Re:見つけましたよ、杏山カズサ 8

  • 11825/10/31(金) 07:50:46

    ここだけ15年前に行方不明になった杏山カズサを探し続けていたレイサがいる世界。
    なお、カズサには30分程度道に迷ってたぐらいの認識しかない。

  • 21825/10/31(金) 07:55:14
  • 31825/10/31(金) 08:05:42

    -登場人物-
    ■栗村アイリ SUGAR RUSH 30才
     バンド活動を提案した元凶。妖怪キーボード。
     シンセベースでよくない? と各方面に言われたことがあるけれど、既存のもので「カズサの代わり」を作りたくなかった。あくまで独立した「特別なもの」としたかった。それはそれとしてベース用の改造キーボードは打鍵の強さで強弱表現できるし、スライド表現もできるし、ミュート奏法もできるし、スラップ再現もできる盛り盛り機材が出来上がった。ミレニアム製。

    ■伊原木ヨシミ SUGAR RUSH 31才
     バンドの方向性を変えた元凶。アナログオカルトギター女。
     最初は謝肉祭で使ったマルチエフェクターを使用していたが、カヨコに「買ったけど使ってないから」と言って渡されたいくつかのコンパクトエフェクターで沼にハマる。直後、シューゲイズを紹介されバカハマり。もちろん、計画通りと裏でほくそ笑む人がいた。肩こり解消にヨガに通ったら「肩こりが治る壺」を買わされたことがある。

    ■柚鳥ナツ SUGAR RUSH 30才
     バンドをテロリストに変貌させた元凶。要塞ドラマー。
     ジャグ的に桶やバケツ、鍋やフライパンなどもじつは装備されている。けどライブごとに持っていくの忘れるし、ぜんぶ把握していないため毎回違う音が鳴る。本当にフルで組んだ場合、スティック動かすたびにどこかにぶつかって音がなる。いちばん上のシンバルは下から叩かないと届かない。シルエットをキメるための飾り。

    ■杏山カズサ SUGAR RUSH 16才
     ボーカル。15年消えていました。
     突貫とはいえ自分なりの基礎を構築できてきた。1日3回、聞きかじりの付け焼刃で”お湯のはちみつ割”をがぶのみしている。一番好きなのはやっぱりハード系。ゲリラライブ用の楽曲とステージ用の楽曲があることにうすうす気づき始めた。前髪が少し伸びて目に入るのがうっとおしい。

  • 41825/10/31(金) 08:16:01

    -登場人物-
    ■宇沢レイサ S.C.H.A.L.Eトリニティ支部 31才 
     ラストライブ計画の最重要人物。リズムギターとコーラス(サポート)。
     スズミと聞いていた曲が”懐かしのヒット曲”特集で紹介されるたびに嬉しくなるも、同時に年を感じて胸が重くなる。現役の自警団が正式に部として認められたとき、初代メンバーとしてご挨拶を! とお願いされたけど、花を贈るだけにとどめた。魔法少女? さすがにもう。あはは……。コスチュームとグッズはまだ、捨てられない。 

    ■エリナ S.C.H.A.L.Eトリニティ支部 23才
     トリニティ支部正規職員。レイサの子飼い。
     ラストライブの広報担当。トリニティの支援を受けているが、あくまで独立自治区を宣言しているアリウス出身。神学を修めるためにトリニティのシスターフッドに部活動のみ参加。必要なら感情的にもなれるし、涙だって流せる演技上手。それはそれとして友だちがいない3年間だった。面倒を見てくれたシスターフッドの先輩は、現在ノノミが経営する孤児院の責任者。ときどき仕事を手伝いに行く。

  • 51825/10/31(金) 08:23:41

    -登場人物- 
    ■和泉元エイミ S.C.H.A.L.Eミレニアム支部 31才
     レイサ経由でSUGAR RUSHに無茶振りされるドラえもん。
     アイリの改造キーボードの開発者。楽器作りは初めてで難航していたが、ある日唐突にやってきた人が宿と食事を条件に監修・機材紹介をしてくれ、要望以上のものを作ることができた。完成前夜、連絡先も置かず去ってしまったその人とは以降つながりはないし探してもいない。名乗られた”椎名”も本名か偽名かわからないので「手伝ってくれた人がいた」ぐらいしかアイリ達には言っていない。

    ■小鳥遊ホシノ S.C.H.A.L.Eアビドス支部 32才
     S.C.H.A.L.Eアビドス支部長。
     最近は激しい曲や、きらきらした恋愛ソングが全部同じに聞こえるようになってきた。ちょっと昔に流行った曲を聴くと胸が締め付けられる。これが年を取ることかぁ、と黄昏るも、年を取ることができなかった先輩のためにこの世界の”いろいろ”をちゃんと見て憶えていたい。でも無理はしてない。そういう生き方もいいよね、程度。

    ■十六夜ノノミ カイザーコーポレーション 32才
     S.C.H.A.L.Eアビドス支部の非常勤職員。カイザーコーポレーション取締役。
     財務担当。おかげでアビドスの財源は安泰域。どころか最盛期のマンモス校時代の勢いに突入している。カイザーの方針としてリゾート地区の開発に注力中。試金石としてオープンした、廃墟エリアを逆手に取った「崩壊都市キャンプ場」が大当たりしたため、キヴォトス各地の廃墟エリアを買い上げ、さまざまなコンセプトのサバイバルキャンプビジネスを構想中。

    ■砂狼シロコ S.C.H.A.L.Eアビドス支部 32才
     S.C.H.A.L.Eアビドス支部警ら担当。
     といいつつもアビドス高校にも治安維持部隊があるのでそこまで仕事はない。百鬼夜行とヘルメット団との折衝がメイン。シロコ*テラーと同じぐらいまで髪を伸ばしたら周りからそれとなく『そういう嫌がらせはダメだよ』と言われたけど、区別をしないで欲しいと言ったテラーの言う通り、区別されないためにシロコなりに考えたこと。アイツが”あっちの世界のシロコ”を辞めたのだから、自分もこっちの世界の”砂狼シロコ”を辞めてあげるという理屈。なんだかんだ仲はいい。

  • 61825/10/31(金) 08:27:13

    -登場人物-
    ■シロコ*テラー S.C.H.A.L.Eアビドス支部 33才
     S.C.H.A.L.Eアビドス支部警ら砂漠エリア担当。シロコは街中メイン。
     髪の一件には気付いている。泣いてしまったほどうれしかったけど、正直そろそろ短くしたいと思ってる。”自分ってこんな雑だったっけ”と傷んでるシロコの髪を見るたびいつ言おうか悩んでいる。だから事故に見せかけて火をつけようと画策中。自分の世界の廃校対策委員会の命日にはシロコと一緒に砂漠にお花を供えに行く。

    ■黒見セリカ 柴関 31才
     柴関を引き継いだ直後は常連に「味が変わった」と言われ続け、メニューを食べまくり、記憶と実際を擦り合わせていたら2ヶ月で30キロ太った。脅迫的に一日10杯食べることも。過食症気味になってしまったある日、大将が一ヵ月も毎日食べに来て「俺より美味ぇじゃねえか」と常連たちを睨み続けたところ、文句を言う客はいなくなり暴食は落ち着いた。それはそれとして食べるのは好き。

    ■奥空アカネ S.C.H.A.L.Eアビドス支部 31才
     コンタクトにしたら砂が目に入って地獄を見たので、アビドスに居る限りメガネから逃れられない人生を悲嘆している。みんなに頼られると言えば聞こえがいいけど結局面倒を後輩に押し付けてるだけじゃんと、アビドス支部の中で一番酒量が多い。週末の閉店間際に柴関に行くと泣きながらセリカにクダ巻いてるアヤネが見られる。でも誰もアヤネレベルの仕事ができないから詰んでる。

  • 71825/10/31(金) 08:37:15

    -登場人物-
    ■先生 S.C.H.A.L.E連邦捜査部 40代中ごろ
     思い出に”タイトル”を付けてしまうのがイヤで仕方ない。生徒の得意不得意を数値化してしまうのがイヤで仕方ない。初めて会った生徒をどの生徒と組み合わせて戦闘するか考えてしまうのがイヤで仕方ない。「仲良くなって”思い出”作らなきゃ」と義務感に駆られるのがイヤで仕方ない。カズサのことを心配していたし、レイサやSUGAR RUSHを応援していたし見つかったときは心の底から嬉しかったけれど。もう、怖い。これに”タイトル”を付けてしまうだろう、未来の自分が。

