- 1二次元好きの匿名さん25/11/05(水) 16:43:29
前回までのあらすじ
生まれつき額に痣を持って産まれ、呼吸を身に着けていた炭焼きの少年…竈門炭治郎
いつもと変わらぬ平和な日々を送っていたある日、彼は家族を鬼の手によって失ってしまう
そして、家族を゙無残に喰い荒らしたのは鬼と化した妹…竈門禰豆子かもしれないと告げられるのであった
鬼狩り、冨岡義勇の言葉に従い狭霧山を目指した炭治郎はそこで鱗滝左近次という育手によって鬼と戦う術を学ぶ
狭霧山で2年の時を過ごし…錆兎、真菰の手も借りて成長した炭治郎は最終選別を突破…鬼殺隊の一員となった
初めての任務で直面した現実
鬼と化した妹の禰豆子との再会
すべての鬼の始祖、鬼舞辻無惨との邂逅
鬼を人に戻す術を探す鬼の女性、珠世…彼女に付き従う鬼の少年、愈史郎との出逢い
ぶつけられた殺意、恨み、妬み…そして、愛情
苦難を乗り越えながら炭治郎は、新たな任務先で我妻善逸と嘴平伊之助に出会った
このふたりとこれから長い付き合いになっていくことを…炭治郎はまだ知らない…
前スレ
[IF.閲覧注意]俺には生まれつき痣があったそうです[SS]|あにまん掲示板「炭治郎…こんな雪の日まで無理しなくてもいいのに」「正月も近いし…少しでも炭を売ってくるよ」竈門葵枝から煤だらけの顔を拭ってもらった炭治郎は柔らかい笑みを浮かべた「それに、母ちゃんも知ってるだろ?俺は…bbs.animanch.com参考スレ
[IF・閲覧注意]炭治郎が縁壱の転生体だった世界線|あにまん掲示板俺の額には生まれつき痣があったそうです確かに物心ついた頃から、疲れを感じたことはありませんでした父から学んだ神楽も、動きを覚えたその日のうちに一晩中…いや、余程嬉しかったのかそれ以上踊り続けていたと聞…bbs.animanch.com【if注意】禰󠄀豆子が原作より早く鬼化し夜の間に竈門家を離れ人喰い鬼となってしまった鬼滅でありそうな展開を妄想するスレ|あにまん掲示板なお、・近くに来ていた冨岡さんと遭遇 ・三郎じいさんの家を発見し炭治郎を56すといった展開は十分あり得るが話が終わってしまうので無しとするbbs.animanch.com - 2二次元好きの匿名さん25/11/05(水) 16:48:38
善逸は正一と名乗った少年の手を引いて屋敷を彷徨っていた
「すみません善逸さん…」
「ヒャーーーーーーッ!?」
正一の声に飛び上がった善逸が、奇声を上げて正一にしがみつく
「合図合図合図合図をしてくれよ…話しかけるなら急にこないでくれよ…心臓が口からまろび出るところだった!もしそうなってたら正しくおまえは人殺しだったぞ!わかるか!?」
「すみません…」
善逸の顔が迫真過ぎて最早謝ることしかできない
「ただちょっと汗・息・震えが酷すぎて…」
「なんだよぉ!俺は精一杯頑張ってるだろ!!」
「いや…申し訳ないんですけど俺も不安になってくるので…」
「やだ!ごめんね!?」
流石に自分より歳下の少年を不安にさせるわけにはいかない…それでも善逸はまだ怯えていた
「でもな!?あんまり喋ったりしてると鬼とかにホラ…見つかるかもだろ!?だから極力静かにしたほうがいいって思うの俺は!どう!?」
