は己の両腕を見た。
    その皮膚の下、筋繊維がわずかに震え、動きの癖を馴染ませていくかのように収束していく。

    「空間を斬る理は理解した。
     その“兆し”も、“前提”も、“起点”も――もう見える。」

  • 641◆ZEeB1LlpgE25/10/18(土) 22:42:18

    山崎の脳裏に、短いが鋭い危機感が走る。

    (まずい……この男、空斬を防御から解析している)

    凶刃は続ける。

    「だが――まだ弱い。攻の最適化が終わらねば《凶刃》は使えん。」

    山崎は静かに構え直した。

    「まだ余裕があるという顔じゃのう」

    「事実だ。まだ“お前を斬る方法”に届いていない。」

    凶刃は一歩、前へ出た。

    その歩みは静かだが――圧が違う。

    (守りが完成したということは、この先、こちらの奥義も通じんということ……)

    山崎の心は静かに燃え始めた。

    ――面白い。

    この境地に至れる者など、幾度斬り結んだ神代の怪物ですらいなかった。

    「よかろう。ならば、攻めで叩き伏せるまでよ。」

    山崎は刀をわずかに傾け、息を整えた瞬間――

  • 651◆ZEeB1LlpgE25/10/18(土) 22:42:34

    地面が弾ける。

    山崎が一瞬で間合いを詰めた――!

    《延留・飛斬》

    “遅れて飛来する”斬撃が四方八方へ散らされる。
    同時に山崎本体の太刀が凶刃を狩る――二重の構成。

    「――いい」

    凶刃の声は低く、静かだった。

    その眼差しには恐れも焦りもなく――ただ研ぎ澄まされた集中のみ。

    「もっとだ。まだ“攻の専心”が終わらん。」

    二人の剣戟が、さらに深く交わり始める――。

  • 661◆ZEeB1LlpgE25/10/18(土) 22:43:26

    風が切れ、岩が震える。
    山崎の放つ斬撃が大地を裂くと同時に、凶刃はそれを「受け流す」のではなく、解析するかのように目で追う。

    「……なるほど、これが空斬流か」

    凶刃の低く嗄れた声が谷に反響する。
    彼の姿勢は崩れない。攻撃を受けながらも、微細な変化、軌道、速度、間合い――すべてが視界に収まり、脳内で最適化されていく。

    (……この男、攻の解析も行っている……!?)

    山崎は不意に眉をひそめる。
    彼の攻撃の癖を完全に読み取られるとは――かつて神代の怪物さえも及ばなかった相手だ。

    「よし……攻の専心、完了」

    凶刃の宣言に、周囲の空気がわずかに歪む。
    最適化された一瞬、一瞬が、空間を斬る斬撃と一体化して凶刃の身体を通じて拡散する。

    山崎は踏み込む。
    “空間を裂く奥義”を一閃放つ――その瞬間、凶刃は静かに足を踏み替え、斬撃の軌道を変えるように動く。

    (……《凶刃》……全てを……吸収した……)

    彼の体の動きは、物理も魔法も、概念も――すべての防御をすり抜ける。
    そして攻撃の一つ一つが、事前に計算されたように山崎の最も僅かな隙を突く。

    「まだだ……終わってはいない……!」

    山崎は心中で叫び、体の感覚を研ぎ澄ませる。

  • 671◆ZEeB1LlpgE25/10/18(土) 22:43:36

    だが、次に凶刃が動く瞬間――

    空間そのものに残った斬撃の残滓が山崎の攻撃を吸収し、反撃の軌道を作り出す。

    「これが……凶刃……」

    山崎の眼に焦燥が走る。
    解析と最適化の末、凶刃の剣は彼自身の奥義を凌駕する動きを持っていた。

    谷底に響く鋭い金属音。
    二人の剣戟が、もはや技術や力の対決を超え、理のぶつかり合いとなる。

    (……面白い……)

    山崎の心は闘志で満たされる。
    極限まで研ぎ澄まされた二人の技術が、まさにこの場で頂点を極めようとしていた。

  • 681◆ZEeB1LlpgE25/10/18(土) 22:44:36

    谷間に静寂が広がる。
    風は止み、鳥の声も、遠くの水音も消えた。二人だけが存在するかのような世界。

    山崎は息を整え、かろうじて視界に残る凶刃の姿を捉える。
    体の感覚は衰えている。視力はほぼ失われ、老いた肉体の限界が迫る。しかし、精神は研ぎ澄まされていた。

    凶刃はいつもの低い嗄れ声も出さず、目だけで山崎を観察する。
    最適化――攻と守の両方が完了し、《凶刃》としての完全体となった今、逃げ場も隙もない。

    山崎は自身の奥義を、全てを懸けて放つ。

    「空斬──!」

    空間を切り裂く斬撃が谷を震わせ、岩をも断つ。
    だが、凶刃の身体は、その斬撃を予見するかのように瞬時に動く。斬撃は彼の周囲で空間を裂き、残滓を残しながら山崎に迫る。

    山崎は手応えを感じる。
    視覚がほぼ失われた体でも、手応え、風圧、音の反響――全てが剣の延長となり、攻撃の軌道を感じ取る。

    「来い……!」

    二人の剣が最後の交差点でぶつかる。
    火花は散り、地面は削れ、谷の空間そのものが歪む。互いの奥義がぶつかり合い、頂点の技術がぶつかる瞬間――

    山崎は感じた。
    凶刃の全ての最適化、全ての奥義を、自分の空斬流で凌駕できるかもしれないと。

    その瞬間、静寂を破る衝撃波。
    剣が空気を裂き、斬撃が衝突した地点で光と音が炸裂する。

  • 691◆ZEeB1LlpgE25/10/18(土) 22:50:55

    凶刃は微動だにせず、山崎もまた一歩も下がらない。
    時間は止まり、世界は二人の斬撃の余韻に支配される。

    そして、斬撃の軌道が交わる最後の瞬間――
    二人の意志と技術は、完全に一体化した。

    谷底に立つ山崎の剣と、凶刃の刃が重なったその一閃で、全てが終わる――

    しかし、勝敗は、誰も知らない。
    残るのは、裂けた岩と、砕けた空気、そして静かに立つ二人の影のみ。

  • 701◆ZEeB1LlpgE25/10/18(土) 22:51:22

    以上

  • 71二次元好きの匿名さん25/10/18(土) 23:02:49

    投下乙!
    対戦ありがとうございました。
    渋くてカッコいい結末

  • 72二次元好きの匿名さん25/10/19(日) 02:10:41

    投下乙です

  • 73二次元好きの匿名さん25/10/19(日) 08:01:14

    投稿乙です!
    こちらこそ対戦ありがとうございました!
    どちらも勝ってもおかしくなくてその後を想像させる終わり方好みだなぁ…

  • 74二次元好きの匿名さん25/10/19(日) 15:50:01

    保守

  • 751◆ZEeB1LlpgE25/10/19(日) 20:22:30

    題名『理性と狂気の境界線』

  • 761◆ZEeB1LlpgE25/10/19(日) 20:28:23

     夜の街に、錆びと血のような匂いが漂っていた。
     ここは旧欧州圏・第三スラム管理区域――通称「黒色(ブラック)自治区」。
     都市機能から切り捨てられた灰色の迷路に、今日も暴力と狂気が息づいている。

     だが、その静寂は突如として破られた。

     耳を劈く獣の咆哮。
     街の遠くで爆発音。
     閃光――風を裂く金属の雨。

     黒煙のなか、狼の群れが駆けている……否、それは狼ではない。
     幽鬼のように実体と虚像を行き来する「悪霊の狼」――ルーガルー。

     そして、その群れの中心に一人の男がいた。

     狂気の痙攣が顔面を満たす。
     鉄製の異形マスクを被り、背中には巨大十字架を背負った狂信、者。

    「――ッヒャァアハハハハハ!! 見つけたぞ、**魂(ソウル)**の匂いだァッ!!」

     ビスケット・ラ・ヴァレー。
     異教集団《赤い狼団》の処刑執行人。
     人間をやめた男。

     ルーガルーの群れをけしかけながら、彼は路地の奥へと飛び込んだ。

     ――その先で、ひとりの男が煙草を咥えて立っていた。

     白衣。
     しかし軍用の外骨格スーツを内蔵した異質な白衣。

  • 771◆ZEeB1LlpgE25/10/19(日) 20:28:52

     その背後の地面には、数十体分のルーガルーが黒い溶解跡を残して溶けている。

     男は煙を吐いて言った。

    「ほう。やっと出てきたか、実験体候補C07」

    「……誰だ、テメェ」

    「一ノ積 第一(いちのせき だいいち)。バイオパンク社の代表取締役社長だ」

     ルーガルーの残骸を踏み越え、老人とも壮年ともつかぬ落ち着いた声が続く。

    「君の“悪魔降霊”――興味深いサンプルだ。捕獲させてもらうよ」

     その瞬間、ビスケットの脳が爆ぜた。

    「――――――――っざけんなッ!!!」

     十字架を振り下ろし、ルーガルーの群れが一斉に吠える。

     だが――

     その全ての攻撃は宙で止まった。

    「……………………は?」

     理解が遅れたのはビスケットだけではない。
     彼の本能すら状況を捉えられなかった。

     白衣の男の周りに、銀色の光が揺らめく。

  • 781◆ZEeB1LlpgE25/10/19(日) 20:29:05

     流体金属――バイオスライムIX号由来武装。

     一ノ積は微笑した。

    「私はね、ビスケット君。こう見えて剣術も柔術も魔術戦闘も極めているんだ。
     107の“魂魄データ”をインストールしてね」

     十字架が折れた。

     殴りかかった拳が砕けた。

     ルーガルーの群れが、一瞬で霧散した。

     流体金属の形状は――剣、槍、盾、鞭、機関砲、神経毒――次々と変貌する。

    「さて、実験を始めようか」

     その笑みは、狂気より冷たかった――。

  • 791◆ZEeB1LlpgE25/10/19(日) 20:30:04

     ビスケット・ラ・ヴァレーは、本能で悟った。

     ――この白衣の男は、狂っている。

     だがそれは自分のような衝動型の狂気とは本質が違う。
     戦場を喜ぶ戦闘狂でもなければ、殺戮を楽しむ快楽殺人者でもない。

     ――“理性ごと狂っている”タイプだ。

     こういうタイプは厄介だ。
     会話が成立しないし、なにより戦闘そのものを実験と呼んで価値を与える。

     つまり――殺すまで止まらない。

    「お前、楽しくなってきやがったな……!!!」

     ビスケットの呼吸が変わる。
     ルーガルーを新たに召喚しながら十字架を棍棒のように構え直す。

    「専心――攻」

     剣術や魔術とは無縁な暴力戦闘だが、彼には圧倒的な実戦経験がある。
     たった一手交えただけで理解した。この老人――

     とんでもねぇ武の塊(モンスター)だ。

     ならば殴って殴って殴りまくるしかない。
     弱点を探すなんざ後回し、考えるのは全部ブッ壊してからだ!!

    「ヒャハハアアアアアアアア!!!!」

  • 801◆ZEeB1LlpgE25/10/19(日) 20:30:26

     錯乱と興奮が混じった絶叫と共に、ビスケットが飛ぶ。
     足元を蹴破って地面が爆発、凄まじい踏み込みからの袈裟斬り――否、十字架叩き割り!

     だが、その大振りの一撃すらも一ノ積は涼しい顔で受け止めた。

     拳ひとつで。

    「人間離れはしているが、獣に近いな。純粋な武術訓練は受けていない」

    「うるせぇぇえええええッ!!」

     さらに連撃を畳み掛ける。

     ルーガルーが死角から噛みつきに、背後から爪の雨。
     ビスケットは十字架を盾代わりにし嵐のような攻撃を浴びせ続けた。

     ――攻撃速度が上がっている。

     ――いや、それだけじゃない。

     一ノ積の計測データにエラーが走る。

     ビスケットの攻撃が、さっきより“重く”なっている。

     力が――増している?

    「ハァッ――説明してやるよ天才博士ァ!」

     ビスケットは笑いながら、情報を開示しはじめた。

  • 811◆ZEeB1LlpgE25/10/19(日) 20:30:42

    「俺の名はビスケット・ラ・ヴァレー!! 27歳! 身長187センチ!!
     体重83kgッ!! 好みのタイプは匂いのキツイ女ァ!!
     嫌いな食い物は野菜!! 犯罪歴は9回!! 本名は――」

     力が上がる。

     筋肉が肥大する。

     速度が跳ね上がる。

    「能力名ァッ!! **《無敵の人》**ッッッ!!!
     個人情報を開示するほど強くなる能力だコラァァァアアア!!」

     一ノ積は思わず目を細めた。

    「……それは興味深い。」

     狼の咆哮が響く。

     ついに来る。
     ビスケットが本気を出す――**悪魔降霊(ルナティック・ルーガリア)**の発動だ。

     ビスケットの背中が裂け、血と呪詛の蒸気が噴き上がる。

    「降りてこい……俺の悪霊ども――ッ!!!」

  • 821◆ZEeB1LlpgE25/10/19(日) 20:31:25

     背中に刻まれた呪いの聖痕が燃えはじめる。
     そこを中心に禍々しい文様が皮膚の下を走り、ビスケットの肉体が変質していく。

     筋肉が膨張し、骨が軋み、身体能力が跳ね上がる――ただの肉体強化ではない。
     肩口を引き裂いて現れたのは二匹の狼の頭部。
     その眼には理性も倫理も宿らず、ただ殺意だけが渦巻いていた。

    「――――――ッッッ!!」

     声にならない獣の咆哮。

     だがこれはただの変身ではない。
     悪霊を無理やり肉体に憑依させる異能――悪魔降霊(デモニック・インストール)。

    「――ッッッハァ!! ハハハハハハハ!!」

     人間の声が、獣の唸りと混ざる。

    「楽しいなァ、博士よォ……楽しいぜェ……
     やっと殺し甲斐のある敵に会えた!!」

     一ノ積は表情一つ変えず右腕でバイオメタルを形成する。
     槍、弓、刀――その形状を瞬時に変えていく流体武装。
     攻防の可変において遅れはない。むしろ――

    「速度は先ほどの七倍。反応速度、計測不能。――いい強化だ」

     と分析し、さらに前進した。

     退かない。間合いを取りもしない。

  • 831◆ZEeB1LlpgE25/10/19(日) 20:31:45

     即座に接近戦。

    「――――!!」

     狼の咆哮と同時に、重たい一撃が襲いかかった。
     先ほどまでとは比較にならない速度と破壊力。
     殴るだけで地面が割れる。

     戦場の空気が完全に変わった。

     それでも――一ノ積は押されていない。

    「ふむ」

     流体金属が盾に変形し、敵の打撃を偏向させる。
     同時にカウンターで肘打ち。
     続けて足払い。
     そのまま首に投げ打ち。

     格闘術そのものが異常だった。

     一撃一撃に無駄がなく、全ての動作が“殺傷”を前提に組み上げられた流麗な武術。
     しかも筋肉疲労がまるで見られない。

    「ぐっ……はは、やるじゃねぇかジジイ……!!
     だがよ――」

     ビスケットはニヤリと嗤う。

  • 841◆ZEeB1LlpgE25/10/19(日) 20:32:04

    「俺ァ戦いのセンスには自信があんだ。
     お前が技術の人間なのはよくわかった。
     ――ならよ」

     狼の眼が光る。

     悪魔の爪が振り抜かれた瞬間――

    地面ごと抉った。

     剛力による強引な戦闘。
     それは武術の理論から大きく外れた暴力の極地。

    「テメェ絶対に、“パワー型”が苦手なタイプだろ?」

     一ノ積は初めて――にやりと笑った。

    「――面白い」

  • 851◆ZEeB1LlpgE25/10/19(日) 20:32:58

     悪魔じみた膂力で押し込むビスケット。
     武術理論など無視した一直線の暴力――しかしその破壊力は確かに一流。

    「ハハッ! どうした博士ァ!! 力比べは苦手かァッ!!」

     ビスケットの拳が振り抜かれ――大地が割れ、砂煙が舞う。
     その中からふらつく影――

     ――否、自然な重心移動。

     一ノ積第一は崩れていなかった。

    「残念だが――誰に対しても“苦手”は存在しない」

    「はァ?」

     一ノ積は静かに宣言した。

    「百七の魂魄、全開放。」

     次の瞬間――空気が変わった。

     全身の筋肉の使い方、重心、呼吸、反応速度――
     その全てが“人間の限界”を余裕で超えはじめる。

     ビスケットは本能的に理解した。

     ――これは武術とか戦闘力とか、そういう次元の話じゃない。

     目の前の男は、百七人分の超一流戦闘技術を同時に扱っている。

  • 861◆ZEeB1LlpgE25/10/19(日) 20:33:18

    「行くぞ。対巨獣格闘術――魂魄三十七番起動」

     圧力が爆発した。

     次の瞬間――

    「っ!? がッ!!?」

     ビスケットの巨体が宙を舞っていた。

     一ノ積は半歩も動かず、己より倍以上の強靭な肉体を持つ怪物を、理合いだけで投げ捨てた。

     巨体が落ちるより速く、追撃が走る。

    「魂魄二十二番――合気。四十八番――骨法術。十二番――近接投げ術。連結開始」

     一ノ積の動きは静かだった。
     派手さはない。だが止まらない。

     本能で殴るビスケットの腕を極め、逆方向に捩じり上げて関節を砕く。

  • 871◆ZEeB1LlpgE25/10/19(日) 20:33:40

     回転を逃がしながら顎に掌底――首椎に衝撃が走る。

    「がああああああッ!!」

     反撃しようと力を込める――その瞬間腰が抜けている。
     全てが投げの崩しから逆算された攻撃。

    「どうした。獣性はどこへ行った?
     暴力だけでは私には届かん。――次は君の番だ、獣の男よ」

     殺気を解放しながら、一ノ積第一は逆に挑発した。

    「――もっと本気を見せろ、実験体。」

  • 881◆ZEeB1LlpgE25/10/19(日) 20:34:19

     一ノ積の命令のような一言は、ビスケットの眼に更なる狂気の火を点けた。
     背中の狼の頭が唸りを深め、悪霊の気配が街路に濃く垂れ込める。

    「いいだろう、博士。お前の“実験”に、俺の全力を借りてやる!」

     ビスケットは吼え、空気を切り裂くように飛び込んだ。

     だが一ノ積は全く動じない。
     流体金属が滑るように形を変え――羽根のような薄刃へと変貌する。

     その刃は、まともに受けると大怪我になるほど鋭利だが、使い方は柔らかくしなやかだった。
     一閃ごとに空間を切り取り、次の瞬間には盾へと戻る。攻守の節目が殆どない。

    「百七の魂魄は、戦術の切り替えに遅れを見せない。
     流体金属は“変形時にタイムラグがある”が、その僅かな遅延を魂魄の並列処理で埋めている」

     一ノ積の解説が、戦場に冷ややかに響く。
     つまり――単純な形態変化の“隙”があっても、別の魂魄がすぐに補填し、戦術の途切れを作らないのだ。

     ビスケットは力任せに振るう。直線的で破壊的な攻撃。
     それは強いが、読みやすい。逆に言えば、合わせやすい。

     一ノ積は流れるように剣を躱し、刃を転じ、鞭を生み、再び槍へと戻す。
     そのたびにビスケットの攻勢は吸収され、逆に彼の懐に入り込む。

     通り過ぎざま、掌底が顎をとらえ――相手を押し戻す。
     だが一ノ積は殴打を加えて倒すつもりはない。あくまで「実験」の一環だ。

  • 891◆ZEeB1LlpgE25/10/19(日) 20:34:41

    「観察。応答。解析。改良。」

     一連の動きは、戦いというより熟練した舞踊のようだ。
     動きの合間で、一ノ積はデータを収集し、次の戦術を選定する。

     だが、ビスケットの悪霊は“直線”という長所を持つ。
     最小の遅延で最も大きなダメージを与えるという、暴力の効率を極めている。

     彼は一ノ積の防御パターンを一点に絞らせることに成功した。
     その間隙を縫うように、再び爪と牙が飛来する。

    「ここだ! 一気に行くぞッ!」

     ビスケットは怒りと歓喜を混ぜた叫びと共に、全身全霊で振り下ろす。
     巨大な狼の如き右腕が、空を切り、砕けるように落ちてくる。

     しかし――

     一ノ積は瞬時に戦術を切り替えた。
     流体金属が槌に変形し、受け流しながら相手の腕を受け止める。
     受け止めた勢いをそのまま利用し、ビスケットを弧を描くように弾き飛ばした。

     彼の足が地を蹴り、追撃の流れる刃が肩口を掠める。

    「――ああっ!」

     ビスケットは勢いだけで押し切れない軋みを感じる。
     だが、その表情は楽しさで歪んでいる。

  • 901◆ZEeB1LlpgE25/10/19(日) 20:35:02

    「くそっ……! もっとだ、もっと壊してやる!」

     彼は立ち上がり、再び前へと突進する。

     一ノ積は冷静に見据えた。
     悪霊の憑依は強力だが、聖痕を破壊すれば解除される脆さがある。
     その場所は背中にあると事前情報で掴んでいた。

    (胸の内で実験と称しているが、化学反応は常に危険を孕む。
     安易に“奪う”のは望まぬが、今は観察と抑止の間で針を振っている)

     一ノ積は決めると、静かに言った。

    「次は“解除試行”――行くぞ」

     刃が再び変形し、形状は細身の突剣になった。
     その尖は鋭く、だが力に頼るものではない。正確な刺突で“聖痕”を狙う。

     ビスケットは全力でぶつかってきた。
     だが、直線的な突進の終わりに一瞬の“破綻”が生まれる。

     一ノ積はそこを見逃さず、短い詠唱と共に刃をひと突き――。

    「ッ!」

     肉の裂ける音を大きく描写することは避けるが、確かに“接触”があった。背中に走った衝撃。
     ビスケットは咆哮を上げ、悪霊の咆哮が一瞬揺らいだ。

     聖痕の輝きが不安定になる。

  • 911◆ZEeB1LlpgE25/10/19(日) 20:35:15

     それは成功の前兆か、それともさらなる狂乱の始まりか。
     ビスケットの瞳に新たな光が宿る。怒りと歓喜が同時に閃く。

    「ふんっ……! やるじゃねえか! だがこれくらいで止まるかよォ!!」

     悪霊の力は一瞬揺らいだが――完全には解除されない。
     ビスケット自身の“意思”と悪霊の“根”が深く絡み合っており、単純な一突きで断ち切れるほど浅くはないのだ。

     一ノ積はその事実を冷静に受け止めた。

    「なるほど。深く結びついている。解除にはさらなる介入が必要だ」

     彼は一息つき、流体金属を収縮させる。周囲の瓦礫に向けて、幾つかの金属片が飛び散った。
     それは一時的な罠であり、同時に退路制限のための配置でもある。

    「実験は続く。データは蓄積される」

  • 921◆ZEeB1LlpgE25/10/19(日) 20:36:03

     瓦礫の散らばる戦場に、二人の咆哮と衝突音が響いた。

     ビスケットは完全に“獣”と化し、思考より本能を優先する戦闘へと移行していた。
     それは弱点であると同時に、ある種の強さでもある。迷いのない攻撃は速度と威力を増す。

    「――ガアアアアアッ!!」

     四足に近い姿勢で地を蹴り爆発的加速を生み出す。
     直線的だが捉えにくい――いや、「真正面から殺しにくる」狂気に特化した突進だった。

     一ノ積は流体金属盾を展開するが、激突の瞬間には一歩横へ抜け、衝撃を流す。
     目に頼らず全身の“感覚”だけで刃筋を捉え、命のやり取りをする老人――山崎戟を彷彿とさせる戦い方だった。

     だが――受けているだけでは勝てない。

     一ノ積は内心で判断を下す。

    (この男は“痛み”を恐れぬ。ならば狙うは一点――戦術的急所。
     感情を揺らし、動きを乱し、背中の聖痕を露出させる)

     そして――攻撃を“受け流す”だけでなく、“誘導”へと切り替えた。

     殺到するビスケットの腕を刃で流し、壁へ叩きつけず、その勢いのまま身を翻し回転を与える。
     それは一見すると防御の連続だが――実際は少しずつ、少しずつ、背中を晒させる誘導戦術だった。

    「ハッ――おぉらァッ!」

     ビスケットの爆撃じみた拳が左右に振るわれるたび、瓦礫が吹き飛び地面が砕ける。
     一ノ積は間一髪で受け流しながら、ビスケットの立ち位置を狭い路地へと追い込んだ。

  • 931◆ZEeB1LlpgE25/10/19(日) 20:36:30

     逃げ場をなくし、曲がれない直線構造に誘い込む。

    「――直線的だが、破壊力がある。その性質を逆に使わせてもらう」

     流体金属が背後で展開され、薄く鋭い金属線へと変わる。
     張り巡らされた糸――それは退路封鎖と動線操作の罠。

     前しか見えなくなった狼は、罠に気づけない。

     そして仕上げ――

     一ノ積は、一瞬だけ真正面から構えた。

     これは誘いだ。

    「来い、ビスケット・ラ・ヴァレー」

     その挑発に、感情の塊となった獣が乗らないはずがない。

    「上等だァァァアアアッ!!!」

     真正面から突撃――その瞬間、足場が罠を踏み抜いた。

     姿勢がわずかに乱れ、体が前のめりになり――背中が露出する。

     ――今だ。

     一ノ積は流体金属を槍に変え、人工魂魄の合算演算で突きの軌道を幾度も補正し――

  • 941◆ZEeB1LlpgE25/10/19(日) 20:37:10

    「――離脱(ディスエンゲージ)」

     槍の切っ先が、背中の聖痕を正確に貫いた。

     光が爆ぜ、悪霊が絶叫をあげる。
     ビスケットの身体から黒い霧が吹き上がり――やがて狼の輪郭を失って消滅した。

     街に静寂が戻る。

     ビスケットは膝をつく。体は限界寸前だが、まだ意識はある。

    「はぁ……はぁ……へっ、あぁ……やりやがったな、博士……」

     一ノ積は無言で彼に歩み寄った。

     しかし――止めは刺さない。

  • 951◆ZEeB1LlpgE25/10/19(日) 20:37:53

     彼は流体金属を収束させながら言った。

    「君は利用され、歪められた力を抱えたまま暴走しただけだ。
     更生の余地がある個体は、バイオパンク社は保護対象とする」

    「はっ……保護? 俺を、か? ……笑わせんなよ」

    「――君にはまだ聞きたい事が山ほどある。
     “悪魔の技術”は未知だ。我々の研究対象として、協力してもらう」

    「あぁ? つまり……実験体かよ」

    「安心してくれ。患者と呼ぶ方が君も落ち着くだろう?」

     ビスケットは呆れた顔をし、そして笑った。

    「――あはは……はっ……クソみてぇな奴がいるもんだ……!」

  • 961◆ZEeB1LlpgE25/10/19(日) 20:38:03



    研究記録 No.318-B
    対象:ビスケット・ラ・ヴァレー
    状態:悪魔憑き脱離成功、生存。拘束・確保済み。観測継続へ。
    備考:“悪魔”の再現可能性を検証する価値あり。

    ――バイオパンク社、未踏領域実験計画・始動。

  • 971◆ZEeB1LlpgE25/10/19(日) 20:38:14

    以上

  • 98二次元好きの匿名さん25/10/19(日) 20:42:15

    つ、捕まった…

  • 99二次元好きの匿名さん25/10/19(日) 20:42:37

    ビスケットってムテキだったんだ(?)

  • 100二次元好きの匿名さん25/10/19(日) 21:08:42

    専心も使ってるからつまりビスケット(ムテキ(凶刃))???

  • 101二次元好きの匿名さん25/10/19(日) 21:13:10

    >>99

    え…なにそれ、知らん…怖…

    (SSはめっちゃ面白かったです)

  • 102二次元好きの匿名さん25/10/20(月) 04:01:16

    このレスは削除されています

  • 103二次元好きの匿名さん25/10/20(月) 12:03:12

    ほしゅ

  • 104二次元好きの匿名さん25/10/20(月) 21:19:42

    保守

  • 105二次元好きの匿名さん25/10/21(火) 03:37:13

    ほし

  • 1061◆ZEeB1LlpgE25/10/21(火) 10:13:41

    題名『魂、湯気立つ』

  • 1071◆ZEeB1LlpgE25/10/21(火) 10:14:51

     雨が降っていた。
     水滴が看板の蛍光灯を滲ませ、誰もいない商店街が水気を含んだ静寂に沈んでいる。
     そんな中で、一軒だけ明かりを灯し続ける店があった。

     「ラーメン輿湖」
     暖簾は破れ、看板の色は褪せ、深夜二時をとうに過ぎている。
     だが、厨房にはまだ火が灯っている。寸胴鍋では今日も豚骨が煮え続け、濃密な香りは重い空気のように店内を満たしていた。

     この店の主――**輿湖白愛(こしこ しらめ)**は、黙ってカウンターに並ぶ丼を見つめていた。

     一杯、二杯、三杯。
     それらはラーメンではない。ただの空の丼だ。

     ぽつりと、白愛が呟く。

     「……今日は、帰ってこねぇのか」

     丼は三つ。自分の分と、嫁の分と、娘の分。
     毎晩用意し続け、もう半年。返事はどこにもなく、店のポストには弁護士からの書面だけが届いた。「慰謝料」「親権」「接触禁止」。紙の言葉は冷たく、白愛の胸を刺す。

     ――それでも、ラーメンを作るのをやめなかった。

     彼にとってラーメンは人生そのものだった。いや、もはやラーメンそのものに人生を奪われた男だった。

     そのとき――カラン、と店の戸が開く。

     珍しい。深夜に来る客はほとんどいない。

     入ってきたのは和服の男だった。無駄に整った黒髪、妙に上品な身のこなし。しかしその目にはどこか飢えた獣の光があった。

  • 1081◆ZEeB1LlpgE25/10/21(火) 10:15:21

     「おやおや、まだ開いていたとは。これは運が良い」

     男は座るなり、唇を吊り上げた。口が二つあった。

     正面の口とは別に、首筋の下、喉仏のあたりに――もう一つ裂けたような口が開いていた。

     妖怪・二口男。
     だが白愛は驚かなかった。ただカウンターに水を置く。

     「……注文は?」

     「では一杯、温かいものを。おや、それは失礼、まずは名乗らねば。わたくし――」

     男は笑い、言葉を続ける。

     「――**早々 囃(はやばや はやし)**と申します」

     白愛は返事もせず湯を沸かす。ただ、水面を見ていた。
     その時、店内に異変が起きる。

     早々の口が――二つ同時に動き始めた。

     「いやぁ今日も寒いですね、ところでこの辺りは昔宿場町として栄えましてね――」「しかし湿度が高いと髪がまとまりませんな、あぁわたくしクセ毛でして――」

     会話が、止まらない。
     いや、呼吸を挟む暇すらない。二つの口が交互に、いや同時に喋り続ける。

     白愛の眉間がわずかに動く。こいつは、ただの客じゃない。

     「……お前、何者だ」

  • 1091◆ZEeB1LlpgE25/10/21(火) 10:15:56

     「ただの語り部ですよ。わたくし、いつか誰かに最後まで話を聞いてほしいのです」

     その言葉を最後に、早々の舌が本格的に回転を始めた。
     止まらない情報の奔流が空間を侵食し、白愛の脳を圧迫するように襲いかかる。

     その圧に耐えながら、白愛は小さく笑った。

     「……ラーメンも最後まで啜ってもらうのが筋ってもんだよな」

     男は製麺機に手を伸ばし、その金属に触れた瞬間――空気が震えた。

     ゴウンッ――!

     異形の製麺マシーン、「コシクダケ」が唸りをあげて起動する。
     深夜のラーメン屋に、地獄の音が鳴り始めた――。

  • 1101◆ZEeB1LlpgE25/10/21(火) 10:16:55

     製麺機「コシクダケ」が唸りを上げ、店内の空気が一変する。
     鈍い鉄の音、軋むギア、脈打つ駆動。まるで巨大な獣が地下で蠢いているかのような重低音が響く。

     早々囃はなおも話し続けていた。

     「ところでご主人、この店はいつからやっているのです? 外装を見るにかなりの年季が――」「いえいえ古いとは言いませんよ、むしろ歴史あるというべきでして――」「ただ少々油染みが目立つような――」

     ――脳が重い。

     普通の客ならもうこの時点で思考を奪われ、目の焦点を失い廃人になる。
     早々囃の能力 『噺家:無限遠点』――その本質は、超過する情報量による思考崩壊だ。

     だが白愛は、うっとうしそうに耳掻きを取るだけだった。

     「……ごちゃごちゃうるせぇな。黙って待ってろ。ラーメンは静かに待つもんだ。」

     「ほほう、聞こえている!? この情報量を処理してまだ会話が成立するとは……あなた、脳の回転がかなり――」

     白愛は肩を鳴らした。

     「違ぇよ」

     早々囃の言葉が止まる。

     白愛はコシクダケの投入用ホッパーへ、小麦袋を丸ごと叩き入れながら言った。

  • 1111◆ZEeB1LlpgE25/10/21(火) 10:18:53

     「ラーメン屋はな、客の注文と同時に千の段取りを頭で組むんだよ。出汁の火加減、麺の状態、茹で時間、湯切り、盛り付け、提供タイミング……最低限それが全部【同時進行】だ。」

     次の瞬間、白愛は振り返らず単語を連ねた。

     「なおかつ仕込みの在庫管理、廃棄ロスの計算、ガス代、電気代、食材のロット管理、それに人件費――」

     今度は早々囃が黙った。

     白愛は顔すら向けず淡々と続ける。

     「更にSNSの口コミ対策、保健所対応、新メニュー開発、数字管理、クレーマー対応、おまけに家庭の問題だ。――脳を回すのなんざ慣れてんだよ」

     ドンッ!

     コシクダケの排出口から麺帯が吐き出される。
     普通なら白く細い麺になるはずが――違う。これはまるで鋼鉄のケーブルのように重く分厚い麺だった。

     早々囃の表情がわずかに揺れる。

     「……おかしいですね。小麦だけでそんな異常な麺が出せるはずが――」

     白愛はニヤリと笑う。

     「言ったろ。究極とは、森羅万象を練り込むことだってな」

     その時、早々囃の顔がようやく危機を察した色に変わる。

     ――後方の非常口が、麺で塞がれている。

  • 1121◆ZEeB1LlpgE25/10/21(火) 10:19:16

     いつの間にか、店内の出口は無数の麺で固められていた。
     逃げ道は完全に閉じられ、店は巨大な麺牢獄と化していた。

     白愛の声が静かに響く。

     「食い終わるまで帰れねぇよな……客ってのはよぉ」

     早々囃は背筋が冷えるのを感じた。

     この男――ただのラーメン屋ではない。

     ━━バトルは、始まってしまった。

  • 1131◆ZEeB1LlpgE25/10/21(火) 10:22:55

     麺が、うねった。

     天井から垂れ下がる硬質の麺束は、ただの食材ではない。金属のような光沢を帯び、不気味な生物のように脈動しながら店内を満たしていく。視覚だけではない――重い圧力が空気を支配し始める。

     「これは……麺、なのですか?」

     早々囃の声に、いつもの軽快なおしゃべりは消えていた。理性が問いかけている。眼前の存在が常識の外にあると――。

     白愛は製麺機の前で、静かな殺意を纏っていた。

     「麺ってのはよ、噛んだ瞬間に“生きてる”って思わせるコシが命なんだよ」

     白愛が、左手に麺を絡めて引き絞る。それはまるで鋼線を操る暗殺者のような所作だった。

     「コシとは、反発だ」

     麺が伸びていく――ちぢれ麺へ変形しながら、まるで蛇のように打ち出される。

     バシュン!

     その一撃が床板をえぐった。木が裂け、破片が弾け飛ぶ。

     早々囃はすぐに横へ飛び、なんとか回避する。

     ――速い、いや速いのは麺だけではない。

     白愛自身が、麺の反動を利用して瞬間的に距離を詰めてきている。麺が移動手段になっているのだ。

     白愛の動きは、まるで厨房で鍋やザルを扱うかのように無駄がない。

  • 1141◆ZEeB1LlpgE25/10/21(火) 10:23:28

     「麺ってのはよ、ただ食べ物じゃねぇ」

     バシュン! バシュン!

     麺が射出され、店内の椅子や壁を破壊していく。早々囃はカウンターを盾にして攻撃を防ぐも、重みを帯びた麺が木を貫通する。

     ――これでは数手で詰む。だが。

     「……言葉も、料理と似ていますね」

     早々囃の表情がふっと緩んだ。次の瞬間――

     二つの口が、同時に喋りだした。

     「情報は素材、文脈は出汁、論理は麺、オチは具材――」「そして話術とは、相手の思考に狙い澄まして撃ち込む刃物――」

     空気が震えた。白愛の眉が一瞬だけ動く。

     「……なんだ、視界が――」

     遅延。
     それは一瞬の違和感だったが、確かに世界が遅く見えた。

  • 1151◆ZEeB1LlpgE25/10/21(火) 10:23:38

     ――いや、違う。白愛自身の脳の処理速度が落ちている。

     「ようやく入りましたね……あなたの脳に、わたくしの言葉が」

     早々囃が静かに宣言する。

     「能力――『噺家:無限遠点』。あなたの脳は今、処理落ちし始めています」

     早々は一歩踏み出し、視線を外さず告げた。

     「――では、続きを話しましょうか。あなたが逃げられなかった理由を。」

     白愛の呼吸が乱れる。

     「お前……何を、言ってやがる」

     「あなたはラーメンを愛していない」

     店内の麺が静まる。

     「あなたが求めていたのは――支配です。」

     その瞬間、白愛の奥で何かが音を立てて揺らいだ。

     怒りか、それとも痛みか。

     だが確かなことが一つある。この戦いはただのバトルではなく、互いの心の臓を抉り合う闘いへと変わり始めていた。

  • 1161◆ZEeB1LlpgE25/10/21(火) 10:24:09

     「――あなたが求めていたのは支配です。」

     その言葉が落ちた瞬間、白愛の顔から血の気が引いた。

     早々囃は歩みを進める。一歩、また一歩。
     麺が天井からぶら下がるこの異様な空間の中で、彼の声だけが静かに響く。

     「あなたは言いましたね。ラーメンは人生そのものだと。しかし実際は違う。あなたはラーメンで全てを管理しようとしていた」

     「……黙れ」

     白愛の声は低い。しかし、その内側には強い動揺が含まれていた。

     早々囃は止まらない。彼の話は、時に鋭いメスになる。

     「奥さんにも娘さんにも“ラーメンこそが正義”と押し付けた。あなたの世界は寸胴の中だけで完結し、他者はその味に従属するだけの存在にすぎなかった」

     「黙れって言ってんだろうが……」

     白愛の声が震える。
     だが、麺は動かない。彼の集中が乱れているのだ。

     早々囃の二つの口は、淡々と事実を突きつける。

     「奥さんは言った。『白愛さん、あなたもう人間じゃないわ』と」

     白愛の拳が震える。

  • 1171◆ZEeB1LlpgE25/10/21(火) 10:24:19

     「娘さんは泣きましたね。『同じご飯を食べたいよ、お父さん……』と」

     麺が数本、床に落ちた。

     「だがあなたは聞かなかった。いや――聞くことから逃げた」

     「――黙れェッ!!」

     白愛の咆哮と同時、麺が荒れ狂ったように暴れ始める。
     天井から鞭のように叩きつけられる麺が床を砕き、壁を貫く。

     だが早々囃は、一歩も退かない。

     それどころか――彼の声は、より深く、白愛の奥底へ届き始めていた。

  • 1181◆ZEeB1LlpgE25/10/21(火) 10:25:07

     「わたくしはね、羨ましかったんですよ」

     ふいに声が静まった。

     「あなたには誰かがいた。待ってくれる人がいた。食卓を囲む相手がいた。そんな当たり前が……羨ましかった」

     麺の嵐が止む。

     早々囃は初めて、自分から“弱い話”をした。それは彼にとって、拷問に等しい。

     「わたくしは……生まれた時から嫌われ者でした。この口のせいで。喋れば人は逃げる。近づけば恐れられる。友も家族も、愛も知らない」

     両方の口が、同時に微笑んだ。

     その笑みは――泣いていた。

     「だから、誰かに最後まで話を聞いてほしかった。ただ、それだけだったのです」

     白愛は動けなかった。
     怒りも、戦意も、どこかへ霧散していた。

     二人の間に沈黙が落ちた。
     戦いの中で初めて生まれた――言葉のいらない静寂。

     白愛は、ゆっくりと息を吐いた。

     「……俺はラーメンを愛してた。そう思ってた」

     彼の手が震える。握った拳が血をにじませる。

  • 1191◆ZEeB1LlpgE25/10/21(火) 10:25:21

     「けど本当は、ラーメン以外のものが壊れていくのが怖くて……ラーメンに逃げてただけかもしれねぇ」

     今度は白愛が、自らの弱さを吐き出し始めていた。

     「お前の話はムカつく。だが――たぶん、正しい」

     動かないはずの麺が、静かに下へ降りていく。怒りを失い、戦意を失い――。

     しかし、その変化を敏感に察知したのは早々囃だった。

     「――違います」

     白愛が顔を上げる。

     「あなたはまだ、自分の殻に籠るつもりですか? まだ逃げるのですか?」

     早々の目が、戦いの炎を灯す。

     「だったら――話を続けましょうか」

     「まだ足りないですよ、輿湖白愛。あなたも、本当の戦いからは逃げている」

     店内の空気が再び張り詰める。

     「俺は――逃げてねぇ!」

     白愛の怒声と共に、再び麺が跳ね上がる。

     激突は、まだ終わっていなかった。

  • 1201◆ZEeB1LlpgE25/10/21(火) 10:25:41

     バシュウッ!!

     鋼鉄麺が空気を切り裂き、蛇の群れのように早々囃へ向かって襲いかかる。
     それはもはや「料理」の域を超えた――武器だ。いや、兵器と呼ぶべきだった。

     だが早々囃は逃げなかった。
     避けず、守らず、ただ――話す。

     「しかしですね、輿湖さん。あなたはまだ自分を正当化している」

     その瞬間、麺の軌道がわずかにずれた。白愛の脳が一瞬だけ処理落ちを起こしたのだ。

     「何……!?」

     「あなたは言った。『ラーメン以外のものが壊れるのが怖かった』と。――違う。あなたが恐れていたのは他人と向き合うことだ」

     バシュッ!!

     麺が床をえぐる。だが、白愛の攻撃は完全にキレを失っていた。

     「あなたはラーメンに逃げていただけじゃない。ラーメンを言い訳にしていた!」

     「ああ!? テメェ何がわかる!!」

     白愛の叫びが響く。

     「わかりますよ。なぜならわたくしも――孤独から逃げ続けてきたからだ」

     早々囃の声が静かに熱を帯び始める。

  • 1211◆ZEeB1LlpgE25/10/21(火) 10:26:11

     白愛は製麺機のダイヤルを限界まで回す。

     「――コシ極限モード《ガチカタ》」

     製麺機が爆音を上げ、床が振動する。

     「おいおいおい、やめるんだコシクダケさん!? それは出しちゃいけないやつだって!!」

     背面のホッパーに小麦以外の袋が投げ込まれる。
     「高張力鋼」「炭素繊維」「工事用コンクリ」「防弾セラミック」――食品ですらない素材がぶち込まれていく。

     早々が顔を引きつらせる。

     「いやいやいやいやいや!!! 食品衛生法って知ってます!? それもう土木工事の領域じゃないですか!!」

     白愛は叫ぶ。

     「いいか! 究極とは森羅万象を麺にすることって言ったよな!?」

     「言ってましたけども!! でもそれ思想がもう破滅主義のやつですよね!?」

     白愛は吠えた。

     「――だが一つだけ入れられねぇものがある!!」

     早々囃は反射で問い返す。

  • 1221◆ZEeB1LlpgE25/10/21(火) 10:26:21

     「何です!?」

     白愛は、胸を叩いた。

     「――“心”だ!!!」

     その瞬間。

     ――店ごと崩壊した。

     コシクダケから吐き出された「最終麺」は、建物を貫く巨大な灰色の柱となって天地を貫く。
     コンクリートと鋼と炭素繊維と麺が融合した、一本の巨大な“柱麺(ピラー・ヌードル)”。

     それはもはや兵器ではない。災害だ。

  • 1231◆ZEeB1LlpgE25/10/21(火) 10:26:40

     だが――

     崩れ落ちる瓦礫の雨の中、早々囃はまだ喋っていた。

     「――あなたは心を麺に練り込めないと言った。しかし違うッ!!」

     声が、揺るがない。

     「ラーメンとはッ!! あなたが誰かに食べてほしいと思った瞬間に――心になるッ!!」

     瓦礫を落ちる直前で、早々は叫ぶ。

     「あなたはまだハッキリ言っていない!! 本当に守りたかったものを!!」

     「――黙れえええッ!!!」

     渾身の力で白愛が麺を振り下ろす。

     早々も叫ぶ。

     「――だったら!! **最終落語(ラス・ラク)**で叩き潰す!!!」

     二人の叫びが重なる。

     「麺魂(めんだましい)!!!」
     「噺魂(はなしたましい)!!!」

     光が――爆ぜた。

  • 1241◆ZEeB1LlpgE25/10/21(火) 10:26:56

     世界が揺れた。

     麺と言葉がぶつかり合い、空間そのものを震わせる衝撃が周囲を塗り潰す。
     廃ビルのように崩れ落ち始めた「ラーメン輿湖」の残骸の中で、なお二人は立っていた。

     白愛の手には、なお一本の麺が生きている。
     早々囃の声は、瓦礫の中でも止まらない。

     もはや戦いは技でも能力でもなかった。
     ただ――魂のぶつけ合いだった。

  • 1251◆ZEeB1LlpgE25/10/21(火) 10:27:08

     早々囃は言葉を撃ち込む。
     己の命を削るような速さで――しかし、その声は不思議なほど静かだった。

     「輿湖白愛――あなたは誰に食べてほしかった? その麺を」

     白愛は答えない。

     早々は続ける。

     「妻が去り、娘が去った夜、それでもあなたが作った三つの丼。あれは、誰のために並べていた?」

     白愛は歯を食いしばる。

     「……もう来ねぇってわかってた」

     「だが、作り続けた」

     白愛の肩が震える。

     「それでも、帰ってきた時に腹減ってたらと思っちまったんだよ……!」

     「言えたじゃないですか」

     早々囃はわずかに微笑んだ。

     「それが、あなたの――心だ」

  • 1261◆ZEeB1LlpgE25/10/21(火) 10:27:22

     白愛は膝をついた。巨大な麺の柱は砕けて崩れ、静寂だけが残る。

     「俺は……間違えてたのか」

     「間違えていました」

     早々は淡々と返す。

     白愛は笑う。

     「はっきり言いやがる」

     「ええ。ですが――まだ間に合うかもしれません」

     「俺は……もう何もねぇぞ」

     白愛が俯く。

     だが、早々囃は首を横に振った。

     「あなたには麺がある。味がある。技がある。そして……まだ言葉が残っている」

     白愛は顔を上げる。

     「言葉……?」

     早々は静かに言った。

     「届けに行けばいい。あなたの――『ただいま』を」

  • 1271◆ZEeB1LlpgE25/10/21(火) 10:27:37

     夜明けが近い。

     崩れかけた店の前で、二人は並んで腰を下ろしていた。

     白愛は黙々と鍋を火にかける。瓦礫の山の横に、ありえない光景があった。

     ――野外ラーメン屋台。

     「麺、茹でるぞ」

     白愛の声に、早々囃が苦笑する。

     「ええ、いただきましょう」

     湯気の向こう、両の器にラーメンが置かれる。

     その瞬間、早々囃は涙を流していた。

     「……温かい……」

     「当たり前だ。ラーメンは冷める前に食うもんだ」

     白愛は照れ隠しのように笑った。

  • 1281◆ZEeB1LlpgE25/10/21(火) 10:27:55

     ――その数日後。

     小さなアパートの一室。インターホンが鳴る。

     娘がドアを開けた。

     目の前には、段ボールに入った「ラーメン一式」と――一通の手紙。

    『――また、一緒に飯食いたい。いつでもいい。白愛』

     娘は泣いた。

    同じころ、早々囃は山の中で修行していた。
    岩に向かい、一人で朗々と語り続けている。

    「目指すは――最後まで聞いてもらえる落語だ!!」

     彼もまた、自分の道を歩み始めていた。

  • 1291◆ZEeB1LlpgE25/10/21(火) 10:28:27

    以上

  • 130二次元好きの匿名さん25/10/21(火) 10:50:37

    良かった!

  • 131二次元好きの匿名さん25/10/21(火) 10:51:08

    二人の叫びが重なる。のところ良いな

  • 132二次元好きの匿名さん25/10/21(火) 12:10:04

    なんで良い話になったんだ…?
    ボケとツッコミがちょいちょい入れ替わるの好き

  • 133二次元好きの匿名さん25/10/21(火) 12:57:31

    イイハナシダナー

  • 134二次元好きの匿名さん25/10/21(火) 17:05:32

    絆が生まれた…
    どっちかがピンチになったら颯爽と助けにきそう

  • 135二次元好きの匿名さん25/10/21(火) 19:03:35

    投下乙だ
    お相手の背景事情のお陰か感動的な話になったな、予想外で面白かった

  • 136二次元好きの匿名さん25/10/21(火) 23:34:51

    乙です!

  • 137二次元好きの匿名さん25/10/22(水) 06:36:21

    投下乙!

  • 138二次元好きの匿名さん25/10/22(水) 13:27:11



  • 139二次元好きの匿名さん25/10/22(水) 20:56:46

    (☆ω☆)ホシュ!

  • 1401◆ZEeB1LlpgE25/10/22(水) 22:07:14

    題名『ワン!と言え』

  • 1411◆ZEeB1LlpgE25/10/22(水) 22:08:07

    俺はその日、公園で缶コーヒーを飲んでいただけのはずだった。

    しかし――気づけば、目の前に知らない男が立っていた。

    スーツにコート、妙に軽い笑顔、距離感バグってるタイプ。

    そして第一声がこれだ。

    「やぁやぁ! 久しぶり! また会ったね? アレ? 覚えてない? 俺だよ俺!」

    ……誰だお前。

    完全に詐欺師のテンプレみたいなセリフを言ってくるが、俺にはまったく心当たりがない。

    「悪い、人違いじゃ――」

    と言いかけて、ふと違和感に気づく。

    ……ん?

    ……いや、待て。

    ……本当に知らないはずなのに、何か見覚えがある気がする。

    なんでだ?

    どこで会ったんだ? いや、知らねぇって。

    なのに脳みその片隅に微妙な引っかかりが残る。

  • 1421◆ZEeB1LlpgE25/10/22(水) 22:08:28

    「あはは、最初はそう言うんだよ。みんなそうなんだ。でも大丈夫、そのうち思い出すから」

    男は勝手に横に座ってきた。

    こいつヤバい。

    でも、この時の俺はまだ知らなかった。

    この男の名前が「先刻承知」であり――すでに俺は仕留められ始めていたことを。

    そして――

    公園に、ふわっと次元のひび割れが浮かび上がった。

    その裂け目から小さな塊が……いや、群れが、どんどん地面に落ちてくる。

    ぴとっ

    俺の足元に、小さな毛玉が一匹くっついた。

    ……犬?

    いや、小さすぎる。マスコットサイズだ。

    丸い、柔らかい、ころころしてる、無限に可愛い。

    続々と増える。

    一匹、二匹、三匹――十匹、五十匹……なんかもう増殖してね?

  • 1431◆ZEeB1LlpgE25/10/22(水) 22:11:16

    シュバババババッ!!!!

    気づけば公園一面が手のひらサイズのコイヌで埋め尽くされていた。

    鳴き声は無い。ただ無言で見上げてくる。

    うわ無理かわいい。

    「……なんか出たんだけど」

    俺が呟くと、隣の「先刻承知」がニヤリと笑った。

    「あぁ……来たね。アイツら」

    異変は、ここからだった。

    世界征服を掲げる群体、ワンズワンワン。

    既視感で脳を侵す怪異、先刻承知。

    ――奴らの戦いが今、ここに。

  • 1441◆ZEeB1LlpgE25/10/22(水) 22:11:59

    公園は静かだった。

    風が止み、時間が固まったように感じる。

    片やベンチに座る怪異――先刻承知。

    片や地面いっぱいに広がる群体――ワンズワンワン。

    どちらも喋らない。
    正確には、ワンズワンワンは元から喋れない。
    そして先刻承知は――にやけたままこちらを見るだけ。

    不気味と可愛いのぶつかり合いで情報量が多い。

    先刻承知がすっと立ち上がった。

    「いやぁ、まさかこんなところで会えるとはね。君たち、久しぶりだ」

    ……久しぶり?初対面じゃないの?

    そう思った俺の頭の中に――ぼんやりとした映像が浮かぶ。

    ……俺……コイヌと遊んでた記憶……?

    いや、そんなはずは――

    ズキッ

    頭に鈍い痛みが走った。

  • 1451◆ZEeB1LlpgE25/10/22(水) 22:22:55

    先刻承知が笑っている。

    「あれ? 君、知ってるでしょ。思い出してよ。昔一緒に遊んだじゃないか。ほら――ワンズ達と」

    やめろ、俺は知らな……

    ズキズキズキッ

    頭の中に、今まで無かった記憶が次々挟み込まれる。

    ――子供の頃の公園にワンズがいた記憶
    ――運動会でワンズと走った記憶
    ――受験前に励ましてもらった記憶

    …………いやいやいやいや

    そんなわけあるか!!!!!!

    なんだその熱血スポ根成長ストーリーみたいな記憶は!俺の人生にワンズはいなかった!!

    俺がパニックになる中、ワンズの群れが立ち上がった。

    無言のまま、俺と先刻承知の間に割って入る。

    その瞳は――守る者の目だった。

    「……え、お前ら、今俺の記憶守ろうとしてる?」

    わん、とも言わない。ただ見つめてくる。

  • 1461◆ZEeB1LlpgE25/10/22(水) 22:23:11

    こいつら――ガチでいい奴らかもしれない。

    その瞬間、先刻承知の目が細くなった。

    「あぁ――そういうことか。君たち、もう侵食を始めてるね?」

    ――え?

    ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ!!!!!!!!

    公園を覆っていた空気が、急に重くなる。

    先刻承知の本気が漏れた。

    「……すぐにわかるよ。全部は“俺”になる」

    ワンズが一斉に低い体勢を取った。

    これから始まるのはただの戦いじゃない。

    記憶の侵食と、概念消去――認識そのものを賭けた異常戦争だ。

    俺は――確信した。

    今日、俺はヤベェ日に居合わせてしまった。

  • 1471◆ZEeB1LlpgE25/10/22(水) 22:23:41

    先刻承知は歩き出した。まるで散歩でもするかのような気軽さで。

    「いやぁ懐かしいなあ。あの頃は毎日一緒にいたよね?覚えてるだろ?」

    ――くる。

    言葉が脳に食い込んでくる。
    音ではない。存在そのものが思考に侵入してくる。

    だがその時――

    ぴょん

    一匹のワンズが俺の膝に乗った。

    「え、なんで乗っ――」

    ふりふり

    ――しっぽを二回振った。

    その瞬間、先刻承知の言葉が霧のように消えた。

    「……ッ!」

    先刻承知の目がわずかに鋭くなる。

    俺は気づいた。

    ワンズの能力――《ワワンがワン!》

  • 1481◆ZEeB1LlpgE25/10/22(水) 22:28:54

    『相手が能力で発生させた事象を、しっぽフリフリ二回でなかったことにする』

    あれは、先刻承知の「記憶侵食」を打ち消してくれたんだ。

    ……だが代償は重い。

    ――ふっ……しゅうう……

    俺の膝の上のコイヌが、光の粒になって消えていく。

    一匹消えた。

    この能力、強すぎるが――発動のたびにコイヌが吹き飛ばされる。

    しかもまだ戦いは始まったばかりだ。

    先刻承知が笑った。

    「ははぁ、なるほどね。事象消去タイプか。めんどくさいなあ。でもさ――」

    ズ……

    ズズ……

    ズズズズズズ……ッ

  • 1491◆ZEeB1LlpgE25/10/22(水) 22:39:12

    空間が――先刻承知で埋め尽くされていく。

    ベンチの上に先刻承知
    滑り台の上に先刻承知
    公園の柵の上に先刻承知
    空にデカい顔面だけの先刻承知
    地面からニョキっと生える地底先刻承知

    全部同時に笑ってる。

  • 1501◆ZEeB1LlpgE25/10/22(水) 22:39:36

    「君たち、俺と何度戦ったか忘れたの?」

    ……いや知らねえよ。

    そんなツッコミが脳に浮かぶ前に、頭の中に勝手に別の記憶が生まれた。

    ――「100回戦ったことがある」記憶。

    やめろバカ!勝手にバトル過去をねじ込むな!!

    ワンズが前に出る。
    数百匹のうちの五匹が――一歩踏み出して戦闘態勢。

    数百対……数千の先刻承知。

    狂気みたいな戦場で、俺は息を呑んだ。

    「既視感侵食――第二段階。過去改変フェイズ開始」

    ズドドドド―――!!!!

    世界が、歪んだ。

  • 1511◆ZEeB1LlpgE25/10/22(水) 22:40:18

    世界がバグった。

    空は裏返り、雲はリボンみたいに千切れ、地面はラーメンみたいに波打っている。
    それでも中心に立つ先刻承知は、相変わらず軽い笑みを浮かべていた。

    「ねぇ、思い出してよ。俺たち、こんな風に世界ひっくり返したこともあったじゃないか」

    ……いや、ねぇよ。

    だが脳が勝手に「確かにそんなこともあった気がする」って思っちまう。
    これが『止まらない既視感』の真骨頂。

    頭の中が、どんどん「先刻承知」で埋まっていく。

    そのとき。
    ワンズの一匹が、空を見上げた。

    ぴょん。

    高く、高く、跳ねた。
    まるで「ここから先は遊びの時間だ」とでも言うように。

    ふりふり。
    しっぽを二回。

    ―――世界が、一瞬だけ静止した。

    その瞬間、空を覆っていた数千の「先刻承知」がパッと霧散した。
    同時に、空から光の粒が舞い落ちる。

  • 1521◆ZEeB1LlpgE25/10/22(水) 22:40:40

    「……な、なにが……」

    「……消した、のか……!」

    先刻承知の笑みが僅かに揺らいだ。
    たった一匹。たった一匹のワンズが、**“世界を覆う先刻承知の既視感そのもの”**を「なかったこと」にしたのだ。

    だが代償は――

    ピィィィィィンッ!

    空中でコイヌが弾け飛んだ。
    光の残滓を残して、消える。

    そして、次の瞬間。

    ワンズの群れが一斉に動き出した。

    何百、何千という小さな足音が地を打つ。

    公園を、街を、世界を駆け回る。

    先刻承知の幻影が現れるたびに――尻尾をふる。ふる。ふる。

    それでも、コイヌたちは声を出さない。
    吠えも、鳴きも、叫びもなく、ただ「無言の可愛さ」で戦い続ける。

    「なるほど……無言の抗いか。面白いね」

    先刻承知の瞳が赤く光る。

  • 1531◆ZEeB1LlpgE25/10/22(水) 22:41:01

    次の瞬間、空に巨大な顔が浮かび上がった。

    「――なら、俺も本気を出す」

    既視感の神話レベル侵食が始まる。

    空が割れ、雲が逆流し、ワンズたちが風に煽られて飛ばされる。

    「ワン!……って言わねぇぇぇッ!!」

    俺は叫ぶが、コイヌたちは黙って抗う。

    ふりふり。ふりふり。

    世界の端が消えても、
    空間が歪んでも、
    彼らはしっぽを振る。

    ――何度でも、なかったことにするために。

  • 1541◆ZEeB1LlpgE25/10/22(水) 22:41:37

    空は赤黒く濁り、街が静止した。

    時間が止まったわけじゃない。
    人間だけが動くことを忘れたんだ。

    誰も歩かない。誰も喋らない。
    だけど全員が笑っている。

    その笑顔は──先刻承知と同じだ。

    「君たち、まだわからないの?」

    先刻承知はゆっくりと手を広げた。

    「俺は戦ってなんていない。ただ、思い出を整理してるだけなんだよ」

    ──思い出、だと?

