- 1二次元好きの匿名さん25/11/05(水) 16:43:29
前回までのあらすじ
生まれつき額に痣を持って産まれ、呼吸を身に着けていた炭焼きの少年…竈門炭治郎
いつもと変わらぬ平和な日々を送っていたある日、彼は家族を鬼の手によって失ってしまう
そして、家族を゙無残に喰い荒らしたのは鬼と化した妹…竈門禰豆子かもしれないと告げられるのであった
鬼狩り、冨岡義勇の言葉に従い狭霧山を目指した炭治郎はそこで鱗滝左近次という育手によって鬼と戦う術を学ぶ
狭霧山で2年の時を過ごし…錆兎、真菰の手も借りて成長した炭治郎は最終選別を突破…鬼殺隊の一員となった
初めての任務で直面した現実
鬼と化した妹の禰豆子との再会
すべての鬼の始祖、鬼舞辻無惨との邂逅
鬼を人に戻す術を探す鬼の女性、珠世…彼女に付き従う鬼の少年、愈史郎との出逢い
ぶつけられた殺意、恨み、妬み…そして、愛情
苦難を乗り越えながら炭治郎は、新たな任務先で我妻善逸と嘴平伊之助に出会った
このふたりとこれから長い付き合いになっていくことを…炭治郎はまだ知らない…
前スレ
[IF.閲覧注意]俺には生まれつき痣があったそうです[SS]|あにまん掲示板「炭治郎…こんな雪の日まで無理しなくてもいいのに」「正月も近いし…少しでも炭を売ってくるよ」竈門葵枝から煤だらけの顔を拭ってもらった炭治郎は柔らかい笑みを浮かべた「それに、母ちゃんも知ってるだろ?俺は…bbs.animanch.com参考スレ
[IF・閲覧注意]炭治郎が縁壱の転生体だった世界線|あにまん掲示板俺の額には生まれつき痣があったそうです確かに物心ついた頃から、疲れを感じたことはありませんでした父から学んだ神楽も、動きを覚えたその日のうちに一晩中…いや、余程嬉しかったのかそれ以上踊り続けていたと聞…bbs.animanch.com【if注意】禰󠄀豆子が原作より早く鬼化し夜の間に竈門家を離れ人喰い鬼となってしまった鬼滅でありそうな展開を妄想するスレ|あにまん掲示板なお、・近くに来ていた冨岡さんと遭遇 ・三郎じいさんの家を発見し炭治郎を56すといった展開は十分あり得るが話が終わってしまうので無しとするbbs.animanch.com - 2二次元好きの匿名さん25/11/05(水) 16:48:38
善逸は正一と名乗った少年の手を引いて屋敷を彷徨っていた
「すみません善逸さん…」
「ヒャーーーーーーッ!?」
正一の声に飛び上がった善逸が、奇声を上げて正一にしがみつく
「合図合図合図合図をしてくれよ…話しかけるなら急にこないでくれよ…心臓が口からまろび出るところだった!もしそうなってたら正しくおまえは人殺しだったぞ!わかるか!?」
「すみません…」
善逸の顔が迫真過ぎて最早謝ることしかできない
「ただちょっと汗・息・震えが酷すぎて…」
「なんだよぉ!俺は精一杯頑張ってるだろ!!」
「いや…申し訳ないんですけど俺も不安になってくるので…」
「やだ!ごめんね!?」
流石に自分より歳下の少年を不安にさせるわけにはいかない…それでも善逸はまだ怯えていた
「でもな!?あんまり喋ったりしてると鬼とかにホラ…見つかるかもだろ!?だから極力静かにしたほうがいいって思うの俺は!どう!?」
そう必死に叫ぶ俺が一番煩いかもしれない…そんな善逸の背後で、がさっと音がした
第10話 猪はどつき、善逸は殴る(後編) - 3二次元好きの匿名さん25/11/05(水) 16:53:18
「アッーーーーーー!!来ないでぇ!!来ないでくれぇ!やめてぇぇぇぇ!!」
汚い高音を発しながら、善逸は正一の手を引いてカエルのような鬼の追撃を必死に躱していた
背後で鬼の伸ばした舌で正一少年ほどの大きさのある水瓶がいとも簡単に割られてしまう
「なにそれ舌速ァ!!水瓶パカッて…ありえないんですけど!!」
襖を破り、近くの部屋へと善逸たちは倒れ込むようにして飛び込んだ
「善逸さん立って!」
「膝にきてる!恐怖が八割膝に!!」
いち早く立ち上がった正一が善逸の手を引く
「おおおお俺のことは置いて逃げるんだ!」
「そんなことできない!!」
こんなに怯えた"音"になりながらも自分を助けようとする正一…守ってやりたい、守ってあげなきゃいけないという思いと自分の弱さじゃ守ってあげられないという思いがぐるぐると善逸の頭の中を駆け巡っていく
「ぐひひ…おまえの脳髄を耳からじゅるりと啜ってやるぞぉ…」
べきべき、と今度は背後の襖が壊れる
「抉りがいがありそうなヤツがいるじゃねぇか…」
現れたのは、丸々と太った巨漢の鬼…そこまで聞いてから…善逸の意識は完全に途切れてしまった - 4二次元好きの匿名さん25/11/05(水) 17:02:41
「稀血…稀血…アレさえ喰えば…50人…いや、100人分…」
響凱は稀血の少年を探しながら、屋敷を彷徨いていた
「稀血の人間をもっと探して喰うのだ…そうしたら小生は…また十二鬼月に戻れる…!」
響凱の瞳に刻まれる"下陸"の文字…だがその瞳には、痛々しい爪痕が残されていた
「清兄ちゃん!!」
てる子の声に鼓を打とうとしていた少年…清の手が止まる
「お兄ちゃん!お兄ちゃん!」
「てる子…!その人たちは?」
妹を抱き締めた清は、てる子の背後に立つふたりに目をやる
「俺は竈門炭治郎、こっちは嘴平伊之助…悪い鬼を倒しにきた」
「おうよ!俺様が来たからにはもう安心だぜ!」
ふんす!と鼻息荒く胸を張る伊之助…炭治郎は少しだけ苦笑いしながら、清の傷の手当てを始める
その過程でどうやって今まで生き抜いてきたのか…そして、稀血とはなんなのかを炭治郎は耳にする
伊之助はひとり落ち着きがなく彷徨いているが、危害を加えるつもりはなさそうだ
「…伊之助!」
「おう、わかってるぜ惣一郎!」
また名前が変わってる…けどよかった…伊之助も気づいてくれたらしい
「…あいつの相手、頼めるか?いま頼れるのはおまえしかいないんだ…伊之助」
「お…おお…?」
一瞬、なにかぽやぽやした匂いを伊之助から感じた…が、すぐに闘気を剥き出しにした匂いへと変わる
「おうよ!俺様に任せておけ!」 - 5二次元好きの匿名さん25/11/05(水) 17:12:38
「清、あの猪頭の人…伊之助が部屋を出たらすぐに鼓を叩くんだ…それから、次に移動した先では俺もこの部屋を出る」
その言葉に、清とてる子の顔がさっと青ざめていく
「大丈夫、今まで清がしてきたように誰かが部屋を開けようとしたり物音がしたら間髪入れずに鼓を叩いて移動するんだ」
ぎしぎし、と重い足音がゆったりと近づいてくる
「後で俺が必ず迎えに来る、二人の匂いを辿って…部屋に入る時は名前を呼ぶから」
ぽんぽん、と清の頭を叩く
「もう少しだけ頑張れ…出来るな?」
こくり、と清とてる子が力強く頷いた
「よし、偉いぞ!強いな!」
今にも飛び出して行きそうな伊之助の肩を叩き、炭治郎はそっと囁く…
「…いけるか?」
「…おう!よくわかんねぇけどわかったぜ!」
襖がゆっくりと動き、鬼が顔を覗かせる
「オラアアアアアア!猪突猛進!!」
伊之助が一直線に飛びかかる
「今だ、叩け!」
炭治郎の一言を皮切りに、清が鼓を叩く…部屋が移動し、戦いの音が遠くから響いてくるようになった
「…よし」
匂いで近くに鬼がいないことを確認した炭治郎は、廊下へ足を踏み出す
襖を締め、すうっと深く息を吸い込む…やっぱりそうだ…鬼の匂いが染み付いていて初めはわからなかった
それでもこうして集中すればわかる…伊之助に任せた異能の鬼…そして清が話していた残り2匹の鬼…それよりもずっと濃い匂いが屋敷の中へ漂っている
ずっと潜んでいたんだ…十二鬼月、下弦の鬼が - 6二次元好きの匿名さん25/11/05(水) 17:20:32
唐突に眠りこけた善逸を見て、正一も気を失いそうになった
目の前にも鬼、後ろにも鬼…
「わあああああ!善逸さん!起きて!起きてよ!」
正一は必死に善逸の身体を揺する…もうダメだと諦めかけた瞬間、身体が引っ張られる感覚と共に宙へ浮いた
いつの間にか、巨漢の鬼が破った襖の先にある部屋にいた…正一の襟首を掴んでいた手を離し、善逸が構える
シィィィィィ!と独特な呼吸音がする
善逸の雰囲気が一瞬で変化したことを、2匹の鬼も察知していた
その構えは低く、低く…前へと踏み込むこと以外考えていないような形へ変わる
「雷の呼吸…壱ノ型…」
ドン!と衝撃を感じるほどの踏み込みが"ふたつ"…その速度と音は、まるで雷鳴を感じさせるものだった
「霹靂一閃」
正一が、カエルの鬼が、巨漢の鬼が、瞬きをする間に宙を舞う…善逸は2匹の鬼の頸を一息で斬り落としていた
「んがっ!?」
弾かれたかのように、善逸が意識を取り戻す
「ギャー!?死んでる!!」
足下へ転がってきたふたつの頸を見て、善逸は飛び上がる
「急に死んでるよ!なんなの!もうやだ!!」
ガタガタと震える善逸と唖然とする正一の目がばちりと合う - 7二次元好きの匿名さん25/11/05(水) 17:31:23
「正一くん…まさか…」
ふらふらと善逸が歩み寄ってくる
「ありがとう!助かったよぉぉぉ!この恩は忘れないよぉぉぉぉ!こんな強いなら最初に言っといてよ〜〜!!」
しがみついて泣きじゃくる善逸に、正一はただただ困惑した…様々な考えが頭を巡っていく
「…行きましょうか」
「うん…」
正一は、途中で考えるのをやめた
「ギャハハハ!俺の刀は痛いぜ!坊っちゃんが使うような刀じゃねぇからよ!千切り裂くような切れ味が自慢なのさ!」
ぐるぐると回る部屋を跳ね回り、時折放たれる爪の攻撃を掻い潜りながら伊之助は鼓の鬼と相対していた
『いいか?右肩は右に、左肩は左に、右足は前に、左足は後ろに、腹は攻撃だ…いけるか?』
伊之助は権八郎の言葉を思い出していた
悔しいがアイツは強え、俺の何倍も強え!だがそいつをぶっ倒せたのなら俺はもっと強え!
気に入らねぇがあいつの言ったことは間違いなかった…この面白おかしい部屋へと簡単に対応出来ている
「行ける!行けるぜぇぇぇ!まずはテメェを倒して踏み台にした後は…あいつをぶっ倒して!俺の強さを証明してやるぜ!」
伊之助の振るう刃が、鼓の鬼の腕を掠めた - 8二次元好きの匿名さん25/11/05(水) 17:43:06
(あいつだ…あいつを喰えば俺はもっと上の数字を目指せる…)
"下弦の参"、病葉は稀血の少年を探して屋敷を歩き回っていた
元下弦の陸、響凱が見つけた稀血の少年…奪い取る機会を伺っていたら同じように匂いを嗅ぎつけた鬼たちに先を越されそうになった
そしてやつらは喧嘩を始めた…その隙に奪い取ろうとしたがあの少年は響凱の鼓を使って逃げてしまった
それからずっと、見つけられずにいる
(くそ…アイツを喰って力をつけて…無惨様に認められれば…また血を分けて頂けるのに…)
ぎし、と自分のものとは違う足音がする…反射的に振り向いた先に…その男はいた
花札の耳飾り、赤い羽織り、黒い刀…無惨様から聞いた
こいつが下弦の陸、釜鵺を殺した鬼狩り…!
「……っ!!」
ビリビリと肌がひりつく…それは釜鵺の一計、戦闘でかなりの傷を負っているはずの男から放たれている殺気ではなかった
鬼狩りが踏み込んできたのと病葉が後ろへ飛んだのは、ほぼ同時だった
ざん、と床板が豆腐のように切り裂かれる…追撃が来た
頬を刃が掠める…血が噴き出し、激痛が走る
だが行ける、俺の速さなら行ける…! - 9二次元好きの匿名さん25/11/05(水) 17:49:14
部屋中をボールのように跳ね回る病葉…炭治郎はなんとかその動きを目で捉えていた
そして、今になってまた傷が痛み始めていた…攻撃を防ぎ、弾く度に生温かいものが広がるのを感じる…傷が開いている
ヒュウ、と炭治郎は呼吸を整える
力を抜け…水面のように、心を安らかに…無駄な動きを省け、脚を無駄に踏み出すな…
(こいつ…動きが変わった…?)
さっきまで受け止める形になっていた防御が、次第に受け流すような形に変化していた
が、それだけだ…殺れる、今のこいつからはさっきのような怖さが感じられない!
だん!と壁を踏み締めて一気に距離を詰める…ガラ空きの腹を貫けば人間は簡単に死ぬ
引き絞る弓のように腕を引いた…同時に聞こえるゴォォ、と言う耳障りな呼吸音
ヤツの刀が、赫く染まっていた
すれ違いざまの一閃で、病葉は頸を斬り落とされた
勢いのまま吹き飛んだ頭は壁に当たって跳ね返り…鬼狩りの足下まで転がっていく
(くそ、くそくそくそくそ!せっかく十二鬼月になれたのに…こんな…こんなガキに…)
鬼狩りを睨みつける…そんな病葉を見つめ返す瞳は、どこまでも静かで、憂いを帯びていた - 10二次元好きの匿名さん25/11/05(水) 17:58:29
「……っ……はぁ!!」
炭治郎は止まりかけていた息をなんとか吹き返した
(痛い、痛い痛い痛い痛い痛い!落ち着け!呼吸を整えろ!整えるんだ…!)
刀で身体を支えながら、炭治郎は深く息を吸い込む
飛びかけていた意識が徐々に回復し、身体の痛みも和らいでいく
(ヒノカミ神楽…身体が傷ついているだけで…こんなにも反動がくるものなのか…!?)
我ながらとんでもないものを扱っているのではないかと炭治郎は戦慄し始めていた
鱗滝さんが『もっと身体を強く大きくしろ』と口酸っぱく言っていた理由が、改めてわかった気がした
「………ふぅ」
ゆっくりと立ち上がった炭治郎は、刀を鞘へと納める…
「そうだ…これ…」
炭治郎は思い出したように胸元から短刀を取り出す…それは、鬼と戦った時に血を採取出来るようにと珠世から渡されたものだった
回る、廻る、輪る…目まぐるしく回転する部屋の中で、伊之助は攻撃の機会を伺っていた
その速度は更に上がっていく…何度か身体を激しく打ち付けはしたが、ダメージとしてはまだ少ない
それよりも何度か身体を掠めた見えない爪の攻撃が厄介だった - 11二次元好きの匿名さん25/11/05(水) 18:06:54
跳ね、伏せ、翻し、伊之助は着実に攻撃を回避していく…いや、慣れ始めていた
部屋の回転と踏み込むための足場、鼓の鬼の立ち位置が交わる瞬間を…伊之助は狙っていた
「我流、獣ノ呼吸…参ノ型!」
伊之助は一直線に鼓ノ鬼を目指す
肌でびりびりと感じる…身体を輪切りにしようとする爪の攻撃…が、甘ぇ!
伊之助の柔軟性は人のソレとはかけ離れていた…常人より遙かに低い体勢のまま伊之助は響凱の目の前へと跳ね上がるように接近した
「喰い裂きィ!!」
響凱の頸が宙を舞う…だん!と着地した伊之助は、ひとり勝利の咆哮を上げた
「清!てる子!」
「うわーっ!!」「きゃああああああ!!」
二人の悲鳴と共に大量のものが投げつけられてきた
「うわっ!なんで物を投げつけるんだ!?」
「ご、ごめんなさい!鼓が消えちゃって混乱してそれで…」
そうか、伊之助はあいつを倒したんだな…一安心した炭治郎は、清を背負って屋敷の外を目指す
どうやら善逸たちはもう外に出ているようだ…匂いがする
伊之助は…まだ出てきていないらしい、迷っているのか?
