ここだけ黒服がシャーレの先生になった世界線 5

  • 1二次元好きの匿名さん25/11/01(土) 22:19:44

    気付いたら時間を遡っていた上にシャーレの先生になっていた黒服のスレ その5です。
    私は元々のスレ立て主ではなく、面白そうなのでSSを書いている者です。

    現在エデン条約編前半進行中

  • 2二次元好きの匿名さん25/11/01(土) 22:20:18

    建て乙です!

  • 3二次元好きの匿名さん25/11/01(土) 22:20:47

    建て乙ー

  • 4二次元好きの匿名さん25/11/01(土) 22:20:51
  • 5二次元好きの匿名さん25/11/01(土) 22:21:59
  • 6二次元好きの匿名さん25/11/01(土) 22:25:24

    あらすじ

    ミレニアムでの仕事を一段落した黒服は、トリニティからの要請で補習授業部の顧問となる。
    補習授業部の合宿に「曲直瀬リリ」という偽名で参加した百合園セイアとそのメイドに扮している蒼森ミネ。
    正体を察している浦和ハナコを巻き込んで、聖園ミカとの対面に向けた打ち合わせを行った。

    そして翌朝、黒服は聖園ミカとの2度目の対話に向かった。

  • 7聖園ミカと百合園セイア①25/11/01(土) 22:28:51

    浦和ハナコ、百合園セイア、そして蒼森ミネとの打ち合わせの翌朝。
    約束通りの時間に昨朝と同じ時刻で聖園ミカを待つ。

    シッテムの箱を確認する。通話状態になっており、その相手はもちろん、百合園セイアのものだ。
    蒼森ミネと百合園セイアが聞いている。
    浦和ハナコは最終的に、意見だけ伝えこの作戦には直接参加しないことになった。聞かれたくない話も聞きたくない話もあるだろう、ということだ。

    これから行うことを考える。あまり良い気分ではない。

    「先生、お待たせっ」
    聖園ミカが現れた。表面上は昨日と変わらない。しかしこの一日で私が何を考えていたかは気にはなっているだろう。

    「いえ、私も丁度待ち始めたところです。」
    「あはは、何だかデートみたいだね」

    そう言って笑った彼女は、やはり一見そこに重苦しい背景を抱えているようには見えない

  • 8聖園ミカと百合園セイア①25/11/01(土) 22:29:51

    「それじゃ、早速始めよっか。先生も何か考えて来てくれてるんだっけ?」
    「ええ、あるにはありますが、先にミカさんのお話を聞かせていただけますか? 私の考えは、その後お話します・」
    「えぇー楽しみにしてたのになあ。まいっか、じゃあ話すね。」
    私が頷くと、聖園ミカが本題に移る。

    「トリニティの裏切り者の正体……それは、白洲アズサ。アズサちゃんのことだよ。それで、先生にはあの子を守ってほしいの」
    彼女は世間話でもするかのように軽やかに、そう話し始めた。

    トリニティの成り立ちと追放されたアリウスの話から始まるそれは、虚実入り乱れる内容であった。

    要点は大きく3つ
    ・白洲アズサはアリウス出身であり、聖園ミカはアリウスとの話し合いによる和解を願っていたが、桐藤ナギサと百合園セイアは応じなかった
    ・エデン条約は平和条約に見せかけた軍事同盟であり、桐藤ナギサはそれを利用しようとしている
    ・百合園セイアの入院は嘘で、実際には襲撃され、ヘイローを破壊されている。桐藤ナギサは補習授業部の中に裏切り者=犯人がいると確信しており、選出されたメンバーにも理由がある。実際には聖園ミカが引き入れた白洲アズサが裏切り者ではあるが、それは桐藤ナギサが探している人物とは無関係

    という話だ。

  • 9二次元好きの匿名さん25/11/01(土) 22:30:26

    建て乙です

  • 10聖園ミカと百合園セイア①25/11/01(土) 22:30:55

    私のような素直でない人間でなく、かつ事前情報が一切ない相手であれば、彼女の言葉は受け入れられるものだったかもしれない。これは桐藤ナギサへの対立を深めるための策である、ということだろうか。
    そして私は、今からこの聖園ミカの正常に見せかけた心を折らなければならない。
    些かも気持ちが乗らない。時間遡行を経験しており、かつアリウスの黒幕とすら一時期協力関係にあった私と、踊らされていた聖園ミカとの間に存在する情報格差はあまりにも大きすぎて、戦いとも呼べないものだ。それを利用して聖園ミカの言い分を潰していく必要がある。
    百合園セイアとの再会はそうして、彼女の本心を引きずり出した上で果たされなければならない。そうしなければ聖園ミカと百合園セイアが真に和解することはできない、というのが昨日の打ち合わせの結論だった。その立場を承った以上、気乗りせずともやり切るしかなかった。

    「……成程、ミカさんの話は分かりました。」
    「長々と聞いてくれてありがと。それで、先生はどう思った? 先生の考えって言うのも教えてくれるんだよね?」
    「ええ、そうですね。……ミカさんの言っていた話への意見を交えながら話しましょうか。」

    重い口を開く。

  • 11聖園ミカと百合園セイア①25/11/01(土) 22:31:59

    「まず、アリウスについてですが。私の知っている話と概ね一致しています。間違いないでしょう、そしてアズサさんがそこの出身であるというのも……彼女が時期外れの転校生であるということを鑑みて、矛盾は無いと思います。」
    「うんうん。あれ、なんか言い方が気になるけど」

    そちらの話を信じていないとあからさまにしすぎただろうか。聖園ミカが首を傾げる。
    「エデン条約については、全文を確認したうえで言いますがミカさんは少なくとも一つ勘違いをしています。まず、エデン条約機構は確かに紛争について武力介入できる力を持っていますが……それはあくまで境界線周囲での紛争解決や犯罪者たちへの取り締まりを目的としており、自由に使用できるものではありません。」

    私の指摘に、聖園ミカの表情は変わらない。
    「でも、それって解釈次第でどうにもならないかな? 気に入らないものを、犯罪に仕立て上げるっていうの、よく聞く話じゃない?」
    「確かに、そういう話はありますね。しかしナギサさんがそのように自由に使える、とするにはゲヘナ側の立場が抜けています。ゲヘナの意向を無視してその力を濫用するほどの力は、少なくとも現在のトリニティには無い。違いますか?」
    「すごい。流石『先生』だね。良く調べてる。」
    聖園ミカが笑う。動揺は見られないが、このくらい調べていることは想定ないだろう。

    「でも、ナギちゃんがそう思ってない可能性もあるんじゃないかな」
    「そうですね。なので、この話は平行線ということにしましょう。まだありますから」

    いよいよ、話の本題に移る。

  • 12聖園ミカと百合園セイア①25/11/01(土) 22:33:05

    「セイアさんの襲撃の話です。恐ろしい話ですが……疑問があります。」
    「疑問?」
    「何故ミカさんは、アズサさんを、あるいはアリウスを疑っていないのですか?」
    聖園ミカが真顔になる。
    私が全く知らなかったはずの話について、いきなり核心を突く。そのようなことは流石に想像していなかったはずだ。だからこそ、これは茶番なのだった。


    「……どういうこと?」
    「話を聞く限り、アリウスにはセイアさんを襲撃する動機があります。トリニティの事を深く恨んでおり、同様に憎んでいるゲヘナとの平和条約を結ぼうとしている。トリニティの内部にいる『何者か』などを探すより余程分かりやすくはありませんか?」
    「……確かに、動機はあるかもしれない。でも、セイアちゃんを襲撃するのはトリニティの生徒じゃないとできないはずでしょ? だからナギちゃんも、実行犯はトリニティの内部にいると疑ってる。スパイがいるとしても、アリウスにはその繋がりも無いじゃん」
    「繋がりなら一つ、あるではないですか」
    聖園ミカの言葉を遮るように、私は指をさす。

    「ミカさん、実際にアリウスと関わっていた貴女であれば、アリウスを引き込むことが出来る。違いますか?」

  • 13聖園ミカと百合園セイア①25/11/01(土) 22:34:20

    「ミカさん、実際にアリウスと関わっていた貴女であれば、アリウスを引き込むことが出来る。違いますか?」
    「……私? あはは、面白いこと言うね先生。確かに、私なら手引きできるかもしれない、でも、何で私がそんなことをする必要があるの? それこそ、動機が無いと思うんだけど。」
    険しい顔をしている聖園ミカ。今更疑われていないなどと思っていることは無いだろう。

    「そうですね、私はお二人の関係を存じ上げませんから分かりませんが、例えば、こんなストーリーはいかがでしょうか。ミカさん、貴女はゲヘナを憎んでいる。エデン条約の締結などと以ての外だ。しかし、同じく生徒会長を務めている百合園セイアは推進派だ。貴女は彼女が邪魔だった。何せ、貴女がホストであればエデン条約の締結は不可能になるでしょう」
    「……」
    聖園ミカは何も答えない。私は彼女の顔を極力見ずに話を続ける。

    「そんな折、貴女は偶然にもアリウスと交流を深めることになる。そしてアリウスには、同じくトリニティの生徒会長を襲撃する動機も、実行するだけの力もあった。そして、貴女はアリウスへの協力を申し出た。全ては、百合園セイアと桐藤ナギサを排除して貴女がティーパーティーのホストになるために……!?」

    突然、身体に強い圧力がかかり、地面に叩きつけられる。

  • 14聖園ミカと百合園セイア①25/11/01(土) 22:35:25

    一瞬意識が飛びそうになるが、持ちこたえる。
    聖園ミカに押し倒されたらしい。驚異的な膂力だ。

    「違う!」
    聖園ミカが叫ぶ。その体は震えており、目には涙が光っていた。私を殺そうという訳ではないようだ。
    「……違うとは、どういう意味です? 私の言うことが出鱈目だというのであれば、そうおっしゃってください。それとも、私の口も封じますか?」
    押さえつけられたままの体制で、話し続ける。

    「……ううん。やっぱり、違わないや、先生。」
    そして、ついに聖園ミカの告白が始まった。
    「どういうことですか?」
    「全部、先生の言ったとおりだよ。ゲヘナ嫌いの私には、セイアちゃんもナギちゃんも邪魔だった。だから、アリウスの子達と協力して、セイアちゃんを襲撃した。……思ったよりずっと簡単だったよ」
    聖園ミカの言葉を聞くが、残念ながら私の聞きたかった言葉ではない。これではまだ足りないのだ。もう少し必要だ。

  • 15聖園ミカと百合園セイア①25/11/01(土) 22:41:00

    「本当ですか? 私自身は……そうは思えないのですが。」
    「……え?」
    語っていた聖園ミカの言葉が、突然意見を翻した私に驚き止まる。

    「先ほどの私の推測は所詮貴女達のことを知らない立場からの当てずっぽうです。ですが、一つ失念していたことがありまして」
    「……これ以上、何が言いたいの?」
    「彼女たち本人から聞いていた貴女の印象では、とてもあなたがそのようなことをするとは思えないのです。それに、私の推理には同期の面で多大な穴があります。
    遥か昔に追放されたアリウスの生徒たちを思いやることが出来る貴女が……ゲヘナが嫌いだというただそれだけで同輩の生徒を殺すなどと計画できるとは思えない。」
    混乱している様子の聖園ミカは、それでも首を振る。

    「……そんなことない。それは、私に騙されていただけで……! 意味わかんないよ先生、今更何でそんなこと言うの?」
    「私はただ、真実が知りたいだけです。何故、貴女がこんなことをしたのかを」
    「そんなこと……そんなこと、もうわかんないよ!! だって、分かっても、私がセイアちゃんを殺しちゃったのはもう変わらないんだもん!」
    その真実の言葉を聞けたと同時に、私は近づいてくる人物がいることに気付いた。

  • 16聖園ミカと百合園セイア①25/11/01(土) 22:42:01

    「遅くなってすまないね、先生。その辺で勘弁してやってくれ。私が悪かった」
    彼女の本心の慟哭を聞き、漸く百合園セイアがその場に現れた。

  • 17二次元好きの匿名さん25/11/01(土) 22:44:45

    本日はここまで、二人の会話は明日に続きます。

    始めはシンプルにセイアにいきなり出てもらおうかと思いましたが、それだとミカが本心を明らかにすることは無いと思ったので黒服にいじめっ子になってもらいました。

    独自解釈です

  • 18二次元好きの匿名さん25/11/02(日) 06:48:48

    あさほし

  • 19二次元好きの匿名さん25/11/02(日) 13:00:48

    そんなことないとは思うんだけど「ドッキリ大成功」とか書かれたプラカード掲げてないか心配になる

  • 20二次元好きの匿名さん25/11/02(日) 20:01:48

    保守

  • 21二次元好きの匿名さん25/11/02(日) 20:07:11

    >>19

    やるかやらないかで言ったら、平時の𝑆𝐸𝑋𝑌 𝐹𝑂𝑋なら確実にやるな。

  • 22聖園ミカと百合園セイア②25/11/03(月) 00:13:42

    「久しぶりだね、ミカ。」
    近づきながら、そう話す百合園セイアに、聖園ミカの目線が釘付けになる。

    「少し痩せたかい? 私が言えた事じゃないが、食事はきちんととらないといけないよ」

    私から手を放した少女のもとへ、そう話しながら到達する。
    聖園ミカは体も声も震わせて、言葉を絞り出すように口を開いた。

    「……おばけ?」

    百合園セイアが脱力する。
    「……現実を見たまえ、このように実体のある幽霊が存在したとしたら、シスターフッドが大騒ぎだよ。全く、君は変わっていないようだね。本物だよ、私は」

    感動の再会を演出するつもりだったのか、百合園セイアが少し不服そうにまくし立てる。聖園ミカはその姿を見て、恐る恐る彼女に手を伸ばし、身体に触れる。

    「嘘……だって、セイアちゃんは私が……本当に? 双子の妹とかじゃない?」
    「本物だよ、いいだろう、どうやったら証明できる? 『聖園ミカうっかり発言集』でも先生に披露してみせようか?」
    「……ほんものだぁ。セイアちゃん、セイアちゃんーー!!」

    百合園セイアの言い回しで本物だと確信したらしい聖園ミカが、彼女に抱き着く。
    その際、抱き着かれた少女が「ギュェ」とでも表現すればいいのか、声になっていない悲鳴をあげていたような気がしたが、ともかく、友情の一幕という事でいいだろう。
    先ほど突き倒された力を思い出しながら、私はその光景を眺めていた。

  • 23聖園ミカと百合園セイア②25/11/03(月) 00:15:23

    「はぁっ、はぁっ。全く、今度こそ……、いや、やめておこう」
    「あはは……、ごめんね、セイアちゃん」
    数分後、漸く衝動が収まったらしい聖園ミカが百合園セイアを解き放つと、荒い息を吐きながら抗議しようとし踏みとどまる。殺されるだのという発言はセンシティブであると考えたのだろう。

    「ごめんね、ごめんなさい……セイアちゃん」
    その甲斐なく、友人が生きていたという喜びから、そもそもその友人を殺しかけたのは自分だという罪悪感に感情が変わってきたのか、泣きながら謝罪の言葉を繰り返すようになってしまう。
    無理もないが、情緒不安定と言う奴だろう。百合園セイアが困ったように顔をこちらに向けてくるが、私には何もできない。あの『先生』であれば、泣いている少女を慰めるのが得意だったかもしれないが、苦手なものは苦手なのだ。

    「はぁ……ミカ、泣き止んでくれ。私は君を攻め立てない訳じゃない。ただ……そう。私たちには話し合いが必要だと思ったんだ。きっと、私は君を沢山傷つけてしまったんだろう。謝りたい気持ちがあるのは私も同じなんだ。だから、落ち着いて、ゆっくりは無そう? この場所はそう、誰にも邪魔されない、君との話し合いにぴったりの場所だ。」

    百合園セイアの言う通り、昨日浦和ハナコに依頼して、今日の午前中は私と曲直瀬リリは不在、ということにしてある。昨日のように誰かが探しに来ることは無いだろう。
    そして別館であるこの場所に、訪れるものは殆どいないはずだ。

    暫くして、今度こそ表面上落ち着いた聖園ミカを連れ、場所を移した。
    誰かが来る可能性を考慮して、私の部屋ではなく、蒼森ミネと百合園セイアの部屋だ。

  • 24聖園ミカと百合園セイア②25/11/03(月) 00:16:30

    「ミカ様……」
    部屋で待機していた蒼森ミネが入室してきた聖園ミカに気付く。弱弱しく俯いたその様子に驚いているようだった。

    「あ……ミネ……団長。……そっか、最近不在にしてるって、セイアちゃんと一緒にいたんだね」
    聖園ミカもメイドに扮している彼女が誰なのかにすぐ気づいたようだ。格好には何も言及せずそう言った。

    「さて、折角だし今回は私がお茶を用意しよう。ちょっと待っていてくれ」
    「セイア様……紅茶の準備なら私が」
    「いや、君の事をメイドだと思っている者はこの中には一人もいないんだから、気にしないでくれ。」
    いついかなる時でも話し合いの場には紅茶が必要、というのがトリニティの流儀なのだろう。誰もすぐに話し始めようとはしない。

    やがて、紅茶の準備が完了して、改めて話し合いが始まる。

    「ふむ……何から話そうか。まずは……そうだね。改めて、この通り、私は無事だ。何があったのか、知りたいだろう?」
    「……うん」

    私に対し快活に振舞っていた様子は消え去り、聖園ミカは静かにうなずく。
    それを見た百合園セイアは頷き、話を進める。

    「と言っても簡単な話だ。知っているだろう? 私には未来を視る力がある。それで、襲撃についても知っていた訳だ。そこで襲撃してきた……アズサを説得して、死ぬことを回避できることは知っていたんだよ。ただし、信憑性を得るために起こした爆発の余波で気を失いまではしたがね」