そう必死に叫ぶ俺が一番煩いかもしれない…そんな善逸の背後で、がさっと音がした
第10話 猪はどつき、善逸は殴る(後編) - 3二次元好きの匿名さん25/11/05(水) 16:53:18
「アッーーーーーー!!来ないでぇ!!来ないでくれぇ!やめてぇぇぇぇ!!」
汚い高音を発しながら、善逸は正一の手を引いてカエルのような鬼の追撃を必死に躱していた
背後で鬼の伸ばした舌で正一少年ほどの大きさのある水瓶がいとも簡単に割られてしまう
「なにそれ舌速ァ!!水瓶パカッて…ありえないんですけど!!」
襖を破り、近くの部屋へと善逸たちは倒れ込むようにして飛び込んだ
「善逸さん立って!」
「膝にきてる!恐怖が八割膝に!!」
いち早く立ち上がった正一が善逸の手を引く
「おおおお俺のことは置いて逃げるんだ!」
「そんなことできない!!」
こんなに怯えた"音"になりながらも自分を助けようとする正一…守ってやりたい、守ってあげなきゃいけないという思いと自分の弱さじゃ守ってあげられないという思いがぐるぐると善逸の頭の中を駆け巡っていく
「ぐひひ…おまえの脳髄を耳からじゅるりと啜ってやるぞぉ…」
べきべき、と今度は背後の襖が壊れる
「抉りがいがありそうなヤツがいるじゃねぇか…」
現れたのは、丸々と太った巨漢の鬼…そこまで聞いてから…善逸の意識は完全に途切れてしまった - 4二次元好きの匿名さん25/11/05(水) 17:02:41
「稀血…稀血…アレさえ喰えば…50人…いや、100人分…」
響凱は稀血の少年を探しながら、屋敷を彷徨いていた
「稀血の人間をもっと探して喰うのだ…そうしたら小生は…また十二鬼月に戻れる…!」
響凱の瞳に刻まれる"下陸"の文字…だがその瞳には、痛々しい爪痕が残されていた
「清兄ちゃん!!」
てる子の声に鼓を打とうとしていた少年…清の手が止まる
「お兄ちゃん!お兄ちゃん!」
「てる子…!その人たちは?」
妹を抱き締めた清は、てる子の背後に立つふたりに目をやる
「俺は竈門炭治郎、こっちは嘴平伊之助…悪い鬼を倒しにきた」
「おうよ!俺様が来たからにはもう安心だぜ!」
ふんす!と鼻息荒く胸を張る伊之助…炭治郎は少しだけ苦笑いしながら、清の傷の手当てを始める
その過程でどうやって今まで生き抜いてきたのか…そして、稀血とはなんなのかを炭治郎は耳にする
伊之助はひとり落ち着きがなく彷徨いているが、危害を加えるつもりはなさそうだ
「…伊之助!」
「おう、わかってるぜ惣一郎!」
また名前が変わってる…けどよかった…伊之助も気づいてくれたらしい
「…あいつの相手、頼めるか?いま頼れるのはおまえしかいないんだ…伊之助」
「お…おお…?」
一瞬、なにかぽやぽやした匂いを伊之助から感じた…が、すぐに闘気を剥き出しにした匂いへと変わる
「おうよ!俺様に任せておけ!」 - 5二次元好きの匿名さん25/11/05(水) 17:12:38
「清、あの猪頭の人…伊之助が部屋を出たらすぐに鼓を叩くんだ…それから、次に移動した先では俺もこの部屋を出る」
その言葉に、清とてる子の顔がさっと青ざめていく
「大丈夫、今まで清がしてきたように誰かが部屋を開けようとしたり物音がしたら間髪入れずに鼓を叩いて移動するんだ」
ぎしぎし、と重い足音がゆったりと近づいてくる
