- 1亀の司祭◆bV/yQnEhgU25/10/20(月) 23:33:43
- 2ギルドの掲示板◆bV/yQnEhgU25/10/20(月) 23:49:15
【直剣売ります】
状態良し。鞘と負い紐付き。値段は交渉次第。旧帝国の制式品。出所をいちいち詮索せぬ紳士には割引。興味のある方はぜひ《亀の甲羅亭》まで。 - 3ギルドの掲示板◆bV/yQnEhgU25/10/20(月) 23:52:28
【下女募集】
仕事内容:雑用全般、生理的欲求への対処含む
報酬:遠征ごとに銅貨三枚
条件:40に満たぬ女のみ - 4ギルドの掲示板◆bV/yQnEhgU25/10/21(火) 00:05:37
【兄弟姉妹よ、来たれ!】
強者の専横、弱者の窮状、あるいは自らの内なる矛盾を正すことを望む全ての人々へ───亀の巡礼団はあなたを待っています。詳しくはお近くの亀の聖印を持つ者まで。 - 5二次元好きの匿名さん25/10/21(火) 00:07:24
保守
- 6二次元好きの匿名さん25/10/21(火) 00:09:24
保守
- 7二次元好きの匿名さん25/10/21(火) 00:11:24
保守
- 8二次元好きの匿名さん25/10/21(火) 00:13:24
保守
- 9二次元好きの匿名さん25/10/21(火) 00:15:24
保守
- 10二次元好きの匿名さん25/10/21(火) 00:17:50
保守
- 11◆.a0KX1VzTY25/10/21(火) 06:54:48
建て乙です
- 12狼の獣人◆sQCNAT0b2F5D25/10/21(火) 07:43:26
たて乙ですのー
- 13狼の獣人◆sQCNAT0b2F5D25/10/21(火) 21:17:40
(※前スレ完走あげ)
- 14ハルバード◆.a0KX1VzTY25/10/21(火) 21:19:44
- 15狼の獣人◆sQCNAT0b2F5D25/10/21(火) 21:22:09
- 16ハルバード◆.a0KX1VzTY25/10/21(火) 21:23:31
- 17狼の獣人◆sQCNAT0b2F5D25/10/21(火) 21:26:19
- 18二次元好きの匿名さん25/10/21(火) 21:28:24
- 19◆.a0KX1VzTY25/10/21(火) 21:29:26
(自分です)
- 20狼の獣人◆sQCNAT0b2F5D25/10/21(火) 21:29:43
- 21ハルバード◆.a0KX1VzTY25/10/21(火) 21:59:39
- 22亀の司祭◆bV/yQnEhgU25/10/22(水) 02:02:01
- 23貝人の姫◆cSqrBBTNDY25/10/22(水) 07:11:25
- 24狼の獣人◆sQCNAT0b2F5D25/10/22(水) 07:27:10
- 25ハルバード◆.a0KX1VzTY25/10/22(水) 07:35:02
- 26狼の獣人◆sQCNAT0b2F5D25/10/22(水) 07:54:41
- 27ハルバード◆.a0KX1VzTY25/10/22(水) 08:00:10
- 28狼の獣人◆sQCNAT0b2F5D25/10/22(水) 17:42:17
- 29ハルバード◆.a0KX1VzTY25/10/22(水) 18:29:48
- 30狼の獣人◆sQCNAT0b2F5D25/10/22(水) 18:31:35
- 31ハルバード◆.a0KX1VzTY25/10/22(水) 20:31:45
- 32狼の獣人◆sQCNAT0b2F5D25/10/22(水) 22:22:40
- 33ハルバード◆.a0KX1VzTY25/10/22(水) 22:29:06
- 34亀の司祭◆bV/yQnEhgU25/10/23(木) 01:14:45
- 35亀の司祭◆bV/yQnEhgU25/10/23(木) 01:16:50
(※おろ?ダークファンタジーにしたつもりなんですが…)
- 36貝人の姫◆cSqrBBTNDY25/10/23(木) 06:12:49
ふむ……そうじゃな、賊などについては何も聞いておらなかったぞよ。ただ魔物の駆除を、という依頼書を剥がしたのみ……
【考え込みながら頷く貝姫】
湯浴み中でも寝ているときでも、大抵の不届き者は"捻り潰せる"、"返り討てる"自信はあるが……それでも戦力は減るのは事実じゃ。
【ちなみに、これは余談だが、海棲人は精気を吸収して力を得ることができる。】
……あぁ、貴公は違うから安心するのじゃ。
……何かを謀っている上での、行動かのう?
【ゆっくりと、考えを口に出す】
しかし、それならばもっと良い方法はあるはず……例え、妾たちを亡き者にするにしても…
(※…………あっ、よく見たら、変更されてましたね…スレ画が同じだったので、勘違いしてました…すみません…!!!)
- 37狼の獣人◆sQCNAT0b2F5D25/10/23(木) 07:07:11
- 38ハルバード◆.a0KX1VzTY25/10/23(木) 07:13:58
- 39亀の司祭◆bV/yQnEhgU25/10/24(金) 01:35:00
- 40貝人の姫◆cSqrBBTNDY25/10/24(金) 10:38:45
うむ……妾は一介の冒険者…よく依頼を受ける故に、あまり探りを入れると何もなかった場合が大変じゃ。
この件には司祭である貴公が適切であろう……よろしく頼むぞよ!!
【肉感的な唇を真一文字に引き結び、真剣な表情で頷いた】
おっと、妾としたことが不用意に怯えさせてしまった…すまぬ。
【バツが悪いといった表情で後頭部に突き出した三叉の巻貝殻を掻き、ぺこりと頭を下げる貝姫】
こちらも重ね重ね伝えるのじゃが…妾は全〜く、気にしてはおらぬぞよ?
【ひらひらと手を振り、ジェスチャーでも示しつつ】
それに、聖職者の其処は神に誓う聖なるもの、捻り潰すのは……っと、また物騒になりかけた、すまなんだ……
む、大図書館とな?確かに頻繁に酒を飲んだり依頼を受けたりしているが……
……ふむ。
ならば互いの機会が丁度いい時に、助けてくれると助かるのじゃ!
進捗状況を共有してくれるのも、ありがたきことよ…改めて、よろしく頼もうぞ!!!