  • 25聖園ミカと百合園セイア②25/11/03(月) 00:17:34

    百合園セイアは話を続ける。
    「それで、駆け付けてくれたミネが、私の身柄を隠してくれたんだ。犯人が分からない状況で、再び襲われることの無いように。……恐らく、襲撃者である立場になってしまった君は、アリウスの勘違いと、そしてその欺瞞情報の双方の情報を受けてしまい。私が死んでしまったと確信してしまったのだろう? ……そして、目が覚めた私はミネにそのことを報告しないように頼んだ。大変な反対をされたけどね」

    「当たり前です。そもそも、『報告しない』どころか、色々なことを要求してきたじゃないですか。この格好だって……」
    「なかなか似合っていると思うけどね。救護騎士団の恰好ももちろん様にはなってはいたが。先生もそうは思わないかね」
    唐突に話を振られ、視線が私に集まる。

    「ええ、そうですね……お似合いだと思いますよ。勿論、フォーマル、カジュアルに限らずどのような格好でもミネさんなら着こなしてしまうでしょうが」
    私は社交辞令を返した。百合園セイアは満足そうに微笑み、蒼森ミネは顔を赤くする。聖園ミカはあまり表情を変えずに、それでも意外そうな表情を隠しきれていなかった。百合園セイアが話を再開する。

    「当初は渋っていたミネも最終的には同意してくれた。どうしてかわかるかい? ミカ」
    「え……それは……事を大きくしないため、とか?」
    聞かれた聖園ミカが自信なさげに答える。

    「ああ、それもあるね。だが一番の理由はそこじゃない。……私はただ、君と話をしなければならないと思ったんだ。私が君をそこまで思い詰めさせてしまったと思ったから。その邪魔をされたくなかったんだ。ミネはただ、私のその我儘を聞いてくれたんだ」
    「セイアちゃん……」

    俯いていた少女が顔を上げる。話をしていた少女は立ち上がり、

    「ごめんなさい、ミカ。君が悩んでいるとも……いや、私はそれを知っていたにもかかわらず、君の事を傷つける言葉を沢山言ってしまった。言い訳にもならないが、私は未来を諦めていたんだ。だから、君の気持ちを思いやる事が出来ていなかった。本当に、すまなかった」

    そう言って、深く頭を下げた。

  • 26聖園ミカと百合園セイア②25/11/03(月) 00:18:39

    「……ううん、セイアちゃんに謝ってもらう資格なんてないよ。我儘な私が、自分勝手に振舞っていただけ。それを窘められる立場なのはセイアちゃんやナギちゃんだけだったのに、勝手に苛ついて、危険な目に合わせようなんて考えたんだから。殺したいだなんて思ったことは無いけど、殺しちゃうところだったのも、本当、でしょ?」
    日頃のうっ憤を晴らすために、少し危険な目にあってもらおうとしただけ。彼女の動機は幼稚で危険なものではあったが、殺意がなかったというのは、真実と思われた。

    「……そうだとしても、私が悪くないなんてことはあり得ないんだよ、ミカ。それに、私もミカも、余りにも自分勝手すぎた。君が独断で行動していたのと同じように、私は誰にも相談せずに人生を諦めようとしていた。きっかけが無ければ……」
    そこまで言って百合園セイアは私の方を見、

    「私は今も絶望の中、寝たきりでいただろう。」
    そう言い切った。

    そして、暫く沈黙が続いた。
    百合園セイアは言いたいことを言い切ったようで、静かに待っているようだ。一方の聖園ミカは未だ自責の念が強いようだった。一度上げた顔も、また俯いてしまった。
    以前の、時間遡行前の私であれば、このような状態の生徒を誘導して、自分の思い通りに動かすことに躊躇しなかっただろう。小鳥遊ホシノのことを思い出す。彼女もまた、人を死なせてしまったことという自責の念が変質し、
    精神的に不安定だった。そのことを私は「付け入る隙」だと考えていたはずだが、いつの間にかそのように思えなくなってしまっていた。

  • 27聖園ミカと百合園セイア②25/11/03(月) 00:19:42

    「ミカ様……少し、よろしいですか?」
    沈黙を崩したのは、意外にも蒼森ミネだった。聖園ミカが彼女の方を見る。

    「私は、ミカ様が何を考えていたのかも、セイア様の考えも分かりません。ですが、救護騎士団の団長として、今この場で最も救護が必要なのは、ミカ様ではないかと思います」
    「……そう? こんなんでも、身体は元気だと思うんだよね……」

    「体のことではなく、心の事です。ですが……今こうして会えて良かったです。ミカ様がこうして謝れていれるのは、ミカ様がまだ……立ち止まれる位置にいたからだと思います。本当に心が壊れてしまったら、救護は非常に難しい物となるのです。」
    「そう……なのかな?」
    「はい。そして、それに対して有効な救護とは……しっかり休息をして、よく考えることです。そして、悲しくなったり、罪悪感に押しつぶされそうになってしまったときは、誰かに吐き出すことです。それは私でも、セイア様でも、先生でも良いでしょう。私から言えることは……それだけです」

    蒼森ミネはそう言って、慈しむように小さく微笑んだ。

  • 28聖園ミカと百合園セイア②25/11/03(月) 00:21:13

    「そうですね、ミカさんには考える時間が必要だというのは同意です。今日は一旦ここまでにしましょうか。ミカさんはこの後どうされますか? この場所であればあと何日間は借りていますし、勿論お帰りいただいても構いません。」
    「……え? 私、捕まるものだと思ってたけど、自由の身にしていいの? 本当の裏切り者の私を」
    蒼森ミネの言葉も、続く私の言葉も黙って聞いた聖園ミカが驚いてこちらを見る。

    「そうですね……それは今更ですし、やはり、一人で考える時間も必要でしょう。それはミカさんに任せます。」
    「……2人も、それで良いの?」
    「うん。ミカの好きにすれば良い。話したくなったら、まだしばらくは私はここにいるからね。」
    「私は今回はもうセイア様の傍につくというのは決めていますので」

    聖園ミカの質問に、2人も同意を示す。

    「そっか……。うん、じゃあ今日は、少し一人にさせてもらおうかな……」
    「承知しました。……すみません、一つだけ話しておきたいことがあります。」
    「なにかな?」
    聖園ミカがここを離れる前に、忠告すべき点を思い出して呼び止める。

    「もし、アリウスの生徒たちと話すことがあれば、注意してください。あれには、裏で手を引いている『大人』がいます。」
    「……初めて聞いた話だけど、うん。ありがとう。気を付けるね」

    そう言って別館を出る聖園ミカを、私たちは見送った。
    こういうことは言いたくないが、後は彼女を信じるしかないだろう。

  • 29二次元好きの匿名さん25/11/03(月) 00:23:10

    本日はここまで。

    自分の中のミカが思ったより強情で苦戦しました。

    セイアも苦戦してましたね。
    黒服はこういう時頼りにならないです。

  • 30二次元好きの匿名さん25/11/03(月) 06:49:11

    強情じゃなかったら原典のエデン条約編、あそこまで拗れてないとは思う
    どこぞの赤いオバ様が大体悪いとはいえ

  • 31二次元好きの匿名さん25/11/03(月) 12:21:21

    『先生』と混線して多少丸くなっているけど元々暗躍系ヴィランだしなぁ

  • 32二次元好きの匿名さん25/11/03(月) 12:48:47

    何か言ってあげたいけどこういう奴洗脳しやすそうとしか思ったことないから対処法わかんねぇー
    ってなってるからなぁ
    黙ってる方が正しい

  • 33二次元好きの匿名さん25/11/03(月) 20:13:36

    よるほー

  • 34書いてる人25/11/03(月) 20:57:28

    すみませんが、本日体調不良のため、更新せずに寝ます…

  • 35二次元好きの匿名さん25/11/03(月) 21:29:45

    最近変な天気ですものね…お大事になさってください

  • 36二次元好きの匿名さん25/11/04(火) 01:03:43

    回復するまでゆっくり待ってますよ

  • 37二次元好きの匿名さん25/11/04(火) 06:10:52

    朝ほー

  • 38二次元好きの匿名さん25/11/04(火) 12:32:35

    お身体、お大事に

  • 39二次元好きの匿名さん25/11/04(火) 20:35:49

    ほー

  • 40二次元好きの匿名さん25/11/04(火) 22:26:49

    念の為のほー

  • 41水着ティーパーティ25/11/04(火) 23:58:56

    聖園ミカを見送った直後から、急速に天気が悪化し、土砂降りの雨模様となった。
    特に蒼森ミネは出て行った聖園ミカを心配していたが、後を追う訳にもいかない。

    そんな中、元々長期滞在を予定していて服装にも余裕があった百合園セイアと蒼森ミネ以外の、
    つまり従来の補習授業部の4名が洗濯中の服を汚してしまうというトラブルに見舞われ、着ていた体操服まで水に濡れ、さらに落雷により停電が起きたため、
    着れる服が無くなってしまうという事態になってしまっていた。

    そういった状況で教室で補習、という訳にもいかないため、一同は体育館に集まることになった。
    阿慈谷ヒフミ、白洲アズサ、浦和ハナコ、下江コハルの4名は水着で、百合園セイアは蒼森ミネから気温変化へと対応するため、普段より厚着にさせられ、当の本人はやはりメイド服を着ていた。
    当然、私は黒いスーツのままだ。

    水着4人に厚着1名、そしてメイド服とスーツ姿も1人ずつ。まとまりのない集団が誕生し、百合園セイアが持っていた電気不要のティーセットを使用した茶会が開かれた。
    浦和ハナコの題すところによると「第一回水着ティーパーティ」と言う名前らしい。水着とティーパーティーが参加しているため、間違いではないのが癪である。

  • 42水着ティーパーティ25/11/05(水) 00:00:02

    「リリってやっぱりとんでもないお嬢様よね。なんでこんなの持ってきてるのよ」
    下江コハルがいつものように曲直瀬リリに話しかける。浦和ハナコも既に慣れたようで、何も知らない1年生がティーパーティーの生徒会長に馴れ馴れしく話しかけているのを楽しそうに眺めていた。
    思えば、既に今ここにいる者の大半が既に曲直瀬リリの正体が百合園セイアであることを知っているのだ。もう隠す必要もない気もするが、本人から止められている。
    阿慈谷ヒフミや下江コハルに委縮されてしまうのが嫌なのだそうだ。そんなものだろうか。その状況で蒼森ミネが名乗れるはずもなく、本人は騙しているようで気が引けているらしいが、百合園セイアに追随している。

    ゆっくりと時間をかけて作られた紅茶が全員に振舞われる。雨に濡れ、体温が下がった状態で水着で過ごす羽目になった彼女たちにとって、
    温かい飲物はありがたかったようで、一様にほっとした表情を浮かべている。ホストの百合園セイアも満足そうだ。

    「そういえば、先生とリリは今朝、何をしていたんだ?」
    白洲アズサが思い出したように言う。

    「あ、そうよ。アンタたち何してたの? いない間、こっちは大変だったんだけど!?」
    下江コハルが同調し、阿慈谷ヒフミも口には出さないが気になっている様子らしい。浦和ハナコは静観しているようだ。
    百合園セイアの方を向くと、彼女は暫く考え込んだ後、口を開いた。

    「実は、来客対応していてね」
    具体的に誰が来ていたかを暈して話すことにしたようだ。

  • 43水着ティーパーティ25/11/05(水) 00:01:18

    「来客、リリに?」
    「ああ、ほら。僕は病弱だからさ。お見舞いに来てくれたようなものだね。」
    下江コハルは、ふーんと納得したようだが、正体を白洲アズサは誰が来たのかを考えているようだ。

    「……前に会った時、ちょっとした行き違いがあってね。喧嘩別れではないけれど、会いづらい関係ではあったんだ。……ちょっと聞いてもらえるかい?」

    「え? 何? 人生相談。良いわよ、そういうのちょっと好き」
    「あはは、コハルちゃん? えーと、リリちゃんが私たちに話したいと思ってくれたなら、何でも話してください」
    興味を隠しきれない下江コハルをやんわりと制止しながらも阿慈谷ヒフミも話を促す。私は百合園セイアがどういう話をするのか見守っていた。

    「ありがとう。その、行き違いをお互いに謝ったんだが……あまり、上手くいかなくてね。いや、一歩進んだとは思うんだが、向こうが思い詰めていて、思ったような仲直りには至らなかったというべきかな……」
    そのように言い出した後、手違いで殺されそうになったというような話は当然しなかったが、百合園セイアと聖園ミカの二人の状況を説明していた。

    「……そういうことだったんですね。」
    「まあ、リリってちょっと言い方が回りくどいところあるもんね。すれ違いとはそりゃあるわよ」
    阿慈谷ヒフミと下江コハルが口々に感想を言う。後者の言葉は百合園セイアに突き刺さったようで、項垂れている。

  • 44水着ティーパーティ25/11/05(水) 00:02:25

    「リリちゃん、あ、あのっ。一つ聞いても良いですか?」
    暫く考えていた阿慈谷ヒフミが、意を決したように尋ねる。

    「何でも言ってくれ」
    「あの、リリちゃんはその子と、仲直りしたいんですよね? お友達として仲良くしたいって、そう思ってるんですよね?」

    阿慈谷ヒフミのその質問に百合園セイアは呆気にとられたような顔をする。
    「あ、ああ。……そうだね。友達として、という考えはあまりなかったが。彼女の事を友人だと思っているし、仲良くしたい、って思っているよ。」
    「そうですよね? では……その子に、それは伝えましたか? えっと、あっているかは分からないんですけど、リリちゃんのお話からその話は無かったので。」
    「……」
    百合園セイアは黙って阿慈谷ヒフミの言葉に耳を傾けている。

    「でも、もしかしたらリリちゃんからは謝るだけじゃなくて、仲直りしたい、仲良くしたいってそのお友達に伝えてあげることも、大事なのかなって思って……あうっ、あっている保証はないんですけど」
    「良いんじゃない? 怪我させそうになった相手からなんて、嫌われてるかもって私だって考えると思う。自分が悪いって謝ることはできても、仲良くしたいって、傷つけちゃった側からは言い出しにくいわよ」
    聞いていた下江コハルも阿慈谷ヒフミの意見に同意する。彼女も素直なタイプとは言えないので、聖園ミカ側の気持ちがわかるのかもしれない。

    「……成程、確かにそういうこともあるかもしれない。いや、そうか。私はまた目的を見失っていたようだ。私も悪いというだけでない、彼女の罪悪感を取り除きたいという話でもない。ただ、友人としてやり直したいと思ったんだ」
    2人の言葉は、百合園セイアに深く刺さったらしい。演技で使っていた『僕』という一人称も忘れ、自分の考えを再確認している。

    「ありがとう、二人とも。今度あの子と会った時は、もっと自分の気持ちを伝えるよう心がけよう。コハルのいったように、回りくどいのもやめだ。」
    百合園セイアは、二人にそう言って感謝の意を示した。

  • 45水着ティーパーティ25/11/05(水) 00:03:45

    その後、電気が復旧し、第一回水着ティーパーティーは解散の運びとなった。
    ドライヤーや洗濯機の様子を見に浦和ハナコや下江コハル、阿慈谷ヒフミが出ていくなか、残った白洲アズサが百合園セイアに近づく。

    「リリ……さっき言っていた来客って」
    律儀にリリと呼んで、彼女が質問をする。

    「ああ……君の想像している人物で間違いないと思うよ、アズサ」
    「そっか……私が言うのもなんだけど、仲直り、できるといいな。人間関係も、虚しいものかもしれないけど、それでも繋がりは大事にした方が良いと思う」
    「うん。肝に銘じるよ」

    白洲アズサが頷いて3人を追いかける。
    私も後片付けは任せ、再開できそうな補習授業の準備を行うことにした。

  • 46二次元好きの匿名さん25/11/05(水) 00:04:52

    本日はここまで

    水着ティーパーティといえば、皆様はお持ちでしょうか。

  • 47二次元好きの匿名さん25/11/05(水) 07:28:05

    やはり対話、対話こそが全ての解決策の糸口なのである(ガンダム00並感)

  • 48二次元好きの匿名さん25/11/05(水) 08:04:42

    ???「おまんらはいつも言葉が足らんがじゃ!」

  • 49二次元好きの匿名さん25/11/05(水) 15:13:19

    それはそう

  • 50二次元好きの匿名さん25/11/05(水) 22:11:43

    よるほー

  • 51二次元好きの匿名さん25/11/05(水) 22:11:48

    ほー

  • 52きっかけ25/11/06(木) 00:38:55

    大雨と停電の中行われた奇妙な茶会のあった日の夜、浦和ハナコの突然の提案により、
    夜の街に繰り出すという話になった。

    「いや、遠慮しておくよ。行きたいのはやまやまだが、とても許可してくれそうにない。」
    百合園セイアがそう言って後ろを向く。そこでは蒼森ミネが真顔で首を振っている。

    「そうですか……。皆でいけないのなら諦めましょうか?」
    浦和ハナコが残念そうに言う。この二人は元々友人関係にあったようではあるが、病弱である百合園セイアと外で遊ぶような機会はなかなかなかっただろう。
    そう思って提案したのもあったのかもしれない。
    しかし、結局は

    「いや、こちらのことは気にしないで行ってきたまえ。気を遣われている感じる方が後ろめたくなる。気にしてくれるのであれば……お土産でも買ってきてくれれば嬉しいね」
    という百合園セイアのその返事により、私の引率の元、補習授業部初期メンバーでの外出が決定した。

  • 53きっかけ25/11/06(木) 00:40:22

    夜の街、とはいうものの、基本的にキヴォトス基準での治安はかなり良く、夜遊びをする生徒も少ないトリニティでは、夜間に営業している店は少ない。
    殆ど散歩をしているような状態であったが、だからこそ生徒たちは物珍しそうに周囲を見回っていた。深夜徘徊の経験のある浦和ハナコは別だったが。

