(CP・閲覧注意)ようこそ ジオン村へ③

  • 1二次元好きの匿名さん25/10/26(日) 20:28:35

    宇宙猫難民ニャアンが、おそらく元宇宙犬難民で今はキシリア様の飼い犬のエグザベくんとニャンニャンするだけの話です。

    ※注意
    ・エグニャア
    ・一部キャラクターの擬獣化
    ・おとぎ話パロ?&パラレル世界(宇宙コロニーが宇宙村になっててMSはあるのに生活はシルバニアってる)
    ・人道的でない(生命倫理の欠如)したキャラクター有(フラナガン博士)
    ・スレ主はドスケベ卑しか雌猫のドスケベを書きたいだけ
    ・上記含めた諸々の二次創作要素が苦手な方はブラウザバックお願いします

  • 2二次元好きの匿名さん25/10/26(日) 20:29:47
  • 3二次元好きの匿名さん25/10/26(日) 20:31:31

    その日の晩、ニャアンはキシリアの振る舞った手料理を口にし、用意された部屋で夜を迎えた。

    本来なら美味しくてたまらない料理の味が、何ひとつ感じられなかった。
    ふかふかであたたかいはずのベッドの中で、彼女は寒さを錯覚しながら震えていた。

    胸の奥にあるのは、自分の浅はかさへの後悔と、身体の変化への恐怖。
    そして、自分がお腹の中の子を守りたいと思っている事実が彼女を混乱させた。

    もしニャアンが、自身に宿ったものをまだ命ではないと割り切り、不要なものとして切り捨てられる人間であれば、どんなに楽だっただろうか。

  • 4二次元好きの匿名さん25/10/26(日) 20:33:26

    だが、ニャアンはそのように冷徹で合理的にはなれなかった。

    「ごめんなさい……ごめんなさい……」

    何に謝っているのかも、誰に向けてなのかもわからない。
    それでもうわごとのように、何度もその言葉を繰り返した。

    次第に声が震え、瞳に涙が溜まる。
    だがニャアンはそれを堪えた。

    自分が涙を流す資格はない。

    「ひぅっ……ひゅぅ……ぅっ……」

    息が乱れ、過呼吸のように胸が上下する。
    彼女は口元を押さえ、外に控えている兵士たちに気づかれないように、声を殺した。

    思い浮かぶのはエグザベの姿だった。
    早く彼に会ってすべてを話し、楽になりたかった。
    だが同時に、彼がどのような反応を示すのかわからず、一番恐ろしい反応を考え、恐怖した。

  • 5二次元好きの匿名さん25/10/26(日) 20:35:13



    結局、ニャアンはまともに眠ることができないまま朝を迎えた。

    朝食もキシリアが自ら用意し、二人でそれを食した。

    「今日は一日、部屋で休んでいろ。何か必要なものがあれば、見張りの兵士に伝えるように」

    キシリアはそう告げて、静かに席を立つ。

    ニャアンは兵士に案内されて部屋へ戻る。

    部屋にはいつの間にか編み物の道具と色とりどりの毛糸、ニャアンくらいの年頃の少女が娯楽に読めるような書籍が何冊か用意されていた。電子機器の類はない。
    学習性無力感というものか、ニャアンはぼんやりとそれらを見つめた後、何もする気になれずにベッドに横たわった。

    “選ぶ”という行為を、ニャアンはやめてしまっていた。

    どちらを選んでも正解はない────それを今までの経験で彼女は知ってしまったから。

    どちらを選んだって、自分は周囲の人間に迷惑をかけて不幸にしてしまう。
    最初から自分がいなければこうはならなかったのに。

    命令される方が楽だった。
    何も考えなくていいから。

    天井を見上げる。
    寝不足で思考は霞み、胸の奥で何かが重たく軋んでいる。考えたくなくても、脳の中では次々に思考が浮かんでは消えていく。

    頭が過熱して壊れてしまいそうだった。
    それでも眠れず、ニャアンは時間が過ぎるのをただ待った。

  • 6二次元好きの匿名さん25/10/26(日) 20:37:02



    翌日。
    ニャアンは何も告げられぬまま、フラナガンの研究施設に連れて来られていた。

    研究所の扉をくぐった瞬間、鼻をつく消毒液の匂いと冷気が肌を刺す。
    一歩足を踏み入れただけで、身体がこわばった。

    女性の医療スタッフが無表情のまま、畳まれた手術着を差し出す。

    「こちらに着替えてください」

    「あ……」

    何か言おうとした声は、喉の奥で掠れて消えた。
    有無を言わせぬ手つきで、仕切りカーテンの中へと導かれる。

    ニャアンは手術着に着替える。

    着替えるという行為すら、彼女はもはや自分の意思ではないように感じていた。
    それは脅されて従っているというよりも、どこかで悟った諦めに近い感情による行動だった。

