- 1二次元好きの匿名さん25/10/25(土) 19:54:57
「炭治郎…こんな雪の日まで無理しなくてもいいのに」
「正月も近いし…少しでも炭を売ってくるよ」
竈門葵枝から煤だらけの顔を拭ってもらった炭治郎は柔らかい笑みを浮かべた
「それに、母ちゃんも知ってるだろ?俺は昔から疲れを知らないし、力もずっと強い…だからみんなを楽にさせてあげたいだけなんだ」
「兄ちゃん!町に降りるの?」「私も行きたい!」
茂と花子が走って駆け寄ってきた
「ダメよ、炭治郎みたいに速く歩けないでしょ?」
葵枝がふたりを嗜める
「それに…この雪だと荷車も出せないのよ?疲れたからって休ませてもらうことも出来ないの」
結局炭治郎に飛びついて駄々を捏ねる弟妹の頭を優しく撫でて、炭治郎は目線を合わせるように膝をついた
「そうだね、俺がその気になればふたりを背負っても問題なく山を降りられる…けど今日はお留守番だ」
えー!っと残念そうな声を上げる花子と茂の背後に、竹雄の姿を見た炭治郎は彼に手招きをする
「竹雄、悪いけど出来る範囲で木を切っておいてくれ」
「それはやるけど…今日は一緒に出来ると思ってたのに…」
不満そうにする弟の頭を撫でて、炭治郎は笑う
「ごめんな?明日は一緒にやってやるから…」
「…それより、帰ったら今度こそ神楽を教えてよ」
「あはは!竹雄にはまだ早いよ」
「そんなことない!だって兄ちゃんは俺ぐらいの頃にはもう一晩中踊れてたって…」
幸せな日々、当たり前の生活
これがいつまでも続いていくはずだった
けど、そうじゃなかった
そうならなかった
『幸せが崩れる時はいつも…血の匂いがする』
参考スレ
[IF・閲覧注意]炭治郎が縁壱の転生体だった世界線|あにまん掲示板俺の額には生まれつき痣があったそうです確かに物心ついた頃から、疲れを感じたことはありませんでした父から学んだ神楽も、動きを覚えたその日のうちに一晩中…いや、余程嬉しかったのかそれ以上踊り続けていたと聞…bbs.animanch.com【if注意】禰󠄀豆子が原作より早く鬼化し夜の間に竈門家を離れ人喰い鬼となってしまった鬼滅でありそうな展開を妄想するスレ|あにまん掲示板なお、・近くに来ていた冨岡さんと遭遇 ・三郎じいさんの家を発見し炭治郎を56すといった展開は十分あり得るが話が終わってしまうので無しとするbbs.animanch.com - 2二次元好きの匿名さん25/10/25(土) 19:56:14
参考スレがもう不穏なんですが
- 3二次元好きの匿名さん25/10/25(土) 20:03:45
「お兄ちゃん!」
「禰豆子!」
山を降りる道すがら、炭治郎は末っ子の六太を背負う禰豆子とすれ違った
「六太を寝かしつけてたんだ…すごく騒いでたから」
禰豆子の背中でぐっすりと眠る六太の頭を、起こすことがないようにそっと撫でる
「お父さんが死んじゃってから…みんな寂しいんだよね」
そう話す禰豆子の顔も、やはりどこか悲しげだ
「みんなお兄ちゃんにくっついて回って…」
「禰豆子もみんなに遠慮しないで俺に甘えてもいいんだぞ?」
ぽんぽん、と妹の頭を軽く叩く
「その着物…ずっと着てるだろ?炭が売れたら新しいのを買ってやるよ」
「だ、大丈夫だよ!私はこれが好きで着ているだけだから…」
「禰豆子は女の子なんだ、ちゃんと綺麗にしないとダメだ」
にこり、と炭治郎は笑いかけた
「俺が禰豆子にしてやりたいんだ、だから遠慮しなくていいんだ」
じゃあ、と禰豆子は恥ずかしそうに口籠る
「あ、赤い羽織がいい!綺麗な赤色の…」
「わかった、じゃあ行ってくるから…みんなを頼んだよ?」
うん!と禰豆子は頷いた
手を振って姿が見えなくなったのを確認すると、炭治郎は深く息を吸い込む
ヒュウ、という特徴的な呼吸音…母ちゃんから言われるまで気づかなった呼吸法
それは、父炭十郎から学んだ神楽と呼吸法と同じものだった
雪を踏み締めた瞬間…炭治郎は風のように山を駆け下りた - 4二次元好きの匿名さん25/10/25(土) 20:11:39
「…結局遅くなっちゃったな」
はぁ、と炭治郎はため息をついた
頼られるとついつい応えずには居られない、悪い癖でもありいいところでもある
だがそのお陰なのか…背負ってきた炭は空っぽになっていた
「禰豆子…喜んでくれるかな…」
風呂敷から覗く赤色の羽織を見て、炭治郎は呟いた
仕事を手伝ってくれたからと呉服屋の主人が格安で渡してくれたのだった
「…でも、竹雄に茂に花子には小言を言われるかな」
約束していたのに、それも叶いそうにない
これだけ遅くなれば帰る頃にはみんな床についているだろう
山に差し掛かろうとした時、麓に住む三郎爺さんから声をかけられた
「おめぇ、こんな時間から山に帰るつもりか?」
「俺は鼻が利くから平気だよ!」
「いいから来い!泊めてやる!」
三郎爺さんが語気を強める
「鬼が出るぞ」 - 5二次元好きの匿名さん25/10/25(土) 20:20:09
「なぁ、三郎爺さん…鬼ってどんなだ?」
「昔から人喰い鬼は日が暮れると彷徨き出す…だから、夜歩き回るもんじゃねぇ」
床の準備をしながら、三郎爺さんは答えてくれた
「食ったら寝ろ、明日早起きして帰りゃいい」
「…鬼は、家の中には入ってこないのか?」
「いや、入ってくる」
ふぅ、と三郎爺さんは煙管の紫煙を吐き出して答えた
「じゃあ…みんな鬼に喰われちまう?」
「だから鬼狩り様が鬼を斬ってくれるんだ…昔からな」
カン!と煙管が火鉢に叩きつけられる小気味のいい音が響く
「…灯り消すぞ」
(三郎爺さん…家族が死んでからきっと寂しいんだろうな…)
瞳を閉じたまま、炭治郎は寝付くまで考えを巡らせていた
(…今度はみんなを連れて来るから怖がらなくても鬼なんかいないよ…大丈夫)
そういえば…と一瞬思考が覚醒する
「そういえば…うちの婆ちゃんも死ぬ前に同じ事言ってたな…」 - 6二次元好きの匿名さん25/10/25(土) 20:29:23
日が昇りかけた林に朝日が射し込んでいた
三郎爺さんに別れを告げてから、炭治郎は山をぐんぐんと進んでいた
「……ん?」
違和感を感じた
山から降りてくる空気の中に錆のような匂いが交じっていた…いや、違う…この匂いは…頭から、一気に血の気が引いた
速く、速く、家路を急ぐ炭治郎は『初めて』息が乱れるのを感じた
息苦しく、胸が張り裂けそうなほど痛む…これがみんなが話していた『疲れる』という感覚なのか
そんなことはどうでもいい、速く…速く!
炭治郎の視界にいつもの変わらぬ姿をした家屋が飛び込んだ
しかし、周囲は不気味なほどの静寂と血錆の匂いに包まれている
「母ちゃん?禰豆子?竹雄?花子?茂?六太…?」
恐る恐る、開きっぱなしの玄関を覗き込む
「あ…」
炭治郎の瞳に飛び込んできたのは、絶望だった
「あああああああああああああああああああっ!!!!」
辺り一面に散らばる血、肉片、臓物の一部、骨の欠片…家族だったものが、そこに転がっていた - 7二次元好きの匿名さん25/10/25(土) 20:38:17
それから、どれだけそうしていたのだろう
玄関で炭治郎はただただ座り込んでいた
「……生きているのは、おまえだけか?」
声が聞こえた気がした
「鬼の気配があると聞いて駆けつけたが…すまない、俺がもっと早く来ていれば…」
それでも反応しない自分が死んでいるのかと思った声の主に肩を叩かれて、炭治郎はようやく動いた
「僅かでも家族が残っているのなら、弔ってやれ…そうでないと、可哀想だ」
彼は…鬼狩りの剣士様は冨岡義勇と名乗った
彼から自分が10日以上もこうしていたであろうということ…そして、唯一着物と痕跡が見つからない妹の禰豆子は…
「禰豆子が…鬼に?」
最終的にこの惨劇を引き起こしたのが、妹の禰豆子かもしれないと教えられた - 8二次元好きの匿名さん25/10/25(土) 20:50:27
「あくまでも可能性の話だ」
墓前に手を合わせ終えた義勇は立ち上がり、炭治郎へと手を伸ばす
だが、炭治郎はその手を借りずに立ち上がった
その姿を見て、義勇は炭治郎から不思議なものを感じていた
10日以上も飲まず食わずのまま過ごしていたにも関わらず、衰弱した様子もない
さらに息ひとつ切らすことも、身体を休めることもなく父のものだという墓に並ぶよう5人分の墓を立ててみせた
「おまえはこれからどうする?このままただここで心を空にして過ごすのか?それとも…家族の仇を討つか?」
仇、その言葉に瞳に光が戻った
「その方法が…あるのなら…!」
「…狭霧山に鱗滝左近次という人がいる、その人から鬼と戦う術を学べ」
炭治郎に背を向け、義勇は山を降りていく
「話は通しておく…改めて…すまなかった」
ひとつも悪くないのに、彼は謝罪の言葉と共に姿を消した
「鬼と戦う術…」
炭治郎はすぐ準備に取り掛かった
僅かな保存食を籠に入れ、自衛のために手斧も準備した
そして、禰豆子のために買った赤い羽織を纏い、母葵枝が髪を結っていた紙紐で自分の髪を結って炭治郎は立ち上がる
「…行ってきます」
『行ってらっしゃい!』
いつもは背中に届いていたいくつもの声が、今日は届くことがなかった - 9二次元好きの匿名さん25/10/25(土) 21:04:34
「あんた…今から狭霧山に向かうのかい?それなら少しウチで休んでいったらどうだ?…あそこは遠いし疲れるぞ?」
「大丈夫です、まだ疲れてませんから…」
1日目、道すがら出逢った夫婦はそう優しく声をかけてくれた
「狭霧山?それならあの山を越えた先だけど…もう日も暮れるし、危ないよ…」
2日目の夕刻、子を遊ばせていた母親から心配そうに声をかけられた
「ありがとうございます、十分気をつけますから…平気です」
ただの一度も休むことなく、炭治郎は歩き続けていた
「あれは…お堂か?」
山中に佇む古びたお堂が目に入った
扉からゆらゆらと灯りが漏れているのを見るに、誰かが中に居るようだ
「…少しお参りして行こうかな」
お堂へと脚を踏み出した時…気づいた
「血の…匂い!?」
荒々しく扉を開けた
「〜〜〜〜〜〜〜!!!」
真新しい何人もの屍…その血肉を啜る…人喰い鬼がいた - 10二次元好きの匿名さん25/10/25(土) 21:19:33
「なんだぁ…新しい餌か?」
口元を鮮血で染め上げたまま、鬼が振り向いて立ち上がる
恐怖、困惑、憤怒…様々な感情が心の中で渦を巻く
一陣の風が蝋燭の灯りを吹き消した瞬間、炭治郎の身体が吹き飛んだ
自分でも不思議だった
尋常でない速さで繰り出された爪を受け止め、炭治郎は手斧で鬼の頸を浅くではあるが斬り裂いていた
「やるなぁ…だがなぁ…こんな傷は直ぐに…」
ボタボタと傷口から血を流しながら鬼が嗤う…しかし、その表情が歪む
「……あ?あ…がっ…!?」
ジリジリと肉が灼けるような匂いが鼻に届く…その匂いは、間違いなく鬼から漂っていた
「なにしやがったテメェ…まさか…『鬼狩り』か!?」
「鬼狩り…?なにを言ってるんだ!俺はただの炭焼きだ!!」
「だったらなんで傷が塞がらねぇ!?クソクソクソクソクソ!!有り得ねぇだろこんなこと!!」
鬼は炭治郎の目の前で独り喚き続ける
「……まぁいい、こんな傷…テメェを喰えば治るだろ」
すん、と鬼が不気味なまでに静かになった…ダラダラと涎を垂らしながら炭治郎に近づく
再び伸ばされた爪が炭治郎の眼球に触れそうになった瞬間…『身体が動いた』
ごとんという硬く鈍い音、カツンという金属音
振り返った炭治郎の瞳に飛び込んだのは頸を落とされてもがき苦しむ鬼…そして、柄を握り砕かれたことで使い物にならなくなった手斧だった - 11二次元好きの匿名さん25/10/25(土) 21:27:23
「があああああああああああ!?有り得ねぇ!有り得ねぇ有り得ねぇ有り得ねぇ!なんで鬼狩りでもねぇガキが…こんな…!!」
ぼろぼろと、鬼の頸と身体が崩れ始める
その切断面は、まるで熱した刃物で焼き切ったかのように赤熱していた
呆然としたまま炭治郎はその光景を見守るしか出来ない…風が再び鬼だったものを連れ去った時、誰かの気配を感じた
「この鬼は…おまえが倒したのか…?」
振り向くと、天狗の面を着けた老人が佇んでいた
不思議だった…この俺がこれだけ近づかれるまで気配も匂いも感じなかった
「鱗滝左近次…おまえの下に来た鬼狩り、冨岡義勇の師だ…鬼の匂いを感じ急ぎ駆けつけたが…」
炭治郎を隅から隅まで、吟味するように彼は視線を走らせる
「まさかとは思うが…生まれつき呼吸が使えるのか?」 - 12二次元好きの匿名さん25/10/25(土) 21:36:31
鱗滝は驚きを隠せなかった
彼の手前冷静さを保ってはいたが、内心は声を上げたかったほどに
狭霧山の頂上まで、少年は自分のすぐ後ろを息ひとつ切らすことなく追走してきた
並みの人間ならとっくに倒れているであろう早さ、環境すらこの少年の前では無意味だったかのように
「…その額の痣は、生まれつきか?」
「…はい、父と母からはそう聞いています」
それに、と炭治郎は湯呑みに注がれた温かいお茶に目を落とす
「俺は、昔から疲れるということを知りませんでした…疲れを感じたことがなかったんです」
「……」
「人間だから腹も減りますし、眠りもします…けど、何故かそれ以外ではずっと動き回ることも出来たんです」
話を聞けば聞くほど、不思議な少年だった
少年も落ち着いて緊張の糸が解れたからか、やや饒舌になってきている
「その『呼吸』が関係しているかはわかりませんけど…俺の家には代々ヒノカミ神楽というものが継承されていたんです」 - 13二次元好きの匿名さん25/10/25(土) 21:49:20
「毎年新年の始まりに…雪の降り積もった山頂で十二の舞型を一晩中…何百、何万回と繰り返して奉納する事で一年間の無病息災を祈るんです…父が亡くなる年までは、ずっと父が舞を行っていました」
ことん、と湯呑みを置いて炭治郎は鱗滝に目をやる
「小さい頃に父からその型を教わって、その全てを覚えて舞えるようになった俺は…余程嬉しかったのか一晩中どころか睡魔に負けて眠りこけるまで踊り続けていたと聞いています」
「……」
「それが鱗滝さんのいう『呼吸』に関連しているのかもしれません…父は生前俺に『特別な呼吸がある』と話してくれていましたから」
その日々を懐かしむかのように、炭治郎の顔が綻ぶ…が、直ぐに歪んでしまった
惨劇を思い出してしまったのか、目を伏せてボタボタと涙を流す
「もしそんなものがあって…もし俺がもっと早く家に帰って…俺がさっきみたいに戦えてたら…」
嗚咽を漏らす少年を、鱗滝は優しく抱き締める
「家族は…死ななかったのかなぁ…?」
堰を切ったかのように泣き出した炭治郎
その頭を撫で、彼が泣き止むまで鱗滝はただ抱き締め続けた
せめてこれから先、彼が踏み出すであろう運命に負けないように…精一杯の愛情を注ぐかのように
『第一話 惨劇の果てに』 - 14二次元好きの匿名さん25/10/25(土) 21:52:42
めっちゃおもろいけど質問です!
日輪刀なくても日の呼吸なら鬼を倒せたっけ?