    道中、深夜営業を行っている一件のパーラーがあり、そこへ入ることになった。生徒たちを席へ通してもらい、甘味にあまり興味がない私が土産用の菓子売り場で、百合園セイア用の土産を購入していると、客席が妙に騒がしくなった。

    「どうかされましたか?」
    「あ、せ、先生!?」
    そこには何故か正義実現委員会の副委員長、羽川ハスミがいた。直接会ったのは久しぶり……ではない。以前下江コハルと本館に立ち寄った際に少しだけ顔を合わせたか。

    話に聞くところによるとダイエット中という話だったが、テーブルの上にはそう思えない量の容器が置かれている。いや、一人分とは思えないので席を立っているだけで友人との訪問中というのが妥当な線か。
    状況を説明してもらうため、誰かに話を振ろうとしたとき、羽川ハスミの携帯端末がなった。緊急連絡のようだ。

    羽川ハスミの通話内容を聞くに、どうやら近くでゲヘナ学園のテロ集団「美食研究会」が暴れているという話のようだ。

    「すみません、補習授業部の皆さんに、協力していただけませんか?」
    通話が終わった羽川ハスミに申し訳なさそうに依頼される。エデン条約の件で緊張が高まっている現在、正義実現委員会がゲヘナの生徒と衝突があったというのは風聞が良くないらしい。

    生徒たちも異論は無いようだったので、捕縛に協力することとなった。

  • 54きっかけ25/11/06(木) 00:43:10

    作戦は奇妙な進行をしていた。目的地点に到着したとき、首謀者である黒舘ハルナは何故か車両の近くで既に昏倒していたのだ。
    逃走したとみられる鰐渕アカリと赤司ジュンコを正義実現委員会の委員長剣先ツルギのいる周辺まで追い立てるよう指示を出し、私自身はその場に残り黒舘ハルナの拘束をした後、彼女たちが使用していたと思われる車両を確認する。
    後部座席とトランクが不自然に破壊されており、正義実現委員会でも、美食委員会でもない誰かが関与していることは明らかであった。

    その答えは、すぐに判明した。私の端末に連絡があったのだ。その人物は、聖園ミカ。想像していなかった人物だった。
    彼女がメッセージで送ってきた場所。現在地から少し離れた目立たない路地に行く。そこには、困った顔をした聖園ミカと、拘束され口を封じられたゲヘナの生徒がいた。

    「あ、先生! ごめんね、今日のことがあったばかりなのに、先生の姿が見えたから連絡しちゃった。」
    私の姿を見て、少し気まずそうにしながらも聖園ミカが話しかけてくる。一体、どういった状況だろうか。

  • 55きっかけ25/11/06(木) 00:44:43

    「こんばんは、ミカさん。すみません。余り状況が見えないのですが、何があったのですか?」
    「あ。そうだよね、ごめんなさい。ええと、あの後、ちょっと誰とも会いたくなくて、一人で出歩いてたんだけど……あ、雨宿りはしたよ? そしたらいつの間にかこんな夜になってて」
    聖園ミカが話始める。拘束されている少女が震えているが、この人物が何者なのか分からないので一旦、話を聞くことにする。

    「何か騒がしいな、って思ってたら近くに急に車が止まって、バタバタとゲヘナの連中が降りてきたんだけど、中にこの子が残ってるのが見えて、しかも拘束されてるからヤバい誘拐事件かも! って思って、とりあえず一人倒したんだけど。……その後この子を助けようと思ったの。でも、この子もゲヘナの子みたいだからどうしたらいいか分からなくって……そしたら先生が近くにいることが分かって、呼んじゃったの。私も、今はあんまり目立ちたくなかったし」
    彼女はそう言って説明を終える。この状況で、私を呼んだのは正解だろう。ここにティーパーティの生徒会長まで関わってきたら話がややこしくなりすぎる。

    「呼んでくれてありがとうございます。とりあえず……彼女の拘束を外してあげましょうか」
    「あ! そうだよね…… ちょっと待っててね。えいっ」

    私に言われてようやくそれに思い至ったのか、彼女は素手で安々と拘束を外す。

  • 56きっかけ25/11/06(木) 00:46:22

    「ふぅっ、ふぅっ。あー。疲れたぁ……」
    拘束を解かれた生徒は荒い息をしながらそう言って、立ちあがる。
    そして、聖園ミカの方に笑顔で近づく。ゲヘナの生徒に近寄られたからか、彼女の顔がこわばる。

    「あ、ありがとうございました!! トリニティの方ですよね! 本当に助かりました!」
    拘束されていたゲヘナの生徒は、そう言って聖園ミカに深々と礼をする。聖園ミカの目は頭を下げている生徒の頭にくぎ付けになっている。恐らく、そこに生えている角に。
    そして、明らかに動揺していた。

    「良いよ。お礼なんて。トリニティの子が捕まってるのかなって思って焦っただけだし」
    気まずそうな表情を浮かべ、聖園ミカはゲヘナの生徒にそう返す。恐らく、言っていることは事実なのだろ。しかし

    「あ、ですよね。それでも、結果的に助かったのは事実ですし、ありがとうございます。それに、とってもお強いんですね! ハルナが一瞬で悲鳴を上げて倒れたとき、ちょっとスカっとしちゃいました。あ、ごめんなさい。私、愛清フウカって言います。ゲヘナ学園の2年生です。」
    緊張から解放されたことでアドレナリンが出ているのか、愛清フウカと名乗った生徒は少しハイになっているような状態ではあるが、礼儀正しく挨拶をした。

    「あ、うん。私は聖園ミカ……あ」
    勢いに押され、聖園ミカが本名を名乗ってしまう。しかし、愛清フウカはトリニティの生徒会長の名前を知らなかったらしい。特に驚いた様子は無かった。

    「ミカさんって言うんですね。今度,是非お礼させてください。あ、勿論先生にも」
    そう言って、愛清フウカはまた微笑んだ。

  • 57きっかけ25/11/06(木) 00:47:22

    その時、再び私の端末にメッセージが入る。どうやら、鰐渕アカリと赤司ジュンコも捕まったようだ。もう一人いるそうだが、首謀者が捕まったので一度集まってほしいという内容であった。
    「すみません、フウカさん。美食研究会のメンバーが捕まったようです。一応、フウカさんも参考人として一緒に来ていただく必要があると思いますが、大丈夫ですか。」
    「あ、そうですか……まあ、仕方ないですね」
    愛清フウカが先ほどまでの上機嫌から一転、深くため息をつくが、素直に同行に同意する」
    「ミカさんは、どうされますか。」
    「私は……うん、いいや。フウカ……ちゃんのこと、よろしく。」
    聖園ミカはやはり目立ちたくは無いようで、そう言った。

    「ミカさん。本当にありがとうございました。できれば、また、お会いしたいです」
    「……うん。またね」
    そして、愛清フウカの発言を否定することなく、聖園ミカは去っていった。この出会いは、彼女にとってどういった意味を持つのだろうか。それが気になった。

  • 58きっかけ25/11/06(木) 00:49:25

    愛清フウカと美食研究会を確保した後。残る生徒獅子堂イズミを確保する前に、ゲヘナ生達の身柄を風紀委員会へ引き渡すこととなった。
    そこでも引き渡し側の代表としてシャーレの名義であった方が良い、ということで、私が行くことになった。

    「……お待たせしました。死体はどこですか?」
    引き渡し場所に現れたのは怪我人のことを死体と呼ぶ危険人物。氷室セナだった。ゲヘナ学園の救急医学部とのことだ。

    「あなたは? 正義実現委員会の方では無さそうですが」
    「その方はシャーレの先生よ」

    そして、空崎ヒナも救急医学部の車両に乗ってきたようだ。これもまた、政治的配慮というやつだろう。
    引き渡しが始まる。黒舘ハルナや鰐渕アカリは捕まったことに関してはまるで気にしていないように振舞っており、赤司ジュンコは体調が悪そうにしている。
    そして、愛清フウカは

    「それじゃあ、先生。ミカさんによろしくお願いします」
    そう言って車両に乗り込んでいった。

    「ミカ……?」
    空崎ヒナはその名前が気になったようだ。

  • 59きっかけ25/11/06(木) 00:51:31

    車両の出発前、簡単に近況の報告を行う。

    「成程……。フウカ、よりにもよってゲヘナ嫌いの生徒会長と……」
    空崎ヒナが溜息をつく

    「ご存じなのですか?」
    「直接会ったことは無いわ。噂話くらいだけど」
    「成程……これは私の感想ですが、ミカさんにとっても、フウカさんと出会ったことは良い刺激になったのではないかと思いますよ。」
    「そうなの? ならいいけど……それと、先生なら問題ないと思うけど、今、この状況でトリニティ側に先生がいることを邪推してくる人がいるかもしれない」
    空崎ヒナは私に忠告するようにそう言う。

    「確かにそうですね。政治にはバランスというものがあるでしょうから、『あの方』であれば気にしないでしょうが。」
    「『あの方』?」
    「いえ、お気になさらず。近いうちにゲヘナへの正式な訪問も行うつもりです。勿論、万魔殿へも、ですね」
    「……」
    空崎ヒナは私の言葉に複雑な表情を浮かべたが、最終的にうなずいた。

    「その辺りは、先生にお任せするわ。今は、補習授業部の子たちの事に集中してあげて」
    「それは、勿論です。」

    空崎ヒナは私のその返事に満足したようにうなずき、美食研究会の引き渡しは完了した。

  • 60二次元好きの匿名さん25/11/06(木) 00:52:49

    本日はここまで

    哀れ黒舘ハルナ

  • 61二次元好きの匿名さん25/11/06(木) 06:57:47

    フウミカktkr

  • 62二次元好きの匿名さん25/11/06(木) 14:21:39

    ミカの価値観というか視野を広げるのにいいきっかけにはなったかもな
    夏イベの美食のやらかしどうなるか…

  • 63二次元好きの匿名さん25/11/06(木) 16:45:08

    とりあえずゲヘナで試験を受けさせる理由も試験会場を爆破する必要も無いからそこだけは気楽な気持ちで読める。
    懸念点はベアトリーチェの行動がバタフライエフェクトで変化してしまうのかどうかかな?

  • 64二次元好きの匿名さん25/11/06(木) 19:07:04

    ゲヘナで善人寄りってヒナとチナツとフウカとジュリとアルちゃんぐらいになるのかな?

  • 65二次元好きの匿名さん25/11/06(木) 20:16:29

    >>64

    イブキとキララ&エリカとかも善人側でねェか?

  • 66二次元好きの匿名さん25/11/06(木) 22:56:15

    ゲヘナも善人がいないわけではないのだ、たいてい自由人なだけで

  • 67桐藤ナギサの不満25/11/06(木) 23:20:49

    美食研究会の騒動があってから数日後、私は三度、桐藤ナギサへの訪問に来ていた。
    丁度、2度目の追試験を前日に迎えた日の夕方のことである。

    その間、聖園ミカからの連絡も特になく、補習授業に関してはおよそ順調に進んでいた。
    白洲アズサや下江コハルも連日の集中授業の甲斐あり、当初目標としていたレベルには到達しつつある。

    今回の訪問では、こちらからは今後の話、つまり『いつまで続けるべきなのか』を確認する必要があると考えていた。
    逆に言えば、その位しかすることのない簡潔に終わるものであるとも思っていた。

    しかし、実際にはそう簡単には話が進まなかった。

  • 68桐藤ナギサの不満25/11/06(木) 23:25:59



    「どうですか? 補習授業部の様子は」
    会合が始まり、真っ先に聞かれたのは当然、補習授業部についてだった。

    「まあ、順調ですよ。本来の目的という意味では。追試験も明日の、は微妙なところですが3回目の追試には間違いなく間に合うでしょうね。」
    「それは、一安心です。動き出してしまった以上、そこはどうにか乗り越えてもらわなくてはいけませんから」
    桐藤ナギサは安心したように微笑む。元々の存在理由が理由だけに、阿慈谷ヒフミからも疑念を抱かれるようなルールになってしまいる。
    そこについてのフォローは、後から自身で入れてもらうことにしよう。

    「それで……セ……先生、あの子はどうされていますか?」
    「曲直瀬リリさんのことですか?」
    「はい……」
    桐藤ナギサが、気になっている部分、それは百合園セイアが今どういう状態なのかと言う事だろうが、そもそも私は百合園セイアがどの程度の情報を彼女に提示しているのかを知らない。
    しかし、この様子だとせいぜい無事を伝えて、誰が犯人なのかは把握している、程度の事しか伝えていないのかもしれない。

  • 69桐藤ナギサの不満25/11/06(木) 23:27:01

    「そうですね。過度な運動は出来ないみたいですが、普通に補習授業には出られていますよ。彼女はとても優秀ですから、殆ど講師役になっていただいていますが」
    故に、曲直瀬リリとして過ごしている部分について、ありのままに伝える。

    「そうなのですね……ですが先生。あの子は結構こっそり無理をするところがあったりするので、気を付けてください。それに秘密主義なところも……」
    心配なのか愚痴なのか分からないが、桐藤ナギサは百合園セイアのことを零す。

    「承知しました。では、何かあればナギサさんにも連絡するようにしますよ」
    「はい、お願いします。」

    そろそろ本題に入りたい、そう思い、簡潔に伝えると、彼女は素直に礼を言った。しかし、続いてまたも別の話になった。

    「ところで、ミカさんはそちらにお邪魔しませんでしたか?」
    「ええ……来ましたね、何度か……」
    「何度か!? し、失礼しました。そうなんですね。もしかして、リリさんとも……?」
    聖園ミカからは特に何も聞いていないらしい。私が頷くと彼女はショックを受けたようだった、
    「そうなんですね……私を放っておいて2人で……」
    桐藤ナギサが暗い表情で何かを呟いているが、聞かなかったことにする。

    「ナギサさん?」
    「はっ、失礼しました。……実は、ミカさんとも連絡があまり連絡が取れていなくて……」
    「そうなんですか?」
    「はい……」

    聖園ミカが一人で考えたいと言ってから既に数日たつが、その間殆ど桐藤ナギサと連絡をとっていないということだろうか。
    溜息をつく彼女は、恐らく既に百合園セイアを襲撃した下手人が誰なのかについては推測できていると思われる。
    百合園セイアが自身の生存を明かしながらその犯人について言及しないのであれば、それは「犯人のため」である、という推察は付き合いの長い彼女であれば十分可能だろう。
    そのうえで、自分には何も説明されず、事態が進行していることだけが知らされるのが不安であるようだ。

  • 70桐藤ナギサの不満25/11/06(木) 23:28:58

    しかし、話が進まない。仕方なくこちらから聞きたい内容を振ることとする。

    「ところで、ナギサさん。補習授業部の話に戻りますが。」
    「あ、申し訳ありません。何でしょうか」
    桐藤ナギサも話がそれていたことに気付いたのだろう。気を取り直したように、居住まいを正す。

    「仮に次の追試で全員合格点に達すれば、補習授業部の役割は終了になると思いますが、期間自体は残っているわけです。こちらはどういうつもりで動けば良いでしょうか」
    「ああ、その件ですね。それについては、……リリさんに一任しています。彼女であれば、ご自分の匙加減で合否の調整位できるでしょうし。そのために、2回目の試験はリリさんの参加が必須となるルール修正を行っています。」
    「成程」

    つまり、百合園セイアが満足するまでやってもらう、ということだろう。そして、本人は非常に不満げだ。
    トリニティとアリウスの、そして暗躍する者の策謀も絡む問題ではあるが、ことティーパーティの生徒会長3名の問題に関しては、シンプルなものに感じられた。先日の『水着ティーパーティ』での話を思い出す。
    そして、それ以前の……ミレニアムでの早瀬ユウカとゲーム開発部や黒崎コユキの関係についてのこと。

  • 71桐藤ナギサの不満25/11/06(木) 23:30:11

    「大体分かりました。もうそろそろ遅い時間ですし、明日は試験ですから、この辺りで失礼しますね」
    「そうですね。すみません、話がそれてしまって」
    「いえ、生徒の話を聞くのが仕事のようなものですから、大丈夫ですよ」
    「……うふふ、話が逸れたことは否定しないんですね」

    桐藤ナギサは笑いながらそう言ったが、どこか疲れているように見えた。やはり、仲の良い二人と連絡が取れない状況が精神を疲弊させているのだろう。
    私はいい加減、この状況がじれったく感じていた。ティーパーティの3名全員と連携し、アリウスの、いや、ベアトリーチェの目的に対抗する必要があるだろうが、それが全く進んでいない。
    本人たちの為にも、私の目的のためにも、そろそろ強引に動かす必要があるのではないだろうか。表立って大きなことが出来ない状況なのは分かっているが、私の中にそのような焦燥感が起き始めていた。

    そして、翌日。2回目の追試の正にその最中。

    百合園セイアが倒れた。

  • 72二次元好きの匿名さん25/11/06(木) 23:32:52

    本日はここまでです

    なんだかんだエデン前半も終わりに近づいてきた感じがありますね

  • 73二次元好きの匿名さん25/11/06(木) 23:44:34

    どう転ぶかわからなくて怖い...

