ここだけ黒服がシャーレの先生になった世界線 5

  • 1二次元好きの匿名さん25/11/01(土) 22:19:44

    気付いたら時間を遡っていた上にシャーレの先生になっていた黒服のスレ その5です。
    私は元々のスレ立て主ではなく、面白そうなのでSSを書いている者です。

    現在エデン条約編前半進行中

  • 2二次元好きの匿名さん25/11/01(土) 22:20:18

    建て乙です!

  • 3二次元好きの匿名さん25/11/01(土) 22:20:47

    建て乙ー

  • 4二次元好きの匿名さん25/11/01(土) 22:20:51
  • 5二次元好きの匿名さん25/11/01(土) 22:21:59
  • 6二次元好きの匿名さん25/11/01(土) 22:25:24

    あらすじ

    ミレニアムでの仕事を一段落した黒服は、トリニティからの要請で補習授業部の顧問となる。
    補習授業部の合宿に「曲直瀬リリ」という偽名で参加した百合園セイアとそのメイドに扮している蒼森ミネ。
    正体を察している浦和ハナコを巻き込んで、聖園ミカとの対面に向けた打ち合わせを行った。

    そして翌朝、黒服は聖園ミカとの2度目の対話に向かった。

  • 7聖園ミカと百合園セイア①25/11/01(土) 22:28:51

    浦和ハナコ、百合園セイア、そして蒼森ミネとの打ち合わせの翌朝。
    約束通りの時間に昨朝と同じ時刻で聖園ミカを待つ。

    シッテムの箱を確認する。通話状態になっており、その相手はもちろん、百合園セイアのものだ。
    蒼森ミネと百合園セイアが聞いている。
    浦和ハナコは最終的に、意見だけ伝えこの作戦には直接参加しないことになった。聞かれたくない話も聞きたくない話もあるだろう、ということだ。

    これから行うことを考える。あまり良い気分ではない。

    「先生、お待たせっ」
    聖園ミカが現れた。表面上は昨日と変わらない。しかしこの一日で私が何を考えていたかは気にはなっているだろう。

    「いえ、私も丁度待ち始めたところです。」
    「あはは、何だかデートみたいだね」

    そう言って笑った彼女は、やはり一見そこに重苦しい背景を抱えているようには見えない

  • 8聖園ミカと百合園セイア①25/11/01(土) 22:29:51

    「それじゃ、早速始めよっか。先生も何か考えて来てくれてるんだっけ?」
    「ええ、あるにはありますが、先にミカさんのお話を聞かせていただけますか? 私の考えは、その後お話します・」
    「えぇー楽しみにしてたのになあ。まいっか、じゃあ話すね。」
    私が頷くと、聖園ミカが本題に移る。

    「トリニティの裏切り者の正体……それは、白洲アズサ。アズサちゃんのことだよ。それで、先生にはあの子を守ってほしいの」
    彼女は世間話でもするかのように軽やかに、そう話し始めた。

    トリニティの成り立ちと追放されたアリウスの話から始まるそれは、虚実入り乱れる内容であった。

    要点は大きく3つ
    ・白洲アズサはアリウス出身であり、聖園ミカはアリウスとの話し合いによる和解を願っていたが、桐藤ナギサと百合園セイアは応じなかった
    ・エデン条約は平和条約に見せかけた軍事同盟であり、桐藤ナギサはそれを利用しようとしている
    ・百合園セイアの入院は嘘で、実際には襲撃され、ヘイローを破壊されている。桐藤ナギサは補習授業部の中に裏切り者=犯人がいると確信しており、選出されたメンバーにも理由がある。実際には聖園ミカが引き入れた白洲アズサが裏切り者ではあるが、それは桐藤ナギサが探している人物とは無関係

    という話だ。

  • 9二次元好きの匿名さん25/11/01(土) 22:30:26

    建て乙です

  • 10聖園ミカと百合園セイア①25/11/01(土) 22:30:55

    私のような素直でない人間でなく、かつ事前情報が一切ない相手であれば、彼女の言葉は受け入れられるものだったかもしれない。これは桐藤ナギサへの対立を深めるための策である、ということだろうか。
    そして私は、今からこの聖園ミカの正常に見せかけた心を折らなければならない。
    些かも気持ちが乗らない。時間遡行を経験しており、かつアリウスの黒幕とすら一時期協力関係にあった私と、踊らされていた聖園ミカとの間に存在する情報格差はあまりにも大きすぎて、戦いとも呼べないものだ。それを利用して聖園ミカの言い分を潰していく必要がある。
    百合園セイアとの再会はそうして、彼女の本心を引きずり出した上で果たされなければならない。そうしなければ聖園ミカと百合園セイアが真に和解することはできない、というのが昨日の打ち合わせの結論だった。その立場を承った以上、気乗りせずともやり切るしかなかった。