【と、陽気な声色で手に持つ杖を掲げた。挨拶らしい。】
- 41狼の獣人◆sQCNAT0b2F5D25/10/24(金) 21:32:09
- 42ハルバード◆.a0KX1VzTY25/10/24(金) 21:35:15
- 43狼の獣人◆sQCNAT0b2F5D25/10/25(土) 23:31:44
- 44ハルバード◆.a0KX1VzTY25/10/25(土) 23:42:36
- 45アンテル◆mPThu6hceA25/10/26(日) 10:54:52
北の旧国境に位置するフラニエルタの地は、一足先に訪れた冬の寒気に包まれて、新雪の降り積もった凍土を曝け出していた。
生命の気配すら希薄な寒々しい世界、遥か北の山岳地帯に薄っすらとかかる霧霞のヴェールは、その実命を蝕む瘴気の巣だ。
人類に残された最北端、天険の地、踏み入る人影さえ疎ら、だからこそ、その黒色はよく目立つ。
────────────サク、サク、ッ……。
・・・ ・・・ ・・・・・ ・・・・・・・・・・・・・
黒い髪、黒い服、黒いコート、黒い布に包まれた二つの得物。
降ったばかりの雪上に刻む足跡は、純白に覆い隠された黒光りする土くれを捲り上げて、残す。
数十年前まで、ここには北方諸国を睨む国境都市があったらしい、今や見る影も無いが、氷塊と土に埋もれた瓦礫をブーツの厚底が踏み潰した。
まるで、知らぬ死者を送る時の様に、何の感慨も抱かずに。
「────────────フゥゥッ……」
元々は街を構成していた家屋の瓦礫から、埋もれる様に隠れ潜んでいた二匹の狼が、通り過ぎる女の無防備に見える背中に舌舐めずりと共に唾液を溢す。
じり、じりり、雪原を歩むのに特化した合計8本の足は音も立てずに忍び寄る、それは容易い、飛び掛かって首筋を食い破れば終い。
その筈だった、が。
・・
「……一発」
溜息に次いで紡がれた、静かな声、そこに込められた確かな殺意、────────────足がぴたりと止まるのと同時に、女は手にした黒布の縛りを解いた。
銀色の、長銃だ、女の腕には重々しい印象を与えるそれを携えて、ボルトを引き弾を装填する動作に二秒もかからない。
「使ってやる、塵共」
獲物へと視線を向けることも無く虚空へ弾いた引鉄、銃口から射出された弾頭は、それ自体が一つの生物であるかの様に空中で自在に軌道を変えながら、背後の狼達の頭蓋を続けざまに割り砕いた。
名を“アンテル・マグノリア”、女には目的があった、女は冒険者であった、そして、今日の女は狩人(ハンター)であった。 - 46ライドウ◆.a0KX1VzTY25/10/26(日) 12:22:15
- 47アンテル◆mPThu6hceA25/10/26(日) 19:01:05
発砲音と続いて渡り合った金属音、頸を刎ねられた狼がゆっくりと頽れ、雪原に赤い紋様を染み広げて行く。
それは今日の標的では無い、寒気に異常をきたさぬよう解いた黒布で再び長銃を包み込みながら、アンテルの褪せた金瞳は背後の鎧武者をじろりと睨みつけた。
「さっきから……」
威圧的な声色、他者を拒絶する様な熱量の無い視線、一分の隙も無くその身を包み込む重厚な黒。
アンテル、“錆銀”のアンテルとはともすれば彼も知った名だ、どちらかと言えば冒険者の間では悪名として。
得物を背負いなおし、小さく白んだ息を吐いて歩き出す。
「付いて来ていたのはお前か、サムライ、……余計な手出しだ、帰れ」
不意に凪いだ空気は澄み渡り、彼女が向かう先の景色を陽光が導いている、背の高い針葉樹の林だ。
かつて、フラニエルタが滅ぶ前、そこには貴族の過ごす屋敷があった。
今や主を失い寂れていく定めだが、……今から数か月前、とある魔物が近隣の都市を襲い、十数の人間の子供を攫って逃げたという話。
- 48ライドウ◆.a0KX1VzTY25/10/26(日) 19:43:37
- 49アンテル◆mPThu6hceA25/10/26(日) 22:49:48
「軽薄な男は嫌いだ」
端的で明け透けな物言いは彼女の気質を表して、寒気と共にサムライを突き刺す。
彼女の評判は宜しくないものだった、高圧的で歯に衣着せず、コミュニケーション能力に欠けた苛烈な性、魔物、特に“血種”への並々ならぬ執念を燃やし、来る日も来る日も一人で敵を探し続けているばかり。
一匹狼などと呼べば聞こえは良い、だが、その実は誰も近寄ろうとしない為に。
「付いて来たいのなら勝手にすれば良い、だが、……私の邪魔はするな」
・・・・・・・・・・・・
ほんの一瞥、肩越しに向けられる視線には、他人という生き物への不信の感情が滲んでいる。
北の大地にはごう、ごうと、また風が吹いて、そんな表情さえ瞬く間に覆い隠してしまう。
旅路は間もなく、今日の戦場へと至ろうとしていた。
(※そちらの方からは一方的に面識ある感じでも良いですよ~、こっちからは、他人につっけんどんなタイプなので多分知らないかな……!)
- 50亀の司祭◆bV/yQnEhgU25/10/26(日) 23:04:14
- 51貝人の姫◆cSqrBBTNDY25/10/26(日) 23:11:17
うむ、誠実と正直、敬虔も美徳ゆえ……感謝しなければのう…!妾たち冒険者も他人事ではない……日々精進しなくては!
【かつての志は失われつつある中、しかしその意義を継ごうとするものの一人である貝姫はしかと呟く】
うむ……
【"ただの"から先は聞かなかったことにした。まあ、こういった面ならば……たぶん問題はないだろう。故郷にも、出番はごく少なかったが存在したが故に。】
それでは。
また、酒場で逢おうぞ…!!!
