- 1二次元好きの匿名さん25/10/20(月) 22:17:58
- 2二次元好きの匿名さん25/10/20(月) 22:27:32
名前もマリーダじゃなくなるのかな?
- 3二次元好きの匿名さん25/10/20(月) 22:34:24
サイド3、工業コロニーの裏通り。
再生された「強化人間」の少女は、酒と汗の臭いが染みついた狭い部屋で、命じられた笑みを浮かべていた。
その夜、黒いコートの男が彼女を見つける。
白髪を後ろに撫でつけ、瞳はどこか憂いを帯びている。
――カーディアス・ビスト。ビスト財団の総帥。
「……この子は、命令でしか動けぬ。まるで、我々人類の縮図のようだな。」
娼館の主人が笑う。「客にしては珍しい趣味だ」と。
だが男は、躊躇いもなく金を置いた。
桁外れの額だった。
「この子は今日から“所有物”ではない。彼女の意思に、価値を取り戻してやれ。」
少女はその言葉の意味を理解できなかった。
だが、初めて“命令ではない声”を聞いた気がした。 - 4二次元好きの匿名さん25/10/20(月) 22:39:05
カーディアスは少女を屋敷に引き取り、教育係をつけた。
読み書き、作法、言葉、歴史――。
しかし少女はいつも、背筋を伸ばし、主人の顔色を伺っていた。
ある日、庭でカーディアスは彼女に問う。
「おまえは、なぜ今も命令を待つ?」
「……命令がなければ、私は存在してはいけません。」
「ならば、私からの最後の命令だ。――“自分の意志で生きろ”。」
その言葉に、少女の瞳が揺れた。
彼女は初めて、自分の“心臓の鼓動”を感じた。 - 5二次元好きの匿名さん25/10/20(月) 22:45:39
ビスト邸の書斎。薄い月光がカーテンの隙間から差し込み、古い紙の香りが漂っていた。机の上には開かれたままの資料――“強化人間回収リスト”。そこに、ひとつの名が書かれている。
《プル・トゥエルブ》
その少女は、静かに立っていた。肩まで伸びた髪を整え、視線は床を見つめている。彼女の指先は震えていた。
――「また、捨てられるのではないか」
そんな恐れが、まだ心の奥底に残っていた。
カーディアスはゆっくりと立ち上がる。手には万年筆。彼は書類を見つめながら、低く語った。
「この名は……おまえの過去の“呪い”だな。」
少女は答えない。ただ、かすかに唇を噛む。
「ならば、ここで終わらせよう。」
カーディアスは静かに赤いインクを取り出し、その名の上に一線を引いた。それは断罪ではなく、解放の線だった。
「おまえに、もう一度“生きる名”を与える。」
「……生きる、名……?」
「そうだ。命令ではなく、願いで呼ばれる名だ。」
彼は少しの沈黙のあと、その紙に新しい文字を記す。ゆっくりと、確かな筆跡で――
《Maria Bist》
書き終えた瞬間、彼は万年筆を置いた。そしてその名を見つめながら言う。
「“マリア”――赦しの名だ。
人が互いに憎しみ合うこの時代で、おまえはそれを思い出す者となれ。」
少女の目が揺れる。涙が光を反射し、頬を伝う。
「……それが、私の名……?」
「ああ。マリア・ビスト。
今日からおまえは、誰の所有物でもない。おまえ自身の意志で歩く“人間”だ。」
マリアは小さく息を呑み、そして初めて自分の胸に手を当てた。脈打つ鼓動が、確かに「私」という存在を告げている。
「……はい。カーディアス様。
この名を……私の願いとして、生きます。」
カーディアスは穏やかに微笑み、月明かりが二人の間を照らした。
「――それでいい。おかえり、マリア。」
その夜、ビスト邸の静寂の中で、一人の少女が“兵器”から“人間”へと生まれ変わった。
それは誰にも知られぬ、宇宙世紀の片隅での小さな奇跡だった。 - 6二次元好きの匿名さん25/10/20(月) 22:55:12
朝、薄明かりの庭。マリアはまだ眠そうに目をこすりながら、カーディアスの用意した書斎に向かう。
「おはよう、マリア。」
「おはようございます、カーディアス様。」