  • 74二次元好きの匿名さん25/11/07(金) 06:36:56

    >セイアが倒れた

    工工工エエエェェェ(゚Д゚)ェェェエエエ工工工

  • 75二次元好きの匿名さん25/11/07(金) 06:56:59

    >>61

    >>74

    クソどうでもいいけどこのスレに古のネット民おるな…

  • 76二次元好きの匿名さん25/11/07(金) 14:56:36

    ほー

  • 77二次元好きの匿名さん25/11/07(金) 19:14:45

    >>75

    何?!ブルアカのメイン層はその古のネット民ではないのか!?(偏見)

  • 78二次元好きの匿名さん25/11/07(金) 23:04:28

    保守

  • 79二次元好きの匿名さん25/11/08(土) 06:11:50

    朝ほー

  • 80急変25/11/08(土) 11:22:40

    補習授業部の第二回追試験当日。

    定刻通り集まった部員たちに、部長である、阿慈谷ヒフミから試験の実施要項が読まれる。

    「基本的に前回と同じですね。合格点は60点……、あ、今回はリリちゃんを入れて5名なので、5名全員が合格点に達することが補習終了の条件、という風に明記されています」
    「……」
    「リリちゃん? 大丈夫ですか?」
    「……ああ、問題ないよ。」

    阿慈谷ヒフミの言葉に、いつもより数テンポ遅れて返事をする百合園セイア。
    体調があまりよくないのだろうか、蒼森ミネの方を見るが、彼女も険しい目で百合園セイアを見ていた。
    ともあれ、彼女も状況自体は分かっている。口をは挿むことは無いようだ。

  • 81急変25/11/08(土) 11:25:02

    「それでは、始めてください」
    阿慈谷ヒフミも席に着き、予定通り、試験を開始する。それぞれが自分に渡されたテスト用紙を開く。
    今回の試験では、百合園セイア(曲直瀬リリ名義)以外の全員が合格点に達する可能性は十分だろう。後は彼女の匙加減で決まるのだろう。

    そして、数分後、初めにそれに気付いたのは、百合園セイアの真後ろに座っていた浦和ハナコだった。

    「リリちゃん……?」
    試験中でペンの音や試験用紙を開く音しかしていなかった室内に、浦和ハナコの声が響く。

    思わず、浦和ハナコの方を、そしてその前に座っているはずの百合園セイアの方を見る。
    ほんの数瞬前まで普通に試験を受けていたはずの、彼女が机に突っ伏していた。
    そして次の瞬間、蒼森ミネが百合園セイアに駆け寄ってくる。彼女も浦和ハナコとほぼ同じタイミングで気づいていたようだ。

    「大丈夫ですか? 」
    彼女はその場で、百合園セイアの様子を確認したり、呼びかけたりし、容態を確認し始める。
    気付けば、試験中だが全員の視線がそちらにくぎ付けとなっていた。

    「これは……かなりの発熱があるようです。そして意識は無いようです。とりあえず医務室へ運んできます。」
    「私も行きましょう。皆さんは試験を続行してください。」

    焦燥感を抑えながら、どうにか指示を出し、医務室へと急いだ。

  • 82急変25/11/08(土) 11:27:50

    建物内にある医務室のベッドに百合園セイアを寝かせ、蒼森ミネが、備品や彼女の装備を使用して百合園セイアの状態を確認する様子を眺めていること数分。
    「先生、よろしいですか。セイア様の状態についてなのですが……」
    真剣な顔をした蒼森ミネに声を掛けられる。

    「教えてください」
    「はい。まず、発熱についてですが……実は、今朝から少しあったのです。セイア様には無理をしないようにと言ったのですが、皆さんの進退には代えられないと押し切られてしまい……」
    蒼森ミネが申し訳無さそうに話し始める。救護活動に関しては全く融通の利かない人物と言う噂を耳にしていたが、その彼女が押し切られるとは、余程面倒な説得をされたのだろう。
    「その件は、承知しました。ミネさんが気に病むことはありませんよ。それで、今の状態は?」
    「はい。……実は発熱の症状を除くと、寝ているだけ、としか言えないのです。体を揺らしたり呼びかけたりしても一切反応しない程、異常に深い眠りについているようです……」
    「あの一瞬で、ですか」
    体調が優れない様子なのが気になっていたので、彼女から目を話していたのはほんの数十秒から2,3分程度だったはずだ。


    「はい。……最近、と言うよりあの襲撃から目を覚ましていこうずっと、寝不足気味ではあったと思います。本人が寝たくないと仰っているのも一度聞きました。しかし、これは……」
    「普通の状態ではない、と」
    「はい……恐らくはセイア様の体質に関係があると思うのですが」
    私の問いに、蒼森ミネが頷いて、補足する。百合園セイアの体質、それは恐らく予知夢の事だろう。

    「それは……いわゆる予知能力についてですか?」
    「ご存じでしたか。はい、その通りです。ただ、私もその現象についてはあまり詳しくなく……」
    「成程。となると、目覚めるのを待つしかない、ということでしょうか。」
    「……はい。」

    蒼森ミネが弱弱しくうなずく。彼女に責任は一切ないが、それでも手の打ちようがない、と言うのは堪えるのだろう。
    「気に病まないでください。そういった判断を下せるだけでも、貴女がいてくれてよかったというのは間違いありません。」
    私はそう告げるが、蒼森ミネの表情が変わることは無かった。

  • 83急変25/11/08(土) 11:29:03

    そろそろ試験時間が終わる。百合園セイアは蒼森ミネに任せて、一度教室に戻ることにした。
    教室に到着すると、生徒たちはみな、一応試験に向き合ってはいるようだった。しかし、集中できていないのは明白で、私が教室内に戻ると同時に、視線が私に集中した。

    「……時間です。解答用紙を回収しますので手は止めてください。」
    一応、決められた文句を言って生徒たちの解答用紙を回収していく。当然、全体の1/4程度しか記入できていない曲直瀬リリのものも。

    「皆さん、お疲れさまでした。リリさんについては、眠っているだけで、大変な状況ではないそうです」
    回収後、全員が気になっているだろうことについて説明する。嘘ではないと言うレベルの詭弁であることは自覚している。

    「でも、先生……」
    「何か?」
    「……すみません、大丈夫です」
    誰かに質問され、遮ってしまった。誰だったかは分からない。医務室へ戻ろう。

    教室を出て、医務室へと向かいながら、自分の体たらくについて考える。彼女が……百合園セイアがそういう体質なのは理解していたはずだ。
    そして、彼女は以前の時間軸ではこの期間、ずっと意識を失っており、そうなる可能性も考えていたはずだった。しかし、ここに来て以来私は百合園セイアについて、彼女の体調のことを気にすることもできていなかった。
    想像より元気そうに見えたから? そもそも対策を打ちようが無かった? 最低限、そうなった場合の対策を相談しておくべきだったのは間違いないではないか。何故、そうしなかったのか。何故。

  • 84急変25/11/08(土) 11:30:27

    「先生? 大丈夫ですか?」
    声をかけられてはっとする。気付けば医務室の前に到着していたようだ。生徒たちの解答用紙も持ったまま、考え込んでしまっていたようだ。外に誰かの気配を感じた蒼森ミネが私がいることに気付いて声をかけてくれたらしい。
    心配そうにこちらを見ている蒼森ミネに大丈夫だと告げ、医務室の中に入れてもらう。

    「セイア様の様子ですが、熱は少し下がりました。後は普通に目覚めてくれたら良いのですが……」
    「そうですか……お教えいただきありがとうございます。」
    百合園セイアの方を見る、確かに普通に眠っているようにしか見えない。

    「それと、先生。先生こそ……あまり、ご自分を責めたり、責任を感じたりしないでください。この件は体調を隠していた本人と、それを承知で黙っていた私に責任がありますから」
    「……お気遣いありがとうございます。責任を感じているというよりは、対策を打たなかったことを後悔していたのですが、そうですね。今更後悔しても仕方ありません。今後の事を考えることにします。」

    蒼森ミネに逆に気遣われ、冷静さを少し取り戻す。そう、今は後悔しても仕方ないだろう。自分ができることをやらなければ。

  • 85急変25/11/08(土) 11:31:38

    一先ず、試験の採点を終わらせて心配しているだろう補習授業部の生徒のもとへ戻り、返却する。

    試験の結果は以下の通りだった。

    阿慈谷ヒフミ 61点 合格
    白洲アズサ 59点 不合格
    下江コハル 54点 不合格
    浦和ハナコ 71点 合格
    曲直瀬リリ 29点 不合格

    百合園セイアが倒れたことによる動揺か、全体的に点数が下がっている。
    いずれにせよ、第三回の追試が決定した。

    その後、交代で様子を見に行ったり、生徒たちがお見舞いに訪れたりしたが、丸一日、百合園セイアが目覚めることは無かった。

  • 86二次元好きの匿名さん25/11/08(土) 11:32:41

    色々あって深夜に書いてたらがっつり寝落ちしてました……

    一応今夜も投稿予定です。

  • 87二次元好きの匿名さん25/11/08(土) 16:07:57

    黒服が動揺してる
    やっぱ感情移入しちゃってるんだねえ

  • 88二次元好きの匿名さん25/11/08(土) 22:29:54

    お疲れ様です。
    あまり無理はされないように。

  • 89目覚め25/11/08(土) 23:27:57

    第二回補習授業部追試験の翌日

    通常通り、補習授業は行われる。ただし、参加人数はいつもより少ない。
    未だ百合園セイアは目覚めておらず、生徒たちもその様子が気になっているようだ。
    彼女が普通に寝ているだけではないことは、既に全員理解しているだろう。

    しかし、誰もそれを口にはしなかった。

  • 90目覚め25/11/08(土) 23:30:56

    「さて、そろそろ正午ですね。休憩にしましょう」
    午前中の模擬試験と解説が終わり、生徒たちにそう伝える。
    今日は全員合格点を取れており、昨日の混乱からはある程度皆冷静になったことが理解できた。
    これ以上の期間は根を詰めすぎても仕方ないだろう。休息をとりながらモチベーションを保ち続けることが重要だ。

    「じゃあ、折角なのでみんなで、お昼ご飯を一緒に作りませんか?」
    浦和ハナコが提案する。昨日はかなり動揺した様子だったが、今は表面上いつも通りの状態になっている。
    演技かもしれないが、彼女のその役回りは、他の部員たちのメンタルにも良い作用をもたらしている。

    「ハナコちゃん。それ、良いと思います! やりましょう」
    阿慈谷ヒフミが即座に賛成する。

    「成程、料理か……まともにやったことはないが、やってみたい」
    「お料理…上手くできるかな」
    経験の少なそうな二人も反対するつもりはないようだ。

    「先生、問題はないですよね?」
    「ええ、全く問題ありません。私はリリさんの様子を見に行きますので、火などの扱いには十分お気を付けください。」

    阿慈谷ヒフミの質問に頷きながら、一人、先に教室を離れる。

  • 91目覚め25/11/08(土) 23:31:57

    百合園セイアが倒れてから丸一日と少し経つが、今のところ起きる気配はない。
    これは、『緊急事態』と言えるだろう。そして、緊急事態には連絡する、と桐藤ナギサには伝えていた。昨日はまだ連絡を控えていたが……
    医務室の前でシッテムの箱を開き、1通のメッセージを送る。それが終わり、いざ入ろうとしたとき、中から蒼森ミネが飛び出してきた。

    「あ、先生! セイア様が……目を覚まされました!」
    蒼森ミネの言葉に、すぐに室内に入る。そこには彼女の言った通り、上半身を起こしこちらを見ている百合園セイアの姿があった」
    「やあ、先生。随分、心配をかけたみたいだね。申し訳ない」
    そう彼女は謝った。
    「いえ、目覚められて良かったです。こちらこそ、貴女が無理をしていることに気付けず、申し訳ありませんでした。」
    「それも、隠していたこちらが悪い。これからは、そういったことは無いようにするよ。ミネも、片棒を担がせて申し訳なかったね
    「はい、私はこのようなことは苦手なので、もうしたくありません」
    「本当に悪かったよ」
    蒼森ミネは小言を言うが、目覚めて嬉しい気持ちは持っているようで、怒っている様子は感じられない。


    「先生、私は皆さんを呼んできます」
    そう言って再び外に出ようとする蒼森ミネを、百合園セイアが呼び止める。
    「待ってくれ、ミネ。できれば、ゆっくり来てくれないか?」
    「何故ですか?」
    停止した蒼森ミネが不満そうに聞く

    「少し、先生と話したいことがあるんだ。」
    「そういうことであれば、申し訳ありません、ミネさん。皆さんは今、昼食を作り始めているころ合いですので、そちらに協力していただけませんか? その後戻ってきていただければ」
    百合園セイアに追従した私の発言も聞き、呼び止められた彼女は小さくため息をつき
    「……承知しました」
    と、やはり不満そうに告げ、改めて退室していった。

  • 92目覚め25/11/08(土) 23:33:02

    「さて、私に話したいことがある、というのは『夢』の話ですか」
    2人になった室内で、百合園セイアに確認する。

    「そうだね。寝ていた間、私はいろいろな夢を見ていた。既に見たものも多かった。エデン条約の夢、『先生』を名乗る人物と会う夢、ミカと、仲直りする夢……」
    百合園セイアは自分の見た内容を鮮明に覚えている夢を鮮明に覚えているようだった。


    「少し変わったものだと、回復した私がミレニアムへ訪問する夢を見たりもしたな。明るい未来の夢を見たのは、初めてだったかもしれない。」
    微笑みながら、その内容を思い出して彼女は語る。私は知らないが、それは以前の時間軸で未来に実際に起こったことなのかもしれない。
    彼女は一つ一つ、自分の見ていた夢の内容を詳細に語ってみせた。私と会って以降で、最も饒舌に語って言えるかもしれない。

    「成程、新たな未来を見た、と。良かったのではないですか?」
    それが訪れる未来であるという保証は無いが、絶望的な未来を見て悲観的になっていた彼女には良いものともいえるだろう。

    しかし、百合園セイアは笑って首を振った。
    「確かに、悪いものではなかったよ。でもね先生、夢は夢なのだよ。それが分かったから、きっと私は目覚めたのだと思う。」
    どこか確信を持ちながら、百合園セイアが新しい持論を展開する。

  • 93目覚め25/11/08(土) 23:34:09

    「……というと?」
    「そうだね……最後に見た夢の話をしよう。」
    目を閉じて、その夢を思い返すように彼女が語り始める。

    「その夢で、私は今まで見たことの無い薄暗い不思議な場所にいた。そうだね、少し不気味な空間だったともいえるね。そして、私は隣の部屋で会話をしていることに気付いた。」
    彼女の見たその夢の内容には、既視感があった。私は黙って続きを聞く。

    「隣の部屋をこっそりと覗いた私は、そこにいた人物に驚いた。そこには様々な人がいたが、どの人物も変わった……人とは思えない姿をした人達だったんだ」

    それは、ゲマトリアのことだろう。彼女はゲマトリアの会議の様子を目にしてしまったのか。

    「彼らは不穏な悪だくみのような会話をしていただがね、そこに先生がいたんだ。他の夢で見た『先生』を名乗る人物ではなく、今、こうして私を心配してこの部屋まで来てくれた先生がその姿で、夢で悪だくみをしていた。それで悟ったんだ、こんなものは夢に過ぎない、とね。それで……それに気づいたら目が覚めていた」
    そこで、百合園セイアを言葉を切って、私に微笑みかけた。

    「私にとって、『先生』を名乗る普通の見た目のお人よしのような人ではなく、見た目は少し怪しくて考えすぎて話すために誤解を招くことのある君こそが、先生なのだから。だから、私の見ていたものは、荒唐無稽な夢だってことに気付いたんだよ。誰もが見るような、『普通の夢』だね」
    「……セイアさんがそう仰るなら、そうなのでしょう」
    確信を持って私に宣言した彼女に、私は否定の言葉を持たなかった。

    「それで……私は今後、このような夢を見ることはもうないのだと思う。根拠は……今までにないくらい清々しい目覚めだったこと位しかないのだがね」
    そしてその調子のまま、彼女は自分が『予知能力』を失ったことを朗らかに告げた。

  • 94目覚め25/11/08(土) 23:35:14

    「それは……どういう反応をすればいいのでしょうか」
    「一緒に喜んでくれたまえ、元々、大した意味を持つものではなかったしね。そのうえでストレスや不眠の原因であることは間違いなかったのだから、喜ばしいことさ」
    私自身は予知能力者ではないから分からないが、そのようなものなのだろうか。自分自身は未来の記憶を散々使ってきた立場として、簡単に同意は出来なかったが、少なくとも本人が喜んでいることまで否定する気にはならなかった。

    その時、室内に近づいてくる足音がした。百合園セイアの夢の話をゆっくり聞いていたら、気づけば結構な時間が経っていた。蒼森ミネが戻ってきたのだろうか。
    そう思ったが、現れたのは想像とは異なる人物であった。

    「先生! セイアちゃんが倒れて目覚めないって本当!? ……ってあれ?」
    勢いよく扉を開いたのは、特に呼んだ覚えのない聖園ミカだった、そして。

    「ミカさん……もう少し扉は静かに開けた方が……あら?」
    何故かその聖園ミカに抱えられて、桐藤ナギサもこの場へやってきていた。

    「やあ、久しいねナギサ、それにミカも。丁度目覚めたところだったんだ」
    百合園セイアが動じずに現れた2人に応じる。その時に私はさらに気が付いた。
    ここに近づいてくるさらに複数の足音があることを。

    こうして期せずして、ティーパーティの生徒会長と補習授業部全員が集合することとなってしまった。

  • 95二次元好きの匿名さん25/11/08(土) 23:36:20

    本日はここまで

    重要そうなことを語らせつつ
    どうにかコメディに戻りました

  • 96二次元好きの匿名さん25/11/08(土) 23:44:49

    ティーパーティとミネ団長と補習授業部がみんな揃ったぞ!
    ああ、サクラコ様…

  • 97二次元好きの匿名さん25/11/09(日) 07:54:17

    信頼されてるなぁ

  • 98二次元好きの匿名さん25/11/09(日) 07:56:41

    黒服が変わっていってるね
    楽しみ

  • 99二次元好きの匿名さん25/11/09(日) 13:19:36

    昼ほしゅ

  • 100二次元好きの匿名さん25/11/09(日) 18:41:17

    ほー

  • 101二次元好きの匿名さん25/11/09(日) 22:02:00

    よるほー

  • 102対ベアトリーチェ作戦会議25/11/09(日) 22:35:57

    奇妙な沈黙

    医務室にいた私と百合園セイア、そこに現れた聖園ミカと桐藤ナギサ。
    そして、百合園セイアが起きたことを伝えに行き戻ってきた蒼森ミネとそれについてきた補習授業部の生徒たち。
    凡そ今回の騒動に関わる全ての人物9人が一堂に介してしまった。
    全員が入るには少々狭い医務室内に収まる。

