- 1二次元好きの匿名さん25/10/21(火) 05:26:12
- 2二次元好きの匿名さん25/10/21(火) 05:33:03
最近になって子世代ネタを知って次男の可能性に頭を焼かれた者です。
次男の解像度を上げたくて仕方ない。
次男は戦闘用コーディネーター
兄弟の歳の差
一番上の兄を今18歳として dice7d15=13 8 13 12 8 13 13 (80)
- 3二次元好きの匿名さん25/10/21(火) 05:39:10
わあスレって2時間で落ちるんだ 半日くらいはあるもんかと思ってた
下4人が団子になってしまった もう1回
長男18歳を1として、ダイス目順の歳の差とする
dice7d15=12 9 3 6 12 13 5 (60)
- 4二次元好きの匿名さん25/10/21(火) 05:46:22
長男18歳時点
次男15歳
長女13歳
次女12歳
三女9歳
四女6歳
五女6歳
三男5歳
四女と五女が双子
3歳差なら飛び級で追いつけるな - 5二次元好きの匿名さん25/10/21(火) 06:29:53
このレスは削除されています
- 6二次元好きの匿名さん25/10/21(火) 06:47:36
「お願いしますルナマリア様。この子を俺たちの子として育てさせてください」
玄関先で土下座したシンは、まだパイロットスーツ姿だった。つまり帰投した後、着替えもせずに帰宅してきたらしい。
何やら厳ついカプセルを抱えてきて、それは今シンの頭の前に鎮座している。
「いやアンタ何言ってんの?」
ルナマリアは土下座中の後頭部を見下ろした。自分の足下では、パジャマ姿の長男が不思議そうに父親とゴツいカプセルを見比べている。
帰ってきたシンがバカでかい声で「ルナマリアァァァ!」とか言うから起きちゃったのだ。寝起きご機嫌な子で良かった。
「……ひとまず、おかえりなさい」
「おかえりなさーい」
「はい… ただいま帰りました」
シンが神妙である。
と言うことは、やらかした自覚があると言うことだ。
「ええと……まず、子供?そこに入ってるの?」
「うん……」
パシュと音を立てて、カプセルの上半分がスライドした。中にもう一層透明な素材の蓋があり、その中にシーツに包まった新生児が入っていた。
――小さい。
「月齢が足りてないのに、人工子宮から出されちゃったんだ……」
「大丈夫なの!?」
「ジャンク屋さんが特別に作ってくれた保育器だから、大丈夫」
「あかちゃん!」
長男が目をキラキラさせて赤ん坊を覗き込んだ。 - 7二次元好きの匿名さん25/10/21(火) 07:33:30
長男坊かわいい
- 8二次元好きの匿名さん25/10/21(火) 08:39:03
初手からフルネーム絶叫とか何事かと思うよな
- 9二次元好きの匿名さん25/10/21(火) 10:10:21
CEの便利屋ジャンク屋
- 10二次元好きの匿名さん25/10/21(火) 10:10:23
議長の遺産ってことはブルコスは拾っただけなんか?
- 11二次元好きの匿名さん25/10/21(火) 12:12:06
「あかちゃん、おれのおとうと!?いもうと!?」
「……弟、だよ」
一瞬ためらって、でもシンははっきり告げた。この瞬間、うちの子にするのは決定事項となった。
私まだなんにも言ってないんだけどな。
ルナマリアは思うが、実際赤ん坊の姿を見てしまえば無碍には出来ない。
初手で赤ん坊を見せずに土下座しただけ、シンは誠意を示したのだろう。
「とりあえず、お風呂入って着替えてらっしゃい」
「え、でも……」
「見ててあげるわよその間くらい。話はその後。でもまず本部に帰還報告いれてちょうだい。うちにいるのにMIAはごめんよ?」
下を見ると、保育器カプセルは長男が既に確保していた。
自分と同じくらいのカプセルを何とか持ち上げてにっこにこのご満悦だ。
「落としちゃダメよ?ちゃんと持ってね」
「あい!」
気が抜けたのか、シャワーに向かうシンの足取りは疲れが出たみたいで重そうだ。
さて、どんなワケアリなのだろう。
ルナマリアがすんなり受け入れられる話ならいいのだが。
……そう言えば、シンの隠し子かとは全然思わなかったわね、私。
なんとなく、その事に満足したルナマリアだった。 - 12二次元好きの匿名さん25/10/21(火) 12:22:26
■■■
「この子、レイの『救世主兄弟』なんだ」
その言葉をルナマリアは知らなかった。コーディネーターには必要のない言葉だったので。
困惑の表情を浮かべた彼女に、シンは苦笑する。
「去年くらいだったかなあ。知らない人から俺宛に遺産が送られてきてますって話あったじゃん」
深夜のリビング。コーヒーのマグを片手にシンが話し出す。
少し重い口調は眠そうだ。話の前に本部に連絡させたルナマリアは正しかった。
前だったら。
そういう気を遣うのはきっとレイだったな。久しぶりに音として聞いた名前から、そんな連想をした。
勉強しながら寝ちゃったシンに、寝るなといいながらも自分の上着をかけてやってるアカデミーの姿を思い出す。
そのまま、自分が居眠りをした時に、目を覚ましたら2人分の上着がかかってて、2人は震えてて、悪いと思いつつ笑っちゃった事を思い出して……あ、まずい。
唇を噛んで、考えるのをやめた。
長男は、ソファに寝かせたカプセルに、毛布をかけて添い寝している。さっきまでねんねねんねとカプセルを寝かしつけていたが、その体勢のまま自分が寝落ちしている。
「知らない人だったから断ったって言ってなかった?」
確か、月軌道上にある個人衛星。宇宙ゴミや宇宙空間に漂っている微物から資源を回収したり、有用元素を抽出したりする施設になっていると。
そこに住居と言うか、研究施設が併設されているという話で。 - 13二次元好きの匿名さん25/10/21(火) 12:44:41
「一回断ったんだけど……あれ、レイだった」
「え?」
「偽名だったからわかんなかったんだ。レイが俺を相続人指定してた。パスワードがアカデミー寮の住所と部屋番号だったから、それで気づいた」
パスワードの意図に気づいたら、偽名にも気づいたらしい。
諜報活動の講義で割り当てられたコードネームだったのだ。
「レイって言うか、元はデュランダル議長が相続人をレイにしてて、それがスライドして俺の所にって形だったけど。だから、受け取るかどうかは別にして、いっぺん見せてくれって、行ってみたんだ」
「一人で!?何で私を連れてかないのよ!?」
「だって、万が一ロドニアみたいだったらルナには見せたくないだろ!」
「脳みそくらいで今更動じやしないわよ!」
叫んだところで長男が「むにゅ〜」かなんかの寝言を言った。2人は咄嗟に口を噤んだ。
……大丈夫そう。
息を吐いた2人は、お互いにクールダウンも兼ねて照れ笑いを浮かべた。 - 14二次元好きの匿名さん25/10/21(火) 12:53:31
■■■
足を踏み入れた部屋はアンティークデザインな家具でまとめられていたが、その上品な佇まいに反してひどく荒らされていた。