「後で俺が必ず迎えに来る、二人の匂いを辿って…部屋に入る時は名前を呼ぶから」
ぽんぽん、と清の頭を叩く
「もう少しだけ頑張れ…出来るな?」
こくり、と清とてる子が力強く頷いた
「よし、偉いぞ!強いな!」
今にも飛び出して行きそうな伊之助の肩を叩き、炭治郎はそっと囁く…
「…いけるか?」
「…おう!よくわかんねぇけどわかったぜ!」
襖がゆっくりと動き、鬼が顔を覗かせる
「オラアアアアアア!猪突猛進!!」
伊之助が一直線に飛びかかる
「今だ、叩け!」
炭治郎の一言を皮切りに、清が鼓を叩く…部屋が移動し、戦いの音が遠くから響いてくるようになった
「…よし」
匂いで近くに鬼がいないことを確認した炭治郎は、廊下へ足を踏み出す
襖を締め、すうっと深く息を吸い込む…やっぱりそうだ…鬼の匂いが染み付いていて初めはわからなかった
それでもこうして集中すればわかる…伊之助に任せた異能の鬼…そして清が話していた残り2匹の鬼…それよりもずっと濃い匂いが屋敷の中へ漂っている
ずっと潜んでいたんだ…十二鬼月、下弦の鬼が - 6二次元好きの匿名さん25/11/05(水) 17:20:32
唐突に眠りこけた善逸を見て、正一も気を失いそうになった
目の前にも鬼、後ろにも鬼…
「わあああああ!善逸さん!起きて!起きてよ!」
正一は必死に善逸の身体を揺する…もうダメだと諦めかけた瞬間、身体が引っ張られる感覚と共に宙へ浮いた
いつの間にか、巨漢の鬼が破った襖の先にある部屋にいた…正一の襟首を掴んでいた手を離し、善逸が構える
シィィィィィ!と独特な呼吸音がする
善逸の雰囲気が一瞬で変化したことを、2匹の鬼も察知していた
その構えは低く、低く…前へと踏み込むこと以外考えていないような形へ変わる
「雷の呼吸…壱ノ型…」
ドン!と衝撃を感じるほどの踏み込みが"ふたつ"…その速度と音は、まるで雷鳴を感じさせるものだった
「霹靂一閃」
正一が、カエルの鬼が、巨漢の鬼が、瞬きをする間に宙を舞う…善逸は2匹の鬼の頸を一息で斬り落としていた
「んがっ!?」
弾かれたかのように、善逸が意識を取り戻す
「ギャー!?死んでる!!」
足下へ転がってきたふたつの頸を見て、善逸は飛び上がる
「急に死んでるよ!なんなの!もうやだ!!」
ガタガタと震える善逸と唖然とする正一の目がばちりと合う - 7二次元好きの匿名さん25/11/05(水) 17:31:23
「正一くん…まさか…」
ふらふらと善逸が歩み寄ってくる
「ありがとう!助かったよぉぉぉ!この恩は忘れないよぉぉぉぉ!こんな強いなら最初に言っといてよ〜〜!!」
しがみついて泣きじゃくる善逸に、正一はただただ困惑した…様々な考えが頭を巡っていく
「…行きましょうか」
「うん…」
正一は、途中で考えるのをやめた
「ギャハハハ!俺の刀は痛いぜ!坊っちゃんが使うような刀じゃねぇからよ!千切り裂くような切れ味が自慢なのさ!」
ぐるぐると回る部屋を跳ね回り、時折放たれる爪の攻撃を掻い潜りながら伊之助は鼓の鬼と相対していた
『いいか?右肩は右に、左肩は左に、右足は前に、左足は後ろに、腹は攻撃だ…いけるか?』
伊之助は権八郎の言葉を思い出していた
悔しいがアイツは強え、俺の何倍も強え!だがそいつをぶっ倒せたのなら俺はもっと強え!