【手を振ると、異形の姫は大股で歩き去っていった。】
- 52ライドウ◆.a0KX1VzTY25/10/27(月) 07:04:17
- 53アンテル◆mPThu6hceA25/10/27(月) 14:51:07
新雪を踏む足は二対に増えて、針葉の雑木林へと歩み入る、枝葉に纏うた白銀はちらちらと頭上に降って落ち。
そうした木々の隙間に隠れ潜むようにして、古びた石畳が廃墟への道を辿る。
やがて二人の眼前に現れたのは、罅割れた壁を這いずる蔦に覆われ、長く手付かずのまま捨て置かれた貴族の屋敷、その廃墟だ。
「はぁっ……────────────」
────────────ガァ、ガァ、と、烏の泣き叫ぶ、それのみを除いて外から見る限りでは生き物の気配は感じられない。
白く霞んだ吐息、長銃の包みを解き、正面玄関までの間に続く荒れ果てた庭園へと踏み込む。
大半の“血種”は陽光の下では生きられぬ性質だ、この時間ならば、未だ何処ぞで眠りこけているか。
そのお陰で、堂々と、……玄関の錠を銃床がガツリと砕き割る。
「二手に分かれるぞ、サムライ、人質を探すか、化け物を探すかだ」
ぶっきらぼうなその言い分は、アンテルにとっては体良く単独行動の口実にする為でもあり。
- 54ライドウ◆.a0KX1VzTY25/10/27(月) 18:35:15
- 55アンテル◆mPThu6hceA25/10/27(月) 22:00:04
ここは即ち敵地の真ん中だ、単独行動を取るからには、相応に身の危険も降りかかる。
だからこそ明確なプランを示す必要性があるというのは、パーティーを組む冒険者の間では当然の思考。
だが、一匹狼は同行者の問いにじろりと不服そうに睨む様な視線を向けて。
「虱潰しに探す、問題は無いだろう」
────────────それは清々しい程の脳筋戦術(シンプルプラン)であった。
勿論、多少なりとも居場所に当たりをつけることは出来る、攫われたのは調べによれば合計で14人、未だ身体の小さな子供ばかりとはいえ隠し通すには相応の広さの空間が要るだろう。
そのうえ、今のところは外にまで子供たちの声が聞こえてくる様なこともない、探りを入れるべきは屋敷の奥まったところにある部屋か、牢に適した密閉が出来る倉庫か。
「いずれにせよ、探索の間、化け物の気を惹く必要がある」
……一番嫌なのは戦闘中に子供を盾にされることだ。
- 56ライドウ◆.a0KX1VzTY25/10/27(月) 22:28:57
- 57二次元好きの匿名さん25/10/27(月) 23:55:18
ちょっと質問
ハイエルフがオークを増やして人間に復讐し絶滅させる、というストーリーを考えたんですが
ダークファンタジー・ハイエルフの復讐nandaka-furari.github.ioこれってダークファンタジーになっていますかね?
絵はChatGPTです
- 58アンテル◆mPThu6hceA25/10/27(月) 23:58:09
冷たい沈黙、それは男の提案が信頼に値するかどうかを見定める為の時間であったかもしれない。
やがて、二挺の長銃を諸手に玄関扉を抉じ開ける、……長い年月を重ねた木製扉は、きしり、きしりと蝶番の軋む音を響かせながら外側へと傾いて。
「……お前と私の得物では、私の方が囮になるな」
合理の判断を下しながら内部を見遣る、屋敷の奥へ奥へと延びる廊下の窓には、ご丁寧にも日光を遮る木板が打ち付けられていた。
未だ昼間であるのに、夜中と紛う暗がりが延々と続いている。
「人質を見つけた後、銃声が鳴り止んでいたなら私を探そうとせずに屋敷を出ろ、良いな、サムライ」
ぶっきらぼうに言いながら、瞼を閉じて数秒、それが夜目を慣らす為の時間であり、アンテルは先んじて魔窟へと這入りこんだ。
────────────さて、別行動だ、ライドウは暫し時間を置いてから同じ玄関より侵入を果たしても良いし、または屋敷が先に潜入した黒衣の客を道に惑わせる間に、別の入り口を探し侵入するのも良いだろう。
- 59ライドウ◆.a0KX1VzTY25/10/28(火) 06:24:20
- 60アンテル◆mPThu6hceA25/10/28(火) 10:29:41
────────────────────────────────────
────────────────────────
生者の息遣いも途絶える暗闇、窓枠に打ち付けられた木板の僅かな隙間から、仄かに漏れ出る冬の陽射し。
銃士は一足先に一階の探索を終えた後、上階へと続く階段に目をやって。
……ツン、と、漂ってきた。
(……血の臭い)
胃の底から沸き立つ不快を表すように眉を顰めながら、魔窟の中心へと足音を殺し、昇り始める。
────────────────────────────────────
────────────────────────
床板に残された足跡は、降り積もった埃を押し退けた証拠だ。
寒々しい隙間風に晒されながら探索を続け、確かに目測を付けた通り、屋敷の奥へ奥へと踏み入ったならば、元々は客の応接室であっただろう広間へと辿り着くだろう。
色褪せ、穴の開いたカーペット、よくよく注視してみればその一辺が僅かに捲り上げられた様子が見て取れる。
大勢の人間を閉じ込めておくことが出来て、且つ、助けを呼ぶ声をも封じることが出来る空間。
・・・
成程、土の下であれば、その条件も十分に満たせるだろうか。
- 61アンテル◆mPThu6hceA25/10/28(火) 10:32:13
- 62ライドウ◆.a0KX1VzTY25/10/28(火) 12:38:42
- 63アンテル◆mPThu6hceA25/10/28(火) 13:51:09
────────────────────────────────────
────────────────────────
・・・・
今の住人は綺麗好きなのだろう、心底不愉快なことに、屋敷の二階は居住空間として丁重に設えられている。
揺れるランタンが灯す橙の光をチラチラと反射して、壁は廃墟らしからぬ艶々とした輝きに満ち、真っ赤な絨毯は新品同様に鮮やかな赤色を湛えていた。
その奥から、血の香りは漂い続けている。
「……ッ」
ずしり、と、両手に携えた銃が重みを増した様に感じられた、半開きの扉から明かりの漏れる部屋の様子を覗き込む。
────────────────────────────────────
────────────────────────
床板の表面には、丁度指を嵌め込める程度の窪みが設けられていて、どうやら上に向けて引き上げられる仕組みになっている様だった。
間違いなく、それは地下室へと延びる隠し階段の扉である、思えば、ここは元々貴族の屋敷だ。
資産、宝物を隠しておくためにそうした空間があってもおかしくはない。
天然の岩盤を削って作られた空間だ、途中には点々と燭台が配置されているが、明かりは愚かそも蝋燭さえ置かれていない。
安全に降りるならば、何らかの明かりを確保してから向かうのも良い、夜目に自信があるのならばそのまま降りても良いだろう。
- 64狼の獣人◆sQCNAT0b2F5D25/10/28(火) 15:33:16
- 65ライドウ◆.a0KX1VzTY25/10/28(火) 18:25:34
- 66ハルバード◆.a0KX1VzTY25/10/28(火) 18:30:24
- 67アンテル◆mPThu6hceA25/10/28(火) 23:31:15
────────────────────────────────────
────────────────────────
後ろ姿、“それ”は人間らしく清潔な礼装に身を包んで“食卓”に向き合っていた。
……くすんだ灰色の毛並み、汚れ一つ無い純白のドレスシャツ、はちきれんばかりの筋骨隆々の体躯、静かに鳴り響く食器同士のぶつかる微かな接触音と、食事を口に運ぶ洗練された動作、クロスの敷かれたテーブル上には皿の上で調理の施された“肉”が鎮座する、丁寧に焼き目を入れられてなお赤みが残るその肉塊の正体を、アンテルはよぅく知っている。