    「……成程、ミカさんの話は分かりました。」
    「長々と聞いてくれてありがと。それで、先生はどう思った? 先生の考えって言うのも教えてくれるんだよね?」
    「ええ、そうですね。……ミカさんの言っていた話への意見を交えながら話しましょうか。」

    重い口を開く。

  • 11聖園ミカと百合園セイア①25/11/01(土) 22:31:59

    「まず、アリウスについてですが。私の知っている話と概ね一致しています。間違いないでしょう、そしてアズサさんがそこの出身であるというのも……彼女が時期外れの転校生であるということを鑑みて、矛盾は無いと思います。」
    「うんうん。あれ、なんか言い方が気になるけど」

    そちらの話を信じていないとあからさまにしすぎただろうか。聖園ミカが首を傾げる。
    「エデン条約については、全文を確認したうえで言いますがミカさんは少なくとも一つ勘違いをしています。まず、エデン条約機構は確かに紛争について武力介入できる力を持っていますが……それはあくまで境界線周囲での紛争解決や犯罪者たちへの取り締まりを目的としており、自由に使用できるものではありません。」

    私の指摘に、聖園ミカの表情は変わらない。
    「でも、それって解釈次第でどうにもならないかな? 気に入らないものを、犯罪に仕立て上げるっていうの、よく聞く話じゃない?」
    「確かに、そういう話はありますね。しかしナギサさんがそのように自由に使える、とするにはゲヘナ側の立場が抜けています。ゲヘナの意向を無視してその力を濫用するほどの力は、少なくとも現在のトリニティには無い。違いますか?」
    「すごい。流石『先生』だね。良く調べてる。」
    聖園ミカが笑う。動揺は見られないが、このくらい調べていることは想定ないだろう。

    「でも、ナギちゃんがそう思ってない可能性もあるんじゃないかな」
    「そうですね。なので、この話は平行線ということにしましょう。まだありますから」

    いよいよ、話の本題に移る。

  • 12聖園ミカと百合園セイア①25/11/01(土) 22:33:05

    「セイアさんの襲撃の話です。恐ろしい話ですが……疑問があります。」
    「疑問?」
    「何故ミカさんは、アズサさんを、あるいはアリウスを疑っていないのですか?」
    聖園ミカが真顔になる。
    私が全く知らなかったはずの話について、いきなり核心を突く。そのようなことは流石に想像していなかったはずだ。だからこそ、これは茶番なのだった。


    「……どういうこと?」
    「話を聞く限り、アリウスにはセイアさんを襲撃する動機があります。トリニティの事を深く恨んでおり、同様に憎んでいるゲヘナとの平和条約を結ぼうとしている。トリニティの内部にいる『何者か』などを探すより余程分かりやすくはありませんか?」
    「……確かに、動機はあるかもしれない。でも、セイアちゃんを襲撃するのはトリニティの生徒じゃないとできないはずでしょ? だからナギちゃんも、実行犯はトリニティの内部にいると疑ってる。スパイがいるとしても、アリウスにはその繋がりも無いじゃん」
    「繋がりなら一つ、あるではないですか」
    聖園ミカの言葉を遮るように、私は指をさす。

    「ミカさん、実際にアリウスと関わっていた貴女であれば、アリウスを引き込むことが出来る。違いますか?」

  • 13聖園ミカと百合園セイア①25/11/01(土) 22:34:20

    「ミカさん、実際にアリウスと関わっていた貴女であれば、アリウスを引き込むことが出来る。違いますか?」
    「……私? あはは、面白いこと言うね先生。確かに、私なら手引きできるかもしれない、でも、何で私がそんなことをする必要があるの? それこそ、動機が無いと思うんだけど。」
    険しい顔をしている聖園ミカ。今更疑われていないなどと思っていることは無いだろう。

