SS 「一つ、お話を」

  • 1二次元好きの匿名さん25/10/26(日) 21:27:31

    脳を焼かれた結果産まれた駄文を書き綴って行くだけです。

    かなり独自解釈を含みます

    あと前一回書いた時の感じ、無駄に冗長なると思います。

    それでもよろしければお付き合い下さい。

  • 2二次元好きの匿名さん25/10/26(日) 21:29:42

    いつから侍従やってるの?」

     私がお嬢様に仕えていると知るとよくそう尋ねられます。
     正直何度聞かれたか分からない質問ですが、会話の起点としては取っ付きやすい部分であることは理解していますので、多少うんざりしながらも

    「実は、いつからなのかは、私も詳しくは。物心ついた時からお嬢様のそばにいましたので。」

     と、その度に私はそう誤魔化し、他愛のない会話に続けて来ました。

  • 3二次元好きの匿名さん25/10/26(日) 21:34:31

    ふむ…続けて?

  • 4二次元好きの匿名さん25/10/26(日) 21:35:26

     誤魔化し、という表現に違和感を覚えるでしょう。何も誤魔化していないではないかと。
     事実、物心ついた時からお嬢様のそばにいることに変わりありません。そしてその時から両親から倉本の家に仕えるものとして育てられてきていますし、周囲からもお嬢様の侍従として扱われてきました。

  • 5二次元好きの匿名さん25/10/26(日) 21:41:42

     でも、当時の私は、侍従ではないのです。当時の私にとってお嬢様は、あだ名が『オジョウサマ』な、お友達もしくは歳の近い従姉妹のようなそんな感覚でした。
     侍従として未熟だった私に出来ることといえば、お嬢様の遊び相手になることくらいしかなく、侍従としての修行も、習い事のような感覚で、

    「お仕えするというのは、主人がより良い日常を送れること、色々あるけどこれが一番大事なの」
    と母に言われた時には、
    「お嬢様は、私と遊んでる時すっごく楽しそうだから、私はおつかえできてるよね!」
    なんて滑稽な問答を。

  • 6二次元好きの匿名さん25/10/26(日) 21:50:23

     この時の私は、お仕えするということがどういうことなのか理解していませんでした。だから、私はこの時の私を侍従とは思っていません。
     とはいえ、質問される度にこんな返答をしていては、会話が続きませんので、侍従であったとしているわけです。

  • 7二次元好きの匿名さん25/10/26(日) 22:02:23

     なら、いつから侍従だと思うのと思われるでしょう。私の中で真にお嬢様に支えようと思ったのはあの日です。

  • 8二次元好きの匿名さん25/10/26(日) 22:16:53

     お嬢様が、ご家族との仲がうまくいってないのは、お嬢様から話を聞いていましたし、当時の私でも幼ながらに気づいていました。
     とはいえ、私に何ができるでもなく、両親に相談した時も、

    「お嬢様、お嬢様のお父様とお母様とお話できないんだって言ってるの。お嬢様のお父様とお母様はお嬢様のこと嫌いなのかな。」
    「そんなことないよ香名江、旦那様と奥様はお仕事が忙しくて仕方ないんだ。」
    「でも、お父様、お父様もお仕事してるけど私とお話してくれるよ?」
    「仕方ないわ、私たち侍従と倉本家の皆様では事情が違うもの。」
    「えー、何が違うの?わかんなーい!」
    「うーん、どうって言われてもなぁ。」
    「私はお嬢様が楽しい日常をって言ってたのにー!」
    「だったら、香名江がその分いっぱい一緒に遊べばいいんじゃない?」
    「うん、わかった」

     なんて、代々倉本家に使えている家系とはいえ、一侍従と令嬢の違いも分からず、呑気な考えでいました。
     そして、そんな日から数日後、この日が私にとって運命の日になることになりました。

  • 9二次元好きの匿名さん25/10/26(日) 22:30:34

     いつものようにお嬢様の部屋に向かうと部屋の中から声が聞こえてきました。

    「お爺様!どうしてですの!今日は一緒にいてくださると約束していてくださいましたのに!」
     お嬢様の泣き声、そして大旦那のなだめるような声で、大方のことは察せられました。
     そんな状況は初めてで、扉を開ける訳にもいかないので、仕事におわれた大旦那が退室なさってから、お嬢様の部屋に入ると、お嬢様が座り込んで泣いていらっしゃいました。

  • 10二次元好きの匿名さん25/10/26(日) 23:03:07

    「お嬢様……?」

    一介の少女にはそう声をかけるのが精一杯でした。そしたらお嬢様、ゆっくりと顔を上げて
    「あら、香名江……恥ずかしいところを見られてしまいましたわね。今日は何をいたしましょう」
    と、無理に笑って、そう返されたのです。
     あの引きつったような笑顔は、今でも忘れられません。えぇ、涙ではなくあの笑顔が。
     泣いているところは、何度も見たことがありました。外に出て転んだとか、夜中に廊下で変な音がしたとか、だから決してお嬢様は私の前で泣かない人ではないのです。

  • 11二次元好きの匿名さん25/10/26(日) 23:43:07

     ですが、あの時、私に泣いてくださらなかった。
     何故か、とても怖くなりました。泣いているより笑顔の方がいいはずなのに、ただいつものように、お嬢様の話を聞きながら一緒に遊べばいいだけなのに。

     今だから、言えることですが、私は泣いて欲しかったのだと思います。ただ、一言
    「香名江、寂しいですわ」
    と。

  • 12二次元好きの匿名さん25/10/27(月) 00:29:05

    保守

  • 13二次元好きの匿名さん25/10/27(月) 00:44:45

     泣く、という行為は人間が最初に覚えるコミュニケーション行為といっても過言ではありません。赤子の時に自分の欲求は伝えるために人は泣きます。
     だから、あの時、私にとって泣かない、というのは暗に私には泣いて求めるものが何も無い、わたしにできることは何も無い、あなたでは、私の心を満たせない、笑顔にできない。そう思われていると幼心なりに思ったのだと思います。

     この時です、仕えるという意味を理解して本当の意味で私がお嬢様の侍従ろうと思ったのは。
     私が、お嬢様に仕えるということは、二度とあんな顔をさせないことだ、と。
     それは今でも変わりません。私はそのためにお嬢様に仕えているのです。

  • 14二次元好きの匿名さん25/10/27(月) 01:32:41

     とはいえ、意気込みだけは一丁前でも、その時の私が未熟な侍従であることには変わりありません。ましてや上下関係も分かりきっていない身、焦りもあって、とった行動はあまりにも浅はかでした。

     その日お嬢様と別れた後、自分の部屋には向かわずに、大旦那の書斎へと向かっていました。もうお分かりでしょう?安直な私は大旦那様を説得すればなんて考えていたのです。

  • 15二次元好きの匿名さん25/10/27(月) 09:10:29

     大旦那様の書斎の場所は知っていましたが、両親には執務の邪魔になるから、入らないよう言い聞かされていましたが、あの時の私はなんの躊躇いもなくその扉を開きました。
     どこかで、お嬢様の祖父なのだから話せばわかってくれるなんて考えがあったのでしょう。ですが、その扉の向こうに待っていたのは、大財閥の長としての風格を纏われた大旦那様がおられました。
     その時大旦那様は系列の社長様とお話をされていたと思うのですが、扉を開けた途端ピタリと会話を止め、こちらに視線を向けました。