『客を呼んだ覚えは無いのだが……』
銃のトリガーに指をかける瞬間、こちらを一瞥もせずに発せられた重低の声色を、標的である魔物は響かせた。
血種、“人狼”と分類される魔物、人語を解しされど人理の外れにある吐き気を催すほどの悪辣の権化、灰色の巨人は手にした食器を卓に置き戻すと、ゆっくりとその体躯を起こした。
「あぁ、……別に呼ばれてない」
それでも、やるべきことは確かだ、吐き捨てる様に言い放ち、────────────扉を蹴り開ける。
────────────────────────────────────
────────────────────────
────────────ドン、ドン、と、二つの銃声が頭上で響いた、銃士は予定通り標的と接触を果たしたのだろう、今ならば多少の物音を立てても気づかれまい。
地下室へ続く回廊を下れば、その先には確かに開けた空間が存在していた、古い物置部屋、倉庫だ、鼠や虫に食い荒らされた跡の垣間見える棚や引き出しの様子を見るに、そこは嘗て食糧庫として機能していたのだろう、そして、現在(いま)もまだ、この屋敷の主にとっては同じ“食糧庫”としての役割を果たしている様だった。
『……っ!』
煌々と暗室を照らす灯りに、人質となった子供らの影が映し出された、歳の頃は10代の初めから終わり辺りまで雑多で、誰もがやつれ、怯え、疲れ切った表情でライドウの方を見つめている。
『あ、の……、どなた、ですか……?』
掠れた声を喉奥から絞り出したのは、中でも一番の年上らしい17か18程の少年だった。
- 68ライドウ◆.a0KX1VzTY25/10/29(水) 06:19:49
- 69狼の獣人◆sQCNAT0b2F5D25/10/29(水) 07:39:25
- 70ハルバード◆.a0KX1VzTY25/10/29(水) 07:50:46
- 71アンテル◆mPThu6hceA25/10/29(水) 11:45:09
────────────────────────────────────
────────────────────────
銀の弾丸は回転を伴って弾き出される、左右の銃口より二発、標的に直線軌道で飛翔したそれは、人狼が椅子を蹴り倒し跳躍するのに合わせて曲線を描き追尾した。
アンテルの射撃は自在の軌道だ、敵が如何な行動を取ろうが、射程を超過するか着弾するか、弾丸そのものが破壊されるまで彼女の意思によって敵を追い詰める。
『……ハハ、曲芸師か、女!』
「狩人だ、化け物が」
嘲笑う人狼は異常の体幹と平衡感覚を以て空中で身体を捩じり、自らの背後より迫り来る弾丸の一つを爪先で弾き落として、されどアンテルは、動じることも無しにもう一射。
間断なく新たな射撃、前後よりの挟み撃ちだ。
────────────────────────────────────
────────────────────────
『……っ!』
触れる掌の暖かさと、戦士らしき逞しさに、今の今まで年長者としてこらえていたのであろう感情が溢れ出る様に少年はボロボロと涙を流した。
喉奥から絞り出す嗚咽、次から次へと落ちる涙の水滴を必死に手の甲で拭いながら、ありがとうございます、ありがとうございます……と、何度も何度も答える。
『……、あの、アイツは……!あの、狼は……!』
そうして一頻りの感情を吐き出した後、は、と思い至って問いかける。
それは彼らを襲った魔物、この屋敷の主への恐れだ。
- 72ライドウ◆.a0KX1VzTY25/10/29(水) 20:36:47
- 73狼の獣人◆sQCNAT0b2F5D25/10/29(水) 21:51:57
- 74ハルバード◆.a0KX1VzTY25/10/29(水) 21:56:03
- 75アンテル◆mPThu6hceA25/10/29(水) 22:00:19
────────────────────────────────────
────────────────────────
人狼の膂力が冷たい空気を裂く、独楽の如き回転が生み出す突風の壁が三度と弾丸を叩き落す、叩き落して、なお。
アンテルはもう二度、引鉄を弾いた、一つは標的の頭上、回転の中心にありブレない頭部を強襲し。
『ガゥッ……!!』
毛皮を貫き、脳天を穿つ弾頭が人狼に一瞬の静止を呼び、それを背後よりもう一つの弾頭が、胸の中心へと突き刺さる。
『ギャアッ……────────────!!』
血種の弱点として、銀という物質はポピュラーだ、尋常ならざる再生力を有する人狼でさえも、銀で頭と心臓を破壊すれば死ぬ。
それは血種狩りの稼業を続けながら培った知恵、武器、戦術、傷口から噴水の様な血飛沫が噴き上がる標的がゆっくりと床面へと倒れて往くのを睨みながら、アンテルは小さく息を吐き、銃口を下げて────────────。
────────────────────────────────────
────────────────────────
『もう、一人……?』
戦士の勇ましい振舞いは捕虜の子供達に安堵の波を押し広げて往く、もう大丈夫だ、と、自分達は助かったのだ、と。
家族らしき名を呼んで涙ぐむ者もあった、心の底から気を抜いたあまり、腰を落とした者も居た、暗い地下室には確かに暖かな陽射しに似た空気が満ち始めていた。
その最中に、────────────件の少年だけは、“何か”に気付いた様な焦燥の表情を浮かべていて。
・・・・・・
『だ、ダメだ、ダメなんです!一人じゃダメ……!!』
まるで必死に、縋りつく様に、ライドウへと何かを訴えた。
- 76ライドウ◆.a0KX1VzTY25/10/29(水) 22:03:37
- 77狼の獣人◆sQCNAT0b2F5D25/10/29(水) 22:08:53
- 78ハルバード◆.a0KX1VzTY25/10/29(水) 22:18:10
- 79アンテル◆mPThu6hceA25/10/29(水) 22:53:04
『ぼ、僕らは、……!』
不安を宥める様に、好転した状況を手放してしまわないように、少年はトラウマさえ呼び起こされた頭を抑えながら、浅く呼吸を繰り返しぽつぽつとライドウに事情を語り始める。
自分達の多くが、フラニエルタより東の外れにある“トルカ”という地域で、孤児院で産まれ育てられたこと、常日頃から魔物の出没が多かったこと、攫われた日、大勢の衛兵達が自分達を守るべく、取り戻すべく魔物に立ち向かってくれたこと。
そして、“戦い”が“惨劇”に変わり、終わったことを。
・・・・・・・・・・・・・・
『アイツは、心臓を刺されても死ななかった!身体の何かがおかしいんです、普通に戦っちゃ、ダメ……!』
通常、人狼種の、或いは大半の魔物にとっての弱点となる器官を抉られてなお、何ら変わりなく生命活動を維持していたと。
ただの人狼には有り得ざる機能の変化、血種には時折、高度な知能を獲得し上位種への進化を遂げる者もいると言うが。
・・ ・・・・・
『それに────────────、村を襲った魔物は、二人、いるんです!』
────────────先ほどまで、上階より絶え間なく響いていた戦闘音が鳴り止んでいる。
アンテルは、“人質を見つけた後、銃声が止んでいたなら自分を探そうとせず屋敷を出ろ”とライドウに告げていた筈だ。
- 80ライドウ◆.a0KX1VzTY25/10/30(木) 06:53:25
- 81アンテル◆mPThu6hceA25/10/30(木) 13:14:34
燃え上がった熱の行き先に、少年は一瞬、怯えるような素振りを見せて、けれども。
その炎が自らを焼き焦がすものではなく、むしろ暖かく包み込む様な強さと勇ましさを象徴していたものだから。
ライドウの言葉に、確りと頷き、……後ろで座り込んだ他の子供達の方へと振り返って。
『みんな……!今から冒険者様が、上の魔物を討伐しにいってくれるみたいだ……!