  • 7二次元好きの匿名さん25/10/26(日) 20:39:32

    手術室に通されると、金属の器具と監視装置が並んでいた。
    手術台のそばには、滅菌ガウンを身にまとったフラナガンが立っていた。

    「ご安心ください。すぐに終わりますから」

    フラナガンが微笑む。

    ニャアンは思わず一歩、後ずさる。
    背後には閉じられた扉。
    その向こうにはキシリアの配下の兵士が立っている。
    逃げることはできない。

    医療スタッフの女性が背後から彼女の身体を押さえつけ、半ば強引に手術台へと寝かせた。

    「……!?」

    驚きと緊張、そして恐怖でニャアンの呼吸が浅くなる。

    フラナガンの手には注射器が握られていた。
    医療スタッフの女性がニャアンの腕を押さえる。
    次の瞬間には、彼はためらいもなく針を突き立てた。

    冷たい液体が血管に流れ込むと同時に、ニャアンの視界が白く滲んでいき、意識がどんどん遠ざかる。

    「それでは摘出処置を行います」

    最後に聞こえたのは、フラナガンの極めて冷静な声だった。

  • 8二次元好きの匿名さん25/10/26(日) 20:40:37



    目を覚ましたニャアンは、下腹部に鈍い痛みを覚えた。
    天井のライトの光が、痛いほどに眩しい。

    「お疲れさまです、ニャアンさん。無事に終わりましたよ」

    フラナガンの声。
    彼は手元のリモコンを操作し、ニャアンの横たわる手術台の角度を変えた。

    半身を起こされたニャアンの視線の先には、淡く光を放つ、小さな水槽のような装置があった。

    「これが人工子宮です。この中に満たされた液体が母胎環境を再現しています」

    淡く発光する培養槽。
    その内部では、透明な培養液がゆっくりと循環している。
    無数の管が絡み合い、心臓のように脈動するポンプが、液体を絶え間なく送り続けていた。

  • 9二次元好きの匿名さん25/10/26(日) 20:42:29

    「流石にまだ肉眼では見えないですよね」

    フラナガンは天井に設置されたモニターの電源を入れる。
    画面に映し出されたのは、ゆっくりと漂う泡の映像だった。

    「以前お話ししたときは受精卵と呼びましたが、正確には着床期胚という段階です。その名の通り、子宮内膜に潜り込み、母体の血管と繋がり始めます。そうなると母体にも変化が現れます。その前に取り出せて本当によかった」

    フラナガンは淡々と語る。
    ニャアンはモニターに映された映像を、半信半疑で見つめていた。

    「透明な海の底で、一粒の星が瞬くようです」

    フラナガンが呟く。

    「とても美しいです。エグザベくんとニャアンさんの子供は」

    その言葉に、ニャアンの肩がわずかに震えた。

  • 10二次元好きの匿名さん25/10/26(日) 20:43:44

    「あと一週間もすれば胚芽となり、脳や心臓、脊椎の原型が形成されます。一か月半もすれば、人の形になりますよ。イヌマグヌッコが完成する頃には、呼吸様運動を始め、音にも反応するようになるでしょう」

    フラナガンは、まるで成功した実験結果を報告するような口調で続ける。

    「心配はいりません。赤ちゃんはこの中で健やかに育ちます」

    淡々としたその声が、かえってニャアンの胸を締め付ける。
    息を吸うたび、下腹部の痛みが鈍く広がった。

    「エグザベくんには私から連絡を入れました。ご安心を」

    「……どうして、あなたが」

    麻酔の抜け切らない身体を震わせながら、ニャアンは声を絞り出す。

    「エグザベくんは、私の大事な卒業生ですので」

    「彼は……なんと?」

    「言葉を失っていました。顕微鏡の映像をずっと見つめていましたよ」

    フラナガンは笑みを崩さない。

    「きっと、父親になるという事実を強く受け止めたのでしょうね」

  • 11二次元好きの匿名さん25/10/26(日) 20:45:07

    投下おしまい。
    次回更新はいけたら0時前後の予定です(いけなかったら明日の夕方以降)