この世界線ならそうなのかな - 15二次元好きの匿名さん25/10/25(土) 21:56:52
- 16二次元好きの匿名さん25/10/25(土) 22:12:14
生活が落ち着いてから…炭治郎の狭霧山での修行の日々が始まった
「鱗滝さん!只今戻りました!!」
「早いな」
張り巡らせた罠を掻い潜りながら麓まで下山しまた登って来いと命じた朝、炭治郎は数刻もしない内に無傷で帰ってきた
その翌日…鱗滝は刀を持たせた上で罠の難易度を倍に跳ね上げた
「鱗滝さん!帰ったら鱗滝さんの姿が見えなかったので勝手ながら洗濯を終わらせておきました!」
「…早かったな」
その翌日…先ずは剣を自在に振れるようになれと命じた
「ごめんなさい鱗滝さん!夢中になって刀を振ってたらうっかり注連縄がしてある大岩を叩き切ってしまって……!!うわぁぁぁごめんなさい!あれって山神様の封印だったりしませんよね!?それともこの狭霧山の歴史にとって重要な文化財みたいな」
「落ち着け炭治郎!!!」
この少年は…鱗滝の理解の範疇を遙かに超えていた
『第二話 強くなる』 - 17二次元好きの匿名さん25/10/25(土) 22:17:37
※困惑する鱗滝さんを背にOPに入ります
- 18二次元好きの匿名さん25/10/25(土) 22:33:54
「よかったぁ…そういうことだったんですね…」
あの岩の真意を伝えたところ、炭治郎は肩の荷が降りたようにへたりこんだ
「でも、なんで斬れたのかな…もう一度やれって言われたら多分出来ませんよ…?」
かと思えば座り込み、ひとりでぶつぶつと独り言のように炭治郎は呟いていた
それにしても…と鱗滝は炭治郎が割った岩に触れた
これは新しい子が来たとき、誰も割れないであろうと考えた上で用意していた大岩だったものだ
それを炭治郎は刀を握ったばかりにも関わらずやってのけたのだ
一方、落ち着いた炭治郎は再び刀を振るっていた
その動きは徐々に磨かれ、速度、正確さが上がっていく
そして本人でも気づかぬ内にそれはヒノカミ神楽の動きになりつつあった
流れるように繰り出される十二の型
無心で振り続ける炭治郎の脳裏には、雪の中舞い続ける父…炭十郎の姿が浮かんでいた - 19二次元好きの匿名さん25/10/25(土) 22:36:13
- 20二次元好きの匿名さん25/10/26(日) 08:07:13
このレスは削除されています
- 21二次元好きの匿名さん25/10/26(日) 09:15:50
「義勇からの手紙に『生まれながら特別な呼吸を身につけているのかもしれません』と聞いた時は信じられなかったが…おまえの成長速度を見ているとそれも信じるしかあるまい」
本来ならば年単位でようやく身につく基本の過程がこの子には存在しない
刀の扱いにしてもそうだ、あれから数日経つが自分でも背筋が寒くなるのを感じるほどに実力が上がってきている
「おまえなら今すぐにでも鬼と戦えるだけの力はあるだろう…だが、それは今ではない」
「……と、いいますと?」
「ヒノカミ神楽とやらを使いながら刀を訓練していて、違和感を感じなかったか?」
「そういえば…朝にはすっかり元気になってはいますけど、鍛錬が終わってからは普段より身体が重い気がします…」
これも疲れるってことなのかな…と炭治郎は呟く
やはり、と鱗滝の中で完全に合点がいった…恐らく彼の身体がまだ技の反動に追いついていないのだ
ならば、やることはひとつ
「炭治郎…この狭霧山で過ごし、その身体を強く、大きく成長させるのだ」
「強く、大きく…」
「その技に負けない身体を作り上げることが出来れば恐らくおまえは…」
その刃が、鬼の始祖にも届く - 22二次元好きの匿名さん25/10/26(日) 10:51:29
鍛錬を続けながら肉体の成長を待っていたある日のことだった
『この岩を割ったのはおまえか…』
うっかり叩き割った大岩の前で刀を振るっていた炭治郎の耳に少年の声が届く
「…ん?だ、誰か居るんですが!?」
『この岩を割ったのはおまえかぁぁぁぁ』
今度は少女の声だ
だが周囲を見回してもそれらしき姿も匂いもしない
背筋に氷を入れられたかのような悪寒が走る…まさか…まさか…!!
『『この岩を割ったのはおまえか!!!』』
大岩の方へ振り向くと…いた、いました
宍色の髪に狐の面をつけた少年と黒い髪で狐の面をつけた小柄な少女が…岩の前で佇んでいた
「ぎぃやあああああああああああああああああああ!!!?」
「……ん?」
盛大な悲鳴と共にぴくりとも動かなくなった炭治郎に、錆兎は歩み寄る
「…錆兎、この子」
真菰がつんつんと炭治郎をつつく
倒れこそしないが、弥次郎兵衛のようにふらふらと揺れては元に戻る
「気絶してる」
「…そ、そうか」
それが、錆兎と真菰との出逢いだった - 23二次元好きの匿名さん25/10/26(日) 11:12:42
「炭治郎の刀にはまだまだ無駄が多い、刀は力で振るうものじゃないんだ」
錆兎は俺に剣術が何たるかを説いてくれた
「確かに鬼の頸を落とすためには力も必要になる…だが、その一撃へ至るためには刀の軌道、脱力、体捌き、足捌き…それらが総てが繋がることで技の精度を引き上げてくれる」
錆兎から教わったものは俺のヒノカミ神楽の型を必殺の一撃へと淀みなく繋げる糧になった
「炭治郎は疲れないから体力も凄いし私より脚も速いけど鬼ごっこで私を捕まえられない…なんでかわかる?」
真菰は俺に速く、縦横無尽に駆ける術を教えてくれた
「例えば狭霧山に生える木々…強く、太く、真っ直ぐ逞しく伸び聳え立つ木の力を借りるの…そうすれば足場は地面だけとは限らなくなるんだよ?」
そう語る真菰は身軽な動きで自在に跳ね回って魅せる
挙句の果てには伸びる枝すらも足場にして頭上から俺の目の前まで移動するような離れ業も
「ただの『うっかり』で一番大きな岩を斬った炭治郎なら出来るよ、いつかきっと…どんな場所でも自在に動き回れるようになる」 - 24二次元好きの匿名さん25/10/26(日) 13:16:49
参照スレどっちも大好きなのでSSスレ嬉しすぎる
SSもクオリティ高くてワクワクします。前のめりで期待 - 25二次元好きの匿名さん25/10/26(日) 14:03:23
「炭治郎、そろそろおまえを最終選抜へ送り込もうと思う」
あれから2年の月日が流れた
鱗滝さんから改めてそう話をされた炭治郎は、深々と頭を下げる
「はい…お世話になりました」
「それと…これを」
鱗滝から差し出されたのは、彼と同じ柄をした羽織りと錆兎や真菰とはまた違う味来の狐の面だった
「わぁ…ありがとうございます!」
「おまえの羽織りだが…2年も経って小さくなっただろう?私が新しく仕立ててもらえるよう取り計らっておいた…おまえのことだ、必ず最終選抜は突破するだろう…だが、油断はするな」
「大丈夫です…ここで学んだ全てをぶつけて…必ず突破してみせます」
そうだ、俺はその為に強くなってきたんだ
身長もずっと高くなった…体重も増えて、筋肉だってついた
試してはいないが…今の俺ならきっとヒノカミ神楽の技を一晩中繰り出しても疲れることはないだろう
「その為にも…今日は食って力を付けろ」
囲炉裏に下げていた鉄鍋の蓋を開け、鍋を注いで炭治郎へと渡す
いただきます!と手を合わせた炭治郎はあっと言う間に椀一杯を平らげてしまう…少しだけ遠慮がちにしている炭治郎から椀を取り、これでもかと鱗滝は鍋を注いでやった - 26二次元好きの匿名さん25/10/26(日) 14:17:35
「炭治郎…食いながらでいいから聞け」
こくこく、と炭治郎が頷いた
「おまえはまだ若く、身体も成長している…食ったなら食っただけ身体も成長し大きくなる…だがそれは鬼も同じだ」
ぴたり、と炭治郎の箸が止まる
「人をたくさん喰った鬼はその肉体を怪しく変化させ、より強くなる…そして怪しげな術も使ってくるようになるだろう…おまえがもう少し鼻が利くようになってくれば、臭いだけで何人喰ったか判るようにもなるだろうな」
「…姿が変わっていて…それが禰豆子だと判るのでしょうか?」
「それはわからん…」
頃合いになった焼き魚を、鱗滝は炭治郎へ差し出す
「だが少なくとも私の経験では…人間の頃の名残りを残す鬼が多い」
「名残りを…?」
「そうだ、飾り…装い…佇まい…鬼となっても人間であった頃の癖は抜けないものだと私は見ている…おまえは鼻が利く…勘も以前より遙かに研ぎ澄まされている…きっと、妹を探し出せるだろう」
その先は、鱗滝さんも語らなかった
探し出せた先に待っていることを彼は知っている
そして、俺がどうするかも彼は知っている
「もし禰豆子を見つけたら…必ず斬ります、俺の手で」
決意を固めるように、炭治郎は呟く
「それが…俺が兄として禰豆子にしてやれる…最後の優しさだから」
それからはパチパチと爆ぜる火を挟んで、鱗滝と炭治郎はただただ静かに向き合っていた
語る事も、授ける事も…全てお互いにやりつくした
そしてその全ては…これから待ち受けているものにぶつけていくしかないんだ - 27二次元好きの匿名さん25/10/26(日) 14:27:54
「それじゃあ…行ってきます」
「うむ…必ず帰ってこい」
鱗滝は炭治郎の羽織りの皺を伸ばし、ポンと頭を叩いて激励した
軽やかな足取りで駆け出した炭治郎が不意に立ち止まり、ぶんぶんと手を振る
「錆兎と真菰にもよろしくお願いします!」
その言葉に、手を振り返す鱗滝の動きが止まった
何故…炭治郎が亡くなったあの子たちの名前を知っている…?
まさか、彼が自分が教えたはずのない剣や動きを身に着けていたのは…
「……そうか、おまえたちも炭治郎を見守ってくれていたのか」
鱗滝は、青く何処までも広がる空を見上げる
「安心して眠りなさい…炭治郎は、きっと帰ってくる」
鱗滝から教えられた場所に辿り着いた炭治郎は、その景色に見惚れていた
無数に咲き誇る藤の花…幻想的にも思える山道を抜けた先…
「ようこそお越しくださいました…これより、最終選別を行います」
同じく最終選別へと挑むであろう多くの少年少女たち…そしてその中心ともいえる場所にいたのはまるで日本人形のように美しいふたりの少女だった
第二話 強くなる 終 - 28二次元好きの匿名さん25/10/26(日) 15:03:42
- 29二次元好きの匿名さん25/10/26(日) 18:21:02
鬼滅の刃RTA
- 30二次元好きの匿名さん25/10/26(日) 20:00:54
(俺以外にもこんなに人が…女の子までいるじゃないか…)
周囲を見渡せば、多くの少年少女の姿が見えた
だがそれは裏を返すと…それだけ鬼の犠牲になり、仇討ちを願う子たちがいるということなのだろう
「皆様…今宵は最終選別にお集まりくださってありがとうございます…この藤襲山には鬼殺の剣士様方が生け捕りした鬼が閉じ込めてあり、外に出ることは出来ません」
黒い髪の少女が語る
「山の麓から中腹にかけて鬼共の嫌う藤の花が一年中…狂い咲いているからでございます」
白い髪の少女が謳う
「しかしここから先には藤の花が咲いておりませんから鬼共がおります…この中で七日間生き抜く」
「それが最終選別の合格条件でございます…では、行ってらっしゃいませ」
その言葉を最後に、炭治郎たちは藤の花を抜けて藤襲山へと足を踏み入れた
なるほど、と炭治郎はひとり頷く…藤の花の匂いにかき消されてわからなかったが、山頂から抜ける空気に鬼の臭いが混じっている
「人間だ…」
「久しぶりの肉だ…」
鬼が集まってく来たのを目にした炭治郎は、ゆっくりと刀を抜く
飛び掛かってきた三匹の鬼の頸が、空を舞った
第三話 最終選別 - 31二次元好きの匿名さん25/10/26(日) 20:05:35
強くなれる理由を知りまくっておられる…
- 32二次元好きの匿名さん25/10/26(日) 21:26:30
(これが…日輪刀の力なのか…)
ボロボロと骨も残さずに消えていく鬼たちに手を合わせながら、炭治郎は鱗滝の言葉を思い出していた
「鬼の急所は頸!だが通常の刃物で頸を斬っても殺すことは出来ない!」
「じゃあ、どうやって倒せば?」
「鬼殺隊の刀は特別な鋼で造られており、唯一鬼を殺すことが出来る…その名を『日輪刀』と言う」
「……ん?」
じゃあ…なんであの時、俺が手斧で頸を切った時に鬼の身体が崩れていったんだ?
あの手斧は極々普通のものだったはずだ…いや、今はその事を考えても仕方ないだろう
ふと、強烈な悪臭が炭治郎の鼻を掠める
(なんだ!?この腐ったような臭いは…!!)
今まで嗅いだことがないほどの悪臭、その悪臭を放っている元凶は…すぐに現れた
「なんなんだよあれ!?あんなのがいるなんて聞いてないぞ!!」
青ざめた顔で逃げる少年の背中を追いかける一段と巨大な鬼…その姿は、正に異形
無数の手と腕で肉体を構成されたかのような、歪な姿
(…そうか、そういうことか)
ゆったりとした足取りで炭治郎はその鬼の元へと歩みを進める
(これが鱗滝さんが話してくれた、人を沢山食べた異形の鬼…)
木の根に足を取られて転んだ少年を叩き潰さんと振り下ろされた巨腕…その腕が少年を潰すことはなかった
「あ…ありがとう…」
「出来るだけここから離れるんだ…あいつは…俺が殺る」
少し乱暴だが、炭治郎は少年の襟首をしっかり掴んでいた
助けるんだ…目の前の命は、全部! - 33二次元好きの匿名さん25/10/26(日) 21:28:12
- 34二次元好きの匿名さん25/10/26(日) 22:55:51
- 35二次元好きの匿名さん25/10/27(月) 00:35:19
投下お疲れ様です。丁寧に原作をなぞりながら、規格外にめきめきと強くなる炭治郎が頼もしくてワクワクしますね
(鬼目線の)地獄の展開を楽しみにしてます! - 36二次元好きの匿名さん25/10/27(月) 06:16:08
- 37二次元好きの匿名さん25/10/27(月) 13:17:14
おっけー待ってます
- 38二次元好きの匿名さん25/10/27(月) 14:09:42
SSの文才すごいです!
参考スレも読みました!炭治郎の人生がハードモードすぎですが、とっても楽しみです
待っています! - 39二次元好きの匿名さん25/10/27(月) 16:56:15
「錆兎…炭治郎は、あいつに勝てるかな…?」
「わからない…努力はどれだけしても足りないんだよ…それは知っているだろう?おまえも…」
心配そうに目を伏せる真菰に、錆兎は厳しい言葉を投げかける
あいつは更に力をつけているだろう…俺たちが戦った時よりも、ずっと強い力を
(だが…炭治郎ならヤツを倒せるかもしれないな…)
ひた、と錆兎は腰掛けた大岩に触れる
あいつは2年でさらに強くなった…そして、それは手合わせを担当していた自分がよく知っている
いつからかあいつは…俺を傷つけぬよう、無意識に力を抑えていた
それが枷から解き放たれたのなら…
幾つもある手のひとつにぶら下げていた少年の遺体を、鬼は炭治郎の目の前でばりばりと喰らった
その影響か、鬼の身体はさらに肥大化した…ヤツの目が、腰を抜かしたままの少年から炭治郎が頭に付けていた狐の面へと移る
「また来たな…俺の可愛い狐が…」
「…『また』?」
『誰よりも強い、鬼殺の剣士になる』 - 40二次元好きの匿名さん25/10/27(月) 17:10:09
「狐小僧…今は明治何年だ?」
「明治…?今は大正時代だ!」
「たい…しょう…?」
ぴたり、と鬼の動きが止まる
「アァアアアアアア!!!年号が!また年号が変わっている!!俺がこんな所に閉じ込められている間にぃいいいいい!」
悲鳴にも近い声を上げて、鬼が叫んだ
ばりばりと血が噴き出すのも構わずに自らの身体を掻き毟る
「あああああああ!!許さん!鱗滝め!鱗滝め!鱗滝めぇえええええええ!!」
「どうして鱗滝さんを!?」
「知ってるさ!俺を捕らえたのはヤツだからな…忘れもしない47年前…あいつがまだ鬼狩りをしていた頃だ…まだ江戸時代、慶応の頃だ…」
「嘘だ!」
背後の少年が声を荒げる
「そんなに長く生きてる鬼がいるわけない!ここには人を二〜三人喰った程度の鬼しか入れてないんだ!選別で斬られるのと…共食いするのと…それで…」
「でも俺はずっと生き残ってる…藤の花の牢獄の中で…50人は喰ったなぁ…ガキ共を…」
50人も…炭治郎は息を飲む
この鬼の放つ悪臭が初めて会った鬼とは比べ物にならないわけだ…
「11、12、13…そしておまえで14人目だ」
「…なんの話だ?」
「くふふ…俺が喰った鱗滝の弟子の数だよ…あいつの弟子はみんな殺してやるって決めてるんだ」
そこでようやく炭治郎は気づいた
俺が…錆兎や真菰に気づくことが出来なかった理由に
あの二人から、なんの匂いもしなかった真実に… - 41二次元好きの匿名さん25/10/27(月) 17:26:58
「そうだなぁ…特に印象に残っているのは二人だな…あの二人…」
記憶を掘り起こすように、鬼はゆっくりと言葉を紡いでいく
「珍しい毛色のガキだったな…一番強かった…宍色の髪で口に傷がある」
錆兎だ…
「もう一人は花柄の着物を着た女のガキだった…小さいし力も無かったがすばしっこかった」
真菰…
ギリッ、と刀を握る手に力に籠もる
「その面…それが目印なんだよ…鱗滝が掘った面の木目を俺は覚えている…あいつが着けていた天狗の面と同じ彫り方…」
ばき、と奥歯が欠ける音がした
「"厄除の面"とか言ったか?それを着けてるせいでみんな喰われた…みんな俺の腹の中だ…鱗滝が殺したようなものだ…ひっひっひっひ…」
「……な」
「……あ?」
「…もう、なにも喋るな」
なんだ…なにかがおかしい
さっき…あいつの刀はあんなに赫い色をしていたか?