    「……こほん、ミカさん、とりあえず、下していただけますか?」
    「あっ、ごめんねナギちゃん! よいしょっ」

    沈黙を破ったのは何故か聖園ミカに抱えられていた桐藤ナギサだった。なんともいえない間の抜けた会話に、
    場の緊張感が緩む。

  • 103対ベアトリーチェ作戦会議25/11/09(日) 22:37:01

    「……ナギサ様、ミカ様、お二人は、一体どういう……?」
    蒼森ミネが全く訳が分からない、と困惑した様子で質問する。

    「そ、それは……お見舞い、でしょうか……?」
    「私はナギちゃんがぱたぱた歩いてたから急いでるのかなって思って連れてきたの」
    「いえ、あれは走っていたのですが……」
    「えっ、あれで?」

    同じく少々混乱している桐藤ナギサが返事をし、聖園ミカは付き添いであると主張する。
    入ってきたときの様子からすると、聖園ミカの方も心配で焦って現れたのは間違いないと思うが。

    「ああ、ナギサさんが来られたのは私が連絡したからだと思います。こんなに早く直接来られるとは思っていなかったので、皆さんに伝えるのが遅くなってしまいました。」
    念のため、補足をしておく。

    「……ミカ様と、ナギサ様……がわざわざお見舞いに駆け付けるって……本当に何者なのよ、リリ!? あと、目が覚めて良かったわ! 急に倒れて心配だったんだから!!」
    突然現れた学内トップの2人にフリーズしていた下江コハルが叫ぶ。

    「ありがとう。心配かけてすまないね、コハル。それにみんなも。」
    百合園セイアが返事をするが、聞いていた聖園ミカが目を丸くする。
    「え? リリ……ってどういうことセイアちゃん」

    そういえば、百合園セイアがどういう体で補習授業部に入っていたのかを彼女に説明していなかった。
    元々彼女や、他の人たちに気付かれないように偽装していたので、問題は無いのだが。

  • 104対ベアトリーチェ作戦会議25/11/09(日) 22:38:02

    「セイアちゃんって……、えっ、えっ!? まさかリリちゃんって」
    阿慈谷ヒフミが気付いたのか、私と百合園セイア、そして、桐藤ナギサの顔をきょろきょろと確認するように見比べる。
    下江コハルはぽかんとした様子だ。

    「そういえば、久しぶりだなミカ。元気そうで良かった」
    白洲アズサはこの状況にはあまり動じていないようで、自分の順番が回ってきたとばかりに聖園ミカに挨拶をする。
    「う、うん。アズサちゃんも、久しぶり……」
    聖園ミカが流石に少し気まずそうに曖昧に手を振る。二人の関係を考えればさもありというところだ。


    「……セイアちゃん。流石に二人にも説明した方が良いのでは?」
    頭を抱えながら様子を見ていた、浦和ハナコが最後に声をあげる。

    「ふむ、確かにそうだね。既にここにいる者の殆どは知っていることだし、改めて自己紹介しようか」
    説明を求められた百合園セイアがそう言って、起き上がらないまでも姿勢を少しただす。

    「私は百合園セイア。ティーパーティの生徒会長の内の一人で、曲直瀬リリというのは偽名だよ。黙っていてすまないね、ヒフミ、コハル。ついでにこっちのメイドは本当は私のメイドではなく……」
    「……はぁ。蒼森ミネです。御存じかもしれませんが、現在の救護騎士団で団長をやっています。」

    何も知らなかった二人の驚きの叫びが医務室内に響いた。

  • 105対ベアトリーチェ作戦会議25/11/09(日) 22:39:10

    病み上がり、ということで、蒼森ミネが強く主張し、その後は私と青森ミネ以外は少人数ずつ順番に面会することになる。
    初めは、流石にティーパーティーの生徒会長が優先であろうということで、聖園ミカと桐藤ナギサの番ということになる。

    「ふぅ……。ようやく少し落ち着いたね。こんな体勢ですまないが……こうやって3人が揃って話す機会は、本当に久しぶりに感じるよ。」
    百合園セイアが、人数が減った室内で話始める。

    「そうですね……本当に。本当に……無事で良かったです。」
    桐藤ナギサはそう言って、ベッドで安静にしている百合園セイアの手を握る。声が震えているのは、それだけ本気で言っているという事だろう。
    「うん、本当に申し訳ない。こうしてまた会えてうれしいよ。ナギサ。」
    百合園セイアは大人しくされるがままの状態で、そう返事した。

    「……ごめんね、ナギちゃん。ごめんなさい。私のせいで、なんだ」
    2人の様子を見ていた聖園ミカが、そう言う。。これまで桐藤ナギサに隠していたことを明かすつもりだろう。
    「……ミカさん。……最近、お二人があっていたという話も先生から聞いています。隠し事をされていたのは少し寂しいですが、一体何があったのか、漸く教えてくれるということですね?」
    桐藤ナギサが聖園ミカに向き直る。そして、聖園ミカの懺悔が始まった。

  • 106対ベアトリーチェ作戦会議25/11/09(日) 22:40:12

    「……」
    事が起こった経緯と、それに至る感情の洗いざらいを話した聖園ミカを、桐藤ナギサはしばらくじっと見つめていた。

    「……思ったよりも、複雑な話ですね。普通にミカさんがセイアさんに襲い掛かってやりすぎて殺しかけてしまった、位を想像していたのですが……」
    桐藤ナギサが目を閉じてそう言い放つ。

    「いや、ナギサ。流石にそれは……」
    「似たようなものでしょう」
    「はい、ごめんなさい……」
    何故か被害者である百合園セイアが聖園ミカを庇おうとして桐藤ナギサに怒られている。

    「……ミカさんがセイアさんを痛い目に合わせようとした、と言うところまででも、気持ちとしてはとても怒りたいですが、それはミカさんとセイアさんの間で解決しているのであれば、私からはもう言いません。」
    桐藤ナギサが深く考えた後、まずはその部分から話し始めた。
    「う、うん……」

    「私が言ってほしかったのは、その前と、後の話です。アリウスの方たちとのことを黙っていたことと、自分では手に負えない事態になってからもそれを隠していたこと。本当に残念です。せめてどこかのタイミングで相談していただければ、それこそエデン条約の話より優先すべきだと判断することもあったかもしれません。」
    「それについては、私も悪いんだ、ナギサ。私もアリウスのことは知っていて黙っていた」
    「セイアさんの秘密主義も承知ですが……まあ、秘密主義は私もですね。それについては、3人全員の問題と言えるでしょう。それにしても、せめてセイアさんを傷つけてしまったことを明かしていただければ、と思うところはあります」

    桐藤ナギサがそう言って聖園ミカを睨む。怒っているというよりは拗ねているような様子だ。

  • 107対ベアトリーチェ作戦会議25/11/09(日) 22:42:52

    「……ごめんなさい。今度からはそうします。」
    聖園ミカが素直に謝る。桐藤ナギサが頷いて話を続ける。

    「はい。今のが幼馴染としてのお説教です。こうしてセイアさんも無事だったので、これ以上は言いたくはありません。反省していただけるならそれで……ですが、ティーパーティーとしてはそういう訳にはいきません。」
    「ナギちゃん。うん、そうだよね……どうすればいいかな?」
    聖園ミカが素直に受け入れる姿勢を見せる。

    「……とはいえ、ミカさんを今すぐ処罰する、というようなことをやっている場合でもありません。……ミネさんは、どう思いますか?」
    「私は……そういうことはよくわかりません。……ですが、これ以上、事態が大きくなるようなことがなければ、誰かに真相を明かそうなどと言うつもりはありません。巻き込まれた補習授業部の方たちや、シスターフッドへのフォローは必要でしょうが」
    話を振られた救護騎士団長は、政治のことはそっちでやってくれ、といった態度だ。気にしているのは百合園セイアの体調と、そしてアリウスの生徒たちの健康状態だろう。

    「ありがとうございます、ミネ団長。」
    これにて一旦、聖園ミカの件に処遇については、一旦保留という結論となった。

  • 108対ベアトリーチェ作戦会議25/11/09(日) 22:43:57

    「それで、アリウスの方々ですか。このまま進めばミカさんが部隊を引き連れてクーデターを起こす予定になっていたと。頭が痛くなりますね……」
    「……」

    話題が変わり、アリウスのことへの検討になる。
    この機会がなければ一体どうするつもりだったのだろうか。聖園ミカの方を見る。
    「まだ、アリウスの子達には言ってないけど、やっぱりそれは出来ないっていうつもりだよ」
    「そんなことをすればミカさんの身が危ないでしょう? いくらミカさんが強いと言っても……それに困ったことにアリウスの方たちの主張には、聞いた話が確かであれば正当性があります。とはいえ、クーデターを成功させてしまう訳にもいきませんし……」

    桐藤ナギサがそう言って頭を悩ませる。聖園ミカがここでアリウスを実質的に裏切ったことにより、『アリウスをどうするべきか』という主導権は実質的にトリニティが握ってしまったことになる。アリウスがトリニティの強固な基盤を崩すには、保有戦力を考えると奇襲を成功させること以外にない。実際に以前の時間軸では、『聖園ミカのクーデター』、『エデン条約への襲撃』という2段階での奇襲でそれを為そうとしていた。
    もっともそれは『裏で操っている別の存在』がいなければ、であり、かつその人物は最初からその成功など目的としていなかったのだが。

    「……どうにか、話し合いで解決する道を見つけられればいいのですが」
    「少しよろしいですか。話し合いと言う手段を取るのは少し待ってほしいのです」
    途中で割り込んだ私の言葉に、ここにいる全員の視線が私に集まる。

  • 109対ベアトリーチェ作戦会議25/11/09(日) 22:46:03

    「それは、どういうことですか? 先生」
    「そうですね……ミカさんには以前お伝えしましたが、アリウスの生徒たちの動向には、裏で操っている大人の存在があると考えています。ミカさん、どうですか? あれからどなたかに会われましたか?」
    私はそう言って、聖園ミカに状況の確認をする

    「う、うん。あの後は一回だけアリウスの子達とお話する機会があったんだけどね。一応、人によるんだけど……確かに先生のいう通り、少しおかしなことが分かったの」
    「おかしなこと、ですか」
    「うん。一つは、基本的にみんな、なんだけどアリウスの子達は『アリウス』は『トリニティ』と『ゲヘナ』をって、常に言っていたの。それで、私も思うところがあって、私も前からゲヘナは嫌いだったんだけど、いつの間にか「アリウス」と「トリニティ」で結託して「ゲヘナ」を潰さなきゃってすごく考えちゃってたの。セイアちゃんと再会した後で自分でよく考えて、それに気づいたんだ。」
    やはり、聖園ミカも一定の洗脳状態にあった可能性がある。もちろん本人にはその意図はないだろうし、まるっきり本心が無かったという訳ではないだろうが。ベアトリーチェはそういった心の隙に介入するのが得意な人物であることに疑いは無かった。

    「それと、一回だけ、私の知らない人のことがいるような話をした子がいて……その子は『マダム』って言ってた。すぐに他の子に止められちゃってたけど。マダムって普通大人に使う言葉でしょ?」
    「ええ、そうですね。その『マダム』こそが、本件の黒幕でしょう。その人物がいる限り、話し合いの場を設けるのは悪手となりかねないでしょう。作戦失敗を悟った相手が、洗脳している生徒たちに何をしでかすのか分かったものではありません。相手は暴力的支配と洗脳を躊躇なく使用することが出来る相手です。」

    私の発言に、私の意図を理解していただろう百合園セイア以外の3人が青ざめる。慎重に事を進めなければならないことの重要性が分かっただろう。

  • 110対ベアトリーチェ作戦会議25/11/09(日) 22:49:15

    「ミカさん、危険を承知で、アリウスの生徒たちとの計画を続行できませんか? もちろん、自らの安全を最優先とするのは大前提ですが。」
    桐藤ナギサと聖園ミカ、双方との連携が可能という前提で、以前から考えていた方法を話す。

    「怪しまれないように、ってことだよね……アリウスの子達を騙すのはちょっと気が引けるけど、先生の話だと、それがアリウスの子達を守ることにも、繋がるんだよね?」
    聖園ミカが私に同意を求めるように見つめる。私が頷くと、それに返すように小さくうなずいた。

    「そして、これは可能であれば、と言う話で無理に、という訳ではないのですが、トリニティへの襲撃を行う人物について、その子達を保護するという想定で調整できませんか?」
    「……どういうことかな?」

    「先ほど『マダム』と言ってしまっていた生徒や、洗脳があまりかかっておらず、アリウスの外に憧れがありそうな人物がもしいれば。他には体調不良が著しく、一刻も早く保護しなければならない生徒がもしいれば、そのような人を連れていく、と言う事です。」
    「……成程。少し、難しいかもしれないけど、やれるだけやってみるね。」
    聖園ミカには何か心当たりがあるらしい。それについても同意してくれた。

  • 111対ベアトリーチェ作戦会議25/11/09(日) 22:50:37

    「ナギサさんや、セイアさん、ミネさんはどうですか? この方法に反対であれば、遠慮なくおっしゃってください。ここで何かを抱えるようなことがあっては、今度こそいいようにされてしまうかもしれませんから」

    「私は概ね先生と同意見だ。異論は無いよ。」
    百合園セイアがまず、同意する。

    「……アリウスの方たちの安全も考慮していただいて、ありがとうございます。私は、一人でも多くの方を救護できる道に従うだけですから」
    続いて、蒼森ミネも話の内容を噛み砕いて考えたうえで、賛成の意志を見せる。

    「そうですね……シスターフッドや、他の派閥への根回しを迅速に、かつ秘密裏に行う必要があるでしょうが、何とかしてみます。ミカさんは安心してクーデターを起こしてください。」
    桐藤ナギサは最後に、済ました顔でそう言った。

    対アリウス、いや、対ベアトリーチェ作戦の最初の計画はこうして決定された。

  • 112二次元好きの匿名さん25/11/09(日) 22:53:48

    本日はここまで
    9人はちょっと書くのがたいへん

    今回は入りませんでしたが、セイアとミカの仲直りや、ミカとゲヘナの話は今後書く予定あります

  • 113二次元好きの匿名さん25/11/10(月) 00:16:54

    お疲れ様です

    なかなか見ない展開で楽しみです

  • 114二次元好きの匿名さん25/11/10(月) 07:37:13

    あさほー

  • 115二次元好きの匿名さん25/11/10(月) 07:38:17

    > 普通にミカさんがセイアさんに襲い掛かってやりすぎて殺しかけてしまった、位を想像していたのですが……

    意図してするのはともかく過失致死ならやらかすと確信されてるの草

  • 116二次元好きの匿名さん25/11/10(月) 08:07:20

    安心してクーデターを起こせとは、なかなかのパワーワードww

  • 117二次元好きの匿名さん25/11/10(月) 15:04:34

    ほー

  • 118二次元好きの匿名さん25/11/10(月) 20:21:08

    しー

  • 119書いてる人25/11/10(月) 20:53:12

    すみません。月末でもないのに仕事がやたら長引いており更新できなそうです…

    それと一つ聞きたいのですが、今やってるエデン前半が終わった後の展開ですが、ちょっと寄り道してもいいですか?
    内容としては投げっぱなしになってる部分をちょっと回収したりとかって感じです

  • 120二次元好きの匿名さん25/11/10(月) 20:57:26

    こちらとしては、書きたいように書いていただくのが一番なので
    風邪も流行っているのでお身体に気をつけてくださいね

  • 121二次元好きの匿名さん25/11/10(月) 22:42:45

    お疲れ様です

  • 122二次元好きの匿名さん25/11/11(火) 06:20:45

    朝ほー

  • 123二次元好きの匿名さん25/11/11(火) 12:38:04

    念のための昼保守

  • 124二次元好きの匿名さん25/11/11(火) 21:40:18

    ほー

  • 125ヒフミとコハルと曲直瀬リリ25/11/12(水) 00:43:11

    聖園ミカ、桐藤ナギサとの話し合いが終わり、以後は交代で聞きたい事を聞いたり、話したいことを話すという流れとなった。

    2人と入れ替わりに入ってきたのは、下江コハルと阿慈谷ヒフミが入ってきた。
    蒼森ミネには何かあったら連絡すると伝え、ティーパーティー2人の案内を行ってもらうことにした。
    浦和ハナコと白洲アズサでは危険であるという共通認識がそこには存在していた。

    「さて……改めて、正体を隠していた事、申し訳なかったね。ヒフミ、コハル」
    百合園セイアが2人への謝罪を繰り返したところから会話が始まった。

    「いえ、せ、セイア様にも色々御事情があったのでしょうし、謝罪なんて、とんでもありません」
    「は、はい。それより、知らなかったとはいえ、私セイア様に色々失礼なこと……」
    阿慈谷ヒフミと下江コハルは恐縮しきっている。百合園セイアはその様子に少し寂しそうだ。

    「いや……親しみを持って話しかけてくれていたことは分かっているよ。ナギサやミカ以外からは、余りフランクに接してもらえる機会が無かったから、むしろ嬉しかったと言っても良い」
    言い方が謙遜しているようにも聞こえるが、恐らく本心だろう。以前私に本心が伝わりにくいと言っていたが、人のことを言えたものではない。

  • 126ヒフミとコハルと曲直瀬リリ25/11/12(水) 00:44:29

    「聞きたいことは色々とあると思うが、まずは、何故補習授業部に名前を偽って入ってきたか、と言うことを話そうか。何故補習授業部が出来たのか、と言うことに関してはナギサに聞いてくれたまえ」
    百合園セイアの言葉に、二人は黙ってうなずく。

    「そもそも、私が今、対外的には入院していることになっているという話は知っているかな?」
    「は、はい。以前ナギサ様からお聞きしたことがあります」
    「わ、私は……知りませんでした」