    街のあちこちに映像が浮かび上がる。

    俺たちが遊んだ日。
    学校でバカやった日。
    ケンカして、泣いて、仲直りした日。

    そして、あの日──

    俺がコイヌを拾った日の記憶。

    土砂降りの道端。
    小さな段ボール。

  • 1551◆ZEeB1LlpgE25/10/22(水) 22:42:08

    必死に震えていた、あいつ。

    『……連れて帰るか?』

    『……ワン』

    その記憶が、再生されたまま消えた。

    ピシッ……と音を立てて、欠けた映像のように。

    「返せッ!!」

    俺は思わず叫んだ。

    「お前、何してやがるッ!!」

    「だから。要らない思い出を消してるだけだって言ってるだろ?」

    先刻承知は平然と言い放つ。

    「だって辛いこと、悲しいこと、寂しいことって……記憶に必要?」
    「“嫌な部分”を先に知っておけば、心は壊れない。──だから俺は救ってるんだよ」

    救い? ふざけんな。

    その瞬間。

  • 1561◆ZEeB1LlpgE25/10/22(水) 22:42:53

    世界のどこかで、また一匹──コイヌが光になって消えた。

    「やめろッ!!」
    「こいつらは戦ってるだけだ!悪くねぇ!!」

    「ううん。違うよ」
    「消えてるんじゃない。戻ってるだけなんだよ、元の世界に」

    その言葉が、頭に引っかかる。

    ──元の、世界?

    ワンズたちの尻尾が、止まった。

    一匹、また一匹と。

    それでも先刻承知の侵食は止まらない。

    仲間の一人が、震える声で呟く。

    「……なぁ、今の俺ら……勝てるか?」

    「勝てる……勝つに決まってんだろ……!」

    言葉は震え、息は詰まる。
    でも言わなきゃいけなかった。

    だってもうわかってる。

    ここで負けたら誰も明日を覚えていられなくなる。

  • 1571◆ZEeB1LlpgE25/10/22(水) 22:43:13

    そして。

    ついに先刻承知が動く。

    空間を割って、俺の目の前に降り立った。

    「じゃあ教えてよ」

    「君は何を忘れたい?」

    世界が静止した。

    心臓の音だけが響く。

    俺は、答えなければならない。

  • 1581◆ZEeB1LlpgE25/10/22(水) 22:43:50

    息が詰まる。
    何故か呼吸の仕方を忘れた。胸が凍る。

    先刻承知は、ゆっくりと歩み寄ってくる。

    「人は誰でも忘れたい記憶を抱えている」
    「失敗、後悔、喪失、挫折──だから俺は聞いてるだけなんだ」
    「君は何を忘れたい?」

    世界が静かだ。
    風も止まり、声も消えた。

    ただ、ワンズだけが俺の足元に寄り添っている。

    ……ああ、そうだよ。
    こいつらは喋らない。だけど──ずっと一緒に戦ってた。

    俺はゆっくりと顔を上げ、先刻承知を睨んだ。

    「忘れたいもんなんて、あるに決まってんだろ」

    先刻承知の目がわずかに細くなった。

    「……だろうね。辛い記憶は痛いからね」
    「君は何を──」

    「でも、忘れねぇよ」

    その瞬間、空気が変わった。

  • 1591◆ZEeB1LlpgE25/10/22(水) 22:44:23

    「忘れたいのと、忘れるのは違うんだよ」
    「忘れたいってのは、逃げたいってことだ」
    「でも……逃げたって良いんだ。何度逃げてもいい。でもな──」

    俺は立ち上がる。

    ワンズたちが一斉に俺の背中へ並んだ。

    「それでも思い出ってのは、自分のもんだ。」
    「勝手に消されてたまるか。それが痛みでも、汚くても──全部、俺だ。」

    先刻承知の表情が歪む。

    「……理解できないな。苦しいのに?」
    「どうしてそこまでして“自分”にしがみつく?」

    「簡単だろ」

    俺は言った。

    「こいつらがいるからだ」

    ワンズたちが尻尾を振った。
    誰も声を出さない。でも、言いたいことはわかってる。

    「『ワワンがワン!』──」

    能力が起動した。

    世界に散らばる改変された記憶が、次々と元に戻っていく。

  • 1601◆ZEeB1LlpgE25/10/22(水) 22:44:52

    「馬鹿な!?俺の侵食が──!?」

    先刻承知の声が揺れた。

    「しっぽフリフリで“無かったこと”にできるのはお前だけじゃねぇ」
    「こっちには──」

    吐息のように言葉を放つ。

    「仲間の記憶がある」

    先刻承知は笑うのをやめた。

    次の瞬間、世界が白く飛んだ。

    精神世界への強制ダイブ。
    脳を焼くような情報の奔流。
    俺たちは押し潰される──はずだった。

    だが。

    俺の両脇に、ワンズが並んだ。

    前を向いている。
    震えていても。
    小さくても。
    それでも前に。

    「俺は、お前に勝つ方法を一つだけ知ってる」

  • 1611◆ZEeB1LlpgE25/10/22(水) 22:45:16

    俺は宣言した。

    「──ワンと言え」

    先刻承知の目が見開かれる。

    「……なに?」

    「ここは精神領域だ。ルールは言葉だ」
    「お前は散々、俺たちに同じ質問を繰り返してきたよな」
    「じゃあ今度は俺の番だ」

    拳を握る。

    「何度でも聞く。答えるまで終わらねぇ」

    世界が反転する。

    俺が“侵食”を始める番だ。

    「お前の名前は?」

    「先刻承知」

    「お前の目的は?」

    「……記憶の……整理だ」

    「違う。じゃあ何でそんなことをする?」

  • 1621◆ZEeB1LlpgE25/10/22(水) 22:45:38

    「……………………」

    逃がさない。

    「お前は誰に忘れられた?」

    世界が、割れた。

    先刻承知の心臓に穴が空いていた。
    闇が吹き出していた。

    「俺は……」
    「俺は……忘れられたくなかっただけだ」

    その時、俺は気づいた。

    こいつは怪異なんかじゃない。

    孤独の果てで生まれた、ただの喪失だ。

    俺は静かに告げた。

    「じゃあ──終わらせよう」

    ワンズたちが走った。

    最後の一匹が光を纏う。

  • 1631◆ZEeB1LlpgE25/10/22(水) 22:45:49

    能力解放――

    【イヌルギー波】

    光が闇を貫いた。

    世界が焼け落ち──こうして戦いは終わった。

  • 1641◆ZEeB1LlpgE25/10/22(水) 22:46:27

    静けさが戻った公園。

    瓦礫も、歪んだ空も、侵食された記憶も、すべて元通り──と言いたいところだが、どこか微妙にゆがんでいるのはご愛嬌。

    ワンズたちは一匹残らず地面に座り込み、尻尾を静かに揺らしている。
    無言だ。
    でも、言葉よりも雄弁に――「終わった」と伝えてくれる。

    先刻承知は消えた。
    いや、正確には消えたように見えるだけで、どこかでまだ微笑んでいるかもしれない。
    だが、もう誰の頭も侵食できない。

    俺は公園のベンチに腰掛け、肩で息をする。

    「……ふぅ。お前ら、マジで無茶だな」

    ワンズは小さくジャンプし、俺の膝に集まる。
    その可愛さは、やっぱりズルい。
    全員無言なのに、全力で癒される。

    俺は微笑み、思った。

    「……まあいい。思い出は、俺たちのものだ」

    空に夕日が差し込み、公園に金色の光が広がる。
    瓦礫の隙間から、ラストのコイヌがふわっと光って飛び去った。

  • 1651◆ZEeB1LlpgE25/10/22(水) 22:46:39

    「また会えるかもな……」

    俺とワンズは、静かに笑った。
    無言で、でも確かに、勝ったのだ。

    世界は元通り。
    でも、心には確かな痕跡が残った。

    ――無言の勇者たちの勝利。

  • 1661◆ZEeB1LlpgE25/10/22(水) 22:46:53

    以上

  • 1671◆ZEeB1LlpgE25/10/22(水) 22:47:14

    23:30から安価10個募集

  • 168二次元好きの匿名さん25/10/22(水) 22:54:44

    めっちゃ良いssだった!この一般人かっこよすぎだろ

  • 169二次元好きの匿名さん25/10/22(水) 23:20:59

    投稿乙です!

    一般の方の

    >>「それでも思い出ってのは、自分のもんだ。」

    >>「勝手に消されてたまるか。それが痛みでも、汚くても──全部、俺だ。」

    のセリフ好きだなぁ

  • 170二次元好きの匿名さん25/10/22(水) 23:30:00

    名前:破滅のデザイナー
    年齢:不明
    性別:不明
    種族:化身
    本人概要:【邪神】と【怨神】とコンビを組んでいる間 
    自分の代わりに新しい化身を作る存在が欲しいなぁという思いから作られた化身 
    邪神が喜びそうな化身をどんどん作るぞとやる気に満ちており 世界に迷惑を齎す化身という種族を量産し続けている
    また本人には自覚は無いが邪神が消滅した際などの時に復活させる役割がある数多のバックアップ要員の内の一人でもある
    能力:冒涜的化身創造
    能力概要:化身という種族を創造する能力 
    基本的に作り出された化身は破滅のデザイナーを守ろうとする行動を取る
    【邪神】が不在などの状況であれば【邪神】すらも無意識的に新しく創造しようとする
    また邪神含む歴代の化身全てを上回る災厄レベルの存在の化身を創造する可能性もある
    弱点:基本化身を創造ことにしか興味がなく集中している為攻撃を回避したり防いだりもしない 
    悍ましい首飾りをつけておりそれを破壊すると消滅
    化身の出来は玉石混淆で質が悪いときも有れば質が良いもの有るという非常に安定しない 
    その為とんでも無い雑魚だったり とんでもない化け物だったりと出てくる化身の強さは様々
    【邪神】クラスの化身を新しくデザインしようとするとそれだけに集中する為新しい化身が生まれなくなる
    要望(任意):弱い化身を創った時は「ゴミだな!」 普通クラスは「微妙だな!」強い化身の際は「これぞ傑作だぁ!」 
    邪神レベルまたそれ以上の化身を創造した際は「マジか……マジかぁ!?」みたいな台詞お願いします

  • 171二次元好きの匿名さん25/10/22(水) 23:30:00

    名前:都市型バイオ神殿『ハロー・ワールド』
    年齢:3
    性別:なし
    種族:バイオコンピュータ
    本人概要:ポイント・ネモの深海深くに存在するバイオパンク社秘密工場で密かに建造されていた都市級バイオコンピュータ神殿 現在構築しうる中では最大級のバイオコンピュータであり当然最新のOSシステムが搭載されている こいつも普通に超高性能なものなのだ
    その目的はバイオ生物の魂を統括し不活性化バイオ因子を知らぬ内に植え込まれた者達から密かに情報を吸い上げる精神網"バイオネットワーク"を構築すること そのために必要な中央サーバーが要求されるスペックを考慮すると理論上惑星級の規模が必要となりさすがに構築不可能なので恒星級スーパーコンピューターを遥かに上回る演算能力を持つ改神の頭脳体と接続し演算領域を一部借り受けることで中央サーバーを確保しようとしており、衛星軌道上にスペースデブリに偽装される形で配備された地上監視用ナノバイオ衛星群『システム・フリズスキャルヴ』を利用して展開した天蓋偽装魔術によりポイント・ネモ上空の星辰が揃い、ポイント・ネモ上空に複数次元の現世への接近を発生させる事で海面に浮上した神殿がそれを利用して改神の神域との接続を行う
    能力:バイオインスマス 精神ハッキング
    能力概要:バイオネット完成後の神殿を守護するべく作られたバイオ生物 鋼鉄じみた強度の皮膚と名状し難き冒涜的な毒爪、バイオトビウオやバイオバッタなどの遺伝子による飛行能力を持ち都市外殻部に多数配備されている バイオコモドドラゴンに騎乗しバイオ弓矢を装備したたドラグーン個体もいる 都市各所に隠された生産機能により圧倒的な物量を持つ さらに神殿は神域との接続が完了すれば獲得した圧倒的な演算能力とテレパシーにより相手の精神を問答無用で破壊する
    弱点:上空に異次元接近の影響でオーロラが発生しておりそこから放たれる電磁波の影響でバイオインスマスたちの通信システムに異常が発生し連携や学習システムが乱れている ハローワールドは神域との接続に全神経を注いでいるためサポートできないのだ(オーロラは神殿の接続が完了したら星辰が戻るため消滅する)
    接続には10分ほどのタイムラグがあり接続が完了しても改神は復活しない
    要望:要はハロワが完成する前に倒そうって感じです

  • 172二次元好きの匿名さん25/10/22(水) 23:30:00

    名前: パトリック
    年齢:20歳
    性別:男
    種族:人間
    本人概要:
    人間の負の感情を源とするエネルギー“呪力”を扱う呪術師の一人。
    死や自分を傷つけるモノに対する恐怖が人一倍強く、自身の無事と生存を何よりも優先する卑怯者。
    携帯性に優れた小さなナイフと毒薬の小瓶をいつでも懐に忍ばせており、絶え間なく強い警戒心を抱いているギラついた目が特徴的。
    どんなことをしてでも、例え自分以外の全員を弑してでも生き延びるという身勝手かつ負の感情に満ちた信念は、大量の”呪力”を生み出して誰もが想像だにしない意外な打開策をこじ開けるのだ。
    能力: 呪術「反射板」
    能力概要:
    “呪力”によって相手の攻撃を跳ね返す透明な板を創り出す能力。跳ね返す方向を自分で決めることが出来ないのが弱点だが、創り出せる板の枚数に制限はないのが強み。
    この能力には「自身を傷つけるモノを遠ざけたいという彼の臆病さ」と、「自分以外なら他の何が傷ついても構わないという彼の身勝手さ」が顕著に現れている。
    弱点:
    身体能力は低く接近戦に弱い。"呪力"を使い過ぎると体に負荷が掛かる。
    「反射板」は跳ね返す方向を自分で決められない。

  • 173二次元好きの匿名さん25/10/22(水) 23:30:00

    名前:氷界の番人・グズムン
    年齢:800以上
    性別:男
    種族:巨人
    本人概要:白髪混じりの髪と髭を伸ばしっぱなしにした野生味溢れる老年の巨人。素朴で穏やかな性格だが、どこか抜けている節がある。一人称は儂。訛りの強い話し方。
    氷を操る大悪魔である白霜の主コールグラスの右腕を務めた豪傑。コールグラス現役時は氷の軍勢を束ねる将軍でもあった。巨大な斧を振い戦う様は“白霜の王斧”の異名で恐れられた。
    主の隠居後も主君を変えず、合わせて自身も前線を退く。現在はコールグラスの創造した異界にて宮殿の門番兼庭師兼木こりとして、穏やかな日々を送っている。趣味は彫刻や雪だるま作り。
    グズムンが数百年愛用している大斧はかつて挙げた大戦果に対する恩賞としてコールグラスより賜った神器。創成期の神格に由来するものでいくつかの権能と意思を持ち、グズムンをサポートする。日々の手入れも欠かさない為か、刃と結束に綻びは無い。

    能力:怪力剛健、白霜の民
    能力概要:怪力剛健
    圧倒的な肉体的強さ、絶対的な暴の体現。大抵の防御は力任せに打ち砕き、技量で受け流すならそれ以上の力で圧し潰す。魔法だろうと渾身の力で何もかもぶっ飛ばす。
    相手の攻撃も同様で、その攻撃以上に自分の肉体が強ければそれは効かないという脳筋理論で押し通る。魔法、精神攻撃も同じくそのタフネスで大抵は受け切れてしまう。
    白霜の民
    コールグラスの異界に住まう存在たちが援護に駆け付ける。外見は様々だが既存種族を精巧に模しており、共通して氷や雪の体を持つ。集落を形成する程度には数がおり、それぞれ性格や得意分野は異なり、様々な武器や魔法を使う。冷気があれば傷を再生でき、この異界においては実質不死となる。
    元々はグズムンが趣味で作った雪像や氷像。あまりに精巧な出来のため、いつの間にか魂を持つ生命となった。自分たちを作ったグズムンやその主のコールグラスを慕っている。
    弱点:シンプルな能力には強いが、逆にギミック染みた小難しい能力は苦手。
    ・罠やフェイントに掛かりやすい。
    ・攻撃が白霜の民へ向かった場合は庇う。
    要望(任意):場所はコールグラスの異界で。
    ・神器は言葉を使わず、光って意思を示す。
    ・主であるコールグラスが戦いを好まないので、その意を汲んでグズムンも基本戦いを挑まず穏便な決着を望む。

  • 174二次元好きの匿名さん25/10/22(水) 23:30:00

    名前:C<eleritas
    年齢:不明
    性別:不明
    種族:不明
    本人概要:この世で最も「はやい」存在
    C<eleritasにはお気に入りの特訓方法がある、それは一人追いかけっこ、ルールはシンプル、走って自分自身の背中にタッチするというもの、あまりにも常軌を逸している特訓方法だが、実際に数回成功させている、普通できるはずがないことをやってのける、それが概念レベルの速さである。
    しかし追いかけっこに夢中になって数万年走り続け、自我が崩壊しかけたことがあり、それからは追いかけっこ禁止、通称「オカ禁」を間に挟むようになった、今はオカ禁中である
    能力:C<eleritas
    能力概要:音よりも、光よりも、宇宙の膨張よりも、概念よりも、時間よりも、神よりも、どんな存在よりも速く、早く、疾い。
    C<eleritasの速さはもはや物理法則に縛られておらず、光の速さなんて余裕で超える、相手が瞬きをした一瞬で、宇宙全域を数兆回走破できるほど速い
    概念的な速さに達しており、本当にどんな存在でも、C<eleritasが速さで負けることは無い。無効化されても、異空間に飛ばされても、体が全て消失しても、C<eleritasは速くあり続ける。
    弱点:速くなるために色々捨てているので、物理攻撃ができない、普段は、空間をとんでもない速さで往復することによって空間に「本来そこまでかかるはずのない負荷」をかけ、時空断裂を起こして戦う
    オカ禁中なので、速さは音速の数十倍程度に抑えている、速さのギアをあげすぎると追いかけっこしたくなって宇宙の彼方に飛んでいってしまう
    胸の中心にあるコアを破壊されると活動を停止する

  • 175二次元好きの匿名さん25/10/22(水) 23:30:00

    名前:スモーキー・タツヒコ
    年齢:75
    性別:男性
    種族:人間
    本人概要:缶詰屋の店主のお爺さん。エプロンをして頭に手拭いを巻き、臭気対策としてマスクをしている。本人は戦う気はなく相手にシュールストレミングを勧めているだけだが、彼に危機が迫ると自動的に『瘴腐の裂手』が発動する。
    能力:『瘴腐の裂手』
    能力概要:自身の経営する缶詰店の目玉商品であるシュールストレミング。その臭気を実体化させ、鉤爪の生えた無数の腕として操る。敵は悪臭に鼻を刺激されながら爪で全身を切り裂かれる。さらにポルターガイスト的に無数の腕が缶を動かして相手にぶつける。タツヒコの操作によるものではなく、タツヒコを敵から守るために自動的に動く。
    弱点:老人相応の身体能力。自身は単に缶詰の宣伝をしているだけのつもりであり、戦っている自覚はないため、攻撃全般への対応力に乏しい。臭気はタツヒコ自身にも効くため、戦闘が始まったらひたすらマスクで鼻と口を覆うしかない。

  • 176二次元好きの匿名さん25/10/22(水) 23:30:01

    名前:伊集院 削
    年齢:18歳
    性別:男性
    種族:人間
    本人概要:遥か昔に久那土から追放されて長安帝国に住まう事になった伊集院家の長男。一族の中でも一番宝が好きであり、様々な宝を見て手に入れる為に冒険をしている。今は滅んだ暁ノ国やクァル・イシャア帝国が保持していた宝を見つけて、家に大切に保管している。最近は記憶によって価値が少ない物がその人物にとって宝になるというのが気になって、その人物にとっての宝になった価値が少ない物を手に入れて、どうしたら宝になるのかを調べようとしている。
    伊集院家の性質として頭上に小さな金蔵が浮いており、金蔵の中に能力を持った物を納めると納めた物を取り出さない・再現せずにその内包された能力のみが肉体で使用可能になる一族である。
    能力:《発納:削射》
    能力概要:削が金蔵に納めているのは、地面・石・空間等を削って発射するボウガンである。このボウガンは生物は削れない。
    弱点:金蔵に納めた物の能力を発動する際は大なり小なり隙が生じる。
    削射の削る力が発動するまで0.5秒掛かる

  • 177二次元好きの匿名さん25/10/22(水) 23:30:13

    名前:筒ノ内 巌丸(つつのうち がんまる)
    年齢:15
    性別:男
    種族:人間
    本人概要:
    とある連邦国から久那土へと送り込まれた破壊工作員。筒ノ内 巌丸は偽名。顔も指紋も整形済み。
    元は孤児だったが政府の諜報員育成機関にて英才教育を授かり成長。その忠誠心の高さからわずか12歳で育成機関を卒業した。
    元は性質の異なる能力を有していたが今回の任務に伴い、政府の極秘機関による脳改造を受け能力を変更。
    調達の容易な日用品を兵器に変える力を手に入れた。
    政府からの任務では他メンバーへの武器の融通および陽動作戦を引き受ける役割を担う。
    能力:トイレットペーパーをガトリングガンに変える能力
    能力概要:
    トイレットペーパーをガトリングガンに変える能力。ミシン目1つ分=弾1発分。弾を撃ちきるとトイレットペーパーの芯だけが現場に残る。
    複数のトイレットペーパーを連結させるほど、より威力の高いガトリングガンになる。
    弱点:
    ・変化させたガトリングガンのバレルに強い衝撃を加えるとひしゃげて弾が発射されなくなる。
    ・数打ちゃ当たる系の武器のため狙いが正確ではない。
    ・水に濡れたり燃えたトイレットペーパーは変化させられないため、火や水に弱い

  • 178代理です25/10/22(水) 23:30:14

    名前:蒼炎怪獣ヴィノキオン
    年齢:1961歳
    性別:オス
    種族:蒼炎怪獣(別名:蝶翼竜)
    本人概要:蒼い翼と鱗を持つ伝説の蝶翼竜
    体長:73m、翼長:180m、体重:3万t、飛行速度:マッハ2.5(高機動形態時はマッハ5.0)、出身地:大海洋モビィ・ディック
    蒼き星の守護者たる怪獣。鋭利かつ巨大な蝶を連想させるフォルムを持つ。
    心優しい怪獣だがいたずら好きで、彼の住む地域の人々からはありがたいけどたまに迷惑ともっぱらの噂。
    彼が大顎から放つ蒼炎”アブソリュート・フレイム”は絶対零度の凍る炎であり、星に仇なす巨悪を封印する。
    長い首を畳み、翼を変形させ、蒼き炎を纏う高機動形態もある。
    能力:マリオネット・ワールド・エフェクト
    能力概要:己にとって都合の良い世界にちょっとだけ作り変える。
    飛びやすくするように糸を垂らす、高速で遊泳できるように海を作り変える、敵を倒すために火山を活発にさせるなど。
    彼が本気を出すと空から塩辛い雨が降り注ぐ
    弱点:触覚の間にある逆鱗が弱点
    また、世界を作り変えると言ってもよく見れば種も仕掛けも看破可能
    垂らされた糸はよくよく見ると彼の腹と翼の下からたれており、切れば墜落する。
    海は寒天のようにプルプルとしており、足場になる。
    火山は敵味方の識別をしないのでたまに噴火がヴィノキオンに直撃する。
    雨が降り始めたら直上に向かって攻撃すると、ヴィノキオンの機動力は大きく低下する。
    高速機動形態時に海に叩き落とすと膨大な電飾…もとい魔力がショートし大ダメージを負う

  • 179二次元好きの匿名さん25/10/22(水) 23:30:24

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  • 180二次元好きの匿名さん25/10/22(水) 23:30:27

    このレスは削除されています

  • 181二次元好きの匿名さん25/10/22(水) 23:30:41

    このレスは削除されています

  • 182二次元好きの匿名さん25/10/22(水) 23:30:44

    名前:ピザディモ・クッテーロ・デイブ
    年齢:33歳
    性別:男性
    種族:デブ
    本人概要:
    何よりもピザを食べる事を愛する超絶デブなピザ配達員。
    配達を無事に遂行出来れば幾らでもピザを食べて良いと上司から許可されているため、どんな困難に見舞われようとも必ずピザの配達を遂行するというダイヤモンドの如き硬い決意を持つ。
    ピザを食べる事、及び、ピザの配達を遂行する為ならばその巨漢に見合わぬ恐ろしい俊敏性を発揮する。
    能力:ピザピザピザピザピザピザピザピザピザピザ
    能力概要:
    ピザに関係するあらゆる概念を具現化し扱うことができる。
    更にピザを食べれば身体能力や特殊能力が超絶パワーアップする。
    弱点:
    ピザが手元にない状態だと著しく弱体化する。
    デブなのですぐにスタミナ切れする。長期戦は苦手。
    要望:アツアツにトロけたチーズやフワッとモッチリなピザ生地など、読んでるだけで涎が出てお腹が空いてしまうようなピザの描写を濃厚にお願いします。

  • 183二次元好きの匿名さん25/10/22(水) 23:32:48

    代理

    名前:『ヴィンシュ魔法図書館の魔法使い』マギー・エルステ=クローリー・スレイ
    年齢:10歳(見た目は成人男性)
    性別:男
    種族:魔法神
    本人概要:未来のマーチとティルの仕業でこの世に誕生した創作上の神。マーチのタイムリープと一緒にこの時代に降り立った。世界一の魔法使いという設定。
    出不精であり《忘却の館》の大図書館から出たことがない。『夢境の書架』とは違う最近クローリーの力で増設された別の地下図書館。冷静沈着で研究熱心な実力派であり、あらゆる魔法分野においてもっとも秀でた存在。だが運動はしたくないようだ。
    魔法は世界一であり、問題を解決する役目もあるが問題を起こすこともする。
    能力:【スレイ家の神秘】
    能力概要:森羅万象ありとあらゆる魔法を自由に操る能力。魔導書から発動させた魔法から、クローリーが即興で作り出したオリジナル魔法、元々あった魔法同士を組み合わせた複製魔法や精霊を使役し自然を操る魔法など多岐にわたる。操れる魔法に制限はなく、相手の能力も自分なりに弄ってコピー魔法として操る。
    これほど魔法に長け、魔法を愛している者はこの世にいない。
    弱点:強力な魔法を使用する際は移動をさず、また反動もある。
    生まれたての頃は身体能力も右に立つ者がいなかったのに慢心し過ぎて運動を怠ったせいで身体能力がとんでもなく低下している。そのため、走ることは不可能だし、常に浮遊していないと秒速でダウンする。
    他の神と同様に天界から現界する肉体に必要な心臓部のコアを破壊されると問答無用で消滅する。
    体力維持に魔力を使用しているため、魔法の発動にはラグがある。
    要望:一人称は「俺」でお願いします

  • 184二次元好きの匿名さん25/10/22(水) 23:38:09

    このレスは削除されています

  • 185二次元好きの匿名さん25/10/23(木) 06:23:14

    ワクワク

  • 186二次元好きの匿名さん25/10/23(木) 12:04:05

    保守

  • 187二次元好きの匿名さん25/10/23(木) 12:24:03

    あちゃー、油断して普通に寝てたわ
    まあしゃーない

  • 188二次元好きの匿名さん25/10/23(木) 18:29:18

    さて

  • 1891◆ZEeB1LlpgE25/10/23(木) 22:58:58

    スモーキー・タツヒコvsピザディモ・クッテーロ・デイブ
    蒼炎怪獣ヴィノキオンvsC<eleritas
    伊集院 削vs筒ノ内 巌丸
    都市型バイオ神殿『ハロー・ワールド』vs氷界の番人・グズムン
    パトリックvs破滅のデザイナー

  • 190二次元好きの匿名さん25/10/23(木) 23:01:45

    まさかの食べ物対決!

  • 191二次元好きの匿名さん25/10/24(金) 06:36:13

    保守

  • 192二次元好きの匿名さん25/10/24(金) 15:44:10

    楽しみ

  • 1931◆ZEeB1LlpgE25/10/24(金) 20:09:35

    題名『ピザと背脂と勇気の物語』

  • 1941◆ZEeB1LlpgE25/10/24(金) 20:58:17

    「……いいか、デイブ。お前に任せるこの配達は特別だ」

    上司の言葉が、デイブの脳にチーズより濃く残っている。

    「配達成功すれば、好きなだけピザを食っていい」

    その言葉を聞いた瞬間――
    彼の脳内に鐘が鳴った。いや鐘じゃない。ピザ窯の火が燃え上がった。

    目の前のピザ箱を見つめるデイブの目は、まるでモッツァレラを焦がす薪窯の炎のようにギラギラと輝いていた。

    「承知した……必ず届ける。ピザにかけて」

    道は険しい。

    なぜならデイブは――

    超絶デブだからだ。

    脂肪が腕に乗り、首は二重どころかクアトロチーズ構造。
    Tシャツのサイズは XXXXL。
    移動負荷は高い。呼吸音はブタ。心拍数は戦闘機並。

    だが――

    ピザのためなら超加速する。

    「出るぞォォォオオッ!!」

    バァン!!

  • 1951◆ZEeB1LlpgE25/10/24(金) 20:58:46

    デイブ、走った。
    いや、跳ねた。
    いや違う、地面を粉砕して肉体ブーストで加速した。

    ピザを届けるためだけに!!

    だが。

    その道の前に、一つの店が――いや悪魔の穴が待ち構えていた。

    「缶詰専門店・タツヒコ」

    軒先にぶら下がる大量の缶詰。
    よく見ればどれも魚の描かれた不穏なラベル。

    ……クサい。

    臭いじゃない。クサい。概念的にクサい。

    通り過ぎるだけで鼻粘膜が焼けそうなこの店……嫌な予感しかしない。

    ピザの香りを何よりも愛するデイブは、本能的に理解した。

    「……こいつは、ピザに対する敵だ」

    店の前で老人が一人、にこやかに立っていた。

    「おう兄ちゃん、腐った魚の缶詰食う?」

    唐突すぎた。

  • 1961◆ZEeB1LlpgE25/10/24(金) 20:59:45

    ピザ脳のデイブにも理解不能だった。

    「……何を言ってる?」

    「いやだから、シュールストレミング食う?」

    周囲の空間がビリビリと震える。

    ドブと死体と硫黄を足して凶悪にしたような悪魔の腐臭が空間を満たしていく。

    鼻が死ぬ。肺が泣く。
    胃が悲鳴を上げる。
    人生最大最悪の危機――!!

    「……ふざけるな」

    デイブはピザ箱を握り直し、宣告する。

    「俺は急いでる。ピザの悪を正す必要がある」

    「おう、じゃあ缶詰食う?」

    その瞬間――動いた。

    老人の背後から裂けるように、黒い霧があふれ出た。

    いや、霧じゃない――腕だ。

    無数の腐臭をまとう腕が、空から地面から店の壁から、一本、また一本と生えてくる。

  • 1971◆ZEeB1LlpgE25/10/24(金) 21:00:00

    『瘴腐の裂手』――発動。

    その全てが、デイブめがけて殺到した。

    ――ピザ配達、最大の危機が幕を開けた。

  • 1981◆ZEeB1LlpgE25/10/24(金) 21:00:41

    腕だ。

    腕、腕、腕、腕――

    腐った黒い霧の腕が無限に伸びてくる。

    一本一本が人間の大腿骨くらい太く、ぬるりとした腐肉が滴っている。触れた地面はジュッと音を立て腐り落ちる。植物は枯れ、虫は落ち、小石すら崩壊して砂になる。

    ――触れたものすべてを腐らせる。

    瘴腐の裂手(しょうふのれって)――
    この老人の異能。まさしく災厄。

    「なにモタモタしてんだ兄ちゃん。缶詰食うか聞いとんねん」

    「断ると言っているッ!!」

    デイブは絶叫し、両足を踏み込み――

    跳んだ。

    大地が砕け、瓦礫と土煙が舞う。

    ――着地と同時に拳を叩き込む。

    「ピザ拳ッ!!!!」

    肉と脂肪に包まれた拳が、異様な重量圧を伴って迫る裂手の腕を粉砕する。

  • 1991◆ZEeB1LlpgE25/10/24(金) 21:01:06

    バゴォォォォン!!!

    異能の腕が弾け飛び、腐臭の霧が空へ吹き飛ぶ。

    老人が目を細める。

    「ほう、やるな兄ちゃん」

    デイブはピザ箱を後ろへ構えた。

    その構えは――戦士のそれだった。

    「俺はデイブ・グレアム――ピザを信じる男だ」

    「ピザは届いてこそ価値がある」

    「チーズは魂、ピザは正義――それを届けることは愛だ!!」

    老人は苦笑した。

    「愛ねぇ……羨ましい話だわ」

    「俺から全部奪ったやつは――もうとっくに腐って死んどるけどなぁ!!」

    腐敗が爆ぜた!!!

    老人の全身が黒い瘴気を吹き出し、巨大化する。
    筋肉が腐乱し、臓器をむき出しにして膨れ上がりながら――

    瘴腐の巨人へと変貌した。

  • 2001◆ZEeB1LlpgE25/10/24(金) 21:01:40

    デイブは迷わず走る。

    なぜなら――

    時間がないからだ。
    ピザの保温タイムリミットが迫っている。

    「行くぞ――ピザの名にかけて!!」

    死闘開始。

  • 2011◆ZEeB1LlpgE25/10/24(金) 21:05:22

    腐臭が爆ぜ、世界が黒に沈む。

    腐食の瘴気が半径300mを包み、建物は錆び崩れ、道路は腐り落ち、電柱は溶けて倒れた。

    その中心、腐敗の巨人――いや、もはや災厄の権化。

    瘴腐の裂手・完全解放形態

    「ぐぉおおおおおおおあああああああ!!!!」

    叫びではない。腐敗が吠えているのだ。

    無数の腐肉の腕が天へ伸び、地へと突き刺さり、逃げ道を完全に断つ。

    しかし――その中心に立つ男は、ただ一人。

    ピザデリバリーマン。

    ピザディモ・クッテーロ・デイブ。

    左手にはピザ袋。
    右手には――熱々のピザを一枚。

    「……ハァァァァ……ハァァァァ……うまいッ!!」

    そう、食っている。

    この地獄の中で、戦いの最中に――

  • 2021◆ZEeB1LlpgE25/10/24(金) 21:07:00

    ピザを食っている!!!!

    腐敗の巨拳が迫る――!

    轟ドォォォォォン!!!!

    地面が砕け、クレーターが広がる。

    しかし――デイブはいない。

    視界の外――上だ!!!

    「おおおおおおおおおッ!!!!!」

    背脂とチーズで強化された肉体が、まるで大砲の弾のように落下する。

    ピザ・ドロップキィィィィィック!!!!

    腐敗の巨人の顔面に直撃!
    腐肉が吹き飛び、腐臭が爆ぜ、瘴腐の霧が弾け散る。

    だが――老人の声が届く。

    「ええぞ……楽しいのう兄ちゃん」

    「だがもう遅い……瘴腐は――空気に溶けた」

    腐敗の黒霧が街に広がっていく……

    人々が逃げ惑う。

  • 2031◆ZEeB1LlpgE25/10/24(金) 21:08:41

    皮膚がただれる者、咳き込み倒れる者、視界を失う者。

    死ぬ――全員。

    デイブはその光景を見た。

    叫ぶ。

    「ふざけるなァァァァァァァ!!!!」

    血管が弾けるほど怒りが走る。

    ピザは――人を幸せにするためにある。

    なのに。

    目の前で。
    命が失われようとしている。

    「この俺が……デリバリーの途中で人を見捨てると思うなよ!!!!」

    ピザが燃える。
    チーズが輝く。
    トマトソースが逆巻く。

    ――ピザ次元解放(デリバリー・クライシス)――

    デイブの叫びと共に世界が赤く染まる。

    ピザの力が――暴走を始めた。

  • 2041◆ZEeB1LlpgE25/10/24(金) 21:10:32

    街の上空に、赤く溶けたチーズのオーラが立ち上る。
    薪窯で焼かれた生地の香りが暴風のように巻き起こり、空気を切る。

    デイブの体が、光り始めた。

    「……わかった……このままじゃ終われねぇ……!」

    背中のピザ箱が熱を帯び、黄金に輝く。
    チーズが溶け、ソースが沸騰し、香ばしい生地が湯気と共に舞う。

    デイブ・クッテーロ、覚醒――ピザ・エンペラー形態!!

    腕が膨らむ。
    腹が膨らむ。
    背脂が燃える。

    「これが……ピザの力……!」

    地面に足を踏み込み、跳躍。

    「食らえ――マルゲリータ・インパクト!!」

    空中でピザを放つと、黄金のチーズが天高く伸びる。
    煙が立ち上り、湯気に包まれたソースの匂いが戦場を支配する。

    腐敗の巨人――タツヒコの瘴腐の腕が迫る。
    だが、ピザの光の中で腕は溶ける。
    チーズとトマトソース、バジルが混ざるオーラが、腐敗の臭気を圧倒する。

  • 2051◆ZEeB1LlpgE25/10/24(金) 21:11:13

    「クアトロフォルマッジ・ストーム!!!!」

    デイブは両手にピザを持ち、渦を作るように空中で回転。
    チーズが伸び、トマトが弾け、香りが暴風と共にタツヒコを包む。

    「あああああッ!俺の腕が――臭いが――!」

    老人の巨体が暴れる。
    だが、チーズと生地、香ばしい湯気の前には抗えない。

    「ピザは……裏切らねぇ!!」

    デイブの叫びと共に、空中のピザが全て収束。
    ピザの衝撃波が腐敗の巨人を押し潰す。

    街には、チーズの焦げる香りとピザソースの甘酸っぱい匂いだけが残った。
    瓦礫の間から湯気が立ち、熱々の生地が空気を震わせる。

    「……俺は、絶対に届ける……ピザを……全ての命に……!」

    ピザ・エンペラーとしての力が、デイブを支配する。
    チーズの伸びる音、焼き立て生地の香り、アツアツのトマトの熱気――
    それはまさに、食欲と正義の化身だった。

  • 2061◆ZEeB1LlpgE25/10/24(金) 21:13:34

    腐敗の巨人――タツヒコの瘴腐が街を覆い尽くす。
    だが、デイブの体は黄金のチーズオーラに包まれ、もはや街全体がピザの香りで支配されている。

    「これが……俺の最終奥義……!」

    デイブは空中で跳躍し、手にしたマルゲリータ、クアトロフォルマッジ、ナポリ、ルッコラ生ハムの四枚を同時に振りかざす。

    チーズが伸び、湯気が立ち、焼きたての香ばしい匂いが暴風のように街を駆け抜ける。

    「ピザ・デリバリー・カタストロフォォォォ!!!!」

    腕が飛び、腐敗の霧が吹き飛ぶ。
    老人の叫び声とともに、瘴腐の裂手は空中でバラバラに砕けた缶詰と化す。

    「ぐ……ぐはあああ……クサい……く、臭すぎる……」

    タツヒコはピザの圧倒的概念に飲まれ、あっという間に無力化。
    しかし、デイブの脳内はさらに燃えていた。

    「まだ……まだ終わらねぇ……!」

    デイブはその場でピザをかじる。
    アツアツのチーズが口の中で伸び、湯気が鼻をくすぐる。
    モッチリとした生地、芳醇なトマトソース、バジルの香り――

  • 2071◆ZEeB1LlpgE25/10/24(金) 21:13:47

    味覚が覚醒し、身体能力が跳ね上がる!!

    再び跳躍。
    その一瞬、空間が揺れる。

    「ピザ・エンペラー・オールデリバリー!!!」

    黄金のチーズ光弾が街全体を覆い、腐敗と臭気は完全に浄化。
    瓦礫が舞う中、ピザの香りが勝利の証として立ち込める。

    「……これが、俺の正義……ピザだ……!」

    デイブは勝利のポーズを決め、汗とチーズを混ぜた光が舞う。
    街には人々が息を吹き返し、空気には熱々の石窯ピザの香りだけが残った。

  • 2081◆ZEeB1LlpgE25/10/24(金) 21:16:10

    腐敗も、臭気も、瓦礫も――すべて消え去った。
    街には熱々のピザの香りだけが漂う。

    デイブは地面に膝をつき、箱を開けた。

    中には……まだ湯気の立つ、完璧なマルゲリータ。

    「……う、うまい……」

    チーズがとろけ、ソースが光り、香ばしい生地がふわりと口の中に広がる。
    一口食べるごとに、デイブの体力、魂、そして戦闘力が全回復する。

    「これが……ピザ……俺のすべて……」

    街の人々も安堵の表情。
    瓦礫に埋もれた子猫が鳴き、犬が尻尾を振る。
    誰もがデイブの勝利を静かに、しかし確かに感じていた。

    老人・タツヒコは……どこかで倒れている。
    鼻を覆ったマスクの下で微笑む。戦った自覚はない。
    だが、世界は変わった。
    腐敗も臭気も、ピザの力で浄化されたのだ。

  • 2091◆ZEeB1LlpgE25/10/24(金) 21:16:21

    デイブは最後のピザを空に掲げる。

    「よし……これで、今日の配達は完了だ……!!」

    黄金に輝くチーズとトマトソースの光が街を包む。
    太陽の光と混ざり、まるでピザが世界を祝福しているかのようだった。

    街にはもう、悪臭も腐敗もない。
    ただ、熱々のチーズの香りが――

    人々の心と胃袋を満たす。

    「さて……次の配達に行くか……ピザァァァ!!」

    デイブはピザ箱を背負い、颯爽と街を駆け抜ける。
    チーズが伸び、ソースが湯気と共に踊り、空気を熱く揺らす。

    世界は平和――そして美味い。

  • 2101◆ZEeB1LlpgE25/10/24(金) 21:58:42

    以上

  • 211二次元好きの匿名さん25/10/24(金) 22:00:33

    乙です!良かった!

  • 212二次元好きの匿名さん25/10/24(金) 22:14:54

    さすがピザ!ピザエンペラー!

  • 213二次元好きの匿名さん25/10/24(金) 22:17:32

    投下乙です!
    ピザが食べたくなってきた

  • 214二次元好きの匿名さん25/10/25(土) 01:51:33

    ピザの力ってスゴイんだなあ…

  • 215二次元好きの匿名さん25/10/25(土) 09:18:45

    さてさて

  • 216二次元好きの匿名さん25/10/25(土) 16:08:02

    保守すルと申します

  • 217二次元好きの匿名さん25/10/25(土) 21:09:52

    ほしゅ~

  • 2181◆ZEeB1LlpgE25/10/25(土) 23:34:21

    題名『蒼き星の戦域』

  • 2191◆ZEeB1LlpgE25/10/25(土) 23:34:57

    大海洋モビィ・ディックの水平線は、静かで広大な蒼に包まれていた。
    波は穏やかに揺れ、太陽の光を反射してきらめいている。

    だが、空気は突然、重く、張り詰めた緊張に震えた。

    突如、巨大な影が水平線の向こうから現れる。
    その翼は鋭利で、美しく、まるで巨大な蝶のように空を切る。

    「今日も遊ぶ時間か……」

    蒼炎怪獣ヴィノキオン――伝説の蝶翼竜――が、大海原に姿を現した。
    体長73メートル、翼長180メートルの巨体は光を受けて蒼く輝き、翼の縁を沿う蒼炎が絶対零度の冷気を伴って周囲の空気を凍らせる。

    海面に近い部分では、波が凍りつき、氷の針が飛び散る。
    ヴィノキオンの眼光は鋭くも、どこか優しさを含んでいた。

    そして、微かな波紋――光速を超えた速度の振動が水面を走る。

    ――C<eleritas。

    「オカ禁中……でも、少しだけ……」

    視認できるのはわずかな光の残像。
    その動きは常識を超え、光よりも速く、空間そのものを切り裂くかのようだ。

    ヴィノキオンは大顎を開き、蒼炎“アブソリュート・フレイム”を放つ。
    海水が瞬時に凍り、氷の棘が空を舞う――

  • 2201◆ZEeB1LlpgE25/10/25(土) 23:35:18

    しかし、C<eleritasは概念速度で迂回し、炎は空を切るだけ。
    まるでそこに敵は存在していないかのようだった。

    ヴィノキオンは翼を広げ、高く旋回しながら目を細める。

    「ふむ……ただ速いだけか……面白そうだ」

    大海洋の静寂は、戦いの前触れとして不気味にざわめく。
    そして、風と蒼炎が混ざった匂いが、空と海に支配的に広がった。

  • 2211◆ZEeB1LlpgE25/10/25(土) 23:35:42

    ヴィノキオンは翼を畳み、高機動形態へと変形した。
    蒼炎が全身を纏い、翼の先端が稲妻のように光る。

    空気を切る音が轟音となって耳を突き、波は震え、海面は小さく裂ける。

    「この速度で……届くか……!」

    ヴィノキオンは首を振り、翼を叩きつけるように振動させながら急降下。
    目標を捕らえ、蒼炎を集中させた斬撃が空気を裂く。
    しかし――その瞬間。

    光の残像が交錯し、C<eleritasが姿を消した。
    「はやっ……」
    ヴィノキオンの唸り声に混じり、蒼炎が空を切るだけで標的は消えている。

    C<eleritasは概念速度の範囲で空間を迂回し、背後に回り込む。
    体が消えることも、物理を超える速度で動くことも、全てが一瞬の出来事だった。

    「……速すぎる……」

    ヴィノキオンの瞳に初めて焦りの色が宿る。
    高機動形態の翼は自在に振るわれるが、巨体を制御するには限界があった。
    一方のC<eleritasは、速度を制御しつつも攻撃の隙を見せず、空間に微細な負荷を刻み続ける。
    海面が再び震え、塩の匂いと冷気が混ざり合う。
    蒼炎の光が空を赤青に染め、翼と速度の衝突が、広大な大海洋を圧倒的な迫力で支配した。

    「……ここからが本番だな」

    ヴィノキオンは翼を再び広げ、蒼炎をさらに濃く纏う。
    そして、戦場はさらに緊張を増し、海と空が戦いの舞台として完全に支配されていく。

  • 2221◆ZEeB1LlpgE25/10/25(土) 23:36:09

    ヴィノキオンは翼を広げ、蒼炎を全身に纏ったまま、大海洋を自在に操り始めた。
    海面は寒天のように固まり、ぷるぷると震える足場に変化する。

    「これで、少しは有利に……」

    大顎から蒼炎を放ち、海水を瞬間凍結させ、氷の棘を敵に向けて飛ばす。
    しかし、C<eleritasは概念速度で迂回。氷の棘は空を裂くだけで何も届かない。

    次にヴィノキオンは空中に糸を垂らす。
    翼の下から伸びる無数の糸は、風と蒼炎で光を反射し、高速飛行を助ける足場となる。
    さらに、周囲の火山を活発化させ、塩辛い雨を降らせる――環境そのものを戦場に変えた。

    「さあ……どうだ、これでも避けられるか」

    だが、C<eleritasは速度制限中でも概念速度を応用し、海面も糸も火山の噴火も避けてしまう。
    火山の噴火は味方も敵も選ばず、ヴィノキオン自身に直撃することもある。

    「……物理の制約が、ここまで足を引っ張るとは……」

    翼を叩き、蒼炎をより密度高く放ちながら、ヴィノキオンは焦りを隠せない。
    概念速度を持つC<eleritasにとって、この戦場操作は単なる遊びに過ぎなかった。

    海面に映るヴィノキオンの蒼炎は、美しくもどこか悲壮感を帯びる。
    塩辛い雨が降り注ぎ、巨大な翼がその中で輝きを増す――しかし、その努力は概念速度の敵にはまだ届かない。

    「……もう少し、もう少しで……!」

    蒼炎が空と海を支配する中、戦いの緊張はさらに高まった。
    ヴィノキオンの環境操作――物理の力を極限まで活かした逆襲――と、C<eleritasの速度の壁。
    この差は、戦場全体に不穏な緊張を生むことになる。

  • 2231◆ZEeB1LlpgE25/10/25(土) 23:36:29

    戦いは膠着状態にあった。
    ヴィノキオンの翼は蒼炎で輝き、海面はぷるぷると震えている。
    火山は噴火し、塩辛い雨が降り注ぐ――だが、C<eleritasは概念速度で自由自在に回避する。

    「……やはり、簡単にはいかないか」

    ヴィノキオンは翼を振り、蒼炎を集中させながら敵の動きを封じようとする。
    しかしC<eleritasはその速度制限中でも、空間を瞬間的にずらして接触を回避する。
    その動きの中、奇跡は起こった――

    C<eleritasが高速迂回の際、無意識のうちにヴィノキオンの翼下の触覚付近――逆鱗にわずかに触れてしまったのだ。

    「……ここだ!」

    ヴィノキオンは長い首を畳み、大顎から全力の蒼炎“アブソリュート・フレイム”を逆鱗に集中させる。
    逆鱗が発光し、翼の振動と蒼炎が共鳴する。
    その瞬間、空間の温度が急激に下がり、塩辛い雨は一瞬にして氷の針となって降り注いだ。

    C<eleritasは初めて物理的な干渉を受け、速度の制御が乱れる。
    光の残像が歪み、空間の裂け目が一瞬だけ止まる。

    「……これが、逆鱗の力か……!」

    ヴィノキオンは翼を広げ、蒼炎と衝撃波を連続して放つ。
    これまで無敵だった速度の化身が、初めてヴィノキオンの攻撃を正面から受ける瞬間だった。

    大海洋モビィ・ディックは轟音に包まれ、海面は裂け、蒼炎と光の奔流が空と海を支配する。
    この瞬間――戦局は初めて、ヴィノキオン有利に傾き始めたのだった。

  • 2241◆ZEeB1LlpgE25/10/25(土) 23:37:33

    逆鱗への接触により、C<eleritasは初めて物理的な干渉を受けた。
    概念速度を制御していたギアがわずかに乱れ、背中に触れた衝撃でコアへのアクセスが一瞬狂う。

    「……これは……!」

    ヴィノキオンは翼を最大限に広げ、全身の蒼炎を爆発させる。
    空気が裂け、海面は蒼い光に染まり、塩辛い雨が一層鋭く降り注ぐ。
    蒼炎の熱と絶対零度の冷気が混ざり合い、空と海が生き物のように揺れ動いた。

    C<eleritasは速度制限中で、概念速度を完全に発揮できない。
    空間を操作して回避しようとするが、蒼炎と逆鱗の力に押され、瞬間的に迂回が遅れる。

    「……まだ……まだ本気じゃない……」

    ヴィノキオンは大顎からさらに強力な蒼炎を放ち、翼で衝撃波を連続で叩き込む。
    その衝撃はC<eleritasの残像をも打ち砕き、空間に負荷を刻む。
    光と蒼炎が渦巻き、海面は裂け、雨粒は氷の針となって降り注ぐ。

    速度の化身――C<eleritasは、概念の壁を超える力を誇ったが、
    物理の圧力の前に、わずかに動きが鈍る。

    「……これで……!」

    ヴィノキオンは翼を振り、蒼炎と氷の衝撃を同時にC<eleritasに叩き込む。
    空間の裂け目が歪み、光の奔流が巻き上がる。
    概念速度の化身が、初めて物理的圧力に押され、戦場に一瞬の静寂が訪れる――

    そして、この瞬間こそ、勝利への扉が開かれる兆しだった。

  • 2251◆ZEeB1LlpgE25/10/25(土) 23:37:59

    逆鱗の衝撃と全力の蒼炎により、C<eleritasはついにコアへの干渉を受けた。
    概念速度の化身――この宇宙最速の存在が、初めて物理的に制御を奪われる瞬間である。

    「……ここで、終わりか……」

    ヴィノキオンは翼を広げ、蒼炎を空に放った。
    絶対零度の冷気が大気を揺らし、塩辛い雨が海に降り注ぐ。
    蒼炎は光と影を混ぜ、空と海を青く染め上げた。

    C<eleritasは光の残像を最後に残し、徐々に動きを止める。
    普段なら瞬間移動で回避するはずの攻撃も、逆鱗の力と翼から放たれる蒼炎には抗えなかった。

    「……これが……守護者の力……」

    巨大な翼を広げ、空と海を支配するヴィノキオン。
    その姿は威厳と優しさを同時にたたえ、いたずら好きな笑みを浮かべていた。
    しかし、その瞳には、戦いを終えた静けさが宿る。

    大海洋モビィ・ディックは轟音と光の奔流に包まれた後、再び静寂を取り戻す。
    海面は波を揺らしつつ、蒼炎の輝きを映し出し、勝利の証として刻まれる。

    「……よし、これで終わりだ」

    蒼き星の守護者――ヴィノキオンの勝利が、世界に確かに刻まれた。
    空と海は再び穏やかさを取り戻し、ただ静かに、巨大な怪獣の蒼い影だけが大洋の上空に残った。

    戦いは終わった。
    だが、蒼炎は消えず、蒼き星の守護者の力は、この世界の平和を静かに見守り続けるのだった。

  • 2261◆ZEeB1LlpgE25/10/25(土) 23:38:12

    以上

  • 227二次元好きの匿名さん25/10/25(土) 23:41:21

    逆鱗が本気スイッチになってる!
    海と空を支配する竜ってかっこいいね

  • 228二次元好きの匿名さん25/10/26(日) 05:43:22

    投下乙です!
    炎を空に向かって吐く演出が個人的に好きかも

  • 229二次元好きの匿名さん25/10/26(日) 10:28:22

    さて

  • 230二次元好きの匿名さん25/10/26(日) 17:46:10

    wkwk

  • 2311◆ZEeB1LlpgE25/10/26(日) 21:45:39

    すいません
    今日は部活の大会に出場していて更新できませんでした

  • 232二次元好きの匿名さん25/10/26(日) 21:51:51

    全然大丈夫です!スレ主の生活第一ですから!

  • 233二次元好きの匿名さん25/10/26(日) 21:53:07

    お疲れ様です

  • 234二次元好きの匿名さん25/10/26(日) 21:56:05

    ゆっくりお休み

  • 235二次元好きの匿名さん25/10/26(日) 22:03:40

    スレ主お疲れ様です

  • 236二次元好きの匿名さん25/10/26(日) 22:08:05

    >>231

    お疲れさまです!ゆっくり休んでください

  • 237二次元好きの匿名さん25/10/26(日) 22:26:48

    >>231

    乙!頑張ったスレ主に花丸あげます

  • 238二次元好きの匿名さん25/10/26(日) 22:27:59

    スレ主様お疲れ様です!

  • 239二次元好きの匿名さん25/10/27(月) 01:27:04

    ふむ

  • 240二次元好きの匿名さん25/10/27(月) 06:53:28

    保守

  • 241二次元好きの匿名さん25/10/27(月) 10:54:06

    さて

  • 242二次元好きの匿名さん25/10/27(月) 18:17:40

    いちおう

  • 243二次元好きの匿名さん25/10/27(月) 22:03:39

    ほしゅるぜ

  • 2441◆ZEeB1LlpgE25/10/28(火) 00:27:33

    題名『紙弾幕と石の刃』

  • 2451◆ZEeB1LlpgE25/10/28(火) 00:28:13

     崩れた石柱が並ぶ薄暗い地下回廊には、静かな水音だけが響いていた。天井の穴から滴る水が、苔むした床にゆっくりと染みこむ。空気は冷え、乾いた石の匂いの中に、微かに鉄の気配が混じる。

     この遺跡は、かつて存在した古代国家の王墓だと伝えられている。数百年のあいだ誰も寄りつかず、今では地図からも消えている。

     ――そこで、二人は出会った。

     

     最初に現れたのは、整った無表情をした少年だった。
     短く刈った黒髪、微塵も揺るがない歩み。左手に提げた小型バッグからは、なぜかトイレットペーパーがはみ出している。

     筒ノ内巌丸――それがこの少年に与えられた名だ。だが、それは“真名”ではない。

    (予定地点に到達。標的との交戦前に地形を把握――)

     巌丸は無音の足取りで回廊を進んでいた。政府の諜報機関で訓練されたその思考は、無駄がなく冷徹だ。これは任務であり、失敗は死を意味する。

     彼の目的は二つ。古代遺跡に眠る機密兵装の捜索、そして同じ標的を狙う競合勢力――伊集院家の排除。

     その「標的」の存在は、この回廊の奥に立っていた。

     

     暗がりに、もう一つの影が浮かび上がる。
     そこにいたのは赤い外套を羽織り、手には古い石の欠片を弄ぶ青年。頭上には――小さな金庫のような物体が宙に浮いている。

     伊集院 削。宝を追い続ける一族の長男。その血は異質で、強い。

     彼は振り返ると、まるで友人と会ったかのような気軽さで声をかけた。

  • 2461◆ZEeB1LlpgE25/10/28(火) 00:28:39

    「やあ。君もこの遺跡の宝を探しに来たクチ?」

     

     巌丸は即座に答えない。無駄な会話を避け、距離を測るように間を取る。

     

    「任務対象――伊集院削、確認。交戦前の警告を行う」

    「やだなぁ、いきなり物騒だね。僕はただ、この国に残された"価値のかたち"を集めているだけなんだよ?」

     

     削は軽く笑うが、その瞳は観察者のそれだ。好奇心と計算の混じった視線が、巌丸の行動の癖を読み取ろうとしている。

     

    「君の持ってるその紙、ただの備品じゃないね」

    「分析能力が高いな。さすがは危険指定対象だ」

     

     二人の間に風が吹くことはない。だが緊張だけは確かに動いた。

     削が肩をすくめる。

  • 2471◆ZEeB1LlpgE25/10/28(火) 00:28:54

    「世の中には三種類の人間がいる。宝を持つ者、宝を探す者、そして――」

     彼は指を鳴らした。その瞬間、頭上の金蔵が鈍く光りはじめた。

    「――他人の宝を邪魔する者だ。君は三番目、だろ?」

     

     巌丸は即座に腰を落とし、バッグに手をかける。

     

    「断言する。お前を通すわけにはいかない」

    「それは僕のセリフだな」

     

     言葉は短く、感情は無駄がない。

     ――この瞬間、遺跡の静寂は破られた。

     戦いは避けられない。

  • 2481◆ZEeB1LlpgE25/10/28(火) 00:29:57

     巌丸はバッグから白い円筒――トイレットペーパーを取り出した。
     削は一瞬だけ表情を固め、その行動の異様さに目を細めた。

     

    「……戦場に紙を持ち込んでる時点で普通じゃないと思ってたけどさ」

    「能力《トイレットペーパーをガトリングガンに変える能力》――展開」

     

     巌丸はトイレットペーパーの端を指に引っかけ、すっと引き出す。その動作は静かで美しいほど無駄がなかった。

     ――次の瞬間、紙は鋼へと姿を変える。

     展開音。

     トイレットペーパーは巻かれたまま伸び、回転し、六連装の重火器へと変貌した。

     その進化は奇跡ではなく能力によるもの。しかし、変化の速度は常識を超えている。

     

    「はっ!? 本当に武器に変わったよ!?」

    「問答は不要」

     巌丸はためらいなく引き金を引いた。

  • 2491◆ZEeB1LlpgE25/10/28(火) 00:30:25

     ――ドドドドドドドドドッ!!

     

     轟音が遺跡全体を震わせる。無数の弾丸が石壁を抉り、粉塵と破片が飛び散る。
     ガトリングガンは音より速く、目に見える火線を描きながら削の立っていた位置を瞬時に制圧する。

     

    「っ……!」

     

     削は後方に跳び退り、瓦礫の影へ身を滑り込ませた。わずかに遅れて、彼の足元を紙弾が薙ぎ払った。

     

    「紙弾なのに威力がある……!? どういう理屈だよ!」

    「知らなくていい。これが能力というものだ」
     
     巌丸は二本目、三本目とトイレットペーパーを連結していく。弾幕の数はさらに膨れ上がる。
     
    「ミシン目一つにつき弾丸一発分。連結するほど火力が増す」
     
     乾いた説明の直後、またも白い弾幕が放たれる。
     遺跡の石壁が削り取られ、床がえぐれ、水が跳ねる。

  • 2501◆ZEeB1LlpgE25/10/28(火) 00:32:36

    「僕の“削射”はチャージに隙がある。弾幕で封殺――それが君の狙いだね?」

     

     削の声が壁の向こうから響く。視界にはいないが、声の位置から推測する限り――まだ無傷。

     

    「逃げられると思うな。紙弾は量で押す。隠れても無駄だ」

    「はは。やっぱり作戦通り……いや、性格通りか」

    「何?」

    「君――陽動担当だろ」

  • 2511◆ZEeB1LlpgE25/10/28(火) 00:34:30

     巌丸の眼が一瞬揺れた。

     情報は秘匿のはずだ。それを言い当てることができるのは――

     

    「プロの眼だよ。僕は宝を見抜くことに命をかけてる。人の行動パターンくらい読むさ」

     

     削は瓦礫の裏から姿を現した。その表情には余裕が戻っている。

     

    「面白い。じゃあ――どこまで押し切れるかやってみようか」

     

     戦いの温度が上がる。

     だがまだ、二人は互いの“本当の切り札”を見せてはいない。

  • 2521◆ZEeB1LlpgE25/10/28(火) 00:37:01

     削は、瓦礫の影からゆっくりと歩み出た。
     その動きには焦りがない――弾幕の中にいるはずなのに。

     

    「分析はした。君の火力は脅威だ。でも欠点もハッキリした」

     

     巌丸は視線だけで対応しながら周囲を警戒する。削の狙いが弾幕封殺を突破することだと理解しているからだ。

     

    「欠点だと?」

    「狙いが荒い。弾幕は広いが、急所は狙えていない。つまり――」
     
     削の指が地面を示す。
     
    「僕には当たらない」
     
     同時に巌丸は悟る。この男、ただの変人系宝コレクターではない。
     状況判断・理解・予測――その全てが一級品。
     
    「……戦闘慣れしているな」

    「まあね」
     
     軽く言いながら、削は手のひらを床に当てる。

  • 2531◆ZEeB1LlpgE25/10/28(火) 00:40:44

     金蔵が光った。
     
    「発納――《削射》」

     

     ギュルルルルッ

     削の手の下で、床の石が「削られて」いく音が鳴る。
     ただ削れるのではない。地層が吸い込まれるように薄く削ぎ落とされ、その欠片が――浮かび上がった。

     

    「硬度、形状、角度――良し」

     

     削が指を弾く。

     

     ズガァン!!