    ■狐坂ワカモ S.C.H.A.L.E連邦捜査部 34才
     結局3年留年した。卒業する条件にしたことは、先生から離れる=二度と会えなくなるものだと思い込んでいる。自分をずっとそばに置いてくれているのだからそばに居てもいいというコミュニケーション不全。仕事終わりには一緒に飲みに行くし、休日にも一緒に出掛けたりする。護衛ではなく。話すのはほぼ業務的なものになってしまうけど、その時間が大好き。その時のレシートをファイルにまとめて眺める時間も好き。
     
    ■栗浜アケミ キヴォトス乙女連合 34才
     乙女連合を立ち上げたと同時に、スケバンのための自治区を作ろうと、それまでぼんやりした想いだったものを形にし始めた。レイサに頼まれ、カズサ捜索のために組織したはずがいつのまにかそっちがメインにすり替わっていったことを、幼馴染の副総裁だけがわかっている。

    ■タミコ キヴォトス乙女連合 16才
     裏切ったとしてもアケミのことを姐さんと呼び続けようと決めている。世話になったことは実際だし、SUGAR RUSHと関われたのも、自分にこういう選択が訪れる機会を与えてくれたのも、全部アケミのおかげだっていうことは理解している。それはそれとして、いまの傷だらけの体でみんなにちやほやされるのがちょっと嬉しい。主役になった気分。大人の会話の時に置いてかれてるのはちょっとむっとしている。

  • 81825/10/31(金) 08:38:44

    -登場人物-
    ■陸八魔アル 便利屋68 31才
     社長。酒が弱いのを必死に隠しているが、全同世代にはバレている。『ボロが出るからあんまり喋らないで』とカヨコに言われて以降、自分以外の誰かが場にいるときはあまり口を開かないようにしている。おかげで威圧感があると思われ、もろもろがうまくいくようになった。本人はまんざらでもない。内心ドヤってる。『ハルカちゃんにすら舌戦で劣るって言われてるんだよー』とムツキに笑われたときは、酔いつぶれていた。
    ■鬼方カヨコ 便利屋68 33才
     課長。アルが望むアウトローの現場に、アルの性格は絶望的にミスマッチだと判断したから”喋るな”と言った。だいたいの黒い部分はカヨコとムツキが片付けている。『影で支える便利屋68を陰で支える』二重構造が楽しい。STANCE RUSHの初にして唯一の限定配布CD-Rを買えなかったことが地味にコンプレックス。本人たちからもらうのは違うと必死に自分を説得するも、オークションサイトではプレ値がついてとんでもないことになっているので悲しい目をしている。出品者はSTANCE RUSHのメンバーだと言うことは知らない。
    ■浅黄ムツキ 便利屋68 32才
     室長。ハルカと共にゲヘナ退学組。音楽にはそんなに興味がない。けど、流行り曲はSNSをひたすら漁ってリサーチ済み。これに付いていけなくなったらいよいよ終わりだと思っている。若くいることが全てではないと理解しつつ、それでも抗うこともまた”きらきら”の一つだと思っている。ちなみに20代はエナドリとお酒をぶち込みながら必死に仕事をしていた。それもいい思い出。クラウドストレージは最大で契約している。写真や動画がたくさんあるから。
    ■伊草ハルカ 便利屋68 31才
     平社員。ムツキと共にゲヘナ退学組。夢中を歩み続ける現実が自分の人生だと、20の誕生日に飲み下してからちょっと自信を持てた。毎年貰っている誕生日プレゼントの包装はレジンで固めて暗所で保存している。雑草趣味はもうないけど、その代わり誰かをお世話したい欲がものすごい。アルに貰った給料でアルたちに料理を振る舞うのが趣味。給料はすべて便利屋メンバーへの奉仕に消える。でもそれ以上のお返しが返ってきていることに微妙に気づいていない。

  • 91825/10/31(金) 08:40:19

    -登場人物-
    ■ミツル STANCE RUSH 24才
     SUGAR RUSHのコピバン。オリジナルもある。ベース。音楽に興味のない優等生だったけれど、中学の頃にシュガラのゲリラライブに遭い、清楚な長い髪を振り乱し、汗を飛ばして叫ぶアイリに目を奪われ。そして生まれて初めて”音を浴びる”という経験をしてからずっぽり。その日のうちにディグり、”SUGAR RUSHの存在意義”を知り。トリニティにまで行って資料を漁って、”初代SUGAR RUSH”に行きつき、アイリのわけわからん楽器構成の意味を理解して、彼女が目指すベーシストを目指すことに決めた。いつか代わりにベースやらせてくれないかな、なんて思いながら。受験失敗して望みの高校に入れなかったので、バンド一本に突っ走ってるうちに停学→退学。

    ■ツキカ STANCE RUSH 24才
     SUGAR RUSHのコピバン。オリジナルもある。ギター。弾き語り界隈勢。絶望ジャイアン。自分の配信が晒されていることに気付いてビビって音楽ができなくなっていたところ、路上でベースをストロークして歌うミツルを見た。指さされ、笑われながらも毅然と『私は今、音楽しているんです』と言い放ったミツルに、野次をぶちのめし、その場でバンド結成を持ちかける。SUGAR RUSHはミツル経由でファンになっている。ミツルと同じ時期に、いっしょに退学。

    ■コウ STANCE RUSH 23才
     SUGAR RUSHのコピバン。オリジナルもある。ドラム。ナツのカルトファン。ライブで毎回『抱いて捨てて』というボードを持っているのでナツは認知しているし、炎上を思い出して胃が痛くなるので辞めて欲しいと思われている。いわゆる”どもり”で小さい頃から虐められていたが、雑誌で見たナツのわけわからん根拠のない自信に憧れ、河川敷でドラム……ではなくナツの真似事をしていたところ、練習に来たミツルとツキカに見つかり、人生で初めて”友だち”ができる。それもこれもナツのおかげ。『ヴァンデ』はレア曲として好き。実は歌わせたら一番うまい。ミツルと同じ時期に、いっしょに退学。

  • 101825/10/31(金) 08:42:01










    (区切り用)
    (はろうぃーん!)

  • 11二次元好きの匿名さん25/10/31(金) 09:01:34

    昨日のうちに駆け足で読ませていただきました!!!
    めちゃめちゃ引き込まれて絶賛脳焼かれ中です!応援してます!!

  • 121825/10/31(金) 09:17:42

    >>11

    (長いお話なのにそんな一気に……!)

    (ありがとうございます、ありがとうございます!)

    (もう結構終盤なので、どうぞゆったりお付き合いくださいませ!)


    (いままでのスレに過去に書いた微妙に関係あるSSや、TIPS的なSSも散らかしてあったり)

    (支援いただいたりもしているので、そちらも是非!)

  • 13二次元好きの匿名さん25/10/31(金) 16:24:02

    立ておつー

  • 141825/10/31(金) 16:24:46

    >>( https://bbs.animanch.com/board/5693388/?res=189


     私だって浮かれていないわけじゃない。いちども。いちどもだ。トリニティでの3年間……いちどもハロウィン祭に参加者側で回ったことなどないのだから!


     いい。別にいい。それは私が選んだこと。この歴史あるトリニティ総合学園に”正義”を実行した人として記録に残ること。私がこの3年間で積み上げたことは必ず次の世代に受け継がれる。学園トップの白い制服に対を為す黒に憧れ。先輩から引き継ぎ。辛くも楽しく、やりがいのある日々を過ごして。次代へと受け継ぐ。歴史の一部に正義の人として名前を残すのは、まったく名誉なこと。


     それを……それをあの子は……堅物などと!!


     かき分け、泳ぎ。オブジェに躓いて怒鳴られ謝り。オーナメントに肩を当てて揺らして。人かと思って道を避けたら人形で。気付けばもうすっかり見えなくなった後輩に悪態をついた。ああもう、この後1人ですか!? 1人でやれと!? 