    「そうですね、私はお二人の関係を存じ上げませんから分かりませんが、例えば、こんなストーリーはいかがでしょうか。ミカさん、貴女はゲヘナを憎んでいる。エデン条約の締結などと以ての外だ。しかし、同じく生徒会長を務めている百合園セイアは推進派だ。貴女は彼女が邪魔だった。何せ、貴女がホストであればエデン条約の締結は不可能になるでしょう」
    「……」
    聖園ミカは何も答えない。私は彼女の顔を極力見ずに話を続ける。

    「そんな折、貴女は偶然にもアリウスと交流を深めることになる。そしてアリウスには、同じくトリニティの生徒会長を襲撃する動機も、実行するだけの力もあった。そして、貴女はアリウスへの協力を申し出た。全ては、百合園セイアと桐藤ナギサを排除して貴女がティーパーティーのホストになるために……!?」

    突然、身体に強い圧力がかかり、地面に叩きつけられる。

  • 14聖園ミカと百合園セイア①25/11/01(土) 22:35:25

    一瞬意識が飛びそうになるが、持ちこたえる。
    聖園ミカに押し倒されたらしい。驚異的な膂力だ。

    「違う!」
    聖園ミカが叫ぶ。その体は震えており、目には涙が光っていた。私を殺そうという訳ではないようだ。
    「……違うとは、どういう意味です? 私の言うことが出鱈目だというのであれば、そうおっしゃってください。それとも、私の口も封じますか?」
    押さえつけられたままの体制で、話し続ける。

    「……ううん。やっぱり、違わないや、先生。」
    そして、ついに聖園ミカの告白が始まった。
    「どういうことですか?」
    「全部、先生の言ったとおりだよ。ゲヘナ嫌いの私には、セイアちゃんもナギちゃんも邪魔だった。だから、アリウスの子達と協力して、セイアちゃんを襲撃した。……思ったよりずっと簡単だったよ」
    聖園ミカの言葉を聞くが、残念ながら私の聞きたかった言葉ではない。これではまだ足りないのだ。もう少し必要だ。

  • 15聖園ミカと百合園セイア①25/11/01(土) 22:41:00

    「本当ですか? 私自身は……そうは思えないのですが。」
    「……え?」
    語っていた聖園ミカの言葉が、突然意見を翻した私に驚き止まる。

    「先ほどの私の推測は所詮貴女達のことを知らない立場からの当てずっぽうです。ですが、一つ失念していたことがありまして」
    「……これ以上、何が言いたいの?」
    「彼女たち本人から聞いていた貴女の印象では、とてもあなたがそのようなことをするとは思えないのです。それに、私の推理には同期の面で多大な穴があります。
    遥か昔に追放されたアリウスの生徒たちを思いやることが出来る貴女が……ゲヘナが嫌いだというただそれだけで同輩の生徒を殺すなどと計画できるとは思えない。」
    混乱している様子の聖園ミカは、それでも首を振る。

    「……そんなことない。それは、私に騙されていただけで……! 意味わかんないよ先生、今更何でそんなこと言うの?」
    「私はただ、真実が知りたいだけです。何故、貴女がこんなことをしたのかを」
    「そんなこと……そんなこと、もうわかんないよ!! だって、分かっても、私がセイアちゃんを殺しちゃったのはもう変わらないんだもん!」
    その真実の言葉を聞けたと同時に、私は近づいてくる人物がいることに気付いた。