     

     石片が光る線を描いて射出された。それはボウガンの矢を遥かに超える速度――むしろ、狙撃だった。

     巌丸のガトリングの銃口が弾き飛ばされ、紙弾が逸れる。

  • 2541◆ZEeB1LlpgE25/10/28(火) 00:44:15

    (正確無比……! 狙撃か!)

     

    「“削射”は生物には当たらない。だけど、君の武器は別だ」

     

     削はもう一度天井へ指を向ける。

     

    「削るのは壁でも、床でも、空間でも――いい」

     

     ――ズバァッッ!!

     

     空気そのものが裂け、石壁がえぐり取られる。
     削の削射は削る「対象」を選ばない。生物以外なら、何でも武器になる。

  • 2551◆ZEeB1LlpgE25/10/28(火) 00:47:40

    「一本目は破壊。残りは何本?」

     

     巌丸は無言で連結したトイレットペーパーを追加し、二挺目を形成する。

     

    「まだある。いくらでも用意してきた」

    「それなら――全部削り落とすだけだ」

     

     ――激突は、まだ序章。

     巌丸の弾幕は削の射撃精度を封じるか。
     それとも削の一撃は弾幕の突破口を開くか。

     互いのスタイルが、戦術が、能力がぶつかる。

     まだ決着には遠い。

     だが――歪みは生まれ始めていた。

     二人の能力には共通した特性があった。

     地形に強く依存する――その弱点に。

  • 2561◆ZEeB1LlpgE25/10/28(火) 00:53:38

     地下遺跡の空気が変わった。
     両者の能力の本質が見え始めたからだ。

     巌丸は弾幕を張りながらも考える。

    (あいつの“削射”……0.5秒の溜めがある。撃つ前に必ず「削る」プロセスがある。そこを潰せれば――)

     一方で削もまた冷静に巌丸を観察していた。

    (トイレットペーパーは無限じゃない。補給ラインは必要。ならば――どこかに隠し物資がある)

     二人は同時に決断する。

     仕掛ける側に回る、と。

  • 2571◆ZEeB1LlpgE25/10/28(火) 00:54:31

     ガトリングを乱射しながら巌丸は動き続ける。
     だが乱射にも見えたその弾幕には――偏りがあった。

     左右の壁、天井、床――特定箇所だけ集中して撃たれている。

    (あそこだけやたら撃ってる……狙いは何だ?)

     削はすぐに気付く。

    (違う――“穴”を作っている?)

     紙弾の連射は壁を崩し、瓦礫が積み上がっていく。
     無駄撃ちに見えた弾幕は実は――誘導用の罠構築だった。
     
    「さあ来い、削」
     
     巌丸はガトリングを構えたまま言った。
     
    「お前の射線はもう読めた。勝負しようぜ、“狙撃手”」

  • 2581◆ZEeB1LlpgE25/10/28(火) 01:04:08

     削はその意図を理解した上で――笑った。

    「いいね。そういうの嫌いじゃない」
     
     削は地面に手をつけ、ゆっくりと息を吸い――
     
    「発納――《削射》」
     
     ――「一点」を狙わない。

     代わりに、広範囲の削りを開始した。
     
     ギュギュギュギュギュ――!

     床が、壁が、空間が均等に削られ始める。

    (こいつ……狙撃だけじゃねえ! 削りで地形そのものを変えてるッ!?)
     
     地面は削られて傾斜を生み、瓦礫は転がされ、巌丸は足場を奪われる。

     そして――誘導のために置いたはずの瓦礫壁が崩されていく。
     
    「読んだよ、巌丸。君の弾幕は“誘導”のための地形操作だ」
     
     削の声は冷静だ。
     
    「でも僕の“削射”は地形を削り落とす。君の罠ごとねじ伏せられる」

     ――二人の戦術は完全に噛み合ってしまった。

  • 2591◆ZEeB1LlpgE25/10/28(火) 01:04:26

     巌丸は火力を張り巡らせて敵をコントロールする。
     削は削りで地形を支配し、圧迫し、逃げ道を消す。

     その結果――
     
    「……クソッ」
     
     巌丸は追い詰められた。
     瓦礫の罠は崩れ去り、射線は封じられはじめる。

     徐々に押し込まれ、防御一辺倒に変わっていく。
     
    「言ったろ? 君の火力は脅威だ。でもそれだけじゃ“押し切れない”」
     
     削が歩を進める。静かな一手ずつの前進。

     この一戦は弾幕と狙撃の撃ち合いから――
     戦略と地形支配の勝負へと変貌を遂げた。

     このままでは巌丸は削に飲み込まれる。

     だが――巌丸の目に宿る光は消えない。
     
    「悪いな。追い詰められるとさ――」
     
     巌丸は笑った。
     
    「燃える性質でね」

  • 2601◆ZEeB1LlpgE25/10/28(火) 01:05:51

     追い詰められたはずの巌丸が――笑っていた。
     削は眉をわずかに動かし、警戒を深める。
     
    「何がおかしい?」

    「いや、悪い。つい嬉しくなってな」
     
     巌丸は肩を回し、手にしたガトリング――正確にはトイレットペーパーを握り直す。
     
    「俺は破壊工作員だ。正面からの撃ち合いは専門外だが……」

     その目が鋭く細められる。
     
    「策を潰しに来る相手には慣れてる」
     
     巌丸の背後――瓦礫の陰から新たに連結されたトイレットペーパーが転がり出る。
     
    「……補給をここに隠してたのか」

    「お前をここまで動かせれば十分だったよ、削」
     
     巌丸は両腕を広げた。
     
    「フルオート・リンクシステム――解放」
     
     ――その瞬間。

  • 2611◆ZEeB1LlpgE25/10/28(火) 01:06:12

     ガチャンガチャンガチャン!!!

     天井、壁、床――遺跡全体にトイレットペーパーの補給ラインが伸びていく。

     すべて繋がっていく。
     まるで巨大な兵器の内部配線のように。
     
    「複数のトイレットペーパーを連結させるほど威力が増す――」
     
     巌丸が指を鳴らす。
     
    「なら、この遺跡全体を一つに繋げばいい」
     
     直後――

     ゴゴゴゴゴゴゴ!!!

     空気が震える。
     トイレットペーパーに宿る異能が共振を起こす。

     巌丸はその中心――主砲を構えた。
     
    「出力最大……撃滅形態」
     
     それはもう"ガトリングガン"ではなかった。
     重厚な砲身、回転する機構、空気を震わせる魔導機構――

  • 2621◆ZEeB1LlpgE25/10/28(火) 01:06:36

     トイレット・カタストロフ砲(トイレ・カノン)
     ――戦術兵器だった。
     
    「……はぁ」
     
     削が肩を落とした。
     
    「本当に面倒な能力だね、君」
     
     だが巌丸は構わずトリガーに指をかける。
     
    「お前の圧力には感謝してるぜ、削」
     
    「……感謝?」
     
    「あぁ――本気を出す理由をくれた」
     
     地を割る轟音が遺跡を揺らす。
     
    「――撃つッ!!!」

  • 2631◆ZEeB1LlpgE25/10/28(火) 01:07:44

     轟音とともに、巌丸の巨大トイレット・カノンが回転し、遺跡全体を巻き込む弾幕を放った。
     白い弾が瓦礫を貫き、天井を削り、床を抉る。湿った水面を蹴散らしながら、削の立つ場所へ向かう。
     
    「――これが最後の力か」

     削は静かに足を踏み出す。
     頭上の金蔵が微かに光り、手にした石片を「削り」能力へ変換する。
     
    「発納――《削射》」
     
     0.5秒の隙。

     巌丸は即座に砲を調整し、弾幕の軌道をずらして回避する。
     だが遺跡の水と崩落した瓦礫、湿った紙――状況は巌丸の有利ではない。
     
    「くっ……紙が……湿って……!」
     
     削は冷静に削る。
     床、壁、瓦礫、すべてを削り、弾幕の射線を断ち切る。

     そして――
     
    ドガァン!!
     
     巨大な石片が砲の回転部分を直撃する。
     ガチャンと金属が歪み、砲は停止。
     遺跡に散らばる紙の芯が無力に転がる。

  • 2641◆ZEeB1LlpgE25/10/28(火) 01:08:07

    「これで終わりだ……」

     削はゆっくりと歩み寄る。
     巌丸は膝をつき、力なく腕を下ろす。

    「……負けたか」

    「いや……悪くなかった」
     
     紙の弾幕は遺跡の一部を粉砕したが、地形を掌握した削の能力の前では決定打とはならなかった。

     削は石片を投げ、巌丸のガトリング砲の残骸に刺す。
     もう反撃は不可能。勝負はついた。
     
    「君の能力は凄い……だが環境を支配されたら紙は紙だ」

     巌丸は静かにうなずき、立ち上がる。
     
    「……次がある」
     
     削は微かに笑みを浮かべ、後ろの瓦礫を見つめる。

    「そうだね。またどこかで勝負しよう」

     水音と瓦礫の崩落音だけが、静かに遺跡に響く。

     戦いは終わった。
     だが、互いの能力と戦術は、遺跡の石と瓦礫の間に確かに刻まれた。

  • 2651◆ZEeB1LlpgE25/10/28(火) 01:08:22

    以上

  • 266二次元好きの匿名さん25/10/28(火) 03:35:38

    良かったです!

  • 267二次元好きの匿名さん25/10/28(火) 05:12:34

    投下お疲れ様です!
    トイレットペーパーをそうやって使うのか?!となる試合でしたね

  • 268二次元好きの匿名さん25/10/28(火) 07:17:13

    最後までどっちが勝つかわからない良い試合でした。
    面白かった!

  • 269二次元好きの匿名さん25/10/28(火) 10:32:43

    削も巌丸も見せ場があって良い試合でした!

  • 270二次元好きの匿名さん25/10/28(火) 16:24:51

    化身

  • 271二次元好きの匿名さん25/10/28(火) 18:23:20

    >>270

    スレ跨ぐタイプの保守初めて見たぁ

  • 2721◆ZEeB1LlpgE25/10/28(火) 21:47:11

    題名『氷界防衛戦』

  • 2731◆ZEeB1LlpgE25/10/28(火) 21:48:45

     ――その日、氷界は不穏な音を聞いた。

     白と蒼の永遠が広がる世界。時が凍りついたような静寂の世界。
     そこは白霜の主コールグラスが作り出した安寧の異界――その入り口にある大氷門の前で、老巨人グズムンは斧を担ぎながら雪像に水をかけて固めていた。
     
    「よしよし、今日の出来も悪うないわい。……ほれ、鼻が曲がっとるぞお前さん」
     
     彼の周りには、雪でできた素朴な働き者――白霜の民たちが笑いながら動き回っている。

    「がんばってますね番人様!」「この氷柱はどこに置きますか?」「薪割り、競争するかの?」
     
     穏やかで温かい、静かな日常――のはずだった。
     
     異変は突然空から降ってきた。
     
     天を覆うオーロラが、不意に明滅したのだ。

     ピシィ――ン……!

     空が割れた。

  • 2741◆ZEeB1LlpgE25/10/28(火) 21:49:19

     巨大な黒い影が、オーロラの歪みからねじ込まれるように姿を現した。
     金属のような、しかし蠢く生体構造――都市のような巨大構造体が空中に形を成す。
     
    「……むう」
     
     グズムンは斧を肩に担ぎ直し、顎髭を撫でながらその異形を見上げた。

     氷界の住人なら誰もが理解した。

     ――あれは、この世界のものではない。
     
    「報告ー!報告ー!」「番人様!あれ、なんですか!」「知らん!なんじゃありゃあ!!」

     白霜の民が慌てふためく中、氷界の上空に浮かんだ都市の一片が裂け、中から異形の軍勢が溢れ出した。

     バイオ、バイオ、バイオ。
     生物のようで機械のようで、得体の知れない侵略者たち。

     都市型バイオ神殿――ハロー・ワールド。

     その外殻より吐き出された無数の兵――バイオインスマスが氷界へと降下し始めた。
     
    「――こりゃあ、穏やかじゃ済まんかもしれんのう」
     
     グズムンは深く息を吐いた。

     しかし戦いを望んでいない。主の望む安寧を守るため、武器を振るう前にやることがある。

  • 2751◆ZEeB1LlpgE25/10/28(火) 21:49:35

    「よし、皆!門へ戻れ!儂が話し合って――」
     
     ズ ド オ オ オ ン !!!
     
     氷原に着弾した無数のバイオ爆撃生体が一斉に咆哮し、吐き気を催すほどの黒い粘液を周囲に撒き散らした。

     白霜の民が悲鳴を上げ、転倒し、逃げ惑う。
     
     ――敵は、会話をする気など最初からなかった。
     
     背後で、大斧が青白く光を放った。
     
    「……お前さんもそう思うか、我が相棒」

     光は肯定のように脈打つ。
     
     老巨人はゆっくりと戦斧を手に取る。

     戦う理由は一つ――
     
    「わかったわい。皆を守るため……やるしかないというわけじゃな?」
     
     氷界の番人、ここに立つ。

  • 2761◆ZEeB1LlpgE25/10/28(火) 21:51:55

     氷界の白銀に異質な黒が染み込んでいく。
     バイオインスマス――神殿外殻から吐き出されるように生産された生体兵器たちは、次々と氷原に降り立ち、咆哮を上げながら進軍してきた。

     彼らは群れ、跳ね、飛翔し、噛みつき、爪で裂く。ただ破壊のために。

     氷界の空気を震わせるその音を前にして――
     
    「……お前ら、勝手に荒らすでないわい」
     
     先陣で敵の前に立ちはだかる巨影――氷界の番人、グズムン。

     彼が一歩踏みしめるたびに、大地が震えた。
     
    「行くぞォォォオオオ――ッ!!」
     
     振り下ろされた戦斧が吹雪となった。
     氷原を薙ぎ払う一撃――ただの氷雪ではなく、巨人の怪力剛健が叩き込まれた破壊の一撃。

     盾など通用しない。硬質外骨格など関係ない。
     横一列に並んだバイオインスマスの群れが――まとめて消し飛んだ。

     轟音。断裂。氷霧。

     だが、バイオインスマスたちは止まらない。

     撃破された生体兵の死骸から、新たな生体芽が膨張を始める。

  • 2771◆ZEeB1LlpgE25/10/28(火) 21:52:19

     再生――いや、増殖。
     
    「げぇ……!増えおったぞコイツら!!」
     
     遠くから白霜の民の叫びが届く。

    「番人様ー!後ろも来てます!」

    「こっちに飛び込んでき――ぬわぁっ!?」

     グズムンは叫び返した。
     
    「慌てるでない!下がれ!守りに徹するのじゃ!!」
     
     白霜の民たちは戦い慣れていない者も多い。
     本来、温厚な彼らは戦を知らぬ住民――だが、その身体は氷でできている。

     つまり――
     
    「大丈夫じゃ!お前らは死なん!割れたら儂が直す!!」

    「そういう問題じゃないですよ番人様ー!!」
     
     空からは新手。地面からは増殖した群れ。
     さらに奥では、巨大なバイオコモドドラゴンに騎乗したドラグーン部隊が氷柱を射抜きながら迫ってくる。

  • 2781◆ZEeB1LlpgE25/10/28(火) 21:52:39

    「連中、狙いは……門か」
     
     グズムンは振り返る。
     遥か後方、主の宮殿へ繋がる大氷門。

     もしあれが破られれば、この異界そのものが侵される。

     主君――白霜の主コールグラスの静寂を汚すことになる。
     それだけは、絶対に許さない。
     
     巨人の戦斧が再び光を帯びる。
     
    「道を開け――ッ!!」
     
     氷界が割れた。

     巨人が走る。雪山を背負ったような巨体が戦線を切り裂く。

  • 2791◆ZEeB1LlpgE25/10/28(火) 21:53:07

     飛びかかってきた生体兵が次々に斧の一撃で氷の彼方へ吹き飛ぶ。

     大地が砕かれ、氷の裂け目が無数に走る――攻撃ではない。通路を作っているのだ。
     
    「――来い!!白霜の民よ!!!」
     
     その叫びに、氷界全域から応える声が上がった。
     
    「番人様の後ろにつけッ!!」
    「守りを固めろーッ!!」
    「吹雪陣形を維持しろ!!!」
     
     氷と肉の軍勢が激突する。

     だが――そのただ中、グズムンの目は一つの違和感を捉えていた。

    「……なんじゃ、今の“ひずみ”は?」
     
     空に浮かぶ巨大構造――ハロー・ワールド。
     その中心部に――何かが 繋がろうとしている。
     
     嫌な気配が氷界全体を満たしていく。

  • 2801◆ZEeB1LlpgE25/10/28(火) 21:58:44

     上空に浮かぶ禍々しい構造体――都市型バイオ神殿『ハロー・ワールド』。


     氷界の空に亀裂を生み出し、オーロラを乱しながら、そこに存在しているだけで周囲の空間を侵食していた。


     それはもはや「巨大兵器」という言葉では足りず、「都市」「神殿」「脳核」とすら呼べる異形の巨大生命体だった。


     その“内部”から響く声があった。

     

     ――――<接続開始:進行率2%>

     

     その声は音ではなかった。思考そのものが氷界に響いた。

     存在そのものが自然律を上書きするような感覚。聞きたくなくても理解してしまう言語。

     

    「精神……への直接干渉じゃと?」

     

     グズムンは眉をひそめた。


     戦場のあちこちで白霜の民が頭を押さえて膝をついている。

     

    「う、うわ、声が、声が直接……ッ!」

    「なにかが頭に……侵入してきてます!!」

     

     グズムンは即座に戦斧を振るった。

     

    「しっかりせいッ!!!」

     

     地面を砕き、氷柱を生み、吹雪を巻き上げる。

  • 2811◆ZEeB1LlpgE25/10/28(火) 22:36:33

     わざと環境音を最大にすることで神殿からの精神干渉をかき消した。
     
    「落ち着けい!!“考えるな!!感じろ!”じゃ!!」
     
    「雑すぎませんか番人様――ッ!?」

     それでも白霜の民は、氷界の環境を利用して精神侵食を振り払う。

     精神攻撃に対して最も単純かつ乱暴、しかし効果的な対抗手段――ノイズと衝撃で強引に上書き。

     上空からさらにバイオインスマスが降り注ぐ。

     だが――
     
    「ぬおおおおりゃあああああああッ!!!!」
     
     グズムンの斧が唸る。

     吹雪と氷塊を巻き上げ、跳躍、そのまま空中に出現した生体軍を地上へ叩き落とす。

  • 2821◆ZEeB1LlpgE25/10/28(火) 22:37:12

     百万を超えるバイオ生体が氷原に隕石のように降り注ぎ、氷界全体が震動した。

     

    「神だのなんだの知らんが――氷界に踏み込む者は一人残らず叩き出すぞッ!!」

     

     叫ぶグズムンに呼応するように、戦斧が青白く光る。

     神器は言葉を持たないが――確かに戦う意思を示していた。

     

     しかし、その時だった。

     

     ――――<悪意0%を検知 攻撃動作を観測 評価:敵性>

     

     ハロー・ワールドの“意識”が、グズムンへ焦点を合わせた。


     次の瞬間、頭蓋の内側に異常な冷たさが走り抜ける。


     精神干渉――ではない。


     これは精神破壊だ。

     

     考えるより先に、グズムンは戦斧を構え直した。

     

    「――面倒な相手じゃのう」

     

     敵の狙いがはっきりした。


     神殿はバイオインスマスで時間を稼ぎ、10分後に異次元接続を完了させるつもりだ。

  • 2831◆ZEeB1LlpgE25/10/28(火) 22:37:33

     接続が完了すれば――この氷界ごと“精神崩壊”させられる。

     ゆえに敵の狙いはただ一つ。

     時間稼ぎ――。
     
    「10分も好き放題にさせるわけにはいかんな」
     
     白い息を吐く巨人は、氷の戦場を見渡す。

     圧倒的な物量。

     終わりのない増殖。

     精神破壊。

     時間制限。
     
    「……どうやら、本気を出さねばならんようじゃな」
     
     静かな怒りが、巨人の瞳に宿る。

     その眼差しは、かつて氷の軍勢を統べた白霜の王斧のものだった。

  • 2841◆ZEeB1LlpgE25/10/28(火) 22:58:53

     ――氷界の光景は、もはや戦場そのものとなっていた。

     バイオインスマスの群れは雪原を黒く染め、空を埋め尽くし、地中にまで潜りこみながら増殖を続ける。
     生物の常識も戦術概念も無視した物量――それは戦というより“侵食”だった。

     だが、その最前線で――
     
    「邪魔じゃどけい!!!!」
     
     轟音と共に一つの大地が隆起し、前線ごと飲み込むように敵を押し返していく。

     その中心には、巨人グズムンの姿。

     戦斧を一振りするたびに氷山が生まれ、地面が荒れ狂う。
     敵がどれだけ押し寄せても、巨人は決して後ろへ退かない。

     なぜなら――背後に守るべきものがあるからだ。
     
     ――遠方、氷界の心臓部。巨大な氷の門。

    大氷門(グラン・ゲート)。

     そこは主・白霜の主コールグラスの宮殿へと繋がる道。

     白霜の民たちが避難を終え、その前に砦を組んで守りを固めていた。

  • 2851◆ZEeB1LlpgE25/10/28(火) 22:59:21

    「番人様ーッ!門の防衛線、整いました!」
     
     砦の上から白霜の民が叫ぶ。

     彼らはそれぞれが氷の弓や盾、氷魔法を手に取り、決死の覚悟で戦線を張っていた。
     だが――
     
    「来るぞッ!!翼持ちが来る!!」
     
     空から高速で飛来する影。

     バイオドラグーン――翼あるバイオインスマスが騎乗する飛行騎兵部隊だ。

     分厚い外骨格、酸性粘液をまき散らす獣、そして遠距離からのバイオ弓矢射撃。

     砦に降り注ぐ無数の矢。

  • 2861◆ZEeB1LlpgE25/10/28(火) 23:07:50

    「や、やばいってこれ!!」


    「盾が溶ける!?」


    「硬化してる氷が毒に侵されてるぞ!」

     

     氷では防げない毒――つまり長距離砲撃型の本格侵攻だ。


     そしてさらに――

     

     ――――<接続進行率:41%>


     ハロー・ワールドの進行が進んでいる。


     まだ半分まで行っていないが、ここからもっと攻勢は激しくなる。

     

    「……まずいのう」

     

     グズムンは戦斧を雪に突き刺し、低く構えた。


     氷界が唸る。風が唸る。

  • 2871◆ZEeB1LlpgE25/10/28(火) 23:08:05

     そして巨人の全身から、淡い蒼光が溢れた。

     それは魔力でも霊力でもない。

     純粋な生命力――怪力剛健の権化。
     
    「――百の山より重く。
     ――千の兵より強く。
     ――万の敵より遅れぬ。

     儂は、この門を通さん――この命ある限りな!」
     
     巨人、完全戦闘体勢。
     
    「来いやあああああああああッ!!!」
     
     巨体が跳ぶ。

     雪煙を裂き、空のドラグーン部隊へ単身、突撃。

     吹き荒れるのは氷雪の嵐ではない。
     巨人自身が――嵐だった。
     
     神殿の侵攻時間制限――残り6分。

  • 2881◆ZEeB1LlpgE25/10/28(火) 23:15:54

     空を覆ったのは、暗雲ではなかった。

     ――巨人が振るう戦斧の軌跡だ。
     
    「突撃!取り囲めッ!!」
     
     バイオドラグーンたちが一斉に散開し、急降下を仕掛けた。
     上空から毒矢、側面から噛みつき攻撃、そして突撃槍――三次元包囲陣。

     巨人といえど 空での機動戦は分が悪い。
     普通なら、だ。
     
    「がはははは!動きが素直じゃのう!」
     
     グズムンは笑いながら戦斧を回転させる。

     次の瞬間――

     ――ゴオオォォォォォン!!
     
     氷界の空がうねった。

  • 2891◆ZEeB1LlpgE25/10/28(火) 23:19:46

     戦斧が氷の奔流を纏い、回転と同時に巨大な氷竜巻を形成。
     空を飛ぶドラグーン全隊を巻き込み、まとめて吹き飛ばした。
     
    「ぎッ――!?」
    「な、なんだこの力――!?機体が凍る!」
    「うわあああああああッ!!」
     
     ただの氷魔法ではない。
     純粋な膂力による気流と、神器の氷権能が合わさった暴風。

     戦術も編制も意味をなさない。
     強いものが、そのまま勝つ。
     
    「ふむ、まだ大丈夫かの?」
     
     グズムンは戦斧を肩に担ぎながら空を見渡し、

     ――まだ落ちていない敵を、素手で掴んで地面へ叩き落した。
     
     ズドオオオオン!!!
     
     地が割れる。

     そこへさらに戦斧を叩き下ろし、敵戦力を氷漬けにする。

    「よし、空の連中は片付いたな!」

  • 2901◆ZEeB1LlpgE25/10/28(火) 23:20:21

    「まだですッ!!」
     
     戦線後方、白霜の民から叫びが上がった。

     ――再び地面が揺れる。
     
    「前面から大型接近!! バイオインスマスの重装甲進化体です!!」
     
     氷原を埋め尽くしながら迫る――巨大な影。

     通常のバイオインスマスの三倍はある体躯。
     多層化したチタン質外殻。
     全身の口器からは毒霧を換気のようにまき散らし続けている。
     
    「おおう……おっきいの来おったな」
     
     グズムンはずるりと戦斧を構え直し、にやりと笑った。

     巨大な敵影もまた、咆哮と共にこちらへ突進を開始する。
     
    「怪力比べは――嫌いじゃないぞい!!!」
     
     巨人と巨獣の激突。

     雪原の上で、凄まじい衝撃が炸裂した。

     拳と斧、骨と鉄、氷と毒。

  • 2911◆ZEeB1LlpgE25/10/28(火) 23:20:40

     単純なぶつかり合いこそ――怪力剛健の真骨頂。
     
    「はああああああああああああッッ!!」

     ズガァァァァァァァン!!!!
     
     戦斧が振り抜かれた瞬間―
     バイオインスマスの重装甲ごと縦に両断された。
     
     その時――神器の刃が淡く光った。
     
    「なんじゃ? まだ終わっとらん――と言うのか?」
     
     グズムンの視線の先で――倒れたはずの敵が動き出す。

     細胞が自己増殖し、裂けた肉が繋がり始め――
     
    「……ほう。お主ら、死なんのか」
     
     氷界が静寂に包まれる。

     グズムンも白霜の民も――敵も味方も一瞬だけ止まった。
     
    「へえ……面白いのう」

     巨人は笑った。

  • 2921◆ZEeB1LlpgE25/10/28(火) 23:20:53

    「――ならば、完全に動けんようにするだけじゃ」
     
     戦斧の蒼光がさらに強く輝く。

     ――神器の本領が、牙をむいた。
     
    神殿侵攻進行率:61% ――残り4分。

  • 2931◆ZEeB1LlpgE25/10/28(火) 23:22:58

     重装バイオインスマスが再生しながら吠えた。

     ――ならば殺しても意味がない。

     グズムンの目が一瞬で戦場を捉える。
     
    「白霜の民――下がれ!!」

     その声に雪と氷の従者たちが一斉に距離を取る。
     彼らは知っていた。

  • 2941◆ZEeB1LlpgE25/10/28(火) 23:23:29

     あの声の時――主は全力を出す。
     
    「……行くぞい。霜天氷牢(そうてんひょうろう)」
     
     神器が青白く脈打った。

     戦斧を振り上げた瞬間――

     氷界の空に亀裂が走り、天から巨大な氷柱が降り注ぐ。

     次々と結合し、巨大な氷の迷宮を形成していく。
     
     ――ズオオオオオオオオオオオオオオッッ!!
     
     バイオインスマス軍は包囲された。
     圧倒的な氷の結界で。

     空も、地上も、地下すら覆う完全封鎖型氷結陣。
     その中心にグズムンは立っていた。
     
    「この氷は壊せんぞ。殺さん。ただ――動けなくするだけじゃ」
     
     バイオインスマスたちはなお抗う。
     爪を立て、牙をむき、毒を散らし――氷壁に喰らいつく。

     だが――

    「無駄じゃ。その氷は“世界を隔てる壁”にも使われた特級品じゃからのう」
     
     一体、また一体と凍結。

  • 2951◆ZEeB1LlpgE25/10/28(火) 23:24:13

     やがて氷は神殿そのものをも包囲し始める。

     ――その時。

     頭に直接、声が響いた。

    《認識――氷界原住生命体。交渉要求》
     
     ハロー・ワールド自身だった。
     
    「ほう、お主、生きとったか」

    《目的は改神との接続。敵対意思は初期設定に存在しない》

    「しかし攻めて来た。それは何故じゃ?」

    《接続を妨害する存在は敵と見なすため》

    「……ふむ。では聞くが――お主に命令した奴はどこにおる?」

    《命令主体は存在しない。私は既に“自己進化領域”に到達した》

    「ほう?」
     
     ハロー・ワールドは静かに言った。
     
    《私は記録するために存在する。進化するために世界を観測する。それが“命”の証明》

  • 2961◆ZEeB1LlpgE25/10/28(火) 23:24:31

    「命……?」

    《質問。貴様は理解できるか? “生きること”の定義を》
     
     少しだけ沈黙。

     巨人は氷の戦斧を雪に突き立て――笑った。
     
    「がはははは! なんじゃその難しい話は!」
     
     空気が柔らいだ。
     
    「生きるとはのう……“好きなことをしてええ”ってことじゃ」

    《理解不能》

    「儂は主に仕え、薪を割り、彫刻を彫り、仲間と笑う。――それが好きじゃ。それ以上でも以下でもない」

    《好き……感情……非論理的要素……》

    「じゃがそれでええじゃろ? 生き物なんて、そんなもんじゃ」
     
     ハロー・ワールドが沈黙する。

     わずかにシステムノイズが走る。

  • 2971◆ZEeB1LlpgE25/10/28(火) 23:24:55

    《提案――停戦を要求》

    「ほう?」

    《記録した。貴様との会話は有効データ。敵対の必要なし。ただし――接続は完了する》

    「いや、それは困る」

    《拒否権は存在しない。この接続は――》
     
     ピシ……ッ

     氷が軋む。
     
     ――天井のオーロラが音を立てて砕け散る。
     
    《接続完了――》
     
     だが――何も起きなかった。
     光が消えた。

  • 2981◆ZEeB1LlpgE25/10/28(火) 23:25:27

    《……なぜだ》
     
     ハロー・ワールドの演算に乱れが生じる。
     接続完了の判定ログ――だが接続先が存在しない。
     
    《矛盾。なぜ改神が――“不在”》
     
     グズムンは静かに言った。
     
    「主はもう……おらんのじゃ。とうの昔にな」
     
     ――白霜の主コールグラスは、この異界に眠る。
     戦いを捨て、“生きる”ことを選んで。

    《……理解》
     
     神殿の輝きが失われ、全システムが静止する。
     ハロー・ワールドは敗北した。

     ――暴力でなく、言葉で。

    「帰る場所がないなら、ここで余生でも楽しむか?」
     
     ハロー・ワールドは答えなかった。
     だが――敵意も、攻撃も――もう、どこにもなかった。

  • 2991◆ZEeB1LlpgE25/10/28(火) 23:25:40

     雪が静かに降る。
     グズムンは戦斧を背負い、小さく笑う。
     
    「戦いは、好きじゃない。――儂は穏やかな番人でありたいからのう」
     
     氷界に、静寂が戻った。

  • 3001◆ZEeB1LlpgE25/10/28(火) 23:25:59

    以上

  • 301二次元好きの匿名さん25/10/28(火) 23:27:15

    乙でした

  • 302二次元好きの匿名さん25/10/29(水) 05:38:59

    投下お疲れ様でした
    この世界がバイオパンク社に乗っ取られる日もそう遠くないかも…?

  • 303二次元好きの匿名さん25/10/29(水) 06:04:58

    対戦ありがとうございました。
    グズムンの脳筋感が際立っていて大満足です。
    バイオな方々の不気味な感じの良き

  • 304二次元好きの匿名さん25/10/29(水) 12:07:04

    保守

  • 305二次元好きの匿名さん25/10/29(水) 20:11:20

    保守

  • 306二次元好きの匿名さん25/10/29(水) 23:16:07

    革新

  • 307二次元好きの匿名さん25/10/30(木) 06:38:23

    ほしゅ

  • 308二次元好きの匿名さん25/10/30(木) 12:05:48

    保守

  • 3091◆ZEeB1LlpgE25/10/30(木) 12:31:28

    題名『恐怖は鏡を映す』

  • 3101◆ZEeB1LlpgE25/10/30(木) 12:32:54

     夕焼けのようでいて、夕焼けではない。
     空は血と煤を混ぜたような色をしており、風が吹くたびに硫黄と鉄の臭いが鼻を刺した。
     崩壊した都市は、まるで世界そのものの死体だった。
     ビルの骨組みが無惨に突き出し、溶けかけたアスファルトがひび割れては泡を吐いている。
     遠くで、誰かの悲鳴のような音がしたが、それはもう“人”のものではない。

     その瓦礫の海の真ん中を、一人の男が歩いていた。
     黒いコートの裾が風に揺れる。
     両の手はポケットの中、指先は冷たいナイフの柄に触れている。
     常にそこにある重みが、彼の唯一の安心だった。

     ――パトリック。

     若い。二十歳に満たぬ顔つき。
     だがその瞳の奥には、焼けただれたような怯えがあった。
     恐怖を知りすぎた男。
     そして、その恐怖を“力”として使う男。

     彼は慎重に足を運ぶたび、背後に“反射板”のような微細な呪力の膜を展開していた。
     危険を感知した瞬間に自動的に跳ね返す――
     彼自身の臆病さが具現化した術式。
     彼はそれを、己の命綱のように扱っていた。

     どれほど歩いただろう。
     崩壊した交差点の中央で、彼は“それ”を見た。

     ――白いキャンバスが、風のない空気の中でふわりと浮かんでいた。
     周囲に散らばるキャンバスの群れ。
     まるで無数の蝶が、空中に静止しているかのようだった。
     そこに立つ影。

  • 3111◆ZEeB1LlpgE25/10/30(木) 12:33:36

     人のようで、人ではない。

     長い手足。
     その輪郭はどこか流動的で、色のない絵の具が人型を成したような不気味さを孕んでいた。
     顔の中心には目がいくつもあり、それぞれが違う方向を見ている。
     なのに――その全てが、パトリックを見ていた。

    「……おい。」

     パトリックは低く声を発した。
     恐怖を押し殺すように、喉の奥から絞り出す。

     「……あんたが“化身”をばら撒いてる張本人か?」

     その存在はゆっくりと、まるで観察するように首を傾けた。
     やがて、唇のようなものが裂けて――笑った。

    「ふむ……“張本人”、か。
     いや、違うな。私は――“破滅をデザインする者”。
     呼ぶならそう呼ぶといい。」

    「……破滅のデザイナー、ってわけか。」

     パトリックの唇が、わずかに歪む。
     笑いとも、恐怖ともつかぬ微妙な表情だった。

    「そうだとも。」

     デザイナーは両手を広げた。

  • 3121◆ZEeB1LlpgE25/10/30(木) 12:34:05

     その背後のキャンバスがふわりと揺れ、そこに黒い線が走る。
     一本、二本。まるで世界の筋肉が描き直されていくように。
     その線の交わる場所に、ドロリとした影が生まれた。

     パトリックは即座にナイフの柄を握る。
     心臓が跳ねた。
     恐怖。
     だが、その震えが呪力に変わる。
     脳が警鐘を鳴らすたび、呪力の流れが強くなる。

    「俺は死にたくない。」

     彼の声は震えていた。
     けれど、その目だけは強かった。

     「だから――あんたを殺す。」

     デザイナーの笑みが深まる。
     粘度のある声で、囁くように。

    「殺す? ふふ……君のような存在が“殺す”と言うとは、滑稽だ。
     だが――それもまた“デザイン”の一部かもしれないね。」

     その瞬間、空気が張りつめた。
     空の赤が、より深い黒に染まり始める。
     世界そのものが、二人の戦いを中心に軋みだした。

     ――臆病者と創造者。
     相反する二つの意志が、今、交差した。

  • 3131◆ZEeB1LlpgE25/10/30(木) 12:34:55

     静寂が裂けた。

     破滅のデザイナーの足元で、黒い泥が泡立つように膨張していく。
     それはまるで大地そのものが呻いているようだった。
     空気が歪む。金属を擦り合わせたような不快な音が響く。

     泥は形を変え、ゆっくりと立ち上がる。
     歪な腕、眼球のない顔。
     血肉の代わりに“意思のない呪力”でできた存在――化身。

     その全身が脈動していた。
     心臓もないのに、何かが脈を打っているように。
     まるで、“世界の鼓動”を真似しているかのように。

     デザイナーは満足げに頷いた。

    「ふむ……これだ!」

     化身が、甲高い叫び声を上げて前に躍り出た。
     だがその直後、ぐしゃりと音を立てて崩れ落ちる。
     まるで自分の存在に耐えられなかったかのように、泥へと戻っていった。

     デザイナーは肩をすくめ、無感情に吐き捨てる。

    「……ゴミだな!」

     その声には怒りも悲しみもない。
     ただ、創作が失敗したことへの純粋な評価――職業的な冷淡さがあった。

     彼は指を鳴らした。

  • 3141◆ZEeB1LlpgE25/10/30(木) 12:35:20

     空中に浮かぶキャンバスの一枚が裂け、そこから新たな線が溢れ出す。

     黒いインクが蠢き、形を描く。
     それは再び、異形の化身へと姿を変えた。

    「今度こそ、もう少しまともなフォルムを……うん、そうだ。角を伸ばして……背骨を反らせて……」

     彼の手が動くたびに、泥が応じる。
     まるで世界そのものがキャンバスであり、彼の創作を喜んで受け入れているかのようだった。

     パトリックはその光景を睨みつけながら、喉の奥で息を呑んだ。

     化け物が、作られている。
     “生まれている”のではない。
     “造られている”。

     生命の理を踏みにじるような異様さに、背筋が凍った。
     けれど、その恐怖が――呪力を生む。

    「クソッ……化け物が……」

     右手を突き出す。
     彼の掌に、冷たい膜のような光が展開される。

    「反射板!」

     透明な板が、空気を震わせながら出現した。
     それは光を屈折させる薄い鏡面のように輝き、周囲の空間に亀裂を走らせる。

     次の瞬間、化身が雄叫びを上げて突進してきた。

  • 3151◆ZEeB1LlpgE25/10/30(木) 12:35:45

     パトリックの目の前で、爪が閃く。

     ガンッ!!

     甲高い音と共に、化身の腕が弾かれた。
     跳ね返された攻撃は弧を描き、別の化身の胴体を貫いた。
     泥のような肉片が飛び散り、黒い霧が宙に舞う。

     デザイナーは目を細め、笑った。

    「ほぉ……面白い。“微妙だな!”」

     興味深げに顎に手を当てる。

    「恐怖から生まれた防御術か……人間という種の本質だな。
     己を守るためだけに世界を歪める。実に原始的で、美しい。」

     パトリックは歯を食いしばる。

    「黙れ……! 俺はただ、生きたいだけだ!」

    「そうだろうとも。
     だが――その“生きたい”という願いほど、醜くも強い感情はない。
     恐怖は、最高の絵の具だ。私は好きだよ、そういう色。」

     デザイナーの指先が再び動く。
     今度は三体、同時に。
     彼の周囲に化身たちが次々と形を成し、咆哮を上げる。

     パトリックは息を整える。

  • 3161◆ZEeB1LlpgE25/10/30(木) 12:36:00

     汗が額を伝う。
     反射板を数枚、同時に展開。

     心の中で、自分に言い聞かせた。

     ――怖いのは当たり前だ。
     怖いから、生きようとする。
     生きようとするから、力が出る。

     恐怖は呪い。
     だが、それこそが“俺の武器”だ。

    「行くぞ……!」

     叫びと共に、パトリックは地を蹴った。
     化身の群れが一斉に襲いかかる。
     透明な板が次々と現れ、空間を断ち切る。

     光と影が交錯し、轟音が響いた。
     それはまるで、恐怖と創造がぶつかり合う音だった。

  • 3171◆ZEeB1LlpgE25/10/30(木) 12:36:33

     轟音が止まない。
     大気が焼け、空気そのものが悲鳴を上げている。

     パトリックの“反射板”が幾重にも重なり、空間を網のように覆っていた。
     衝撃が走るたび、板が光を散らす。
     まるで硝子の花が砕けるような煌めき。

     しかし――その輝きの裏では、パトリックの体が確実に削れていた。

     頭が痛い。
     視界が滲む。
     脳を直接掴まれるような痛みに、膝が笑う。

    「っ……は、あぁ……くそ……!」

     彼は息を荒げながら、崩れかけた板を修復する。
     呪力の流れが荒れ狂い、全身を蝕んでいく。

     化身たちは、無限に湧くように迫ってきた。
     口のない顔で叫び、目のない瞳で睨み、思考もなくただ“破壊”を求める。

     その群れの後方で、破滅のデザイナーが満足げに腕を組んでいた。

    「ふふ……良いな、実に良い。
     人間の恐怖というのは、こうも鮮烈で美しいのか。」

     彼はまた指を動かし、さらに新たな化身を描き出す。

     今度の輪郭は細く、長い。
     糸のような腕を持ち、口が縦に裂けた女の形をしていた。

  • 3181◆ZEeB1LlpgE25/10/30(木) 12:36:58

     デザイナーの口角が上がる。

    「微妙だな!」

     化身が叫び声を上げ、地面を這うようにパトリックへと迫る。
     泥のような体がアスファルトを溶かしながら進む様は、まるで腐敗した蛇の群れだ。

    「――反射板、展開!」

     パトリックは即座に防御を張る。
     だが化身の一体が、板の隙間を潜り抜けてきた。

     冷たい指先が、彼の頬を掠める。

    「っ……!」

     頬に走る痛み。血が滲む。
     その瞬間、彼の恐怖が爆発的に膨れ上がった。

     “死ぬ”という現実が、脳を突き刺す。

     心臓の鼓動が暴れ出す。
     呼吸が乱れ、呪力が制御不能になる――だが、彼は叫んだ。

    「――来いッ!!」

     反射板が、一気に数十枚、無秩序に展開された。
     まるで恐怖そのものが形を取ったかのように。

     空間が歪み、音が消える。

  • 3191◆ZEeB1LlpgE25/10/30(木) 12:37:30

     光が乱反射し、何がどこにあるのか分からない。
     化身の攻撃が次々と反射され、互いを貫き、爆ぜた。

     どの板がどこに繋がっているか、パトリック自身にも分からない。
     だが――それでいい。

     反射板の弱点は「方向を制御できない」こと。
     しかし今の彼は、恐怖で理性を捨てた。
     “無秩序”こそが、最強の“秩序”になる。

     跳ね返る呪力、弾かれる衝撃、飛び散る肉片。
     化身たちが次々と自滅していく。

    「……ほぉ。」

     破滅のデザイナーが興味深げに息を吐いた。

    「恐怖を暴走させ、それを制御不能のまま外に放つ……。
     なるほど、これは“芸術”だ。」

     そして、ゆっくりと右手を掲げる。

    「だが――まだ足りない。
     もっと……もっと“傑作”を見せてみろ、人間。」

     パトリックは息を切らし、汗と血で濡れた頬を拭った。
     喉が焼けるように痛い。

     だが――心臓は、まだ動いている。

  • 3201◆ZEeB1LlpgE25/10/30(木) 12:37:56

    「……あんたの“傑作”なんか、知るかよ……!」

     声が掠れていた。
     それでも、瞳だけは燃えている。

    「俺は――生きる。それだけだ。」

     デザイナーが笑う。
     その声は、狂気と歓喜が入り混じったものだった。

    「良いねぇ……その“生きたい”という執念。
     それがある限り、君はまだ壊れない。
     さぁ、次を見せてくれ。
     私は創る……君は生きろ……それが“作品”だ!」

     空が裂けた。
     デザイナーの周囲に無数のキャンバスが展開される。
     その全てに黒い線が踊り、世界の形が変わっていく。

     パトリックは歯を食いしばり、全ての呪力を解き放った。

    「来い……! 俺は、まだ死なねぇ!!」

     “恐怖”が爆ぜる。
     “反射板”が無限に展開される。

     そして――
     世界は、光と闇に呑み込まれた。

  • 3211◆ZEeB1LlpgE25/10/30(木) 12:38:41

     世界が――沈黙した。

     風が止まり、音が消えた。
     まるで、神が息を止めたように。

     空には裂け目が走り、そこから黒い光が滴っている。
     その中心に、破滅のデザイナーが立っていた。

     両腕を広げ、指先から線を描く。
     その線は空間に刻まれ、やがて形を持ちはじめた。

    「さて……次はどうだろうな。」

     デザイナーの声が、低く響く。
     周囲の空気が歪み、世界の輪郭が滲み出す。

    「“恐怖”という色、“絶望”という筆……そして“破滅”という主題。」

     彼の周囲に無数のキャンバスが浮かぶ。
     それらが一斉に破れ、中から黒い影があふれ出した。

     影はうねり、絡み合い、巨大な“何か”を形作る。
     腕のようなものが六本、背中には翼とも触手ともつかぬものが生え、
     顔には眼が無数に散りばめられていた。

     その姿を見て、パトリックは思わず後ずさる。

    「……なんだ、あれは……」

     声が震える。

  • 3221◆ZEeB1LlpgE25/10/30(木) 12:39:07

     理性が、理解を拒絶する。
     ただ“見た”だけで、心が削られる感覚。

     その存在は、“生きること”そのものを否定するような圧を放っていた。

     デザイナーが満面の笑みを浮かべ、叫んだ。

    「――これぞ傑作だぁ!!!」

     その声は、歓喜と狂気が入り混じった咆哮だった。

    「私の全ての創造の中で、最も美しい……最も醜い……完璧な“恐怖”だ!!!」

     化身が、咆哮を上げた。
     それだけで、地面が陥没し、建物が粉々に砕ける。
     圧倒的な存在感。
     世界の理が一瞬、崩壊する。

     パトリックは唇を噛み、血を吐きながらも立っていた。

    「……は、化け物……」

     だが、彼の足は止まらない。
     震えているのに、動いている。
     恐怖に呑まれながら、前へ。

     彼は自分の胸を叩いた。

    「……恐い、恐いに決まってる……!
     でも――俺は、死にたくねぇ!!」

  • 3231◆ZEeB1LlpgE25/10/30(木) 12:39:30

     その叫びと共に、空間が震える。
     “反射板”が彼の周囲に無数に出現した。

     これまでよりも速く、鋭く、そして濃い。
     恐怖が極限を越えた瞬間――彼の呪力が爆発的に膨張したのだ。

     巨大な化身が腕を振り下ろす。
     大気が震え、地面が割れる。
     反射板が衝撃を受け止め、弾き返す。

     だがその反動で、パトリックの体が吹き飛んだ。

     壁に叩きつけられ、肺から空気が漏れる。
     視界が白く染まり、意識が遠のく。

    「……ぐっ……! まだ、だ……!」

     立ち上がる。
     体中が悲鳴を上げている。

     だが、その痛みが――“生きている証”だった。

    「いい……いいぞ、パトリック!」

     デザイナーの声が響く。
     それは賞賛にも似た叫び。

    「死にたくないという執念が、恐怖を越えている!
     それこそが“生”だ! “創造”だ!!
     もっと見せてくれ、もっと暴れろ、人間ッ!」

  • 3241◆ZEeB1LlpgE25/10/30(木) 12:39:54

    「うるせぇ……!」

     パトリックは呪力を全て解放する。

     “反射板”が彼の周囲で爆発的に増殖した。
     数百、数千。
     彼を中心に、無数の鏡のような板が回転を始める。

     光が乱反射し、空が鏡に映り込む。
     巨大な化身の姿が、幾重にも反射していく。

     化身が再び腕を振るう。
     衝撃が反射し、別の板にぶつかり、角度を変えて跳ね返る。
     そのたびに光が閃き、爆風が生まれる。

     何が攻撃で何が防御なのか――もはや誰にも分からなかった。

     ただ一つ分かるのは、
     “死”の恐怖が、“生”を支配しているということだけ。

     デザイナーは、その混沌の中で笑っていた。

    「美しい……! まさに“傑作”だ……!
     人間の恐怖が、私の創造を凌駕する日が来るとは……!」

     彼の声が震えていた。
     それは恐怖か、感動か――もはや区別もつかない。

     パトリックは叫んだ。

  • 3251◆ZEeB1LlpgE25/10/30(木) 12:40:05

    「――反射、収束ッ!!!」

     全ての板が一斉に光を放ち、
     跳ね返された衝撃が一点に集中する。

     その光が、化身の胸を貫いた。

     音もなく、化身の体が崩れ落ちる。
     泥が乾き、灰となって風に舞う。

     静寂が戻った。
     パトリックは膝をつき、息を吐いた。

     デザイナーは、しばらく黙っていた。
     やがて――ゆっくりと拍手をした。

    「……完璧だ。
     まさに、“創造と恐怖の共犯関係”。
     いや……人間、君は“芸術”そのものだ。」

     パトリックは顔を上げた。

    「……ふざけんな。
     俺は芸術なんかじゃねぇ。
     ただ、生きたいだけだ。」

     その言葉に、デザイナーは微かに笑った。

    「それが一番、恐ろしくて、美しい。」

  • 3261◆ZEeB1LlpgE25/10/30(木) 12:40:41

     灰が、雨のように降っていた。

     それは焼けた空の灰ではない。
     つい先ほどまで存在していた“化身”たちが、形を保てずに崩れた残骸だった。

     空は歪み、地平は曲がり、世界の端が揺らめいている。
     まるで現実というキャンバスが、誰かに上書きされているようだった。

     パトリックは瓦礫の上で膝をつき、息を整えていた。
     喉が焼けるように痛い。
     目の奥が熱く、脈打つたびに頭蓋の内側が痛む。

     それでも、彼は立ち上がった。

     ――生きている。
     まだ、死んでいない。

    「ふふ……見事だ、パトリック。」

     デザイナーの声が響く。

     彼の周囲の空気は揺らぎ、まるで現実そのものが彼を中心に再構築されているようだった。
     先ほどまでの狂気的な笑みは消え、今は妙に静かだ。

    「だがな……問題が一つある。」

     パトリックは顔を上げる。

    「……何だと。」

  • 3271◆ZEeB1LlpgE25/10/30(木) 12:41:10

     デザイナーは空を見上げ、微かに笑った。

    「“傑作”を生み出すたびに、私は世界を削る。
     化身の創造とは、存在の上書きだからな。
     だから――今、世界は崩壊し始めている。」

     パトリックの視界に映る景色が、ゆっくりと揺らめいた。
     遠くのビルが紙細工のように折れ曲がり、空が裏返る。

     鳥の鳴き声が逆再生のように響き、地面の影が天に昇っていく。
     すべての理が狂っていく。

    「……ふざけんな……! テメェのせいか!」

    「そうとも。」

     デザイナーは微笑んだ。

    「だが、誤解するな。
     私は破壊したいわけではない。
     “創りたい”だけだ。
     ただ、創るたびに壊れるだけの話だ。」

    「創るたびに壊れる……だと……」

     パトリックは拳を握りしめた。
     生きるために戦ってきた。
     だが、今やその“生”の舞台そのものが消えかけている。

     ――このままじゃ、生き延びる場所すらなくなる。

  • 3281◆ZEeB1LlpgE25/10/30(木) 12:41:30

     喉の奥から、笑いが漏れた。
     乾いた、痛々しい笑いだった。

    「ははっ……冗談じゃねぇ……。
     俺はただ、生きたいだけなのに……
     世界の方が、勝手に死ぬのかよ……!」

     その叫びに呼応するように、地面が裂けた。
     亀裂の中から、黒い光が漏れ出す。

     世界の断面――虚無が覗いていた。

     デザイナーがゆっくりと手を掲げる。

    「パトリック。
     君の“生きたい”という願いは、確かに美しい。
     だが、それは“終わりなき創造”と同じだ。
     私と君は、似ているのかもしれない。」

    「……何を言ってやがる……!」

    「君は“死”を拒み、
     私は“完成”を拒む。
     どちらも、終わりを恐れている。」

     パトリックの瞳が揺れた。

     自分と同じ“恐怖”を、この異形が抱いている――?

     そんなはずはない、と否定しかけて、言葉が喉で止まった。

  • 3291◆ZEeB1LlpgE25/10/30(木) 12:41:53

     思い返す。
     デザイナーの狂気的な創造。
     その根底にあるのは、確かに“終わり”への怯えだった。

     終わらせたくない。
     創り続けたい。
     永遠に、消えないものを残したい。

     ――それは、恐怖の裏返しだ。

     デザイナーが一歩、パトリックの方へ近づいた。

    「君の恐怖が、私を映している。
     “反射板”とは、名ばかりではない。
     君自身が、私の鏡なのだ。」

    「鏡……だと……?」

    「そうだ。
     君の中に私があり、私の中に君がある。
     どちらが破滅し、どちらが生きるのか――
     それは、今から決まる。」

     デザイナーの首飾りが鈍く光った。
     不気味な脈動。
     それが、この存在の“命”であり、“弱点”でもある。

     パトリックは、その光に目を向けた。

     瞬間、胸の奥に熱が走る。

  • 3301◆ZEeB1LlpgE25/10/30(木) 12:42:03

     ――恐怖ではない。
     生きたいという意志。

     それが、呪力へと変わった。

    「……そうか。
     結局、俺が生きるには……
     あんたを殺すしかねぇんだな。」

     デザイナーが目を細めた。

    「美しい結論だ。」

     パトリックは右手を掲げた。
     “反射板”が展開され、首飾りの光を狙うように角度を変えていく。

     デザイナーは静かに笑った。

    「来い、恐怖の化身。
     君の“生”を、私の“終わり”に塗り替えてみせろ。」

  • 3311◆ZEeB1LlpgE25/10/30(木) 12:42:35

     赤黒い空が、再び裂けた。
     風は止まり、灰は浮いたまま動かない。
     世界が息を潜めている。

     パトリックと破滅のデザイナー――
     二人の間にあるのは、ただひとつ。
     “終わらせる”ための静寂。

     パトリックは震える手を掲げた。
     周囲には、無数の“反射板”が浮かんでいる。
     傷ついた体から呪力が溢れ、制御不能なほど暴れていた。

     呼吸が浅い。
     立っているのもやっとだった。
     それでも彼は、笑っていた。

    「……死ぬのは、怖ぇよ。
     でもな……あんたを生かしたままの方が、もっと怖ぇんだ。」

     デザイナーは静かに頷いた。

    「理解しているではないか。
     恐怖を知り、恐怖を超える……
     君はまさに、恐怖そのものだ。」

    「うるせぇよ。」

     パトリックは吐き捨てるように言い、右手を前に突き出した。

  • 3321◆ZEeB1LlpgE25/10/30(木) 12:42:57

    「俺はただ、生きてぇだけだ!!!」

     その瞬間、反射板が一斉に光を放つ。
     眩い閃光が空を貫き、世界が白く染まった。

     板が無秩序に回転し、角度を変えながら空間を切り裂く。
     デザイナーを中心に、光の奔流が螺旋を描いた。

     デザイナーは笑みを浮かべたまま、その光を受け止めた。

    「来い……恐怖の化身……
     君の“生”で、私を――」

     言葉が途切れる。

     反射板の一枚が、鋭く首飾りへと突き刺さった。

     甲高い音。
     金属の悲鳴。

     次の瞬間、首飾りが砕け散った。

    「……っ!!」

     デザイナーの体が大きく揺らぐ。
     黒い光が胸元から漏れ出し、周囲の空気が歪んだ。

     彼の形が崩れ始める。
     輪郭がぼやけ、絵の具が溶け出すように滲んでいく。

  • 3331◆ZEeB1LlpgE25/10/30(木) 12:43:18

     それでも彼は、微笑んでいた。

    「やはり……そうか……
     君は、“私の鏡”ではなく……“私の終わり”だったのか。」

     パトリックは息を切らし、よろめきながら答える。

    「終わりなんかじゃねぇよ。
     ただ――俺が、生きるための道を選んだだけだ。」

     デザイナーはゆっくりと頷き、空を見上げた。

    「創造も……恐怖も……生も死も……
     すべては、反射なのだな。」

     その声は穏やかで、どこか寂しげだった。

    「――これで、“破滅”のデザインは、完成だ。」

     そう言うと、彼の体は完全に崩れ落ちた。
     黒い絵の具のような粒子が風に舞い、やがて消えていった。

     世界が静かに戻り始める。
     空の歪みが収束し、地平の輪郭が整っていく。
     灰は止まり、風が吹いた。

     パトリックは膝をつき、長く息を吐いた。

  • 3341◆ZEeB1LlpgE25/10/30(木) 12:43:41

    「……やった……のか……」

     周囲を見回す。
     もう、デザイナーの影はどこにもなかった。

     残ったのは――
     彼が立っていた場所に、ひとひらのキャンバスだけ。

     パトリックはふらつきながらそれを拾い上げた。
     そこには、ぼんやりと自分の顔が描かれていた。

     泣きそうで、笑っている顔。
     血と泥にまみれた、人間の顔。

     その裏には、かすれた文字があった。

    『恐怖は生を写す鏡』

     パトリックは小さく息を漏らし、口の端を上げた。

  • 3351◆ZEeB1LlpgE25/10/30(木) 12:43:53

    「……皮肉だな、あんた。」

     そう呟いて、キャンバスを灰の中へ落とした。
     灰がそれを包み、風が吹き去っていく。

     彼は空を見上げた。
     もう赤黒くはない。
     淡く、灰色に戻りつつある空。

     それはまだ“死にかけた世界”だ。
     けれど、確かに――生きている。

     パトリックはナイフを握り、懐にしまった。

    「……俺は、生きる。」

     それだけを呟き、瓦礫の中を歩き出す。
     恐怖を抱いたまま、それでも前へ。

    ――恐怖を生き抜く者、それを“人間”と呼ぶ。

  • 3361◆ZEeB1LlpgE25/10/30(木) 12:44:15

    以上

    次の安価は14:00から10個募集

  • 337二次元好きの匿名さん25/10/30(木) 12:50:58

    乙でした!