  • 16二次元好きの匿名さん25/10/27(月) 13:23:43

    「どうした。」
     ただ、一言そう仰っただけなのですが、私はすぐに言葉を返すことができませんでした。
     どう切り出すか迷っているうちに、大旦那様は来客を部屋から下げさせてから、もう一度尋ねられました。
    「お前は、千奈の侍従であろう。一体どのような要件でこの部屋にやってきたのだ。近づくなと教えられているはずであろう?
    何もなしにやってきた訳ではあるまい。」

     今思えば、大旦那様はかなり優しく問われていたのだと思います。ですが当時の私は、その気迫に気圧されて、初めて倉本家の皆々様と、私たち侍従の違いを知ることにもなりました。

  • 17二次元好きの匿名さん25/10/27(月) 13:34:14

     おそらく後で聞かされたのでしょう、夜血相を変えた両親に詰め寄られました。
     お嬢様にもう会えなくなるかもしれない。そんなことを口走られたもので、せっかくお仕えする意味がわかったのにあんまりじゃないかと、夜も眠れませんでした。

     まあ、そんな不安は次の日に全て吹き飛ぶことになりましたが。
     結局いつの間にか落ちていた眠りは、慌ただしい両親の声によって覚まされました。

  • 18二次元好きの匿名さん25/10/27(月) 13:46:08

     寝ぼけた頭で急かされると、そこには大旦那様がお尋ねになられてました。
     昨日の今日でしたから、あぁ本当に侍従の関係の解消されるのだろうなと覚悟しました。
     ですが、大旦那様からかけられたのは予想外の言葉でした。

    「ありがとう、君の言う通りであった。」

     そういうと大旦那様は頭を下げられたのです。
     突然なことに私も
    「どういたしまし……て?」
     としか返すことができませんでした。

  • 19二次元好きの匿名さん25/10/27(月) 13:49:15

     その後の経過はご存知の通りです。大旦那様方は、すぐにいくつかの役職を退任、お嬢様との時間を優先する今の大旦那様方へとなりました。

     そして私は、というと

    「香名江!聞いてください!お父様やお母様!お爺様までがいきなりわたくしと過ごしてくれるようになったのです!
    お爺様から、香名江に教えてもらったと聞きました。本当にありがとう!香名江!」
    「良かったです、お嬢様が笑顔で」

     これがお嬢様の過去の真相、お嬢様は私が覚悟を持って行動したとお思い下さっているようですが、実際は道理の分からぬ少女の行動が、たまたま上手く運んだだけ、なのです。

  • 20二次元好きの匿名さん25/10/27(月) 16:36:30

     それからは大きな出来事もなく日々はすぎていきました。倉本家の皆様の仲も良好、私も侍従として成熟し、名実ともにお嬢様の侍従として振る舞えるようになっていたと思います。

     そんなある日のことです。いつもより上機嫌なお嬢様が帰ってきました。

    「香名江!香名江!見てください!」
    「これは、アイドルのライブ、ですか?
     確か、十王家のご令嬢……」
    「はい!そうなのです!十王星南お姉様!そのライブを見ましたの!これが、もう本当に凄いのです!こう!とにかく凄かったのです!」
    「お嬢様、一度落ち着いてください。」

  • 21二次元好きの匿名さん25/10/27(月) 16:37:33

     あの時のお嬢様の興奮した様子は、凄まじいものでした。
     ですが、私も映像を少し見せて貰っただけですが、そのステージは確かにその気持ちを納得させるに足る素晴らしいものであったと思います。ですから、お嬢様の口から次に出てくるであろう台詞は、大方予想できました。

    「香名江、わたくし、アイドルになりたいですわー!」
     
     そう、目を輝かせながらお嬢様は私に言いました。
     だから、私はいつものように

    「ええ、お嬢様ならできますよ、私も協力いたします。」

     そう、背中を押しました。
     もしここで……いえ、そんな話をしても仕方ないですね。

  • 22二次元好きの匿名さん25/10/27(月) 16:51:21

     運動と勉学がお嬢様はあまり得意ではありませんので、あのような成績ではありますが、初星学園に入学することが出来ました。
     初日からご友人ができたと嬉しそうに語るお嬢様に、学園生活に問題は無いと安堵したのも束の間、私は大旦那様に呼び出されることになりました。

  • 23二次元好きの匿名さん25/10/27(月) 16:59:37

    「香名江、君には今日1人客人を案内してもらいたい。」
    「それは構いませんが、一体どなたなのですか?」
    「千奈のプロデューサーとなるものじゃ。」
    「お嬢様の……ですか?」
    「あぁ、十王爺やつに交渉してな、やつの学園で有能なものを千奈のプロデューサーとしてよこすように約束させたのじゃ!と、言うわけで頼んだぞ、香名江よ!」
    「…かしこまりました。」

  • 24二次元好きの匿名さん25/10/27(月) 17:15:01

     面倒なことになった、そう思いました。お嬢様がアイドルとしてやっていくならプロデューサーの存在は必要不可欠とは考えていましたが、その決定は、慎重に行うべき、そうも考えていました。
     お嬢様は倉本家のご令嬢、お嬢様は初対面の人間でも全幅の信頼をなさる方なので、もし倉本の権威や資金が目当ての邪な目的を持って近寄られては、お嬢様を騙し、アイドル活動に支障が出る、また悲しませることに等々。

  • 25二次元好きの匿名さん25/10/27(月) 17:34:16

     そんな不安を抱えながら、私はプロデューサーを待ちました。
     そうしてやってきたのは、いかにも気の弱そうな年上の男性で。
    スーツを着ていますが、まだ固い。新品、おそらく新入生、プロデューサー科の1年だろうということはすぐに検討がつきました。
     入口の門から屋敷まで、物珍しそうに当たりを見回しているところから、恐らく倉本家には詳しくないこと。で、あるならば、恐らく彼は自ら志願したのではなく、依頼されたであろうことが分かります。
     自ら志願するような人でしたらもっと堂々となさるはずですから。

  • 26二次元好きの匿名さん25/10/27(月) 17:39:00

     とはいえ、自らの意思で来ていないとしても、警戒をとく理由にはなりません。
     倉本家の令嬢のプロデュースをする。そこには大きな責任が伴います。それを学園長経由で依頼されたとはいえ、断らずに受けているということは、断らざるをえぬ理由がある、もしくはそのような考えもできない阿呆ということになります。
     とはいえ、十王会長と大旦那様の友情からの支援。無条件で追い返す訳にもいきません。
     ですから、ボロを出した瞬間に追い返してやろうと考えていました。