炭治郎が連れてきたふたりの姿を見た正一少年が飛びついてくる…家族の再会にホッとしたのも束の間…
「猪突猛進!!」
壁をぶち破って、伊之助は屋敷から脱出してきた
「竈門炭治郎!!俺と戦え!!」
再び刀を抜いて…伊之助は信じられないことを口走った
第10話 猪はどつき、善逸は殴る(後編) 終 - 12二次元好きの匿名さん25/11/05(水) 18:09:59
- 13二次元好きの匿名さん25/11/05(水) 18:42:59
そうだよね
すでに現役下弦を倒してるんだから元下弦だけじゃ力不足も良いところだから追加戦力要るよね - 14二次元好きの匿名さん25/11/05(水) 19:06:28
乙です
何気にこれが日頃の楽しみになってきている - 15二次元好きの匿名さん25/11/05(水) 20:55:24
- 16二次元好きの匿名さん25/11/06(木) 02:11:06
保守
- 17二次元好きの匿名さん25/11/06(木) 08:17:10
保守
これからも無理のない程度で頑張ってください - 18二次元好きの匿名さん25/11/06(木) 13:59:07
乙です!楽しみにしてます
- 19二次元好きの匿名さん25/11/06(木) 17:06:50
- 20二次元好きの匿名さん25/11/06(木) 17:09:07
俺はな…昔から耳がよかったんだよな
寝てる間に人が話してたことを知ってる時があって気味悪がられたっけ…
鬼の音が消えた…炭治郎、鬼倒したんだな…
炭治郎たちと…あとなにか変な足音がするな…
「…ん!善逸さん!」
正一の声で、善逸は目を覚ました
「…大丈夫ですか?部屋が変わった時の勢いで外に飛ばされたんです…2階の窓から落ちました!」
「…そうだっけ?」
戦いの緊迫感から解放せれた善逸は、のほほんと返事を返す
「善逸さんが庇ってくれたから俺は大丈夫ですけど…」
「それはよかった…なんでそんなに泣いてんの?」
何気なく頭に触れた手に、ぬるりとしたものが付着する…血だ、これ俺の血じゃん
「なるほどね!?俺が頭から落ちてんのね!?」
はい、と弱々しく正一が頷く…また気を失いかけた善逸の耳に、少し重くなった炭治郎の足音と小さな女の子の足音が届く
「清兄ちゃん!」
「正一!」
わっ、と感動の再会を果たした家族…思わずホロリと涙が零れる…が、その静寂を切り裂くように慌ただしい足音が近づいてくる
「猪突猛進!!」
壁をぶち破って、猪頭の男が屋敷から飛び出してきた
第11話 藤の花の家紋の家 - 21二次元好きの匿名さん25/11/06(木) 17:19:03
「竈門炭治郎!俺と戦え!」
日輪刀を抜いて、信じられないことを口にする猪頭…その声を聞いて、善逸は思い出した
最終選別の際に居た5人目の合格者のことを…
「思い出した…!炭治郎さん…こいつ、5人目合格者だ!誰よりも早く入山して誰よりも早く下山したせっかち野郎…!」
「名前は嘴平伊之助って言ってたぞ?」
炭治郎が猪頭…もとい伊之助を指さして言う
「そうなのね!?もう屋敷の中で自己紹介まで済ませてたのね!!」
いやもうなんとなくわかっていたけど改めて言われると混乱してくる…それよりも…あいつ、本気だ…本気で戦おうとしている…!
言うが早いか、伊之助は炭治郎に斬りかかった…
「………は?」
「鬼殺隊員で徒に刀を抜くのはご法度だ!おまえも鬼殺隊員なら知ってるだろう!!」
善逸は困惑していた
なに?俺って今なにを見ていたんだ?伊之助が飛びかかったかと思えば、炭治郎が秒で武装解除をして伊之助を投げ飛ばしていた
ぱんぱんと手に付いた埃を払うようにして炭治郎は声を荒げる
「刀がダメなのか…それなら…素手で殴り合おう」
「だからそういうわけじゃ…!」
話を聞く気がないのか、再び伊之助が飛びかかってくる
「ちょっと落ち着け!!」
ごしゃっ!と人の頭からしてはいけない音を聞いて善逸は思わず耳を塞いだ…もうやだ!なんか頭蓋骨が砕けててもおかしくない音がした!
よたよたとふらついた伊之助の頭から猪頭…被り物がぼとりと落ちる - 22二次元好きの匿名さん25/11/06(木) 17:31:20
「え!!は!?顔!?女!?」
「なんだコラァ…俺の顔に文句でもあんのか…?」
なんともアンバランスだった…パッと見誰の目から見ても美形と見て取れる伊之助の顔
だが鍛えられた肉体もあってどこかアンバランスさを゙感じさせていた
「君の顔に文句はない!こじんまりしていて色白でいいんじゃないかと思う!」
「コロすぞテメェ!!」
善逸たちは最早付け入る隙もない戦い?に唖然としていた
喧嘩には間違いない…けど炭治郎が圧倒的に強い…いや、強すぎた
ぴたり、と伊之助の動きが止まる…ぐるんと白目を剥いたかと思えば、そのままバタンと倒れてしまった
「えっ…し、シんだ!?」
「いや…多分脳震盪だ…俺が思い切り頭突きしたから…」
どれだけ硬い頭なんだ…と善逸は震え上がる
今度なにかしたらアレが来るかなと想像すると…死にたくなった
ややあって、伊之助は目を覚ました
ぐるりと周囲を見渡すと、炭治郎たちは土饅頭を作っていた
「なにしてんだテメェら!!」
「埋葬だよ…まだ屋敷の中に殺された人がいるんだ、伊之助も手伝ってくれるか?」 - 23二次元好きの匿名さん25/11/06(木) 17:39:34
「生き物の死骸なんて埋めて何の意味がある!やらねぇぜ!手伝わねぇぜ!」
「…伊之助」
ポン、と炭治郎は伊之助の肩を叩く
「確かに、意味があるかと言われたらないとも言えるよ…けどな、それだと悲しいんだよ」
優しい声色に、いつ飛びかかろうかと構えていた伊之助の身体から力が抜けていく
「伊之助がどう育ったのか、どんな価値観があるのかは俺にはわからない…知り合ったばかりだからな」
よっ、と少し大きめの石を運び…炭治郎は土饅頭へと重ねていく
「けど伊之助だって、自分のよく知る人や動物が死んでしまったら悲しいだろ?悲しいから俺たちはこうして墓を作って手を合わせるんだ…その人のことを忘れないようにね?」
「………」
炭治郎の言葉に毒気を抜かれたのか、それともまだ理解が及ばないのか…伊之助は立ち竦んでいた
「善逸、悪いけどもう少し石を集めておいてくれないか?俺は屋敷に入って遺体を運んでくるから…」
「お…」
ぷるぷる、と伊之助が震える
「俺も行くぜ"親分"!!百人でも二百人でも運んで埋めてやらぁ!!」
「親分!?いやいやいや、ありがたいけどそんなにたくさんはないから…」
「そうか!それなら俺と親分ならあっと言う間だな!ギャハハハ!」
((((親分…?))))
善逸たちはその変わりようにただ困惑していた
「炭治郎さんって…なんだか不思議な人ですね」
清がそう口にする - 24二次元好きの匿名さん25/11/06(木) 17:47:30
「……そうだね」
善逸は清の言葉に同意した…確かに炭治郎さんは不思議な人だ
炭治郎さんからは嘘も偽りもない優しい音がしていた…そして同時に、哀しい音もしていた
『炭治郎さんは…どうして鬼狩りに?』
泣きじゃくりながら一方的にぶちまけた身の上話を、炭治郎さんは黙って聞いてくれた
少しだけ気持ちの落ち着いた善逸は、どうしても気になって尋ねてしまったのだ
『…そうだね、多分ありきたりな理由だと思うよ』
それ以上、炭治郎さんは語ってくれない
けど…その質問をした瞬間に心が曇っていく音が聞こえた
まるで、どこまでも広がる青空が急な雨雲に包まれてしまったかのような音
だからそれ以上は聞くことが出来なかった…それと同時に理解もした
炭治郎さんが、どうして強いのかを
埋葬を終えた一行は、一悶着ありながらも清たちと別れて鎹鴉に導かれながら町へと向かっていた
そこで伊之助が山の中でひとり育ったこと、育手を介さずに鬼殺隊員から日輪刀を奪って最終選別に参加したことを聞いた
こいつもこいつで、どこまでもデタラメなやつだった - 25二次元好きの匿名さん25/11/06(木) 17:58:40
辺りが暗くなって来た頃、炭治郎たちが案内されたのは藤の花の家紋がある大きな屋敷だった
「カァー!休息!休息!負傷につき完治するまで休息せよ!」
「休んでいいのか?」
ケケケ、と鎹鴉は笑う…こいつ、先の任務では怪我人を戦わせておいて…
「はい…」
ギィ、と門が開いてひとりの老婆が姿を見せた
「夜分に申し訳ありません、俺は…」
「鬼狩り様でごさいますね…どうぞ…」
老婆は炭治郎たちのことを知っていたのか、深々と頭を下げて屋敷へと案内してくれた
あれよあれよと食事、寝床と準備が進んでいく
「た、炭治郎さん!あれ絶対に妖怪だよ!だって異様に準備が早いもん!!妖怪だ!妖怪婆アーーーッ!?」
炭治郎さんの拳骨は、やっぱりめちゃくちゃ痛い
食事中、鴉が教えてくれた
この藤の花の家紋の家は鬼狩りに命を救われた一族であり、鬼狩りであれば無償で尽くしてくれるそうだ
そしてお婆さんが呼んでくれた医者の手で、炭治郎たちは改めて治療を受けるのだった
「骨が折れてないのは俺だけか…ふたりとも大丈夫か?」
「伊之助の骨折の半分は炭治郎さんが原因だと思うけど…」
善逸と伊之助は並んで布団に寝かされていた…炭治郎はその傍らで一定の呼吸を繰り返している - 26二次元好きの匿名さん25/11/06(木) 18:08:13
「おい親分、さっきからやってるそいつはなんだ!」
「あぁ…この呼吸をすると不思議と身体の痛みが和らぐんだよ、治りも早くなるし…善逸と伊之助も、やれるならやっておいた方がいいぞ?」
「爺ちゃんもそんなこと言ってたな…呼吸を上手く使えば傷の痛みとかを和らげたりすることも出来るとかなんとかって…」
にゃ〜、と何処かから猫の鳴き声がした
「…ん?どうしたんだ〜、なにか持ってきてくれたのか?」
どこならともなく現れた猫を見て、炭治郎の顔がへにゃっとだらしないものに変わった
首から札を下げて背中には鞄を背負っている…誰かの飼い猫?いや、どちらかもいえば使い猫…?
ごろごろと喉を鳴らす猫の顎を撫でながら、炭治郎は鞄を探る…中からは恐らく手紙が入っているであろう封筒が出てきた
「これを届けに来てくれたんだな…ありがとう」
その後は炭治郎に一頻り撫でられて満足したのか、猫はもう一度にゃ〜と鳴いて溶けるように姿を消した
「えっ…はっ…!?」
消えた?今消えた!?混乱する善逸を他所に、伊之助はもうイビキをかいて眠りについている…そして当の炭治郎は手紙を手に立ち上がる
「その手紙…誰から?」
「珠世さんからだよ、知り合いなんだ」
「たま…よ…?たまよ…ハァアアアアアアアアアアア!?」 - 27二次元好きの匿名さん25/11/06(木) 18:21:12
「うわっ!?急に大声を出すなよ!夜中だぞ!」
「関係あるかーっ!!なんだよぉう!俺の結婚を邪魔しておいて!炭治郎さんにはもう意中の女性がいるってことなのか!?」
キエエエエエエ!と頭を掻きむしりながら善逸が絶叫する
「だから!この人はそういうのじゃないから安心してくれ…」
服を掴んでわんわんと涙と鼻水を垂らす善逸を、炭治郎はなんとか引き剥がそうとする
「なんなんだよなんなんだよなんなんだよもーーっ!!いや分かるよ!?炭治郎さんは優しいし?俺たちより背も高いし?強くてかっこいいし?抱擁力も段違いだし!?そりゃあモテててもおかしくはないと思うよ!?でもね!結婚したい俺の邪魔をしておいて自分は女の子と仲良くしてるなんて裏切り者もいいところ…」
「うるせェーーーーッ!!眠れねぇだろ善六!!」
「ギャーーーーーッ!!」
伊之助の飛び蹴りが善逸を襲う…あぁもう、また大騒ぎして…
ぎゃあぎゃあと取っ組み合いを始める二人を見て、炭治郎は盛大にため息をつく
ふと、封筒に書かれた名前が目に入る…珠世さんと…もうひとり?もしかして…
ドン!と暴れるふたりから背中に追突されて、封筒が宙を舞う…ビキッ、と額に青筋が走る音がした
「俺は手紙を読んでくる!骨折りの怪我人は大人しく寝ろ!」
「ハイ…ゴメンナサイ…」
「ゴメンナサイ…オヤブン…」
ずんずんと足音荒く部屋を出ていく炭治郎…襖だけは律儀に優しく閉じていく…それにしても頭の瘤が痛い、痛すぎて眠れそうにない
「…怖かったな」
「おう…怖すぎて漏らしそうだったぜ…」
善逸と伊之助の心の距離が、お互い一気に縮まった気がした
第10話 藤の花の家紋の家 終 - 28二次元好きの匿名さん25/11/06(木) 18:23:18
- 29二次元好きの匿名さん25/11/06(木) 20:52:18
炭治郎さん呼びと親分呼び
しっかり格付けというか躾が済んだな - 30二次元好きの匿名さん25/11/06(木) 21:18:48
怒ってどつきまわすから…
- 31二次元好きの匿名さん25/11/06(木) 21:59:09
- 32二次元好きの匿名さん25/11/06(木) 22:04:08
乙です 那田蜘蛛山編楽しみです!
- 33二次元好きの匿名さん25/11/07(金) 02:22:02
保守
- 34二次元好きの匿名さん25/11/07(金) 07:37:10
ほしゅ
- 35二次元好きの匿名さん25/11/07(金) 08:38:58
続き待ってます!
- 36二次元好きの匿名さん25/11/07(金) 17:32:15
- 37二次元好きの匿名さん25/11/07(金) 17:38:41
一枚目の手紙…それは珠世さんからの個人的なものだった
『炭治郎さん、お身体の具合は如何でしょうか?
血が届いたということはご無事だということは承知の上で急ぎ筆を走らせました
まず、私たちは無事新しい場所へと移ることが出来ました
人が一人増えたと愈史郎は初めこそ腹を立てていましたが、今はあの子と随分仲良くなりました
最近はなにかと教えているようで…まるで兄妹を見ているようです
それから…鬼となった妹の禰豆子さんについてですが…恐らく鬼舞辻と行動しているかと
愈史郎が茶々丸の目を通してその痕跡を確認しました
最後になりますが…あの日、私を母と呼んでくださいましたね…その涙を、決して枯らさないでください
それでは、またお会いする日を楽しみにしております…お元気で
珠世』
珠世からの手紙を読み終えた炭治郎は、顔が一気に赤くなるのを感じた
徐々に思い出して来つつも忘れようとしていたこと…血を流しすぎたせいで朦朧とした知識の中、珠世さんに母葵枝の面影を見た気がしたのだった
何度も謝りながら珠世さんの胸で泣いて…それからまた気絶するように眠った
「よかった、珠世さんたち…無事に拠点を移せたんだな」
珠世さんたちが鬼舞辻の手から無事に逃れられるかずっと不安だったが、なんとかなったみたいだ
二枚目は珠世さんたちの現状と浅草で鬼にされた旦那さんのこと、鬼の少女のことについて詳しく触れられていた
旦那さんの方はまだ難しいが、少女の方は一足先に人を襲わなくても済むようにしてあげたらしい - 38二次元好きの匿名さん25/11/07(金) 17:50:23
「手紙は…これで最後か」
『竈門炭治郎さんへ
あの日のこと、改めてお礼を言わせてください…ありがとうございました
自分を恥ずかしく思っております…あなたがひとり鬼へ立ち向かう姿への憧れ…同時に抱いた激しい嫉妬…そして鬼と戦うことの恐怖が、鬼殺隊の一員となり戦うと決めていた覚悟を上回ってしまったのです…
選別から逃げ出した先で、私が出会ったのは六つの目を持ち、刀を携えた"黒死牟"という侍のような鬼でした
あの鬼は私たちに血を与え、鬼舞辻無惨の力によって鬼へと変貌させました…
そこからは炭治郎さんも知る通り…鬼となって恩人でもあるあなたを殺そうとしていたのです
ですが、この世の中には不思議なこともあるようです
珠世さんが言うには、どうやら私はあの一件以来鬼舞辻無惨の支配と呪いから外れているようなのです…
だからと言って頭ごなしに安心出来るわけではないのですが…少なくとも、珠世さんの力添えもあって"これからも"人を襲わなくても済みそうです
いつか再会した暁には…今度は私が必ず貴方を助けます、守ります…どうかその日まで、ご武運をお祈り致します
幸代』
もうひとつの手紙は、あの少女からのものだった
そうか…幸代って名前だったのか…手紙を読み終えた炭治郎の瞳から、自然に涙が溢れてくる
よかった…俺がやったことは、『無駄じゃなかったんだ』
第11話 那田蜘蛛山へ - 39二次元好きの匿名さん25/11/07(金) 17:58:31
どうやら俺は教えるのがとてつもなく下手なようだ
屋敷での療養中、自分なりに善逸と伊之助へと色々伝えてあげようとしたのだが…どうも上手くいかなかった
それでも伊之助は毎日のように竹刀を手に挑んできた…善逸も無理矢理付き合わされていたみたいだが、一緒に打ち込み稽古をしている時の顔は真剣そのものだった
あれだけ真っ直ぐな剣を持っているのに、どうして戦いの場へ赴くとあぁなるのだろう…炭治郎には不思議でならなかった
何度善逸が本当は強いんだと教えたとしても、善逸はそんなことあり得ないと首を振る…あれを変えるとするならまだまだ時間がかかりそうだ
伊之助はそのままでよかった…変に教えるよりも長所を伸ばす、ひたすら伊之助の攻撃に付き合うことにした
どんどん磨き上げられていく伊之助の技と力に、炭治郎は喜びを感じていた
そうして過ごした日々…やがて全員の傷が癒えた頃、鎹鴉が指令を告げに来た
三人共々那田蜘蛛山へ一刻も早く向かうようにと…
「では、行きます!ありがとうございました!」
ぺこり、と深々と頭を下げる…
「では、切り火を」
カッカッ、と火打ち石による切り火を受けた伊之助が…何故かキレた
「なにすんだババア!」
お婆さんに遅いかからんかばかりの勢いの伊之助を、炭治郎が何とか羽交い締めにする
「わぁぁぁっ!バカじゃない!?切り火だよ!お清めしてくれてんの!危険な仕事行くから!」
一方の善逸はお婆さんを庇いながら必死に説明する - 40二次元好きの匿名さん25/11/07(金) 18:01:34
- 41二次元好きの匿名さん25/11/07(金) 20:53:03
乙です!