棚という棚は開けられ、そこら中に紙やディスクが散らばっている。
ザフトの調査隊が徹底的に調べたのだろう。
不思議なのは、どうも無くなっているのは日付から見て古い資料ばかりのようだった。最近のデータは散らかされているだけで、紛失は見られない。
開いたそれは、本来の彼の研究テーマから大分逸れていたので、遺されたのはそれが理由かと察する。
生命工学と言うより、これは医学だ。
読み進めるにつれて、シンの胸にわき上がったのは共感だった。今のシンだからこそ、共感できる事だった。
ああ、議長ってホントにレイのお父さんだったんだなぁ。
投薬、手術、レイの体を治す手立てを探して、それでも無理強いしないように、レイが嫌がらない方法を模索して。
息子のイヤイヤ期真っ最中だから、なんか分かってしまって。行間から愛が溢れるようで。
……それでも、治療は上手くいかない。
レイの体を診る一方で、弟のように思う友人の体調がみるみる悪くなっていく記録。しかもこっちの患者は言うことを聞かない。劇薬のような薬を、指定した倍量もバリバリ喰らう。未来に期待するのをやめた彼の諦観は、レイに感染していく。
友人が亡くなった頃には、もうレイに兆候が出始めていた。 - 15二次元好きの匿名さん25/10/21(火) 19:27:01
あくまで仮説だが、骨髄移植にウィルス療法を重ねれば、回復の可能性はあるのではないか。
ウィルス療法とは遺伝子治療の一種だ。欠陥のあるDNAに、修復した情報を記憶させたウィルスを感染させ、転写させる。
言ってみれば、健康を感染させるのだ。
そのためには骨髄液のドナーが必要だ。
レイのオリジナルには息子がいた。ドナーとしては1/2の確率だが、先の大戦により行方不明だ。この線は使えない。
オリジナルは友人が殺してしまった。
レイと同ロットのクローン体は複数いるはずだ。だが、その子供たちがレイと同等の医療を受けられたか。そもそも友人が見つけたのはレイ1人だったのだから、最後の1人だった可能性も高いのだ。
実を言えば、確実にドナーを得る方法がある。
クローン技術だ。
オリジナルの遺伝情報だけなら、自分は確保しているのだ。
クローニングの上でコーディネート技術を施して欠陥を除去、その上でウィルスを体内に持つように――
一人の子供を救うために、その子のドナーとするべく生を受ける兄弟。
それを救世主兄弟(Saviour Sibling)と呼ぶ。
けれど、それは当のレイに拒絶される。 - 16二次元好きの匿名さん25/10/21(火) 22:21:22
レイ本人が拒否ったのか
まぁどんな命でも生きれるなら生きたいなんて
言うやつだから
自分の兄弟を犠牲にするなんて出来るわけないか - 17二次元好きの匿名さん25/10/21(火) 23:15:25
自分のために新たに命を創り出す事を、レイは激しく拒否した。
いつも大人しく静かにしている子だったが、提案のためにまとめた資料を破り捨ててまで嫌がるので、この案は一度引き下げた。
適合者がいればそれでいいのだ。秘密裏に探したが、結局見つかることはなかった。
だから、ギルバート・デュランダルは黙ってレイの手に渡るであろう場所に遺したのだ。それがレイの意思に反しようとも。
もしかすれば、死に瀕すれば気持ちは変わるかもしれない。その時のために、せめてもの救いを。その可能性の一欠片を。
シンは目を上げる。
棚の中に、番号の振られた冷凍保管庫が大切そうに置かれている。
稼働している保管庫の中には――
■■■
「からっぽだった」
言って、シンはマグを煽る。少し冷めたコーヒーを飲み干す。
あの冷凍庫の中も、こんな風に空っぽだった。
調査員が持っていったのだろう。
そうでないなら、議長がやっぱり自分で処分したのかもしれない。
レイは少しも迷わずに死ぬつもりでいたんだから。
きっと、その子が生まれることはなかった。 - 18二次元好きの匿名さん25/10/21(火) 23:17:16
シンは手を伸ばして長男の髪を撫でる。
もしも、だ。
もしもこの子が治らない病気になって、自分たちは何もしてやることが出来なくて。
――俺は、クローンだからな
あんな、なんでもないみたいな顔で笑われたら。
親はどうしたらいいんだろう。
結局、シンはその衛星を受け取らなかった。
施設の他の部屋にあった、もしかしたらレイのものかもしれない絵本なんかも持ち帰らなかった。
自分の記憶の中のレイですらうけとめられていないのに、知らないレイまで引き受けられない。そう思う。
そして、今回のことになる。 - 19二次元好きの匿名さん25/10/21(火) 23:26:21
(ご覧くださる方ありがとうございます。スレを落としてしまわないようにちびちび上げるので、読みづらいかと思います。ご容赦くださいませ)
(この後子供が痛い目をみるシーンが出てきます。当該シーンになったら告知しますが、苦手な方ご注意ください) - 20二次元好きの匿名さん25/10/22(水) 06:57:46
■■■
ブルーコスモスと言う組織の実態は、今はもうよくわからない。コーディネーター憎し極まって、もうナチュラルとコーディネーターの区別なんてどうでもいいんじゃないだろうか。
そんな狂っているとしか思えない集団が、何故か今、力を盛り返している。
けれどそこに秩序(コスモス)とやらは存在しない。もはや名前だけ使ったテロ組織だって数え切れないほど増えた。
今回通報が入ったのは、そう言った意味では「古き良きブルーコスモス」と言ったところだろうか。由緒正しきお家柄の男が怪しい連中を集めている、武器商人にやたらとお声がかかる、非合法の奴隷商から何人も奴隷を買い上げている。
そしてとうとう無視できない『武力』にまで手を出した。
赤道に近い砂漠地帯に古びた軍事施設の跡地がある。廃棄が宣言されている場所にもかかわらず、人種も年齢もばらばらな人々であふれている。
武装組織なら当たり前かもだが、やけに包帯の怪我人が多い。
中には手枷をつけられたままの人もいる。奴隷として扱われた人なのだろう。国際倫理に基づいて一刻も早い解放が願われる。
制圧はあっと言う間だった。リーダーとおぼしき由緒正しきお坊ちゃんが不在だからか、一部の暴徒以外は大人しく投降してくれたからだ。 - 21二次元好きの匿名さん25/10/22(水) 12:50:49
中庭にあたる場所に、問題となる「武力」が並べられている。
10年は前の、旧型のMA。
「……これ、大気圏内で使えるもん?」
バランス悪くガンバレルが積まれたバクゥが何機も、四つ足を揃えていい子にしている。
その隣に整列していると、戦闘機型MAも鳥のように感じるのが不思議だ。
「見た目ガンバレルだけど、どうもガワだけっぽいぞ。中になんかつまってる。手榴弾かなんかかもしれん」
調査中のエンジニアが答えた。
「手榴弾て……うそだろ」
「この辺の紛争地帯だったら、まだまだ現役で使ってる装備だよ。地雷とかもな」