  • 27二次元好きの匿名さん25/10/27(月) 17:46:13

    「お待ちしておりました、プロデューサー。どうぞこちらへ」
     屋敷に入ってきたプロデューサーにお声掛けすると、驚いたように背筋をただし直していましたので、やはり一大学生お嬢様にはふさわしくない、なのでとりあえず
    「この部屋に、お嬢様がいらっしゃいます。
    くれぐれも粗相のないよう、お願いいたします。」
    と、釘を指してお嬢様の部屋の扉を開けました。

  • 28二次元好きの匿名さん25/10/27(月) 17:57:35

     そこからお嬢様とプロデューサーの間にどのような会話があったのかは、私は詳しくは知りません。お嬢様がアイドルとしてプロデューサーにスカウトされるシチュエーションに憧れていて、2人きりにするよう命じられておりましたので。
     もちろん、何か起きた時のためにすぐ近くに待機はしておりましたが。

     数刻がたった後、お嬢様の部屋の扉が開き、プロデューサーが出てきました。続いてお嬢様も。そしてこちらに気が付きて、声をかけられました。

    「香名江、改めてこの方がわたくしのプロデューサーになりましたわ。きっとこれからとてつもなくお世話になるお方です。仲良くしてくださいね。」
    「かしこまりましたお嬢様。それでは、プロデューサーをお送りしてまいります。」
    「ええ、お願いしますわ。」

  • 29二次元好きの匿名さん25/10/27(月) 19:43:58

     大方お嬢様に口先で取り入ったのだろうと思っていました。口先が上手いだけの下衆は今まで何度も見てきましたから。とりあえずは現状維持を続けようと考えていました。
    「それでは改めまして。
     氷渡香名江。倉本家の侍従を務めております。
    よろしくお願いします、プロデューサー。
    あなたにお嬢様を導く資格があるのかどうか。
    見極めさせていただきます。」
     少し失礼と思われたかもしれませんが、プロデューサーは、これからお嬢様に仕えるものとして対等な立場であると言えるでしょう。それにこのくらいで音を上げる様な男でしたらお嬢様にはふさわしくありませんから、不適切だったと恥じるつもりはありません。

  • 30二次元好きの匿名さん25/10/27(月) 20:25:42

     こうして始まったお嬢様のアイドルとしての生活。
     今だから言えることですが、そう長くは続かないだろう。そう思っていた私がいました。
     お嬢様が何か新しいことに取り組もうとすることはそれまでも何度がありました。ですが、それらが長続きすることはありませんでした。
     お嬢様は、なかなか上手くいかなくて、恥ずかしくて、そんな風に仰っていましたが、本当の理由は違います。
     それはきっと、私のせいなのです。

  • 31二次元好きの匿名さん25/10/27(月) 21:07:02

     お嬢様が、かつて旦那様たちとの仲が順風ではなかったのは、先程申し上げた通りですが、その時の経験からお嬢様は自己肯定感が低くなっているのです。
     自分が泣いても何も変わらない、自分の力程度ではどうしようもできない。きっとお嬢様の幼心に深く刻まれてしまったのでしょう。
     もし、この不仲をお嬢様自身の手で解消できていたら、お嬢様はもっと自信に満ちた方になっていたのだと思います。
     ですが、実際に解決したのは、当時の考え無しだった私です。そのせいで、お嬢様は、自分ではなく、私が解決した、そう思われました。
     その結果、私はお嬢様の成長の機会を奪い、何も出来なかったと思っているお嬢様が、旦那様方からの寵愛を一身に受けた結果、あの時のお嬢様の性格があったのだと思います。

  • 32二次元好きの匿名さん25/10/27(月) 21:08:09

     お嬢様が、このことを恨んだり後悔するような方ではないとは、頭ではわかっているつもりです。
     ですが、好きだったものに、きっとまだ没頭していたかったはずなのに、ご自身には向いていなかったと距離を置く姿を前にして、言葉が、出ませんでした。そのような顔をさせない為に、仕えることを決めたというのに。

  • 33二次元好きの匿名さん25/10/27(月) 21:18:18

     もし、叶うなら、お嬢様が興味を持ったもので、ご自身でなしとげる成功体験を積んでいただければ。ですが、私は干渉すれば、また香名江のおかげで終わってしまうのでは。そんな考えで身動きが取れないそんな日々でした。
     幾度となく、お嬢様に仕えるのが私でいいのかと悩んだこともあります。ですが、お嬢様に仕えたいという気持ちに嘘はないと、自分に言い聞かせてきました。

     そしてきっとまた、あの諦める瞬間に立ち会うのだろうと心の中で覚悟を決めていたのです。

  • 34二次元好きの匿名さん25/10/28(火) 00:58:18

    ですが、お嬢様は違いました。毎日、レッスンでクタクタになりながら、周りとの才能の差を感じながら、それでも諦めずに、ライブをやり遂げたのです。

     それには、目標となった十王星南様の求心力だけでなく、支え競い合うご友人、そして何よりプロデューサーの力があったことは疑う余地はありませんでした。

  • 35二次元好きの匿名さん25/10/28(火) 01:00:35

    保守

  • 36二次元好きの匿名さん25/10/28(火) 01:09:30

    「初」で、堂々と歌い踊られるお嬢様。
    NIAで、多くの方の人気を勝ち取り、ご友人と高め合われたお嬢様。どちらも本当にご立派な姿で、とても喜ばしいものでした。

    えぇ、そのはずなのに、当時の私はまだ未熟で、そのことを素直に喜べませんでした。
     理由は色々あるとは思いますが、その輪に入れなかった疎外感や嫉妬心、そして自分の不始末を自分で解決できなかった罪悪感や敗北心辺りだったのでしょう。当時の自分には、よくわかっていないので推測ではありますが。
     とにかく、自分の中で沸き起こる感情を、割り切ることができませんでした。

  • 37二次元好きの匿名さん25/10/28(火) 01:15:53

     その結果、私がとった行動は、プロデューサーに押し付けることでした。
     責任転嫁による逃避です。
     プロデューサーしたのは、最も都合が良かったからでしょう。
     初対面の時のまま、お嬢様を言葉巧みに騙しに来た本心のわからない人。そう思うことで、お嬢様の変化を、歓迎すべきでないと思おうとしたのでしょう。

     ですから、あの時期は不必要に距離を作っていたと思います。その空気がメイド全体に伝わって、プロデューサーには居心地の辛い環境であったとは思います。
     お嬢様がお慕いしていることも、プロデューサーがその気持ちに足る人物であることも、わかっていたのに。

  • 38二次元好きの匿名さん25/10/28(火) 01:18:28

     はい、その時からもう、疑ってはいませんでした。
     お嬢様が首ったけなのは、お嬢様がいつもプロデューサーの話ばかりするので。
     そして、大旦那様方からの無茶ぶりに自分を犠牲にしてまでお嬢様のことを思って行動する、そんな姿を見せられて疑えという方が無理なものでございます。
     なので、本当に八つ当たりでした。本当に、幼稚な……
     そして、だと言うのにプロデューサーは……