- 42二次元好きの匿名さん25/11/08(土) 01:49:34
このレスは削除されています
- 43二次元好きの匿名さん25/11/08(土) 03:26:56
ほしゅ
- 44二次元好きの匿名さん25/11/08(土) 08:40:03
- 45二次元好きの匿名さん25/11/08(土) 17:45:59
- 46二次元好きの匿名さん25/11/08(土) 17:52:33
結局…伊之助が落ち着くまで、結構な時間を要してしまった
「どのような時でも誇り高く生きてくださいませ…ご武運を」
お婆さんに見送られ、炭治郎たちは那田蜘蛛山へ向かって駆け出した
「誇り高く?ご武運?どういう意味だ!」
(何にも知らんやつだな…)
「そうだな…改めて聞かれると難しいな…」
冷ややかな目を向ける善逸と対照的に、炭治郎もその言葉の意味を考えてみた
「誇り高く…自分の立場をきちんと理解して、その立場であることが恥ずかしくないように正しく振る舞うこと…かな?」
「…あ?」
イマイチ伝わらなかったらしい…大丈夫、俺も上手く言葉に出来たかわからないから…
「それから、お婆さんは俺たちの無事を祈ってくれてるんだよ…」
どうかな…と伊之助の反応を伺う…被り物で表情は見えないけど
「その"立場"ってなんだ?"恥ずかしくない"ってどういうことだ!正しい振る舞いって具体的にどうするんだ?なんでばばあが俺たちの無事を祈るんだよ、何も関係ないばばあなのに!なんでなんだよ!」
畳み掛けるように、伊之助が詰問してくる
「ばばあは立場を理解してねぇだろ!」
「あっ!?」
面倒になったのか、炭治郎が速度を上げてしまう
逃げた!あれは絶対に逃げた!
「負けねぇぞ!!」
「ちょ!ふたりとも待ってよぉ!?」 - 47二次元好きの匿名さん25/11/08(土) 18:00:18
「待ってくれ!ちょっと待ってくれないか!!」
無駄にいい声で善逸が炭治郎たちを呼び止める
「善逸?どうしたんだ?」
「怖いんだ!目的地が近づいてきてとても怖い!!」
「なに座ってんだこいつ…気持ち悪い」
道の真ん中で座り込む善逸に、伊之助は容赦ない言葉を浴びせる
「おまえに言われたくねぇ猪頭!」
びしぃ、と善逸は目的地でもある那田蜘蛛山を指さす
「目の前のあの山から何も感じねぇのかよ!」
炭治郎と猪頭は改めて那田蜘蛛山へと目を向ける
「…ん?」
ふと、なにかの匂いが炭治郎の鼻を掠める
だん!と強い踏み込みの音と共に炭治郎が姿を消した
「は!?えっ!!ちょっ!」
「うおおお!居たぞ!親分クソ速ぇえええ!」
ギャハハハ!と楽しそうに伊之助は炭治郎を追う
「ちょっと待って!ねぇ!一人にしないでよ!」
善逸は慌てて立ち上がって二人を追いかける…もうやだ…帰りたい気持ちをぐっと堪えて、足を前へと進めた - 48二次元好きの匿名さん25/11/08(土) 18:09:22
「…あれは!」
炭治郎の目に、うめき声を上げる人の姿が目に入る
隊服を着ている…鬼殺隊員のひとりだ!
「た、たすけて…」
「…なにがあった!」
慌てて駆け寄った炭治郎たちの目の前で、倒れていたはずの隊員の身体が宙へと浮いていく
「ああっ…!!"繋がっていた"…俺にも!助けてくれぇぇぇぇっ!」
叫び声を上げながら、彼は那田蜘蛛山へと吸い込まれていった…まるで山そのものが、鬼の口であるかのように…
吹き抜けてきた風が、濃い鬼の臭いを運んでくる
「…行くぞ」
「親分が言うなら仕方ねぇ…俺も行くぜ!」
「こ、これ…俺も行かなきゃダメなパターンだよね?やっぱり行かなきゃダメぇ…?」
炭治郎の羽織りの袖を掴みながら善逸が嘆く…涙と鼻水がすごいしなにより震えがすごい
「善逸、伊之助…これだけは言わせてくれ…"死ぬな、全力で戦え"」
一足先に歩みを進めながら、炭治郎は告げる
「ただもし本能的にヤバいと感じたら…迷わず俺を探すんだ!2人ならこの広い山でも俺の居場所は探れるだろうから…いいな!?」
「…おう!」「お、おう!」
「よし!散会!」
その言葉と共に、炭治郎と伊之助が山道に入った瞬間に別々の方向へと消えていく音がした
「はああああああああああああっ!?俺もひとりなの!?単独行動なの!?やだやだやだ!そんなの聞いてないよぉおおおおおおお!」
待ってぇ!と善逸は泣きそうになりながら那田蜘蛛山へと踏み込んだ…本当にやだ!帰りたい!帰りたい…! - 49二次元好きの匿名さん25/11/08(土) 18:19:37
「はぁ…はぁ…」
村田はひとり震えていた…いつどこから鬼が現れるか…はてまたあの技をかけられるか分からない恐怖…そしてただ一人しかいないという状況が拍車をかけていた
カタカタ、と手に握る日輪刀が震える…ポン、と突然背後から肩を叩かれた
「ひっ!?」
「応援に来ました、俺は竈門炭治郎です」
「応援…?か、階級は?」
「階級…?わかりませんけど多分癸のままじゃないですか…?」
癸、と聞いて村田は頭を抱えた
「癸?なんで柱じゃないんだ!?癸なんて何人来ても同じだ…意味がない!」
肩に置かれていた手に力が籠る…いや、そんなレベルじゃない…骨が軋んでる!?
「いぃっ!?」
「状況を説明しろ…」
さっきまで柔らかい顔と物腰だったはずが、今はまるで般若のようになっている
「な、なんなんだよ!俺の方が先輩なのに!!」
なんとか炭治郎の手を振り払い、村田は現状を説明する
「か…鴉から指令が入って…10人の隊員がここに来たんだ!山に入ってしばらくしたら…隊員のひとりが…」
その光景を思い出し、また身体が震え始めた
「いきなり刀を抜いて…他の隊員に斬りかかって…それから斬り合いになって…俺は…俺は…」
全身の力が抜ける…そう、なにも出来なかった
出来なかったんだ… - 50二次元好きの匿名さん25/11/08(土) 18:32:54
「よく頑張って戻ったね…私の子供たちは、ほとんどやられてしまったのか…そこには十二鬼月がいるかもしれないね」
産屋敷耀哉は、手の内で苦しげに喘ぐ鎹鴉からの報告を受けて胸を痛めていた
「"柱"を行かせなくてはならないようだ…義勇…しのぶ…頼めるかい?」
「「御意」」
産屋敷の背後には、あの日炭治郎を゙救った冨岡義勇と…蝶を連想させる羽織りを纏う女性、胡蝶しのぶの姿があった
「人も鬼もみんな仲良くすればいいのに…冨岡さんもそう思いません?」
柔らかな笑みを称えたまま、しのぶは義勇へと投げかけた
「無理な話だ、鬼が人を喰らう限りは」
しのぶの言葉に、義勇はただ一言だけ…冷静に答えたのだった
「ねぇ、累…無惨様が話してた"耳飾りの剣士"って…ここに来るのかな?」
「さぁ…どうだろうね」
首元に毛皮を纏った赤い着物の少女の鬼と、蜘蛛の巣の意匠がある着物を纏った少年の鬼が言葉を交わしていた
「すごく強いって話だよ?釜鵺もやられて…病葉までやられたかもしれないって噂だよ?」
「そう…でも僕にはどうでもいいことだから…むしろ、零余子はそいつに"来てほしくない"から遊びに来たんじゃないの?」
「や、やだぁ!いくら強くても柱には及ばないんじゃない?釜鵺も病葉と本当は柱にやられたのよ…は、はは…」
核心を突かれた零余子は、乾いた笑い声を上げる
「まぁ、本当にどうでもいいけどね…僕たちは、僕たち"家族"の絆を乱しにくるなら…殺すだけだから」
そう答える累の背後には、まるで蜘蛛の巣に捕らえられた昆虫のように死体がぶら下がっていた
幾人もの、鬼殺隊員の屍が…
第11話 那田蜘蛛山へ 終 - 51二次元好きの匿名さん25/11/08(土) 18:36:21
- 52二次元好きの匿名さん25/11/08(土) 19:17:30
乙です!
- 53二次元好きの匿名さん25/11/08(土) 19:34:25
癸(柱になれる条件達成済)
- 54二次元好きの匿名さん25/11/08(土) 22:10:38
乙です!
零余子どう転んでも詰みでは? - 55二次元好きの匿名さん25/11/09(日) 05:26:48
このレスは削除されています
- 56二次元好きの匿名さん25/11/09(日) 12:36:29
ほしゅ
- 57二次元好きの匿名さん25/11/09(日) 17:11:30
パワハラするまでもなく滅ぶ下弦
- 58二次元好きの匿名さん25/11/09(日) 17:25:19
- 59二次元好きの匿名さん25/11/09(日) 17:29:41
このレスは削除されています
- 60二次元好きの匿名さん25/11/09(日) 17:45:26
- 61二次元好きの匿名さん25/11/09(日) 17:54:59
キリキリ、と耳障りな音がした
直ぐ様日輪刀を抜いた炭治郎と村田の目に、ゆらゆらとまるで人形のように歩いてくる隊員たちの姿が見えた
「さぁ、私の可愛いお人形たち…」
キリキリと糸が鳴る…両手の指から無数の糸を伸ばした女性の鬼が妖艶に笑った
「手足がもげるまで踊り狂ってね…」
指取り、柔術、空手、鱗滝さんとの修行が役に立っていた
「術は鬼の数だけある…人を操る鬼と出会う事もあるだろう…だがその手段、操られている者も千差万別!」
「うわっ!?」
背中を盛大に打ち付け、炭治郎は悶絶していた
痛みのあまり手から木刀が転がり落ちる
「いいか炭治郎、その身に徒手での戦い方を叩き込むのだ…痛みを知りながら、泥水を啜ってでも努力して身に染み込んだ技術は裏切ることはない!」
第12話 母蜘蛛
「うわあああああああ!?」
隊員の一人を相手取っていた村田は横から迫ってきた隊員を見て悲鳴を上げる
その隊員は炭治郎によっていとも簡単に投げ飛ばされたかと思えば、そのまま次を制圧に向かってしまう - 62二次元好きの匿名さん25/11/09(日) 18:03:30
(くそ、これじゃあキリがない…まるで操り人形みたいに…操り人形…?)
炭治郎は意識を集中させる…斬りかかってくる隊員達の背中に、僅かながら甘く奇妙な匂いがすることに気づいた…そして、そこから繋がる細い蜘蛛の糸に
その糸を切断するように日輪刀を振ると、先ほどまで刀を振るっていた隊員が地面へと崩れ落ちる
「背中の糸だ!えーっと…」
「村田だ!それより…糸ってどういうことだ!?」
「村田さん!この人たちは糸で操られている!見えないなら背中の辺りで日輪刀を振るんです!それで糸が切れる!」
炭治郎は村田へと指示を飛ばしながら、糸を次々と切断していく…ふと、自分の左腕から臭いがした
見ると、そこに蜘蛛が数匹這い回っているのが目に入る…ぐん!と引っ張られる左腕…反射的に糸を斬って蜘蛛を振り払う
(…そうか、この蜘蛛を介して操っているのか!だとしたら…)
先ほど操り糸から解放した隊員たちが、また動き始めていた
(蜘蛛を斬るか…?いや、やれないこともないが…斬ったとしてもこいつらは無数に湧き出てくるだろう…だとしたら本体を探し出して斬るしかない)
ふっ、と鼻を濃い鬼の匂いが掠める
「僕たち家族の静かな暮らしを邪魔するな」
宙に…いや、正確には蜘蛛の糸に少年姿の鬼が立っていた
この臭いの濃さ…十二鬼月か?
「おまえらなんてすぐに…"母さん"が殺すから」 - 63二次元好きの匿名さん25/11/09(日) 18:10:01
それだけ言うと、少年の鬼は踵を返して蜘蛛の糸の上を歩いていく
(家族…それに…母さんだって?あの少年の鬼が十二鬼月じゃないのか?いや、特有の濃い臭いは間違いなくあの鬼からしていた!)
少年が姿を消したことで、また臭いの流れが変わった…かなり先だが、どこか彼に似た鬼の臭いを感じる
「っ…場所はわかったけど…」
村田さんのこともある…ここを離れるわけには…
「誰にも邪魔はさせない…」
累は綾取りのように編んだ蜘蛛糸を月光に翳していた
「僕たちは"家族5人"で幸せに暮らすんだ…僕たち家族の絆は…誰にも切れない」
その足は、母親の下を目指していた
「ここは俺に任せて先に行け!鬼の位置がわかるんだろ!?」
村田が叫んだ
「情けないところを見せたが…俺も鬼殺隊の剣士だ!ここはなんとかする!糸を切ればいいというのはわかった!」
白刃を屈んで避けた村田は、背後へ回り込むようにして背中の糸を切断する
「ここで操られている者たちは動きも単調だ!蜘蛛にも気をつける!鬼の近くにはもっと強力に操られている者がいるはず…悔しいが俺よりずっと強い君に任せるしかない…頼む!」
「…わかりました!村田さんも気をつけて!」
炭治郎は村田の言葉に従って前へと進む…この先だ、鬼の臭いがする…! - 64二次元好きの匿名さん25/11/09(日) 18:19:05
「駄目…こっちに来ないで…」
ボロボロと涙を流す女性隊員の姿が目に入る…片腕に屍を掴み、日輪刀の切っ先は隊員の喉元を貫いていた
「階級が上の人を連れてきて!そうじゃないとみんな殺してしまう!!お願い…お願い…!!」
ブチン、と血管が切れる音がした…体温が上がっていく…黒刀が赫く染まる
その視界が、透き通る不思議なものへと変わった
「ウフフフ…私に近づけば近づくほど糸は太く強くなる…お人形も強くなるのよ…」
「母さん…」
隊員たちを操っていた母蜘蛛は、その声に震え上がる
「累…」
「勝てるよね?ちょっと時間がかかりすぎじゃない?早くしないと…父さんに言いつけるからね」
その言葉に、さっと血の気が引いていく
「大丈夫よ!母さんはやれるわ!必ずあなたを守るから!父さんはやめて…父さんは…!」
「…だったら早くして」
累はそれだけ言うと姿を消す…荒くなっていた息を整えて、母蜘蛛は再び人形たちを操る
「うううううううっ!!シね!さっさとシね!でないと私が…」
酷いめにあう… - 65二次元好きの匿名さん25/11/09(日) 18:28:43
「逃げてぇえええええ!」
女性隊員が絶叫しながら刀を振るう
「あ、操られているから動きが全然違うのよ!私たち…こんなに強くなかった!」
彼女が刀を振るう度に骨が軋み、折れていく嫌な音がする
無理矢理身体を動かしているんだ…だからあれだけ速く無茶な動きも可能になる…!
「こ、殺してくれ…」
奥から更に酷い損傷を受けた隊員たちが姿を現す…手足はぐにゃぐにゃにへし折れ、骨が飛び出している…胴体もどこか不自然に歪んでいる
「手足も…骨、骨が…内臓に刺さっているんだ…動かされると…激痛で耐えられない…」
ごぼ、と口からドス黒い血液が溢れ出る
「どのみち、もう死ぬ……!助けてくれ…止めを…刺してくれ…!」
バリッ、と奥歯が欠ける…炭治郎は踏み込むために姿勢を深く、深くした
「断る…気合で生きろ…どうせ死ぬのなら…鬼の手から解放されてから勝手にシね!」
ゴオォォォ、と燃えるような呼吸音…透き通る世界の中に見える小さな"鬼蜘蛛"
ゆっくりと流れていく世界で、炭治郎は動いた
幻日虹ですり抜けるように足を運ぶ…隊員たちの目の前で、炭治郎の姿が陽炎のように消えた
その瞬間、すべての糸から解放された…ぶすぶすと隊服から焦げたような臭いがする
「はっ…はっ…」
痛みを堪えて女性隊員は振り返る…この場にいた隊員全員を解放したあの耳飾りの隊員は、遙か遠くにいた - 66二次元好きの匿名さん25/11/09(日) 18:35:53
「ううっ…!役立たず…役立たずめ!!脆い人間の人形は駄目、もう使えない!あの人形を出すしかない…っ!」
あの一人だけ強さの次元が違う剣士がどんどん近づいてきている
蜘蛛を殺され糸から解放されたあの人形たちを再び操っている暇はない…
けどあの人形なら…きっと勝てる…!