    正義実現委員会に所属していたとはいえ、一般生徒だとそのような認識なのはおかしくは無い。学校が巨大で、顔であるホストの桐藤ナギサであれば別だろうが、
    元々あまり表に立つことのない百合園セイアの、現在の状況など知る由もない、と言うケースは多いだろう。

    「実は、そのようなことになっていてね。それは一般生徒でも少し調べようとすれば分かるくらいのレベルで周知されていたかな。しかし、それは私が不在であることを隠すための嘘だった、という訳だ」

    「どうして、そんなことを?」
    「身を隠すため、だね。まあ上層部で少し複雑な事情はあるんだが、概ねそういうことだ。命を狙われた私は身を隠していて、その事実を一般生徒や外部の人間には知られないように『入院している』というカバーストーリーを敷いた、という訳さ。」

    一部不正確だが、嘘ではない内容を百合園セイアは話す。

  • 127ヒフミとコハルと曲直瀬リリ25/11/12(水) 00:45:34

    「な、なるほど……そんなことがあったんですね。怖い話ですね」
    「あれ?……じゃあ、補習授業部はそのために作られたってことですか? 成績がまずい生徒たちが集められたっていうのも嘘?」

    阿慈谷ヒフミが身を震わせ、下江コハルがポジティブな思い付きをした。

    「いや、残念ながら、補習授業部が出来たことに関しては私は関わっていないのだよ。私はただ、先生の傍にいたいという要望を出していて、補習授業部の一員として、合宿に参加しろ、というのがその答えだった、というところだね。この連絡自体も大変だった。」

    状況的に通信端末を使うことはできないだろう、蒼森ミネが協力したのだろうが。現在は曲直瀬リリとしての通信端末を利用しているが、それの準備を含めて、桐藤ナギサと蒼森ミネは相当苦心したことだろう。

    「先生の傍にいたいって……も、もしかしてそういうお話ですか?」
    阿慈谷ヒフミが何か勘違いし、顔を赤くしている。

    「あ、あんた……生徒に、……っていうかセイア様に手を出したの!? 最低!!」
    そして下江コハルは阿慈谷ヒフミのそれを数段具体的にしたものを想像したらしく、私を糾弾するがとんだ言いがかりだ。

    「お二人が想像しているような関係ではありません。セイアさん、紛らわしいことを言うのはやめてください。」
    「表現がお気に召さなかったかい? 嘘は言ったつもりはないが、まあそうだね。別に先生と深い仲という訳ではない。ただ、先生が何をしでかすのかを近くで見ていたと思っただけだよ」

    百合園セイアの補足に、二人は曖昧にうなずいた。一応、納得はしたようだ。

  • 128ヒフミとコハルと曲直瀬リリ25/11/12(水) 00:46:59

    「さて。これで私からの話は以上だが、何か聞きたいことはあるかい?」
    そう尋ねられた2人は顔を見合わせる。そして、阿慈谷ヒフミがおずおずと質問をした。

    「あの、セイア様、はこの後どうするんですか? やっぱり、補習授業部は辞められんでしょうか?」
    「あ……」

    阿慈谷ヒフミの質問に、その可能性に気付いた下江コハルがショックを受けている。

    「ふむ……そうだね。急なことだから、考えていなかったな。……しかし、曲直瀬リリが補習授業部の一員だというのは変わらないからね。騙しておいて虫の良い話だがもし君たちが良いと言ってくれるなら……もちろんアズサやハナコにも同意が得られたらだが……これからも、補習授業部として一緒にやっていけたらと思っているよ。」
    百合園セイアは、すこし不安そうに2人にそう告げた。

    「本当ですか!? 嬉しいです! ね、コハルちゃん?」
    「う、うん! 良かった……」
    そんな彼女の不安をよそに、阿慈谷ヒフミと下江コハルは、嬉しそうに返事をした。

  • 129ヒフミとコハルと曲直瀬リリ25/11/12(水) 00:48:02

    「ありがとう、二人がそう言ってくれて嬉しいよ。後の二人にも確認しなくてはね」

    「ハナコもアズサも、きっと大丈夫です!」

    下江コハルが無責任に保証するが、恐らく問題は無いだろう。


    「そう言ってくれて嬉しいよ。……もう一つ、我儘を言っていいかい?」

    「はい! 何ですか?」

    「私が曲直瀬リリでいる間は……今まで通り、曲直瀬リリとして扱ってくれたら嬉しい」

    「はい! ……>」

    百合園セイアのその言葉に、即答した下江コハルが、困惑の表情を浮かべる。言っている意味が分からないのだろう。


    「つまり、セイアさんは今まで通り敬語なしでフランクに接してほしい、と言いたいのでしょう。後輩や、同級生に対して振舞うように。なかなか自分の正体を言い出せなかったのも、それが珍しくて、うれしかったのが一因でしょうからね」

    仕方なく、本当に仕方なく私が補足する。百合園セイアが抗議するような視線を送ってくるが、知ったことではない。


    そして、その言葉を聞いた2人は、


    「うん、分かった! リリ、これからもよろしくね!」

    「そうですね、リリちゃん! 残り一週間ですが、一緒に頑張りましょう」

    と、笑顔でそう言った。

  • 130二次元好きの匿名さん25/11/12(水) 00:50:08

    本日はここまで
    思ったより話が進まなかったですね…

  • 131二次元好きの匿名さん25/11/12(水) 06:17:06

    事件の渦中の人物とはいえ中心からは遠い二人ですからね
    けど補習授業部との間に生まれた絆を大切にする選択をセイアができたのは結構大きな意味を持つんじゃないかな

  • 132二次元好きの匿名さん25/11/12(水) 13:17:59

    助手

  • 133二次元好きの匿名さん25/11/12(水) 19:55:23

    ほー

  • 134二次元好きの匿名さん25/11/12(水) 22:14:36

    しー

  • 135二次元好きの匿名さん25/11/13(木) 00:30:35

    ゅー

  • 136アズサとナギサ25/11/13(木) 01:01:14

    下江コハルと阿慈谷ヒフミの後は、順番的には残りの二人、浦和ハナコと白洲アズサが訪れる予定だったが、
    実際に医務室に入ってきたのは浦和ハナコだけであった。

    「先生、アズサちゃんが先生にお話があるそうなので、行ってあげてくれませんか?」
    浦和ハナコにそう言われ、了承し、4人を残して医務室の外に出る。

    白洲アズサはそこにいた。

    「アズサさん、私に話があると聞きましたが…」
    「あ、先生……ありがとう。えっと、先生に話があるというよりは……ミカと、桐藤ナギサと話ができないかと思って」

    本来の用件は私ではなく、突然現れたゲストの方だったらしい。目的は……

    「それは、ナギサさんに素性を明かす、ということですか?」
    「……うん。ミカがセイアにお見舞いに来た、ということは、事態がすごく大きく変わったってことだと思う。だから、私も前に進まないといけない。その変化に意味があるかは分からないけれど……」
    白洲アズサは覚悟を決めた瞳で、私にそう述べた。であれば、それを見届けるべきだろう。

    「分かりました、では一緒に行きましょうか。」

    私はそう言って、白洲アズサを連れて、ティーパーティーの2人が待機しているはずの食堂へと向かった。

  • 137アズサとナギサ25/11/13(木) 01:02:54

    食堂につくと、案の定桐藤ナギサと聖園ミカ、蒼森ミネは紅茶を飲みながら会話をしているようだった。
    「すみません、ナギサさん、少しお時間を……すみません、出直しましょう」

    よく見ると、聖園ミカが泣いている様子だったので、とりあえず見なかったことにしようとしたが、その彼女が慌てて涙を拭き、返事をする。

    「あ、だ、大丈夫だよ。こっちは丁度話が終わったところだし。アズサちゃん? ってことは、そう言う話かな」
    「ええ、恐らく」
    「じゃあ、私とミネ団長はいない方がよかったりする?」
    聖園ミカの質問に、後ろにいる白洲アズサの方を見る。彼女は首を振って、
    「ううん。ミカと、ミネ団長にも聞いてほしい」

    と言った。事情を理解していない桐藤ナギサは黙ったまま白洲アズサの方を見ており、事情を知らない蒼森ミネは首を傾げた。

  • 138アズサとナギサ25/11/13(木) 01:04:01

    「こんにちは、アズサさん。私に話ということですが、こうして直接お話をするのは初めてですね」
    私と白洲アズサにも紅茶が追加で支給され、トリニティ流の聞く体勢が整った。

    「うん、そうだな。話を聞くことはあったが、話をするのは初めてだ。それで……話というのは……私がアリウスから潜入してきたスパイだということなんだ」
    白洲アズサの告白を聞き、桐藤ナギサは紅茶を一口飲んだ。

    「……ミカさんの話で妙に歯切れが悪いところがあると思えば、そういうことですか」
    そして、驚いた様子も見せず、そう言った。

    「知っていたの?」
    「……ミカさんが関わっていることが分かれば、おのずと他のことも見えてくるものです。アズサさんがアリウスから来られたことは知りませんでしたが、貴女をこの学校に引き入れたのがミカさんであれば、経歴が一切不明な生徒が転校してきた経緯もうかがい知れます。」

    桐藤ナギサが落ち着いて続ける。

  • 139アズサとナギサ25/11/13(木) 01:05:54

    「アズサさんが、そのことを私に話してくださったのは、ただ真実を明かしに来た、というわけではないのでしょう? そのこともお話しいただけますか?」
    余りにもあっさりと受け入れる桐藤ナギサに白洲アズサは目を見開いたが、言われた通りに話を続ける。

    「う、うん。……今、アリウスでは、セイアの襲撃に成功したことになっていて、そして次は、ミカを煽動して貴女を襲撃する計画になっていた。でも、それを成功させるわけにはいかない。だから、協力してほしい、と言いに来たんだ。ただ、ミカがここにいるってことは、私がわざわざ言う必要は無かった?」

    「そんなことはありませんよ。アズサさんから直接言っていただけて、とても嬉しいです。2重スパイのような状態は、きっと精神的に大変だったでしょう。」
    桐藤ナギサはそう言って微笑んだ。

    「それはそれとして、アズサさんにはお聞きしたいことがあります。もし私たちを信頼して、協力してくれるのであれば……」
    そしてそう続けた彼女に、白洲アズサは少し身構える。

    「アリウスの様子について、教えていただけませんか?」
    「アリウスの……? どういうことだ?」
    聞かれたことの意味が咄嗟には理解できなかったようで、白洲アズサは疑問を口にする。

    「何でも構いません。普段の様子や、食べ物はちゃんと食べれているのか、とか。それと、できれば『マダム』と呼ばれる存在についても、可能な範囲で結構ですので、言っていただければ。」
    「なるほど、そういうことか。うん、私の知っていることでよければ、話そう。アリウスのことも、『マダム』……ベアトリーチェという大人についても。」
    そう言って、白洲アズサが話始めた内容は、桐藤ナギサどころか、聖園ミカや蒼森ミネにとっても衝撃の内容となったようだ。しかし、これで彼女たちも知ることになったのは良いことだろう、我々の敵が、どういう存在であるかということを。

  • 140二次元好きの匿名さん25/11/13(木) 01:06:59

    本日はここまで

    オラトリオを読んで今後の展開について悩んでいたので短いです。

    後単純に最近仕事が忙しくてやになりますね

  • 141二次元好きの匿名さん25/11/13(木) 07:31:08

    お疲れ様です。

  • 142二次元好きの匿名さん25/11/13(木) 07:35:53

    おお

  • 143二次元好きの匿名さん25/11/13(木) 14:02:57

    ほしゅ

  • 144二次元好きの匿名さん25/11/13(木) 21:53:12

    よるほー

  • 145決戦前夜25/11/14(金) 00:11:16

    「では、皆さん。私が言うのもなんですが、最後の追試験、頑張ってくださいね」

    一通りの話し合いが終わり、あらゆる用件を飛ばしてこちらに来ていた桐藤ナギサは最後にそう言い残して帰っていった。聖園ミカを連れ立って。
    1週間後に迫る襲撃の日までに、トリニティ側で対策を敵に悟らないように対策を取る必要があるため、さらに多忙になることは明らかだが、
    白洲アズサの話を聞き、桐藤ナギサのモチベーションはかなり高くなっているようだった。

    阿慈谷ヒフミは、途中で桐藤ナギサとしっかり話す機会を得られたようで、改めて補習授業部が生まれた理由と、現在の目的を聞いたようだ。
    「複雑な気持ちはありますけど、そもそもテストはきちんと受けるべきだったのは私の方ですから。ナギサ様が尊敬する先輩で大事なお友達であることは、変わりません」と言っていた。
    しかし、どうせこの生徒は同じ状況に立たされた時、テストを選ぶことは無いのだろう。せめて受けられない言い訳を立てる位は出来るようになってほしいところだ。

    そして、他にも関係性の改善、つまり『仲直り』を行っていた組み合わせがある。
    その場面には、私も偶然居合わせていた。桐藤ナギサが帰ることを私と聖園ミカが伝えに来た時だ。今思えば直接現れなかったのは桐藤ナギサが気を遣った可能性もある。

  • 146決戦前夜25/11/14(金) 00:12:56

    「あ、先生。セイアちゃん、ナギちゃんがもう帰らなきゃいけないみたいだから、私も一緒に帰るね。ナギちゃんが一人で歩いて帰ると何が起こるかわからないから」
    医務室に入ってきた聖園ミカは、医務室に入ってきてそう言った。

    「……ああ、そうだね。ナギサのことを頼むよ、ミカ」
    百合園セイアはそう返事をした。少し緊張しているような様子もあった。

    「う、うん。じゃあね、セイアちゃん……また」
    一方の聖園ミカは、誰もが分かるほどにぎこちない様子だった。先ほど桐藤ナギサや蒼森ミネを含めて話をしているときはそのような様子ではなかったが、
    それらの心の拠り所がいない状態だとまだ落ち着かないようだ。

    「……ミカ、ちょっと良いかい?」
    ぎこちなく部屋から出ようとしていた聖園ミカを百合園セイアが呼び止める。

  • 147決戦前夜25/11/14(金) 00:14:21

    振り返り「何?」と聞いた聖園ミカを手招きして呼び寄せている。
    「ど、どうしたの? あ、寂しくなっちゃった? ……あはは、なんて……」
    聖園ミカはそれを拒否することは無く、医務室のベッドまで近づいてきた。百合園セイアはそんな所在なさげな彼女をじっと見上げ、想いを伝えるように話し始める。
    「それもある。でも、どうしても伝えなくてはいけないことがあるんだ。」
    「な、何かな」
    「……この前は、お互いにどちらが悪いとか許す、許さないとかの話をしただろう? でも、そんなことを話したかったわけじゃなかったんだ。」
    「え?」

    聖園ミカがようやく、百合園セイアの顔を見た。

    「私はただ、ミカと仲直りがしたかっただけなんだ。君が君自身のことを許せなかったとしても、私のことをどう思っていたとしても、私はただ、君と……ミカと、もう一度、友としてやり直したいと思っている。それを伝えたかったんだ。」
    そう言って、百合園セイアは握手を求めるように手を伸ばす。聖園ミカは、恐る恐るその手を両手で取り、
    「……良いの?」
    と、震える声で返事をした。

    その後2人が何を話したかはわからない。私も『桐藤ナギサへの挨拶を済ませるため』医務室を離れたためだ。
    桐藤ナギサへの挨拶や、今後のことについて改めて確認をしていること暫く、現れた聖園ミカはやたらとテンションが高く、そして目を真っ赤にさせていた。

  • 148決戦前夜25/11/14(金) 00:16:18

    全てが明かされても、補習授業部の合宿は続いていた。
    結果的に様々な部分で結束を固め、そしてやる気も高まった補習授業部の部員たちは、残りの1週間を勉強と体調管理に努めながら、交流を深めていった。
    特に既に全員がその正体を知っている曲直瀬リリは今まで以上に他の部員たちとの交流することに積極的だった。悔いが残らないようにするためか、あるいは、単純に質と効率の良い睡眠がとれるようになったことで、体調にかなりの改善が見られたことが理由かもしれない。

    そして、瞬く間に最後の追試験の前夜となった。

    「いよいよですね。皆さん」

    毎日使用していた教室で、阿慈谷ヒフミが教壇で話す。試験開始は翌朝9時から、トリニティ本館でお壊れる予定だが、その前に大立ち回りがあるため、作戦は深夜から開始することとなっている。
    そろそろ移動を開始する時間だ。

    既に補習授業部全員の間で作戦の共有はされているが、結局、非戦闘員で多くが構成されているこの部活動に大切なのは2つだった。

    「何度も言っていますが大切なことは2つです! コハルちゃん、何だったか覚えていますか?」
    阿慈谷ヒフミに問われた下江コハルが即答する。

    「怪我をしないこと。落ち着いて試験に臨むこと、でしょ。あんまり何回も繰り返すと逆に緊張しちゃうわよ」
    「ほぐしてあげましょうか? コハルちゃん♡」
    「いきなりエッチなこと言うな! 死刑!」
    「まだ言っていないんですが……」
    下江コハルと浦和ハナコは完全にいつも通りだ。緊張と言う意味では全く問題ないだろう。落ち着きという意味ではやや不安が残るが。

  • 149決戦前夜25/11/14(金) 00:17:20

    「特に、アズサちゃん。私たちの中で、最も危険な立場なので、本当に気を付けてください。」
    阿慈谷ヒフミももう慣れたもので、2人のことは放置して白洲アズサに話しかける。

    「その通りです。アズサさん。計画通り、よりも身の安全を、ということを肝に銘じてください。勿論、分かっておられるとは思いますが。」
    念のため、私からも改めて注意をしておく。二重スパイという立場を任せてしまっている以上、常に危険が伴っているのが彼女だ。