足下気をつけろよ、と指差しながら教えてくれた彼は、現地のナチュラルなのだろう。
地雷か。
基地周辺の、いやに均された地面はそう言う訳か。
怪我人の多さも納得が行く。
対戦車地雷とかなら、MSにもダメージ入るだろうか。よろめくくらいはするかな。
ふと、一人の少年が目についた。
十歳になるかならないかくらいの、灰色のパイロットスーツ少年兵が、ふらふらと人混みを避けながら歩いている。
いや、年齢問わずったっていくらなんでも。見境なさすぎないか。
拘束されてないってことは、テロリストじゃなくて現地協力者の方か。
気になって、シンは声をかけた。 - 22二次元好きの匿名さん25/10/22(水) 19:20:04
(話がお労しい方向に行きそうだから軌道修正のために戦闘用コーディネーター調べ直してたらクルクルシュピンと言う言葉に行き当たってしまい脳内でレイがずっとクルクルシュピンしている助けて)
- 23二次元好きの匿名さん25/10/22(水) 19:49:52
本人なら絶対しなさそうなクルクルシュピンやん
ええぞもっとやらせろ - 24二次元好きの匿名さん25/10/22(水) 22:41:10
「おーい、そこの君……」
ちらりと振り返った黒髪の少年はもしゃもしゃ頭で、前髪が鼻まで隠していた。
呼びかけるシンに気づいた途端に、逃げるように走り出す。
「あ、ちょっと……!」
仕方なく、シンもその後を追った。夕刻になりかけの、空がオレンジを帯び始める時間。
なかなか足の速い少年を追って、一つの建物に飛び込んだ。違和感。外からは掘っ立て小屋に見えたのに、やけに重いエンジン音が響いている。
案の定、地下室がある。嫌な予感がする。もう二つ三つ罪状乗せられるかもな。
降りた先は照明に明るく照らされていた。シンがようやく背を伸ばして立てるくらいの天井の低さ。むき出しのコンクリートで固められた部屋は、ある意味予想通りのものが設置され、ある意味予想外のものが並べられていた。
「骨……?」
部屋の中央、上下を機械につながれた人間大サイズの円筒形の水槽。これが予想通りのもの。
予想外のものはその周囲。足の踏み場もないほどに敷き詰められている白い骨だ。目立つのは角つきの、多分牛の頭蓋骨。足の骨。あばら骨。
決して乱雑に放り出されているのではなく、ところどころ積み上げてあったり、何らかの規則に従っている。 - 25二次元好きの匿名さん25/10/23(木) 04:40:22
「まじゅつのぎしき」
水槽の陰から顔を出した少年が言った。
「は?まじゅつ……魔術?」
「ごしゅじんさまは まじゅつし」
至極真面目に少年が頷く。
「きみ、何言ってんの」
「なにが?」
最初は何をふざけているのかと思った。が、そう言えば、まだそう言った文化が残っている地域もある。この辺りもそれに該当する。
かつてコーディネーターが台頭した時期に衰退し、その後コーディネーターを危険視する風潮や疫病への恐怖から勢いを取り戻したスピリチュアルな風習は、この所また趨勢を究めている。
実際に魔術師を名乗る人間がいて、この少年はそれを伝えているにすぎないのだ。
にしても、ご主人様ね。
……この子は現地協力者じゃないな。
シンはわずかに目を細めた。
コンパスと協力関係にある組織が、子供に従属を強いるような言葉を使わせるはずがない。
何のために、シンをここへ招き入れたか。少年の腰にはサバイバルナイフの鞘がある。 - 26二次元好きの匿名さん25/10/23(木) 12:03:03
警戒しながら、水槽に目を向ける。
胎児が浮いていた。
もう大体人間に見える。ぎゅっと閉じた瞳、ぎゅっと握った指。
地上ではコーディネーターは生まれない事になっている。ならばこれはナチュラルの子か。
流線を用いた柔らかいデザインの機械。額縁を思わせるようなの装飾は大体ファウンデーション製だ。
メーカーロゴを探していて、ふと小さな液晶画面に目が吸い寄せられた。
表示されているのは水温、胎児の体温、心拍、そして何桁かの数字。
その数列に覚えがある。
心臓が嫌な音を立てた。
数字の一致なんて、よくある偶然ではないのか。
だけど
それがつけられたのが胎児なのが、何故か無視できない。
「なんで、こんな所に……」
ザフトに、プラントに回収されたんじゃなかったのか。
「……ほんとうだった。しっているのか」
感嘆の声を少年がこぼした。
「知っている……って、何を」
「これ」
指差す先は、胎児。 - 27二次元好きの匿名さん25/10/23(木) 19:11:50
「これがなにか、しってるんだな」
口元が嬉しそうにつり上がっていて。
「君はなにを……うわ!」
出し抜けにナイフが突きつけられた。抜くスピードが、異様に速かった。
(戦闘用コーディネーター!?)
ブルーコスモスがそういう者を運用していたのは知っている。
「……こーでぃねーたーはほろぼすべきだ。だからこうげきしていい。よし。あおきせいじょうなうちゅーのために」
「ちょ、ちょっとま」
シンが着ているのはコンパスのパイロットスーツだから、サバイバルナイフくらいで傷がつくことはまずない。だからと言って、無防備に受けてやろうとは思えない。
背丈ギリギリの部屋の高さがまずい。動きが制限されてしまう。
ナイフを取り上げようと手を伸ばせば、上手に躱して一歩二歩下がる。向こうの動きは楽そうだ。
「こーでぃねーたーはこうげきしていい。こーでぃねーたーはこうげきしていい。こーでぃねーたーはこうげきしていい……」
ぶんぶんナイフを振り抜くたびに、呪文の様に口にする。次第にシンも気づいた。彼が狙っているのは、シンではない。
水槽に背中がぶつかる。それを待ち構えていた様に少年がナイフを振りかざした。シンにめがける様に見せかけて。
「こーでぃねーたーがいたからしかたない!」
その切っ先を、水槽にぶち込んだ。 - 28二次元好きの匿名さん25/10/23(木) 23:00:52
激しい破裂音。
水圧に耐えられず広がる亀裂は即座に破片となって、水とともに降り注ぐ。
「うわ」
生暖かい水を背後から浴びて、シンは思わず目を瞑る。ヘルメットは被っていなかった。ダイレクトにびしょ濡れになる。
視界の隅に、水槽の中に手を伸ばす少年が映った。指先には、羊水を失ったうつろの中にコードでぶら下がる赤ん坊。
少年は一度、そっと赤ん坊を優しい手つきで受け止め、そのまま抱きしめた。
思いがけない行動だった。
ぽたぽたと水滴が、彼のずぶ濡れの頭に落ちる。
なのに、次の瞬間。少年が赤ん坊に向けてナイフを振り上げた。
咄嗟にシンは赤ん坊を取り上げた。
ナイフはコードとへその緒を断ち切った。濡れた床と散らばる骨に足を取られ、よろめいて思わず膝をつく。
「何やってんだよお前!」
「こーでぃねーたーはころしていい」
「そうじゃなくて……」
コーディネーターもナチュラルも関係なく。命を、ましてや抵抗も出来ない弱い者の命を奪うなんて駄目だ。
そう言って、この少年に通じるのか?