ここから出るのはその後になるけど、……もう少しの辛抱、出来るね……!』
それは振り絞った勇気、この場でライドウを除いた子供達の中で、一番の年長者として。
きっと、この暗室に囚われ続けていた間にも、その様にして友を鼓舞していたのだろうと分かる、ちっぽけな矜持。
思わず泣きじゃくりそうに眼に涙を溜めた小さな少女を、大声をあげてしまわないよう、懸命に抱き締めながら。
『……ッ、お願いします……!』
冒険者へと、“依頼”する。
- 82ライドウ◆.a0KX1VzTY25/10/30(木) 18:25:33
- 83アンテル◆mPThu6hceA25/10/30(木) 20:30:29
埃を踏み分けた足跡が見えるならば、アンテルの行き先を追うのもまた簡単である筈だ。
応接室を後にして、玄関口から伸びるもう一方の廊下を突き当り、上の階へと続く階段を昇れば。
一層濃く臭い立つ血の香り、ぼんやりと廊下を照らし出すランタンを光源にして、きっとライドウは扉の開け放たれた食堂へと辿り着くだろう。
────────────ぽつ、ぽた、ぽたり。
・・・・・・・・・・・
雫の滴る音がして、そこには三つの影がある、一つは、頭と胸部の銃創より赤々と血を垂れ流し、カーペットに染みを押し広げて往く灰色の毛並みの人狼。
一つは、まるで星一つない夜闇をそのまま落とし込んだかのような、黒々とした毛並みを揃えた別の人狼。
そして、最後の一つは。
「────────────、……っ、ぅ……!」
・・・・・
その黒毛の人狼に、両手首を纏めて片手で壁面へと磔にされ、もう一方の爪で左脇腹を串刺しにされた、女狩人の姿。
断続的に鳴り響く雫の音は、裂けた服、狩人の肩口から血液が滴る音だった、得物であった二挺の長銃は手放して床へと転がされ、唯一自由の利く足は、時折人狼の拘束を解こうとその腹や下腹部を蹴飛ばしている。
『グァルルルルゥ……、おイ、グント、イつまデねボケてる……』
『────────────ッ、痛……!あぁ、全く、いつもより再生が遅い……、銀か、この弾は……!』
黒毛人狼によって“グント”と呼ばれた灰毛人狼は、傷口を己の肉が塞ごうとするぐずぐずとした音を伴いながら、ゆらりとその巨体を起こした、……確かに二発、弱点となる属性を、弱点となる部位に撃ち込まれた筈であるのに。
磔にされた狩人は、その光景に苦虫を噛み潰す様な表情を浮かべながら、ごつ、ごつ、と、まるで無意味な抵抗を繰り返した。
- 84ライドウ◆.a0KX1VzTY25/10/30(木) 20:41:12
- 85アンテル◆mPThu6hceA25/10/30(木) 22:24:33
『……ン?』
『抑えておけ“ザール”、今日は客の多い日だ、……なんだ、貴様は番(つが)いか?』
・・・
ザール、そう呼んだ黒毛人狼の前に、身を起こしたグントは2mも超える巨体で炎幕へ横駆けた。
見る目にもはっきりと筋骨の隆起した両腕はまるで丸太の様だ、両手の指を組み、ハンマーよろしく振るうその風圧だけでも衝撃になる。
焼け焦げて皮膚が捲れ上がり、その内の筋肉さえ露出した腕を鬱陶しそうに擦りながら、ライドウの斬り下ろす刀の切っ先ではなく鈨(はばき)に触れて抑え込んだのは、確かに不審な気を放つ刃を警戒したからだろう。
「……ッ、バカ野郎、何で来た……ッ!」
『それが正しい、女の言う通り、俺達に気付かれず無事に入って来れたなら無事に出ることだって出来ただろう。
逃げられる時に逃げれば良かったな、ハハ……地下の“食糧”を助けに来たのか?』
変わらず磔のアンテルが怒鳴りつけるのと共に、グントは嘲笑をライドウに手向けた、それは無謀だと。
爪と刀がヂリヂリと火花を散らし競り合いながら、その両腕は、今にも再生をし始めている。
人狼、“半不死”の肉体を持つ血種の魔物────────────。
・・・・・・・・・・・・・・・・
『人間は怪我をさせると劣化が早まる、表に出しておけば他の魔物に襲われるからな、大事に保管していたのだが』
- 86ライドウ◆.a0KX1VzTY25/10/30(木) 22:36:44
(※磔にしてる敵を引き剥がした後に大見え切って名乗りを上げるとかやりたいんですが大丈夫ですかね?)