あいつの眼は…これほどまでに殺意に満ちていたか…?
ザザッと脳裏に雑音のようなものが走る…聞いたことのない声が、脳裏に響いた
いや、聞いたことがあるから思い出したのか?それともやはり俺の聞いたことがない声なのか…?
ふっ…と微風のようなものを感じる…目の前から狐小僧が消えている
「ヒノカミ神楽…」
その狐小僧は、刀を構えて俺の背後にいた - 42二次元好きの匿名さん25/10/27(月) 17:41:15
「円舞」
ごとん、と落とされた頸が地面を転がる
斬られた?俺の頸が斬られた!?見えなかった!影も形も見えなかった!
くそくそくそ!痛い痛い痛い痛い!身体が崩れていく…崩れていくのを止められない…!?
最後に見るのが、よりにもよって鬼狩りの顔だなんて…!
刀を収め、鬼狩りがゆっくりと目を向けてきた…優しく、慈しむような目を
その目を見た鬼は、なにかを思い出しそうになった
暗闇の中から溢れてきた、ほんの僅かに残っていた…人としての記憶
「……悲しい匂いだな」
今にも崩れそうな手を、炭治郎は優しく握る
ぎゅっと柔らかく握り返してくる鬼の手
「神様…お願いします…どうかこの人が次に生まれ変わる時は…鬼になんかなりませんように…」
鬼は思い出していた
甘える俺の手を、いつも力強く引いてくれていた優しい兄の姿を…ボロボロと涙を零しながら、異形の鬼は完全にその姿を消していった
「……大丈夫か?」
炭治郎は未だに腰を抜かしたままの少年に声をかけた
こくこくと小さく頷いたのを確認してから、炭治郎は意識を集中させる…まだ、誰かがこの山のあちこちで戦っている
「俺は他のみんなのところに行く…戦えない子は、助けてやらないと」
まだ初日、これが七日間続いていくことになる
生半可なことでは生き残ることが出来ないだろう…だったら話は簡単だ、俺が休まずに七日間鬼を殺し続ければいい…隠れていれば探し出し、頸を斬ればいい
狭霧山での日々は、俺を裏切っていなかった…強くしてくれた
「やったよ、錆兎…真菰…そしてみんなも…どうか安らかに…」
木々の間から覗く月明かりに、炭治郎はひとり語りかけた…きっと彼らも、同じ月を見てくれているのだと信じて
第三話 最終選別 終 - 43二次元好きの匿名さん25/10/27(月) 17:45:05
- 44二次元好きの匿名さん25/10/27(月) 19:01:46
七日間の戦いが終わり…最後の夜が明けた
(残ったのは…たったの四人?)
見渡すと、炭治郎と共にこの場に集まったのは金髪の少年…先ほどからネガティブな独り言をぶつぶつ呟いている
ボロボロだがあれだけ喋れるならまだまだ元気なのだろう
それから柔らかく儚げな雰囲気を纏った少女
この子には目立った傷や汚れもない…
そして、特徴的な髪型をした少年…あれは確かモヒカンとかいうやつか?
一番ボロボロだが、目立った傷はないように見える
まさか…これだけしか生き残っていない…?
俺が助けても一時的に離れている間に鬼に殺されてしまったのだろうか?
そうだとしたら…逆に悪いことをしてしまったのかもしれない
仮に一時的に生き残ったとしても、そのあとで殺されてしまえば…助けた意味がなくなってしまう
「「おかえりなさいませ」」
選別の案内をしたふたりの少女が、再び姿を現した
第四話 色変わりの刀
「おめでとうございます」
「ご無事でなによりです」
「…で?俺はこれからどうすりゃいい!…刀は?」
モヒカン頭の少年が荒々しい口調で尋ねる
「まずは、隊服を支給させていただきます…身体の寸法を測り、そのあとは階級を刻ませて頂きます」
「階級は10段階ございます
今現在皆様は一番下…癸でございます」
「…刀は?」
その声色が苛立ちを帯び始める - 45二次元好きの匿名さん25/10/27(月) 19:04:49
「本日…刀を造る玉鋼を選んで頂きますが…刀が出来上がるまで、10日から15日かかります」
「…んだよ」
説明に随分と落胆したらしい…しかし、なぜそこまでして刀が欲しいんだ…?
「その前に…」
ぱんぱん、と白髪の少女が拍子を叩く
その音に反応するかのように、空から鴉が舞い降りて炭治郎たちの肩へと止まる
「今から皆様に鎹鴉をつけさせていただきます…」
「鎹鴉…」
「鎹鴉は主に連絡用の鴉にございます」
「鴉…?これ雀じゃね…?」
何故か金髪の少年の手には雀が止まっていた
「ふざけんじゃねぇ!どうでもいいんだよ鴉なんて!!」
ずんずんと少女たちの下へと歩み寄ったかと思えば、突然白髪の少女の髪を乱暴に掴む
「刀だよ刀ァ…!今すぐ刀寄越せ!鬼殺隊の刀…色変わりの刀ァ!!」
「……あ?」
横から腕を掴まれた玄弥は、面食らいながらもその主を睨みつける
選別を切り抜けたにしてはやけに小綺麗な…額に痣がある少年だった
「この子を離せ」
「なんだテメェは…あがっ!?」
ベキベキッ!とその場に居た全員の耳に嫌な音が届いた
堪らず少女の髪を掴んでいた手を離し、玄弥は後ろへ下がる
憎々しげに痣の少年を睨みつけた…こいつ、なんの躊躇いも無くいきなり腕をへし折りやがった!!
というか普通なにも言わずに折るか!?
一言ぐらい警告があってもいいだろうが!!!
「お話は済みましたか?」
黒髪の少女の声で、張り詰めていた空気が徐々に元へ戻っていった - 46二次元好きの匿名さん25/10/27(月) 19:07:46
- 47二次元好きの匿名さん25/10/27(月) 22:44:31
乙です!
初任務が今から楽しみです - 48二次元好きの匿名さん25/10/27(月) 23:25:17
乙です
- 49二次元好きの匿名さん25/10/28(火) 02:10:52
ほしゅ
- 50二次元好きの匿名さん25/10/28(火) 04:43:47
この炭治郎だと原作通りに進んでもヌルゲーだから要所要所その場の十二鬼月が増員されたりしそう
- 51二次元好きの匿名さん25/10/28(火) 08:54:33
- 52二次元好きの匿名さん25/10/28(火) 15:57:02
- 53二次元好きの匿名さん25/10/28(火) 16:32:23
段台へと掛けられていた布が取り払われ、玉鋼が姿を現す
「では…こちらから玉鋼を選んでくださいませ…鬼を滅殺し、己の身を守る刀の鋼は…ご自身で選ぶのです」
「多分すぐ死にますよ…俺は…」
金髪の少年がそんなことを呟く…一度殴り飛ばしてやろうか
それは置いておいて、炭治郎は目の前に並ぶ玉鋼へと目を落とす
どれがいいのか、なにがどう違うのか…鍛冶に関しては事素人の炭治郎にとってはわからないことだらけだ
「全然わかんねぇ…」
同じ事を考えていたらしい…モヒカンの少年が声を漏らす
「…ん?」
見つめていると、その中にひとつだけ違うものがあった
真っ先に足を踏み出した炭治郎は、玉鋼へと手を伸ばす
「そうか…『5人』も生き残ったのかい?優秀だね…」
広い屋敷で、一人の青年が鎹鴉の頭を撫でていた
その傍らでは、ふたりの白髪の少女が紙風船で遊んでいる
「また私の子どもたちが増えた…みんなは、これからどんな剣士になるのかな?」
〜数刻前〜
暗い洞窟の中で、少年は蹲っていた
「ひっぐ…く…」
俺は生き延びた…いや、『逃げ延びた』…あそこから逃げだしてしまったんだ
あの異形の鬼を見て、あの痣がある少年の戦いを見て…今まで頑張ってきた修行の日々も、鬼への憎しみも全て砕け散っていた
俺は、あんな風には戦えない…あんなものとは…戦えない!
「くそっ!!こんなもの!こんなもの…!!」
乱暴に投げ飛ばした刀が音を立てて転がっていく…それは、ひとりの男の靴に当たって止まった
「随分と…可愛らしい剣士が居たものだな…おもしろい」
男がゆったりとした足取りで近づいてくる…不気味に光る赤い瞳…伸ばされた手には、鋭い爪が並んでいた
「ひっ…あっ…あぁあああぁあああああああ!」
洞窟の奥深くまで…その悲鳴は響き渡った - 54二次元好きの匿名さん25/10/28(火) 16:48:01
炭治郎は狭霧山への道を駆けていた
今は1秒でも早く、自分の無事を鱗滝さんたちに知らせてあげたかった
飲まず食わずで走ってはいるが、その足取りは鱗滝さんたちに会いたい一心もあって軽やかだった
別れ際のことだ、一番最初に玉鋼を選んだ炭治郎だったが…あのモヒカン頭のこともあってその姿が見えなくなるまで少女たちの前に立ちはだかっていた
「…先程はありがとうございました」
「いえ…でもちょっとやり過ぎたかな…?」
今思い出してもなぜあんなことをしたのかと後悔してしまう
気づけば彼の腕をへし折っていたのだ
「鬼殺隊には治療を専門とする者たちもいます…どうか、御心配なく」
「それはよかった…お気遣い、ありがとうございます」
ぺこり、と頭を下げて炭治郎は少女たちに別れを告げた
モヒカンの彼には…いつか再会した時にでも謝ることにしよう
ただし俺が謝る条件は…白髪の少女に先に謝ることだ
すっかり日も落ちた頃になって、炭治郎は狭霧山の家屋へと辿り着いた
薪を小脇に抱えていた鱗滝が、炭治郎の姿を見た瞬間に薪を落とした
「ただいま戻りました…鱗滝さん!」
なにも言わずに、鱗滝は炭治郎を抱き締めた
炭治郎も、鱗滝を強く抱き締める
鱗滝さんからは…ほんの少しだけ、涙の匂いがした - 55二次元好きの匿名さん25/10/28(火) 17:19:54
〜15日後〜
ちりんちりん、と風鈴の音を響かせながらひとりの客人がやってきた
「えっと…」
「俺は鋼鐵塚という者だ…竈門炭治郎の刀を打ち、持参した」
「あ…俺が竈門炭治郎です!中へどうぞ…」
「これが日輪刀だ…俺が打った…」
「あの…お茶を淹れますから中へ…」
まずい、この人もしかすると話を聞かないタイプかもしれない
「日輪刀の材料は…太陽に一番近い山で採れる…猩々緋砂鉄と猩々緋鉱石…それで、陽の光を吸収する鉄が出来る」
「そ、そうなんですかぁ〜」
太陽を指差しながら説明する鋼鐵塚の背に、炭治郎は相槌を打つしかなかった
「陽光山は一日中陽が差している山だからな…曇らないし、雨も降らない…」
「相変わらず、人の話を聞かん男だな…」
家屋の中でその声を聞いていた鱗滝は、ただただ呆れ果てていた
「あぁ!?」
「うわ!?ひょっとこ…?」
なんの前触れもなく、鋼鐵塚が炭治郎に顔を近づけてきた
ひょっとこの面で表情は読み取れないが、興味深そうに炭治郎の顔をまじまじと観察している
「おまえ、赫灼の子じゃねぇか!こりゃあ縁起がいいなぁ!」
「あぁいえ…俺は炭十郎と葵枝の息子です」
どこの誰とも知らない人の子ども扱いされても困る…炭治郎はきっぱりと否定した - 56二次元好きの匿名さん25/10/28(火) 17:46:36
「そういう意味じゃねぇ…頭の髪と目が赤みががっているだろう?火仕事をする家はそういう子が生まれると縁起がいいって喜ぶんだぜ?」
「ひょ、ひょうなんれふか?ひりまへんれひた…」
ぐりぐりと頬を突かれながら炭治郎は相槌を返す
「こりゃあ刀も赫くなるかもしれんぞ…なぁ!鱗滝!」
「……あぁ」
「さぁさぁ、抜いてみな!日輪刀は別名色変わりの刀と言ってな…持ち主によって色が変わるのよ」
「はぁ…」
言われた通りに、炭治郎は刀を抜いてみる
「…ん?お、おぉ…!?」
先程まで輝いていた刀身が、漆黒に染まっていく
「黒!?」「黒いな…」
ふたりの反応は、あまりよくないものに思えた
「えっ!黒いとなにかよくないんですか!?不吉ですか…?」
「いや、そういうわけではないが…あまり見ないな、漆黒は」
一方、鋼鐵塚はぷるぷると小刻みに震えていたかと思えば…
「俺は鮮やかな赫い刀身が見られると思ったのにぃいいいい!!くっそおおおおおおお!!!」
炭治郎に飛びかかり、関節技を繰り出してきた
「あいたたたたた!落ち着いてください!何歳ですかあなた!?」
「37だ!!」
やいやいと争う炭治郎と鋼鐵塚の前に、鎹鴉が舞い降りる
「竈門炭治郎!指令を伝える!」
「えっ…喋ってる…」
「北西の町へ向かえ…そこでは…少女が消えている!!」
その言葉に、炭治郎はハッとした
「毎夜毎夜!少女が消えている!そこに潜む鬼を見つけ出し…討つのだ!竈門炭治郎…心してかかれ!鬼狩りとしての…『最初の仕事』である!」
「最初の、仕事…」
刀を握る手に、力が入る…息を飲む炭治郎を見つめていた鱗滝の目の端で、彼の黒刀がほんの一瞬…赫く輝いたように見えた気がした
第四話 色変わりの刀 終 - 57二次元好きの匿名さん25/10/28(火) 17:49:30
- 58二次元好きの匿名さん25/10/28(火) 17:53:26
- 59二次元好きの匿名さん25/10/28(火) 18:46:17
乙です!
- 60二次元好きの匿名さん25/10/28(火) 19:42:08
投下お疲れ様です。
炭治郎を曇らせることに余念が無いスレ主で笑っちゃうんだ。がんばれ炭治郎心を強く持て炭治郎 - 61二次元好きの匿名さん25/10/28(火) 21:53:37
長男を曇らせることで得られる栄養素はある…ありますよね?
- 62二次元好きの匿名さん25/10/28(火) 22:25:03
乙です
既に炭治郎とも縁壱さんとも違う方向に行きつつある不穏さよ - 63二次元好きの匿名さん25/10/29(水) 03:29:25
保守
- 64二次元好きの匿名さん25/10/29(水) 06:01:33
推定兄上と遭遇してしまったのは誰だ?善逸か?