挨拶の声も、かつての機械のような硬さは消え、少し柔らかくなった。朝の庭には鳥のさえずりと、芝生の露の匂いが混じっている。マリアは深呼吸をして、自分の胸の鼓動を確かめる。
“今日も自分の意思で生きている”――その実感が小さな幸福だった。 - 7二次元好きの匿名さん25/10/20(月) 22:56:15
書斎では、教育係が歴史や文学、科学の授業をしている。
マリアは机に向かい、文字を丁寧に書き写す。
「マリア、昨日の課題はどうだった?」
「はい、アナトミアの課題は完了しました。……それから、読みかけの詩も読み終えました。」
彼女は自らの好奇心で学ぶことを楽しむ。
かつては“命令でしか動けなかった体”が、今は“学ぶ意思”を伴って動く。
小さな手が紙をめくる音が、屋敷に穏やかなリズムを作っていた。 - 8二次元好きの匿名さん25/10/20(月) 22:57:15
昼食後、マリアは庭園を散歩する。
花壇の手入れをしている庭師に笑顔で挨拶を返す。
カーディアスが見守る中、彼女は小さな菜園に水をやる。
「マリア、手が汚れても気にするな。」
「はい、でも……水の感触が心地よいのです。」
指先で土を触る感覚。
それは戦場でも、兵器としての身体でも、決して味わえなかった感覚だった。 - 9二次元好きの匿名さん25/10/20(月) 23:05:45
書斎で読書。
お気に入りは地球の歴史書や、かつての民間伝承の詩集。
カーディアスが傍らに座り、時折質問する。
「なぜ、あの王は民を守れなかったのか?」
「力を持つ者は、それを振るうことばかり考え……心を忘れたのでしょう。」
「……なるほど。ならばおまえは?」
「私は、人の心を覚えていたいです。」
その言葉に、カーディアスは微かに頷く。
“意志ある人間”として、マリアはすでに学び、選び、考える存在になっていた。 - 10二次元好きの匿名さん25/10/20(月) 23:06:53
屋敷の下級スタッフと共に、家事の手伝いや屋敷内の整理。
マリアはかつて命令で動いていた体を、自らの意思で動かす喜びを感じる。
「マリア、もうその棚の本はここでいいか?」
「はい、私が整理しました。……少し、楽しいです。」
微笑む表情は、かつての“無表情の兵器”とは別人のようだ。 - 11二次元好きの匿名さん25/10/20(月) 23:12:40
夕食後、暖炉の前でカーディアスと静かに話す。
「今日も一日、無事だったな。」
「はい……自分の意思で生きている実感がありました。」
カーディアスは静かに微笑む。
戦争も強化人間の過去も、屋敷の中では遠いものになった。
マリアは穏やかな夜に包まれ、眠りにつく。 - 12二次元好きの匿名さん25/10/21(火) 05:29:12
今は普通にいい話だが、隠し子疑惑が広まってないか……?
- 13二次元好きの匿名さん25/10/21(火) 07:10:55
マリア姉上と弟バナージ…はじめましてはどんな風になるんだ?
- 14二次元好きの匿名さん25/10/21(火) 07:15:43
多分妾じゃなくて娼館にも通ってる女好きって評判になりそう
- 15二次元好きの匿名さん25/10/21(火) 10:39:16
18歳になったマリアは、書斎だけでなく、財団の執務室で資料を扱うことも許されるようになった。
カーディアスは穏やかな声で指示を出す。
「マリア、今日は財団の海外調査レポートを目を通してくれ。」
「はい、カーディアス様。」
資料の中には政治的駆け引き、資金運用、軍事技術に関する情報もある。
かつての“命令でしか動けない少女”とは違い、マリアは自分の判断で重要事項にコメントを入れることができるようになっていた。
「このプロジェクトは、リスク管理をもう少し厳格にする必要があります。」
「うむ……なるほど、よく考えているな。」
カーディアスは微かに微笑み、書類を受け取るマリアの手を見つめる。
彼女の眼差しには、かつて見せたことのない自信と落ち着きが宿っていた。 - 16二次元好きの匿名さん25/10/21(火) 10:45:15
兄さんはどう思う?