  • 16聖園ミカと百合園セイア①25/11/01(土) 22:42:01

    「遅くなってすまないね、先生。その辺で勘弁してやってくれ。私が悪かった」
    彼女の本心の慟哭を聞き、漸く百合園セイアがその場に現れた。

  • 17二次元好きの匿名さん25/11/01(土) 22:44:45

    本日はここまで、二人の会話は明日に続きます。

    始めはシンプルにセイアにいきなり出てもらおうかと思いましたが、それだとミカが本心を明らかにすることは無いと思ったので黒服にいじめっ子になってもらいました。

    独自解釈です

  • 18二次元好きの匿名さん25/11/02(日) 06:48:48

    あさほし

  • 19二次元好きの匿名さん25/11/02(日) 13:00:48

    そんなことないとは思うんだけど「ドッキリ大成功」とか書かれたプラカード掲げてないか心配になる

  • 20二次元好きの匿名さん25/11/02(日) 20:01:48

    保守

  • 21二次元好きの匿名さん25/11/02(日) 20:07:11

    >>19

    やるかやらないかで言ったら、平時の𝑆𝐸𝑋𝑌 𝐹𝑂𝑋なら確実にやるな。

  • 22聖園ミカと百合園セイア②25/11/03(月) 00:13:42

    「久しぶりだね、ミカ。」
    近づきながら、そう話す百合園セイアに、聖園ミカの目線が釘付けになる。

    「少し痩せたかい? 私が言えた事じゃないが、食事はきちんととらないといけないよ」

    私から手を放した少女のもとへ、そう話しながら到達する。
    聖園ミカは体も声も震わせて、言葉を絞り出すように口を開いた。

    「……おばけ?」

    百合園セイアが脱力する。
    「……現実を見たまえ、このように実体のある幽霊が存在したとしたら、シスターフッドが大騒ぎだよ。全く、君は変わっていないようだね。本物だよ、私は」

    感動の再会を演出するつもりだったのか、百合園セイアが少し不服そうにまくし立てる。聖園ミカはその姿を見て、恐る恐る彼女に手を伸ばし、身体に触れる。

    「嘘……だって、セイアちゃんは私が……本当に? 双子の妹とかじゃない?」
    「本物だよ、いいだろう、どうやったら証明できる? 『聖園ミカうっかり発言集』でも先生に披露してみせようか?」
    「……ほんものだぁ。セイアちゃん、セイアちゃんーー!!」

    百合園セイアの言い回しで本物だと確信したらしい聖園ミカが、彼女に抱き着く。
    その際、抱き着かれた少女が「ギュェ」とでも表現すればいいのか、声になっていない悲鳴をあげていたような気がしたが、ともかく、友情の一幕という事でいいだろう。
    先ほど突き倒された力を思い出しながら、私はその光景を眺めていた。

  • 23聖園ミカと百合園セイア②25/11/03(月) 00:15:23

    「はぁっ、はぁっ。全く、今度こそ……、いや、やめておこう」
    「あはは……、ごめんね、セイアちゃん」
    数分後、漸く衝動が収まったらしい聖園ミカが百合園セイアを解き放つと、荒い息を吐きながら抗議しようとし踏みとどまる。殺されるだのという発言はセンシティブであると考えたのだろう。

    「ごめんね、ごめんなさい……セイアちゃん」
    その甲斐なく、友人が生きていたという喜びから、そもそもその友人を殺しかけたのは自分だという罪悪感に感情が変わってきたのか、泣きながら謝罪の言葉を繰り返すようになってしまう。
    無理もないが、情緒不安定と言う奴だろう。百合園セイアが困ったように顔をこちらに向けてくるが、私には何もできない。あの『先生』であれば、泣いている少女を慰めるのが得意だったかもしれないが、苦手なものは苦手なのだ。

    「はぁ……ミカ、泣き止んでくれ。私は君を攻め立てない訳じゃない。ただ……そう。私たちには話し合いが必要だと思ったんだ。きっと、私は君を沢山傷つけてしまったんだろう。謝りたい気持ちがあるのは私も同じなんだ。だから、落ち着いて、ゆっくりは無そう? この場所はそう、誰にも邪魔されない、君との話し合いにぴったりの場所だ。」

    百合園セイアの言う通り、昨日浦和ハナコに依頼して、今日の午前中は私と曲直瀬リリは不在、ということにしてある。昨日のように誰かが探しに来ることは無いだろう。
    そして別館であるこの場所に、訪れるものは殆どいないはずだ。

    暫くして、今度こそ表面上落ち着いた聖園ミカを連れ、場所を移した。
    誰かが来る可能性を考慮して、私の部屋ではなく、蒼森ミネと百合園セイアの部屋だ。

  • 24聖園ミカと百合園セイア②25/11/03(月) 00:16:30

    「ミカ様……」
    部屋で待機していた蒼森ミネが入室してきた聖園ミカに気付く。弱弱しく俯いたその様子に驚いているようだった。

    「あ……ミネ……団長。……そっか、最近不在にしてるって、セイアちゃんと一緒にいたんだね」
    聖園ミカもメイドに扮している彼女が誰なのかにすぐ気づいたようだ。格好には何も言及せずそう言った。

    「さて、折角だし今回は私がお茶を用意しよう。ちょっと待っていてくれ」
    「セイア様……紅茶の準備なら私が」
    「いや、君の事をメイドだと思っている者はこの中には一人もいないんだから、気にしないでくれ。」
    いついかなる時でも話し合いの場には紅茶が必要、というのがトリニティの流儀なのだろう。誰もすぐに話し始めようとはしない。