逡巡する頭の別の所で彼の言葉で確信と落胆をする。
……コーディネーターなのか、この子は。
やっぱり、そうなのか。 - 29二次元好きの匿名さん25/10/24(金) 07:54:16
シンの表情が歪むのを、少年がじっと窺っている。
「でゅらんだるしぼうのほうがでてすぐ、かくちのちょうほういんがかれのけんきゅうじょをしらべたそうだ」
たどたどしい声で、何か書いたものを読み上げるように少年が呟いた。
「とうけつはいをはっけんしててにいれたのはふぁうんでーしょんだった。でゅらんだるがたったひとつのこしたせいたいさんぷるだから、きっとなにかじゅうだいなひみつがかくされているにちがいないと」
それは、 議長の希望で、レイの絶望だ。とても大切な。
けれど、他人には何の意味もない。
「だけどそれは、ただのこーでぃねーたーはいだった。かれらのきたいするとくべつないでんしはいれつなんかふくまれてなかった」
「なんのせいかもなくて、はらをたてて、けんさようにふやしたぶんもまとめて、ぶるーこすもすにうりはらった」
はあ、とひとつ息を吐く少年の前髪が揺れて、雫が落ちた。
くしゃくしゃだった髪が濡れて、まっすぐに落ち、束になって顔にかかる。
隙間から見える吊り目がちの顔つきに、既視感がある。
「かったのは、ここのせんだいりーだーだ。いまよりもうすこしまともだった。たたかえるこーでぃねーたーならなんでもよかったと。でも、いまのごしゅじんさまはちがう。まじゅつしだから、まじゅつをつかうのにいけにえがいる」
ああ、うん。気づいてたよ。議長が死んですぐ解凍されたなら、このくらいの年齢になるよな。
黒髪なのは、コーディネーター処置で変化したのか?
「おれたちはながいきのくすりだから、せいれいがよろこぶ。おれたちをつかえばふろうちょうじゅもかなうそうだ」 - 30二次元好きの匿名さん25/10/24(金) 16:05:16
どこもかしこも人の業!
- 31二次元好きの匿名さん25/10/24(金) 16:26:24
「ちょっと黙れ」
片手を上げて、シンが制する。少年は素直に口を噤んだ。
雰囲気に飲まれていたけれど、今はそれどころではなかった。
「なんで、泣かない……?」
赤ん坊が静かだ。ぴくりともしない。拍動はあっても呼吸がない。気道が閉じたまま。
「おい、泣いてくれよ、頼む」
ドラマとかでは助産師さんが引っ叩いて泣かせているのを観たけれど、まさかそんな事は出来ない。
ゆるく背中を叩いて刺激する。痰を吐かせる時はどうしたっけ?ああ、体温も下げないようにしないと。
少年がきょとんと首をかしげる。
「なんだ、そのままでもしぬのか」
「死なせるか!」
とにかく呼吸。呼吸を確保しないと。
……数分後、ようやく頼りない産声を聞いた時には、シンは汗と涙でぐっちゃぐちゃになっていた。
正直だめかと思った。
一回は拍動も停止したのだ。
怖かった。
本当によかった。
ひいひいと泣く赤ん坊を腕に抱えて頭を撫でる。コードはいつの間にか外れていた。へその緒ってどうするんだろう。縛って切るとかだったような。 - 32二次元好きの匿名さん25/10/24(金) 20:09:33
赤ん坊次男が泣いてないことに気づいてからのシンが父親モードって感じで良いな
- 33二次元好きの匿名さん25/10/25(土) 00:00:38
少年は黙ってシンを見ている。手助けをしようともしなかったが、邪魔をしようともしなかった。
多少冷静になれば、頭も回る様になる。
「お前が俺をここに連れてきたのは、それを口実にあの人工子宮を壊すため、だな?」
シンが確認のために尋ねれば、ひょいと肩をすくめて見せた。
「おれはなちゅらるにさからえない。なちゅらるのざいさんはそこなえない」
そこでにやりと、悪い顔をする。
「でもさいゆうせんは、ぶるーこすもすのしんじょうだ。めっせよこーでぃねーたー。あおきせいじょうなうちゅーのために」
いやそんな事をコーディネーターにコーディネーターが言われても。
「ブルーコスモスの思考制御ってそんな、自分でどうにかしようとしたら出来るもんなのか?」
「どうにかしようとすればな」
「ええ……」
「どうにかしたいとおもうことが、ふつうはないんだ」 - 34二次元好きの匿名さん25/10/25(土) 07:22:23
「せいれいはいけにえのひめいをこのむらしい。だからなるべくながくくるしめてころす。それよりうまれるまえにしぬほうがくるしくない」
少年は、それが最善で当然だと言う表情だ。
その顔でそんなこと言うんじゃねえよとシンは腹立たしく思う。
「生贄なんて最初からさせなければいいだけだろ。逃げるとか、逃がすとか、あるだろ」
「……おもわないな。なるほど、とうそうぼうしのしこうせいぎょか。おれはそっちをかんがえられないようになってる」
少し考えてから答える少年の声は驚いている。
逃がすためには、殺すしか思いつかなかったのか。
「ちょっとまってくれ。へりくつでもいいからりくつをつけてなっとくしないとあんじがはずれない」
「逆暗示で解除してるのか」
「いちじてきだけどな」 - 35二次元好きの匿名さん25/10/25(土) 12:04:41
「……いらないよ、理屈なんて」
ぶつぶつと口の中で何か呟き始めた少年に、立ち上がりながらシンが言う。
「うん?」
「誘拐される方に理屈なんて関係ないだろ」
パイロットスーツを胸まで開けて、すっぽり収まるように赤ん坊を入れる。少しは保温になるだろう。
「この子は襲撃してきた敵対勢力に誘拐されました。おしまい」
スーツの上からぽんぽんと叩く。
「お前じゃ俺を止められないだろ?仕方ないことだ」
「たしかに。ふかこうりょくだな。そうか、つれていくのか」
子どもにしては恐ろしく強い、けど、子どもにしては、だ。
エースパイロットと勝負になるか。
「それで、どうするんだ。どこかにうるのか。たいしたかねにはならないだろうが、なるべくこどもにやさしいところにたのむ。そだつまではいちにちいっかいでもたべさせてくれるところだとありがたい」
「それ虐待ですよね???」
「このへんではふつうだな」
経済的に苦しい地域だと、そうなってしまうのだろうか。しまうのだろうな。オーブ生まれオーブ育ちプラント在住のシンにはなかなか理解しにくい。 - 36二次元好きの匿名さん25/10/25(土) 13:27:17
「うちは三食食べられるから安心しろよ」
「おまえがやとうのか。かせげるまでだいぶかかるぞ。いいのか」
「稼がせねえよ。俺が稼ぎをがんばって増やすだけだよ」
「?」
怪訝そうな顔で見上げてくる少年。
「うちの子にします」
「は」
少年は目を見開いて固まった。いたずらが成功した心持ちでシンは笑った。
「うち、子どもいるし。でも俺たち夫婦が第2世代だからさ、多分これ以上は望めない。兄弟ほしがってるから、丁度いいや……ルナ、奥さんには土下座で頼むから大丈夫!……多分!」
「おひとよしか」 - 37二次元好きの匿名さん25/10/25(土) 18:55:02
「なんのめりっとがある。おまえになんのたしにもならないぞ」
だからやめておけ。シンは少年に本気で止められた。
彼が心配しているのは偏にシンの懐具合である。これでもけっこう高給取りなんだけどな?