    「分かってる。それに、入念な準備を行ってきた。勿論私だけじゃない、私も思いつかないような準備や根回しを、先生が色々とやっていたことも知ってる」
    白洲アズサは笑顔でそう言う。緊張は見られない。

    入念な準備と、最小限の武力行使で完全な勝利を収める。それが、私がこの作戦において自身に課した必達目標だった。
    完全な勝利とは、彼女たちが誰一人怪我をすることなく、追試験に合格することを指す。

    「そうですか。では、大丈夫でしょう。私は皆さんを信じています。クックック、では、作戦開始です。」
    「その笑い方、完全にこちらが悪役に立った気分だね。まあ、偶にはそれも良いだろう、ふふっ。」
    「人の事言えますか?」

    百合園セイアによる余計な茶々が入った私の合図で、補習授業部の最後の作戦が始まった。

  • 150二次元好きの匿名さん25/11/14(金) 00:20:31

    本日はここまで

    次からエデン前半のクライマックスの部分に当たります
    あくまで、クライマックスの部分というだけですが

  • 151二次元好きの匿名さん25/11/14(金) 07:38:56

    保守

  • 152二次元好きの匿名さん25/11/14(金) 08:27:36

    セイアと黒服が楽しそうでなにより

  • 153二次元好きの匿名さん25/11/14(金) 14:44:16

    ほー

  • 154二次元好きの匿名さん25/11/14(金) 22:10:04

    ほー

  • 155約束された結末25/11/15(土) 02:38:00

    作戦は順調に進んでいた。

    それもそのはずだ、敵の情報戦略において、最も重要、どころかそれ以外存在しないと言える2人のキーパーソン、白洲アズサと聖園ミカが二人とも裏切っている
    と言う状況は奇襲作戦を実行するうえであまりにも致命的である。

    直前までのアリウス側の部隊数や作戦参加人数、そして戦局を変える程のプレイヤーが存在するかどうかというところまで、すべての情報をこちら側は握っていた。

    一方で、こちらにも縛りは存在する。それは、「勝ちすぎてはいけない」という点だ。今回はあくまで防衛戦である。最終目標であるベアトリーチェにたどり着くことが出来るようになるまでは、彼女には『計画通りに進んでいる』と誤認させていなくてはならない。
    そして、そのためには、特に聖園ミカが裏切っているという状態はギリギリまで隠し通しておく必要がある。少なくとも裏切りを知る者を全員確保できる状況になるまでは明かさないことが前提の作戦を組むこととなった。

  • 156約束された結末25/11/15(土) 02:39:08

    結果として

    『目標を確保した』
    白洲アズサからアリウスの襲撃メンバーへと連絡する通信がシッテムの箱から聞こえてくる。
    これにより相手方の状況はこちらに殆ど筒抜けであった。
    正義実現委員会は動けないという「設定」であり、聖園ミカは相手の作戦で後詰めとなっているため、実行部隊になっていた白洲アズサが主だった動きをすることとなった。

    この期間で、シャーレ経由でミレニアムの支援のもと、作戦ルートとなる予定地に隠蔽された監視カメラが多数設置され、その状況はシッテムの箱のサポートAIによってまとめられ、白洲アズサへとリアルタイムで状況提供を行っていた。なお、この設備はティーパーティーがそのまま購入して利用することが検討されている。
    しかし、この先のアリウスの部隊とアリウスとの合流地点以降は、逃走しつつ今我々の待ち構えているこの体育館まで誘導する運びとなっているため、こちらの情報を確認することも難しくなるだろう。かなり危険な作戦となるため、補習授業部の他の部員たちも難色を示していたが、当の本人はかなりの自信を見せていた。
    最悪の場合でも、作戦を切り替えて正義実現委員会や、最終手段として聖園ミカを自発的に動かす方法も取ったうえで、彼女のお手並みを拝見させてもらうことになった。

  • 157約束された結末25/11/15(土) 02:40:31

    「『スパイ』です、『スパイ』が裏切りました!」
    という音声が流れてから、銃声とトラップの作動音、そして偶に会話する声がシッテムの箱から流れてくる。
    現在地情報を確認すると、想定ルートで彼女が誘導できていることが理解できた。

    「す、すごいですねアズサちゃん。たくさんの子達相手なのに」
    阿慈谷ヒフミがその様子と、状況の解説をしていた私の言葉を聞き、感嘆する。
    元の出会いが正義実現委員会相手に長時間戦い抜いた末の交流だったこと思えば、この実力は理解できた。

    「先生、私はそろそろ、アズサちゃんを迎えに行ってきます」
    浦和ハナコがそう言って外に出ていく、今の通信を聞いてなお、心配が勝っているのだろう。それも理解できないことではなかった。

    それからほどなくして、シッテムの箱からではなく、実際の建物の外へ銃声や足音が聞こえるようになってきた。
    「そろそろですね。ヒフミさん、コハルさん、正念場です。戦闘準備を」

    私の言葉に頷いた二人が戦闘準備を終え立て待ち構える。シッテムの箱からは、外での会話の様子が未だにはっきりと聞こえてきている。
    「スクワッド」は来ない。つまり、戦局を変える程の敵はもう現れないことも分かった。

    それからすぐに、体育館の扉が開き、白洲アズサと浦和ハナコ、そしてアリウスの突入部隊が入ってきた。

  • 158約束された結末25/11/15(土) 02:41:33

    「成程、逃げたのではなく、待ち伏せだったか。だが、たった4人でどれだけ耐えられると思っている?」
    アリウスの指揮官と思われる生徒がそう言う。

    「耐える? 何を言っている、これは殲滅戦だ。それに、私たちは4人じゃない。そうだろう? 先生」
    『ええ、その通りです。初めまして、アリウスの皆さん。梓さんのいう通り、補習授業部の部員は5名いますし、この場にはサポートする私もいます。アズサさん一人に翻弄されていたあなた達には荷が重い。今すぐ投降することをお勧めしますよ』
    傍受にのみ使用していた無線通信を乗っ取って、アリウスの生徒たちを挑発する。
    非戦闘員たる私と流石に先頭するわけにはいかない百合園セイアは、体育館奥にある小部屋からの支援を行うことになっていた。

    「ちっ……『シャーレの先生』か。関係ない、もう一人の生徒は病弱な非戦闘員だと聞いている。そんなのが一人二人増えたところで何になる。総員、戦闘開始」
    裏切った『スパイ』から齎された情報をいつまで信じているのだろうか。やはり今回の作戦に選ばれたメンバーは、そこまで有能な生徒たちではないのかもしれない。
    私は戦闘支援プログラムで指揮を始めながら、そう考えた。

  • 159約束された結末25/11/15(土) 02:42:33

    戦闘は問題なく終了した。今この場にいるアリウスの生徒たち全員が戦闘不能になったことを確認する。

    そしてシッテムの箱は、すぐに新たな敵部隊が接近していることを知らせる警告が鳴っていた。

    「ぞ、増援がもう現れたんですか!?」
    「どういうこと!? 正義実現委員会はどうして動かないのよっ」

    阿慈谷ヒフミと下江コハルが叫ぶ。実際に敵が現れる直前に言い始めてしまったので、ややタイミングがおかしかった気がするが。

    そして、大勢のアリウス生達が体育館内に押し寄せ、その最後に聖園ミカが現れる。彼女は自然に入ってきた扉を閉め、最前列まで歩いてくる。

    「正義実現委員会なら、来ないよ。事前に邪魔になりそうなものは片づけておいたから」
    聖園ミカは威圧感すら与える笑顔でそう言う。しかし、最前列に出た後で、どうやって見つけたのかカメラ目線でウィンクをした。

    「『ティーパーティー』のひとり……聖園、ミカさん……」
    そして、浦和ハナコは圧倒的であった。圧倒的な演技力。やや芝居がかった聖園ミカも迫真のものではあったが、彼女のものは知っていても到底演技とは思えない程真に迫った様子だった。
    その時、私のすぐそばで待機していた生徒が一人、倉庫の外へと動き出す。ややタイミングが早い気がするが、止めるタイミングを逃してしまった。

  • 160約束された結末25/11/15(土) 02:44:41

    体育館内では迫真の舞台が続いていたが、そこに、一人の乱入者が現れた。、
    「まあ、ここにいる全員を消し飛ばして……あれ?」
    聖園ミカが現れた人物に気付き言葉を止める。
    「久しぶりにこの服を着ましたが、どうやら、救護が必要な方がたくさんいらっしゃるようです。まずはミカ様……貴女です!!」
    そう言った救護騎士団団長、蒼森ミネは瞬時に聖園ミカに襲い掛かり、

    「え、ちょっ、聞いてな」
    「救護!!」
    「うぐぅ」
    聖園ミカは一撃で倒れ伏した。

    「……は?」
    最も聖園ミカに近い位置にいたアリウス生が呆然と口を開く。恐らく聖園ミカの実力はある程度知っていたのだろう。
    目の前の状況を全く理解できていない様子だった。

    「ふむ……少し手順を間違ったかもしれませんね。……しかし、救護が必要な方が多くいらっしゃるのは事実のようなので、ここからは速やかにさせていただきます」
    蒼森ミネが改めてそう宣言する。

    「た、退却! 退却だ!!」
    誰かがそう叫んだが、それは既に機を逸しており、すぐに一方的な蹂躙劇が始まってしまった。

  • 161約束された結末25/11/15(土) 02:46:10

    聖園ミカが体育館の扉を閉めて入ってきたことにより、いつの間にか退路が断たれていたアリウスの生徒たちは逃げることもできず次々と倒されていく。
    どうにか応戦をしようと試みる者もいたが、多くは蒼森ミネに一撃で昏倒させられ、その他の者たちも慌てて援護に回った補習授業部の生徒たちによって戦闘不能にさせられる。

    「ふむ……やはりこうなってしまったか」
    百合園セイアはその光景を私の隣で眺めながらそう呟いた。


    動きがあったのは体育館内部だけではなかった。包囲していた体育館外でもまた、アリウスの生徒たちへの攻撃が行われていた。
    主力はシスターフッドと、そしてそれに扮した格好をした正義実現委員会の実力者達。
    瞬く間に館内と屋外、双方で敵の残存兵力が減っていくことが確認できる。
    作戦は、ほとんど終了したと言っても良かった。

  • 162約束された結末25/11/15(土) 02:47:11

    そして真の殲滅戦と化した体育館内で立っているアリウス生が一人もいなくなったころ、
    「いったぁぁ…… もうちょっと手心加えてくれても良かったんじゃない? タイミングも変だったし……」

    殴られた個所をさすり文句を言いながら、聖園ミカが起き上がる。

    「やあ、お疲れミカ。災難だったね」
    そして、いつの間にかその聖園ミカに近づいていた百合園セイアの姿を見て、

    「ははっ、私たちは一体どの時点で負けていたんだ?」
    何とか意識を保ったまま拘束されていたアリウスの生徒の一人は、状況を理解して乾いた笑みを漏らした。

  • 163二次元好きの匿名さん25/11/15(土) 02:50:30

    本日はここまで

    散々天秤を傾けまくってたので、そりゃこうなってしまいますよね、という話です。
    あっさり終わってしまいました

    後は後片付けとエピローグをやってエデン前半は終了となります

  • 164二次元好きの匿名さん25/11/15(土) 07:21:55

    なんか…途中からUnwelcome SchoolかOST233流れてない?

  • 165二次元好きの匿名さん25/11/15(土) 10:18:26

    アズサ 味方→敵
    ミカ 味方→即負け→敵
    ミネ 行方不明→何故かいる
    セイア 死亡→普通に生きてる

    そらこんだけ想定外が起き続けたら笑うしかない

  • 166二次元好きの匿名さん25/11/15(土) 15:55:58

    保守

  • 167エピローグ 補習授業部25/11/15(土) 21:43:57

    アリウスの襲撃を一人も大きな怪我をすることなく終結させた後は、当初の予定通り、補習授業部の生徒たちは最後の追試験を受けた。

    結果は以下の通りだ。

    下江コハル 91点 合格
    白洲アズサ 94点 合格
    浦和ハナコ 100点 合格
    曲直瀬リリ 100点 合格
    阿慈谷ヒフミ 97点 合格


    これにより、補習授業部の生徒たちは無事、退学の危機を乗り越えたことになる。

  • 168エピローグ 補習授業部25/11/15(土) 21:46:54

    これに関しては最近の試験の様子から考えると当然の結果ではあるので、それ以外のことについての顛末について思い出す。

    アリウスの多くの生徒たちはトリニティ内で保護、という形で拘留されることとなった。通常の学校が相手であればその学校と扱いについて協議するだろうし、
    生徒以外、あるいは学籍の無い者が相手であれば連邦生徒会矯正局送りにするのが筋だろう。しかし、今回の襲撃の実行犯たちは、非常に扱いに困る集団であり、交渉相手もいない。
    表面上何も無かった事として、アリウスとの交渉が可能になるまでは『保護』を続ける、という形になった。
    実際のところ、彼女たちの殆どは慢性的な栄養失調状態にあり、何らかの心的外傷を抱えている者も数多くいた。特に、最も状態の悪かった生徒は、今すぐ適切な治療を受けないと生命の危機に関わる状態だったという。
    そして、それらの生徒や、何らかの理由から直接的な暴力の被害に多く外傷が見られた生徒を、聖園ミカは突入部隊に紛れさせていた。以前に『可能であれば』と話していたことも、彼女は達成して見せた、ということだ。
    そうやって紛れ込んでいた生徒の内、一人とは回復後、面会をすることになっている。聖園ミカに恩を感じており、アリウス内部がどういう状態になっているのか話したい、ということのようだ。

  • 169エピローグ 補習授業部25/11/15(土) 21:48:09

    その聖園ミカの処遇だが、真相を知っているのが補習授業部の生徒たちと生徒会長たち、そして救護騎士団の蒼森ミネ団長のみであり、
    蒼森ミネも同意したため、大きな処分を下さないこととなった。但し、今回の防衛に協力したシスターフッドと正義実現委員会のトップ、即ち歌住サクラコと剣先ツルギの2名には内容が伝えられることとなった。この2人にも、近いうちに一度会っておく必要があるだろう。
    この結論に最も不満がありそうだったのが聖園ミカ本人であることは言うまでもないことだろう。
     アリウスの襲撃についての事実を知っているその他の生徒たちに対しては、事件の後半部分、つまり『聖園ミカが2重スパイとしてアリウスに潜入し、トリニティを危機から守った』という内容が伝えられ、ティーパーティー内部や正義実現委員会の中の聖園ミカ派閥(それはパテル分派に限らず)は寧ろ拡大したとさえいえるようだ。
     とはいえ、完全にお咎め無しとなったわけではない。そこに至る経緯で数々の校則違反を行っていたことは事実であり、これに対して「校内での奉仕活動」を行うという罰が与えられた。なお、これについては蒼森ミネが無断欠席を繰り返した自分も同様に罰せられるべきと主張し、生徒会長と救護騎士団長という2つの派閥のトップが同時に罰せられるという珍事となった。
     また、対外的には聖園ミカと蒼森ミネが処罰されたことが報じられたのみで、その内容については公開しないこととなった。エデン条約前の微妙な時期における配慮、ということだろう。


    百合園セイアは入院しているということになっていた状態から、復学することが正式に決まった。体調面について大幅な改善が見られたことを明らかにしているらしく、彼女にもまた忙しい日々が始める未来が迫っていた。

  • 170エピローグ 補習授業部25/11/15(土) 21:49:10

    そして現在、補習授業部の合宿が終わって以来、久しぶりとなるトリニティの別館の食堂に補習授業部の部員たちが集まっていた。
    そしてその題目は「曲直瀬リリの送別会」ということのようだ。
    補習授業部のの部員たちと私が事件後に百合園セイアに呼ばれた際、彼女からはお礼と共に、曲直瀬リリという生徒についての今後も明かされた。
    つまるところ、百合園セイアと桐藤ナギサが捻じ込んだ架空の生徒曲直瀬リリは、本人の体調を鑑みて、一度学校をやめ、治療に専念することになったということらしい。
    という訳で、「では、リリちゃんの送別会をしましょう」浦和ハナコが言い出し、桐藤ナギサの厚意により再度この別館を使い、ささやかなパーティが行われることとなったのだ。

    「でも、毎日一緒にいたから、やはり少し寂しくなっちゃいますね」
    安定したトリニティ式の茶会形式で行われた送別会は和気藹々と進行していたが、ふと阿慈谷ヒフミがそう呟く。
    「そうだね。私もこの日々はとても貴重なものだった、と思うよ。ただ、別にもう会えない訳じゃない。」
    「でも……もうリリとしては会えないってことでしょ? 私も、寂しいよ……」
    百合園セイアの言葉に、下江コハルも反応する。彼女は今日も百合園セイア、いや、曲直瀬リリの横に陣取り、親し気に会話をしていた。
    実際の学年は離れているが、お互いの仲は傍目でもとても良好であることがよくわかった。

  • 171エピローグ 補習授業部25/11/15(土) 21:51:21

    そんな後輩の項垂れた様子を見て、百合園セイアは嬉しそうに微笑み、再度口を開いた。

    「そんなこともないさ。みんなが集まるときは私も呼んでくれ。できる限り参加したいと思っているし、何ならティーパーティーの仕事も二の次で構わないかもしれないね。ここの皆しかいない場所であれば今まで通りに接してくれて構わない。……と、勿論いつでも今まで通りで構わないのだけどね。」
    「セイア様……?」
    曲直瀬リリのメイド、として本日も呼ばれた蒼森ミネが責任は果たせとばかりに百合園セイアを睨む。尚、メイド服は着ていない。コスプレのようで恥ずかしかったとのことだ。
    しかし、下江コハルと阿慈谷ヒフミの顔が明るくなったことで、それ以上の文句は言わないことにしたようだ。