  • 39二次元好きの匿名さん25/10/28(火) 08:09:31

    このレスは削除されています

  • 40二次元好きの匿名さん25/10/28(火) 08:47:17

    保守

  • 41二次元好きの匿名さん25/10/28(火) 14:40:15

     このあたりから、お嬢様とプロデューサーはお嬢様の自室ではなく、初星学園内の事務所で会議をされることが多くなりましたね。
     屋敷に居づらかったのとは思いますが、余計に隠し事がやはりあるのでは、と疑ってしまって。

  • 42二次元好きの匿名さん25/10/28(火) 14:42:27

     そして、一度どうしようもなくなって、初星学園に乗り込みました。
     意外とバレないものですよ。中学時代の制服を引っ張り出して、見学に来た中学生というテイで。
    お嬢様の話から、館内図で事務所の場所を確認し、部屋の前まで向かいました。
     中からお嬢様の楽しげな声と低い男性の声。この部屋で間違いないと確信し、ドアの前で聞き耳を立てました。
     お嬢様に変なことを吹き込んでいないかという名目で。

  • 43二次元好きの匿名さん25/10/28(火) 14:53:15

    「先生のお気持ち、伝わりましたわ。」

    「わかっていただけましたか倉本さん。」

    「えぇ、わたくしも同じ気持ちですもの。」

    「ありがとうございます、では一緒に……」

     ここで、乗り込めば全て丸く納まっていたのかもしれないものを、私は逃げ出しました。理由は今でも……いえ、もうこの時には既にだったのかもしれません。
     とにかく、屋敷に逃げ帰った私は、誰にも言うことが出来ず。その日はほかの侍従に全てを押付けて追われるように意識を手放しました。

  • 44二次元好きの匿名さん25/10/28(火) 22:34:41

    何も考えずに書き進めてるせいで迷子になってます。
    申し訳ありません

  • 45二次元好きの匿名さん25/10/29(水) 01:30:33

    保守

  • 46二次元好きの匿名さん25/10/29(水) 09:20:27

    保守

  • 47二次元好きの匿名さん25/10/29(水) 19:02:26

     実は夢だった、少しは期待しましたが、結局変わらず朝は来るものです。思い足取りで、昨日のことを同僚に謝罪し、また変わらぬ日常をと心がけました。

     ですが、えぇ、この日からプロデューサーを避けるようになりました。
     本音を言えば、お嬢様含め距離を置きたい気分でした。ですが、私の役柄上お嬢様の担当を外れることはできません。
     人生であれほど、お嬢様に会いたくないなどと、たわけたことを考えるのはもうないだろうと、その時は思っていました。

  • 48二次元好きの匿名さん25/10/29(水) 20:46:52

    「香名江、最近先生を避けていませんこと?」
     そんな露骨なことを続けて、お嬢様に気づかれないわけがありませんでした。唐突にそう告げられたのです。
    「そんなことはありません。たまたま会わないだけです。」
    「でしたら、今日の放課後、先生とあっていただけますか?大事なお話がありますの。」
    「う、今日の放課後は……」
    「避けている訳では無いのでしょう?」
    「それは、そうですが」
    「では、今日の放課後に。大切な話がありますの。」

  • 49二次元好きの匿名さん25/10/29(水) 20:56:53

     意外と、追い詰められると人は冷静になれるとこの時実感しました。告げられた時が、いちばん焦っていたと思います。
     約束の放課後、私は先に部屋で待ち、遅れておふたりはやってきました。

    「お待ちしておりました。」

     何とかその一言だけ絞り出し、おふたりが着席したのを見て、倒れ込むように腰を下ろしました。
     先程、冷静になれると言いましたね。確かにあの時、冷静でした。頭は。
     でも、体は正直なもので、この時の私は四肢の感覚などないに等しく、ただ早鐘を打つ心臓が、いつ止められるのかと、身構えることしかできませんでした。

  • 50二次元好きの匿名さん25/10/29(水) 22:06:05

    「ありがとうございます、氷渡さん。今日は話したいことがあって、倉本さんにお願いしました。」
    「お嬢様から聞いています。大事な話、だと。」
    「はい、俺と倉本さんのことです。」
    「プロデューサーと、お嬢様の…」
     予想していたことでも、いざ言われると非常に堪えるものですね。受け入れるために、繰り返しができませんでした。

  • 51二次元好きの匿名さん25/10/30(木) 01:04:40

    「はい、氷渡さん。俺が、俺が倉本千奈さんの今後プロデュースをすることを、認めては貰えないでしょうか!?」

    「は?」

     全くの予想外のセリフに、気の抜けた声を漏れてしまって。

    「ダメ……でしょうか。
     倉本さんとは良好な関係を築けていると思っていますし、確かに最初の倉本家のご要望を達成することはできませんでしたが、その後のNIA優勝やHIFへの下積みも成功していると言えます。
     それでも、まだ足りないですか。もちろん、至らぬ点があれば改善いたします。」
    「香名江、わたくしからもお願いいたします。
     わたくしもプロデューサーは先生が、いいえわたくしのプロデューサーは先生しか考えられませんの。だから。」
    「あ、頭をあげてください。お嬢様も侍従に頭を下げるなど……そもそもいきなりどうされたのですか。」

  • 52二次元好きの匿名さん25/10/30(木) 01:07:56

     その言葉でお嬢様とプロデューサーは顔を上げますが、じっとこちらを見つめておられて。
     その言葉を真意を知ろうと私は言葉を続けました。

    「プロデューサーがお嬢様をプロデュースすることは、大旦那様達含め倉本家の総意です。今更私に言うことでは無いと思いますが。」
    「これから倉本さんはHIFに向けて、活動をしていきます。それには氷渡さん。これまで以上にあなたの力が不可欠です。
     倉本さんに関することですから、身長に見極めたい気持ちは、俺には想像仕切ることはできませんが、その一端はわかるつもりです。
     ですが、どうかお願いします。今後もし不適と分かればすぐに切り捨ててくれて構いません。俺を、信じては貰えませんか!」
    「香名江、わたくしも同じ気持ちです。先生からお話を聞いて、香名江にわかって欲しくて、この場を用意したのです。」

  • 53二次元好きの匿名さん25/10/30(木) 01:10:46

     呆気にとられましたよ。てっきりお嬢様とお付き合いしたことの報告だと思っていましたから。もう少しで笑ってしまうところでした。でも、そうできなかったのは、同時に目の前に、地獄への道が続いたからかもしれません。
     この時、素直にもう認めていることを伝えていれば……この時が最後の転換点だったと思います。
    「そんな、私は一侍従です。倉本の総意に逆らうようなことはいたしません。命じていただければそれに従います。」
     でも、素直にはなれませんでした。
     意固地になって、まだプロデューサーを認めることが…………
     いえ、違いますね。もっと聞きたかったんです。
    『これまで以上にあなたの力が不可欠です』
     プロデューサーは、私がこれまでもお嬢様の力になっていると仰いました。
     そこに期待してしまったのです。
    「氷渡さん、確かにあなたはメイドなのかもしれない。でも、倉本さんはあなたを家族だと言った。
    あなたがいなければ、今の倉本さんはいません。
    だから、俺はそんな貴女に感謝と尊敬を持って、貴女の意志を尊重したいんです。」