     ため息。スマホをいじりながら、人混みから外れて路地に入る。こういうイベント時は自警団と連携を取るのが慣例。むしろこういうときの動き方は自警団の方が身軽。まして毎日の活動で市民との距離感も近い。


     けれど自警団は結束自体がゆるく、多少やりすぎな点もあるし、法的拘束力もないから大きな案件には対応できない。反対にこちらは軽々しく動けないが、1度動き出せば事態を素早く沈静化できる。住み分けは出来てはいる。が、だ。”正義”という絶対値を揺らがす今の在り方は、個人的にはあまり好きではない。だが現状、部下は浮足立って浮き上がってしまい、委員長すらふらふらしている始末。これでは面目が……。


     致し方ない。面子にこだわって問題が放置されるよりはマシだと、自分を必死に納得させる。


     ワンコール。ツーコール。


     とはいえ条件は向こうも同じ。コール音を聞きながら髪を直し、制服を整える。指通りに違和感があってスカートを見て見れば。なんだかべとべとした白い液体が付いていた。匂いを嗅げば……糊?


     最悪だ。路地から細い空を見上げれば。


     電話が繋がった。


    『こちら自警団本部。いかがなされました?』

  • 15二次元好きの匿名さん25/10/31(金) 16:34:52

    このレスは削除されています

  • 16二次元好きの匿名さん25/10/31(金) 23:16:01

    トリニティが先に契約無かったことにしたからしょうがないね

  • 171825/10/31(金) 23:56:52

    「……お疲れさまです。申し訳ありませんがトリニティストリートにパトロール隊の応援を――」

     ぺとぺとべたつく指をくっつけ、離しながら。正面のレンガ壁をなんとなしに見やる。
     
    『応援ですか。承知しました。事件があったわけではないんですよね?』

    「――……」

    『もしもし?』

     正面のレンガ壁を。じいっと見る。1枚の張り紙。すこし横を見る。ほんのちょっと離れたところに、おんなじ張り紙。

     振り返る。

     寄っかかっていた壁に、おんなじ張り紙。足元にもなぜか。おんなじ張り紙。

     まさか。いや、いや、いや。トリニティ総合学園の特定イベント時には活動しないよう、特別静穏協定を結んでいるはず。しかも破られればS.C.H.A.L.Eが代位責任を負うというもの。ゆえに宇沢先生直々にパトロールをし、おかげで協定が破られたことは、今まで1度も――。

     なかった、はずなのに。

    【SUGAR RUSH】
    【10/31 トリニティ総合学園】

     たった3年間で。嫌と言うほど見て来て、撃退してきた、色彩鮮やかなバンドロゴ。手書きでありつつも目を引く告知文字。ただし”なんの”告知かは明言されておらず。雑というよりシンプルに、丁寧にまとめられたフライヤー。

     たったそれだけの情報。情報としては3つ。3つだけ。

    『もしもし? 付近のパトロール隊をそちらに向かわせてる形でよろしいでしょうか?』

    「……すみません、事件です」

  • 18二次元好きの匿名さん25/11/01(土) 00:02:02

    このレスは削除されています

  • 191825/11/01(土) 00:05:51








    (だめですね、慌てて書き直すと)
    (もう勢いで読んでいただいて……)

    (× 「付近のパトロール隊をそちらに向かわせてる形でよろしいでしょうか?」)
    (〇 「付近のパトロール隊をそちらに向かわせる形でよろしいでしょうか?」)

  • 20二次元好きの匿名さん25/11/01(土) 05:52:33

    SUGAR RUSHの面々も、やっと表でも大きく動き出すのか

  • 21二次元好きの匿名さん25/11/01(土) 15:05:21

    堂々と張り紙かぁ……事件だ

  • 221825/11/01(土) 16:23:44

    >>17


     剥がしとる。私が寄っかかっていたせいでぴっちりくっついてしまって、力を入れた部分が音もなく破れる。まだ乾いていない糊。貼られてから時間は経っていない。なんの加工もされていないA4用紙。路地の奥に顔をやれば植木やゴミ箱。室外機に配管。建物の”裏口”が並ぶ路地はそこまで長いものではなく。向こうには向こうの大通りの賑やかさが見えている。


     そこに。雑な間隔で、何十枚も貼ってある、おんなじ張り紙。音符みたいに。べたべた適当に貼っていきました、というのがわかる。雑な。張り紙。


     トリニティは浮かれている。あちこちで作業をする人いる。これを貼る道具を持って歩いていようが。人混みのなかでぺろっと貼ったとしても。私の後輩のようにすぐに見失ってしまう。ほとんどの人は気にも留めない。留めないで、この告知が。


     告知なものか。これは予告だ。


    『事件ですか。承知しました。では早急に付近の人員を――』


    「申し訳ありませんが私はいったん学園に戻ります」


    『はぁ』


     血の気が引いていく。なんで。なんで3年間、いや、もっとそれ以上、先輩たちの代から守られていたことが。


     よりにもよって、私の代で!


     一瞬詰まった自警団の電話番に。私は舌がもつれないよう、気を付けて言う。


    「SUGAR RUSHのライブ予告です。いま、私が居る路地に所せましと張り紙が貼られています」


    『SUGAR RUSHですか? しかしハロウィン祭は……あ!』


     私と同じことを。隙間があるということに気付いたのだろう。


    「協定違反です。考えても見れば、宇沢先生がかろうじて制御されていたSUGAR RUSHは、現在首輪の外れた状態。――これより私は学園に戻り、幹部を招集して対策会議を行います。ティーパーティにも報告せねば。緊急事態です!」

  • 231825/11/01(土) 16:29:33

     指名手配グループの保証人であり監督人であり同級生だった宇沢先生はいま、行方が知れない。大怪我をされたという。どこかの病院で治療を受けつつ身を隠しているのだと。どこにいるか、なぜ身を隠しているかはいま、重要ではない。重要なのは、学園内だけではなく、トリニティ自治区としての催しに、暴動ライブで人々を煽動しながら大暴れするテロリストが、乗り込んで来る予告をしてきていること。他自治区からの参加者も多数。そして、今更。街中が浮足立っているこの直前で。中止にもできない。

     やられた。

     大体的に他自治区にも告知をしているから当日の人出はもっと多い。朝から深夜まで、夜通しトリニティ中がお祭り騒ぎとなる催しに、そんな奴らが乗り込んで来たら。銃や戦車は強力であるけれど、それでも。人の熱意というものは、人の波というものは。ときにすべてを凌駕する。

     塗りつぶされる。計り知れない被害になる。
      
     冬を迎える前の大規模なお祭り。……このイベントを機に3年生は”引退”をしていく。後輩にあとを託し。青春の終わりを実感していく。胸の切なさややるせなさを、3年間の思い出を。すべてを”楽しく”総決算するという、大事なイベントを。

     大事なイベントに!!

     私は。沸き立つ脳みそを歯ぎしりで押さえ、深呼吸し。

     言った。

    「――正義実現委員会副委員長として自警団に、正式に要請します。特別静穏協定違反と見られる事案が発生。街中に貼られた予告ビラを直ちに撤去してください。現場に居合わせた生徒・市民には、混乱防止のため、委員会の名を使い一時的な箝口令を――いえ、愉快犯の仕業だと説明を。以降の方針は委員会が責任をもって整理し、追って通達します」

    『自警団、了解しました! ――えー、こちら自警団本部、こちら自警団本部! 自警団全団員に通達。正義実現委員会から緊急要請を受けました。SUGAR RUSHの協定違反が予想されるとのこと。各団員は……」

    「よろしくお願いします!」

  • 241825/11/01(土) 16:31:47

     電話を切って街中に。人込みに躍り出る。足早に。体を当て擦りながら。人々に謝りながら。作業の邪魔をしながら。私は学園までの道をむりやりこじ開けていく。あちこちの楽し気な声の上から人を呼ぶ。この人混みにまぎれて楽しんでいるであろう後輩と、委員長の名を。ただでさえ揉め事が増えるんだ。余計なことを。余計なことを!

     大事な日なんだ。大事なイベントなんだ。

     ふざけるな。あなた方の勝手な行動で、私たちの大切な日を潰されてたまるか!!

     撃退しなくてはならない。大ごとになる前に。せめて”なんとかなってよかった”と笑える状況にしなくちゃいけない。後輩に。まだ正義を自覚していないあの子に。正義実現委員会の在りようを示さなくては!