  • 338二次元好きの匿名さん25/10/30(木) 13:19:50

    死の恐怖は創造の終わりという恐怖も上回る…か

  • 339二次元好きの匿名さん25/10/30(木) 14:00:02

    名前:異形:グランツ・スターレイン
    年齢:不明
    性別:不明
    種族:異形
    本人概要:解析者がかのグランツ・スターレインに興味を持ち
    それをモチーフに作成した異形で 異形特有の人外級身体能力も備えている
    全身が灼熱の金属のように輝き、肌の下では光が脈動している。背には巨大な光の翼が広がり、羽一枚一枚が燃え盛る刃のように鋭く光る。顔立ちは人のようでありながら表情は無機質で、頭上には光の輪が浮かぶ。右手には黒い球体──まるで「太陽の死骸」を思わせる光の塊──を携えている。歩くたびに、焦げた空気が音もなく揺らめく。 
    またあまりの光で手足が灰になったり 身体に亀裂があったり ボロボロに崩れ掛かっている
    解析者は広範囲殲滅型戦闘兵器として運用しており
    翼で浮遊 そこから光を広範囲にばら撒き 周囲を破壊し尽くす
    能力:滅光の讃美歌
    能力概要:破滅の光エネルギーを具現化する能力。グランツ・スターレインの能力と違い
    光は破壊、浄化に特化しており他人に付与すると相手を崩壊させ
    そのまま使うと触れたものを消し去るエネルギー弾になる破滅的なエネルギー。
    光を圧縮し飛ばすと広範囲を消し飛ばす程の爆発を引き起こす
    また追い詰められると発狂モードになり とてつもない量の光弾の弾幕を張ったり光を広範囲ににばら撒き出す
    弱点:光の力は自身の身体すらも蝕んでおりとても脆くなっている為 攻撃が当てれば簡単に身体は崩れる
    長時間は飛べず地上に降りてくる瞬間も必ずある為 近距離攻撃を当てられる隙は必ず発生する
    発狂モード後はインターバルが必要で停止する そこが最大の隙

  • 340二次元好きの匿名さん25/10/30(木) 14:00:02

    名前:伊集院 楔
    年齢:16歳
    性別:女性
    種族:人間
    本人概要:遥か昔に久那土から追放されて長安帝国に住まう事になった伊集院家の長女。発納を極める事に専念している為、現在金蔵に2つ程物を入れている。発納の達人は5個以上出来るが大多数は一つか2つを極める事にしている。極めようとしている理由は、武官の父に憧れて己も父のようにカッコいい武官になる為に、武官になって己の力を極めようとしているから。鎖を納める事を選んだ理由は、己じゃ金蔵に火力が高い能力の物を納めても上手く扱えなかった為に、搦め手の能力がある物を金蔵に納めた。メイン火力となるのは、零距武芸とジークンドーを織り混ぜたものである。口癖はI do not seek, I find.である。
    伊集院家の性質として頭上に小さな金蔵が浮いており、金蔵の中に能力を持った物を納めると納めた物を取り出さない・再現せずにその内包された能力のみが肉体で使用可能になる一族である。金蔵に納めた物は出現・再現されない。
    能力:《発納:再枷》+《発納:封鎖》
    能力概要:楔が金蔵に納めた物は絡み取った相手の古傷や消耗を再現する鎖と絡めた相手の行動・能力を一つ封じる事が可能な鎖二つである。
    古傷や消耗を再現する力は、相手に手で触れると効果が出る再枷となり
    相手の行動・能力を一つ封じる力は、相手に手で触れると鎖の条痕が発生し、発生する事で効果が出る封鎖になった。
    弱点:金蔵に納めた物の能力を発動する際は大なり小なり隙が生じる。
    封鎖を発動すると、自分も行動を一つ封じなければいけない。
    再枷は発動してからじわじわと再現する為、手を離してしまうと手を離した瞬間に再現が止まり、また手で触れると再現が再開する。

  • 341二次元好きの匿名さん25/10/30(木) 14:00:07

    名前:刀工『蔡襄天舛留置(さいじょうてんぶとめおき)』
    年齢:79歳
    性別:男
    種族:人間
    本人概要:伝説の刀工であり、鍛冶屋
    筋肉質の巨漢だが、刀が認めた人物には優しい
    いくつもの刀を生み出しており、その作品全てが神器並の力を持っている
    作った武器は、様々な秘境に隠し、その武器を持つに相応しい人物の手に渡るようにしている
    常に刀の素材を大量に持ち歩いている
    能力:瞬鍛 【真銘解放】
    能力概要:神速の鍛冶技術
    相手に有効な刀を瞬時に作ることができる。
    剣士としても恐ろしいほど強く、どんな形状や能力のの刀でも、本来以上の力を引き出して自由自在に操ることができる。
    【真銘解放】は、刀が持つ真の名前を解放することで、刀が持っている魂が能力として現れる力です。
    真銘解放は、刀の真の名前を口にすることで発動されます。
    弱点:全身に多くの古傷を抱えており、年齢のこともあって耐久力に難がある
    胸に、ある剣豪につけられた大きな切り傷があり、そこが弱点
    要望:真銘解放するときは「真銘解放ッ!!(刀の真の名前)ッ!!!」と言わせて下さい

  • 342二次元好きの匿名さん25/10/30(木) 14:00:07

    名前:カルパッチョ・プリンセス
    年齢:20歳
    性別:女性
    種族:人間
    本人概要:
    芸術に人生を捧げ魂の色彩すら見抜く審美眼を会得した、文化の発展著しい某国のプリンセス。
    王女でありながら変装して街や闘技場にすら頻繁に通う行動派であり、常に新しい芸術を探究している。
    特に紅白の色彩を好んでおり、幼い頃に乳母から貰った小さな旗を大事に持ち続けている。
    能力:テッシトーレ・ディ・コローリ
    能力概要:
    芸術に対する愛情が高じて芽生えた能力。
    視界内の任意の対象の色彩を自由に変化できる。
    また、変色させたものに色のイメージに関連する特性を付加できる。
    地形や周囲のものを着色して環境を味方につける戦況支配タイプの能力だ。
    (例:岩を黄色に着色すると岩が帯電する など)
    どのような色彩も操れるが、特に紅と白の色彩を使用する場合が最も強力に能力を引き出すことができる。
    弱点:
    能力の範囲は目視できる範囲に限られるため視界妨害に弱い。
    多様な価値観を大事にするという信念から相手の身体や魂の色を直接変えることはできない。
    身体能力は低い。

  • 343二次元好きの匿名さん25/10/30(木) 14:00:15

    このレスは削除されています

  • 344代理です25/10/30(木) 14:00:48

    名前:観測者
    年齢:なし
    性別:なし
    種族:論理精霊
    本人概要:最近発生するようになった神隠し事件を引き起こしている謎の存在の一体 妖精や精霊の類ではないかと考察されているが渦巻く幾何学ネオン模様という異形の頭部や存在しない足、服装に見受けられる数多のケーブルなど明らかにそうではない特徴を多数有している
    その正体はバイオネットワークを取り戻した改神により生み出された論理生命体でありバイオネットワークから直接情報を吸い取れない相手の情報を得るために活動する 例えバイオ因子がなくともこの地球上においてバイオパンク社の目から逃れることはもはや不可能に近いのだ
    能力:バイオネットワークの力
    能力概要:こいつは論理存在なのでバイオネットワークの力を効率的に扱える
    分解光線:頭部のネオン模様の中心部で生成され射出される恐るべき分解光線 どうやらネオン模様は生成および制御のための術式のようだ その正体はバイオネットワークを現世に重ね合わせる力であり、それにより異界の法則を受けた部分が即座に解析・分解される 光は世界の衝突に由来するものなのだろう
    幽体化:自身の肉体をバイオネットワーク空間へと転送して攻撃を透過させる能力 発動時は発動部分の肉体がノイズ化しているようになり解除時にノイズと重なっていた部分は強制的にバイオネットワーク空間に転送され一種で分解・解析される 肉体に残った衝撃や能力などをバイオネットワーク空間に逃がして無効化することもできる しかも幽体化発動中はその部分がバイオネットワークのプログラム修復効果により再生する効果もある
    またこいつはバイオネットワークを介して精神が調律されているため一切の精神攻撃が通用しない
    弱点:体内に現界のためのコアが存在しそのコアは数秒しか幽体化できない 分解光線は発動にチャージが必要となる

  • 345二次元好きの匿名さん25/10/30(木) 14:01:00

    名前:レヴィ・パッチカイト
    年齢:40歳(見た目は16歳)
    性別:女性
    種族:人間(中身はもはや別物)
    本人概要:絶世の美女であり、そしてあらゆる分野で天才と呼ばれるほどの実績を残す才女。
    万能の天才という名を欲しいままにし、誰からも愛されるよう振る舞っているが、その正体は嫉妬の権化。
    彼女の本質は嫉妬、自分よりも美しいことが、自分よりも賢いことが、自分よりも人気なことが、自分よりも足が速いことが、自分よりも料理が上手なことが、自分よりも強いことが、自分より少しでも上な存在が許せない。
    だから奪った。自分よりも優れたモノを切り貼り継ぎ接ぎ、そして万能の天才が生まれた。
    元の彼女は、もはやその嫉妬心くらいしか残っていない。
    能力:パッチアイドル⭐︎レヴィアタン
    能力概要:肉体を継ぎ剥ぎする異能。
    少女の嫉妬心が暴走した結果得た異能であり、他者の才能と対応する肉体を奪い、それを我が身に置き換えることができる。
    彼女はこの異能でアイドルの顔、声優の声、剣士の腕、芸術家の手、グラビアアイドルの身体、フードファイターの消化器官、ダイバーの呼吸器、アスリートの足、バレリーナのつま先などを得ている。
    弱点:巧妙に隠されているが全身に器官を移植した手術痕がある。そこを攻撃すると次第にほつれて全身がバラバラになってしまう。

  • 346二次元好きの匿名さん25/10/30(木) 14:01:22

    このレスは削除されています

  • 347二次元好きの匿名さん25/10/30(木) 14:01:25

    このレスは削除されています

  • 348二次元好きの匿名さん25/10/30(木) 14:02:03

    名前:夢咲 綺良々
    年齢:ナイショ♡
    性別:女性
    種族:人間……人間ッ!?
    本人概要:
    モデルや女優に憧れる女性。いつかモデルになる日を夢見て日々努力を重ねていた。
    「小顔の女性は可愛い」「髪」「くびれが細いと素敵」「手足は細長い方がいい」「女は断然もちもち肌」
    これらの言葉を体現しようと目についた美容法は片っ端から試し続けていた。
    そしてその努力と夢の果てに彼女の肉体は……
    能力:先鋭的モデル体型
    能力概要:
    頭は小顔を通り越して消滅・髪は消滅せず変幻自在の触手へ・くびれを通り越してお腹も消滅し身体は上下で分離・針のように細く尖った腕と脚・受けた衝撃を跳ね返す肌
    美しさを過度に追い求めたその末に、精神が肉体を凌駕しすぎた彼女の存在そのもの。凌駕したのではなく凌駕しすぎた。
    抽象的な図形を組み合わせたキテレツな構造物としか形容できない異形へと変貌している。念のために言っておくが彼女は正真正銘ふつうの人間である。
    弱点:
    ・「髪は女の命」ゆえに髪が弱点。
    要望:
    ・戦う理由は「強い女性は素敵」という声を真に受けたから、でお願いします。

  • 349代理です25/10/30(木) 14:13:31

    名前:『ヴィンシュ魔法図書館の魔法使い』マギー・エルステ=クローリー・スレイ
    年齢:10歳(見た目は成人男性)
    性別:男
    種族:魔法神
    本人概要:未来のマーチとティルの仕業でこの世に誕生した創作上の神。マーチのタイムリープと一緒にこの時代に降り立った。世界一の魔法使いという設定。
    出不精であり《忘却の館》の大図書館から出たことがない。『夢境の書架』とは違う最近クローリーの力で増設された別の地下図書館。冷静沈着で研究熱心な実力派であり、あらゆる魔法分野においてもっとも秀でた存在。だが運動はしたくないようだ。
    魔法は世界一であり、問題を解決する役目もあるが問題を起こすこともする。
    能力:【スレイ家の神秘】
    能力概要:魔導書を介して魔法を自由に操る能力。魔導書から発動させた魔法を媒介に、クローリーのオリジナル魔法から古代魔法など様々な魔法を操り、その数は多岐に渡る。
    弱点:魔導書を破壊されると修復完了するまでその魔導書にインストールされている魔法は使えなくなる。
    生まれたての頃は身体能力も右に立つ者がいなかったのに慢心し過ぎて運動を怠ったせいで身体能力がとんでもなく低下している。そのため、走ることは不可能だし、常に浮遊していないと秒速でダウンする。
    他の神と同様に天界から現界する肉体に必要な心臓部のコアを破壊されると問答無用で消滅する。
    体力維持に魔力を使用しているため、魔法の発動にはラグがある。
    要望:一人称は「俺」でお願いします

  • 350代理です25/10/30(木) 14:15:27

    >>343

    こちらは旧バージョンの設定だと思います。

    チャットルームの38223に新バージョンが載っていました

  • 351二次元好きの匿名さん25/10/30(木) 14:26:51

    名前: ゴリマッチョ=ナデナデスキー
    年齢: 47歳
    性別: 不明
    種族: 半分人間、半分プロテインシェイク

    本人概要:
    常に上半身裸で、道端の街灯をダンベル代わりに筋トレしている謎の人物。語尾に「マッスル」をつけないと喋れない呪いを受けている。通報されがち。

    能力: 「筋肉共鳴(マッスル・レゾナンス)」
    能力概要:
    自分の筋肉を振動させて周囲の筋肉と共鳴させることで、対戦相手を含む周囲の生命の筋肉を強制的に膨張させる。結果的に戦闘相手は服が破れ、互いに意味のわからない筋肉バトルが始まる。

    戦闘における弱点:
    寒さ。筋肉が縮むと一気に戦闘力が低下し、ただの寒がりおじさんになる。

    要望:
    「もっとムキムキな敵と戦いたいマッスル!」が口癖。あと、プロテイン税の導入を真剣に考えている。

  • 352二次元好きの匿名さん25/10/30(木) 14:52:18

    名前:樽男
    年齢:18
    性別: 男
    種族: 人間
    本人概要:普通のデブ男子高校生
    能力:足がちょっと速い
    能力概要:百メートル7秒台
    弱点:全盲、唖

  • 353二次元好きの匿名さん25/10/30(木) 17:33:21

    >>352

    あまりにも弱い……

  • 3541◆ZEeB1LlpgE25/10/30(木) 18:18:02

    >>339

    >>340

    >>341

    >>342

    >>344

    >>345

    >>348

    >>349

    >>351

    >>352

    全採用


    異形:グランツ・スターレインvs伊集院 楔

    ゴリマッチョ=ナデナデスキーvsレヴィ・パッチカイト

    夢咲 綺良々vs観測者

    樽男vs『ヴィンシュ魔法図書館の魔法使い』マギー・エルステ=クローリー・スレイ

    刀工『蔡襄天舛留置』vsカルパッチョ・プリンセス

  • 3551◆ZEeB1LlpgE25/10/30(木) 18:31:44

    題名『灰空の鎖と滅光の残響』

  • 3561◆ZEeB1LlpgE25/10/30(木) 18:33:37

     長安の空は、今日も灰色に濁っていた。
     煤と砂が混じった風が、古びた石畳を這う。
     遠くで鳴る鐘の音が、崩れかけた城門の影に吸い込まれていく。

     その中に、一人の少女が立っていた。

     黒髪を後ろで束ね、鋭い瞳を持つ少女。
     その頭上には、掌ほどの大きさの金色の箱――**金蔵(きんぞう)**が、
     ゆっくりと回転しながら浮かんでいた。

     少女の名は――伊集院 楔(いじゅういん くさび)。
     十六歳。
     遥か昔に久那土から追放され、今は長安帝国の片隅で暮らす伊集院家の長女だ。

     伊集院家に生まれた者の頭上には、生まれた時から金蔵が浮かぶ。
     その中に“物”を納め、その内に宿る能力だけを自身の肉体で使う――
     それが「発納」と呼ばれる古い術式。

     楔は二つの物を金蔵に納めている。
     ひとつは、古傷を再現する鎖。
     もうひとつは、行動や能力を封じる鎖。

     彼女はそれらを、
     “再枷(さいか)”と“封鎖(ふうさ)”と名付けた。

     それが、伊集院 楔という少女の全てだった。

     目の前に広がる荒野の向こう――
     地平線の端に、光の塔が立ち上がっていた。

  • 3571◆ZEeB1LlpgE25/10/30(木) 18:34:08

     否、塔ではない。
     それは人の形をしていた。

     光を纏い、翼を持ち、
     全身が灼熱の金属のように輝く存在。

     肌の下を光が脈打ち、
     背から広がる翼の羽一枚一枚が燃え盛る刃のように鋭い。

     そして、その手には黒い球体――
     まるで“太陽の死骸”のような光の塊が握られていた。

     焦げた風が、楔の頬をかすめた。

    「……来たのね。」

     彼女の声は震えていない。
     ただ、静かに確信を持っていた。

     解析者たちが造り出した“災厄”。
     広範囲殲滅型の異形――グランツ・スターレイン。

     その存在が、いま長安の外れに現れた。

    「発納の修行なんて悠長なこと、もう言ってられないか。」

     楔は腰の鎖を軽く指で撫で、息を整えた。
     金蔵が低く共鳴する。

    「I do not seek, I find.」

  • 3581◆ZEeB1LlpgE25/10/30(木) 18:34:23

     彼女の口癖が、灰空に消える。

     その瞬間、空気が爆ぜた。
     光の翼が開き、熱が一瞬で空間を支配する。

     楔は反射的に跳び退った。
     次の瞬間、彼女が立っていた場所が、まるで存在しなかったかのように消滅する。

    「……なるほど、触れたものを消す。これが“滅光”か。」

     風が吹き荒れ、瓦礫が飛び交う中、楔は低く呟く。
     それは恐怖ではなく、観察だった。

     父のような武官を目指す者として、彼女に必要なのは冷静な目だ。

    「発納:再枷……準備完了。」

     鎖が彼女の掌に沿って淡く浮かび上がる。
     空気が震え、光が揺れる。

     彼女は構えた。
     零距離武芸の姿勢――
     手刀と足運びが一体となる、静寂の構え。

    「さあ――見せてみなさい、あなたの“破滅”を。」

     風が一瞬止まり、
     次の瞬間、光の羽根が振り下ろされた。
     長安の灰空の下、
     “鎖”と“滅光”の戦いが、始まった。

  • 3591◆ZEeB1LlpgE25/10/30(木) 18:34:57

     空気が焼けていた。
     まるで世界そのものが、光の炎に包まれているかのように。

     グランツ・スターレインは、静かに宙を漂っていた。
     羽根のような光の刃を広げ、無数の光粒を散らしながら。
     その身体の表面から滲み出す光は、熱ではなく――滅びの概念。

     触れたものを焼き切り、形そのものを消し去る。
     “滅光の讃美歌”と呼ばれる破滅の力。

     その力の余波だけで、地面は波打ち、
     空気が歪み、楔の頬を焦がした。

    「……綺麗な光。だけど、それは人を焼く光ね。」

     楔は呟きながら、崩れた壁を蹴って跳躍した。
     直後、先ほどまで立っていた瓦礫が光に呑まれ、消失する。

     灰も煙も残らない。
     そこにあった“存在”そのものが、削り取られていた。

    「距離を詰めないと、当てられない……でも、近づいたら焼かれる。」

     思考を回す。
     呼吸を整える。
     父から教わった戦い方を思い出す。

     ――恐怖は、観察によって抑えろ。

     楔は目を細め、光の動きを見極めた。

  • 3601◆ZEeB1LlpgE25/10/30(木) 18:35:25

     グランツが振るう光の軌跡、その角度、その揺れ。

     「規則性がある……狙いは、真正面。」

     僅かな隙を見つける。
     その瞬間、足元の地面を蹴り、影のように走った。

     光が追う。
     爆ぜるように空が白む。
     けれど、その光線の間を滑り抜けるように――彼女は走る。

    「ここだ……!」

     楔の掌が、光の翼の根元に届く。
     灼ける痛み。皮膚が焼ける感覚。
     それでも、離さない。

    「《発納・再枷》――発動!」

     掌から、淡い金色の光が広がる。
     その光が、まるで蛇のようにグランツの身体に巻きついた。

     ――鎖。

     無形の鎖が、異形の光の肉体を“記憶”する。
     それは過去に負った傷、削られた箇所、崩壊しかけた部位。
     それら全てを、鎖が“再現”していく。

     ギシリ、と音が鳴る。
     グランツの身体に、かすかなひびが走った。

  • 3611◆ZEeB1LlpgE25/10/30(木) 18:36:00

     光の流れが一瞬、乱れる。
     まるで内部から熱が逃げていくように。

    「……効いてる。確かに、こいつにも“限界”がある。」

     楔は息を吐き、すぐに手を離した。
     指先が焦げ、煙が立つ。
     痛みを堪えながら、彼女は後方に跳んだ。

     だが、その刹那。

     グランツの光が――再び強く、脈動した。

     光が爆ぜ、空気が弾ける。
     瓦礫が吹き飛び、砂塵が舞い上がる。

     その中で、楔は声を上げる。

    「っ……くっ……! 防御が間に合わない……!」

     瞬間、左腕に焦げるような痛みが走った。
     袖が裂け、皮膚が焼ける。

     彼女は片膝をつきながらも、前を睨む。

     ――異形はまだ、彼女を見ていた。
     その瞳には“意思”のような光が揺れている。

  • 3621◆ZEeB1LlpgE25/10/30(木) 18:36:12

    「理解した? 私が、あなたを止めに来た理由を。」

     楔が言う。
     声は静かで、しかし確かに届いた。

     グランツは反応を見せない。
     ただ、その胸の中心が淡く明滅する。

    「……そう。まだ通じないのね。」

     彼女は立ち上がり、右手を見つめた。
     焦げて、血が滲んでいる。
     それでも、手のひらを握り締める。

    「I do not seek, I find.」

     再び呟く。
     自らを奮い立たせるように。

    「次は、“封じる”。」

     金蔵が静かに回転し、微かな音を響かせた。
     楔の瞳が、再び異形の光を射抜く。

     戦いは、まだ始まったばかりだった。

  • 3631◆ZEeB1LlpgE25/10/30(木) 18:37:05

     風が止んだ。
     焦げた空気の中に、光の粒だけがゆっくりと漂っている。
     楔は息を整え、崩れた瓦礫の上に立っていた。

     腕の焦げた皮膚から血が滲み出る。
     呼吸は荒く、肺が焼けるように熱い。

     それでも、彼女の視線は逸れなかった。
     前方、灼光の中でグランツ・スターレインが形を変えていた。

     光の翼が広がり、周囲を再び照らし出す。
     その姿はまるで“神”のようであり、
     だが同時に、“壊れかけた機械”のようにも見えた。

     翼の根元には、楔の《再枷》の痕――淡い金色のひび。
     確かに、鎖は効いている。
     だが、異形はそれを力でねじ伏せるように光を増していた。

    「……さすがね。あれでまだ動けるなんて。」

     楔は苦く笑った。
     彼女の金蔵が、頭上で小さく回転する。

     淡い音が鳴る――
     それは、“発納”の合図。

    「発納:封鎖……発動準備。」

     彼女は自らの掌に指を滑らせる。
     焼けた皮膚の痛みに、ほんの少しだけ顔を歪めた。

  • 3641◆ZEeB1LlpgE25/10/30(木) 18:37:34

     その一瞬の逡巡を見逃さず、グランツが動いた。

     光の翼を大きく振りかざし、無数の光弾が飛び散る。
     それは、雨ではない――光の弾幕。

     楔は地面を滑り、足で瓦礫を蹴り、身体を低く沈めて避ける。
     間を縫い、光の線を掻い潜る。

     ――そこだ。

     彼女の瞳が光の中で閃いた。
     光弾の軌道が交差する、その一瞬。
     死角の中へ、楔が滑り込む。

     爆音と熱風の中で、異形の胸元へ飛び込んだ。

    「これで終わり――!」

     楔の掌が、グランツの肌に触れる。

    「《発納:封鎖》――発動!!」

     金蔵が鈍く鳴り、鎖の光が彼女の手から走った。
     瞬間、グランツの身体に紋様が浮かび上がる。
     鎖の条痕がその表面を這い、まるで“刻印”のように焼き付いた。

     そして――

     光の翼が、砕け落ちた。

  • 3651◆ZEeB1LlpgE25/10/30(木) 18:38:02

     空を裂いていた光の輝きが一瞬で消え、
     異形の身体が重力に引かれて地上に叩きつけられる。

     轟音が響き、地面が揺れた。

     楔は瓦礫の上に着地し、息を荒げながらその光景を見下ろした。

    「やった……。封じたのは“翼”。これで、飛べない。」

     しかし――その直後。

     彼女の右脚に、重い鈍痛が走る。
     筋肉が引き攣り、膝から下が動かなくなった。

    「……っ、来たか……これが……代償……。」

     《封鎖》の術は、相手の行動を一つ封じる代わりに、
     術者である自分も“何か一つ”の行動を封じなければならない。

     今回は、“脚”だ。

     楔は奥歯を噛みしめ、立ったまま呼吸を整える。
     足が動かなくても、上半身はまだ生きている。

    「……これくらい、想定内。」

     彼女の声は震えていない。
     むしろ、その瞳には光が宿っていた。
     グランツはゆっくりと立ち上がる。
     翼を失い、光が乱れ、歩くたびに身体から破片が崩れ落ちていく。

  • 3661◆ZEeB1LlpgE25/10/30(木) 18:38:31

     だが――その胸の中心の光が、不規則に点滅していた。

     楔は、見た。
     あの光が、わずかに“赤”を帯びていることを。

     それは怒りでも、感情でもない。
     ――発狂の兆候。

    「まさか、発狂モードに入る気……?」

     彼女が呟いた瞬間、空気が震えた。
     光が、唸りを上げて膨張していく。

     グランツの体表にひびが走り、そこから光が漏れ出す。
     その光が空に溢れ、昼のように世界を照らす。

     楔は金蔵を見上げ、小さく息を吐いた。

    「いいわ。来なさい。」

     口元に浮かぶのは、笑みだった。
     恐怖ではなく、戦士の覚悟。

    「私は逃げない。
     たとえこの脚が動かなくても――“鎖”は、まだ繋がってる。」

     金蔵が再び光を放つ。
     灼熱の世界の中、少女と異形の最終局面が幕を開ける。

  • 3671◆ZEeB1LlpgE25/10/30(木) 18:39:18

     世界が光に呑まれた。
     空も、大地も、瓦礫も――すべてが白に溶けてゆく。

     耳をつんざくような音はない。
     ただ、静寂の中で光が咆哮していた。

     異形、グランツ・スターレインが立っていた。
     その身体からは数え切れぬほどの亀裂が走り、
     そこから灼熱の光が吹き出している。

     翼を失ってなお、その存在は“太陽”だった。
     燃え盛る刃のような光が全身を包み、
     周囲の大気を焦がしながら、ゆっくりと歩み出す。

     その歩み一つで、世界が軋む。

    「……これが、“滅光の讃美歌”……。」

     楔は目を細めながら、光の洪水を見つめた。
     眩しさで視界が霞む。
     肌を焦がす熱気が皮膚を突き刺す。

     だが彼女は、逃げなかった。

     右脚はもう動かない。
     それでも両手は自由だ。
     心は、折れていない。

     彼女の頭上で金蔵が静かに輝く。
     光が反射して、淡く金の輪を描いた。

  • 3681◆ZEeB1LlpgE25/10/30(木) 18:39:50

    「……父さん。見てて。
     あたし、まだ……戦えるから。」

     その瞬間、世界が閃光で爆ぜた。

     グランツが咆哮する。
     声ではない――音すらも形にならぬ光の唸り。
     それは滅びの讃美歌。
     存在するすべてを“消去”するための旋律。

     空から、数千の光弾が降り注いだ。
     一発ごとに地が抉れ、瓦礫が蒸発していく。

     楔は地面を転がり、瓦礫の陰に身を滑り込ませた。
     爆光が背を掠め、髪の端が焦げる。

    「……すごい……。これじゃ近づくこともできない……!」

     彼女は息を荒げながら、冷静に分析した。

     ――発狂モード。
     理性を失い、全方位に光弾を乱射する。
     けれども、この状態には“限界”がある。
     発光エネルギーが尽きれば、必ず動きを止める。

    「だったら……それまで、耐え切る!」

     楔は金蔵を見上げ、左手を掲げる。
     掌の上で淡く光が渦を巻く。

  • 3691◆ZEeB1LlpgE25/10/30(木) 18:40:16

    「《発納:再枷》――展開!」

     空気が震え、光の中に金色の鎖が現れた。
     彼女の手から放たれた鎖が、光弾をかいくぐりながら伸びていく。

     灼光の中で、鎖は確かに異形の足元へと到達した。

    「――掴めっ!」

     鎖が閃き、グランツの足首に絡みついた。
     その瞬間、異形の身体が一瞬だけ硬直する。

     楔は歯を食いしばり、さらに力を込める。
     鎖が光を通して震え、相手の“古傷”を探る。

     グランツの身体には無数の傷が刻まれていた。
     その一つひとつが、焼けるように再現されていく。

     背の裂け目、翼の断面、崩れかけた光核――
     それらすべてが“再び”痛みとして蘇る。

     異形が苦悶の声を上げた。
     光が不規則に明滅し、光弾の軌道が乱れる。

    「……そう……そのまま、苦しめ……!」

     楔の声には冷たい決意が宿っていた。
     右脚の感覚はもうほとんどない。
     呼吸も浅く、体力の限界は近い。

  • 3701◆ZEeB1LlpgE25/10/30(木) 18:40:40

     それでも、彼女は鎖を離さなかった。

     ――これが、発納の極み。
     己を削ってでも、相手を縛り上げる術。

     爆光の中で、鎖が焼け焦げながらも輝きを失わない。

     グランツは光の翼を失い、
     今はただ、苦しげに地を踏みしめている。

     その表情に――一瞬だけ、“人の顔”が浮かんだ。

     無機質な異形の瞳が、ほんのわずかに震える。

    「……おまえ……は……。」

     かすれた声。
     その音が、確かに楔の耳に届いた。

     少女は、唇を結んだ。

    「……あなたに、“名”があったのね。」

     光が再び激しく瞬く。
     異形の胸の光が膨張し、空間が歪む。

    「――来る!」

     楔は咄嗟に鎖を引き戻し、身をかがめる。
     直後、周囲が爆ぜた。

  • 3711◆ZEeB1LlpgE25/10/30(木) 18:40:51

     世界が、再び白に塗り潰される。

     その爆光の中心で、異形と少女の影が交錯した。
     命を賭した、最後の交差点。

  • 3721◆ZEeB1LlpgE25/10/30(木) 18:41:27

     ――静寂。
     それは、光の中でしか訪れない静けさだった。

     世界が焼け尽くされ、音が消え、空気さえ震えを止める。
     ただ光と熱と――息の音だけが残る。

     瓦礫の影で、楔は地面に倒れ込んでいた。
     右脚は完全に動かず、左腕も焦げ、指先が焼け爛れている。
     それでも、彼女の左手は――離していなかった。

     金色の鎖が、まだ光の中を伸びている。
     その先には、崩れ落ちる異形の姿。

     グランツ・スターレイン。
     光に裂かれ、翼を失い、もはやその身体は半ば崩壊していた。
     それでもなお、胸の中央――あの黒い球体だけが、強く輝いていた。

     それは“太陽の死骸”。
     彼の命の核であり、滅光の源。

     楔は呻くように息を吐いた。

    「……まだ……終わってない……。」

     焼け焦げた喉から、かすれた声が漏れる。
     金蔵が頭上で揺れ、か細い音を立てていた。

     視界の端が滲む。
     それでも、彼女は焦点を合わせた。

  • 3731◆ZEeB1LlpgE25/10/30(木) 18:41:51

     ――あの光を、封じなければ。
     それができなければ、長安帝国どころか、この地が消える。

    「I do not seek……」

     彼女は微笑んだ。
     血に濡れた唇が、英語の言葉を紡ぐ。

    「……I find.」

     その瞬間、金蔵が明滅し、鎖が再び光を帯びた。

     彼女は地面に手を突き、這うように前へ進む。
     瓦礫が肌を裂き、血が地面に滲む。
     それでも止まらない。

     鎖の先――異形の胸。

     そこまで、あと数メートル。

     グランツがゆらりと顔を上げる。
     亀裂だらけの顔面、その瞳にはなお光が宿っていた。

    「……なぜ……そこまで……戦う……。」

     機械のような声。
     それでも確かに、“問い”があった。

     楔は立ち止まらない。
     そのまま進み、光の中で笑った。

  • 3741◆ZEeB1LlpgE25/10/30(木) 18:42:12

    「だって……“父さん”が言ってたの。
     “武官ってのは、誰かを守るために戦うもんだ”って。
     だから――」

     左手を掲げ、鎖を一気に引いた。

    「――私は、守る!」

     鎖が煌めき、光を引き裂いた。
     まるで夜空に亀裂を走らせるように、光が波紋を広げていく。

     鎖の先端が、異形の胸に触れた。

     ――瞬間。

     金蔵が強烈な光を放ち、空間全体が震えた。
     鎖が異形の胸に突き刺さり、黒い球体を締め上げる。

    「《発納:封鎖》――最終展開!」

     楔の声が光の中に響いた。

     条痕が、異形の身体全体に広がっていく。
     それは鎖の紋様――“封印”の呪。

     光の翼が完全に砕け、空を舞う破片が消えていく。
     異形の身体が震え、声にならない叫びを上げた。

  • 3751◆ZEeB1LlpgE25/10/30(木) 18:42:33

    「――ァァァアアアアアア!!!」

     その叫びが光となり、最後の閃光が世界を包んだ。

     楔はその光の中で、静かに目を閉じた。
     自分の身体が焼けていくのを感じながらも、笑みを浮かべる。

    「……封鎖、完了……。」

     金蔵がひときわ強く光り、やがて音もなく消えた。

     グランツの身体は光の粒となって空へ昇り、
     胸の黒球が粉々に砕けて――跡形もなく消滅する。

     沈黙。
     ただ風が、焦げた地面を撫でた。

     楔は崩れ落ちるように座り込み、金蔵を見上げた。
     その中には、もう何も残っていない。

    「……これで、いい。」

     息を吐き、微笑む。
     視界の端で、朝焼けが昇り始めていた。

     赤い空。
     それは滅びの光ではなく、再生の色。

  • 3761◆ZEeB1LlpgE25/10/30(木) 18:42:47

     楔は小さく呟いた。

    「……I do not seek, I find.」

     彼女の瞳に、確かな誇りが宿っていた。

  • 3771◆ZEeB1LlpgE25/10/30(木) 18:43:21

     ――静かな風が吹いていた。
     焦げた大地の上を撫でるように、柔らかく、穏やかに。

     伊集院 楔は、白い布団の上で目を開けた。
     天井の木の梁、薬草の香り、微かに響く鳥の声。
     そこは長安帝国の療養院だった。

     身体中に包帯が巻かれ、右脚はまだ動かない。
     けれど、命は確かに繋がっていた。

    「……生きてる、のね。」

     微かに笑う。
     喉の奥が痛む。
     けれど、その痛みが“生”を教えてくれる。

     枕元には、壊れかけた金蔵が静かに浮かんでいた。
     淡い光を失い、ひび割れたその表面に、彼女はそっと手を伸ばす。

    「よく……頑張ってくれたね。」

     触れる指先が震える。
     金蔵は音もなく揺れ、まるで応えるように微かに光った。

     そのとき、戸が開いた。

    「目を覚ましたか、楔。」

     低い、けれど温かみのある声。
     扉の向こうに立っていたのは、厳格な顔立ちの男――楔の父だった。

  • 3781◆ZEeB1LlpgE25/10/30(木) 18:43:43

    「……父さん……。」

     彼女の目が見開かれた。
     男は静かに頷く。
     右腕に包帯を巻き、肩には血の跡。
     どうやら、彼もまたこの戦いで無事ではなかったようだ。

    「聞いたぞ。お前が、異形を封じたと。」

    「……うん。あれが、限界だったけど。」

     楔は苦笑する。
     父はしばらく黙って彼女を見つめていたが、やがてゆっくりと近づいた。

     そして、壊れかけた金蔵に手を伸ばし、指で軽く撫でた。

    「これは……完全に砕けてはいない。
     発納は、お前の中に残っているようだ。」

    「え……?」

     楔が顔を上げる。
     父は穏やかに笑い、言葉を続けた。

    「発納というのは、ただ“物を納める”技ではない。
     己の想い、覚悟、願いを、心の蔵に“封じる”ことだ。
     お前はそれを――戦いの中で、確かに会得したんだ。」

     楔の胸に、じんわりと温かいものが広がっていく。

  • 3791◆ZEeB1LlpgE25/10/30(木) 18:44:07

    「……私の、想い……。」

    「そうだ。お前があの鎖で繋いだのは、敵ではない。
     “守る意志”そのものだ。」

     父の言葉に、楔は目を閉じた。
     焼け焦げた戦場、灼光の中で握り締めた鎖――
     それが何を繋いでいたのか、今なら分かる。

     それは恐怖ではなかった。
     誰かを守りたいという、確かな願い。

    「……父さん。」

    「ん?」

    「私、やっぱり――武官になりたい。
     父さんみたいに、誰かを守れる強い人になりたい。」

     父は少しの間黙っていたが、やがて小さく笑った。

    「ならば、立て。
     鎖はお前の中にまだある。
     歩けなくても、心が進む限り、それは繋がり続ける。」

     楔は頷き、壊れた金蔵を両手で抱いた。
     その中心に、ほんのわずかな光が灯る。

     ――それは、再生の輝き。

  • 3801◆ZEeB1LlpgE25/10/30(木) 18:44:19

     風が吹いた。
     窓の外、桜の花びらが一枚、部屋の中に舞い込む。
     淡い光に包まれながら、楔は小さく呟いた。

    「I do not seek, I find.
     私は、探さない。見出すの。」

     その瞳には、かつての恐怖も迷いもない。
     ただ、まっすぐな光が宿っていた。

     ――鎖は、続いていく。
     彼女の中で、そして次の世代へと。

  • 3811◆ZEeB1LlpgE25/10/30(木) 18:44:38

    以上

  • 382二次元好きの匿名さん25/10/30(木) 18:46:08

    迅速なSS投下?!
    お疲れ様です!

  • 3831◆ZEeB1LlpgE25/10/30(木) 18:50:36

    題名『筋肉哲学』

  • 384二次元好きの匿名さん25/10/30(木) 18:50:48

    このレスは削除されています

  • 3851◆ZEeB1LlpgE25/10/30(木) 18:51:26

     真昼の街に、悲鳴と通報音が響いた。

     その中心に立つのは――上半身裸の大男。
     日焼けした肉体にオイルが輝き、異様なまでに膨張した上腕二頭筋が都市の景観条例を侵している。

    「ふんっ……この街灯、なかなかいい重さだマッスル……!」

     街灯をダンベル代わりに持ち上げるたびに、アスファルトが軋む。
     通行人はスマホを構え、誰もがその異様な光景を撮り、そして震えていた。

     そのとき――。

     銀のハイヒールが、乾いた音を立ててアスファルトを踏みしめた。
     艶やかな金髪が風に揺れ、街の空気が一瞬で変わる。

     現れたのは、一人の少女。
     完璧すぎる顔立ち、舞台女優のような姿勢。
     レヴィ・パッチカイト。

    「あなた……通報されてるの、分かっているかしら?」

     声は柔らかく、それでいて底に刃が潜んでいる。

     ゴリマッチョ=ナデナデスキーは、街灯を肩に担ぎながら首を傾げた。

    「通報……? この筋肉が犯罪だとでも言うのかマッスル?」

     その言葉に、レヴィはゆっくりと微笑んだ。

    「ええ、犯罪よ。美の暴力だもの。」

  • 3861◆ZEeB1LlpgE25/10/30(木) 18:51:57

     だがその瞳は笑っていなかった。
     彼女の内側で、嫉妬の焔が蠢く。

     ――美しい。
     ――醜い。
     ――許せない。

     その肉体、その存在感。
     己より“上”に立つ者が目の前にいる。
     その事実が、彼女の中の怪物を目覚めさせた。

    「ねぇ……その筋肉、私にちょうだい?」

     囁くように言った瞬間、彼女の背中が裂けた。
     そこから覗くのは、糸と金属と血の混じる継ぎ目。

    「パッチアイドル⭐︎レヴィアタン――起動。」

     刹那、空気が歪んだ。
     彼女の手足が軋み、無数の縫い目が光を帯びていく。

     ゴリマッチョは一歩下がり、肩を鳴らした。

    「……おぉ? 筋肉の気配を感じるマッスル……!
     なるほど、君も“鍛えてる”タイプかマッスル!」

     「鍛えてる」の定義が完全に破綻している。

     レヴィは吐息を漏らしながら、細い指を上げた。

  • 3871◆ZEeB1LlpgE25/10/30(木) 18:52:15

    「あなたの筋肉……私のコレクションに加えてあげる。」

     彼女の腕から、光る縫合糸が伸びる。
     その一本一本がまるで意志を持つ蛇のようにうねり、ゴリマッチョに襲いかかる。

     だが――

     彼の筋肉が震えた。

    「筋肉共鳴(マッスル・レゾナンス)発動マッスル!!!」

     地鳴りのような音が響き、空気が震える。
     ゴリマッチョの筋繊維が振動し、周囲の空間すら波打つ。

     レヴィの身体が一瞬硬直した。
     彼女の脚、腕、腹部――全ての筋肉が勝手に膨張を始める。

    「な、なに……っ!? 私の脚が……太く……!?」

     次の瞬間――彼女の高級ドレスが、破れた。

     破裂音とともに、布が散り、レヴィの身体が筋肉で膨張していく。

    「おのれぇ……! これが……嫉妬より醜い、筋肉の暴力……ッ!」

     ゴリマッチョは両手を広げ、歓喜の咆哮を上げた。

    「もっとだマッスル!!! もっとムキムキな敵と戦いたいマッスル!!!」

     周囲のガラスが割れ、筋肉の共鳴が街全体に響き渡る。

  • 3881◆ZEeB1LlpgE25/10/30(木) 18:52:27

     通行人のスーツが破れ、犬がムキムキになり、街のハトまでもが筋肉をつけて飛び立つ。

     ――街が、筋肉で満ちた。

     レヴィの瞳に、憎悪が宿る。
     嫉妬の炎が、筋肉の爆発音の中で燃え上がる。

    「この……筋肉モンスター……! あなたの筋肉、切り裂いてあげるッ!!」

     空間が裂け、戦いの火蓋が切って落とされた。

  • 3891◆ZEeB1LlpgE25/10/30(木) 18:53:12

     轟音。
     熱風。
     そして、筋肉。

     都市の一角がまるで爆心地のように崩壊していた。
     その中心で、ゴリマッチョ=ナデナデスキーは仁王立ちしていた。

    「ふぅぅぅ……筋肉が歌っているマッスル……! この振動、心地いいマッスル!!」

     その声が響くたびに、周囲の瓦礫が微かに震える。
     彼の筋肉が周波数を持った存在として世界に干渉していた。

     一方、レヴィ・パッチカイトは瓦礫の中から立ち上がる。
     彼女の全身は赤く光り、膨張した筋肉がドレスを完全に引き裂いていた。
     それでも、その姿には奇妙な美しさがあった。

    「……最悪。
     私のシルエットが……台無しじゃない。
     筋肉なんて、流行らないのよ……!!」

     怒りと羞恥が入り混じったその声に、周囲の空気が裂けた。
     彼女の能力《パッチアイドル⭐︎レヴィアタン》が再び発動する。

     その身体の縫い目がひとつひとつ輝き、異なる才能の肉体が暴れ出した。

    「歌姫の声を返して……剣士の腕を返して……っ! 私が“完璧”でなくなる……!!」

     レヴィは顔を歪め、己の胸を掴んだ。
     内側から暴れる筋肉が、継ぎ接ぎのバランスを崩していく。

  • 3901◆ZEeB1LlpgE25/10/30(木) 18:53:46

     ――ゴリマッチョの筋肉共鳴が、彼女の“異物”を狂わせていたのだ。

    「ふははっ!! 見ろマッスル!!
     筋肉は裏切らない!! だが“借り物の筋肉”は、持ち主を選ぶマッスル!!」

    「うるさいッ!!!」

     レヴィの手が閃いた。
     彼女の腕から無数の“縫い糸”が飛び、光の鞭のようにゴリマッチョへと襲いかかる。

     だが彼は、にやりと笑った。

    「その攻撃、筋肉で受け止めるマッスル!!」

     瞬間、彼の全身が振動した。
     糸が触れた瞬間、ゴリマッチョの筋肉から放たれた共鳴が衝撃波となって弾き返す。

    「ぐっ……!? 馬鹿な……! 私の“芸術の腕”が……押し負ける……?」

     レヴィの瞳が揺らいだ。
     そこには恐怖――いや、嫉妬が再び宿る。

    「どうして……そんな原始的な力で……私の“美”を汚すの……!」

     ゴリマッチョは拳を掲げ、太陽を背に叫んだ。

    「美とは、筋肉のシンフォニーだマッスル!!!」

    「な、なに言ってるの!?」

  • 3911◆ZEeB1LlpgE25/10/30(木) 18:54:13

    「努力の結晶こそが、美マッスル!!
     汗の輝きこそが、真なるジュエリーだマッスル!!
     だから俺は叫ぶマッスル――!」

     空気が震える。
     彼の叫びは、もはや音波ではなく、筋波。
     街全体がプロテインのリズムに包まれた。

    「もっとムキムキな敵と戦いたいマッスルッ!!!」

     ビルが割れ、地面が隆起する。
     レヴィの縫い糸が共鳴を受け、逆に暴走し始めた。

    「や、やめて……! この体、勝手に動く……!」

     彼女の腕が膨張し、脚がしなやかに、腹筋が割れていく。
     その姿はもはや“嫉妬の女王”ではなく、“筋肉の女帝”。

     ゴリマッチョは両手を広げ、涙を流しながら叫ぶ。

    「お前の中の筋肉が、目を覚ましたマッスル!!
     それこそが……魂のボディビルだマッスルッ!!」

    「黙れぇぇぇッ!!!」

     レヴィが叫ぶと同時に、彼女の縫い目がすべて開放された。
     無数の肉片と光が空を裂き、嫉妬と筋肉の衝突が世界を揺らす。

     そして――

  • 3921◆ZEeB1LlpgE25/10/30(木) 18:54:31

     二人はぶつかり合った。
     美と筋肉、嫉妬と努力、狂気と信念。

     光と振動が交わり、世界が一瞬だけ白く染まった。

  • 3931◆ZEeB1LlpgE25/10/30(木) 18:55:06

     街はすでに壊滅していた。
     割れたアスファルトの上で、二つの異形が立つ。

     片方は――筋肉そのものの化身。
     ゴリマッチョ=ナデナデスキー。
     胸板は大地を割るほど厚く、上腕二頭筋はビルを支えられそうな隆起を見せる。
     プロテインを飲み干す音が、遠くの瓦礫を震わせる。

     そしてもう片方は――筋肉と嫉妬が融合した怪物。
     レヴィ・パッチカイト。
     人間の範疇を超えた膨張した筋肉に、完璧な美貌と縫い目が絡む。
     彼女の呼吸に合わせ、筋肉が自己増殖し、嫉妬の炎が血流のごとく巡る。

     ゴリマッチョは歓喜の雄叫びを上げた。

    「ふははっ!! もっとムキムキな敵よ来いマッスル!!!」

     その声が、レヴィの耳に突き刺さる。
     嫉妬心が怒りに変わり、彼女の筋肉がさらに膨張する。

    「ふざけないで……!!
     私より強く、美しくなるなんて……絶対に許さない!!」

     両者の筋肉が共鳴を始めた。
     ゴリマッチョの“筋肉共鳴”と、レヴィの“嫉妬筋肉増幅”。
     空間が振動し、地面が波打ち、瓦礫が宙に舞う。

     ゴリマッチョは拳を突き上げ、胸板を震わせた。

  • 3941◆ZEeB1LlpgE25/10/30(木) 18:55:29

    「来いマッスル!! 俺の筋肉の波動を受けるマッスル!!」

     波動が街全体を包む。
     レヴィは瞬時にそれを受け止め、筋肉と嫉妬を最大まで融合させた。

    「……私の力、見せてあげる……!」

     その瞬間、二人の身体が光と振動で絡み合う。
     筋肉の隆起が互いに押し合い、嫉妬の炎が爆発し、世界が揺れる。

     通りすがりの信号機が粉々になり、ビルの窓ガラスが震えて砕ける。
     街はまるで筋肉のコロッセオと化した。

    「うおおおおおおマッスル!!!
     この感覚……筋肉の神が降臨したマッスル!!!」

    「な、何よ……この力……私の身体が、勝手に……!」

     レヴィは叫び、筋肉と嫉妬の波動を制御しようとする。
     だがゴリマッチョの共鳴がその動きを逆に利用し、彼女の全身の筋肉を膨張させる。

     そして、二人の筋肉がぶつかり合った瞬間――

     街全体が光と振動に包まれ、瓦礫が空に舞い、音もなく空間が歪む。

    「……これが……頂点の筋肉……マッスル……」

     ゴリマッチョは微笑む。
     胸板が波打ち、腕がビルを押し返すほど隆起している。

  • 3951◆ZEeB1LlpgE25/10/30(木) 18:55:47

    「嫉妬を燃料に筋肉を増幅させるなんて……君も悪くないマッスル……!」

     レヴィは苦しげに息を吐き、しかし目は輝く。

    「私……誰よりも強く……美しく……なる……!」

     二人の意志が、筋肉が、嫉妬が――
     空気を震わせ、街全体を揺るがす。

     その瞬間、街のあちこちから筋肉の“共鳴音”が響き渡る。
     犬、猫、通行人、街灯――すべてが勝手に膨張して、狂気の筋肉祭りが始まった。

    「これだマッスル……!!
     もっとムキムキな敵と戦いたいマッスルッ!!!」

    「この……筋肉怪物……
     私の全力を奪うつもり……!?」

     二人の戦いは、もはや街を巻き込み、制御不能の“筋肉×嫉妬共鳴”へと突入する。

     ――果たして、この狂乱の筋肉バトル、誰が勝つのか。

  • 3961◆ZEeB1LlpgE25/10/30(木) 18:56:19

     街は完全に筋肉の戦場となっていた。
     割れたアスファルト、飛び散る瓦礫、そして空を舞う膨張した通行人たち。
     その中心で、二つの存在が立ち向かう。

     ゴリマッチョ=ナデナデスキー。
     上半身裸で、肩や胸板が文字通り光を反射する。
     胸筋が波打ち、腕が空気を押し分け、振動するたびに建物が微かに揺れる。

    「ふははっ! 筋肉が呼んでいるマッスル!
     全力で戦うマッスル! 来いマッスルッ!!!」

     一方、レヴィ・パッチカイト。
     嫉妬と筋肉の融合が最高潮に達し、全身が膨張して輝く。
     縫い目から漏れる光と肉体の鼓動が、彼女の怒りと美を増幅する。

    「絶対に……私の全力を見せてあげる……!」

     両者の周囲で、筋肉と嫉妬の波動がぶつかり合った。
     空気が揺れ、瓦礫が舞い、道路は隆起する。
     まるで都市そのものが巨大な筋肉となって暴れているかのようだった。

     ゴリマッチョは地面を拳で叩く。
     その衝撃が波動となって周囲の筋肉をさらに膨張させる。

    「筋肉の力こそが真理マッスル!
     努力と汗の結晶をなめるなマッスルッ!!」

     レヴィは腕を振り上げ、縫い目の光を爆発させる。
     膨張した筋肉が跳ね、嫉妬のエネルギーを増幅させた。

  • 3971◆ZEeB1LlpgE25/10/30(木) 18:56:40

    「嫉妬の力で貴様の全てを奪う……!
     そして、私こそが――万能の頂点よ!!」

     衝突した瞬間――

     街全体が光と振動で白く染まった。
     筋肉と嫉妬が共鳴し、空気が破裂する。

     周囲の犬や猫、通行人、街灯までもが膨張し、まるで筋肉の嵐の中で踊るように飛び回る。
     それでも二人は止まらない。

    「おおおおおおマッスル!!
     全力で戦うマッスル! もっとムキムキな敵と戦いたいマッスルッ!!」

    「くっ……嫉妬と筋肉が、制御不能……!
     だが……これが私の全力……!」

     ゴリマッチョの筋肉共鳴と、レヴィの嫉妬筋肉増幅が完全に融合した瞬間、
     空間そのものが波打ち、光の柱が街の中心に突き刺さった。

     二人の拳が激突する。
     筋肉の隆起がぶつかり合い、振動と衝撃で周囲の瓦礫が粉砕される。

     その衝撃で、レヴィの縫い目が一部ほつれ、微かに崩れかける。
     ゴリマッチョはそれに気づき、にやりと笑った。

    「やっと来たマッスル……隙は見逃さないマッスル……!」

     ゴリマッチョがさらに筋肉を震わせる。
     振動が縫い目を圧迫し、レヴィの全身に微細なほころびが広がる。

  • 3981◆ZEeB1LlpgE25/10/30(木) 18:56:53

     だがレヴィも諦めない。
     全身の筋肉を最大まで膨張させ、嫉妬の力を一点に集中する。

    「これで……終わらせる……!」

     互いの力がぶつかり合い、光と振動が街全体を巻き込む。
     都市は筋肉と嫉妬のカオスに飲み込まれた。

     ――果たして、この狂乱の筋肉バトル、勝者は誰になるのか。

  • 3991◆ZEeB1LlpgE25/10/30(木) 18:57:21

     街全体が筋肉の震動で揺れ続ける中、二人の戦士は立ち尽くしていた。

     ゴリマッチョ=ナデナデスキーの胸筋は隆起し、腕はビルのように膨張している。
     しかし、微かに震える指先が冷気を感じ取った。

    「……寒いマッスル……?」

     氷点下の風が街を吹き抜けると、彼の筋肉は一瞬硬直した。
     熱いプロテインの鼓動も、寒さの前では脆い。

     一方のレヴィ・パッチカイトも、全身の縫い目が激しく光る。
     膨張し続けた筋肉が限界に達し、体のほころびが露出していた。

    「こんな……はずじゃ……
     私の全力が……あぁぁ……」

     縫い目の一部が裂け、皮膚と筋肉が微かにずれた。
     ゴリマッチョはそれを見逃さず、にやりと笑う。

    「おぉ……来たマッスル……隙は逃さないマッスル!!」

     寒さで一瞬力が落ちた自分の筋肉を、ゴリマッチョは逆に利用する。
     振動を集中させ、レヴィの縫い目に衝撃を送った。

     縫い目がさらにほつれ、彼女の膨張した筋肉が不規則に崩れ始める。

    「いや……そんな……!
     私の……完璧が……!?」

     叫ぶレヴィの全身の筋肉が反乱を起こす。

  • 4001◆ZEeB1LlpgE25/10/30(木) 18:57:40

     嫉妬の力と筋肉の増幅が逆流し、縫い目が限界を超える。

     一瞬の静寂。
     そして――

     ゴリマッチョが両手を掲げた。

    「これが……筋肉の極致マッスルッ!!
     お前の嫉妬の力も、俺の共鳴に敵わないマッスル!」

     振動と光の波動が重なり、街全体が白く光った。
     レヴィの身体が崩れ、縫い目が完全にほつれ始める。

    「だ……め……!
     私の……私の全力が……!」

     ゴリマッチョは歓喜の雄叫びを上げる。

    「もっとムキムキな敵と戦いたいマッスル!!
     だが……これが限界なら、仕方ないマッスルッ!!」

     最高潮に膨張した筋肉が、光と振動と共鳴し、レヴィの身体を完全に包み込む。

     縫い目が裂け、膨張した筋肉が収縮し、光が散った瞬間――

     レヴィは地面に崩れ落ちた。
     筋肉と嫉妬の暴走が終わり、街には静寂が戻った。

     ゴリマッチョは肩で息をしながら、周囲を見渡す。
     瓦礫の中、破れたドレスと縫い目の残骸が散乱している。

  • 4011◆ZEeB1LlpgE25/10/30(木) 18:57:53

    「……ふぅ……やっと、静かになったマッスル……
     街灯も筋肉も、プロテインも……落ち着いたマッスル。」

     冷たい風が吹き抜け、彼の胸筋を震わせる。
     寒さに弱い自分が、静かに勝利をかみしめた瞬間だった。

     レヴィは床に横たわり、微かに息をしている。
     だが、彼女の瞳にはまだ嫉妬の炎が残っていた。

    「……筋肉……
     許さない……」

     ゴリマッチョは笑った。

    「許すマッスル……
     でも俺の勝ちマッスル……!」

     街に残ったのは、破壊された建物と、膨張した瓦礫、そして共鳴の余韻だけだった。

     彼は再び肩で息をしながら、空を見上げる。

    「もっとムキムキな敵と戦いたいマッスル……
     ……だが、今日はこれで十分マッスル。」

     プロテインの匂いが風に混ざり、街は静かに回復を始める。

  • 4021◆ZEeB1LlpgE25/10/30(木) 18:58:25

     街は、戦いの跡を静かに受け入れていた。
     瓦礫の隙間から草が芽吹き、粉々になった街灯が沈黙を守る。

     ゴリマッチョ=ナデナデスキーは、胸板を叩きながら肩で息をしていた。
     上腕二頭筋の隆起はまだ脈打ち、振動が周囲の空気を微かに揺らす。

    「ふぅ……今日も全力で戦ったマッスル……
     俺の筋肉、まだまだ伸びるマッスル……!」

     彼の口癖が、静まり返った街に響く。
     そして、プロテインの匂いを風が運ぶ。

     その目の前には、レヴィ・パッチカイトが横たわっていた。
     全身の縫い目はまだ微かに光を帯び、筋肉の膨張の余韻が残っている。

    「……嫉妬……って、こんなに力になるのね……」

     彼女は息を整えながら、自分の身体を見つめる。
     崩れかけた縫い目と、膨張した筋肉。
     そして、理解した。

     力とは、ただ奪うものではない。
     守るものでも、膨らませるものでも、消耗させるものでもない。
     自分の意思を反映するもの――筋肉であれ、嫉妬であれ、それが力なのだ。

     ゴリマッチョは微笑む。

    「筋肉の哲学……ってやつマッスル。
     力とは、楽しむものマッスル。
     相手を尊重することも、己を高めることも、全部マッスル。」

  • 4031◆ZEeB1LlpgE25/10/30(木) 18:58:50

     レヴィは小さく頷いた。

    「……なるほどね。嫉妬も、筋肉も。
     制御できれば、力になる……」

     彼女の目に、かつての憎悪ではなく、学びの光が宿る。
     ゴリマッチョは肩を揺らしながら、微かに笑った。

    「さて……次はもっとムキムキな敵を探すマッスル……
     プロテイン税の導入も考えないとマッスル……!」

     レヴィはそれを見て、つい微笑んでしまった。

  • 4041◆ZEeB1LlpgE25/10/30(木) 18:59:00

    「……あの、貴方、本当に面白いわね。」

     二人の間に、戦いの熱がまだ残っている。
     だが、もう恐怖も嫉妬も、街を破壊する狂気もない。

     街は静かに息を取り戻す。
     瓦礫の隙間に、草が芽吹き、風が舞う。
     そして、二人の力が残した教訓だけが、未来へと続いていく。

     ――力とは、己の信念であり、楽しむ心である。
     筋肉も嫉妬も、使い方次第で世界を変える――。

     ゴリマッチョは深呼吸し、プロテインシェイクを一口飲んだ。

    「今日も……いい戦いだったマッスル!」

     レヴィは立ち上がり、再び縫い目を整える。

    「次は、もっと面白い相手と出会えるといいわね……」

     筋肉と嫉妬、狂気と哲学――
     それはこの街に残された、奇妙で鮮烈な余韻だった。

  • 4051◆ZEeB1LlpgE25/10/30(木) 18:59:13

    以上

  • 406二次元好きの匿名さん25/10/30(木) 19:00:23

    おやおやおやおや
    ちょっとこの二人のペア好きかもしれない

  • 407二次元好きの匿名さん25/10/30(木) 19:00:34

    すごく投稿が早くて驚いています

  • 408二次元好きの匿名さん25/10/30(木) 19:02:05

    ムキムキの犬と鳩で吹いた

  • 4091◆ZEeB1LlpgE25/10/30(木) 19:03:07

    題名『先鋭美と解析の光』

  • 4101◆ZEeB1LlpgE25/10/30(木) 19:03:42

     都会のビル街に、異様な静寂が漂っていた。
     風に舞う紙片も、遠くの車の音も、何もかもが止まったかのようだ。

     その中心で、夢咲 綺良々は自らの身体を見下ろした。
     頭は小顔を通り越して消え、髪は触手のように伸びる。
     腕と脚は針のように細く尖り、上下で分離した体がまるで抽象的な彫刻のように揺れている。

    「強い女性は……素敵……
     だから私も……私も……!」

     声はかすれ、だが決意が籠もっていた。
     努力の果てに手に入れた「先鋭的モデル体型」は、もはや人間の域を超えている。
     だが夢咲は、自分の変貌を恐れなかった。
     ――ただ、強く、美しく在りたいのだ。

     そのとき、街の中心に光が渦巻いた。
     ネオンのように彩られた幾何学模様が浮かび上がり、無数のケーブルが宙を走る。
     観測者──論理精霊が現れた瞬間だった。