    スケベじゃない展開はなるべくまとめて投下できるようにしたいです。

  • 12二次元好きの匿名さん25/10/26(日) 21:23:07

    まさか摘出されてしまう展開とは思ってなくて動揺してる自分がいる

  • 13二次元好きの匿名さん25/10/27(月) 00:08:34

    ニャアンが倒れた直後、エグザベは彼女への接触を禁止された。
    理由は告げられなかった。

    その日も、翌日も、彼女は基地に姿を見せなかった。
    軍医に尋ねても「個人情報ですので」とだけ返され、何も分からずじまいだった。

    そして今日になって突然、フラナガンからの呼び出しを受けた。
    嫌な予感を覚えながらも、エグザベは研究所へ向かった。

    到着すると、白衣の研究員が彼を案内した。

    「博士。エグザベ少尉がお見えになりました」

    研究員が立ち止まり、重厚なドアの前で報告する。

    「入ってきてください」

    中からフラナガンの声が聞こえた。
    ドアが開く。

    部屋の中央には厚いガラスの壁があり、その向こう────手術着姿のニャアンが検査台の上で眠っていた。片腕には点滴が刺され、胸がかすかに上下している。

    「ご安心ください。麻酔で眠っているだけです」

    「彼女は……何か病気に?」

    「病気ではないですが、手術はしましたね」

    ニャアンの傍らには透明な装置が置かれている。
    淡く光を放ち、内部で液体が循環している。

  • 14二次元好きの匿名さん25/10/27(月) 00:10:18

    「……あれは?」

    声が、思ったよりも掠れていた。

    「人工子宮です」

    フラナガンは、淡々と答える。

    「中に入っているのは、ニャアンさんから摘出した受精卵です」

    その言葉が意味を結ぶのに、数秒かかった。

    「……え?」

    エグザベは情けない声しか出なかった。
    彼の喉の奥が、焼けつくように乾いている。

    フラナガンは手元の端末を操作し、室内のモニターに映像を映し出す。

    小さな泡のようなものが映っている。

    「これが胚ってやつです。これからどんどん成長しますよ」

  • 15二次元好きの匿名さん25/10/27(月) 00:12:06

    エグザベは自身から血の気が引くのを感じた。

    「ニャアンさんは妊娠をしていました。諸々を考慮して、胚を摘出し、人工培養に移行することになりました。もちろん、キシリア様とニャアンさんの同意の上ですよ」

    フラナガンはモニターの映像から、ゆっくりとエグザベに視線を移す。

    「胚を剥がす際、子宮内膜に微細なメスを入れています。しばらくは安静が必要です」

    「そういうことですので、上官のエグザベくんにはご理解とご協力をお願い致します」

    その穏やかな声音には、冷たい圧が含まれていた。

    「ニャアンさんの子供の父親に心当たり、ありますよね?」

    エグザベはフラナガンの瞳の奥に、観察者としての冷たい光を感じた。

  • 16二次元好きの匿名さん25/10/27(月) 00:16:53

    「(妊娠……? 摘出……?)」

    頭の中で単語だけが浮かんでは、沈んでいく。
    どの言葉も、現実味を帯びない。

    モニターの中の泡が、ゆらりと揺れた気がした。

    命というには、あまりにも小さく頼りない。

    「(これは……僕の子供なのか?)」

    エグザベは立ち尽くし、映像を見つめ続けた。

  • 17二次元好きの匿名さん25/10/27(月) 00:18:20

    投下おしまい。
    書いてる自分が結構ダメージ受けているので、マジでダメになったらサプライズマチュさん理論で無理矢理畳みます。すいません

    次回投下は明日の夕方以降の予定です。

  • 18二次元好きの匿名さん25/10/27(月) 01:02:59

    きっつい展開だね・・・頑張れエグザベくん

  • 19二次元好きの匿名さん25/10/27(月) 05:37:56

    辛いのは本当なんだけど続きが気になる……

  • 20二次元好きの匿名さん25/10/27(月) 14:14:27

    おのれフラナガン
    これからどうドスケベになるんでしょうか
    エグニャックス~!