     私の血相にまたぞろ事件か、なんて怪訝な顔を向ける人。ちらっと見るだけでまた笑顔でおしゃべりに戻る人。カフェのテラス席でスマホから顔を上げずにいる人。仮装に使う衣装や小物などの買い物に出てきている人。お店の飾り付けを手伝う人。大荷物を地面に置いてへたり込み空を仰いでいる人。どこかの部活の先輩後輩。知っている顔もある。知らない顔もある。私に声を掛けてくれるひとだって。「委員長ならさっきまでそこにいたよー」と教えてくれる人だって。

     私はまた電話を掛ける。S.C.H.A.L.Eのトリニティ支部は燃えてしまって宇沢先生も連絡が通じないとはいえ。支部にはもう一人、正規職員として働いていらっしゃる方がいる。

     ワンコール。出た。

    『はい、S.C.H.A.L.Eです。アイラさんですか? ハロウィンの準備はどうです? 万全ではありませんが、なにか手伝えることがあれば――』

     柔らかい声。溌剌な宇沢先生とはまた違う、安心感を与えてくれる声。シスターフッド時代はかなりやんちゃしていたらしいけど、それもご自身が信じられていた正義のため。トリニティのためにあちこち駆け回ってくれている、私が尊敬している方の1人。

     今が大変な時期なのは重々承知。だからこそ、私たちで解決できることなら、私たちだけでなんとかしたかったけれど。それが、今までお世話になったS.C.H.A.L.Eの方々へ私たちの成長を見せる、発表会の場だと思っていたけど!

     ――面子のためにすべてをご破算にするのは、だめだから。

  • 251825/11/01(土) 16:34:32

    「お忙しいところ失礼します! 先生はまだミレニアムにいらっしゃるのでしょうか?」

    『すみません。ですが、今夜にはトリニティに戻る予定でした。……ただごとではなさそうですが、なにか問題が?』

     私は声を押し殺して言う。なるべく。そこらを歩く人には聞こえないように。口元を隠し。囁くように。

    「SUGAR RUSHのライブ予告です。たった今、張り紙を発見しました。ハロウィン祭当日、学園内でライブ決行すると」

    『なっ――!!』

    「SUGAR RUSHに対し早急に確認をとっていただくようお願いします。宇沢先生は……」

    『すみません。宇沢はまだ……。けれど本当ならばこれは協定違反です。我々S.C.H.A.L.Eの名誉に泥を塗る裏切りに他なりません。こちらからSUGAR RUSHに急ぎコンタクトを取ってみます。愉快犯であればそれが1番――以降の連絡はアイラさん宛で?』

    「はい。正義実現委員会幹部を招集し、今から緊急会議をおこないます。できればご参加いただきたいですが」

    『今夜にはトリニティに戻れます。なんで……宇沢先輩にさんざんお世話になったくせに! これだからあの連中は!!』

    「心中、お察しいたします。どちらにせよティーパーティにも報告しなくてはいけないので、本格的な会議は夜になるかと。大ごとにならないうちに沈静化できれば――」

     私の耳は。右耳にスマホがあって。意識はそっちにある。

     左耳が。市井の声を捉える。”音”としか認識できず。普通は頭には入ってこないけれど。

     ”ねえ! 砂祭り以来じゃない? シュガラのライブ!”

  • 261825/11/01(土) 16:37:43

     振り向く。どこで誰が話していたかなんてわからない。通りすがりに聞こえただけの”シュガラ”という音。

     私は、会話に。逸れた意識を戻す。委員長はこういうとき、いつのまにか後ろから付いてきている。そう言う人だ。呼びかけだけあればいい。私が血相を変えているというのがわかればいい。

    「明日には本格的な対策本部が設置されるでしょう。ともあれ、奴らにことの真相を確認していただけますか。おっしゃる通り愉快犯であれば、本人たちが関与していなければ……最も望ましい!」
     
     蒼白の返事を聞き、心の中で自らの力のなさを実感しながら、電話を切る。

     そうだ。そう。そうであってくれ。人騒がせな愉快犯を捕まえるだけで済んでくれ。

     私は。

     しっかり前を向き直し、人混みを情けなく溺れながら。
     
     必死に泳いだ。

  • 27二次元好きの匿名さん25/11/01(土) 23:56:50

    アイラの不憫がすぎるな

  • 28二次元好きの匿名さん25/11/02(日) 04:54:34

    SUGAR RUSHにとっても重要であるのと同時に、今を生きる生徒たちにとってもかけがえのないイベント事。互いの信念のぶつかり合いだ。

  • 29二次元好きの匿名さん25/11/02(日) 08:48:57

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  • 301825/11/02(日) 08:50:02

     ※

    「――ふぅ」

     きちんと通話が切れているか確認し。ひと息吐いて、ステンレスマグからインスタント・コーヒーを、ひと口。

     あちっ。

     お風呂が解放されると同時にシャワーを浴びに行き、池の生臭い身体をきれいにして着るスウェットはまったく心地が良い。電気ブランケットを膝に掛け、つやつやの日光を浴びて少し肌寒い秋風を受ければ。このまま早めの昼寝と洒落込みたくなる、贅沢な休日ばりの時間。

     ぽうっとスマホの待ち受けを見ていた私に。気さくな声がかかる。

    「最初に正実の副委員長に見つかるとは、いいすべり出しじゃん?」

     灰色のだるだるなスウェット。アウトドアチェアに片膝を立てて大股を開くはしたない恰好。そして、バイザーが開けられたフルフェイスヘルメット。

     あれはあれで暖かそうだな、なんて考えながら、私はぼやけた頭の霧を払い、言った。

    「これで上層部全体に情報が共有されるでしょうね。それから、自警団もたぶん動きます。アイラさんはプライドが高いですが、それを押さえて行動できるいい子なので。警戒お願いしますと――」

    「逃げ足だけは天下一品だから心配すんなって! くくくっ。にしても怖いねえ。ラブさんもそんぐらい口が達者になりゃ、うちらもいい暮らしできるってのに。こんど教えてやってよ。その性根の悪さをさ」
     
     私が睨むと目線をカットするように。被っていたヘルメットのバイザーを下げて、くもぐった声を出しながら。肩を揺らした。

     彼女のスウェットは着古されていて首元がすこしくたっているし、シミもある。私に貸してくれたものは、彼女なりにいいものを貸してくれたのだろう。

     貸し切りのキャンプ場にほとんど人はいない。がらんどうと言っていい。昨晩は30人以上いたのに。今は、数人。

     アルさんからここの人員は自由に使っていいと言われている。大事な作戦の中心を担う方々だから無茶はさせられない。けれど必要なことだから。ヘルメット団の方々には、遠慮なく、動いてもらった。

  • 31二次元好きの匿名さん25/11/02(日) 09:10:37

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  • 321825/11/02(日) 09:12:21

     ミレニアムにいる間に片手間で作ったフライヤーの画像はクラウドにアップロード済み。スマホでダウンロードしてアプリを使えば、キヴォトス中のカイザー・コンビニエンスで印刷できる。糊や刷毛は町中に分けて隠して必要な量を必要な時にだけ。緊急時に手放してもすぐに行動を再開できるように。とにかく身軽に動くことを最優先。

     治安維持を担う子たちとすれ違っても、よほど怪しい動きをしなければ、この時期のトリニティにはむしろとけこんでいるはずだ。大通りに道具が置いてあっても簡単に不審に思われない。電話から聞こえてきた喧騒がなによりの証拠。 

     もう一口。胃がきりきり痛むほどまずいコーヒーをすすりながら「演奏の方は大丈夫ですか?」と声を掛けた。

     キャンプテーブルの上には木製のフルートが1本。それからバインダーに綴じられた楽譜。

    「ん、ああ。経験者なら見りゃ演れる。構成はざっくりしてるけど、必要なパートは揃ってんね。ちびっこ用にはこっちでドレミ振っとくし……。まあ、間に合わせの楽隊じゃあクオリティはクソだろうけどな。それっぽくなってりゃいいんだろ?」