それはそれとして浅草からアレンジされるなら矢印手毬の代わりに本物の下弦2人が送られるとかしそう - 65二次元好きの匿名さん25/10/29(水) 12:35:06
このレスは削除されています
- 66二次元好きの匿名さん25/10/29(水) 16:08:26
- 67二次元好きの匿名さん25/10/29(水) 16:12:57
「あんた…本当によく喰うねぇ…」
「はい!腹が減っては戦はできぬ、とも言いますから!」
北西の町へ辿り着いた炭治郎は、目についた蕎麦屋で昼食を摂っていた
町に入った瞬間、あちこちから鬼の残り香を感じた
確実に鬼がいる事の証でもあるが、逆を言えばそれだけ町中で被害が出ているということになる
ただ闇雲に探せばいいというわけでもない…恐らくこの町にいる鬼は…
「血鬼術という術を使う鬼は、異能の鬼だ…今後は、そのような鬼とも戦うことになるだろう」
「その者たちとの戦いは…これまで以上に困難を極める…しかし炭治郎、おまえならきっと大丈夫だ」
「…はい、ありがとうございます」
炭治郎は、鱗滝に深々と頭を下げた
こんな俺を、鱗滝さんはこんなにも信頼してくれている…その信頼に恥じない戦いを…
第五話 沼の鬼
(その血鬼術で上手く姿を隠しているとするなら、かなり厄介なことになりそうだな…)
俺の鼻にだって限界はある
日中どこかの建物や物陰、容れ物に隠れている程度なら簡単に嗅ぎつけられる…『それ以外』となると話は変わってくる
だったら…まずは足で探すしかない
毎晩消えているというのなら、今日の夜も確実に行動を起こすはずだ
パン!と手をしっかりと合わせる
「ごちそうさまでした!」
またおいでと手を振る店主に別れを告げ、炭治郎は再び町を歩き出した - 68二次元好きの匿名さん25/10/29(水) 16:18:55
「…ん?」
甘味屋で団子を購入していた炭治郎の目に、ふらふらと歩く青年の姿が映る
「ほら、和巳さんよ…可哀想に…やつれて」
「一緒にいた時に里子ちゃんが拐われたから…」
「毎晩毎晩、気味が悪い…」
「あぁ…嫌だわ…夜が来るとまた若い子が拐われる…」
「和巳さん!」
町人の世間話を耳にした炭治郎は、青年…和巳を呼び止める
「ちょっとお話を聞きたいのですが…いいですか?」
「ここで里子さんは消えたんだ…信じてもらえないかもしれないが…」
「信じますよ」
その一言に、和巳の目の色が変わる
「俺は、あなたを信じます」
改めて鬼の臭いを辿ってみる…確かに、ここには臭いが濃く残っている…が、やはり『まだら』だ
まるで周囲に溶けてしまったかのように臭いが散らばっている
「………」
炭治郎の背を見つめながら、和巳は未だに拳の跡が残る頬に触れた
里子さんの父親は、俺を泣きながら何度も殴りつけた…それは、仕方のないことだ
多分、同じ立場なら自分だってそうしていただろうから…
「和巳さん…他に人が拐われた場所を知りませんか?」 - 69二次元好きの匿名さん25/10/29(水) 16:26:11
オスカーのベルセルク炭治郎...
- 70二次元好きの匿名さん25/10/29(水) 16:32:20
和巳は心当たりのある場所をいくつか炭治郎に話した
その場所全てで、さらには大通りのど真ん中でも…彼はまるで犬のように周囲や地面の臭いを嗅いでいた
「信じてほしい…本当に消えたんだ…」
日も暮れてきた頃、和巳は痕跡を追い続ける少年に投げかける
「信じます…その為に俺は、ここに来ましたから」
「…まだ続けるのか?僕のことを心配してくれるのはありがたいが…後は明日にして少し休んだほうが…」
「あいつらは夜活動します…だから、休むわけにはいかない」
炭治郎は膝をつき、和巳へと目を向ける
「新しい臭いを見つけました…必ず、近くにいるはずです」
「『あいつら』…?君はまさか…本当に…?」
「拐われた子たちはどうなったのかしら…無事だといいんだけど…」
少女は床について、ぼうっと天井を見上げていた
床につく前も、母親から外出は控えるようにと言伝されたばかりだ
ふぅっ、と息を吐いて目を閉じた少女の周囲に影のようなものが広がる
それは床も布団もなにもかもを通過し、腕だけをぬるりと生やしてきた
その気配に少女が気づくことはない…違和感に気づいたのは、その手に口を塞がれてからだった
少女は必死に声を上げる…が、身体はまるで底なし沼に沈むかのように影へと引き摺り込まれていく
少女の声も姿も消えた時…
「…見つけた」
竈門炭治郎は、鬼を見つけ出した
「鬼が、現れている!」 - 71二次元好きの匿名さん25/10/29(水) 16:54:33
あっと言う間に離れた場所へ移動した炭治郎に、和巳は必死で追いすがる
(鬼の話…鬼殺隊…まさか本当に…?)
炭治郎の行動や言動、そして彼の信じられない身体能力…和巳の中で噂話が現実のものとなりつつあった
鬼を殺す、鬼狩りの剣士たちの話…
匂いと気配が濃い場所へと辿り着いた炭治郎は、素早く日輪刀を抜く
(匂いは二種類…鬼の臭いと、人間の女の人の匂い)
意識を集中させる…鬼も女の人も姿は見えない…だが、明らかに臭いの濃い場所は…
「……ここだ!」
炭治郎は日輪刀を地面に突き立てた…僅かな手応えを感じた瞬間、地面から着物が浮かび上がった
炭治郎はとっさに手を伸ばし、力一杯引っ張る
生地の裂ける音、淀んだ沼から落とし物を引き揚げた時のような水音と共に…炭治郎は少女を『沼』から引き揚げることに成功した
腕の中の少女は気を失っている…静かになった『水面』からは、少女の着物の切れ端を掴んだ腕が生えていた
ずるり、と沼の中から鬼が姿を現す
(これが…異能の鬼…)
そいつは忍者のような装いをした髪の長い鬼だった
頭からは3本の角を生やし、赤い瞳は恨めしそうに炭治郎を睨んでいた - 72二次元好きの匿名さん25/10/29(水) 17:06:50
「…拐った女の人たちは何処にいる?」
炭治郎の質問に答えず、沼の鬼はキリキリと耳障りな音を立てる
凄まじい速さの『歯軋り』が、その音の正体だった
どぷん、と沼へとまた鬼が潜ってしまう
「…い、今のは!?」
「和巳さん、この人を抱えて俺の傍に…それから…決して動かないでください」
それだけ伝えると、炭治郎は少女を和巳に託して日輪刀を構えた…めきっ、と柄が音を立てて軋む
ヒュウ、と呼吸を整える
(こいつは地面や壁なら…何処からでも出てこられる…空中から出てくる可能性も考えた方がいい…だけど、この鬼は『臭いを消せない』、それに…)
構えている黒刀が、赫く染まっていく
意識を集中する…やがて背後に、鬼の臭いと気配を感じた
「ヒノカミ神楽…」
炭治郎が気配を感じた方向へ踏み込むと同時に、ざばんと水音と共に沼の鬼が飛び出してきた
その数は3人…増えている!?しかし、不思議と炭治郎の中に焦りはなかった
掴まれる瞬間、炭治郎は僅かに後ろへと飛んで回避をしながら握りを変える
沼の鬼たちの上半身が剥き出しになった瞬間…炭治郎は一気に加速した
1人目の3本角、胴体を切断
2人目の1本角、返す刀で両腕ごと胴体を切断
3人目の2本角、両腕両足を斬り飛ばす
「日暈の龍・頭舞い!」 - 73二次元好きの匿名さん25/10/29(水) 17:19:09
「炭治郎…よく聞け、人間を鬼に変える力を持つ鬼は…この世にただ一体のみ」
「一体だけ…?」
「今から千年以上前、一番初めに鬼となった者…つまりそれが、おまえの家族の仇だ!」
「そして…禰豆子を鬼へと変えたかもしれない鬼…」
こくり、と鱗滝が頷く
「その鬼の名は…『鬼舞辻無惨』」
「「「あああああああああああああ!?」」」
3人分の悲鳴、歯軋り、耳障りな音に炭治郎は血管が切れるのを感じた…怒りのままに3本角の頸を斬り飛ばしてしまう
「人喰らっておきながら…この程度のことで悲鳴を上げるな!黙って俺の質問にだけ答えろ!」
ぴたり、と悲鳴が止まる…斬られた切断面は赫く赤熱している…今あの鬼たちはとてつもない激痛に襲われているのだろう
カチカチと歯音を立てながら、仔犬のように震えている
「まずは1つ目だ…拐った女の人たちは何処にいる?」
「そ、そうだ!一昨日拐った女の人…里子さんはどこにいるんだ!?」
和巳も炭治郎の問いかけに続いて声を張り上げる
「む、胸元に…!胸元の収集品に髪飾りがあれば…そいつはもう…」
怯える1本角の鬼の着物を、炭治郎は捲る…和巳の目に沢山の髪飾りが映る
その中に…『それがあった』
「あ、ああああああああああ!!!うわあああああああああああ!」
和巳の悲鳴を聞いた炭治郎は、収集品を下げた着物を引き千切り…直ぐさま1本角の頸を斬り飛ばす
「…2つ目だ」
2本角の襟首を掴んで塀へと寄りかからせるように投げ飛ばして、炭治郎は日輪刀を喉元へ突きつける
「鬼舞辻無惨について知っていることを…全て話せ」
その名前を聞いた途端、鬼がガタガタと激しく震え出した
「い…言えない………!言えない言えない言えない!!」 - 74二次元好きの匿名さん25/10/29(水) 17:31:47
上司の化け物と目の前の化け物に板挟みの沼鬼可哀想…
- 75二次元好きの匿名さん25/10/29(水) 17:36:14
(怯えている…?骨の奥まで震えるような…恐怖の匂いだ…)
小刻みに震える鬼から感じる匂いが変わった
『私のことを誰にも喋ってはいけない…』
沼の鬼は思い出していた
圧倒的暴力で打ちのめされ、片手で頸を掴まれたまま吊り上げられたことを
『喋ったらすぐにわかる…私はいつも君を見ている…』
「それだけは言えない…言えない!言えないんだあああああああああ!」
「…そうか」
炭治郎の呼吸音が変わった
「鬼が可哀想、か?」
「はい…変でしょうか…?」
選別が終わって数日してからのことだ…囲炉裏の火を整える鱗滝の背中に、炭治郎は胸の内を明かした
「いや、おまえの言葉も一理ある…鬼と言っても千差万別、望まず鬼となった者…誘惑に抗えず自ら鬼となった者…得も言われぬ理由から鬼となることを選んだ者…おまえがそう感じるのも無理はない」
火箸を灰に刺し、鱗滝が姿勢を正して向き直る
「ならば炭治郎…おまえに一つ、水の呼吸の型を教えよう」
「えっ…水の呼吸を?」
「おまえなら数日もあれば物にするだろう…その技の名は…」
「『干天の慈雨』…どうか、最後だけでも安らかに…」
転がっていく2本角の鬼の頸からは、まるで長い呪縛と恐怖から解放されたかのような…安らぎの匂いがした - 76二次元好きの匿名さん25/10/29(水) 17:44:53
(結局なにも聞けなかった…鬼舞辻無惨、一体どんな鬼なんだ…?)
「和巳さん、大丈夫ですか?」
再び黒くなった刀を納めて、炭治郎は茫然と座り込む和巳の下へと歩み寄った
「婚約者を喪って…大丈夫だと思うか?」
「…喪っても、喪っても…生きていくしかないんです…どんなに打ちのめされようと」
炭治郎は和巳の前に膝をつき、優しく声をかける
「…っ!!おまえになにがわかるんだ!!おまえみたいな子どもにぃ!!」
和巳は怒りに任せて炭治郎の胸倉を掴む…しかし、その目を見た瞬間…怒りが消えていくのを感じた
胸倉を掴む手も、彼に優しく触れられたことで力が抜けていく
「俺はもう行きます…これを」
彼が差し出してくれたのは、あの鬼が『収集品』と宣ったものすべて…そして、その中に確かにあった…里子さんの髪飾り
嗚咽を漏らしそうになってから、和巳はようやく気づいた…彼も、同じだということに
「す、すまない!酷いことを言った!許してくれ…すまなかった!」
「その女性の方、お願いします!」
「わ、わかった!わかった…」
あの少年に触れられた時に感じた…あんなに優しいのに…痛々しいほどにまで鍛え上げられた、大凡少年のものからかけ離れた分厚い手
痛みを抱えながらも、誰かの為に歩み続ける優しい眼差し
朝日へ向かって進む彼の背中が涙で霞む…そうだ、生きていくしかないんだ
彼のように…強く…優しく…
第五話 沼の鬼 終 - 77二次元好きの匿名さん25/10/29(水) 17:47:01
- 78二次元好きの匿名さん25/10/29(水) 17:59:46
- 79二次元好きの匿名さん25/10/29(水) 18:45:44
- 80二次元好きの匿名さん25/10/29(水) 19:15:34
乙です!曇らせに期待大…
- 81二次元好きの匿名さん25/10/29(水) 21:15:27
- 82二次元好きの匿名さん25/10/29(水) 22:30:22
投下お疲れ様です!
いやぁ沼鬼は凶悪でしたね。しかしこの炭治郎は刀が赤くなるしヒノカミ神楽を舞う。
浅草ではとんでもねぇ曇らせ展開がちらりしてて口角が上がりっぱなしです、次も楽しみにしてます。 - 83二次元好きの匿名さん25/10/30(木) 02:11:34
大人しく引きこもっていたら…
- 84二次元好きの匿名さん25/10/30(木) 06:01:12
矢印と手毬が誰になるか楽しみ
原作のままかもしれないけど - 85二次元好きの匿名さん25/10/30(木) 09:23:08
長男それ許しやない拷問や
- 86二次元好きの匿名さん25/10/30(木) 09:34:37
- 87二次元好きの匿名さん25/10/30(木) 16:17:12
- 88二次元好きの匿名さん25/10/30(木) 16:17:58
北西の町を離れようとする炭治郎の肩に、鎹鴉が留まる
「次は〜東京府浅草!鬼が潜んでいるとの噂あり!くわぁ〜!」
「えぇ…もう次に行くのか…?」
「行くのよ〜!」
心底嫌そうな顔をする炭治郎の髪を鎹鴉は啄む
「ちょっとだけ待ってはくれない?」
「待たぬ〜!いいからさっさと行く!」
鎹鴉にせっつかれ、炭治郎は再び歩き出す…一路、浅草を目指して…
「…………」
炭治郎は初めての都会に白目を剥きそうになっていた
都会というものはこんなにも発展していたのかと…夜なのに昼のように明るい
建物も見たこともないほどに高い…人も溢れるほどいる…電車というものを初めて見た…洋装を着た人たちだって麓の町ではほとんど見たこともなかった
路地裏で唇を重ね合う男女を見た時は卒倒するかと思った…
ありとあらゆるものが、炭治郎に別の意味で『疲れ』を感じさせた
少しでも衝撃を和らげようと頭巾を被り、とも都会の喧騒から逃げるようにして避難した町外れにあった一軒のうどん屋台
その前では店主と思われる坊主頭の男性が煙管を燻らせていた
「す、すみません…山かけうどん、ください…」
「あ、あいよぉ…!」
余りにも憔悴しきっていた炭治郎に面食らいながらも、店主は粋な返事をしてくれた
第六話 鬼舞辻禰豆子 - 89二次元好きの匿名さん25/10/30(木) 16:34:35
(こんなところ初めてきた…人が多すぎる…)
この人混みの中で鬼の捜索が可能なのか…不安になってきた
「山かけうどん、いっちょ出来上がり!」
「わぁ…ありがとうございます!」
屋台の主からうどんを受け取った炭治郎は、その出汁の香りに思わず顔が綻ぶ
「…いただきます」
気疲れもあったからなのか、炭治郎はものの一分足らずでうどんを食べきってしまう
ほぅ、っと息を吐いた炭治郎の鼻を強烈な鬼の臭いが掠める
(………この匂い…どうしてこんなところで!?)
この匂いは…選別の時戦った異形の鬼、先日戦った異能の鬼…そのどちらとも比べ物にならないほど濃い臭い…そして、この臭いには『覚えがあった』
家の中…血錆の中に混じっていた、あの臭い…
「あ、あの!ごちそうさまでした!」
ばん!と財布の中身をすべてぶちまけるように屋台へ置いて、炭治郎は日輪刀片手に走り出す
「お、おい!いくらなんでもこいつぁ受け取れねぇぞ!?」
店主が呼び止める声も耳に届かなかった…急いで再び都会の喧騒へと足を踏み入れる
(家に残っていた匂いだ…!鬼舞辻無惨…こいつが…匂いの!!)
燃料の灼ける匂い、すれ違う人の匂い、煙草の匂い、香水の匂い…渦を巻く大量の匂いの中でも…それは異彩を放っていた
今ならわかる、見つかる…この先に、奴がいる!
人混みを掻き分けながら臭いの下へと辿り着いた炭治郎は、臭いを発していた男の肩を掴む
「…うん?」
そこに居たのは、帽子を被った青白い肌をした美青年だった - 90二次元好きの匿名さん25/10/30(木) 16:48:16
「お父さん!」
日輪刀へと手をかけて斬りかかろうとした炭治郎の耳に、小さな女の子の声が届いた
「このひとだぁれ?」
その男は、小さな女の子を抱いていた
「大丈夫だよ…安心なさい」
男は…無惨は胸に抱きかかえる少女に優しく声をかける
(こいつ…こいつは…!人間のふりをして暮らしているのか!!?)