  • 21二次元好きの匿名さん25/10/27(月) 17:58:35

    子供が実質人質状態で本編と近い動きをせざるを得ない状況だよね
    シャリアの離反に対してキシリアに裏切ったと思われないように示し合わせて適度に戦う感じになるのかな

    それはそれとして目をかけていたNTの若者が子供が人質にされてて……ってなった時に遺伝子情報を勝手に利用されてクローンとか体外受精とかじゃなく本当にやることやってできた実の子ですはシャリアも宇宙猫ならぬ宇宙牛になるかもしれない

  • 22二次元好きの匿名さん25/10/27(月) 19:44:40

    しかしこの二人本編ですでに重い設定のせいかお労しい展開が似合うな

  • 23二次元好きの匿名さん25/10/27(月) 19:50:00

    シャリアは牛の獣人だった…?

  • 24二次元好きの匿名さん25/10/27(月) 20:08:52

    ニャアンがエグザベと再会できたのは、『処置』から一週間が経った頃だった。
    場所はフラナガンの研究所。
    エグザベは、彼女の迎えのために訪れていた。

    フラナガンの説明によれば、ニャアンは翌日から訓練に復帰しても問題ないという。

    外見上はいつも通りに見えるが、その表情は暗い。

    二人は研究所の一室で、人工子宮と、それに繋がれたモニターを見つめていた。

    モニターには、人工子宮内部の拡大映像がリアルタイムで映し出されている。
    画面の中では、微かな影がゆらめいていた。
    透明な膜に包まれた、全長わずか数ミリの存在。
    細胞の塊が形を成し始め、その中心で、心臓の原型が液体の循環に合わせて微かに脈打っている。

    「……ごめんなさい」

    ニャアンが小さく呟いた。

    「君は何も悪くない」

    エグザベは即座に返す。その声音は落ち着いていたが、微かに震えている。

    「僕が軽率だった……」

    「軽率って、何が?」

    ニャアンは俯いたまま問う。

  • 25二次元好きの匿名さん25/10/27(月) 20:09:52

    「全てが」

    言葉が短く、重い。
    エグザベは視線を落とし、握った拳の関節が白くなる。

    「……エグザベ少尉は、後悔を?」

    「後悔という言葉は使いたくないが……君を傷つける結果になってしまったことを悔いている」

    「傷ついていますか、私は」

    「望んでもいない子供ができて、身体にメスを入れられたんだぞ」

    「……望んでもいないって、どうして決めつけるんですか」

    エグザベは一瞬、言葉を失う。

    「……君はまだ17歳で、本来なら大人の僕が君を保護しなければいけない。それなのに加害して、さらに重圧を背負わせてしまった」

    「加害? あなたが私を?」

    言っている意味がニャアンには分かりかねない。

  • 26二次元好きの匿名さん25/10/27(月) 20:13:14

    「加害だよ。君は被害者で僕は加害者だ。本来なら僕は罰せられてもおかしくない。だからこの子は僕が責任を持つよ」

    噛み合わない会話。

    ニャアンは眉を顰める。

    加害ってなに。
    私はあなたが好きで、あなたも私のことが好きだから、あんなことをしたんじゃなかったの。
    つがいになりたいなどと言い出したのはあなたじゃないのか。

    「(責任なんてもっともらしい言葉で、この人は私を遠ざけている)」

    ニャアンは喉の奥まで出かかった言葉を飲み込む。

  • 27二次元好きの匿名さん25/10/27(月) 20:15:05

    エグザベとニャアンが同じ家で過ごすことはなくなった。
    何かしらの指示がエグザベに降りたのか、それとも彼自身の判断だったのかはニャアンにはわからない。

    彼らが顔を合わせるのは訓練中のみであり、例外はフラナガンから呼び出しを受けたときだけだった。
    二人は人工子宮と、その拡大映像を映し出すモニターの前で、淡々と経過報告を聞く。

