- 1二次元好きの匿名さん25/11/03(月) 20:51:15
- 2二次元好きの匿名さん25/11/03(月) 20:53:01
適当なスレ画でも構わない程度の仕上がりってことだね
気楽に読むよ - 3二次元好きの匿名さん25/11/03(月) 21:00:03
「……」
ち、つ、て、と、な、なこ、なさ、なし……
「……これ、か」
クルクルとペンを回し、軽く書き込んでいく。随分と書き慣れた物だ。
今年に入ってから、遺産以外での雷帝云々は少し落ち着いた。遺産に関してはやはり変わらず。それ以外で言えば、雷帝時代において、ある程度錯綜していた情報をまとめる事に成功した。
だからこそ、始めたものがある。
「……貴女の両親についてですが」
何も言わず、紙をそっと差し出す。
「母親、父親、双方生死不明……と、なっています」
いつもよりも礼儀を正し、慣れない丁寧語で、自身の言葉でハッキリと伝える。一瞬、目の前に居る少女の顔に陰りが走る。けれど、直ぐに立ち直って、大きくお辞儀をしてくれた。
多分、直ぐに探しに行ったのだろう。それだけで、少女は執務室の外へと駆け出していった。目線だけで見送った後、ペンを机に置いた。 - 4二次元好きの匿名さん25/11/03(月) 21:12:58
───雷帝時代の死傷者、行方不明者、及び生死不明者。
整理していれば、否が応でも目に、耳に入ってくる。まだイザコザも残っているし、全てが終わった訳でもない。この揃っている情報が、全て正しい訳ではない。正確率は大まか、80から70か。
……私の家族は自分の目で確かめたのだから、それだけは120はあるだろう。
「……」
これだけでは収まらず、合計で2冊。ここ数ヶ月で私たちの元へと来たのは数千にも及んでいるだろう。ただ、これでも全体の2割程だ。印は付けているが、全員の数をちゃんと数えている訳じゃない。
しかも、少なからず、これは私たちで調べて、雷帝の時代後、主に行方不明となっている人物を載せているだけ。ここに無いだけで、きっと数十倍死んでいるはず。
「……」
暇があると、眺めてしまう。自分と同じ苗字を探し、それを指でなぞる。───両親の名前の横に書かれている文字が伝えるのは、この世に居ないという簡潔な事実。それ以外は、示さない。
毎回ここに来た人に伝えて、その人物が喜んだり、嬉しがったり、絶望したり、泣いたり、どんなリアクションをしようと、結局私は大切な人の名前を見てしまう。もしかしたら、見間違えなんじゃないか。実は生きていて、私が書き間違えているだけではないか。
そんな希望に縋るぐらいなら、私はとっても情けない人間だろう。死んだことなど、既に自分の目で見て分かっているのだから。 - 5二次元好きの匿名さん25/11/03(月) 21:23:44
「───ん」
そういえば。さっきある名前が見えた。なす、から一気に捲って、はぬまで来たから……なすの直後。部下の苗字が見えた。
「……」
探し出して、ジッと見つめた。見間違いではなかった。私自身が8割ぐらい書いてはいるが、全てを知っている訳ではない。残りの2割は、空崎ヒナや部下が書き込んでくれた。恐らく、その残りの2割に入っていたのだろう。
「……チアキ」
はいはーい!と言った元気な声が聞こえて、手を上げてくれた。ここからだとあまり見えないが、ダッと走って見えるところまで来てくれた。
「チアキは雷帝時代、孤児院に居たんだったな?」
あまりにも唐突な自分の問いかけに、キョトンとしてからハイ、と首が縦に振られた。 - 6二次元好きの匿名さん25/11/03(月) 21:31:37
───死地を乗り越えて、ようやくなれた3年生。
雷帝の影響で完全に機能しなくなった万魔殿に、代理として付いたのが、2年時の私だ。今は違うが、その時はまともに政治なんて出来ないし、しても聞いてくれる奴など居ない。そんな状態であった。つまりは、ある意味の独裁状態。
だから、私は誰の意見も聞かず、一時的に身よりの無い生徒や、人たちを学園に匿う事にした。まだ息がある雷帝派閥の人間が居る可能性のある自治区において───何人も死んでいる人たちを見た。出来る限りに死ぬ人を減らしたい。そんな願いだった。
そこで事件は起きた。3年生になった直後の事である。突如として起きた───雷帝派閥の人間による襲撃の発生。 - 7二次元好きの匿名さん25/11/03(月) 21:40:51
学園自体は、激しい被害は受けずに済んだ。ヒナや、当時は風紀委員会に所属していたカヨコの存在もあったのだろう。
問題は、ゲヘナ自治区の被害だった。全ての施設にヒナやカヨコクラスは居ない。結果として、雷帝が君臨していた最後の日に並ぶ程の最悪な被害を齎した。血まみれで、地獄絵図となった自治区は、目を逸らしたいほどであった。
今更構ってなど居られない。かつての部下であれ、尊敬する人であれ、雷帝派は完全に殺す。最悪な事態の中で、私たちはその決断を下した。それからの数ヶ月は、正直、思い返したくなどない、絶望の日々だった。風紀委員会及びヒナと関係が悪化したのも、この殲滅作戦が関係していただろう。
───そんな中で、出会ったのがある3人の少女であった。
それこそが、ゲヘナ学園という学籍をまだ持っていなかったチアキとイブキ。
そして、イロハであった。 - 8二次元好きの匿名さん25/11/03(月) 21:58:05
「あぁ……過去を掘り返そうとする訳じゃないんだが……」