    「ええ。むしろその”クソ”が良いと私は思います。そのほうがより”らしく”なるでしょうし」

    「うははっ! さすがだな、パンク女!」

    「やめてください。――では、ブラッシュアップとパート分け、お願いしますね。ああ、印刷も」

    「あいよ。のんびりやっても十分間に合う。リラは……あるだけでとりあえず回すとして、100均のポップ用クリップでも用意しとくか。隊列どうでもいいなら、最悪誰かに見せてもらえばいいっしょ」

    「そのあたりは詳しくないのでお任せします。私は今晩の会議の答弁を考えなくては。向こうも必死になりますし詰められるのは避けられません。心苦しいったらないですよ……。では、あとはお伝えした通りに」

    「りょーかい。そいじゃ、ん」
     
     突き出された手のひら。私が固まっていると「とりあえず5万でいいや」と。くもぐった声で言われた。

    「……」

     私は。下ろしていた髪を何度か梳き。体をすっぽり包んでくれていたアウトドアチェアから立ち上がる。

     財布と、のちのち宇沢先輩に請求できるよう、領収書を書いてもらうためにテントに戻る。朝露に濡れていた芝生はもう乾いていた。

  • 33二次元好きの匿名さん25/11/02(日) 09:22:14

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  • 341825/11/02(日) 09:25:44







    (この目線は書こうか悩んだ部分です)

    (ていうか書いては消しての繰り返しでごめんなさい)
    (直前の投稿だと「いいや、直しちゃえ☆」の思想が支配するんだ、私を)

  • 35二次元好きの匿名さん25/11/02(日) 16:29:35

    いいじゃんいいじゃん

  • 361825/11/03(月) 00:05:47







    (保守ついで)

    (前スレでヨシミとアイリがジャムをしていたのはRHCPのcalifornicationのオマージュです)
    (RHCPはライブごとに必ず毎回ですが、SUGAR RUSHはゲリラライブで時間取ってらんないので、砂祭りみたいな「確実にゆっくり演奏できるとき」しかジャムできない)
    (ミッドナイトライブで一回だけやったのは、みんな疲れてしゃがんで見てる人が大半で、かつステージも自由に使える時間で、好き勝手遊んでたから)
    (宇沢が間違えたのはカズサの考えといっしょで、休憩時間だと思ってステージ脇にはけて串焼き食べてたら急に曲始まっちゃって、慌ててステージに戻ったら歌詞飛んだ。ライブ映像よく見ると覆面の口元に染みがある)
    (結果、ぶちあがった)

  • 37二次元好きの匿名さん25/11/03(月) 07:38:25

    余りにもゲリラすぎる笑

  • 381825/11/03(月) 16:56:15



     じゃりじゃりしたハンガーのコンクリート床に多くの足音。固い靴音。装備のがちゃがちゃした音と、重い金属が鳴る音が空間に響く。

     耳障りな残響に眉が寄る。「これ、本当にぜんぶ動かすの?」と、隣で煙草を咥えるホシノに言うと、唇を動かさないくもぐった声が返ってきた。

    「んぅー? ……うん。全部D.U.に持ってくよ」

    「連邦生徒会が動いたならもう強硬姿勢取る必要もないでしょうに。移動させるお金がもったいないじゃない。あんた達だけでも充分暴れられるでしょう?」

    「お金はなんとでもなるんだよね。ご存じのとおり」

    「……あっそ」

     先に出発した吹奏楽経験者とは別に、ヘルメットPMCの本隊もすでに、アビドスを出ている。今頃はミレニアムとトリニティの境目で待機しているはずだ。いちばん激しくやり合う部隊だからと武器も弾薬も大盤振る舞い。その費用はどうするのだろう。レイサが1人で賄いきれるわけもないし、支部に請求もできないだろうし。ノノミはなにか手があるのだろうか。

     ま、私の考えることじゃないわ。
     
     先生からの返答がなかったから宣言通りに軍を集めたと、世間体を示すための姿勢は見せた。あとは動かすだけ。いろんな自治区から脅迫が届いているけれど、沈黙を続ける先生のせいで表立っては動けないのも、アヤネは織り込み済み。

     グレーゾーンで口笛を吹くのは誰か。誰か、ではない。キヴォトス中がグレーゾーンに閉じ込められている。
     
     まだ支部でキーボード叩いてるアヤネと、そこを襲撃しようとするアビドス本校と”殴り合い”をするためにふたりのシロコに台車に乗せられて出て行ったセリカ。タブレットとにらめっこしながらあちこち歩き回るノノミ。

     SUGAR RUSHだってそう。レイサだって。S.C.H.A.L.Eの支部も。カヨコも、ムツキも、ハルカも。アケミも。ヘルメット団も。タミコも、拉致されてきた子も。学校も。社会も。自治区も。

     そして私も。みんながグレーゾーンの中。

  • 39二次元好きの匿名さん25/11/04(火) 01:49:23

    どこまで善を説こうとも、みんな何かしらはやっちゃってるからね……

  • 40二次元好きの匿名さん25/11/04(火) 07:34:22
  • 41二次元好きの匿名さん25/11/04(火) 09:14:15

    嵐の前の静けさ

  • 421825/11/04(火) 14:26:00

    >>38


     火のついていない煙草をぴこぴこ振りながらホシノが髪をほどいて、頭を振る。


    「黒服だけじゃなくてあの子まで出て来ちゃったし。うへへ、初めて名前聞いたな”プラナちゃん”。いい名前だよね」


    「カヨコから聞いてたけど、私は会ったことなかったのよね。シロコと一緒に来たっていう子でしょ?」


    「うん。”もうひとり”の先生の、ね。どこいったんだろって思ってたけど、ずっと一緒にいたんだって知れて、それはよかったかな」


    「シロコは知ってたんじゃない? 会えなかったのが残念ね」

     

    「えへ。朝駆け夜討ちなんて当たり前だからねー。逆にわかりやすいから助かってるけど。……でもまあ、あのシロコちゃんにはその話はあんまり……しない方がいいかなって。本人同士で解決しているみたいだしね」


    「その事情に深く立ち入る気はないわ……それはそれとして。アビドスの子たち、訓練されたゲヘナって言われてるの知ってる? 私が言うのもなんだけどもうちょっと大人しくさせなさいよ。曲がりなりにも観光地なんだから」


    「うちはこれでいいのさ。――ね。煙草吸いに行かない?」


    「はぁ? ……ああ。ここで吸うとノノミに怒られるんだっけ」


     にへ、と複雑そうな顔で笑ったホシノと一緒に。日中でも肌寒く感じるようになった気候でもなお半袖で作業する子や、年季の入ったロボットの人たちの中をすり抜けていき。甘ったるいヤニの匂いがする、狭い狭い喫煙スペースへ移動した。


     100円ライターが擦られて。ふわりと、カヨコとは違うもっと粉っぽい匂いの煙が、唸り続ける換気扇に吸い込まれていく。臭い。正直言っちゃうと、カヨコの煙草もあんまり好きじゃない。やめてくれ、とは言わないけど……。なんでこんなもの吸うのかしら。葉巻の方がかっこいいのに。紙巻ってなんだか貧乏っぽく見えるのよね。


     カヨコが一時期凝っていたハンドロールは好きだったのに。めんどくさいからってやめちゃって。道具揃えたのにもったいない!

  • 431825/11/04(火) 14:29:11

     ぷあっ。

     吐き出されたまっ白な煙も。一瞬で吸われて消える。

     先ほどの空間反響もない静かな。換気扇が唸りつづける静寂で。

     ひと口吸って。ふた口吸って。

     真ん中あたりまで吸ってから。ホシノは言った。

    「お世話になったよね、私たち」

     主語がない。

     けど、わかる。

     わかるから「そうね」と。ぱたぱた手で、臭いを遠ざけながら返した。

     一本吸わせたら出よう。服や髪に匂いがついちゃう。

    「甘えて。助けられて。任せて」

    「ふふっ。あんたは特にね。学生時代、大暴れしてくれちゃって」

    「ひひっ。アルちゃんにももちろんお世話になった。たくさん救われた。頼り切って。まかせっきりにしてきちゃった」

     じじっ。

     換気扇の音よりも断然小さいのに。私の耳は煙草が短くなる音を聞く。

  • 441825/11/04(火) 14:30:39

     私だってそうだもの。たくさん。たくさんお世話になった。

     今の私があるのは。

     私が見るこの世界があるのは先生のおかげと言っても過言じゃない。私だって頑張って来た。けど。後ろに下がり過ぎないように。背中にそっと手を当ててくれていた先生がいたからこそ。私は。私たち便利屋68は、便利屋68でいられてる。

     そんなこと。――改めて思う。

    「当たり前だった。先生が先生でいることが」

    「ええ」

    「――ほんとさあ! 先生らしいよねー!!」

     急な大声に私はとびあがった。肩掛けにしていたカーディガンが、汚い床に落ちる。最悪なんですけど!