炭治郎の目に、頸のない鬼の人形が映る
自分へと絡みつこうとする糸、蜘蛛の足先のような鋭い爪…迫りくるその全てが視えていた
「ヒノカミ神楽…烈日紅鏡!」
腕と蜘蛛の糸を纏めて斬り払い、直ぐ様刀の握りを変える…そのまま身体に捻りをくわえながら袈裟斬りに鬼の身体を切断すると、ボロボロと頸を斬った時のように操られていた鬼の身体が崩れていく
(やられた…やられた!?あの人形が一番速くて強いのに…!そもそも累が脅しに来るのが悪いのよ!それで焦って、焦って…)
母蜘蛛の目に、月光を背にした赤い羽織と耳飾りが目に入った
(殺される…頸を斬られる!考えて…考えるのよ!)
反撃、操り糸、逃走…様々な思考が母蜘蛛の脳内を駆け巡る
(ああ…でも…シねば解放される…楽になれる…!)
気づいた時には、その両手は前へと伸びていた
まるで彼の全てを受け入れるかように…自身の頸を、差し出すかのように - 67二次元好きの匿名さん25/11/09(日) 18:40:30
炭治郎は握りと構えを変えた…ヒュウ、と呼吸が変わる
「水の呼吸、伍ノ型…」
母蜘蛛の頸を、黒刀の刃が斬り抜ける
「干天の慈雨」
優しい雨に打たれているような感覚…少しも痛くない、苦しくない、ただ…あたたかい
こんなに優しい死があるなんて…ああ…これで…解放される…
母蜘蛛は思い出していた…気に入らないことがあると手を上げる"父蜘蛛"…"子供たち"は見ているだけでなにもしてくれない
辛かった、苦しかった、逃げ出したかった…でも、"逃げられなかった"
黒刀を鞘へと納めた剣士が此方を振り返る…透き通るような優しい瞳
いつだったか…人間だったころ、誰かに同じ眼を向けられていた気がする…
「…気をつけてね」
だからあなたの優しさに、私も優しさを返したい
「ここには…十二鬼月がいるわ」
その言葉を残して、母蜘蛛は着物を残して崩れて行った
(十二鬼月…まさか、あいつが…!?)
炭治郎は少年の姿をした鬼の姿を思い出す
「善逸…伊之助…!」
今のふたりが十二鬼月と出会ってしまえば…まずいことになる
炭治郎は母蜘蛛の着物へと手を合わせ、先を急いだ…この山のどこかに…十二鬼月がいる!
第12話 母蜘蛛 終 - 68二次元好きの匿名さん25/11/09(日) 18:43:40
- 69二次元好きの匿名さん25/11/09(日) 18:57:10
乙です!
- 70二次元好きの匿名さん25/11/09(日) 20:59:06
- 71二次元好きの匿名さん25/11/10(月) 00:40:13
村田パイセンんん
- 72二次元好きの匿名さん25/11/10(月) 02:13:15
保守
- 73二次元好きの匿名さん25/11/10(月) 08:45:55
保守
- 74二次元好きの匿名さん25/11/10(月) 16:11:11
乙です
既にこいつらほんま……になってそうな無惨 - 75二次元好きの匿名さん25/11/10(月) 17:49:45
- 76二次元好きの匿名さん25/11/10(月) 17:59:57
「いてっ!?」
突然左手に走った鋭い痛みに善逸は声を上げる
先程までの恐怖が一周回って怒りへと変わっていた…炭治郎さんや伊之助はまったく見つからない
あちこちから変な音はするし蜘蛛の巣は纏わりついてくるわカサカサと動き回るわ…
「いやわかるよ!蜘蛛だって一緒懸命生きてるんだろうしさ!蚯蚓も螻蛄も水黽もみんなみんなお友達だって言うからね!それなら蜘蛛もお友達なんだよね!」
寂しさから独り言を大声にしながら善逸は歩く…炭治郎さんは見つけられるはずだって言ってたけど絶対無理だ
広い、広すぎる!なにしろ雑音が多すぎる!
ガサガサ、と脇の草叢が揺れる
「もーっ!うるさいよ!じっとしてて!」
兎か?蛇か?善逸はぐるりと頸を回す…だがそこに居たのは、頭部が人間の…巨大な蜘蛛だった
第12話 霹靂一閃
「こんなことある!?」
弾かれたように善逸は駆け出した
「人間なんですけど!人面蜘蛛なんですけど!?どういうことこれどういうこと!夢であれ夢であれ夢であれ!夢であれよお願い!!」 - 77二次元好きの匿名さん25/11/10(月) 18:06:42
ひたすら叫びながら善逸は走っていた
「悪夢なら覚めてくれぇぇぇぇぇぇっ!!」
声が通る…いつの間にかやや拓けた場所に出てきていたらしい
ぶら下げられた人、家、その全てに蜘蛛の糸のよあなものが絡みついている
その中には、蜘蛛に変化し始めている人までいる
(なにあれなにあれなにあれ!!人間が…蜘蛛にされてんの!?家浮いてんの…?なんかチラチラ見えるけど…糸?)
善逸の頭は理解が追いつかなかった
そして漂ってくる独特な刺激臭に思わず鼻をつまむ…ぎいっ、と吊るされている家の戸が開いた
その音と光景を目にし、ビクッ!と身体が跳ねる
そこから現れたのは、一際大きな人面蜘蛛だった
「ひぐっ……!?」
思わず変な声が出てしまう
でか!でっか!でかいわ…でかすぎるよ!!
ニタリ、と人面蜘蛛が気味の悪い笑顔を向けてきた
「俺!おまえみたいなやつとは!口利かないからな!!」
善逸の口からようやく飛び出したのは、情けない一言だった
やばい、こわい!無理、絶対無理!炭治郎さんを探そう、炭治郎さんなら秒でバラバラに出来る!絶対その方がいい! - 78二次元好きの匿名さん25/11/10(月) 18:14:11
「くふっ…逃げても無駄だぜ?おまえは"もう負けてる"」
踵を返して逃げ出した善逸に、人面蜘蛛が声をかけてきた
「話しかけんなよ!嫌いなんだよおまえみたいなやつ!!」
「手を見てみな…くふふ…」
「はぁ!?手?手がなにさ!?」
慌てて手を見ると、腫れた噛み跡を中心に毒々しい色に皮膚が変色していた
「毒だよ…噛まれたろ?蜘蛛に…おまえも蜘蛛に鳴る毒だ…くふっ…くふふ」
あいつの不気味な笑い声が響く
「四半刻後には俺の奴隷となって地を這うんだ…」
善逸は修行時代を思い出していた
いつもそうだった何度も逃げるなと叱られた、怒られた、ぶたれた
「しっかりしろ!泣くな!逃げるな!そんな行動に意味はない!」
じいちゃんはそうやって怒っていた
師匠と呼べって何度怒られたか分からない…けど俺は厳しいじいちゃんが大好きだった
女の子に貢ぐだけ貢がされて借金だらけだった俺を救ってくれた…そこは剣士が欲しかったからだけかもしれないけど
じいちゃんはおまえには才能があるから育てるんだと常々言っていた…だからこそ、その期待に答えたかった - 79二次元好きの匿名さん25/11/10(月) 18:20:46
累家の男衆なんでThe・蜘蛛!な見た目なんだよ……
父と兄を見た瞬間読むの止めようかと思ったレベルだぞ - 80二次元好きの匿名さん25/11/10(月) 18:22:40
寝る間も惜しんでこっそり修行したりもした…それでもダメだった
ある日のこと、また逃げ出して木に登りしがみついて泣いていた俺は雷に打たれた…髪の色が変わったりしたけど…それでも生きていた
俺はそんな自分が一番嫌いだった…ちゃんとやらなきゃって思っているのに
怯えるし、逃げるし、泣く…変わりたい、何度もそう思った…一人前の人間になりたいって
今だってそうだ…怖いから逃げて、毒を食らったから逃げて…炭治郎さんが居るから平気だって、逃げ道を作って
掻きむしった頭から、ごっそり髪の毛が抜けた…もう、毒が回り始めている…?
『イヤァアアアアアアアアアアッ!ムリムリムリムリ!一撃どころか打ち込みに行くのも怖いんだよ俺は!!』
療養しながらの稽古…伊之助に引きずられて無理矢理炭治郎さんと打ち込み稽古をやらされていた日々
俺はいつも怯えていた
『…そういえば、善逸って雷の呼吸を使うんだろ?俺は他の呼吸のことはよくわからないから聞くんだけど…どんな型があるんだ?』
炭治郎さんは純粋な疑問として聞いてきただけなのはわかっていた…それでも、俺の身体はガタガタと震え出していた
『…だけ』
『あ?聞こえねぇぞ!』
横から伊之助が野次を飛ばす
『俺が使えるのは壱ノ型だけ、なんだ…陸ノ型まであるのに…』 - 81二次元好きの匿名さん25/11/10(月) 18:31:18
『ギャッハハハハハ!なんだそれ!!全然ダメじゃねぇか!』
隣で大笑いする伊之助…そうだ、俺はダメなんだ…出来損ないなんだ…
かつて共に修行をしていた兄弟子に、何度も「消えろよ」と罵られた
目障りだと…元柱だったじいちゃん…育手の桑島滋悟郎に何故しがみつくのかと…
時間の無駄だと、桃の果実を投げつけられたこともあった
『んがっ!?』
炭治郎さんはそんな伊之助の頭に拳骨を落とした
『そんなこと言うな!確かに善逸はすぐ泣くし、俺にしがみつくし、すぐ逃げようとする!今だって俺に打ち込むのを怖がってる!』
おっしゃる通りでございます…でも炭治郎さん、たまに息を吐くように毒を吐くのはやめて欲しい…悪意がないだけに余計に傷つく
『ひとつ使える、それでいいじゃないか』
その一言が、善逸の心を揺さぶった…じいちゃんと同じだったから
「いいんだ善逸、おまえはそれでいい…ひとつ出来れば万々歳だ…一つのことしか出来ないのなら、それを極め抜け!極限の極限まで極め抜け!」
じいちゃんはそう言って頭を撫でてくれた
それなのに次の瞬間には頭をゴチゴチと殴りながら刀の作り方を述べる…俺は泣きそうなのに、ゴチゴチと拳は止まらない - 82二次元好きの匿名さん25/11/10(月) 18:36:56
『善逸…俺は何度でも言う!おまえは強いんだ!使える型がひとつだけしかないのがなんだ!俺だって自分がずっと使ってる呼吸以外には水の呼吸が伍ノ型しか使えないぞ!』
いや…だから炭治郎さんのそれは比較にならないんだよ…そもそもあの人は他の呼吸も併用出来る時点でおかしいってことに気付いてない…
『だから…俺がいくらでも付き合ってやる!善逸が逃げないように!ビビらないように!俺を鬼だと思って何度でも打ち込め!』
がっ、と肩を掴んで炭治郎さんは言う…その力強い瞳は、怯える俺の瞳を真っ直ぐに見つめていた
『"一撃"だって重ねれば"連撃"になる…怖がるな善逸、自分を信じるんだ!まずおまえがおまえのことを信じずに、誰が信じるんだ!』
ずる、と木の幹にしがみついていた腕の力が弛む…そのまま力なく落下していく
『泣いてもいい、逃げてもいい!ただ諦めるな!』
じいちゃんが言っていた
『地獄のようだった鍛錬の日々は、絶対に裏切ることはない…必ず報われるんだ』
炭治郎さんも言った
『『だから善逸…おまえは、誰よりも鋭い刃となれ!!』』
空中で身を翻し、着地と同時に善逸は人面蜘蛛へと斬りかかった - 83二次元好きの匿名さん25/11/10(月) 18:40:10
意識を残したままか!?
- 84二次元好きの匿名さん25/11/10(月) 18:44:00
吐き出された蜘蛛の糸を身を捩って回避した善逸は、壱ノ型の構えを取る
今度は毒液が吹きかけられた…回避、構える
次はあいつの従える蜘蛛たちが襲ってきた…躱す、構え直す…
兄蜘蛛もその違和感にすぐ気づいた…この鬼狩りが、ひとつの技しか使えないことに
だが毒は確実に回ってきている…徐々に動きの精細さが消え、攻撃があいつを掠めていく
蜘蛛共に毒を撃ち込めと命じた…吐血しながらもあいつはかわした…やがて死ぬかもしれない…が、どうでもよかった
あれだけ情けない姿を晒していた人間が使い物になるとは思えなかった
シィィィィィ!という独特な呼吸音…それと同時に、空気が震えた
ビリビリと肌と本能で感じる…こいつは…ヤバい!!
「雷の呼吸、壱の型…霹靂一閃」
深く、もっと深くだ…速く、更に速くだ…そいつを…何度でもブチ込んでやる!!
『さぁ…思い切り来い!善逸!』
炭治郎さんの声が、聞こえた気がした
「六連!!」
雷鳴が轟いた…兄蜘蛛は、やや遅れて自身の頸が斬られたことに気づいた
信じられない、あり得ないという感情が駆け巡る中で身体はボロボロと崩れていく
がしゃん!と大きな音を立てて、技の勢いで飛び上がっていた善逸はそのまま吊り下げられた家に転落した
全部出し切った…やりきった!俺はあの鬼を…ひとりで倒せたんだ…
第12話 霹靂一閃 終 - 85二次元好きの匿名さん25/11/10(月) 18:47:54
- 86二次元好きの匿名さん25/11/10(月) 20:38:27
乙ですー
人を食べてる禰豆子っていう明らかに上弦は余裕で行ってそうな超強敵が居るかし周りの強化も早い方が良いからこの時点で善逸が気絶なしで鬼狩り出来るようになったのが本当に大きい - 87二次元好きの匿名さん25/11/10(月) 22:12:01
- 88二次元好きの匿名さん25/11/11(火) 03:27:57
保守
- 89二次元好きの匿名さん25/11/11(火) 08:54:31
ほしゅ
- 90二次元好きの匿名さん25/11/11(火) 17:49:41
- 91二次元好きの匿名さん25/11/11(火) 17:58:57
「…………あああああああああっ!」
伊之助は小川に差し掛かった瞬間、そのせせらぎを打ち消すように叫んだ
「全然鬼いねぇ!!つーかなんださっきの音!雷か!雷なのか!?」
索敵をしながらずんずんと伊之助は歩く
親分からヤバいなら探せと言われたがそもそも鬼に会ってねぇ!どういうことだ!
バシャ、と水音がした…振り返ると、女の鬼がいた
「おおおお!いやがったな!ぶった斬ってやるぜ!鬼!コラァ!」
日輪刀を抜いて、伊之助は女の鬼目掛けて走り出す
「お父さん!!」
女の鬼は逃げ出しながら声を上げる…その声に反応したのか、頭上から大柄な鬼が間に割って入って来た
不気味な唸り声を出すそいつの顔は、巨大な蜘蛛そのものだった
「オレの家族に…近づくな!!」
振り下ろされた拳が、地面を叩き割った
第13話 "柱"
「オラァッ!」
振り下ろした日輪刀は、父鬼の左腕に食い込んで止まる
(か、硬ぇええええっ!?)
ぶんと自分を狙って繰り出された拳を、父鬼の脚を蹴った勢いで刃を抜くことで何とか躱す - 92二次元好きの匿名さん25/11/11(火) 18:07:23
「オレの家族にィィィィ!近づくなぁああああああ!」
巨大な石が簡単に砕かれ、飛んできた破片が刺さり、皮膚を引き裂いていく
ヤベェ…こいつはヤベェ…!勝てるか?俺一人で…親分はヤバいなら俺を探せと言ってた
だが同時に死ぬなと、全力で戦えとも言った
出鱈目に振り回される拳、今度は大木を枝みたいに砕きやがる…当たったら死ぬ…が、見えないほどでもねぇ!
大ぶりの拳を跳んで避けた伊之助は、宙返りの体勢のまま頸を狙う…が、弾かれた
ダメだ、この体勢じゃ力が入らねぇ!なにより腕よりも更に硬ぇ!
どう斬る…どう戦う?考えろ…どうヤツの頸を狙うか…
「あ?」
一瞬冷静になった…考えて戦うなんて、まるで親分みたいだ
『伊之助の打ち込みはすごいよ、でももう少し色々も考えたほうがいいかな…』
『なんでだ!色々ってどういうことだ!』
『なんでって…それは…』
親分は言葉に詰まっている…ふん、そりゃあそうだ!猪突猛進、真っ向から斬るのが一番強くて一番速くて一番すげぇに決まってるからだ!