うつらうつら出会った時を思い出しつつ、ちょいちょいと手招きした。イブキと同列レベルで健気にトテトテと寄ってきて、グッとしゃがむ。
「これだ」
「ん〜?」
指を指した所を覗き込み、その後に考え込むような呼吸音が聞こえた。棗チグサ───身内に居るが、あまり珍しくない苗字。その下にある、棗イロハという文字。私はこの人物は知らないが、イロハの名前がある以上、これは彼女の家族で間違いないだろう。
彼女を呼び出したのは単純だ。大切で、雷霆の被害を酷いほど受けている人物だからこそ。また彼女たちも自分を思ってくれているからこそ───お互いに地雷は踏みたくない。だから、プライベートには踏み込みすぎずに、地雷源は知っておきたい。 - 9二次元好きの匿名さん25/11/03(月) 22:09:47
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- 10二次元好きの匿名さん25/11/03(月) 22:13:17
とりあえず埋めます
- 11二次元好きの匿名さん25/11/03(月) 22:36:30
(定期的に雷帝の漢字変換が終わってる)
チアキは少し考えた後、ふと呟くように音を出した。
「確か……イロハちゃん……の、いもうと……?だ、った……きが……?いや、多分妹ですね……」
かなりうろ覚えらしいが、ブンブンと首を振るのが見えた。妹、か。イロハよりも年下……イブキみたいな人物だったのだろうか。
「……ていうか、亡くなってるんですね……?」
イロハの妹と呼ばれるチグサの隣に書かれているのは、『死亡』の2文字。感動の再会なんてが出来る、事はなく、神は非情らしい。
「あぁ……というか棗の苗字、かなり多いな……」
「確かに、ですね……でも……ぜ、全部……」
やはり、重たい空気になってしまう。
チグサ、イロハの下に4つくらい綴られていた。両親と祖父母の4人だろう。4人以上の大家族であれば、へめめ1人は生きているかもしれない。けど、それら全てが───死亡の表記。
「……家族関連は、触れない方がいいな」
ぼんやり呟き、そっと指でなぞってみた。私の家族の名前に、いつもしている事。───やはり、事実は変わらない。 - 12二次元好きの匿名さん25/11/04(火) 07:39:09
私自身、彼女たちを匿ってからの事は知っている。どんな風に性格が変わっていったのかも知っているし、けれど、決してそれ以上は踏み込もうとはしなかった。
だから、孤児院に居た以上、家族の事を聞くのは申し訳なく感じて、その結果何も知らない状態が出来てしまった。
「……うーん……」
知らない事が良くない事ではない。だが別に、この死亡と表記されていた名前が、イロハの家族なのか知りたかっただけであり、決して慰めるとか、それ以上の事をしようとは考えていない。第一、自分でも思うが、地雷源を踏み込まないようにと知ったとて、それ以外で何になるのだ。
……割と自分でも謎行動してるな。
「そういえば、チアキもイロハの家族については聞いてないのか?」
そこで、何となく思うことがあった。もし雷帝時代、あの3人で一緒に居たのなら、少しは自分の事情を話していたんじゃないか?
それなのに、少し考えていたことを見るに、もしかしたらイロハは何にも話していない可能性がある。
「うーん……イロハちゃんから、ちょっと名前を聞いたぐらいで、亡くなってる事もなーんにも知らなかったですね」
やはりそうか。
……今、思い返したくないから言わないというのは分かるが、当時のチアキやイブキになら、言ってもいいのではないか?と、思ってしまうのは違うだろうか。 - 13二次元好きの匿名さん25/11/04(火) 17:04:29
このレスは削除されています
- 14二次元好きの匿名さん25/11/04(火) 23:15:48
まぁ、そう思ってしまうのは野暮だろう。無理して聞くことでもないし。
「……ふぅ……」
少し冷えたコーヒーを飲み干して、クルクルと、ぽ〜いとゴミ箱へと投げた。クリティカルヒット。良し。一旦萎縮しまいそうだった気合いを入れ直して、いつもの仕事に戻ろうとする。どこぞの風紀委員会のバカ服がやらかしてくれたせいで、少々ではあるが面倒な事をしなければいけない。ダルい……と、いうのは良くない。爪を噛んで、姿勢を整え直す。
「……あれ?」
ふと、此方に向かって走ってくる音が聞こえる。外の廊下。ドタドタと走っているようだけれも、足音が少し軽い。もしかしてイブキか?
「まごど、せんっ、せんばい〜〜〜……っ!!」
扉が開かれてチラリと見えた顔には、いつものような朗らかな笑顔が消えうせて、いつもの泣き顔よりも2倍は深刻な顔をしていた。
「……マコト先輩何かしました???」
「する訳無いだろぉっ!!!?」
チアキにあらぬ疑いをかけられたが、無論私は何も知らない。本当に分からない。隣に走ってきて、むぎゅうと顔を押し付けてくる。ひぐ、えぐ、上手く声を紡げず泣きじゃくってしまっているイブキの頭を優しく撫でる。
「イブキ、大丈夫……か……?何があったんだ?」
少しずつ撫でているうちに、段々と落ち着いてきたのか、小さくでも呼吸音が聞こえるようになった。泣き声しか聞こえなかったのも、何かを喋ろうとしているような声も混じる。
「……い、いろっ……は、せんぱいがっ……」
鼻水をずずずっと啜りながら、ぐしぐしと目を擦り続けている。なんとなく、嫌な予感がした。
「……た、たおれ……たって……!」
───嫌な予感だとしても、せめて、もっと軽めな物であって欲しかった。最悪も最悪だ。