- 87狼の獣人◆sQCNAT0b2F5D25/10/31(金) 18:33:36
- 88ハルバード◆.a0KX1VzTY25/10/31(金) 21:58:24
- 89ライドウ◆.a0KX1VzTY25/10/31(金) 22:22:46
- 90狼の獣人◆sQCNAT0b2F5D25/11/01(土) 09:54:13
- 91アンテル◆mPThu6hceA25/11/01(土) 16:38:25
『ハハハ!愚かさも過ぎれば哀れだな、貴様のちっぽけなプライドごと、この刃、圧し折ってやろう!』
焔を描く切っ先は、爪牙と摩擦し火花を散らす、人狼の中でも際立って恵まれた体躯、人間の数倍にも及ぶ膂力、鍔迫り合いが続けば徐々にグントが優位に立つのは一目瞭然であり。
結果は最早決まったようなものである、と、ザールは目の前に縛り付けた女狩人へと視線を移していた。
『……グルルゥ、マヌケな女、……決めタ、グントが小僧を殺ッたラ、オマエの眼ノ前で喰ってやル』
身を捩ろうとするとアンテルの身には激痛が奔った、相方の人狼よりはいくらか細身の黒毛人狼の腹にも、苦し紛れの蹴りは全くもって通用せずにやがては力が抜けた様に吊り下げられる。
その様を面白がって、ザールは突き立てた爪で傷口を広げる様に、抉り、捻じり。
「がっ……────────────、ぁ、あぁあッ……!!」
『グァル……!』
苦痛を叫ぶ女の腹からゆっくりと刃を引き抜いた、新鮮で鮮やかな赤色は、血種の魔物にはたまらぬ芳香を伴って糸を引き、ザールは生唾を呑んで大口を開け、滴る血液を舌先で絡めとる。
さも上質なワインを味わうかの様に、大食家のグントよりも先にドリンクを嗜むのは、役得というものだ、と────────────、
『────────────グ、ゥ……ッ!?』
────────────“異変”があったのは、その直ぐ後だ。
『ガ、ゴッ……!ォ、グォオ……ッ!?』
『……あ?おい、ザール、どうした!……ぬゥッ!』
びちゃ、びちゃ、びちゃり、ザールの口元から赤色交じりの吐瀉物が床へと吐き出された、嗚咽、苦悶の表情、それはライドウと競り合いを繰り広げるグントにとっても異様な光景であり。
刹那の隙、侍の剣閃は爪牙の拘束を逃れると、灰毛人狼の胸元を深く抉り裂いて血飛沫を跳ね上げた。
無論、“再生”はすぐに始まる、しかしほんの僅かな間、ライドウには味方である銃士の拘束を解くための時が与えられるだろう。
- 92ハルバード◆.a0KX1VzTY25/11/01(土) 17:50:05
- 93ライドウ◆.a0KX1VzTY25/11/01(土) 18:03:05
- 94アンテル◆mPThu6hceA25/11/02(日) 11:42:28
『ゴホッ、グ、ォオッ……!なン、ダ、コイツの、血ハ……、不味……!』
それは有り得ざる異変である、人間の血肉をこれ以上無い程の好物として食する血種人狼、その肉体がたったひと舐めしただけの女の血液に拒絶反応を示していた。
折角の獲物を緩んだ拘束から眼前で攫われるのにも、捕え返すだけの余裕も無い。
「ぐ、ぅ……ッ、この、馬鹿ヤロウが、恰好付けてる、場合か……ッ!」
奇しくも、傷を塞ぐ役目を果たしていた爪牙が引き抜かれ、あくまで勇ましく見得を切るライドウの手に抱えられた女の脇腹からはこぷこぷと泡立った血が溢れ出していた。
もう随分な消耗だ、長期戦をしていては先にアンテルの方が限界に至るだろう。
だからこの先は、────────────時間が勝負。
・・・・
「……アイツだ、灰毛の方、心臓を銀で撃ったのに死ななかった……、何か絡繰りがある……!
だが、それを探っている時間は、無い……!なら手立ては一つだ……!」
ぐずり、ぐずりと傷口を瘡蓋じみて赤い肉が埋め合わせ、今にも三度立ち上がろうとする、グントの生命力は確かに同じ人狼の中でも頭抜けていた。
身体を切り刻んでも、心臓に銀を突き立てても意味を成さないならば。
・・・・・
「人狼のもう一つの致命的弱点、頸を落とす……、サムライ、お前の武器なら出来るな?」
- 95ライドウ◆.a0KX1VzTY25/11/02(日) 13:27:21
- 96アンテル◆mPThu6hceA25/11/02(日) 17:27:58
・・・・
『ザール、つまみ食いをして当たったなんて笑い話だぞ』
『……チィッ……、そんなンじゃァ、ナイ、……ゲホッ、妙ダ、あの女の血ハ……!』
胃の腑に落ちていた食物の全てを吐き捨ててまで、未だザールは込み上げる吐き気を堪え。
己が吐いたすえた臭気を放つ汚濁を心底気分も悪そうに見遣った後、振り払う様に、グントとは対照的なシルエット、しなやかで鞭じみた腕をぱしりと薙ぐ。
そうして、二頭の人狼はまた動き出す、炎舞纏う侍の突貫に迎え立つのは、やはり巨木の如き灰毛人狼の大腕だ。
巨体、なれど鈍重ではない、初段の斬撃を一歩身を退いて躱したならば、食卓に備えられていた燭台に指をかけ、舞い散る大熱に溶けた高温の“蝋”をライドウに飛び散らせる。
『轟々と燃やすな、火入れは過ぎれば肉質が硬くなる、なぁ“星詠みの”、俺は生肉(レア)に近い方が好みでな。
相方との末期の挨拶は済んだのか、割り込んでは悪いと思っていたんだ』
────────────ドン、ドン!