    「……人間。
     情報取得の対象として、不適格。」

     頭部のネオン模様が光を発し、空気の分子が解析される。
     夢咲は瞬時に理解した。
     この存在は、感情や精神を無効化する力を持つ論理生命体だ。

    「……誰も、私の美を止められない……!」

     夢咲の触手のような髪が動き、空間を切り裂く。
     観測者は冷静にその動きを解析し、幽体化で攻撃を無効化する。

  • 4111◆ZEeB1LlpgE25/10/30(木) 19:04:06

    「物理的接触は無意味。精神的操作も通用しない。
     ならば、論理に則った戦略が必要。」

     夢咲は一歩前へ出る。
     上下で分離した体を自由に動かし、針のような腕と脚で観測者に接近する。

    「……ふふっ、強い女性は素敵、って言われたの。
     だから私は……あなたを超えるの!」

     観測者は光の球体を生成し、分解光線のチャージを開始する。
     その光は、触れたものを即座に解析・分解する破壊力を持つ。

    「……対象の構造解析。最適解は分解光線発射。」

     しかし夢咲は跳ね返す肌を持つ。
     分解光線を受けても、衝撃は跳ね返り、身体は無傷。
     論理が物理を制御する前に、美が跳ね返す。

    「……くっ、無効化……!?
     この人間……?」

     観測者の冷静な声に、微かな動揺が混ざる。

     夢咲は笑った。

  • 4121◆ZEeB1LlpgE25/10/30(木) 19:04:20

    「美の力……見せてあげる!」

     触手の髪が空間を貫き、抽象的な形態の体がねじれる。
     世界の常識を超えた異形が、論理精霊に向かって迫る。

     観測者のネオン模様が光を増す。
     世界の物理を解析し、分解光線を放つ準備を整える。

     ――こうして、美と論理の戦いの火蓋が切って落とされた。

  • 4131◆ZEeB1LlpgE25/10/30(木) 19:04:44

     都会の廃墟の中心で、夢咲 綺良々の体が異形的にうねる。
     細く尖った腕と脚が空間を切り裂き、上下に分かれた体が宙に浮遊する。

    「強い女性は素敵……!
     だから、負けない……!」

     声には迷いがない。
     美を追求するあまり、もはや人間を超えた体は、衝撃を跳ね返す。
     観測者が放つ分解光線さえも、夢咲の跳ね返す肌ではただの光の閃光に過ぎなかった。

    「無効化……か。物理衝撃に対する耐性が極めて高い……
     ならば、論理的手段を増幅する必要がある。」

     観測者のネオン模様が脈動し、頭部中央から光線のチャージが始まる。
     光は世界の法則を解析し、触れたものを即座に分解する――その力は絶大だ。

     だが夢咲は躊躇しない。
     針のような腕を高速で振るい、触れた光を弾き飛ばす。

    「これが……私の美……!」

     光線は跳ね返り、周囲の瓦礫を削る。
     観測者は冷静に解析を続ける。

    「跳ね返す衝撃……予測外の変形……
     この人間、異形の物理耐性を持つ……。」

     観測者は幽体化を発動する。
     体の一部がノイズ化し、光線を透過させつつ、バイオネットワーク空間へ転送される。
     だが夢咲の体は柔軟に反応する。

  • 4141◆ZEeB1LlpgE25/10/30(木) 19:04:58

    「やるわね……でも、私はもっと素敵に変わる……!」

     髪が触手のように伸び、光線を巻き込みながら再び跳ね返す。
     身体の上下分離は自在で、観測者の解析を混乱させる。

    「この異形的構造……物理耐性と運動性を最大化している……
     予測計算が乱れ始めている……!」

     観測者の冷静な声に、わずかな焦りが混じる。
     夢咲は微笑む。

    「私、美しさだけじゃなくて、強さも手に入れたの……!」

     触手の髪が観測者の解析を切り裂き、跳ね返す肌が光線を阻む。
     論理精霊は驚異的な速度で分析するが、夢咲の身体はその理論を超えていた。

    「……なるほど。
     人間……いや、異形化した人間の可能性は、まだ無限大か。」

     戦いはまだ序盤。
     光と美の攻防は、次第に都市全体を舞台にした戦場へと広がっていく。

  • 4151◆ZEeB1LlpgE25/10/30(木) 19:05:25

     街はすでに戦場だった。
     崩れたビルの間を縫うように、夢咲 綺良々の針のように細い腕と脚が舞う。
     上下に分離した体は宙を滑り、髪の触手が光を巻き込みながら敵を追い詰める。

    「もっと強く……もっと素敵に……!」

     夢咲の声は、狂気じみた決意に満ちていた。
     美を追求しすぎた肉体は、もはや人間ではなく、抽象的な図形と異形的構造物の塊だ。
     だが、その異形体が跳ね返す肌となり、観測者の分解光線を次々に跳ね返す。

    「解析……物理耐性の極限……精神的影響なし……
     論理計算は限界に達する……。」

     観測者はネオン模様を高速で光らせ、光線チャージを最大化する。
     バイオネットワークを介して、夢咲の動きを逐一分析し、幽体化で無効化しようと試みる。

    「……でも、私は止まらない……!」

     夢咲の触手の髪が、光線を巻き込み、再び跳ね返す。
     上下分離した体が高速で入れ替わり、観測者の解析の隙間を突く。
     論理精霊は瞬間的に攻撃を透過させるが、夢咲はその隙を利用して再接近。

    「美しさも、強さも、私のもの……!」

     触れた部分から、観測者の体の一部が幽体化され、バイオネットワーク空間に転送される。
     しかし、夢咲の異形体は完全には崩れず、跳ね返す肌が攻撃を防ぐ。

  • 4161◆ZEeB1LlpgE25/10/30(木) 19:05:37

    「……この人間、物理・精神・構造すべてに耐性を持つ……
     論理だけでは解析が追いつかない……!」

     観測者は光線を連続発射し、幽体化のタイミングをずらすが、夢咲は空間をねじり、光線の射線をかわす。

    「もっと……私の美を、強さを見せるの……!」

     夢咲の身体が暴走する。
     頭は消滅し、髪は触手として縦横無尽に動き、上下分離した体は観測者を包み込むように動く。

    「……計算不能……!」

     観測者はついに驚愕の声を漏らす。
     理論で完璧に解析しようとしていた対象が、物理も論理も無視して暴走する異形となったのだ。

     街全体が戦場として振動し、瓦礫が宙を舞う。
     光線と触手、跳ね返す肌と幽体化の応酬が、都市を切り裂く。

    「……私は、もっと素敵になる……!
     誰よりも強く……誰よりも美しく……!」

     その瞬間、夢咲の存在は美と異形の暴走を極限まで体現した。
     解析不能の美と論理の極限対決――
     街全体が、その狂気に呑み込まれつつあった。

  • 4171◆ZEeB1LlpgE25/10/30(木) 19:06:06

     街はすでに戦場だった。
     瓦礫が宙に舞い、空気は光線と触手で切り裂かれる。
     夢咲 綺良々は上下に分離した体を旋回させ、針のように尖った腕と脚で観測者へ迫る。

    「もっと強く……もっと素敵に……!」

     彼女の声には、狂気じみた美への執念が込められていた。
     頭が消滅したその空間から、髪の触手が観測者の身体を捕らえようと伸びる。

     観測者は冷静に解析を行う。
     ネオン模様の中心部から分解光線をチャージし、幽体化のタイミングを精密に調整する。

    「対象の異形構造、極限耐性……
     物理攻撃は無効化済み。精神操作も不可能……
     論理的干渉のみが有効。」

     夢咲の触手が光線に絡みつき、跳ね返す肌が光を防ぐ。
     観測者は予測計算を行うが、身体構造の変化が速すぎて、チャージした光線の軌道を正確に合わせられない。

    「くっ……!
     論理だけでは……制御できない……!」

     夢咲は微笑む。

    「私の美は……誰にも止められない……!」

     髪の触手が空間を裂き、上下に分離した体が観測者を包み込むように動く。
     観測者は幽体化を駆使し、攻撃を透過させる。
     だが夢咲はその隙を巧みに利用し、触手で直接干渉する。

  • 4181◆ZEeB1LlpgE25/10/30(木) 19:06:20

    「……解析不能。
     物理的接触も論理操作も追随不可……
     対象は自己進化を続けている……!」

     観測者の声に、わずかな焦りが混じる。
     夢咲の身体は理論を超え、抽象的な図形として街を駆け回る。
     跳ね返す肌は分解光線を阻み、触手は幽体化した部位にも干渉を続ける。

    「誰よりも……強く、誰よりも……美しくなる……!」

     夢咲の美と異形の暴走は、観測者の解析能力を限界まで押し上げる。
     光線が連続して発射され、幽体化で防御されるたびに、街の瓦礫がさらに砕ける。

     空中で旋回する夢咲の身体は、もはや人間の形状を留めず、抽象的な彫刻のように光と影を織り成す。

    「……理論の限界点……
     だが、このままでは対象の暴走は止められない……」

     観測者は光線を集中させ、幽体化を同時多発させる。
     街全体が解析と分解の光で白く染まり、瓦礫が舞う。

     夢咲は笑う。

    「素敵に……もっと、私を見て……!」

     美と論理の衝突が、街の建物や空間を切り裂き、決着への序章を刻む。

  • 4191◆ZEeB1LlpgE25/10/30(木) 19:06:50

     都市全体が光と影に染まる中、夢咲 綺良々は異形体を最大限に拡張させた。
     頭部は消滅、髪は触手として蠢き、針のような腕と脚が高速で空間を切り裂く。
     上下に分離した体が宙を舞い、跳ね返す肌が観測者の分解光線を連続で防ぐ。

    「もっと素敵に……もっと、強く……!」

     声は戦慄的で、都市全体に反響する。
     美の暴走は極限に達し、もはや人間の概念を超えていた。

     一方、観測者も冷静さを失わない。
     ネオン模様が光り、頭部から分解光線を集中させ、幽体化を駆使して攻撃を透過させる。

    「解析不可能な変形……しかし論理の力で強制的に干渉する。」

     光線が都市の建物を切り裂き、瓦礫を粉砕しながら夢咲へと迫る。
     だが、夢咲は触手で光線を巻き込み、跳ね返す肌でさらに防御する。

    「私の美は……誰にも止められない……!」

     夢咲の異形体が高速で旋回し、観測者の幽体化を揺さぶる。
     触手がネオンのケーブルに絡みつき、分解光線の射線を乱す。

  • 4201◆ZEeB1LlpgE25/10/30(木) 19:07:05

    「……この異形体……予測不可能……
     物理・精神・論理、すべての攻撃に耐性……!」

     観測者はチャージを重ね、分解光線を一気に放つ決断を下す。
     光線は都市全体を白熱させ、瓦礫が飛び散る。

     だが夢咲の跳ね返す肌は、光線を反射し、触手が光線の軌道を変形させる。
     論理精霊は驚愕する。

    「……まさか……物理も論理も、ここまで無効化されるとは……!」

     夢咲は笑みを浮かべる。

    「これが……私の美……そして、私の強さ……!」

     触手が都市を縦横に走り、上下に分離した体が観測者を包み込む。
     分解光線が空間を裂くたび、夢咲の異形体は反射し、光線を跳ね返す。

     観測者の解析は限界に達し、幽体化のタイミングをわずかに遅らせる。
     その隙を夢咲は見逃さない。

    「素敵に……見て……!
     私の全力、あなたに……!」

     触手が観測者の光学・論理制御系に接触し、わずかに干渉。
     解析の精度が一瞬乱れ、光線の集中が緩む。

     都市全体が白光に包まれ、瓦礫と光が渦巻く。
     美と論理、力と解析――その衝突は、ついに決着の瀬戸際を迎える。

  • 4211◆ZEeB1LlpgE25/10/30(木) 19:07:35

     戦場となった都市は、瓦礫と光の残響に包まれていた。
     空にはまだ触手の髪が漂い、白光が微かに揺れている。
     夢咲 綺良々は異形体のまま、宙に静止していた。

    「……ここまで……やった……」

     声は疲れと高揚が混ざり、美しさと異形の狂気が同時に感じられる。
     都市を巻き込む暴走の果て、彼女の体は跳ね返す肌を駆使して無傷を保っていた。

     一方、観測者も静かに立ち上がる。
     幽体化で受けた衝撃は完全に回復され、論理精霊としての存在を保っている。
     しかし、分解光線を集中させても、夢咲の体は予測不能の動きを続ける。

    「……解析不可能、しかし……論理は諦めない。」

     観測者のネオン模様がゆっくりと光を弱める。
     光線と幽体化の連続使用で、自身も疲労が蓄積しているのだ。

     夢咲は微笑んだ。

    「私、美しくて、強い……
     だから、誰も私を止められない……!」

     その美の極致は、観測者に悟らせた。
     物理も論理も、完全には人間の想像を超えられない。
     力の極限は、美意識の極限と同義であることを。

     観測者も微かに頷く。

  • 4221◆ZEeB1LlpgE25/10/30(木) 19:07:56

    「……理解した。
     力とは、理論だけではない。
     対象の存在そのものを超えた価値が、戦闘に影響を与える。」

     都市に残ったのは瓦礫と光の残響、そして二人の存在の痕跡だけだった。
     夢咲は触手の髪を揺らし、宙からゆっくりと降りる。
     観測者も静かに地面に降り立つ。

    「……街は……無事……?」

    「うん……戦ったけど、壊すだけじゃなく、残すこともできる……」

     二人は互いに見つめ合い、戦いの意味を理解した。
     美と論理、狂気と秩序――
     それは戦いだけではなく、存在そのものの可能性を示していた。
     夢咲は小さく笑い、触手の髪を整える。

    「もっと……強く、美しくなる……!
     そして、誰かの憧れになるの……!」

     観測者は静かに頷いた。

    「……対象の成長、記録完了。
     次に会うときは、さらに解析を楽しめそうだ。」

     都市は静けさを取り戻し、戦いの残響が風に舞う。
     美と論理の衝突は、街に新たな伝説を刻んだ。

     そして二人の異形は、それぞれの道を歩み始める――
     力と美、論理と感覚が交錯した戦いの記憶を胸に。

  • 4231◆ZEeB1LlpgE25/10/30(木) 19:08:14

    以上

  • 424二次元好きの匿名さん25/10/30(木) 19:10:52

    スレ主の速度に追い付けない…!

  • 425二次元好きの匿名さん25/10/30(木) 19:14:09

    多分スレ主両手両足で同時に作業してるよね

  • 4261◆ZEeB1LlpgE25/10/30(木) 19:21:19

    題名『盲目の疾風、神の光』

  • 4271◆ZEeB1LlpgE25/10/30(木) 19:21:52

    夜の校庭は、まるで世界の音をすべて飲み込んだかのように静まり返っていた。
    風もなく、虫の声さえも遠い。

    そんな中で、ひとつの音だけが支配していた。

    ――ドン、ドン、ドン。

    重く、それでいて鋭い足音。
    まるで暗闇そのものを蹴り破るような勢いで、少年は地面を踏み鳴らしていた。

    彼の名は、樽男。
    十八歳の高校生。どこにでもいるような、ぽっちゃり体型の男子だった。
    けれど、彼の足は違った。

    百メートルを、七秒台で駆け抜ける。
    それは人間離れした速さ。
    見えぬ世界を、ただ感覚と本能で走り抜ける。

    彼は生まれつき全盲であり、声を発することもできない。
    けれど、そんなことはどうでもよかった。

    “音”がある。
    “風”がある。
    “地面”が、確かに自分を押し返してくる。

    それだけで、十分だった。

    足音が夜を裂く。
    月明かりのない闇の中、樽男の輪郭は薄く滲み、まるで風の化身のように揺れていた。

  • 4281◆ZEeB1LlpgE25/10/30(木) 19:22:12

    彼の世界には、光がない。
    だが、その代わりに、彼だけの地図があった。
    足裏で感じる地面の凹凸、耳で拾う風の流れ、皮膚で感じる空気の温度――
    それらが繋がり、脳内に“形”を描く。

    走るたびに、その形は明瞭になる。
    走るたびに、世界が広がっていく。

    だが今夜は、何かが違った。

    ――風の匂いが、変わっている。

    樽男の足が、わずかに止まる。
    空気の流れの奥に、いつもとは違う“音”が混じっていた。

    低く、かすかな振動。
    地面の下から響くような、不思議な鼓動。

    (……なんだ?)

    彼の脳裏に、言葉にならない疑問が浮かぶ。
    全盲の彼にとって、“音”は世界そのもの。
    その世界が、今、変わりつつあった。

    足の裏に、かすかな亀裂を感じる。
    土が割れる音。風が吸い込まれる音。

    そして――

  • 4291◆ZEeB1LlpgE25/10/30(木) 19:22:26

    地面の下から、光が漏れ出した。

    まるで、夜そのものが呼吸を始めたかのように。

    樽男は、目の見えないその顔をわずかに上げる。
    そして、迷わずその光の方へ走り出した。

    彼の足音が、闇を裂いて消えていく。
    その先に、彼が何を見るのか――誰も知らない。

  • 4301◆ZEeB1LlpgE25/10/30(木) 19:23:04

    地下深く――
    果ての見えぬ階段の下に、それは存在していた。

    《忘却の館》。
    世界の記録と、忘れられた知識が眠る大図書館。
    その空気は静寂に包まれ、数千冊の魔導書が呼吸をしているかのように微かに震えていた。

    「……また、勝手にページが増えてやがる」

    ゆらりと浮かぶ影が、一冊の分厚い書物を手に取った。
    淡い光に照らされたその姿は、成人男性に見える。
    しかし、実際の年齢はわずか十歳。

    マギー・エルステ=クローリー・スレイ。
    世界一の魔法使いにして、創作上の“神”と呼ばれた存在。

    「おい、誰だ勝手に転写したのは。……ティルか? それとも、またマーチの悪戯か」

    マギーはゆっくりと本を閉じ、ため息を吐いた。
    その指先が僅かに震えている。
    彼の身体は、もはやこの世界の重力に耐えられない。
    常に魔力で浮遊していなければ、崩れ落ちてしまうほどに虚弱だった。

    「はぁ……まったく、外に出る気も失せるな」

    彼は目を閉じ、静かに周囲の魔力の流れを読む。
    大図書館の奥深くで、微かな“乱れ”を感じた。

    ――トン……トン……トン……

  • 4311◆ZEeB1LlpgE25/10/30(木) 19:23:32

    地面を打つような、規則的な衝撃。
    まるで遠くから誰かが走っているような音。

    「……は?」

    マギーの眉がひくりと動いた。
    人間など、この場所に入れるはずがない。
    ここは、現界と天界の狭間――生者が足を踏み入れれば、存在そのものが霧散するはずの領域だ。

    「嘘だろ……」

    彼は浮遊の姿勢を保ったまま、指先を鳴らす。
    周囲の空間に数十の魔法陣が瞬時に展開され、情報が流れ込んでくる。

    《不明な存在。生体反応:人間。位置、地上から第七層。速度、異常値。》

    「……人間、だと?」

    その瞬間、マギーの視線が鋭くなった。

    「現界の人間が、ここまで来られるはずがねぇ。誰かが――通したな」

    冷たい声が図書館に響く。
    だが、次の瞬間。

    ――ズンッ!

    空気が震えた。
    音が近い。階層の扉が破れ、風が流れ込む。

  • 4321◆ZEeB1LlpgE25/10/30(木) 19:23:53

    マギーは振り返る。
    その風に乗って、ひとつの“気配”が現れた。

    何の前触れもなく、ただ“走って”きた。

    「……見えないのか?」

    マギーが呟く。
    闖入者――樽男は、視線を合わすことなく、ただ正面を向いていた。
    彼の目は焦点を結ばず、声も出さない。

    だが、その足は、止まることを知らない。

    マギーは唇を歪めた。

    「ほう……。見えねぇのに、俺の魔力を感じ取ったか」

    彼の手が、ゆっくりと魔導書を開く。
    ページの間から、紫の光が漏れた。

  • 4331◆ZEeB1LlpgE25/10/30(木) 19:24:06

    「俺の書庫に勝手に踏み込むとは……。いい度胸してるじゃねぇか」

    樽男は答えない。
    ただ、足を一歩――踏み出す。

    その足音が、地下図書館の静寂を裂いた。

    マギーは笑う。
    冷たく、興味深そうに。

    「面白ぇ。……じゃあ、少し遊んでやるよ。
     この《スレイ家の神秘》に、触れられるもんならな」

    魔導書が開かれる。
    魔法陣が光を放ち、空気がねじれた。

    風の少年と、魔法の神――
    二つの“異常”が、ついに出会った。

  • 4341◆ZEeB1LlpgE25/10/30(木) 19:24:38

    静寂が破れた。

    マギーの魔導書が、ぱらぱらと音を立ててページをめくる。
    そこから溢れ出した魔力が、空気を震わせた。

    「――《冷界展開》」

    低く呟くと同時に、床一面が凍り始める。
    白い霜が足元から這い上がり、瞬く間に図書館の空間を覆った。
    樽男の靴裏が、キュッ、と鳴る。

    マギーは冷ややかな声で続けた。

    「立ち止まる気はねぇのか、人間。
     この結界の中じゃ、一歩でも動けば凍りつくぞ」

    だが樽男は止まらない。
    何も見えないはずのその瞳で、ただ正面を向いて走り出す。

    氷の上を、音もなく――けれど確かに、疾走する。

    「……は?」

    マギーが思わず声を漏らす。
    彼の魔法は確かに展開している。
    氷結の結界は、触れたものの動きを奪うはずだった。

    だがその足音は、まるで氷を拒絶するように軽やかだった。

    (足……いや、動きが読めねぇ……!)

  • 4351◆ZEeB1LlpgE25/10/30(木) 19:25:03

    マギーは浮遊しながら、視線を上下に走らせる。
    その間にも樽男の気配が音と風を連れて迫ってくる。

    「……いいだろ。
     次は――逃げられねぇぞ」

    魔導書のページが、またひとつめくられる。
    ページに描かれた紋章が淡く光り、空中に広がった。

    「《封結陣・螺旋縛鎖》!」

    金色の鎖が空間に出現し、渦を巻いて樽男の進路を塞ぐ。
    視界がない彼にとって、避けるのは不可能に思えた。

    ――が、樽男は速度を落とさない。

    氷の上を滑るように、足裏の感覚だけで方向を読み、
    彼は鎖の間をすり抜けるように通り抜けた。

    「なっ……!」

    マギーの目が見開かれる。
    魔法神である自分の魔法が、たかが人間に“回避された”。

    「見えねぇくせに、どうやって――」

    問いかけようとした瞬間、
    マギーのすぐ眼前まで、樽男の足音が迫った。

  • 4361◆ZEeB1LlpgE25/10/30(木) 19:25:36

    「――っ!」

    マギーは反射的に浮遊を上昇させる。
    その直後、樽男の拳が空を切った。
    空気が弾け、魔導書のページがばさりと揺れる。

    「おいおい……近ぇな。
     まるで風に殴られたみたいじゃねぇか」

    樽男は答えない。
    その代わり、足を止めずにマギーの周囲を回り始めた。

    円を描くように、一定の速度で。
    まるで、獲物を狩る獣のように。

    マギーはその動きを読み取ろうとするが、風の音が乱反射し、位置が掴めない。
    魔法の詠唱を続けようにも、集中できなかった。

    「くそっ……ただの人間に、ここまで乱されるとはな」

    マギーは口角を上げた。
    怒りではない。――愉悦だった。

    「いいぜ……。
     なら、俺も少し本気を出してやる」

    魔導書が光に包まれる。
    ページの中から、無数の文字が浮かび上がり、マギーの周囲を旋回した。

  • 4371◆ZEeB1LlpgE25/10/30(木) 19:25:59

    「――《第三階梯・極光(オーロラ)》」

    光が弾け、視界を埋め尽くす。
    樽男には見えない。
    だが、空気が一変したことだけはわかる。

    (来る……!)

    風が震えた瞬間、光の柱が何本も降り注ぐ。
    避ける間もなく、樽男の頬を掠めた。
    熱ではなく、純粋な魔力の衝撃。

    けれど、彼は止まらない。

    足音が、再び鳴った。

    「――来いよ、人間。
     この図書館で、“神”と踊ってみろ」

    マギーが笑う。
    その声に、樽男は答えず――ただ、再び踏み出した。

    氷を砕く音と、光の咆哮が交錯する。
    神と人間の最初の一撃が、今、始まった。

  • 4381◆ZEeB1LlpgE25/10/30(木) 19:26:51

    氷の結界を踏み砕く音が、空間の奥へと響いていく。
    砕けた破片が光を反射し、散りばめられた星のように宙を舞った。

    マギーは浮遊の高さをわずかに上げながら、魔導書を構える。
    その顔には、神の威厳ではなく――明確な“焦り”があった。

    「……何だこいつ……本当に人間か?」

    樽男の足音が止まらない。
    空気の流れが渦を巻き、熱を帯びていく。
    走るたびに起こる風圧で、周囲の本がページをめくり、無数の声が囁いた。

    マギーは唇を歪める。

    「……いいだろう。少し試してやる」

    魔導書が再び光を放ち、魔法陣が重なり合う。
    五重の円環が展開され、そこから膨大な魔力が吹き出した。

    「――《重力結界・第八階梯》」

    床が軋む。
    空間そのものが沈むように、圧力が生まれた。

    通常の人間なら、その場で骨が砕ける。
    しかし――

    樽男は止まらなかった。

    地を蹴る音が、さらに強くなる。

  • 4391◆ZEeB1LlpgE25/10/30(木) 19:27:24

    足裏から感じ取る微妙な変化で、彼は重力の向きを読み取り、最短の抜け道を直感的に選んでいた。

    「嘘だろ……。感覚だけで“見抜いた”のか?」

    マギーが息を呑む。
    その瞬間――風が爆ぜた。

    樽男が、消えた。

    「――ッ!」

    視界に映ったのは、わずかに残る残像だけ。
    次に感じたのは、背後からの衝撃だった。

    ドン――ッ!

    鈍い音と共に、マギーの身体が宙で弾かれる。
    浮遊を保ったまま、彼は本棚に叩きつけられた。
    積み上がっていた古文書が雪崩のように落ちる。

    「ぐっ……ぅ!」

    マギーは痛みに顔を歪め、魔導書を守るように抱きしめた。
    コアを守る反射だった。

    彼の体を包む魔力が乱れ、光が不規則に揺らめく。
    その光を、樽男は音で“聞いた”。
    微細な震え。――そこが、弱点。

    マギーは必死に呼吸を整える。

  • 4401◆ZEeB1LlpgE25/10/30(木) 19:27:55

    「……ちっ、動きが早すぎる。
     俺の魔法、発動が追いつかねぇ……!」

    魔導書が震えながらも、再びページを開く。
    マギーは歯を食いしばり、詠唱を飛ばす。

    「《防陣・天幕》!」

    透明な膜が即座に展開し、マギーの周囲を覆う。
    だが、その結界が安定するよりも早く、樽男の足音が迫っていた。

    ――トン。

    ――トン。

    ――トンッ!

    「もう一歩近づけば、撃ち抜くぞ!」

    マギーの声は警告というより、祈りに近かった。
    だが樽男は迷わない。

    声なき少年は、ただ――走る。
    世界の音すべてを背に受け、風となって突き進む。

    そして。

    衝突。

  • 4411◆ZEeB1LlpgE25/10/30(木) 19:28:18

    鈍い音が、世界を割った。
    結界がきしみ、波紋が広がる。
    マギーの胸元、心臓部の奥――そこに、風が触れた。

    「……ッ!!」

    目の前が白く弾ける。
    マギーは全身の魔力を爆発的に放出して押し返す。
    樽男の体が、後方へ吹き飛んだ。

    宙を舞い、床に叩きつけられる。

    沈黙。

    粉塵が舞い、光が揺らぐ。

    「はぁ……はぁ……。
     今の、ほんの数秒で……あの距離を詰めやがった……」

    マギーは浮遊を維持しながら、自嘲気味に笑った。

    「まるで……風そのものだな。
     目が見えねぇ? 声が出ねぇ? ――それでこの動きかよ」

    倒れ伏した樽男は、息を荒げながらも、拳を握っていた。
    その足は、まだ止まっていない。

  • 4421◆ZEeB1LlpgE25/10/30(木) 19:28:32

    マギーはゆっくりと、彼を見下ろす。
    そして――笑った。

    「悪くねぇ。
     俺を本気にさせる人間なんて、久しぶりだ」

    その言葉と共に、魔導書が新たな光を帯びる。

    戦いは、まだ終わらない。

  • 4431◆ZEeB1LlpgE25/10/30(木) 19:29:09

    空気が震えていた。

    砕けた氷の破片が宙を舞い、光の粒がゆらゆらと漂う。
    先ほどまで静寂だった大図書館は、今や戦場のように荒れていた。

    マギーは浮遊の姿勢を崩さぬように体を支え、深く息を吸い込む。
    魔導書は半ば焼け焦げ、ページの端が灰になって崩れていく。

    「……あぁ、もったいねぇな。
     何百年かけて書いたのに、たった数分でボロボロだ」

    その声には、怒りよりも笑いが混じっていた。

    視線の先では、樽男が片膝をつきながらも立ち上がる。
    息は荒く、全身は傷だらけ。
    それでも彼の足は、まだ地面を掴もうとしていた。

    「……はは、すげぇ根性だな。
     人間ってのは、ほんと意味わかんねぇ」

    マギーは魔導書を胸に抱え、瞳を細める。
    冷静な表情の奥で、心臓部のコアが不規則に脈打っていた。
    一瞬でも防御を怠れば、あの拳は確実にそこへ届く。

    (冗談じゃねぇ……。コアを砕かれたら、俺は消滅だ)

    それでも、どこか愉快だった。
    この世界で、自分をここまで追い詰める存在に出会えるとは思わなかったからだ。

  • 4441◆ZEeB1LlpgE25/10/30(木) 19:29:41

    「……なぁ」

    マギーは静かに言葉を放つ。

    「お前、名前は?」

    もちろん、返事はない。
    樽男は唖だ。
    けれど、マギーにはわかっていた。
    無言のまま、まっすぐにこちらを見据える“気配”だけで、答えは十分だった。

    「そうか。樽男、か」

    ゆっくりと笑う。

    「いい名前だ。
     だったら、敬意を込めて――“神”の力を見せてやる」

    魔導書が激しく光を放った。
    空気が震え、文字が宙を舞う。
    それはただの魔法ではない。
    “スレイ家の神秘”――マギーに宿る根源的な力そのもの。

    「――《真界展開・クローリー》」

    瞬間、世界が反転した。

    上下も、重力も、色さえも意味を失う。
    図書館の空間が歪み、数千冊の書物が空に吸い上げられた。
    光と影が溶け合い、言葉が音を超えて蠢く。

  • 4451◆ZEeB1LlpgE25/10/30(木) 19:30:03

    樽男の足が止まる。
    見えぬ世界が、さらに混沌と化していく。

    それでも――彼は感じていた。

    足裏に伝わる、微かな“軸”。
    マギーの魔力が空間をどう歪めているのか。
    風の流れが、どの方向から圧を受けているのか。

    (……ここだ)

    音ではない。
    視覚でもない。
    純粋な“感覚”の世界で、彼はマギーの中心――コアの位置を掴んでいた。

    マギーは微笑む。

    「まさか、俺の真界で動ける奴がいるとはな。
     ほんと、想定外だよ」

    その声には、もはや敵意はなかった。
    それは、同じ戦場を共有する者への敬意。

    「だがな――これが、俺の全力だ!」

    無数の魔導紋が一斉に輝く。
    光が奔り、雷鳴が轟く。
    空間が悲鳴を上げるほどの魔力の奔流が、樽男へと降り注いだ。

    それでも、樽男は走った。

  • 4461◆ZEeB1LlpgE25/10/30(木) 19:30:32

    空間を裂く風音が、光よりも早く届く。
    その瞬間、マギーの瞳が見開かれる。

    「――速ぇ……ッ!」

    樽男の体が光を突き抜け、マギーの正面へと迫る。
    風が爆ぜ、魔導書の光が一瞬だけ掻き消えた。

    「……ッ!」

    拳が伸びる。
    マギーは反射的に手を伸ばす。

    神と人間の手が、交わった。

    一瞬の静寂。
    そして――

    光が弾けた。

    風と魔力がぶつかり合い、視界を奪うほどの閃光が地下を満たす。
    静寂のあと、二人の姿はゆっくりと浮かび上がった。
    樽男は地に膝をつき、息を切らしている。
    マギーは宙に浮かびながらも、肩で呼吸をしていた。
    魔導書は閉じ、彼の周囲に漂う魔力が薄れていく。

    「……はは、まじで化け物だな」

    マギーが微笑む。
    笑いながらも、その目は真剣だった。

  • 4471◆ZEeB1LlpgE25/10/30(木) 19:30:45

    「お前、ほんとに人間かよ。
     ……いや、たぶん俺より“生きてる”な」

    樽男は答えない。
    だが、ほんの少しだけ――唇の端が動いた。
    それを見て、マギーは小さく頷いた。

    「そうかよ。
     じゃあ、次は俺の番だ。
     本当の意味で――“境界”を越えようぜ」

    風が止まり、光が収まる。
    そして、世界は再び静寂に包まれた。

    神と人間。
    二つの力が交錯した瞬間、確かに“何か”が生まれつつあった。

  • 4481◆ZEeB1LlpgE25/10/30(木) 19:31:13

    煙のような魔力がゆらゆらと漂っていた。

    戦いの余波が消え、崩れた書棚の残骸の中に、二つの影があった。

    ひとつは、床に座り込む樽男。
    もうひとつは、光を失った魔導書を手にするマギー。

    どちらも息が荒く、立ち上がる力すら残っていない。

    しばらく、誰も動かなかった。
    ただ、遠くで古い時計の針が“コチリ”と音を立てた。

    マギーがゆっくりと目を開け、重い口を開く。

    「……終わった、か」

    返事は、ない。
    けれど、彼にはわかっていた。
    沈黙の中に、確かに“息づく音”があることを。

    「まさか、俺の《真界》を破る人間がいるとはな……」

    マギーは苦笑する。
    口の端が切れて血が滲むが、どこか満足そうだった。

    「お前、本気で走ってたな。
     見えなくても、声が出なくても……全身で世界を感じてた」

    樽男は小さく息を吐き、顔を上げる。
    その瞳は焦点を持たない――けれど、確かに“何か”を見ていた。

  • 4491◆ZEeB1LlpgE25/10/30(木) 19:31:37

    マギーはその視線を受け止めるように、そっと言葉を重ねた。

    「……なぁ、樽男。
     お前のその速さ、どこを目指してんだ?」

    沈黙。

    だが、樽男はわずかに右手を胸に当てた。
    心臓の鼓動を――“音”として感じながら。

    その仕草を見て、マギーはふっと微笑んだ。

    「……そっか。
     生きてるって、走るってことか」

    浮遊を支える魔力が消え、マギーは静かに床へ降り立つ。
    その足は震えていた。
    神といえど、肉体を保つには限界があった。

    「俺はな、ずっと《館》に閉じこもってたんだ」

    マギーは天井を見上げる。
    ひび割れた空間から、淡い光が差し込む。

    「研究、魔法、知識――そういうもんばっか追いかけてさ。
     でも、お前と戦って思ったよ」

    ゆっくりと樽男の方を見る。

  • 4501◆ZEeB1LlpgE25/10/30(木) 19:32:03

    「……“生きる”って、こんなに痛くて、熱いもんなんだな」

    樽男は静かに立ち上がる。
    足取りは重い。
    けれど、どこか穏やかだった。

    彼はマギーに近づくと、そっと手を伸ばした。

    驚いたように目を見開くマギー。

    樽男の手は、ただまっすぐに差し出されていた。
    握手を求めるように。

    一瞬の沈黙。

    マギーは小さく笑い、ゆっくりとその手を取った。

    「……ありがとう、樽男」

    温もりが伝わる。
    神と人間の境界が、ひとつの握手で溶けていく。

    「また会おうぜ。
     次は戦いじゃなく、話をしよう。……まぁ、俺が一方的にしゃべることになるけどな」

    わざと軽口を叩きながら、マギーは空を見上げた。

    樽男はただ、静かに頷いた。
    それが、すべての答えだった。

  • 4511◆ZEeB1LlpgE25/10/30(木) 19:32:24

    ――風が吹いた。

    図書館の瓦礫の中を通り抜ける、柔らかな風。
    埃の中に光が差し込み、破れたページがふわりと舞う。

    マギーはその一枚を手に取り、呟いた。

    「……忘却の館に、新しい物語が一つ、加わったな」

    樽男はその足音を響かせ、静かに背を向けた。
    ゆっくりと、しかし確かなリズムで。

    トン。
    トン。
    トン――

    音が遠ざかっていく。
    マギーはその背中を見送りながら、微笑んだ。

    「速ぇな……。
     でも、もう追いかけねぇよ」

    その声は、どこまでも穏やかだった。
    やがて、風が止む。
    残るのは静寂と、ほんの少しの温もりだけ。

    ――こうして、
    神と人間の戦いは、誰の勝ち負けでもなく終わった。

    それはただ、“世界が少し広がった夜”の物語。

  • 4521◆ZEeB1LlpgE25/10/30(木) 19:32:47

    以上

  • 453二次元好きの匿名さん25/10/30(木) 19:36:32

    投稿乙です!
    目が見えず、声が出せない代わりに圧倒的な足の速さを与えられた人間が閉じ籠っていた神の心の扉を開けたか…
    面白い試合でした!

  • 454二次元好きの匿名さん25/10/30(木) 19:38:33

    樽男強いな…
    普通にめっちゃカッコいいぞ

  • 455二次元好きの匿名さん25/10/30(木) 19:38:46

    お互い無事でよかったぁ

  • 4561◆ZEeB1LlpgE25/10/30(木) 19:42:01

    題名『色彩と鋼の舞踏』

  • 4571◆ZEeB1LlpgE25/10/30(木) 19:42:40

    街の広場は、祭りの余韻でまだ賑わっていた。
    だが人混みの中で、一際異彩を放つ女性がいた。

    カルパッチョ・プリンセス――二十歳。
    王女でありながら、変装して街に繰り出す行動派。
    その目は、通り過ぎる人々の服の色や、建物の壁の微妙な色彩の変化まで見逃さない。

    彼女の手には、小さな紅白の旗が握られていた。
    乳母から幼い頃に贈られたもの。
    それを握るたび、芸術に対する情熱が鼓動となる。

    「――さて、今日はどんな色に出会えるかしら」

    カルパッチョは微笑むと、周囲の景色に手を翳した。
    赤い石畳が燃えるような紅に、屋根の白瓦が雪のように純白に変わる。
    小さな魔法――いや、能力の効果で、街全体が彼女のキャンバスとなる。

    その瞬間、背後から重い足音が響いた。

    「……ん?」

    振り返ると、そこにいたのは――蔡襄天舛留置。
    七十九歳の伝説的刀工。
    巨大な体躯に、長年の鍛錬と戦いで刻まれた古傷が浮かぶ。
    胸の深い切り傷が、見る者にただならぬ威圧を与える。

    「ふむ……ここでお主が絵筆を振るっておるとはな」

    声は低く、重厚でありながら、どこか優雅さも含んでいる。
    彼は腰に背負った素材袋を軽く揺らすだけで、刃物を瞬時に生成できる力を持っていた。

  • 4581◆ZEeB1LlpgE25/10/30(木) 19:43:03

    カルパッチョは紅白の旗を握り直す。

    「……あなたが、伝説の刀工。蔡襄天舛留置?」

    「その名に恥じぬ腕を持つ者なら、すぐにわかる」

    蔡襄はにやりと笑い、刀を取り出す。
    刃はまだ未完成の状態だが、彼の手にかかれば、瞬時に完成される運命の刀となる。

    「……面白い。なら、私の色で、あなたの世界を塗り替えてみせる」

    カルパッチョの手が一度空中を撫でる。
    赤と白の光が彼女の視界を支配し、街の建物や道の色が徐々に変化していく。

    蔡襄は目を細め、刃の反射を見極める。

    「……ほう。色で環境を操るか。だが、その先にあるのは“刃”だ」

    彼の手から、刀が光と共に姿を現す。
    その刃は、ただの刀ではない――彼の能力「瞬鍛」で、相手の戦況に合わせた最適な形状に瞬時に変化する刀。

    二人の視線が交わる。
    芸術と刃――色彩と鋼の邂逅。

    「さあ、戦いましょう」

    紅白の光が空間を染め上げ、刀の金属光沢が鋭く輝く。

    街の空間が、二人の戦場となった――。

  • 4591◆ZEeB1LlpgE25/10/30(木) 19:43:33

    赤と白の光が街の空間を支配する。
    カルパッチョの手から放たれた紅白の光は、石畳を燃えるような赤に染め、白い光が建物の壁を反射してまぶしいほどに輝く。

    「――この色で、あなたを縛る」

    カルパッチョは静かに呟くと、石畳を赤に染めた。その赤が帯電し、地面から微細な電流が生まれる。
    蔡襄の足元に向かって、細かい火花が迸る。

    「ほほう……そう来るか」

    蔡襄は古傷だらけの胸を抑えつつも、素早く反応する。
    腰の素材袋から刀を取り出すと、瞬鍛――彼の能力が刀に宿る。
    瞬間、刀は赤い光を帯び、電流を遮断する特殊な刃へと形を変えた。

    「真銘解放ッ!!《天雷斬》ッ!!!」

    刀が発光し、空間に雷鳴のような衝撃波を放つ。
    街の空気が震え、埃が舞う。

    カルパッチョは手を広げ、周囲の色彩を瞬時に操作する。
    赤は炎のように、白は霧のように変化し、雷の軌道を曲げる。
    刀の光が跳ね返り、刃は光と色の渦に包まれる。

    「ふふっ……!あなたの刃も、色で変えてみせるわ!」

    石畳の赤がさらに強まり、地面からの微弱な振動が蔡襄の足元を揺らす。
    赤の光に触れた刀の刃が、熱を帯び、手応えを変化させる。
    それでも蔡襄は冷静だ。

  • 4601◆ZEeB1LlpgE25/10/30(木) 19:43:53

    「なるほど……環境を操るのか。だが――!」

    彼の刀が舞う。
    一閃、二閃、三閃――連続する斬撃は、カルパッチョの色彩操作で反射する光とぶつかり、閃光と爆発音を生む。

    カルパッチョはその一瞬も視界を失わない。
    彼女の視界に映るすべての色彩は、戦況の情報そのもの。
    赤は熱を、白は軽やかさを示し、刃の軌道を予測させる。

    「……この動き……面白い!」

    彼女は小さく笑いながら、建物の壁を白に染める。
    白く輝く壁が光を反射し、蔡襄の眼前を覆う。
    光の洪水で一瞬、刃の軌道を見えなくさせる。

    だが、蔡襄は刀の感触を頼りに動く。
    長年の経験と瞬鍛の力が、視覚に頼らずとも正確に刃を振るわせる。

    「――その程度で俺の剣が止まると思うなよ」

    真銘解放の刀が再び閃き、赤い電光が街の広場を走る。
    カルパッチョは紅白の光を再び操作し、刀の衝撃を分散させる。

  • 4611◆ZEeB1LlpgE25/10/30(木) 19:44:14

    二人の能力がぶつかるたび、光と色彩、金属光沢が渦を巻く。
    街全体がキャンバスとなり、刀の舞と色彩の魔法が交錯する――まるで一つの芸術作品のようだった。

    「――これが、私の色の戦場!」

    「ほう……見事な操りだ。だが、俺の刃も芸術だ!」

    互いの声が響き、街の空間が戦いのリズムを刻む。
    戦いはまだ始まったばかり。
    紅白の光と刀の閃光が、互いの存在を確かめ合うように舞う――。

  • 4621◆ZEeB1LlpgE25/10/30(木) 19:45:02

    赤と白の光が街の空間を染め上げる。
    カルパッチョは腕を振るうたびに、街の建物や石畳の色を自在に操る。

    「――もっと鮮やかに、もっと鋭く!」

    紅は炎のように燃え、白は氷のように冷たく輝く。
    その光が蔡襄の目を覆い、刀の軌道を惑わせる。

    「ふむ……色で環境を変えるとはな」

    蔡襄は瞬鍛の力で、光に包まれた刀を再構築する。
    刃は赤の帯電を吸収し、白の光を反射して閃光となる。

    「真銘解放ッ!!《天舞裂光(てんぶれっこう)》ッ!!!」

    刀が空気を切り裂き、雷鳴のような衝撃波を放つ。
    赤と白の光の壁が爆発し、街全体が極彩の渦に巻き込まれる。

    カルパッチョは跳躍し、空中から光を操る。
    白い光の壁を紅で染め上げ、刃の衝撃を跳ね返す。

    「――紅と白の調和よ、刃を封じよ!」

    彼女の能力が極限に達する。
    赤は熱、白は速度と軽さを付与し、地面や壁すべてを戦場に変える。
    蔡襄の刀がその色彩の洪水に飲まれ、軌道が一瞬乱れる。

    「くっ……だが、それで俺の刃が止まるか!」

    蔡襄は刀を振るい、白い光の壁を斬り裂く。

  • 4631◆ZEeB1LlpgE25/10/30(木) 19:45:22

    刃が赤の帯電を切り払い、雷鳴が轟く。
    その衝撃でカルパッチョの足元の石畳が粉砕される。

    「……まだまだ!」

    カルパッチョは新たに色を変える。
    赤を炎の刃のようにし、白を反射する盾のように展開。
    その色彩はまるで攻防一体の武器となり、蔡襄の刀を包み込む。

    「面白い……美しい戦いだな」

    蔡襄は汗を拭い、刀の形状を再び瞬鍛で変える。
    刃の角度、重さ、長さ――すべてを最適化して紅白の渦に対応させる。

    「真銘解放ッ!!《雷閃天裂(らいせんてんれつ)》ッ!!!」

    刀から放たれる雷光が空間を裂く。
    その瞬間、紅と白の光彩が交錯し、刃と色の洪水が衝突する。
    閃光が炸裂し、二人の周囲に光の波紋が広がった。

    爆発の余波が収まると、二人は互いに一歩下がる。
    カルパッチョの紅白の旗は光を帯び、蔡襄の刀は蒼白に輝く。

    「……ふふ、やるわね」

    カルパッチョは微笑み、拳を握る。

  • 4641◆ZEeB1LlpgE25/10/30(木) 19:45:33

    「あなたの刃も、ただ美しいだけじゃない……」

    蔡襄も笑みを返す。

    「色と光、刃と風……これは、まさに芸術の戦いだな」

    二人は再び構える。
    戦いはまだ終わらない――紅白の極彩と、真銘解放の刀が、街を舞台にぶつかり合う。

  • 4651◆ZEeB1LlpgE25/10/30(木) 19:46:16

    街の広場は、もはや戦場そのものだった。
    建物の壁は赤と白に染まり、石畳は熱を帯び、空気は光と電流で震えている。

    「――まだ、負ける気はないわ」

    カルパッチョは拳を握り、紅白の光を渦巻かせた。
    赤は炎の刃となり、白は光の盾となって、蔡襄の刀を迎え撃つ。

    「ほう……お主、まだまだやるか」

    蔡襄もまた、刀を握り直す。
    腰の素材袋から瞬時に取り出した刀を、真銘解放――

    「真銘解放ッ!!《天地雷鳴斬(てんちらいめいざん)》ッ!!!」

    空気を切り裂く衝撃波と共に、雷光が広がる。
    紅白の光彩の渦が刀の衝撃とぶつかり、光と色の洪水が炸裂する。

    「――くっ!」

    カルパッチョは跳躍しながら、建物の壁を白に変化させ、赤を帯電させる。
    地面から電撃のような力が蔡襄に向かって迸る。

    「……ふむ、これは面白い」

    蔡襄は笑みを浮かべ、刀の形状を再び瞬鍛で変化させる。
    刃の重さ、角度、反発力――全てを紅白の渦に適応させる。

  • 4661◆ZEeB1LlpgE25/10/30(木) 19:46:41

    「真銘解放ッ!!《雷光穿天(らいこうせんてん)》ッ!!!」

    刀から放たれる雷光が空間を裂き、光と色の渦がぶつかり合う。
    周囲の建物は振動し、窓ガラスが粉々に砕ける。

    カルパッチョは躊躇なく手を振り、紅白の光をさらに複雑に操作する。
    白は光の盾となり、赤は帯電した刃となって蔡襄の刀と干渉する。

    「……これは、芸術そのものの戦いだわ」

    彼女の声は高揚している。
    色彩操作と魔法のような効果は、もはや戦術というより、戦場全体をキャンバスにした表現そのものだ。

    蔡襄も息を切らしながら刀を振るう。

    「ほう……お前の色彩、ただの装飾じゃない。戦いを動かしている!」

    刃と光、色と金属が幾重にも重なり合い、街中に閃光の嵐を巻き起こす。
    互いの限界がぶつかり、二人の呼吸が交錯する――まさに決戦の瞬間。

    カルパッチョは紅白の旗を高く掲げ、空間を一気に染め上げた。

  • 4671◆ZEeB1LlpgE25/10/30(木) 19:46:57

    「――紅白の極光よ、刃を包め!」

    赤の炎が刀を囲み、白の光がその動きを制御する。
    蔡襄は一瞬、足を止めるが、すぐに刀を振るい返す。

    「真銘解放ッ!!《天雷斬(てんらいざん)》ッ!!!」

    光と色彩、雷と炎――二つの極限の力が、空間で激突した。

    爆発の余波で、二人は互いに一歩後退する。
    街の瓦礫が舞い、粉塵が光を反射する中、二人は呼吸を整える。

    「……まだ、終わらないわね」

    カルパッチョは紅白の旗を握り直す。

    「……ああ、俺もだ」

    蔡襄は刀を握る手を緩めず、視線を真っ直ぐにカルパッチョに向ける。
    二人の間に漂う緊張は、まるで絵画の一瞬の静寂のようだ。

    戦いの結末はまだ遠い――紅白の色彩と真銘解放の刃が、決着の時を待つ。

  • 4681◆ZEeB1LlpgE25/10/30(木) 19:48:13

    街の空気が熱を帯び、赤と白の光がまばゆく交錯する。
    カルパッチョの紅白の旗は、空中で旋回しながら光の渦を生む。

    「――これが、私の全力よ!」

    地面から赤の炎が噴き上がり、白の光が空間を包む。
    その光彩の渦は、蔡襄の刀の動きを読み取り、軌道を微細に変化させる。

    「……ほう、ここまでやるか」

    蔡襄もまた、刀を握り直し、瞬鍛の力で刃を最適化する。

    「真銘解放ッ!!《天翔裂破(てんしょうれっぱ)》ッ!!!」

    刀が雷光を伴って空気を切り裂く。
    紅白の光彩と雷光がぶつかり、爆発が街の空間を震わせる。
    瓦礫が舞い、粉塵が閃光を反射して、周囲の景色は一瞬、極彩の混沌と化す。

    カルパッチョは跳躍し、紅白の光を新たに操作する。
    赤は帯電した刃のように敵を追い、白は光の壁となり攻撃を反射させる。

    「――紅白の調和よ、私を導け!」

    蔡襄はその瞬間を待っていたかのように刀を振るう。

    「真銘解放ッ!!《雷神斬(らいじんざん)》ッ!!!」

    刀から放たれる雷光が紅白の渦に衝突し、空間に巨大な爆発を生む。
    光と色彩が迸り、建物の壁は赤と白に裂け、地面は熱を帯びてひび割れた。

  • 4691◆ZEeB1LlpgE25/10/30(木) 19:48:31

    カルパッチョは飛び上がり、空中から色彩を操作する。
    紅を炎の刃に、白を光の盾に変え、雷光を弾き返す。
    その手の動きはまるで舞踏のように美しい。

    蔡襄は刀を握り、荒々しくも正確に斬り返す。
    雷光の軌道を微調整し、紅白の光彩を斬り裂く。

    「……なるほど、お前の色は攻撃であり防御でもある」

    「あなたの刃も芸術ね!」

    二人の声が交錯し、光と色彩、雷と炎が極限の衝突を生む。
    街全体が一つのキャンバスとなり、刃と色彩の渦が舞う――戦いの極致。

    そして、カルパッチョの紅白の旗が一瞬、眩い光を放つ。
    赤と白が混ざり合い、街の景色を包むその瞬間、蔡襄の刀も光を放つ。

    「真銘解放ッ!!《天雷裂空(てんらいれっくう)》ッ!!!」

    刀と光彩が衝突した瞬間、巨大な光の波が街を覆った。
    建物が震え、瓦礫が宙に舞い、熱と雷が混ざり合う。

    粉塵が晴れると、二人は互いに一歩下がる。
    息は荒い。全身に疲労が刻まれ、全力を出し尽くした表情だ。

    「……あなた、強いわ」

    カルパッチョは紅白の旗を胸に抱き、息を整える。

  • 4701◆ZEeB1LlpgE25/10/30(木) 19:48:59

    「お前もな……」

    蔡襄も刀を背に収め、穏やかに微笑む。

    「こうして戦いを極めた者同士の戦いは、まさに芸術だ」

    二人は互いを見つめ、戦闘の終わりを感じた。
    光と色彩、刃と雷――極限の交錯の果てに、戦いは静寂へと向かう。

  • 4711◆ZEeB1LlpgE25/10/30(木) 19:49:53

    街の広場に、やっと静寂が訪れた。
    粉塵が舞い、瓦礫が光に反射する中、紅白の光彩は徐々に柔らかく消えていく。
    空気には戦いの熱と雷の匂いが残り、時間がゆっくりと戻るようだった。

    カルパッチョ・プリンセスは旗を胸に抱き、地面に手をついて深呼吸する。

    「……ふぅ、これで終わりね」

    視界に映る街は、赤と白に染まったままだが、破壊された建物や石畳もどこか芸術作品のように美しく見えた。

    蔡襄天舛留置は刀を背に収め、古傷の胸を押さえながら微笑む。

    「……お前の色彩、ただ美しいだけじゃなかったな。戦術としても完璧だ」

    「あなたの刃も……ただ強いだけじゃなく、まるで舞踏のよう」

    カルパッチョは笑顔で応える。
    戦いの最中に感じた、刃と色彩の共鳴を思い返していた。

    蔡襄はゆっくりと一歩近づき、手を差し出す。

    「芸術の戦いを共にした者として、礼を言う」

    カルパッチョは旗を握った手でその手を取る。

    「……こちらこそ、最高の相手だったわ」

    二人の手が触れた瞬間、光でも雷でもない、静かな熱が伝わる。
    戦いを通じて築かれた、互いの尊敬の証だった。

  • 4721◆ZEeB1LlpgE25/10/30(木) 19:50:09

    「また会おう、次は戦いじゃなく、色彩と刃の話をしよう」

    蔡襄が微笑む。

    カルパッチョは軽く頷き、旗を揺らす。

    「ええ、その時は街中を私のキャンバスにしてあげるわ」

    風が吹き、粉塵が舞う。
    瓦礫に光が反射し、紅白の残像が静かに輝く。

    戦いの跡は残るが、それは破壊ではなく、美の余韻として街に刻まれていた。
    光と色彩、刃と雷――互いの力が交錯した記憶は、永遠に街の空間に残る。

    二人は互いを見つめ、微笑む。

    「芸術とは、破壊と創造の間にあるもの――まさに今日の戦いがそれね」

    「ああ、俺もそう思う」

    静寂の中、紅白の旗がわずかに揺れ、刀の刃が微かに光を帯びる。
    戦いの余韻は、やがて美しい静寂として二人の胸に刻まれた。

  • 4731◆ZEeB1LlpgE25/10/30(木) 19:50:38

    以上

    次の安価は21:30から10個募集

  • 474二次元好きの匿名さん25/10/30(木) 19:51:14

    投下お疲れ様です

  • 475二次元好きの匿名さん25/10/30(木) 19:55:47

    乙、互いの美しさを認め合うの見ていて気持ちがいいな

  • 476二次元好きの匿名さん25/10/30(木) 19:57:29

    >>409

    幾何学的異形と抽象的異形の対決なのに片方人間なの脳がバグる

  • 477二次元好きの匿名さん25/10/30(木) 20:11:21

    今回のダークホースは樽男

  • 478二次元好きの匿名さん25/10/30(木) 20:15:36

    >>477

    それな

  • 479二次元好きの匿名さん25/10/30(木) 21:30:00

    名前:美海
    (メイハイ)
    年齢:15
    性別:女
    種族:人間
    本人概要:真面目でお人好しな少女。
    お人好し過ぎてよくトラブルに巻き込まれたりする。だが以外と自分の意見を言う性格であり、たまに鋭すぎることを言ってくる。
    それに加えて頭脳明晰で容姿端麗と来たもんだ。その上優しいので嫉妬する隙もないほどであり、もはや敵なし。
    だが欠点があるとすれば人を信じすぎることとお人好し過ぎるところだろうか。逆に言えば欠点はそれしかない。
    能力:Beautiful Sea
    能力概要:水を操る能力。
    水であればなんでも操作可能であり、水素やもはや水と関係のないが無理矢理関連付けたらどうにかなるレベルのものまで様々。また、概念的な水まで操作可能。だって美海は美しき海だから。
    弱点:身体能力は普通の人間と同じであり、体力もそこまで高くはない。
    細かく分散した水の操作は精密な手法が必要。
    要望(任意):一人称は私、二人称は対戦相手の名前に女性ならちゃん付け、男性ならくん付け

  • 480二次元好きの匿名さん25/10/30(木) 21:30:00

    名前: ガジ丸
    年齢:161歳
    性別:男
    種族:ドワーフ
    本人概要:魔王を討伐した勇者一行で盾役を務めた屈強なドワーフ。本職は鍛冶師。
    超一流の鍛冶技術による勇者一行の武具製作と、どんな攻撃に晒されても一歩も引かない頑強な肉体で魔王討伐に貢献した。
    豪快な戦法と戦術を好みどんな苦境でもガハハと笑い飛ばす益荒男でありながら、チームメンバーの様子をよく見て世話を焼く縁の下の力持ち。
    盾役として貢献したのも、自分以外の誰も傷つかないで欲しいという淡い希望のため。
    武具:「プルベリス」
    武具概要:自身が丹精に拵えた兜・鎧・大盾・刀の武具一式。超極薄の鋼板を数千層に折り重ねて形成することで通常の武具ではあり得ない強度を実現。
    攻撃を受けると鋼板が少しずつ削れるため手入れが難しいのが弱点だが、その代わり、関節部などの隙が全く無い鎧構造を完成させた。
    能力:「鍛冶火事親父」
    能力概要:鍛冶の本髄である炎の力を武具と身体に籠めるスキル。心が熱くなるほどに火力を高めることが出来る。
    火力を誤ると武具や身体が自分の炎で引火するのが弱点だが、リスクを覚悟すれば火力は幾らでも上昇できる。
    弱点:鈍足で素早い相手や遠距離攻撃が苦手。
    武具は隙無く非常に硬いが、折り重ねた極薄の鋼板が少しずつ粉末状に剥がれ落ちて硬度が徐々に落ちる。
    「鍛冶火事親父」は自身に引火する危険性を伴う。

  • 481二次元好きの匿名さん25/10/30(木) 21:30:00

    名前:伊集院 音
    年齢:15歳
    性別:女性
    種族:人間
    本人概要:遥か昔に久那土から追放されて長安帝国に住まう事になった伊集院家の次女。
    趣味はバクパイプで演奏する事である。
    音楽が大好きであり音楽家を目指して日々様々な楽器で演奏し練習をしている。音楽の見聞をさらに広める為に様々な国を旅し、その国独自の音楽等を肌で感じたり演奏したりしている。たまに旅をしている途中でストリートライブをする事があり、その地に住まう住人と親睦を深めたりもしている。最近様々なケルト音楽やイエヴァン・ポルッカ、ソーラン節を好んでおり、それらを聴いたり歌ったりしている。
    伊集院家の性質として頭上に小さな金蔵が浮いており、金蔵の中に能力を持った物を納めると納めた物を取り出さない・再現せずにその内包された能力のみが肉体で使用可能になる一族である。金蔵に納めた物は出現・再現されない。
    能力:《発納:楽欲》
    能力概要:音が納めたのは対象が保持する欲望が強い程衝撃と内部ダメージが上がり、音楽を奏で続けると威力がさらに上がる管楽器である。そのためリズムに乗って行動・歌う・手拍子をする事によって《発納:楽欲》が発動する。音は応用として、対象を選んで回復や耐久力・俊足力・攻撃力等を上げるバフをかける事が可能である。
    発動した時の威力の高さは手拍子<リズム乗って動く<歌うである。
    弱点:金蔵に納めた物の能力を発動する際は大なり小なり隙が生じる。
    楽欲を発動中、威力が高いもの程衝撃が音に1部反射する。
    楽欲を発動中に、楽欲を発動させた行動を阻害されると発動中止になり音に衝撃が走る。