空は大分暗くなっていた。
建物を出て、並んで歩いている。コンパスの艦船とは別方向に。
シンのトラウマのせいだ。
どうしてももう、敵の捕虜とかの事では、自軍を頼る気になれない。
「メリット……メリットねぇ。利益って考えたら、そりゃないかもしれないけど、デメリットになることは、山程ある」
数えるために上げた手を少年が横目で追った。
「この子を他に預けたとして、相手がどんないい人でも、この子の事が心配で何も手につかなくなる。俺はどうしてもそばで守りたいタイプだからな。デメリットだろ」
「……???」
「ああ、同じ事みたいだけど、守るものが増えるのは俺にはメリットだな。頑張る理由が増えたらそれだけ頑張れる」
「りかいふのうだ、けつえんでもなし」
「懐いてくれたら可愛いぞー」
「あかんぼうなんてくしゃくしゃじゃないか。かわいくはない」
くしゃくしゃなのはさっき生まれたばかりの赤ん坊だからで、何日かして目が開いたらめちゃくちゃ可愛くなるだろう。ていうか赤ん坊の可愛さ補正抜きにしても、お前ら顔の良さは保証されてるぞ羨ましいくらいだね! - 38二次元好きの匿名さん25/10/25(土) 20:00:34
- 39二次元好きの匿名さん25/10/25(土) 21:58:20
「お前、自分が薬だって言われて、嫌だったか?」
「べつに」
抑揚のない答えからは、それが本心かどうかはわからない。
風が強くなってきた。少年の乾きかけの前髪を、跳ね上げて過ぎていく。
瞳の色も、記憶の薄青とは違う。
「俺の友達が前に言ったことなんだけどさ」
感傷につられて、口を開いた。記憶の中の言葉はまだ重くて、いつもは話せやしないのに。
「どんな命でも、生きられるなら生きたいだろうって」
ああそうか。似たようなことの繰り返しを、今しているのか。
逃がしたい子供と逃がされる子供。受け取る大人。時代は繰り返す。
あっそう思ったらぶり返しで腹たってきた。帰ったらフラガさん殴ろうそうしよう絶対に。
「俺は言われた時嬉しかったんだけど、この言葉にはとんだケチがついてた。言った本人が、自分を勘定にいれてなかったんだよなあ」
これに限らず、レイの言葉には最後にみんな「まあ、俺には関係ないけどね」が付くのだ。
「明日があるということだから」にも「祈って明日を待つだけだ」にも「俺には関係ないことだけど、みんなにはそうだよね」だったのだ。
ちくしょう。
「そいつが、お前を薬にするやつだった」
ぴたりと少年が足を止めた。一歩進んだシンが振り向くと、穴が空くほどにこちらを見つめている。 - 40二次元好きの匿名さん25/10/25(土) 22:04:28
(早くサランラップの芯を腰に当てて「ぶらすとしるえっと!けるべろしゅ!」とかやって遊ぶ兄弟のターンにたどり着きたいですね…)
- 41二次元好きの匿名さん25/10/26(日) 05:35:34
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- 42二次元好きの匿名さん25/10/26(日) 09:27:40
やっぱり、アイデンティティではあるよな。
何のために生まれたのか。
買われた戦闘用よりは、誰かのために生まれたのだと思う方が嬉しかったか。
シンの口元に浮かんだ笑みは苦い。
「だけど、望まなかったんだってさ。自分のために命を作るなんて。そいつは、自分が作られた命だってことで、すごく苦しんでたから」
精神的にも、肉体的にも。
俯いた少年の口元が、ぎゅっと引き結ばれた。少しだけ寂しそうな声で、ぽとりと呟く。
「いらなかったか、おれは」
「そうだなあ……。お前がこの子を殺してでも逃がそうとしたことが、いらないって事ならそうかもな」
分かっていて、シンはわざといじわるを言った。レイが彼を望まなかったことを、不要だからなんて思われたくないので。
ぱっと頭を上げた少年は、わたわたと慌てて首を振る。
「いらな、かった、わけでは」
「わかってるよ。そもそも誰かが要るとか誰に要らないとか、生まれる方には関係ないもんな。お前は何も背負わなくていい」 - 43二次元好きの匿名さん25/10/26(日) 10:55:10
- 44二次元好きの匿名さん25/10/26(日) 17:05:26
- 45二次元好きの匿名さん25/10/26(日) 21:02:06
生まれるか生まれないかの選択肢は、自分にはない。それでも生まれた。この世界に。
「俺は、どんな命でも、生まれたんならおめでとうって言ってやりたい」
親友の言葉を借りるなら、それが一番しっくり来る。
祝福だけあびて、歩いてけ。
いい事があるなんて言えない世界だけど。きっと大事なものは見つかる。
その時ちゃんと掴めるように、余計なものは何も持つな。
「おめでとう」
少年は息を止めてシンを見ていた。開いた瞳の表面が、じわりと揺らいだ。
「……それは、はじめていわれたな」
ぽろりとこぼれた涙を見送って、ため息のような声で言う。
「そうか?これからは沢山俺が言うよ」
手のひらの中の最初の一つに、なったらいいなと思う。 - 46二次元好きの匿名さん25/10/26(日) 21:04:31
- 47二次元好きの匿名さん25/10/26(日) 21:11:21
「は、はは、ははは」
少年の笑い声は、どうも棒読みじみている。笑い慣れてないと言うか、笑うのが下手と言うか。
拳で目頭をちょっと擦って、シンを見上げた時にはもう涙の跡は見当たらなかった。
「わかった。そいつはおまえにまかせる。まだなんのちょうせいもされてないはずだから、ふつうのこーでぃねーたーでとおるとおもう。かせげるようになったら、かねはおくるから、むりはするなよ」
どうもやっぱりこいつはシンの収入を信じていない。心配いらないんだけどな。
というかね。
「違うよバカ、お前もだよ」
「は」
「お前もうちの子になるんだよ、おにいちゃん」
「いやおひとよしか」 - 48二次元好きの匿名さん25/10/26(日) 22:25:43
(いまさっき「規制されています」を初めて見ました怖かったです)
(これからしばらくテロ組織内部の内輪もめの回想をします。少年と呼ばれてるキャラが痛い思いをしたり、名もなきモブが●されているんだと言う描写があります。苦手な方はご注意ください) - 49二次元好きの匿名さん25/10/26(日) 22:33:25