その傍らを二度の銃声が裂いた、交錯する火花、ライドウとグントの交戦に割り入ろうとした二つの銀色は、ザールが伸ばした爪に阻まれて地に叩き落される。
壁際に座す銃士の手元には長銃が取り戻されていた、下唇を食み、痛みをこらえながら引鉄を弾き。
恨めしそうに見下ろすザールの顔色を、挑発的に睨みつけていた。
・・・・
『女ァ!てめェは決着済みだ、大人しクしテいロ!!』
「────────────ハァッ、ハッ……!なら、力尽くで大人しくさせてみろ、黒毛……!」
挑発には意図がある、ライドウをグントとの交戦に集中させる為、……目論見は成功したと言える。
ザールがバキリと蹴り砕いた床板が宙に舞う、片方の長銃を銃身を掴んで近接に持ち換え、振りかかる爪の一撃を同時に振り上げた銃床が防いだ。
- 97ライドウ◆.a0KX1VzTY25/11/02(日) 18:17:38
- 98アンテル◆mPThu6hceA25/11/02(日) 22:24:31
『阿呆が!』
人狼とて己の弱点は知っている、頸を狙われることなど分かりきっているのだ。
故に、対抗策は幾らも知っている、侍が振るう二ノ太刀よりも“一歩早い”踏み込み。
ライドウとグントの間には見上げる程の体格差がある、ならば、頸を落とす為に下方から斬り上げる斬閃上には、堅牢な肩の筋肉があり、巨木の様な腕(かいな)が必然的に立ちはだかるのである。
・・・・・・・・・・・
グントは嘲笑っている、この侍は確かに手練れだ、だが、まだ若い。
魔物を狩ったことこそ当然あるだろうが、己達の様な、知恵や人を食った経験の豊富な上位種の人狼と戦った経験値は未だ浅いのであろう。
そういった意味では、まだ女狩人の方が一日分の長がある。
『グルルルァアアッッッ!!!!』
肩の筋肉が太刀筋を捉え、斬り進まれながらも幾層もの肉の鎧にて抑え込む間に、ライドウの懐へと飛び込んだグントは、鋭利な爪を滾らせた爪先蹴りを反撃として繰り出した。
それは、頭上から力任せに爪牙を振り下ろし銃身を圧し折ろうとするザールとの鍔迫り合いを演じる、アンテルの方へと弾き飛ばす様な角度だ。
- 99ライドウ◆.a0KX1VzTY25/11/03(月) 11:38:56
- 100アンテル◆mPThu6hceA25/11/03(月) 18:49:23
『ゥ熱ッ!クソ、がァッ!小僧……ッ!!そンなニ先に死にてェか!!』
・・・・・・・・・・・・
ゴウと身を巻く炎熱を、ザールの身体は上半身が完全に後方を向く異様な捻じれが生み出す、回転の風圧で振り解く。
両腕は正しく独楽の円軌道を描きながらアンテルが身構えた長銃の銀と衝突し、その片方を掌から弾き落とした。
グントと同様、この黒毛人狼もまた、別種でこそあれ異形の身体構造を有しているのだ。
「くッ……!」
もう片方の掌に掴んだ銃口を跳ね上げ、回転するザールの爪の防御網に引っ掛からない顎下を狙って引鉄を弾く、“ばすん”と鈍い音と共に、顎の骨を砕いた銀の銃弾はそのまま人狼の脳漿を掻き混ぜ、頭蓋を貫いて天井へと突き刺さった。
────────────人狼はそれでも死なぬのだ、すぐにぐずりぐずりと異音を発し、傷口の再生が始まる。
・・・・・・・・・・・・・・・・
「馬鹿かお前はッ!!余所を気遣って勝てる相手じゃない!!」
こちらへと駆け寄ろうとするライドウの動きに、アンテルは怒声を浴びせてもう一弾、弾き。
彼女の術により曲線の軌道を獲得した弾丸が貫くのは、ライドウの背後、追撃に飛び掛かるグントの肉体。
分厚い腹筋を抉り、それはほんの一瞬だけ灰毛人狼の突進を食い留めただが、……当然、足りぬ。
『おぉ逃げるな逃げるなぁ、どうも立場がおかしいな、お前達が俺達を狩りに来たんだろうに。
これでは逆だなぁ、俺達にとってはこちらの方が、性に合っているがなぁ、ハハハハハ!!』
高速で駆ける馬車と正面から相対する光景を想像してみると容易い筈だ、殺意を持って突進する人狼と衝突するのは、それだけでも重大なダメージだ。
走りながら、巨木の腕を掲げて、ハンマーの如くライドウへと振り下ろす。
たったそれだけで、下手をすればこの廃墟の床ごと下の階層へと叩き落されかねないだろう。
- 101ライドウ◆.a0KX1VzTY25/11/03(月) 20:11:00
- 102狼の獣人◆sQCNAT0b2F5D25/11/04(火) 20:38:53
- 103ハルバード◆.a0KX1VzTY25/11/04(火) 20:46:52
- 104アンテル◆mPThu6hceA25/11/04(火) 22:10:25
・・
────────────太陽、窓枠に打ち付けられた木板が遮る、血種にとって不俱戴天の敵。
ぼたぼたと紅く滴る命脈を擦り減らしながらライドウの策を悟る、だが、『陽光を利用する』程度の策ならば当然、血種狩りに慣れたアンテルの方も思い至っている。
そのうえで敢えて言うならば、ライドウの考えはもう一歩、踏み込んでいる筈だ。
・・・・・ ・・・・
「……あるんだな、切り札が」
絶え絶えの呼吸、掠れた声色は奇しくも、人狼の耳には届かない秘密の会話としてライドウに伝わるだろう。
つい先程まで侍が駆けていた石の床がガラガラと砕けて階下に落ちる、灰毛人狼の屈強な一撃は、標的の消失によって必然的に足場を叩きつけたのだ。
噴き上がり、舞い散る埃が霞の様に視界を覆う、その向こうで二つの人狼の影が不気味に揺らめいていた。
『死にかけの女一人易く殺してみせろザール。
アレは噂に聞く“抗体持ち”だろう、俺でも喰えん人間だ、肉質を気にする必要はない』
『チッ、気に食ワねェ、気に食ワねェゼ、……気に食ワねェカラ、捻り殺ス!』
────────────攻防は加速する、埃霞を突き破り、突出したのは黒毛人狼(ザール)。
異常の発達を遂げた脚関節は異常の発条(ばね)を獲得しており、砲弾に似た加速でライドウへと飛び掛かる、鉄鞭の如きしなりを帯びた腕の振り、鋭利な爪がはらわたを抉り刈ろうと円転し。
更に、その頭上を飛び越える様にして灰毛人狼(グント)の巨体が襲い来る、単純明快に叩き付ける拳が秘める威力は先ほど見せたばかりだ。
- 105二次元好きの匿名さん25/11/05(水) 07:50:28
このレスは削除されています
- 106二次元好きの匿名さん25/11/06(木) 06:50:17