気に入らねぇがあいつの言ったことは間違いなかった…この面白おかしい部屋へと簡単に対応出来ている
「行ける!行けるぜぇぇぇ!まずはテメェを倒して踏み台にした後は…あいつをぶっ倒して!俺の強さを証明してやるぜ!」
伊之助の振るう刃が、鼓の鬼の腕を掠めた - 8二次元好きの匿名さん25/11/05(水) 17:43:06
(あいつだ…あいつを喰えば俺はもっと上の数字を目指せる…)
"下弦の参"、病葉は稀血の少年を探して屋敷を歩き回っていた
元下弦の陸、響凱が見つけた稀血の少年…奪い取る機会を伺っていたら同じように匂いを嗅ぎつけた鬼たちに先を越されそうになった
そしてやつらは喧嘩を始めた…その隙に奪い取ろうとしたがあの少年は響凱の鼓を使って逃げてしまった
それからずっと、見つけられずにいる
(くそ…アイツを喰って力をつけて…無惨様に認められれば…また血を分けて頂けるのに…)
ぎし、と自分のものとは違う足音がする…反射的に振り向いた先に…その男はいた
花札の耳飾り、赤い羽織り、黒い刀…無惨様から聞いた
こいつが下弦の陸、釜鵺を殺した鬼狩り…!
「……っ!!」
ビリビリと肌がひりつく…それは釜鵺の一計、戦闘でかなりの傷を負っているはずの男から放たれている殺気ではなかった
鬼狩りが踏み込んできたのと病葉が後ろへ飛んだのは、ほぼ同時だった
ざん、と床板が豆腐のように切り裂かれる…追撃が来た
頬を刃が掠める…血が噴き出し、激痛が走る
だが行ける、俺の速さなら行ける…! - 9二次元好きの匿名さん25/11/05(水) 17:49:14
部屋中をボールのように跳ね回る病葉…炭治郎はなんとかその動きを目で捉えていた
そして、今になってまた傷が痛み始めていた…攻撃を防ぎ、弾く度に生温かいものが広がるのを感じる…傷が開いている
ヒュウ、と炭治郎は呼吸を整える
力を抜け…水面のように、心を安らかに…無駄な動きを省け、脚を無駄に踏み出すな…
(こいつ…動きが変わった…?)
さっきまで受け止める形になっていた防御が、次第に受け流すような形に変化していた
が、それだけだ…殺れる、今のこいつからはさっきのような怖さが感じられない!
だん!と壁を踏み締めて一気に距離を詰める…ガラ空きの腹を貫けば人間は簡単に死ぬ
引き絞る弓のように腕を引いた…同時に聞こえるゴォォ、と言う耳障りな呼吸音
ヤツの刀が、赫く染まっていた
すれ違いざまの一閃で、病葉は頸を斬り落とされた
勢いのまま吹き飛んだ頭は壁に当たって跳ね返り…鬼狩りの足下まで転がっていく
(くそ、くそくそくそくそ!せっかく十二鬼月になれたのに…こんな…こんなガキに…)
鬼狩りを睨みつける…そんな病葉を見つめ返す瞳は、どこまでも静かで、憂いを帯びていた - 10二次元好きの匿名さん25/11/05(水) 17:58:29
「……っ……はぁ!!」
炭治郎は止まりかけていた息をなんとか吹き返した
(痛い、痛い痛い痛い痛い痛い!落ち着け!呼吸を整えろ!整えるんだ…!)
刀で身体を支えながら、炭治郎は深く息を吸い込む
飛びかけていた意識が徐々に回復し、身体の痛みも和らいでいく
(ヒノカミ神楽…身体が傷ついているだけで…こんなにも反動がくるものなのか…!?)
我ながらとんでもないものを扱っているのではないかと炭治郎は戦慄し始めていた
鱗滝さんが『もっと身体を強く大きくしろ』と口酸っぱく言っていた理由が、改めてわかった気がした
「………ふぅ」
ゆっくりと立ち上がった炭治郎は、刀を鞘へと納める…
「そうだ…これ…」
炭治郎は思い出したように胸元から短刀を取り出す…それは、鬼と戦った時に血を採取出来るようにと珠世から渡されたものだった
回る、廻る、輪る…目まぐるしく回転する部屋の中で、伊之助は攻撃の機会を伺っていた
その速度は更に上がっていく…何度か身体を激しく打ち付けはしたが、ダメージとしてはまだ少ない
それよりも何度か身体を掠めた見えない爪の攻撃が厄介だった - 11二次元好きの匿名さん25/11/05(水) 18:06:54
跳ね、伏せ、翻し、伊之助は着実に攻撃を回避していく…いや、慣れ始めていた
部屋の回転と踏み込むための足場、鼓の鬼の立ち位置が交わる瞬間を…伊之助は狙っていた
「我流、獣ノ呼吸…参ノ型!」
伊之助は一直線に鼓ノ鬼を目指す
肌でびりびりと感じる…身体を輪切りにしようとする爪の攻撃…が、甘ぇ!