「私になにか用ですか?随分と慌てていらっしゃるようですが…」
無惨は柔らかい物腰で炭治郎に微笑みかけてくる
「あら…どうしたの?」
「お母さん!」
綺麗な洋服と帽子を被った婦人が無惨に合流する
かひゅ、と息が乱れた…いや、生まれて初めてまともに息が出来なくなった
ぎゅっと隊服を掴んで、少しでも気を落ち着けようとする…でも、出来なかった
匂いでわかる…人間だ!この婦人も、女の子も…ただの人間だ!まさか知らないのか?こいつが人を喰う鬼だということを…
「お父さん!お母さん!」
背後から、聞いたことのある声がした
炭治郎の脇をすり抜けて、目の前の男…無惨に飛びついた女の子
その髪留め、その横顔、その笑顔…
「まったく、どこへ行っていたんだい…?ひとりで出歩いてはいけないといつも言っているだろう…迷子になったらどうするんだい?」
嘘だ…もう、まともに息が出来ない
呼吸が止まっている…肺が苦しい…心臓が氷の指で掴まれたかのように痛む…
「禰豆子」
鬼舞辻無惨が、俺の妹の名前を…愛おしそうに呼んでいた - 91二次元好きの匿名さん25/10/30(木) 17:04:27
「あのね!さっきすごく綺麗な洋服があってね…」
「それはよかった…次は私と一緒に見に行こうね?」
「うん!」
無惨は禰豆子の頭を優しく撫でる…まるで、娘へと愛情を注ぐ父親のように
なんで…なんでこいつが…俺の家族と一緒に過ごしているんだ!?
無邪気に笑う声も、笑顔も、纏う雰囲気も…全てがかつて一緒に過ごしていた妹の禰豆子のそれだった
いや、それだけじゃない!この女性と女の子は禰豆子も家族と認識している…?
今にも気を失ってしまいそうなほど、気持ちが揺らぐ
止まりかけていた息をなんとか再開させた瞬間…気づいてしまった
『禰豆子と呼ばれた少女』から、鬼の臭いがすることに…その臭いは無惨に比べればずっと劣る
だが、その臭いは最終選別の鬼や沼の鬼の比ではなかった…一体何百人喰えば、そんな臭いがするんだ!?
「そういえば…そちらの子はお知り合い?」
婦人が無惨へと問いかける
「いいや?困ったことに少しも…知らない子ですね」
無惨が禰豆子の頭を撫でていた腕をだらりと下げる
「人違いでは…ないでしょうか?」
ほんの少しだけ視線が逸れたかと思えば、無惨の手がすぐ横を並んで歩く夫婦、男性の首筋を軽く引っ掻いた
「まぁ、そうなの?」
困ったわね…と頬に手を当てている婦人は、その行動に気づく様子もない
唖然とする炭治郎に向けて、無惨に抱き着いていた『禰豆子』が指を唇へ当てて微笑む…その笑みは、兄であったはずの炭治郎でもどこか妖艶さすら感じてしまうものだった
「うっ…」
無惨に引っかかれた男性が、ふらついて足を止める 「あなた…どうかしましたか?」
心配そうに声をかける妻…ぶるぶると震え出す夫…次の瞬間、咆哮と共に夫が妻へと牙を突き立てた
響き渡る悲鳴、広がる動揺
まさかこいつ…いまこの瞬間、なんの関係もない人を鬼にしたのか!? - 92二次元好きの匿名さん25/10/30(木) 17:15:36
「っ…やめろ!!!」
炭治郎は頭巾を外し、男性を取り押さえにかかる
無惨の眼が、頭巾で隠れていた耳飾りを捉える
禰豆子の眼は、優しい兄の横顔を捉えた
女性から男性を引き剥がした炭治郎は頭巾を轡代わりにして牙を封じ、そのまま力で押さえ込む
「あ、あなた!!」
「奥さん!こちらよりも自分のことを!傷口に布を当てて、強く押さえてください!」
力が強い…押さえ込むのが精一杯だ!油断して跳ね飛ばされれば、また人を襲ってしまう!
「もっと!もっと強く…紐で縛ってください!」
女性は出血の影響で青白い顔をしているが…致命傷じゃない、噛まれたのが肩でよかった
傷つけはした…だけど!まだこの人は誰も殺してはいない…俺が殺させはしない!
さっきまでただここを歩いていただけの…鬼とは一切無縁であったはずのこの人に!そんなことはさせない!
「大丈夫かい?見てはいけないよ…」
恐怖を感じて縋り付く少女を抱き締めながら、無惨は優しく声をかける
「麗さん、ここは危険だ…向こうへ行こう」
無惨の匂いが遠ざかっていく…今すぐにでも追いかけたい
あいつを今すぐにでも殺したい…今なら追いついてあいつ殺せる…
(…待てよ?)
鬼にされてしまったのなら…いっそのことこの人を人のまま死なせてあげた方が幸せじゃないのか?
それからあいつを追いかけるか?
そうだ、そうすればいいじゃないか…まだ背中が見えるから後を追える…拘束を解いてこの『鬼』の頸を斬るだけなら、数秒もあれば足りる…!
自然に口角が吊り上がっていく…感覚がした - 93二次元好きの匿名さん25/10/30(木) 17:19:02
- 94二次元好きの匿名さん25/10/30(木) 17:34:19
乙です 面白かったです
- 95二次元好きの匿名さん25/10/30(木) 18:46:18
- 96二次元好きの匿名さん25/10/30(木) 20:09:00
投下お疲れ様です。
鬼に慈悲はあっても生かす理由が今のところない炭治郎あまりにも…
人間の頃と変わらぬ愛らしさと鬼らしい妖艶さを併せ持つ禰豆子ちゃんすごいグッと来た。炭治郎曇っちゃうけど定期的に顔出ししてほしい - 97二次元好きの匿名さん25/10/30(木) 21:26:51
鬼禰豆子は余裕で一般人に溶け込めるのがまた…
普段は無惨が子どもの姿で潜伏してた時みたいに鬼の気配を゙尾首も出してないんだろうな - 98二次元好きの匿名さん25/10/31(金) 02:10:43
保守
- 99二次元好きの匿名さん25/10/31(金) 06:04:21
まだ浅草の旦那は人殺してないから流石にこの炭治郎でも殺せない気がする
- 100二次元好きの匿名さん25/10/31(金) 15:37:09
- 101二次元好きの匿名さん25/10/31(金) 15:43:56
(だめだ…だめだめだだめだ!この人は殺せない…誰かを殺させるわけにもいかない…放ってはおけない…!)
ギリギリのところで、炭治郎は自分の中に生まれた思考と殺意を抑え込んだ
ほんの一瞬でも日輪刀へ手をかけようとした自分に憤りと恐怖の感情が渦巻く
そんなことをしてしまったら俺も…『鬼と変わらない』じゃないか!
『お兄ちゃんは相変わらず優しいね…』
頭の中に、突然声が響いた
困惑している人混みの影に紛れ込むようにして、禰豆子がいた…何故無惨の後を追わないんだ…?一体、なにがしたいんだ?
『本当はその人を殺して無惨様を追いかけたい…そうなんでしょ?』
まるで耳元で、禰豆子が直に囁いているかのような錯覚さえ覚える
なんだこれは…?一体なんなんだ?どういうことなんだ!?
俺にだけ直接声を届けているとでもいうのか!?
『私が無惨様の代わりに見ててあげる…ほら、早く殺さないと間に合わないよ?』
(黙れ…)
『まだ悩んでる…心を鬼にしちゃえば、楽になのに…』
(頼むから黙ってくれ…!)
『殺せ…!』
(黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ!!!禰豆子がそんなことを言うはずがない!)
『殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ!!!!』
「………っ!!鬼舞辻無惨!!!」
背を向けたまま歩く無惨に向け、頭の中で響く禰豆子の声を掻き消すようにして炭治郎は叫んだ
「こんなことをして…なにが楽しい!!」
『なにが楽しい…』
かつて…同じ事を問うた男がいた
「こんなことをして…なにが面白い!!」
『なにが面白い…』
その男は、少年と同じ花札のような耳飾りをしていた
「『命を…なんだと思っているんだ!!』」
思い出したくもない男の顔が、無惨の脳裏を駆け抜けた
「俺はおまえを許さない…逃さない!禰豆子の名を騙る鬼も…人を喰らう鬼共もだ!一匹残らず、頸に刃を突き立ててやる…!地獄の果てまで追いかけてやるぞ!鬼舞辻無惨!!!」 - 102二次元好きの匿名さん25/10/31(金) 15:54:59
(……あは、お兄ちゃんに怒られちゃった♥)
禰豆子は恍惚な笑みを浮かべながら無惨様の背中を小走りで追いかけていた
優しかったお兄ちゃん、怪我をしそうな時も庇ってくれたお兄ちゃん、危ない時は助けてくれたお兄ちゃん、頼りになるお兄ちゃん、お父さんみたいに温かいお兄ちゃん
決して私たちに手をあげるようなことをしなかった、大好きなお兄ちゃん…
下腹部が妙な熱を帯びる…未だかつてないほどの興奮が、禰豆子の感情を支配していた
(お兄ちゃんが初めて…あんなに怒ってくれた…私のことを、殺すって言ってくれたぁ…♥)
食べたい、今すぐにでもお兄ちゃんを食べたい
でもダメ、今のお兄ちゃんはまだ美味しくない
お兄ちゃんと戦って、戦って戦って戦って戦って…たくさん絶望してもらわなきゃ…
(そうじゃないと…人は美味しくない…)
やめてって泣き叫ぶお兄ちゃんを美味しく食べて…私のお腹の中で、家族と再会させてあげるんだ…
ぐぅ、とお腹が鳴る音がする
(あぁ…お腹が減って来ちゃったなぁ…あとで無惨様に聞いてみなきゃ…)
「どうしたのかしらあの子…ねぇ?月彦さん」
「…そうだね」
『家族』と合流した禰豆子は、母親の…麗と呼ばれた婦人と手を繋ぐ
(いまの『お母さん』と『妹』を、食べてもいいかって…)
ぺろり、と禰豆子は舌舐めずりをする…その瞳と牙は、既に人の物ではなかった - 103二次元好きの匿名さん25/10/31(金) 16:01:01
「貴様ら!なにをしている!」
「酔っぱらいか?少年、その男から離れなさい!」
騒ぎを聞きつけたらしい…警察が数人現場にかけつけてきた
「だめだ!拘束具を持ってきてください!頼みます!」
「いいから離れろ!」
「やめてください!この人は俺以外には抑えられない!」
炭治郎は必死で嘆願する…だが聞き入れてもらえる様子はない
確かにそうだ、鬼の存在を知らない人から見ればただの酔っぱらいや正気を失った人が騒ぎを起こしたようにしか思えないだろう
その姿を遠巻きに見つめる和装の女性と少年の姿があった
花柄の着物を纏う女性は袖を捲り、鋭い爪で皮膚を引き裂く
「惑血…視覚夢幻の香」
炭治郎の鼻が、その匂いを捉える
「うわっ!?なんだこの紋様は!!」
炭治郎と男性を包み込むように、無数の花弁模様が吹き荒れてきた
混乱する警察たち…炭治郎は男性を抑えたまま身構える
(これはなにかの攻撃か…?だとしたらまずい…)
この状態ではまともに動けない…もし新手の鬼による血鬼術だとしたら…
「あなたは…」
綺麗な女性の鬼だ…その傍らには、白い羽織りを纏った鋭い目つきの少年が控えていた
「鬼になった者にも…"人"という言葉を使ってくださるのですね…そして助けようとしている」
女性の細腕から流れていた鮮血と痛々しい爪痕が消えていく…傷が再生するということは…やはり…
「ならば私も、あなたを手助けしましょう」
「なぜですか…だってあなたは…あなたの臭いは…!」
「そう…私は…鬼です」
女性は、自らの口で鬼であると名乗った - 104二次元好きの匿名さん25/10/31(金) 16:04:13
- 105二次元好きの匿名さん25/10/31(金) 16:11:46
「そして私は…医者でもあります」
鬼だと明かした女性からは、嘘の匂いはしない…発せられる言葉のひとつひとつは…全てが嘘偽りのないものだった
「そしてあの男、鬼舞辻を抹殺したいと思っている…」
「お父さんは来ないの?」
「仕事があるんです…商談に行かなければなりません…それに、さっきの騒ぎも気になります」
「あなた…」
「大丈夫、警官に尋ねるだけですから…」
心配そうにしている母娘に優しげな笑みを向けて、無惨は乗車を促す
「お父さん、早く帰ってきてね?」
「ええ…いい子にしておいで…禰豆子も、わかっているね」
空いた窓から身を乗り出す娘の隣で、禰豆子はこくりと小さく頷いた
「3人を屋敷まで…行ってくれ」
運転手が車のエンジンをかけ、ゆっくりと発進して無惨から離れていく
車を見送った無惨は、暗い路地へと向かって歩いていく…目を伏せて歩いていた無惨に、騒がしくしながら千鳥足で歩く酔っぱらいのひとりがぶつかった
屋敷へと到着した母娘の背後で、ゆっくりと扉が閉まる
それとほぼ同時に…ぐしゃりとなにかを叩き潰すような音がした
「……?」
母娘が振り向くと、そこには顔を下に向けたまま…涎をボタボタと垂らして佇む禰豆子の姿があった
その右手には、顔を握り潰されてびくびくと痙攣する使用人がいた
「っ…!?」
思わず悲鳴を飲み込む…母娘は、身近に本物の鬼がいた恐怖というものに遭遇していた
「私の顔色は悪く見えるか?私の顔は青白いか?」
無惨は怯える女の頬にそっと触れる
女の傍らには顔を潰された男の屍が…無惨の背後には大男の屍が転がっていた
痙攣しながら転がっている肉塊の何気ない一言が、無惨の琴線に触れた…理由はただそれだけだった - 106二次元好きの匿名さん25/10/31(金) 16:17:48
「禰豆子…?」
「お姉ちゃん…?」
ようやく、絞り出すかのように声を出した…か細い、蚊が鳴くような声を
使用人を離し、禰豆子は指にべっとりと付いた血液を舐め取った…瞬間、屋敷中の灯りが消える
「ごめんね…」
暗闇の中で、顔を上げた禰豆子の瞳が妖しく光る
「もう……我慢できない……」
母は娘を抱いたままよたよたと後退りする…何が起きているのか、理解が追いつかない
いや、脳は理解しようとすらしていなかった…ただ本能が逃げろとだけ告げている
「…いただきます」
母娘の悲鳴が、屋敷に木霊した
その掌は、不気味なほどに冷たかった
「病弱に見えるか?長く生きられないように見えるか?死にそうに見えるか…?」
瞬き一つせず、次々と投げかけられる問いかけに…女は答えることが出来ずにただただ震えていた
「違う違う違う違う…私は限りなく完璧に近い生物だ…」
無惨は女に触れていた手を離し、ゆったりとした動きで人差し指を立てる
爪が不気味な色へと変化しながら、鋭く伸びていく
めり、と音を立てて爪が女の額に突き立てられる
「私の血を大量に与え続けるとどうなると思う?」
女の身体がびくびくと痙攣しながら膨れ上がる
「人間の身体は変貌の速度に耐えきれず…細胞が壊れる」
最後には醜い肉の塊のようなモノへと変貌した女の身体が、溶けるようにして消えてなくなった
女の最後を見届けた無惨は、ぱちんと指を鳴らす
その音に反応したように、2匹の鬼が馳せ参じる
「耳に花札のような飾りをつけた鬼狩りの首を持ってこい…いいな?」
「御意」「仰せのままに」
命令を受けた鬼が姿を消す…無惨は、怒りに震えていた
「あの耳飾りは…!」
かつて自分を追い詰めた、たったひとりの化け物…あの化け物と全く同じモノを、あの鬼狩りは身に着けていた - 107二次元好きの匿名さん25/10/31(金) 16:24:49
「無惨様、その鬼狩りを始末する手筈…私の方でも整えさせていただきました」
「…釜鵺か」
やや遅れて現れたのは下弦の陸、釜鵺…その背後には、刀を携えた数人の少年少女がいた
あれは確か…あぁ、そうだ…そんなこともあった
「では行け…必ずあの鬼狩りの首を私の下へと持ってこい」
「お任せを」
足音と共に鬼の一団が消える
無惨は笑みを浮かべた…仮にあの鬼狩りが二匹を殺せたとしても…あの釜鵺が率いてきた鬼たちはどうだろうか…?
先刻甘い言葉ばかりを叫んでいたあの鬼狩りに、あの子たちが狩れるだろうか…?