- 17二次元好きの匿名さん25/10/21(火) 11:10:36
財団の研究室や管理部門を巡り、スタッフの報告を聞く。
マリアは指示を受けるだけでなく、提案や改善策も自ら提示する立場になっていた。
「マリア、今日の調査結果はどう見ている?」
「データ上、この計画は短期的な利益は出せますが、長期的リスクが高いです。
代替案としてこちらの調整を提案します。」
スタッフたちは驚きつつも、彼女の言葉に耳を傾ける。
“カーディアスの養女”としてだけでなく、財団に欠かせないアドバイザーとして認められていた。 - 18二次元好きの匿名さん25/10/21(火) 12:38:23
バナージと家族か
新鮮な感覚だ - 19二次元好きの匿名さん25/10/21(火) 21:16:03
これ最期にバナージを頼むって言われるやつやん
- 20二次元好きの匿名さん25/10/21(火) 21:19:39
だとしたらクシャトリアはどうなるのか…
- 21二次元好きの匿名さん25/10/21(火) 22:49:30
財団の戦略会議にも参加するマリア。
議題はサイド3や連邦、その他政治的均衡を保つための動き。
「マリア、君はどう判断する?」
「この地域の支援計画は、人的資源を最適化すべきです。
兵力ではなく、情報と教育による安定化を優先する案を推奨します。」
その言葉に、カーディアスも頷く。
かつての少女が、今では知性と意志で状況を分析する大人の一員になっていた。
執務を終えたマリアは、屋敷に戻ると庭を歩き、月光の下で深呼吸をする。
「今日も、自分で考え、選び、生きることができた……。」
かつての“命令で動く兵器”の記憶は薄れていく。
それでも心の奥底には、忘れられない痛みと戦いの影がある。
だが、今はそれを糧に、未来を形作る力として使える。
カーディアスは書斎から静かに呼びかける。
「マリア、今日もよくやったな。」
「はい、カーディアス様。」
「……財団の未来も、おまえに託せるかもしれん。」
マリアは少し微笑む。
18歳になった彼女は、もう“養女”だけではない。
戦争の影を知る少女から、未来を創る一員へ。 - 22二次元好きの匿名さん25/10/22(水) 08:08:09
UC.0096、サイド3外縁部
ガランシェール隊は、連邦とジオン残党の緊張が続くコロニー軌道上で哨戒任務にあたっていた。
隊長は静かにモニターを睨む。
「ここ数週間、敵の動きは停滞しているが……油断はできん。」
隊員たちは緊張の中で整備を行う。
だが、その背後には、ビスト財団の裏での情報網が静かに働いていた。
マリアが分析し、カーディアスに助言した情報が、戦局に微妙な影響を与えている。 - 23二次元好きの匿名さん25/10/22(水) 16:43:12
戦況と隊員の心情
哨戒と偵察が日課
連邦側の偵察機や情報部隊との接触もあり、小規模の戦闘や妨害工作が発生
隊員たちは精神的に消耗しているが、隊長は冷静を保つ
隊員の一人がつぶやく。
「……あの情報、財団から流れてきたって本当か?」
「ああ。正確すぎて怪しいくらいだ。」
彼らは知らない。
その情報の正確さは、遠く離れたマリア・ビストの知性と判断力によるものだということを。
任務の一幕
ガランシェール隊は敵の輸送船団を追跡する任務に就く。
追跡ルート、燃料消費、回避経路――
情報部隊が出すデータに基づき、計画を練る。
隊長は微笑みを抑えながら言う。
「……おかげで今回は無駄弾も出さずに済みそうだ。」
小隊は疲れた笑みを交わすが、誰も背後にある“財団の影”までは知らない。
戦争の中でも、目に見えない知恵と戦略の影響がある世界。
戦場の影とマリアの存在
マリアは直接戦闘に関わらない
しかし、財団のデータ分析・戦略立案は小規模戦局や哨戒任務の効率に直結
ガランシェール隊の生存率を微妙に上げ、戦いの無駄を減らす
過去の戦争の影に、静かに“希望の糸”を繋ぐ存在となる
小さな日常の対比
マリア・ビスト:庭園を歩き、資料を分析し、未来を設計する
ガランシェール隊:宇宙の冷たい軌道で哨戒に明け暮れ、危険と隣り合わせ
しかし二つの世界は、見えない情報の糸で繋がっている
たとえマリアが屋敷で微笑んでいても、
遠くの宇宙では、戦いと死の影が続いている――
しかしそれもまた、彼女の知性と意思が少しずつ変えている現実だった。