【そのパワーは確かに強力で、強靭で、凶悪だった】
【しかし】
すげぇパワーだ
【アンテルを抱えたままだがその拳に剣を合わせる】
だが、もう慣れたぜ
【欲しいのは一瞬の時間、片手だが完璧な体制で受ける】
【完全に攻略が成功した訳ではない、以前そのパワーは絶対の脅威だ】
【パワーの差もあり受けた腕がミシミシと嫌な音を建て、鎧の中で内出血により青く変色する】
【それでもこの程度の曲芸はやってのけられた】
【抱えたアンテルに、彼女にだけ分かるよう指示を出す、意味は】
「窓を撃て、風をくれ」 - 107アンテル◆mPThu6hceA25/11/07(金) 12:58:28
『────────────そうか、それで二度目はどう受ける?』
拳に伝う重低の打撃音、その威力、受身を取ろうとも響いた異音は超絶技巧の侍の骨身を砕かんとする無慈悲無類の衝撃を物語る。
読み切り、完璧に迎え撃ってこれだ、同じ攻撃を二度受ければグントの指摘する通り、今度こそは抵抗も能わないだろう。
だからこそ、追撃の二度目がすぐさま用意される、今度は拳のみでなく爪の先を突き立てる様に。
大腕を振り上げて、────────────されど。
『……ッ!』
『グァウッ!?』
じゃかり、と、その眼前に突き出されたのは、白銀に彩られた女狩人の銃口だ。
グントが跳び退るより早く引鉄を弾いたそれは、筋肉の裂ける破裂音を轟かせながらそのはらわたを貫通し、更には軌道を変え今にもライドウへの追い打ちを図ろうと回り込んでいたザールの頬を掠め引き裂いて。
『────────────グルルルルァァアッ!!学ばないな、効かねぇよ!!』
そうまでしても魔弾の貫いた弾痕は直ちに再生し始める、人狼の生命力、グント達が怒りを露わにする間に。
しかし本命の狙いは他所にある、跳ね上げた二つ目の銃、一射目への対応を終え距離を取った人狼達を捨て置いて、その後方を。
窓枠を塞ぐ、太陽を塞ぐ、酸素を塞ぐ木板を、弾いた。
- 108ライドウ◆.a0KX1VzTY25/11/08(土) 16:30:54
- 109狼の獣人◆sQCNAT0b2F5D25/11/09(日) 13:06:21
- 110ハルバード◆.a0KX1VzTY25/11/09(日) 17:18:17
- 111アンテル◆mPThu6hceA25/11/09(日) 18:41:41
『──────────── そ れ が ど う し た ッ ! !』
燭台の火に照らされて、微かに影の立つだけの薄明りに満たされていた暗室に、山間に傾きかけた冬の夕日は横合いより橙色の輝きを差し込んだ。
それは血種にとって天敵となる陽光である、グント、ザール、二匹の人狼に一瞬の動揺が迸る。
されど、一瞬、────────────確かに脅威だが、直接光線を浴びさえしなければ問題は無いのだ、窓際より距離を置き安全圏へと。
そうして、『これこそが二人の冒険者にとっての切り札であったのだ』と推察すれば、無意味であったと煽り立てる様に狂暴に哄笑する。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・
『新鮮な酸素のお陰で火力が上がったかァ!?
ただ燃やす程度で俺達を狩るつもりか、剣士の小僧!火傷程度瞬きの間に回復が出来るんだよ!』
薙ぎ払う火力にも怯まないのは、それがただの炎であると断じているからだ、二匹は今度こそ二人を仕留めるべく左右へと分散して回り込んだ。
挟撃の態勢、未だ十全に力を残した人狼達にとっての必殺の陣形。
その予兆を受けて、ライドウの腕の中、抱えられたアンテルは彼に噛みつくように声を振り絞った。
「……ッ、サムライ、私を降ろせ、そうすれば両腕で戦えるだろう……!
灰毛を止めろ、黒毛は、私が狩るッ……!」
- 112ライドウ◆.a0KX1VzTY25/11/09(日) 22:35:01
- 113狼の獣人◆sQCNAT0b2F5D25/11/10(月) 10:32:17
- 114ハルバード◆.a0KX1VzTY25/11/10(月) 12:40:16
- 115アンテル◆mPThu6hceA25/11/10(月) 13:10:46
『その手負いデ何が出来ル!』
四足歩行に近い、より獣じみたザールの疾駆、それはグントの巨体より一手早く狩人達の元へと辿り着き、しかし。
鞭の如き腕が削り薙ぐ爪の一撃を、アンテルは振り上げた長銃の銃身にて受け止める。
力を込めた腹筋から、脇腹の傷口はぐじゅりと噴血し、女狩人は苦悶の形相ながらも眼前の“獲物”を睨みつけ。
「────────────お前の方は、心臓を一発撃たれれば死ぬんだろう?他の人狼と変わらず……!!」
『ッ!?』
・・・・・・・・・・・・
アンテルの長銃は二挺ある、爪を受け止めた一方とは反対の腕で銃身を跳ね上げて、咄嗟に飛び退るザールの胸部へと銃弾を弾いた。
上体を逸らし、一度は躱したその元へ、魔力が付与された曲射の軌道は空中で曲がりくねりながら追いかける。
舌打ちをして、ザールはまた逃走を図り。
『グントッ!交代(スイッチ)ダ、コイツの弾は面倒くせェ!』
『この馬鹿が、距離を取ればそれこそその女の術中だろう!距離を詰めろ!それに……!』
一方、侍の解き放った炎舞を愚直に突っ切り、狂暴な大腕を叩きつけるグントもまた、異常事態に陥っていた。
普段ならばこの程度の炎はすぐに掻き消せるのだ、火傷をしても、その端から再生が叶う。
だが、この侍の炎は────────────。
『オオ、オッ……!なんだ、クソ、コイツの炎は……!中々消えねぇッ……!!』
不可思議、訳の分からぬこと、自分よりもずっとずっと生きていない下等で軟弱な食糧でしかない人間如きの為に、グントは心底の苛立ちと共に早急な決着を迎えんと拳を振り下ろす。
- 116ライドウ◆.a0KX1VzTY25/11/11(火) 07:32:04
【余裕を持ってこちらを狩る為に打ち出されたこれまでの攻撃に対し、余裕なく死にたくないと打ち出された攻撃は僅かに避けやすく】
ほうらよぉ!
【回避した際に額からコメカミを掠め派手に血が出るだけの結果に終わる】
【そして懐に入り真っ赤に炎上したグントに対して炎刀を振るう】
灰になるまで焼かれてみろよ、秘剣・炎魔、大往生ォーーー!!!
【その悪意を断ち切らんと片刃の剣と焔は向かう】