  • 54二次元好きの匿名さん25/10/30(木) 01:12:29

     まさにその通り、プロデューサーは私に欲しい言葉をくれました。
     私がお嬢様の役に立っているという実感。それを感じるための感謝。
     あの日仕えると決めてから、欲せども、手に入らなかったもの、手に入れようとしなかったもの。それをプロデューサーはくれました。

     お嬢様ではダメだったのです。私がお嬢様に引け目を感じているうちは、お嬢様の感謝を受け取めることが出来ませんでしたから。

     プロデューサーが、お嬢様を私の呪縛から放ってくれた人が、言うことに意味がありました。
     それだけで、それまでの人生は全て報われる、私の今までのお嬢様への忠誠は間違いじゃなかったと思わせてくれる、それほどの価値を持つ言葉でした。

  • 55二次元好きの匿名さん25/10/30(木) 01:13:44

     ただ、ひたすらに嬉しかった。

     でも、私は聞いてはいけなかった。プロデューサーの言葉でだけは報われてはいけなかった。

     最初は感謝の気持ちでした。お嬢様の自信をつけて下さったことに対する。
     そして、尊敬。 お嬢様に仕えるものとして、葛藤があった私にとって、一心不乱にお嬢様のプロデュースをする姿は、まさに理想でした。
     さらに…………
     いえ違いますね。この気持ちは。
     この気持ちは、いくら言葉で定義しようとしても、言い切れるものではないでしょう。そうしようとする方が無粋というものです。
     ですので、いつからこの感情があったのかも分かりません。
     ただ、この時私はハッキリと確信しました。
     
     私は、プロデューサーをお慕いしている、と。

  • 56二次元好きの匿名さん25/10/30(木) 07:02:37

    保守

  • 57二次元好きの匿名さん25/10/30(木) 14:03:57

     ですが、やっと気づいたこの初恋も、その結果は、はっきりとしていました。
     私のお慕いする人物は、主人がお慕いなされているお方、なのですから。

     でしたら、私に出来ることは決まっています。侍従は、お慕いする方のために動かなければなりませんから。

    「ありがとうございます、プロデューサー。
    えぇ、お嬢様のことよろしくお願いいたします。」

  • 58二次元好きの匿名さん25/10/30(木) 21:32:16

    保守

  • 59二次元好きの匿名さん25/10/31(金) 01:09:22

    このレスは削除されています

  • 60二次元好きの匿名さん25/10/31(金) 01:13:24

    えぇ、プロデューサーも、お嬢様もそんなこと知らなかったでしょう。
     誰にも言わずに、自分の中に押し込めてきましたから。
     それが、お嬢様の侍従としてあるべき姿で、それが、プロデューサーが褒めてくださった、私だと、信じて。
     そうすれば、プロデューサーはお嬢様ではなく、私を選んでくださって、2人でお嬢様にお仕えして…。そんな未来、あるはずがないというのに。
     都合のいい妄想です。考える度に、有り得るはずがない現実と、お嬢様を出し抜こうとしている自分に苛まれて。
     でも、こんな妄想でも、私にとっては僅かな希望で、焦がれることをやめられずに。 

  • 61二次元好きの匿名さん25/10/31(金) 01:20:45

     長い、本当に長く、苦しい日々でした。
     ですが、今思い返すと、それでも幸せだったのだと思います。
     お仕えするべきお嬢様がいて、お慕いするプロデューサーがいて、お嬢様がトップアイドルになるために、悩んで、疲れて、それでも笑って。
     私の…恋心にも、淡い期待が、あって…
     ですが、もう、そんな日々も、終わってしまうのですね。プロデューサー…。」

  • 62二次元好きの匿名さん25/10/31(金) 01:33:05

    「……」

     ここは夜の公園、学Pは香名江の話を聞いていただけのはずが、あまりの情報量に言葉を紡げずにいた。

    「氷渡さん、すみません、ちょっと混乱していて。整理させてください。
     俺は、ここにあなたに呼ばれて来ました。」

    「はい、こんな話お嬢様のいるところでは、できませんので。」

    「…冗談、なんて雰囲気では、ありませんね。」

    「はい、嘘偽りなく…」

  • 63二次元好きの匿名さん25/10/31(金) 03:00:20

    「そして、貴女は俺を、好きだと」

    「そうです。」

    香名江の言った通り、学Pにとって、香名江のこの感情は、今、初めてこの場で知るものであった。

    「正直、まだ信じられません。最初に言っていた通り、貴女にとって俺は、ものの知らぬ学生から始まり、どうあっても、千奈を共に支える同士、そう見られているとしか思っていませんでしたから。」

    「これでも、お嬢様と同じ歳なんです。貴方のような人と、時間を共にして、褒められて、あまつさえ悩みまで解決してもらって。好きになって…しまいますよ…」

  • 64二次元好きの匿名さん25/10/31(金) 12:22:29

     再び、沈黙が走る。学Pはどう返すべきか分からなかった。
    「よりによって、なんでこんな日に」
     沈黙に耐えきれず、ぼそりと独り言を零す。
     しかし、周囲に誰もいないこの静寂の中では、小声も意味をなさない。
    「よりによってだからです。プロデューサー。」
    「まあ、そうですよね。氷渡さんが知らないはずなかったか。」
    「お嬢様を見ていれば、分かります。お嬢様は、告白、なされたのでしょう?」
    「はい、まさしく。千奈に呼び出されて、俺のことをお慕いしている、と。」

  • 65二次元好きの匿名さん25/10/31(金) 13:01:21

    「その返事は、言わないでください。それは、私には、あまりにも辛い事ですので。

     その代わりに、私にも返事をください。
     プロデューサー、他でもない、貴方の言葉で、私に向けた貴方の言葉で、私に、この気持ちに、どうか…」

    香名江は小さく息を吸い込んで、プロデューサーの目を見つめ、覚悟を決める。

    「私、氷渡香名江は、プロデューサーが、好きです。お慕いしております。ですからどうか、私を、貴方が褒めてくれた、私でいさせてください。」

  • 66二次元好きの匿名さん25/10/31(金) 22:13:24

    困った、この後の展開どれにしようか悩む

  • 67二次元好きの匿名さん25/11/01(土) 02:23:14

    保守

  • 68二次元好きの匿名さん25/11/01(土) 03:33:43

    香名江が選ばれる
    千奈が選ばれる
    2人とも選ばれる
    どれも同じくらい好みだと、自分の中で争ってます

  • 69二次元好きの匿名さん25/11/01(土) 07:40:03

    ここまでが全部「語り」だったのか...!