『まぁ、伊之助はとりあえずそれでもいいか…よし!伊之助、どんどん来い!あとせっかくの二刀流なんだ!その長所を活かせ!』
『長所!?長所って何だ!』
『んんんん!もういい!とにかく来い!伊之助はとにかく打ち込んでパワーを上げるんだ!』
『上等だオラアアアアアア!』 - 93二次元好きの匿名さん25/11/11(火) 18:15:21
「…危ねえ!親分に頼るのも…!考えるのも!俺らしくねぇ!」
伊之助は左の日輪刀を思い切り叩き込む…腕の半ばで止まった刃…今度はその刃へと右の日輪刀を思い切り叩きつける
「オラアアアアアア!!」
徐々に刃が食い込んでいく…そのまま、父蜘蛛の腕を斬り落とすことに成功した
「しゃあああああ!斬れたァア!簡単なことなんだよ!1本で斬れないならその刀をブッ叩いて斬ればいいんだよ!だって俺刀2本持ってるもん!ワハハハ!」
喜ぶ伊之助とは対照的に、父蜘蛛は斬り落とされた腕を゙見つめていた…かと思えば、そのまま踵を返して逃げ出してしまう
「…は?」
一瞬思考が停止する…が、すぐに頭に血が昇った
「なに逃げてんだコラァアアアアアア!!」
善逸は呼吸をひたすら繰り返していた
少しでも毒の進行を遅らせるんだ…だけど、もうその呼吸をするのもすら辛くなってきた
意識が遠のいていく…せっかく自分の意思で戦えたのに…やっと、鬼を倒せたのに…
いまなら女の子にもモテるかなぁ…炭治郎さんも、よくやったって褒めてくれるかなぁ…じいちゃん、喜ぶだろうなぁ…でも、ごめん…俺の口からは伝えられないかも…
ぼんやりとした視界に、月明かりを背にした綺麗な蝶が見えた…いや、あれは羽織りだ…蝶のような羽織り
「もしも〜し、大丈夫ですか?」
ふわりと傍へと降り立った綺麗な女性が、俺の顔を覗き込んでいた - 94二次元好きの匿名さん25/11/11(火) 18:21:00
「そこかぁ!!」
自身の"感覚"によって察知した父蜘蛛は、太い木の枝に登っていた
これも自分に頭を使わせる作戦なのかと怒りで震える伊之助に呼応するかのように、父蜘蛛がぶるぶると震え始めた
「フハハ!俺に恐れをなして震えてやがる!」
伊之助は嬉々として父蜘蛛が登っている樹木へと駆け寄る…とりあえずなんとかして登って後はさっきの要領で頸を斬ればいい!
べりっ、という音と共に父蜘蛛の背中が裂けた
(脱皮した…!?)
先程までの肉体を脱ぎ捨て、現れた新たな父蜘蛛は…更に身体を大きく…強靭に
そして、より凶悪で醜貌なものへと変貌させていた
そいつの放つ"圧"で、伊之助は動けなかった…『殺される』、本能的にそう悟った
その瞬間、伊之助の脳裏を駆け抜けたのはあのばばあの言った言葉…そして、親分の言葉だった
『死ぬな、全力で戦え!』
『どのような時でも…誇り高く生きてくださいませ…ご武運を…』
日輪刀を握る手に力が籠る
(負けねぇ…絶対に負けねぇ!)
「かかってきやがれ!俺は鬼殺隊の嘴平伊之助だ!」
殴り飛ばされた…樹木や地面を何度も跳ね回り、背中から盛大に打ち付けられてようやく止まる
(速い!だがよ…!)
今ので骨がかなりイカれた…けど、身体はまだ動く…動かせる!
視界の端に、父蜘蛛が拳を振り上げるのが視えた
(親分よりはずっと遅い!) - 95二次元好きの匿名さん25/11/11(火) 18:27:59
大木を一撃でへし折るほどの攻撃をなんとか躱した伊之助は、滑り込むようにして父の股の間をすり抜ける
「オラァ!!」
両膝の腱を断ち切った…さっきよりずっと硬い…だが、まだ斬れないほどじゃねぇ!
膝をついた父蜘蛛の頸に狙いを定め、伊之助は構える
「獣の呼吸…参ノ牙!喰い裂き!!」
ガチン!と頸に刃が喰い込んで止まる…まだだ、まだ力を込めろ!そのまま刃を捩じ込め!
メキッと音を立てて刃が頸へと更に食い込んでいく…あと少しで切断出来る
僅かに伊之助の気が緩んだ、その時だった…パキン、と呆気ない音と共に刀が折れた…いや、折られた
バックブローを受け、また殴り飛ばされた
攻撃ばかりに目が行っていたせいで受け身を取り損ねた…ダメージがかなり大きい
それでも立ち上がろうとした伊之助の首を、父蜘蛛がまるで万力のように締め付けながら吊り上げる
メキメキと首の骨が軋み、肉が潰されていく感覚
「俺は…死なねぇえええええっ!」
伊之助は力の限り叫んだ…まだ呼吸は出来る…刃も、まだ残ってる
(壱ノ牙…穿ち抜き!)
父蜘蛛の頸を目掛けて放った突きは、深々と突き刺さって貫通した
そのまま斬り裂くために力を込める…力を込めているはずなのに、力が抜けていく
めきっ、と頚椎がさらに軋む…握り潰される
『ごめんね…ごめんね、伊之助…』
その一瞬、走馬灯が視えた
善造…親分…ばばあ…みんな知ってる…だけど…
(この女…誰だ…?)
血反吐を吐いた…死ぬ…意識が飛びかけた瞬間…ふと楽になった
父蜘蛛が悲鳴を上げた…あいつの硬く太い腕が、一撃で斬り落とされていた…掴まれたままの伊之助も一緒に地面へと打ち付けられる
(なんだ…斬ったのか…?アイツが…?)
ぼんやりとした意識の中…伊之助の眼に映ったのは、左右で模様と色の違う…半々羽織りの男だった - 96二次元好きの匿名さん25/11/11(火) 18:32:19
「うぅっ…みんな、頑張って…もうすぐ、隠が来てくれるはずだから…」
尾崎は必死に倒れた隊員たちを励ましていた
みんな、なんとか生きている…きっと助かる…あの耳飾りの剣士が、操り糸の鬼を倒してくれたからだろう…もう糸が絡んでくる素振りもない
「…あ、こんなところに転がってた」
女の子の声がした…同時に、全身が総毛立つ
振り向いた先にいたのは、見た目は小さな女の子だった…首元にふわふわの毛皮を巻いた、赤い着物の女の子…その子は、"鬼"だった
「正直"耳飾りの剣士"とは戦いたくないから…悪いけど餌になってもらえる?とりあえず鬼狩りを喰っておけば面目は立ちそうだし」
ぺたん、と尾崎は尻餅を付いた…死ぬ、殺される、喰われる…気付けば、恐怖の余り失禁までしていた
「うわ…漏らしちゃうんだ…鬼狩りの誇りとかはないの?」
ケタネタと笑いながら鬼が迫る…ボロボロと涙が溢れ出す…やだよ、死にたくない…まだ、死にたくない!
「なにをするつもりだ?」
零余子の背中を、無数の刃が突き刺してくるかのような殺気が襲った
ぶるぶると震えながら、壊れかけた人形のように振り返る
「ーーーーーーーッッ!!?」
そこに、耳飾りの剣士が立っていた
花札のような耳飾り…赫い刀…赤い羽織り…全部、釜鵺たちを殺したという剣士の特徴そのものだった
「あっ…あっ…」
呼吸が出来ない…全身から力が抜ける…肌で、本能で感じていた…この男は、"化け物"だ
第13 話 "柱" 終 - 97二次元好きの匿名さん25/11/11(火) 18:34:38
- 98二次元好きの匿名さん25/11/11(火) 18:43:08
乙です
零余子完全に終わりましたね
逃げても無惨様に殺されますし
無限列車では多分魘夢と轆轤が組む事になると予想しているのでそこもどう攻略するか楽しみです - 99二次元好きの匿名さん25/11/11(火) 21:34:53
>>(親分よりはずっと遅い!)
親分より遅いじゃなくて、ずっと遅いって言うくらいだから、相当な開きがあるんだろうね
でも納得しかない
- 100二次元好きの匿名さん25/11/11(火) 21:53:43
乙です!
- 101二次元好きの匿名さん25/11/11(火) 22:32:11
- 102二次元好きの匿名さん25/11/11(火) 23:06:41
乙です
そういうノルマ熟してるアピールは無惨じゃなくても通用しないんだよなあ - 103二次元好きの匿名さん25/11/11(火) 23:45:29
乙でした
そもそも無惨は思考読めるのでとりあえずでノルマをこなすとむしろお仕置きゲージが爆増するという罠 - 104二次元好きの匿名さん25/11/12(水) 07:46:31
保守
- 105二次元好きの匿名さん25/11/12(水) 16:32:07
保守
- 106二次元好きの匿名さん25/11/12(水) 17:47:39
- 107二次元好きの匿名さん25/11/12(水) 17:51:19
ガチガチと歯が鳴る…恐怖で身体が動かない
襟を掴まれ、そのまま投げ飛ばされた…零余子は無様に地面を転がるしかなかった
なんとか立ち上がろうと藻掻く…しかし、一度身体を恐怖で支配されてしまうとどうにもならない…この"圧"は、無惨様にも匹敵している…?
「…さっきは、なにをしようとしていたんだ?」
耳飾りの剣士は、もうすぐそこまで来ていた
第14話 "水柱"冨岡義勇
「ひっ…お、お願いします…許してください…」
逃げたい、逃げ出したい…それなのに身体は言うことを効かない
「も、もう人は襲いませんから!!」
零余子は最早絶叫に近い声で耳飾りの剣士に訴えた
無様でもいい、とにかく生き延びるんだ…そうすれば、まだチャンスはある…!
「………逃げたいだけなんだな」
「そ、そんなこと…!」
「強い相手からは何度も逃げ出してきた…おまえからはそんな匂いがする」
当たっていた…零余子はずっとそうだった、そうして生きてきた
弱い人間を喰って、弱い鬼狩りは殺して…強そうな鬼狩りや柱からは徹底的に逃げ延びてきた
だがそのおかげで力をつけ、十二鬼月にまで上り詰めることができたのだ - 108二次元好きの匿名さん25/11/12(水) 17:59:34
「お、お願いします!許してください!私はここから去ります!怪我をしている鬼殺隊の皆様を襲うようなことも致しませんから!だがらっ!?」
べちゃ、と鼻先から地面に顔が叩きつけられた…ほんの一瞬の間を置いて…全身を激痛が襲ってきた
「ぎゃああああああああああああああっ!いだいいだいいだいいだいいだいいだいいだいいだいいだいいだいいだいぃいいいいい!?」
手足は斬り落とされ、身体は切り裂かれ、臓物も刻まれ、大量の血と共に外へと零れ落ちていた
なのにシねない…鬼だから…そうだ、身体を再生させなきゃ…早く、早く早く早く早く早く早く早く早く!
「な、なんで…ごふぇっ…だんで…」
傷が塞がらない…それどころか、切断面からジワジワと身体が灼かれていくようだ
「やっぱりヒノカミ神楽で斬ると再生が遅れるのかな…」
まるで他人事のように、耳飾りの剣士は刀を鞘に納めながら呟いた
「げぼ…だ、だずげ…だずげで…ぐだじゃい…!」
血と涙でぐしゃぐしゃになりながら、零余子は助けを求めた…なんとか持ち上げた顔を耳飾りの剣士へと向ける…その眼は、恐ろしいほどに冷たかった
「俺はこれ以上攻撃しない…ただ、日光は別だろうね」
その言葉で、零余子はようやく気づいた…自分の身体が月明かりに照らされているということに
やだ、やだやだやだやだやだやだやだ!ここに居たら夜が明けると日が差し込んでくる…!
動こうとしても、身体は全く動かない…相変わらず傷も再生しない…足音が遠ざかっていく
「ーーーーーーーーッ!!」
最早、悲鳴すら出てこなかった…絶望しかなかった
後悔しても遅いのはわかっている…それでも、思わずにはいられなかった
(鬼になんか…ならなきゃよかった…) - 109二次元好きの匿名さん25/11/12(水) 18:07:26
その戦いは、まさに一瞬と呼べるものだった
腕を再生させた父蜘蛛が半々羽織りに飛びかかったかと思えば、瞬きする間に頸を落とされてボロボロと崩れて行ったのだ
強えぇ…こいつ、めちゃくちゃ強え!!
伊之助は身体の痛みも忘れてワクワクしていた…こんなに強いやつが居たのかと
「俺と戦え!半々羽織り!!」
気がつけば、伊之助はその男に向かって叫んでいた
義勇は突然の声に振り向く…猪頭の隊員が折れた刀を手に叫んでいた
「あの十二鬼月におまえは勝った!そのおまえに俺が勝つ!そういう計算だ!そうすれば…」
ビシッと猪頭は自信を指差す
「さらに強いのは俺って寸法だ!」
「修行し直せ、戯け者!」
「……なにぃいいいいい!?」
一寸ほどの間を置いて、猪頭は叫んだ
「今のは十二鬼月でもなんでもない…そんなこともわからないのか?」
「わかってるわ!あれだけ硬くて強いやつなら一瞬勘違いしても可笑しくは…」
ぱんぱん、と半々羽織りは手を打ち合わせて歩いていく
いつの間にか、太い枝に吊るされた縄で縛り付けられていた
速ぇ!コイツ速ェ!?親分と互角か?もしかしたらそれ以上なのか? - 110二次元好きの匿名さん25/11/12(水) 18:18:53
「ってオイ!待てコラァ!!」
伊之助の声に動じることもなく、半々羽織りは歩いていってしまう
「己の怪我の程度もわからない奴は戦いに関わるな」
「…聞こえねぇんだよ!速ぇんだよ歩くの!」
その言葉は、伊之助へ全く届いていなかった
「ぎゃああああああああ!」
悲鳴を聞きつけた炭治郎は、声のした方向を目指して走る
やがて目に入ったのは、先ほど見た少年の鬼…そして、少女の鬼だった
「…なにをしているんだ!仲間じゃないのか!?」
その光景を目にした炭治郎は、思わずそう口走っていた
「仲間?そんな薄っぺらいものと同じにするな…僕たちは"家族"だ、硬い絆で結ばれているんだ」
少年の鬼は、掌から蜘蛛糸を出しながら炭治郎を睨みつける
「それにこれは僕と姉さんの問題だ…余計な口出しするなら刻むから」
現れたそいつは、無惨様から聞いた耳飾りの剣士だった
けど、そんなことはどうでもよかった…僕たち家族が静かに暮らせる場所、安寧…それが累の求めるものだった
「…違うな、おまえたちからは信頼の匂いがしない…愛情の匂いがしない」
目の前の鬼狩りが刀を抜く
「恐怖と、憎しみと、嫌悪の匂いだ!そんなものは絆とは言わない…紛い物だ!」
「…何て言ったの?」
聞き捨てならない言葉が聞こえた気がした
「おまえ…今、何て言ったの!?」
殺す、殺してやる…刻んでやる、縊り殺してやる…喰い殺してやる…累の放つ殺気に、耳飾りの剣士は全く動じている様子はない
「何度でも言ってやる…おまえたちの絆は"偽物"だ!」
瞬間、鋼糸と黒刀が交錯した - 111二次元好きの匿名さん25/11/12(水) 18:23:20
- 112二次元好きの匿名さん25/11/12(水) 18:37:46
乙です
今の所1番応戦出来た下弦が釜鵺なの面白い - 113二次元好きの匿名さん25/11/12(水) 19:10:38
保守
- 114二次元好きの匿名さん25/11/12(水) 19:37:54
零余子さんクソの役にも立たなくてダメだった
- 115二次元好きの匿名さん25/11/12(水) 21:56:36
- 116二次元好きの匿名さん25/11/13(木) 07:26:38
保守
- 117二次元好きの匿名さん25/11/13(木) 16:47:51
保守
- 118二次元好きの匿名さん25/11/13(木) 17:50:56
- 119二次元好きの匿名さん25/11/13(木) 17:56:45
父には父の、母には母の役割がある…親は子を守り、兄や姉は下の弟妹を守る…なにがあっても
鋼糸が全く通用しない…燃えるような赫い刀が、まるで枝で蜘蛛の巣を払うかのようにバラバラに刻まれてしまう
「る、累…?」
姉蜘蛛は恐る恐る声をかける…それがあの男と戦っている累の琴線に触れたのか、頸が糸で跳ね飛ばされる
「結局おまえたちは役割をこなせなかったな…いつも、どんな時も…」
「ま、待って…ちゃんと私は姉さんだったでしょ…?挽回させてよ…」
姉蜘蛛は凍てつくような視線を向けてくる累へと必死に懇願する
「……だったら、今山の中をチョロチョロしてる連中を殺してこい」
その歪んだ光景を、炭治郎は黙って見つめていた
「そうしたら、さっきのことも許してやる」
「わ、わかった…殺してくる…」
自身の頸を拾い上げて、姉蜘蛛はよたよたと場を離れていく
「…歪んでいる」
「…なに?」
「やっぱりおまえたちの絆は歪んでいる」
ビキビキ、と累の目が怒りで見開かれていく - 120二次元好きの匿名さん25/11/13(木) 18:10:12
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- 121二次元好きの匿名さん25/11/13(木) 18:12:20
「いまのおまえがやっていることはただの"支配"だ!"家族ごっこ"だ!」
刀を握る手に、さらに力が籠る
「家族というのは…本人の意思で、家族へ無償の愛を差し出すから絆が生まれるんだ!」
累へと怒りをぶつけながらも炭治郎は歯噛みした
俺には、二度と叶わないことだから…唯一残っていた家族すらも…鬼に変わっているのだから…
だからこそ、それが見ていられなかった
「どうして力と恐怖で縛り付けるんだ…?ただひっそりと、互いに寄り添うことは出来ないのか!?」
刃を交わす内に、炭治郎は累の中に不思議な匂いを感じていた
誰よりも、何よりも飢えているかのような匂い…それは決して人の血肉ではない
「…じゃあさ、君が新しい兄になってお手本を見せてくれるとでも言うの?」
「俺は鬼にはならない…だけど兄としての、男としての、強き者としての役割なら知ってる!」
会話の合間に編んでいた鋼糸をぶつける…瞬時に広がったそれは、鬼狩りの周囲全てを取り囲む
あとは絞るだけで、あいつは簡単に細切れとなる
だが、鋼糸は灼き斬られた…最高硬度にまで引き上げていたはずなのに…
赫い刀が頸に迫る…ふっ、と刀が黒刀へと代わった
累の頸を黒刀が半ばまで斬り付けた瞬間…ばきんという音と共に刀が折れた…根元から、まるで砕け散るかのように…
(…折れた!?刀が!!)