■■■
組織では、戦闘用のコーディネーターは「武装」と言う扱いだった。
武器をわざわざぞんざいに扱う兵士はいない。可愛がられたとは思わないが、粗末にされた覚えもない。
誘拐されたり買われたりしてきた他の子供と同じように。
食わされて、寝かされて、教えられて、戦って。
ミルメコレオと呼ばれ始めたのは、地雷原に入っても、自分が死ななかったから。
何故か地雷がどこにあるか、どんな地雷かがわかるのだ。
それを利用して敵をハメたり、撤去ドローンを使ったりしていたらいつの間にか「アリジゴク」の名をつけられた。
結構重宝されていた。
前のリーダーが死ぬまでは。
信心深かったリーダーは、魔術師の男を珍重していた。その男の占いや祈願を実際のデータよりもありがたがる。
リーダーか死んだらその魔術師が跡を継いだ。
狂っていったのはそのあとだ。
魔術師はコーディネーターを嫌っていて、最初は部隊にいる自分たちを「片付け」ようとした。
守ってくれたのは一緒に前線に出る仲間の兵士だった。身内のコーディネーターは、敵ではないと。
もうこの辺でブルーコスモスとして間違っているけれど、傭兵たちにはお題目はどうでも良かったのだ。
一度は助かったけれど、魔術師がメンバーを入れ替えていく。新しいやつらは弱い立場のコーディネーターと見るや殴り飛ばすような連中で、生傷が絶えなくなった。
それだけならまだ良かった。
そいつらは、ナチュラルを殺すのだ。
近隣の村から攫ってこられた娘や、奴隷商で売っていたアルビノの青年。殺される理由のないはずの、守られるべきナチュラルが。
自分たちが仕えるべきだったはずのナチュラルに。 - 50二次元好きの匿名さん25/10/26(日) 23:45:44
以前は強固な仲間意識として作用した従属思考が、二律背反で剥がれ始める。
その軋轢で戦えなくなる仲間は、容赦なく捨て駒にされた。
自分ともう一人の仲間が残されたのは、単に自分たちが子供だから、彼らにとって脅威ではなく、都合のいい使いっ走りだったからだ。
そう言う風に見せかけるくらいの知恵はあった。
その頃から、眠ると夢を見るようになった。
夢に出てくるのは知らない男だ。
いつもニヤニヤしている。
暗示を解く方法も、したい事を出来る様に自分で自分を誘導する方法も、その男が教えてくれた。
ある日、埃をかぶっていた人工子宮が倉庫から引き出された。
冷凍庫の奥で忘れられていた凍結胚もだ。
在庫整理をしていた連中が、前リーダーの遺産を見つけたらしい。
古い帳簿データを見た自称魔術師は手を打って喜んでいた。
そして呼び出された自分は気絶するまで血を取られた。
夢の男が教えてくれた。
あの凍結胚は自分なのだと。
受精卵が細胞分裂を始めたところで分割すると、それぞれが1人になるのだと。
それを受精卵クローンと言う。
自分だけ先に解凍されて、他は冷凍のまま眠っていたのだ。
採られた血は床に模様を描くことに使われたらしい。
いつもだったらニワトリの首をはねてやることだ。
自分の首が本当につながっているか、思わず触って確かめた。 - 51二次元好きの匿名さん25/10/27(月) 06:32:42
血と骨で飾られた人工子宮。スピリチュアルも極まるとグロテスクでしかない。コズミック・イラは原始宗教に敗北した。
自称魔術師が大喜びしたことには、自分たちは誰か特定の人間を助けるための存在らしい。
精霊はそんな特別な使命を持つ者が大好きだ。
これを捧げればどんな願いも叶うだろう。
不老長寿だって夢ではない。
本当に叶うのか、夢で男に聞いたところ大笑いをかまされた。いやもう本当大笑いだった。楽しそうで何よりだと思わず思ってしまった程に。
ひとしきり笑いまくった後に、今度はひどく冷たい笑顔で魔術師を如何に苦しめて殺すかを指示されて、こちらの心臓が危うく止まるところだった。怖かったとかではなく、実際そんなこと考えたら自傷に走る事になっている。
最後には、気にしなくてもいいと言われた。成功率が高くないそうだ。長期間の冷凍で傷ついている胚、型落ちの人工子宮、本職が居るわけではない環境、全てが失敗を示唆していると。
男の言った通り、人工子宮に放たれた胚が育つことはなかった。一回二回と繰り返す失敗に、これなら大丈夫と安堵する。
最後の1個まで失敗したら、使われるのはきっと自分になる。
その時にどうするか、男と一緒に考える。
下準備を着々と進めた。
ところが。
最後の1個は、生き残ってしまったのだ。
元気に分裂して可視大まで育ち、手足を伸ばして尻尾が消える。体感時間ではみるみる内に、人間ぽくなってしまった。
これじゃもう1個じゃない。1人だ。人になったら、生贄に使われる。 - 52二次元好きの匿名さん25/10/27(月) 12:56:22
仲間は元々殺されていくナチュラルの事に憤っていた。
そんな仲間に、洗脳を解く方法を教えていた。自分としてはちょっとした秘密の共有くらいのつもりだった。
なのに、一体どうやったのか。仲間はいなくなり、通報がされ、世界機構の監査がやってくる。
どうしよう。
直接じゃないにしろ、地雷利用で他の組織を部隊ごと壊滅させたことがある。捕まったら殺される。
最後のあの子はどうなるんだろう。
不安に思っていたはずなのに、いつの間にか寝落ちていたらしい。
夢の中に男がいる。
必死に訴えた気がする。
あの子が生まれる前に殺さなきゃ。
苦しい思いをさせられて殺されるのは可哀想だ。
国際組織が入るんだろう。何をそんなに心配している。
男は呆れた声で言う。
俺達を捕まえに来たんだろう?捕まったら組織と比じゃないくらい酷い拷問を受けて殺される。あの子だって、見つかったら。
誰に聞いたんだ、それを。
? 当たり前のことだろう。
……なるほど、情報の歪曲と偏重か。
男は勝手に納得する。そしてニヤリと口元をゆがめる。
何故だろう、男の目元が白くぼやけた気がした。 - 53二次元好きの匿名さん25/10/27(月) 13:05:06
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- 54二次元好きの匿名さん25/10/27(月) 13:07:44
主人の財産を損ないたいなら他者を利用すればいい。
コーディネーターなら、いくらお前が攻撃しようと咎められない。
お人好しを一人紹介してやろう。