     ヤニがこびりついた床から拾い上げ、バサバサ振りながら。文句を叩きつけた。

    「急に大声出さないでよ! ああびっくりした!」

    「バカじゃん! バカじゃん! バーーーーカっ!!」

    「うーるーさーいー! うるさいっ!」

     コンクリートの壁にわんわん反響するホシノの叫び声に耳を塞いだ。蹴っても叩いてもホシノは叫び続ける。たまらなくなって扉を開け、せめて声の逃げ道を作り。それでも叫び続けるホシノの声はハンガーの方までも聞こえてるに違いない。

     小物置きのカウンターに両肘ついて。背中を丸めて叫ぶホシノの背中。振り絞った声なんだろうなってわかる肩の動き。

  • 451825/11/04(火) 14:31:42

     バカ。バーカ。バーーカ。何回も。何回も。何回も何回も叫んで。

     それで。

     息切れもしないで。

     ちょっと枯れた声で。言う。

    「なんで相談してくれなかったのかなあ」

    「そりゃあ」

     大人だから。先生は、大人だったから。

     わかってるよ。ホシノはつぶやく。私は。喫煙室の扉を閉める。

    「私たちだって三十路超えたおばさんだよ? ねえ?」

    「……そうね」

     絞り出した肯定。あんたよりは頑張ってるつもりだけど、元々童顔ってずるいわよ。本当に。心からそう思う。ちくしょう。

     ……。

     そういえば。

     ホシノが”おじさん”やめたの、いつだったっけ。

    「なんだよ。なんだよ、バーカ。いつまで保護者ヅラしてんだって。ばーか」 

  • 461825/11/04(火) 14:33:09

    「もっかい叫ぶなら先に言ってちょうだい。これ開けるから」

    「――……!」

     見返って口を開けたホシノを見て、私は少しだけ扉をあける、振りをする。

     はいはい。うそうそ。

     叫ばず笑ったホシノに、いーっと。唇を引いた。

    『ご無沙汰しています。”廃校対策委員会”のみなさん』

     アヤネから困惑しきった連絡を受けた私たちが事務所で見たのは。PCの画面に映る白黒のアバター。シロコと同じ喪服のような服を着たアバターは、良くできたAI……以上に。人間と同じように話した。

     廃校対策委員会。ホシノたちの学校を攻め落とそうとしたことももはや懐かしい。今となっては大事な顧客。手を組んでいたヘルメット団もアビドスと共に生き残っている。あのときはまさかこんな関係になるなんて。

     考えることすらなかった可能性の涯て。涯てに着いたと思ったら。目の前にはまだまだ、広大な世界があって。

     ホシノたちがあらかじめ聞いていたという黒服との話。……。”届いてしまった”シロコが見た昔の光。カヨコの予想。S.C.H.A.L.Eの変化。アケミが作り替えた世界の構造。杏山カズサというバグ。SUGAR RUSHというイレギュラー。先生の限界。大人のカード。

     最初の人間の孤独を識るものをいるのかという、くだらない思考実験。カヨコが深みにハマりそうで。ムツキがぜんぶぶっ壊して手を差し伸べそうで。ハルカがその裏で静かに神妙に考え込んでしまうだろう、ヤバい話。

     私を。私たちを。キヴォトスを。

     閉じた世界の産物として見てしまう病。

  • 471825/11/04(火) 14:35:17

     妄想か妄言か。戯言の域を出ない話を大真面目に。真剣に。先生を苦しめているものとして”プラナ”は話した。ホシノたちがあらかじめ黒服から聞いていた話と同じ。信ぴょう性が上がってしまっているのは、妄言としてもだ。怖い。

     助けてくれた先生が払ってきたもの。目には見えなくとも確かに払ってきたもの。シッテムの箱のOSだというのなら。最初からずっと見て来たと言うのなら。

     ――あの連邦生徒会長の残り滓だというのなら。

     よぎった物騒な想い。瞬間的な思考の沸騰。でもそれは私たちそのものを否定することに他ならない。彼女が繋いでくれたおかげで。先生は引き継ぐことができて。私たちに、奇跡が与えられたのだから。今さら。今さらだ。そこを否定したくない。

     知らぬ間に与えられた奇跡を私は知っている。私たちは経験した。今となっては証明できない過去がある。記憶とクラウドにアップロードされた学生時代の写真だけが証明する私の辿って来た道。先生の後ろを着いて行く、あてどのなかった道筋。

     私たちが負うべき責任。

     私たちでなければ達成できない依頼。

    『どうか叶えてあげてください』

  • 481825/11/04(火) 14:36:39

     ……。

    「やるならとことんよ」

    「もちろん」

     火種がフィルターまで達して消えていた煙草を灰皿に落としたホシノの横顔は、やっぱり腑抜けた笑顔で。

     扉の前で立ち止まって、私に扉を開けさせたホシノは。喫煙室と廊下の真ん中で振り向き、私を見上げた。

    「今夜にはトリニティだよね?」

    「そうね。そろそろ合流しないと。明日にはカヨコたちも来るから。……世話になったわ、って先に言っとくわね。そっちも忙しいだろうし、私も準備があるから、出発前は会えないかも」

    「んー、それはいいけど……。タミコちゃん、ほんとに連れてくの? まだぜんぜん怪我治ってないし、うちでこのまま預かるけど」

     歩き出したホシノの横を歩く。服の匂いを嗅ぐ。うん。やっぱり臭くなってる。最悪だ。

    「それも考えたけどね。でも、言って聞くようなら、そもそも言ってこないでしょ? あの子だっていろいろ思ってることがあるの。尊重してあげましょ」

    「……眩しいねえ。比べちゃうと、自分はずいぶんくすんじゃったなーって見せつけられてるみたい」 

    「あんたが輝いてた時代を知らないわ」

    「言ったねぇ、アルちゃん」

    「私はいつだって輝いてるからね」

  • 491825/11/04(火) 14:38:16

     くくっ。

     喉を鳴らしたホシノはまた。私を見返って、言った。

    「アルちゃん、ほんとは悔しいんじゃない?」

    「なにが? ていうかアル”ちゃん”って呼ぶのやめなさいよ。曲がりなりにもビジネスパートナーとして……」

    「SUGAR RUSHに主役取られちゃって」

    「……別に」

    「うへっ。図星ー」

    「うるさい! 私たちは陰で支えるのが本領なんだからいいの!」

    「がんばってねー。アケミは強いよー?」

    「あんたたちもワカモとアリス相手にするのよ。負けて終わりましたじゃ全部ご破算だからね。肝にぶちこんどきなさい」

    「アリスちゃんは予想外だったなー。うぅ、ヤバいよヤバいよー」

    「だからケイに声かけなさいって一昨日言ったのに。あの子、あなたが思ってる以上に”勇者”やってるからね」

    「エイミちゃんの声聞いたら呼び出すの躊躇っちゃってさ。ま、なんとかなるよ。”勇者”は正々堂々闘うから強いんだもんねー」
     
     手首の髪ゴムで髪を結い直しながら。ホシノはまた歩き出す。手際よく、慣れたように。なにも考えずとも纏められていく髪の毛。私も。前髪をちょっといじる。

  • 501825/11/04(火) 14:42:02

     始まる。始まっている。

     終わり始めている。

     1つの時代。1つの世代。私たちの世界が。

     これが正しい世界の在り方。過去があり、未来がある、世界の在り方。

     SUGAR RUSHがその役目を負うのはなんだか不思議。あの子たちは巻き込まれただけ。因果とは全く関係なくただ巻き込まれただけで。本人たちにその意識もなく。成すべきこととしての認識しておらず。ただ。突っ走って。壊していく。あとになにも残さず。感傷だけを残して去っていく。レイサとカズサだけでは成し得ない。アイリたちだけでもなし得ない。あの子たちが揃ってようやく。終わりが始まった。