    二人の関係は『上官と部下』としてなら、まったく正常だった。
    エグザベはニャアンにMSの操縦指導を行い、訓練では常にその相手を務めた。
    ニャアンはそれに忠実に従い、任務の遂行においても一切の齟齬はなかった。

    だが『上官と部下』以外の関係を仮定すると、あまりにも距離があった。

    事情を知らないワ゛ャン隊の隊員たちでさえ、二人のあいだに生じた変化を感じ取っていた。

  • 28二次元好きの匿名さん25/10/27(月) 20:16:33

    訓練所の通路。
    プードル犬の獣人の女性隊員が、息を弾ませながらニャアンに駆け寄った。
    わざわざ追いかけてきたのだろう。

    「ニャアンちゃん、ねえ、大丈夫?」

    その声には、ためらいと心配が滲んでいた。

    「……先輩の方が、大丈夫じゃなさそうです」

    「そういうことじゃなくて」

    「どこかおかしいですか? 私」

    一見すると、ニャアンはいつも通りだった。
    だが獣人特有の嗅覚が、微かな違いをプードルの女性に告げていた。

    ニャアンから漂うにおいから、エグザベのものがほぼなくなっている。

  • 29二次元好きの匿名さん25/10/27(月) 20:17:37

    「おかしいというか、なんか心配だよ。ちょっと前に一週間くらい休んでたし……」

    「何も……問題ありません。訓練では結果も出せています」

    「聞きたいのは、そういうのじゃないよ……」

    プードルの女性は胸の前で手を組み、言葉を探すように一度目を伏せた。
    やがて、静かな決意を込めて言った。

    「ニャアンちゃん、今のままだと……きっと後悔することになると思う」

    「後悔……?」

    「私ね、ずっと後悔しながら生きてるの」

    「何を?」

    「……大切な人との、最後を」

    プードルの女性の表情はどこか申し訳なさそうで、けれどその瞳には強い光があった。

  • 30二次元好きの匿名さん25/10/27(月) 20:19:16

    「何も知らない私が差し出がましいと思うけど……ちゃんと話した方がいいと思う」

    誰と話し合うべきかを、彼女は言わなかった。
    ニャアンは少しだけまばたきをし、短く答えた。

    「……ありがとうございます」

    それだけ言って、ニャアンは去ってしまった。

    「……」

    残されたプードルの女性は、しばらくニャアンの背中を見つめていた。
    そして、ニャアンが休んでいた一週間の出来事を思い返す。

  • 31二次元好きの匿名さん25/10/27(月) 20:21:41

    その期間中、ワ゛ャン隊では新型の狂犬病の発症者が二名出た。二人は同室で生活しており、ほぼ同時に発症。
    迅速な投薬治療で後遺症もなく回復したが、感染経路は結局わからぬままだった。
    その後、ワ゛ャン隊はどこか非現実に感じていた『もしも治療薬が足りなくなった』場合を想定し、隊長であるエグザベ抜きで話し合った。

    重い沈黙の中、プードルの女性隊員が名乗りを上げた。

    「私が発症したら、治療はいらない」

    「あんた、何を言ってるの!?」

    シェパードの女性隊員がすぐに声を上げる。
    数少ない非獣人の隊員も、理由を問うた。

    「別に、生きるのが嫌になったとかじゃないの。ただ……私はこの隊で一番、体が小さくて体力もない。生存率で言えば、いちばん低いと思うの」

    彼女は一度息を吸い、笑ってみせた。

    「それは建前で、本当はね……つがいと一緒の場所へ行けるなら、別にいいかなって思ってるの」

    その言葉に誰も何も言えなかった。
    ワ゛ャン隊の隊員たちは皆、難民や天涯孤独の身。
    彼女の気持ちは大なり小なり、他の隊員たちから理解された。
    話し合いはそこで一旦中断された。
    まだ決定というわけではないが、プードルの女性の宣言を却下する者もいなかった。