まずい…炭治郎はすぐに下がった
なんとか躱した糸は、背後にあった樹木を膾切りにしてしまう - 122二次元好きの匿名さん25/11/13(木) 18:18:19
「なに、今の…手加減でもしたつもり?それとも…母さんへやった時みたいに…慈悲を与えたかった?」
頸にめり込んだままになっていた黒刀を抜き取ると、累はその刃を投げ返してきた
「………」
「もったいないことしたね…あのまま赫い刀を使っていれば、僕の頸を斬れたかもしれないのに…」
「………」
確かにそうだ、けど出来なかった
累は俺の言葉に怒っていた、そして姉蜘蛛へ仕置きをしていた時もそうだ
なぜ家族が欲しいのか、なぜそんなにも絆を求めてしまうのか…恐らく彼はその自覚がないように見える
というよりも…なにか根本的なものを忘れてしまっているかのようだ
(けど、これは本当にまずい…刃が残っていない…これだと受けられるものも受けきれない)
糸が迫ってくる…数本が炭治郎の身体に触れた瞬間…バラバラと散っていった
「…大丈夫か?」
特徴的なふたつに分かれた半々羽織り
「すまない、おまえを探すのに随分と手間取った…」
彼は日輪刀の切先を累へと向ける
「あとは、俺に任せて下がっていろ」
あの日、俺に道を示してくれた剣士…冨岡義勇がそこにいた - 123二次元好きの匿名さん25/11/13(木) 18:25:31
(次から次に…!!)
姉への仕置きを邪魔した耳飾りの剣士に続いて、今度はその男の粛清を邪魔する男が現れた
「血鬼術…刻糸輪転!」
累は複雑に編み込んだ最高硬度の鋼糸を男へと放つ
「水の呼吸、拾壱ノ型…凪」
放った糸が、男に触れる前にバラけてしまった
なんだ?なにをした?ヤツの間合いに入った瞬間糸がバラけた!糸が届かなかった…斬られたのか?
困惑しながらも追撃を放とうとした累の視界から、男の姿が消える
気づいた瞬間には、もう視界が廻っていた…頸が、斬り落とされていた
『累は…なにがしたいの?』
"姉"の言葉に、累は答えられなかった…記憶がなかったから
家族の絆に触れたら、記憶が戻ると思った…求めているものがなんなのか、わかるかと思っていた
崩れていく身体、薄れていく意識…その中で、累は思い出した
病弱だった自分…そんな自分の前に現れた無惨様…鬼となった自分…悲しむ両親
両親は自分を殺そうとした…だから殺した…父と母の懺悔の言葉…そうか、そうだったんだ
全部思い出した…僕は自分の手で、"家族の絆"を断ち切ってしまっていたんだ
第13話 "水柱"冨岡義勇 終 - 124二次元好きの匿名さん25/11/13(木) 18:27:32
- 125二次元好きの匿名さん25/11/13(木) 20:24:42
めっちゃ楽しみです!
これが生きがい - 126二次元好きの匿名さん25/11/13(木) 21:09:52
- 127二次元好きの匿名さん25/11/14(金) 03:34:11
保守
- 128二次元好きの匿名さん25/11/14(金) 13:02:02
保守
- 129二次元好きの匿名さん25/11/14(金) 17:58:49
- 130二次元好きの匿名さん25/11/14(金) 18:08:05
累は頬に暖かいものを感じた
「…なにか、思い出せたか?」
耳飾りの剣士が、崩れていく頬に触れていた…太陽のように温かい手…優しい声…
「うん…思い出したよ…僕はずっと両親に謝りたかったんだ…おまえがあぁしなかったのは…このためだったんだね…?」
耳飾りの剣士の意図がようやく理解出来た
情けなくて、ぼろぼろと涙が溢れてくる…でも、僕は人を山ほど殺した…喰らってきた…そんな自分が天国へと行けるわけがない…行き先は、きっと地獄だけだ
意識が完全に切り離された累は、その背中に再び温もりを感じた
『父さんと母さんも…累と同じところに行くよ』
ふたりはずっと待ってくれていた…いつ来るかも知れないのに…愛する息子を地獄の入口でずっと待ち続けてくれていた
累は何度も、何度も謝った…焼け付くような煉獄の炎が身体を焼く
それでも、両親はぎゅっと自分を抱きしめてくれていた
第14話 "蟲柱"胡蝶しのぶ
冨岡義勇が炭治郎の下へと駆けつける少し前…
(しくじった…しくじった…!!)
姉蜘蛛は当てもなく山を駆け巡っていた
今まで一度もしくじったことがなかったのに…あいつらが来たことで初めてしくじった
私たちは家族じゃない…ただの寄せ集めだ…鬼狩りが怖くて、仲間が欲しかった寄せ集め
家族が持つ能力は全部累のものだった…私たちが弱いから、力を分けてもらっていた
累は"あのお方"のお気に入りだから、それも許されていた - 131二次元好きの匿名さん25/11/14(金) 18:14:50
累の家族ごっこの要求や命令に従わずに粛清された鬼を数え切れないほど見てきた
いつしか自分さえよければいいと思い始めた…それからずっとそうしてきた…なのに、しくじった
鬼狩りへの恐怖と不安から、つい累の前で累が一番嫌うことをやってしまった
累は元の姿へ戻ることを一番嫌う…顔を切られたり、頸を落とされて叱責されるだけで済んだのは幸運だった
もう失敗は許されない…早く、早く鬼狩りたちを殺さないと…!
刀を構えたままあちこちを警戒する鬼狩りの背中が視界に入る
自分の存在に気づいた鬼狩りが刀を構えた…が、姉蜘蛛の糸は鬼狩りをあっと言う間に糸で包み込んでいた
ぎし、という音を立てて中から繭が伸びる
「無駄よ、斬れやしない」
溶解の繭で藻掻く鬼狩りに姉蜘蛛は声をかけた
「あたしの糸はね…柔らかいけど硬いのよ!まず溶解液が邪魔な服を溶かす…それからアンタの番よ、すぐドロドロになって…あたしの食事になる」
「わぁ、すごいですね?手のひらから糸を出しているんですか?」
耳元で、柔らかい声がした…その声に思わず振り返ると、蝶のような女がいた
「こんばんは、今日は月が綺麗ですね?」 - 132二次元好きの匿名さん25/11/14(金) 18:23:26
後ろへ飛び退いて、姉蜘蛛は再び糸を繰り出した…だが女はひらひらと蝶が舞うように華麗に避けていく
「私と仲良くするつもりは…ないようですね?」
刀の柄へと手をかけながら、女が氷のような笑みを浮かべた
「待って!待って待って!お願い!」
姉蜘蛛の声に、しのぶは構えを解いた
「私は無理矢理従わされてるの!助けて!逆らったら身体に巻きついてる糸でバラバラに刻まれる!」
「そうなんですか…それは痛ましい、可哀想に…助けてあげます、仲良くしましょう、協力してください」
とっさに付いた嘘だが、どうやら通じたようだ
「た、助けてくれるの!?」
「はい!でも仲良くするためにはいくつか聞くことがあります」
にこり、としのぶが柔らかい笑みを浮かべる
「可愛いお嬢さん…あなたは、何人殺しましたか?」
だが次の瞬間には、もう笑顔が消えていた
「…5人、でも命令されて仕方なかったのよ…」
「嘘はつかなくても大丈夫ですよ!わかってますから…さっきうちの隊員を繭にした術捌き、見事でした!」
貼り付いたような笑みのまま柏手が打たれる…が、それも止む
「80人は喰っていますよね?」
「喰ってないわ…そんなに…」
姉蜘蛛は、しのぶの仕草、挙動、佇まいに違和感を感じ始めていた - 133二次元好きの匿名さん25/11/14(金) 18:30:49
「私は西の方から来ましたよ、お嬢さん…西です」
「殺したのは5人よ…」
押し通す
「山の西側では大量に繭がぶら下がっているのを見てきました…中に囚われた人々は液状に溶けて全滅…それが14個、14人死んでるんです…私は怒っているわけではないんですよ?確認しているだけなんです…正確な数を」
「確認してどうすんのよ…」
累やあの耳飾りの剣士とは違う不気味な"圧"
「お嬢さんは正しく罰を受けて生まれ変わるんです!そうすれば私たちは仲良くなれますよ!」
「…罰?」
「人の命を奪っておいてなんの罰もなしでは殺された人が浮かばれません」
まるで子供を叱っているような、柔らかい口調のまま…
「人を殺した分だけ私がお嬢さんを拷問します」
このクソ女は、とんでもないことを口走った
「目玉をほじくり出したり…お腹を裂いて内臓を引きずり出したり…そのよく回る舌を引っこ抜くのもいいですね…痛みと苦しみを耐え抜けば許されます…一緒に頑張りましょう!」
イかれてる、このクソ女はイかれてる!!
「大丈夫!お嬢さんは鬼ですから死にませんし、後遺症も残りません!」
「冗談じゃないわよ…」
悍ましい殺意を感じた…じんわりと身体に纏わりつくような、不気味な殺意を
「シね!クソ女!」
辺りを覆い尽くさんばかりの糸を、姉蜘蛛は放った - 134二次元好きの匿名さん25/11/14(金) 18:38:33
「蟲の呼吸、蝶ノ舞…戯れ」
身体中から血が噴き出す…今の一瞬で何度刺されたの!?
「仲良くするのは無理なようですね…残念残念」
姉蜘蛛は振り向きながら頸に手を当てる…斬れてない、それどころか切り傷ひとつない
あるのは刺突による痛みだけ…そうか、こいつ…"頸が斬れないんだ"
自然と口角が上がっていく…それなら、勝ち目はある!
一歩前へと踏み出した姉蜘蛛の身体を、奇妙な感覚が襲う
爆発しそうなほどに強くなっていく心臓の鼓動、身体中へと走る激痛、息苦しさ、それから、それから…口から大量の血液を吐き出して姉蜘蛛は倒れた
「頸を斬られてないからと安心してはいけませんよ?私のように"毒"を使う剣士もいますからね」
しのぶは刺突に特化させた日輪刀を華麗に回す
「蟲柱・胡蝶しのぶ…私は柱の中で唯一鬼の頸を斬れない剣士ですが…鬼を殺せる毒を作ったちょっとすごい人なんですよ?」
びくんびくんと痙攣する姉蜘蛛へと、しのぶは説明してあげた
「ああ!失礼しました!」
その声はどこかわざとらしいものだった…ぴくりとも動かなくなった姉蜘蛛を見て、しのぶは驚いたように口へ手を当てた
「死んでるからもう聞こえませんね…うっかりです」
てへ、と側頭部を打つその仕草は可愛らしくもあり…同時に彼女の異様さを物語っていた
第14話 "蟲柱"胡蝶しのぶ 終 - 135二次元好きの匿名さん25/11/14(金) 18:41:05
- 136二次元好きの匿名さん25/11/14(金) 21:22:33
- 137二次元好きの匿名さん25/11/14(金) 22:24:43
このレスは削除されています
- 138二次元好きの匿名さん25/11/14(金) 23:40:15
保守
- 139二次元好きの匿名さん25/11/15(土) 07:01:37
毒で満足に動けない状態でパーフェクト縁壱な炭治郎に追い回される地獄の鬼ごっこ……どっちにしろ「鬼になんかならなきゃよかった」が最期に思う事になりそうだ…。
続き楽しみにしてます!でも無理しすぎないように…。 - 140二次元好きの匿名さん25/11/15(土) 15:23:12
保守
- 141二次元好きの匿名さん25/11/15(土) 17:16:17
原作炭治郎より遥かに強いのに原作ほど見てて安心感がないんだよな…
- 142二次元好きの匿名さん25/11/15(土) 17:21:38
- 143二次元好きの匿名さん25/11/15(土) 17:24:51
とことこと繭玉に近づくと、しのぶはそのまま繭を一突きにする
繭が破れ、中から隊員…村田が飛び出してきた
「大丈夫ですか?」
噎せる村田にしのぶは優しく声をかけてあげる
「だ、大丈夫です!ごほっ…鬼には、止めを刺さなくてもいいのですか?」
「藤の花の毒で殺したんです、もう死んでいるのであのまま腐ります…私は薬学に精通しているんですよ」
ぴっと指を立てて、しのぶは隊員へ教えてあげる
「服が溶けただけで身体は殆ど無傷ですね!よかったよかった」
その一言で、村田は自分が全裸で放り出されていることにようやく気がついたのだった
第15話 柱と御館様
「あ、あの…義勇さん…?」
「…本当に怪我はしていないんだな?」
炭治郎は義勇から過保護に感じるほど身体を調べられていた
羽織りが斬られはしたが、義勇が駆け付けてくれたおかげで傷一つなかった…ただし一瞬でも遅れていたら、確実に死んでいたのも確かだが
「はい、お陰で助かりました」
ありがとうございます!と炭治郎が頭を下げたのを見て、義勇は刀を鞘に納めた
「…日輪刀が折れるとは、運が悪かったな」
転がっていた刃を拾い上げた義勇は、じっと刀身を見つめる…わずかだが刀身にもヒビ割れがある
(…これは、茎からヒビが入ったのか?)
折れた日輪刀を見るのは初めてではない…だが、このような破損は見たことがない - 144二次元好きの匿名さん25/11/15(土) 17:30:07
「任務は終わりだ…帰るぞ」
「あ…はい…」
「新しい刀を打ってもらえるよう俺から取り計らっておく…おまえの口からは、ただ折れたことだけしか説明出来ないだろう?」
確かにその通りだ…差し出された義勇の手に、握ったままだった日輪刀の柄を渡した
「…その子が冨岡さんの弟弟子さんですか?」
「うわっ!?」
突然傍に降り立った小柄な女性の姿に、炭治郎は飛び上がった
治療を受けて包帯でぐるぐる巻きにされた善逸は、ようやく意識がはっきりしてきた
たくさんの人が慌ただしく動いていた…ほとんどは黒子のように顔を隠した人たちだが、その中に自分に解毒剤を注射して簡易的な治療を施してから立ち去った女性と同じ飾りを付けた女の子がいた
「怪我人は皆うちへ…付近の鬼は私が狩るから安心して作業して」
最終選別で見かけた子だ…彼女がテキパキと指示を出している
「こいつなに…?」
「さぁ…」
吊るし上げられたまま気を失った伊之助も、彼らによって発見されていた
「…というわけで、お友達はみんな無事なのでご安心ください」
「よかった…善逸も伊之助も無事だったのか…」
安堵の息を吐き、炭治郎はへたり込んだ
ずっとあの二人が心配だった…怪我をしても生きているなら、それでよかった - 145二次元好きの匿名さん25/11/15(土) 17:34:46
「伝令!伝令!」
鎹鴉が義勇としのぶの頭上を旋回する
「竈門炭治郎を本部へ連れ帰れ!繰り返す!竈門炭治郎を本部へ連れ帰れ!」
「…だそうですよ、冨岡さん」
「炭治郎、悪いが友人の見舞いは後回しだ」
表情は変わりないが、義勇さんはどこか申し訳なさそうな匂いがする
「お友達は大丈夫ですから…ね?さぁ、行きましょうか、竈門炭治郎くん」
炭治郎は隠と呼ばれる人たちに連れられて大きな屋敷へと赴いていた
義勇さんとしのぶさんは所用があるからと先に行ってしまった
隠は事後処理部隊なのだと、道中で教わった…鬼殺隊と鬼が戦った後始末が主な仕事だと
そのほとんどは剣術や呼吸の才能に恵まれなかった者たちで、どんな形であれど鬼に一矢報いるためにいるのだと…
「ここは…?」
そんなに広い屋敷を見たのは初めてだった…キョロキョロと周囲を見回す炭治郎
背後から砂利を踏み締める複数の足音がした…そして、その"圧力"に全身が総毛立つ
炭治郎は反射的に一番近くに居た気配へ組み付いた…白髪の人だ、腰払いで転がす
次は口元を包帯で覆った人、小手返しと足払いを組み合わせて転がす
一番大柄な人に掴みかかろうとして…後ろから隠の人たちに飛びつかれた
「な…なななななな!なにやってんだ馬鹿野郎ぉおおおおおおお!?」
「ばっ…馬鹿か!おまえ馬鹿なのか!?」
隠の人たちが絶叫する…なんだ?なにをそんなに焦っているんだ? - 146二次元好きの匿名さん25/11/15(土) 17:39:31
「ってぇ…おい冨岡ァ!テメェこいつにキチンと説明してなかったな!?」
風柱・不死川実弥
「この言葉足らずめ…確かに噂通り、力は十分だ…だが覚えておけ冨岡…この借りは大きいぞ」
蛇柱・伊黒小芭内
「こいつは強いから変に絡むなと伝えておいたはずだ」
水柱・冨岡義勇
「うむ!しかし、まさか不死川と伊黒をこうも簡単に投げ飛ばすとはな!よもやよもやだ!」
炎柱・煉獄杏寿郎
「こいつはまた派手にやられたな!素手ならお前ちより強えんじゃねぇか!?」
音柱・宇髄天元
「あらあら、喧嘩はいけませんよ〜?」
蟲柱・胡蝶しのぶ
「いまの…すごかったね」
霞柱・時透無一郎
「すごかったね〜!伊黒さんと不死川さんが投げられたのって初めて見たかも!」
恋柱・甘露寺蜜璃
「南無……その手を離してやれ、今のは我々が大人気なかった…」
岩柱・悲鳴嶼行冥
いそいそと、命じられるままに隠の人たちが炭治郎を解放する…だが立ち上がろうとした炭治郎の手を再び引き、跪かせてしまう
「頭を下げろ…!柱の前だぞ!!」
柱…?落ち着いて目の前の人たちへと目を向ける…立ち並ぶ9名の男女…それよりも義勇さんはどうしてあんなに離れた場所に居るんだ?