伊之助の柔軟性は人のソレとはかけ離れていた…常人より遙かに低い体勢のまま伊之助は響凱の目の前へと跳ね上がるように接近した
「喰い裂きィ!!」
響凱の頸が宙を舞う…だん!と着地した伊之助は、ひとり勝利の咆哮を上げた
「清!てる子!」
「うわーっ!!」「きゃああああああ!!」
二人の悲鳴と共に大量のものが投げつけられてきた
「うわっ!なんで物を投げつけるんだ!?」
「ご、ごめんなさい!鼓が消えちゃって混乱してそれで…」
そうか、伊之助はあいつを倒したんだな…一安心した炭治郎は、清を背負って屋敷の外を目指す
どうやら善逸たちはもう外に出ているようだ…匂いがする
伊之助は…まだ出てきていないらしい、迷っているのか?
炭治郎が連れてきたふたりの姿を見た正一少年が飛びついてくる…家族の再会にホッとしたのも束の間…
「猪突猛進!!」
壁をぶち破って、伊之助は屋敷から脱出してきた
「竈門炭治郎!!俺と戦え!!」
再び刀を抜いて…伊之助は信じられないことを口走った
第10話 猪はどつき、善逸は殴る(後編) 終 - 12二次元好きの匿名さん25/11/05(水) 18:09:59
- 13二次元好きの匿名さん25/11/05(水) 18:42:59
そうだよね
すでに現役下弦を倒してるんだから元下弦だけじゃ力不足も良いところだから追加戦力要るよね - 14二次元好きの匿名さん25/11/05(水) 19:06:28
乙です
何気にこれが日頃の楽しみになってきている - 15二次元好きの匿名さん25/11/05(水) 20:55:24
- 16二次元好きの匿名さん25/11/06(木) 02:11:06
保守
- 17二次元好きの匿名さん25/11/06(木) 08:17:10
保守
これからも無理のない程度で頑張ってください - 18二次元好きの匿名さん25/11/06(木) 13:59:07
乙です!楽しみにしてます
- 19二次元好きの匿名さん25/11/06(木) 17:06:50
- 20二次元好きの匿名さん25/11/06(木) 17:09:07
俺はな…昔から耳がよかったんだよな
寝てる間に人が話してたことを知ってる時があって気味悪がられたっけ…
鬼の音が消えた…炭治郎、鬼倒したんだな…
炭治郎たちと…あとなにか変な足音がするな…
「…ん!善逸さん!」
正一の声で、善逸は目を覚ました
「…大丈夫ですか?部屋が変わった時の勢いで外に飛ばされたんです…2階の窓から落ちました!」
「…そうだっけ?」
戦いの緊迫感から解放せれた善逸は、のほほんと返事を返す
「善逸さんが庇ってくれたから俺は大丈夫ですけど…」
「それはよかった…なんでそんなに泣いてんの?」
何気なく頭に触れた手に、ぬるりとしたものが付着する…血だ、これ俺の血じゃん
「なるほどね!?俺が頭から落ちてんのね!?」
はい、と弱々しく正一が頷く…また気を失いかけた善逸の耳に、少し重くなった炭治郎の足音と小さな女の子の足音が届く
「清兄ちゃん!」
「正一!」
わっ、と感動の再会を果たした家族…思わずホロリと涙が零れる…が、その静寂を切り裂くように慌ただしい足音が近づいてくる
「猪突猛進!!」
壁をぶち破って、猪頭の男が屋敷から飛び出してきた
第11話 藤の花の家紋の家 - 21二次元好きの匿名さん25/11/06(木) 17:19:03
「竈門炭治郎!俺と戦え!」
日輪刀を抜いて、信じられないことを口にする猪頭…その声を聞いて、善逸は思い出した
最終選別の際に居た5人目の合格者のことを…
「思い出した…!炭治郎さん…こいつ、5人目合格者だ!誰よりも早く入山して誰よりも早く下山したせっかち野郎…!」
「名前は嘴平伊之助って言ってたぞ?」
炭治郎が猪頭…もとい伊之助を指さして言う
「そうなのね!?もう屋敷の中で自己紹介まで済ませてたのね!!」
いやもうなんとなくわかっていたけど改めて言われると混乱してくる…それよりも…あいつ、本気だ…本気で戦おうとしている…!