お前たちの事情も知っている。
目を覚まして飛び起きる。男に言われた赤いパイロットスーツを探すために、小屋を飛び出した。
だからあの金髪の男が、目覚める瞬間に言った言葉を、少年はちゃんと聞いていない。
――あの男の前で、殺させてもらえるものならな - 55二次元好きの匿名さん25/10/27(月) 20:26:12
■■■
「おれがぷらんとにいったらだいさんじだぞ」
滅せよコーディネーターがモットーの少年は、とてもジト目でそう言った。
シンとしては本気で連れて帰るつもりだったが、散歩を嫌がる柴犬の如き抵抗をされた。
逆暗示が効いてる今こそシンと普通に喋っているが、うっかり暗示を切らしたらそこら中のコーディネーターに襲いかかることになるらしい。
「みためのこともあるしな」
「そんな目立たないと思うけどなあ」
片方の眼球にシリアルコードがプリントされていて、見る人が見ればブルーコスモスのコーディネーターなのは一目瞭然であるらしい。
「そいつのことはおまえにまかせるといったが、おれのことまでまかせるつもりはないぞ」
「でもさぁ」
「すくなくとも、なちゅらるばかりのちじょうなら、おれはむさべつこうげきのかがいしゃにならずにすむからな」
自分の言葉に頷いてみせる少年が、ぴくりと顔をあげ、笑んだ。
呼びかけの声が近づいてくる。
「おーーい!2号ーー!」 - 56二次元好きの匿名さん25/10/27(月) 23:00:39
「いちごう」
振り返ると、少年と揃いのパイロットスーツを着た、同じ年頃の少年が走ってくる。
……1号?2号??
訝しんでいる間に、1号と呼ばれた方が、2号と呼ばれた方に飛びついた。
「お前どこ行ってたんだよ!ホネ部屋かと思ったらいないし、赤ん坊もいないし、間に合わなかったかと思って俺……!」
「すまないいちごう。かえってこられたんだな。おまえがぶじでよかった」
手を取り合って、二人は無事を喜びあう。その和気藹々とした様子は、なんだかアカデミー時代の仲間たちを彷彿とさせる。
「……それで2号、そちらのお方は」
「だいじょうぶだいちごう、いいか、『やくにたつこーでぃねーたーはいきてていい』」
「『役に立つコーディネーターは生きてていい』なるほど、全部を殺す必要はないな。勝てなそうだし」
前言撤回、話の内容はとても物騒だった。
「……そういうことだから、おれのことはしんぱいしないでくれ。ごらんのとおりなかまもいる」
「チーッス」
「うわ軽」 - 57二次元好きの匿名さん25/10/27(月) 23:56:38
1号は軽く手を挙げて挨拶を寄越す。語彙が多い割に喋りがたどたどしい2号と比べて、口調は滑らかだし世慣れた雰囲気がある。
けれど。
なるほど、こいつらをプラントに連れて行く訳にはいかないな。
シンに気づいた瞬間の、底冷えをする殺気をまとった視線。
それが洗脳によるもので、ある程度自分たちでコントロール出来てしまっているからこそ、何かのきっかけでコントロールを失った時の被害が見当もつかない。
一般市民のコーディネーターと戦闘用に調整されて訓練を受けたコーディネーターでは、どちらに軍配が上がるのか。いくら子供であるとは言え。
「後見人欄には俺の名前を入れろよ。それが地上で暮らす事を俺が飲む条件だ」
「かたくなだな」
「は?後見人?」
そっとため息を吐く2号と怪訝な顔をする1号。
本当はこの地域から引き上げさせたいが、当然シンにそんな権限はない。
せめて命綱として、国際組織所属の人間の名をつけておけば、ひどい扱いは受けないだろう。
「カウンセリングは受けろよ」
「そうだな。きがむいたらな」
「……ところであの、呼び名の1号2号って言うのは」
「ここに来た順番ッスね。呼び名として機能してるんで自分らには不便ないッス」
「きにするなおれたちはきにしてない」 - 58二次元好きの匿名さん25/10/28(火) 06:19:59
■■■
一方的に連絡先を渡すと、二人とはそこで別れた。他の捕虜と合流するのだと言う。
シンはそのままジャンク屋を訪ねた。
ギルドから、集団が派遣されて随伴しているのだ。
戦闘が起こることを想定して、金目のものをいち早く回収するためである。
そういう意味では、今回の仕事はジャンク屋達に旨味がなかった。
壊れていないMAは武器である。武器をそのまま民間に払い下げることはない。
遠出の甲斐もないと言うものだ。
簡易テントの戸口には、何故か暖簾がかかっている。
それをめくると、折りたたみ机で何かの端末を操作している女性と目が合う。周辺には雑多な何かのパーツが積み上がり、奥の方では焚き火台を囲んで何人かが談笑していた。
「あら、いらっしゃい?」
「あ、どうも……あの」
褐色肌の女性はにっこりと笑う。鼻と唇にピアスが入っている。唇には肌から浮き立つようなほの白いルージュ。白くてもルージュって言うんだろうか。謎。
「保育器ってありますか?大気圏脱出に耐えられそうなやつ」
このくらいの、と赤ん坊を見せながらシンが言う。
女性の笑顔が固まった。 - 59二次元好きの匿名さん25/10/28(火) 12:33:17
驚いたことには、この集団の構成員の半分が女性だった。
「あんた何でこんなところに赤ん坊!へその緒!?」
受付の女性が悲鳴をあげた瞬間、各所の暖簾が跳ね上がった。
飛び出してきたのは女性ばかりで、その目が血走っていた。
シンは女性たちに囲まれて、自分は決して誘拐犯ではないのだと、必死の自己弁護に勤しまねばならなかった。
オーブやプラントではない場所で、未成年の略取や誘拐がどれほど警戒されているのか。骨身に染みて理解したのは初めてかもしれない。
シンの吊し上げに加わらなかった女性たちは、手早く赤ん坊を湯浴みさせて、きれいな布で包んでくれた。使い捨てのおむつもくれたが、赤ん坊が小さすぎてサイズが合わなかった。
さらに、乳飲み子を抱えていた母親を呼んできてお乳も含ませてくれた。至れり尽くせりである。
ギルド随伴者に寡婦が多いのだ。
正規軍に随伴するのは、危険ではあるが、それでも危険度としては低い案件であるらしい。
また細々とした雑務も手間賃を稼ぐ手段となって、女性人気のある仕事となるようだ。
暇を持て余していたおっさんたちは、降って湧いた暇つぶしに欣喜雀躍していた。
あのパーツが使える、いやこっちはどうだ、耐衝撃の数値的には、基本は保湿と保温でいいよな?