「竈門炭治郎くん」
しのぶさんが目線を合わせるようにしゃがみ込んだ
「おめでとうございます、貴方は新しい"柱"に選ばれました」 - 147二次元好きの匿名さん25/11/15(土) 17:43:41
「あの…どういうことですか?」
ポカンとしたままの炭治郎に、しのぶさんは説明してくれた
柱とは鬼殺隊の中で最も位の高い剣士であること
柱より下の階級の者は恐ろしい速さで殺されていく…それを支えているのが、文字通りの"柱"であるということを
(この人たちが…)
改めて錚々たる面々を見上げる…中には自分と変わらない歳の頃の少年もいるが、そのほとんどは若く自分よりもいくつか上の人ばかりだ
(俺が…その柱に…?)
「でも…俺にそんな資格は…」
「御館様のお成りです!」
少女の声が響き渡る
「よく来たね、私の可愛い剣士たち」
とても心地のよい声がした
「おはよう、今日はいい天気だね…空は青いのかな?」
白髪の少女ふたりに手を引かれて現れたのは、顔の上半分に爛れたような跡を持つ若い男性だった
「顔ぶれが変わらずに半年に一度の"柱合会議"を迎えられたこと…嬉しく思うよ」
その男こそ、産屋敷耀哉…この鬼殺隊を率いるその人だった
第15話 柱と御館様 終 - 148二次元好きの匿名さん25/11/15(土) 17:47:40
- 149二次元好きの匿名さん25/11/15(土) 19:22:56
まあそりゃあ柱になれ言われるやろな
- 150二次元好きの匿名さん25/11/15(土) 19:30:14
乙です!まさか柱就任とは…次が楽しみです
- 151二次元好きの匿名さん25/11/15(土) 20:26:59
禰󠄀豆子イベが挟まらないだけで風蛇柱との関係性がこんなに穏やか!
いきなり仕掛けたことも実力の証明扱いになって、ヘイトは説明不足義勇さんにしか向かない! - 152二次元好きの匿名さん25/11/16(日) 02:31:22
保守
- 153二次元好きの匿名さん25/11/16(日) 08:23:28
義勇「あいつは強い(まぁこう言っておけば変なことはせんやろなぁ…」→結果
- 154二次元好きの匿名さん25/11/16(日) 14:03:33
保守
- 155二次元好きの匿名さん25/11/16(日) 17:41:26
- 156二次元好きの匿名さん25/11/16(日) 17:51:05
柱の全員が最敬礼を取る
「御館様におかれましても御壮健でなによりです…益々の御多幸を切にお祈り申し上げます」
「ありがとう、実弥」
不死川実弥が一足早く挨拶をしたことで、甘露寺蜜璃はむくれていた
(私が言いたかった…御館様にご挨拶…)
「皆の耳には既に入っていることだと思うけど…私は彼に新たな"柱"のひとりとして立ってもらいたい…そして、それを皆にも認めて欲しいと思っている」
第16話 選択
いつの間にか、隠たちの手が離れていた…炭治郎は、慌てて姿勢を正した
反対の声は聞こえてこない…それは、さっきの邂逅でもそう感じていた
ただ、ちらりと眼を向けた義勇さんはどこか複雑そうな表情を浮かべている
「彼は既に下弦の鬼を三匹も討伐している…そして義勇からの報告によれば…刀が折れなければ四匹になっていただろう、とね?そして炭治郎は…鬼舞辻無惨と遭遇している」
柱たちがざわめく…代わる代わる、いや…ほぼ一斉に詰問してくる
容姿は、能力は、遭遇した場所、根城はどうかと…そんな喧騒も、産屋敷がそっと唇に人差し指を当てたことで静まり返る - 157二次元好きの匿名さん25/11/16(日) 17:55:58
「鬼舞辻はね、炭治郎に向けて追っ手を放っているんだよ…その理由は単なる口封じかもしれないが、私は鬼舞辻が初めて見せた尻尾を掴んで離したくない」
そうだね?と問いかけられた炭治郎はこくりと頷く
「まだいくつか話さなければならないこともあるけれど…その全てに鬼舞辻と恐らく炭治郎も関わってくる…ただ、これは情報の精査もあるから皆には悪いけど少し我慢して欲しい、時期が来れば必ず伝えさせてもらうからね」
御意、と柱たちが声を揃えた
「それで話は戻るけれど…炭治郎」
「…ぎょ、御意!」
「…まだ何も言ってないよ?」
くすりと産屋敷が笑ったのを見て、炭治郎は顔が真っ赤になった…後ろに控える柱たちがぷるぷる震えていたり今にも吹き出しそうになっているのを感じる
なんだろう、御館様の声を聞いているとふわふわしてくる…不思議な高揚感が炭治郎を包み込んでいた
「しのぶから少し聞かされたかもしれないけれど…炭治郎、私は君に新しい柱の一人として先陣に立ってもらいたいんだよ…やってくれるかい?」
「…御館様」
三つ指をついて、炭治郎は深々と頭を下げた
「もう少しだけ、お時間を頂けますか?」 - 158二次元好きの匿名さん25/11/16(日) 18:06:40
「…なにか、理由があるのかな?」
「浅草で無惨と出会った時に…その傍には鬼となった俺の妹の姿もありました、御館様の口ぶりなら既にご存知のことだと思います」
妹、その言葉に実弥が僅かに反応する
「身内に鬼がいる…そんな俺にその資格があるとは思えないのです…人を導くだけの度量もあるとは思えません」
頭を下げたまま、炭治郎は続けた
「俺はまだ任務も数えるほどしか経験していません…鬼については知らないことの方が多いでしょう」
倒した鬼の数、下弦の鬼を倒したという事実はあるかもしれない
「それに、俺はまだまだ自分をコントロール出来ていないんです…怒りのまま、徒に鬼を拷問するように殺したこともあります…精神的には未熟者と断じられてもおかしくはありません」
思い出しても自分にゾッとする…あれが、本当に同じ自分なのかと…
「俺の実力は、柱の皆様に並ぶとは到底思っておりません!ですがこれから先、柱の方々と並んで任務に赴き、再び認められた暁には…」
顔を上げて、真っ直ぐに御館様を見つめる
「新たな"柱"として鬼を狩り、共に鬼舞辻を倒すための支えとなります!」
「…彼は、どんな眼をしているのかな?」
「はい…とても真っ直ぐな眼です」
「嘘も偽りもない、優しい眼です」
「…そうか、よかった」
御館様が姿勢を正し、炭治郎へと向き直る
「炭治郎…心が決まったら鎹鴉を飛ばしなさい…私はいつでも待っているよ」
「…はい!ありがとうございます!」 - 159二次元好きの匿名さん25/11/16(日) 18:14:43
「それでしたら…しばらく間、竈門くんは私の屋敷で面倒を見ましょうか?ちょうどお友達もいるようですから」
にこーっと笑顔を浮かべたしのぶが提案する
「そうだね…お願いできるかい?」
「それではお願いします!」
しのぶがパンパンと手を叩くと、バタバタと隠の人たちが炭治郎を゙引っ掴むようにして離れていく
なんだか涙と…言わないでおこう、ちょっと『あれ』の匂いがする
「炭治郎…珠世さんたちによろしくね」
去り際…珠世さんの名前が出てきたことに炭治郎は驚いた
だがそんなことは関係ないと言わんばかりに自分を引きずっていく隠たち
また御館様に会えた時にでも聞くしかない…とりあえず今は、善逸と伊之助のところに行ってあげないと…
「ほんっとにもぉおおおおおお!あれなんだよ!怒られるかと思ったわ!漏らすかと思ったわ!」
「柱の人たち怖いんだぞ!空気読めよ!察しろよ!」
「ご、ごめんなさい…」
涙目でポカポカと叩いてくる隠の人たちに案内されながら、炭治郎はこれまた広い邸宅…通称"蝶屋敷"へと辿り着いた
「ごめんくださいませー!」
何度か挨拶をしても返事はない…一度庭に回ろうと話して移動する…
「あっ、人いる!」
「あの人は確か…そうだ、"継子"の方だ!名前は…そう、栗花落カナヲ様だ」
そこに佇んでいたのは、最終選別の時に見かけた女の子だった
じっと見つめていると、頬が紅潮してくるのを感じる…彼女は儚げで、まるで水辺に佇む美しい蝶のような… - 160二次元好きの匿名さん25/11/16(日) 18:18:13
- 161二次元好きの匿名さん25/11/16(日) 18:56:40
炭治郎がつよつよな影響で善逸と伊之助にもパワーレベリングが課されることに…
今に始まったことじゃないね!!頑張れ!! - 162二次元好きの匿名さん25/11/16(日) 21:44:38
- 163二次元好きの匿名さん25/11/17(月) 06:16:58
保守
- 164二次元好きの匿名さん25/11/17(月) 14:34:46
保守
- 165二次元好きの匿名さん25/11/17(月) 17:08:59
- 166二次元好きの匿名さん25/11/17(月) 17:13:23
「…継子って?」
ぽ〜っとしていた炭治郎は、ふと聞こえてきた単語に反応した
「継子ってのは柱が育ててる隊士だよ、相当才能があって優秀じゃないと選ばれない…女の子なのにすげぇよなぁ…」
「胡蝶様の申し付けにより参りました!お屋敷に上がってもよろしいですか?」
隠のひとりがカナヲへ確認を取る…が、彼女はニコニコと笑って返してくるだけだ
「あ、あの…よろしい…ですか?」
「どなたですか!!」
そんな炭治郎たちの背後から大きな声がした…振り向いた先に居たのは髪をふたつ結びにした隊服の上に割烹着を纏った女の子だった
「あ、あの…胡蝶様に…」
もごもごとしている隠の代わりに、炭治郎は一歩前に出て微笑みかけた
「俺たち、しのぶさんに言われてここに来たんです…こちらでしばらくお世話になるようにって…」
「あぁ…貴方が…鎹鴉から聞いています、どうぞこちらへ」
キビキビと歩いていく女の子に、炭治郎はついて行く
(えっ…なんで初めから話してくれなかったの…?)
隠たちは、困惑したまま彼女について離れていく赤い羽織りを見守っていた - 167二次元好きの匿名さん25/11/17(月) 17:19:15
「俺は竈門炭治郎です…えっと…」
「アオイです、神崎アオイ」
「アオイもここでお世話に…「5回!?5回飲むの?1日に!?」」
聞き覚えのある声だ…悲鳴交じりの汚い高音…あれは明らかに善逸だ
その傍らには困惑する小さな女の子がいる
「まだ騒いでるのあの人…静かになさってください!」
アオイがずんずんと病室に入ったかと思えば、善逸を怒鳴りつけた
「説明は何度もしたでしょう!いい加減にしないと縛りますからね!」
ガミガミと反論の余地もなく善逸を叱ると、まったくもう…と呟きながら他のベッドへ向かって歩いていく
「あ〜、善逸?」
「ぎゃーっ!?あ…あ…ああああああ!炭治郎ざぁぁぁぁぁん!!」
善逸が飛びついてきた…心なしか力が弱いしなんだか手足が短くなってるような気がする
「聞いてくれよぉ!あの山に入ったのはいいけどさぁ!くさい蜘蛛に刺されるし!その毒が凄い痛かったんだよぉおおっ!それにさっきからあの女の子に怒られるし最悪だよーっ!!!」
ギロリ、とアオイに睨まれて善逸が再び萎縮する…それより善逸の鼻水がすごい…隊服がべとべとだ
「…けど、倒したんだろ?よくやったじゃないか…」
ぽんぽん、と善逸の頭を撫でて労った…本当に、無事でよかった…
「へ、へへ…俺もやれば出来るんだよ…炭治郎さん…」
少しだけ善逸に笑顔が戻った…が、離れた顔からどろんと隊服についた鼻水が伸びている
一瞬撫でている頭を鷲掴みにしようとして…やめた、今は甘えさせてやろう - 168二次元好きの匿名さん25/11/17(月) 17:28:20
「伊之助は?村田さんって人は見なかったか?」
「村田さんって人は知らないけど…伊之助ならそこにいるよ」
善逸が指し示した隣のベッドには、確かに伊之助の姿があった…気づかなかった、なんだかやけに静かだ
「伊之助…!無事でよかった!大丈夫だったか?」
「ダイジョウブダヨ…オヤブンモブジデヨカッタ…」
「…うん!?」
伊之助の声が…なんだかおかしい
いつもの大声がないのはもちろんだが、なんだかこう…形容しがたい声になっている
「なんか…喉潰れてるらしいよ?」
「喉!?」
「詳しいことよくわかんないけど…首をガッとやられたらしくて…そんで最後自分で大声出したのが止めになったみたいで喉がえらいことに…あと全身の骨も結構イカれてるらしくて…」
そうか…そんなことになるまで伊之助も頑張ったんだな
善逸を引き剥がして、炭治郎は伊之助の頭も優しく撫でてあげたのだった
(それにしても…このふたりがここまでの怪我をしたってことは…)
「俺も、まだまだだってことだよな…」
ぎゅっと拳を握り締めた…そうだ、俺はまだまだ強くならないといけないんだ
禰豆子を斬るために…鬼舞辻無惨を倒すために
第16話 選択 終 - 169二次元好きの匿名さん25/11/17(月) 17:34:59
善逸に隊服をベトベトにされた炭治郎は、元の汚れもあってアオイから着替えを受け取ってからわざわざ割り当ててくれたらしい個室で着替えていた
「炭治郎さん、羽織りの方はどうしますか?」
「あぁ…羽織り…直せそうですか?」
「う〜ん…切られたところを仮縫いした後で綺麗に洗濯して…それから繕ってしまえば大丈夫だと思います、私がやっておきましょうか?」
羽織りの状態を見てくれたアオイがそう言ってくれた
「ありがとう!よろしくお願いします!」
「脱いだ隊服はそこに置いておいてください、あとで洗濯しますから」
至れり尽くせりだなぁ、と炭治郎は感じた…藤の花の家でも随分とお世話になったが、蝶屋敷でもあれこれお世話をしてくれているようだ
(善逸は喜んでそうだけど…今はそれどころじゃないか…)
「あっ…」
着替えを終えてから蝶屋敷を歩いていた炭治郎の目に、別の病室で横になっている女性の姿が映る
「あの…もしかして…」
「あなた…あの時の…」
那田蜘蛛山で助けた、女性の隊員だった
第17話 機能回復訓練
「よかった、無事だったんですね…えっと…」
「尾崎…」
「尾崎さん…その…」
きゅっ、と尾崎はシーツを掴んだ…思い出してしまったのか、ボロボロと涙を流す - 170二次元好きの匿名さん25/11/17(月) 17:40:03
「……情けないわよね、私の方が先輩だったのに」
「…そんなことないですよ」
彼女の傍らに腰掛け、炭治郎は優しく語りかける
「尾崎さんは必死に頑張った、頑張って生き抜いた…それでいいんです…今はその傷を癒やしましょう…考えるのは、それからでいいんです」
やがて立ち上がった炭治郎の袖を、尾崎が引っ張る
「あの…あなたの名前は…」
「炭治郎です、竈門炭治郎…階級は…そうだな…」
にこり、と炭治郎は笑いかける
「"柱見習い"、ですかね?」
「よっ!」
「村田さん!」
善逸と伊之助の居る病室へ戻った炭治郎の下に、新しい客人が来た
聞けば仔細報告のために先程まで柱合会議に呼び出されていたらしい…確かに村田さんには目立った傷もないし、那田蜘蛛山での戦いをよく知っている一人ということもあるだろう
「地獄だった…怖すぎだよ柱…」
見るからに落ち込んでいる…もうこれでもかと愚痴りまくっている
しのぶさんが帰ってくると村田は逃げるかのように去っていってしまった…彼女のこともよほど怖かったのだろう
「こんにちは!どうですか、お身体の方は?」
「俺はまだこの通りで…」
「マダチョットイタイ…」
「それでしたら、今のうちに説明しますね?お二人には身体が回復次第、機能回復訓練に入っていただきますから…内容は始まってからのお楽しみです!頑張ってくださいね?」
機能回復訓練…?
またなにやら始まりそうな予感が、善逸と伊之助を襲ったのだった - 171二次元好きの匿名さん25/11/17(月) 17:42:07
- 172二次元好きの匿名さん25/11/17(月) 17:53:12
明日から機能回復訓練かな?
タノシミです! - 173二次元好きの匿名さん25/11/17(月) 20:23:06
- 174二次元好きの匿名さん25/11/17(月) 22:29:43
鼻水にアイアンクローしかけた長男よ…怪我してなかったら頭蓋骨に指がめり込んでたな…
- 175二次元好きの匿名さん25/11/17(月) 23:00:48
乙です!
- 176二次元好きの匿名さん25/11/18(火) 05:45:37
保守
- 177二次元好きの匿名さん25/11/18(火) 09:01:02
尾崎さんが生きてる…!