言うが早いか、伊之助は炭治郎に斬りかかった…
「………は?」
「鬼殺隊員で徒に刀を抜くのはご法度だ!おまえも鬼殺隊員なら知ってるだろう!!」
善逸は困惑していた
なに?俺って今なにを見ていたんだ?伊之助が飛びかかったかと思えば、炭治郎が秒で武装解除をして伊之助を投げ飛ばしていた
ぱんぱんと手に付いた埃を払うようにして炭治郎は声を荒げる
「刀がダメなのか…それなら…素手で殴り合おう」
「だからそういうわけじゃ…!」
話を聞く気がないのか、再び伊之助が飛びかかってくる
「ちょっと落ち着け!!」
ごしゃっ!と人の頭からしてはいけない音を聞いて善逸は思わず耳を塞いだ…もうやだ!なんか頭蓋骨が砕けててもおかしくない音がした!
よたよたとふらついた伊之助の頭から猪頭…被り物がぼとりと落ちる - 22二次元好きの匿名さん25/11/06(木) 17:31:20
「え!!は!?顔!?女!?」
「なんだコラァ…俺の顔に文句でもあんのか…?」
なんともアンバランスだった…パッと見誰の目から見ても美形と見て取れる伊之助の顔
だが鍛えられた肉体もあってどこかアンバランスさを゙感じさせていた
「君の顔に文句はない!こじんまりしていて色白でいいんじゃないかと思う!」
「コロすぞテメェ!!」
善逸たちは最早付け入る隙もない戦い?に唖然としていた
喧嘩には間違いない…けど炭治郎が圧倒的に強い…いや、強すぎた
ぴたり、と伊之助の動きが止まる…ぐるんと白目を剥いたかと思えば、そのままバタンと倒れてしまった
「えっ…し、シんだ!?」
「いや…多分脳震盪だ…俺が思い切り頭突きしたから…」
どれだけ硬い頭なんだ…と善逸は震え上がる
今度なにかしたらアレが来るかなと想像すると…死にたくなった
ややあって、伊之助は目を覚ました
ぐるりと周囲を見渡すと、炭治郎たちは土饅頭を作っていた
「なにしてんだテメェら!!」
「埋葬だよ…まだ屋敷の中に殺された人がいるんだ、伊之助も手伝ってくれるか?」 - 23二次元好きの匿名さん25/11/06(木) 17:39:34
「生き物の死骸なんて埋めて何の意味がある!やらねぇぜ!手伝わねぇぜ!」
「…伊之助」
ポン、と炭治郎は伊之助の肩を叩く
「確かに、意味があるかと言われたらないとも言えるよ…けどな、それだと悲しいんだよ」
優しい声色に、いつ飛びかかろうかと構えていた伊之助の身体から力が抜けていく
「伊之助がどう育ったのか、どんな価値観があるのかは俺にはわからない…知り合ったばかりだからな」
よっ、と少し大きめの石を運び…炭治郎は土饅頭へと重ねていく
「けど伊之助だって、自分のよく知る人や動物が死んでしまったら悲しいだろ?悲しいから俺たちはこうして墓を作って手を合わせるんだ…その人のことを忘れないようにね?」
「………」
炭治郎の言葉に毒気を抜かれたのか、それともまだ理解が及ばないのか…伊之助は立ち竦んでいた
「善逸、悪いけどもう少し石を集めておいてくれないか?俺は屋敷に入って遺体を運んでくるから…」
「お…」
ぷるぷる、と伊之助が震える
「俺も行くぜ"親分"!!百人でも二百人でも運んで埋めてやらぁ!!」
「親分!?いやいやいや、ありがたいけどそんなにたくさんはないから…」
「そうか!それなら俺と親分ならあっと言う間だな!ギャハハハ!」
((((親分…?))))