腹の底から煮え滾っていた怒りが愉悦へと変わるのを感じた無惨は、ゆったりとした足取りのまま屋敷を目指した
「おやおや…いけない子だ…」
屋敷へと辿り着いた無惨は、小さく声を漏らした
少々予定が早まってしまった…が、全く問題はない…いずれこうなることは想定済みだった
禰豆子の興味が向かなければ、自分が始末していただけのこと…
血溜まりを踏み抜き、無惨は禰豆子の傍にしゃがみ込む
「『家族の肉』は美味しかったかい…?禰豆子…」
屋敷中の使用人、そして隠れ蓑としていた母娘の血肉を貪る禰豆子が…そこにいた
第六話 鬼舞辻禰豆子 終 - 108二次元好きの匿名さん25/10/31(金) 16:27:48
- 109二次元好きの匿名さん25/10/31(金) 16:31:52
- 110二次元好きの匿名さん25/10/31(金) 16:40:12
ワ、ワァ………(絶望)
- 111二次元好きの匿名さん25/10/31(金) 17:10:08
- 112二次元好きの匿名さん25/10/31(金) 17:14:53
このレスは削除されています
- 113二次元好きの匿名さん25/10/31(金) 17:15:01
明らかに(えっ聞いてない…)って顔してるじゃねえか!
- 114二次元好きの匿名さん25/10/31(金) 18:16:11
乙です!
- 115二次元好きの匿名さん25/10/31(金) 18:59:50
人間をモリモリ食べる禰豆子ちゃんは可愛いね♥
- 116二次元好きの匿名さん25/10/31(金) 20:01:01
鬼のにおいがどれだけ酷いのかってのは気になるところではあるけどめちゃくちゃ臭い禰豆子はちょっと興奮しますよね()
- 117二次元好きの匿名さん25/10/31(金) 21:14:03
乙です
あかん度重なる曇らせと守るべき家族不在で原作より「弱く」なっとる - 118二次元好きの匿名さん25/10/31(金) 21:32:46
スレ主です
保守時間の確保とSS作成の休憩がてら竈門兄妹の現在のスペックおさらいを…
竈門炭治郎
·産まれながらの痣持ち、呼吸持ち
·ヒノカミ神楽もとい日の呼吸の使い手+水の呼吸(ひとつだけ)
·戦闘時は基本的に赫刀
·そもそもの一般隊士における基本過程が全てぶっ飛んでいたため剣術などの基礎鍛錬が純粋な超強化となる
·「ハァイ!人喰い鬼ィ!」作戦で最終選別の鬼をあらかた殺し尽くす
・そこそこの異形の鬼、異能の鬼相手なら手加減していても殺せる
・感情による振れ幅が酷く、ブチ切れすると慈悲の欠片もなく鬼を殺す
·禰豆子が鬼となっていたのを目にして軽く絶望←New!!
竈門禰豆子
·鬼舞辻無惨の手によって鬼化、家族を喰らう
·炭治郎が狭霧山で鍛錬を積み重ねるように、人を喰らって力を増大…その数は数百人?
·無惨に気に入られ、『娘』のようにすぐ傍で過ごす
·家族を食べるの大好き、絶望して怯える人を食べるの大好き
·炭治郎に殺意を向けられて股を濡らす
·浅草の『家族』をバリムシャアする←New!
自分で言うのもなんですがこの兄妹はそれぞれの怖さがありますねぇ… - 119二次元好きの匿名さん25/10/31(金) 21:39:04
投下お疲れ様です。
鬼禰豆子ちゃんがとびきり業の深い思想に目覚めていて興奮しました。(戦闘性能は)チートが約束されしお兄ちゃんに負けじと頑張ってほしいですね。
守るべき家族がいるかどうか、炭治郎みたいな子には影響大きそうだもんなぁ…
仲間の存在で少しでも弱さを埋められたらと祈るばかり(それはそれとしてスレ主の容赦なき曇らせにも期待大)
- 120二次元好きの匿名さん25/11/01(土) 04:26:44
保守
- 121二次元好きの匿名さん25/11/01(土) 06:01:19
釜鵺好きだから出てきてくれて嬉しい
- 122二次元好きの匿名さん25/11/01(土) 12:39:23
それはそうと食いまくって生き残ってるということは禰豆子は鬼狩りも既に食ってる可能性がががが
- 123二次元好きの匿名さん25/11/01(土) 17:42:37
保守
- 124二次元好きの匿名さん25/11/01(土) 17:43:18
- 125二次元好きの匿名さん25/11/01(土) 17:44:43
屋台に荷物を置きっぱなしにしていたことを思い出して向かった炭治郎は、店主からこっぴどく怒られてしまっていた
「てめぇなぁ!あんなデタラメな支払い方すんじゃねぇぞ!それに荷物までそのままにしやがって!!都会ってのはなぁ!いい人ばかりじゃねぇんだぞ!!」
「うわぁ!ご、ごめんなさい!」
「わかりゃあいいんだ!…で、さっきのうどんはどうだった?」
「はい!美味しかったです!」
「まいどありぃ!」
店主から改めてお釣りを受け取った炭治郎は、優しく気前のいいうどん屋台の店主に別れを告げたのだった
第七話 やさしさの対価
「あ…待っててくれたんですか?」
「おまえを連れてくるように…あの方に言われたんでな」
電柱の影に隠れるようにして、あの時の少年が立っていた
「俺は匂いを辿れます…」
「目眩ましの術を使っているんだ…辿れるものか」
「目眩まし…?」
「…行くぞ」
少年は不機嫌そうな顔のまま、先を歩いていく…やがて行き止まりの前で立ち止まった
困惑する炭治郎の前で、少年が塀の中へと消えてしまう
「…え!?」
なんだ?なにが起きた?
「早く来い!誰もいない内に…」
その声に導かれるまま、炭治郎は塀に手を当てる
するり、となんの抵抗もなく手が飲み込まれる…そのまま塀へ飛び込むと…"反対側"へすり抜けた
そこには…不思議な札が貼られた大きな邸宅が聳え立っていた - 126二次元好きの匿名さん25/11/01(土) 17:48:40
「早く来い!いいか?あの方に失礼のないようにしろ…俺はおまえなんてどうなったっていいんだ!それをあの方がどうしてもと言うから連れて来たんだ…!」
鼻先が触れそうな距離まで顔を近づけ、少年は言った
もう俺がなにをしたんだって言いたくなる勢いで詰められている…理不尽だ、本当に
「どうぞ」
少年のノックに反応して、あの女性の声が聞こえてくる
「失礼します…ただいま戻りました」
扉の先…診察室らしき場所には白衣を纏った鬼の女性と、静かに眠る奥さんが居た
「先ほどは任せてしまいすみません…その奥さんは?」
「この方は大丈夫ですよ…ご主人は気の毒ですが、拘束して地下牢に…」
「あの……人の怪我の手当てをして…辛くないですか?」
憂いを帯びた横顔を目にして、炭治郎は思わず尋ねてしまった
ずどん!と胸元に一撃お見舞いされる
「鬼の俺達が…血肉の匂いに耐えながら人間の治療をしているとでも?」
「…ごめん」
少年が怒るのも無理はない…炭治郎は目を伏せて素直に謝罪した
「よしなさい、なぜ暴力を振るうの?」
女性が立ち上がり、少年を嗜める
その姿を見て、炭治郎は彼女にどこか母親にも近い気配を感じていた
「名乗っていませんでしたね、私は珠世と申します…その子は愈史郎、仲良くしてくださいね?」
「あ…」
はい、と返事をしようとして…やめた
隣から、なんだか物凄く嫉妬の匂いがしたからだ…いや、顔もすごい…なんか色々とすごい - 127二次元好きの匿名さん25/11/01(土) 17:59:45
「辛くはないですよ」
珠世の言葉にハッとする
「普通の鬼よりかなり楽かと思います…私は、私の身体をかなりいじっていますから…鬼舞辻の呪いも外しています」
「呪い…?身体をいじった…?」
わからない事が多すぎる…そんな炭治郎のことを分かっていたのか、珠世は白衣を脱いですぐ隣の和室へと案内してくれた
「先ほどの話の続きですが、私たちは人を喰らうことなく暮らしていけるようにしました…人の血を少量飲むだけで事足りる」
「血を…?」
「不快に思われるかもしれませんが…金銭に余裕のない方から輸血と称して血を買っています、もちろん彼らの身体に支障が出ない量です」
そうか、と炭治郎は合点がいった
自分が珠世さんの発動した血鬼術に囲まれ、接近されるまで彼女が血鬼術を発動した鬼であることに気づけなかったことに…
それでも、血が必要ということは…やはり完全には鬼の側面が抜けきれていないということなのだろうか?
「愈史郎は、もっと少量の血で足ります…この子は私が鬼にしました」
「え?あなたがですか!?」
炭治郎はその言葉に面食らった…鱗滝さんの話では…
「そうですね、鬼舞辻以外は鬼を増やすことができないとされている…それは概ね正しい…200年以上かかって、鬼に出来たのは愈史郎ただひとりですから」
「に、にひゃくねん…?」
珠世が鬼を生み出したという事実よりも…そっちの方が気になってしまった
「えええええ!!珠世さんはいったい何歳なんですか!?」 - 128二次元好きの匿名さん25/11/01(土) 18:10:18
「女性に歳を尋ねるな無礼者!」
びしびしと愈史郎の連撃が飛んでくる
「愈史郎、次にその子を殴ったら許しませんよ!」
「はい!」
珠世の一言で、愈史郎はビシッと姿勢を正した…なんだろう、本当にお母さんみたいだ
(怒った顔も美しい…!)
愈史郎さんから感じる匂いは、ちょっと違うけど…
ちりん…ちりん…鈴入りの手毬を゙つつく音が響いていた
「見えるかえ?」
手毬をつつく鬼、朱紗丸が尋ねる
「見える…見えるぞ、足跡が…これじゃこれじゃ」
掌に、瞳孔が矢印の形をした目のある鬼…矢琶羽が答える
「どうやって殺そうかのう?力が漲っておる…あのお方に血を分けていただいたおかげじゃ」
「それはもう残酷に殺してやろうぞ」
「鬼舞辻無惨の血が濃い鬼…一人は心当たりがあります」
「心…当たり…?」
「俺の妹です」
珠世が息を飲む音が聞こえる…炭治郎を警戒し睨み続けている愈史郎ですら、驚きに目を見開いていた
「妹から感じた臭いは、俺が今までに遭遇した中で一番濃かった…つまり…」
つまりそれだけ、力が強い鬼になっているということ…
「……伏せろ!!」
突然、愈史郎が叫んだ
次の瞬間には部屋に飛び込んできた手鞠があらゆる物を破壊しながら跳ね回り、灯りも消してしまう
「殺し方は決まったか?」
「それはもう…残酷に!じゃろ!?」 - 129二次元好きの匿名さん25/11/01(土) 18:18:39
鬼の数は2人、手毬を持った女の鬼と掌に目がある青年の鬼…炭治郎は日輪刀を片手に静かに立ち上がると、珠世と愈史郎を守るように立ちはだかった
「珠世さん、愈史郎さん…あなた達は俺が護ります」
珠世は、鞘から抜かれた黒い刀が目の前で赫い刀へ変わるのを目にした
(あれは…あの時の鬼狩り様と、同じ刀…?)
「アハハハハ!矢琶羽の言う通りじゃ!なにもなかった場所に建物が現れたぞ!」
「巧妙にものを隠す血鬼術が使われていたようだ…しかし朱紗丸、おまえは短絡的というか幼いというか…汚れたぞ!わしの着物がちりで汚れた!」
「ちっ、煩いのぅ…わしの鞠のおかげですぐ見つかったのだからよいだろう?」
朱紗丸は再び手毬を投げる…壁をぶち抜き、跳ね回ってから再び手元へと帰る
「ちっ…またしても汚れたぞ!」
「神経質めが…着物は汚れなどおらぬわ!それに…」
ホコリと煙が晴れていく…そこに、目当ての鬼狩りが既に刀を抜いて此方を睨めつけている
「見つけた見つけた…」
朱紗丸はふたつの手毬を投げる…それは妙な軌道で飛んでくる
炭治郎は手首を返して流れるように鞠を斬ろうとして…"避けられた"
「珠世様!!」
珠世へ向かって飛び跳ねた鞠から愈史郎が身を挺して珠世を護る…彼の頭が、西瓜のように弾け飛んだ
「愈史郎さん!!」
「アハハハ!ひとり殺した!花札の耳飾りをつけた鬼狩りは…おまえで間違いないかのぅ?」
手元へと戻った鞠を弄びながら、朱紗丸が問いかけてくる
「っ……!珠世さん!やつらの狙いは俺です!」
まさか、こんなことになるなんて…鬼舞辻無惨!あいつの差し金ということなのか!?
男性を鬼にしただけじゃなく、今度は俺の命まで狙いにくるなんて…
「炭治郎さん…私たちのことは気にせず戦ってください、守って頂かなくて結構です…"鬼"ですから」
珠世の言葉の意図に、炭治郎は気づいた
あぁ…そうか…そういうことか…珠世さんも愈史郎さんも…
「それじゃあ…これで終わりじゃあ!!」
力一杯投げられた鞠が、真っ二つに斬られる
「ほぅ…斬ったか?じゃが……?」
ボロボロと、鞠が崩れて消える…その光景を目にした矢琶羽は直ぐに構えた…あの男…今までの鬼狩りとは違う! - 130二次元好きの匿名さん25/11/01(土) 18:26:11
「愈史郎…」
珠世の呼びかけに応えるようにして、愈史郎の頭部が再生を始める
「珠世、さま…俺は言いましたよね!?鬼狩りに関わるのはやめましょうと、最初から!俺の目隠しの術も完璧ではないんです!あなたにもそれはわかっていますよね!?」
そういうことか…愈史郎さんの血鬼術のおかげで隠れられていた
「建物や人の気配や匂いを隠せるが存在自体を消せるわけではない!人数が増えるほど痕跡が残り…鬼舞辻に見つかる確率も上がる!」
だがそれは逆に俺が鬼の接近をここまで許してしまったことにも繋がる
『隠せる』のは相手も同じ…ある意味ここは"箱"なんだ…開けるまで中身がわからない箱
「あなたと2人で過ごす時を邪魔する者が…俺は嫌いだ!許せない!」
「なにか言うておる…おもしろいのう…おもしろいのう!十二鬼月である私に殺されることを光栄に思うがよい!」
朱紗丸は羽織を脱ぎ、着物の上半身を開けさせた
「十二鬼月…?」
「鬼舞辻直属の配下です!」
珠世から言葉を聞いた炭治郎の口角が吊り上がるのを、珠世と愈史郎は目にした
朱紗丸が笑いながら腕を六本に増やしたかと思えば、鞠すべての手へ鞠を携え…投げ飛ばす
(ここで私の術を発動すれば炭治郎さんにもかかってしまう…愈史郎も攻撃に転じるには時間が必要…)
「珠世さん…愈史郎さん…あと少しだけ我慢してください」
当たりそうな鞠だけを弾きながら、炭治郎が語りかける
「すぐ戻ります」
炭治郎の姿が、消えた - 131二次元好きの匿名さん25/11/01(土) 18:36:44
「…っ!それ見たことか!おまえは攻撃が短絡的すぎる!」
矢琶羽が掌を鞠へと向け、軌道を変える…六つの鞠が鬼狩りを狙うように縦横無尽に動き、跳ね回る
だが、その全てをヤツはいとも簡単に斬り落とした
「…あの鞠の違和感は、おまえの仕業か?」
まずい!矢琶羽はとっさに血鬼術を鬼狩りにかける
上空へと引っ張られるようにして持ち上げられた炭治郎は、すでにきな臭さを感じていた
(…こいつ、まさか触れずに力の流れを操れるのか?)
ぐん、と今度は地面に叩きつけるように力が下へと向く
その下向きの力をそれ以上の力で打ち消し、着地した炭治郎はぱんぱんと羽織りについた汚れを払った
「…愈史郎、気づきましたか?」
「はい…あいつ、まさか…おい!鬼狩り!おまえ、まさかあの矢印がわかるのか!?」
「矢印!?なんのことだ!?」
((………は?))
珠世と愈史郎はその返答に思わず凍りついたまさか…本能的にあの血鬼術の性質に気づいたのか…?
鞠の攻撃への反応速度もだが、いくらなんでも出鱈目がすぎる…!
「その矢印がなんのことかよくわからないけどもう大丈夫!次は喰らわない!」
「なにを偉そうに…!偉そうに!!」
さっき以上の速度で鞠が襲いかかる…俺だけを狙ってくれるなら好都合だ
鞠による包囲を抜けられ、一瞬で距離を詰められた朱紗丸の脚がもつれた…まずい、刀が来る…!ふっ、と鬼狩りの影が溶けるようにして消えた
「がっ!?」
悲鳴に気づいて視線を矢琶羽へと向ける…あいつはそこにいた…矢琶羽の両の手脚と頸が空を舞っている
矢琶羽の血鬼術を失った鞠が制御を失ってあちこちに跳ねて飛んでいってしまった…早く、早く新しい鞠を…!
「ヒノカミ神楽『幻日虹』…」
鬼狩りは、もう目の前に来ていた - 132二次元好きの匿名さん25/11/01(土) 18:42:59
べしゃ、と顔が地面に叩きつけられた
こやつ…こやつこやつこやつ…わざとじゃ!わざと刀の軌道を変えて生かしおったのか!?