     だから主役になれたんだろう。物語のオープナーでありクローザー。この1ヶ月。彼女たちは間違いなく主役だった。15年前、カズサが消えてからずっと。彼女たちの物語は、終わりを求めていたはずだから。

     譲るわよ。この幕は。

     ステージの上に立つSUGAR RUSHに。私は託す。多くの人がそうであるように。私の想いを託す。”届く”姿。私の代わりに”届く”彼女たちに、私は憧れる。

     それでいい。届いてしまうのは終わりの証明。だから共感する。だから重ねる。だから憧れる。私たちは。きっとホシノだって。カヨコたちも。

     SUGAR RUSHに。自分の”すべて”を重ねるはずだ。

     最高の幕に。求めて、手を伸ばさなくちゃ。
     
     ホシノを追って歩き出そうとして、ふと。背中を押された気がした。振り返りはしない。誰もいないのは見なくてもわかってる。
     
     私の背中は先生の手の温かさを憶えている。

     私は振り返らない。

     憶えているから。

  • 51二次元好きの匿名さん25/11/04(火) 22:07:27

    周りは準備万端だねぇ

  • 52二次元好きの匿名さん25/11/05(水) 08:09:06

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  • 531825/11/05(水) 16:38:41



     地下バンカーが揺れる。備えられている数多の工具、機材、重機が奇天烈に鳴り響く。

     いやまさか。まさかまさかのまさかだ。C&Cが動くとは思わなかった。どっからバレてたのか知らないけど、そりゃアビドス支部が大暴れしそうってニュースが流れてるんだから、こっちの動向を監視されてるっていうのは考えるべきだった。

     ミレニアムとしてはS.C.H.A.L.E本部に対して積極的に介入するつもりはなかったはずだけど、介入しようとする勢力が身内にいたら、止めに来るって言うのは。考えてみれば当たり前。

     70台を超えた自立走行スピーカーユニットのすべてに電源を入れ、同期モードに切り替え、到着地点と経由地点のローカルマーカーを入力する。ひとまず絶対値でいい。ついでに音声認識で能動的に、かつ専門的でない言葉でも動くようにしておく。よかった、ユズがいてくれて。こういうのはユーザーとのインタラクションを専門にしてる子に任せるのがいい。

     リオさんに用意してもらったスピーカーユニットの一つを私のPCに繋いで駄々流しにしている通信から、とんでもない言葉が聞こえた。

    『モモイ、”マルクト”発動の承認を。制御は私が行います』

    「待った待った。アリスいないんだからだめだって。ここ、埋め立て地でしょ? 丸ごと沈むよ?」

     銃声と爆発音、それから悲鳴と一緒にモモイの声が、ヒマリさんの声にこたえた。

    『とっくに準備してもらってる! むりむり、現役のC&Cなんか止められるわけないって!!』

    『私たちじゃ時間稼ぎにもなら――』

     爆発音。

     ミドリの声が途切れて。会話をつないだのは、モモイだった。

    『ミドリダウンー! ケイ、管理者権限をヒマリに渡して! コントロールパネルはあっちにあったは……あ、どうもー。久しぶり……えへへ』

     銃声連発。モモイダウン。

  • 54二次元好きの匿名さん25/11/06(木) 00:18:18

    C&Cは無理よね

  • 551825/11/06(木) 09:15:43

     心配そうに耳を傾けているユズは、けれど手を止めることなく。

     ううん……。たしかに状況を完遂するならケイに頑張ってもらうのは一番だけど、いま使いどきなのか、と言われればそういうわけでもないような……。やりすぎ。それに、研究はミレニアムでやってるんだから対抗策だって持ってるわけで。

     ――この場所を。エリドゥを造った人がいて。それを解析した人がいて。

     だったら、被害は最小限にできる、か。

     同期のプログレスバーが最大になったのを見て、少し離れたところで必死に画面とにらめっこしているユズに声を掛ける。 

    「こっちは終わったけど、そっちはどんぐらいで出来るー?」

    「に、20分……!」

    「ベタ書きでいいよ。下のドッグまで動いてくれればいいから。ヘルメットPMCにはもう状況は報告してある」

    「せめて15分くださいぃ……」

     15分かぁ。

     私は。立ち上がって、テーブルの上にあった銃を手に取る。

     久しぶりだ。こんな風に。学生時代みたいに銃を振り回すなんていつぶりだろう。

     セミナーがC&Cを動かした。トリニティからエリナちゃんが来てるってのを報告したのがマズかったかもしれない。でもしないわけにもいかないし。たぶん最初っから警戒されてたに違いない。いくら支部用の秘匿回線使ってたって、建物そのものになんか仕掛けられてたらどうしようもないって。
     
    『”マルクト”発動。H.O.D.顕現まで3、2、1――』

  • 561825/11/06(木) 09:18:46

     直後、先ほどの揺れとは比較にならないほどの揺れがバンカーを襲う。銃を杖にしてなんとか持ちこたえ、と同時にスピーカーからは、轟音に負けないボリュームの、先輩たちの声が聞こえる。

    『リオ、あなたのしょんぼりマシンを強制的に同期しました。対応してください。こちらはケイの制御に集中します』

    『了解したわ。――エリドゥのコントロールシステム奪取、アクティブ・ディフェンスによる逆追跡開始。……沈黙成功。第3、第2層のモジュラー通路封鎖、収縮開始。オービタル機構起動。開発バンカーと潜水ドッグのダイナミックアクセスライン構築まで2分』

     リオさんの声が、轟音と揺れの中で淡々と響く。こっちは尻もちつかないように必死だってのに。あーあー、ユズはもう作業の手止めちゃってるよ。

     合図なしに開始された目に見えない戦いはケイによって強制的に”勝利”に書き換えられた。アリスといっしょじゃないとかなりの制約があるとはいえ、下手すればミレニアムなんて1時間もしないうちに更地にできる力を、だ。あっさり使っちゃおうっていう判断できちゃうのは、怖い。

     あとでお説教だな。モモイもケイも連名で。

     ん……ていうかオービタルでバンカーが回転したってことは……。

    「ねえ、このユニットの移動経路、絶対値で書いちゃったから道順変えられると困るんだけど」

    『手を抜くからよ。ヒマリ、エイミのPCもらえるかしら?』

    『はい、どうぞ』

     本人の意思確認なく。私のPCの画面には、私でもよくわからない画面と文字列が叩き込まれていく。ファンがとんでもない唸り方をしている。ケイの力で70台すべてに同期処理が走り、ものの40秒であっさりと。

    『できたわ。ユズが構築中だった音声認識プログラムもついでに完成させておいたから、通路が接続され次第移動させてちょうだい』

    「もう会長1人でいいんじゃないかな?」

    『……そう呼ばれるのは久々ね』

  • 571825/11/06(木) 09:21:44

     おっと。唇を押さえる。

     卒業して。S.C.H.A.L.Eに入って。不満のある毎日ではなかった。慣れた場所で働けるっていうのは私にとってもありがたいことだった。忙しかったけれど、家に帰れないほどじゃない。毎日をそれなりにこなしていれば。毎日があった。

     明日やることを考えながら眠る。予定調和になるように努力してきた日々。不満があったわけじゃない。むしろ充実してた。
     
    『あら。すみません。ケイを取られました。――”少女を確保したC&Cに告げます。その子とコントロールパネルをつなぐものには触らないでください。現在マルクトの制御権を持つのは、この私です。みなさんもろとも海の藻屑となってしまいますよ?”』
     