善逸たちはその変わりようにただ困惑していた
「炭治郎さんって…なんだか不思議な人ですね」
清がそう口にする - 24二次元好きの匿名さん25/11/06(木) 17:47:30
「……そうだね」
善逸は清の言葉に同意した…確かに炭治郎さんは不思議な人だ
炭治郎さんからは嘘も偽りもない優しい音がしていた…そして同時に、哀しい音もしていた
『炭治郎さんは…どうして鬼狩りに?』
泣きじゃくりながら一方的にぶちまけた身の上話を、炭治郎さんは黙って聞いてくれた
少しだけ気持ちの落ち着いた善逸は、どうしても気になって尋ねてしまったのだ
『…そうだね、多分ありきたりな理由だと思うよ』
それ以上、炭治郎さんは語ってくれない
けど…その質問をした瞬間に心が曇っていく音が聞こえた
まるで、どこまでも広がる青空が急な雨雲に包まれてしまったかのような音
だからそれ以上は聞くことが出来なかった…それと同時に理解もした
炭治郎さんが、どうして強いのかを
埋葬を終えた一行は、一悶着ありながらも清たちと別れて鎹鴉に導かれながら町へと向かっていた
そこで伊之助が山の中でひとり育ったこと、育手を介さずに鬼殺隊員から日輪刀を奪って最終選別に参加したことを聞いた
こいつもこいつで、どこまでもデタラメなやつだった - 25二次元好きの匿名さん25/11/06(木) 17:58:40
辺りが暗くなって来た頃、炭治郎たちが案内されたのは藤の花の家紋がある大きな屋敷だった
「カァー!休息!休息!負傷につき完治するまで休息せよ!」
「休んでいいのか?」
ケケケ、と鎹鴉は笑う…こいつ、先の任務では怪我人を戦わせておいて…
「はい…」
ギィ、と門が開いてひとりの老婆が姿を見せた
「夜分に申し訳ありません、俺は…」
「鬼狩り様でごさいますね…どうぞ…」
老婆は炭治郎たちのことを知っていたのか、深々と頭を下げて屋敷へと案内してくれた
あれよあれよと食事、寝床と準備が進んでいく
「た、炭治郎さん!あれ絶対に妖怪だよ!だって異様に準備が早いもん!!妖怪だ!妖怪婆アーーーッ!?」
炭治郎さんの拳骨は、やっぱりめちゃくちゃ痛い
食事中、鴉が教えてくれた
この藤の花の家紋の家は鬼狩りに命を救われた一族であり、鬼狩りであれば無償で尽くしてくれるそうだ
そしてお婆さんが呼んでくれた医者の手で、炭治郎たちは改めて治療を受けるのだった
「骨が折れてないのは俺だけか…ふたりとも大丈夫か?」
「伊之助の骨折の半分は炭治郎さんが原因だと思うけど…」
善逸と伊之助は並んで布団に寝かされていた…炭治郎はその傍らで一定の呼吸を繰り返している - 26二次元好きの匿名さん25/11/06(木) 18:08:13
「おい親分、さっきからやってるそいつはなんだ!」
「あぁ…この呼吸をすると不思議と身体の痛みが和らぐんだよ、治りも早くなるし…善逸と伊之助も、やれるならやっておいた方がいいぞ?」
「爺ちゃんもそんなこと言ってたな…呼吸を上手く使えば傷の痛みとかを和らげたりすることも出来るとかなんとかって…」
にゃ〜、と何処かから猫の鳴き声がした
「…ん?どうしたんだ〜、なにか持ってきてくれたのか?」
どこならともなく現れた猫を見て、炭治郎の顔がへにゃっとだらしないものに変わった
首から札を下げて背中には鞄を背負っている…誰かの飼い猫?いや、どちらかもいえば使い猫…?