腕と脚の感覚が消えている…臓物がまろびでいる…鬼狩りに髪を掴まれて頭を持ち上げられる…
「ひぃっ!?」
せめて睨み返してやろうという考えが打ち砕かれた
鬼狩りの冷たく殺意に満ちた瞳…表情の消えた顔…ガチガチと歯が鳴る…朱紗丸はただただ震えていた
「おまえにも答えてもらおうか…」
「……なんだ?もう終わっていたのか?」
その声に、炭治郎は朱紗丸を離して振り向く
「まぁいい…鬼狩り、おまえに素敵な贈り物だ…」
「……あれは!炭治郎さん!」
恐らく炭治郎は気づいていない…新しく現れた鬼の瞳に"下陸"の文字が刻まれていることに
それだけを告げてからしゃがみ込んだ下弦の鬼の背後…屋敷への隠れ道から数人の少年少女が現れた
「………っ!!」
炭治郎はその顔の全てに、見覚えがあった
みんな、最終選別で助けた子たちだった…なんで、なんでこんなところに!!
なんであの人たちが鬼になってここへ来ているんだ!?
「…おまえが悪いんだ、全部…おまえが!」
先頭に立っていた少年は、異形の鬼から助けたあの少年だった
あの時、鬼から彼らを救った優しさの対価は…鬼と化した彼らから向けられる殺意という形となって帰ってきた
第七話 やさしさの対価 終 - 133二次元好きの匿名さん25/11/01(土) 18:45:38
- 134二次元好きの匿名さん25/11/01(土) 18:49:27
- 135二次元好きの匿名さん25/11/01(土) 18:52:13
乙です!
矢琶羽と朱紗丸瞬殺でしたね - 136二次元好きの匿名さん25/11/01(土) 19:23:18
- 137二次元好きの匿名さん25/11/01(土) 20:31:37
>>"本物"の十二鬼月
ただでさえジェネリック縁壱にボコられてメンタル限界なのに、自分たちは十二鬼月では無かったというメンタルダメージが襲う!
- 138二次元好きの匿名さん25/11/01(土) 20:36:07
- 139二次元好きの匿名さん25/11/01(土) 22:05:33
- 140二次元好きの匿名さん25/11/01(土) 22:14:17
- 141二次元好きの匿名さん25/11/01(土) 23:35:31
これはいい曇らせですね…乙です!
- 142二次元好きの匿名さん25/11/02(日) 05:57:34
ほしゅ
- 143二次元好きの匿名さん25/11/02(日) 13:02:52
投下お疲れ様です。
っぱつえぇわ赫刀ヒノカミ炭治郎…なので曇らせを増やしてバランスを取ります。なスレ主大好きだよ。曇らせ内容もバリエ豊富でワクワクすっぞ! - 144二次元好きの匿名さん25/11/02(日) 17:01:25
- 145二次元好きの匿名さん25/11/02(日) 17:03:32
「うっ……げぇっ……おえっ……げほっ…っ!」
炭治郎は思わず地面に這いつくばって吐瀉物をぶち撒けた
まともな呼吸が出来ず、ひゅうひゅうと苦しげな音がする
襲い来る白刃をなんとか転がって避ける…だがその先でも、さらにその先でも…白刃は炭治郎の命を狙っていた
第八話 透き通る世界
「ん〜……思ったより粘るな、あいつ」
トントン、と自分の膝を指でつつきながら釜鵺はその光景を眺めていた
何度か斬られてはいるが、その全てが致命傷に至るものではない…しかしそれも時間の問題だろう
ヤツの動きがさっきとは比べ物にならないほど鈍くなってきている
「…っ!なんでだ!なんで君たちが鬼になってるんだ!」
「おまえのせいだと何度言えばわかる!!」
少年の怒りが籠もった一撃を受け止める
「俺は…俺たちは苦しみながらも鍛錬を耐え抜いた…耐えて耐えて耐えて耐えて耐えて!!なのに…それなのに!俺たちはあの場所でただ逃げ惑うしか出来なかった!」
少年が叫んだ…刀を押し返し、たたんと後ろへ跳ぶ
「なのにおまえはなんなんだ!あの異形の鬼にも立ち向かって…倒して!七日間休みもせずにあの山にいた鬼をほとんどひとりで狩りまくった!」
「それが、どれだけ私たちを苦しめたかが…貴方にわかるの!?」
少女の一撃が脇腹を切り裂く
「おまえが俺たちを生かしたから…俺たちは『黒死牟』様から血を…」 - 146二次元好きの匿名さん25/11/02(日) 17:16:11
『黒死牟』、その名を聞いた珠世の身体が震える…まさか、あの鬼が近くに…!?
「その血から俺たちは無惨様に認められて鬼になったんだ!どうでもよくなってた…鬼への憎しみも、自信も、なにもかも!全部おまえが壊したんだからな!!」
「……だからってなんで!なんでだ!誰かを失う辛さは自分が一番わかってるじゃないか!」
炭治郎の叫びに応えるように、背中が切り裂かれた…熱い、痛い…!
炭治郎はついに膝をついてしまう…出血で視界がぼやける
「鬼になるしか…もう道が残されてなかったからだ!おまえが道を潰した!おまえが…おまえが悪いんだ!」
「もうやめて!!!」
ひとりの少女が、炭治郎の前に立ちはだかった
ガタガタと震えて涙を流しながら、炭治郎を刃から庇っていた
「やっぱりやめようよ…おかしいよこんなこと!!」
少女は必死に声を張り上げる
「確かに、この人が私たちより強かったから…道を踏み外したのかもしれない…でも…でも!最後にこの道を『選んだ』のは私たちなんだよ!?」
その一言に、全員の動きが止まった
「この人みたいに、もう一度立ち上がればよかったのに…立ち上がれなかったのは私たちの心が弱かったからだよ!だから…!だから!」
「…うるさい!」
少年が少女の頬を叩いた…少女がごろごろと地面を転がる
「わかってる…わかってるんだよそんなことは!とっくの昔にぃ!」
振り上げられた刀が、カタカタと震えている
「『選んだ』から…こうするしかないんだろうがぁぁぁぁぁぁ!」
「炭治郎さん!」
珠世が叫ぶ…炭治郎は…膝をついたまま動かない
その刃が炭治郎の首筋に届こうとした瞬間…少年の頸がことんと落ちた
「干天の慈雨…」 - 147二次元好きの匿名さん25/11/02(日) 17:30:03
ゆっくりと立ち上がった炭治郎は、頬を押さえて涙を流している少女の前でしゃがみ込んだ
「…ありがとう、君の言葉で救われた…それと…ごめんな…痛かっただろ?」
ぽん、と頭に乗せられた掌…温かくて、力強い…兄のような掌…ぱさ、と彼が羽織っていた赤い羽織りが頭からかけられる
「見ないほうがいい…きっと、見たら辛い思いをする」
ひゅう、と呼吸を再開した炭治郎は次々と残った少年少女の頸を斬り落としにかかる…怯える者、泣き叫ぶ者、赦しを乞う者、その全てを容赦無く斬り落とした
黒刀の纏う水が、彼の最後の慈悲を物語っていた
「あ〜あ、結局こうなっちまったか…黒死牟様の言った通りだ」
釜鵺はこの少年たちを譲り受けた時のことを思い出していた
「あまり…期待はせぬことだ…釜鵺」
「はぁ…」
「おまえの言うように…その剣士の心を折ることは…可能だろう…だが…」
黒死牟は、自らが手の内に加えたはずの鬼たちへただの一瞥もくれずに立ち去っていく
「其奴らは…最早…剣士ではない…」
ガチン、と爪が黒刀で止められる
しかしこいつは上手い…!刃を滑らせて右腕を飛ばしてきた
頸を狙った刃を跳んで避けた釜鵺は、腕を再生させて構える
「でもまぁ…いい仕事はしたかぁ」
この鬼狩りは確実に弱っている…今なら、俺でも倒せる - 148二次元好きの匿名さん25/11/02(日) 17:42:02
(……外した?いや、外されたのか?)
炭治郎は霞んだ目を擦り、再び釜鵺と対峙する
さっきの頸を狙った一撃、本来なら当たっていてもおかしくはなかった…それなのに外れた
その"違和感"を確かめるように、炭治郎は前へと踏み込んで刃を振るう…また外れた
振るわれた爪を弾き、刃を返す…今度は受け流した刃も外れた
(混乱してやがるな…しかしこいつ、攻撃には当たるぎりぎりのところで反応してやがる)
まさか、俺の血鬼術に気づき始めているのか?
刀と爪がぶつかる金属音が響く中、炭治郎は頭の中までぼやけてくるのを感じていた
まずい、このまま戦いが長引くと先に倒れるのはこっちだ…呼吸も乱れそうになってきている…そんな時だ
(…あれ?)
攻撃を捌きながら、炭治郎は違和感に気づいた
奴が攻撃を躱す瞬間…筋肉や骨、内臓が目の前の身体と微妙に"ズレた"位置にあることに
なんだ…?こんなものは初めて見た…奴の身体が透けて見えているのか…?…そうか、奴は…!
釜鵺の首筋を赫刀が掠めた
(今のは危なかった…!おかしい…血鬼術は発動している…奴には俺の正確な位置が捉えられないはずなのに…)
「…身体の位置を相手の視界からズラしてるんだろ?」
びくん、と身体が跳ねた
こいつ…見破りやがった!見破りやがったのか!? - 149二次元好きの匿名さん25/11/02(日) 17:49:52
「…だったらなんだ?俺の正確な位置がわかるってのか!?」
「……わかる」
かたん…瓦礫が落下した音を引き金に、2人は同時に動いた
釜鵺の爪が炭治郎の肩を掠める…だが同時に、ヤツの刃も迫っていた
「ヒノカミ神楽…」
大丈夫、大丈夫だ…身体の位置は限界までずらした!当たらない、当たるはずがない!
「飛輪陽炎!」
めきっ、と頸に刃が食い込む…刃が…伸びた!?
その剣術のカラクリに気づく間もなく…釜鵺の頸は空を舞った
炭治郎は膝をついた…やった、なんとか倒した…!
いや、まだだ…さっきの手毬鬼…鬼舞辻無惨のことを聞き出さなければ…
「何故じゃ…何故じゃ…」
ずりずり、と音がする…見ると朱紗丸が悔しそうに暴れていた
「…身体が回復しない…何故じゃ…」
「…十二鬼月のお嬢さん、あなたは上手く利用されてしまったようですね」
「…は?なにを言っておる…?」
朱紗丸はなんとか顔だけを珠世へと向けた…すっ、と彼女の細指が自分の目へと向けられる
「瞳に数字が刻まれていない…貴方が十二鬼月だというのならば…鬼舞辻から数字を与えられているはずです…ですが、あなたにはそれがない」 - 150二次元好きの匿名さん25/11/02(日) 17:56:40
ぼろぼろと崩れていく釜鵺の身体を指して、珠世は続ける
「彼は、どうやら"本物"のようでしたね…あなたのような"偽物"と違って…」
「ち、違う!違う違う!私はあのお方に認められたのじゃ!血を分けていただいたのじゃ!」
朱紗丸はその事実を認めたくないと言わんばかりに首を振る…もぞもぞと、再生しない身体でばたつきながら
「貴様ら逃れ者になにがわかるのじゃ…あのお方の力と能力は凄いのじゃ…!鬼舞辻様の力は!!」
そこまで言って、朱紗丸の言葉が止まる
「ぎゃああああ!お、お許しください無惨様!ゆ、許して…」
泣き叫ぶ朱紗丸の身体中から腕のようなものが生えてきた
目を見開く炭治郎の前で、その腕は朱紗丸の頭を握り潰してしまう
「……これが、鬼舞辻の呪いです…体内に残留する鬼舞辻の細胞に肉体を破壊されること」
珠世は残っている朱紗丸の肉体から、血を採取していく
「基本的に鬼同士の戦いは不毛です、意味がない…致命傷を与えることが出来ませんから…陽光と鬼殺の剣士の刀以外は…ですが、鬼舞辻は鬼の細胞の破壊が出来るようです」
箱の中へ採取した血をしまって、珠世は炭治郎の下へと歩み寄る
「炭治郎さん、この方は十二鬼月ではありません…恐らく、最初に斬られた方も…ですが」
珠世が愈史郎から箱を受け取る…いつの間にか、愈史郎があの鬼から血液を採取していたらしい
「3人目の鬼は、十二鬼月です…」 - 151二次元好きの匿名さん25/11/02(日) 18:01:14
「…そうですか、それにしては…」
「あまり強くない…その感覚は間違いではありません…」
どうやら珠世には見透かされていたようだ…珠世は炭治郎が立ち上がれるように優しく肩を貸す
背後から愈史郎の射殺すような視線を感じる…ひとりで歩けるなら歩きたいが、このダメージは正直きつい
「私の目で見えたものが間違いなければ、あれは"下弦の陸"…十二鬼月の最下位に位置するものです」
「…珠世さん、珠世さんさえよければ…もっと話してください…鬼のこと、鬼舞辻の呪いのこと…十二鬼月のことを…」
「その前に…傷の手当てをしましょう…愈史郎!睨んでないでそちらの子をお連れしなさい!」
ギリギリと歯を食いしばる珠世が愈史郎を嗜める
ふと、炭治郎も思い出したように目を向けると、先ほど自分を庇った鬼の少女が屋敷の傍で蹲っていた
「そこでは陽光に曝されてしまいます…さぁ、早く地下に」
「はい!…おいおまえ!そんなところに座っていないで付いてこい!」
ビシッと姿勢を正した愈史郎が少女を立ち上がらせようと声をかける
「……もういいよ、私は…このままでいい…」
「ぐっ…!珠世様が来いと仰ってるんだぞ!大人しく俺たちに…!」
「行かない…行きたくない…」
「珠世さん、俺は平気ですから…先に地下へ」 - 152二次元好きの匿名さん25/11/02(日) 18:06:10
痛みを堪えて珠世から離れると、拳を握り締めている愈史郎の肩を叩いた…少女の傍らにしゃがみ込み、頭を撫でる
「ほら…一緒に行こう」「やだ」
「大丈夫…もう誰も怒ってないから」「やだ!」
「………お兄ちゃんの言うことが聞けないのかーっ!」
「いだあああああああああああ!?」
思わず拳骨を繰り出してしまった…脳天に一撃お見舞いされた少女は、信じられないと言った顔で炭治郎を見つめる
「俺は君に助けられたんだ…そして、珠世さんと愈史郎さんに会って確信した…」
ぎゅっ、と優しく少女を抱き締める
「俺がこれだけ血を流していても…君は弱りきっている俺を喰おうともしていない…大丈夫、君は…人間だ」
「にん、げん…?」
「そう、俺と同じ…人間だ」
「う…ひぐ…うわあああああああああああん!!」
緊張の糸が解れた少女が、炭治郎にしがみついてわんわんと泣き始めた
炭治郎は少女を落ち着かせるように背中をぽんぽんと叩く…手を貸して立ち上がらせると、地下室の入口でまだ恨めしげな目を向けている愈史郎の下へと歩いていく
小鳥のさえずりと共に、太陽が顔を出す…地下室の扉が、重々しい音を立てて閉まった
(それにしても…さっき見えたあの透き通るような世界は…なんだったんだろうな…)
そこまで考えて…炭治郎は意識を手放した
第八話 透き通る世界 終 - 153二次元好きの匿名さん25/11/02(日) 18:13:10
- 154二次元好きの匿名さん25/11/02(日) 18:48:04
このレスは削除されています
- 155二次元好きの匿名さん25/11/02(日) 19:16:43
- 156二次元好きの匿名さん25/11/02(日) 20:30:10
- 157二次元好きの匿名さん25/11/02(日) 21:01:24
響凱瞬殺されると思うからここでも他の下弦追加されそう
- 158二次元好きの匿名さん25/11/02(日) 22:04:14
乙です
救える命があってよかった……! - 159二次元好きの匿名さん25/11/02(日) 22:07:55
保守はしておこう…スレは簡単に落ちる…
- 160二次元好きの匿名さん25/11/03(月) 02:00:47
保守
- 161二次元好きの匿名さん25/11/03(月) 06:52:32
この炭治郎は善逸伊之助とどうやって仲良くなっていくんだろ
- 162二次元好きの匿名さん25/11/03(月) 11:59:30
投下お疲れ様です。曇らせも救いもきっちりこなすスレ主の腕に感嘆です。下げて上げてのアップダウンで整っていく~
炭治郎を庇ってくれた女の子も、他の少年少女も、折れてしまった自分達の選択の結果だとわかっているのが、折れてしまったのだとしても選別試験に辿り着くまで頑張った心根をうかがえてよりお辛いっす(好き)
一人だけでも救えた命あまりに尊い。そんでその子が妹属性なのがなんらかの意図を感じさせて武者震いが止まりません