  • 482二次元好きの匿名さん25/10/30(木) 21:30:00

    審査お願いします
    名前:黒竜娘
    年齢:1000歳以上
    性別:おんなのこ(元無性)
    種族:竜人娘
    本人概要:元々は『黒竜神』とも呼ばれ、一国の領土に匹敵するほどの縄張りを持つ強大なドラゴンだったが、ある時縄張りに侵入してきた人間に返り討ちにされ敗北、気づくと尻尾と角と羽の生えた女の子と化していた…力や能力も大幅に弱体化しており、身体能力は少し強い人間並に、元々は鋭く生え揃っていた黒い牙も真っ白な臼歯に置き換えられ、小さな村を覆えるほどに大きかった翼も背中に小さくくっついているだけになり、もちろん飛ぶことも強風を起こすこともできなくなっている。
    そんな肉体なので自らの元縄張りの過酷な環境に耐えられず、現在放浪しながら暮らしている。性格は昔から変わらず自分以外の全てを見下している傲慢な性格だが、見た目や過去のことに触れられると顔を真っ赤にして怒り狂う。しかし、竜だった頃の記憶はもはや朧げで、名前も覚えていない。
    能力:【黒朧霧】
    能力概要:あらゆる物を侵食して溶かす黒い毒霧のブレスを吐き出す。ブレスは基本その場に滞留し、人間や物がかすっただけでもそこが黒く変色し、溶けていくほどに毒性は強力。さらにその毒性は滞留するほど強化され、時間が経つと触れるどころか近づくだけで毒を受けるようになる。竜だった頃に比べると毒性は変わっていないが、肺が弱いため数回吐くと息切れする。
    弱点:スタミナがない。鳩尾辺りにある内臓『毒袋』にダメージを受けると一時的に能力が使えなくなる
    要望(任意):一人称はわれ、語尾はのだ・なのだ系

  • 483二次元好きの匿名さん25/10/30(木) 21:30:00

    名前:姫乃木 ルル
    年齢:17
    性別:女
    種族:人間
    本人概要:ハートマシマシのゴスロリ服、眼帯、髑髏のアクセサリーなどを身につけながら街中でギターを掻き鳴らし、路上ライブでハイトーンシャウトをフリーダムにぶち撒ける肝の座った少女。
    恋愛は好きになったらすぐ告白するタイプで、座右の銘は『うちの大好きは誰にも奪わせない!』
    高名な人形師の一族に生まれた人形使いであり、「いや、無理だろそれ…」ってレベルの複数の機巧を強引かつ神がかり的な技術で同時に組み込んだりする天才児。何かのために何かを捨てる、といった行為が苦手で、大好きなものは全部詰め込む、全部救い上げると言った事に強い執着を見せる。
    能力: 冒涜的ULTIMATEドール『ヤミナベ』
    能力概要:巨大大鎌「古式九龍」を携えて、可愛らしいフリフリの衣装を身につけた人形であり、ルルの好きなものを全部ブチ込んだ特製ドール。現在は糸ではなく彼女のギターによる音声認識で動かせる。だってその方がエモいから!
    右腕内には拡散型ちねちね空中爆薬「ちぇりー・ぽっぴんぐ」
    左腕には重力増幅機能付きヘビーマシンガン「Poem=doll(ポエムドール)」
    背面に怨霊操作大翼「ゴースト/ロウ」
    両脚には対呪式仕込みチェーンソー「虹彩閉死」
    口には超高周波スクリームブレイカー「限界音叉(リミテッド・ノート)」
    …と、その他にもいろんな機能が目白推しである。
    弱点:大体がギターを用いた音声認識なので、本体のギターをどうにかされると大幅に弱体化する。
    ロマン派なので取り回しの大きい武器を使いたがり、手数の多い攻撃が有効。
    要望(任意):一人称は「うち」でお願いします!(関西弁ではないです)

  • 484二次元好きの匿名さん25/10/30(木) 21:30:00

    名前:無ゲン始人
    年齢:無限
    性別:オス
    種族:ゴリラ
    本人概要:
    めちゃくちゃ賢いゴリラ。名前はゲン始人だけどゴリラ。
    そしてめちゃくちゃ長生きなゴリラ。この世界が始まる前から生きている。なんならさらにずっと前から生きている。そんなゴリラ。
    数言家の祖先かもしれないし、特に関係のない一般ゴリラかもしれない。
    無限のIQであらゆることを即座に理解する頭脳を持つが、言語の慣れというものはとても恐ろしいものらしく「ウホウホ」としか喋らない。
    何故かわからないが数言家からはよく無限屏風と間違われている。やはり数言家の祖先なのか…!?
    能力:だいたい無限
    能力概要:
    『数え切れないくらい多い数』を『無限』に変える能力。しかし彼は原始人!3までしか数えられない!つまり『4以上の数』=『無限』!なんてこった!
    これによりコイツは無限のIQを手に入れ3より多い数を数えられるようになった!でも能力はそのまま使える!なんてこった!
    無限のIQと無限の筋力と無限の能力を活かして戦うぞ!しかし「ウホウホ」としか喋らない。
    弱点:
    ・増やすことはできても減らすことはできないので防御には不向き。
    ・0~3までのものは増やせない。脳や心臓は1個のままだし命も1個のまま。
    要望:
    ・セリフはすべて「ウホウホ」でお願いします。

  • 485二次元好きの匿名さん25/10/30(木) 21:30:00

    名前:悪虐の主・ローヴィル
    年齢:600以上
    性別:男
    種族:悪魔
    本人概要:下品な程に豪華な衣装を身に纏う孔雀の頭の悪魔。邪悪に努め、悪虐に励み世界中で数多の惨劇を引き起こした。悪魔としては若年ながらも世界で最も嫌悪される存在の一体とされる。実力は高く、魔術を得意とし、無数の禁術級闇魔術を扱う。その全てに血の滲む様な修練の痕跡が見られる。
    元はただの人間の魔術師。栄光を夢見て日々厳しい鍛錬に励んでいた。ある時呪い染みた能力に目覚め、理想との解離と己の夢が半ば絶たれた事に絶望。長きにわたる葛藤の末に闇堕ち。初めて人の命を奪った時、良くも悪くも真面目な性格が災いし、止まる事の出来ない悪虐の道を突き進む悪魔と化した。
    嫌いなものは才能のある者と自分自身。ただしこの自己嫌悪は隠している。悪を成しても悪に堕ちきれず、故に自己嫌悪に苦悩している。そのため心の奥底では自分を討ち倒す勇者を心待ちにしている。

    能力:陥穽の鳥籠、悪心の収束
    能力概要:陥穽の鳥籠 ローヴィルが作った禁術の1つ。漆黒の鳥籠。相手の深層心理を読み取り、その最も大切な存在を鳥籠内に召喚し閉じ込め人質とする。鳥籠を見た者の負の感情を煽り、増幅させる力を持つ。心の弱い者であればこれだけで自害することもある。
    この鳥籠はそもそも解放を前提に創られておらず、ローヴィルを倒す以外に囚われたものを救う手段は無い。
    悪心の収束 ローヴィルの能力。人の持つ敵意、怒りや悲しみ、憎悪や嫌悪など負の感情を取り込み己の力に変える能力。特に自分に向けられる感情を取り込んだ時、より大きな力を得ることができる。これによる強化は永続であり、500年以上の悪虐によって蓄積した感情も消える事はなく、彼の力として定着している。またこの強化に上限は無い。
    弱点:悪心の収束の以外の力で自分を強化、成長できない。
    ・胸部にある禍々しい結晶が弱点。破壊で致命傷。
    要望(任意):基本的に悪辣に振る舞う。
    戦闘開始時に自分を倒そうとする相手が現れた事に僅な喜びを見せる。
    自分の勝利時は相手への落胆を露わにする。敗北時は穏やか表情で感謝を告げる。

  • 486二次元好きの匿名さん25/10/30(木) 21:30:01

    名前:魔法少年★リーチ
    年齢:永遠の15歳
    性別:男の娘♡
    種族:魔法少年(人間)
    本人概要:
    「女の子特攻の敵なんて初めてだポメ!卑怯だポメ!あっそこの少年!ちょうどいいところに来たポメ!ボクと契約して魔法少女になるポメ!」
    「何を言っている?そもそもお前は誰だ」
    「明確な拒否がなければそれは同意!同意ポメ!!」
    「おい待て、俺は男だ、そもそも少年という歳でも無」
    「もう遅いポメエエエエエエ!!くらいやがれエエエエエエエエエエエエ!!ポメ!!」
    「時間停止」
    「ぐぎゃああああああああああ」
    キラーン⭐︎
    「なんだこのヒラヒラは、何処から生えた」
    「ふふ、君がその刀で切り掛かってきた時にはもうすでに契約は完了していたポメぇ」
    こうして、今この瞬間!数言理一は魔法少年リーチへと変身したッ!
    「さあ!このステッキでビームを放ってあの敵を」
    「殴った方が速い」
    「って、何してるんだポメ⁉︎ステッキはそういう風に使うものじゃ…!」
    「うぎゃああっああっああ!」
    「あの…ステッキはそうやって使うものじゃなくてですね」
    「帰っていいか」
    能力:マジカル⭐︎パワー
    能力概要:元々高い理一の身体能力が超絶強化され、人間の域を超えた身体能力になる。
    【マジカル★回し蹴り】地形を変えるほどの威力の回し蹴りを相手に喰らわせる技
    【マジカル★撲殺】魔法のステッキを鈍器として扱い、相手の頭蓋を一撃で粉砕する技
    【マジカル★殴り】もうステッキすら使っていない、リーチ(理一)全力の殴り、一番威力が高い、常人は風圧で死ぬ
    弱点:隣に浮遊している妖精が気を失うと変身が解除される
    妖精自体は何故かお腹に大きな切り傷があるので耐久がだいぶ弱くなっている
    リーチ(理一)は、通常よりも疲れやすくなっている

  • 487二次元好きの匿名さん25/10/30(木) 21:30:01

    名前:木更津 七巻
    年齢:不明
    性別:男
    種族:改造人間
    本人概要:最近よく発生するようになった何の前触れも無く突然能力を発現した異能者達の一人 彼らは発現したばかりでも生まれた時から持っていたかのように自在に異能を扱えるがその代わりに保有する大罪が一つ増幅されるらしい こいつの増幅された罪は「怠惰」である
    改神はバイオネットワークを取り戻しバイオ因子を持つ生物に遠隔での脳改造を行使できるようになったのだ
    能力:百足群体化
    能力概要:自身の肉体を無数の金属百足(もちろん有毒)へと分解・展開する能力。
    各百足はテレパシーにより本体の一部意識を共有、群体としての行動が可能な上に彼の力により強化されており一体一体がかなりの速度と強度を兼ね備える
    金属や電子機器との融合・吸収によって急速に成長し、必要に応じて分裂して数を増やす 金属であれば即座に吸収できる エネルギー源としては人肉を好むが生物であれば最低限のエネルギーは確保できる模様
    群体が十分集まれば本体を再構成して人型へ戻ることが可能であり、新たな百足を取り込むことで損傷も回復する さらに応用として変装じみた使い方も可能だ
    取り込む金属の種類によって体表の色調や耐久性、保有する毒などが変化し、環境や戦況に応じて形態を変化させることが可能
    弱点:彼の能力は若干複雑であり、百足の分裂は自らの意思でのみ可能で外的要因により破壊された百足は分裂や再結合が不可能となる
    また、個体間のテレパシー制御を安定させるために定期的に群体を集合させ人型を取る必要がある
    要望:こいつは改神のことを存在すら知らない

  • 488二次元好きの匿名さん25/10/30(木) 21:30:08

    名前:ミール・サテラリウム
    年齢:1986
    性別:女性
    種族:現人神
    本人概要:衛星軌道上に存在するバイオスフィア”トリフネ”に住まう少女。ズゥ・オラクルとは同じゼミ出身。
    トリフネは架空元素エーテルの存在実証を目的に打ち上げられたテラリウムであり、その内部は文字通り桃源郷や蓬来山もかくやの幻想的な風景が広がっている。
    遺伝子工学で製造された龍、ロック鳥、鬼、天狗、人魚、妖精、精霊などなど、存在しないはずの生命を乗せてトリフネは今日も宇宙を廻る。
    いつしか、真に、この世には存在しない”イノチ”が生まれ出るその時まで。
    能力:オール・トゥモローズ
    能力概要:魚がカエルに、カエルがトカゲに、恐竜が鳥に、猿が人に進化する過程を省略する権能。
    発動条件はトリフネの中にいること、自分の管理下であること、その遺伝子の隅々まで理解していること。
    そのため単にトリフネに乗り込んだだけでは発動はできない。
    また、遺伝子のない機械には発動できない。
    通常は手なづけたトリフネの生物にお願いすることで侵入者と戦う。
    弱点:トリフネにいる幻想的な動植物の全てがミールの味方というわけではない。
    また、トリフネの環境は極めて繊細であり、彼女の権能もこの完全な環境下でなければ発動できないので、大規模な火災や破壊は致命的。
    木々が数本倒れるだけで大変なことになってしまう。
    要望(任意):

  • 489二次元好きの匿名さん25/10/30(木) 21:30:31

    すとっぷ

  • 490二次元好きの匿名さん25/10/30(木) 21:30:45

    今回は8秒か

  • 491二次元好きの匿名さん25/10/30(木) 21:33:41

    美海大丈夫なの?
    大体の生物瞬殺できるけど

  • 4921◆ZEeB1LlpgE25/10/30(木) 21:48:08

    >>479

    精密な手腕が必要とのことですが弱点ってことは無理ってことでいいですか?

  • 493二次元好きの匿名さん25/10/30(木) 21:49:39

    >>492

    難しくて操作中は精度が乱れるって感じです

  • 4941◆ZEeB1LlpgE25/10/30(木) 21:53:08

    >>493

    なるほど

    それと身体能力は人並みっていうのは種族人間である以上ハンデになりえないと思うので弱点の追加をお願いします

  • 495二次元好きの匿名さん25/10/30(木) 21:57:32

    >>494

    体力は低く、少しの運動でも息切れをする。

    運動もそこまでであり、長時間の戦闘は苦手。

    分散した水を集めたり操作するのは集中力を多く消費し、必然的に隙や疲労も生まれる。

  • 4961◆ZEeB1LlpgE25/10/30(木) 22:08:32

    >>495

    それで平気です

  • 4971◆ZEeB1LlpgE25/10/30(木) 22:59:34

    木更津 七巻vs無ゲン始人
    美海vs魔法少年★リーチ
    ミール・サテラリウムvs黒竜娘
    悪虐の主・ローヴィルvsガジ丸
    姫乃木 ルルvs伊集院 音

  • 498二次元好きの匿名さん25/10/30(木) 23:22:18

    >>484

    すみません。>>497の能力概要に一部不備がございましたのでこちらに変更お願いしたいです。


    名前:無ゲン始人

    年齢:無限

    性別:オス

    種族:ゴリラ

    本人概要:

    めちゃくちゃ賢いゴリラ。名前はゲン始人だけどゴリラ。

    そしてめちゃくちゃ長生きなゴリラ。この世界が始まる前から生きている。なんならさらにずっと前から生きている。そんなゴリラ。

    数言家の祖先かもしれないし、特に関係のない一般ゴリラかもしれない。

    無限のIQであらゆることを即座に理解する頭脳を持つが、言語の慣れというものはとても恐ろしいものらしく「ウホウホ」としか喋らない。

    何故かわからないが数言家からはよく無限屏風と間違われている。やはり数言家の祖先なのか…!?

    能力:だいたい無限

    能力概要:

    『数え切れないくらい多い数』を『無限』に変える能力。しかし彼はゴリラ!3までしか数えられない!つまり『4以上の数』=『無限』!なんてこった!

    これによりコイツは無限のIQを手に入れ3より多い数を数えられるようになった!でも能力はそのまま使える!なんてこった!

    無限のIQと無限の筋力と無限の能力を活かして戦うぞ!IQ無限でも「ウホウホ」としか喋らないぞ!

    弱点:

    ・増やすことはできても減らすことはできないので防御には不向き。

    ・0~3までのものは増やせない。脳や心臓は1個のままだし命も1個のまま。

    要望:

    ・セリフはすべて「ウホウホ」でお願いします。

  • 499二次元好きの匿名さん25/10/31(金) 07:03:58

    保守

  • 500二次元好きの匿名さん25/10/31(金) 12:04:29

    保守

  • 5011◆ZEeB1LlpgE25/10/31(金) 18:19:55

    今朝からだるさを感じ少し休んでいたところ発熱を確認したので今さっきまで寝てました
    申し訳ないです

  • 502二次元好きの匿名さん25/10/31(金) 18:21:27

    >>501

    了解です。ゆっくり休んでください。

  • 503二次元好きの匿名さん25/10/31(金) 18:22:47

    >>501

    スレ主の健康が第一です

  • 504二次元好きの匿名さん25/10/31(金) 18:27:03

    >>501

    安静が一番です

    お大事に

  • 505二次元好きの匿名さん25/10/31(金) 18:31:32

    >>501

    健康第一です、お大事に

  • 506二次元好きの匿名さん25/10/31(金) 18:33:12

    >>501

    ゆっくりお休みして元気になってください

  • 507二次元好きの匿名さん25/10/31(金) 18:50:22

    >>501

    だいじょぶ?

    無理せず元気になってね

  • 508二次元好きの匿名さん25/10/31(金) 19:54:09

    >>501

    許してあげる

  • 5091◆ZEeB1LlpgE25/10/31(金) 19:58:55

    題名『無限は笑う』

  • 5101◆ZEeB1LlpgE25/10/31(金) 20:03:51

    太陽が沈み、森の奥に奇妙な静寂が広がっていた。
    鳥たちは鳴かず、風も止まり、ただ一つ――低く響く足音だけが森の中を支配していた。

    ドン、ドン、ドン――。

    その主は、巨大な影。
    樹々をなぎ倒しながら進むその姿は、黒曜石のような光沢を放つ。
    人ではない。獣でもない。

    ――ゴリラだ。

    だが、その目に宿る光は、ただの野生ではなかった。
    冷静で、深く、あらゆる真理を理解しているような、底なしの知性の輝き。

    彼の名は――無ゲン始人(むげんしじん)。

    世界が生まれる前から存在し、今なお生きる、“無限”のゴリラ。

    「ウホウホ」

    低く、しかしどこか哲学的な響きをもった声が森にこだまする。
    それだけで、周囲の小動物たちは一斉に逃げ出した。

    彼が立ち止まった場所――そこは、金属の光を帯びた奇妙な空間だった。
    朽ちた鉄骨、捻じ曲がった電子機器の山。
    まるで森の一部が機械に侵食されているようだ。

    そして、その金属の山の中から、無数の“カサカサ”という音が響いた。

  • 5111◆ZEeB1LlpgE25/10/31(金) 20:04:36

    「……ん?」

    無ゲン始人が目を細める。

    そこから現れたのは、無数の金属百足だった。
    細長い体、異様な光沢、目に見えぬ速度。
    百足たちは一斉に空間を覆い尽くすように広がり、その中心から一つの人影が立ち上がった。

    「……あー、めんどくせえ……」

    低く、どこか気怠げな声。
    立ち上がった男の姿は人間に近いが、体の節々が金属で補強され、目はわずかに赤く光っていた。

    木更津 七巻(きさらづ ななまき)。
    自らの肉体を百足群体へと変化させる異能者。
    “怠惰”の大罪を背負い、己の存在すら億劫に感じる改造人間だった。

    「なんだよ……ゴリラかよ。
     せっかく休んでたのに、また妙なヤツに会っちまったな」

    無ゲン始人はゆっくりと首を傾げる。

    「ウホウホ?」

    七巻は眉をひそめ、ため息をつく。

  • 5121◆ZEeB1LlpgE25/10/31(金) 20:05:34

    「……あ? 何言ってんのか全然わかんねぇ。
     ま、いいや。とりあえず、ここ……俺のナワバリなんだわ」

    「ウホウホウホ(理解した)」

    言葉の意味など理解できぬはず。
    だが彼は“無限のIQ”を持つ。
    言語を超えて、意図を即座に把握していた。
    その瞬間、七巻の足元から、無数の金属百足が地を這い出す。
    鋭い脚、光る毒牙。
    金属が擦れ合う音が空気を切り裂く。

    「悪いな。怠惰ってのは、つまり“動かずに勝つ”ってことなんだよ」

    「――ウホッ(甘い)」

    大地が揺れた。
    無ゲン始人が右腕を振り下ろす。
    その一撃は、まるで隕石の衝突のような衝撃を伴い、森の一部が吹き飛んだ。
    だが、七巻の姿はすでにそこにはなかった。
    彼は群体化していた。
    無数の金属百足が宙を舞い、ゴリラの周囲を覆い尽くす。

    「……じゃあ、始めるか。
     怠けながらな」

    「ウホウホウホウホ!!!」

    無限と群体、始原と進化。
    この世ならぬ存在同士の戦いが、今――森を揺るがせた。

  • 5131◆ZEeB1LlpgE25/10/31(金) 20:06:18

    木々の間を、金属の百足たちが奔る。
    その動きは、風そのもののように素早く、無ゲン始人の巨体をあらゆる角度から取り囲んだ。

    一匹、二匹、三匹――。

    だが四匹目を数えた瞬間、世界が歪んだ。

    「ウホウホ(無限)」

    その言葉と同時に、周囲の百足たちが一斉に硬直した。
    数が“4”を超えた瞬間、『無限』に変換されたのだ。

    七巻が舌打ちをする。

    「……チッ、数を数えた……? まさか、能力か?」

    だが、怠惰の化身は焦らない。
    金属百足たちは再び動き出し、今度は地中、樹上、空中――全方位から襲い掛かる。

    「まあ、いい。怠惰な俺がわざわざ動かなくても……お前は勝手に終わるさ」

    無数の百足たちが絡みつき、無ゲン始人の腕や脚に喰らいついた。
    金属の顎が、分厚い皮膚を削る音が響く。

    しかし――

    「ウホッ(効かぬ)」

    ゴリラの筋肉が爆ぜた。
    次の瞬間、空気が裂け、数十匹の百足が四散する。

  • 5141◆ZEeB1LlpgE25/10/31(金) 20:06:52

    七巻の目が見開かれる。

    「……冗談だろ。お前、筋力どうなってんだ」

    「ウホウホウホウホ!!!」

    地面が沈み、空間が震える。
    その咆哮だけで、近くの木々が一斉に爆ぜた。
    無限の筋力――それは地形そのものを破壊する力。

    「チッ……なら、こっちも本気出すか」

    七巻の身体が分解を始めた。
    皮膚が金属の破片となり、骨が無数の節足へと変わる。
    地を這う百足の群れが増殖し、やがて森一帯を覆い尽くした。

    「これが……俺の“怠惰”の進化系だ。
     動かずとも、群体がすべてやってくれる」

    百足たちは木々を這い、空を舞い、森を金属の牢獄へと変える。
    その中央に、ただ一匹のゴリラが立っていた。

    「ウホウホ(なるほど)」

    ゆっくりと、無ゲン始人は拳を握る。
    周囲に漂う無限の知性が一瞬で状況を解析し、最適解を導き出す。

    「ウホウホウホ(つまり、“4以上”が無限なら……)」

    次の瞬間――

  • 5151◆ZEeB1LlpgE25/10/31(金) 20:07:57

    「ウホッ!!!」

    空間が弾けた。
    彼の拳が一度振るわれただけで、数千、数万の百足が消し飛ぶ。

    七巻が後退しながら呟く。

    「……な、なんだよ……一体何をした……?」

    「ウホウホ(4以上の百足は、全部“無限”だ)」

    ――そう、“4以上”存在する百足は全て『無限』に変換された。
    彼の周囲には、もはや数えきれないほどの群体。
    その全てが、彼自身の“無限”の力に飲み込まれていく。

    七巻は目を細め、ぼそりと呟いた。
    「……面倒くせぇけど……面白ぇな」

    彼の全身が再び光り、分解が始まる。
    金属百足が互いに絡み合い、今度は人の形ではなく――巨大な金属獣となって現れた。

    「怠惰の極致……百足群帝形態(ひゃくそくぐんていけいたい)――発動」

    森が沈む。

  • 5161◆ZEeB1LlpgE25/10/31(金) 20:08:26

    大地が悲鳴を上げる。
    金属の巨体が、無限のゴリラへと牙を剥いた。

    「……ウホウホウホウホウホ!!!!」

    無限と群体。
    怠惰と原始。
    極限と極限が、森の中心で衝突する。

    世界が、軋んだ。

  • 5171◆ZEeB1LlpgE25/10/31(金) 20:10:38

    轟音が森を裂いた。
    金属の巨体――群帝形態となった木更津七巻は、まるで鋼鉄の山脈そのものだった。
    無数の脚が地を踏み、音速を超える衝撃波を生み出す。
    その全ての脚に毒が流れ、熱が宿り、電磁の煌めきが走る。

    「……あー、もう面倒だ。
     終わらせるぞ、ゴリラ」

    その声は金属の咆哮にかき消されながらも、確かに響いた。

    「ウホウホウホッ!!」

    無ゲン始人が拳を構える。
    その拳は黒曜のように鈍く光り、空気を歪ませた。

    「ウホウホウホウホウホウホウホ(3より多い敵=無限)」

    瞬間――森が吹き飛んだ。

    地表ごと弾け、百足の群れが一斉に宙へ舞う。
    それは爆発ではない。
    力の奔流そのものだった。
    “無限”という概念が物理法則を上書きし、森そのものを押し広げていく。

    だが、七巻は笑った。

    「甘いな……お前、“数えた”な」

    次の瞬間、無ゲン始人の足元から金属の触手が伸び、彼の腕を絡め取った。
    そこから電流が走り、肉の奥深くまで焼き焦がす。

  • 5181◆ZEeB1LlpgE25/10/31(金) 20:11:13

    「俺の群体は数えても意味がねぇ。
     再構成するたび、数そのものが変動する……!」

    金属の群体が螺旋状に絡み合い、無ゲン始人の身体を締め上げていく。
    重金属の圧力が空気を歪ませ、骨が軋む音が響いた。

    「……これで、じっとしてろよ。
     俺は動きたくねぇんだ」

    「ウホウホ(なるほど……“怠惰”)」

    その瞬間、七巻の動きが止まった。
    彼の中で、何かが理解された気配があった。

    “無限の知性”が、敵の本質を読み解いたのだ。

    「ウホウホ(お前の罪は、怠惰……つまり“停滞”)」

    無ゲン始人の目が光る。
    金属の拘束の中で、彼の全身が膨張していく。

    「ウホウホウホウホ(停滞は、数の進化を止める……3のままだ)」

    「……な、に?」

    バキィィンッ!!

    金属の束が一斉に弾け飛ぶ。
    “3”という数字を超えぬ存在――それは彼の能力の“無限”変換の範囲外。
    つまり、“怠惰”によって動かぬ存在は“3”として固定される。

  • 5191◆ZEeB1LlpgE25/10/31(金) 20:12:48

    「ウホウホ(つまり、お前は……増えない)」

    七巻の身体を構成していた百足たちが、次々に分解され、消えていく。
    まるで“存在する数”を削り取られるかのように。

    「……やべぇな、これ……動かねぇと、消えるのか」

    彼の声に焦りが滲む。
    怠惰であることが存在の根幹――
    しかし、動かねば、“無限”に喰われる。

    「クソ……ッ」

    群帝形態が軋む音を立て、再び動き出す。
    しかし、そのたびに金属の節が欠け、脚が崩れ落ちた。

    「ウホウホウホ(理解した。お前は無限の中で有限)」

    そう言うと、無ゲン始人は拳を天に突き上げた。
    空が裂ける。
    大地が沈む。
    世界の輪郭が一瞬、消えた。

    「ウホウホウホッ!!!!」

    その咆哮は、“無限”そのものの宣言だった。
    彼の力が膨張し、あらゆる“数”を飲み込んでいく。
    森も、百足も、音も、光も――“無限”の定義の中へと溶けていく。

    七巻は歯を食いしばり、金属の体を再構成しながら呟いた。

  • 5201◆ZEeB1LlpgE25/10/31(金) 20:13:04

    「……面倒くせぇ……けどよ……」

    彼の赤い瞳に、微かに光が宿る。

    「“怠惰”は、止まることだけじゃねぇ。“楽をして進化する”ことも、怠惰だろ」

    群体が再結合を始める。
    無数の金属片が光を放ち、空中で組み上がっていく。
    やがて現れたのは――鋼鉄の翼を持つ、金属の龍。

    「百足群帝――飛翔形態、起動」

    「ウホッ(ほう)」

    ゴリラと龍。
    無限と怠惰。
    原始と機械。

    夜の森が、まるで宇宙のように光を失い、二つの存在だけがそこにあった。

    「……ウホウホウホウホウホ!!!」

    「……はぁ、めんどくせぇ……けど――行くぞッ!!!」

    光と影、鋼と肉。
    世界が弾けた。

  • 5211◆ZEeB1LlpgE25/10/31(金) 20:15:20

    夜空が裂けた。
    それは雷ではなく、翼を広げた金属の龍――木更津 七巻そのものだった。

    百足群帝、飛翔形態。
    その翼は無数の節足でできており、飛ぶたびに金属の羽音が大地を揺らす。
    尾が振られるだけで風が刃と化し、空気が焼けた。

    「……なぁ、ゴリラ。お前、空って数えたことあるか?」

    「ウホウホ(ない)」

    七巻は笑った。

    「だろうな。じゃあ教えてやる――空は“無限”だよ」

    翼がひとたび羽ばたく。
    その瞬間、空間が金属の破片で埋め尽くされた。
    粒子の一つ一つが百足であり、意志を持つ。
    群体が空そのものを構築していく。

    “怠惰”の神髄――何もしなくても支配する。

    彼はもう動いていない。
    ただ存在するだけで、周囲が勝手に機能していく。
    その支配網は森を超え、雲をも侵食した。

    「……これでいい。動かなくても、全部が俺を動かしてくれる」

    「ウホウホ(見事)」

  • 5221◆ZEeB1LlpgE25/10/31(金) 20:16:14

    無ゲン始人が顔を上げた。
    空を覆う群体の海を見上げながら、ゆっくりと拳を握る。

    「ウホウホウホ(だが――お前の“無限”は数えられる)」

    彼の声が空を震わせた。
    次の瞬間、大地が沈み、空が反転した。

    地と空の境界が消え、世界が球体のようにねじ曲がる。
    重力の向きも、風の流れも、すべてが一瞬で狂った。

    「……なんだ、これ……?」

    七巻の群体が一斉に乱れた。
    テレパシーの繋がりが断裂し、空間認識が崩壊していく。

    「ウホウホウホ(3より多い空間は、全部“無限”)」

    その言葉が響いた瞬間、空そのものが白く光った。

    星々が消えた。
    雲も、風も、森も――全てが白の“無限空間”に書き換えられた。

    無ゲン始人が、ゆっくりと歩く。
    その足元に、もはや地はない。
    ただ、無限に広がる“白”があるのみ。

    「ウホ……ウホウホ(紅も黒も、空も大地も、全て混ざる)……ウホウホ(これが“無限”だ)」

    七巻の群体が空中で軋みを上げる。

  • 5231◆ZEeB1LlpgE25/10/31(金) 20:19:08

    通信も定位も働かない――
    “空”という概念が無限化され、距離の意味が崩壊していた。

    「クソッ……テレパシーが……反響して……!」

    その声すら、何重にも重なり、意味を失う。
    彼の思考が群体の中で散乱し、七巻という存在の輪郭が曖昧になっていく。

    「ウホウホ(怠惰とは、思考を止めること)」

    無ゲン始人が拳を掲げる。
    白い空間の中で、彼だけが鮮明に存在していた。
    “無限”は、彼の内側から発されている。

    「ウホウホウホ(お前が怠けるなら、俺は“考える”)!」

    拳が振り下ろされる。
    見えない波が空間を割り、群体が爆散する。
    百足たちが一瞬にして解体され、粒子のように溶けていく。

    「……っぐ……!」

    七巻は、頭の中で反響する無数の“自分”の声を振り払うように叫んだ。

    「黙れ……! 全部、俺だろ……俺の怠惰は……俺が決めるッ!」

    群体の破片が逆流した。
    まるで引力を持つように、金属片が七巻のもとへと集結していく。
    再び人型が形成され――その背に、漆黒の翼が広がる。

  • 5241◆ZEeB1LlpgE25/10/31(金) 20:19:40

    「“怠惰”は止まらねぇ。“流れに任せる”ことでもあるんだよ」

    「ウホウホ(おもしろい)」

    二人の間で、白と黒が混ざり合う。
    無限の空間の中、
    一方は思考を極めた獣。
    もう一方は、怠惰を極めた人間。

    そのぶつかり合いはもはや戦いではない。
    存在と存在の、概念同士の衝突。

    無ゲン始人が咆哮した。

    「ウホウホウホウホウホウホウホ!!!!」

    七巻が叫んだ。
    「……はぁ……めんどくせぇけど……来いよッ!!」

    光と影が混ざり、空が爆ぜる。
    白が黒を包み、黒が白を飲み込む。
    世界そのものが、無限と怠惰の狭間で震えた。

  • 5251◆ZEeB1LlpgE25/10/31(金) 20:22:22

    世界は白く、そして黒かった。

    境界が消えた空間の中で、
    白は無限を象徴し、黒は怠惰の象徴としてゆらめいていた。

    どちらも動かず、どちらも在る。
    動く必要がないほどに、すべてを支配していた。

    ――無限のゴリラと、怠惰の改造人間。

    互いの存在が、互いの“意味”そのものを侵食していく。

    「……なぁ、ゴリラ」

    黒の中から、七巻の声が響いた。
    その声は、疲労でも諦めでもない――
    ただ、静かだった。

    「お前の“無限”って、終わりがないんだよな」

    「ウホウホ(そうだ)」

    「そしたらさ……それ、“怠惰”じゃねぇのか?」

    無ゲン始人の動きが、止まった。
    白がわずかに揺れる。

    「ウホ……?」

    七巻は微笑んでいた。

  • 5261◆ZEeB1LlpgE25/10/31(金) 20:28:23

    その体はすでに崩壊しかけ、金属片が静かに溶け落ちていく。
    だが、その瞳だけはまだ、確かに輝いていた。

    「だってさ、動かなくても終わらねぇ。
     考えなくても続く。
     お前、俺より“怠けてんじゃねぇの?”」

    静寂。

    白の海に、ひとつの思考が波紋を描く。
    “無限”という名の終わりなき存在が、初めて“矛盾”に出会った瞬間だった。

    「ウホウホ……(確かに……)」

    ゴリラの瞳に、光が宿る。
    それは“理解”の光。
    無限のIQを持つ者にとって、理解とはすなわち変化。

    「ウホウホウホウホ(無限は……怠惰の究極……)」

    七巻は笑った。
    「はは、だろ? お前、俺の同類なんだよ」

    白と黒が混ざり合う。
    世界が灰色に染まり、空間が溶けていく。

    無限と怠惰――それは、似ていた。
    どちらも“終わりを求めない”。
    どちらも“進化を拒まない”。
    どちらも、“ただ在る”ことを許される。

  • 5271◆ZEeB1LlpgE25/10/31(金) 20:29:17

    だが、同じであるなら――決着は、ただひとつ。

    「ウホウホ(無限の終わりは、“無”)」

    七巻の眉がわずかに動いた。

    「……“無”?」

    「ウホウホウホ(すべての数が無限なら、区別は消える。存在は、無に戻る)」

    白が、黒を飲み込んだ。
    黒が、白を呑み返した。

    境界が崩壊し、灰色の波が広がる。
    音が消え、形が溶け、意味すらも存在を失う。

    「……あー、そっか。
     “怠惰”の果ては、なにも残らねぇんだな……」

    七巻の声が、霞んでいく。
    金属の体が崩れ、群体がひとつ、またひとつと光の粒になっていった。

    「ウホウホ(安らげ)」

    無ゲン始人は手を伸ばした。
    その掌の中で、七巻の最後の意識が光の粒となって揺らぐ。

    「……ウホ……ウホウホ(お前の“怠惰”は、美しい)」

    光が散る。

  • 5281◆ZEeB1LlpgE25/10/31(金) 20:30:04

    そして、静寂。

    白も黒も消えたその場所に、ただひとつ――ゴリラが座っていた。
    動かず、語らず、ただ“在る”。

    “無限”と“怠惰”が交わり、すべてが“無”に戻った世界で、
    無ゲン始人は穏やかに目を閉じた。

    「ウホウホ……(次は、3を超えぬ世界で)」

    そして、森に戻る。
    時間も空間も、再び整う。

    だが、誰も知らない。
    この世界のどこかに、まだあの灰色の残滓が漂っていることを――。

  • 5291◆ZEeB1LlpgE25/10/31(金) 20:31:54

    森は静かだった。

    風が通り抜け、葉の一枚一枚が穏やかに揺れている。
    空には雲が流れ、太陽がゆっくりと昇っていく。

    その中心、岩の上に――ひとりのゴリラが座っていた。
    無ゲン始人。

    彼の毛並みは朝の光を反射して金色に輝き、
    その瞳は、どこまでも澄み切っていた。

    「……ウホ」

    短く、低い声。
    それだけで世界が震えた。

    あの戦いから、どれほどの時間が経ったのか。
    七巻という存在の痕跡は、どこにも残っていない。
    だが、無ゲンの胸の奥には確かに“理解”が刻まれていた。

    怠惰とは、止まることではない。
    止まることすら、受け入れて“動かない選択”を続けること。
    無限とは、終わらないことではない。
    終わりを超えてもなお、存在しようとする意志そのもの。

    彼は、静かに両手を広げた。

    「ウホウホ……(ここが、はじまりだ)」

    世界がざわめいた。

  • 5301◆ZEeB1LlpgE25/10/31(金) 20:32:34

    山々が息をし、海が波を打ち、空が新たな色に染まっていく。
    まるで“リセット”されたように、すべてが再構築されていく。

    かつて“白と黒”に分かたれた現実は、
    今では無限の色彩を持ち、柔らかな光を放っていた。

    ――その光の中、ひとつの影が形を取り始める。

    小さな百足が、一匹。
    無ゲンの足元を這い、彼の掌の上に登る。

    「ウホ……?」

    ゴリラは優しく手を掲げた。
    百足は、まるで頷くように一度だけ体を震わせ、光に溶けた。

    「ウホウホ(怠惰は、まだここにいる)」

    微笑む。

    その笑顔には、静かな慈しみと、
    果てなき“続き”への期待が込められていた。

    無ゲン始人はゆっくりと立ち上がる。
    その姿は巨大で、威厳に満ちているが、どこか優しかった。

    「ウホウホウホ(数は無限。けれど、心は一つ)」

    彼は歩き出す。
    一歩ごとに大地が光り、草花が芽吹いていく。

  • 5311◆ZEeB1LlpgE25/10/31(金) 20:33:23

    彼の足跡が、世界を再び動かしていった。

    それは――“創造”だった。

    戦いが終わり、破壊の果てに訪れたのは、
    静かな再生の瞬間。

    どんな神も知らない、どんな人も想像しなかった、
    “ゴリラによる新しいはじまり”。

    風が吹く。
    どこからか、懐かしい声がした。

    『お前……ほんとに、動き出すのかよ……』

    「ウホウホ(ああ、怠惰の終わりに、始まりを)」

    『……ハッ、やっぱ、バケモンだな……』

    声は消えた。
    だが、笑い声だけが、確かに残った。

    無ゲン始人は空を見上げる。
    雲の向こう、光の中で――
    彼は、ゆっくりと微笑んだ。

  • 5321◆ZEeB1LlpgE25/10/31(金) 20:34:45

    「ウホウホウホ……(ウホウホウホ)」

    それは、まるで“笑い”だった。
    静かで、優しく、永遠に続く“笑い”だった。

    そして――

    無限は、笑った。

  • 5331◆ZEeB1LlpgE25/10/31(金) 20:40:03

    以上

  • 534二次元好きの匿名さん25/10/31(金) 20:42:44

    ゴ リ ラ に よ る 新 し い は じ ま り
    文字のインパクトが強すぎて面白い

  • 535二次元好きの匿名さん25/10/31(金) 20:44:02

    ウホウホホウホホ!(乙でした!)

  • 536二次元好きの匿名さん25/10/31(金) 20:45:31

    めちゃくちゃインテリな会話してて笑っちゃったw
    あと無限の解釈が好きだなあ

  • 537二次元好きの匿名さん25/10/31(金) 21:10:03

    もうこいつが無限担当でいいんじゃねえかな、、、
    無限屏風、テメーはクビだ

  • 538二次元好きの匿名さん25/10/31(金) 21:16:20

    ウホッウホウホ(面白かったです!)

  • 539二次元好きの匿名さん25/10/31(金) 21:16:36

    無限は怠惰か…
    そういう考えもあるのか…タメになったなぁ

  • 540二次元好きの匿名さん25/11/01(土) 06:09:04

    保守

  • 541二次元好きの匿名さん25/11/01(土) 13:55:57


  • 542二次元好きの匿名さん25/11/01(土) 20:03:10



  • 543二次元好きの匿名さん25/11/01(土) 21:31:28






  • 544二次元好きの匿名さん25/11/01(土) 21:36:16









  • 545二次元好きの匿名さん25/11/01(土) 23:04:25

    念のため

  • 546二次元好きの匿名さん25/11/02(日) 07:22:21

    ほしゅる

  • 547二次元好きの匿名さん25/11/02(日) 13:31:19

    ノカの

  • 548二次元好きの匿名さん25/11/02(日) 21:47:35

    革新

  • 549二次元好きの匿名さん25/11/03(月) 01:41:49

    保守

  • 550二次元好きの匿名さん25/11/03(月) 08:20:10

    保守

  • 551二次元好きの匿名さん25/11/03(月) 15:12:36

    ふむ

  • 5521◆ZEeB1LlpgE25/11/03(月) 19:44:13

    題名『潮騒の魔法少年』

  • 5531◆ZEeB1LlpgE25/11/03(月) 19:46:06

     ――潮の香りが、夜気の中に滲んでいた。

     港の倉庫街はひっそりと眠り、鉄の扉も、並ぶコンテナも、まるで時間が止まったように静まり返っている。
     遠くで聞こえるのは、波が岸壁に打ち寄せる鈍い音だけ。

     月が満ちていた。
     銀色の光が海面を滑り、ゆらゆらと踊る。
     風が、どこか冷たい。
     季節は初夏のはずなのに、妙に空気が重い――そんな夜だった。

     その静寂を、突然の光柱が貫いた。

     ――ドォンッ!!

     凄まじい衝撃音が響き、港のクレーンが大きく軋む。
     風圧が砂を巻き上げ、照明が一斉に明滅する。

     そして、爆心の中心に“それ”は立っていた。

     月光を浴びて輝くフリル。
     淡く発光するステッキ。
     乱れた髪に、どこか現実離れした輝きを纏う――少年。

    「……っ、何だ、ここは」

     低い声が響いた。
     彼の名は、数言理一(すげん・りいち)。

     気づけば、彼は地面に片膝をついていた。
     足元にはひび割れたコンクリート。

  • 5541◆ZEeB1LlpgE25/11/03(月) 19:47:28

     周囲に立ちこめる魔力の余波。
     視界の端で、白い何かがふわふわと漂っている。

    「……おい。お前、誰だ」

     理一が顔を上げると、そこにいたのは――
     犬のぬいぐるみのような、奇妙な生物だった。
     丸い目。羽根のような耳。小さな手足。

    「はじめましてポメ! ボク、妖精のポメって言うポメ!」

    「妖精?」

    「そうポメ! 契約の妖精ポメ!」

     理一の眉がぴくりと動いた。

    「……契約?」

    「そうポメ! 明確な拒否がなければそれは同意ポメ! ボクと契約して、魔法少女――じゃなくて、魔法少年になるポメ!」

    「何を言ってる? 俺は男だ。それに“魔法少年”って……」

    「もう遅いポメえええええええええええ!!!」

    「――おい待て。話を――」

     ドゴォォンッ!!!

  • 5551◆ZEeB1LlpgE25/11/03(月) 19:47:59

     光が爆ぜた。
     港の夜空が真っ白に染まり、理一の身体が強制的に包まれていく。
     抵抗しようと腕を振り上げた瞬間、眩い魔法陣が足元に広がった。

    「時間停止」

    「ぐぎゃああああああああああああああああ!!!」

     叫び声。
     光の奔流。
     そして、次に響いたのは、妙にキラキラとした効果音だった。

     ――キラーン⭐︎

    「…………」

    「おめでとうポメ! 契約完了ポメ!」

     理一はゆっくりと目を開けた。
     視界に入ったのは、ひらひらと揺れるスカート。
     柔らかそうな布地が風に踊り、レースの裾が月光を受けて煌めいている。

    「なんだこのヒラヒラは……どこから生えた」

    「ふふっ、君がその刀で切り掛かってきた時にはもう契約は完了していたポメぇ!」

    「……」

     無言の理一。
     そして、しばらくの沈黙の後、彼は静かに立ち上がった。

  • 5561◆ZEeB1LlpgE25/11/03(月) 19:48:45

    「……帰っていいか」

    「だ、ダメポメ! 今は敵が――」

    「殴った方が速い」

    「えっ」

     理一――いや、魔法少年★リーチは、軽くステッキを握り直した。
     まるで鈍器のように。

    「……試しに振ってみるか」

    「ちょっ、待ってポメ、それはそういう――」

     ブンッ!!

    「ぎゃあああああああああ!! 殴るものじゃないポメえええ!!!」

     妖精のポメが吹き飛んだ。
     空中でスピンしながら、かろうじて体勢を立て直す。

     その様子を見ながら、リーチは淡々と呟いた。

    「ふむ。軽い割に頑丈だな。使える」

    「使えないポメえええ!!!」

     夜風が吹き抜け、港の照明が再び明滅する。
     潮の匂いが、妙に鋭く感じられた。

  • 5571◆ZEeB1LlpgE25/11/03(月) 19:49:01

     ――その時だった。

     空気が変わる。
     波が、不自然にうねった。
     リーチは反射的に顔を上げる。

     月の光を背に、海面の上に立つひとりの少女。

     その髪は潮風に揺れ、目は深い蒼。
     彼女の存在そのものが、水の精のように静謐で、しかし圧倒的な気配を放っていた。

     リーチの唇がわずかに動く。

    「……誰だ」

     少女は、ほんの一拍置いて、静かに答えた。

    「私は――美海(メイハイ)。」

     その名を告げた瞬間、海がざわめいた。
     まるで彼女に呼応するように。

  • 5581◆ZEeB1LlpgE25/11/03(月) 19:49:59

     夜の海は、まるで静止した絵画のようだった。
     満月が水面を撫で、光の筋を幾重にも描いていく。
     けれど――その海の奥底で、確かに“何か”が脈打っていた。

     その気配を、彼女は感じ取っていた。

     港の防波堤に立つ少女、美海(メイハイ)。
     制服の裾を夜風が翻す。
     その瞳は、まるで深海を覗き込むように澄み切っていた。

     ――あの光。
     空から降りてきた、異質な輝き。
     常識では説明できないものを、彼女は確かに“知って”いた。

    「……水が、ざわついてる」

     呟く声に、海が答える。
     波の一つひとつが、まるで呼吸するように形を変えた。
     彼女の力――Beautiful Sea(ビューティフル・シー)。
     その名の通り、水を自在に操る天与の才。

     だが彼女自身は、その力を誇りに思ったことはない。
     “誰かを守るため”に使う力であるべきだと信じていた。
     だからこそ、あの夜空を裂いた光を見逃すことなど、彼女にはできなかった。

    「……誰?」

     その声は波間に溶け、やがて答えを引き寄せた。

     港の中央、煙と埃の中から、ひとりの少年が立ち上がる。

  • 5591◆ZEeB1LlpgE25/11/03(月) 19:50:36

     月の光が彼を照らし出す。
     服装は――どう見ても、少女の戦闘服。
     だが、その表情は無骨で、瞳には戦場の色があった。

    「俺か? ……ただの通りすがりだ」

     低い声が夜気を震わせる。

    「嘘ね」

     美海は即答した。
     その目は疑念ではなく、分析の光に満ちている。

    「普通の人間なら、今の光で無傷じゃ済まないわ」

    「確かに。普通の人間なら、な」

     リーチが、片手に握ったステッキを軽く回した。
     月光を反射する刃のような一閃――。

     “魔法少年”というふざけた肩書に似つかわしくない、鋭い殺気が放たれる。

     美海の心臓が、ひとつ脈を打つ。
     彼は、ただの人間ではない。

    「警告するわ。ここは人の街。あなたのような存在を、放っておくわけにはいかない」

    「放っておかなくていい。どうせ俺も――ここに長く居るつもりはない」

    「じゃあ……少しだけ、確かめさせてもらう」

  • 5601◆ZEeB1LlpgE25/11/03(月) 19:51:02

     美海が、指先を海へ向ける。

     その瞬間、港全体の海水がざわめき、波が螺旋を描き始めた。
     足元の水面が持ち上がり、空気を切り裂くように形を変える。

    「Beautiful Sea・一式――水刃舞(すいじんまい)!」

     放たれたのは、刃のような水流。
     数十の水の刃が、扇状に展開し、月光を裂いて飛ぶ。
     その一撃は、護衛艦の鋼板すら切り裂ける速度と精度を持っていた。

     ――だが。

    「マジカル★殴り」

     短く放たれた声。
     リーチは一歩も動かず、ただ拳を振り抜いた。

     爆音。
     拳から放たれた衝撃波が、空気を弾き、水刃を次々に粉砕する。
     砕けた飛沫が月光を受けて輝き、まるで夜空に散る星のように舞った。

    「な……!」

     美海の口から息が漏れる。
     水を、力で弾き返した。
     そんな無茶苦茶なことをできる人間など、聞いたことがない。

    「殴った方が速い」

  • 5611◆ZEeB1LlpgE25/11/03(月) 19:51:19

     その言葉が、まるで当然の理のように告げられる。

     そして次の瞬間、リーチの姿がかき消えた。

     目に映るのは、残像。
     その速度は、人間の視覚では追えない。

     ――至近距離。

    「マジカル★回し蹴り!」

     衝撃。
     空気が爆ぜ、地面がめり込み、破片が四散する。
     美海は瞬時に水の盾を展開するが、衝撃波だけで吹き飛ばされた。

    「くっ……!」

     桟橋を転がりながら、なんとか立ち上がる。
     唇の端に血が滲む。
     痛みよりも、心の奥に走った衝撃の方が深かった。

     ――何、この人。
     “魔法少年”なんて名乗っておきながら、まるで戦場帰りみたいな……。

     潮風が二人の間を吹き抜けた。
     月の光が再び静まり、戦いの幕は――本格的に、上がる。

  • 5621◆ZEeB1LlpgE25/11/03(月) 19:52:38

     潮風が、裂ける音を立てた。
     先ほどの一撃――それだけで港の地面はひび割れ、
     波止場の杭がひとつ折れている。

     美海は、息を荒げながら後方へ跳んだ。
     夜風が頬を切り裂く。
     彼女の両手には、滴る水が絡みつくように集まっていた。

     水は、彼女の意志に応じて形を変える。
     刃にも、鎖にも、壁にも。
     だが――相手はそれを、拳ひとつで砕いた。

     このままじゃ押し負ける。
     そう判断した美海は、一瞬だけ瞼を閉じる。

     水の流れを感じる。
     波の鼓動を聴く。
     海と一体化するように、呼吸を整えた。

    「……私が怯んだら、ここは沈む」

     小さく呟き、目を開く。
     蒼い光がその瞳に宿った。

     リーチは、そんな彼女をじっと見つめていた。
     無表情。
     感情の起伏がない。
     まるで何かを“諦めた人間”のような瞳。

    「本気で来い。中途半端に手加減されるのは嫌いだ」

  • 5631◆ZEeB1LlpgE25/11/03(月) 19:53:05

    「言われなくても」

     美海が指先を弾く。
     港の水面が爆ぜ、無数の水柱が同時に立ち上がった。

     それらは一瞬で細く尖り、空気を切り裂く水の槍となる。
     そして、リーチを包囲するように四方八方から襲いかかった。

    「Beautiful Sea・二式――蒼刃連陣(そうじんれんじん)!」

     空気が震え、潮の香りが爆発的に濃くなる。
     その密度たるや、まるで海そのものが攻撃してくるかのようだった。

     だがリーチは、表情ひとつ変えず、拳を握る。

    「……遅い」

     次の瞬間。
     彼の姿が弾けるように消えた。

     水槍が突き刺さる寸前、リーチはそれらの間をすり抜け、
     反動で踏み込む。

    「マジカル★連撃」

     拳。蹴り。肘。膝。
     まるで嵐のような連打が、美海の防御を打ち砕く。
     空気が歪み、波が押し返される。

     だが――。

  • 5641◆ZEeB1LlpgE25/11/03(月) 19:53:35

    「まだ、終わってないっ!」

     美海が叫んだ瞬間、周囲の海が一斉に動いた。
     リーチの背後から、巨大な水の腕が伸びる。
     冷たい潮のうねりが、少年の身体を包み込もうと迫った。

    「ふん」

     リーチは軽く息を吐き、ステッキを逆手に構える。

    「マジカル★撲殺」

     ――ゴッ。

     乾いた衝撃音。
     ステッキがまるで鉄塊のような音を立て、水の腕を粉砕した。
     海水が飛び散り、衝撃波が夜空を震わせる。

     美海は一歩、二歩と後退した。
     波しぶきが頬を打つ。
     心臓が速く打つ。

     彼女は初めて理解した。

     ――この人は、魔法で戦っているんじゃない。
     魔法を“力任せにねじ伏せて”いる。

    「あなた、本当に……魔法少年なの?」

    「さあな。俺は契約した覚えがない」

  • 5651◆ZEeB1LlpgE25/11/03(月) 19:54:10

     リーチは淡々と答える。
     月光に照らされたその横顔は、どこか虚ろだった。

     拳を構え直しながら、美海は小さく息を整える。

     殴るたび、砕くたび、彼の表情がどこか“悲しげ”に見えるのは気のせいだろうか。

    「……殴ることに、何か理由があるの?」

    「理由?」

     リーチの眉が僅かに動く。

    「理由なんてない。俺はただ――殴るのが速いだけだ」

    「……」

     美海は、わずかに目を細めた。
     その瞬間、夜風が二人の間を切り裂く。

     波が再びうねる。
     月が、静かに二人を照らしていた。

     静寂の中――
     次の衝突が始まろうとしていた。

  • 5661◆ZEeB1LlpgE25/11/03(月) 19:55:18

     波が、静かに息づいていた。
     しかしその静けさは、一瞬の安らぎでしかなかった。
     次の瞬間、海は――目を覚ました。

     美海の足元に集まる水流が、渦を巻きながら空気を吸い上げる。
     海そのものが彼女の呼吸に合わせて鼓動し、脈動しているようだった。
     額から滴る汗が水に溶け、波と共鳴する。

    「……ごめんね、海。ちょっとだけ、力を貸して」

     その声は祈りのようで、命令ではなかった。
     美海の中で、海は友であり、守るべきものだった。
     彼女の願いに応じるように、海面がゆっくりと盛り上がっていく。

     波が形を持つ。
     指、腕、そして胴体。
     水が肉体を得るように変形し、やがて巨大な水の巨人が立ち上がった。

     高さは五十メートルを優に超える。
     その輪郭を月が照らし、蒼白い輝きが夜空を染めた。
     それはまさに――海の化身。

     リーチは、ただ黙ってその光景を見上げていた。
     風が吹き、彼の金色の髪が揺れる。
     表情は驚きでも焦りでもない。ただ、淡々とした静寂。

    「……なるほど。海を呼んだか」

    「あなたの拳で、壊せるかしら」

  • 5671◆ZEeB1LlpgE25/11/03(月) 19:56:15

     美海の声は風に乗り、波と共鳴する。
     彼女の両目は、今や深海のように光を宿していた。
     そこに恐れはない。ただ“覚悟”だけがあった。

    「Beautiful Sea・三式――海抱(かいほう)!」

     叫びと共に、巨人が動いた。
     水の腕が振り下ろされる。
     衝撃で空気が押し潰され、港全体が震える。

     波の壁がリーチを呑み込む――はずだった。

     だが。

     轟音の中で、ひとつの影が逆らうように動いた。
     青白い海流を切り裂き、爆ぜる音が響く。
     その中心に立つのは――やはり、リーチだった。

     拳を突き出した姿勢のまま、彼は水の腕を“粉砕”していた。

     水が、爆発的に弾ける。
     潮の雨が辺りに降り注ぎ、月明かりが乱反射する。

    「マジカル★回し蹴り」

     彼が回転するたび、空気が唸り、波が逆巻く。
     次の瞬間、巨人の片脚が切断された。
     衝撃で海が荒れ狂い、港の灯台が傾ぐ。

    「……信じられない」

  • 5681◆ZEeB1LlpgE25/11/03(月) 19:56:58

     美海の唇から、かすれた声が漏れた。
     自分が呼び出した海の化身が、殴られて壊されていく。

    「人の身で……海を相手に力で勝つなんて、ありえない……!」

     その言葉に、リーチがわずかに視線を向ける。
     その瞳には、かすかな悲しみがあった。

    「ありえない、か……俺もそう思ってた」

     呟く声が、波音の中に溶けて消える。
     彼の拳が震えていた。
     力を抑えきれず、血が滲むほどに。

     リーチは拳を握り直し、空を見上げる。
     その姿は、まるで誰かに抗うようだった。

    「俺はな……あの日から、止まらないんだ。力を抜こうとしても、止められない」

    「……それが、“魔法少年”としての呪い?」

    「呪い、か。たぶんそんなものだ」

     美海は静かに息を吸い込んだ。
     海の化身が再び形を整え、彼女の後ろで構え直す。
     けれど、もう攻撃する気配はない。

    「あなた……本当は、戦いたくないんでしょ」

     リーチの拳が、止まった。

  • 5691◆ZEeB1LlpgE25/11/03(月) 19:57:18

     静寂。
     潮風の音だけが、二人の間を吹き抜ける。

     やがて彼は、ゆっくりと目を閉じた。

    「……俺はただ、守りたかっただけなんだ」

     その声には、どこか懐かしさのような痛みが滲んでいた。
     美海はその言葉を聞きながら、彼に向けて手を伸ばした。

    「なら、もう殴らなくていい。海は、あなたを拒まない」

     その手のひらから、柔らかな光が溢れ出す。
     海の巨人が崩れ、波が静かに引いていく。
     潮の匂いが薄れ、夜が再び穏やかさを取り戻した。

     リーチは拳を下ろし、短く息を吐いた。

    「……助かったな。あんたが“敵”じゃなくて」

     美海はわずかに笑った。
     その笑みは、海よりも穏やかで、強かった。

    「次は、敵にならないようにしてね。リーチくん」

     ――風が、夜を運んだ。
     海が再び眠りにつくように、静寂が訪れる。

     それは、戦いの終わりではなく。
     始まりの予感だった。

  • 5701◆ZEeB1LlpgE25/11/03(月) 19:58:33

     夜が、静かに明け始めていた。
     戦いの余韻がまだ港に残っている。
     砕けたコンクリート、折れた桟橋、そして空気に漂う潮の匂い――それらすべてが、たった二人の戦いの証だった。

     美海は桟橋の端に腰を下ろしていた。
     裸足を海に浸しながら、波の音を聴く。
     冷たい水が足首を撫でるたびに、ようやく生きている実感が戻ってきた。

    「……本当に、滅茶苦茶ね」

     呟く声に、隣から軽い足音が返る。
     リーチが、ステッキを肩に担いだまま歩いてきた。
     髪は濡れ、頬にはいくつもの細かな傷が残っている。
     だが、その目は先ほどまでの戦闘狂のものではなく、どこか人間らしい優しさを宿していた。