善逸や伊之助の重体を見て守りきれない自分はまだまだだなって思うの凄いなぁ - 178二次元好きの匿名さん25/11/18(火) 17:07:50
- 179二次元好きの匿名さん25/11/18(火) 17:14:20
それからしばらくして、ようやくまともに動けるようになった善逸と伊之助は炭治郎に引っ張られる形で道場に赴いていた
「本日より機能回復訓練に入るおふたりにご説明させて頂きます…まずあちら、寝たきりで硬くなった身体をあの子たちが解します」
アオイが示した先に敷かれた布団の横に、三人の女の子が立っている
「それから反射訓練」
机の上にたくさんの湯呑みが並べられ、その傍らにカナヲが座っていた
「湯呑みの中には薬湯が入っています…互いに薬湯をかけ合うのですが、湯呑みを持ち上げる前に相手から湯呑みを押さえられた場合は動かせません」
黙って佇む炭治郎の横で、善逸はなぜかひとりソワソワしている
「最後は全身訓練…端的に言えば鬼ごっこですね、私アオイとあちらのカナヲが相手です」
なるほど、と炭治郎は頷いた…かなり理に適っている…後で反射訓練と全身訓練は自分にもやらせてもらおう
だがそれからは、善逸・伊之助のふたりにとって地獄の始まりだった
マッサージは激痛が走るのか伊之助は終始悶絶していた…だが、善逸は女の子に触ってもらうのが余程嬉しいのか終始笑っている
端から見ている自分から見てもちょっと気持ち悪いぐらいに - 180二次元好きの匿名さん25/11/18(火) 17:24:00
それから反射訓練と全身訓練…初めこそ負けていたふたりも数日後経過したともなれば見事アオイに勝ってみせた
治療で多少のブランクもあったからか手こずりはしたものの、あのふたりはやっぱり強い…その喜びも束の間だった
「……どうしたんだ二人共?」
ゲッソリとした顔で病室に戻ってきた善逸と伊之助は、言葉少ないまま床についてしまった
「…勝てないんだよ」
「あの蝶々女に勝てねぇ…」
ぼそり、とふたりが呟くように言った
カナヲのことだろうか…?確かにあの子は他と比べて纏う雰囲気も匂いも眼も違う
だがそれは僅かながら善逸たちにも感じているものなのだが…仕方ない、ここは俺が一肌脱ごう
「…明日、俺も訓練に参加してやるよ」
「えっ…?」
「ふたりの見本になればいいかもしれないから…ほら、目標があってそれに向かって努力すれば報われるって話はあるだろ?」
温かいお茶を淹れてから、炭治郎がにこりと笑う
「ふたりが勝てるように、俺も精一杯付き合うから…一緒に頑張ろうな?」
「………おう!」「………はいっ!」 - 181二次元好きの匿名さん25/11/18(火) 17:31:53
折られた、むしろ心がブチ折られた…完膚なきまでへし折られた
反射訓練…炭治郎さんは秒でアオイの頭に湯呑みを乗せ、カナヲの頭にも同じように湯呑みを乗せてみせた
そして全身訓練…アオイはもちろんのことカナヲをいとも簡単に捕まえた…というか二人共後ろから追いかけてたのに気付けば横からお姫様のように抱え上げやがった
「…ほらみろ!簡単だろう!!」
抱き上げられたせいなのか、犬のように硬直しているカナヲをそのままに炭治郎さんは叫んだ
「それが出来なくて困ってるんだよォオオオオオオッ!!」
善逸は絶叫した
「悪いことしちゃったかな…」
その翌日、善逸たちは機能回復訓練に来なかったらしい…ずっとカナヲに勝てないこと…さらに俺がその相手にあっさり勝ったことで余計に心が折れてしまったみたいだ
月明かりが周囲を照らす中で塀の上に座り、炭治郎はため息をついた…どうしたらいいのか…なにか俺から教えられることがあればいいんだけど…
「もしも〜し、どうしたんですか?眠れないんですか?」
隣から、優しい声がした…それにこの柔らかい香りは…
「あ、しのぶさん…そうですね、少し考え事が…」
「…お友達のことですか?」
見透かされていた…ぽりぽり、と炭治郎は頬を搔く
「はい…あいつらのためにって張り切ったんですけど…それが逆によくなかったみたいで」 - 182二次元好きの匿名さん25/11/18(火) 17:39:03
そらそうなるよ
- 183二次元好きの匿名さん25/11/18(火) 17:39:59
「…竈門くんは"常中"を知っていますか?」
しのぶさんの口から、初めて聞く言葉を耳にした
「あの…善逸さん…伊之助さん…」
「…なに?」
いつもは話しかけてもニコニコしている善逸のテンションが異様に低い…随分引きずっているようだ
「あの、善逸さんたちは"常中"をご存知ですか?」
「なんだそれ?食えんのか?」
伊之助もやや力なく反応する
「常中は全集中の呼吸を四六時中やることなんです、朝も昼も夜も寝ているときも常に…」
「えっ…あのきっついのを四六時中…?」
「あれを…?」
善逸と伊之助は顔を見合わせる
「はい、それが出来るのと出来ないのとでは天地程差が出るそうなんです」
「出来る方は既にいらっしゃいます!柱の方々はもちろん、カナヲさんも…恐らく炭治郎さんも…だからその、頑張ってください!」
茶菓子を置いて、女の子たちはぱたぱたと走り去ってしまう
「なぁ、伊之助…確か炭治郎さんって生まれつき呼吸をやってたらしいって言ってたよな…」
「おう…ってことは親分が強ぇのはそのチャーシューとやらが昔から出来てるからってことだよな…」
「常中だよ……っ!?」
ガバっと善逸は弾かれたように身体を起こした…それは伊之助も同じだったらしい、再び顔を見合わせた
「俺たちもこれを身に着けたら…!」
「あいつに勝てるかもしれねぇ!」
わーっ!と揃って手を取り合って喜んだ…だがそれも束の間、すぐにどんよりとした空気が辺りを包み込む
そうだ、忘れていた…俺はコツコツ努力するのが死ぬほど苦手だということ…そしてそれは伊之助にも言えることだということを…
第17話 機能回復訓練 終 - 184二次元好きの匿名さん25/11/18(火) 17:43:00
- 185二次元好きの匿名さん25/11/18(火) 19:58:03
- 186二次元好きの匿名さん25/11/18(火) 23:55:42
ネットめっちゃ不安定なので保守
- 187二次元好きの匿名さん25/11/19(水) 02:10:51
保守
- 188二次元好きの匿名さん25/11/19(水) 02:17:33
元々の炭治郎がいくらでも努力出来ちゃう才能持ちみたいな所あるのにこのスレだと能力の方の才能もくっついてるからそら折れる
- 189二次元好きの匿名さん25/11/19(水) 11:08:45
保守
- 190二次元好きの匿名さん25/11/19(水) 17:02:50
- 191二次元好きの匿名さん25/11/19(水) 17:06:38
「冨岡さんから話を聞きましたよ?竈門くんは生まれつき呼吸を使えていたみたいだって…それなら常中のことを知らないのも無理はありませんね…もう身に着けているんですから」
胸に手を当てて、しのぶが続ける
「それでもお友達のためになにかをしてあげようと自分なりに動いてあげていた…才能の差に絶望したお友達から嫌われてもおかしくないのに…竈門くんは優しくて、心が綺麗なんですね?」
「そんなことないですよ…知っての通り、俺の妹は鬼として生きています…それに、鬼と戦う時だって自分が自分でないような感覚に襲われています…それが、自分では止められないんです」
ぎゅっ、と拳を握る
「それでも鬼の心を救いたくて、鱗滝さんから水の呼吸を少しだけ学びました…もっと、もっと強くなれば…どんな鬼の頸も痛みを与えず安らかに落とすことが出来るはずなんです、出来ていたはずなんです」
優しいだけでは戦えないことはわかっている、それでも優しさを向けてあげたい…その心が、唯一炭治郎の心を人らしくあるよう繋ぎ止めているのだった
「…竈門くんになら、私の夢を託せるかもしれませんね」
「夢…ですか?」
隣に腰掛けた胡蝶しのぶは、ゆったりと語り始めた
第18話 夢への一歩
「鬼と仲良くする夢です…竈門くんなら出来ると思って…」
夜風がしのぶの香りを運んでくる…炭治郎はじっとしのぶのことを見据えて口を開いた
「…怒ってますか?」 - 192二次元好きの匿名さん25/11/19(水) 17:13:58
「なんだか、いつも怒っている匂いがして…ずっと笑顔なのに…」
しのぶは思わず目を見開いた
そう言われたのは初めてだった…この少年は、自分の心にも臆せず飛び込んで来てくれるのだろうか…?
「そう…そうですね…私はいつも怒ってるかもしれない…」
気がつけば、しのぶはひとり語り始めていた
「鬼に最愛の姉を惨殺された時から、鬼に大切な人を奪われた人々の涙を見る度に…絶望の叫びをに聞く度に…私の中には怒りが蓄積され続け膨らんでいく…口では仲良くしようと語っていても、身体の一番深いところにどうしようもない嫌悪感がある…他の柱たちも、きっと似たようなものです」
炭治郎は口を出すことなく、じっと耳を傾けてくれている…そのせいか、独白は止まらない
「…私の姉も、竈門くんのように優しい人だった」
全部話した…姉のことも、姉との思い出も、ずっと一人で抱え込んで頑張っていたことも…
「…疲れてるんでしょうね、私も…」
ぎゅっと手が握られた…大きく、温かい手だった
「俺が頑張りますよ…しのぶさんの分も、お姉さんの分も…だから…」
「……そうしてくれると、私も安心出来る」
そっと炭治郎の手を離すと、しのぶは立ち上がる
「少しだけ気持ちが楽になりました…ありがとう、炭治郎くん」
ふっ、と音もなく消えたしのぶさんの顔は見えなかった…いや、見せたくなかったのかもしれない
しのぶさんからは、ほんのちょっとだけ…涙の匂いがしていたから - 193二次元好きの匿名さん25/11/19(水) 17:18:52
「…というわけで、カナヲや炭治郎くんが会得しているのは全集中・常中という技です!昨日ちょっとだけ聞いたみたいですね?朝早くから頑張っていたからびっくりしました」
翌日のことだ…炭治郎たちが来るよりも早く道場へ入り、全集中の呼吸を行っていた善逸と伊之助に、しのぶが優しく笑いかけた
「全集中の呼吸を四六時中行うことで基礎体力が飛躍的に向上するんです…これはまぁ基本の技というか初歩的な技術なので、できて当然ですけれども…会得するには相当な努力が必要ですよね!」
しのぶはそう言うと、伊之助の肩をぽんぽんと叩く
「でも仕方ないですよね、できないなら!しょうがないしょうがない!」
「…はぁーーーん!?出来てやるっつーの当然に!舐めんじゃねぇぞコラァ!?」
伊之助が奮起した
「頑張ってくださいね、善逸くん!一番応援してますからね!」
しのぶさんに手を握られた善逸が奮起した…なんというかこう…乗せるのも教えるのも上手いなぁ
「………あぁ、でも寝てる時にはちゃんと全集中をやっているか見張りが必要だよな」
炭治郎がポツリと呟いた瞬間、善逸と伊之助の動きが止まった
「アッ…イヤ…ソレハスミチャンタチガ…」
「アサキイタラチビタチガキョウリョクシテクレルッテ…」
ギギギ、と出来の悪い人形が首を回すように善逸たちは炭治郎の座る方を向いた
「小さい子はちゃんと寝かさなきゃダメじゃないか…な?」
にこにこと炭治郎は笑いかける…これなら俺も役に立てそうだ
「だからふたりは安心して常中を身に着ける修行をしてくれ!俺のことなら平気だよ…今の俺なら軽く2週間は不眠不休で見張ってやれるから!」
ポンと肩を叩いてくるその優しい笑顔の裏に…鬼が見えた - 194二次元好きの匿名さん25/11/19(水) 17:26:04
「オラァァァァァァァ!!やったぞゴラァァァァ!」
「俺は一番応援された男だぁああああああ!」
善逸・伊之助、五日間で常中を習得
そりゃあ速攻で身につきますよ…寝ている間に全集中が止まると眠気も吹き飛ぶ殺気が飛んでくるんだもん
すぐに再開しないと恐ろしく速い竹刀の一撃が飛んでくるんですから
だがそのおかげかかなり力が付いてきたのを感じる…それでもまだカナヲには及ばないが、その背中が追えるようになってきた
けど…と善逸は炭治郎を見つめる
「…伊之助、ぶっちゃけ炭治郎さんの動き…どうだ?」
「ぜんっぜん見えねぇ!というか前より速ぇ!」
だよな…と善逸は肩を落とす
しかし同時に気づいたこともあった…それは伊之助も同じだったらしい
「けどよ、そいつはつまり親分が俺たち相手に本気を出し始めたってことだろ!?」
「…そう思うよな?俺も初めは気のせいかと思ってたんだけど…」
炭治郎さんが訓練相手になってくれた時だ…勝てそうだと思った瞬間に彼の速さが倍に跳ね上がったかのように視えたのだ
「ってことは…いつかは勝てる?」
「親分に勝てば俺たちが同期で最強ってわけだな!間違いねぇぜ!ギャハハハ!」
「…でも越えなきゃいけないのはまずカナヲちゃんなんだよな…」
炭治郎はその光景をお茶を啜りながら眺めていた
それから少しは自信がついたおかげなのか、どれだけ薬湯でびしょ濡れにされても、鬼ごっこで捕まえられなくても、打ち込み稽古でボコボコにされても…諦めずに俺やカナヲに挑んでくるようになった
特にあの善逸までもビビらずに向かってくるようになったのは大きかった
それからさらに数日が経った頃…縁側で三人娘と日向ぼっこをしていた炭治郎の下へと鎹鴉が羽音を立ててやってきた
それは、折れていた刀の完成を伝える伝令だった - 195二次元好きの匿名さん25/11/19(水) 17:32:20
「伊之助!刀が出来上がったらしいぞ!」
「ホントか親分!」
伊之助と揃って蝶屋敷を飛び出した炭治郎の目に、見覚えのある影が目に入る
一人は鋼鐵塚さん、もう一人がいのの刀を打ってくれた人だろうか?
「鋼鐵塚さーん!お久しぶりでーす!」
手を振る炭治郎…遠くから鋼鐵塚さんの手が上がる…が、どこかエネルギーを感じられないものだった
「…というわけだ、比率を変えて刀を以前よりも靭やかかつ頑強にしてある…その分重くなってはいるが…どうだ?」
「ほとんど重さは気になりませんけど…その…なんというか…」
刀を鞘へと納めた炭治郎は、やけに静かな鋼鐵塚に視線を向ける
「鋼鐵塚さん渾身の刀をへし折ったからてっきり殺されるものかと…」
「最初は俺もそう思っていた…刺してやろうかと思っていた、殺してやると包丁も鋭く研いだ程だ」
あぁ、やっぱり…つい表情も引きつってしまう
「…が、送っられてきた刀を見てやめた…普通ならあんな折れ方はしない…おまえの力に耐えられない刀を打った俺が悪い」
「そ、そんなことは…」
「まぁまぁ、これ以上は千日手になってしまいますよ?」
鉄穴森が間に入って炭治郎と鋼鐵塚を宥める
「ですが人一倍真面目で情熱的な鋼鐵塚さんがここまで落ち込んだのは私も初めて見ました…余程折れたのが悔しかったのでしょうね…あいたっ」
ぽこっ、と鋼鐵塚に横から打たれた鉄穴森はからからと笑った - 196二次元好きの匿名さん25/11/19(水) 17:38:50
「そうそう、伊之助殿の刀は私が打たせて頂きました…戦いのお役に立てれば幸いです」
伊之助が刀を握ると、2本の刀の色が変化していく
「ああ、綺麗ですね!藍鼠色が鈍く光る渋い色…刀らしい、実にいい色だ」
「よかったな、伊之助の刀は刃毀れが酷かったから…」
「握り心地はどうでしょうか?実は私、二刀流の方に刀を作るのが初めてでして…」
鉄穴森の言葉も聞かず、伊之助は刀を手にして庭へと降りていく…そのまま転がっている石を吟味し始めたかと思えば、刃に石を打ち当て始めてしまった
「…よし!」
悲鳴を上げる炭治郎たちを他所に、伊之助は刃毀れした刀身を見て満足気に頷いた
「ぶっコロしてやるこの糞餓鬼!!」
「すみませんすみません!」
今にも掴みかかろうとする鉄穴森を、炭治郎は必死になって止める…あれは仕方ない!仕方ないけど…やっぱり刀鍛冶の人たちはクセがすごい…!
夕刻、帰っていく鋼鐵塚さんたちを見送る…伊之助は、炭治郎の羽織りをまるで怖がっている子供のようにぎゅっと握っていた
べん、と琵琶の音色が響き渡る
(ここは…なんだ?)
下弦の壱魘夢と下弦の弐轆轤は気づくと謎の空間に身を置いていた
そこはまるでどこまでも部屋や階段が続く城のような場所だった
二度、三度と琵琶が鳴る…やがて揃って移動した先、目の前に黒い着物を纏う美しい女が佇んでいた
(誰だろう…?)
「頭を垂れて蹲え、平服せよ」
その言葉に魘夢と轆轤は直ぐ様三つ指をついて平服した…姿も気配もなにもかも違う…だがすぐにわかった
彼女は、無惨様だ
第18話 夢への一歩 終 - 197二次元好きの匿名さん25/11/19(水) 17:40:00
今日はここまで!
といいつつお陰様で2スレ目も完走近くという…ありがとうございます!
明日は新スレと共にお送りさせていただきます!
それでは! - 198二次元好きの匿名さん25/11/19(水) 18:01:28
パワハラ会議きた
- 199二次元好きの匿名さん25/11/19(水) 18:11:24
流石にパワハラしてる場合じゃ無い減り方してるけど果たして
- 200二次元好きの匿名さん25/11/19(水) 19:41:00
無限列車ベリーハードモード…