そりゃ確かに欲しいと言ったのはシンだが、まさか一から作り出すとは思わなかったし、宇宙ゴマチックなデザインで無重力対応もまかせとけ!とか言われるとは思わなかった。
ところで代金はと尋ねたところ、にやりと笑った爺さんの一人が『あの赤ん坊作った人工子宮の在り処を教えろ。それでチャラにしてやらぁ。どうせ違法の品だろう?』と言ったので、驚きで心臓止まるかと思った。
出産直後の産湯も使わない赤ん坊が血に塗れてないなら、それはそういう事だろうとなるらしい。
壊れていても構わないと言うので、教えておいた。骨については、説明が難しくて黙っていることにした。 - 60二次元好きの匿名さん25/10/28(火) 19:34:53
時刻はすっかり夜になっていた。
膝丈ほどの何かのパーツに、シンはよろよろ腰を下ろした。
必死の言い訳とは疲れるものである。
腕の中で赤ん坊はすやすやと眠っている。重みと温もりが愛おしい。
各ジャンク屋は煌煌と照明を照らし、キンキンガンガンと何かの作業を進めている。
視界の隅で、光が走った。
何事か理解する前に赤ん坊を抱き込んだ。
次に腹に響く低音。それから地面を揺さぶる衝撃。
爆発音。
とは言え、それは遠くで起こったことのようで。足元の揺れも少しよろめく程度、吹き付けた風の熱もここまでは届かなかった。
夜空にもくもくと爆煙が広がる。
「あーあ、誰かが地雷踏んだな。捕まってるやつでも逃げ出したんかね」
ハンマーを振るっていた爺さんが手を止めて言う。
地雷か。
周辺の地雷源だったらもっと衝撃が来ただろう。上手く逃げ出したのに、その先で踏んだのか。
運のないやつだな。
冷たくそう思ってしまうのは、今逃げたと言うことはここで違法行為を働いていたやつだろうなと思うから。
「おう、兄ちゃんちょっと見てくれ。こんなんでどうよ?」
「あっ、はい!ありがとうございます!」 - 61二次元好きの匿名さん25/10/28(火) 19:35:03
支援
- 62二次元好きの匿名さん25/10/28(火) 23:08:28
■■■
爆発音が響いてきた。
捕虜が収容されている建物の片隅。
心臓がぎゅうと竦み上がる感覚。湧き上がる罪悪感と自罰願望。
手が勝手に腰に提げたナイフを探る。
その手を1号が押さえつけ、握りしめた。
「いいか2号、あれは『ナチュラルの敵』だ」
「……」
「『ナチュラルの敵』が、お前のメモを『勝手に見た』だけだ。そうだろ?」
周りに聞こえないように、前を向いたまま。1号が小さな声で囁く。
吐息だけで、2号も答えた。
「……ああ、そうだな。あれは、ただの、おれのめもだ」
バクゥは。
あのバクゥは、2号の機体だった。ガンバレルに見せかけたタンクの中身は、爆薬を載せた複数の小型ドローンだ。本当に小さな、手のひら大の。
それをあらかじめ決められた場所で放つ。そうすると、周辺に埋没した地雷の上で爆発して、誘爆を促す。
その起点の場所を、機体のメモリに残してあった。
そこに至るまでの地雷の位置も記して。 - 63二次元好きの匿名さん25/10/29(水) 06:08:56
本当は、リーダーはこの集落の中に隠れていた。いつの間にか姿を消していたから、ご自慢の精霊とやらも馬鹿にしたものではないかもしれない。
けれど、いわゆる玄関口には正規軍が陣取ってしまった。そこ以外の一面に、地雷を埋めさせたのは自分の指示だ。
逃亡を図るには、地雷原を歩ける2号が必要なはずだ。てっきり同行を命じられると思っていたが、来なかった。
代わりにさっき騒ぎが起こった。広場にあった押収MAが盗まれたと。
メモの存在は知っているはずだ。尋ねられれば、2号は誰にでも見せていた。
ほんの少しの錯誤を重ねて、最終的には集落から充分離れたところで、バクゥの一歩分のズレが起きるような。そんなメモ。
わざとではない。自分用のメモだから、自分にしかわからないようにしてあっただけだ。他の人が見たら、もしかしたら勘違いをしてしまうかもしれないな。
そう、それだけだ。それだけの事。
2号の手を握る1号の手も、小刻みに震えている。
心の中でごめんなさいを繰り返す。
植え付けられているだけの、実体のない罪悪感だ。それなのに、逃れられずに押しつぶされそうだ。
こんな思いをするくらいなら、生まれて来なければ良かったのに。そんな思いがかすめる程に。 - 64二次元好きの匿名さん25/10/29(水) 12:43:28
――おめでとう
――あ。
「いちごう」
「……ん?どした」
「おめでとう」
「……なんだ?」
不可解の表情で、1号がこちらを振り向く。冷や汗が一筋頬を伝う。
「うまれたなら、どんないのちでも、しゅくふくされていいのだと、あいつが。だから」
掴まれていた手のひらを返して、握り返す。
「おれたちは」
あの男を殺したんじゃなくて。
「これからしぬひとを、たすけられたんだ」 - 65二次元好きの匿名さん25/10/29(水) 12:47:54
リーダーの男を逃がしたら、まだ沢山死なされた。
捕まえさせるべきだと言う人もいるかもしれない。
でもそうなっていたら、あの男は自分たちに逃がせと言ったに違いないのだ。
目の前で、曲解出来ない状態で命じられたら、自分たちはそれに応じざるを得ないのだ。
だから、これでよかったんだ。
だってもうあいつの道具でいたくないんだ。
心臓がどきどきと鳴っている。
高揚ではない。
自分が自分を騙そうとしていることを、自分は知っている。
1号は窺うような目で暫くこちらを眺めていたが、繋いでいるのと反対の手を、2号の後頭部に伸ばして抱きついた。
「そうだな。俺は、俺たちを許す」
「うん。ゆるそう」
自分たちだけは、自分たちを。