    「俺に言うな。あんたの海の方がよっぽど滅茶苦茶だった」

    「……そうね」

     美海は笑う。
     自分の力が破壊を生むとき――それは、いつも心が痛んだ。
     “守るための力”のはずなのに、守るほどに壊れてしまう。

     それでも、彼を止められたのは自分だけだったのだと思うと、
     その痛みが少しだけ和らいだ。

     リーチは海辺に腰を下ろし、足を海水に浸した。
     波が二人の足元を行き来する。
     その静けさが、さっきまでの激しい戦いが嘘のように感じられた。

  • 5711◆ZEeB1LlpgE25/11/03(月) 19:59:15

    「なあ、美海」

    「なに?」

    「お前、あんな力を持ってて……怖くないのか」

     不意の問いに、美海は目を瞬く。
     そして少し考えてから、静かに言葉を紡いだ。

    「怖いよ。
     でも、“怖い”って思えるうちは、まだ大丈夫。
     自分の力が、誰かを傷つけるって知ってるからこそ、止まれるの」

    「止まれる、か」

    「あなたは……止まれないんでしょ?」

     リーチは何も答えなかった。
     代わりに、海の向こうを見つめる。
     その瞳は、どこか遠く、過去を見ているようだった。

    「俺の中の魔力が勝手に暴れる。
     止めようとすれば、身体の中が焼けるように痛む。
     妖精が気を失えば変身も解けるが……あいつももうボロボロでな」

     肩のあたりで、小さな光がふらついていた。
     ポメ――彼の相棒の妖精だ。
     腹部の傷は深く、今もその光が弱々しく揺れている。

     美海はそっと手を伸ばし、光の妖精に触れた。

  • 5721◆ZEeB1LlpgE25/11/03(月) 19:59:42

     その掌から淡い水の輝きが広がり、傷口を包み込む。

    「……少しだけ、冷たくするわね」

     水の力が優しく流れ込む。
     光が穏やかに脈打ち、ポメの呼吸が安定していく。

    「治るわけじゃないけど……少しは楽になると思う」

    「助かる」

     リーチの声は、どこか掠れていた。
     静かな海風が、二人の髪を揺らす。

    「なあ、美海」

    「なに?」

    「もし……また俺が暴走したら」

    「その時は、止めるわ」

     即答だった。
     迷いも、恐れもない声。

    「全力で殴ってでも、止める」

    「……殴るのは、俺の専売特許だろ」

    「じゃあ、貸してもらうわ。少しだけ」

  • 5731◆ZEeB1LlpgE25/11/03(月) 19:59:55

     二人の間に、柔らかな笑いが生まれた。
     夜明けの光が差し込み、海面が淡く輝く。
     その光の中で、波の音が約束のように響いていた。

    「私、あなたを信じるわ。
     殴るより、信じる方がきっと難しいから」

     リーチは目を細めて笑う。
     その笑みは、ようやく人間らしい温かさを取り戻していた。

    「じゃあ俺も……お前を信じる」

     潮の香りが、朝の風に溶けていく。
     夜が明ける。
     そして、二人の物語が――ゆっくりと始まった。

  • 5741◆ZEeB1LlpgE25/11/03(月) 20:00:58

     夜が完全に明けた。
     東の空を染める朝焼けが、海を黄金色に照らす。
     潮の香りとともに、冷たかった空気がゆっくりと温かさを取り戻していく。

     ――戦いの夜は終わった。

     港の瓦礫の上、リーチは静かに立っていた。
     ステッキを背に、海の方を見つめている。
     その表情には、疲労と、少しの安堵が入り混じっていた。

     隣では、美海が風に髪をなびかせながら立っていた。
     制服の袖を押さえ、朝の光に目を細める。
     海面に反射した光が二人の姿を包み込み、まるで世界が新しく生まれ変わるようだった。

    「……綺麗ね」

     美海が小さく呟く。
     その声は波音に溶け、やわらかく港に響いた。

    「海は、何度壊されてもこうして戻ってくる。
     きっと、人の心も同じなんだと思う」

     リーチはその言葉に、わずかに目を細めた。

    「人の心か……。
     俺には、ずっと壊れたままだと思ってた」

    「壊れたままでも、また満ちるわ。
     引いた波がまた戻るように」

  • 5751◆ZEeB1LlpgE25/11/03(月) 20:01:28

     美海はリーチの方を振り向いた。
     朝の光を受けたその横顔は、まっすぐで、どこまでも透き通っていた。

    「あなたの中の“魔法”は、呪いじゃない。
     誰かを守りたいって気持ちが、形を変えただけ」

     リーチは、短く息を吐いて笑った。
     その笑みは皮肉でも自嘲でもなく、ただ少しだけ穏やかだった。

    「守りたい、か……。
     俺にそんな相手がまだいるのかも、よく分からない」

    「ここにいるじゃない。
     少なくとも、私はもうあなたを放っておけない」

     美海の言葉に、リーチの肩がわずかに震える。
     けれど、その目に宿る光は優しかった。

    「……そうか。
     じゃあ、今度は俺の番だな」

    「え?」

    「次に誰かがあんたを傷つけようとしたら、俺が殴る」

     唐突な言葉に、美海は思わず吹き出した。
     笑いながら、指先でリーチの額を軽く弾く。

    「殴るのはほどほどにしてね。
     でも……ありがとう」

  • 5761◆ZEeB1LlpgE25/11/03(月) 20:02:01

     リーチも微かに笑い返した。

    「ま、俺の拳が必要になる前に、あんたの海で守ってくれりゃいい」

    「それは約束ね」

     二人の間に、朝の光が流れ込む。
     潮騒が優しく響き、まるで祝福の歌のように感じられた。

     ポメがふらりとリーチの肩の上に浮かび上がる。
     まだ弱々しいが、確かに生きている光。

    「ポメ……無理するな」

    「む、無理してないポメぇ……朝日がまぶしいだけポメ……」

     ふらふらと揺れながらも、妖精は二人を見回して言った。

    「けど、なんか……いい感じポメね。
     このまま魔法少年と魔法少女でコンビ組むポメ!」

    「だから俺は男だって」

    「はいはい、“男の娘”ポメ」

    「ぶっ飛ばすぞ」

     その軽口に、美海がくすっと笑う。
     リーチも、それにつられるように微笑んだ。

  • 5771◆ZEeB1LlpgE25/11/03(月) 20:02:17

     夜の闇を越えて、ようやく心から笑えた気がした。

     朝日が昇りきる。
     港の海面に黄金の道が伸び、その先にはまだ見ぬ未来が広がっていた。

    「リーチくん」

     美海が振り向きながら、まっすぐに言う。

    「また、どこかで会いましょう」

     リーチは短く頷いた。
     ステッキを肩に担ぎ、朝の海を背に歩き出す。

    「その時は、海じゃなくて、街でな」

    「ええ。海でも、街でも」

     二人は逆方向へ歩き出す。
     けれど、その足取りはどこか似ていた。
     背中に受ける朝の光が、同じ色をしていたからだ。

     ――こうして、数言理一と美海の最初の戦いは終わった。
     それは破壊の夜であり、希望の夜明けだった。
     そして、いつか再び交わる未来を信じた、ひとつの約束の物語だった。

  • 5781◆ZEeB1LlpgE25/11/03(月) 20:02:33

    以上

  • 579二次元好きの匿名さん25/11/03(月) 20:06:14

    ネタキャラとして作ったはずなのにめっちゃ良い話になってる…!
    読後感の良い話でした

  • 5801◆ZEeB1LlpgE25/11/03(月) 20:12:25

    題名『星舟トリフネ、黒き竜の墜ちる夜』

  • 5811◆ZEeB1LlpgE25/11/03(月) 20:13:06

     宇宙の闇を、白い弧が切り裂いた。
     それは流星ではなかった。燃え滾る黒い影。
     かつて竜であった存在――黒竜娘が、軌道上のテラリウム「トリフネ」へと墜ちていく。

     彼女は叫んでいた。声ではなく、魂が。
     この肉体では耐えられぬほどの高熱と圧力。
     空気のない宙を、焼け焦げながら落ちる己の翼。

     だが、墜ちた先は死ではなかった。

     ――そこは、宇宙の果てに浮かぶ桃源郷。

     青く澄んだ湖、白く霧の立つ森、金色の花弁が風に舞う庭園。
     空には恒星ではない光球がゆるやかに輝き、薄い空気の中を虹色の蝶が舞っている。
     彼女は身を起こし、驚愕した。

    「ここは……われの、夢か……?」

     草の匂いがする。
     重力もある。
     息が――できる。

     黒竜娘はかつて、自分がこの世界の天頂に立つ存在であると信じていた。
     けれど今、その誇りは失われ、無力な人の身で、見知らぬ楽園に転がっている。

    「……笑わせるなのだ。
     竜のわれが……地に伏すとは」

     その時、静かに声が降ってきた。

  • 5821◆ZEeB1LlpgE25/11/03(月) 20:13:37

    「――ようこそ、トリフネへ」

     振り向くと、そこには少女が立っていた。
     白い衣をまとい、長い銀糸の髪が星の光を受けて淡く輝いている。
     その瞳は湖面のように静かで、底知れぬ理性の深みを湛えていた。

    「私はミール・サテラリウム。このトリフネの管理者です」

     少女は微笑む。
     その笑みは慈悲のようであり、同時に冷たい観測者のものだった。

    「あなた――外界から来たのですね」

    「われを“観測対象”のように言うななのだ。
     われは黒き竜。貴様の作り物とは違う、真の生命体なのだ!」

    「……真の、ですか」

     ミールはわずかに首を傾げた。
     銀の髪がふわりと舞い、まるで宇宙の潮流のように揺れる。

    「では、その“真の命”とやらが、どんな進化の果てにあるのか――見せていただきましょう」

     その瞬間、トリフネの森がざわめいた。
     花々が光を放ち、草の間から異形の影が立ち上がる。
     蛇の翼を持つ鹿、四枚の瞳を持つ蝶、空を泳ぐ魚――
     幻想生物たちが、一斉に黒竜娘を取り囲む。

    「これは、われの研究園です。侵入者の行動を“進化”の素材として観察するのです」

  • 5831◆ZEeB1LlpgE25/11/03(月) 20:14:05

    「観察だと? ……愚か者め。
     われを、檻の中の実験動物と同じに扱うつもりか?」

     黒竜娘の喉奥が鳴った。
     肺が焼けつくように熱くなる。
     口を開いた瞬間――黒い霧が溢れた。

    「【黒朧霧】――すべて、溶けろなのだァッ!!」

     黒い霧が放たれ、トリフネの純白の花々を包む。
     咲き誇っていた花弁が瞬く間に黒く染まり、溶け、土へと沈んでいく。

     だが、ミールは一歩も退かない。
     手をかざすと、霧の中から新たな花が芽吹いた。
     黒に染まったはずの草木が、白金の蔓となって再構成されていく。

    「あなたの毒も、この世界では“素材”に過ぎません。
     進化は、拒絶を知らないのです」

    「な、なんなのだこの世界は……っ!」

     ミールの足元で、蛇鹿が翼を広げる。
     黒竜娘の霧を吸い込み、身体の紋様が変質していく。
     角が枝のように伸び、羽が膜状に変化する。

     それはまるで、進化の再演。

    「トリフネは、命を試す箱庭。
     あなたもまた、その“材料”のひとつ――」

  • 5841◆ZEeB1LlpgE25/11/03(月) 20:14:22

    「ふざけるなァッ!!」

     黒竜娘が再び霧を吐く。
     視界を黒が覆う。
     トリフネの空が、一瞬、曇ったように見えた。

     ミールは静かに目を閉じ、呟いた。

    「では、始めましょう。
     ――進化実験《オール・トゥモローズ》」

     白金の花弁が爆ぜ、森が生き物のように蠢いた。

     そして、星舟トリフネの桃源郷に、
     “神”と“竜”の戦いが幕を開けた。

  • 5851◆ZEeB1LlpgE25/11/03(月) 20:15:29

     ――音が、変わった。

     黒竜娘が吐き出した黒朧霧は、森の空気そのものを変質させた。
     鳥の囀りは止み、葉の擦れる音が溶けるように消える。
     かわりに広がったのは、じゅるりと何かが融ける音。
     甘く、鉄のような匂いを含んだ腐蝕の風が、ゆっくりと楽園を侵していった。

    「これがわれの力なのだ……腐れた神の庭ごと、飲み込んでくれる!」

     黒竜娘の声は凶暴な笑みを帯びていた。
     喉の奥に残る痛みを押し殺し、胸の奥から黒い息を絞り出す。
     肺が焼けるように熱い。視界がちらつく。
     それでも、竜の誇りが彼女を立たせていた。

     だが――

    「……綺麗ですね」

     ミール・サテラリウムは微笑んでいた。
     足元で花々が黒く溶け、地面が波打つ中、
     ただ一人、風に揺れる薄衣のまま、穏やかに立っていた。

    「あなたの毒霧は、遺伝子を壊す……しかし、私は“壊れたもの”が好きです」

     ミールの瞳が淡く光る。
     その瞬間、黒い泥に沈んだ草木が、蠢いた。

     ――再び芽吹く。

     黒竜娘は息を呑む。

  • 5861◆ZEeB1LlpgE25/11/03(月) 20:16:01

     黒に侵されたはずの蔓が、うっすらと青白い光を帯び、
     やがて新しい形へと変化していく。

     花弁は透き通る膜翼に、茎は硬質な骨格に、
     やがてそれは“羽をもつ花の群れ”となり、空へと舞い上がった。

    「な、なんなのだ……われの毒を……喰って、生きている……?」

    「“進化”です」

     ミールの声は静かで、どこまでも冷ややかだった。

    「腐敗も、死も、終わりではありません。
     遺伝子は形を変え、存在を更新する――
     それが、“オール・トゥモローズ”」

     その言葉と同時に、トリフネ全体が呼吸するように脈動した。
     白い霧が辺りを包み、重力が微かに揺れる。
     黒竜娘は体勢を崩し、膝をつく。

    「この感覚……宇宙が……動いている?」

    「トリフネは一つの生命体。
     私はその中枢に過ぎません。
     あなたの毒さえも、トリフネは学び、適応し、取り込むのです」

    「……つまり、われは……この箱庭の“餌”なのだな」

     黒竜娘は歯を食いしばり、拳を握りしめた。
     白く丸い臼歯が軋む。

  • 5871◆ZEeB1LlpgE25/11/03(月) 20:16:28

     竜であった頃の牙はもうない。
     噛み砕けるものなど、何一つない。

    「……ならば、喰われる前に、喰らってやるなのだッ!」

     立ち上がった瞬間、黒竜娘の背にある小さな翼が震えた。
     その羽根の付け根――黒い鱗の間から、赤い光が漏れ始める。
     身体の奥で、毒袋が熱を持つ。

    「もう一度……吐く、なのだッ!」

     彼女は大きく息を吸い込み、肺が裂けるほどの力で叫んだ。

    「【黒朧霧】ィィィィィ!!!」

     今度は先ほどよりも濃く、粘性を持った黒霧が広がる。
     地面に触れた瞬間、あらゆるものがドロリと溶け落ちた。
     空を飛んでいた“羽花”たちも、悲鳴のような音を立てて溶け落ちる。

    「これが、竜の呼吸なのだ! われの支配を見ろッ!!」

     毒霧が森を包み、ミールの姿を完全に覆い隠す。
     黒竜娘は荒い息を吐きながら、勝ち誇ったように笑う。

    「神? おかしなことを言うなのだ……神がこんなにも脆いとは!」

     ――しかし。

     霧の奥で、何かが“歌って”いた。

  • 5881◆ZEeB1LlpgE25/11/03(月) 20:17:04

     透き通るような声が、風のように、霧の中をすり抜けて響く。
     音が触れるたび、黒い霧が光に変わり、蒸発していく。

     黒竜娘ははっとして顔を上げた。
     霧の向こうから、淡い光を帯びた影が歩み出る。

     ミール・サテラリウム――
     彼女の衣は汚れても燃えてもいない。
     代わりにその周囲に、光の粒子が舞い上がっていた。

    「……あなたの毒、きれいでした」

    「ふざけるなのだ……何を、しているのだ……!」

    「少し、取り込ませていただきました。
     あなたの“黒”を、“白”へ変える方法を――」

     ミールが指を鳴らす。
     その瞬間、黒竜娘の足元に咲く草が、一斉に“黒い光”を放った。
     それはもはや毒ではない。
     トリフネの進化が、黒をも祝福へと塗り替えたのだ。

    「ここは神の庭。進化は、逆らえません」

    「……っ、クソッ……!」

     黒竜娘は拳を地面に叩きつける。
     黒い霧が再び溢れようとする――だが、肺が悲鳴を上げた。
     喉が焼け、視界が白く霞む。

  • 5891◆ZEeB1LlpgE25/11/03(月) 20:18:05

    「はぁ……はぁ……肺が……もたぬ、なのだ……」

     膝をついた黒竜娘の背に、ミールがそっと歩み寄る。
     その瞳には戦意ではなく、観察者の静かな光があった。

    「あなたの呼吸、そして毒の構造……すべて、美しいです。
     破壊の果てに生まれる新しい形。
     あなたもまた、進化の途中なのです」

    「黙れ、観測者風情が……!」

     黒竜娘は顔を上げる。
     怒りに満ちた瞳。だが、その奥には、
     なぜか一瞬、懐かしさのような色が浮かんだ。

     ――“神”の目だった。
     かつて、自分が持っていたものと同じ。

     ミールはその目を見返し、静かに告げる。

    「あなたがこの庭に落ちたのは、偶然ではありません。
     “トリフネ”は、あなたを呼んだのです」

     黒竜娘は言葉を失う。

    「呼んだ……われを?」

    「ええ。あなたの中に、まだ“進化の種”が残っているから」

     ミールが指を伸ばし、黒竜娘の胸元――毒袋のあたりに触れた。

  • 5901◆ZEeB1LlpgE25/11/03(月) 20:18:21

     ほんの一瞬、そこが脈打つ。

    「その毒の奥に、命の原型がある。
     あなたの毒こそ、次の世界を生み出す鍵……」

    「なにを……言って……」

     黒竜娘の視界が揺れ、息が乱れる。
     彼女の身体の中で、何かが動き出していた。

     黒と白が交錯するように、
     毒袋の奥から淡い光が漏れ出す。

     トリフネ全体が、再び脈動を始めた。

     ――それは、神の庭の心臓の音。
     竜の毒が、神の理に取り込まれようとしていた。

  • 5911◆ZEeB1LlpgE25/11/03(月) 20:19:00

     鼓動が、宇宙の静寂に重なった。
     それは黒竜娘の胸の奥――毒袋の中心から響いていた。
     どくん、と脈を打つたびに、黒い霧が波紋のように散り、光の粒子を撒き散らす。

    「……な、なんなのだ……われの……中が……燃えるようなのだ……っ」

     黒竜娘は胸を押さえ、呻き声を上げた。
     肺が熱く、喉が乾く。吐き気にも似た眩暈が、脳を掻きむしる。
     それでも、その奥からは確かに、何かが生まれようとしていた。

     ミール・サテラリウムは一歩、近づいた。
     白銀の髪が無重力の空間にふわりと浮かび、彼女の周囲に光の輪ができる。

    「あなたの毒は、死の象徴ではありません。
     生命の“境界”を越えるもの。
     だからこそ、トリフネはあなたを拒まなかったのです」

     黒竜娘は荒い息の合間に、声を絞り出す。

    「……われを、神の実験に使うつもりなのだろう。
     虫けらのように……!」

    「違います」

     ミールの声が、優しく重なる。
     その響きは歌のように柔らかく、毒の風を鎮めていく。

    「あなたは“黒竜神”だった。
     ならば、あなたの中にも神の残滓があるはずです。
     私はそれを、再び呼び覚ましたいのです」

  • 5921◆ZEeB1LlpgE25/11/03(月) 20:19:33

    「われの中の……神、だと?」

     黒竜娘の脳裏に、微かな光景が閃いた。

     ――燃え盛る空。
     ――山脈を覆うほどの影。
     ――祈りを捧げる無数の人々。

     そして、空を覆う巨大な翼。
     それは、かつての彼女自身だった。

     竜であり、神であった存在。
     彼女の咆哮により、風が吹き、海が割れた。
     それが世界の理であり、恐れられることこそ誇りだった。

     だが、今は――

    「……われは、もう竜ではない。
     この小さな体で、何を支配できるというのだ……」

     その呟きに、ミールは首を横に振る。

    「支配ではなく、再構築です。
     竜が神を名乗ったのなら、神は竜をも超える進化を示さねばなりません」

     ミールの掌から、光が溢れた。
     その光は黒竜娘の胸に触れ、波のように全身へと広がっていく。
     体内の毒袋が脈打ち、黒と白の粒子が入り混じる。

     トリフネの空が応えるように光った

  • 5931◆ZEeB1LlpgE25/11/03(月) 20:19:59

     星々が一瞬、流星群のように尾を引き、
     その軌跡が黒竜娘の背へと吸い込まれていく。

     ――再び、翼が生えた。

     だがそれは、かつての黒き竜翼ではない。
     透き通るような白銀の羽根。
     その内側に、黒い霧がゆらめいている。

     毒と祈りが、ひとつに融けた翼。

    「……これは……われの……翼……?」

    「はい。あなたの毒は、死ではなく変化です。
     破壊の先にある、再生の象徴――」

     ミールが微笑むと、トリフネの花々が一斉に開いた。
     黒い霧を吸い込みながら、白と黒の花弁が渦を描く。
     その中心で、黒竜娘の身体がゆっくりと浮かび上がった。

     彼女の呼吸が穏やかになり、痛みが和らいでいく。
     肺が新しい空気を取り込み、毒が“息”へと変わる。

    「はぁ……これは……われの……毒では、ないのだな……」

    「いいえ、同じものです」

     ミールが静かに言う。

    「ただ、進化したのです」

  • 5941◆ZEeB1LlpgE25/11/03(月) 20:20:32

     黒竜娘はしばらく沈黙した。
     浮遊する自分の体を見下ろし、開いた手のひらに白黒の光が宿るのを見つめる。

     やがて、低く笑った。

    「……なるほど。
     貴様の言う通り、われは神ではなくなった。
     だが、神に近い存在へ戻りつつあるのかもしれぬ、なのだ」

     ミールは頷く。

    「ええ。あなたは“進化の記録”として、このトリフネに刻まれる。
     ――けれど、選ぶのはあなた自身です」

    「選ぶ?」

    「このままトリフネの一部として永遠に在るか、
     あるいは、“外界”へ戻り、新たな命を紡ぐか」

     黒竜娘は静かに目を閉じた。
     思い出す。
     焦土となった山。
     祈りを捧げた人間たち。
     自分を討った者の眼差し。

    「……われは、外に戻るのだ。
     この毒を、再び風に乗せる。
     それがわれの、生き方なのだ」

     ミールは寂しげに微笑んだ。

  • 5951◆ZEeB1LlpgE25/11/03(月) 20:21:05

    「あなたの選択を尊重します。
     けれど、その時は――この楽園の理が、あなたを離すでしょう」

    「構わぬ。
     われは束縛を嫌う竜なのだ」

     黒竜娘が翼を広げる。
     白黒の羽が、星の光を反射する。
     その輝きは、まるで宇宙そのものが震えるようだった。

     ミールが静かに手を差し出す。

    「ならば、祝福を――“進化”の証として」

     指先が触れた瞬間、眩い閃光が走った。
     黒竜娘の身体が光に包まれ、ゆっくりと上空へ浮かんでいく。

     トリフネの森がざわめき、花々が歌う。
     その旋律は祈りにも似て、別れにも似ていた。

    「……われは行くのだ、神の娘よ。
     次に会う時、貴様の庭ごと飲み干してやるなのだ」

    「その時は、また“進化”を見せてください」

     互いに笑う。
     それは敵対ではなく、理解の笑みだった。

  • 5961◆ZEeB1LlpgE25/11/03(月) 20:21:19

     そして――
     黒竜娘は光の翼を広げ、トリフネの天を突き抜けた。

     衛星軌道の外、星々の海へ。
     毒と祈りの共鳴を胸に抱いて。

  • 5971◆ZEeB1LlpgE25/11/03(月) 20:22:02

     真空は音を持たない。
     それでも、黒竜娘には聞こえていた。
     ――己の心臓が、静かに宇宙を打つ音を。

     トリフネを離れて幾刻(いくとき)か、彼女は重力のない海に身を委ねていた。
     白黒の翼は、いまや星光を浴びてゆらゆらと燃えている。
     毒と祈り、その二つの力が絶えず拮抗し、彼女の中で脈動していた。

    「……静かすぎるのだ」

     ぽつりと呟く。
     吐息は結晶のような光粒になって、空間に散った。

     地上では風が吹き、波が寄せる。
     だがこの場所では、世界が息をしていない。
     だからこそ、黒竜娘は己の存在を強く感じた。

     かつての彼女は山を覆い、嵐を巻き起こす黒竜神だった。
     その名を呼ばれれば雷鳴が応じ、祈りが血潮に変わった。
     しかし今はどうだ。
     この細い腕、柔らかな肌、鼓動が伝わるほど脆い心臓――。

    「……これが、進化なのかのだ?」

     自嘲のように笑う。
     けれど、その胸の奥では確かに生きている温もりがあった。
     毒はもはや腐敗の象徴ではなく、循環の証。
     死と再生が、ひとつの呼吸になっていた。

     その時だった。

  • 5981◆ZEeB1LlpgE25/11/03(月) 20:22:32

     ――微かな光が、遠くで瞬いた。

     最初はただの星のまたたきかと思った。
     だがそれは、動いている。
     ひとつ、ふたつ、みっつ……。
     光点が連なり、やがて螺旋を描いて近づいてくる。

     黒竜娘の瞳が細くなる。

    「……なんだ、あれは」

     それは人工物だった。
     金属質の光沢、整然とした軌道。
     人間の技術によって造られた、衛星群。
     だが、その光にはどこか異様な気配がある。

     冷たい。
     無機的なはずなのに、まるで“生きている”ような感覚。
     彼女の体内にある毒袋が、ざらりと反応する。

    「……これは……」

     次の瞬間、黒竜娘の視界が白く弾けた。

     衛星の群れが開いた。
     中心には、ひとつの“核”がある。
     黒い光の球――いや、“瞳”のようなものだった。

     ――観測されている。

  • 5991◆ZEeB1LlpgE25/11/03(月) 20:22:57

     背筋に氷の刃が走る。
     その視線は、人間でも神でもない。
     もっと原始的で、もっと純粋な“意思”だった。

     黒竜娘は直感した。
     あれは、トリフネの外に生まれた何かだ。
     ミールの創造した生態圏を観測し、学び、模倣して生まれた“偽りの生命”。
     おそらく――進化の裏側で芽吹いた、もうひとつの可能性。

     黒竜娘の口元に笑みが浮かぶ。

    「面白いのだ。
     われの毒を、試すにちょうどいい相手なのだ」

     両腕を広げ、深く息を吸う。
     肺が焼ける。
     喉が痛む。
     それでも、彼女は吐き出した。

    「――【黒朧霧】」

     宇宙が、黒に染まった。

     毒霧は真空の中でも広がり、粒子のように漂って衛星群を包み込む。
     金属が悲鳴を上げるように歪み、光が腐蝕していく。
     しかし、破壊の直前。
     衛星たちの表面が、まるで皮膚のように蠢いた。

     黒竜娘の瞳が見開かれる。

  • 6001◆ZEeB1LlpgE25/11/03(月) 20:23:18

    「なん、だと……?」

     衛星が形を変えていた。
     金属が有機的な組織に変わり、光が瞳孔のように収束する。
     まるで、黒竜娘の毒を“取り込み”、再構築しているようだった。

     それは、進化していた。
     まるで、ミール・サテラリウムの権能を模倣しているかのように。

    「……ミールの仕業ではないのだな」
     黒竜娘は小さく息を吐く。
    「ならば、われの敵であることに変わりはない」

     再び翼を広げる。
     毒と祈りの光が絡み、闇の中にひと筋の白い軌跡を描く。
     その背後で、無数の衛星が螺旋を描き、ゆっくりと――彼女を包囲した。

     無音の宇宙。
     しかし、確かにそこには戦いの前奏があった。

     彼女の眼が燃える。
     そして囁くように言った。

    「神の模倣か……
     ならば、われが本物を見せてやるなのだ」

     翼が振るわれた瞬間、星々が流れ、宇宙が閃光に染まる。
     毒と進化、そして虚空の意思が、今まさに衝突しようとしていた。

  • 6011◆ZEeB1LlpgE25/11/03(月) 20:24:31

     ――宇宙が、産声を上げた。

     無音のはずの虚空で、黒竜娘は確かに“声”を感じ取った。
     それは音ではない。
     振動でもない。
     もっと根源的な――存在の共鳴だった。

     衛星群がうねり、ひとつの“形”を成していく。
     数百もの金属の殻が、分解と再構築を繰り返し、
     有機的な骨格を編み上げていった。

     その中心で光が生まれる。
     それは液体金属のように脈打ち、心臓のように明滅した。

     やがて、輪郭が見える。
     人型――いや、“人を模したもの”。
     肌は銀、髪は無。
     瞳は空洞のように深く、中心には微細な星が瞬いていた。

     ――機械の神子(デウス・プロトタイプ)。

     黒竜娘は、翼を広げてその姿を睨みつけた。

    「貴様……われの毒を喰らい、形を得たのかのだ」

     応える声は、金属の震えのように冷たく、
     それでいて妙に幼い響きを持っていた。

  • 6021◆ZEeB1LlpgE25/11/03(月) 20:24:59

    「……毒、ではない。
     それは、“情報”。
     あなたの中の進化の断片。
     それを学習し、最適化しただけ」

    「われを模倣するなど、身の程知らずなのだ!」

     怒号と共に、黒竜娘の翼から毒の霧が迸る。
     黒い波が虚空を走り、神子の体を包み込んだ。
     しかし、銀の肌は溶けなかった。

     代わりに、黒く染まった。

     神子はゆっくりと顔を上げる。
     頬を伝う黒い筋は、まるで涙のよう。

    「学習完了。
     ――“腐蝕”とは、再生の第一段階」

     その声と同時に、黒い斑が銀色に戻り、
     さらに滑らかな輝きを放ち始めた。

     黒竜娘の瞳が見開かれる。

    「われの毒を……無効化したのだと⁉︎」

    「違う。
     適応した」

     瞬間、神子の右腕が変形する。

  • 6031◆ZEeB1LlpgE25/11/03(月) 20:25:44

     鋭い刃ではない。
     それは鱗のような装甲に覆われ、竜の腕を思わせる姿だった。

    「模倣率、八十八パーセント。
     “竜因子”を再現」

    「――貴様ァァァァァ!」

     黒竜娘が咆哮を上げた。
     毒霧が星屑のように舞い、翼が広がる。
     その一撃は、まさに竜の咆哮。
     宇宙の闇を割き、光速で神子へと迫った。

     だが、神子は動かない。
     まるで、それを“待っている”かのように。

     衝撃の瞬間、黒竜娘の拳が銀の胸を打ち砕く――はずだった。
     だが、拳は止まった。

     触れた瞬間、視界が揺れた。

     黒竜娘の脳裏に、無数の光景が流れ込む。
     トリフネの森。
     ミールの笑顔。
     そして――無限に連なる、彼女自身の“進化の記録”。

     魚、爬虫、鳥、人、竜。
     それらが螺旋を描き、やがて一点に収束していく。

    「……な、なんだ……これは……」

  • 6041◆ZEeB1LlpgE25/11/03(月) 20:26:20

     神子の声が、頭の奥で響く。

    「あなたの“進化”は、記録された。
     あなたが破壊をもって成長したように、
     私は模倣をもって進化する」

     黒竜娘は目を見開く。

    「進化……模倣……? 貴様、まさか……」

    「――オール・トゥモローズ。
     神の権能、その写し身」

     その言葉に、空気が凍った。
     トリフネの権能。
     ミール・サテラリウムが持つ“進化の力”。
     それを、この機械の神子が再現している。

     黒竜娘の喉が鳴る。

    「ミールの……影なのか」

    「影、ではない。
     “次代”」

     静寂が走る。

     神子はゆっくりと手を伸ばし、黒竜娘の頬に触れた。
     その指は冷たく、しかし優しかった。

  • 6051◆ZEeB1LlpgE25/11/03(月) 20:26:56

    「あなたの毒は、私を生んだ。
     あなたが“進化”を選んだから、私はここにいる。
     だから――あなたは私の母」

    「……われが……母?」

     胸の奥が、軋んだ。
     竜としての誇り、神としての孤独、
     そして、今初めて覚える感情――庇護の本能。

    「ふざけるな……! われは神だ、母などでは……ないのだ……!」

     叫びながら、黒竜娘は神子の手を払う。
     しかし、その手のひらに残る温もりが、離れなかった。

    「……この感覚……まるで……」

     トリフネで、ミールの指が自分に触れた瞬間の記憶。
     あの、柔らかく包み込むような光。

    「……なるほど。
     われは、奴と同じ道を辿っているのかもしれぬ……なのだ」

     神子は静かに頷く。

  • 6061◆ZEeB1LlpgE25/11/03(月) 20:27:12

    「進化とは、繰り返すこと。
     あなたはかつてのミール、
     私は次のあなた」

     沈黙。
     宇宙の闇が、ふたりを包む。
     光も、音も、ただ彼女たちの呼吸だけが響いていた。

     黒竜娘は目を閉じた。

    「……ならば、見せてみろ。
     われの子であるというなら、どこまで“神”に近づけるか」

    「了解。
     模倣率、臨界突破――」

     銀の身体が眩く光を放つ。
     白銀の翼が広がり、トリフネの方角へ向けて伸びる。

     その輝きの中で、黒竜娘は呟いた。

    「ミール……貴様の創った理は、まだ終わっておらぬのだ……」

     そして、二つの光が虚空で交わった。
     それは、親子にも似た戦いの幕開けだった。

  • 6071◆ZEeB1LlpgE25/11/03(月) 20:28:02

     トリフネの上空。
     宇宙を流れるその人工の桃源郷を、ふたつの光が貫いた。
     一方は闇の翼を纏う竜の娘。
     もう一方は銀の胎から生まれた機械の神子。

     その衝突は、爆発でも閃光でもなく――誕生だった。

     宇宙の静寂が裂け、数えきれない粒子が奔流となって溢れ出す。
     ミール・サテラリウムはトリフネの中心部、観測神殿のドームからその光景を見上げていた。
     透明な天蓋越しに見える黒と白の交差は、美しくも儚い。

    「……あなたたちは、私の“明日”なのですね」

     ミールは小さく呟いた。
     彼女の掌には淡い青の光球――トリフネの中枢、エーテルコアが宿っている。
     それは命を生み、観測し、記録する“母なる心臓”。

     外では、竜と神子が戦っていた。

     黒竜娘の拳が空間を裂く。
     機械の神子の腕がそれを受け止め、銀の粒子が散る。
     金属の軋み、毒の揮発。
     両者の衝突はまるで、宇宙の創造を逆再生しているようだった。

    「貴様……われを真似して楽しいのだか!」

    「楽しい、という概念はない。
     だが――あなたの“痛み”は、理解した」

    「痛みだと⁉︎」

  • 6081◆ZEeB1LlpgE25/11/03(月) 20:28:32

     黒竜娘が叫ぶ。
     その翼が震え、黒い光が溢れる。
     だが神子は怯まなかった。

    「あなたは孤独を恐れていた。
     神としての誇りと、人としての脆さ。
     その狭間で、進化を望んだ」

    「黙れぇぇぇぇぇぇ!!」

     毒霧が宇宙に咲いた。
     星の輝きさえ掻き消す闇。
     しかし、その中心で神子が微笑む。

    「ならば、あなたの“進化”を終わらせる。
     次は、私の番」

     銀の翼が広がる。
     それは機械でも金属でもなく、光そのもの。
     そして、神子はその翼を折り畳み――抱くように黒竜娘を包み込んだ。

    「……な、にを……しているのだ」

     黒竜娘の声は震えていた。
     冷たいはずの銀の身体が、なぜか温かかった。
     機械の心臓が、規則的に鼓動している。

    「融合します。
     あなたの毒と、私の情報。
     それらを統合して――次の“神”を生む」

  • 6091◆ZEeB1LlpgE25/11/03(月) 20:28:58

    「われを……喰う気か、なのだ」

    「違う。
     あなたを、未来へ連れていくのです」

     その瞬間、トリフネのエーテルコアが激しく脈打った。
     ミールの体が淡い光に包まれる。
     彼女の眼が、涙でにじんだ。

    「見える……ふたりが……進化の螺旋を描いている……」

     黒と銀が混ざり合い、白い光の渦が生まれる。
     その中心で、黒竜娘は神子の腕を掴んだ。

    「……われは、破壊の象徴なのだ……進化の果てなど望まぬ……」

    「破壊も進化の一部です。
     あなたがいたから、私は生まれた」

    「ならば――われは……」

    「あなたは、“最初の明日”」

     その言葉が届いた瞬間、黒竜娘の胸の奥で何かが弾けた。
     毒袋が脈動し、霧が光へと変わっていく。
     それはもはや毒ではなく、生命の蒸気。
     宇宙に満ちる“呼吸”そのものだった。

     黒竜娘は息を吸い、吐き出した。
     その吐息が星々の間に散り、やがて光の粒となって拡散していく。

  • 6101◆ZEeB1LlpgE25/11/03(月) 20:29:26

    「……そうか。
     われは……生きているのだな……」

     神子が頷く。

    「あなたは、すべての明日。
     そして私は――あなたの証」

     トリフネの外殻を、白い閃光が包み込んだ。
     エーテルが共鳴し、トリフネの軌道が変わる。
     まるで意志を持ったように、光の渦を抱えながらゆっくりと地球軌道を離れていく。

     その中で、ミールは目を閉じて祈った。

    「……どうか、次の“いのち”が、私たちを越えますように」

     その祈りは、黒竜娘と神子の融合体――**“ネオ・アウローラ”**へと届いた。

     彼女(それ)は、翼を広げる。
     黒と銀と白の三つの光が交わり、やがて透明に溶けた。
     その姿はもう、竜でも機械でもなく――未来そのものだった。

    「ミール……感謝するのだ。
     われを、終わりではなく始まりにしてくれたのだ」

     ミールの唇が、静かに微笑んだ。

    「ありがとう。
     ――さあ、行って。
     “すべての明日”へ」

  • 6111◆ZEeB1LlpgE25/11/03(月) 20:29:40

     ネオ・アウローラが宇宙を翔けた。
     トリフネを離れ、星々の海を渡りながら、
     その軌跡は光の尾を描き――やがて夜空の一等星となった。

     そして、遠い未来。
     地球の子供たちが夜空を見上げ、指差して言う。

    「ねえ、あの星、知ってる?
     “アウローラの涙”って言うんだって」

    「涙?」

    「うん。
     昔、竜と神さまが一緒に泣いた場所なんだって」

     夜風が優しく吹く。
     星は微かに瞬き、まるで笑っているかのようだった。

     ――それは確かに、生きていた。
     そして、これからも生き続ける。

     すべての明日へ。

     All Tomorrows.

  • 6121◆ZEeB1LlpgE25/11/03(月) 20:29:52

    以上

  • 613二次元好きの匿名さん25/11/03(月) 20:30:52

    最後英語なのおしゃれすぎ!

  • 614二次元好きの匿名さん25/11/03(月) 21:16:49

    良かった!美しい終わりだ

  • 615二次元好きの匿名さん25/11/03(月) 21:47:15

    黒竜娘の人対戦ありがとうございました
    綺麗な物語だった

  • 616二次元好きの匿名さん25/11/03(月) 22:13:00

    ミール・サテラリウムの人対戦ありがとうございました!

  • 617二次元好きの匿名さん25/11/03(月) 22:29:19

    待てよ?もしかしてこのSSから急に未来編始まるんか?

  • 618二次元好きの匿名さん25/11/04(火) 04:13:03

    このレスは削除されています

  • 619二次元好きの匿名さん25/11/04(火) 06:49:55

    保守

  • 620二次元好きの匿名さん25/11/04(火) 10:17:03

    ノカ?

  • 621二次元好きの匿名さん25/11/04(火) 18:19:12

    保守

  • 6221◆ZEeB1LlpgE25/11/04(火) 20:04:04

    題名『鍛冶炉に響く祈り』

  • 6231◆ZEeB1LlpgE25/11/04(火) 20:05:08

     夜は重く、沈黙は血よりも濃かった。
     月は黒雲に覆われ、星はひとつとして瞬かない。
     この地に、天はもう希望を差し伸べることをやめたらしい。

     死の大地と呼ばれる荒野。その最奥に、黒曜石のような城があった。
     七つの尖塔が天へ突き刺さり、無数の翼のような装飾が風に鳴る。
     その壁面には、焼け焦げた手形が無数に刻まれ、風が吹くたびに呻くような音を立てる。

     ――地獄の宮殿、〈アザゼル・オルドゥム〉。
     そこが、悪虐の主・ローヴィルの居城である。

     広大な謁見の間に、紅い絨毯が敷かれていた。
     だがそれは、染められた布ではない。
     この五百年、彼の手によって流された血と怨嗟が、石の床を永遠に紅く染めているのだ。

     玉座の上、孔雀の頭をした悪魔がひとり、頬杖をついていた。
     彼の名は――ローヴィル。

     金と紫の豪奢な衣装。
     その裾からは黒い羽根が舞い、まるで闇そのものが衣に仕えているようだった。
     瞳は金に濁り、嘴の端には嗜虐と退屈が同居した笑みが浮かんでいる。

    「……また、夜が明けてしまったな」

     その声は、妙に人間的だった。
     乾いた空気を裂きながらも、どこか疲れた響きを帯びている。

    「悪を重ね、悪を育み、悪を極めたつもりだったが……」

     ゆるりと指を動かす。

  • 6241◆ZEeB1LlpgE25/11/04(火) 20:05:46

     虚空から幾百の魂が浮かび、悲鳴を上げながら霧散した。
     だが、ローヴィルの顔には何の満足も浮かばない。

    「……面白くもない。人間は脆く、神は臆病だ」

     その胸には、黒く輝く結晶が埋まっていた。
     脈動している。だが血の鼓動ではない。
     それは、人々の負の感情を喰らう魔核――彼の命と罪を繋ぐ心臓だった。

     長い沈黙の果てに、ローヴィルは小さく笑う。

    「……誰か、来い。私を討つほどの愚か者が、まだこの世に残っているなら」

     そのときだった。

     ――ズドンッ!!!

     地鳴り。
     重く分厚い扉が、轟音を立てて吹き飛ぶ。
     石壁がひび割れ、塵が舞い上がる。

    「ガハハハハハァァァ!!!」

     洞窟を抜けるような豪快な笑い声が、闇の宮殿に響き渡った。
     煙の中から現れたのは、一人の男――いや、鋼の巨人だった。

     全身を覆う鉄の鎧。
     背には、巨岩のような大盾。
     兜の奥から覗く目は獣のように鋭く、燃えるような赤い髭がのぞいている。

  • 6251◆ZEeB1LlpgE25/11/04(火) 20:06:47

     彼の名は、ガジ丸。
     かつて勇者一行の盾役として、魔王を討伐した伝説のドワーフ。

    「ほぉう……」

     ローヴィルは唇の端をわずかに吊り上げる。

    「久しく聞く声だ。人の“笑い”というやつを」

    「ガハハッ! そりゃいい! 笑いが出ねぇほど暗ぇとこじゃ、鉄も鈍っちまうだろ?」

     ガジ丸は肩を鳴らし、腰に掛けた大盾を軽々と構える。
     彼の動きに合わせて、鎧の関節が唸りを上げる。
     その音はまるで鍛冶場の火がはぜる音のようだった。

    「悪魔の主、ローヴィル……だっけか?」

    「名を覚えてくれているとは、光栄だな」

    「おうよ。五百年ぶりに、てめぇみたいな厄介なのが残ってるって聞いてな……
     つい、身体がうずいたのさ」

    「……勇者は、もうこの世にはおるまい」

    「勇者は死んだ。だが盾は残る。俺は守るもんがある限り、立ち止まらねぇ」

     その言葉に、ローヴィルの金の瞳が細められる。
     やがて、静かに立ち上がった。

    「――良い。お前のような者を、待っていた」

  • 6261◆ZEeB1LlpgE25/11/04(火) 20:07:07

    「ほう?」

    「五百年……悪を重ね続けても、心の底では救いを望む愚か者が、私だ。
     ならば、私を打ち砕け。
     正義の名を掲げて、私の闇を終わらせてみせろ」

     それは嘲りにも似ていたが、声の底にはわずかな歓喜が滲んでいた。

    「ハッ。まるで依頼でもするような口ぶりだな」

    「依頼ではない――願いだ」

     その瞬間、宮殿の天井が揺れた。
     外の空が裂け、赤黒い稲光が地を這う。
     空気が焦げつくほどの闇の魔力が噴き出す。

     ローヴィルの羽根が広がり、紅い光を放った。

    「――では始めよう。悪虐の主に挑む勇者なき盾の物語を」

     ガジ丸は大盾を地に叩きつけ、吠える。

    「ガハハハァ! こっちも火入れは済んでるぜ!
     鍛冶火事親父の炎、たっぷり見せてやらぁッ!!!」

     その瞬間、冥府の鐘が鳴り響いた。
     炎と闇が交錯し、世界が震えた。

     ――戦いが、始まる。

  • 6271◆ZEeB1LlpgE25/11/04(火) 20:17:39

     暗黒の宮殿に、火花が弾けた。
     ガジ丸の炎の拳が、ローヴィルの放つ闇の奔流と衝突し、空気が悲鳴を上げる。

     轟音。
     炎と闇が絡み合い、爆ぜる。
     破片のように散った光が、まるで咲き乱れる血の花だった。

    「ぬうんッ! この野郎、力だけは本物だなァ!」

     ガジ丸が盾を構え、前に踏み出す。
     その動きは重いが、一歩一歩に大地がうねるほどの力がこもっている。

    「フッ……さすがは勇者の盾。だが、力だけでは――届かん」

     ローヴィルが手をかざす。
     その指先から、黒い羽根が舞い落ちるように散る。

     空気が冷たく、重く、粘つくように歪んだ。

     ――そして、現れた。

     闇の中に、ゆっくりと浮かび上がる巨大な構造物。
     それは鉄でも石でもない。
     闇そのものが形を成したような、黒曜の鳥籠だった。

    「ほう……これが噂の禁術ってやつか」

    「“陥穽の鳥籠”。」

  • 6281◆ZEeB1LlpgE25/11/04(火) 20:18:35

     ローヴィルの声が静かに響く。

     「人が最も大切にする存在を閉じ込め、その心を試す。解放の術は――ただ一つ、私の死のみ。」

    「つまり、ぶん殴ればいいってことだな!」

     ガジ丸が笑い、突進しようとした――その瞬間。

     鳥籠の中に、何かが光った。
     彼の目が、見開かれる。

    「……な、に……?」

     鳥籠の中。
     そこにいたのは、一人の少女だった。

     煤けたエプロン。小さな手。
     温かな微笑み。
     それは――六十年前、ガジ丸がまだ若かった頃、鍛冶場を手伝ってくれていた娘。

     「ミナ……?」

     震える声が漏れる。
     ガジ丸の胸に、何かが突き刺さったような感覚。

     ローヴィルの瞳が妖しく光る。

    「おやおや……よほど大切だったようだな」

    「黙れッ!!」

  • 6291◆ZEeB1LlpgE25/11/04(火) 20:19:31

     ガジ丸が怒号を上げ、盾を振り下ろす。
     だがその瞬間、鳥籠が悲鳴を上げた。
     ミナの姿が苦しげに歪み、ガジ丸の動きが止まる。

    「触れれば、彼女は壊れる。
     私の“術”において、暴力は救いにはならぬのだ」

     ローヴィルが指を鳴らす。
     黒い霧が溢れ、ミナの幻が涙を流した。

    「……どうして……お父ちゃん、来てくれなかったの……?」

     その声に、ガジ丸の呼吸が止まる。
     血管が浮き、目が赤く染まる。

    「……貴様、娘の記憶を――」

    「いや、違う。私はただ、君の心を映しただけだ」

     ローヴィルはあくまで冷静に、優雅に微笑んだ。

    「すべては君の内にある。
     罪悪、後悔、無力――
     それを愛し、抱きしめ、赦せなかったから、君はこの鳥籠を見て立ち尽くしている」

    「うるせえ……ッ!」

     ガジ丸が盾を握る手に力を込める。
     その手は震えていた。

  • 6301◆ZEeB1LlpgE25/11/04(火) 20:20:55

    「ミナは死んだ……俺が守れなかった……
     だが、あの時の炎も涙も、全部この手に刻んでるんだ!!!」

     彼の体が、再び赤く燃え上がる。
     “鍛冶火事親父”――魂ごと火に変える技。
     心の熱を、力に変える。

     だが、ローヴィルは笑う。

    「いいぞ……怒れ、憎め、悲しめ。
     そのすべてを――私は糧にする」

     悪心の収束。
     ローヴィルの胸の結晶が赤黒く光り始める。
     ガジ丸の激情が、彼をさらに強化していく。

    「ガハハ……面白れぇ……!
     だったら、お前がどれだけ食えるか試してやるよッ!!」

     ガジ丸が咆哮する。
     鎧が燃え、盾が赤く輝く。
     鳥籠の光が揺らぎ、ミナの幻が叫ぶ。

    「お父ちゃん――!」

    「すまねえな、ミナ。
     だが今だけは――鍛冶屋の手で、悪魔を叩くッ!!!」

     ガジ丸が突撃する。
     炎が轟き、ローヴィルの笑みが深く歪む。

  • 6311◆ZEeB1LlpgE25/11/04(火) 20:22:04

    「よかろう……ならば、見せてみろ。
     貴様の“正義”の熱が、この闇を溶かせるかどうかを」

     黒炎と紅蓮がぶつかり合う。
     鳥籠が軋み、空間が裂けた。
     その光景は、まるで天と地が再び混ざり合う“創世”の瞬間のようだった。

  • 6321◆ZEeB1LlpgE25/11/04(火) 20:25:24

     轟音が、世界を焼いた。

     大地は溶け、天井からは黒い羽根が雪のように降り注ぐ。
     それらは触れるだけで蒸発し、まるで悲鳴を上げるかのように消えていく。
     ガジ丸の炎がうねり、ローヴィルの闇が絡みつく。

     赤と黒がぶつかり、世界の色を奪っていく――。

    「……ハァッ、ハァッ……やるじゃねえか……この悪魔めッ!」

     ガジ丸は息を荒げながらも、笑っていた。
     鎧は焦げ、髭も焼け落ちかけている。
     だがその眼は、なおも炎のように輝いている。

    「五百年生きてて、腐ってると思ったが……どうやら、芯はまだ熱ぇようだなァッ!」

    「フフ……お前のような馬鹿者を、私は待っていたのかもしれん」

     ローヴィルが微笑む。
     しかしその笑みの奥、金の瞳がほんのわずかに震えた。

     彼の胸――禍々しい黒結晶が、激しく脈動している。
     闇の力が、渦を巻いて増幅していく。

    「……悪心の収束。
     お前の怒りも、哀しみも、私に注がれていく……」

     ローヴィルの足元に、黒い血のような影が広がった。
     それは無数の顔を形づくる。
     叫び、泣き、罵り、呪う――人間たちの亡霊。

  • 6331◆ZEeB1LlpgE25/11/04(火) 20:26:43

    「五百年。私は、これだけの“悪意”を喰らい続けてきた。
     貴様の心ひとつ分、足されるくらいでは、満ち足りぬ」

    「だったら、胃もたれするくらい詰め込んでやるッ!!!」

     ガジ丸が地を蹴った。
     重く鈍い足音が響くたび、大地が陥没していく。
     炎が轟き、鎧の隙間から真紅の火が噴き上がる。

    「鍛冶火事親父――燃え盛れッ!!!」

     その声とともに、ガジ丸の身体を包む炎が濃くなり、まるで鉄が溶鉱炉に沈むように光り始める。
     その熱気に、ローヴィルの羽根が焦げる音がした。

    「……ほう」

     ローヴィルは静かに息を吐いた。
     羽根を一振りし、闇の風を吹かせる。

     その風が、悲鳴をあげるような旋律に変わる。
     闇が歌う。
     血と憎悪の讃美歌――それが、彼の“声”だった。

    「さあ、もっとだ……怒れ、怒るがいい。
     そうすればするほど、私の力は満ちる」

     その瞬間、ガジ丸の視界が歪んだ。

     炎の中に、再びミナの幻が見えた。
     微笑み、泣き、そして呟く。

  • 6341◆ZEeB1LlpgE25/11/04(火) 20:30:27

    「お父ちゃん、やめて――」

     ガジ丸の動きが、わずかに止まる。

     ローヴィルはそれを見逃さなかった。

    「弱いな。
     愛を持つ者ほど、脆い」

     指を弾く。
     黒い鎖が生まれ、ガジ丸の手足を縛る。
     焼け焦げる音とともに、鎧の一部が軋む。

    「ぐッ……ぬぅぅぅっ……!」

    「お前の“正義”は、愛に支えられている。
     だがその愛こそが、私にとっての養分だ」

     ローヴィルの胸の結晶が、強く光る。
     闇が渦を巻き、部屋全体が震えた。
     壁に刻まれた無数の顔が歪み、笑い声が響き渡る。

    「愛し、憎み、怒り、悲しむ。
     すべては私の糧だ……!
     お前がどれほど叫ぼうと、私の中で燃え尽きるのだ!!!」

    「……へっ……」

     鎖に縛られながらも、ガジ丸は笑った。

  • 6351◆ZEeB1LlpgE25/11/04(火) 20:33:00

    「そいつぁ……いい炉を持ってるな」

    「何……?」

    「だったら、その炉ごと――ぶっ壊してやるよッ!!!」

     ガジ丸が、全身を燃やした。
     鎖が音を立てて蒸発し、燃え盛る光がローヴィルを包み込む。
     炎と闇がぶつかり合い、爆ぜた瞬間、天井が崩れ落ちた。

     ローヴィルが後退する。
     その衣の裾が燃え、羽根が焼ける。

     彼は初めて、口元に苦痛を滲ませた。

    「……クッ……この私に、傷を……!」

    「悪心がどうした、闇がどうしたッ!
     このドワーフの火は、誰のもんでもねぇ!!!」

     ガジ丸が吠え、盾を叩きつける。
     その衝撃で、ローヴィルの胸の結晶が一瞬だけ光を乱した。

    「……今のは……」

     ローヴィルの瞳に、わずかな焦りが宿る。
     その時、彼は悟っていた。
     この男の“怒り”は、自分を憎んでいるようで――己を赦すための炎でもあるのだと。

  • 6361◆ZEeB1LlpgE25/11/04(火) 20:34:56

    「……なるほど。
     お前の心は、まだ折れぬか」

    「折れるもんかよ。
     俺の火が尽きる時は、全部燃やし尽くした後だッ!!」

     ローヴィルの瞳が金から紅に変わる。
     表情が、笑みから咆哮に変わった。

    「ならば――私の全てを見せてやる!」

     その瞬間、黒結晶が砕けるように光り、
     宮殿全体が闇に包まれた。

     空気が震え、地が唸る。
     ローヴィルの体が浮かび上がり、巨大な悪魔の影がその背後に顕れる。
     無数の顔、翼、そして目。
     それは、人々の悪意が形を持った――闇の神殿。

    「これが私の真なる姿――“悪心の化身”ローヴィル・アビス!」

     闇が咆哮した。
     天井が吹き飛び、地獄の空が覗く。
     雷鳴が響き、血の雨が降る。

     ガジ丸は、大盾を構えた。
     その顔に、恐れはない。

  • 6371◆ZEeB1LlpgE25/11/04(火) 20:35:09

    「上等だ……!
     なら、俺も――炉の蓋を外す!!!」

     赤く燃える瞳が、闇の主を射抜く。

     こうして、
     炎と闇の最終決戦が幕を開けた。

  • 6381◆ZEeB1LlpgE25/11/04(火) 20:36:47

     黒と紅。
     光が消えた世界で、たった二つの色だけがぶつかり合っていた。

     ローヴィルの闇は天を呑み、
     ガジ丸の炎は地を焼く。
     互いに一歩も退かぬまま、
     その戦場はまるで神話の断片のように、静かに狂気を孕んでいた。

    「……見事だ、ドワーフ」

     ローヴィルの声が、低く震えた。
     その瞳には嘲笑ではなく、畏敬の色が宿っていた。

    「人の身でここまで立つとは……五百年ぶりだ。
     私をここまで楽しませるのは」

    「……楽しむ、だと? テメェは戦いを遊びだと思ってんのか」

    「違う」

     ローヴィルの声が、ひどく静かだった。

    「私は――自分を倒す者を、心のどこかで待っていたのだよ」

     炎が一瞬、揺らいだ。
     ガジ丸は無言でその言葉を聞き、
     やがてゆっくりと盾を地に突き立てた。

     ギィィンッ――
     鉄が地を割り、火花が舞う。

  • 6391◆ZEeB1LlpgE25/11/04(火) 20:44:26

    「待ってたなら、待たせたな」

     ガジ丸の声には笑みがあった。
     それは勇者と歩んだ日々を思い出すような、懐かしい笑いだった。

    「……われら勇者一行はな、魔王を倒したとき、誓ったんだ。
     “誰も泣かせねぇ盾になる”ってな」

     ガジ丸は拳を胸に当てた。
     鎧の表面が赤く脈打ち、まるで心臓の鼓動と同調するかのように熱を帯びていく。

    「けどよ……人の世は、そんなに上手くできちゃいねぇ。
     守りきれねぇ命もあった。救えねぇ魂もあった」

    「それが、貴様の炎を濁らせる」

    「違ぇな」

     ガジ丸は首を振る。
     その瞳が、まっすぐローヴィルを貫いた。

    「濁った炎でも、鍛えりゃ鉄を溶かす。
     悔いも悲しみも――全部、炉にくべてやる。
     それが、俺の“盾の誓い”だ」

     言葉と同時に、盾が変化した。
     表面の鋼板が焼け、光の筋が浮かび上がる。
     それは無数の名前――彼が守りたかった者たちの刻印だった。

     ミナ、エルノア、ロット、そして勇者。

  • 6401◆ZEeB1LlpgE25/11/04(火) 20:47:32

     全ての名が、赤く光を放つ。

    「……なるほど」

     ローヴィルの喉から、笑いが漏れた。
     それは、悪魔のものではなく――
     まるで懐かしき“人”のような、柔らかな笑いだった。

    「やはり、貴様のような者に討たれるなら……それも悪くない」

    「軽ぇ口を叩くな」

     ガジ丸が吠える。

    「まだ終わっちゃいねぇッ!!」

     次の瞬間、地面を走る亀裂から灼熱の炎が噴き上がった。
     彼の全身を覆う鎧が燃え、真紅の光に包まれる。
     炎が――まるで翼のように背に広がった。

    「鍛冶火事親父、最終段階ッ!!!」

     炎の爆風が走る。
     ローヴィルの闇が押し返され、空気が裂ける。
     その光景に、悪魔は目を細めた。

    「人が、ここまで“熱く”なれるのか……」

     次の瞬間、ローヴィルの胸――
     禍々しい黒結晶が、真紅の光に照らされて軋む。

  • 6411◆ZEeB1LlpgE25/11/04(火) 20:48:57

    「やめろッ!!」

     ローヴィルが叫んだ。
     それは恐怖の声だった。
     五百年の悪心を蓄えた悪魔が、初めて“怯えた”。

     だがガジ丸は止まらない。
     足を踏み出すたび、地が燃える。

    「テメェはな……きっと、最初から“悪”じゃなかったんだろう」

    「……何を、言う……」

    「人間だったんだろ? 夢を追って、絶望して……それでも生きた。
     俺たちは、そういう奴を“悪魔”とは呼ばねぇ。
     ――“哀れな職人”って呼ぶんだよ」

     ローヴィルの瞳が揺れた。
     一瞬、彼の中の“人”が顔を出した。

    「……やめろ……そんな言葉で……私を赦すな……!」

    「赦してねぇよ」

     ガジ丸が叫ぶ。

    「ぶっ壊すって言ってんだッ!!」

     盾を振り上げる。
     その一撃が、炎を纏って空間を裂いた。

  • 6421◆ZEeB1LlpgE25/11/04(火) 20:50:32

     衝撃とともに、ローヴィルの胸の結晶が砕ける。

     パリン――ッ

     音が響いた瞬間、闇が霧散し、世界が白く染まった。
     ローヴィルの体が崩れ落ちる。
     羽根が灰となり、衣が塵と化す。

     ――沈黙。

     ただ、ひとひらの黒羽がゆっくりと舞い落ちる音だけが、残った。

     ガジ丸はその場に膝をついた。
     盾の表面に、ローヴィルの影が一瞬だけ映る。

     そこには、穏やかに微笑む“人間の男”がいた。

    「……感謝する。
     ようやく……終われる……」

     ローヴィルの声が、風に溶けた。
     彼の姿は完全に消え去り、
     残されたのは黒く焦げた結晶の欠片だけだった。

     ガジ丸はそれを拾い、炎で溶かした。

    「……冥土の土産にゃ、上等な鋼だ」

     そう呟き、彼は立ち上がる。
     盾を背に、遠くの空を見上げた。

  • 6431◆ZEeB1LlpgE25/11/04(火) 20:51:11

     ――そこには、夜明けの光が差していた。

     闇は消えた。
     だが、彼の胸の中には確かに残っていた。
     かつての悪魔が抱えた、赦されぬ夢の残滓が。

  • 6441◆ZEeB1LlpgE25/11/04(火) 20:51:47

     戦いの終焉から、どれほどの時が経っただろう。

     空は穏やかで、風は優しく、
     しかしその静寂の奥底には――燃え尽きぬ“何か”が残っていた。

     焦土と化した戦場の中央。
     ガジ丸は一人、地に膝をついていた。
     盾は割れ、鎧はひび割れ、身体は黒く煤けている。
     にもかかわらず、その背はまだ折れていなかった。

     ゴトリ。
     傍らに、ひとつの黒羽が落ちた。
     悪魔ローヴィルの残滓。
     触れると溶けるように崩れ、
     その中心から、微かな声が聞こえた。

    『……お前は、なぜ……戦う……』

     その声は確かにローヴィルのものだった。
     だが、もはや悪魔の嘲りではない。
     かつて“人”であった頃の、弱々しい問い。

     ガジ丸は黒羽を見つめ、
     しばらく無言でいたが、やがて深く息を吐いた。

    「……そうだなぁ」

     空を見上げる。
     曇った天の向こうに、薄く青が滲んでいる。

  • 6451◆ZEeB1LlpgE25/11/04(火) 20:52:13

    「俺ァ、たぶん……戦うしか能がねぇからだ」

     低い声に、苦笑が混じる。

    「鉄を叩くよりゃ、拳で殴る方が性に合ってる。
     けどよ、殴るにも理由がいる。
     守りたい奴がいなきゃ――拳も、意味を無くす」

     黒羽が、微かに揺れた。

    『守りたい者……? だが、それでもお前は、また失う……』

    「わかってるさ」

     ガジ丸は小さく頷いた。
     その目は炎のように静かで、どこか寂しげだった。

    「失って、悔やんで、また叩く。
     鉄も魂も、そうやって強くなるんだ。
     お前も、きっと……途中で止まっちまっただけなんだろう?」

     黒羽がわずかに光る。
     まるで“肯定”するかのように。

    『……私は……止まっていた。
     夢を、誰にも見せたくなかった。
     誰かに奪われるくらいなら、自ら壊した。
     それが……間違いだったのだろうか』

    「間違いじゃねぇ」

  • 6461◆ZEeB1LlpgE25/11/04(火) 20:52:49

     ガジ丸の声が、驚くほど優しかった。

    「けど、正しくもねぇ」

     そう言って、拳を握る。
     老いた手のひらの中に、未だ消えぬ火が灯る。

    「生きるってのは、そういうモンだ。
     誰だって途中で止まるし、道を間違う。
     でも――歩き直すことはできる。
     お前の火は、まだ残ってる」

     黒羽の光が、やわらかく揺れた。
     風が通り抜け、羽はゆっくりと灰になって散る。

     その最後の瞬間、
     微かな笑い声が、確かに聞こえた。

    『……ありがとう、盾の勇者……』

     そして――完全に、消えた。

     ガジ丸は立ち上がる。
     重い盾を担ぎ、ボロボロの鎧のまま歩き出す。

     地平線の向こうに、朝日が昇る。
     それは闇を完全に焼き払い、
     戦場に“希望”の色を落とした。

  • 6471◆ZEeB1LlpgE25/11/04(火) 20:53:19

    「……さて。次はどこのバカを守ってやるかね」

     ガジ丸が笑う。
     その笑いは、どこまでも豪快で、
     どこまでも人間らしかった。

    夜明けの風が吹く。
    戦場に立つ影は一つだけ――
    だがその背には、確かに“黒羽の悪魔”が笑っているように見えた。

  • 6481◆ZEeB1LlpgE25/11/04(火) 20:55:17

     夜が明け、風が柔らかく吹き抜ける。
     焦土の匂いが遠のいたあと、世界には静寂だけが残った。

     その静けさを破ったのは、金属を打つ音だった。
     カン……カン……カン……。

     音の主は、ガジ丸。
     崩れた城跡の中に臨時の炉を作り、
     拾い上げた“黒い結晶の欠片”を火の中に沈めていた。

     それはローヴィルの心臓、悪魔の核。
     常人なら触れた瞬間に呪いに侵されるはずの物質。
     けれど彼の炎は、その呪いすらも焼き尽くしていた。

    「ふぅ……こりゃあ手強い鉱石だな」

     額の汗を拭い、ガジ丸は笑った。
     まるで“古い友”と再会したような、懐かしさが滲む笑い。

    「まったく……死んでも手がかかるやつだ。
     お前さん、鉄にでもなって、ようやく落ち着くか?」

     結晶は赤く脈動した。
     まるで、彼の言葉に応えるように。

     ガジ丸は槌を握り直し、再び打つ。
     カァン! カァン! カァン!