    「モモイたちひっくり返ってるしね。まあしょうがない」

    『ケイ、聞こえますか?』

    『――ぶはぁっ!! だから無駄だと言ったじゃないですか!! フラッグを敵地の中心に置いて守り手なしってふざけてるんです!?』

    『元気そうでなによりです。おかげで助かりました』

    『絶賛馬乗り――あっ!』

    『お話中失礼します』

     スピーカーから聞こえる声は、リオさんとも。ヒマリさんとも。モモイともミドリとも。ケイとも違う。

     涼やかな声。声だけで立ち居振る舞いの優雅さを知れる、穏やかで、陽だまりのような。

     この声は知っている。

    『和泉元先生、いらっしゃいますか?』

    「聞こえてるよー」

  • 581825/11/06(木) 09:31:28

     現C&Cのゼロワン。制圧戦闘のプロフェッショナル。

     私は応答しながら、リオさんに、スマホからメッセージを送る。傍受される可能性があるかもしれない。が、管理アクセス権の攻防と、おそらくゼロツーの制御に手間を割かれてるはずだから、こんなこまごました記録、きっと見逃すはず。ただただクッソめんどい暗号化施してるしね。

    【通路は?】

    『他自治区に対しテロリズムを助長する手助けをなさるのはミレニアムサイエンススクールとして看過できません。セミナーの要請により、S.C.H.A.L.Eトリニティ支部、和泉元エイミ支部長。貴女を拘束させていただきます』

    【稼働中。あと43秒で繋がるわ】もう1通。【ヒマリから。”マルクト”解除完了】。

    【りょ。発動コード】

    「テロリズムの助長? 私はトリニティに輸送システムの改善を頼まれてただけなんだけど」

     時間稼ぎにもならない、悪党じみたことをやらされて。がりがり削られる時間に冷や汗かいて。こっちを制圧しようとしてくる敵勢力があって。

     この年になってまた。こんなことがあるなんてね。

    『すでにエンジニア部のバンカーは”掃除”させていただきました。あの巨大なドローン……。なにをしようとしていたのかまでは解りませんが、あって困らないものは無くてもいいですもの』

     スマホが震える。

     ええ……言いたくない。

    【ありがと会長】

     私はマイクとの位置を変えないようにスマホをユズの方に蹴り飛ばす。画面を点けっぱなしのスマホは背面を傷だらけにしながら。頭をおさえてかがんでいたユズの近くに滑っていく。

     画面を見て。”これを私が言うんですか!?”みたいな顔でこっちと画面に視線を往復させるユズに。親指を立てておく。

  • 591825/11/06(木) 09:46:14

    『さきほどの声は”明星ヒマリ”ですか? エリドゥの都市機能をここまでスムーズに扱えるのなら恐らく、リオ様もいらっしゃるのでしょうか。都合がよろしい。――冷静に物事を判断できるお方だと信じておりましたのに。このような結果となり非常に残念です』

    『……エイミ』

     今代のダブルオーは後方支援のプロフェッショナル。可変通路でいくら時間稼ぎをしたところで、中央タワーにダブルオーが居る限りコントロールを奪うのは、先ほどのように強引にいかないと難しい。現にエリドゥ中のAMASは防衛システムが働く前に無力化された。こちらの居場所が特定されているのだから、あとはピンポイントで。動かした部分を元に戻していけばいい。

     電子戦で敵わないなら。

     そうならば。

     そこだけスタンドアローン化してあたかも”繋がってるように”見せる仕掛けぐらい、リオさんなら。さっきの限られたリソースの中でやっていたはず!

     ごご。

     地鳴りのような音がして。

     と同時に、耳をつんざくような、搬入路のシャッターが開く音が。コンクリートで囲まれた空洞に、何度も何度も反響し。

     私は、雑音に被せるように。声高に言う。

    「大人でもさ。友だちのために動きたいって気持ちぐらい、あるんだよね。――ユズ!!」

    「あ、”アバンギャルド-Voltex Tone-、発進”っ!」

     ユズの控えめな声がバンカーに反響する。

     反響し、跳ね返った音は増幅され。

     音声認識を承認したスピーカーユニットは、開きかけたシャッターに。一斉に動き出した。

  • 601825/11/06(木) 09:50:14

     潜水艦に積み込まれ、出発するまでどれぐらいかかるかわからない。

    「ユズもついてって! 残りは潜水艦の中で! 下にフォグと水幕スクリーン用の機材も置いてあるから手伝――」

     搬入口と反対の。コントロールセンターの扉が吹き飛んだ。

    「ユズ!」

    「宣伝費節約のためぇーー!!」

     ユニットの一つにしがみ付いて、ほぼ直滑降の、強引に繋げた通路に消えていくユズの叫び声を背中に受けて、私はショットガンを。もう古くなった、旧式の銃を。

     ――マルチタクティカルを構えた。

     爆発の煙の中を突っ切るようにして出て来たパワードスーツを着た生徒に、私はとりあえず発砲する。まったく効いている素振りなど見えないが、とにかく打ち込み、動き。少しでも時間を稼ごうとする。

     直撃を受けながらも。埃を払うかのような仕草をしたあと、ぐるりと辺りを見渡した。

    「ゼロツー……」

    「戦略兵器とみられるユニットを多数確認。潜水ドッグへの直通路とみられる通路が開放済み。……すみやかに”掃除”を開始します」

    『そのパワードスーツはトキのモデルがひな形だというのを忘れたの? アビ・エシュフの劣化コピーで私と戦おうだなんて、最近のC&Cはこれだから……」

    「うわ。それなんかオバさんっぽいよ会長」

    『……』

    「ごめん」

  • 611825/11/06(木) 10:05:20

     私が動き。

     対応しようとしたゼロツーの動きがガクガクと、クラッチをつなぎ損ねた古い車みたいに、奇妙な動きをする。その隙に弾と爆薬をとにかくばら撒き、遮蔽物のないバンカーの中を駆け回る。『遠隔操作機構をつけたのが仇になったわね』と、ユニットが喋った。

     ユニット……。

     そういえば1台だけ同期切ってたの忘れてた。

     あちゃあ、と頭を抱える私に。勝手に追尾モードに切り替わっていたユニットが、私の真横で。音声を出力する。

    『うふふ。万年引きこもり垂れ乳三十路女にはふさわしい言葉です。15分は頑張れますね? エイミ』

    「それブーメランだからね、部長」

    『私に垂れるほどの下品な……。……。いえ。やめましょう。すみませんでした。さて、サポートは任せてください!』

    「謝るってことはそういうことでいい? 向こう1年は自力で生きなよ」

    『ちがうんです。言葉の綾というやつですよ、エイミ』

     この引きこもり女め。1ヶ月連絡放置したらミイラみたいになるくせに。生殺与奪握ってるのこっちなんだよね。

     腰を落とし。膝を曲げ。弾を込める。

     パワードスーツの弱体化ができたとはいえ、維持できるとは思えない。いくらベースがアレだとしても、もうとっくに旧型。それに、ダブルオーが対策してないはずがない。

     現に爆炎を背負ったゼロツーは。脚部パーツの制御を取り戻していた。

  • 621825/11/06(木) 10:15:56

    「和泉元エイミ支部長の掃除を優先します。許可を。――確認しました」
     
     武装が。展開される。
     
    「トキがいてくれたら楽なのになあ。ああいうのはトキかアリスの仕事だったじゃん」

    『ふふっ。ならば”先生も”ですね』

    「だねぇ!」

     天井クレーンが唸る。自動運転のフォークリフトがゼロツーに突進していく。

     ふたりの先輩のサポートを受け、私は動く。

    『今は貴女も”先生”よ。エイミ』

     ゆがんだ唇を隠すように。クレーンとフォークリフトに合わせて。私はフラッシュバンとショットガンを使って、視界を潰す。パワードスーツの。トキのスーツには着いていたはずの着脱ボタンを狙って動く。

     変わらない。変わったけど、変わらない。

     特別じゃないこういう一生もいいかなって、私は、そう思う!

    「なにをされているんですか?」

     あっさり蹴り飛ばされて私はごろごろと転がる。遮光バイザーにノイズキャンセリングヘルメット。展開された武装は、アビ・エシュフのように搭乗者が外部に露出するような構造ではなくなり。

     ティンカーラー・ナードがダブルオーになるとこうなるんだねえ。先々月見たときと別物じゃん。

     ……ボタン式やめたんだね。そりゃ合理的。弄って遊んでごめん。

  • 631825/11/06(木) 16:14:34





    (保守)

  • 64二次元好きの匿名さん25/11/06(木) 23:35:44

    保守

  • 651825/11/07(金) 07:57:09








    (なかなかシュガラが出てこないですね……)
    (すみませんね……)

スレッドは11/7 17:57頃に落ちます

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