  • 70二次元好きの匿名さん25/11/01(土) 07:50:26

    全部書いちゃってもいいのよ?(強欲)

  • 71二次元好きの匿名さん25/11/01(土) 16:56:35

    全部、書きましょ?

  • 72二次元好きの匿名さん25/11/01(土) 23:40:51

    全部…書きますッ
    たぶん筆が遅くなるけどッ

  • 73二次元好きの匿名さん25/11/02(日) 00:17:32

    このレスは削除されています

  • 74二次元好きの匿名さん25/11/02(日) 00:18:52

    >>68

    どれやるか

    dice1d3=3 (3)

  • 75二次元好きの匿名さん25/11/02(日) 04:21:30

    保守

  • 76二次元好きの匿名さん25/11/02(日) 13:00:49

    保守

  • 77二次元好きの匿名さん25/11/02(日) 19:23:54

    保守

  • 78二次元好きの匿名さん25/11/02(日) 19:47:35

    「氷渡さん、俺は… 」
     学Pの言葉は、そこで止まった。
     どうしても、確かめておきたかったからだ。
    「……ここで、俺の言葉を聞いた後、貴女はどうするんですか?」
    「どうする、今は、関係ない、ですよね。」
    「それは、そう…ですが…」
    「そう、ですね。幸い、侍従としての給金は沢山いただいていますし、日本各地をあてもなく、なんてのもいいかもしれません。」
    「千奈の、メイドは…」
    「もちろん、こうなった以上続けることは…できませんので。」
    「そんな、辞めなくても…」
    「それは、お嬢様が、悲しむから…ですか?」
    「………はい、ですから…」
    「プロデューサー、それは、あまりにも残酷ですよ。」

  • 79二次元好きの匿名さん25/11/02(日) 20:53:14

    「え…それは」
     どういう、学Pそう言い切る前に香名江は踵を返し、その場から立ち去ろうとする。
     学Pはそれに気づき、引き留めようと手を伸ばそうとして、
    『それは、あまりにも残酷ですよ。』
     その時の、香名江の表情を思い出し、躊躇する。
     悲しいやら、悔しいやら、全く読めないあの表情、他が少なくとも、自分が原因であることだけは確かで。
     また、繰り返すのではないか、そう思うと動くことが出来なかった。

  • 80二次元好きの匿名さん25/11/02(日) 22:38:54

    保守

  • 81二次元好きの匿名さん25/11/03(月) 02:54:23

    夜中、公園に学P一人、落ち着くために買った缶コーヒー片手にたそがれる。
    (俺は、どうすべきだったんだろう。)
     先の会話が、完璧ではないことは、理解していた。しかし、間違いがわかっても、正解を見つけることは出来なかった。
    (俺は、どうすればいいんだろう。
    氷渡さんに、千奈の告白のこと、詳しく聞かれなくて良かったのかもしれない。)
     学Pは、日中、確かに千奈からの告白を受けた。が、その結果というのは、実はまだ出ていないのである。

  • 82二次元好きの匿名さん25/11/03(月) 03:32:37

    『プロデューサー、わたくし、あなたの事をずーっとお慕いしておりましたの。それで、ぜひわたくしの恋人に、なってくださいませんか!』
     本日、昼の出来事である。学Pが千奈に部屋に呼び出され、突然にそう告げられた。
     いきなりの告白、学Pは驚かったわけではない。しかし、広や佑芽からからかわれ、意識がなかった訳では無いし、何よりプロデューサーであるという意識が冷静でいさせてくれた。
    『千奈、確かに最近は風潮も変わってるし、イメージも転向しつつあるとは言え、千奈はアイドルで、俺はプロデューサーなんだ。間違っても、恋人なんてダメだよ。』
     なるべく傷つけないよう、優しい声色を心がけ諭すように返事を返す。
     千奈の素直さなら、これで納得してくれるだろうと考えたのだ。
     しかし、今日の千奈は強情であった。
    『ええ、そうです。わたくしはアイドルで、プロデューサーはプロデューサーです。
     ですが!今日はそういう話をしたいのではないのです!
     今、あなたをお慕いしているのは、倉本家の、いえ、ただの女性としての、倉本千奈ですわ。
     ですから、どうかプロデューサーも、プロデューサーとしての立場からではなく、1人の男性としてのお答えをいただけないでしょうか!』
     そう言われ、学Pの心臓がドクンと大きく跳ねた。
     アイドルではない倉本千奈を、プロデューサーではない自分がどう考えているのか、今まで確かにそこにあったのに、見ないようにしていたものだったからである。
     それは、『好き』などという2文字では表せないほどの感情。
     プロデューサーでなければ、自ら進んでさらけ出していたであろうもの。
     確かにそこには、倉本千奈に対する恋愛感情があった。
     だが、この時のプロデューサーには、あまりに唐突な出来事で、自らのこれがなんなのか理解することが出来ず、すぐに返答を返すことが出来なかった。
     それを、千奈が知ってか知らずか
    『困らせてしまったでしょうか。すぐに返事を、とは言いません。ですが、もしプロデューサーがわたくしと、同じ気持ちなら、アイドルやプロデューサーなんて言い訳はなしで、本当の気持ちをお聞かせください。』
     そして、結論の出ぬまま香名に呼び出され、今に至るのである。

  • 83二次元好きの匿名さん25/11/03(月) 03:54:20

     二人の好意に触れて、落ち着いて考えて、学Pの中には一つの確信があった。
    (俺は、千奈のことが好きだ。)
     ずっと自分の中に眠っていた感情を定義付けることができたのだ。そう思うだけで、胸のつっかえがすっと外れたのだから、疑う余地はなかった。
     それなのに、すぐに千奈の元へ向かおうという気が起こらないのは、香名江の存在があった。
    (千奈が好きなんだから、氷渡さんの告白は断れば、いいはず、なのに、とてもそうは思えない。でも、その理由が分からない。)
     堂々巡りする思考。先に夜の寒さに耐えられなかった体が限界を迎え、くしゃみという白旗をあげた。
     プロデューサーは体が資本。冷たくなったコーヒーを飲み干し、結論のでぬまま、帰宅することにした。

  • 84二次元好きの匿名さん25/11/03(月) 03:58:02

    補足
    勝手に千奈とプロデューサーの呼び方が千奈、プロデューサーになっている理由ですが、自分の中で数年共にアイドル活動をしてて、いつまでも倉本さん、先生じゃあないだろうなと勝手に変更しています。
    恐らく、広に広Pから名前呼びされてることを自慢された千奈が名前呼びを迫った結果、千奈さんからの段階を踏んで千奈呼びになり、先生、と呼ばなくなったのは、先生だとどうしても上下関係ができてしまって、プロデューサーと距離ができてしまうのが嫌だった千奈が、少しでも距離を縮めようとした結果だと思ってます。