    一人きりになった通路で、プードルの女性隊員は呟いた。

    「……後悔をしたまま生きていくのは、しんどいんだよ」

    自分と同じ想いを、誰かにしてほしくなかった。

  • 32二次元好きの匿名さん25/10/27(月) 20:23:01

    投下おしまい。
    保湿とコメントに感謝です。
    次回投下は0時前後、無理そうだったら明日の夕方以降です。

    シャリアが牛…?
    ありよりのあり。

  • 33二次元好きの匿名さん25/10/27(月) 20:28:39

    投下乙です
    このエグニャアはこれまでで一番話し合いの足りてない二人だよね

  • 34二次元好きの匿名さん25/10/27(月) 20:42:54

    牛獣人でミルクサーバーバスクが浮かんじゃったよどうしてくれる

  • 35二次元好きの匿名さん25/10/27(月) 21:07:40

    >>34

    ドスケベエグニャアスレを読みまくって脳味噌を砂糖漬けにしてくるんだ

    それで治る

  • 36二次元好きの匿名さん25/10/28(火) 00:48:50

    ニャアンの『処置』から1ヶ月半が経った。

    すでに人工子宮の中の胎児は肉眼で確認ができるようになっている。

    非常に小さく透明なそれは、人間の子供というよりは小さな魚のようだった。

    ニャアンとエグザベは無表情でそれを見つめている。

    「エグザベ少尉は……これで良かったのですか?」

    「……こうするしかなかったと思う。僕が産む側の性だったとしても、これを選んでいた」

    「流してしまうという選択肢を、考えたことは?」

    「冗談でもないことを言わないでくれ……命だぞ、これは」

    「はい、ごめんなさい。私もそれは考えられなかったです」

    ニャアンの耳と尻尾は垂れている。

  • 37二次元好きの匿名さん25/10/28(火) 00:50:40

    「……君と、この子の三人で生きていけるだろうか」

    彼は一体、何を思ってその言葉を放ったのだろう。

    三人で生きていくことを考えてくれていたとは思っていなかった。
    けれどその言い方には、それができないかもしれないという予感がにじんでいた。

    「悲観的ですね、エグザベ少尉」

    彼が悲観的になるのは、おそらくニャアンに対する隠し事が関係しているのだろう。

    なぜ教えてくれないのか。
    自分は信用されていないのだろうか。

    エグザベはフラナガンと話があると言って、部屋を出て行ってしまった。

    一人になった部屋で、ニャアンは人工子宮にそっと触れてみる。

    「元気に……生まれてきて」

    まるで他人の子供に対する言い方だったが、ニャアンの表情は慈愛に満ちていた。

  • 38二次元好きの匿名さん25/10/28(火) 00:53:10



    エグザベはフラナガンの研究室に通される。
    デスクで作業をしていたフラナガンは、手元の書類から視線を上げ、穏やかな笑みを浮かべた。

    「エグザベくん、赤ちゃんは元気そうでしたか」

    「おかげさまで……」

    「そうですか。よかった。私は別の研究で手一杯でね。赤ちゃんの様子は数値でしか見られないのです。」

    フラナガンは軽くデスクを漁ると、一枚のレポートを手に取りエグザベに渡す。そこには胎児のバイタルデータが記載されていた。
    エグザベは慣れた手つきでそれを受け取り、確認する。

    「博士……」

    エグザベはバイタルデータを確認し終えると、視線を上げる。

    「新型の狂犬病の治療薬の供給は、どうなっていますか?」

    ワ゛ャン隊で新型の狂犬病の発症者が二名確認された。可能性の話でしかなかった『誰か一人を犠牲にしなければいけない』が現実味を帯びてきている。
    フラナガンは短く息をつき、冷ややかな視線をPCモニターに向けた。