    やがて、紅茶の準備が完了して、改めて話し合いが始まる。

    「ふむ……何から話そうか。まずは……そうだね。改めて、この通り、私は無事だ。何があったのか、知りたいだろう?」
    「……うん」

    私に対し快活に振舞っていた様子は消え去り、聖園ミカは静かにうなずく。
    それを見た百合園セイアは頷き、話を進める。

    「と言っても簡単な話だ。知っているだろう? 私には未来を視る力がある。それで、襲撃についても知っていた訳だ。そこで襲撃してきた……アズサを説得して、死ぬことを回避できることは知っていたんだよ。ただし、信憑性を得るために起こした爆発の余波で気を失いまではしたがね」

  • 25聖園ミカと百合園セイア②25/11/03(月) 00:17:34

    百合園セイアは話を続ける。
    「それで、駆け付けてくれたミネが、私の身柄を隠してくれたんだ。犯人が分からない状況で、再び襲われることの無いように。……恐らく、襲撃者である立場になってしまった君は、アリウスの勘違いと、そしてその欺瞞情報の双方の情報を受けてしまい。私が死んでしまったと確信してしまったのだろう? ……そして、目が覚めた私はミネにそのことを報告しないように頼んだ。大変な反対をされたけどね」

    「当たり前です。そもそも、『報告しない』どころか、色々なことを要求してきたじゃないですか。この格好だって……」
    「なかなか似合っていると思うけどね。救護騎士団の恰好ももちろん様にはなってはいたが。先生もそうは思わないかね」
    唐突に話を振られ、視線が私に集まる。

    「ええ、そうですね……お似合いだと思いますよ。勿論、フォーマル、カジュアルに限らずどのような格好でもミネさんなら着こなしてしまうでしょうが」
    私は社交辞令を返した。百合園セイアは満足そうに微笑み、蒼森ミネは顔を赤くする。聖園ミカはあまり表情を変えずに、それでも意外そうな表情を隠しきれていなかった。百合園セイアが話を再開する。

    「当初は渋っていたミネも最終的には同意してくれた。どうしてかわかるかい? ミカ」
    「え……それは……事を大きくしないため、とか?」
    聞かれた聖園ミカが自信なさげに答える。

    「ああ、それもあるね。だが一番の理由はそこじゃない。……私はただ、君と話をしなければならないと思ったんだ。私が君をそこまで思い詰めさせてしまったと思ったから。その邪魔をされたくなかったんだ。ミネはただ、私のその我儘を聞いてくれたんだ」
    「セイアちゃん……」

    俯いていた少女が顔を上げる。話をしていた少女は立ち上がり、

    「ごめんなさい、ミカ。君が悩んでいるとも……いや、私はそれを知っていたにもかかわらず、君の事を傷つける言葉を沢山言ってしまった。言い訳にもならないが、私は未来を諦めていたんだ。だから、君の気持ちを思いやる事が出来ていなかった。本当に、すまなかった」

    そう言って、深く頭を下げた。

  • 26聖園ミカと百合園セイア②25/11/03(月) 00:18:39

    「……ううん、セイアちゃんに謝ってもらう資格なんてないよ。我儘な私が、自分勝手に振舞っていただけ。それを窘められる立場なのはセイアちゃんやナギちゃんだけだったのに、勝手に苛ついて、危険な目に合わせようなんて考えたんだから。殺したいだなんて思ったことは無いけど、殺しちゃうところだったのも、本当、でしょ?」
    日頃のうっ憤を晴らすために、少し危険な目にあってもらおうとしただけ。彼女の動機は幼稚で危険なものではあったが、殺意がなかったというのは、真実と思われた。

    「……そうだとしても、私が悪くないなんてことはあり得ないんだよ、ミカ。それに、私もミカも、余りにも自分勝手すぎた。君が独断で行動していたのと同じように、私は誰にも相談せずに人生を諦めようとしていた。きっかけが無ければ……」
    そこまで言って百合園セイアは私の方を見、

    「私は今も絶望の中、寝たきりでいただろう。」
    そう言い切った。

    そして、暫く沈黙が続いた。
    百合園セイアは言いたいことを言い切ったようで、静かに待っているようだ。一方の聖園ミカは未だ自責の念が強いようだった。一度上げた顔も、また俯いてしまった。
    以前の、時間遡行前の私であれば、このような状態の生徒を誘導して、自分の思い通りに動かすことに躊躇しなかっただろう。小鳥遊ホシノのことを思い出す。彼女もまた、人を死なせてしまったことという自責の念が変質し、
    精神的に不安定だった。そのことを私は「付け入る隙」だと考えていたはずだが、いつの間にかそのように思えなくなってしまっていた。