  • 85二次元好きの匿名さん25/11/03(月) 13:37:10

     夜深くの倉本邸。かつては来る度に緊張していた時期もあったというのに、学Pは手馴れた様子で扉を開け、中に入る。
    「ただいま」
     誰も起きていないだろうと、小声で呟いたつもりだったが、予想とは裏腹に迎えの返事が帰ってきた。
    「お帰りなさいませ、プロデューサー」
    「あ、倉本さん…起きていたんですね。」
    「プロデューサーこそ、こんな夜遅くまでどちらに?」
    「…少し、野暮用で…」
    「香名江に、呼ばれていたのでしょう?」

  • 86二次元好きの匿名さん25/11/03(月) 14:10:56

    このレスは削除されています

  • 87二次元好きの匿名さん25/11/03(月) 14:16:29

    「なんで知って!?」
    「やはり、そうですのね。何となく、女の勘というやつですわ。」
    「…そうです、氷渡さんに話がある、と。」
    「それで、香名江はどちらに?」
    「それは、俺には…」
    「まあ、そうですのね。でしたら、何があったのかだけでも教えてくださりませんか?」
    「すみません、俺からは、言えません。」
    「なるほど、つまり告白、されたのですね。」
    「!?どうして女性というのはそう敏感なんですか。」
    「ふふ、そういうものですわ。ですので、詳しく聞かせていただきますわ。
     それに、プロデューサーのお顔、とても悩んでいらっしゃるのでしょう?」
    「……そうですね、倉本さん、聞いてくれますか。」

  • 88二次元好きの匿名さん25/11/03(月) 21:14:27

    保守

  • 89二次元好きの匿名さん25/11/04(火) 01:41:58

     告白を保留している、好意を持っている相手にするべき相談ではない、とは思いながらも、学Pは香名江の過去を聞いた事、告白をされたこと、そして、その返事ができなかったことを打ち明ける。
    「それはつまり、プロデューサーは香名江のことが好きだからですの?」
    「どうしてそうなるんですか、俺が好きなのは…」
     勢いに余って言ってしまいそうになり、ぐっと口を紡ぐ。
    「まあ、好きな方はいらっしゃいますのね。非常に気になりますが、今はプロデューサーの質問にお答えしましょう。
     そもそも、香名江がなぜ、告白してきたのかは、流石にわかっていらっしゃいますの?」
    「それは、俺のことが、好き、だからで…」
    「プロデューサー、ほんっとうに分かりませんの?」
    「う、はい、まったく。」
    「香名江は、プロデューサーに振られたかったから告白をしたのです。」

  • 90二次元好きの匿名さん25/11/04(火) 02:25:58

    「フられる、ため?」
    「ええ、本当にわかっていらっしゃいませんの?」
    「はい、まったく。あの時は、告白をされたからには、きちんと悩んで、はいかいいえで答えないと…としか。」
    「まさかプロデューサーがここまで鈍感だとは思いませんでしたわ。ならなぜ香名江に告白の返事の後のことを聞いたのです?」
    「それは、どう返事をしても、これから俺に、好意を向けてくれている人2人と、過ごすことになるから、気まずいな、と思って、つい…」
    「うぅ、本当は香名江のことを思うと、解説するのははばかられるのですが…
     香名江はきっと、わたくしとプロデューサーは恋人になっていると、思っているのです。ですから、プロデューサーと、お付き合いをすることは出来ない。そう思っていることでしょう。」
    「だったら、何故告白を…」
    「もう、ですからフられるためだと何度も言っておりますわ。
     きっと香名江は、わたくしの、いいえきっとお慕いしているプロデューサーのこれからの人生に、自分自身の未練が邪魔になると考えたのでしょう。
     ですが、そう簡単に恋心は忘れられぬものです。気にしないようにしても、もしかすると、今なら、なんてずっと考えてしまうのです。
     ですから、きっかけが欲しかったのだと思います。『自分が気持ちを忘れることは、プロデューサーが褒めてくれた、千奈お嬢様の侍従として当たり前のこと』そう思うためのきっかけが。」

  • 91二次元好きの匿名さん25/11/04(火) 02:41:40

    「ええ、理解しづらいと思いますわ。今、プロデューサーは香名江の思いを伝えられたことで、逆に悩んでおりますもの。
     きっと普段の香名江なら、そんなこと直ぐに思い至ったと思うのです。それなのに、想いを伝えたのはきっと、恋ゆえの盲目、というものなのでしょう。」
    「なら、俺のしたことは…」
    「香名江にとって、最も辛いことだと思いますわ。返事がなければ、淡い期待をせずにはいられませんもの。」
    「で、でも返事を聞く前に帰ったのは、氷渡さんの方ですよ!?もう少し話して、そのように言ってくれれば俺も…」
    「プロデューサー、わたくし本当にプロデューサーがプロデューサーかどうか疑わしくなってきましたわ。わたくしをプロデュースしてくださる時の冴えがまったく感じられませんわ。」
    「言い返せません。氷渡さんの気持ちを千奈に言われるまでまったく分かりませんでしたから。」

  • 92二次元好きの匿名さん25/11/04(火) 02:57:25

    「香名江は、プロデューサーにフられる覚悟をもって、告白をしたのです。しかしプロデューサーはなんと返しましたか?」
    「…それを、聞いた後、どうするのか、と。」
    「えぇ、少し厳しいことを言いますが、その質問は香名江を苦しめる最悪の質問ですわ。
     普通フった人のその後なんて聞きませんもの。きっと、その質問を聞いた時、香名江はプロデューサーは、わたくしではなく自分を選んでくれるかもしれない、だから、自分が立ち去ることを伝えたのでしょう。
     わたくしも、香名江が居なくなるのが嫌で質問したと思っていましたから、香名江ことが好きかどうか聞いたのですわ。」

  • 93二次元好きの匿名さん25/11/04(火) 12:17:50

    ( ´ᾥ` )

  • 94二次元好きの匿名さん25/11/04(火) 19:34:19

    「きっと、香名江はプロデューサーが香名江にいて欲しいと言って欲しかったのでしょう。プロデューサーが引き止めてくださるなら、たとえ報われなくとも、そばにいようと。」
    「……でも俺は、千奈のためと…その時は、氷渡さんをとめないとと思って、千奈のことをいえば聞いてくれると、思って…」
    「ようやくわかっていただけたのですね。」
    「はい、情けながら、今更。」
    「では、話を戻しましょう。プロデューサー。この話を聞いた上で、プロデューサーの好きな方は、誰なのでしょうか。わたくしの告白には、どうお答えくださるのでしょう。」

  • 95二次元好きの匿名さん25/11/05(水) 01:36:32

    保守

  • 96二次元好きの匿名さん25/11/05(水) 10:04:22

    保守

  • 97二次元好きの匿名さん25/11/05(水) 19:59:49

    保守

  • 98二次元好きの匿名さん25/11/06(木) 02:10:18

    ほしゅ

  • 99二次元好きの匿名さん25/11/06(木) 11:44:55

    「…千奈、俺は、今日のようにまだまだ至らぬ所の多い人間です。
     自分でわかっているだけでもいくつかありますし、今回のように俺の知らない部分もあると思います。
     プロデューサーとしてではない俺を、受け入れてもらえるかどうかは分かりません。」
    「それは、わたくしも同じことですわ。とは言っても、わたくしは、今までかなりお恥ずかしい姿を見せてきましたが。」
    「そんなの関係ありません。
     俺は、あなたのことが、好きですから。
    約束します。俺からあなたを手放すことはしないと。
     こんな俺でよければ、よろしくお願いします。」
    「まあ……まあ!それはつまり!」
    「あなたの恋人に、ならせてください。」
    「ええ!これからよろしくお願いしますプロデューサー!」