    その時、廊下の方が爆発音のようなものが聞こえてくる。

    「あ……」
    黙々と食事と紅茶を楽しんでいた白洲アズサが顔を上げる。
    「誰かが来たみたいだ。そういえばトラップを片付けるを忘れていた。」
    そういえば今日も自然と、癖になっていたトラップを避けるルートでここまで来ていたため、そのことには誰も気づいていなかったようだ。
    「ええ!? だ、大丈夫なんですか?」
    阿慈谷ヒフミが驚いて白洲アズサに確認する。
    「ああ、侵入者対策としては十分な量設置してある」
    「そういう問題じゃないのですが……」

  • 172エピローグ 補習授業部25/11/15(土) 21:53:13

    「というより、どなたが来たのでしょう。今日ここで送別会をやっているのを知ってそうなのは……」
    浦和ハナコが思案するが、その答えが出る前に、食堂に近づいてくる足音に気付く。そして勢いよく扉が開いた。

    「あー、びっくりした。何でトラップがいっぱい仕掛けてあるの!? あっ、セイアちゃん、先生、それにみんなもこんにちは! 何かパーティやってるって聞いて差し入れ持ってきたよー!」
    現れたのは聖園ミカだった。服には物理的なトラップを強引に突破してきたと思われる痕跡が少し残っていた。

    「ミカ! ごめんなさい、トラップを仕掛けたのは私」
    「あ、アズサちゃん! やっぱりアズサちゃんだったんだ? もう、びっくりしたじゃん」
    「ああ、私も今びっくりしている」
    「?」

    侵入者対策として十分と言っていたトラップを正面から強引に突破されたことに白洲アズサは驚いているようだったが、聖園ミカには伝わっていないようだ。

    「あ、そうだ、はいコレ! ナギちゃんお手製のロールケーキ!」
    そう言って持っていた箱を白洲アズサに渡す。

  • 173エピローグ 補習授業部25/11/15(土) 21:55:30

    「それで、何ちゃんだっけ……」
    そして聖園ミカは百合園セイアの方を見る。
    「曲直瀬リリのことかい?」
    すぐに何を聞かれているのか察し、百合園セイアが返事をする。

    「そうそれ! リリちゃん! 前から気になってたんだけどさ、その偽名ってどういうこと? 何でその名前にしたのか気になってたんだよね」
    「……え、今更かい、それ」
    聞かれた内容に困惑したように周りを見るが、補習授業部の生徒たちは多かれ少なかれ、以前から気になっていたようで、彼女をじっと見つめている。青森ミネは既に知っているのか、あまり興味は無いようだ。
    そして助けを求めるようにこちらを見てくるが、気になっていたのは私も同じだ。彼女は諦めたように溜息をついた、

  • 174エピローグ 補習授業部25/11/15(土) 21:57:00

    「……そんなに気になるかい? まず、リリは百合、つまりりりィからとっている。そして曲直瀬についてはセイアを逆から読んで愛瀬(あいせ)そのままだと偽装が十分じゃないと思ったから愛を「まな」と読ませて、まなせ、に漢字を当てはめたのだよ。……改めて説明するのは少し恥ずかしいな」
    百合園セイアは、照れくさそうにそう言った。


    続く

  • 175二次元好きの匿名さん25/11/15(土) 22:00:37

    本日はここまで
    大体いつも終盤あっさり

    明日は所用があるので更新できるか分かりませんが、次回以降は以前言った通りメインストーリ―の続きではなく、オリジナルの短話をいくつかやっていきます

  • 176二次元好きの匿名さん25/11/15(土) 22:38:56

    偽名の解説たすかる

  • 177二次元好きの匿名さん25/11/16(日) 07:45:54

    あそほ

  • 178二次元好きの匿名さん25/11/16(日) 08:52:06

    リリがリリィ(百合)から来てるんだろうなとは思ってたけど、なるほど・・・

  • 179二次元好きの匿名さん25/11/16(日) 15:31:18

    ほしゅ

  • 180二次元好きの匿名さん25/11/16(日) 21:31:16

    ほー

  • 181書いてる人25/11/16(日) 22:59:44

    予想通り今頃帰宅したので今日は更新できません!

    保守いつもありがとうございます

  • 182二次元好きの匿名さん25/11/17(月) 05:03:16

    保守

  • 183二次元好きの匿名さん25/11/17(月) 08:08:24

    遅くまでお疲れさまでした

  • 184二次元好きの匿名さん25/11/17(月) 16:00:54

    ニマニマが止まんねぇ!

  • 185二次元好きの匿名さん25/11/17(月) 22:49:48

    よるほー

  • 186対策会議 番外編25/11/17(月) 23:03:44

    「それでは、本日の廃校対策会議を始めます。今日はなんと、特別ゲストをお招きしています!」
    奥空アヤネの司会で、会議が始まる。トリニティでの仕事がひと段落した私は今、久しぶりにアビドスへ訪問している。用件はもちろん、借金の借り換えについての報告である。

    「わー、特別ゲストさんですか? 誰なんでしょう?」
    「いや、そこにいるじゃん。先生が」
    十六夜ノノミの天然なのか意図的なのか分からない発言に黒見セリカがすかさず指摘する。この常時茶番劇状態が通常進行の対策会議は、私自身そう何回も出席したわけではないが、妙に懐かしい。

    「十六夜さん、黒見さん、静粛にお願いします。では、特別ゲストの先生、一言ご挨拶をお願いします。」
    奥空アヤネはまだ冷静に会議を進行しているが、これが繰り返されると司会を放棄し、会議が終了になる。それまでに自らの役目は終わらせておくべきだろう。

  • 187対策会議 番外編25/11/17(月) 23:04:57

    特別ゲストなどといわれるのは恐縮ですが、久しぶりに参加させていただきます。本日は現状の報告をしに来たのですが、その前に皆さんの近況をご確認させていただけますか」
    アビドスの生徒たちは知る由もないが、ともかく、借金の状況や、アビドスにおけるカイザーの動きについては把握している。というのもあの、元理事の後任にあたる人物とは今でもつながっており、多少の情報と引き換えに可能な限りの情報と、彼にとって取り返しのつかない弱みを得るという共存共栄の関係となっている。向こうは私が先生であるという証拠さえつかめていないだろうが。
     もしジェネラルやプレジデントといったカイザーの重鎮と事を構えることになれば、彼に首を挿げ替えることも視野にする程度には良好な関係だ。

    閑話休題。私の問いに砂狼シロコが真っ先に手を上げた。
    「はい、砂狼さん」
    「ん。ツーリング仲間を募集中。アビドス以外の生徒でも可」
    借金の話のつもりだったが、プライベートの話を始める。ある意味予定調和だが、特に話題を限定していなかったので仕方ない。
    「では、シャーレのカフェに掲示でもすればどうです?」
    「そんなことできるの?」
    そんなものは誰もやっていない。そもそも現状掲示板のようなものは設置していない。
    「まあ、掲示板を設置するくらいであれば簡単なのでやってみましょうか。掲示物は念のため事前に確認させてください」
    「うん、分かった。ありがとう」
    砂狼シロコが満足して頷く。

  • 188対策会議 番外編25/11/17(月) 23:06:37

    「他の方は何かありますか?」
    「はーい☆」
    「なんでも良いの? じゃあおじさんもおねがい」
    「えっ、じゃ、じゃあ私も」
    司会の奥空アヤネと既に言い終わった砂狼シロコ以外の3人が手を挙げる。
    「念のためですが、プライベートのことや個人の要望以外で話がある方は?」
    3人とも手を下げる。同時に、奥空アヤネの周囲の温度も下がる。あまり猶予は無いかもしれない。

    「では、アヤネさん。最近の利息返済状況と、ヘルメット団からの襲撃などの困りごとがあれば教えていただけますか」
    最初からこうすればよかったのだが、奥空アヤネへ直接確認することにする。もっとも、最初からこれをやると恐らく抗議されるのでそれはそれとして面倒なのだが。
    「はっ、はい。えっと、利息の支払いは電子決済が可能になったので、手間自体は減りました。手数料負担も向こう持ちでよいとのことで、気は楽になりましたね。それと、襲撃や妨害工作はあれから起こっていません。先生のおかげですね」
    奥空アヤネは悪ノリなどすることはなく、素直に答えてくれた。話が早くてありがたい。妨害が無いのは当然のことだろう。
    債権者は今、新規機材購入のための現金を必要としており、また元理事とは違いアビドス高等学校とは関わり合いになりたくないという明確な意思を感じるのだ。まあ、前任者の末路がああであれば、それも当然のことではあるか。

  • 189対策会議 番外編25/11/17(月) 23:07:49

    「端的でわかりやすい説明ありがとうございます、アヤネさん。」
    「は、はい」
    「では、私からの報告ですが……」
    私がそう言いかけると全員の視線が集中する。わざわざ訪問してまで報告にしたのだから、当然か。
    「結論から言いますと、12億円の融資の承認が下りました」
    「……」
    何も反応が無い。とりあえず補足をするために話を続ける。
    「正確には内容の確認ですね。アビドスの皆さんの同意が得られれば承認される用意ができたということです。それといくつか条件が付いていますので、その同意があれば、と言う話にはなっていますが。」
    「じゅうにおく!?」
    ここまで話したところで黒見セリカがようやく稼働し、叫び声をあげる。
    「ええ、当初は15億円を想定した検討を行っていたのですが、意外と連邦生徒会の財布の紐は固いようで、8割にまで減らされてしまいました。ご不満ですか?」
    やはり、12では少なかっただろうか。となると再検討となる。あまり時間をかけすぎてもここの生徒たちの負担が増すばかりなので、8割でもとりあえず持ってきたのだが。
    「いや、不満というか……」
    「あの、先生。そもそもこのお話は借金の借り換えをするというお話ではありませんでしたっけ。12億円の借金をすると、結局借金が増えてしまうのでは……」
    十六夜ノノミが当たり前の質問をしてくる。どういう意図だろうか。
    「ええ、増えますね。」
    「ええ……?」
     どうも話が噛み合っていない。私が何か思い違いをしている可能性が出てきた。念のために確認しよう。

  • 190対策会議 番外編25/11/17(月) 23:10:37

    「すみません、ノノミさん。貴女の認識を改めてお聞かせいただけますか?」
    「あ、はい。ええと、今カイザーから借りている借金をそのまま、連邦生徒会からの借金に変更するものだと……」
    「成程」

    つまり、恐らく私の説明不足だろう。当時はあまりその自覚がなかったが、トリニティで百合園セイアに散々説明が分かりづらい、誤解を招くと言われたから流石に理解した。
    「確か、借り換えの話をした際に、その後の復興必要な支援も行う予定と言ったと思いますが、借金を超える分は、その一環に当たります。」
    「でも、それでいきなり2億円も借金が増えることになるけど、大丈夫なの?」
    私の説明に、砂狼シロコが今度は真面目な質問をする。

    「それははっきりと問題ないと言えますね。まだ細かい条件を話していませんでしたが、あなたたちは現在、多少前後しているでしょうが毎月788万円の利息を支払っています。今回の融資では3年間の支払い猶予期間があり、その間の利息はゼロです。本来その間に支払う必要のある利息は2億8300万円を超えるわけですので、実質的にその時点での返済に必要な額は8000万円ほど減っているわけです。……今の説明は分かりましたか」
    「……ん。多分。利息の分考えるとお得ということは分かった。」
    砂狼シロコはそういうが、感情としてはあまり納得していない様子だった。大人しくこちらを見ている小鳥遊ホシノを除く、他の生徒たちも同様だ。
    「そうですね……では、借り換えに当たって借金を丁度返済できるだけの金額を受け取り、借金を返済したとしましょう。そこには無一文の学校が残るだけです。」

    マイナスが0になっただけでは、自由に使えるお金が増えるわけではない。結局今の生活を続けて、月800万円がせいぜいの金を稼いでやりくりするしかない。
    「アビドスを復興させるには、それでは全く足りません。住民を増やすにも、砂嵐の問題を解決するためにも、お金は必ず必要です。勿論そのためには2億と言う金では少なすぎますが、今回以上の好条件で融資が受けられる可能性は殆どありませんから、借りられるだけ借りるべきだとは思いますよ。勿論融資額を減らす分には連邦生徒会も文句は言わないと思いますがね。」
    そうやって、ホワイトボードに要点を書きながら説明することで、ようやく、生徒たちの顔が納得したものに変わっていった。

  • 191対策会議 番外編25/11/17(月) 23:12:23

    「先生、ありがとう。みんなも、多分分かったと思うけど、おじさんはさっき言ってた条件って部分が気になるなぁ」
    そしてそのタイミングで、黙って見ていた小鳥遊ホシノが次の質問をした。勿論条件については説明するつもりがあった。
    「承知しました、ホシノさん。まず、この支援を受ける条件というのは簡単なものです。アビドス高等学校は今現在連邦生徒会の加盟学園に正常に加盟している状態となっていないため、それを正してほしいという内容ですね。つまり書類不備と言う話です。」
    小鳥遊ホシノの目が見開かれる。一方、あまりわかっていない生徒もいた。

    「書類不備って、どういうこと? 私たちどういう状態なの?」
    分かっていない生徒を代表して、黒見セリカが質問する。
    「つまり、今アビドス高等学校には統治する学内機関、一般的に生徒会と呼ばれる物ですが、それが元々存在したアビドス生徒会と私が承認した対策委員会で二重になっているという話です。統合してどちらが正しい物なのかはっきりしてほしい、と言う内容です。」
    「アビドス生徒会? でもそれってもう誰もいないんじゃないの?」
    黒見セリカが聞き覚えの無い組織名に首を傾げる。彼女が入学した時点では既に機能していない組織なので当然だ。しかし、実際にはまだ所属している生徒が存在している。

  • 192対策会議 番外編25/11/17(月) 23:13:29

    「……ううん、セリカちゃん。アビドス生徒会はあるよ。おじさんがそうなんだ。ごめんね、みんなも」
    そしてその疑問には、小鳥遊ホシノが答えた。どこか落ち込んでいるように見える。黒見セリカはオロオロと私とホシノの顔を見比べた。
    「ホシノ先輩……」
    十六夜ノノミが心配そうに声をかける。奥空アヤネは深い事情は知らないまでも今の状況自体は把握していたようだ。砂狼シロコは無表情で小鳥遊ホシノの方を見つめていた。
    「……まあ、どちらを残すかについては皆さんでよく話し合ってください。今月末までに決定してもらえれば処理の遅れはありませんので。」
    私はそう言って、融資自体の具体的な条件について説明を始めた。しかし、その後の会議はどこかぎこちない雰囲気の中進行していき、終了となった。

  • 193対策会議 番外編25/11/17(月) 23:14:33

    会議が終わった後、私は小鳥遊ホシノに呼び出されていた。
    以前、二人で話をした空き教室だ。

    「あ、来てくれたんだ。ありがとねー」
    私が到着したことに気付いた小鳥遊ホシノが、そう言って微笑む。
    「当然行きますよ。ホシノさんに呼ばれたのであれば」
    「そうやって返されると照れちゃうよ。あ、条件の話、凄かったねぇ、3年間は無利息、その後も今の10分の1くらいになるんでしょ?」
    「……裏を返せば、それだけアビドスが危機的状況にあると認められたということです。あえてあの場ではいいませんでしたが」
    自力では復興不可能な学園に対する特別融資制度だ。誰でも同じ条件で借りられるわけではない。
    「だよねぇ。言いづらいよね。ごめんね、先生。何か変な空気にしちゃって」
    小鳥遊ホシノはそう言って私に謝った。
    「謝る必要はありませんよ。気持ちがわかるとは言いませんが、事情があるのは一応知っていますから」

  • 194対策会議 番外編25/11/17(月) 23:15:37

    「あぁー、やっぱり知ってたんだ? ユメ先輩の事」

    梔子ユメ。現状アビドス高等学校における最後の生徒会長。以前の時間軸で彼女が存命であったときに見たこともあったし、その末路も当然知っている。私が頷くと、彼女は弱弱しく微笑み、再度口を開く
    「やっぱり、良くなかったよね。生徒会の事、放置してたら。でも、当時の私は、生徒会長を引き継ぐなんてこと出来なかったんだ。ユメ先輩が、生徒会長でなくなるのを認められなかった」
    彼女の口ぶりは、過去のことを話している。つまり、今は違うという事だ。
    「今もまだ、引きずっていると思ってたんだけど……実際、さっきの話が出たとき、最初はどうしようもなく嫌な気分になっちゃったんだけど……」

    自分の中の心の動きを思い出すように解説しながら、小鳥遊ホシノは話を続ける。
    「でも、思ったほどじゃなかったんだ。そんなはずはないんだけど、何だか、以前ちゃんとお別れをしたような気がして……。うーん、思ったより自分の中で消化できてるのかも。ごめんね、なんだかいっつも先生には変な話ばっかりしてるね。」
    そう言って小鳥遊ホシノは改めて笑った。
    心の傷を時間が解決した、そう言った話はよく聞くが、果たして小鳥遊ホシノのこれもそういうものなのだろうか。それとも別の時間軸の記憶の影響が及んでいるのだろうか。私にはまだ分からなかった。

    その後、通常の空気に戻った対策委員会一同と共に、屋台での営業に変わった紫関ラーメンに赴き、私はアビドスを去った。数日後、小鳥遊ホシノが書類を持ってシャーレに現れ、少し興味深い同盟が結成されたのだが、それはまた別の話だ。

  • 195二次元好きの匿名さん25/11/17(月) 23:16:43

    本日はここまで、ですが次スレ立ててきますね。

    次スレで今後の予定などをちょっと書きます。

  • 196二次元好きの匿名さん25/11/17(月) 23:34:14
  • 197二次元好きの匿名さん25/11/17(月) 23:47:23

    建て乙です!

  • 198二次元好きの匿名さん25/11/18(火) 01:03:07

    おつー

  • 199二次元好きの匿名さん25/11/18(火) 01:05:20

    おつー

  • 200二次元好きの匿名さん25/11/18(火) 01:06:28

オススメ

このスレッドは過去ログ倉庫に格納されています