  • 27聖園ミカと百合園セイア②25/11/03(月) 00:19:42

    「ミカ様……少し、よろしいですか?」
    沈黙を崩したのは、意外にも蒼森ミネだった。聖園ミカが彼女の方を見る。

    「私は、ミカ様が何を考えていたのかも、セイア様の考えも分かりません。ですが、救護騎士団の団長として、今この場で最も救護が必要なのは、ミカ様ではないかと思います」
    「……そう? こんなんでも、身体は元気だと思うんだよね……」

    「体のことではなく、心の事です。ですが……今こうして会えて良かったです。ミカ様がこうして謝れていれるのは、ミカ様がまだ……立ち止まれる位置にいたからだと思います。本当に心が壊れてしまったら、救護は非常に難しい物となるのです。」
    「そう……なのかな?」
    「はい。そして、それに対して有効な救護とは……しっかり休息をして、よく考えることです。そして、悲しくなったり、罪悪感に押しつぶされそうになってしまったときは、誰かに吐き出すことです。それは私でも、セイア様でも、先生でも良いでしょう。私から言えることは……それだけです」

    蒼森ミネはそう言って、慈しむように小さく微笑んだ。

  • 28聖園ミカと百合園セイア②25/11/03(月) 00:21:13

    「そうですね、ミカさんには考える時間が必要だというのは同意です。今日は一旦ここまでにしましょうか。ミカさんはこの後どうされますか? この場所であればあと何日間は借りていますし、勿論お帰りいただいても構いません。」
    「……え? 私、捕まるものだと思ってたけど、自由の身にしていいの? 本当の裏切り者の私を」
    蒼森ミネの言葉も、続く私の言葉も黙って聞いた聖園ミカが驚いてこちらを見る。

    「そうですね……それは今更ですし、やはり、一人で考える時間も必要でしょう。それはミカさんに任せます。」
    「……2人も、それで良いの?」
    「うん。ミカの好きにすれば良い。話したくなったら、まだしばらくは私はここにいるからね。」
    「私は今回はもうセイア様の傍につくというのは決めていますので」

    聖園ミカの質問に、2人も同意を示す。

    「そっか……。うん、じゃあ今日は、少し一人にさせてもらおうかな……」
    「承知しました。……すみません、一つだけ話しておきたいことがあります。」
    「なにかな?」
    聖園ミカがここを離れる前に、忠告すべき点を思い出して呼び止める。

    「もし、アリウスの生徒たちと話すことがあれば、注意してください。あれには、裏で手を引いている『大人』がいます。」
    「……初めて聞いた話だけど、うん。ありがとう。気を付けるね」