    「相変わらず不安定です。官僚や軍の上層部の獣人の方の分を確保するのが精一杯でした」

    「……そうですか」

    「ワ゛ャン隊の人数分を確保できたのは、キシリア様のお力添えのおかげです」

    一瞬の沈黙。

  • 39二次元好きの匿名さん25/10/28(火) 00:55:04

    フラナガンは何かを思い出したように、エグザベに向き直る。

    「エグザベくん。私は、キシリア様にあなたが“犬”ではないことを伝えていません」

    「……え?」

    エグザベの眉がかすかに動く。

    「私は治療薬は作りましたが、ワクチンは作っていません。あなたなら理解しているでしょう? 治療薬を先に投与しても、免疫は得られない」

    「犬のあなたは新型の狂犬病の治療薬の実験台になった。しかし発症し、やむを得ず二本目を使用した……そんなシナリオはどうでしょうか」

    フラナガンの顔からふっと笑顔が消える。

    「ミゲルくんから情報を得たあと、生命維持装置を操作して、事故に見せかけて死なせたのはエグザベくんですか?」

    「困るんですよね。機械の誤作動は私が責任を問われるので」

    フラナガンの表情が穏やかな笑みに戻る。

    「ミゲルくんが自ら、の可能性の方が高いと思いますがね。彼がそうしなかった場合は……君が手を下すのでしょうね」

    「私は自由に研究ができればどこでも良いのです。だから贔屓はします。あなたのキシリア様への背信も、わざわざ報告するつもりはありません」

    「エグザベくん、頑張ってください。あなたも私の大事な存在なのですから」

    「……ありがとうございます」

    形式的なお礼を言うと、エグザベは彼の研究室を後にした。

  • 40二次元好きの匿名さん25/10/28(火) 00:56:43

    一人になった部屋で、フラナガンは無表情でモニターの一つを切り替えた。

    そこには人工子宮の胎児に優しい表情を向ける少女が映っている。

    「……母性というのは、不思議ですねぇ」

    極めて平坦な声で、フラナガンは呟く。

    「獣人同士から普通の人類の子供が生まれることはありますが、まさかそれを引き当てられるなんて……まあNT同士の子供というだけでも価値は大いにあるのですが」

    「二人目を用意していただきたいので、お二人には平和に仲良く暮らしてほしいのですよ……私は」

  • 41二次元好きの匿名さん25/10/28(火) 00:58:40



    帰りの車の中で、ニャアンはぼんやりと外の景色を眺めていた。
    正確に言えば、景色を見ていたというより、エグザベから目を逸らしていた、という方が近いかもしれない。

    運転席のエグザベが呟く。

    「ニャアン……君は、キシリア様と僕、どっちが好き?」

    思ってもいなかった質問だった。
    ニャアンは目を見開き、胸の鼓動が一気に速くなるのを感じた。

    「なんですか、その質問。子供みたい……」

    ニャアンは赤くなる顔を隠すように俯いた。

    「ニャアン、お願い。直感で答えて」

  • 42二次元好きの匿名さん25/10/28(火) 01:01:30

    「そんなの……」

    選べるわけがない。
    キシリアに対する『好き』と、エグザベに向ける『好き』は、まったく別のものだ。
    そのどちらにも優劣をつけることなど、できるはずがなかった。

    「答えられないなら、アクセルを踏んだまま突っ込むけど」

    「……え?」

    冗談ではなかった。
    エグザベの片足がわずかに沈み、エンジン音が唸りを上げる。
    速度計の針がみるみる上がっていく。

    「エグザベ少尉!? 何をしてるの!? やめて!」

    ニャアンは叫び、シートベルトを掴んだ。

    なぜ、どうして、こんなことをするの。
    選べない。
    選びたくない。
    どちらを選んだって、きっと不正解だ。

    わけがわからなくなっていたニャアンは、思考よりも先に叫んでいた。

    「エグザベ少尉が! 好き! 愛してるから!」

    だからこんなことはやめて。

  • 43二次元好きの匿名さん25/10/28(火) 01:02:55

    その瞬間、車は急停車した。
    前のめりになった身体をシートベルトが強く引き戻す。

    「よかった……」

    声を上げたのはエグザベだった。

    その言葉は事故に遭わずに済んでの『よかった』ではなく、ニャアンの選択に対しての『よかった』だった。

    エグザベの顔は、奇妙なほど穏やかだ。

    「ニャアン……お願いだ」

    彼はハンドルから手を離し、ニャアンに視線を向ける。

    「キシリア様を裏切ってくれ」

    「え……?」

    エグザベの表情は決意に満ちていた。

  • 44二次元好きの匿名さん25/10/28(火) 01:04:27

    投下おしまい。
    次の投下は明日の夕方以降の予定です。
    ギャグ時空に入ってきました。

    バスクミルクより淡白なゲールミルクが自分は飲みたいですね。

  • 45二次元好きの匿名さん25/10/28(火) 01:20:26

    二人目?

  • 46二次元好きの匿名さん25/10/28(火) 04:15:10

    ギャグ時空?…ギャグ時空…??
    ギャグ時空ってなんだっけ……

スレッドは10/28 14:15頃に落ちます

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