ハルナで単発SSやります

  • 1二次元好きの匿名さん25/11/09(日) 23:58:26

    黒舘ハルナには少しだけ、好きな店がある。

  • 2二次元好きの匿名さん25/11/09(日) 23:59:26

    「いらっしゃいませ」

    からんころん。
    少しだけ間抜けな音を立てる、ほんのりと歪んだベルを横切って、ハルナは薄暗い店内へ入る。

  • 3二次元好きの匿名さん25/11/10(月) 00:00:33

    「……」

    「ブレンドと、ビスケットを一つずつ」

    「かしこまりました」

    店に入る前から決めていた言葉をあえてすぐ伝えず、席に座って、ぺらり、ぺらりとメニューを眺めてからそう伝える。

    ブレンドはここに来た時は決まって飲んでいて、ビスケットは気分だった。場合によってはバニラアイスを注文する。

    この店の菓子類はどうにも店主が自分で仕込んでいるらしく、どこの店で食べるものとも微妙に異なる味わいのものが出てくるが、それがまた、極上というわけではないが、妙に美味なのだ。

    サクサクになりきれずぽりぽりといった食感になった歯ごたえのある仄かな甘みのビスケットも、鞘から仕入れているのであろう、バニラの粒の目立つアイスクリームも、どちらもハルナは好きだった。

  • 4二次元好きの匿名さん25/11/10(月) 00:01:40

    「……」

    コーヒーが抽出されるまで少し、時間がある。ハルナは店内の窓辺から差し込む光やその奥に広がる街の光景を眺めて過ごしていた。

    今は午前10時。おやつの時間にはちょうどよいが、朝食と昼食のちょうど中間くらいで、ぎりぎり、朝の雰囲気が残る時間帯だ。窓の隙間に映る街並みに流れる脚の数もまだまだまばらで、特に主要なエリアからほんのりと離れたこの場所には、街の騒がしさが届きにくい。初秋の空気は太陽が温めるには時間がかかり、日陰側の店内は涼し気な風が、遠い街のさやさやとした喧騒と混ざりあって、ちょっとしたBGMのよう──流石にこれは、我ながら自分に酔い過ぎか、とハルナは思い直した──ともかく、コーヒーがテーブルに届くまで、穏やかで過ごしやすい時間を、ハルナは過ごしていた。

  • 5二次元好きの匿名さん25/11/10(月) 00:02:43

    「ご注文のブレンドコーヒーとビスケットです」

    「ありがとうございます」

    コーヒーとビスケットを受け取ると、ふんわりとコーヒーの温かな香りがハルナの鼻先まで漂ってきた。

    温かいうちにと、さっそくコーヒーに口をつける。苦みが控えめですっきりとした温かな液体が舌を触り、喉を通っていき、少しだけの香りが鼻から抜けていった。

    ハルナは、美食研究会の面々にこの店のことを伝えていない。SNSに写真の一枚をアップロードしたことさえない。あまり世俗に興味のなさそうな──有り体にしまえば、野暮ったい──店長のことだ、飲食店を爆破して回る集団のことさえ詳しくは知らないのではないか。

    それは普段の彼女、ひいては所属しているグループの理念から反する行動ではあったが、それを行い続ける理由に関してこれ、といった強い動機はなかった。

  • 6二次元好きの匿名さん25/11/10(月) 00:03:46

    単に、気分。気まぐれだ。

    別に、いいではないか。普段と違う行動くらい。それくらい誰だって、やりたくなることもあるものだ。誰に聞かているわけでもないが、そうハルナは心の中で小さく呟いた。

    ぽりぽりと、ビスケットをつまんでは、コーヒーを少しずつ飲む。

    やがて、日差しの角度が変わってきて、ハルナが座る席のテーブルが温められてきた。ちりちりと天板の反射する熱が伝わってくる。

    「ごちそうさまでした」

    す、と食器を小さくまとめておく。可能な限り音を立てないようにして、椅子を動かした。

    暖まってきた柔らかい空気の流れを感じながら、店を出る。

  • 7二次元好きの匿名さん25/11/10(月) 00:05:10

    わあ、と。

    通りに出た途端、街の喧騒がハルナを打った。

    がやがや、わあわあ。

    右へ左へ人が行き交い、好き勝手に喋る。大量に歩く人の足音が常に鳴り続ける。頭上からは強烈な日差しが人々の頭を焼かんとしていた。

    ぽろん、とスマホからモモトークの通知音が届く。

    『ねえハルナ!今から○○の××行くんだけど、一緒に行かない?』

    ジュンコからのメッセージ。いつものやり取り。

    それを読んで、くす、と少しだけ笑う。

    『ええ勿論。お誘い頂きありがとうございます。今すぐに向かわせていただきますわ』

    そして返信をし──ハルナも、街の喧騒へ消えていった。

  • 8二次元好きの匿名さん25/11/10(月) 00:06:23

    終わり

  • 9二次元好きの匿名さん25/11/10(月) 00:33:12

    それらしい言い訳も用意せずただなんとなく一人占めしたいだけって感じの雰囲気がなんかいいな……

  • 10二次元好きの匿名さん25/11/10(月) 01:06:31
  • 11二次元好きの匿名さん25/11/10(月) 01:29:24

    >>3

    なんかペラペラ捲ってから注文するのリアルで好こ

  • 12二次元好きの匿名さん25/11/10(月) 04:39:45

    良き

  • 13二次元好きの匿名さん25/11/10(月) 07:35:13
  • 14二次元好きの匿名さん25/11/10(月) 17:04:18

    もっと感想欲しくなってしまったので一回だけあげ

  • 15二次元好きの匿名さん25/11/10(月) 17:41:33

    店主の容姿や性格にはほとんど触れず、出てくる菓子の出来のほうが描写されてるけど、そこから店主の人柄や性格なんかが想像できるのが面白い

  • 16二次元好きの匿名さん25/11/10(月) 17:46:18

    良い意味で情報少ないから想像が膨らむわ

    数年前
    ハルナが美食に目覚めた切っ掛けになった店・・・・・・とかだったら素敵

  • 17二次元好きの匿名さん25/11/10(月) 18:38:28

    >>15

    >>16

    ^^

    ウレシイ

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