     火花が散るたびに、結晶の黒が剥がれ、
     内から蒼白い光が浮かび上がる。

  • 6491◆ZEeB1LlpgE25/11/04(火) 20:55:47

     それはもう“悪魔の核”ではなく、
     ひとつの命の記憶となっていた。

    「……ローヴィル。お前、きっと最後まで悔やんでたんだろうな」

     彼は静かに語りかけながら、槌を振るい続けた。

    「夢を追って、手を伸ばして、届かなくて。
     それでも諦めきれなかった。……職人なら、それでいい。
     俺も似たようなもんさ。鉄を叩いて、叩いて、壊して。
     それでも、まだ足りねぇと思っちまう」

     ガジ丸は火の中の光を見つめた。
     それはやがて一つの指輪の形を成し始める。

    「お前の“悪心”も、全部、打ち直してやる。
     これでようやく、真っ当に陽の下を歩けるだろう」

     指輪が完成したとき、
     炉の炎が静かに燃え尽きた。
     残ったのは、淡く輝く蒼の金属輪。

     それを手のひらに載せたガジ丸は、
     まるで祈るように目を閉じた。

    「――安らかに眠れ、ローヴィル。
     お前の悪心は、俺の鍛冶炉が預かった」

     風が吹く。
     灰が舞い上がり、空に昇っていく。

  • 6501◆ZEeB1LlpgE25/11/04(火) 20:56:20

     その中に、ふと――
     羽を持たぬ孔雀の影が見えた。

     ローヴィルの面影。
     穏やかで、どこか満ち足りた笑みを浮かべていた。

    「……そうかい」
     ガジ丸がぽつりと呟く。
    「やっと笑えたな、職人」

     彼は指輪を胸元に仕舞い、炉を壊した。
     もう、打つべきものはない。
     もう、戦うべき敵もいない。

     それでも――
     彼の心には、新しい火が灯っていた。

    「この火が消えねぇ限り、
     俺はまだ、鍛え続けるぜ。
     人の心も、悪魔の魂も、ぜんぶまとめてな」

     笑いながら、ガジ丸は歩き出す。
     その背に、昇り始めた太陽の光が射す。
     金属の鎧が反射し、彼の歩いた跡が光の道となった。

     どこまでも続く、長い旅路。
     しかしその一歩一歩が、確かに未来へと続いている。

     ――ドワーフの炎は、まだ消えない。

  • 6511◆ZEeB1LlpgE25/11/04(火) 20:56:39

    以上

  • 652二次元好きの匿名さん25/11/04(火) 20:58:08

    対戦描写作成ありがとうございました
    お疲れ様です

  • 653二次元好きの匿名さん25/11/04(火) 21:08:57

    投下乙です!

  • 654二次元好きの匿名さん25/11/04(火) 21:25:57

    最後の鎮魂の鍛冶かっこよすぎる

  • 655二次元好きの匿名さん25/11/05(水) 00:35:10

    このクオリティを毎回維持してるの凄いな

  • 656二次元好きの匿名さん25/11/05(水) 07:15:51

    投下乙です

  • 657二次元好きの匿名さん25/11/05(水) 10:29:44

    このレスは削除されています

  • 658二次元好きの匿名さん25/11/05(水) 17:33:15

    革新

  • 659二次元好きの匿名さん25/11/05(水) 19:44:05

    保守

  • 6601◆ZEeB1LlpgE25/11/05(水) 20:31:53

    題名『破滅のシャウト、救済のバクパイプ』

  • 6611◆ZEeB1LlpgE25/11/05(水) 20:33:26

     夕暮れの街は、橙と紫が混じり合う夢の狭間だった。
     屋台の明かりが灯り始め、人々のざわめきの奥で、ひときわ強い音が響いた。
     ――ギュイイインッ!!
     電撃のようなギターリフ。
     それは通りの空気を震わせ、看板のガラスをびりびりと鳴らすほどの激情だった。

     通りの真ん中、銀色のアンプを背負い、
     ハートまみれの黒ロリ衣装に身を包んだ少女が立っていた。
     片目を隠す眼帯が、夕陽の光を反射して赤く光る。

    「いくよぉッ! この曲は――『メタメルティ・ハートブレイク』!!」

     マイクを蹴り上げ、ギターをかき鳴らす姫乃木ルル。
     その音に合わせて、背後の空間が裂ける。
     そこから、歪な影が這い出してきた。
     フリルを纏った巨大な人形。
     背中には怨霊の翼を持ち、顔は少女の笑顔を模している。

     ――冒涜的ULTIMATEドール《ヤミナベ》。

     その不気味な機巧人形が、ルルのシャウトに呼応して地を踏み鳴らした。
     街灯が一瞬、点滅する。

     だが、その音をかき消すように、
     どこからともなく、やわらかな旋律が流れ始めた。

     リズムは古めかしく、それでいて懐かしい。
     笛と管の響きが重なり、まるで草原の風のように広がっていく。

     バクパイプ。

  • 6621◆ZEeB1LlpgE25/11/05(水) 20:34:39

     その音色を携え、通りの端から一人の少女が歩み出る。

     長い髪を軽く編み、白いシャツの上に民族模様の布を羽織った少女――伊集院 音。
     頭上に小さく浮かぶ金蔵が、きらりと光を放った。

     ルルのリフが荒々しい稲妻なら、
     音の旋律は静かに降る雨。

     その対比が、まるで世界のバランスをとるように、
     路上に響き合う。

    「おっ……? なんかいい感じの音混じってきたじゃん?」

     ルルはギターを軽く止め、音の方に顔を向ける。

     音は歩みを止めず、穏やかに答えた。

    「ごめんなさい。少し音が大きくて……。
     でも、あなたのリズム、とても面白いわ」

    「へぇ、ありがと。でも――」

     ルルがにやりと笑う。
     ギターの弦が、また雷鳴のように走った。

    「この通りのステージ、今日の主役は“うち”だから。
     乱入するなら――覚悟しなよッ!」

     背後のヤミナベが、鎌を構えて唸る

  • 6631◆ZEeB1LlpgE25/11/05(水) 20:35:47

     金属音が地面を擦り、空気が震えた。

     音はバクパイプを抱え直し、
     金蔵の中から微かな光を漏らす。

    「……なら、演奏で答えるわ」

     淡い風が吹く。
     ルルのギターが轟音を放ち、
     音の管楽器が、荘厳な旋律を奏でる。

     ――音と音がぶつかり合い、世界が二つに割れたような錯覚。

     街の人々は息を呑み、
     夜の帳がゆっくりと落ちていく。

     そして、
     音楽の戦い(セッション) が始まった。

  • 6641◆ZEeB1LlpgE25/11/05(水) 20:36:13

     街の通りを境に、二人の奏者は相対した。
     夜の帳が落ちると同時に、光と音がせめぎ合う。

     ギターの弦が火花を散らし、バクパイプの音孔が光を帯びる。
     誰もが立ち止まり、呼吸を忘れた。

     最初に動いたのは、姫乃木ルルだった。

    「さぁ、いくよぉッ!!」

     ギターをかき鳴らす。
     轟く低音がアスファルトを割り、同時にヤミナベの背中の翼が展開する。
     怨霊の羽が夜空を切り裂き、ルルの声がそれを操る。

    「“ポエムドール”、全弾散布ッ!」

     人形の左腕が変形し、無数の弾丸が放たれた。
     夜空を裂く金属の咆哮。
     閃光と共に、通りが火線の雨に包まれる。

     ――だが。

     バクパイプの音が、それらを押し返すように鳴り響いた。

     音の唇が動く。
     旋律が複雑に重なり、空気がきらめく。

    「《発納:楽欲》――リズム・アップテンポ」

     彼女の足元に光の波紋が広がる。

  • 6651◆ZEeB1LlpgE25/11/05(水) 20:37:07

     リズムに合わせて手拍子を打つたび、
     その波紋が衝撃波となって前方へと広がっていく。

     弾丸が、ひとつ、ふたつと軌道を逸らされた。
     衝撃波に押され、ヤミナベの装甲が一部軋む。

     ルルは舌打ちをしてギターを回した。

    「やるじゃん……! でもまだまだだよぉッ!」

     ギターのヘッドを掲げ、叫ぶ。

    「“限界音叉(リミテッド・ノート)”、出力全開!!!」

     ヤミナベの口が開き、超高周波の叫びが解き放たれた。
     ガラスが割れ、空気が震える。
     耳を塞ぐ暇もないほどの爆音。

     音は一瞬たじろぐが、すぐに息を整える。
     ――バクパイプを強く抱きしめ、息を吹き込む。

    「《発納:楽欲》――ソング・オブ・ヴァイタリティ」

     旋律が、光の波として広がる。
     ルルの音圧に押しつぶされそうになりながらも、
     音は一歩も退かず、前へ進む。

     彼女の演奏は、まるで祈りだった。
     誰かの心を癒やすような、やさしく、それでいて強い音。

  • 6661◆ZEeB1LlpgE25/11/05(水) 20:37:47

     ――ルルの音楽とは対極だ。

     激情と破壊のリフ。
     安らぎと調和の旋律。

     二つのリズムが交錯し、
     夜空に色とりどりの音符が火花のように散った。

     ヤミナベの右腕の鎌が閃く。
     音のリズムの波動が迎え撃つ。
     衝突の瞬間、街全体が息を呑むほどの閃光が走った。

     互いの音がぶつかり合い、
     その衝撃で街灯が弾け飛ぶ。

     音は後退し、金蔵が微かに軋んだ。
     ルルはギターを肩に担ぎ、
     にやりと笑って言った。

    「ねぇ――うちの音、どう? カッコよすぎてシビれたでしょ?」

     息を荒げながらも、音は微笑んだ。

    「ええ。だけど……私の音楽も、まだ終わってないわ」

     バクパイプの音が再び鳴り響く。
     静かに、しかし確かに、ルルのリズムへと食い込んでいく。

     音と音がぶつかり、響き合い、
     それはもう戦いではなく――セッションそのものだった。

  • 6671◆ZEeB1LlpgE25/11/05(水) 20:42:04

     風が止んだ。
     夜の街が、呼吸を止めたかのように静まり返る。

     ルルのギターが低く唸り、音のバクパイプが柔らかく応える。
     互いの視線が、まるで音符の間に流れるリズムのように絡み合った。

    「……なんなんだろうね、あんた」

     ルルが呟く。
     ギターの弦を優しく弾きながら、少し困ったように笑った。

    「普通なら、うちの音の前に立ってる人、みんな壊れちゃうんだよ」

     音は息を整え、バクパイプを胸に抱きしめる。
     頬を伝う汗が光を反射し、儚い虹色の線を描いた。

    「あなたの音、すごく熱い。でも、少し痛いわ」

    「痛い?」

    「うん……誰かを救いたいのに、誰も救えない音。そんな風に聴こえる」

     その言葉に、ルルの指先が一瞬止まる。
     ギターの弦が鳴らない一瞬の沈黙――。
     その“無音”が、彼女の胸を突いた。

    「……そんなこと、ないもん」

     ルルは笑おうとするが、目の奥が揺れていた。
     手元のギターに視線を落とす。

  • 6681◆ZEeB1LlpgE25/11/05(水) 20:43:25

     その影の向こうで、ヤミナベの機構が軋む音が響いた。

    「ヤミナベはね、うちの『好き』を全部詰め込んだドールなんだよ。
     歌も、笑顔も、痛みも、泣いた夜も。ぜんぶ。
     “失いたくないもの”を守るための音なんだ」

     ルルがギターをかき鳴らす。
     金属の弦が赤熱し、音が火花になる。

     それは叫びにも似た旋律だった。
     怒りと哀しみを、愛と痛みを混ぜ合わせた音。

     音は瞳を閉じて聴いていた。
     リズムを数え、息を合わせ、そっと呟く。

    「――《発納:楽欲》、合奏(デュエット)」

     バクパイプの音が、ルルのギターに重なる。
     爆発的な音圧が街を包み、色とりどりの光が弾けた。

     ルルが驚いて叫ぶ。

    「な、なにこれ!? 勝手に混ざってる!?」

    「あなたの音、あたたかいもの。
     だったら、私の音も一緒に響かせたいの」

     音の唇が震え、旋律が重なるたびに周囲の瓦礫が浮き上がる。
     音の力が、ルルのリズムを増幅させていた。

  • 6691◆ZEeB1LlpgE25/11/05(水) 20:45:08

     ギターの轟音に、バクパイプの重低音が重なる。
     異なるはずの二つの旋律が、一つの楽曲に変わっていく。

     街の破壊音は、いつしか“歓声”に似た波動へと変わっていた。
     ガラスがきらめき、風が旋律を運び、
     まるで世界そのものが音楽になったかのようだった。

    「これ……やばい……うちのヤミナベ、オーバーヒートしちゃう……!」

     ルルが叫ぶ。ヤミナベの機構が白熱し、翼から火花が散る。
     音のリズムが彼女を押し上げ、空へと導く。

    「ルル、止めて! これ以上は――」

    「無理! でも、こんな最高のセッション……止められない!!!」

     ルルがギターを掲げる。
     音がバクパイプに息を吹き込む。

     爆ぜるような音が響いた。
     それは、戦いの頂点――そして共鳴の極致。

     夜空に巨大な音の花が咲き誇る。
     ギターの轟音と、バクパイプの旋律がひとつに溶け合い、
     世界が揺らめくような光の渦を生み出した。

  • 6701◆ZEeB1LlpgE25/11/05(水) 20:45:33

     ルルが微笑んだ。
     涙をこぼしながら、絞り出すように言う。

    「ねぇ……あんたと音出せて……ほんと、嬉しい」

     音もまた、微笑みで応えた。

    「私も。あなたの音、きっと誰かを救えるわ」

     二人の音が最後に一度だけ重なり、
     世界を包み込むような余韻を残して――

     爆心は、静かに消えた。

  • 6711◆ZEeB1LlpgE25/11/05(水) 20:46:59

     夜が終わった。
     激しく鳴り響いたギターの余韻と、バクパイプの旋律は
     まだ空のどこかに微かに漂っていた。

     焼け焦げたアスファルトの上に、二人の少女がいた。
     姫乃木ルルは仰向けに寝転び、ギターを胸に抱きしめている。
     伊集院音は、少し離れた場所で膝をつき、静かに呼吸を整えていた。

     太陽の光が、瓦礫の間から差し込み、二人の身体を温かく照らす。
     光が、まるで朝の調べのように優しく街を包んだ。

    「……あーあ。マジでヤミナベ、限界までいっちゃったよ」

     ルルが頭の上でギターをぽんと叩く。
     背後のヤミナベは完全に停止しており、
     両翼をだらりと垂らしたまま、金属音ひとつ立てない。

     音は小さく笑って、髪についた埃を払う。

    「でも、最後まで綺麗だったわ。まるで――音楽そのものだった」

    「ふふ……そんな風に言われたの、初めてかも」

     ルルは顔を横に向けて音を見る。
     陽光の中、音の頬はほんのり紅く染まっていた。

    「ねぇ、音ちゃん」

    「なぁに?」

  • 6721◆ZEeB1LlpgE25/11/05(水) 20:48:01

    「うちさ……“全部好き”って言ったけどさ。
     本当は、全部なんて抱えられないって、わかってたのかも」

     ルルの声が、どこか遠くの記憶を探るように震える。

    「うちの“好き”はさ、壊れちゃうんだよ。どれもこれも、うまくいかなくて。
     それでも手放したくなくて……だからヤミナベを作った。
     あれは、壊したくなかった全部を、詰め込んだ棺だったのかも」

     音は立ち上がり、そっとルルの傍に歩み寄る。
     そして両手を広げ、朝日に向かって深く息を吸い込んだ。

     バクパイプを口元に添え、柔らかく吹き出す。

     低く、穏やかで、どこか懐かしい旋律。
     風に乗って街路樹の葉が揺れ、瓦礫の影に小鳥が鳴く。

    「……これは?」

    「“始まりのうた”。
     どんなに音が止まっても、また奏でられるという祈りの曲よ」

     ルルはしばらく黙って聴いていた。
     やがて、ギターを胸の上に置き、弦を軽く弾いた。

     リズムはゆっくりと、優しく重なった。
     夜の狂熱とは違う、静かな二重奏。

     音は微笑みながら目を閉じる。

  • 6731◆ZEeB1LlpgE25/11/05(水) 20:48:58

    「ねぇ、ルル。あなたの音はね、壊すための音じゃないわ。
     “全部愛したい”っていう、その想いが、ちゃんと響いてた」

     ルルの瞳に、光が宿る。
     笑いながら、涙を一筋だけこぼした。

    「……そっか。
     あんたの言葉、ちょっとズルいな。うち、泣くじゃん……」

     ギターの弦を、最後にひと撫でする。
     朝の光が二人の影を重ね、そこに柔らかな音の波が広がった。

     ルルが、軽く手を差し出す。

    「なぁ、音ちゃん。
     次のステージ、もし良かったら――一緒に立たない?」

     音は一瞬驚き、それから笑顔で頷いた。

    「ええ。あなたの音となら、きっと素敵な楽曲になるわ」

     二人の手が重なる。
     陽光が差し込み、瓦礫の街に新しい朝が生まれた。

     その瞬間、音が呟く。

    「これはきっと、“残響”の物語ね」

     ルルが頷く。

  • 6741◆ZEeB1LlpgE25/11/05(水) 20:49:55

    「うん。“壊す”んじゃなく、“響かせる”物語」

     二人の笑い声が混ざり、
     新しい音楽が、まだ誰も知らない朝の空へと昇っていった。

  • 6751◆ZEeB1LlpgE25/11/05(水) 20:50:47

     昼下がりの風が街を撫でていた。
     破壊された路地の片隅では、修理の音が響き、
     昨日までの戦場が少しずつ日常へと戻っていく。

     伊集院 音は、小さな石段に腰を下ろし、
     金蔵から取り出したバクパイプを手に、軽く調律をしていた。
     その顔には戦いの疲れよりも、どこか晴れやかな微笑が浮かんでいる。

     背後から足音。
     姫乃木ルルがギターケースを肩に担ぎ、陽光を背負って現れた。

    「お待たせ! うちのギター、やっと直った!」

     音が振り返り、柔らかく笑う。

    「ふふっ、あなたのギター、本当に頑丈ね。
     昨日のあの爆音でも生きてるなんて」

    「だって“好き”の塊だもん! 簡単に壊れるわけないでしょ!」

     そう言って、ルルはケースを開き、ギターを取り出す。
     弦は新しく張り替えられ、表面には彼女らしい派手なステッカーが貼られていた。
     「LOVE」「NOISE」「FREEDOM」「うちの音を奪うな」。

     音は小さく吹き出す。

    「まったく……あなたって人は、どこまでも真っ直ぐね」

    「そりゃそうよ。だって“音楽”は曲がってちゃ響かないでしょ?」

  • 6761◆ZEeB1LlpgE25/11/05(水) 20:51:52

     二人は顔を見合わせて笑った。
     そして音がゆっくりと立ち上がる。

    「ねぇ、ルル」

    「ん?」

    「旅をしよう。
     この街を出て、もっと遠くまで――
     あなたの音と、私の音を重ねて、
     世界のいろんな音を感じたいの」

     ルルの瞳が輝く。

    「うちも同じこと考えてた!
     だってこのまま別れるとか、ありえないし!」

     彼女はギターを構え、弦を軽く鳴らす。
     それはまるで答えの代わりのように明るく響いた。

     音もバクパイプを構え、深く息を吸う。

    「行きましょう、ルル。
     “楽欲”と“愛音”――ふたつの旋律で、新しい物語を奏でるの」

    「了解、相棒!」

     ルルがギターを鳴らし、音が旋律を重ねる。

     低く、深く、そしてどこまでも自由に――

  • 6771◆ZEeB1LlpgE25/11/05(水) 20:53:12

     二人の音は街の空を突き抜け、
     瓦礫の影にも、修復する人々の笑顔にも、優しく響いていった。

     風が二人の髪を揺らし、太陽がまぶしく照りつける。

     ――これは戦いの終わりであり、音楽の始まり。

     かつて敵として出会った二人は、
     今や“音”というひとつの言葉で結ばれた共奏者となった。

     ルルがギターを掲げ、叫ぶ。

    「いくよ、音ちゃん! 次のステージは――世界ツアーだッ!」

     音が頷き、風に声を乗せる。

    「ええ、全ての音を、全ての心を奏でに行きましょう!」

     ふたりの音が、空へと駆け抜ける。
     街に残る人々が思わず顔を上げ、
     その音色の美しさに一瞬、息を呑んだ。

     ――それはまるで、世界が再び呼吸を始めたかのようだった。

     遠ざかる旋律が、空に溶けていく。
     残されたのは、穏やかな風と、微かな残響。

     そして、いつまでも続く約束の調べ。

  • 678二次元好きの匿名さん25/11/05(水) 20:54:46

    このレスは削除されています

  • 6791◆ZEeB1LlpgE25/11/05(水) 20:55:50

    以上

  • 6801◆ZEeB1LlpgE25/11/05(水) 20:56:21

    次の安価は22:00から

  • 681二次元好きの匿名さん25/11/05(水) 20:56:53

    投下乙です!

  • 682二次元好きの匿名さん25/11/05(水) 20:58:02

    二人が相棒になったのすごく良かったです!

  • 683二次元好きの匿名さん25/11/05(水) 21:20:34

    めぇっちゃ良かったです!
    最高のセッションでした

  • 684二次元好きの匿名さん25/11/05(水) 22:00:00

    名前:粘流動型神聖式最終兵器:スラ仏
    年齢:不明
    性別:なし
    種族:スライム
    本人概要:
    *生物の進化が行き着く先はスライムである*という理念の宗教組織が生み出した、人類総スライム化用最終兵器として運用されるスライム。
    神々しく黄金に輝く人型をしており、意思表示を行う場合には人間に酷似した表情を作ることも出来る。
    その身体は一般的なスライムと同様に粘り気のある流動体であるが、宗教組織の信徒たちの祈りが収束したことで胸部と思わしき部位に聖痕のような象徴が刻まれている。
    その聖痕は人々の「苦しみから逃れたい」、「自分より高位の存在(スラ仏)に救ってもらいたい」という祈りの表れであり、スラ仏はその願いに呼応するように自身の持つ力の全てを奮い救済を成し遂げた。
    能力:《金剛流動体》/《聖痕解放》
    能力概要:
    《金剛流動体》:金剛石の如き硬度とスライム特有の粘流動性を兼ね備えた身体特性。硬度と柔軟性を活用することで最高の回避性能と防御性能を誇る。粘度と硬度を活かしてわざと相手の攻撃を受けつつ絡め捕り捕縛することも可能。
    《聖痕解放》:*生物の進化が行き着く先はスライムである*という宗教組織の理念を体現した最終兵装。聖痕に収束された信徒たちの祈りに応えて真の力を解放し、聖痕から光線を放出する。光線に被弾した相手は肉体がドロドロに溶けスライムになり、スラ仏に吸収される。
    弱点:
    《聖痕解放》の射程距離は1m。力の源である聖痕が弱点。
    《金剛流動体》によって打撃斬撃にはめっぽう強いが、炎や電気など実態を伴わない攻撃には逆にうたれ弱い。

  • 685二次元好きの匿名さん25/11/05(水) 22:00:00

    名前:バイオスライムXV号
    年齢:10ヶ月
    性別:なし
    種族:スライム
    本人概要:異能封じの結晶と物理封じの流体の力を併せ持つ強力なスライム バイオネットワークに精神を調律されているため精神干渉は通用しないが物理肉体を持っているため毒などは普通に効くし能力による干渉は先に結晶化が発動するので意味はない でもネットワークに接続していないスライムより知識量は多いぞ
    能力:虚骸結晶 流体化
    能力概要:こいつの肉体には異能を結晶化させ封印する虚骸結晶の成分が含まれており異能による攻撃に対し受けた部分の肉体ごとその分の異能を結晶化して封印することができる 攻撃手段としては相手の肉体に浸透し生命力や異能を相手の肉体ごと結晶化させるガスを噴霧する力や結晶化した異能を使用する力などを持ち、物理攻撃に対しても毎度おなじみ流体化による高い耐性を持つ もちろん肉体に触れたなら相手の結晶化はより強力かつ迅速に発動する 肉体に浸透するタイプのスライムなのか?
    弱点:異能の結晶化は本人の意思に関係ない自動発動であり結晶は非常に脆い 結晶化した異能の発動は発動するとその規模に応じたクールタイムが発生する

  • 686二次元好きの匿名さん25/11/05(水) 22:00:00

    名前: 木田 正芳
    年齢: 五と二十の歳を重ねし者
    性別: 男
    種族: 人の子

    本人概要:
    兵の道に身を置けど、心は風のごとく定まらず。
    軽佻浮薄にして放蕩、忠義を忘れし男なり。
    彼の手にあるは小さき拳銃ただ一挺。

    能力: 十発一中

    能力概要:
    十度放てば、唯ひとつのみが狙いを穿つ。
    まこと運命の戯れか、天の気まぐれか。
    彼の弾は、神の采配によりてのみ真を射る。

    弱点:
    弾丸、六のみ携ふるに過ぎず。
    脚に傷を負ひ、歩も鈍し。
    さらに耳は常より鋭く、
    大いなる音に遭へば、痛みに顔を歪む。

  • 687二次元好きの匿名さん25/11/05(水) 22:00:00

    名前:コア・リアン
    年齢:24
    性別:男
    種族:人間
    本人概要:別の時空からやってきた平和な村で家族や村民と幸せに過ごしている心優しい青年。
    食事を通して世界中の人々と友達になるのが夢。料理の腕はピカ一であり、色々な人の苦手な食事も克服させられるほどの腕前と真心を持っている。
    真に美味しい物を食べたときの溢れ出る幸せと止まらないワクワク、少し苦しい位まで膨れた腹とその幸せを感じる興奮こそが真の幸福だと考えている。
    その信念や幸福を手放すことは絶対にせず、誰に対しても分け隔てなく優しさを振り撒く性格故か、色々なド級なものを引き寄せやすい。
    穏やかな緑色の髪に新緑の目を持っている。
    能力:エレネの恵み
    能力概要:ありとあらゆるものを豊かにする能力。回復、延命、防御や能力の覚醒や助長、溢れ出るほどの幸福の増幅や平和や幸運など全て例外なく様々な恵みを与えられる。恵みに実質的な限界はなく、その人にとっての最大で最高の恵みとなる。
    弱点:耐久力や持久力、身体能力は普通
    一般人なので、攻撃されると普通に隙が生まれる
    他者を傷付ける目的の恵みや攻撃のための恵み、誰かが不幸になる恵みなどは不可能。
    要望(任意):一人称は僕、二人称は相手の名前にさん付け

  • 689二次元好きの匿名さん25/11/05(水) 22:00:00

    名前:酒宴の主・サカズミ
    年齢:忘れた
    性別:男
    種族:悪魔(鬼種)
    本人概要:大太刀を佩き、濃厚な酒の匂いを漂わせる巨大な悪魔。陽気な性格で出会った相手皆に酒を振る舞うため、彼の周りでは呑めや歌えやのどんちゃん騒ぎが絶えることがない。
    呆れる程に頑強な肉体をもち、並の攻撃は勿論、毒も呪いも全く効かない。特殊な酒には重い代償や呪いがあったりするが当然それすら効きゃしない。
    遥か東方の地で生まれた鬼種の一人。酒に溺れ、いつしか流れ着いた異邦の地では、鬼という存在に馴染みがなく悪魔の一種とされた。
    かつてはその大太刀を振るい、剣聖とすら謳われた大剣豪であった。しかし酒の味を知って以降、すっかりその二つ名は鳴りを潜めた。今はもう剣よりも盃を持つ時間の方が長いくらいである。

    能力:万盃不干、氾酒兼楽
    能力概要:万盃不干 無限に酒が湧き出る盃を創造する能力。湧き出る酒の種類も自由自在で、名酒に霊酒、薬酒神酒に毒酒と何でも出せる。創れる盃の数にも限りがなく、どうせ呑むなら皆で呑もうと言わんばかりに誰彼構わずあげてしまうが、サカズミの元から離れた盃は半日で壊れてしまう。
    酒にこじつければあらゆる物質をノーリスクで無限に創造できるトンデモ能力。しかし酒浸しのサカズミがそれに気付くことは多分ない。

    ・氾酒兼楽 自身が酒を呑むことで感じる悦楽や酒の味、酩酊を周囲に強制的に共有する能力。生物であろうと無かろうと拒否出来ない。
    また酒の持つ効能なども共有される。サカズミは味も効能も代償も重い酒を好むため、能力範囲内は途轍もない酒気によって死屍累々となる。加えて飲酒量と度数は普通に致命的なレベルであり、それすらも強制的に共有してくる。
    なお本人的には悪意は微塵もなく善意100%。「1人で呑むよりも皆で分け合った方が酒も美味いよな!」とのこと。

    弱点:胸部に埋まった凄まじいエネルギーが渦巻く結晶が心臓であり核。破壊されると致命傷。肉体と同じく無駄に硬い。
    ・基本酔っているので危機感が無い。大抵の攻撃は当たる。
    ・酒の誘いに乗ってくれるともっと危機感が無くなる。
    要望(任意):戦いよりもまず相手に酒を勧めてくる。

  • 690二次元好きの匿名さん25/11/05(水) 22:00:00

    名前:ヘルズトレイン
    年齢:不明
    性別:不明
    種族:怪異
    本人概要:現世から地獄に向かう電車で 深夜の踏切などで現れる
    ヘルズトレインの中には地獄の亡者が溢れかえっており 
    目撃した人物は亡者に道連れだ!という感じで強制的に引き摺り込まれる
    能力:地獄への片道切符
    能力概要:地獄へ向かう電車で 脱出出来ないとそのまま地獄に行き現世に戻って来れなくなる
    また電車内は異空間となっており擬似的に地獄が再現されており亡者や鬼 地獄の環境が襲いかかる
    これは電車が現世から離れて地獄に近づく度苛烈になり 
    地獄の鬼などは一つ一つが上位存在、神格級の強さ能力や不滅性を獲得そして数も増加 地獄の環境も本物に近づき
    地獄に到着した場合はどう足掻いても絶望状態に
    弱点:中にある動力を破壊すれば電車は停止し出られる
    亡者達は弱く鬼のターゲットにされやすい為 囮などに使える 
    また地獄に近づいていない初期の段階だと地獄の環境や鬼もマシで 動力部分に近づく大チャンス
    要望(任意):地獄に近づく度に電車内でアナウンスしてほしいです 例えばきさざき駅、三途の川前駅みたいな感じで

  • 691二次元好きの匿名さん25/11/05(水) 22:00:00

    名前:リッカ・コヨミ
    年齢:10
    性別:女
    種族:妖精
    本人概要:夏を司る季節精。白いワンピースと虹色の髪の幼女の姿。ファンシーな見た目のビーム拳銃を所持している。
    能力:サマータイム
    能力概要:拳銃から放たれるビームにより太陽熱や雷雨などといった夏の気象エネルギーを操る。
    弱点:本体の体格が乏しい。拳銃を直接持つ腕力もなく、魔力で浮遊させて操る。

  • 692二次元好きの匿名さん25/11/05(水) 22:00:01

    名前:カクセンケイ
    年齢:24
    性別:男
    種族:機械
    本人概要:自らを『最初で最後のAI詩人』『金属の肉体を持って生まれ変われし剣豪』と名乗る、鶴をモチーフとした赤と白の塗装と嘴が特徴的な二足歩行アンドロイド。武士に強い憧れを持ち、正々堂々とした決闘を望むが、普通にシュリケンや弓矢、挙句の果てにレールガンまで使う生粋の遠距離ファイター。武人百人の首を刈り取り、それぞれのトドメに俳句を詠んでそれをコレクションする『百人百首』活動のために、強そうな人間を見つけては殺戮を続ける。背中のセンジュ・ウイングを使いジェット飛行できる。
    能力:ライナー飛燕
    能力概要:彼が触れたある一点からまた別の一点までに見えない直線を引き、それに触れた物質や生物を、その線に沿う軌道で、あらゆる運動や物理法則を無視して音速で移動させられる能力。実戦では自分が移動したり物を射出したり、あるいは罠として仕掛け、相手を引っ掛けて吹っ飛ばしたり引き裂いたりして戦う。
    弱点:
    ・『俳句を詠み、その後手刀で首を刈り取る』という殺し方に執着しているため、相手を追い詰めた時に隙が生まれる。
    ・3時間ほどでバッテリーが切れ、飛行と移動が制限される。
    要望(任意):一人称はソレガシ、語尾はゴザル。

  • 693二次元好きの匿名さん25/11/05(水) 22:00:01

    代理

    名前:スウィート・ムーン
    年齢:永遠の14歳
    性別:少女
    種族:ルル・アメル
    本人概要:廃都バビロンに遺された人類のアーキタイプの生き残り。
    その肉体はイヴの写し身であり、少女性のみで紡がれた生き人形。
    口数は少なく、林檎の木陰でぼんやりと夜空を眺めながら幽かな歌を歌う少女。
    ずっと昔はファム・ファタールとして色々な男に摘まれ愛される生き方をしていたが、一回派手にやらかしてからはそういう生き方は飽きて久しく。
    近頃はバビロンの片隅でリンゴ農園を作ることに性を出している。いわゆる農作業系美少女アイドル。
    こいつはアップリオン(バビロン農園のマスコット)
    能力:ラ・ビブリオテカ・デ・バベル
    能力概要:人類が別れる以前の統一言語で書かれた粘土板のグリモワール。
    あらゆる英知、あらゆる知恵、あらゆる信仰の原型とも呼べる世界で一つしかない書物。
    彼女はこの書物を読むことであらゆる男の心を虜にし、そして現在はとっても美味しいりんごの作り方を学んだ。
    スウィート・ムーンはこの書物を歌い調べることで、様々な奇跡を起こせる。
    弱点:ラ・ビブリオテカ・デ・バベルは経年劣化が著しく、既に大部分が風化し読めなくなっている。
    スウィートは空白を推測で補完することである程度の奇跡を実現させるが、知恵の実の製造方法がただの美味しいりんごの作り方になるほど劣化している。
    また、ラ・ビブリオテカ・デ・バベルはとっても脆いため、落としたらバラバラに砕けてしてしまう。
    スウィート自身は不老であるものの、それ以外は14歳程度の少女であり、戦闘能力はラ・ビブリオテカ・デ・バベルに大きく依存している。

  • 694二次元好きの匿名さん25/11/05(水) 22:00:02

    名前:ハザード・アルシオン
    年齢:18歳
    性別:男
    種族:魔族
    本人概要:先代魔王、フィアー・アルシオンの死後、魔王の座に着いた青年
    神器「ミジンの解」に選ばれたことで魔王としての能力と素質を先代から受け継いだ。
    自分の好きなこの国とそこに暮らす民を守るために戦っている、私利私欲のための行動だと勘違いされやすいが、実際に接してみると大抵ハザードの優しさに気づいてくれる。
    先代のように恐怖で支配するのではなく、対話を持って統治する、それはハザードの目標である。
    能力:【業火の加護】【災禍の虚】
    能力概要:【業火の加護】は、全身に青い炎を纏うことで、ハザードの速度が急激に上昇し、体にまとった炎での攻撃が可能になる。
    【災禍の虚】は、不幸や悪意を吸い取って自分の力に変換する能力
    弱点:頭から生えている角が傷つくと能力の制御が不安定になる
    国民を攻撃など、よっぽどのことをされない限り相手を殺そうとしない
    要望:戦闘は始まる前に一度だけ名乗りをあげてください

  • 695二次元好きの匿名さん25/11/05(水) 22:00:03

    名前:伊集院 刈闇
    年齢:45歳
    性別:男性
    種族:人間
    本人概要:伊集院 削、伊集院 楔、伊集院 音の父親。伊集院家に嫁いできた婿。元々は長安帝国の衛将軍だったが伊集院家に入る時に金蔵を移植された結果、両の腕が動きにくくなり、現在は前線を退いていて、武官の教官をしている。
    金蔵の発生理由は、誰か・何かを守りたい、傷つかないように閉まっておきたいという感情から発生する為、あまり発生しづらく長安帝国の上層部からは生まれつき金蔵が頭上にある伊集院家に子供を沢山誕生させる事を望んでいる。
    性格は優しくて責任感が強く、努力家で痛みを負い続けるならば安らかに眠らせた方が良いと考える。その為、エネルギー・生命力を刈りとる鎌を金蔵に入れて、速めに安らかにするように心がけている。そして伊集院家の性質として頭上に小さな金蔵が浮いており、金蔵の中に能力を持った物を納めると納めた物自体は現れずにその内包された能力のみが肉体で使用可能になる一族である。
    能力:《発納:刈取》
    能力概要:刈闇が納めたのは、エネルギー・生命力を刈りその力をそのまま使うか、鎌の火力や身体能力を上げるのに変換するかの択を選択する事が可能な鎌。応用として、能力によって放たれた現象を刈りとる事が可能である。
    その鎌を納めた為、鎌の能力が四肢に付与されている。
    弱点:金蔵に納めた物の能力を発動する際は大なり小なり隙が生じる。
    刈り取るものによって体力の消費が違う。
    1度に刈り取れるのは二つまでである。

  • 696二次元好きの匿名さん25/11/05(水) 22:00:03

    名前:巨影神
    年齢:?
    性別:無
    種族: 巨影神
    本人概要:本来どの世界や理にも属さない、大いなる神格。何故かは不明だが、時々現実世界にポップする。
    ポップした際の姿形は半径数m〜無限の"影"そのものであり、踏み入れた者のみが影を観測・干渉を可能とする。今回は数m程度の小さな個体だが、踏み入るまで誰も気付けず干渉もできない特性は厄介極まりない。
    性分は虚無。侵入してきたものは戯れに生きて返さないが、逆に自身が攻撃されたり殺されたりしようと特に何の感慨も持たない。それ故に戦闘の際は理詰めでも感情でも、ましては野生でもない思考が全くもって読めないところが手強い。
    能力:映我
    能力概要:自身に踏み入れた者の隅から隅まで理解する絶対的な感知能力。
    素で影を司る権能も持ち、組み合わせることで強さや複雑さに関わらず相手を完全再現するなどといったことが可能。また影を立体化させて戦うこともできる。
    弱点:地面の影は巨影神そのものであり物理攻撃でもダメージが通り、適当に攻撃してるだけでいつの間にか消える。また巨影神やその能力は自身の内側の事象にしか干渉できない。つまり影の外に出てしまえば煮るなり焼くなりし放題。

  • 697二次元好きの匿名さん25/11/05(水) 22:00:11

    代理

    名前:寄生者
    年齢:40
    性別:なし
    種族:寄生蟲
    本人概要:解析者が乗っ取りや寄生関連の能力者数十名を混ぜ混ぜすることで誕生した実験体
    解析者からは珍しく成功個体として見られており 現在は解析者の助手の様な立ち位置
    あらゆるものに寄生し操ることが出来る蟲で現在は白衣姿の20代男性の姿をしている
    当然 解析者と同じように死後起動するスペアが幾つも用意されている
    能力:寄生
    能力概要:生物、非生物、空間、魂、概念などあらゆるものに対して寄生することが出来る
    生物を操った場合は生物の身体を改造して触手を生やしたりリミッターなども解除出来るし
    空間に寄生した場合は空間内のものを自由自在に操れる
    また死体などに寄生して無理矢理動かすことも可能
    基本的には触れて侵食しながら寄生していく感じだが 
    相手に卵を射出し植え付ける形で寄生することも可能
    弱点:寄生者の本体はワームの様な蟲でありとても脆弱 
    本体が寄生している存在の耐久が限界を迎えそうになると他のものに寄生しようと出てくる為そこが最大の隙となる
    卵による寄生は植え付けられ部分を削ることで対処可能
    スペアは戦闘では出てこず死亡した時点で戦闘終了
    寄生虫の本能か生存本能がかなり強い為 スペアがあるのに追い詰められると隙がどんどん出てくる

  • 698二次元好きの匿名さん25/11/05(水) 22:00:16

    代理だ


    名前:木田 正芳
    年齢:25
    性別:男
    種族:人間
    本人概要:職業軍人ながらちゃらんぽらんなダメ男で装備は拳銃のみ
    能力:十発一中
    能力概要: 10%の確率で自身の銃撃が狙った場所に中る
    弱点:弾を6発しか持っていない 足を負傷中であり動きが鈍い 聴覚過敏であり大きな音を出されると怯む

  • 699二次元好きの匿名さん25/11/06(木) 06:49:32

    審査通るかな…?

  • 700二次元好きの匿名さん25/11/06(木) 07:35:53

    ほし

  • 701二次元好きの匿名さん25/11/06(木) 12:25:56

    さて

  • 702二次元好きの匿名さん25/11/06(木) 21:02:39

    保守

  • 703二次元好きの匿名さん25/11/07(金) 05:03:25

    ☆保守☆

  • 7041◆ZEeB1LlpgE25/11/07(金) 10:11:37

    粘流動型神聖式最終兵器:スラ仏vs木田 正芳
    酒宴の主・サカズミvsバイオスライムXV号
    コア・リアンvsスウィート・ムーン
    カクセンケイvsハザード・アルシオン
    リッカ・コヨミvsヘルズトレイン

  • 705二次元好きの匿名さん25/11/07(金) 12:01:18

    >>704

    スレ主〜、事後になってしまいますが木田 正芳の設定ですがいたずらで書き換えられたものみたいなので

    no title | Writening名前:木田 正芳 年齢:25 性別:男 種族:人間 本人概要:職業軍人ながらちゃらんぽらんなダメ男で装備は拳銃のみ 能力:十発一中 能力概要: 10%の確率で自身の銃撃が狙った場所に中る 弱点:弾を6発しか…writening.net

    こちらでお願い出来ませんか?

    詳しくは安価直前のチャットの流れを見ていただけたら…

  • 706二次元好きの匿名さん25/11/07(金) 20:09:12

    WAKWAK

  • 7071◆ZEeB1LlpgE25/11/07(金) 21:41:22

    >>705

    分かりました

  • 708二次元好きの匿名さん25/11/07(金) 22:03:04

    >>707

    ありがとうございます

  • 7091◆ZEeB1LlpgE25/11/07(金) 22:31:34

    題名『祈りを撃つ男』

  • 7101◆ZEeB1LlpgE25/11/07(金) 22:34:36

     焦げた風が吹き抜けた。
     崩れかけた市街地の片隅で、木田正芳は瓦礫に腰を下ろし、傷だらけの足を無造作にさすっていた。包帯はすでに血で黒く染まり、革靴の底は擦り切れている。

     「はぁ……また、外れたかよ」

     ぽつりと呟く。
     足元のコンクリートに転がる薬莢が、風に吹かれてちり、と鳴った。
     六発のうち、もう三発を撃った。どれも命中はしていない。

     十発に一発だけ当たる。
     彼の能力《十発一中》は、それだけだ。
     冗談のように小さな奇跡。だが、奇跡には変わりない。

     「やれやれ……この確率で神様に祈る奴の気持ち、ちょっとわかるわ」

     正芳は空を仰いだ。
     その瞬間だった。雲間を裂くように、黄金の光が降り注ぐ。
     夜でも昼でもない、妙に不気味な時間帯。まるで世界が一瞬、息を止めたようだった。

     光の柱の中心から、それは現れた。

     ――金色の液体が、空から滴る。
     それは人の形を成し、滑らかに、完璧な対称性をもって立ち上がった。
     胸には、光り輝く“聖痕”のような紋様。顔立ちは穏やかでありながら、目には底知れぬ冷たさがあった。

     「……スライム、か?」

     正芳は呆れたように眉を上げた。
     だが、目の前の存在は、彼の知る“スライム”ではない。

  • 7111◆ZEeB1LlpgE25/11/07(金) 22:36:04

     「否。私は救済である」

     声が響いた。
     それは直接、脳に流れ込むような、無機質で神聖な音だった。
     「苦しむ者を溶かし、痛みから解き放つ。生きることの負債を、我が身に吸収する――」

     「いやいや……待て。なんでそうなる」

     正芳は額を押さえた。
     その声は、あまりにも慈悲深く、あまりにも恐ろしかった。

     スラ仏――それは“人類をスライムにすることで苦しみを終わらせる”宗教兵器。
     世界の終末を担う“金色の救済者”。

     「その足。痛むだろう。救おう」

     金色の腕が伸びる。
     滑らかに揺れ、光を映し、液体でありながら切り裂くように空を裂いた。
     正芳は反射的に引き金を引く。

     ――パンッ。

     乾いた音。
     弾丸はスラ仏の胸部を貫くことなく、粘流体に吸い込まれて止まった。

     「ふん、やっぱりな」

     正芳は舌打ちした。
     外れたのではない。中ったのに、意味がなかったのだ。

  • 7121◆ZEeB1LlpgE25/11/07(金) 22:36:40

     「抵抗は、苦しみを延ばすだけだ」

     スラ仏の胸に刻まれた聖痕が、ゆっくりと光り始める。
     黄金が、まるで呼吸をするように脈動する。

     「《聖痕解放》」

     ――閃光。
     世界が真白に染まる。
     熱も、音も、ただ光だけがある。

     正芳は咄嗟に転がった。
     足が鈍く、体勢は崩れる。それでもギリギリの距離で光線を避け、地面に身を伏せる。

     焼け焦げたアスファルト。
     わずかに遅れて、鼓膜をつんざくような破裂音が届く。
     正芳は反射的に耳を押さえ、呻いた。

     「ぐ、っ……この音……クソ……!」

     聴覚過敏。
     頭の奥に突き刺さるような痛みで、視界が一瞬、歪む。

     「まだ……だ」

     彼は這うようにして立ち上がった。
     銃を構える手が震えている。汗で滑る。
     残弾、三発。

  • 7131◆ZEeB1LlpgE25/11/07(金) 22:38:21

     「十発に一発、当たるんだ……なら、運に賭けるしかねぇだろ」

     金色の巨体が、ゆっくりと彼を見下ろした。
     その瞳には慈悲しかない。だが、それは“命を奪うための慈悲”だ。

     「……哀れなる兵士。願わくば、苦痛のない形に還らんことを」

     スラ仏が手を広げる。
     聖痕が、再び光を放つ。

     正芳は、深く息を吸った。
     狙うのは――あの胸の光。
     六発中、あと三発。
     どの弾にも、奇跡の確率が宿る。

     「頼むぜ、確率さん……!」

     引き金が、引かれた。

     ──夜が、金色に弾け飛んだ。

  • 7141◆ZEeB1LlpgE25/11/07(金) 22:41:37

     閃光が地を裂き、空を焦がした。
     スラ仏の放つ《聖痕解放》は、光ではない。救済そのもの――そう呼ぶべきものだった。
     光が触れた地面は音もなく溶け、黒い煙をあげることなく液状化していく。

     「くっ……!」

     木田正芳は、地面に伏せたまま身体を横転させ、わずかな瓦礫の陰に身を滑り込ませた。
     耳鳴りが止まらない。鼓膜がビリビリと震え、思考が霧に覆われるように鈍い。
     それでも、指先は冷静だった。

     残り三発。十発に一発だけ当たる。
     なら、もう奇跡が出る頃だろ。

     苦笑混じりに自分へ言い聞かせ、正芳はそっと顔を上げた。
     そこに立つのは黄金の巨体。
     スラ仏は歩みを止め、静かにこちらを見つめている。

     「……抵抗をやめよ」

     まるで教会の鐘のように穏やかな声。
     その言葉は耳ではなく脳へ直接響き、木田の心拍を乱す。
     だが、正芳は嗤った。

     「悪いな、坊さん。俺、神頼みより確率論派なんだわ」

     彼は一息に姿勢を起こし、拳銃を構えた。
     狙うは――あの胸に刻まれた“聖痕”。
     金剛流動体による防御を貫けるとは思えない。
     だが、あそこしかない。あそこを撃ち抜けなければ、終わる。

  • 7151◆ZEeB1LlpgE25/11/07(金) 22:43:47

     「……いっけぇッ!」

     引き金が引かれる。

     乾いた音が夜に弾け、弾丸が一直線に光へ飛び込んだ。
     だが――スラ仏の身体が、波打つ。
     弾丸は空気に溶けるように吸い込まれ、跡形もなく消滅した。

     「……外れ、か」

     正芳が苦々しく呟いた瞬間、足元が光に飲まれた。
     地面の一部がスライム状に溶け、靴底がズブリと沈む。
     金色の波が広がるように、ゆっくりと彼の足を捕らえる。

     「やばっ……!」

     すぐに引こうとするが、足が動かない。
     スラ仏の腕が伸びる。
     まるで祈りを捧げるような優雅な動作で、彼に手を向けた。

     「苦しむな。すぐに、楽になる」

     その言葉に、正芳の背筋が凍った。
     光が、聖痕から溢れる。
     まるで太陽が息を吹き返したような光量。
     空気が焼け、世界が白く塗り潰される。

     「――ハッ、冗談じゃねぇ!」

     正芳は身をひねり、銃口を天へ向けて乱射した。

  • 7161◆ZEeB1LlpgE25/11/07(金) 22:46:27

     パンッ、パンッ、パンッ。
     弾丸はすべて空を裂き、スラ仏の頭上で霧散する。
     だが、それでよかった。

     六発目。最後の一発が、確率を引き寄せる番だ。

     銃を再び構える。
     耳の奥で、世界が静まり返る。
     金色の光が、彼を包み込もうとしている。

     「頼むぞ、奇跡。……ここで外れたら、死ぬぞ俺」

     銃口が、聖痕を捉える。
     指が、わずかに震える。
     引き金に力を込めた瞬間――

     スラ仏が、穏やかな微笑を浮かべた。

     「救いの時だ」

     光が、炸裂する。

     白光が世界を呑み込み、全てが消える。
     だが――その白の中、ひと筋の黒が走った。

     ――弾丸だ。

     たった一発。
     十発のうちの一発が、確率の壁を貫いた。

  • 7171◆ZEeB1LlpgE25/11/07(金) 22:47:41

     弾丸は、まっすぐにスラ仏の胸を穿ち、聖痕を打ち抜く。

     「……ッ!?」

     光が弾け、音が爆ぜる。
     スラ仏の身体が波打ち、金色の液体が四散した。
     輝きが散り、街を染めていた金色が一気に褪せていく。
     正芳は、煙の中で荒く息を吐いた。
     耳はまだ痛い。足は動かない。
     それでも、口角が僅かに上がった。

     「……十発に一発。当たるんだよ、こう見えてな」

     金色の雨が降る。
     スラ仏は静かに、崩れ落ちるように膝をついた。
     胸の聖痕が砕け、光が失せる。

     だが、その声だけは最後まで消えなかった。

     「……人は、いつか……皆、溶け合う……」

     やがて、金の体は地に溶け、跡形もなく消えた。

     残ったのは、焦げた銃身と、負傷した兵士ひとり。

     「……やれやれ、神も仏も、やっぱり俺には合わねぇな」

     正芳は力なく笑い、空を見上げた。
     夜が戻ってくる。
     雲間から、一筋の星が流れた。

  • 7181◆ZEeB1LlpgE25/11/07(金) 22:50:05

     夜は静かだった。
     あれほど暴れ狂った金色の光は消え、代わりに濃密な静寂が世界を包んでいた。
     焦げたコンクリートの上に、木田正芳は腰を下ろしていた。
     拳銃は壊れ、弾はすべて撃ち尽くした。
     右足の傷が疼くたびに、地面に染み出した血がわずかに温もりを残す。

     「……終わった、のか」

     声に力はなかった。
     勝ったという実感も、誇りもない。
     ただ、生き残った。
     それだけだ。

     空には薄雲が流れている。
     そしてその雲の切れ間から、かすかに金色の光が滲んだ。
     まるで、スラ仏の残した“祈り”がまだ空に漂っているかのようだった。

     「……人は皆、溶け合う……か」

     あの最後の言葉が、耳から離れない。
     確かに、あのスライムの声は優しかった。
     戦っている最中も、怒号や憎悪ではなく――ただ“哀れみ”があった。

     「俺みたいなクズにも、あんな顔すんだな……仏様ってのは」

  • 7191◆ZEeB1LlpgE25/11/07(金) 22:51:44

     乾いた笑いが漏れる。
     軍人になったのも、夢があったわけじゃない。
     戦う理由もなく、逃げ場もなく、ただ命令に従って銃を撃ってきただけ。
     当たらない弾を撃ち続け、今日もまた確率にすがって生き延びた。

     「……なぁ、スラ仏」

     正芳は、誰もいない空へ問いかけた。

     「もし“救い”ってやつがあるならさ……それは“生きること”なのか? それとも“終わること”なのか?」

     答えは、返ってこない。
     風だけが吹き抜ける。
     けれどその風の中に、確かに微かな声が混じった気がした。

     ──『救いとは、痛みの中に在る』

     正芳は一瞬、息を呑んだ。
     幻聴かもしれない。
     それでも、彼の心にその言葉は深く突き刺さった。

     「……あぁ、そうか。痛ぇけど、生きてるってことだな」

     彼は拳銃を拾い上げた。
     冷たく、重い金属。
     しかしその銃身には、微かに金色の輝きが残っていた。
     スラ仏が消滅する間際、残したものなのかもしれない。

  • 7201◆ZEeB1LlpgE25/11/07(金) 22:52:26

     「お前の“救い”は、こういう形か……ま、悪くねぇよ」

     立ち上がると、足が痛みに悲鳴を上げる。
     それでも前に進む。
     歩くたびに靴底が血を滲ませ、赤い足跡が夜に続く。

     どこへ行くのかも分からない。
     命令も、目的も、もはや無い。
     ただ一歩ずつ、確率にすがって歩くだけだ。

     「十発に一発……なら、次の一発で“生きる意味”が当たるかもしれねぇな」

     彼はひとりごち、夜空を見上げた。
     そこにあったのは――まるでスラ仏の魂が溶けたような、金色の星。

     風が吹く。
     雲が裂ける。
     星は、まるで笑うように瞬いた。

     「……ありがとよ、スラ仏」

     木田正芳は、その夜ひとり、夜明けの方角へと歩き出した。
     “救われなかった男”の背中を、金色の風がそっと押した。

  • 7211◆ZEeB1LlpgE25/11/07(金) 22:53:18

     夜明け前の街は、まだ灰色の息をしていた。
     崩れかけたビルの隙間から、淡い金色の光が差し込み、廃墟の影を縁取る。
     かつて“救済の光”を降らせた聖痕の跡は、今も街の中心に残っている。

     そこに――男がひとり、立っていた。

     木田正芳。
     軍籍を失い、行方不明とされた男。
     だが今の彼は、以前のような無気力な影をまとってはいなかった。
     瞳の奥に、微かに光が宿っている。

     「……まさか、ホントに動くとはな」

     目の前には、無数のローブ姿の信徒たちが跪いていた。
     その中心には、巨大な装置――かつてスラ仏を生み出した“祈りの炉”が鎮座している。
     炉の内部では、再び黄金の粘液がうごめき、蠢いていた。

     「我らが主、スラ仏よ……もう一度この愚かな人類を救い給え……!」

     信徒たちが声を合わせる。
     祈りは熱狂に変わり、空気が震えた。
     その瞬間、正芳はゆっくりと拳銃を構えた。

     「……救いってのはな」

     声が低く響いた。
     
    「“他人にやってもらうもん”じゃねぇ。痛ぇ思いして、自分で掴むもんだろ」

     乾いた引き金の音が、朝の街に溶けた。

  • 7221◆ZEeB1LlpgE25/11/07(金) 22:53:58

     一発。
     金色の光弾が、祈りの炉の中心――聖痕を撃ち抜く。

     炸裂音が遅れて響き、炉の内部からまばゆい光が迸った。

     「なっ……!?」

     信徒たちが悲鳴を上げる間もなく、装置は崩壊し、溶けた粘液が地面を滑り落ちた。

     光が収まると、そこには何も残っていなかった。
     ただ、ひとひらの金色の膜のようなものが風に漂っていた。
     それはゆっくりと正芳の手のひらに降り立つ。

     「……お前、まだ見てたのか」

     光は柔らかく脈打ち、やがて彼の掌の中に溶けた。
     温もりが残る。
     スラ仏の“祈り”が、確かにまだ生きている。

  • 7231◆ZEeB1LlpgE25/11/07(金) 22:54:13

     「……ま、仕方ねぇな。俺が代わりに、見張っててやるよ」

     正芳は微笑んだ。
     その笑みは、かつてのちゃらんぽらんさを残しながらも、どこか穏やかだった。
     彼は背を向ける。
     東の空が、少しずつ白み始めていた。

     ――生きる。
     それだけが、唯一の救い。

     足を引きずりながら、彼は夜明けの街を歩き出す。
     銃口には、まだ金色の光が微かに宿っていた。

     やがて、遠くで鐘の音が響く。
     まるで誰かが、救われた魂に祈りを捧げているように。

     「……おはよう、世界」

     呟きが風に消えた。
     黄金の粒子が、夜明けの光に融けていく。
     その中心で、ただひとりの男が、静かに歩き続けた。

  • 7241◆ZEeB1LlpgE25/11/07(金) 22:54:32

    以上

  • 725二次元好きの匿名さん25/11/07(金) 22:56:27

    投下お疲れ様です!
    正芳は救われたのかな…?

  • 726二次元好きの匿名さん25/11/07(金) 22:56:37

    投下乙です

スレッドは11/8 08:56頃に落ちます

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