ごろごろと喉を鳴らす猫の顎を撫でながら、炭治郎は鞄を探る…中からは恐らく手紙が入っているであろう封筒が出てきた
「これを届けに来てくれたんだな…ありがとう」
その後は炭治郎に一頻り撫でられて満足したのか、猫はもう一度にゃ〜と鳴いて溶けるように姿を消した
「えっ…はっ…!?」
消えた?今消えた!?混乱する善逸を他所に、伊之助はもうイビキをかいて眠りについている…そして当の炭治郎は手紙を手に立ち上がる
「その手紙…誰から?」
「珠世さんからだよ、知り合いなんだ」
「たま…よ…?たまよ…ハァアアアアアアアアアアア!?」 - 27二次元好きの匿名さん25/11/06(木) 18:21:12
「うわっ!?急に大声を出すなよ!夜中だぞ!」
「関係あるかーっ!!なんだよぉう!俺の結婚を邪魔しておいて!炭治郎さんにはもう意中の女性がいるってことなのか!?」
キエエエエエエ!と頭を掻きむしりながら善逸が絶叫する
「だから!この人はそういうのじゃないから安心してくれ…」
服を掴んでわんわんと涙と鼻水を垂らす善逸を、炭治郎はなんとか引き剥がそうとする
「なんなんだよなんなんだよなんなんだよもーーっ!!いや分かるよ!?炭治郎さんは優しいし?俺たちより背も高いし?強くてかっこいいし?抱擁力も段違いだし!?そりゃあモテててもおかしくはないと思うよ!?でもね!結婚したい俺の邪魔をしておいて自分は女の子と仲良くしてるなんて裏切り者もいいところ…」
「うるせェーーーーッ!!眠れねぇだろ善六!!」
「ギャーーーーーッ!!」
伊之助の飛び蹴りが善逸を襲う…あぁもう、また大騒ぎして…
ぎゃあぎゃあと取っ組み合いを始める二人を見て、炭治郎は盛大にため息をつく
ふと、封筒に書かれた名前が目に入る…珠世さんと…もうひとり?もしかして…
ドン!と暴れるふたりから背中に追突されて、封筒が宙を舞う…ビキッ、と額に青筋が走る音がした
「俺は手紙を読んでくる!骨折りの怪我人は大人しく寝ろ!」
「ハイ…ゴメンナサイ…」
「ゴメンナサイ…オヤブン…」
ずんずんと足音荒く部屋を出ていく炭治郎…襖だけは律儀に優しく閉じていく…それにしても頭の瘤が痛い、痛すぎて眠れそうにない
「…怖かったな」
「おう…怖すぎて漏らしそうだったぜ…」
善逸と伊之助の心の距離が、お互い一気に縮まった気がした
第10話 藤の花の家紋の家 終 - 28二次元好きの匿名さん25/11/06(木) 18:23:18
- 29二次元好きの匿名さん25/11/06(木) 20:52:18
炭治郎さん呼びと親分呼び
しっかり格付けというか躾が済んだな - 30二次元好きの匿名さん25/11/06(木) 21:18:48
怒ってどつきまわすから…
- 31二次元好きの匿名さん25/11/06(木) 21:59:09
- 32二次元好きの匿名さん25/11/06(木) 22:04:08
乙です 那田蜘蛛山編楽しみです!