    そう言って別館を出る聖園ミカを、私たちは見送った。
    こういうことは言いたくないが、後は彼女を信じるしかないだろう。

  • 29二次元好きの匿名さん25/11/03(月) 00:23:10

    本日はここまで。

    自分の中のミカが思ったより強情で苦戦しました。

    セイアも苦戦してましたね。
    黒服はこういう時頼りにならないです。

  • 30二次元好きの匿名さん25/11/03(月) 06:49:11

    強情じゃなかったら原典のエデン条約編、あそこまで拗れてないとは思う
    どこぞの赤いオバ様が大体悪いとはいえ

  • 31二次元好きの匿名さん25/11/03(月) 12:21:21

    『先生』と混線して多少丸くなっているけど元々暗躍系ヴィランだしなぁ

  • 32二次元好きの匿名さん25/11/03(月) 12:48:47

    何か言ってあげたいけどこういう奴洗脳しやすそうとしか思ったことないから対処法わかんねぇー
    ってなってるからなぁ
    黙ってる方が正しい

  • 33二次元好きの匿名さん25/11/03(月) 20:13:36

    よるほー

  • 34書いてる人25/11/03(月) 20:57:28

    すみませんが、本日体調不良のため、更新せずに寝ます…

  • 35二次元好きの匿名さん25/11/03(月) 21:29:45

    最近変な天気ですものね…お大事になさってください

  • 36二次元好きの匿名さん25/11/04(火) 01:03:43

    回復するまでゆっくり待ってますよ

  • 37二次元好きの匿名さん25/11/04(火) 06:10:52

    朝ほー

  • 38二次元好きの匿名さん25/11/04(火) 12:32:35

    お身体、お大事に

  • 39二次元好きの匿名さん25/11/04(火) 20:35:49

    ほー

  • 40二次元好きの匿名さん25/11/04(火) 22:26:49

    念の為のほー

  • 41水着ティーパーティ25/11/04(火) 23:58:56

    聖園ミカを見送った直後から、急速に天気が悪化し、土砂降りの雨模様となった。
    特に蒼森ミネは出て行った聖園ミカを心配していたが、後を追う訳にもいかない。

    そんな中、元々長期滞在を予定していて服装にも余裕があった百合園セイアと蒼森ミネ以外の、
    つまり従来の補習授業部の4名が洗濯中の服を汚してしまうというトラブルに見舞われ、着ていた体操服まで水に濡れ、さらに落雷により停電が起きたため、
    着れる服が無くなってしまうという事態になってしまっていた。

    そういった状況で教室で補習、という訳にもいかないため、一同は体育館に集まることになった。
    阿慈谷ヒフミ、白洲アズサ、浦和ハナコ、下江コハルの4名は水着で、百合園セイアは蒼森ミネから気温変化へと対応するため、普段より厚着にさせられ、当の本人はやはりメイド服を着ていた。
    当然、私は黒いスーツのままだ。

    水着4人に厚着1名、そしてメイド服とスーツ姿も1人ずつ。まとまりのない集団が誕生し、百合園セイアが持っていた電気不要のティーセットを使用した茶会が開かれた。
    浦和ハナコの題すところによると「第一回水着ティーパーティ」と言う名前らしい。水着とティーパーティーが参加しているため、間違いではないのが癪である。

  • 42水着ティーパーティ25/11/05(水) 00:00:02

    「リリってやっぱりとんでもないお嬢様よね。なんでこんなの持ってきてるのよ」
    下江コハルがいつものように曲直瀬リリに話しかける。浦和ハナコも既に慣れたようで、何も知らない1年生がティーパーティーの生徒会長に馴れ馴れしく話しかけているのを楽しそうに眺めていた。
    思えば、既に今ここにいる者の大半が既に曲直瀬リリの正体が百合園セイアであることを知っているのだ。もう隠す必要もない気もするが、本人から止められている。
    阿慈谷ヒフミや下江コハルに委縮されてしまうのが嫌なのだそうだ。そんなものだろうか。その状況で蒼森ミネが名乗れるはずもなく、本人は騙しているようで気が引けているらしいが、百合園セイアに追随している。

    ゆっくりと時間をかけて作られた紅茶が全員に振舞われる。雨に濡れ、体温が下がった状態で水着で過ごす羽目になった彼女たちにとって、
    温かい飲物はありがたかったようで、一様にほっとした表情を浮かべている。ホストの百合園セイアも満足そうだ。

    「そういえば、先生とリリは今朝、何をしていたんだ?」
    白洲アズサが思い出したように言う。

    「あ、そうよ。アンタたち何してたの? いない間、こっちは大変だったんだけど!?」
    下江コハルが同調し、阿慈谷ヒフミも口には出さないが気になっている様子らしい。浦和ハナコは静観しているようだ。
    百合園セイアの方を向くと、彼女は暫く考え込んだ後、口を開いた。

    「実は、来客対応していてね」
    具体的に誰が来ていたかを暈して話すことにしたようだ。

  • 43水着ティーパーティ25/11/05(水) 00:01:18

    「来客、リリに?」
    「ああ、ほら。僕は病弱だからさ。お見舞いに来てくれたようなものだね。」
    下江コハルは、ふーんと納得したようだが、正体を白洲アズサは誰が来たのかを考えているようだ。

    「……前に会った時、ちょっとした行き違いがあってね。喧嘩別れではないけれど、会いづらい関係ではあったんだ。……ちょっと聞いてもらえるかい?」

    「え? 何? 人生相談。良いわよ、そういうのちょっと好き」
    「あはは、コハルちゃん? えーと、リリちゃんが私たちに話したいと思ってくれたなら、何でも話してください」
    興味を隠しきれない下江コハルをやんわりと制止しながらも阿慈谷ヒフミも話を促す。私は百合園セイアがどういう話をするのか見守っていた。