前回から予告に禰豆子ちゃんが来てくれるので毎回キュンキュンします。無邪気な笑顔で邪悪なこといってる女の子はいいぞ! - 163二次元好きの匿名さん25/11/03(月) 16:07:09
- 164二次元好きの匿名さん25/11/03(月) 16:08:16
「あまり、無理はなさらないように…」
「はい、ありがとうございました…その…色々と…」
ぽり、と炭治郎は頬をかく
自分では覚えていないのだが、どうやら珠世さんを母親と勘違いした挙句しがみついて泣きじゃくっていたらしい
そのせいか珠世の背後では、この世の全てを恨んでいるかのような目をした愈史郎がいた
「構いませんよ…それと、この子のことなのですが…」
隣で眠る鬼の少女の頭を、珠世がそっと撫でる
「私たちに…引き取らせていただけませんか?」
第9話 猪はどつき、善逸は殴る(前編)
「南南東!南南東!次の場所は南南東!」
「わかったよ、わかったから黙っててくれ…刀傷に響く」
珠世たちと別れた炭治郎は、一路南南東を目指していた
珠世さんの治療でかなりマシになったとはいえ全身刀傷だらけで時折引き攣るような痛みが襲ってくるのだ
その痛みも呼吸でもかなり抑えているの方なのだが、炭治郎は内心不安になっていた
(…余り動くと傷が開くかもしれないって珠世さんにも言われたし、気をつけないとな)
そうならない自信がない…でもある意味ちょうどいい機会かもしれない
この身体で速く動く事が出来たのなら…先々の戦いでの糧となる
「頼むよぉぉぉぉぉ!」
耳をぶち抜くかのような大声が響いてきた
「頼む頼む頼む!結婚してくれ!いつ死ぬか分からないんだ俺は!だから結婚してくれ!頼むよォーーーーーッ!!」
「…なんだ?」
なんで道端で求婚を…?いや、それにしては女性の方は拒絶しているようだが…怪訝な顔をする炭治郎の下へと、あの金髪の少年のものらしい雀が飛んでくる - 165二次元好きの匿名さん25/11/03(月) 16:12:08
チュンチュンとなにかを訴えるように鳴く雀
「よし、わかった…任せろ」
相変わらず結婚してくれと叫び続ける金髪の少年の頭を、炭治郎は鷲掴みにして締め上げた
「ぎぃやあああああああああああ!?」
雲一つない青空に…汚い悲鳴が響き渡った
散々だった、求婚していた女性にはビンタされてフラれるしなにより痣の少年に喰らったアイアンクローと拳骨の痛さが半端じゃない
「なんで俺の結婚の邪魔す…なんだよその顔!」
痣の少年に噛みついた善逸はまるで変な生き物を見るかのような顔をされて早速泣きそうになった
「やめろーっ!なんでそんな別の生き物見るような目で俺を見てんだ!?おまえ責任とれよ!おまえのせいで…なにか喋れよ!?」
彼の顔は…道端に転がるゴミでも見ているかのような顔にパワーアップしていた
「俺はもうすぐ死ぬ!次の仕事でだ!俺はものすごく弱いんだぞ舐めるなよ!俺が結婚出来るまでおまえは俺を守れよな!」
「おまえじゃない、俺は竈門炭治郎だ」
「そうかい!ごめんなさいね!俺は我妻善逸だよ!助けてくれよ炭治郎!」
今度は自分に縋り付いてくる善逸…ワンワンと泣き叫ぶし、聞いてやれば身の上話をこれでもかと話してくる
だが、彼の"弱い"という言葉に炭治郎は納得がいかなかった…だって俺は…最終選別で善逸を一度も助けていない
あの七日間、まずいと感じた子だけを助けに行った…だから最終日に出逢った子たちは全員その必要がないと感じた強さを持っているはずなのだ - 166二次元好きの匿名さん25/11/03(月) 16:20:51
「善逸の気持ちもわかるよ」
「そうか…?でも炭治郎さんって…確か最終選別でほとんどの鬼を狩り尽くしたんだろ?爺ちゃんからそんな話をされたんだけど…」
炭治郎さん…?先ほどのアイアンクローの影響なのか、他にも色々と話した影響なのか、なぜか名前だけさん付けになるという違和感に遭遇していた
「まぁ…おかげでちょっと痛い目は見たけどね…腹減ったのか?」
隣でお腹を擦っていたのを見て、炭治郎は荷物入れからおにぎりを出すと善逸へと差し出す…未だに涙目の善逸は大人しくそれを受け取ってもぐもぐと食べ始めた
「けどな、善逸…少なくとも、俺は最終選別で善逸を助けていないはずなんだ」
「え…?どういうこと…?」
「善逸だけじゃない…最終日あの場所にいた子は全員そうだなんだ、だからな…善逸は少なくとも自分で鬼を倒して生き残ったはずだ」
俺が…?炭治郎の横顔を眺めながら、善逸はひとり耳を澄ませていた
「それはそうと、あまり雀を困らせないようにしないと…」
「…言葉がわかるのか?」
「ちゃんと言ってるじゃないか…ほら」
いつの間にか雀は炭治郎の肩にいた…しかも、なぜか自分といる頃よりも誇らしげにチュンチュンと
「えっと…そんな風に仕事には行きたがらないし女の子にはすぐちょっかい出す上にイビキも煩くて困ってるって…」
炭治郎の肩の上で、そうだそうだと言わんばかりにチュンと鳴く
「…なんで鳥の言葉がわかるの…?嘘言ったりしてないよな?」 - 167二次元好きの匿名さん25/11/03(月) 16:27:24
「カァッ!駆け足!駆け足!竈門炭治郎!我妻善逸!共に向かえ!次の場所まで!」
困惑する善逸の目の前で、今度は鴉が喋りだした
悲鳴を上げて転がる善逸…もうどう慰めたものか…転がりたいのは炭治郎の方だった
やがて炭治郎と善逸のふたりは、ひとつの古びた屋敷へと辿り着く
「…血の匂いがするな…いや、でもこの匂いは…」
「それよりもなにか変な音がしないか?あとやっぱり俺たちって共同で任務にするのかな…」
「音…?」
ガサッ、と藪が揺れる音がする
日輪刀に手をかけて振り向いた炭治郎の目に、幼い少年と少女の姿が見えた
「…子供だ」
「どうしたんだ?こんなところで…」
炭治郎が声をかけると、脅えたような目でふたりは下がってしまう
「…あぁ、そうだ」
なにか思いついたように、炭治郎は鎹鴉と雀を呼ぶ
「じゃ〜ん!手乗り雀に肩乗り鴉だ!可愛いだろ?」
チュンチュンと手のひらでステップを踏む雀と肩でゆらゆら揺れる鴉を見て緊張が抜けたのか、ふたりはへなへなとへたりこんだ
「大丈夫か?なにかあったのか?あれはふたりの家か?」
「ち、ちがう!ちがう…あれは…」
カタカタと震えている少年が、絞り出すように声を出す
「化け物の家だ…」 - 168二次元好きの匿名さん25/11/03(月) 16:33:16
ふたりから事情を聞いた炭治郎は、何の迷いもなく屋敷の入り口へ向かっていく
「善逸、行こう」
恐怖からか、善逸は首を横に振る
「そうか…わかった、それなら善逸はそこでふたりを守ってやれ」
「えっ…!?」
「中の鬼は俺一人でなんとかするから」
それだけ言うと、炭治郎はずんずんと屋敷の中へと踏み込んでいく
「ま、待って待って待って!やっぱり俺も行くよぉぉぉぉ!だから放っておかないでぇぇぇぇ!!」
「そういう意味じゃない!あの子たちにもしものことがあった時、守れるのはおまえだけだから任せようと…こら、駄目じゃないか!」
縋り付いてくる善逸を何とか引き剥がした時、炭治郎の目に追いかけえきた少年たちが目に入る
「あ、あの…さっき話し忘れたことがあって…」
「わ、わかった!それなら話を聞くから一度戻ろう!ここは危ないから…善逸!いつまでも俺にひっつくな!」
ごん、と脳天に軽い拳骨が落ちる
「ひんっ!!ごめんよぉ〜〜〜!!そうだよね、こうなるから炭治郎さんは俺に残れって言ったんだよね!?」
炭治郎が少女を、善逸は必然的に少年を連れて外へ向かおうとした…その瞬間だった
凄まじい家鳴り…屋敷全体が軋んでいるかのような音がした…ゾッとしながらも玄関へ向けて歩き出す
ポン!と鳴り響く鼓の音…その音が響いた瞬間、先ほどまでいたはず部屋の景色が変化していた - 169二次元好きの匿名さん25/11/03(月) 16:35:28
- 170二次元好きの匿名さん25/11/03(月) 17:27:44
- 171二次元好きの匿名さん25/11/03(月) 19:18:29
このレスは削除されています
- 172二次元好きの匿名さん25/11/03(月) 21:03:42
全員は死なず1〜2人くらいが生き残って欲しいタイプです
- 173二次元好きの匿名さん25/11/03(月) 21:35:10
そこに至るまでの経過の筋がきちんと通っていれば人の心なくてもいいと思います
意訳:スレ主の性癖の赴くままに書いちゃえばいいんだよ! - 174二次元好きの匿名さん25/11/03(月) 21:58:58
乙です!原作に+2くらい生き残れたら嬉しいですね……
- 175二次元好きの匿名さん25/11/03(月) 22:04:20
- 176二次元好きの匿名さん25/11/04(火) 02:10:37
保守
- 177二次元好きの匿名さん25/11/04(火) 07:40:47
楽しみ
- 178二次元好きの匿名さん25/11/04(火) 17:17:40
保守
次スレ以降も楽しみにしてます - 179二次元好きの匿名さん25/11/04(火) 17:28:16
- 180二次元好きの匿名さん25/11/04(火) 17:31:35
景色が変わった…いや、移動させられたのか!?
直ぐ側には、ガタガタと震える少女がいた
「お兄ちゃんと離れ離れにしてごめんな?安心して、俺が必ず守るから…名前は?」
「てる子…」
「そうか!いい名前だ…てる子、俺の手を掴んで離さないで…いいね?」
ぎしっ、と足音がした…音がした方向へ目を向けると…身体のあちこちから鼓を生やした鬼が、そこにいた
「死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ!炭治郎さんと離れた!確実に死ぬ!!」
「てる子!てる子!どこだ!?」
善逸は叫び、少年は離れた妹の名前を大声で叫ぶ
「ちょ、ちょっと待って!!一回外に出よう!これは子供だけではどうにかなることじゃないから!妹の…てる子ちゃん?は炭治郎さんが居れば平気だよ!だってあの人は強い音が」
ガラッと玄関へと繋がる戸を開く…開いたはずだった
だがそこにあったのは、なんてことない平凡な部屋
「嘘だろ嘘だろ嘘だろ!外はどこいったの!?こっち!?こっちか!」
ばん!とやや乱暴に開いた襖…その部屋の中心に…すごいのがいた
猪の頭をして、刀を2本構えたやばいやつが
「バケモノだぁぁぁぁぁぁぁっ!?」
悲鳴を上げて踞った善逸を無視して、その猪は何処かへ走り去ってしまう
「…なんだよぉ!なにその目!やだそんな目!」
少年からは、軽蔑の目線と音がした - 181二次元好きの匿名さん25/11/04(火) 17:37:48
「てる子、叫ぶのは我慢だ…部屋は動くから廊下には出るな…退がって棚の後ろに隠れるんだ」
悲鳴を上げそうになっていたてる子の口を塞ぎながら、炭治郎は簡潔に伝えた
こくこくとてる子が頷いたのを確認すると、日輪刀を抜いて鬼へと視線を向ける
「なぜだ…どいつもこいつも他所様の家にづかづかと入り込み…腹立たしい…」
ぶつぶつと、鼓の鬼は譫言のように呟いている
「小生の獲物だぞ…小生の縄張りで見つけた…小生の獲物だ…あいつらめ…あいつらめ…」
「おまえがここに潜む鬼か?拐った子をどこへやった!」
炭治郎の問いかけに鼓の鬼は答えない
「俺が見つけた…"稀血"の子どもなのに!」
炭治郎が斬りかかるのと同時に、鬼が右肩の鼓を叩いた
それと同時に、部屋が回転した…てる子がバランスを崩して転倒する…なんとか着地した炭治郎は、改めて周囲を確認した
"畳"が"壁"になっている…これがこの鬼の血鬼術なのか?部屋自体が回転したということは…この建物全てが、鬼の縄張りということになる
どうしたものかと思考を巡らせた炭治郎の鼻を、新しい匂いが掠める
「猪突猛進!猪突猛進!」
猪頭の男が、障子を突き破って姿を現した - 182二次元好きの匿名さん25/11/04(火) 17:46:10
その男は、2本の刃毀れした日輪刀を持っていた
「さぁ化け物!屍を晒して俺がより強くなるための!より高く行くための踏み台となれぇ!」
猪男は言うが早いか鼓の鬼へと斬りかかる
再び鼓が打たれ、部屋が回転した…受け身を取れずに転ぶてる子
「てる子!家具に掴まれ!」
なにかに掴まれば多少はマシになるだろうか…てる子を助けようと動き出した炭治郎を足場にして、猪男は再び鼓の鬼へと斬りかかる
そのせいで部屋がまた回転してしまう
「そいつは異能の鬼だ!無闇矢鱈に斬りかかるのはよせ!」
炭治郎の言葉を聞いたからなのか、それとも鼓の鬼が手を止めたからか…部屋の回転が止まった
てる子の苦しげな悲鳴が聞こえる…見れば、猪男がてる子を思い切り踏みつけていた
「アハハハハハハ!部屋がぐるぐる回ったぞ!面白いぜ!面白いぜぇ!」
伊之助は出会ったことない鬼の力に興奮していた
しかし、その興奮すら上回る殺気が肌を貫く
「人を…」
いや、気づいた頃にはもう背後にいた
「踏みつけにするな!!」
力技で畳へと頭を叩きつけられた
「こんな小さな子を足で踏み付けるなんてどういうつもりだ!」
自分を押さえつけている男が怒鳴って来た…空いた手で少女を慰めているのを肌で感じる
が、問題はそれだけじゃなかった
(う、動けねぇ………!?)
どれだけ力を込めても微動だにしない…俺様が力で跳ね返せねぇ…!?なんだこいつ!? - 183二次元好きの匿名さん25/11/04(火) 17:55:11
「虫め…消えろ…シね…」
ポン、と鼓が鳴る
ぐん!と頭を引っ掴まれたまま引っ張られる…すぐ目の前で獣の爪痕のような形に床の畳が裂けた
部屋がぐるぐると回る…その動きに少女と自分を抱えたまま男は飛び回る…やがて一際大きな鼓の音と共に、景色が変わった
「っ……テメェ!いい加減手を離しやがれ!」
「わかった…離してやる…だけど…まずはちゃんとこの子に謝れ!」
ビシビシと肌を刺す殺気…ヤベェ、こいつは本当にヤベェ…山にいたどんな獣よりもヤベェ…さっきの鬼よりも数段ヤベェ…!
嘘のように大人しくなった猪男を、炭治郎はようやく解放した
涙目のてる子の頭を撫でていると、妙にしおらしくなった猪男が小さく「ゴメンナサイ…」と呟くように言った
「…許してくれるか?」
こくり、とてる子が頷いたのを見て、炭治郎は猪男に手を差し出す
「俺は竈門炭治郎だ…その日輪刀、君も鬼殺隊なのか?」
「俺は嘴平伊之助様だ!よろしくな!かまぼこ権八郎!」
「伊之助だな、よろしく…それと、俺は竈門炭治郎だ…ほとんど合ってないじゃないか!」
「そうか!わかったぜ三太郎!」
「…もうそれでいいよ」
はぁ、と半ば呆れた炭治郎はすぐ近くの部屋から変わった血の匂いがすることに気づく
ふたりに静かにするよう合図して部屋の襖を開いた時…拐われたと聞いていた、少年の姿が見える
彼は、その手にひとつ…鬼と同じ鼓を持っていた
第9話 猪はどつき、善逸は殴る(前編) 終 - 184二次元好きの匿名さん25/11/04(火) 17:58:58
- 185二次元好きの匿名さん25/11/04(火) 18:01:19
乙です
後編と新スレ楽しみにしてます - 186二次元好きの匿名さん25/11/04(火) 19:37:55
乙です!
- 187二次元好きの匿名さん25/11/05(水) 05:35:54
保守
- 188二次元好きの匿名さん25/11/05(水) 13:42:33
おつです!
- 189二次元好きの匿名さん25/11/05(水) 16:46:57
- 190二次元好きの匿名さん25/11/05(水) 18:38:47
たておつ
- 191二次元好きの匿名さん25/11/05(水) 19:25:58
埋めとく
- 192二次元好きの匿名さん25/11/05(水) 20:36:02
おつ