  • 100二次元好きの匿名さん25/11/06(木) 19:39:08

    保守

  • 101二次元好きの匿名さん25/11/06(木) 23:31:09

    ほし

  • 102二次元好きの匿名さん25/11/07(金) 03:57:27

    保守

  • 103二次元好きの匿名さん25/11/07(金) 12:47:29

    保守

  • 104二次元好きの匿名さん25/11/07(金) 18:42:01

    「……」
    「……」
      ここからどう話を切り出すか、お互いの視線を避けて、少し絡めて、解いて、求めて。
     先に耐えられなくなったのは千奈の方だった。
    「ふふ、なにか喋ってくださらないと、気まずいですわ。」
    「とはいえ、その、何を話せば…」
    「それは……確かに、何を話しましょう?」
     さっきまでの緊張はどこへやら、拍子抜けするその回答に、学Pは思わずクスリと笑い、つられて千奈も笑いをこぼす。
    「いつもの千奈で、いいと思いますよ。俺は。」
    「ええ、なんだかわたくしもそう思いますわ。
    ですが、せっかく恋人になったんですもの。その口調、今度こそ変えていただきますわ!あの時は名前の呼び捨てで妥協するしかありませんでしたが、今なら敬語を使う方が不自然、ですもの!」
    「う、そうです…だね。なれないけど、頑張りま、よ。」
    「お願いいたしますわ。プロデューサー。
    それで、そのかのじょとして、最初のお願いなのですけれど…」
    「何?」
    「ギュッと!抱きしめて欲しいのです。やっぱり恋人になったのですし、こういうことも、してみたい、なんて…」
     もじもじと、指を遊ばせながら頼み込む。
     どうすればいいかは考えなくてもわかる事だ。学Pは、恥ずかしさを咳と共に払い飛ばし立ち上がり、両手を広げる。
    「…おいで。」

  • 105二次元好きの匿名さん25/11/08(土) 02:20:31

    保守

  • 106二次元好きの匿名さん25/11/08(土) 03:32:55

    「し、失礼いたしますわ!」
     少し上擦った返事とともに、千奈は学Pの元へと躊躇いを振り払うべく飛び込む。
     想像以上の勢いを学Pは受け止めきれず、2人仲良く倒れ込んだ。
    「千奈、怪我は?」
    「うう、大丈夫です。ふふ、思い切って飛び込みすぎてしまいましたわ。」
    「良かった。立てますか?」
     その質問に返事はなく、千奈は体の全てを学Pに預けた。
    「少し、このままでいさせてください。」
    「千奈?やっぱりどこか痛むのか?」
    「いえ、そうでは無いのですが、ただ…この嬉しさを噛み締めていたいんですの。」
    「……」
     わかったと、伝えるように、学Pはゆっくりと千奈の背に手を回す。千奈の肩に学Pの手が触れると、驚いた千奈が少し肩を震わせたが、すぐに受けいれ身を任せた。

  • 107二次元好きの匿名さん25/11/08(土) 03:53:09

    「プロデューサー、わたくしで、本当に良かったんですの?」
     少しの戯れの後、胸元から顔をのぞかせながら千奈が問いかける。
    「大丈夫、本当に好きだよ。あんな後だから、信じられないかもしれないけれど、この気持ちだけは本当だと信じて欲しい。」
    「すみません、プロデューサーの気持ちを、疑うつもりは無いのです。ですけれど、香名江の話をして、香名江の気持ちを知ってしまえば、プロデューサーは香名江を選んでしまうのではと、ずっと不安だったのです。」
    「そんな風には、見えなかった。」
    「きっと、アイドル活動の賜物ですわね。でも、今日はずっと心臓がドキドキしてばかりでしたわ。」

  • 108二次元好きの匿名さん25/11/08(土) 04:06:14

    「プロデューサーに告白した時、すぐに返事を聞かなかったのは、実はその方が良いと、アドバイスを受けていたからなのです。
     もちろん、篠澤さんと花海さんからですわ。
    『千奈がすぐ告白しても、成功する確率は低いと思う。きっと千奈が告白しても、プロデューサーは千奈を女の子じゃなくて、アイドルとして断ると思う。』
    『でもねでもね、こういう時は、返事をほりゅうにすると、いいんだって!』
    『そうすれば、冷静に千奈のことについて考えるから千奈を女の子としてみてくれるはずだ、よ。』
    『大丈夫!千奈ちゃんのプロデューサーさん、千奈ちゃんのこと大好きだもん!ぜぇぇぇっったい!上手くいくから!』
    と、いうわけですの。
     そして、その通りにプロデューサーへの告白の返事を保留にしたのです。
     ですが、いくらお2人が私の友人で、頼れる恋の張良であっても、必ず上手くいくとは限りませんもの。
     朝起きてから、いえ昨日眠る前から、ずっと、緊張してばかりでしたわ。

  • 109二次元好きの匿名さん25/11/08(土) 12:28:30

     それと、もう1つ大きな理由が。香名江ですわ。
     香名江がプロデューサーのことをお慕いしているのは、何となくわかっていました。
     時折見せるプロデューサーを見る表情が、まるで鏡を見ているようでしたもの。
     わたくしね、香名江には幸せになって貰いたいのです。香名江は、あの日わたくしを救ってくれた恩人で、何より大切な家族ですもの。
     ですから、香名江の恋路は応援したいのですけれど、プロデューサーとなると話は変わりますわ。
     悩んで、悩んで、わたくしにできたことは、香名江にわたくしが告白するということを伝えることだけでしたわ。

  • 110二次元好きの匿名さん25/11/08(土) 20:17:00

    保守

  • 111二次元好きの匿名さん25/11/09(日) 00:12:37

    ほっしゅ

  • 112二次元好きの匿名さん25/11/09(日) 06:54:40

     ええ、わかっていますとも。それが、香名江とプロデューサーを苦しめることになってしまったということは。
     何もしなければ、香名江は私を思って自分の気持ちに蓋をするでしょう。ですが、わたくしには、自分の気持ちを殺して、香名江を応援することは出来ませんでしたの。
     ですから、わたくしが告白すると伝えれば、香名江は自分の気持ちに正直になってくれると、結果は変わりませんでしたが。
     ですのでもう一度、プロデューサー、わたくしでよかったんですの?」
     そしてこのことを、プロデューサーの気持ちを聞くまで、言い出せずにいたのです。

  • 113二次元好きの匿名さん25/11/09(日) 14:42:21

    ほしし

スレッドは11/10 00:42頃に落ちます

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