    「ありがとう。その、行き違いをお互いに謝ったんだが……あまり、上手くいかなくてね。いや、一歩進んだとは思うんだが、向こうが思い詰めていて、思ったような仲直りには至らなかったというべきかな……」
    そのように言い出した後、手違いで殺されそうになったというような話は当然しなかったが、百合園セイアと聖園ミカの二人の状況を説明していた。

    「……そういうことだったんですね。」
    「まあ、リリってちょっと言い方が回りくどいところあるもんね。すれ違いとはそりゃあるわよ」
    阿慈谷ヒフミと下江コハルが口々に感想を言う。後者の言葉は百合園セイアに突き刺さったようで、項垂れている。

  • 44水着ティーパーティ25/11/05(水) 00:02:25

    「リリちゃん、あ、あのっ。一つ聞いても良いですか?」
    暫く考えていた阿慈谷ヒフミが、意を決したように尋ねる。

    「何でも言ってくれ」
    「あの、リリちゃんはその子と、仲直りしたいんですよね? お友達として仲良くしたいって、そう思ってるんですよね?」

    阿慈谷ヒフミのその質問に百合園セイアは呆気にとられたような顔をする。
    「あ、ああ。……そうだね。友達として、という考えはあまりなかったが。彼女の事を友人だと思っているし、仲良くしたい、って思っているよ。」
    「そうですよね? では……その子に、それは伝えましたか? えっと、あっているかは分からないんですけど、リリちゃんのお話からその話は無かったので。」
    「……」
    百合園セイアは黙って阿慈谷ヒフミの言葉に耳を傾けている。

    「でも、もしかしたらリリちゃんからは謝るだけじゃなくて、仲直りしたい、仲良くしたいってそのお友達に伝えてあげることも、大事なのかなって思って……あうっ、あっている保証はないんですけど」
    「良いんじゃない? 怪我させそうになった相手からなんて、嫌われてるかもって私だって考えると思う。自分が悪いって謝ることはできても、仲良くしたいって、傷つけちゃった側からは言い出しにくいわよ」
    聞いていた下江コハルも阿慈谷ヒフミの意見に同意する。彼女も素直なタイプとは言えないので、聖園ミカ側の気持ちがわかるのかもしれない。

    「……成程、確かにそういうこともあるかもしれない。いや、そうか。私はまた目的を見失っていたようだ。私も悪いというだけでない、彼女の罪悪感を取り除きたいという話でもない。ただ、友人としてやり直したいと思ったんだ」
    2人の言葉は、百合園セイアに深く刺さったらしい。演技で使っていた『僕』という一人称も忘れ、自分の考えを再確認している。

    「ありがとう、二人とも。今度あの子と会った時は、もっと自分の気持ちを伝えるよう心がけよう。コハルのいったように、回りくどいのもやめだ。」
    百合園セイアは、二人にそう言って感謝の意を示した。

  • 45水着ティーパーティ25/11/05(水) 00:03:45

    その後、電気が復旧し、第一回水着ティーパーティーは解散の運びとなった。
    ドライヤーや洗濯機の様子を見に浦和ハナコや下江コハル、阿慈谷ヒフミが出ていくなか、残った白洲アズサが百合園セイアに近づく。

    「リリ……さっき言っていた来客って」
    律儀にリリと呼んで、彼女が質問をする。

    「ああ……君の想像している人物で間違いないと思うよ、アズサ」
    「そっか……私が言うのもなんだけど、仲直り、できるといいな。人間関係も、虚しいものかもしれないけど、それでも繋がりは大事にした方が良いと思う」
    「うん。肝に銘じるよ」

    白洲アズサが頷いて3人を追いかける。
    私も後片付けは任せ、再開できそうな補習授業の準備を行うことにした。

  • 46二次元好きの匿名さん25/11/05(水) 00:04:52

    本日はここまで

    水着ティーパーティといえば、皆様はお持ちでしょうか。

  • 47二次元好きの匿名さん25/11/05(水) 07:28:05

    やはり対話、対話こそが全ての解決策の糸口なのである(ガンダム00並感)

  • 48二次元好きの匿名さん25/11/05(水) 08:04:42

    ???「おまんらはいつも言葉が足らんがじゃ!」

  • 49二次元好きの匿名さん25/11/05(水) 15:13:19

    それはそう

スレッドは11/6 01:13頃に落ちます

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